夏奈「アキラ。面白いゲーム貸して」アキラ「ギャルゲはどうです?」(280)

中学校 教室

夏奈「はぁー退屈だなぁ。何か面白いことはないかな、ケイコ?」

ケイコ「もうすぐ試験だけど勉強はどうなの?」

夏奈「ケイコ。何を言っているんだ?」

ケイコ「え?」

夏奈「私はね、面白いことはないかと訊いたんだよ? どうしてそれが勉強に繋がるんだ?」

ケイコ「でも……」

夏奈「全く!!ケイコは面白いことも思いつけないほど勉強が好きなのか!! なら勉強と結婚してしまえ!!」

ケイコ「……」

夏奈「ケイコは勉強という恋人がいるから毎日楽しいんだろうけど、私には毎日が楽しくなるほどの恋人はいないからなぁ……」

ケイコ「――何様さっ!!!」

夏奈「……!?」

ケイコ「もう知らない」

夏奈「じょ、冗談だよ、ケイコぉ……」

ケイコ「……勉強が恋人なんて……あるわけないじゃない……」

夏奈「ケイコさん、機嫌を直して。ね?」

ケイコ「ふんっ」

夏奈「あやまるよぉ……」

ケイコ「……面白いことってカナにとってはどんなことなの?」

夏奈「え? うーん……。やっぱり、楽しくならないとね」

ケイコ「どうやれば楽しくなるの?」

夏奈「え? んー……。やっぱり、ハッピーになれるのがいいよね」

ケイコ「どうやればハッピーになれるの?」

夏奈「え? そ、それは……あの……。って、ケイコ。私が面白いこととは何かを訊いてるんだけど」

ケイコ「だって、カナは何をしていても面白そうなんだもの。いいよね、カナは何に対しても幸せになれて」

夏奈「あれ? まだ怒ってる?」

ケイコ「別に怒ってないけど」

夏奈「ケイコ、悪かったよぉ」

ケイコ「少なくとも私とこうして喋っているよりは、藤岡くんと話をしているほうがいいんじゃないの?」

夏奈「どうしてそうなるの? 私はケイコと喋っているこのときが一番楽しいよ」

ケイコ「……」

夏奈「むしろ、1日中ケイコと喋っておきたいぐらいだ」

ケイコ「ふーん」

夏奈「あれ? このお世辞もケイコには効果がないのか」

ケイコ「いや、ちょっと嬉しいけど」

夏奈「よし。効果アリか。ケイコの機嫌が少し平行に近づいたな」

ケイコ「私もカナと喋るのは退屈しないけど、カナはもう少し藤岡くんと話をしたほうがいいと思うよ」

夏奈「でも、藤岡と話してもトウマやチアキほど盛り上がらないからなぁ。いつも会ってるし」

ケイコ「何気ない会話じゃだめなの?」

夏奈「それ面白いのか?」

ケイコ「どうだろう。少なくとも藤岡くんは楽しいんじゃない?」

夏奈「私が楽しくないと意味ないでしょう?」

ケイコ「なら、藤岡くんと遊べばいいんじゃないかな?」

夏奈「ケイコはやたら私と藤岡を遊ばせたいみたいだけど、何かあるの?」

ケイコ「別にないけど」

夏奈「そう。なら、今は藤岡の話題はなしで」

ケイコ(藤岡くんとケンカでもしてるのかなぁ……)

夏奈「それにね、一人でも面白くないとダメだと思うんだよ」

ケイコ「一人でも?」

夏奈「いつまでもケイコとばっかり一緒に居たら、ちょっと嫌な思いをさせるかもしれないでしょ?」

ケイコ「あ、よかった。カナもそんな風に気を遣えるんだね」

夏奈「ケイコよ。その眼鏡、度があってないんじゃないか?」

ケイコ「ううん。ぴったりだけど」

夏奈「そうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。とにかく一人で面白くなれるなら、時と場所を選ばずに面白くなれるでしょう?」

ケイコ「そうだね。でも、そうなると趣味を持つのが一番いいと思うよ?」

夏奈「趣味か……。例えば?」

ケイコ「定番と言えば、読書とかテレビゲームとか散歩とか勉強とかかな?」

夏奈「散歩とテレビゲームか……。なるほど」

ケイコ「読書と勉強も言ったよ?」

夏奈「散歩は面倒だしな。テレビゲームなら家でもできるし、よし、テレビゲームでもしてみるか」

ケイコ「動かないでいいもんね」

夏奈「というわけで、ケイコ。私にくれる勢いでゲームを貸してー!!」

ケイコ「ノートを貸すのとは訳が違うから、ダメ」

夏奈「ケイコなは面白いゲーム一つも持ってないのかぁー!?」

ケイコ「少しはあるけど、カナには合わないと思うよ?」

夏奈「なんだと? そんなのやってみないと合うかどうかわかんないでしょー!?」

ケイコ「どうだろう……」

夏奈「よし!! 今日の放課後は帰りにケイコの家にいこう!!」

ケイコ「えぇ……? そんな勝手に……」

夏奈「問答無用!! ケイコオススメのゲームを借りて、今日は1日楽しく過ごしてやるぞー!!」

ケイコ「……何様さっ!!」

夏奈「……!?」

放課後 ケイコの家

ケイコ「はい、これ。そういえば本体は持ってるの?」

夏奈「ないよ」

ケイコ「じゃあ、どうやって遊ぶの?」

夏奈「ケイコ……?」

ケイコ「え……」

夏奈「ケイコぉ……お願いっ」

ケイコ「はぁ……。ちょっと待ってて」

夏奈「おぉ!!」

ケイコ「――はい。どうぞ。カナ、お願いだから壊さないでね?」

夏奈「壊すわけないよ。ありがとう、ケイコ!!」

ケイコ「うん」

夏奈「愛してる!! ケイコぉー!!」

ケイコ「し、しずかに!! 恥ずかしいから!!」

夏奈「それじゃあ、借りていくね」

南家

千秋「ただいまー」

夏奈「……」

千秋「ん? おい、カナ。そのゲーム機、どうした?」

夏奈「……チアキか。おかえり」

千秋「なぁ、カナ。このゲーム機どうした? 買ったのか? 私にもやらせてくれ。いや、やらせてください」

夏奈「……わからない」

千秋「カナ? どうした?」

夏奈「このゲーム、やり方がわからんっ!! なんだこれはぁー!!!」

千秋「どうした? 武将を動かして統一を目指すゲームだろ?」

夏奈「私の武将がすぐにやられてしまうんだよぉ!! 弱すぎるだろ!! というか、このろふとかいう奴が強すぎるんだよぉー!!!」

千秋「それはリョフと読む」

夏奈「そんなことどうでもいいんだよぉー!!」

千秋「しかし、カナ。シミュレーションゲームを選ぶとは、中々通だな」

夏奈「こんなのどこが面白いんだぁー!! おのれ、ケイコめぇ!!」

千秋「私にやらせてくれよ」

夏奈「勝手にやればいい!! そしてどれほど面白味のないゲームか肌で感じればいい!!」

千秋「さてと……」

夏奈「ふんっ。ケイコに文句を言ってやる」

千秋「おい、カナ。このゲームはシステムを理解すれば面白いぞ」

夏奈「私はもっと分かりやすいのがいいんだ!! こんな分厚い説明書なんて読みたくない!! こんなの読むぐらいなら漫画を読む! というか、説明書も漫画にしたらいい!!」

千秋「辛辣だな。まぁ、バカ野郎には少し難易度が高いか」

夏奈「この口かぁー!? この口が無礼なことをいったのかぁー!!」グニッ

千秋「やめりょー……!!」

夏奈「チアキ!! 姉はもっと分かりやすくて面白いゲームを所望している!!」

千秋「例えば?」

夏奈「説明書を読まなくてもいいやつ!!」

千秋「説明書は読めよ」

夏奈「分かりやすくて面白いやつがいいんだ!! チアキ、どこかに落ちてないか?」

千秋「ないよ。でも、確かに宿題の合間にやるには疲れるな。もっと爽快感のあるゲームも欲しいところだ」

冬馬「チアキー、きたぞー」

千秋「来たか、トウマ。約束のものは持ってきたか?」

冬馬「おう、持ってきぞ。さっそくやるか?」

千秋「うむ」

夏奈「トウマは面白そうなゲームをいっぱい持っているんだな」

冬馬「アニキたちもやるからな」

千秋「あとは……」

ピンポーン

夏奈「きたかっ!!」

内田「チアキー!! カナちゃーん!! きたよー!!」

吉野「お邪魔します」

夏奈「おー! はいれはいれ。で、言ったものは持ってきたか?」

内田「うんっ。はい、これ。私のオススメー」

千秋「おい、内田。このソフトはゲーム機が違うぞ」

内田「え? なんでもいいんじゃなかったの……?」

千秋「なにやってんだよ」

内田「だって……。それじゃあ、もう一度家に帰るよ!!!」

千秋「あ、おい」

内田「ちょっと待ってて!!」

吉野「私はこれ」

夏奈「これは……。見たことがあるね」

吉野「落ち物パズルゲームだよ。何時間もできるゲームって言ったらこれしか思い浮かばなくて」

冬馬「おーい。早くやろうぜー」

千秋「そうだな」

夏奈「おいおい、チアキ。私がプレイするのがメインだぞ? それは分かっているんだろうな?」

千秋「そうだったのか?」

夏奈「私が楽しく1日を過ごすために借りてきたんだから、当然だ」

冬馬「なら、カナ。オレと格ゲーからやってみようぜ。すげー面白いから」

夏奈「いいだろう。やってやる」

冬馬「アニキ以外とあまりやらないから楽しみだ」

『K.O.!!!』

冬馬「よっしゃー!!」

夏奈「お前!! 私が空中にいるときにずっと攻撃するとか卑怯だろぉー!?」

冬馬「あれも技なんだよ……」

夏奈「ええい!! つまらん!! 姉はお気に召さなかった!! 次だ!! 次のものをここへ!!」

冬馬「なんだよ……」

吉野「なら、私と対戦する?」

夏奈「いいぞ。こい、吉野!!」

吉野「お手柔らかにおねがいします」

夏奈「いえいえ、こちらこそ」

千秋「まるで将棋か囲碁が始まりそうな雰囲気だな」

冬馬「というか、吉野ってゲームやるんだな」

吉野「これだけは得意なんだ」

冬馬「へぇ……」

夏奈「吉野をばたんきゅーにしてやる!!」

夏奈「――ばんたきゅ~」

吉野「やった」

千秋「18連鎖までできるんだな」

冬馬「すげぇ……」

夏奈「なんだよ、吉野ぉー!! 私が消そうとしたところに消えないものを落としてくるんじゃないよぉー!!」

吉野「そういうゲームだから……」

夏奈「全く、つまらん!! なんだこれは!! もっとマシなゲームはないのか!!」

千秋「お前のいう面白いゲームとは、お前の思い通りになるゲームのことか?」

夏奈「私が負けてちゃ意味ないでしょー!!!」

冬馬「カナが弱いだけだろ……」

内田「きたよー!!!」

千秋「内田。早かったな」

内田「うん! みんなでこれやろっか!!」

冬馬「おぉ! レースゲームか! やろうぜ!!」

夏奈「レースか。ふっ。遂に私の独壇場になるわけだね」

冬馬「よっしゃー!! 一着ぅ!!」

吉野「負けちゃった」

千秋「まさか、吉野に負けるなんて……」

内田「よしのぉー!! あんなところに罠をしかけられたら避けられないよぉー!!」

吉野「そういうゲームだから」

夏奈「入賞者たちは意気揚々のコメントを振りまいて、楽しそうだね……」

内田「カ、カナちゃん……?」

吉野「あ、あの、元気だして」

冬馬「た、たかがゲームだろ?」

千秋「どうした、悔しいか。ビリ野郎」

夏奈「このやろう!!! なんだその言い方はぁー!!! いつもの5割り増しで腹立つよー!!!」

内田「うわぁぁ!! ゲーム外でバトルがはじまっちゃったよぉ!!」

千秋「うるさいよ」ゴンッ

夏奈「あんっ」

冬馬「カナ、バーチャルでもリアルでも負けるんだな」

夏奈「くそ……。なんて惨めなんだ……。ゲームは私を惨めにさせる……うぅ……」

内田「チアキ、カナちゃんが膝を抱えちゃったよ?」

千秋「なるほど、こう積んでいけば10連鎖は確実なのか」

吉野「そーそー」

冬馬「すげぇな。オレも参考にしよう」

内田「チアキってばぁ!! カナちゃんが落ち込んでるよ!!」

千秋「好きなだけ落ち込ませておけばいい。死して屍拾うものなしだ」

冬馬「弱肉強食ってやつだな」

吉野「でも、カナちゃんでもできるゲームって何かあるのかなぁ」

冬馬「別に特別下手ってわけじゃないから、練習すりゃあいいだけと思うけどな」

千秋「カナの場合、最初から強くありたいんだろ」

冬馬「それは我侭だな」

千秋「うむ」

内田「トウマー。ゲームいっぱい持ってるなら、カナちゃんにオススメのゲームを紹介してあげたら?」

冬馬「オレよりアキラのほうが知ってるからなぁ。カナ、アキラに訊いてみたらどうだ? オレからも今日のことを説明しとくからさ」

翌日 中学校

夏奈「というわけだ。話が大体知っているはずだな、アキラ?」

アキラ「ええ。聞きました。カナさんの弱さをたっぷりと」

夏奈「……」ドガッ

アキラ「いたっ!? カ、カナさん……?」

夏奈「私は弱くないよ。ただ、ホームじゃなかっただけだよ。そこを間違えるんじゃないよ」

アキラ「ホームでゲームをしたんじゃなかったんですか……?」

夏奈「あれはホームでアウェーだったんだ」

アキラ「そうですか。事情も知らず、すいません」

夏奈「気をつけろよ。で、アキラ。面白いゲーム貸して」

アキラ「そんなアウェー戦を余儀なくされるカナさん、ギャルゲはどうです?」

夏奈「ギャルゲ?」

アキラ「はい」

夏奈「どんなゲームなの? 説明書なくてもできるの?」

アキラ「できます。日本語さえ読めれば簡単ですから」

夏奈「お前、私を小馬鹿にしてないか?」

アキラ「し、してませんから!!」

夏奈「ブツはあるの?」

アキラ「は、はい。持ってきてます。どうぞ」

夏奈「これが……ギャルゲ……」

アキラ「最初は面食らうかもしれませんが、きっとハマるはずです」

夏奈「本当だろうね? 私はもう昨日の一件でゲーム嫌いが加速してるんだけど」

アキラ「そ、そうなんですか。うちの妹がすいません」

夏奈「全くだ。お前からも注意しておけよ」

アキラ「わ、わかりました」

夏奈「じゃ、借りてくから」

アキラ「は、はい! がんばってください!!」

アキラ(あのゲーム、シナリオは普通だけど女の子が可愛いんだよなぁ)

藤岡「……ねえ」

アキラ「……!!」

藤岡「今、何を話していたのかな?」

アキラ「ふ、ふじおかさん……!!!」

藤岡「南に何か渡していたみたいだけど……?」

アキラ「あ、えっと、面白いゲームを貸して欲しいって言われて!! ゲームを貸しました!!」

藤岡「ゲームだって!? どうして!?」

アキラ「面白いゲームがやりたいみたいでぇ!!」

藤岡「南はゲームをするのか!?」

アキラ「みたいですね!!!」

藤岡「そうなのか……ゲームを……」

藤岡(アキラはどうして南の趣味趣向を理解しているんだ……? そんなに距離が近いのか……)

アキラ(藤岡さんもゲームするのかな……)

藤岡「ちなみに、どんなゲームを南に貸したんだ?」

アキラ「あ、えっと、恋愛シミュレーションゲームを……」

藤岡「れ、恋愛シミュレーションだって!? それはどんなゲームなんだ!!」

アキラ「そ、その名の通り、恋愛をシミュレーションするゲームですぅ!!」

藤岡「南が……恋愛を……そんな……どうして……」

アキラ「藤岡さんも興味あるんですか?」

藤岡「……」

アキラ「あ、すいません。いきなりプライベートを覗き見るような質問をしてしまって、すいません」

藤岡「そのゲーム……面白いのか?」

アキラ「ええ。オレがプレイした中では五本の指に入りますね」

藤岡「そうか……」

藤岡(このままじゃオレと南の距離は離れるばかり。共通の話題はもっておかないと……)

藤岡「アキラ、そのゲームのタイトル、教えてくれないか?」

アキラ「え? 藤岡さん……」

藤岡「今、オレに必要なのはゲームだ。それも恋愛をシミュレーションするゲームが!!」

アキラ「藤岡さん、本気なんですね」

藤岡「勿論だ。生半可な気持ちで言っていない」

アキラ「分かりました。なら、教えます」

藤岡(これで南とオレの距離を縮めるんだ……!!)

夏奈「これがねぇ……」

ケイコ「カナ。貸したゲームどう? 一章ぐらいは終わった?」

夏奈「え?」

ケイコ「何か困ったところがあれば教えてあげるよ。難しいところも多いし」

夏奈「難しい……?」

ケイコ「色々なテクニックも教えてあげようか?」

夏奈「ケイコ、あれはね、難しいって言わないんだよ」

ケイコ「え? カナ……。うん、そうだよね、奥が深いっていったほうがいいよね」

夏奈「つまらないって言うんだ!!」

ケイコ「え……」

夏奈「なんだ、あの分厚い説明書は!! ケースを開けたときに出鼻を挫かれたね!!」

ケイコ「……」

夏奈「私はもっと分かりやすくて爽快感があって負けないゲームが好きなんだよ!!」

ケイコ「――何様さ!!!」

夏奈「……!?」

南家

夏奈「ただいまぁー」

春香「おかえり、カナ」

夏奈「ハルカ、テレビ見てる?」

春香「ううん。見てないけど。なぁに、見たい番組でもあるの?」

夏奈「いや、やりたいテレビゲームがあるんだ」

春香「昨日、借りてきたゲーム? あれ、すごく難しそうよね」

夏奈「あれはね、奥が深いっていうんだよ」

春香「そうなの?」

夏奈「じゃ、ゲームしよっと」ピッ

春香「カナ、手洗いうがいに着替えてね」

夏奈「はいはぁーい」

春香「もう……」

春香「あ、ゲームが始まったみたいね」

春香「……説明書は……これね」ペラッ

夏奈「さぁーてと、やろうかなぁ」

春香「えーと……名前入力……は……は……あかさた……あった、は。……る……る……」

夏奈「ちょっと!! ハルカぁ!! 何やってるの!?」

春香「え? ああ。名前入力しようと思って」

夏奈「どーして、自分の名前を入れようとしているの!? 普通は私の名前でしょー!?」

春香「そ、そうなの? ごめん」

夏奈「もう」

春香「でも、説明書読んでみたら私もやりたくなってきちゃって」

夏奈「そうなの? どんなところに興味を持ったの?」

春香「このゲーム、色んな女の子と話したりデートしたりして、最後に意中の子と付き合えたら成功らしいの」

夏奈「それは楽しいの?」

春香「でも、ほら、この子見て。アツコに似てない?」

夏奈「ん? まぁ、いわれて見れば」

春香「ゲームのアツコがどんな感じなのか見てみたくなっちゃって」

夏奈「いや、アツコがゲーム内にいるわけじゃないでしょう」

夏奈「よし。私の個人情報は入力し終えたね。始めるか」

春香「この子は速水先輩に似てるなぁ……。この子はカナに似てるかも。こっちは、ヒトミかなぁ?」

夏奈「そんな無理やり似ている人を探さなくても」

春香「あ、カナ。始まったみたいよ」

夏奈「おぉ……。なるほど、入学式からか」

春香「ねえ、カナ。アツコと仲良くなってみて」

夏奈「どうやったら出会えるのかわからないけど」

春香「読書家って書いてあるから図書室に行ってみたら会えるんじゃない?」

夏奈「図書室か……。どうやっていけばいいの? まだ無駄話が続いているだけなんだけど」

春香「ちょっと待ってね……。会話が終わったら場所移動できるみたい」

夏奈「わかった。とにかく連打だな」ポチポチポチ

春香「カ、カナ。だめよぉ、ちゃんと読まないと。作った人に申し訳ないでしょ?」

夏奈「ハルカ……。そんなこと考えるのか」

春香「え? 普通じゃないの?」

夏奈「わ、わかったよ。じっくり、読んでいこう」

夏奈「アツコがいたぞ」

アツコ『うーん……うーん……』

春香「本が取れないのね。ゲームのアツコは背が低いみたいだから仕方ないか……」

夏奈「おや? これは……? ねー、ハルカー。なんか出たけど。取ってあげる、椅子を差し出す、何をしているか訊ねる……。どれを選べばいいんだ?」

春香「私なら取って欲しいかなぁ」

夏奈「いきなり本を取って来るってびっくりしないか?」

春香「そう?」

夏奈「ここは一度、訊ねるべきだな」

春香「でも、何をしようとしているのか一目瞭然なのに、訊ねてどうするの?」

夏奈「見たら分かるだろとかは言われないだろ」

春香「そう? まぁ、アツコならそうかもしれないけど」

夏奈「むしろアツコは急に取るほうが嫌がると思う」

春香「確かに」

夏奈「よし、訊ねよう」ピッ

アツコ『見たらわかるでしょ? あの上の本を取りたいの。そんなことも分からないの?』

千秋「ただいまー」ガチャ

夏奈「なんだ、このアツコ!! 折角のプレゼントを可愛くないだとぉー!!」

春香「アツコ、酷いわ」

千秋「あの……。ハルカ姉さま? 何を……?」

春香「あ、チアキ。おかえりっ!」

千秋「は、はぁ……」

夏奈「チアキぃー!! きいてくれ!!」

千秋「どうした、お前はいつも騒々しいな」

夏奈「このアツコがとんでもない悪女なんだよ!!!」

千秋「ぁえ?」

アツコ『こんな可愛くないプレゼントなんて別に嬉しくないんだからね!!』

夏奈「どーおもう!?」

千秋「そんな恩知らずな女、捨てればいいじゃないか。何を拘っている」

夏奈「……それもそうか。ほっとけばいいのか。ありがとう、チアキ」

千秋「うむ」

夏奈「あれ? 卒業式になっちゃったよ? 私は誰と付き合えるの?」

千秋「これはバッドエンドだな」

夏奈「バッドエンド!? どうして!? 私は色んな女の子に愛情を振りまいたのにか!?」

千秋「お前のバカさ加減に愛想が尽きたのだろう」

夏奈「ゲーム内の女にまでバカにされるとは!! なんてことだぁー!!」

千秋「ん? まて、カナ。靴箱にラヴレターがはいっているようだ」

夏奈「ウに点々をつけるなって! で、内容は……」

千秋「伝えたいことがあります……。放課後、教室で待っています。意味深だな」

夏奈「藤岡に貰った果たし状に似ているな」

千秋「そうか?」

夏奈「行ってみるか。誰がいるのか……」

アツコ『……き、きたのね……』

夏奈「あれ、アツコだ」

千秋「これはあれだな。途中から無視し続けた結果、アツコに恨まれたんだな」

夏奈「それはつまり、私はアツコに殺されるのか?」

アツコ『ずっと、言いたいことがあったの……。私……私……』

春香「カナ、見たい番組があるからそろそろやめてくれる?」

夏奈「そうだな。私はバッドエンドに興味はないんだ」ピッ

千秋「お前はどのゲームもまともにクリアできないのか」

夏奈「なんだとぉー!? あれはアツコが悪いんだぁー!!」

千秋「まぁ、確かにアツコの言動は色々とおかしかったからな」

夏奈「まさか、アツコがあんなやつとは思わなかったよ!!」

春香「ねえ、カナ。次にやるときはカナに似ている子を狙ってみたら?」

夏奈「自分を好きになれっていうのか?」

千秋「よかったな。お家芸じゃないか」

夏奈「なんだとぉー!?」

千秋「やるかぁー」

春香「やめなさい」

夏奈「ハルカ!! 明日、アツコに会ったらきちんと言っておいてくれよ!! プレゼントを貰ったらお礼を言えって!!」

春香「うん。分かったわ。言っておく」

翌日 高校

マキ「ハルカー。おっはよー」

春香「おはよう、マキ」

アツコ「ハルカ、おはよう」

春香「おはよう、アツ――。……ねえ、アツコ?」

アツコ「な、なに?」

春香「プレゼントを貰っておいて、恩を仇で返しちゃだめだと思うの?」

アツコ「え? え?」

春香「こっちだって、一生懸命選んだのよ? それを可愛くないだなんて……そんなことも考えられないの?」

アツコ「あ、あの……えぇ……?」

マキ「こら、アツコ! プレゼントを貰ってそんなこと言ったの!?」

アツコ「そ、そんなこと……言ってない……」

マキ「人間じゃないね。アツコの血は何色なの?」

アツコ「ご、ごめんなさい……ハルカ……私……わたし……ごめんなさ、い……」

春香「あ、アツコ。冗談だから、本気にしないで……。ごめんね」

マキ「なーんだ、ゲームの話か。まぁ、アツコがそんなこというわけないよねー」

アツコ「……」

マキ「ご、ごめん」

春香「ごめんなさい、アツコ」

アツコ「ううん。いいの。でも、そんなに私に似てるの?」

春香「身長と性格はまるで違うけどね」

アツコ「そうなんだ」

マキ「でも、ハルカ。そんなゲームどうしたの?」

春香「カナが誰かから借りてきたのよ。中々、面白そうだと思ったんだけどアツコが……」

アツコ「ご、ごめ……な……さい……」

春香「ああ!! 違うの!! 便宜上、アツコって呼んでるだけで!!」

マキ「そのアツコを一度、見てみたいね!! ハルカ、今日遊びに言っても大丈夫?」

春香「うん、いいわよ」

マキ「よーし。そのアツコにお灸をすえてやろうじゃないのー」

アツコ「や、やめて……」

中学校

アキラ「カナさん、カナさん。どうですか、あのゲーム」

夏奈「アキラか。ああ。楽しませてもらったよ」

アキラ「そうですか!! 良かっ――」

夏奈「悪い意味でね!!」

アキラ「わ、悪い意味!?」

夏奈「アツコは何をあげても文句ばっかりじゃないか!! なんだ、あの女は!! いや、アツコだけど」

アキラ「もしかして、読者家の子ですか?」

夏奈「ああ、あの生意気な奴だ」

アキラ「あれは違うんです。彼女は自分の気持ちを素直に伝えられない子なんですよ。だから、言っていることは全て反対なんです」

夏奈「反対だと?」

アキラ「嬉しくないって言っているときは実は嬉しがっているんです」

夏奈「なんだと!?」

アキラ「むしろその子は一番落としやすい子ですから!!」

夏奈「そーだったのか。言っていることが全て反対……アツコめ……面倒なやつだ……」

アキラ「ですから、諦めないでください。まぁ、その子と付き合えるようになっても本当のエンディングは見れないんですが……」

夏奈「今日もやってみるよ。それじゃあ」

アキラ「はい」

藤岡「……ねえ」

アキラ「ふ、藤岡さん?!」

藤岡「買ったよ。アキラの言っていたゲーム……」

アキラ「ど、どうですか!?」

藤岡「恥ずかしくて5分もできなかった……」

アキラ「ダメじゃないですか!! 何やってるんですか!! そんなことではあのゲームは極められませんよ!!」

藤岡「……」

アキラ「ああ、すいません。玄人みたいに言ってしまって、すいません」

藤岡「どうしたら、いいと思う?」

アキラ「藤岡さん。考え方を変えましょう。あのゲームと向き合うことができれば、もう何も怖いものがなくなると。だって、恋愛シミュレーションなんですから!!」

藤岡「な……!!」

藤岡(そうか……。あの南に似ている子とゲーム内で仲良くなることができれば、俺も南と現実で……!!)

南家

夏奈「ただいまぁー!!」

千秋「おかえり」

夏奈「む。私の許可を得ずに何をしているのですか、チアキさん?」

千秋「武将で無双している」

夏奈「勝手に面白そうなゲームをしてんじゃねーよぉ!! 私にもやらせてー」

千秋「いいぞー」

夏奈「で、これどうしたの?」

千秋「トウマに借りた」

夏奈「おぉ! これは楽しい!! 楽しいよぉー!!」

千秋「そうだろう。爽快感は抜群だ」

夏奈「おりゃ、とりゃー。いたっ」

千秋「黙ってやれよ、バカ野郎」ゴンッ

夏奈「いたっ!! なにすんだぁー!!」

千秋「画面から目を離すな、バカ野郎」

春香「ただいまー。ねえ、カナ。あのゲームだけど……」

夏奈「お前が突っ込みすぎなんだよぉー!」

千秋「お前がちまちまザコに構っているからだろぉー!!」

春香「ちょっと、何してるの?」

夏奈「ハルカぁ! チアキが私の足をひっぱるんだ!!」

千秋「お前だよ!! お前だよ!!」

マキ「ケンカの原因はゲーム?」

アツコ「まぁまぁ……。仲良くやろうよ」

夏奈「む! アツコ!! それはもっと争えってことだな?!」

アツコ「え?」

夏奈「私は知っている!! アツコの言うことは全て反対の意味を持っていることに!!」

アツコ「え? え?」

夏奈「だからこのまま争ってやる! こいチアキ!!」

千秋「やってやるぅー!!」

アツコ「どうして……わたしが……」

春香「それで、カナ。あのゲームは?」

夏奈「これです」

春香「ありがとう」

千秋「……」

マキ「(やっぱり、ハルカって怖いね)」

アツコ「(う、うん……)」

春香「――見て、アツコ。この子なんだけど」

アツコ「……」

マキ「おぉ、似てるねえ……」

アツコ「そう……かな……?」

マキ「よく図書室にいるところとかそっくり」

アツコ「それは似ているところなのかな?」

マキ「おぉ。放課後に一緒に帰るかどうかか……。アツコなら、どうされたい?」

アツコ「え? 知らない人とはあまり……」

春香「そうなの? でも、そうしちゃうと仲良くなれないような気がするけど……」

マキ「なるほど。そういうこと」

アツコ「な、なにが?」

マキ「いや、アツコってモテるのに誰とも付き合ったことないでしょ?」

アツコ「そうだけど……」

マキ「アツコは『一緒に帰ろう』って言われても『知らない人とはあまり……』って言って断るから、一向に距離が縮まらないんだね」

アツコ「だ、だって、怖くない……?」

春香「でも、ほら、このゲームみたいに向こうも悩んでるわけだから、あまり無碍にするのも可哀相だと思うわ」

アツコ「ハルカだったら、一緒に帰るっていうの?」

春香「まぁ、それなりに仲が良ければ……」

夏奈「ハルカ、今までそんな経験があるの?」

春香「な、ないけど……」

千秋「そうなのですか?」

春香「え?」

マキ「ハルカ、男子と帰ったことすらないの?」

春香「あ、えっと……あの……」

マキ「ゲームのアツコはどうなんだろう」

アツコ『貴方と一緒に帰るなんて嫌よ!! ふざけないで!!』

アツコ「わ、私、こんなこと言わない……!」

マキ「でも、このセリフをオブラートに包むと『知らない人とはあまり……』ってなる」

アツコ「えぇ……」

マキ「アツコに振られた数多の男たちは、これぐらい言われたのと一緒のはずだよ」

アツコ「そ、そんなぁ……」

春香「そこまでかなぁ……」

マキ「悪女め」

アツコ「あく……!?」

夏奈「でも、このゲームのアツコは言っていることと思っていることは真逆だ」

千秋「つまり、アツコは本当は帰りたいということか」

夏奈「そういうことだ」

千秋「ならば、無理やりついていけば喜ぶということか」

アツコ「怖いだけなんだけど……」

アツコ『私とデートがしたい? 鏡を見てからいいなさいよ。あなたじゃ釣りあわないから』

アツコ(どうして、この私はこんなにも辛辣なんだろう)

マキ「こんなこと言われたら普通は立ちなれないよね」

夏奈「全く。アツコは酷いな」

千秋「でも、これは愛情の裏返しだ」

春香「アツコも素直じゃないのね」

アツコ「ごめん」

マキ「にしても、このゲーム結構面白いね。アツコのことを知れば知るほど、何を言えば喜ぶかわかってくるし」

夏奈「確かにそうだね。やればやるほど深みにはまるようだ」

千秋「スルメみたいなゲームだな」

春香「デート先だけど、アツコはどこがいい?」

アツコ「落ち着いたところがいいかな」

春香「よし」

アツコ『そ、そこなの? 別に行きたくもないけど、そこまでいうなら行ってあげるわ。感謝しなさい』

アツコ(あ、私が喜んでる)

春香「あ、卒業式になったわ。もうおしまいなの?」

千秋「いえ、このあと靴箱にラヴレターが現れます」

春香「そのラヴレターってキャラクターなの?」

マキ「教室で待ってますだって。ひゅーひゅー、アツコ大胆じゃないのー」

アツコ「……」

マキ「どうしたの?」

アツコ「いや、ちゃんと私の想いが届けばいいなって……」

マキ(思いのほかアツコが感情移入しちゃってる!?)

アツコ『きたのね……。実はずっと言いたいことがあったの……。勿論、聞いてくれるわよね……?』

春香「おぉ……」

夏奈「ついに……」

アツコ「がんばって……私……」

アツコ『貴方のことが……ずっと……す……す……好き……だったの……』

夏奈「これはずっと嫌いだったってことか!?」

千秋「どうなんだ? これは素直に受け取ったほうがいいのか?」

マキ「ここまできてずっと嫌いでしたとか、このアツコはなんて酷い女なんだ」

夏奈「さいてーだ!! 色々貢いだのにぃー!!」

アツコ「え……いや……」

マキ「こんな悪女しらないね! いや、もう魔女だよ!!」

夏奈「魔女か!! この!! 純情を弄んで……!!」

千秋「まさかの大逆転劇だな。これはつまりアツコが『この3年間、お前に付き纏われて鬱陶しかったぜ』って伝えるために呼び出したのか」

夏奈「最悪のバッドエンドだね!!」

マキ「このアツコは擁護できない」

春香「あれ? でも、いい感じになってきたけど」

アツコ「あの……これ……」

夏奈「こんな魔女が現代にいていいのかぁー!!」

マキ「居ちゃだめー!! その気にさせるだけさせて、捨てる女なんてー!!」

アツコ「――これは私がやっと素直になれたってことじゃないかなぁー!!!!」

マキ「……あ、うん。そうだね」

アツコ「あ……。ごめん……」モジモジ

春香「ハッピーエンドみたいね。めでたしめでたし」

マキ「しかし、このアツコは色々問題があるね。あんなこと言ってちゃ、男は逃げちゃうよ」

アツコ「反省します」

夏奈「次は誰を落とす?」

マキ「私としてはこの速水先輩に似ている人を……」

千秋「いいのかー? そんなことをしていると晩御飯が夜食になってしまうが」

アツコ「え? もうこんな時間だったの?」

マキ「つい夢中になっちゃったね。ハルカ、今日はありがとう」

春香「うん。気をつけてね、二人とも」

アツコ「今日はありがとう、ハルカ」

春香「どうしたの?」

アツコ「私、もう少し優しく言ってみることにする」

マキ「どういうこと?」

アツコ「一緒に下校しようって言われたら、断らないようにしてみる。少し怖いけど」

マキ「アツコ!! その気もないのにそんなこと言ったらヤバいって!!」

アツコ「だって、私の言うことは想いの裏返し……」

マキ「それはゲームのアツコでしょーが!!」

春香「き、気をつけてね……」

夏奈「うーん。まさか、あそこまでの影響力があるとはな……」

千秋「感情移入ができる作品は良い作品ってことだな」

春香「なら、このカナに似ている子を選んだらカナはどうなるんだろうね」

夏奈「それは……どうなるんだろうな……」

千秋「明日のターゲットはカナで決まりだな」

夏奈「私かよ!! 他にもいるだろ!?」

千秋「まぁ、吉野やマコちゃんに似ている奴もいるが……」

夏奈「私はメインヒロインだからね。お楽しみはとっておかないと」

千秋「どの口がいうんだ。どの口が」

夏奈「なんだよ!! パッケージではセンター飾っている私がメインヒロインに決まっているだろぉー!!」

千秋「器を考えろ、バカ野郎」

春香「どうしてケンカになるの?」

翌日 高校 廊下

保坂(さてと、南ハルカにこの弁当を渡さなければ……)

マキ「ハルカぁー。昨日のゲーム、続きやったの?」

春香「ううん。1日に一人ぐらいしか時間的にちょっとね。でも、凄く楽しいからやりたくもなるから、週末にやってみようかな」

保坂(ゲーム……?)

アツコ「あの、保坂先輩……なにを……?」

保坂「アツコ」バッ!!

アツコ「服……全開ですよ……」

保坂「南ハルカの話にでてきたゲームとはなんだ?」

アツコ「え? ああ、きっと恋愛シミュレーションゲームです」

保坂「南ハルカはそれに興味があるのか?」

アツコ「え、ええ。昨日も楽しそうに……」

保坂「そうか。なるほど……。うむ……。なるほどな……」

アツコ「あの……」

保坂「そうか……。恋愛シミュレーションゲームを南ハルカは欲しているわけか……。なるほど……」

中学校

夏奈「あのゲームの良さが段々分かってきたぞ、アキラ」

アキラ「そうですか!!」

夏奈「アツコは完全に落ちたから、次はマコちゃんにしようと思う」

アキラ「ああ。あの一人称がオレの活発な子ですね」

夏奈「そうだ。いやぁー、早く落としたいね。それじゃあ」

アキラ「はいっ! がんばってください!!」

藤岡「……アキラ」

アキラ「ふ、藤岡さん!! こんにちは!!」

藤岡「……昨日、20分ほどできた」

アキラ「すごいじゃないですか!! 5分から20分なんて!!」

藤岡「オレがきちんと彼女に想いを伝えられると思うか……?」

アキラ「藤岡さん。恋愛は焦ったらダメです。じっくり行きましょう」

藤岡「そうか。ありがとう、アキラ。今日もがんばって見る」

アキラ「ええ。藤岡さんなら大丈夫です」

小学校

吉野「チアキ、今日家に行ってもいい?」

千秋「何をするんだ?」

内田「宿題!!」

千秋「……で?」

内田「みせて」

千秋「少しは自分で……」

冬馬「チアキ!! 宿題見せてくれ!!」

千秋「あのなぁ……」

マコト「チアキー!! オレも行きたい!!」

千秋「来るな」

冬馬「そうだ。あれからカナのやつ、どんなゲームしてるんだ?」

千秋「ん? ああ、恋愛シミュレーションの深みにはまっている」

内田「えぇ? あのカナちゃんが? 恋愛に?」

吉野「びっくりだね」

冬馬「アキラが貸した奴か。あれってそんなに面白いのか? オレもやったことあるけど、意味がわからなくて途中でやめたぞ」

千秋「あのゲームは登場人物のことを知るほど面白くなってくるからな」

冬馬「へぇ……そうなのか……」

千秋「昨日はアツコと付き合うことができた」

冬馬「アツコと付き合えるのか?」

内田「それどんなゲームなの!?」

千秋「今日はマコちゃんと付き合うことになるかもしれない」

吉野「マコトくんと?」

マコト「いや、吉野!! オレの名前はでてきてないだろぉー!?」

吉野「あれ? 私の聞き間違いか。ごめんごめん」

内田「そのゲームにはどんな魔法がかかってるの!?」

千秋「興味あるか?」

内田「ある!!」

千秋「なら、宿題が終わったらみんなでやろう」

内田「おー!!」

南家

夏奈「さてと……」

千秋「ただいまー」

内田「おじゃましまーす!! カナちゃん!! ゲームみせて!!」

千秋「おい。宿題はどうした、宿題は」

冬馬「カナー、アキラのゲームそんなに面白いのか?」

夏奈「もうね、日課になりつつあるね」

吉野「そうなんだ。どんなゲームなの?」

千秋「おい。お前らなぁ……」

内田「あ、吉野に似てない? ねえ、似てるよね?」

吉野「そうかな?」

冬馬「何か雰囲気は似てるな」

内田「ねーねー、このゲームにかっこいい王子様とかでてこないの?」

夏奈「出てきたとしても空想上の生き物とは付き合えないぞ、内田」

内田「なんでぇー!? アツコさんとは付き合えるのに!?」

千秋「全く……。ゲームがあると集中力が散漫になるのか……」

マコ「おじゃましまーす!!」

千秋「マコちゃん。いらっしゃい」

夏奈「なんだ、マコちゃんも来たのか」

吉野「あ、この子、マコちゃんに似てるね」

マコ「えー? どれどれ?」

吉野「ほら」

マコ「オレはこんなに可愛くないぞ!! オレには押さえきれない精悍さがあるから!!」

夏奈「今日もとっても可愛いもの」

吉野「でも、マコトくんにも似てるかもね」

マコ「いや、だからオレは――」

吉野「え?」

マコ「……チアキー!! 何して遊ぼうかー!!!」

千秋「悪いが宿題を先に片付けなければならないから、しばらくカナのゲームを見ていてくれ」

マコ「わかったよ!!」

夏奈「今日はマコちゃんにしようか……それとも吉野か……」

吉野「私とは保健室で会えるみたいだね」

冬馬「なんで保健室に吉野がいるんだ?」

吉野「体が弱いんだって」

夏奈「とりあえずまだマコちゃんは出てこないし、吉野に唾をつけておくか」

内田「カナちゃん、そんなのダメだよ。吉野が可哀相だよ」

吉野『……ごほっ……ごほっ……』

冬馬「随分と弱ってるな。これから元気になるのか?」

夏奈「黙っているか世間話をするか……。吉野だったらどうされたい?」

吉野「うーん……。きっと退屈しているだろうから、話しかけてほしいかな」

夏奈「よーし」

吉野『すいません……。今は疲れているので……』

夏奈「吉野!! 断られたぞ!!」

吉野「困ったね」

千秋「お前ら宿題をしろ」

吉野『どうしてそんなに気をかけるのですか? 同情……ですか……?』

吉野「同情じゃないよ」

吉野『うそです……。だって……私は……私は……こんなにも卑しい女なのに……』

吉野「それでも君のことが好きだよ」

吉野『カナさん!! 私もずっと好きでした!!!』

吉野「わーい」

夏奈「あれ!? クリアしちゃった!!」

内田「吉野すごーい!!」

吉野「やっぱり、自分のことだから手に取るように分かっちゃうね」

冬馬「いや、この吉野は全然キャラが違うだろ!!」

吉野「でも、似ているところもあったよ? あまり目立たないようにしているところとか」

マコ「どうして吉野は目立たないようにしているんだ……」

吉野「知りたい?」

マコ「いや……いいです……」

夏奈「しかし、一発クリアとはな。何かコツでもあるの?」 

吉野「コツっていうか私の場合、どんなことを言っても嫌いになることが少なかったから」

夏奈「そうなの?」

吉野「駆け引きが少なかったから、自然とクリアした感じかな?」

内田「恋の駆け引きがなかったんだね」

吉野「私は好きって言ってくれる人に惚れるみたい」

冬馬「吉野もそうなのか?」

吉野「私のことを好きって言ってくれるなら、好きになるよ。うん」

マコ「そうだったのか?」

吉野「だって、私のことが好きってことは……」

マコ「なんだ?」

吉野「ひみつ」

マコ「そこで秘密にされるときになるってー!!!」

吉野「マコちゃんの秘密を教えてくれたら、言ってあげてもいいけど……?」

マコ「オ、オレには秘密なんてないから!!!」

吉野「そっか」

休憩

夏奈「難攻不落のように見えて、実は吉野が一番落としやすかったのか」

吉野「そうだね」

内田「そうなんだ……」

千秋「よし。宿題はこれで終わりだな。マコちゃん、遊ぼうか」

マコ「待ってました!!」

冬馬「チアキ、宿題終わったのか? なら――」

千秋「絶対に見せない」

冬馬「なんでだよぉー!?」

千秋「当たり前だろ。バカ野郎!!」

内田「ひどぉーい!!」

千秋「酷くないよ」

吉野「そうだったね。宿題しないと」

冬馬「よしのぉー。一緒にやろうぜー」

千秋「さてと、カナ。次は私がやる。マコちゃんと付き合って見たかったんだ」

マコ「な、ななな、なんだってぇ!? チアキぃ!! それは如何なものだろうか!?」

夏奈「そーか、そーか。では、私は隣でチアキの腕前を見ていてやろう」

千秋「マコちゃんなら簡単だ」

マコ「オレはそんなに軽くないぞ!! チアキ!!」

吉野「チアキ、マコちゃんはよく運動場にいるみたいだよー」

千秋「グラウンドか! わかった」

マコ『よう! どうしたんだ、カナ! わざわざここまで来るなんて珍しいな!! オレになんかようか!?』

千秋「あれ……マコちゃんがゲームの世界にいる……」

マコ「いないって!! オレはここにいるよ!! チアキ!!」

夏奈「このマコちゃん、見た目も言動もそっくりだねぇ」

マコ「似てるか!? そんなに似てるか!?」

千秋「例のごとく選択肢だな。別に用なんてないよ、顔を見たくなった、少し運動しようと思って……。マコちゃんならどれを言われたら嬉しいんだ?」

マコ「え? えーと……やっぱり、顔を見たくなったじゃないかな……」

夏奈「それ嬉しいの?」

マコ「だって、わざわざ顔を見に来てくれたんだろ? 嬉しいに決まってるじゃないか!!」

千秋「マコちゃんがそういうなら間違いないな」

マコ『お、お前……。何言ってるんだよ……。バ、バカじゃないのか……』

夏奈「なんだこいつ、色気づきやがって」

千秋「マコちゃんがあからさまに照れているな」

夏奈「こいつ、なんか気障な台詞を浴びせかければ簡単に落ちそうだな」

マコ「オレはそんなに尻軽じゃないぞ!! オレには父親譲りのどっしりとした心があるから!!」

千秋「また選択肢だな。えーと、一緒に帰る、ここで別れるの二択だな」

夏奈「こいつ、ここで別れたら自分から誘ってくるんじゃねーの?」

マコ「オレはそんなに女々しくないぞ!! なにいってるんだぁー!!!」

夏奈「よーし、なら千秋、試しに別れてみるんだ」

千秋「いいのか? マコちゃんと仲良くできるチャンスかもしれないのに」

夏奈「構わない、やれ」

マコ「まてよ!! オレが可哀相だろー!!」

千秋「もう選んだ」

マコ「あーっ!!」

マコ『あ、待ってくれよ。今日はオレと一緒に帰らない……か……?』

冬馬「なんだよ、カナの言ったとおりになったな」

夏奈「だろ? さあ、チアキ。このマコちゃんは冷たくされて燃えるタイプと見た」

千秋「いや、しかし、わざと冷たくするなんて、マコちゃんが可哀相じゃないか?」

マコ「そーだ! そーだ!! この悪魔め!!」

夏奈「なんだと?」グニッ

マコ「ごめんなふぁい」

内田「でも、マコちゃんってそう言うところあるんじゃないの?」

マコ「え? な、何言ってるんだ!!」

吉野「だって、学校でもチアキに酷いこと言われてもがんばって好かれようとしているもんね」

マコ「それはハルカさんに会いたいか――」

吉野「ん?」

内田「吉野!! それはマコトくんだよ!!」

吉野「あ、そっかそっか。なんでだろうね。マコちゃんとマコトくんをいつも混合しちゃって……」

マコ「び、びっくりするなぁ……もう……吉野は……」

冬馬「……」

マコ『なぁ、今年のクリアスマスは暇か?』

夏奈「自分から迫ってきたな」

千秋「この場合はどうしたらいいんだ?」

夏奈「とりあえず一緒に過ごそうって言っておいて、当日にキャンセルだな」

マコ「おぉぉい!! なに言ってんだよ、カナぁ!!」

夏奈「これでマコちゃんは泣いて喜ぶ」

マコ「そんなわけないだろ!? むせび泣くだろ!!」

内田「さすがにそんなことしたら、マコちゃんが愛想をつかすんじゃない?」

吉野「このマコちゃんなら割と有効かもしれないけど」

千秋「そうなのか? 私はこのプレイでマコちゃんと付き合いたいんだぞ。失敗はしたくない」

夏奈「私を信じろ、チアキ」

千秋「吉野はどう思う?」

吉野「いいと思うよ?」

千秋「吉野がそういうなら、そうしてみるか」

マコ「絶対にオレは怒るぞ!! こんなことされたら!!」

マコ『やった!! 絶対!! 絶対にクリスマスはオレと一緒だからな!!』

マコ「ああ!! この元気さが痛々しい!!」

内田「後のことを考えるとね……」

夏奈「どうなるか楽しみだな」

吉野「でも、こんなことで付き合えるってマコちゃんとのエンディングはかなり難しいよね」

冬馬「どういうことだ?」

吉野「だって、普通は優しくしようって思うから」

冬馬「確かにな……」

夏奈「そういう恋の綱引きが面白いんじゃないか」

冬馬「へぇ……。うん、いわれてみれば、そういう腹を探り合うゲームはしたことないな……」

千秋「よし、クリスマス当日だな」

夏奈「速水先輩と一緒に過ごすんだ」

マコ「やめてくれー!! オレ、すごく楽しみにまってるのにぃー!!」

千秋「ごめん、マコちゃん。最終的に幸せになるんだ。今は我慢してほしい」

マコ「あーっ!!」

速水『今日は楽しかったわ。またいいことしましょうね』

千秋「いいことってなんだ?」

吉野「なんだろうね。画面が暗転しちゃったから良くわかんないね」

冬馬「ゲームとかしたんだろ」

内田「……」

マコ「うぅ……」

夏奈「チアキ、先を急ぐんだ」

千秋「そうだな。さてと、マコちゃんに会いに行ってみるか」

マコ「絶対に怒ってるよ。もうチアキのことは嫌いになってるんじゃ……」

マコ『……昨日、どうしたんだ?』

夏奈「来たな」

千秋「正直に話す、忘れていたと嘘をつく、なんのことだととぼける。マコちゃん、どれを言われたら嬉しいんだ?」

マコ「どれも嬉しいわけないだろー!!! なに言ってるんだぁー!!!」

吉野「ここはとぼけてみようよ」

千秋「とぼけるのか? いいのか? なんか一番可哀相な選択だという気もするけど」

マコ『な、何言ってるんだよ!! オレとクリスマスは過ごすって約束しただろ!!! 忘れたのか!?』

冬馬「お、マコちゃんが怒った」

マコ「当たり前だって」

吉野「でも、心なしか嬉しそうに笑ってるような気もしない?」

マコ「どこを見たらそうなるんだー!!」

千秋「む。また選択肢だ。『正直に話す』と『今日、家にくるか?』の二択だが」

夏奈「普通ならどっちもハズレだな」

内田「こんなの言われたら私、立ち直れないよ」

冬馬「これはどっちが正解なんだ?」

吉野「難しいね」

マコ「どっちも不正解に決まってるだろ!!」

夏奈「だが、ここでマコちゃんを落とせる可能性もある!!」

マコ「ないって!!!」

吉野「家に誘ってみよっか。待たされた分、喜んでくるかも」

マコ「吉野!! なんだ、その犬を扱うみたいな発想!!!」

マコ『……今日……行っても……いいのか……? 本当に……? オレのこと……嫌いじゃ……ないのか……?』

千秋「思いのほか好感触だな」

マコ「どうしてぇー!!」

吉野「やったね。これでマコちゃんとは結ばれるんじゃないかな?」

夏奈「こいつ、アツコ以上に面倒な女だね」

内田「こんなこと言われて惚れちゃうなんて……マコちゃん……」

マコ「オレはこんなことで相手を好きになるかー!!」

冬馬「まさに裏を読むって感じだな。なんとなく、このゲームの面白さがわかってきたぜ」

夏奈「そうか。トウマも成長したな」

冬馬「オレも家に帰ったらアキラに借りてやってみるか」

マコ『あんまり……いじわるはしないでくれ……お願いだから……』

マコ「な……!!」

夏奈「自分にドキっとしてんじゃないよ」

マコ「してないって!!」

吉野「でも、可愛いね、このマコちゃん……ふふっ……」

マコ『なぁ、オレさ……。カナのこと……好きになってたみたいだ……』

千秋「いつから?」

マコ『あのクリスマスの日。会えなかっただろ? そのとき、凄く胸が苦しくて……辛くて……。カナのことが頭から離れなくなって……』

マコ「嘘だー!! オレはこんなことないのにぃー!!!」

夏奈「やはり、あの選択肢は重要だったのか」

千秋「吉野はすごいな」

吉野「たまたまだよ」

内田「分かってたんじゃ……」

吉野「え?」

冬馬「吉野ってこういう考えながら進めるゲームが得意なのか?」

吉野「うーん。どうだろう。こんなゲームは初めてだから……」

千秋「ふー。吉野のおかげでマコちゃんと無事に付き合えることができた。感謝する」

吉野「いいよ。いいよ。でも、マコちゃんは難しかったね」

夏奈「全然、そうは見えなかったけど」

冬馬「あー!! 宿題終わってないぞ!! もう夜なのに!!」

南家

冬馬「ただいまー」

ナツキ「遅いぞ、トウマ。何やってんだよ。すっかり冷めちまったじゃねーか!! オレが炊いた白米が!!!」

アキラ「温めたら、白米」

ハルオ「何をしていたんだ、トウマ?」

冬馬「いや、宿題が長引いて……。悪かったよ」

ナツキ「いーや、許さん!! オレが丁寧に皮を剥いたジャガイモも無駄になったじゃねーか!! ジャガイモも!!!」

アキラ「朝ごはんに使ったら? ジャガイモモ」

ハルオ「ナツキ。いいじゃないか、きちんと向こうの南さんからも連絡はあったんだし」

ナツキ「ハルオは黙ってろよ!!」

冬馬「謝ってるだろ」

アキラ「アニキ、宿題だって言ってるんだし、いいと思うけど」

ナツキ「ちっ。仕方ないな。トウマ、風呂掃除はしろよ」

冬馬「分かってるよ」

ハルオ「ナツキ、トウマに厳しすぎるぞ」

冬馬「アキラー。ちょっといいか?」

アキラ「どうしたの?」

冬馬「ゲーム、貸してくれ」

アキラ「え? 別にいいけど……。何を借りていく気なんだ?」

冬馬「カナに貸した奴あるだろ? あれと似たようなやつがいい」

アキラ「え!? どうして?!」

冬馬「あれ、結構面白そうだったから。今日、カナとチアキがずっとやっててさ」

アキラ「そうなんだ。カナさん、きちんとプレイしてくれているんだ……」

冬馬「だから、貸してくれよ。飽きた奴でいいから」

アキラ「なら、カナさんに貸した続編でもどう?」

冬馬「続編なんてあるのか!?」

アキラ「うん。カナさんにも続編を貸すときがくるかもしれないから、そのときは返してくれよ」

冬馬「おう!! サンキュ!」

アキラ「がんばれ、トウマ」

アキラ(トウマもあのゲームをして女らしさを磨いてくれたらいいなぁ……)

冬馬「ふんふふーん」

ナツキ「トウマ、ゲームでもするか?」

冬馬「あ、悪い。今日はこれするから」

ナツキ「なんだ、それ? 見せてみろ」

冬馬「おい。アキラに借りたんだよ。返してくれよ」

ナツキ「お前……。こんなゲームに興味があるのか……?」

冬馬「いいだろ、別に!! 返せよ!!」バッ

ナツキ「トウマ……」

冬馬「なんだよ?」

ナツキ「いや……。ゲームは1日1時間だからな!!」

冬馬「いつも何時間もしてるじゃねーかよ!!」

ナツキ「そのゲームは1時間だけだ!!」

冬馬「なんでだよ!?」

ナツキ「なんかこう……1時間でやめないと体に悪いからだろぉーが!!」

冬馬「そんなわけあるかぁー!!」

ハルオ「なんだと、トウマがアキラが保有している卑猥なゲームに興味を持っただと?」

ナツキ「ああ。間違いない」

アキラ「全年齢対象だから、問題ないって」

ハルオ「しかし、まぁ、トウマもお年頃だ。そういうことに興味を持ってもおかしくない」

ナツキ「だが、トウマには早い。アキラ、お前の所為でトウマは成長が加速した」

ハルオ「それは確かに問題だ」

アキラ「なんで!? あのゲームをすることで女らしさを磨けるかもしれないだろ」

ハルオ「そうなのか?」

アキラ「あのゲームには色んな女の子が出てくるんだよ? 中にはボーイッシュな子もいるけど、みんな女の子らしいのは変わらない」

アキラ「彼女たちを見てトウマも自分のことを見返し、そして中学に上がるころには理想の女の子になるはず」

ハルオ「それは確実なのか? トウマが別に道へと進んでしまう可能性はないのか?」

アキラ「ないって。絶対。オレがいい証拠でしょ」

ハルオ「お前で証明できているのか、甚だ疑問だが……」

ナツキ「あのゲームで女らしさを磨けるのか……? オレは反対に女を落とす技術を磨いてしまうと思うが」

ハルオ「トウマが女性を落とすだと? それならどこの馬の骨とも分からない男に取られる可能性はないが……」

翌日 高校

ナツキ(ああ……不安だ……。トウマが女好きになってしまわないか……)

ナツキ(そもそも、あんな軟弱なゲームなど男らしくないだろーが)

ヒトミ(ナツキのあの目は、男らしいゲームをしたいという目だ。そういえばナツキって、格闘ゲームとか好きだったな)

ナツキ(どうしたものか……)

ヒトミ「ナツキ、帰り暇ならさ……。その、ゲーセンでもいかないか?」

ナツキ「え?」

ヒトミ「最新の格闘ゲーム入ったらしいし……」

ナツキ「そうなのか……」

ヒトミ「……ど、どうだ? 行くか?」

ナツキ「悪い。飯を作らないといけないんだ」

ヒトミ「そ、そうかぁ……」

ナツキ「どうした? 元気がないな」

ヒトミ「む……。うるさい! バカぁー!!」

ナツキ「え……」

ナツキ(ヒトミのやつ、どうして怒ったんだ。……全然、わからん)

保坂「ナツキ、ちょっといいか?」

ナツキ「あ、保坂先輩。うっす」

保坂「お前、ゲームはするか?」

ナツキ「はい。大好物です」

保坂「そうか。それは良かった。では、これをプレイしてみてくれないか?」

ナツキ「は? 保坂先輩、これは?」

保坂「オレが作った、恋愛シミュレーションゲームだ」

ナツキ「え?」

保坂「これは所謂、男性向けのゲームだが、オレは女性でも楽しめるように作った。そして、それをお前にやってほしいんだ」

ナツキ「いえ、これは受け取れません」

保坂「何故だ?」

ナツキ「なんだかプレイできる気がしないからっス!!」

保坂「何故だ!!」

ナツキ「ゲームは目に悪いからッス!!!」

保坂「そうか。確かに長時間のプレイは目に悪い。だが、3時間ほどなら問題はないはずだ」

ナツキ「しかし……」

保坂「頼む。テストプレイヤーがどうしても必要なんだ。ナツキ」

ナツキ「ですが……」

保坂「感想を聞かせてくれ」

ナツキ「あ、ほ、保坂先輩……」

保坂「頼むぞ。お前の意見でオレの恋愛シミュレーションは完成する」

ナツキ「いえ……あの……」

保坂「お前の双肩に全てがかかっているわけだ!!!」バッ!!!

ナツキ「ま、待ってください!!」

保坂「あーっはっはっはっはっは!!!」

ナツキ「……」

ナツキ(ど、どうしたら……。このゲームを……プレイしないと……いけないのか……)

春香「あ、ナツキくん。どうしたの?」

ナツキ「ハルカ、先輩……うっす……」

春香「それ、なに?」

ナツキ「あ、これは……その!!」

春香「ゲーム?」

ナツキ「あ、いや、しかし……!!」

春香「どんなゲームなの? ナツキくんもゲームするんだ。どんなの?」

ナツキ「お、男のゲームです!! 男の!!!」

春香「お、男のゲーム?!」

ナツキ「そうッス!! これは男による男のためだけの男のゲームッス!!」

春香「……」

マキ「ハルカー!! おまたせー」

アツコ「ナツキくん、こんちには」

ナツキ「ハ、ハルカ……先輩……?」

ハルカ「ナツキくん……それじゃあ……」

ナツキ「ハ、ハルカ先輩……!!」

マキ「あれ? なんかあったの?」

ナツキ「はぁ……」

ヒトミ(ナツキのあの目はいらないものをどう処分しようか困っている目だ)

ナツキ「ん? ヒトミか」

ヒトミ「どうかしたのか?」

ナツキ「ヒトミ、これなんだが」

ヒトミ「なんだよ。いらないものを押し付けるなよ」

ナツキ「よく分かったな。でも、結構大切だ。捨てるに捨てられない」

ヒトミ「ゲームか? なんだこれ? ディスクだけじゃないか」

ナツキ「ヒトミ、そのゲームをプレイしてくれないか」

ヒトミ「なんのゲームなんだよ?」

ナツキ「恋愛シミュレーションだ」

ヒトミ「え!? ど、どうして私に!?」

ナツキ「感想を聞かせてくれ」

ヒトミ「……わかった」

ナツキ「よかった」

速水「恋愛シミュレーションを渡されたの?」

マキ「どんな関係なの?」

ヒトミ「いや、なんでも自作した人がいるらしんですけど」

春香「結構、器用なのね。ゲームを作るなんて」

ヒトミ「でも、私、ゲーム機とかもってないんっすよね」

アツコ「じゃあ、どうするの?」

ヒトミ「誰か、やってくれませんか?」

速水「うーん。私はそういうゲームに興味ないし……」

マキ「そーだ、カナちゃんにやらせたら? 今、はまってるんでしょ?」

春香「カナに……?」

アツコ「でも、出所不明のゲームは……」

ヒトミ「お願いします!! ハルカ先輩!!」

速水「必死だね、ヒトミ。そのゲーム、好きな人からもらったの?」

ヒトミ「え!? いや……そういうわけじゃ……ないんですけどぉ……」モジモジ

春香「ヒトミ……。わかったわ。そういうことなら、このゲームは預かる。でも、少し時間を貰うわね」

中学校

藤岡「アキラ、昨日ついに1時間の壁を破ったんだ」

アキラ「すごいじゃないですか!! どこまで進んだんですか!?」

藤岡「えっと……カナと遊園地に行ったところ……」

アキラ「カナ? カナって誰ですか?」

藤岡「ああ!! いや、あのいるじゃないか!! メインヒロインのツインテールの女の子!!」

アキラ「ああ!! あの子ですか!! 流石、藤岡さん!! その子から狙うなんて、すごいじゃないですか!!」

藤岡「そうなのか?」

アキラ「ええ!! だって、その子はもっとも難易度が高いですからね!! 優しくし過ぎても冷たくしすぎてもダメで、バランスが難しいんですよ」

藤岡「うん。想いが中々伝わらないのもすごく似ているんだ」

アキラ「藤岡さんならできますって!! 遊園地のあとは自宅に呼ばれる展開がありますからね!!」

藤岡「わかった。がんばってみるよ」

夏奈「アキラー。お、藤岡じゃないか。なにしてる?」

藤岡「カ、カナ!!」

夏奈「お前、私のことを名前で呼び始めたか。別にいいけど、結構びっくりするな」

藤岡「あ、ごめん!! 南!! そんなつもりは!!」

夏奈「別にいいって言ってるだろ? それより、アキラ」

アキラ「は、はい。なんですか?」

夏奈「ついに残すはあのメインヒロインだけになったよ」

アキラ「そうなんですか!? すごいじゃないですか!! 本当のエンディングが見れますよ!!」

夏奈「そうなのか。なら、もう少しがんばってみるか」

藤岡(チャンスだ……。カナもオレと同じキャラクターを攻略しようとしている!! 今なら、少しだけだがアドバイスができる!!)

藤岡「カ、カナ!! じゃなくて、南!!」

夏奈「カナでいいってば。で、どうした?」

藤岡「じ、実は……オレも同じゲームをしている……んだ……」

夏奈「そうなの?」

藤岡「ああ。今、丁度……メインヒロインの子を攻略中で……」

夏奈「お前もか!! そーか、そーか!! なら、今日うちに来て一緒にやる?」

藤岡「え……?」

夏奈「あのゲーム、私じゃ中々うまくいかなくて。男の意見も欲しいと思っていたところなんだ」

アキラ「あの、カナさん。オレの意見は聞かないんですか?」

夏奈「お前はもうクリア済みなんでしょ? 極めた奴から意見を聞いても面白くないでしょう?」

アキラ「あ、そうですか……」

夏奈「藤岡、どうする?」

藤岡「い、行くよ!! 絶対!!」

夏奈「そうか。そうか。都合がいいな。藤岡、どこまで進んだの?」

藤岡「実はその、遊園地デートは済ませたんだ」

夏奈「なんだ、そのイベントは。私は知らないぞ」

藤岡「そこまで進んでないんじゃないかな?」

夏奈「まあ、メインヒロインはどことなく私に似てるから避けてきたんだよなぁ」

藤岡「そうなんだ」

夏奈「藤岡も似てるって思いながらプレイしてたのか?」

藤岡「いや!! 全然!! 言われてみたら確かに似てるかもしれない程度だと思う!!」

夏奈「そう? 周りからは似てる似てるといわれたけど……。そうでもないのか?」

アキラ(藤岡さん。自宅のイベントを越えれば、あとは選択肢さえ間違わなければエンディングにいけますからね)

夏奈「今日であのゲームを終わらせてやる……。ふっふっふっふ……」

ケイコ「ねえ、カナ?」

夏奈「どうした?」

ケイコ「ゲーム……した?」

夏奈「いま、絶賛はまってる!!」

ケイコ「え……。ほ、ほんと?」

夏奈「うん。なんていうか、初めは戸惑ったけど、やっていく内にその面白さに気がついてね」

ケイコ「そ、そうなんだ……!」

夏奈「だから、ケイコ。返すのはもう少しまってほしい」

ケイコ「うんっ。いいよ。たっぷりプレイしてね。でも、もうすぐ試験があるけど……」

夏奈「大丈夫だ。今日、クリアできるはずだからね」

ケイコ「そ、そうなんだ! クリアしたら感想を聞かせて、カナ!」

夏奈「いいけど。ケイコも興味なるの?」

ケイコ「だって、貸したから……」

夏奈「そうだね。貸した以上、気にはなるか。わかった。必ず感想を伝えるよ」

南家

夏奈「ただいまー!! 藤岡、はいれはいれ!!」

藤岡「う、うん。お邪魔します」

千秋「藤岡。今日はどうした?」

夏奈「藤岡とあのゲームをクリアするんだよ、チアキ」

千秋「藤岡もあのゲームをしているのか?」

藤岡「う、うん。少しだけ」

夏奈「男の意見も必要だと思ってね」

千秋「そうか。偶には冴えてるな、カナ」

夏奈「私はいつだって冴えてるよ」

千秋「よし。始めるか」

夏奈「おー!!」

千秋「藤岡、こっちにこい」

藤岡「う、うん」

夏奈「では、早速……」ピッ

夏奈「で、どこに行けば私と会えるんだ?」

藤岡「最初は正門のところにいるよ」

夏奈「正門か……」

千秋「桜並木だな」

夏奈『……痛いな。何ぶつかってるんだ、お前』

千秋「なるほど、肩がぶつかって出会うのか」

夏奈「素直に謝る、反論する、黙って去る。藤岡、これはどうすればいいんだ?」

藤岡「え、えっと……。そこは素直に謝ったらいい感じだったと思う」

夏奈「なるほどな」

夏奈『気をつけろよ。全く。でも、私も悪かったな。それじゃ』

千秋「このカナは随分と無愛想だな」

藤岡「でも、他の選択肢だとすごく怒られたんだ」

夏奈「お前、全部試したのか?」

藤岡「う、うん。失敗したかと思って……」

夏奈「なんたるチキンプレイだ!! そんなことで恋愛を極められると思っているか!!」

夏奈『また、会ったな。まさか同じクラスだったとは思わなかったけど。お前、名前は?』

千秋「素直に答える、ふざけるの二択か。藤岡、これは?」

藤岡「ふざけてみるといいよ」

夏奈「ふざけるのか。……私もふざけてくれたほうがいいな」

千秋「何故だ?」

夏奈「そのほうが好感を持てる」

藤岡(あのとき、オレもふざけていればまた違ったのか……)

夏奈『ふふっ。お前、面白いな。気に入ったよ。これからよろしくな』

夏奈「確かに仲良くなれたな」

千秋「やるな、藤岡」

藤岡「まぁ、この辺はね」

夏奈「藤岡がいるなら今日中にクリアできそうだな。しかし、藤岡のチキンプレイはいただけないけど」

藤岡「ごめん……」

千秋「気にするな。カナのようにテキトーに進むよりは遥かにマシだ」

夏奈「なんだとぉ!?」

夏奈『ん? 今日はどうした?』

夏奈「ついにデートに誘えるようになったぞ!! 藤岡!! ここはどこに誘えばいいんだ!?」

千秋「遊園地、映画館、自宅。か。カナなら、どれがいいんだ?」

夏奈「そうだね……。おごりなら、遊園地だね!!」

藤岡(そうなんだ……!!)

千秋「現金なやつだな」

夏奈「いいじゃないの、別に」

夏奈『遊園地か。いいけど、おごりだろうな?』

千秋「あれ? カナがゲームの中にもいるぞ」

夏奈「何を言っている?」

千秋「言動も容姿もそっくりだな」

夏奈「容姿はともかく、言動は似てないだろ」

千秋「お前は自分の発言に責任をもてないのか」

夏奈『よーし。なら、来週な! 絶対にこいよ!!』

藤岡(おごりか……。小遣いを溜めなくちゃ……)

夏奈『よーし!! カナ!! 次はアレに乗るぞ!!』

千秋「カナとカナがデートって面白い図だな」

夏奈「このカナって主人公は藤岡に変換していればいいだろ」

藤岡「……」

千秋「今、藤岡がピクってなった」

夏奈「それにしてもこの私はバカだねー」

千秋「お前もバカだが」

夏奈「いや、遊園地を全額負担してくれた時点でもうこの男は私にぞっこんだって分かるじゃないか」

千秋「そうか」

夏奈「なのに、この私は暢気に無邪気に奢りの遊園地を満喫している。私だったら、照れて何もできないね」

藤岡(そうなんだ……!!!)

千秋「今、藤岡がピクッてなった」

夏奈『今日は楽しかったぞ。また誘ってくれ! 絶対だからな!!』

夏奈「いやいや。そこは私のこと好きでしょ?とか聞く感じだろー」

千秋「そうなのか」

夏奈『今日は課題が多いな。お前はどうするつもりなんだ?』

夏奈「教えてくれ、自力でがんばる。藤岡、これはどっちだ?」

藤岡「え、えっと……。ここからはオレも分からない」

夏奈「なんだと!? ここから未知の領域なのか?」

藤岡「ああ」

夏奈「うーん。どうしたらいいんだ……」

千秋「お前ならどういわれたいんだ?」

夏奈「いや、私は勉強を教えてほしいなんていわれたら断るんだが」

千秋「バカだからな」

夏奈「そういうことじゃない!! 自力ですることに意味があるんだよ!!」

千秋「なら、自力でするを選べばいい。そのカナも好感をもつんじゃないの?」

夏奈「そうだな」

藤岡「待ってくれ!! 南!! そ、そこは教えてくれ、かもしれない……」

夏奈「どうしてだ?」

藤岡「なんというか……。男なら教えて欲しいって思うから……」

夏奈「まてまて。これは女の子の気持ちにならなきゃだめだろ」

藤岡「南は本当に断るのか?」

夏奈「え?」

藤岡「た、例えばオレが真剣に教えてくれって頼んだら、断る?」

夏奈「……それは……」

藤岡「南……」

夏奈「そんなに真剣に言われたら、なんか承諾しちゃうかもしれないけど……」

千秋「なら、頼んでみればいい。それではっきりする」

夏奈「わかった」

藤岡(頼む、合っていてくれ!!)

夏奈『あのなぁ、自力でやれよ。それぐらい』

夏奈「こら! 藤岡!! 違うじゃないか!!」

藤岡「や、やっぱり……ダメ……か……」

夏奈『……でも、まぁ、遊園地では楽しませてもらったからな。特別に教えてやる。今日、家にこい』

夏奈「あれ? いけちゃったよ」

藤岡「よ、よかった……」

千秋「なるほどな。遊園地の一件があったからか。よく出来ている」

夏奈「藤岡、見直した!」

藤岡「あ、ありがとう」

千秋「このカナは勉強ができるんだな。違和感しかないが」

夏奈「私だってやればできるんだよ」

千秋「じゃあ、やれよ」

夏奈『もう、こんな時間か。カナ、どうする?』

夏奈「むむ。もっと教えて欲しい、夕飯をご馳走になる、帰る。藤岡、どれだ!?」

藤岡「オ、オレは……えっと……」

千秋「カナはどう言われたんだ」

夏奈「私はそうだね。もっと教えて欲しいって言ってもらいたいね」

千秋「何故だ?」

夏奈「頼られる自分がなんかかっこいいから」

千秋「バカ野郎」

夏奈「藤岡はどれだと思う?」

藤岡「……オレももっと教えて欲しいって言うかもしれない」

夏奈「意見があったな」

千秋「遊園地の件もあるし、カナは無碍にしないだろう」

夏奈『おいおい。これ以上は自分でやってくれ。流石に疲れたよ』

夏奈「なっ!! この私は随分と性格が悪いな」

千秋「お前もいいそうだけどな」

夏奈『まぁ、その心意気は認めてやる。また明日、うちにこい』

藤岡「やった!!」

千秋「ど、どうした?」

藤岡「あ、ごめん、チアキちゃん」

夏奈「好感触なのか? これは?」

千秋「このカナ。頼られることが好きみたいだな」

夏奈「私とそっくりだね!!」

藤岡(うん。本当に……)

夏奈『今日もしっかり勉強しような』

夏奈「おや? おかしな選択肢がでたね」

千秋「そうだね。今日は泊まりたい。話したいことがある。なんだこれは。何を選べばいいんだ」

夏奈「いきなり、泊まりたいってなんだ。急接近しすぎだろ」

千秋「でも、何度か家に呼んでいるわけだし、この主人公が泊まりたいと思うのも無理はないぞ」

夏奈「そうか……。藤岡はどう思う?」

藤岡「え……えっと……。泊まりたい!!」

夏奈「……そうなの?」

千秋「泊まっていくかい?」

藤岡「ゲームの話だよね?」

夏奈「では、そう言ってみるか」

夏奈『と、泊まりたいだと!? お、お前!! 急に何を言い出すんだよ!!』

千秋「カナが動揺しているな」

夏奈「そりゃ、泊まりたいってもうプロポーズみたいなものだもの」

藤岡(そうなのか……!!!)

夏奈『ベッドは一つしかないからな……。お前は床で寝るんだぞ? いいな?』

夏奈「おぉ、いけたよ。でも、これを許すってことはこの私は私に惚れてるね」

千秋「ふーん」

藤岡「これでいけたんじゃないかな……?」

夏奈「なんだと? 私はそんなに甘くないぞ!!」

夏奈『なぁ……お前は、私のこと……どう思っているんだ……?』

千秋「ついに出たぞ。核心に迫る選択肢が」

夏奈「好きだ。気になっている。オレのことはどう思っている。の三択か。藤岡ならどういう?」

藤岡「オ、オレ!?」

夏奈「ああ。この状況で藤岡ならどういうんだ?」

藤岡「……好きだっていうと思う」

千秋「カナはどういわれたい?」

夏奈「私も正直に言ってくれたほうがいいね。そのほうが気持ち良いし」

藤岡「南……!!」

千秋「藤岡がピクってなった」

夏奈「なら、好きって言うか」

藤岡「ああ!! 好きだ!!」

千秋「やれ、カナ」

夏奈「好きだ!!」

夏奈『お、お前……何を恥ずかしいこと……言ってるんだ……バカ……』

夏奈「これ、なんか私も恥ずかしいぞ!!」

夏奈『……そうだな。私も……お前のこと……』

夏奈「おぉぉ……!!」

千秋「カナ……」

藤岡「……!」

夏奈『大好きだ』

夏奈「うわぁー!! なんか恥ずかしい!!!」

千秋「カナも大胆だな」

夏奈「これは私じゃねーよぉー!!」

藤岡「やった……やったんだ……!!」

夏奈『卒業しても……一緒にいような……』

夏奈「やめてくれー!!」

千秋「以上、可愛いカナでした」

夏奈「私はいつだって可愛いぞ! な、藤岡!?」

藤岡「うん」

夏奈「それにしてもエンディング画面がいつもと違うな」

千秋「そうだな。スタッフロールが豪華になっている」

藤岡「そうなの?」

千秋「いつも背景は真っ白だったんだが。今回は場面回想している」

藤岡「そうなんだ……」

千秋「お、5年後になったな」

夏奈「まだ何かあるのか?」

夏奈『もうすぐ産まれるな……。この子が――』

藤岡「なっ!?」

千秋「太ったな、カナ」

夏奈「もういいでしょー!! 幸せなのはわかったよぉー!!!」

藤岡「あはは……」

千秋「ま、何はともあれこれで完全クリアだな」

夏奈「ふぅ……。最後の最後でまさか、傷を負うとはね……。しかも私の妊婦姿までお披露目とは、もうお嫁に行くことは不可能だ」

藤岡「そんなことないと思うけど」

夏奈「なんだと? お前が私をもらってくれるのか?」

藤岡「えぇ!?」

千秋「おい、カナ。何を言っている?」

夏奈「だって、私の貰い手が……」

藤岡「オ、オレは……!!」

春香「ただいまー」

夏奈「おかえり、ハルカ」

千秋「おかえりなさい、ハルカ姉さま」

春香「うん。あ、藤岡くん、いらっしゃい」

藤岡「お、お邪魔してます」

夏奈「さてと、ゲームもクリアしたし……。藤岡」

藤岡「え? な、なにかな?」

夏奈「勉強、教えてくれ」

藤岡「今から!? オレが?!」

夏奈「なんだ!! 私はお前の願いを聞いてやったのに、私の願いは聞けないのか!?」

千秋「それはバーチャルの世界だろ、バカ野郎」

藤岡「オレ、そんなに頭はよくないけど」

夏奈「私よりはマシだろ」

藤岡「それはそうだけど」

夏奈「なんだとぉー!? もう一回言ってみろぉ!!!」

藤岡「ご、ごめん!! 南ぃ!!」

夏奈「このやろぉ! 絶対に許さん!! 私に勉強を教えるまで許さん!!」

藤岡「わ、わかった……。教えるから!!」

夏奈「それでいいんだ」

春香「あ、あれ? 勉強って……。あ、そうか、そろそろ試験だっけ?」

夏奈「ああ。そうだよ」

春香(そうか。なら、ヒトミからもらったゲームは試験が終わるまでカナには秘密にしておきましょうか。新しいゲームに興味を示しちゃったら大変だし)

千秋「どうかしましたか、ハルカ姉さま?」

春香「え? ううん。なんでもないの。藤岡くん、夕飯食べてく?」

夏奈「おう、食べろ食べろ」

藤岡「すいません……。ご馳走になります」

春香「うん。了解っ」

春香(このゲームは、ゲーム機の近くに置いておきましょうか)

藤岡「それで、なにからやる?」

夏奈「そうだねぇ……。苦手な奴しかないから、何から手をつければいいのやら」

藤岡「カナ……」

夏奈「数字系からやろうか」

藤岡「うん」

千秋「藤岡も大変だな。ゲームのあとに勉強とは」

藤岡「そんなことないよ。どっちも楽しいから」

藤岡「――そこは、こうなるんだ」

夏奈「なるほど。よくわからん」

春香「藤岡くん。今日は泊まっていくの?」

藤岡「え!? あ、もうこんな時間か……」

千秋「泊まっていくかい?」

藤岡「い、いや……流石にそこま――」

夏奈「ん? どうした?」

藤岡(ここでオレが泊まりたいって言えば……オレはカナにプロポーズができるんじゃ……!!)

藤岡(でも、急にそんなこと言ったら、カナは……どう思う……?)

夏奈「藤岡? どうしたんだ?」

藤岡(でも、カナははっきり正直に言ってほしいとも言ってたんだ……!! できる……オレなら……!!!)

藤岡「と、泊まりたい!!! オレ、今日は泊まりたい!!!」

夏奈「……」

千秋「……」

春香「……」

夏奈「そうか。そのほうが私もありがたい」

藤岡「え……?」

夏奈「もう少し、勉強教えて欲しかったし」

春香「そっか。うん。じゃあ、布団用意するわね」

千秋「ふぅ……。藤岡は泊まりか。歓迎しよう」

藤岡「あ、あれ……カナ……?」

夏奈「なんだ?」

藤岡「……」

夏奈「風呂か? 先に入ってもいいけど」

藤岡「……うん。ありがとう……」

夏奈「なんだ、元気ないな」

千秋「藤岡もカナの相手は疲れるだろう」

夏奈「なんでだよぉ!!」

千秋「己の胸に手を当ててみろ。バカ野郎」

藤岡(……まぁいいか。オレはこんなカナが好きなんだし。それに今度、遊園地に誘えば……!!)

数日後 中学校

ケイコ「カ、カナ?」

夏奈「おー、ケイコ。どうした?」

ケイコ「そろそろゲームのほうどうなったかなって思って……」

夏奈「ああ。ごめんよ。今日、返しにいくよ」

ケイコ「あ、そ、そう? で、どうだったの? クリアしたの?」

夏奈「ああ!! 完全クリアだ!!」

ケイコ「す、すごい!!」

夏奈「時間はかかったけどね」

ケイコ「カナは、誰が好きなの?」

夏奈「誰っていうのもないかな。みんな魅力的だし」

ケイコ「カナ!!」ギュッ

夏奈「ケイコ?! ど、どうしたの!?」

ケイコ「勉強おしえてあげるっ! カナの気が済むまで!!」

夏奈「ありがとう!! 非常に助かる!!」

小学校

千秋「あのゲーム、中々良かったがもう返さなきゃいけないようだな」

内田「そうなんだ」

吉野「面白かったのにねー」

千秋「そうだなー」

冬馬「よう、チアキ」

千秋「おう、トウマ」

吉野「トウマ、おはよう」

冬馬「吉野。おはよう。……吉野はやっぱり、美人だよな」

吉野「え?」

内田「トウマ?」

冬馬「内田は可愛いよな」

内田「な、なに!? どうしたの?」

冬馬「チアキもやっぱりいつも眠たそうな表情がいいよな」

千秋「……よくわからないが、ありがとう」

高校

ナツキ「……そういえば、あのゲーム。どうなったんだろうか」

保坂「ナツキ」

ナツキ「保坂先輩!! うっす!!」

保坂「先日、渡したゲームだが……」

ナツキ「最高に面白かったッス!!!」

保坂「どの辺りがよかったんだ?」

ナツキ「……えーっと……保坂先輩がかっこよかったッス」

保坂「そうか……。ナツキ」

ナツキ(やっぱり、ダメか……)

保坂「よくわかっているな。確かにオレが登場する場面は完璧な演出にしたんだ」

ナツキ「あ、そうなんですか」

保坂「そのあとで出てくる女性とオレが抱き合うところも素晴らしいかっただろう?」

ナツキ「あ、はい。多分」

保坂「そーか、そーか!! これで心置きなくあのゲームを渡すことができるな!!! あーっはっはっはっは!! 待っていてくれ!!! 愛しき人よぉ!!!」

ヒトミ「ハルカ先輩、あのゲームどうなりましたか?」

春香「ごめん。丁度、試験中だからもう少しまってね」

ヒトミ「そうですか……」

春香「でも、あのゲーム機は借り物だから……」

ヒトミ「えぇ!? そうなんっすか?!」

マキ「なら、どうするの? プレイできないじゃない」

春香「うん……。返そうか?」

ヒトミ「……いえ! 面白かったって伝えておきます!!」

春香「いいの?」

ヒトミ「だって、ハルカ先輩がゲームしないんじゃ意味ないですし」

春香「ごめんね。あまりゲームは得意じゃないから……」

アツコ「そうなんだ」

春香「カナやチアキがやらないと、私もしないからね」

マキ「じゃあ、あの出所不明のゲームの内容は永遠に謎だね」

保坂(そうか……。南ハルカはゲームをしないのか。ならば、オレの愛を伝える形式としてゲーム化を選んだのは明らかに失策。ふっ。やはり、オレには弁当が合っている。そういうわけだな、南ハルカ)

ケイコの家

夏奈「ケイコ、長い間ありがとね」

ケイコ「ううん。こっちこそ、プレイしてくれてありがとう」

夏奈「どうして?」

ケイコ「私の他にあのゲームの良さを知っている人が居なかったから」

夏奈「そうなのか。でも、あれは普及すると思うよ。藤岡もやってたし」

ケイコ「ふ、藤岡くんも!?」

夏奈「うん。藤岡も好きだって言ってた」

ケイコ「そうなんだ……そうなんだ……!」

夏奈「嬉しそうだね」

ケイコ「うんっ。色々、ありがとう、カナ!」

夏奈「いやいや、こっちこそお礼を言いたいぐらいだから」

ケイコ「カナ……友達でいてね……」

夏奈「勿論だよ、ケイコ」

ケイコ「嬉しい……」

ケイコ「明日、藤岡くんとも話してみよう……」

ケイコ「あら? このゲームは……? 恋愛アドベンチャーゲーム……?」

ケイコ「どうしてこんなものが……。ん? こっちのはよく分からないディスク……。これはなに? ゲームなのかな……?」

ケイコ「なんだろう……。起動させてみようかな」

ケイコ「……」ピッ

ケイコ「……始まらない」

保坂『南ハルカぁ!!! 愛しているぞぉ!!!』

ケイコ「きゃぁ!?」

保坂『このゲームはオレと南ハルカの愛の日常を淡々と描くものだ!! 過度な期待をして、スタートボタンを押すがいい!!!』

保坂『あーっはっはっはっはっは!!!!』

ケイコ「な……なに……これ……」

保坂『さぁ!! どうした!! スタートボタンを押すんだぁ!!! 南ハルカぁぁ!!!!』

保坂『オレとの愛の日常を垣間見ようじゃないかぁ!!! 今晩はカレーか!? それともクリームシチューか!!!』

保坂『汗を拭いてくれ!! 南ハルカぁ!!!』

ケイコ「……」

南家

夏奈「ただいまー」

冬馬「よう、カナ。おかえり」

夏奈「おう、トウマ。きてたのか」

冬馬「カナ、外寒かっただろ? 手、冷たくなってるんじゃないのか?」

夏奈「え? まぁ、そうだけど?」

冬馬「こうしたら、ちょっとは温かいだろ?」ギュッ

夏奈「トウマ……?」

冬馬「どうした?」

夏奈「いや、お前がどうしたんだ?」

千秋「カナ。トウマの奴、アキラのゲームに影響を受けてしまったらしいぞ」

夏奈「なんだとぉ!? あ、しまった。ケイコに全部、一緒にして渡してしまったな」

冬馬「カナ、ほら、もう寒くないだろ?」

夏奈「お前は何がしたいんだ!!!」

冬馬「オレ、決めたんだ。女には優しくしようってな」

南家

アキラ「はい、もしもし。あ、カナさん。どうしたんですか?」

アキラ「え? トウマの様子がおかしい? オレの所為?! どうしてですか!?」

アキラ「というか、オレのゲームは……えぇ!? 全部捨てろ!? どうしてですかぁ!?」

ハルオ「アキラの奴、どうしたんだ?」

ナツキ「さぁな。だが、あのゲームを全部捨てるなら、いいことだ」

ハルオ「うむ。よくよく考えればギャルゲーなるものをトウマがプレイするなんてあってはならない」

ナツキ「その通り。トウマは格ゲーで十分だ」

ハルオ「いや、それではまずいだろ。男らしくなる。時代はやはり、着せ替えゲームだと思うぞ。自然とファッションにも詳しくなる」

ナツキ「そんなのトウマには似合わねーだろうが」

ハルオ「そんなことはない。いつかのワンピース姿は抜群に可愛かったじゃないか」

ナツキ「確かにそうだが、ハルオは黙ってろよ!!」

ハルオ「同意しているのにどうして意見を封殺しようとするんだ、ナツキ」

アキラ「ええ?! そんな!! でも、あれはオレのバイブルみたいなもので!!」

アキラ「ああ、すいません。藤岡さんには言わないでください……」

翌日 中学校

夏奈「ケイコー。昨日、変なものまざってたでしょ? ごめんよ」

ケイコ「……カナ」

夏奈「あれはアキラの所有物なんだけど、もう捨てちゃっていいから。売りさばいてもいいよ。あんなもの」

ケイコ「ごめん……もう、割っちゃったから……あのゲーム……」

夏奈「割った!? ケイコ……どうしたの……?」

ケイコ「なんの恨みがあるの……?」

夏奈「え? あの……」

ケイコ「もう私……お嫁にいけないよぉ……。あんなの……あんなの見せられて……うぅ……」

夏奈「な……!? ふ、藤岡!! ちょっとこい!!」

藤岡「どうしたの、南?」

夏奈「ケイコをお嫁にもらってくれ」

藤岡「な、なぜですか!?」

夏奈「私にとっては面白いゲームだと思ったんだけど、ケイコにとっては面白くなかったのか……。これからは面白いものは自分で見つけないとダメだな。ギャルゲはもういいけど」

ケイコ(あ、でも、この三人だと、あのゲームで語り合えて面白いかも……)
                                                 おしまい。

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