モバP「佐久間まゆセックスよわよわ説?」依田芳乃「でしてー」 (41)


・あらすじ

佐久間まゆさんが、うさんくさい整体の副業を始めた依田芳乃さんの力を借りて、
劇場1283話の域にたどり着くまで、えっちに悪戦苦闘します(約35700字)。
後編にモバP×まゆ孕ませックスも入ってます(約13700字)。

この話で芳乃さんの言うことは基本デタラメです。
Pまゆックスだけ読みたい方は ※30 まで飛ばしてください。

参考 劇場1283話
https://i.imgur.com/389qJNt.jpg


※01

「ほー……なるほど。まゆさんは、色気――せっくす・あぴーるを身につけたいのでしてー?」
「……平たく言うと、そうですね。芳乃さん」

 アイドル・佐久間まゆは、346プロダクション事務所内の一角へ特別に設置されていた和室で、
 同年齢の同僚アイドル・依田芳乃と2人きり、並んで煎茶とおやつのお団子に舌鼓を打っていた。
 なぜ自分がそうしているのか、疑問に思いながら。



『プロデューサーさん……まゆ、大人の女性らしい色気が、必要ですよね……?』

 芳乃と茶をすする数日前のまゆは、自分の担当プロデューサーに深刻げな顔つきで相談を持ちかけていた。

『まゆは……もともとはロリータ系の雑誌で読者モデルをやっていて、
 プロデューサーさんにアイドルへしていただいてからも、おおむねその路線を踏襲してますよね。
 読モの頃は、同じ趣向・世代の方がライバルのほとんどで、気にしませんでしたけど……』

 佐久間まゆは読者モデルあがりのアイドルであり、
 それゆえティーン向け・ファッション関係の仕事を得意としていた。
 しかし彼女は、それに思うところがあるらしかった。

『アイドルの世界には……いや、この346プロの中だけでも、
 まゆより年上だったり、年下だったりするアイドルの方々がいらっしゃいますね。
 その人たちとまゆ自身を比べて、思うんです』

 まゆの口振りは歯切れが鈍かったが、プロデューサーは、
 『大人の色気を武器とする仕事をしたい。どうしたらそういうキャラや魅力を身につけられるか』と解釈した。

『まゆは実際に、自分で、そういう仕事をしたいと思っているのか?
 誰とは言わないが、まゆよりけっこう年上でも、ロリータでゴリお……路線を貫いているアイドルはいるが』

 プロデューサーには、まゆの提案はピンと来ていないようだった。

 佐久間まゆ。
 小柄でやや線が細い体躯は、フリルやレースをふんだんにあしらった、
 身体の曲線を隠すロリータファッションに身を包むのがよく似合う。
 やや丸めの顔の輪郭は、ふわふわなミドルボブでガーリッシュに包み、
 大きめで垂れた丸目と小作りの鼻や口は、女子小中学生からある種のお手本と見られている。

 一方でプロデューサーは、まゆの性的魅力に、営業上の不足は感じていない。

 プロデューサーから見れば、まゆの肢体は細身ではあるものの骨ばっているわけではなく、
 その慎ましやかなふくらみだって、彼女のトレードマークである深紅のリボンで軽く引き絞ってやれば、
 男の劣情をそそるには十分だった。

 何よりプロデューサーは、まゆの目使いを評価していた。
 目は、大きく見開かれてキョロキョロと活発に動くほど子供っぽい印象に、
 細められてじっと見据えるほど大人っぽい印象になる。

 まゆの目は後者の極地だった。
 ドラマなどの演技では、本職の女優にもそうそう出せない耽美的な視線をレンズへ注ぎ込める。

『まゆは、個人的にはロリータ好きですけど、それ一本槍はちょっと……と思うのです。
 ですから、プロデューサーさんもご存知のように、家庭的な編み物やお料理とかで親しみやすさを……
 などと、ロリータから少し外れた面をアピールしてみることもありましたが』
『それでは物足りない、と?』
『ぷ、プロデューサーさんのとってきてくださった仕事がイヤとか、そんなコトはぜったいないんですけどっ』

 プロデューサーから『まゆは仕事に不満を持っているのでは?』ととられかけ、まゆは慌てて否定し……

(……仕事に、不満はありません、けど……。

 ……慌てて否定した後、必死な様子で却って怪しいと思われたか……? と焦る。

(今のままだと、プロデューサーさんは、まゆのことを女性として見てくれないまま、では……?)

 まゆは、仕事に不満はなかったが、仕事相手に不安はあった。
 担当プロデューサーに異性として見られていないのでは? という不満に近い不安があった。


※02

『ですけど……むしろ、ですので、プロデューサーさんに相談して、
 まゆが大人の女性の魅力を身につけるお手伝いをしてもらえれば……』

 仕事の路線で不安がある素振りを見せ、それにかこつけてプロデューサーと二人きりになったり、
 女の魅力を養ってその魅力であわよくば意中のプロデューサーを籠絡してしまったりしたい、
 というのがまゆの魂胆だった。



「……それで、まゆさんのプロデューサー殿を経由して、わたくしに依頼が来たのですねー」
「念のためお聞きしたいのですが、芳乃さんは、どんな依頼だと連絡されていますか」

 まゆの魂胆を知ってか知らずか、
 プロデューサーはまゆのリクエストを『自分だけでは応えがたい』とした。
 その上で、

『最近、そういう微妙な問題の相談に乗ってくれる部屋ができたらしい。
 といっても、うちの事務所内で、所属アイドルが副業としてやってる、っていう話だ』
『は、はぁ』
『……まゆは女性ファンも多いから、あまり色気たっぷりにされると戸惑われるかもしれない。
 女性の目も必要かと思う。よければ、相談の手はずを着けてくるが』

 そうして、まゆはプロデューサーから『部屋』を紹介された。
 そこへ赴くと、事務所の一角に土壁に板葺きの草庵が据えられていて、

(……この事務所の自由さ加減も、ここまで来ましたか)

 と、まゆが他人事のような感慨に耽りながら戸を叩くと、

『いらっしゃいませー。佐久間まゆさん、ですねー?』
『……そういうあなたは、依田芳乃さん、ですか』
『左様でー』

 ……そのまま、まゆは芳乃にうながされ、
 ちゃぶ台のそばの座布団に座って、二人で煎茶とお団子を食べていた。


※03

「できれば、露地や寄り付きも取り入れて、もっと茶室らしくしたかったのですが、
 建築基準法……か、なにかの決まりで、完全に仕切ったり、造作をつけたりのは難しいそうで」
「いちおう、制約というものがあったのですね」
「素材も、防音がしっかりしていないと落ち着かない……とのことで、こうなっております」

 その『部屋』は、オフィス用の会議向けブースを据えてから、
 そこに畳を敷いたり、土壁や板を模したパネル建材を張ったりして改造したものらしかった。

「……確かに。この事務所の中なのに、ここは静かですね」
「素材は、てれび会議用の場所を手軽に後づけ……という、おふぃす・ふぁにちゃー?
 というような……とにかく、家具のようなものだったのでして。
 ですから、外見は和風にしましたが、その下地は、外の音を遮り中の音も吸う素材ですー」

(ここを増設する時、芳乃さんはだいぶねじ込んだんでしょうね)

 まゆは、芳乃の表情から、おもちゃを自慢する子供のような可愛いらしさを感じた。

「ということで、お話ししたり、お茶をいただくにはちょうどよい場所ができた……と、
 我ながら思っておりますー……もっとも、お仕事はせねばなりませぬが」
「……お仕事?」
「ですから、まゆさんの相談に乗る、という」

 まゆは芳乃の指摘で、自分がすっかりティーブレイク気分に浸っていたと気づいた。

「わたくしもこの事務所に籍を置く身、しつらえていただいたぶんは働きを見せねば……
 とは思っているのです。どうぞ、なんなりと。秘密は守りますゆえ」
「……確かに、まゆは相談事があるにはあります、が……」

 しかし『大人の女性らしい色気が欲しい』という悩みに芳乃が応えられるだろうか。
 まゆは正直なところまったく期待していなかった。

(芳乃さんは『悩み事相談・解決』をプロフィールの趣味欄に書くぐらいの人ではあります、けれど、ね……)

 芳乃は学校帰りなのか、セーラー服に身を包んでいた。芳乃はまゆと同い年である。
 容姿もおおまかな印象は似ていて、目はぱっちりしているが目尻はまゆと同じくタレ気味。
 顔立ち全体もちんまりしていて、早い話がまゆに負けず劣らずの童顔。
 腰まで伸ばしたストレートヘアを後頭部で結んでいる髪型や、まゆに輪をかけて華奢な体つきも合わさって、

(芳乃さんが……『大人の女性らしい色気』ですかぁ……?)

 まゆは、芳乃から色気を高める方策が得られるとは思えなかった。

「芳乃さんがさきほどおっしゃったとおり、色気――せっくす・あぴーる――が欲しい、という話です」

 それで、芳乃への期待が気休め程度だ、という内心がにじまないよう、
 プロデューサーに向けたよりもさらに深刻そうな声音と表情を作って、悩みに話を戻す。

(たぶんプロデューサーさんはカウンセリング感覚で、
 この芳乃さんの『部屋』へ行ってみたら? とまゆへ提案したのでしょうね)

 芳乃は、まゆの目をじっと見つめ――まゆが、目を反らすのをぎりぎりまで我慢するほど――続け、

「まゆさんは、もっと殿方の情欲をかき立てたい、とー?
 ……何か、理由がおありでしょうかー?
 まゆさんは今でも、年齢以上には色気があるとの評判ですー」
「そ、それは」
「即答でなくても結構でしてー。わたくし、もう一杯お茶が飲みたく存じ……
 まゆさんも、もう一杯お召し上がりになってくださいませー。それを飲んでから、うかがいましょう」

 芳乃は水差しから、携帯コンロ上のヤカンに水を注ぎ、パチパチパチと音を立てて着火させた。
 この『部屋』も、さすがに給湯システムはつけられていないらしい。




※04

「……芳乃さんは、この事務所で……大人の素敵な女性を見て、憧れたり、
 数年後の自分はあんな風になれてるだろうか……? って、思ったりしませんか」

 まゆは、芳乃の目線がヤカンと火に向いたのをこれ幸いと、返事を口にした。

「わたくしは、わたくしですから。依田は依田のお役目があります。
 まゆさんは、そなたを応援するふぁんや、プロデューサーが、そなたに色気を求めているかどうか……
 どう思われましてー? 誰かから『もっと大人っぽくなったほうがいい』などと言われましたか?」

 まゆは沈黙した。
 芳乃が、茶さじで茶葉をすくって急須へ入れているのか。
 さーっ、さーっという音が、まゆの耳にへ、やたらざらついて響いた。

「どうぞー。少し、甘いかもしれませぬがー」
「甘い……? お砂糖、ですか」
「台湾のほうでは入れると聞いて、最近いろいろ試しているのですー。これはちょっぴりですが……。
 こちら茶葉は財部、砂糖は徳之島でして。地元自慢ですが、ぜひご賞味いただきたく」

 まゆは、湯呑でかすかに揺れるお茶の水面に目を凝らしてみた。
 砂糖はすっかり溶けているのか、形は見えず、黒砂糖らしき色味の変化もなかった。

「甘い緑茶……不思議な感じがします。おいしい、とは思いますが……」
「合うのは、おだんごよりおせんべい、でしょうね」
「まゆ、あまりたくさんのおやつ、は……」

 まゆは芳乃の目から自分の視線を動かせなくなり、

「体力を使いますので、少し多く食べておいたほうがよいのですが。仕方ありませんねー」

 芳乃のつぶやきに吹き消されるように、まゆの意識はふっつりと途切れた。



※05

「まゆさん、お目覚めになってくださいませー」
「へひゃうぅっ!?」

 足裏や首筋をいじられたくすぐったさと、
 長時間正座したあとの足の痺れが混じったような感覚が走り、
 まゆは唐突に目を開いて声を漏らした。

「へぅ、う、う……」
「まゆさん。わたくしの声が、聞こえますか?」
「よ、芳乃、さん……まゆ、もしかして、寝て……きゃっ……へぁあ……?」

 まゆは、くちびるの端からヨダレが一筋垂れたのに気づき、それを隠そうとして、
 手に力が入らないことにも気づく。手をアゴまで持っていくだけなのに、
 平泳ぎで思い切り水をかいているよりも重い負担がかかる。

 手だけでなく、足も、腰も、肩も、首も。
 呼吸ができてやっと、ここが水中でないと確信できた。

「お加減は、いかがでして。ノドや胸が苦しい、といったことはありませんかー?」

 うなじのあたりで、まゆは芳乃の声と吐息を感じた。

「な、なんだか、ちからが……ごめんなさい、芳乃さん、寄りかかってしまって、
 まゆ、疲れちゃってるんでしょうか、立てなくて……誰か、人を……」

 芳乃はまゆを背中側から支えていた。
 それがなければ、まゆは座布団の上で横座りを保つのもままならなさそうだった。

「おはなしは、できますか?」
「え、ええ……たぶん……」
「それならば、よい加減です。はじめましょー」

 まゆは、声だけで背後の芳乃がにっこり笑ったとわかり、困惑する。

「はじめ……え、な、なに、を……?」
「まゆさんのお悩み解決のため、この依田芳乃、微力を尽くします。
 ……『大人の女性らしい色気』を会得できますよう、ともに励みましょー」

 まゆの私服――薄手のセーターとキャミワンピ――ごしに、
 アンダーバストのあたりの肋骨を触れられ、まゆは『部屋』に黄色みがかった声音の悶絶をばらまいた。


※06

「にゃ、なんで、よしの、さん……? あ、あぁっ、や、めぇ……っ!?」
「いつもと体の感覚が違っているのが、おわかりでしょうかー」
「ちっちがうっ、こんなの、おかし、ぃ――んひっ、ぃいっ……!」

 まゆは学校があったものの、事務所では制服から私服に着替えていた。
 クリーム色の薄手のセーターに、パステルピンクのキャミソールワンピースをあわせていて、
 淡い布地の芳乃のセーラー服が絡まって衣擦れを立てる。

 芳乃の手が再び、ひたひたとまゆのアンダーバストに添えられる。

「今、わたくしがまゆさんのお胸の周りを、後ろから撫でておりましてー」
「ひぁああっ……! な、なんでそんなことっ!?」

 芳乃の手は、撫でると言うよりさらに軽く、輪郭の形を指先でなぞって確かめるような加減。
 そこから腋の下、肩甲骨、鎖骨、ショートの毛先、うなじと触られる場所が上がって、
 耳元近くまでくるとまた下がっていく。

「まゆさんは、わたくしに触れられて、どんな感じがしていますかー?」
「んん、んんぅ、あぅ……ぴりぴり、というか、じわじわ、というか……
 肌の内側に何かしみてくるみたいで……って、芳乃さん、まさか、まゆになにか――」
「――なにかをはじめるのは、これからでしてー」
「はひゅっ、う、ぁっ」

 芳乃の指がまゆのアンダーバストに下がり、膨らみに向けて、
 重さを確かめるようにふにふにと緩やかに指先を食い込ませると、
 それだけでまゆは呼吸がぐらついてしまう。尋常の感覚ではなかった。

「まゆさんは『氣』というモノ……あるいは概念を、聞いたことはおありですか?」
「き……? あの、気配とか気力とかの気ですか……。
 ツボのマッサージ師さんとか、鍼灸師さんとかの話で聞いたことはありますが……」
「正確には『氣』なのですが、そのような理解でよろしいでしょー」

 まゆは、足ツボマッサージをされて悶絶する人を思い浮かべた。
 こうして自分が行われている芳乃からの施術も、それと似たものなのか。

「……それが、あの、まゆの悩みと、何か関係が……?」
「色気というものは、まこと曖昧な概念ですが、まゆさんの色気については……
 まゆさんの体の有り様とその所作からにじみ出てくるものが、
 異性から、せっくす・あぴーるとして解釈され得たか? という問題になると思いまして。いかがでしょうか」
「え、えぇ、まぁ、そんなことだろうと思いますが……」
「むー。納得していない『氣』配がしましてー」

 芳乃は、まゆの(思わず飛び出てしまった)なおざりな返事に露骨な不満の色を示した。

「……まぁ、それが『氣』でしてー。
 言葉遣いや息遣い、身振り手振りと同じように、『氣』で相手に与える印象が大きく変わるのですー。
 わたくしは、まゆさんの『氣』の持ちようを養い、せっくす・あぴーるを操れるようにして、
 まゆさんのお悩み解決に取り組みたいのですが……いかがでしょうかー?」
「え? あの……芳乃さんが、まゆの体を触ってると、『氣』が……その、
 コントロールできるようになるので――ひゃひぃうぁあっ、あっあっ……!?」

 まゆは、左右の胸のふもとあたりを、芳乃から親指で点々と刺激され、身じろぎして声を上げてしまう。

「健康な人であれば、みな無意識に『氣』を持ち、こんとろーるしております。
 わたくしが観察したところ、ふだんのまゆさんは、むしろ他人よりうまく『氣』を持っていると思いまして」
「そう、言われましても……」

 まゆはそれがちょっと信じられなかった。
 『氣』が何かはまだ掴めない。力がうまく入らず、芳乃の指先で翻弄されている、
 今の自分の身体は、絶対にどこかがおかしくなっている、としかわからない。

「でも、人より、今のまゆさんより色気を深める……というのであれば。
 もっと『氣』を豊かにし、もっと『氣』を感じ取り、もっと『氣』を練る必要があると存じましてー。
 それで、今、まゆさんの『氣』を、高めるようにしていますー」
「もしかして、それのせいで今のまゆのカラダ、どこか、おかしく――んぁあぅうっ!?」


※07

 きゅ、きゅっ、と芳乃の刺激はあくまで軽く浅いものであるが、それを重ねられるにつれて、
 まゆの肌の内側に熱や痺れがどんどん降り積もって、それが溶けて血液に流れ全身に回るよう。

「……いつもより『氣』が大きくなって、扱いあぐねている……でしょうか?」
「た、たぶんそうですから、いったん……むね、むねのまわり、触るの、やめ、てぇ……ぇひゅぅうっ」

 芳乃の触れて回るせいで、ゾクゾクとしたくすぐったさが肺や気管支や舌まで侵食してきて、
 まゆはいつもなら絶対に上げない乱れ声を上げてしまう。
 一方、それに羞恥を覚える程度に、まゆの意識の明瞭さは保たれている。

「お胸は、『氣』の流れを豊かにして、練っていくのに、とても重要な場所でしてー。
 ……お胸が豊かになれば、せっくす・あぴーる? もだいたい増すようですが、それはそれとして」
「そんな……!? 手付きが、ヘンだと思ったら……い、いや、はなして、くださ……ぁああううっ!」

 まゆの口答えを咎めるように、芳乃は猫の手のように指を丸めて、
 まゆの、もちもちとした揉まれ慣れない感のある乳房を軽く歪めた。

「まゆさん、聞こえていまして?」
「は、はいっ、聞こえてますから、だから、お胸、やめっ」
「胸には、心臓と、肺がありまして。これは『氣』において、とても重要なのですー」

 まゆは『心肺は、そもそも人の生命活動にとって脳と並ぶ重要な器官では……』と返そうとしたが、
 芳乃の猫の手が心臓のすぐそばに添えられていたのに気圧され、押し黙った。

「心臓は『氣』の流れの中心でしてー。心臓はいつも勝手に動いているので、こんとろーるはできませぬが、
 しかし心臓が中心ですから、それを感じるのが基本ですー。
 ほら、わたくしの指のすぐ先で、まゆさんの心臓が、とくん、とくんと拍って……感じられましてー?」
「そ、そうですね……えぇ、もう……い、いつもより、どきどき、してますよっ……」

 心臓に指を添えられていると、まるで内心をすべて見透かされている気分になって、
 まゆは自棄っぱちの声で感想を述べた。

「そして、肺……これがまた、人の身体と『氣』の流れでは特殊でしてー。
 まゆさん、肺呼吸は、こんとろーるできますでしょうか?」

 まゆは生物か保健体育の授業を思い出した。
 『氣』というオカルトに、なんとなく生理学的な匂いが混ぜられているのが、ちょっとおかしかった。

「……できません……でしょうか?」
「まゆさんも即答できなかったとおり、肺呼吸をこんとろーるできるのか、否か。
 というのは、白黒きっぱり断じにくいところがありまして」

 芳乃の褒め方が、ますます保健体育の教員や養護教諭をまゆに連想させた。

「人間、意志の力で呼吸を止めようとしても苦しくって、訓練しても数分が限界と聞きますー。
 また、人間は寝ていたり気絶したり、意識がないときでも呼吸を続けられますー」

 まゆは芳乃の言葉を聞いて、
 ぴりぴり、じわじわが今の自分の心肺にまで及んでいると連想し、身震いしていまう。

「一方で……よく、落ち着くために深呼吸をする、であるとか、ひっひっふー、であるとか、
 呼吸は多少こんとろーるできるところもありますね?」
「それは、確かに……呼吸は、そうですね」

 それでもまゆは、芳乃の指に撫でられる感覚に、少し慣れてきた。
 撫でられながら、会話を続けたせいだろうか、とまゆは見当をつけた。

「まゆさん。『氣』を練るというのも、それに似ておりますー。
 無意識にやっていることや身体の中で作っている流れを、意識的に……感じ取って、練る」
「……感じ取る、というのは、今まゆが……その、こう、なっているのが……?」
「これは、最初の最初でしてー」

(芳乃さん、もしかして……こんな調子が続くんですか……?)

 まゆの不安を感じ取ったのか、芳乃はあくまで優しげに――

「心配ご無用、でしてー。わたくしがそばについて、まゆさんを補助いたしますー。
 ……それではー」

 ――しかし有無を言わさず、まゆの胸への愛撫を続ける。


※08

「あっ!? や、ぁっっ……! お胸は、触っちゃ、あっ」
「むー……」

 まゆの身体は、感覚は相変わらずおかしなままだったが、
 力の入り具合はいくぶん戻ってきていて、芳乃の愛撫に身をよじり抵抗する。

「まゆさん。お胸の周りは皮膚が薄くて摩擦に弱いのでしてー。
 繊細、でりけーと、です。だから、動かないように」
「なら、お胸いじめないでください……」
「いじめではないのでしてー」

 芳乃が、まゆのキャミソールワンピースの肩紐を、まゆの肘のほうへするりと滑り落としずり下げる。

(え、ふ、服越しだけでこんなに、おかしくなりそう、なのに……!?)

 まゆの警戒感を肩などの震えおののきで察したのか、芳乃は、

「別に服越しでも構いませんが……よろしいので?」
「な、なんですか。思わせぶりに……」
「服の繊維のほうが、わたくしの指先より粗いので、肌触りも粗く……」

 まゆが答えかねて押し黙っていると、芳乃は子供をあやすように、

「息が苦しくなったら、言うのでしてー……そうしたら、わたくし、様子を見ますので」
「と、とめてくださいよっ」
「いえ、息が苦しくならなくても……わたくしの手で、どう感じたのか、言葉にするのでして。
 そうやって、まずは氣を意識するのですー」

 芳乃は、まゆのキャミソールワンピースの中に手を突っ込み、薄物のセーター越しに、
 胸のすぐ下、ちょうどブラジャーが覆っていないところを、なぞり、擦り、指をわずかに食い込ませる。

「あ……ぁあっ!? はふっ、ひぅっ、きゅうっ……」
「わたくしが、まゆさんのふだんより大きくなった『氣』をなぞりますー。
 それを感じながら、呼吸を整えて……よろしいですね?」

(あ、あついのっ、心臓あたり、なにか、流し込まれてるみたい……っ)

 まゆは、まったく「よろしい」と思っていなかったが、呼吸を整えねば苦しいばかりなので、
 芳乃の指先に翻弄されつつ、必死で肺腑を広げたりしぼめたりを繰り返す。

「ご存知でしょうが……女性のお胸はおおまかにいって、根本にあたる胸骨と胸筋、
 それと……乳房の乳腺・脂肪が、靭帯で支えられているのでして。
 今、わたくしが触っているのは、靭帯と胸筋のあたり……」
「は、あ、あっ、ぅあっ……」

(お、オカルトなんだか、医学的な整体なんだか、はっきりしてくださいっ……
 いや、はっきりしなくてもいいから、いったん手を止めて、しゃべるのもやめてっ)

「この中で、ふつうに意識して動かせるのは胸筋だけですので、そこへ……」
「ひっ!? や、らぁっ、あっ……ひうっ、ゃ、ああっ?!」

 胸筋と聞かされて、まゆはとあるテレビ番組で、上半身裸のマッチョな男性芸人が、
 ぴくぴくと胸筋だけを動かすネタを披露しているのを連想した。
 連想に反して、まゆは今とても笑うどころではなかった。

(む、むねどころか、心臓、掴まれちゃってる、みたい、で……っ)

 不安のあまり、まゆは自分の指で芳乃の指を引き剥がそうとする、が、

「あ、あぁうぅ……! な、どうし、て……?」
「違うのでしてー。まゆさん。言葉に、するのでしてーっ」

(芳乃さんの手と指、細くてちっちゃいのに、
 きゅってされてるだけなのに……されてると、剥がせない……っ)

 じわじわ、ぴりぴり……という感じの流れが、流れというより、
 だんだんとまゆの胸の外側から奥にかけて、形をとって、楔のように打ち込まれていく。
 本当に鉄の楔を打ち込まれていたら、ただでは済まない所だったが、

「刺激は、外から内、浅くから深く、微かから強(したた)かに。
 慣れるには、順序が必要です。よろしいですねー?」
「う、ぅうっ……わ、わかりました、からぁ……」

 まゆは、今受けている刺激が、外とも内とも、浅いとも深いとも、弱いとも強いとも判断できなかった。

※09

「では……感じるのに、集中してくださいまし。そして、言葉にするのです。
 ここは防音ですから、聞くのはわたくしだけです。安心なさるのでしてー」

(……こ、言葉って、言われても……)

 まゆの困惑を解きほぐすためか、芳乃は誘導尋問的な言葉をかける。

「まゆさん、今、暑いですか? 寒いですか?」
「え? そ、それは……あつい、ですね……」
「それはよろしいのでしてー」

(い、いったいなにがよろしいんですかーっ!?)

 芳乃は、まゆの手を上から重ねられたまま、アンダーバスト、胸の横、腋の近く、鎖骨の端……と、
 指圧をゆっくり点々と移動させる。ゆっくり、何度も往復する。
 まゆは、刺激の行き先が予測できるようになって、なんとか呼吸を整える方へ意識を戻せるようになる。

「そうです……いいですよ、まゆさん。
 わたくしが刺激しているのは、まゆさんのお胸の周りですが……『氣』は、まんべんなく流れております。
 それを感じて、呼吸や、声をうまく切り回すよう意識すれば、持て余していた『氣』が……」

(そんなこと、言われたら……息、吸って吐いてのたびに……胸の、これが、
 あたまとかにまで、流れていっちゃ……カラダまるごと、おかしくなっちゃうのでは……?)

「んっ、ひゅ、んんうぅ……っ、はうぅうっ……」
「まゆさん、どう感じていられるのでしてー?」

 まゆは芳乃に促されたが、感覚を言葉にするのはためらわれた。
 芳乃から、胸を通してありとあらゆる神経を侵食されている状況を、自分の意志で口に出してしまったら、
 ついにそれを認めて、心身ともに裏書きされ、ついには自分の存在すべてが芳乃の手中にされる気がした。

(だ、め……まゆは、まゆは、プロデューサーさんの、もの、なのに……っ)

「……言うのでしてー」
「んきゅうぅうっ!?」

 芳乃の手が、これまであえて避けてきたであろうバストの膨らみ中腹を撫でる。
 セーターとブラごしに軽く指の腹を当てられただけで、まゆは肺腑の空気をことごとく絞り出されてしまう。

「お、お胸、や、やめぇ……」
「どうして、止めてほしいのでしてー?」
「だ、だって、そんな、かるくされただけで、そとも、なかも、ぎゅうって、えっ……」
「……ほー。そういう状態で……」

 もしまゆが芳乃と向かい合っていたら、どれだけ恨みがましい視線を投げつけただろうか。

「3・2・1……と数えてから、もう一度しますので」
「芳乃さんっ……お願いだから、ここで、終わりに……」
「お願いされても、ダメでしてー。もう一度しますので、その『ぎゅうっ』の流れを、
 今度はもっと細かく、どこからどこに流れるのか、感じて、口に出すのでしてー……」
「は、ぁ、ぁあぅううっ! そこっ、そんな、したら、あっ――」

 まゆが流されるまで、芳乃の『ぎゅうっ』は4回ほど繰り返された。


※10

(はぁあ、あぅぁあっ……あ、あっ……む、むね、おっおかしく、な、ぁ……)

「……だいぶ、温まってきたのではありませんか、まゆさん」

 抵抗を放棄してからも芳乃から刺激を繰り返され、まゆは体が火照るのを通り越して、
 熱されたバターのように身体も意識も溶け落ちそうだった。

「……『氣』が、豊かになってきましてー。わたくし、ほれぼれするぐらいです」
「は、ぁ……な、なら、きょうは、これぐらいで」
「いいえ。次の段階に進みますー」

(芳乃さんっ、勝手に始めておいてなんですかそれ――ぇああっ!?)

 芳乃はするするとまゆの薄いセーターをたくし上げると、ぱちんとブラのホックを外して、
 あっさりまゆの素肌と乳房を曝してしまう。

「きゃああぁあ――ああっ? む、ね、え……まゆの、え。え……?」

 下着の支えを失い、ぷるん――とした重みに、違和感。

「あ、あの、よしの、さん……」
「……『氣』が大きくなったせいか、張っていますねー」
「ま、まゆのからだ……っ、もうこれ以上、勝手にいじらないでください……っ!」
「ですから、『氣』を練ることができれば、ご自身でだいたい思い通りにできるのでしてー。
 そのすべを磨いていこう、という話なのですが……」

 まゆは、勝手にコトを進めすぎる芳乃を信用したくなかった。
 けれど神経の異常な高ぶりを何度も焼き付けられ、わずかだがバストサイズまで変えられてしまっては、
 少なくとも『氣』に関する芳乃の能力を信じざるを得なかった。

「わかりましたら、今、まゆさんがどのように感じているのか、言葉にしてくださいませー」
「……ゃ、です……もう、これ以上恥ずかしいのは、いや……」
「むー。わたくしとて、まゆさんをいたずらに辱めようとしているわけではありません。
 お仕事の一環でしてー。ご協力いただけなければ、いつまでも話が進まず、困ってしまいます」

(いきなりこの事務所におしかけてアイドルになったまゆが言うのもおかしいですが……
 いくらこの事務所でも、これが仕事で通ったら、たまったものじゃありませんよっ)

 まゆは心中で何度か事務所のあまりの自由さを罵ったり呪ったりしたが、
 芳乃には届かずラチも開かなかった。

「では、下のほうから、軽く指で撫でていきますので……」
「ひっ、あぁ、っ……あ、あの、なるべく、やさしく、おねがいします、お願いしますからっ」
「承知いたしましてー」

 まゆの腫れぼったくなった乳房の膨らみは、大きく洗い呼吸に合わせて、
 指先ぐらいの幅でふるふると上下していた。
 その下半分の緩やかな曲線を、芳乃の小さな手が――

「ま、真下だと、見えないので……びっくりしないよう、触る時は、言って、ください……」
「では、3つ数えてから触ります。さーん、にー……」

(予告されると……これはこれで、プレッシャーが……)

 まゆはいやいやながら覚悟を決めた。
 息をゆっくり吐いて、せいいっぱい脱力する。

「いーちっ」
「ぁ、あっ……よしの、さっ」
「ぜろー。行きますよー?」

(ぁ、あ、あっ……芳乃、さんの、指……っ)

 まゆは奇声を飛び跳ねさせる代わりに、空気を白く曇らせそうなぬるく濃い吐息を漏らす。

「……さきほどより、馴染んできまして。どうでしょうかー?」
「あ、ぁ、その……芳乃さんの、ところ……なんだか、あ、あたたかいと、言いますか、その……」

 まゆは、指戯が服越しから素肌に変わって、さらに強烈な刺激をもたらされると警戒していたが、
 こうして素肌で芳乃の指と触れ合っていると、不思議といくらか穏やかな心地よさを覚えていた。

※11

「身体の、どんなところが、温かいでしょうか?」
「ん、ふっ、ぁぅ……その、お胸、が……触られてるのは、下の方ですが……
 なんだか、脇腹というか、背中というか……その周りまで、じわじわぁって……広がってる、気が、します」
「はい。では、どのくらいの熱さ、温かさと感じましてー?」
「え、ええと……その、お風呂の……丁度いいか、ちょっとぬるいかぐらいの……」
「まゆさん。その調子でしてーっ」

 さんざんムチャクチャな理屈をぶつけてくれた芳乃の口からでも、励ましてもらうと、
 まゆはひと心地つく思いだった。この温かさも、浸っているうちに、本当に湯船でくつろいでいる気分になる。

「背中、もっとわたくしにお預けになって……力を抜いたほうが、きっと『氣』がわかりやすいと思いますゆえ」
「そ、そうですか……? では、失礼、します……んんっ」

 自分より背が低く細いはずの芳乃の胴と腕に、腰より上の体重を支えてもらう。
 芳乃の体格からしたら決して軽くない負担のはずだが、芳乃は事も無げな様子。

(し、信じられませんが……芳乃さんと、まゆは、身体の……どこかが、根本的に違うのでしょうか……?)

「ゆっくり、動かしますので……どう動かすか、先にお知らせしますのでー」
「ぁ、ありがとう、ございます……」
「ですから、心構えは、よろしくお願いするのでして」

 芳乃は有無を言わさず、まゆの胸の稜線に愛撫を加えていく。
 アンダーバストの時と同じぐらいの加減で、なぞり、擦り、外側から円を描き、徐々に中心に迫って、

「ん、んっううっ……っ」

 まゆの乳輪は、芳乃の細く小さな指でも2本で覆えてしまいそうな小ささで、
 そのわずかな膨らみに触れるか触れないかのところで、芳乃の指先は引き返してしまう。

「……どのような『氣』を感じまして?」
「どのような……と、言われても……」
「では、もう一度……焦らず、時間をかけて行きましょー」

(どう感じたか……って、その……ま、まゆ、は……)

 芳乃の指は、またまゆのふもとから、直前とほとんど変わらぬ早さでそろそろと迫ってくる。
 開かれていた指が、だんだんすぼまり、寝かされ、まゆが感じる『氣』も、頂点近くに寄っていく。

(まゆ、もしかして……さきっぽ、触って欲しいなんて……お、思って、なんかっ)

 芳乃の指先が、境目も曖昧なまゆの乳輪のフチで止まる。輪郭をなぞる。

(き、期待なんて、して……して、ないっ……)

「どうでしょうかー? 苦しくは、ありませんか?」
「く、くるしく、ないです……」
「もう少し続けても、ムリはないでしょうかー」

(芳乃さん、も、もう少し、って――)

「ぁ、あ、あぁあ……っ、あぁ……」

 まゆは『もう少し』を、とっさに乳輪の先への刺激と読み取っていて、
 芳乃の指先がまたふもとへ帰って行くのを感じ、安堵とも失望ともとれる溜息を漏らしてしまう。

(ま、まゆは、触ってほしいなんて、思って……)

「どう、感じましたかー?」
「へぁ、はぁ、あぁっ……」
「……もう一度、参ります……」

 周期的に。一定のリズムで、すこしずつ場所を変えて。
 芳乃は丁寧に愛撫を重ねる。乳房を欲望の対象とする者とは一線を画す、ゆったりとした極地。

「そ、その、芳乃さん……まゆは、それ……それ、が……」
「それ、とは?」
「お、お胸の、先に、向かって、するのが……さ、される、と……」
「はい……ゆっくりで、よろしいですから……」


※12

 芳乃は指を止め、まゆの背中を抱きしめて支えた。

「その……『氣』っていうんですか……熱くて、じわじわするのが……
 芳乃さんのに、合わせて、だんだん、せり上がって、先に、向かって……」

(ぁ、あ、ああっ……べ、別、に……して欲しいって、言ってるわけじゃ、ない、から……)

「もう少し速い手付きが、感じ取りやすいでしょうか? それとも、ゆっくりのほうが……」

 芳乃の両手の指先が、まゆの乳輪まで迫ったり、戻ったり、一定の速さで往復される。
 ふいごで新鮮な空気を絶えず供給される焚き火のように、まゆの期待は熱を持ったまま。

「い、今のが、ちょうどいいです……っ、どんどん、先に、たまって、いって……」

(は、はやくても、ゆっくりでもいいからっ、さき、にゅうりんっ、ちくび、にっ――)

 まゆは最早『氣』でもなんでもよかった。
 ただ、芳乃が触ってくれれば、この疼きまみれのおかしな肉体と欲望が開放されると直感していた。
 その直感はおそらく半分は本能が導いたもので、もう半分は……

「先、ですか? んんー……先は、ここよりももっと、でりけーと、ですが……。
 よろしいのでしてー?」

 芳乃の言葉は、まゆと比べると焦れったいほど事務的に響く。

「これも……『氣』に、必要、なんですよね……? だったら……
 よしのさんっ、よしのさんなら、だいじょうぶだって、しんじますから……」

 まゆは相変わらず芳乃を信じていなかった……が、乳頭刺激への欲望に焦れるあまり、懇願を口走る。

「まゆさんの、先……乳輪や、乳首に触りますと……
 お胸のあたりにたまっている『氣』、どうなると思いますか……?」
「ど、どうなると、言われても……」

(さ、触ったら、『氣』……というか、気持ちいいのが……え、えぇ……?)

 まゆ自身で、ふとむずむずして快楽のために乳首をいじめた経験は、わずかにあった。
 その記憶が、芳乃の言葉で呼び起こされる……が、自分でいじめるのとは次元が違う、とまた直感する。

「ごめん、なさい……わかりません……」
「ふつうは『イク』といって、気をやるのですが……気をやってしまうと、
 せっかくここまで豊かにした『氣』が散ってしまいます。それでは、困りますねー?」
「は、はぁ……経験が、ありませんが。困るんですね……」
「さようで。『氣』を豊かにしたら、その『氣』を感じ、その『氣』を練るのです。ですので……」

 ――触っても、気をやらないで……イカないで、くださいませー。

「そ、そんな、ま、まゆっ、おっぱいでイクなんてはしたないことっ……!」
「だから、イカないでください、と……」

(冗談じゃありませんっ、いっいま、芳乃さんに触られたら、ぁ……)

「よしのさんっ、きょうは……ここまでに、しておきませんか……?」
「むー……それは、困ったことになります……いけません」
「ひぃうっ!?」

 芳乃が指をするすると動かし、まゆに宣告を突きつける。

「……お胸と同じように、乳輪も、下から参ります」
「ぁ、あ、やぁ、やめ……えっ……」
「舌を噛んでしまうかもしれませんので、奥歯を噛み締めて……
 もう、言葉で言い表すのは、後回しでよいでしょー。
 とにかく、気をやらないで……呼吸が大事です。それでは――」

(む、むねだめぇ、さ、わ、あ――っ)

 まゆの心中で響く哀願も虚しく、芳乃の指先がまゆの膨らみの先っぽを襲った。

※13

(は、ぁ、むっむね、ぁ、あついの、はじ、け――っ)

「まゆさん――呼吸を、乱さないで、整えて……奥歯は、噛み締めたまま……」

 ひゅ、ひゅっ……と、奇妙な吐息を、まゆは引き結んだ――時々ゆるむ――くちびるから垂らし悶えている。

「まゆさんの氣の流れは、とても豊かになりそうでして。
 わたくしが少し促すだけで、溢れそうなほど……」

(ち、ちがう……こんなの、まゆじゃ、ない、みた――んんぁああっ!)

 客観的に見れば、まゆの身体の変化は「興奮しているな」程度であった。
 少女らしい甘さを孕む汗は『部屋』の空気をぬるぬると染めているが、質・量ともにまだ健康的な範囲。

「気持ちいいのが……快楽、ですか。まゆさん、それに逆らわないで、でも流されないように……」

 まゆが刺激を恐れていた乳頭も、たしかに愛撫前より勃起してぷっくりと膨らんでいるが、
 もとが人より小さく目立たない様子だったので、それが人並みに育ったという程度。

 まゆのナカで横溢する『氣』なのか快楽なのか、
 とにかく抗しがたい流れに比べれば、アンバランスなほど平穏な姿だった。

「ひ、ひぃ、ひゅっ、ふぅう、うぅうぅうぅ……っ」
「そうです、呼吸を……落ち着いていれば……いかに熱く激しく感じようとも、
 これはまゆさんの中から生じる『氣』ゆえ、耐えきり、乗りこなし、いずれは……」

(い、いずれって、いつなんですかっ!? い、いま、はやく、もう、まゆ、はっ)

 ヤカンいっぱいに沸騰した水が吹きこぼれそうなのを、必死に押さえつけるようなイメージだった。
 けれど、それが叶わず、中身をぶちまけるようなことがあれば、
 それは体内に熱湯をぶちまけるよりおぞましい事態に……そんな妄想が、まゆを締め付ける。

「ふぅうっ、ひぅうぅう……っ、うぅ、んくっ、ぅぅうぅぁあぅう……っ」

(は、はやく、おわって……って、おわり、おわりって。これ、どうなるんですか……?)

「まゆさんの先……乳首、ですか。やっと、つまめるぐらいになってきましたねー」

(つ、つまむとか――そんな、されたら、まゆ、こわれ、ちゃ――)

「これで、お胸の外側は仕上げになりますので……いま一度、呼吸を整えて……聞こえましてー?」
「きこえて、ますからっ、だから、もう、やめてぇ……芳乃さんっ、やめ、て――」
「……さーん、にー、いーちっ」

 芳乃のカウントダウンだけで、まゆの意識は恐るべき絶頂へ先走り、
 きゅうとつままれた瞬間、歯をかちかちと慣らしながら、首から腰までを波打たせる。

(あ、だ、め……いイク、いっ、い……イッちゃ――)

「だからダメと言ったのでしてー」
「んきゅうぅうぁあああっ――あ、ああぁあんんぁああっ――!!」

 芳乃の『氣』の入った捻りの一撃が入り、まゆの絶頂をムリヤリ断ち割る。

「……よろしいですか? イッては、いけません。
 気をやってしまったら『氣』は散ります……それに、身体は覚えても、頭に残りません……」
「や――ゃだぁあ゛っ! こっこんな゛の゛、お゛ぼえっちゃったら、まゆ、お゛がじぐ、なるっ……」
「覚えないと制御できなくなるのでしてー」

 まゆの絶頂が弾けそうになるたびに、芳乃の無慈悲な捻りが入る。

「まゆさん、もう少しです……お胸に『氣』がたまって、揺れて、溢れそうなのが、掴めましてー?」

(もう、溢れてる、溢れてるから、むね、おかしく、なる、なってる、うぅうぅうぅ……)

「先が、ぷっくり、膨らみきったら……外は仕上がりますから……」

(おねがい、ですからっ……もう、これいじょう、まゆのからだ、おかしく、しないでぇ……)

 乳頭の先端をかりかりとくすぐったり、乳首の根本の乳輪をくるくるなぞったり、押し倒したり、
 はたまた手のひらで乳房の下をぐうぅっと持ち上げたり、まゆは半強制的に『仕上げ』られていく。

「まゆさん、『氣』が……じゅうぶん深まりましたので、あとは耐えるだけ、でして」

(もうだめ、たえられないっ、たえられないから、はやく、ぅううっ)

「外が済んだら、内側は……わたくしに、おまかせくださいましー」

※14



(……うちがわ……内側?)

 芳乃の指の動きが収まり、『氣』で飽和寸前のまゆの意識に、ほんのわずかな空隙が生じる。

「ぁ、あっ、あの、芳乃、さん……」
「いま、わたくし、集中しているのですが……なんでしょう?」

 まゆは、芳乃が何に集中しているのか、すぐにはわからなかった。

「……内側って、な、なんです……?」
「お胸の、内側でしてー」

(これ以上、なにか、されるの……いま、だって、熱くて、溶けちゃいそうなのに……っ)

「……見て、感じていただいたほうが、おそらく、ご理解が早いかと」
「そ、それ……なんだか、ご理解しちゃいけないことな気しかしないんですが……」
「もう『氣』が溜まってしまった以上、止めるわけには……」

(芳乃さんが勝手に進めたんで――は、ぁ、あぉおおっ!)

 まゆの心中の独白をつんざいた刺激は、弱々しかったが、
 その弱々しさに反して奇妙に鋭く胸の中へ刺さる。

(な、なに、これ、いままでと、ちが、ぁ――)

「……いったん、息を整えたほうがよろしいでしょうねー」
「ぁ、あ……は、ぁ、はぁっ、ふぁっ……よしの、さん……」

 ままならなかった呼吸と、胸いっぱいに波打つ極度の興奮が、
 重さはそのままだが、少しずつ凪に、平穏に寄っていく。

 それに任せて、まゆが落ちるように目線を下げると、

「……な、ぁ……なんです、これ……?」

 セーターとブラジャーをずらされ曝されているまゆの素肌の膨らみに、
 金色か薄い黄土色をした艶のある糸のようなものが、しゃらしゃらと幾筋も絡みついていた。
 よく見ると、恥ずかしいほどに膨らみきった乳首にも届いていて、くすぐったいやら、ちくちくするやら。

「わたくしの、髪の毛でしてー」
「え、じゃあ……どけないと、髪、抜けちゃったりしたら……」

(……えっ)

「あの、芳乃さん」
「はい?」

 まゆの膨らみにかかる淡い髪の毛――らしきものは、蝶々が蜜を吸う口吻のように伸びて、
 するすると曲がりくねって、まゆの紅潮した肌を模様のごとく彩っている。

「……髪の毛が、ひとりでに動いたり、くねったり、するんですか?」
「『氣』でしてー」
「はぁ……ん。んんっ、なんだか、むねのおくが、くすぐった……ぇ?」

 芳乃の髪の毛(?)が、まゆの乳頭に食い込んで、中に――

「指では、わたくしも内側まで手当てできませぬので、こうして、髪を――」
「――うっうちがわって、ちょ、え、おかしいって、よしのさ――ァああっぁあぅうあっ!」
「確かにふつうは、いかに髪の毛が細かろうと内側への手当てはムリですが、そこは『氣』で……」

 まゆにとって信じがたいことに、芳乃は細くした毛髪を触手のように『氣』で操って、
 カテーテルのように肌の下に潜り込み、まゆの――もちろん初乳には程遠い――乳腺を刺激していたらしかった。

「ひ、ぐ、ぁあ、ああァああっ……! なっ、なんでも『氣』でゴリ押ししないでくださいっ」
「おとなしく、動かないでくださいましー。わたくしも、こう、気が散ってしまうと……」
「おっぱいの中にいきなりもの突っ込まれておとなしくしていられますか!?」

 献血などで、自分へ穿刺される注射針を見るのと見ないのとで痛みが変わってくるように、
 まゆは乳腺刺激のやり方を察したせいで、刺激を深く鋭く感じるようになってしまった。

※15

「外が仕上がったので……内側のこれが、きょうの仕上げなのでしてーっ」
「しあげって、もうどうでもいいですから、おねがいだから、おわりにっ――ふぁああぁぅうっ!」

 指の刺激で断ち割られていた快楽の『氣』が、今度は抑えなしにまゆの胸で急激に高まる。
 芳乃の拘束がなければ、狭い『部屋』をのたうち回って、手足のどこかをぶつけていたかもしれない。

「今まで頑張って高めた『氣』を、解放するのでして……その勢いを使って、
 今まで『氣』を通せていなかった身体のところにも、道筋を作って――」
「は、ああぁあっ! ああっあっ……あ、あ゛っうぅぅう゛……んんんぅぅう……っ」

 まゆの精神か肉体が、自らに起ころうとしている――あるいはすでに起こりつつある――不可逆の変化に、
 怯え、逃れようともがく。押し止める芳乃にもいよいよ脂汗がにじむ。
 小柄な少女二人がばたばたとちゃぶ台を叩いたり、畳の上をどたどた転がりそうな勢いで騒がせる。

(やめ、やめて――まゆ、もう……だめ、え、ぇ……っ)

「く、う、ぅ……まゆさん、落ち着くのでして、もう、すぐですから……ん、く、ぁう……っ」

 間が良いのか悪いのか、まゆの手足の筋力は、本調子を取り戻しつつあり、

「……ん、くぁ、あ……っ! ま、まゆさんっ、離しては……っ!」

 きりきりきり、と芳乃の髪が細さ・柔らかさに見合わぬ硬質な悲鳴を上げ、
 それを最後に拘束が外れ、まゆは芳乃を突き飛ばして拘束を脱した。

「も、もう、まゆに、さわらないで……さわらないで、くださいっ」

 まゆは、あちこちシミのできたセーターとキャミソールワンピースをどうにかまとって、
 脱兎のごとく『部屋』から駆け去った。

「……むむー。わたくし、あまり信用されていなかったようでして。
 しかし、これでは……あとが心配、ですねー」

 芳乃は一つ溜息を吐くと、湯呑とだんごの皿を片付け始めた。

※16

「だから、わたくしは『止めるわけには……』と申し上げたのですが」

 翌朝……というには、若干空が暗いままな頃。
 寮の談話室は静まり返っていて、芳乃の小さな声もひたひたと響く。

 その声と、声の主の表情は、ふだんの温和な彼女を知るものであれば、
 あまりの温度差に声を上げそうなほど冷たかった。

「……これより、ひどくなっちゃうはずだったんですか、まゆは……」

 しかしその冷たさも、芳乃のすぐそばで相対するまゆ――の身体に帯びる火照り――を冷ますには、
 まったく不足であった。



(な、なんで……まゆの、身体じゃ、ない、みたいに……っ)

 芳乃の『部屋』から命からがら(少なくとも、まゆ自身は命と貞操の危機と思い)逃げてきた彼女は、
 夕食までの間、プロダクション女子寮の自室ベッドで身を横たえていた。

(む、むねが……なんだか……おかしい。でも……収まってる気がしますし、少し休め、ば)

 まゆの見通しは、半分正解だった。安静にして、意識して呼吸を整えていれば、
 乳房の脂肪と胸骨にまで根を張ったような疼きは、徐々に引いていった。

(……芳乃さんの助言どおりなのが、ムッとしますが……収まりそうです……)

 異変が生じたのは、入浴でシャワーのお湯を浴びた瞬間。

『ひ、ぅ』

 まゆの喘ぎは、浴室の床へ落ちる雫の音にかき消されたが、疼きは明らかにぶり返していた。
 当人の不安をかきたてるように、乳首や乳輪など先端周りが心なしか膨らみの色を見せている。

(そ、そんな……っ、ちゃんと洗わないと、いけないのに……)

 ボディソープの泡を塗りつけた手で、赤ちゃんの肌のように慎重に触れる。

(ぁ、あっ)

 腫れぼったいが、しかし痛みは無い。

(自分の、て、なのに、芳乃さんの……思い、出す、なんて……)

 痛みの代わりに、芳乃の毛髪もどきがまだ残っているような、蕩ける甘さがにじむ。
 明らかに異常だった。まゆは気持ち悪いと思い……しかし、無視できない。
 気を抜くと意識がそちらに向いてしまう。

(だめ、ここは、お風呂場だから……もしかしたら、ほかの人がいるかも、しれない、のに……っ)

 思い出してしまうと、それを振り払うのは困難だった。指先が、おそるおそる迫る。
 まるで芳乃がした手付きのように。半ば曇った鏡越しの顔は、のぼせたときよりも鮮やかな赤。

『はぁ、あ、ぁ、あっ……!』

 やっとの思いで身を清め、脱衣所では乳房に極力刺激を与えないようにこわごわ服を着た。
 ドライヤーやタオルで髪の毛の水分を除こうとすると、手のさらさらとした感触が、
 また芳乃の妖術じみた乳腺開発を連想させて、めまいを起こす。

 心配げなルームメイトを『風邪気味で……』と誤魔化し、ベッドへ逃げ込む。

(きょうは、もう寝て……明日もおかしかったら、プロデューサーさんと、あと病院か、それとも……
 とにかく、誰かに相談しないと……これじゃ、仕事に支障が出てしまうかも……)



※17

「その様子だと、まゆさんは……まんじりともできなかったのでは」
「す、すこしは、眠れたのですが……ですが……ぅ、あ……」
「……ですが、といいますとー?」

 まゆは、早朝の談話室に芳乃以外の人影がないことをもう一度確認すると、
 夜着の合わせ目をくつろげ、芳乃にナイトブラへ包んだ乳房を見せた。
 寝汗とは違う、さらさらとした儚げな甘い匂い。ブラの生地にひたひたと広がる湿り気。

「なるほど。これは……母乳、でしてー。
 まどろんでいるときに、つい触って……出てしまった、という具合と見受けます。
 まゆさんの初乳でしょうかー?」

 他人事と言わんばかりの芳乃の声音に、まゆは鬱憤と羞恥のあまり声を出しそうになるが、

「さように不安であれば、お医者様にでもかかりなさいますようー」
「ひ、人の胸を、めちゃくちゃにしておいて、そんな……っ」
「少年少女が、乳首へ機械的刺激を与えると、ほるもん? に影響が出てしまって、
 母乳が出ることはままある……と聞きます。奇病扱いはされないはずでしてー」

 芳乃も芳乃で、自分を乱暴に振り払って逃げ出したまゆに、腹を据えかねているようだった。

「……芳乃さんも……まゆが病院に駆け込んだら、困るんじゃないですか?」
「まさか、乳腺を毛髪でほじられて……とでも、おっしゃるおつもりでー?
 おそらく信じないでしょう。まゆさんのように」

(うぅうぅ……芳乃さん、まゆが信用してなかったの、ものすごく根に持ってますね……?
 でも、それなら……)

「まゆは……この際、病院で治るのならいいんですけど……あの『部屋』はどうなりますか。
 まゆを病院送りにしたウワサが事務所内に立ったら、
 あの『部屋』に誰も近づかなくなって、じきに『部屋』が撤去されてしまうのでは……」
「……そうなのですよねー……むー……」
「ちひろさんか専務さんか……せっかく言いくるめて置いてもらったのでしょう?」

 まゆがプロデューサーから聞いたとおり、芳乃の『部屋』はかなり強引に設置されたようだった。

「まゆ、今度は、芳乃さんを信じますから……どうか、お願いしますっ。
 じゃないと……プロデューサーさんに知られたら、まゆ、恥ずかしくて、死んでしまいます……っ!」
「わ、わかりました、わかったのでしてー……もう一度、協力いたしましょー。
 まゆさんへきちんと話が通っていないのに気づかず、進めてしまった落ち度がありますゆえ……」

 まゆは、芳乃の施術がおおっぴらに語られるようになった事務所の光景を想像し、
 寝不足のやつれた頬に苦笑を浮かべていた。


※18

「……これは、プリンですか? あと……ドライフルーツ……」
「ぷりんは豆乳ぷりんでしてー。あと、干したアンズ、ブドウ、バナナでして」

 その日は、まゆも芳乃も学校があったので、落ち合うのは夕方となった。
 まゆは登下校や授業中に、自分が母乳をにじませたり、
 『氣』のせいで妙なことにならないかヤキモキし続けた。

 ついには、寝不足も重なって顔色を心配されたのに乗じ、
 授業の半分を保健室で寝かせてもらってなんとかしのいだ。

 そうしてやっとの思いで『部屋』の芳乃を訪れてみると、

「この豆乳プリン、もしかして、きょうのおやつ……とでも?」
「まゆさんは、食が細いとうかがいまして……母乳の成分は、血液とよく似ているのです。
 鉄分とタンパク質をこちらで補給して、貧血を予防しましょー」

(まゆ、昨日は芳乃さんのお茶を飲んだせいで、さんざんな目にあったのですが……)

 散々に母乳をしぼられる前提の言葉に、まゆは早くもゲンナリとなった。
 が、芳乃はどこ吹く風。

「……いらないのであれば、こちら、わたくしがいただきますー。
 ぷりんは愛梨さんにお願いして作っていただいたので、それはもうおいしいのでしてー」
「え? たったべますっ」

 芳乃とまゆは、並んで座って十時愛梨謹製の豆乳プリンとドライフルーツに舌鼓を打った。
 プリンは、ドライフルーツと合わせる前提の味付けだったのか、それともアイドル向けに糖質を控えたのか、
 濃厚なまろやかさの割に甘みはかなり抑えめで、するするとスプーンが進む。

「そういえばまゆさんも、お菓子作りがお得意とか……。
 材料はわたくしが用意いたしますので、こんど、まゆさんのお点前も拝見いたしたくー」
「……この体がまともになったら、その次の日にでもご馳走して差し上げますよ」
「それでは、『氣』……もとい、気を張るとしましょー」


※19

 甘味でつかの間の安堵を得た後、芳乃はちゃぶ台を『部屋』の脇に寄せて、
 畳の上にバスタオルか幼児用タオルケットのような大きく薄いタオルを、何枚か重ねて敷いた。

「芳乃さん、それ、もしかして……」
「お乳を搾るつもりはありませんが、出てしまうかもしれませんのでー。
 もし濡れてしまうと、畳はたいへんなのでして」
「畳より、まゆのほうがたいへんな目に遭うのでは……」
「……昨日とはやり方を変えるので、ご安心して励んでくださりますよう」

 芳乃の言葉だけで、まゆは心臓と肺に熱く重くどろどろした……
 芳乃がいうところの『氣』がのしかかってくるのを思い出してしまった。

「では、お召し物を……下着も脱いでくださいまし」
「は、はい」
「……下もお願いするのでして。あ、靴下は脱がなくて構いませんが」
「えっ? き、きのうは、その……おっぱいだけだったはずでは……」

 芳乃しか見ていないとはいえ、全裸になる――要求に、まゆは躊躇する。

「……まさかとは思いますが、昨日のように、わたくしの髪の毛を突っ込まれたいとでも?」
「そんなわけはありませんが……けれど、その、あの……」

 芳乃は、自分の髪の毛にまゆが(おそらく恐怖混じりの)視線を注いでいると察すると、
 顔をうつむけてつぶやいた。

「……わたくしも、『氣』で髪の毛をいじるのは止めにしたいのでして。
 たとえるなら……まゆさんは、お裁縫をたしなまれると聞きますが……」
「裁縫が、何か……」
「まゆさんのお胸の乳腺を、『氣』で細くした髪の毛でいじって、
 まゆさんのたまった『氣』の道を遠そう……としたのですが、それはちょうど、
 針の穴に糸を何本も同時に通して穴ごしにいじるようなもので、非常に繊細で疲れるのでして」

 芳乃は、まだまゆの視線がおっかなびっくりなのを察してか、茶化した表情で続けた。

「髪の毛に『氣』を通すだけならばわけもないのですが。
 寝癖をすぐに直さなければならないときなどは、便利でしてー」

(それは、ちょっと便利かもしれませんね……)

「でも、それで……なんで、下も……」
「……まゆさんが、お胸に『氣』がたまってお辛いご様子なので……
 お胸から『氣』を流す道を作るために、『氣』がたまりやすい敏感な別の箇所をわたくしが刺激して、
 それでまゆさんの体と意識の中で『氣』が自然にそう流れるよう誘導しようと思ったのでしてー」
「……敏感な別の場所というのは?」
「おさね……くりとりす、といったほうが、通じやすいでしょうかー」
「あの、もうちょっとどうにかなりませんかね」

 まゆの抗議を、芳乃は黙殺する。

「健康に生まれ育った人間であれば、みなだいたい同じような『氣』を流す道を持っていまして。
 けれど、例えば……自宅の近所で、地図を眺めて存在を知っている道でも、
 自分がふだん歩かない道では見覚えが無いように……『氣』を流す道があっても、
 意識して使わなければ覚えられず、意識して初めて『氣』を流せます」
「それを……まゆに、覚えなさい、と?」

 まゆは『部屋』を立ち去って婦人科に駆け込むか否か悩んだが、
 芳乃がお茶のおかわりを1杯湧かして飲み干したあと、ついに折れた。


※20

「きのうと同じように、座って、わたくしに背中を預けるのでしてー」

 まゆは、密室とは言え、事務所で脱衣して芳乃へ裸を晒すことに抵抗があったが、

「……よ、芳乃さんも、脱ぐのですか……?」
「まゆさんの目に『自分だけ肌を見せるのはずるい』と書いてありましてー。
 それに、恥ずかしさで『氣』に集中できないでは困りますー。
 わたくしも肌を出していれば、少しは気分がまぎれるかと思い……」

 と言って、日光に照らされた白砂のようなまぶしい肌を見せられると、
 まゆも脱ぎたくない本音を抑えるしかなかった。

(……悔しいというか、釈然としませんが……)

「芳乃さん、綺麗ですね……」
「おことば光栄でしてー」

 まゆは最初、自分が散々痴態を引きずり出された意趣返しのつもりで芳乃の素肌をじろじろ見ていたが、
 じっくりと見つめるうちに、知らず識らず芳乃の照り映える美しさに目を奪われつつ合った。

(まゆに輪をかけて細くて、肉付きもうっすら骨が浮いているぐらい薄いのに、
 ……肉付きというか、骨付き? とでも言えばいいんでしょうか。
 肩から足の先まで全部ゆったりした曲線を描くからか、しなやかで、柔らかい印象です……)

「では、はじめます。心の準備は、できましたか?」

(目もくちびるも肌も髪も瑞々しく滑らかで、ツヤツヤって光をまんべんなく照り返して、
 血色も見てるだけでこっちがぽわぽわしそうなぐらい良いから、細いのに健康的な感じがします)

「まゆさん、まゆさん、聞こえてましてー?」
「……あっ、すみません、ちょっと、見惚れてしまって……」
「ちょっとだけ、本気を出しているのでして。まゆさんの『氣』であれば、このぐらいは直にできます」

 あざといな、と思いつつ、まゆは『氣』を練るやる気が湧くのを感じた。

「慣れないうちは、手足が動いてしまうと思いますので……
 すみませんが、固定させていただきますー……」

 まゆが座って芳乃に背中を預けると、芳乃の髪の毛がまたしゃらしゃらと動いて、
 まゆの足首にくるくると幾重にも巻き付いた。

 明らかに人体の理を外れた動きだったが、昨日で感覚が麻痺したまゆは、

「あの、髪の毛……切れちゃったり、抜けちゃったりは……」
「心配ご無用、まゆさんは安心して自分の『氣』に集中していただきたく」

 と、芳乃を気遣う余裕が生まれていた。
 やがて髪の毛が促すに従って、まゆの両足は折りたたまれM字に縛られるが、

(昨日の、お胸の中に突っ込まれるのに比べれば……)

 と割り切る。

「脚は……れっすんの賜物でしょうか? 細いけれども、柔軟性があって……
 わたくしから見ても、惚れ惚れする具合でして」
「そ、それはどうも……ん、んんっ……!」

 そう褒めつつ、芳乃の指先が、まゆの膝頭から内腿へ、そして秘所――を避け、
 恥丘や鼠径部をゆるゆると撫でる。肌が凹むか凹まないかの触られ心地なのに、
 まゆは触られたところが尾を引くように温かくなるのを感じた。

「まだ、こちらは興奮していないですね、まゆさん……?」
「まゆ……女性にされて興奮する性癖は、ないです……た、たぶん」

 恥丘からヘソに、そして肋骨の内側の端を指先でたどられ、
 昨日さんざんにされたアンダーバストへ矛先が向くと、まゆも流石に肩をこわばらせる。

「人間の体は、不思議なものでしてー。
 足の小指をぶつけて痛めても目から涙が出ますし、お胸を愛撫されてもおそそが濡れます」
「それって一緒にまとめていいんでしょうか」
「言葉の綾でしてー」

 芳乃のいささか戯(おど)けた口振りは、まゆの緊張をほぐすためか。

※21

「んきゅっ……う、んんんっ……!」
「こちらは、もう『氣』が溜まりはじめて……昨日からこの調子では、苦しかったでしょう……」

 昨日と同じように、芳乃の指先がまゆの膨らみをなぞる。

 まゆは鏡で観察したわけではないが、胸の感覚からすると、
 芳乃が一往復するたびに、重さの擬音が『ぷるぷる』から『ゆさゆさ』に寄ってしまっていく感じがした。

(こんな調子では……今のブラが全部使えなくなってしまうかも……)

「んんんぅ、んくっ、ふぅうっ、んんんぅ……っ」
「まゆさん……また、昨日と同じように、呼吸を深く。あと、どう感じたか、言葉にしていただきたく……」

 まゆは快楽に没頭する寸前で、芳乃の言葉に引き戻される。

「んんんぅ……そ、そうでした、ね……『氣』を、感じて、練るのでしたっけ……?」
「はいー。最初は、恥ずかしいかも知れませぬが……
 先に申し上げたとおり、この『部屋』は防音で、わたくしもお仕事ゆえ、他言はいたしませぬ」

 芳乃の指が曲げ伸ばしされるたびに、まゆの体へ色を塗るように、
 肌と神経へ不可思議な熱さが重ねられていった。



「ぁ……あ、あっ……♥ も、もう、だめ……だめですっ、よしの、さんっ……」
「まゆさん、落ち着いて。『だめ』ではありません。よい調子でしてー」

 芳乃の指は、昨日よりもやすやすとまゆの乳房を高ぶらせ、
 まゆは倍ほどのペースで『氣』を溜め込まされているかと思うほどだった。
 そこからくる熱や痺れや震えは、セックスを知識でしか知らないまゆにさえ、疑いようがなく快楽だった。

「あ、ぁあっ……ふぁ、はーっ、はぁあっ……っ」
「そうですー。呼吸を整えれば、『氣』が豊かになっても、それにのまれず……」

 けれども、『氣』が許容量を超えて、快楽が弾け……絶頂寸前になると、
 芳乃はぴたりと指を止め、髪の毛でぴくりぴくりと震えるまゆの手足を抑える。
 まゆに、快楽を胸に抱えたまま呼吸を整えるよう強いる。

(こ、こんなの、生殺しです……心臓も、呼吸も、『氣』だかなんだかに潰されて、しんじゃいそう……)

 まゆの胸は脂肪と乳腺の膨らみ以外の周辺も含めて、昨日の今日ですっかり『氣』の味を占めたのか、
 苦しささえ覚えるほどの熱い快楽を渦巻かせている。

「……少し、気をやりましたね? また、漏れてしまって……」

 芳乃が、汗かヨダレか乳汁で濡れた指を滑らせ、
 ぬちゃぬちゃとまゆの膨らみを洗うようにこすり立てる。
 微かに勃起した小さめの乳輪と乳首からは、ふつふつと乳汁の雫がいくつか生まれた。

「んきゅ、ぅぁあ! はぁおっ……♥」

 まゆの胸が『氣』で腫れているからか、おとといまでなら『ちょっとくすぐったい』で済みそうな指使いが、
 うなじから背中に、お尻の尾てい骨までじわじわと快楽を帯びる。

「いかがでしょうか。まゆさん、どう感じられておりましてー?」
「そ、その……むね、心臓のすぐそばまで、熱くて、張り詰めてて……
 いま、さきっぽいじられたら、あふれちゃいそうです……」
「落ち着きましたら……また、行きますのでー」

(ま、また、おっぱい、されたら、いっちゃう寸前で止められたら……まゆ、本当に、もうっ)

 芳乃の愛撫でまゆへもたらされる『氣』の豊かさ……らしき熱と疼きは、
 愛撫のペースに合わせて盛んになったり収まったりと波打つが、高められ止められを繰り返すうち、
 だんだん波の底が高くなっていく。

(いや、もう、わざわざいじめられなくても……このまま続けられたら、まゆ、戻れないんじゃ……?)

 芳乃に促され、まゆの舌が法悦について述べさせられると、
 その言葉が重なるほどに、まゆの意識も昂りをくっきりと克明に刷り込まれる。


※22

「ぁ、はぁ……はぁ、あぁあっ、ふぁあ……っ♥」
「さて、おそその具合も……十分に、濡れて来ましたようでー」
「んくっうっぅうっ!? よ、よしのさ――ふ、ぅうぁぅうっ……♥」

 続いて、芳乃がまゆの下腹部に片手を添えると、まゆの内腿と秘所がしゃっくりでもしたように、
 ひく、ひくと肌や筋をよじらせる。しかし芳乃の髪拘束が効いていて、脚を閉じることは許さない。
 悔し涙のように愛液が筋をひいて、お尻の膨らみを滑り、敷布へ落ちていった。

「では、まゆさん……おさねのほうも、わたくしが触れます。
 そうすると『氣』がそっちに自然と寄っていくのですが……」
「まっまゆの……こっちまでおかしくするおつもりですか……!?」
「今、お胸に寄っている『氣』が、こちらに流れるように意識するのでして」

 芳乃の誘導は、まゆの不安を減らすよりむしろ煽っていた。

「あ、あの……芳乃さん、一つ、質問が」
「ええ、なんなりとー」
「おっぱいに集まってる『氣』が……下の、そこに行ったら……下が、濡れてしまうのでは?」
「……」
「……あ、あの、黙られると、正直、怖い……怖いんですけど……」

 まゆは、心拍が軽く30は拍ったぐらい待たされた。

「慣れないうちは……なぷきんなどで受けて、なんとかしのいでくださいますようー」
「母乳でブラを濡らしたと思ったら、パンツまで濡れ濡れって……
 これじゃ色気を通り越して痴女じゃありませんかっ!?」
「慣れればなんとかなるのでしてーっ」
「よ゛じの゛ざん゛っ゛」

 業を煮やしたのか、芳乃の小さく細い手指が、獲物を包囲するように秘所を包む。
 触れる寸前、気配だけでまゆは悶絶する。内腿に筋が浮き、M字開脚の膝がびくりと跳ねる。

「そうですー。それを感じて、目印として、お胸の『氣』から持っていくように……」
「ひっ!? ん、ぅううっ! くぅうう……っ!」

 同性の芳乃とはいえ、脚を大きく開いて男性器をせがむようなポーズで秘所を曝している上、
 それを指でくちくちと水音混じりに弄ばれ、感じさせらる。
 まゆが生まれて以来はじめて味わう恥辱だった。

「まゆさん、胸の感覚が、下へ……降り積もるような、いめーじで……」
「だ、めぇ……こ、こし、うごいちゃ、あ、あっ……!」

 さらに芳乃はまゆの耳元で、体の内側の感覚をどうこうと指図する。
 まるで肌の下で自分がいかに快楽で踊らされているかが筒抜けのようだった。

(……いや、実際……芳乃さんは、まゆの体のこと、本当に……いや、そんな、まさか……っ)

 そうだとすると、まゆには肉体だけでなく意識の逃げ場もなかった。

「だから、お胸で気を遣ってはいけないのでしてーっ」
「そんな、あっ、だったら、て、てぇっ、とめて、やすませ、てっ……」

 おまけに芳乃は――基本的には励ましてくれるが――時折、子供に言い聞かせるような叱責を浴びせる。
 仕事で失敗して現場の足を引っ張ってしまっているのに似た、羞恥と焦燥がまゆへ上乗せされる。

「んぁあっ、くりっ、も、あ……や、ぁあ……っ♥ あ、ぁあ、うぅううっ……」

 クリトリスの絶頂は、胸と呼吸を張り詰めさせる苦しみ混じりの感覚というより、
 腰がゆるんで解けていく淡いものだった。
 胸からこぼれ落ちた『氣』のさらさらの上澄みが流れ込んでいる気分だった。

「そうですー。『氣』が、すむーずに流れるいめーじを、もっと、何度も、
 いつでも思い出せるように……その調子でしてー」

 芳乃は、まゆの乳頭へ愛撫を施していた時をオーバーラップさせるように、
 クリトリスへの愛撫も、すぐに先端へ挑まず周辺から徐々に追い詰めていく。
 指が寄せては返すたびに、血か、体温か、『氣』か、とにかく何かが集まっていく。

(まゆ、自分では……そんな触り方、しなかったのに、覚えさせられ、たら……っ)


※23

「……おさねが、少しずつ大きくなってきまして……でも、まだ、もっと……」

 まゆの愛液でてらてらと濡れた芳乃の指先が退くと、まゆは息を呑んだ。
 まゆのクリトリスは、いつもは爪先で触るのがせいぜいという小さなサイズだったが、
 芳乃の愛撫と『氣』の誘導を受けて、包皮がめくれ、小ぶりな小豆ほどの勃起姿を見せている。

「こんなに大きくなったの……自分では、見たことないんですが……これ以上……?」
「そうですね……おそその中に指を入れて、膣壁越しに、根元へ刺激を与えたら……いかがでしょうかー」

(いかがでしょうか……って、まゆがイヤと言っても、やる気でしょうがっ)

 まゆは心中で毒づくが、乳房と陰核の蕩けた感覚が手足にも滲み出していて、
 芳乃の拘束を解くどころか、髪の毛をぎりぎり軋ませることができるかも怪しかった。

「まゆ……その、中に、入れたことが、ないの、で……それだけは、どうか……」
「浅いところなので、だいじょうぶでして。ただ、予想外の動きをされると、傷めてしまうかもしれませんが。
 それに『氣』がちゃんと流せるようになれば、月のものがない日でも血を――」
「――それはいいので……するなら、早くしてくださいっ」

 まゆは「この台詞を芳乃のファンが聞いたら失神するかも」と現実逃避気味に考え、
 首を反らせて『部屋』の竿縁天井を見上げた。

「では、失礼して……」

 芳乃のつるりとした指先と、桜貝のような爪が、まゆの割れ目の入り口の際を2度3度となで、
 そのままカギ型に指を曲げて膣内に入り込む。

「は、ぁ――く、ぁあ、ぅうう……っ」
「みっちり、だんすれっすんをされておられるせいか……わたくしの指、強く締め付けられております。
 痛くは、ありませんか?」

 乙女の花園に踏み入ったという意識のせいか、芳乃は慎重にまゆの呼吸をうかがっていた。
 そのまゆの息遣いは乱れ、喘ぎ喘ぎという調子。陰核愛撫の前より楽になった肺で、なんとか鎮めるも、
 芳乃の指の細さ、差し込みの浅さからは考えられないほどの圧迫感が、まゆの下腹部を占領していた。

(あ……そ、その、ざらって、してるところ……もしかして、そこ……)

 芳乃の指先は、そろりそろりと忍びやかだったが、しかし明確にある一点に迫る意志を帯びている。
 表面に小突起として発情を表しているクリトリスの、その根本、肌と膣壁の間で、2叉に分かれた部分。
 そこを芳乃の指先が圧迫する。

「ふあ、あああっ、はああぁあ……っ! そ、そこ、はぁ……っ」

 まゆの声は、これまでまして高く澄んだ響きを奏でる。
 芳乃はまゆの嬌声に口元をほころばせ、指の動きが確信を持ったものに移る。
 外側からは陰核を撫で、内側からは指の腹で押し込む。

「あたり、でしてー?」
「あ、ああっ、うぅううっ……」

 くちゅ、ぐちゅ……と、水音が濁り、べたつく愛液が飛び散ってタオルの色を変えていく。
 タオルの色が濡れて濃くなるに従って、芳乃の愛撫は小休止をはさみながら強さを増していく。
 外側から撫でていた手付きは、こね回したり、つねったり、引っ張ったり。
 内側からの責めはいつしか指2本になり、ずりずり、ぐしゅぐしゅと摩擦する。

「くり、くりとりす、そんな、両方から、なんて……ひぁぅうっ!?
 あ、ひっ、へぇあっ♥ あ、あぁあっ……!」
「……先が、見えてきましたね。もうひと踏ん張り、でして」

 陰核責めまでは、まゆにヒタヒタと歩むように迫ってきた『氣』の飽和、絶頂感が、
 芳乃の指使いでグイグイとまゆを追い回すように距離を詰めてくる。
 クリトリス、膣周りに集まる『氣』も、だんだん濃く粘っこくなっている……少なくともまゆはそう感じた。

「お胸と……おそそのほうの『氣』が、つながってきた……いめーじ、掴めましてー?」
「ぁ……う、ぅうー……はぁ、う……つ、つながっている、といいますか……」

 まゆは、胸の溢れそうな快楽が膣に流れ落ちて楽になったような気もしたし、
 それが単にクリトリス刺激によって意識がそちらにズラされただけな気もしていた。


※24

「さわられてるの、クリトリスだけなのに……おなかも、むねも、ぜんぶ……意識、しちゃって……っ」
「つなげようと思って、何度もやっていれば、自分でもつなげられるのでしてー。
 慣れれば、いじる必要もなく……」

 にちゃ、ぬちゃ、と急所を愛液をまぶした指で抉(くじ)られる。
 まゆは、陰唇や内腿が震えるどころか、足の指がぎゅうと空をひっかき、
 ヘソ周りに白線が薄く浮き沈みする。

「は、ぁあ゛、あお゛ぉ……っ♥」

 息を整えようと、口もノドもできるだけ開いていたまゆから、
 ふだんの甘さ・か細さから程遠い、遠吠えのような音声が出てしまう。

(え、ぇ……いまの、まゆが……まさか、芳乃さんがそんな声、出さないでしょうし……)

 まゆの内心で羞恥が盛り返して、とっさに顔をうつむけくちびるを引き結ぶが、
 芳乃がその逃避を許したのは呼吸数回ぶんだった。

「まゆさん、ご気分でも悪くされましたか……」
「いや、その……へ、へんなこえ、でちゃってっ」
「胸が『氣』に圧されて窮屈になってるときに、鼻や口で深く息をしようとして……
 それでお腹のほうを使った呼吸になっているゆえのものでしょう。
 まゆさんが、きちんと『氣』を感じて、練ろうとしている証拠です。恥じることはありませぬ」

(そういう問題じゃ……ないんですけど……こんな、可愛くない声……たぶん、色気も……)

 こんな発情期の獣かのような濁った喘ぎを漏らしてしまうと、
 色気を出そうという本来の目的から、またズレていってしまう不安があった。

「……豊かになった『氣』に慣れれば、まゆさんの体もそれに合わせた器になりますー。
 昨日今日とは参りませんが、この調子なら何週間もかからず……」
「そ、そうですか……」
「では、お胸と同時に――」
「――え、おむね……はぁうあ゛ううっ!!」

 いつの間にか、芳乃のもう片方の手が、乳汁であちこち薄く濁ったまゆの胸を撫でる。
 手付きは、あくまで稜線をなぞるように優しげであったが、それさえ飽和寸前の胸感覚を乱し波紋を作る。

「きゃ、ああッ、はぁ゛ぉぉぉお゛……そ、んな、どうじ、なん……んンン゛、んくッ、ぅうあっ……!」

 逃げに入ろうとするまゆの背中を、芳乃が抱きしめ退路を塞ぐ。

「……お胸と、おさねで、同時に合わせるように達せましたら……終わりに、しましょー」
「ぁ、い、いぁ、いや……どうじ、なんて、まゆ、こわれ、ぇ、え゛っ」

(じょうだんじゃありませんっ、そんなことされたら、からだ、バラバラに……っ)

 まゆが恐ろしげに目を歪めたのが背後からでも伝わったのか、
 芳乃は急にねぎらうようなトーンでまゆに囁き始めた。

「おつかれかと存じます。慣れぬ身でここまで『氣』を湛えましたら。
 だから、ここからはわたくしに身を委ねてください。
 まゆさんは、同時に達するのを感じてくだされば……」

(だから、いま同時にイッちゃったら、まゆ、おかしく――)


※25

 芳乃の手が再び襲いかかる。
 まゆのアンダーバストが手で揺らされ、もう片方の手は親指と薬指か、
 器用に指一本ずつでクリトリスに刺激を打ち込む。

「――う、う゛ぁッ、ッああ――ぁああ゛あっ!」

 乳腺か、あるいは秘所のどこからか、さらさらとした水飛沫がかすかに噴き散らされ、
 敷布と芳乃の腕を濡らす。まゆは天井を仰いでいたが、

「……イクのはよろしいのですが……なるべく、粗相はされないように……」
「む、っ、む゙り゙っ……や、やめ゛、ぁ、あっ――もっもぉむ゙りぃぃい゙いい゙いっ♥」

(む、むり、また……また、イク、イッて、え、ぁ、あっあっ……♥)

 沸騰しているような『氣』の流れ、激しいアクメに意識が煮え立つ中に、
 芳乃の悪魔的な要求と指技だけが何度も反響する。

「も、お゛ぉ、ゆ、ゆるひて、え……イクの、イクの、やっ、やぁ、あ、アっ、あぁあ゛――っ!」

 最高潮か奈落か、とにかく追い詰められたまゆは、
 手足を痙攣させ筋を狂わせ、芳乃の拘束から逃れようともがく。
 ただそれは、初日に乳腺開発を振り払った勢いと比べると、哀れなほどに弱々しかった。

「ひぃっ、ひァっ、あぉお゛……はっ、ひぁっ……!!」
「おとなしく、していてください……もう少しで、うまく、いくの、でしてーっ」

 芳乃の陵辱は、まゆの胸と陰核を同時に達せしめようと、まゆに負けない熱を孕んで、
 汗だくになりながら上体から指の先まででぐりぐりとまゆの女体を探る。
 二人の下半身は、ずりずりと畳が不平を言うほど押し合いへし合いになっている。

「はぁあ゛ッ、あお゛ッ……♥ はぁっはっ、あ、やぁっ……ハァあっ、はぁーっ……♥」

 少女の甘く火のように立ち上る体臭で、狭い『部屋』がむせ返るほど満たされる。
 その中でうごめく二人の雌は、整体や性交というより、捕食者と被捕食者の格闘じみた揉み合いに似ていた。

(どうじ、どうじ、なんて……? むねも、くりとりすも……からだ、ぜんぶ、イッて……
 いや、もう、イッてる、イキっぱなし、ぃ……♥ こんなの、ぉおっ、されたら、わすれ、られない――)

「あっ、あァあ゛、あアァ゛っ……も、もう、だめ、だめです、まゆ、い、イケない……っ♥
 これいじょう、ら、あ……ああっ、あっあ゛あっはああッ……いっくっっ……っ……!」

 不意に、芳乃がまゆの膣内へ突っ込んで指が、ぎゅうぎゅうっと鬱血しそうな圧力で締め付けられる。
 さんざん責め立てられた陰核が、今際の際に仕返しするような具合だった。

「ぁ、は、ぁ……ぉ、ぉおぁ、あっ……ッ」

 ただ、膣圧に引っ張られたのか、まゆの下半身のあちこちもぎちぎちとおかしくなる。
 もう『氣』を練るとか呼吸とかという体裁ごと、まゆの意識は混濁へ沈んでいく。

「は、ぁ、あ……ふぅー……だ、だいたい、一緒に、達せたでしょうか……?」

 芳乃は、まゆの座っていない首を立たせながら、まるで介護でもするかのように背中を擦った。
 遅すぎた気遣いに、まゆは散発的な痙攣と一筋か二筋ぐらいの噴乳だけの反応を返した。

「……ちょっとズレてしまったかもしれません。念入りに、やっておきましょー」

 芳乃のつぶやきがよく聞こえなかったのは、おそらくまゆにとって幸いだった。



※26

「しばらく、『氣』はおやすみするのでしてー。
 この間、同時に達した感覚を思い出して、自習してくださいまし」

(自習って……女子寮で、胸とクリトリスの間で『氣』がどうのこうの、とか……
 お、お、オナニーみたいなアレ、しろってころですか!?)

 数日後、連続絶頂の疲労から回復したまゆが、芳乃の『部屋』を訪れると、
 芳乃は緑茶とザラメつきのおせんべいを食べながらまゆを迎えた。

「盛大に濡らしてくださったおかげさまで、あのあと洗濯のときに怪しまれましたので。
 あと『部屋』は屋内なので……フロアにまゆさんの匂いを漏らさず消臭するのはたいへんでした。
 それに……まゆさんも、もうわたくしに身体を委ねるのは、懲り懲りなのでは、と」
「懲り懲りと思われると分かっているなら、少しは手加減してくださいよ」
「わたくしのおかげで、だいぶ乳汁の出が収まったようでしてー?」
「そのぶん、生理でもないのに生理用品が手放せなくなりましたけどね……」

 その後もまゆは、芳乃に言いがかり混じりの恨み節をぶつけてやったが、
 芳乃はそれに応答するより、お茶をすすっておせんべいを味わうほうに忙しかった。

 その健啖家ぶりに呆れた眺めていると、まゆにふと疑問が降りてくる。

「……芳乃さんって、スリムな割に、よくお食べになりますよね。
 『氣』で母乳が自由に出せるから、ダイエットがずいぶん楽なのでしょうね」

 まゆは思いついた瞬間、しょうもない疑問だと心中で自嘲したが、
 おせんべいの咀嚼で忙しげな芳乃へのあてつけ半分で、いい加減に言葉をぶん投げた。

 芳乃は口中を軽くゆすぐようにお茶を一口飲んだ後、
 問いの主にとっては意外なほど、神妙な顔つきになって、

「やめたほうがいいのでしてー。糖質や脂質のかろりーは、あまり血液や母乳に回らないのでしてー。
 やたら母乳を絞っていると、鉄分や葉酸が流れ出て、すりむになる前に栄養失調まっしぐらでしてー」
「は、はぁ」
「また、かろりーが出ていくからと油ものを食べすぎると、脂質過多で乳腺炎の心配も……」
「やけに具体的ですけれど、もしかして芳乃さん試したとか……?」
「……」

 こんな超常的な力を持つくせに、使い方の発想が自分と同レベルに俗物的で、
 まゆは恨み節をぶつける気が失せ、芳乃と並んでおやつを楽しんだ。



※27

「最後の課題は……豊かにして、うまく感じ取ることで体内を流せるようになった『氣』を、
 仕上げに練って……言い換えれば体内に蓄え、必要なときに色気として自由に出し入れできるか、でして」
「芳乃さんのおかげで、確かに色気が増した……というか、
 男性とか、ときどき女性からも色目を使われることが増えたんですけど……」

 女子寮でルームメイトに見つからないよう、『氣』を豊かに高めたり、
 それを体内の任意の方向へ流したり、うっかり漏らした体液を始末したり……という、
 もし見つかれば自慰と勘違いされる涙ぐましい奇行あるいは鍛錬を経て、まゆはなんとか日常生活を送っていた。

(単に溜めこんだ『氣』が少しずつ漏れ出ているせいで、体温や体臭がおかしくなって、
 変な女の子だと思われているだけかもしれませんが……いやいや困ります、こんなことじゃ)

 しかし、まゆの最終目的はプロデューサーを色気で落とすことであった。
 いくら色気が増したとしても、プロデューサー以外に言い寄られては困る。
 他の人間よりプロデューサーが先に落ちることは、彼の立場や忍耐力から考えて期待できない。

「まぁ『氣』が豊かである芳乃さんがこれですから……『氣』の出し入れって、できますよね?」
「これ、とは失礼なのでしてー。能ある鷹は爪を隠す、と言いますー。
 わたくしが本『氣』を出せば、今のまゆさんも悩殺、いちころなのでしてー」
「昨日、撮影の差し入れで舟和の芋ようかんをいただいたのですが、一緒に食べませんか」
「……ほー、わたくし鹿児島育ちですから、芋ようかんにはうるさいのでしてー?」

 芳乃は気分を害した素振りをしていたが、『部屋』で緑茶をすすりながら、
 まゆと並んで芋ようかんを平らげることには、すっかり機嫌を直していた。



「まゆさんは、臍下丹田という言葉をご存知でしょうか」
「……聞いたことがあるような、ないような。詳しい意味は知りませんね……」

 まゆは芳乃の説明を待たず、懐からスマートフォンを取り出して「臍下丹田」を検索エンジンで調べた。

「ええと……東洋医学の言葉で、そこに『氣』を集めると、勇気と健康が得られる、とか。
 ……その『せいかたんでん』でよいのですよね?」
「そうでしてー。解剖学的にどのあたりかは諸説ありますが、
 そのあたりは腸腰筋といって、上半身と下半身をつなぐ筋肉たちが張り巡らされているので、
 昔から体感的に『重要そうだ』という経験則がたくさん積み重なっているようですー」

(怪しいですが、一応、一般的な言葉ではあるんですね……。
 芳乃さんに『氣』がどうのこうので体をいじられたまゆが怪しむのも、今更ですが)

「そのあたりは、特に『氣』が大きくなっても、安定して練りやすい場所と言われております。
 ……女性なら、子宮を含む部分です。赤ん坊の一人や二人抱えられるところですから、
 慣れれば『氣』などなんてこともありませぬー」

(芳乃さんがこう簡単そうに言うって、逆にしんどい気配がするんですよね……)

 まゆの訝しげな表情にも慣れてきたらしく、芳乃はさらりと視線を流して口舌を回す。

「……そういう重要な箇所ではありますが、『氣』を練る……までは行かなくても、
 日常生活でそこに意識を向けたり、わざわざ重点を置いて鍛えよう……という人は少ないところです。
 でも、まゆさんには、おあつらえ向きのとれーにんぐがあるのでしてー」

 芳乃は『部屋』の隅にちゃぶ台を倒して、何枚もの座布団を一直線に並べて敷いた。

「力を抜いて、仰向けに寝てくださいまし。足は、肩幅ほどに広げればよろしいのでしてー」
「あ、あの、まゆ……今日も、スカートなんですが……」
「きょうは、お召し物を脱がなくてもだいじょうぶでして……上手く行けば」

(だから芳乃さんが楽そうに言うとむしろ不安なんですけど!?)

 まゆはスカートの裾が広がらないよう手で抑えながら、おずおずと座布団に身を横たえる。
 竿縁天井が目に入ると、クリトリス刺激で散々な目に遭った記憶で身震いがこみ上げてしまう。

「こんな感じ、でしょうか……?」

 それを知ってか知らずか、芳乃はまゆの腰に接する寸前の近くに座って、
 世間話のように間延びした声音で会話を続ける。


※28

「仰向けで力を抜いていますと……後頭部・肩甲骨の間・お尻と腰の間あたりに、意識が向くと思いますー。
 そのあたりは、人体の中でも重く、仰向けになったとき床に接しますから」
「……そう、そうですね」
「あと、手は腰の横あたりで楽にしてー……よろしいです。
 そこから、膝を立てて……90度より鋭角に曲げるほうが楽でしてー。
 それが済みましたら……腰、こぶし一つ分ぐらい浮かせられますかー?」



(……なんだか、この姿勢、どこかで見たような……?)

「あの、芳乃さん」
「なんでしてー?」
「仙台の実家に居た頃、まゆのおばあちゃんが、似たような姿勢をしてたのを思い出したんですが」
「奇遇でしてー。わたくしも、ばばさまから教えていただいたものです。
 ご存知であればお話しが早いのでして。そこから、膣と、肛門と、尿道のあたりに力を込めて――」
「――それ、尿もれ防止の体操じゃないですかっ!?」

 むくり、と身を起こそうとしたまゆは、芳乃が服越しに軽くヘソのあたりに掌底で抑えられ、

「あ、あっうぅ」

 それでがくんと脱力して、ぼすんと座布団の上に背中を落下させた。

「ふむ……確かに、けーげる体操? と言って、
 お年を召して骨盤底筋群が衰えると、くしゃみなどで尿もれをしやすくなる……
 という症状を防ぐとれーにんぐとして、これは有名らしいようで」
「それでまゆに『氣』のお漏らしを止めろとでも!?」
「……別に、まゆさんのおそそがゆるゆるなので、きゅっきゅ締めましょうね~。
 ……という意図では……だけ、ではないのでしてー」
「ねぇ、あの、芳乃さん今『だけ』っていって」
「少し落ち着くのでしてー」

 芳乃が『氣』を込めた手のひらで、まゆのヘソ周り――まさに臍下丹田あたり――を服越しに抑えると、
 まゆの四肢から気――あるいは『氣』――が散って、抵抗をあっさり打ち切られてしまう。

「……臍下丹田の重要性は、わかりましてー?」
「わっ、わかりましたよ……体、では」

 内心で釈然としていない様子のまゆを、芳乃は察したのか、補足を続ける。

「他の方法も、とれーなー殿の知恵をお借りして調べたのです。
 すくわっと? でありますとか、れっぐれいず? でありますとか、
 骨盤や臍下丹田のあたりが鍛えられる方法はほかにもあります。ですが……」
「……ですが?」
「わたくしが自分で試したところ、どうもそれらは『氣』が臍下丹田より、足に向きがちで」
「……まゆも詳しくはありませんが、それ確か太腿やお尻に利かせるエクササイズですものね……」

 さらに、芳乃は表情を意味深なものに塗り替える。

「あと……これは、ばばさまから聞いたのですが。
 この体操は、プロデューサーを籠絡するという目的に、ぴったりはまる効果があるのでしてー」
「……聞きましょうか、いちおう」
「これで、おそそに力を入れるのに慣れると、締りがきつくなって、バナナがちぎれるようになるとかー。
 そこまで行ければ、男殺しの名器・蛸壺のまゆ、なのでしてー」
「いい加減に怒りますよ――ぉおお゛ぉおっ!?」
「さっきからツッコミが大げさなのでしてー」



※29

 上体を起こそうとしたまゆが、芳乃の指先で、またどすんと座布団に落ちた。
 まゆの肌は紅潮し汗ばんできていて、色っぽいと言えなくもなかった。

「その姿勢で腰を浮かせると、骨盤や膣奥あたりに意識が向けやすいと思いますので、
 それを手がかりに『氣』を練って……わたくしの手から逃れられるようになったら、一区切りとしましょー。
 その頃には、まゆさんの締りもきっと味わい深いことになっているはずでしてー」
「うぅ……これ、もしかして、下着を脱ぐより恥ずかしいんじゃないですか……?」
「つべこべ言うな、なのでしてー。これ以上報告書が分厚くなると、
 わたくしだけでなく読まされる側もうんざりで……」

 まゆは諦めて座布団の上に寝転がり直した。
 あまりいい思い出のない『部屋』の竿縁天井が、視界に広がった。

「……あの、芳乃さん。たびたび申し訳ございませんが、聞いてもよろしいでしょうか」
「何か、気になることでも……」
「……『報告書』って、なんですか?」

 芳乃は口を開きかけたが、言葉を続ける前に、再びまゆの臍下丹田へ手のひらを据えた。

「……前にも申し上げたとおり、『部屋』でのことは、わたくしが事務所で仕事の一環として行っております。
 ゆえに、まゆさんのことも毎回きちんと報告書を作って提出しておりましてー。もちろん機密ではありますが、
 担当アイドルをお預けくださっている形の、まゆさんのプロデューサーさんには、お目通しいただき――」
「――そんなのってありませんよぉっ!」

 まゆは、芳乃が驚くほど早く臍下丹田へ『氣』を蓄えた。
 が、それを上手く扱って芳乃の手から逃れるまではたいそう苦戦し、
 『部屋』の防音を貫きかねないほどの声や物音を立ててもがき続けた。



 その後、まゆは芳乃に臍下丹田を執拗にいじめられた甲斐があってか、
 スリーサイズを一時的に調整できるほど『氣』の持ち方に熟達した。

 ただ、それがプロデューサーを射止める上で役立ったか否かは、黙して語らなかった。



※30

「芳乃。まゆについて、折り入って相談があるんだ」
「構いませんが、なにゆえわたくしへー?」

「実は……」





「なぁ、まゆ。君がもし、本当にそこにいるならば……俺の頬をつねってみてくれないか?」
「居ますよ。まゆは今まさに、プロデューサーさんの目の前に立っていますっ。
 確かに、後をつけるため直前まで『氣』を消していましたが。
 ……もしかして、こんな遅い時間で、お疲れでは……?」
「あぁ。誰かさんのせいで、いろいろあって」
「イケないヒトがいたものですね。とりあえず、つねりますけど……そっと、ですからね」

 交通の便と家賃を優先して選んだせいで、成人男性一人が住めれば上等といった狭さの部屋に帰ってくると、
 何時間も前にあいさつをして別れたはずの担当アイドル・佐久間まゆが立っていた。

 まゆの格好は、別れる直前のママ。秋物の上着、白いブラウス、プリーツスカート。
 私服はキャミソールワンピースが多いまゆにしては珍しい……と目に残り、すぐ思い出せた。

「い、いた、あいたたた……っ! よし、まゆ、もういいよ、ありがとう」
「どういたしましてっ。これで、あなたのまゆがここにいるって、信じていただけましたか?」



 部屋に入って電気をつけ、荷物を投げた。上着を脱ぎ捨てた。
 シンデレラがとっくに舞踏会から去った時間。せめて着替えとシャワーぐらいは……と思った瞬間、

「プロデューサーさん。ジャケット、ハンガーにかけないとシワになってしまいます」

 まゆの声がした。
 振り向くと、俺より頭一つと少し低いところから、夜空のように深く底知れない瞳が見上げてくる。
 まゆの姿が見えた。

 姿も声も、幻だと思った。だって、まゆに俺の自宅マンションは教えていない。
 住所を調べ上げたのかも知れないが、場所だけ知っていてもオートロックで入室は阻まれる。
 俺の後ろにくっついて突破したのかもしれないが、さっき乗ったエレベータには俺一人しかいなかった。

「プロデューサーさんのそばにいるのに……気づかれちゃいけないから、
 溢れ出しそうな『氣』を殺すの、本当にたいへんで……でも、あなたのためなら……」

 どうやら気配を消して俺のすぐ後ろを歩いていたらしい。
 そんな馬鹿な。俺はそれに気づかないほど疲れていたのか?

 最近の疲れの原因は、ほとんどまゆだった。
 アイドルのプロデューサーとして不面目極まりないことだが、
 俺は担当アイドル・まゆに個人的な行為を抱いていた。

 もっとあけすけに言えば、まゆを独り占めにしたかった。
 いつでも化粧品のCMに出られる潤みのくちびるや頬を舌で貪り、
 質量でも持っているんじゃないかと濃く甘い髪の後ろの匂いを嗅いだり、
 ふわふわのガーリーファッションを引きちぎって細いくせに柔らかそうな少女の曲線を残らず指と腕で堪能し、
 触れたらはらはらと溶けそうな肩か腰を引っ掴んで処女穴をガツガツと犯したかった。



※31

 処女穴、というのは俺の妄想だけではなく、数ヶ月前のまゆから受けた自己申告でもある。

『プロデューサーさんのために、まゆの処女、とってありますからね……♥』

 よその事務所の恋愛スキャンダルニュースをチェックしているとき、まゆに耳元で囁かれた。

 そうだ、まゆは、言葉でも声音でも破滅的に俺を揺さぶる。
 鼓膜どころか頭蓋骨までくすぐってきそうな猫なで声を不意打ちで流し込んできやがる。
 その処女膜ぶち破って悲鳴を上げさせてやろうか――慌てて思考を振り払う。

 まゆはアイドルとして魅力的……な以上に、メスとして俺の理性を執拗なほど揺さぶってくる。
 ちょっと前に『大人の色気を武器とする仕事をしたい』なんて言ってた頃は、
 年頃の女の子が背伸びしていて可愛げがあったのだが、それはもはや夢幻のごとく遠い。

 こんな調子では仕事にならないので、俺は別のプロデューサーにまゆの担当を変わってもらうべく、
 理性への攻撃に抗いながらその段取りを進めていたのだが、その他の業務と負担が重なって、
 帰りは連日深夜になってしまっていた。

 だから最初は、自室でまゆの姿をみたとき幻覚だと思ったのだが……。



「プロデューサーさん……まゆのこと、担当から外そうとなされているんですね……。
 どうしてですかっ!? まゆ、何かイケないことをしましたか……?」

 まゆは悲痛な――こちらの首か胸あたりがキリキリ痛みそうなほど――表情で詰問してくる。
 君がそこに立っているだけで俺はプロデューサーとして社会的に死にそうなんだが。

「もしプロデューサーさんに見捨てられたら……まゆは、耐えられません……。
 もう、アイドルだって、続け、られ、なく……」
「……許してくれ。俺は、君のプロデュースを続けられそうにないんだ」

 まゆがアイドルを辞めるとしたら残念だが、俺にはそれを哀れと思う余裕すらない。
 どうせまゆは外見が良くて中身も勤勉で、アイドル活動を通して年齢以上の酸いと甘いも知ったはず。
 芸能界の外でもたぶんそれなりの人生は歩めるはず――

「――あっ」
「……どうしたんだ、まゆ?」

 まゆが、アイドルの仕事でも見たことがないほど大きく目を見開いて、一瞬だけ年相応に見えた。

「なぁんだ……アイドルを辞めて『俺のお嫁さんになれ』ってことだったんですね……♥
 すみません、まゆ、察しが悪くて……それとも、敢えて、まゆに選ばせてくださったとか……?
 あなたの事務所に行くと決めた瞬間から、まゆにとって運命は、自ら選び掴み取るものですから……♥」

 そんなわけあるか――という反論は、俺の舌に届く前に、ノドの奥で詰まって、俺をむせさせただけだった。
 まゆが、紅いリボンを巻いた左手の指で、ブラウスの胸元をくつろげる。
 ライブでは、最高のタイミングでハート型を作って数千数万の観客を虜にする指が。

 すぐあとに、匂いが来る。俺の鼻っ面から肺の奥まで引っ掴んでくる。まゆの一日分の汗か。
 まゆの体がずっと溜め込んでいた欲望が、さんざん押さえつけられた報復のように俺の理性を食らう。

「あ、ふぁあっ……♥ プロデューサーさんの、手、『氣』持ち、伝わってきますっ……♥」

 これでも、一生の仕事と思って、プロデューサー業を勤め上げる覚悟だったが、それを引っこ抜かれた。
 本能でも理性でも、俺はこれから一生ずっと……まゆの言いなりになるしかない。
 そう確信しながら、狭い部屋にお似合いの狭いベッドへ、まゆを押し倒した。



 もっともその確信は、予想もしないかたちで、予想もしないほど早く揺らいだが……。


※32

「ぷ、ぷろりゅーさぁあ……♥ そ、そんなに、おっぱい、されたら……まゆ、まゆは……
 『氣』をやってしまって、おっぱい、でちゃい……い、はぁっ、ぁ、ぁ、ああぁ、あっあぁあっ……♥」

 最初に「何かがおかしい」と感じたのは、まゆの甘ったるい匂いをたっぷり湛えた、
 公式バストサイズ78センチより豊かに見える胸元に手を突っ込んだときだった。



 まず、ブラウスの合わせ目を広げ、淡いピンクレースのブラを晒した。
 まゆの乳肉は、ブラごしでさえ、俺を狂わせるほど蠱惑的で、それでいて不思議な感触だった。

「プロデューサーさんの、手ぇ……やぁあっ、お胸まで、喜んで、はしゃいじゃって、ます……♥」

 ぷりぷりと張っているのは、思春期で発達した乳腺か、乳房を支えるレッスンで鍛えられた体幹の賜物か。
 まゆを仰向けに押し倒しているのに、重力なんてどこ吹く風という稜線が俺を待ち受ける。

 それにつられて俺が指を食い込ませると、まゆの胸の膨らみは見た目の印象に反して、
 クリームかチョコレートの口溶けのように柔らかく、しかし確かな重量感とボリュームをもって包み込む。

「ん、あぁあっ……♥ あなたの、手、すきっ……だから、ためらわないで……
 あなたの、好きなように、スキを、教えて……まゆに、あなたの好きな触り方、教え込んで……♥」

 アイドルのプロデューサーという、他人様の娘を売り物にしている職業をしていたくせに、
 俺は女の胸が、こんな……愛撫を要求してくるような感触だと初めて知った。

「おっきなおっぱいがスキですか? それとも、控えめなおっぱいが……?
 今までがまんしてくれたぶん、取り返して……あなたの、スキなように、なっちゃいますから……」

 好きな男の愛撫を受ければ、その男の好みに女体が自然と作り変えられる。
 もしそうだったら、世の彼氏彼女や夫婦のトラブルは今の半分ぐらいになってそうだ。
 そのありえなさそうな仮定を、ブラから解き放たれたまゆの乳房は力づくで俺に納得させようとする、

「ち、ちくびっ♥ プロデューサーさん、スキなんですか……?
 んきゅぅうぅう……ぅうっ♥ 指先で、こりこりって、オモチャにして……♥
 いじめて、そだててっ、はしたないの、まゆ、まゆの、あなたの、ぉ、お――んんんぅうっ!」

 まゆの乳首は、最初は俺の小指の先っぽよりも小さかったのに、
 指の腹で撫でさすったり、爪先を食い込むか食い込まないかの具合で引っ掻いたり、
 指先で摘んでひねってやると、甘ったるい嬌声と体臭をいよいよ濃く滲み出させながら、
 まわりの乳輪とともに、少女らしい胸の膨らみと不似合いなほどぷっくりと発情勃起していた。

 たまらず俺が、まゆの胸元に顔を埋めて、赤ん坊のように乳首へ吸い付くと、

「え、へへ……そうですよね……♥ あなたの赤ちゃん、作ったときのために……
 いっぱいミルクが出せるように、きゅって、きゅって、可愛がってぇ……♥」

 さらに挑発を重ねてくる。
 俺はプロデューサーの職業倫理どころか、成人男性の見栄もハッタリも忘れ果て、
 赤子に帰った心地でまゆの乳首と乳輪にむしゃぶりついた。
 目の前のメスの魅力、圧倒的にすぐれた生殖能力の一端を顔いっぱいで味わいながら、
 自分より年下の熟しきっていないはずの少女の母性にすがっていた。

「……って、あ、やあぁ、歯、かんじゃっ、赤ちゃん、そんなことしないのに、キ、キちゃいますっ、
 胸、おむねに『氣』が、あふれ、て……でちゃいます、おっぱい、が、あ゛っ♥ ぁああ――っ♥」

 俺の狂いっぷりがまた一段と深まっていくのに合わせてくれたのか、
 舌に生暖かくさらさらとした水気を感じる。しょっぱくない、汗ではない。唾液……にしても、味が薄い。

 目を開けると、まゆの痛ましく腫れ上がった乳輪から、幾筋も母乳の筋が描かれていた。

「……母乳? あれ、まゆ、妊娠でもしたのか……? え、誰の子供……」

 恍惚としていたまゆは、俺のつぶやきを聞いて、目をぱちぱちさせたが、

「そっ、そんなわけないじゃないですか!? ふつう、母乳が出るのは出産後ですよっ」
「あ、ごめん。誰かを妊娠させたこと、ないから……」
「……むむ、プロデューサーさん、保健体育とかちゃんと授業受けてませんでしたね……?
 これは、まゆが教えることもありそうです……それは、それで……うふ、ふふふ……っ♥」

 じゃあなんで母乳が出るのか? と聞いてみたが、まゆは『体質ですっ』の一点張りだった。
 その体質だったら衣装の配慮が必要だと思うが、まゆにそんな気を遣った覚えがない……。

 まゆは俺の疑いを踏み潰すように
 『あなたがお嫌いだったら、おっぱい出すの我慢しなきゃ……と思ったんですが、それは杞憂でしたね♥』
 と、俺の性癖を勝手に決めつけた。まゆには珍しい得意顔だった。射乳って、我慢できるものなのだろうか。


※33

「まゆ……男の人を触るの、初めてですけど……勉強は、いっぱいしましたっ。
 だから……プロデューサーさんの、大事な……その……お、おちん、ちん、触らせて、ください……っ♥」

 次に「何かおかしい」と感じたのは、まゆにペニスを触らせたときだった。

 まゆに最初に勃起ペニスを見せて、熱さだとかびくびく動いてしまう様子、先走りのヌルヌルに動揺したり、
 手コキが焦れったくて堪らないほどこわごわしたソフトタッチだったり……
 そのあたりは、まゆも人並み……というか処女らしかった。

「あ、ふぁあ……ッ♥ プロデューサーさんの、朝から晩までがんばった汗、匂い……ふふっ♥」

 アイドルとして、ファンを天上の至福へ至らしめ(あるいは、奈落の底に引きずり込んだこともあるだろう)、
 おそらくプライベートでも人を魅了しているであろう、まゆの愛嬌と色気を併せ持つ眼差しが、
 俺の洗っていないペニスを前にぐずぐずと蕩けている。興奮と羞恥で頭が混乱し、姿と声だけでくらくらする。

「だめじゃないですか……♥ まゆに、こんなの嗅がせたら……
 まゆ、背筋も、お腹も、頭も、ぞくぞくってシて……たまらなく、なっちゃいます……っ♥」

 この言い草もどうかという気がチラとしたが、
 直前の俺が、シャワーも浴びていない汗だくのまゆのおっぱいに震い付くほど興奮していたので、
 まだおあいこだと思えた。

「も、もっと強く握ったほうが、良いですか……? うふふ、強くすればするほど、幹がかちかちに……♥
 湯気が出そうなほど『氣』張ってて、まゆをお嫁さんにシてくれる……もっと元気になってくれますか……?」

 俺のペニスは、担当アイドルに愛撫されて勇躍し、自分自身ですら記憶にないほど大きく太い。
 疲れ魔羅にもほどがあるだろう。これ以上元気になられると不安なので、まゆに手でするのを止めてもらう。
 いかがわしい動画サイトの勃起力増強薬の広告のようだった。手持ちのコンドームが入るだろうか……?

「手、もうよろしいのですか……? まゆの『氣』で、もっと立派になれそうですが……。
 じゃ、じゃあ、くちびるで……キス、させてくださいっ♥ いいですよね?
 あなただって、まゆのおっぱい、ちゅうちゅうって、吸っていましたし……」

 絶対に貪りたい、近くに居たらいつか貪ってしまうだろう……と思っていた、まゆのくちびる。
 ぷるぷるとした弾力のまま、くちびるがほころんで、鈴口へくちづける。

「はぷ、んっ、んん゛うぅっ♥ ぴりぴり……ってシて、刺激的、ですね……。
 ……これ、まゆが咥えちゃったら……想像するだけで、ふ、ふぅ、ふぅうぅ……♥」

 まゆは、先走りでヌメヌメとしている俺の亀頭の上に、甘酸っぱそうな唾液をたっぷり垂らしたり、
 舌やくちびるで塗りつけながら、目や眉や頬を恍惚に蕩けさせていく。

「こっちは、睾丸……ううん、たまたまさんって言ったほうが、可愛らしいでしょうか?
 まゆを妊娠させてくれる、大事な精子を作ってくれる、大事な大事なところにも、あいさつします……♥」

 まゆは俺のペニスに頬ずりしながら、睾丸にまでキスを落とす。
 見下ろしていると、まるで愛しい恋人の口吻に捧げるような顔つきと姿勢だが、
 まゆが彼女のくちびるを供しているのは、だらりと垂れ下がった俺の睾丸。
 凶器のごとく張り詰めたペニスに対し、脳天気なほどリラックスにぶらぶらゆれていて、アンバランスだ。
 まゆの吐息と、くちびるによる甘噛みがくすぐったい。

「ちゅっ、んっ、ぢゅ、ぅううっ……♥ ぷにぷにして、かわいいっ♥
 でも……いいんですか、プロデューサーさん? ここ、男の人の、一番大事で、一番弱いところですよ……。
 んっ、んぅ……ちゅっ、ちゅっ、ちゅぷっ……♥ あぁ、だめ、止められ、ないです……」

 睾丸のシワの一筋ひとすじまで唾液でべたべたにされる。
 指先でくるくると撫で回される。その1周ごとに、子種を作れ作れと催促され、
 精巣や肛門のあたりがウズウズしてしまう。

「どんなに頑張っても鍛えようのないところだって……だいじょうぶですか?
 まゆみたいな……あなたと離れたくないがために、『氣』を消して、黙って部屋まで着いてきてしまう、
 身勝手で、貪欲で、今も好き勝手あなたの体を……」

 だいじょうぶか? と言いたいのは俺のほうだった。睾丸が無防備……性交ではしょうがない。
 佐久間まゆという、掌中の玉のように磨いて、ステージ上などで見せびらかしてきた極上のメスが、
 最大限の恭順と挑発を込めて奉仕している……高揚で、すべての憂いが溶けていく。
 結んではいけない禁断の関係のスパイスに矮小化してしまう。

 ……なんでそんな奉仕を、まゆがしているのか。
 俺が指図したわけでもなし……俺の想像を周回遅れにするかっ飛ばし具合。

「これだけ元気なら……2回は、射精できます? 射精、みたことがないので、わかりませんが……」
「す、するとは思うが」
「よかったぁ♥ では、最初は……まゆのおくちに、出して、くださいね♥」


※34

 俺はベッドの縁に座らされ、両膝の間にまゆの真っ赤なリボンカチューシャと、
 常日頃からの入念な手入れをうかがわせるキューティクルに、蒸散した甘い汗を絡ませた髪が揺れる。
 ふぁ、はぁ……と吐息が、亀頭にささやきかけ――『心の準備は、よろしいですね?』――声も出ない。

 ごくり、とノドを慣らしてしまう。
 それを許可ととってか、まゆは俺のペニスに自分のくちびるを割り込ませる。

「ん、くぅうぅっ、んぷ――ふぅうぅっ♥ お、おおぉ、ほぉおぉお……っ♥」

 舌の味蕾のざらつき。口蓋のごく浅いシワが亀頭にこすれる。
 丸められたくちびるごしに、硬質のエナメル質がすがってくる。

「う、ぅ、まゆ……すまない、気持ちよすぎて、長くもたない……っ!」

 手塩にかけて育て上げてきたアイドルの口淫奉仕を受けている……という精神的な充足が、
 ペニス粘膜の快楽を増幅させ、俺は口走りながら思わず天を仰ぐ。

「ふ、んふ、ひゅ……んんっ、んんーっ♥ んふ、ふぅー♥」

 まゆの鼻息が下っ腹に感じた。
 くすぐったいと思って目線をまゆへ戻した瞬間、上目遣いを突き刺され、釘付けにされる。
 そのまままゆは、じゅぼ、ぶちゅっ、ぶぼっ……と、ヨダレを泡立せながら、
 一心不乱に口腔粘膜を擦り付けてくる。終わる――これは、終わる。為す術もない。

「ぶじゅ、じゅぷ、んぐちゅ――ふふっ……んんっ、んんっー♥ ふぅ、んんん~っ♥」
「だ、だめだ……そんなの、飲むものじゃ……な、ぁ」

 俺は腰や肛門に力を込め、膝頭を握りしめて必死で抗った。
 まゆは、乙女のラブソングを紡いで人びとを魅了してきた口腔を俺へのオナホに供しながら、
 俺の偽善に満ちた辛抱を見透かし、観音か慈母のように目を細める。

 それがなんとなく励みになって、歯を食いしばったり腿裏をびくびくさせながら、
 なおも射精の瞬間を引き伸ばしていると、

「ずる、じゅるるるるるる……♥ ん、ぷふっ、じゅるっ、んっ、ぐじゅ、ちゅぅうっ♥」

 ベッドに座る俺の両膝の間に、まゆが胸・肩・顔を割り入れているのが上から見える。
 両手は、左右それぞれ俺の腿のすぐ横で、指をシーツに食い込ませている。
 まゆの上体の高さからいって、やや前傾姿勢で膝立ちしているようだったが……

「んくっ♥ あぅうっ……ひぁ、あぅ、じゅぷ、んぐっ、んっんっ……♥」

 俺が射精の予感に迫られ呻き、筋肉を緊張させるのに合わせて、
 プリーツスカートに包まれた柳腰と丸尻の曲線が、ひくひくと波打つ。
 まるで『まゆも、我慢しきれないぐらい気持ちいい』――見ただけで空耳が聞こえる。

「んぷ、ぷふっ……んんんぅ……ぷぁ、あは……♥ 気づいちゃいました、か……。
 あなたの……まゆの、運命の人の目は、誤魔化せませんね……♥
 まゆの口と、おまんこと、子宮が、つながっちゃって……うれしいっ♥ しあわせ♥
 ……って、先走って……いやらしくて、ごめんなさい……♥」

 こんなに申し訳無さを欠いた佐久間まゆの『ごめんなさい』を聞く日が来るとは。

「でも、あなたのおちんちんの先っぽだって……ね。
 まゆのおっぱい、もみもみ、ちゅぱちゅぱ、赤ちゃんみたいにしてるだけで、
 おっきく、ガチガチになって、てらてら濡れてたから……仲間、ですよね? ねっ♥」

 再び口淫に戻ったまゆは、開き直ってか……くいくい、へこへこと俺に空腰を見せつける。
 ぎゅうぎゅうと臀部や腿の筋肉に力を込めて、曲線を歪ませる。
 まるでペニスが2本になって、まゆの2つの肉穴で同時にしごかれているようだ。

 まゆは、搾精するスペックの図抜けた高さ、メスとしての圧倒的な生殖能力を誇示する。
 俺は『プロデューサーさんのために、まゆの処女、とってありますからね……♥』との言葉を信じているが、
 まゆの痴態は、もう処女が真実であったほうがむしろ恐ろしい……という段階に達していた。

 膝関節をきしむほど曲げても、射精をこらえきれない。限界。

「んぶ――ぼぉおォぉ゛!? んぐっ、ぐ、んぅう゛うっ♥ ぷぅうう゛ぅうぅっ……♥」

 亀頭がまゆの喉奥を叩き、まゆの歯らしきぎざぎざが食い込んでくるほど、深く突く。
 どぷっ、どくっ、ぐぷっ、ぶるっ――驚いたことに、まゆは噎(む)せも咳き込みもせず、
 両腕を俺の下半身に回して、尻と腰の間あたりをぎゅうう……っと、押さえつけてくる。


※35

「んぐっ、ふぁあ゛っぐ、ん――ん、ぷっ、んぢゅっ……♥ ぁ、あっ、ふぁっ……♥」

 まゆの下半身は、痙攣して――もし膣口に声帯があったら絶叫しているに違いない……と、
 わけのわからない感興を起こすほど――劇的に震えていた。絶頂、している……と、告白している。
 このメスの膣だか子宮だかは、なんらの愛撫も受けていないのに、
 極度の精神的興奮と、俺の子種を受け入れる期待だけで、達したのだ……そう、言っている。

「ま……まゆ、だいじょうぶ、か……?」

 まゆが、鼻やくちびるの端から白濁を垂らしながら、ペニスを口中から解放した。
 彼女のできるだけ奥、それこそ食道に直接ぶち込む勢いで射精したはずが、
 射精量が多くて、まゆの小さな――ペニスを咥えていないまゆの口や頬は、本当に小さく見えた――口内に、
 ヨダレ混じりの白濁粘液がぐちゃぐちゃとわだかまっているらしい。

「んぐっ……こく、こく……ん……ぅ……は、あっ、あっあっ……♥」

 まゆは首を反らして、ごぽ、ごぐっと苦しげな嚥下音とノドの蠕動を見せつける――それだけではない。
 ブラウスの合わせ目が開いている。ぷりぷりと勃起しっぱなしの乳輪が、気の早い乳汁を幾筋か垂らした。
 乳汁が垂れた先では、柔らかさと細さをぎりぎりの按配で両立させたウエストが、
 ぴくっぴくっと歓喜とも苦悶ともとれる痙攣を繰り返し、縦長のヘソをひしゃげさせていた。

「あ、あぅうぅ……だ、めぇ……ぷろ、でゅーさーさんの、で、まゆ、い、イッちゃ、あっ……♥
 ごめんなさい、まゆ、い、いっちゃっ♥ あっ♥ いって、あぁあぁあっ……!」

 まゆは、精飲絶頂という俺の妄想を答え合わせするかのように、言葉でも絶頂を告げた。
 謝罪の意味は、プリーツスカートの裾に隠れたまゆの膝が、
 サラサラとした液体におびただしく濡れているのを見つけてようやくわかった。

 佐久間まゆの肉体は、俺の子種を受け入れ、孕み、出産し、育むためにここで生きるメスであり、
 佐久間まゆの精神は、それこそ女としての至上の幸福だと宣言していた。

 まるで、俺が数時間前まで、プロデューサーとアイドルという立場にこだわるあまり、
 まゆを遠ざけようとさえした……のが極悪非道の沙汰だったんだぞ、と折伏されている気がした。


※36

「は、はじめてなのに……おちんちん咥えて、イっちゃって、ごめんなさい……。
 我慢、しきれなかったんです……まゆのこと、お嫌いになりましたか……?」

 俺は、腰砕けでへたりこむまゆを、失禁まみれのまま抱えあげてベッドに仰向けに寝かせ、
 まゆの肩を抱きながら『まゆを好きだと思う気持ちが増した』と囁いた。
 射精我慢の余韻でアゴが震え、ノドがからからになって動きが怪しかったので、念押しも兼ね、
 何度も同じ言葉をささやく。繰り返していると、まゆがコクリとうなずいてくれた。

 故郷の仙台も読モの仕事も後にして、俺のためにアイドルになって、
 たくさんのファンを抱えるほど真摯に取り組んでくれて……そこまで尽くしてくれた過去を否定して、
 今度は俺の妻になりたいといって全身を懸けて決意を示してくれた。

 万が一これが本当でなかったら、俺はちょっともう生きていく自信がなかったし、
 逆にまゆを無下にしたら、どこかの神様仏様からバチを当ててくれそうな予感さえした。

 俺はすっかりまゆに狂ってしまった。

「覚悟は、決めてたつもりですが……恥ずかしいのだけは……あなたの目が、うぅうっ……」

 プリーツスカートのベルトとホックを外してやると、
 濡れていないところを探すのに苦労するほどびちゃびちゃの紅いショーツだけが、まゆの秘所を守っていた。
 それも取り去ると、さらさらとした体液のほか、精液のように白くべっとりとした本気汁が糸を引いて切れた。

 まゆは恥ずかしげに身を捩る……が、広げられた自分の足の間から、俺のペニスを凝視していた。
 フェラのときから引き続きお互い様だった。

「まゆ……入れるから、な。力、抜けるか……?」
「……愛してる、まゆを一番に愛してる……って、あなたが聞かせてくれれば……
 まゆは、だいじょうぶ、です……涙は、嬉しくて、泣いちゃうと思いますけど……っ♥」

 まゆの母乳を舐めてたぐらいの時は、まゆが処女なら気遣いしなければ……と、
 男としての義務感がかろうじて残っていた気がする。
 たぶん、フェラで抜かれたときに一緒にそれも抜かれた。

 正常位。まゆに、彼女自身の女性器を捧げ持たせる姿勢を俺は見下ろしていた。
 まゆは、俺を背後から照らす明かりがまぶしいのか、細めた目で俺を見つめていた。

 指で陰唇を開く……ぽってりと膨れたクリトリスが誘ってきてそっちに行きかけるが、
 もうペニスが我慢できない。あてがう。腰を沈めていく。

「愛してる、俺は、まゆを愛してる……」
「あなたぁ……まゆ、にっ……き、てぇ、あ゛っ――ぅううっ、あぁ……っ♥」

 膣内は、ぎょっとするほど締め付けがキツかった。腰がこわばる。歯ぎしりしてしまう。
 ややあって、かすかな鉄臭さが嗅覚を抜けて、俺の熱狂に水を差す。本当に処女だったのか……?

「ひ、うぅっ、あ、あなたの……されて、おく、じんじんって、して……っ♥
 でも、まだまだ……旦那様ぁ、まゆに、お嫁さんの、あかし、くださいっ……!」

 そのくせ、まゆは顔も手足も胴体も俺にこすりつけて、ひしひしとなびいてくる。
 耳元で、孕ませて、妊娠させて、あなたの子ども産ませてっ……と、ぐるぐる木霊させてくる。
 瑞々しいメス肉を妊娠欲求にどっぷり浸した幼妻の風情だった。やっぱりちょっとおかしかった。

「う、ぎ、ぐうぅ……まゆ、まゆっ……!」

 前からはまゆの子作り懇願に釣り出され、後ろからは自分の射精衝動に押しまくられ、
 俺は新鉢割りのペニスを奥まで……まゆの子宮目指して押し進める。

「っぁ、っ、ふぇ、へぁあっ……♥ ぷ、ぷろでゅーさー、さんっ、そこ、そこっ♥ まゆの……っ♥」

 本当の奥の奥の、ほんの少し手前あたりで、まゆが悶絶して、
 大口を開けながらも声が出ず、だらしなく伸ばされた舌がへたへたと宙を舐めた。

 そこが、俺とまゆの目的地らしい。
 精飲絶頂のときといい、まゆの妊孕器官は笑ってしまうぐらい親切だった。

「ふ、ひゅっ、ふぇ、え……おくまで、とどいちゃって……いきも、できないのに、
 ん゛んっ、く、はぁ、あぁっ……♥ まゆ、うれしくって、たまらない、ですっ……♥」

 が、俺が挿入して笑えたのはその一瞬だけだった。
 俺はまゆを気遣うつもりで、子宮口? らしきところを捉えたあたりで動きを止めた。
 まゆにのしかかりながら、体重移動をしないよう手足や腹筋や背筋に気を張った。


※37

「ああ゛ぅぅっ……! そ、そこ、きちゃって、ぇ、へぅっ♥ ぁあ゛ぅう、ぁあ゛ぁっ……♥」

 動いていないはずのペニスが、くつくつと摩擦され、呼吸を乱される。
 まゆの膣内の動きと感触が、少しずつ変わっていく。唖然となった。

 俺の雁首より下……ペニスの硬い茎部分は『離しません』とばかりにキリキリと締め付け、つぷつぷとした襞で弄んでくる。
 なのにまゆの奥底を撫でる亀頭まわりだけは、ちゅくちゅく、ぷにぷにと甘えるような弾力で吸い付いてくる。
 俺のペニスの所有権だか占有権を主張して、立証するように、俺のための形になっていく。

「まゆ、中に……出る、でて――だす、ぞっ」
「あぁあ゛ぅう゛っ♥ ちかいの、あなた、かんじ、て――ぁ、んんん゛ぅうっ……♥」

 三こすり半と持たなかった。
 まゆが孕むためのメスになるのに応じて、俺の体も種付けするだけのオスにされてしまったのか。
 見上げてくるまゆの笑顔に『してやったり』と書いてある気がするのは気のせいだろうか。
 膣内射精の直後でまた頭が冷えて、その余裕に羞恥心が割って入ってくる。

「……まゆ、まゆ……っ」

 今、俺はとても情けない顔をしていたに違いなかった。
 しかし正常位……まゆの両足が俺の腰をガッチリ固めていることに気づく。手を付いてるから顔を隠せない。
 見られなければいい、と開き直って、視界で焦点をかすめたまゆのくちびるを貪る。

「んぅうっ!? んぢゅっ……っ、ちゅ、ぎゅうぅ……っ♥」

 まゆの口内は、しこたま精液を啜っていたくせに、はちみつレモンのように甘酸っぱかった。
 忘れかけていたが、まゆは少女と言っていい年頃……少女らしく初々しいのは甘酸っぱさだけで、
 舌を差し込むとねっとりと爛熟したようなくちびるやら舌やら唾液に迎撃されたが。

「ぉんふっ、ぬにゅ、ぢゅぽ……ぢゅっ、ぷ、ふぅ、ぁあっ……♥」

 くちびるをいったん離そうとしたら、突っ込んでた俺の舌が、まゆのくちびるか何かで引っ張られ、
 吸い付かれ、うかつに離れられない……頭を撫でて、なだめて、ようやく解放してもらう。
 俺とまゆの間は、ラブシーンのような綺麗な銀の橋はかからず、ぜぇぜぇはぁはぁと乱れた息が交わった。
 セックス中の親しみを込めた接吻というより、取っ組み合いを演じた気分だった。

「……そういえば、まゆは、旦那の口より先に、旦那のちんぽにキスしたんだな。
 まゆは、いやらしい奥様だ……」
「うっ……それは、そうですけど……あなただって、止めなかったじゃないですかぁ。ふーん、ですっ」

 まゆは口をつーんと尖らせながら、目に涙の雫を溜めていた。
 傾国の妖婦じみた色気を放ってたと思ったら、男のペニスをマンコで咥えながら、乙女らしい顔になる。
 無警戒な瞬間にあどけない可愛らしさで襲われ、手がふらふらとまゆの髪を、後頭部を撫でていた。

「ごめんな、まゆ。悪口のつもりじゃなかったんだ」
「ん、んんっ♥ あたま、なでながら、そんな……こども相手みたいなこと、
 まゆに、しちゃ……あ、あっうっ♥ んぁっ……んんぅんぅっ♥」
「嬉しかった。まゆ、本当にありがとう……」

 頭を撫でると、まゆの腰からアンダーバストあたりまでが、びゅくんと波打って、
 中のペニスもぐりゅぐりゅ、みりみり、と強くしなやかに抱きしめられる。
 キスの激しい攻防中に復活した勃起があっと思うまもなく反応。

「……あたま、撫でないほうがよかっ――」
「――そ、そんなことないですっ、た、ただ……その、いま、いまは……。
 その、感じの手付きで、なでなでってされると……」
「されると……?」

 まゆは、女性器はフェラでもしているかのようにペニスに吸い付いて、妖婦の勢いなくせに、
 顔つきや声音は今しがたの乙女を引きずったまま、あたふたしていた。

「……おちんちんされてる子宮から……『氣』が、あたまにまわって、つながっちゃって……
 まゆ……おかしくなっちゃいそうな気が、するんです……」

 まだおかしくなるつもりなのか。
 ペニスねじ込まれて妊娠することしか考えてませんー……なんて顔や口振りだったから、
 とっくに子作り脳になってると思ってたんだが。


※38

「だ、だから、あなた、だめ――だめって言ったのにっ♥ あ、あっ……て、てっ、だめれすっ♥
 なか、も……つながっちゃう、つながっちゃいますっ……♥ あ、あぁあっ、あ゛だまっ♥」

 まゆの頭を撫でると、それに合わせて、腟内がヒステリックに攻め立ててきたり、
 子宮口(?)がぷるぷると甘えてくるように吸い付いてきたり、
 触れてもいない乳首から乳汁がたらたらと滲み出してきて……反応が良すぎて面白くなってきた。

「まゆっ、も、もう――っ、ぉ、おま゛ん゛こに、な、なっちゃ、あ、ぁ……あぁぉお……っ♥」

 つい、何回か射精して勃起が終わるまで続けてしまった。

 まゆは白目を剥いて、舌先はくちびるからはみ出させていた。
 種付け後の沈静化した意識では、ちょっと正視するに忍びないほどだった。
 膣内と下っ腹だけが、引き抜かれるペニスを名残惜しむように浅くむずむずと引き攣れていた。



 余韻を堪能した後、よれよれのまゆを狭いシャワールームまで抱えていくと、
 いつの間にか意識を取り戻したらしいまゆが、

「あなたが、洗ってくれなきゃイヤです……撫でて、抱きしめて……っ♥
 まゆ……担当を外されるって聞いて、あなたと離れ離れになると思って、
 すっごく不安だったんです……お嫁さんを不安にさせた埋め合わせ、ください……♥」

 あざといわがままを投げかけてきた。
 それで、シャワーの温度を確かめてから、ボッサボサで一番ひどい有様に見える髪をまず洗おうとすると、

「ひっ!? あ、あっ……んぁあぁぉぉ――っ♥」

 のぼせる寸前まで二人で悪戦苦闘した末、まゆが折れた。髪の毛だけは彼女自身が洗った。
 そんなこんなで、部屋も浴槽もまゆの体臭がむわむわと立ち込めるほど、
 まゆは体液を滲み出させたり噴き出したりした。

 なのに朝食の準備を手伝ってくれるまゆの横顔は、撮影直前よりもツヤツヤしていた。

「だいじょうぶです……あなたといると、まだまだ『氣』持ちが溢れ出しそうですから……♥」

 やっぱりまゆはおかしなことをやっているに違いなかった。





「……これ、芳乃が原因じゃないか? なんとか、してほしいんだが……」
「そなたのおかげで、まゆさんの『氣』持ちがどんどん高まって、偏って、溢れてしまうのでしょうね。
 しかし、不服でしてー? まゆさん、あんなに励んでおられて……わたくしも励みましたのに」

「あのマンション、防音がまずいから、引っ越さなきゃならなくなる……」
「諦めて引っ越すのでして。まゆさんは『氣』が強くなったので……体力も、性欲も、強くなりましたから、
 この感度びんびんのよわよわにしておかないと、そなたが腎虚で抜け殻になってしまうかも……」

「……じゃあ、まゆはよわよわのままで居てもらうとして」
「それが賢明でしてー」

「……ところで、大きな『氣』を操れる芳乃は」
「無事にまゆさんの元へ帰りたければ、すべて忘れるのでしてー」



(おしまい)



・あとがき
芳乃さんの言ったことは基本デタラメです。

(乳首への継続的・機械的刺激で少年少女が母乳を分泌してしまうケースがままある、
 というのは、ジャレド・ダイアモンドが『セックスはなぜ楽しいか?』で書いてたんで、
 あながち嘘ではないかもしれません。詳しい方は、ぜひご教示をお願いしたく存じます)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom