魔女娘「あなたは何ができるの?」サキュバス「うっふーんなこと」 (282)

先生「今日は生涯のパートナーとなる使い魔を召喚する日です。皆さん何を召喚するかしっかりイメージしてきましたか?」


ライバル魔女「あら魔女娘さん、随分と貧相な触媒を使って召喚するのね。一生を共にする使い魔を召喚するというのに、そんな粗末な触媒しか用意できないなんて平民上がりは本当に可愛そうですわ」

ライバル魔女「そうだわ! よろしかったら私の余ったものを恵んであげましょうか? ライバル魔女様にいっっっしょう尽くしますと泣き咽び跪きながら言えたら与えてあげてもいいですわよ」


魔女娘「いらない。触媒なんかなくても召喚くらいできる」


ライバル魔女「ふん! 強がりはおよしなさいな。そんな古ぼけた手鏡一枚で何が召喚できるというの?! というかどこから持ってきたの。かび臭いし、ヒビも入ってるじゃないの」


魔女娘「実家の納屋に置いてあった」


ライバル魔女「ゴミじゃありませんか!?」

取り巻き「ライバル魔女様。順番が回ってきましたよ」


ライバル魔女「あら、ありがとう」

ライバル魔女「まあいいわ。せいぜい召喚してから触媒をもらわなかったことを後悔するといいわ! あとから跪いて一生尽くしますって泣いても知らないから」


魔女娘「ん、そんなことにはならないと思うから大丈夫。自分の召喚に専念してね」


ライバル魔女「その余裕も今の内ですわよ! 絶対あなたよりすごい使い魔召喚しますからね!」


魔女娘「行ってらっしゃい。頑張ってね」

友魔女「おつー魔女娘。今日もライバル魔女の相手お疲れ様」


魔女娘「お疲れ。だけどただ普通に話してただけだから、疲れてない」


友魔女「さすが成績ナンバー1様はナンバー2からの嫌味を物ともしないね! もっとライバル魔女のこと気にしてあげたら?」


魔女娘「……? 友達らしく接してるとは思うけど?」


友魔女「ホントにアウトオブ眼中なんだね……。ライバル魔女カワイソー」

友魔女「—―あ、ライバル魔女召喚しだした」


魔女娘「魔力の流れも安定してる。精神も乱れてない。ん、失敗はしない」


友魔女「じゃああとは何が出るか……って、デカいな」


魔女娘「それに魔力量も凄まじい。伝説級の使い魔、くる」


友魔女「—―っ、あれは……」


魔女娘「——――ドラゴンだ。すごい……」

魔女娘「おいしそう」


友魔女「え?」


魔女娘「え?」

ライバル魔女「おーほほほっ見ていましたか、魔女娘さん。というか見なさいこの雄々しくも美しい二色の眼を持つドラゴンを!」

ライバル魔女「これほどまでの使い魔を、あなた呼び出せますか?!」


友魔女「……冗談だよな」


魔女娘「昔、トカゲを丸焼きにして食べた。おいしかった。あれも似てるからきっとおいしい」


友魔女「食べるなよ、絶対だからな! フリじゃないからな!」


魔女娘「伝説級の使い魔……伝説級の味……」


友魔女「おいっ!?」


魔女「冗談」


友魔女「お前なぁ……」



ライバル魔女「無視しないでくださる!!?」

魔女娘「すごいの召喚したね」


ライバル魔女「そうでしょうそうでしょう。なんたって神童と呼ばれ育ち、魔法界の華といわれるのですもの。これくらい当然ですわ!!」

ライバル魔女「さあ、次はあなたの番よ。ワタクシのライバルとして恥じない使い魔を召喚しなさいな」


魔女娘「応援してくれるの? ありがとう」


ライバル魔女「応援なんかじゃありませんわ! ライバルがみっともないとワタクシまで低く見られてしまいますからね!」

ライバル魔女「だから、余った触媒をあなたに譲ってもよろしくてよ!」


魔女娘「うん、いらない」


ライバル魔女「もう!!」


魔女娘「魔力いっぱい込めれば何とかなる」

魔女娘「だから大丈夫。心配してくれてありがとう」


ライバル魔女「しっ、心配なんてしていませんわ。せいぜい見れる使い魔を召喚することね!!」


魔女娘「うん……じゃあ、友魔女、ライバル魔女、行ってくるね」


友魔女「がんばー」

魔女娘「さてと……」


先生「魔女娘さん、準備は大丈夫ですか?」


魔女娘「はい」


魔女娘(集中集中……魔力を魔方陣の上に置かれた触媒に注ぎ込むっと)グウゥ

魔女娘(……お腹すいたな。何か食べたいなあ……。非常食になる使い魔がいいなあ……)


鏡「」ピキッ


魔女娘「え――?」ガクン


先生「……っ!? 魔女娘さん! 一旦魔力を止めてっ」


魔女娘「止まりませんっ……吸われる……っ」


先生(このままじゃ何が出てくるか……)

先生「触媒を破壊します! 離れて—―」


鏡「」ピカ—―ッ—ードッ—ー


???「あらぁ、どこかしら、ここ」


先生「おそかった……」


???「……ああ、あたし召喚されたのね……」


魔女娘「貴方は――」


???「あなたがあたしを召喚したマスターね」

サキュバス「初めまして。私はサキュバス。よろしくね」


魔女娘「私は、魔女娘。よ……よろしく」

魔女娘「……あなたは何ができるの?」


サキュバス「あたしサキュバスよ。決まってるじゃない」

サキュバス「うっふーんなこと」


魔女娘「……そっか……やっぱり非常食にはできないか……」

魔女娘「うっ……お腹減った」バタン


先生「魔女娘さん!? 気絶してる……」


サキュバス「あらあら召喚の時に魔力びゅっびゅっしすぎちゃったね。……あと空腹でかな?」


魔女娘「うぅ……」キュルキュル

魔女娘「うう……ん、ふああよく寝た」

魔女娘「……? ここどこ?」

魔女娘「やけに豪華なベッド……貴族が使うベッドみたい。ふかふか」

魔女娘「……どうせふかふかならベッドより焼き立てのパンのほうがいいなぁ」

魔女娘「ベッドみたいな大きさのふかふかなパン……食べたいなあ」グウゥ


魔女娘「……おなか、空いたなあ……ん?」


焼き立てパン「」ホクホク


魔女娘「なんでベッドの上に焼き立てのパンが……」ぐう

魔女娘「……。……食べちゃえ」


焼き立てパン「ち、ちょっとまってぇ—―!」


魔女娘「パンがしゃっべた!?」


焼き立てパン「すごいねあなた、この状況で食欲優先させるなんて」


魔女娘「生きたパン……絞めたことないな」


焼き立てパン「食べることしか考えてない!?」

焼き立てパン「まってまって!? 元の姿に戻るから—―」ボフンッ


魔女娘「うっ……けほけほ……あれ、パンは?」


???「どうやらあたしのマスターは色気より食い気みたいね」


魔女娘「……誰? パンは?」


???「さっき自己紹介したけど……まあ忘れちゃうか」

サキュバス「じゃあ改めまして、あたしはサキュバス。あなたの使い魔よ」


魔女娘「……私のパンは?」


サキュバス「ごめんなさいね。あの姿はマスターの欲望をもとに形作った幻想なの」

サキュバス「普通は性欲マシマシ汁だくだくな理想の美形になるんだけど……性欲よりも食欲が上回った人なんて聞いたことない」

サキュバス「……欲を助長させる暗示もかけてたのに」ボソ


魔女娘「そんな……食べたかったパン……」

サキュバス「ねえマスター、ここがどこだか気にならないの?」


魔女娘「そういえば、こんな豪華なベッドで寝たことない、私」

魔女娘「学園の保健室……な訳ないか。貴族みたいなベッドだし……それに……—―!!?」ハッ


魔女娘「ドアがない、窓も……どころか、ベッド以外に何もない!」


サキュバス「うふふ、やっと気づいたみたいね」ニヤリ

サキュバス「そう、ここには出口なんてない—―」ドサッ


魔女娘「うわっ—―?!」ドサッ

魔女娘(押し倒され—―)


サキュバス「ここはあなたの夢の中」

サキュバス「なにをしてもいい。なにをしても許される」

サキュバス「ねえ、見せて……あなたの欲を――」


サキュバス「醜く、愚かで、度し難い――その陰鬱とした劣情を――!!」


魔女娘「……っ」ガクン

魔女娘「な、にこれ……力が……」


サキュバス「言ったでしょう。ここはあなたの夢の中」

サキュバス「あたしが創ったあなたの夢。全てはあたしの思った通り」


サキュバス「抵抗しないで。どうせ逃げ場はないのだから」

サキュバス「受け入れて。――今まで一度も体験したことのない甘美な夢を見せてあげる」

――魔女娘視点。

 
 これまで一度も嗅いだことのない甘い匂いが鼻を擽る。

 どんなチョコレートよりも蕩けていて、どんな花蜜よりも粘執的な。

 そんな匂いに、私の心はふにゃふにゃに砕けてしまった。


 その匂いは目の前の女性から漂っている。

 美しい女性だ。

 二重の瞳に、熟れたリンゴを思わせる瑞々しい唇。カモシカのようにしなやかに伸びる手足は小麦のような健康的な色をしていた。


 そんな彼女のなかで一番心惹かれたのは、貴族が身に付けているような宝石――アメジストを思わせる紫紺の瞳。

 くっきりとした目尻にしっかりと嵌まったその瞳は、逸らされることなくまっすぐに私を射抜いている。


 今までで出会ったことのない美貌を目の当たりにして、胸はこれ以上ないくらいに高鳴った。

 こんな気持ち、初めて。

 今まで貧困に喘ぎ、日々の食べ物にも困る生活をしてきて、色恋を知る余裕もなかった。

 魔法の適性があるのが分かり、両親に身売り同然で貴族に売られ、養子になった今となっても……今さら、恋愛なんかに興味が持てなかった。


 だから、これが初めて。

 他人に見惚れるなんてことは――。


サキュバス「とまどってるの? 安心して、怖いことじゃないよ」


 脳みそを溶かす甘い声。

 その甘美さを真っ先に受け止めた耳から、頬をつたい、首もとまで熱が伝播する。ぞっと腕が粟立った。


 その麗しい腕が私へと伸び、捕らえる。

 ブラウスのボタンが上から一つ一つ外される。

 真白い服が剥かれ、幼少の折りに怪我したきり消えない傷の、決して綺麗とは言えない肌が空気に触れる。


サキュバス「かわいいおっぱいだね。ふふっ子供みたい」


 その言葉に、少しばかり熱が揺らぎ、うっと眉根を寄せる。


 私はあまり自分の事が好きではない。

 育ちの悪い貧相な体だけならまだしも、あちこちに刻まれた傷。

 例え貴族の一端になろうとも、例え魔法の腕前が凄かろうとも、この思いだけは消えやしないだろう。


 だから、目の前の綺麗な女性に、私の裸を見られるのは嫌だった。

魔女娘「ゃ……見ないで……」


 手を振り、振り払おうとするもその行為に意味などなかった。

 弱々しい私の力は、すぐ押さえられてしまった。

 私の腕を掴んだサキュバスは言う。


サキュバス「抵抗しないで、恥ずかしがらないで。あなたの身体、とても素敵だよ」 


 力強い視線に射抜かれ怯み、力が完全に抜ける。

 だけど、その瞳はやはり綺麗だった。

 そんな瞳をみていると、なんだか抵抗する気が失せてくる。

 むしろ彼女が見たいと言うのなら、自分から服を脱ぐべきではないかとすら思えてくる。

 思う前に身体は動いていた。


魔女娘「笑わ……ないでよ……」


 そう言った時には既にブラウスは腕から抜け落ち、下着のない私の肢体は全てさらけ出されていた。


サキュバス「……ふふっ、綺麗だよ、すっごくね」


 滑らかで細い指が伸び、私の胸を――薄い胸板の上に走っている切り傷を撫でる。


サキュバス「どうしたの、これ?」


魔女娘「……昔、男の人に襲われて、そのときに……」


サキュバス「へぇ……」


 サキュバスのか細い指が傷痕を嘗める。

 こそばゆさに身が震える。

 

サキュバス「この傷、嫌い?」


魔女娘「きらい……醜いでしょ」


サキュバス「そうでもないけど……まあ好きにはなれないか、乙女だもの」


 顔が胸にぐいっと近づく。吐息がかかり、どくんどくんと胸の上下が速くなる。


 ちろり、と軟らかで湿り気の帯びた感触が胸に、そこに走った傷痕に、与えられた。


 思わず、ひゃっとあられもない声が出てしまう。


サキュバス「かわいい声……これ、好き?」


魔女娘「……きらい」

 嫌いだった。他人に見られたくない箇所だった。そんな場所を、私は今、舐められている。
 目の前の美しい女性に舐められている。
 
 猫のようにチロチロと走る粘体は、今までに感じたことのない痺れを産む。
 
魔女娘「ひゃあ……あぁ、ん」
 
 我慢できずに、上げたことのない声を上げてしまう。

 こんなの知らない。
 こんな媚びたような声を上げる自分も、胸に走る気持ちよさも、嫌いなところを好きにされる疼痛も……美しい人に弄ばれる甘さも。

サキュバス「ふふっ、月並な言い方だけど、体は正直だねぇ。サキュバス冥利に尽きるなぁ」
 
 ぺろりと舌なめずりする妖魔。
 妖しく光ったその瞳は、弱った獲物を目の前にして喜悦に震える獣のよう。
 竦んでしまって何もできない。
 ただ、与えられている快楽の渦に流されるのみ。
 

サキュバス「出来上がってきたねぇ……じゃあ、こっちもイッてみようか」
 
魔女娘「――はへぇ?!」

 
 
 不意に、細く滑らかな指がお腹を撫でると、ツツっとそのまま下に伸びた。

 生え揃ってない子供みたいな淡い茂みの奥。
 ぬらりと汗ではない汁、淫らな液の溢れる一筋の割れ目。
 
 誰にも触れられたことのない箇所へと手を伸ばされた。
 

魔女娘「だ、だめ……そこ、おしっこのところ……汚いよ……」
 
サキュバス「ふふ、そんなことないよ」

 そう言ってサキュバスは遠慮なく敏感なところに指を突き刺す。
 
サキュバス「うふふ、入っちゃった。見て、分かる? マスターのきつきつなおまんこに私の指、出たり入ったり」

魔女娘「う、あぁん……ぁっあああん――!」
 
 欠けていたところを埋められる感覚に喜びの艶声がでてしまう。
 
 サキュバスが少し指を動かしただけで、グッチュグチュとお股から水音が溢れ出す。即ちそれ程までに、濡れていたということで……。
 


魔女娘「う、わぁ……はずかし、ぁっ……ああん、みない、でぇ――」
 
 今自分はどんな表情をしているのだろう。
 初対面の女性……しかも、顔の良い人に好きに弄ばれるなんて……。
 
 ぐしゃりと両手で顔を抑える。間違いなくだらしない顔になっている。そんな顔見せたくなかった。
 恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。

 
 

 ぐちゅぐちゅ。
 私の女性器から奏でられる淫らな水音は勢いを増す。私の喘ぎと、サキュバスの弄笑が合わさった蠱惑の三重奏。

サキュバス「かわいいね、マスター。そんなに気持ちいいんだぁ……口からだらしなくよだれ垂らして……」
 
魔女娘「うへぁ……っあ、ひ」
 
サキュバス「まともに言葉も出せないか……でもまだまだ――」
 
魔女娘「イっ――あああっ!! なにこれ?? なにこへ?? あたま、おかしくなりゅ!!!」
 
サキュバス「うふふ、ここが気持ちいんだ? もっとやってあげるね」
 
魔女娘「やらぁ!? や、やだやだ!! ああぁっ、きもひ、よすぎ……! しらない、こんなの、しらなぃぃぃっ!!」

 
 こつこつこつ! 
 サキュバスの指、激しくなって。

 わたしの、気持ちいいところ、見つけられては、ぐちゃぐちゃになるくらいかき乱して――。
 
魔女娘「あ、あああっあへあへぇ……! あああんっふへぇえ――!!」
 
 脳が溶ける。もう、獣みたいな声しか出せない。
 限界だった。
 

サキュバス「もう、イきそう? イきそうね! いいよ、ぐちゅぐちゅおまんこ爆発させて! 私に挨拶代わりの始めまして本気イキみせて!」
 
 私が限界になっているのを感じ取ったのか、攻める手の激しさが増す。
 脳の奥でチカチカとスパークが走った。電流は増幅し、私の体を焦がし尽くした。
 
魔女娘「あっ、あ、ぁっあ――あ、嗚呼アああぁっアアァああッッッ!!」
 
 溢れ出た快楽は、脳を犯し、体中を走り抜け、サキュバスの指が差し込まれた膣で爆発した。

魔女娘「――っっ!!!」
 
 高いところから降りてこれない。
 それほどまでに深い絶頂。
 呼吸さえ忘れてしまうほどだった。
 

サキュバス「うふふ、かわいい」
 
 彼女の声が耳に心地良い。
 高いところにいた意識がふわりふわりと落ちてくる。
 気だるさが体を蝕み、意識が更に下へと落ちていく。
 まぶたが重くなってきた。
 
サキュバス「淫催眠も使ったけど、ここまで乱れてくれるんだ。くふふ、当たりのマスターだあ」
 
魔女娘「サキュバス……?」
 
サキュバス「ふふ、これからも末永くよろしくね、マイマスター」
 
 薄れゆく意識の中、妖艶に微笑むサキュバスの顔が印象的だった。
 その端整な唇を歪ませて言う。
 
サキュバス「次は現実で楽しみましょ。ね、マスター」

 
 
――――――

――――
――
 

魔女娘「――――?!」ガバッ
 

ライバル魔女「魔女娘さんっ?!」

 
 
友魔女「やっと起きた!……大丈夫、魔女娘?」

 
 
ライバル魔女「大丈夫なわけありませんわ!! あんなにうなされて……汗もこんなに……」



友魔女「落ち着きなよ、ライバル魔女……」


ライバル魔女「落ち着けるわけ無いでしょう! 魔女娘さんが倒れたんですのよ!」


友魔女「その魔女娘が目覚めたんだから落ち着けってんだ……」

友魔女「……と、魔女娘、今の状況分かる? 授業中に倒れたから保健室に連れてきたんだけど……」


魔女娘「……あの人は……?」


ライバル魔女「え?」


魔女娘「あの人は、どこ?」


友魔女「誰のことだい……ああ、使い魔か。彼女なら先生が話があるって、連れて行った――」


魔女娘「――まずいっ!!」ダッ


ライバル魔女「ちょっと、魔女娘さん! どこに行く気ですの?! 倒れたのですから安静に――」


魔女娘「そんなこと、言ってる場合じゃない……」

魔女娘「とんでもないの呼び出しちゃった……」

ライバル魔女「どういうことですの!?」


魔女娘「やっぱり触媒もらっとけば良かったってこと――!」


ライバル魔女「ほら――――ほら! だから言ったじゃありませんの! あの時ワタクシに一生尽くすと誓っていれば、こんなことにはならなかったのですわ!」

ライバル魔女「今からでも遅くありませんわ。泣いて頭を垂れながら、ライバル魔女様を愛しております、これから一生、身も心も全て捧げますと言えたら、使い魔を再召喚するときに触媒を下賜してあげてもよろしくてよ――!」


魔女娘「……」


友魔女「つまり魔女娘が倒れたのは、呼び出した使い魔のせいってこと?」


魔女娘「そうじゃない。単純に私の魔力不足。……けど、放置したら、まずいことになる……」


ライバル魔女「ちょっとお!? 無視しないでくださる?!」

ライバル魔女「そもそも、何を焦っているんですの……? 貴女らしくもない……。いったい貴女は何を呼び出したんですの?」


友魔女「ヒューマンタイプだよね。君の魔力をすべて吸い取るなんて……少なくともただの使い魔じゃないね……」


魔女娘「……私が、呼び出したのは――」


ドア「」ガチャ


サキュバス「――お、目が覚めたみたいだね、マスター」


魔女娘「サキュバス……」


ライバル魔女「さ、サキュバス――っ!?」


サキュバス「あら? どうも~」


ライバル魔女「サキュバスって……あのサキュバスですの?!」


サキュバス「どのサキュバスか知らんけど……そのサキュバスだと思うよ」


友魔女「……じゃあ、倒れた魔女娘がうなされてたのって」


サキュバス「ん? ああ……私の支配した夢の中の出来事は、現実の肉体にも影響するからね」

サキュバス「マスターのパンツ、ぐしょぐしょなんじゃない?」


魔女娘「――――」バッ

魔女娘「……!!!」カアァッ


ライバル魔女「え? え?」

魔女娘「……サキュバ――」グウゥ

魔女娘「……お腹、へった……」


友魔女「こんなときに……キミってやつは……」


サキュバス「まあまあ……ほら、どうぞマスター。ここに来る前に食堂によって焼き立てパン恵んで貰ったの」


魔女娘「パン! 焼き立て!!」ピコーン


サキュバス「うふふ、食事は大事よね――――よく分かるわ」


サキュバス「さ、夢にまで見た焼き立てパンどうぞ」


魔女娘「ありがとう!」パクパク


友魔女「で、サキュバスさん。貴女、先生に呼び出されてたけど、使い魔になるってことでいいのかい?」


サキュバス「そうそう。元いた場所に帰りますかって聞かれたけどね。帰る故郷もないし、面白そうだし――なによりご飯に困らなくなりそうだし」

サキュバス「腹ペコご主人様の使い魔をすることにしたの。これからよろしくね、ご主人様のお友達さん」


ライバル魔女「ワタクシは認めませんわよ!!」


サキュバス「ん? 君は……ご主人様の友達その2さん」


ライバル魔女「友達じゃありませんわ!!」

ライバル魔女「ワタクシと魔女娘さんはライバルです。そこのところ履き違え無いようよろしくお願いいたしますわ、この淫獣!」


サキュバス「淫獣……」


ライバル魔女「ええ! そうですともそうですとも、魔女娘さんにいやらしいことをしたのでしょう?! ワタクシだってしたことないのに! あなたなんか淫獣ですわ!」

友魔女「おい……あんまり挑発しちゃ――」


サキュバス「くふふ、淫獣……淫獣って、ふふふ――あははっ」

サキュバス「なかなかどうして笑かしてくれる……」


ライバル魔女「な、なんですの……突然笑いだして……」


サキュバス「いえいえごめんなさいね、くふふ……ツボに入っただけだから気にしないで」

サキュバス「まあ、仲良くしていきましょ、お友達さん達」


ライバル魔女「お断りですわ!!」


友魔女「……まあ、変なことしないならいいかな……」


魔女娘「ねえ、パンはもう無いの?」


サキュバス「ないよ」


魔女娘「そう。ごちそうさまでした」

魔女娘「まだお腹減ってるから学食に食べに行ってくる」


友魔女「ほんと、キミってやつは……」

ライバル魔女「なんとかなりませんの、その暴食――食事なら私専属のシェフに一級のものを作らせますわ。ぜひワタクシの部屋まで」


魔女娘「いいや。学食いくから。まだお昼過ぎくらいでしょ? 今からシェフに作ってもらわなくても学食で十分」


ライバル魔女「なぜ!? 淫獣の持ってきた得体のしれないパンは食べられて、ワタクシの用意した食事は食べないの?!」


魔女娘「ポイント貯めたいから。――一緒にご飯食べるなら早く行こう。ぺこぺこなの、お腹」


友魔女「じゃあ私はご一緒するよ。倒れたキミを看てたから、何も食べてないんだ。それに良い使い魔を召喚したくて、ゲン担ぎに朝ご飯も抜いてきていてね。かく言う私もお腹ぺこぺこなの」


ライバル魔女「そんな……高々学食の割引ポイント如きに、ワタクシ(のシェフ)が負けるなんて……」

ライバル魔女「ああもう分かりましたわ! 行きます! ワタクシも学食に行きますわ!」

ライバル魔女「魔女娘さん! ワタクシの分のポイントも欲しいと――どうしても欲しいというのなら、その頭を地面に擦り付け、ライバル魔女様おしたい申しております、一生永久にお側に居させてください、と媚へつらい涙ながらに懇願できたら差し上げても宜しくてよ!」


魔女娘「うん、いらない」


ライバル魔女「もうっ!!」

サキュバス「――くふふ、ほんと面白いね、アナタ達」


魔女娘「で、サキュバスは一緒に来るの? 来るんならポイントちょうだい」


サキュバス「ご一緒もするし、ポイントぐらい上げてもいいけど、その前に――」

サキュバス「パンツくらい替えてきたら?」


魔女娘「……漏らしたわけじゃないし、ご飯を優先してもいいと思うの」


友魔女「替えてきなよ、みっともない」

――――――
――――
――


――???視点


 気づけば一面真っ白な世界にいた。

「いやーまいったねぇ。まさか死んじゃうなんて」


 真っ白な世界に一点のノイズ。
 サンタさんみたいにヒゲをもっさりと蓄えた老人が、私の目の前でそうぼやいていた。


???「どこだ、ここ?」


「死後の世界というやつだね。つまりお前さんは死んだんだ」


 私の呟きに答えたのは件のジジイ。
 その予定調和じみた薄っぺらい言葉と、使い倒されて最早神秘さの欠片もない一面真っ白なこの空間に……ああ、これはつまりそういうことなんだろうなぁと思った。

 そのジジイは遠くを見るように目を細め、私を凝視した。

「自分が死んだのに驚かないなんて大物だねぇ」

???「こういうラノベが流行ってるんですよ。死ぬ予定のなかった人が神様のミスで死んじゃって、お詫びとして別の世界に転生させてくれるってやつ」

 小学生が考えたみたいなチート能力を特典として付けてね、なんて嘯くと、ジジイは目を更に細め、笑った。


「理解が早くて助かるよ。そのとおり、君には君のよく知る異世界に転生してもらいたい」


???「ってことは、転生先は、私がやってたゲームの世界、あたりかな?」


「察しが良いのは美点だね。『乙女のハートは恋の魔法』。このゲームのことはよく知ってるよね」

 頷き一つ。
 『乙女のハートは恋の魔法』。略しておつ恋は、私が攻略と二次創作に青春を捧げ、何だったら社会人になっても同人活動を続けていた程、どハマリしたゲームだ。
 貴族と、一部の魔力がある平民しか入れない魔法学園を舞台に、たまたま魔力の才能に目覚めた町娘の主人公と貴族との恋愛を描いた乙女ゲーム。

「そのゲームと似たような世界にイレギュラーが起きちゃって、本来の歴史から外れてきているんだ」


???「そのイレギュラーをどうにかしろと?」


「そういうこと。本来あるべき歴史にするために、歴史の導となってほしいんだ」


???「分かったよ。で、私は誰に転生するの? 悪役令嬢? それともモブ?」

「いんや、そうじゃない」


 自称神のジジイが手をかざすと、私の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「君が転生するのは、ヒロイン。つまり主人公だ」


 瞬間、意識が闇に引っ張られた。


――
――――
――――――

――食堂のテラス


魔女娘「もぐもぐ、んん~仔牛さんうまうま」


ライバル魔女「本当によく食べますわね……」

ライバル魔女「さ、ドラゴンちゃん、あなたも一杯お食べなさい。強くなるのですよ」


魔女娘「そうそう。一杯食べて美味しくなってね」


ライバル魔女「ちょっと! ワタクシの使い魔を非常食として見ないでくださいまし!」


魔女娘「トカゲの尻尾は切っても再生するよ」


ライバル魔女「だからといって食べていいわけではありませんわ! あとしれっとドラゴンちゃんのことをトカゲっていうの止めてくださる!?」


友魔女「ホントにキミってやつは、食い意地張ってるなぁ」


魔女娘「ん、食べることは生きることだから」キリッ


友魔女「なにカッコつけて言ってるんだか……」

魔女娘「あ、そうそう。今更だけど、友魔女はちゃんと使い魔召喚できた? 私が倒れたいざこざで流れたりしてないよね?」


友魔女「ちゃんと召喚できたよ。――ほら、この子」

黒猫「にゃーん」


魔女娘「ネコだ。可愛いね」


ライバル魔女「あら、なかなか高貴な身立ちではありませんか? まあ、うちのドラゴンちゃんの方が見目麗しいですけれど」


サキュバス「ほれ、にゃんこ、おて」


黒猫「にゃ」プイ


サキュバス「やん、いけずぅ」

???「あ、先輩たち、こんにちは」


友魔女「ああ、キミか。こんにちは、後輩ちゃん」


ライバル魔女「ごきげんうるわしゅう、後輩さん。壮健なご様子で何よりですわ」


後輩「もうからかわないでくださいよ、ライバル魔女先輩。私なんて魔法が使えるだけのただの町娘ですよ。そんなに畏まって挨拶されると萎縮しちゃいます」


ライバル魔女「あらここは貴族の通う学校ですのよ。これくらい当たり前ですわ」


???「おい、後輩。どこにいる」


後輩「あ、王子様こちらです」


王子「そこにいたのか。……なんでお前もいる」ギロッ


ライバル魔女「あら、ワタクシだってこの学園の生徒ですわよ。学食を使う権利はありますわ」


公爵「おーい、後輩ちゃんに王子ぃー、ボクのことをおいていかないでくれよー」

公爵「って、あちゃーライバル魔女さんもいる」


ライバル魔女「なんですの、よってたかって。私がいるのになにか問題がありますの」


公爵「ないけどさぁ……」

王子「ふん、お前は卑しいからな。元婚約者のお前が、嫉妬から俺の最愛の人を傷つける、なんてこともあるんじゃないかと思ってな」


ライバル魔女「あら、ごあいにく様。ワタクシ貴方に粉砂糖程の未練もございませんの」


後輩「ちょ、ちょっと二人とも仲良くしよ。ね?」


ライバル魔女「あら、ワタクシ別に争いたいわけではありませんよ」


王子「どうだか。――ほら、行くぞ、後輩」


後輩「あ、ちょっと待ってください王子様」

後輩「あの、魔女娘さん? 大丈夫……そうですね」


魔女娘「んぐんぐ……っぷは! 何が? 見ての通り2匹目の仔牛をやっつけてるところなの。用があるなら手短に」


後輩「いえ、授業中倒れたと聞いたから大丈夫かな、と……まあ要らない心配だったみたいですね」


魔女娘「まあね」ガツガツ

王子「おい、お前さっきから無礼だぞ。食事をしながら、俺の後輩と話すな」



ライバル魔女「…………」

ライバル魔女「……あら、『俺の後輩さん』は確か、ただの町娘だったはず。少しくらい砕けた態度でもよろしいんじゃなくて」


王子「ふん、今はまだ、な。いずれ俺の妻となるのだ。その時には女王――つまり、国の母となるのだ。言わば後輩は『国の幼母』だ。だというのに、その態度!」

王子「そもそもだ。人と話すときに食事をするな、物を噛むな、手を止めろ! 話す相手が町娘だ王族だ以前の問題だ!」


魔女娘「……モグモグ」


王子「おいこら! 話を聞け! 人としてのマナーの問題だ!」


ライバル魔女「……」


友魔女「まあ、何も言えないよね。これに関しては王子様が正しいし」


ライバル魔女「まったく……もう少しレディとして相応しい身の振り方を覚えてほしいですわ」


サキュバス「まあまあ、そんなにカッカッしないで――」


王子「誰だ貴様は――!」


サキュバス「これはこれは、お初にお目にかかります。そこの魔女娘の使い魔となりました。サキュバスと申します。以後、お見知りおきを」


王子「使い魔風情が、この俺に――な……に、ぇ――?」


サキュバス「あら、私の顔になにかついています?」


王子「あ、いや……その……」カアアッ///


サキュバス「あら、お顔が赤くなりましたけど大丈夫ですか? お熱とか……」ソッ


王子「いい! 触るな!!」バッ

王子「俺はもう行く! 後輩も早くこい!!」


後輩「ええ……はい。――それじゃあ皆さんまた……」


公爵「ちょっと王子、急にどうしたのさ――ボクも行くから待って~」タタタッ

友魔女「……何したの…………?」


サキュバス「面倒くさいことになりそうだったから、ちょっと軽い魅了と催眠をね」


友魔女「…………とんでもないな……」


魔女娘「……腹立つ」モグモグ


友魔女「こっちはこっちで、どうしたのさ」


魔女娘「あいつ、ライバル魔女のこと一方的に振っておいて、どの面下げてあんなこと言えるんだか」モグモグ


ライバル魔女「魔女娘さん……」

ライバル魔女「いいんですわ! あんな男こっちから願い下げですの!」


ライバル魔女「でもそれはそれとして、食べながらしゃべるのはおよしなさいな。みっともありませんわ!」


ライバル魔女「ふう……ドラゴンちゃんお腹一杯ですの?」


ドラゴン「ぐるるる……」コクコク


ライバル魔女「そのようですわね」


友魔女「私も食べた食べた。お腹いっぱい」


魔女娘「……私は、まだ…………」


友魔女「え? 冗談だろ? 君、結局800グラムのステーキを3枚も食べてただろ」


魔女娘「でも、まだ――」グウゥ


ライバル魔女「ちょっと、魔女娘さん……どうしたんですの?」


魔女娘「分かんない……分かんないけど、お腹が空くの……」


魔女娘「うっ――もう、だめ……」

魔女娘「――――」バタン


ライバル魔女「魔女娘さん!?」ダキッ

友魔女「とりあえず、そこのベンチに横にさせて……」

サキュバス「……精気が足りてない……」


友魔女「なんだって?」


サキュバス「精気よ、精気。生気と言い換えてもいいけど……」

サキュバス「字面の通り、生き物を生き物足らしめるのに必要なものよ。精気が不足するということは、即ち生き物としての死を意味するわ」

サキュバス「――精気は、私達サキュバスの主食でもあるわ」


友魔女「ちょっと待て……サキュバス、お前さっき魔女娘に……その、捕食行為おこなってたよな……?」


ライバル魔女「じゃあ魔女娘さんか、その精気が不足しているのは……」


サキュバス「……確かに、寝てる間にマスターからはちょっと精気を頂いたけど……」

サキュバス「それでもパンを一斤でも食べればすぐに補填されるくらいの量――」

サキュバス「禁断症状が出るほどじゃない。だから……こんなこと、起こるはずない……」


友魔女「じゃあなんで、起こるはずないことが――」


後輩「それは、魔女娘先輩とサキュバスさんの相性が良かったからですよ」

友魔女「――?! 後輩ちゃん……? どうして?」


後輩「やっぱり心配だったんで戻ってきちゃいました!」

後輩「あ、安心してください。王子達はおいてきましたんで――」


ライバル魔女「そんなことより、どういうことですの!? ――相性がよかったって」


後輩「そのままの意味ですよ」

後輩「極稀に使い魔と主人の相性が良すぎて、主人が使い魔の特性と同調することがあるんです」

後輩「――つまり、魔女娘先輩もサキュバスになってるってことですね」


友魔女「はあっ?! そんな、聞いたことがない……!」


後輩「先輩が聞いたことなくても、実際に魔女娘先輩は精気欠乏によって倒れました」

後輩「飢餓状態のサキュバスと同じ状態ですよ、これ」

後輩「きっと初めてのサキュバスとしての空腹に体が慣れてないんでしょうね」

後輩「先輩はそれに気づかずに、一心不乱にご飯を食べてましたけど、それだけじゃ精気を回復するのには足りなかったみたいですね」

サキュバス「…………」

サキュバス「なら、サキュバスとしての食事をすれば、良いってことよね」


後輩「そうですね。お腹いっぱいになって精気(えいよう)が体中に回れば、自然と目を覚ますと思います」


友魔女「食事……サキュバスとしての……」


ライバル魔女「――――」

ライバル魔女「ワタクシの部屋に運びましょう」

ライバル魔女「魔女娘さんはワタクシの生涯のライバルですもの。放っておけませんわ」

ライバル魔女「――ワタクシがなんとかします……」


後輩「ソですか。でも、魔女娘先輩は飢餓状態になるほどの空腹です。ライバル魔女先輩一人が精気を提供しても満たされるかどうか……下手したら共倒れになりますよ」


友魔女「……私も行くよ。魔女娘は私の友達だ。こんなことで亡くすわけにはいかない」


サキュバス「私も行くわ。お二人にとっては邪魔かもしれないけど、きっと初めての吸精で勝手がわからないと思うから……私が教えるわ」


後輩「それなら安心ですね」ウン

後輩「さ、決まったのなら急いだほうが良いですよ。魔女娘先輩の命のリミットは刻々と近づいて来てるんですから」


ライバル魔女「急ぎますわよ!!」

ライバル魔女「魔女娘さんはドラゴンちゃんに運ばせますわ。背中に乗せて――!」


サキュバス「お願いね、ドラゴンちゃん」


ドラゴン「キュルルル――!」


友魔女「…………」


ライバル魔女「ほら、友魔女さんも早く――!」


友魔女「――ねぇ、後輩ちゃん……」


後輩「なんですか、先輩? 早くしないと魔女娘さんが手遅れになりますよ」


友魔女「キミ、なんでそんなに詳しいんだ……?」

友魔女「使い魔との特性の同調なんて聞いたことがない……なんでキミは知ってたんだ……?」


後輩「実は私、勉強熱心なガリ勉ちゃんなんですよ。そうは見えないでしょうけど――」


ライバル魔女「友魔女さん――!!」


後輩「ほら、お友達が呼んでいますよ。早く行ったほうがいいですよ」


友魔女「……また、今度話を聞きたい」

友魔女「――ごめん。遅れた早く行こう」タタッ


後輩「…………」

後輩「――なかなかどうして……思い通りにはいかないねぇ…………」

――ライバル魔女視点

――――――
――――
――


 昔のワタクシは、魔女娘さんの事が気に食わなくて仕方がありませんでした。
 その理由はとても簡単で、今にして思えば鼻で笑えるほどのくだらない理由。

 ――ワタクシが入学試験で負けたから。

 たまたま魔法適正が高いからというだけで貴族の仲間入りをした平民上がりの小娘が、たまたま入学試験でワタクシより上になった。
 運だけの相手に負けた。
 当時のワタクシはそんなことで魔女娘さんのことを目の敵にし……思い返すのも恥ずかしいですが、嫌がらせを一杯してしまいました。

 それが変わったのは日々彼女に触れていくにつれ、彼女も努力していることに気づいたから。
 そもそもが平民生まれだというのに、突然、貴族社会の縮図となっている学園に放り込まれて、それでも屈することなく懸命に生きていくには、とてつもない努力とどんな理不尽にも屈することのない精神力が必要となってくる。
 魔女娘さんは、その二つを持っていました。

 だから、彼女と接するにつれて、気に食わないという気持ちが、だんだんと認めてあげてもいいかなという気持ちに心変わりしていくのも必然というもの。

 彼女が努力した結果、ワタクシよりも良い成績を出すというのなら、ワタクシはその倍の努力をして魔女娘さんの事を打ち負かせばいい。


 そう。ワタクシはいつしか魔女娘さんのことをライバルと認めるようになりました。

 そして、ワタクシにとっての運命のあの日。
 すなわち、ワタクシが王子から婚約破棄を言い渡された日。
 その日、魔女娘さんはただのライバルではなくなりました。


 他の女性の事が好きになったからという理由で告げられた一方的な婚約破棄。
 最初、ワタクシは怒りました。その行為は人として、王族としての通りに反している、と。

 けれど、王子は悪びれるどころか、逆にワタクシを怒涛の勢いで貶してきました。頭に血が上っていてよく覚えていませんが……確か、むしろ今まで婚約者にしてやっていたことを感謝しろ、妾にだったらしてやってもいいぞと、これらに類するような事を言われたと記憶してあります。


 身勝手な言い分に何も言えなくなりました。
 前から、王族という身分に笠を着て、厚顔無恥な行いをするのには眉をひそめていましたが、まさかここまで愚かだったとは……。

 ワタクシが唖然としているのを、婚約破棄によりショックを受けたからだと勘違いした王子は(ある意味ではショックでしたけれど……)、我が意を得たりと言わんばかりに更にワタクシのことを責め立てました。

 けれど、もう何もワタクシの耳には届きません。
 ――こんな男に一時とはいえ懸想していたのかと、自身の見る目のなさに愕然とし、ついでこの男はもう駄目だという諦念が心中に渦巻いたからです。
 何も言い返す気になれませんでした。

 周りにいる学友もワタクシ達には近づいてこようとしません。
 当たり前です。相手は腐ってもこの国の王子。
 誰しも下手に口出しして目をつけられるなんてことは避けたいはず。
 ワタクシに味方なんていない。
 魔法界の華だなんだと煽てられても、結局、こういう時に助けてくれるような人は誰もいない。

 そのときのワタクシができたことは己の惨めさに身を震わせることのみ――



魔女娘「なに、勝手なことを言ってるの?」


 ワタクシと王子とを隔てるように、割って入ってきた少女が一人。
 ワタクシのことを守るように背へと隠した魔女娘さんは、キッと王子を睨みつけていました。


 最初、ワタクシはとても信じられませんでした。
 だって魔女娘もワタクシはライバル同士。なんだったら過去に嫌がらせもしました。
 それなのに、ワタクシを庇うなんて、あり得ないと……。

魔女娘「黙って聞いてたら、ライバル魔女のことを散々言いやがって!」

魔女娘「ライバル魔女がどれほど努力してるか知ってるの!?」

魔女娘「魔法特待生の私が……魔法しか能のない私が、魔法で負けそうになるほど懸命に――!!」

魔女娘「魔法だけじゃない……勉強とかマナーとか私なんかじゃ足元にも及ばないくらい頑張ってる!!」


 突然現れて何やらまくし立てる魔女娘に王子はキョトンとした顔をしました。
 けれど、目の前の娘が無礼を働いたというのは分かったのでしょう。
 キョトンとした顔が一瞬で侮蔑に染まりました。


王子「なんだお前は――! お前に関係ないことだろ!」

王子「大体、お前の言っている努力は貴族だったら当たり前のことだ!」


魔女娘「当たり前なんかじゃない!! 貴族だからと笠に着ないで、高貴であろうと努力を重ねる。こんなにできた令嬢はいない!」

魔女娘「ライバル魔女は、お前なんかが馬鹿にしていい相手じゃない!!」


 その言葉は今まで向けられたことのない……。


 公爵令嬢として生まれたワタクシは、王子の許嫁として……つまり未来の王女に相応しくなるべく、幼い頃から習い事に勉強にと勤しんできました。
 ……いいえ、両親から強要されてきました。本当はワタクシは、習い事も勉強も……王子の婚約者という立場だって一度だって望んだことはありません。

 一番をとって当たり前。教師達からも両親からも、そう言われて育ちました。そのためにはもちろん、休みなんてありません。

 そんな生活に疲れ、一度だけお父様に泣いて、休みが欲しいと訴えたことがありました。
 けれどその願いが届くことはなく……。

 ――その渇いた音は今でも耳の奥に残っています。
 頬を張られた音。

 休みが欲しいと訴えたワタクシの頬をお父様は、ブッたのです。

『甘えるな。……お前は将来王族となるのだ。完璧になれ。失望はさせてくれるな』

 こんなに辛いのに、こんなに認めてほしいのに、お父様は……。
 もう涙は出ませんでした。……きっとその時ワタクシは壊れてしまったのでしょう。
 頑張らないと、甘えたことは言ってはいけないと、完璧で――一番でなければいけないと……でないと認めてもらえない。
 だから、頑張りました。好きでもない男を好きになるように努力しました。王女に相応しいよう研鑽を重ねました。
 認めてもらえるように、身をすり減らして。

 なのに、ワタクシが望んだものは何一つ手に入らなくて……。


 だから――


ライバル魔女「魔女娘さん……」


 魔女娘さんの言葉に、ポロポロと熱いものが頬を伝いました。
 あの時に止まってしまった涙が――。

 ああ、魔女娘さん……ワタクシはずっとその言葉が……。

王子「お前――」


後輩「まあまあ、王子様それくらいにして――ね?」


王子「ん……あぁ、後輩がそういうなら……」

王子「おい、ライバル魔女! どう喚いてもお前との婚約は解消するからな」


 まだ、王子が何かしら言っているが、もう気にならなかった。
 だってワタクシには――


魔女娘「まだ言うか――」


ライバル魔女「いいんです。魔女娘さん」


魔女娘「ライバル魔女!?」


ライバル魔女「婚約、破棄しましょうか、王子様」


王子「はっ! 初めからそう言えばいいのだ」

王子「破棄したのならお前にもう用はない。いくぞ、後輩」


魔女娘「ちょっと! まだ話は――」


ライバル魔女「――もういいのです」

 勝手に婚約破棄したらお父様はなんて言うでしょうか。
 別の婚約者が当てられるか、下手したら勘当同然に修道院に送られるか。
 どちらにしても、きっとあの時の比じゃなく怒るのでしょうね。

 でも、後悔はありません。


ライバル魔女「……ねぇ、魔女娘さん」


魔女娘「なに?! 復讐なら手伝う!」


ライバル魔女「望んでませんわ、そんなこと……」

 だって、ワタクシが望んだものは――

ライバル魔女「――ワタクシ達はライバルですわ!」


魔女娘「なに、突然?」


ライバル魔女「突然でもなんでも、ワタクシとアナタはライバルですわ」

ライバル魔女「ただのライバルじゃありません。一生涯のライバルですわ――!!」


 なにそれ? と不思議そうな顔をした魔女娘さん。
 でも、すぐに「私のライバルだったらそんなに泣かないで」なんて言って慌てて私の頬を拭ったのだ。


――
――――
――――――



 ワタクシの部屋のベッドの上。
 そこに苦しげな表情の魔女娘さんが横たわっている。
 あの時、ワタクシの涙を掬った指はピクリとも動かない。

ライバル魔女「こんなことで……」

 うっすらと白んでいる頬に手を添える。
 精気の抜けたその頬は、朝やけの空気の如く冷たかった。

ライバル魔女「こんなことでアナタを失わせない、絶対に――!!」

    ?


サキュバス「まずキスをしましょう」

 若干西に傾いた日の光が、締め切られたカーテンの隙間から細く棚引く。
 薄暗い室内には四人の女性が。

 その内の一人は意識を失っており、顔色悪く冷や汗を垂らしてベッドに横たわっている。
 魔女娘だ。彼女は先ほど使い魔であるサキュバスと同調しサキュバスの能力を得てしまった。その結果としてサキュバス特有の飢餓――精気欠乏を起こしてしまい倒れてしまったのだ。
 精気欠乏から回復する手段は一つ、それはエッチすること。

 その魔女娘を取り囲むように、三人の女性がいた。
 彼女ら三人とも、精気欠乏によって倒れた魔女娘を助けたいという一心のもと、心配そうに魔女娘の顔を見ている。

 
友魔女「なんだ、キスだけでいいのか……」

 三人の内の一人がホッとしたような声を上げる。
 魔女娘の様態の悪化から、かなり無茶をしなくてはいけないのでは、と危惧していたからだ。



サキュバス「いいえ、キスだけじゃたりないわ。ただ今まで一度も吸精をしたことのないマスターのために、キスはあくまでも精気の吸い方を体に教えるためにするの」


ライバル魔女「キス……以上のことをしなくてはいけない、ということですわね……」


サキュバス「ええ……」


 頷くサキュバスを尻目に、ライバル魔女は魔女娘に覆いかぶさった。
 サラリと落ちたライバル魔女の金の髪が、カーテンのように魔女娘を隠す。
 微かな吐息がライバル魔女にかかる。


ライバル魔女「こんなことで……こんなことで、アナタを失わせない!」


 決意を胸に、ゆっくりと顔を近づけた。
 それでも本当にしていいのかと幾ばくかの逡巡の後、意を決し動き出した唇に柔らかなものがぶつかった。


魔女娘「んっ……」


ライバル魔女「んぁ――!」


 唇と唇の重なり、両者から吐息が漏れる。
 触れた直後、魔女娘は身を強張らせたが、薄く目を開き、ライバル魔女の姿を認めるとフッと口許を緩めた。


ライバル魔女(なんてこと……! 柔らかい! 魔女娘さんとワタクシ、今――!)


 対してライバル魔女は混乱の最中にいた。
 憎からず思っている相手、むしろ気になってすらいた相手とキスしているという事実に頭がクラクラとした。


 時間にして数秒のこと。
 だけれど、緊張と興奮のせいでライバル魔女にとって永遠に感じられた瞬間は、我慢できなくなったライバル魔女が顔を逸らしたことで終わりを告げた。


ライバル魔女「っはぁ――――!」


魔女娘「ん、んん……なに、してるの?」


友魔女「魔女娘――!」


ライバル魔女「起きましたの――!」


魔女娘「……なに、これ」


 魔女娘が目を覚ましたことにより歓喜の声を上げた魔女二人。
 だが、当の魔女娘は自身の体にある違和感に、首を傾げた。いや、実際には体を動かすことができず、首を傾げることすらできなかった。


 だが、それよりももっと大きな違和感が魔女娘を戸惑わせた。
 空腹なのだ。それも、物凄く。
 この飢餓感は昼食からずっと続いており、食べても食べても満たされることはなかった。
 だけど……

魔女娘(少し、楽になってる……?)

 空腹感が酷かった時と比べたら、ほんの少しだけお腹が満たされていた。
 あんなに食べても少しも満たされなかったのに何故……と、疑問に思ったが、物事を考えるほどの体力だって今の魔女娘にはなかった。
 すぐにまた目蓋が重くなり、意識が闇の中に沈もうとする。


サキュバス「……んっぁ――――!」


 その唇が、サキュバスの唇で塞がれた。
 今度はしっかりとした意識の中で行われた唇同士の逢瀬。

サキュバス「ん――ジュる……っ」


魔女娘「――っっ!!!」


 ギョッと目を丸くする魔女娘。
 それはなぜか。――口腔内に侵入者が現れたからだ。

 サキュバスは舌を妖しく蠢かし、魔女娘の口腔を好き勝手ひっかき回す。

 湿り気の帯びた軟体からの侵略に魔女娘は目を回す。完全にされるがままだ。
 それをいい事にサキュバスはより一層自由奔放に舌を動かした。
 舌で舌を?き抱いて吸い付き、奪い尽くさんとばかりに舌と唾液を啜る。
 呼吸が上手くできなくて頭をクラクラとさせる魔女娘を尻目に、うふふとサキュバスは淫魔らしく妖艶に微笑むと、頬を両の手で包み込み力強くキスを続ける。
 さながら、捕食するように……。

サキュバス「…………ん?」

 不意にサキュバスの服を引っ張る者がいた。
 唇を離し、そちらを見る。

 友魔女が訝しげにサキュバスのことを見つめていた。


友魔女「本当に精気を送っているのかい……? 私には君が……君だけが食事をしているように見えるんだが……」

サキュバス「あら、ちゃんと送ってるわよ。ほら、意識回復してるでしょ」


魔女娘「……はぁはぁ……ほんと、なにしてくれてるの――うぅっ」

 魔女娘は光に集まるうっとおしい蛾を見るような目でジロリとサキュバスを睨むが、直後に呻き、ガクリと頭を揺らめかせた。


サキュバス「まだ自由に身体を動かせる、って訳じゃないみたいだけど」

 ゆらりと無邪気な子供のように、それでいて正体不明な幽鬼のごとく身を翻らせると、淫魔らしくニタリと笑った。


サキュバス「今、マスターはエッチしないと死ぬ身体になっちゃったの」

サキュバス「自分でも感じるでしょ。――身体が触れ合うたびに、充たされる感覚……潤い、心臓から手足の先へと送り出される熱を」

サキュバス「それが吸精――サキュバスの食事」


魔女娘「なんで、そんな――」


サキュバス「――もういいでしょ」

サキュバス「なんでなんでって一々理由を探るよりも……」

サキュバス「今、湧き出て止まらない、マスターが一番欲しているものはなに?」


 サキュバスの言葉にゴクリと生唾を飲み込んだ。
 その瞳は揺れていた。それは、己の中に湧いた欲が、今まで積み上げてきた常識や良識といった人間らしさを否定しているから。


魔女娘「わ、私は……」


 不安に駆られて呼吸が乱れる。
 しだいに過呼吸のように激しい呼吸へと。徐々に欲は助長し、渇望と理性とがせめぎ合い、散乱として纏まらない思考。

 欲しい……欲しい欲しい欲しい!
 けど駄目だ。それだけは……彼女達に手を出したら戻れなくなる。
 だけど欲しい! 戻れないから何なのだ! 自分でも分かっているのだろう。満たされない空腹に、疼きっぱなしの胸の傷に――。とっくに私は――!


魔女娘「だとしても――!」


 だとしても超えてはいけない一線がある。
 だって彼女たちは、私の大切な――

ライバル魔女「魔女娘さん――」


 不意に踊り出たのはライバル魔女。
 彼女は葛藤する魔女娘の目の前にサキュバスを押しのけて身を割り込ませると、逃さないとばかりに魔女娘の頬に手を添えて顔を近づけた。


ライバル魔女「――――んっ!!」

魔女娘「ライバ……んっぁ!」



 それはライバル魔女にとって二度目のキス。
 サキュバスのそれと比べると児戯にも等しい触れ合い。
 だけれど、そのキスの温かさは二人ともが今までで一度も感じたことのない……。

 ゆっくりと唇が離される。添えられていた手がスルリと解ける。
 魔女娘の目の前には顔をこれでもかというくらいに真っ赤にさせたライバル魔女の姿が。


ライバル魔女「魔女娘さん――ワタクシ達の関係をお分かり?」

魔女娘「それは……ライバル?」

ライバル魔女「いいえ、違います」


 否定したライバル魔女はスッと息を吸い込むと、魔女娘の目を真っ直ぐと見据えて、告げる。


ライバル魔女「ワタクシにとって貴女は、『生涯のライバル』ですわ」

ライバル魔女「ワタクシと貴女は一生涯をかけて競い合い、そして並び立つ間柄!」

ライバル魔女「ご存知ありませんの? そんじょそこらの仲よしこよしよりも、ワタクシ達の関係は強いんですのよ!」

ライバル魔女「ワタクシから逃げられると思うんじゃありませんわよ。例え、貴女が国外逃亡しようと、別の世界に行こうとも――人間じゃなくなったとしても、ワタクシは絶対に貴女を諦めない!」

ライバル魔女「例え貴女がどこの何者になろうとも、ワタクシの居場所ら貴女の横ですわ!」

ライバル魔女「なぜなら、ワタクシ達は生涯のライバルなのですから!」

ライバル魔女「――だから、ワタクシ相手に我慢をしないでください……」


魔女娘「ライバル魔女――」

友魔女「……やれやれ、ライバル魔女だけにいい顔させる訳にはいかないな」


 いつの間にかライバル魔女の隣へと移動していた友魔女はそう言うと、魔女娘の頬に手を添えて無理やり顔を自分の方へと向ける。

友魔女「私だって同じだよ」

友魔女「こんなことで死んじゃ嫌だよ。だって魔女娘は私の大切な友達なんだもの」

 友魔女は魔女娘を抱きしめた。
 まるで、まだ魔女娘がそこにいるのを確認するように。

友魔女「いいよ……魔女娘にだったら、何されても――」


魔女娘「友魔女……」


ライバル魔女「ワタクシだって同じですわ」


 負けじとライバル魔女も魔女娘の事を抱きしめた。

魔女娘「…………」


 魔女娘の手が二人の肩口でゆらりと動く。
 キツくキツく二人のことを抱きしめ返した。強く胸の中にかき抱く。


ライバル魔女「きゃっ!?」

友魔女「わっ?!」


魔女娘「ははっ――」

 驚きに身を竦ませる二人には死角となっているところで笑みを浮かべる。
 唯一それを見れたのはサキュバスだけだった。

サキュバス「あぁ……やっぱり私のマスターは当たりね……」

 その笑みを見て感嘆のため息を漏らす。
 それは、欲に溺れ、色に焦がれた者が浮かべるもの。
 精を啜る淫魔の中にだって彼女程の表情をする者を、サキュバスは一人しか知らない。


 当の魔女娘は、涎が止まらないほど目の前の少女達にかぶりつきたくて仕方がなかった。
 これで空腹がどうにかなるぞ、と。
 これが一番欲しかったんだ、と。

 魔女娘が浮かべたもの。


 ――それは下卑た淫魔の笑みだった。


 そこに理性はなく、代わりに食欲に呑まれた獣(淫魔)がいた。

ライバル魔女「きゃ――――!?」

友魔女「わっ――――」


 魔女二人が驚嘆の声を上げてベッドに倒れる。

魔女娘「ふふふ……」

 不敵な笑みを浮かべる魔女娘に押し倒されたからだ。
 二人を押し倒した魔女娘は、本能の赴くまま、友魔女の形のいい胸の膨らみへと手を這わせる。
 そのまま笑みを絶やさず服の上から胸を揉みしだいた。


友魔女「ふへぁ……ちょ――魔女娘?!」

 親友からの不意打ちじみた愛撫に思わず素っ頓狂な声を上げ、身をよじらせる。


魔女娘「駄目だよ。――逃げないで」

 妖しく光る魔女娘の瞳。
 その瞳は怨敵を追い詰めたメデューサの如く、身をよじらせ魔女娘の手から逃れようとした友魔女を射る。


友魔女「へっ――!?」


 瞬間、友魔女の身体は逃げるどころか身じろぎ一つできなくなった。

 抵抗は許されない。自分にできることは、目の前の女に身体を差し出すことのみ。
 その瞳に見つめられると、不思議とそれが正しいことのように感じた。


友魔女「んっ――あ……ぁ――魔女娘ぇ……」


 されるがままを受け入れた友魔女の口から甘い吐息が溢れ出す。

 それを確認すると魔女娘は、緩慢と揉みしだく手を止めずに、ライバル魔女へと顔を向けた。

魔女娘「…………」

ライバル魔女「魔女娘さ――ぁん……」


 何も言わずにライバル魔女の唇を塞ぐ。唇で、だ。


魔女娘「ん……くふぅ――ん、ん」


 しばらくは唇の柔らかさを堪能するように執拗に唇を押し付けキスを貪る。


ライバル魔女「ん……ぁあ、ん……はあぁ――っくちゅ――ちゅっ」


友魔女「っ、はあぁっ……だめ、魔女娘っ――んっ」


 うら若き乙女三人が、肉欲に溺れて絡み合う。
 甘い喘ぎと、粘着的で湿り気を帯びた空気。そして、鼻孔を擽る淫らな香り。

 それらは全て快楽を求めんとする魔女娘によって引き起こされたものだ。
 彼女は内に灯った渇望の火を絶やすことなく、貪欲に手を伸ばす。


友魔女「っ――はあ……ぁん」


 魔女娘の手が友魔女の胸から下へと滑る。
 シャツのボタンを外しながらお腹のラインに指を這わせた。


魔女娘「ふ、ふふふ……」

 妖し気な笑みを浮かべ、スカートを引きずり上げる。
 


友魔女「ぅ……うわぁ――」

 太腿をか細い指になぞられ、虫が這ったようなゾゾ気に引きつった声を上げた。

 内腿のすべすべとした感触を楽しむように撫でつける。


友魔女「そんな、魔女娘……ぁっ――だめ……」

魔女娘「何が駄目なの? ふふっ、ねぇ――ひょっとして、ここに触ること?」


 小悪魔めいた笑みを浮かべて、指がスカートの最奥――乙女を乙女足らしめる部分を小突く。
 指先が湿り気に触れる。


友魔女「ひゃ――」


魔女娘「へぇ……ここ、こんなにして。期待してるんでしょ」


友魔女「そんなこと――」


 クチュ。
 言い切る前に、粘ついた音が響く。

 魔女娘が奏でたそれは一度に留まらず、一流の演奏家のように匠に指を爪弾かせ、見事に友魔女は下着の奥の泉から淫らな音を、または口から吐息混じりの甘い声を響かせる楽器と成り果てた。


友魔女「ぁっ……あ、あ――っ」

魔女娘「気持ちいいんだ? 今まで見たことないだらけた顔してるよ」


友魔女「そんな、これは……魔女娘が無理やり……ひゃ――!」


魔女娘「無理やりなんて酷いなぁ。望んで私とこういうことするくせに」


友魔女「ひゃ、ひゃん――あっ、ま……魔女娘ぇ――」


魔女娘「ほら、体は正直ってね」


 にやつきと共に蜜が漏れしとどに濡れている花弁を掻き立てる。
 さながらメレンゲを泡立てるように乱雑に。

 優しさのないその手付きに、それでも友魔女の身体は確かに反応した。
 むしろ、その乱雑さが――


友魔女「ら、らめぇっ!! こんなに気持ちひぃのっ――おかひくなるぅ」


 あまりの快感に脳のシナプスが焼け焦げ、呂律がまともに回らない。
 加速度的に吹き荒れる快楽という名の暴風。
 今までの人生で一度も体験したことのないような甘く過激な刺激に、長く持つはずもなく……。


友魔女「んっっ――!! く、あああっっっああぁん!!」


 甘い絶叫。そして堪えるように脚がピンっと伸びた。
 びくんびくんと腰が跳ね、焦点の合わない瞳はそれでも魔女娘の事を必死に見つめていた。

魔女娘「あは、ごちそうさま」


 そう言うと手についた愛液をペロリと舐めて、ニヤリと口角を上げる。


友魔女「あ……ぁあ」

 腰の痙攣は収まり、絶頂を迎えた証としておへその下あたりに僅かばかりの熱がくすぶる。

 余韻に浸ろうとして、友魔女は自身の身体がまったく動かないことに気がついた。
 
 倦怠感が身体を支配し、思考は靄がかかったようにぼんやりとした。


友魔女(これが、精気、けつぼう……?)

 まともに働かない頭で思考する。
 確かにこれ程力が抜けるのならば、魔女娘が倒れたのも頷ける。

 だから嬉々として舌なめずりをしている魔女娘を見て。

友魔女(良かった。元気になって……)


 そう、安堵したのだ。
 安堵と同時に、意識が薄れていき闇へと沈んだ。




魔女娘「さてと……」


 気絶してしまった友魔女を脇へと移動させ、視線をもう一人の少女へと向ける。


ライバル魔女「ぅ、ううぅ……」

 そこには目を潤ませたライバル魔女がいた。
 

魔女娘「ごめん。待たせたね」


ライバル魔女「ま、待ってなどいませんわ――その、まだ満足できてないんですの?」


魔女娘「くすっ。おかしなことを聞くね。こんな気持ちいいこと満足してもしきれな――いっと!」


ライバル魔女「きゃ――きゃあ!?」


 魔女娘はライバル魔女の足に手を這わせると、一瞬にしてスカートを剥ぎ取り下半身を白のショーツ一枚にしてしまった。
 そのまま足を掴み、ライバル魔女の身体がくの字に曲がるように持ち上げた。


魔女娘「やっぱり食事は口でしないとね」


ライバル魔女「口って……まさか貴女……」


魔女娘「そのまさかだよ」


 こともなげに言い切ると、所謂まんぐり返しとなっているライバル魔女の股に顔を突っ込んだ。
 そのままちゅっちゅと舐めだした。


魔女娘「ん、んく。ぴちゃぴちゃ――じゅるん」


ライバル魔女「ん、ああぁん――や、やめて……そんなところ……汚い、ですわ」


魔女娘「汚くないよ……うふふ、とっても美味しい――」


 くにくにと蜜の溢れる花弁をショーツ越しに人差し指で弄びながら、ペロリと口端を舐めあげる。

 ライバル魔女はそんな恥ずかしい姿も、魔女娘に足をひっくり返して押さえつけられているため、つまびらかに見えていた。
 目を離すことができなかった。
 何故なら、蠱惑的なその光景に釘付けになったから。もっと言えば悦びすら覚えた。


魔女娘「さてと……こんなに美味しいの、直接食べないのは損だよね」


 そう言ってクロッチの部分を引っ張ると、こともなげに風の魔法を唱えた。

 ショーツの薄布は風の刃を前に一瞬にしてびりびりと切り裂かれ、意味のない布きれと化す。
 淫液と唾液で濡れ、物欲しそうにヒクヒクと蠢いている花弁がさらけ出された。


ライバル魔女「うっ――うわあ」

 さながら熟れたりんごのように。
 これ以上ないほど羞恥に頬を染めたライバル魔女。
 それもそうだ。今まで誰にも見せたことのない箇所を無抵抗に暴かれ、しまいにはまじまじと見られるなんて。想像すらしたことのない羞恥に身をよじらせた。

 だが――――


ライバル魔女「こ、の――――!」

 されるがままを受け入れるだけなら魔女娘のライバルを名乗っていない。


魔女娘「あら――?」


 お尻が両の手で掴まれた。何事かと思い視線を下げると、ライバル魔女は魔女娘のお尻を自身の顔の上まで引き寄せた。

 そのまま――

ライバル魔女「ん、ちゅっ――」

 スカートの中に頭を突っ込むと、ショーツを唇で横にずらして魔女娘の乙女の部分に直接口づけた。
 そこは汁でぐちゅぐちゅでめちゃくちゃ。むせ返るような雌の匂いがスカートの中に満ち、蛇口を捻ったように溢れ出す淫らな汁に溺れそうになる。


ライバル魔女「負けませんわ――」


 溢れ出る蜜に溺れそうになるというのなら、溺れる前に全て吸いつくせばいい。
 ズズズズズッッッッ!!!
 今まで一度も立てたことのない下品な音を響かせながら、魔女娘の陰唇へと武者ぶりつく。


魔女娘「あっ、ンあ――あはっ」


 突然攻められ、下半身から頭にかけてピリッと電気が走る。
 それでも魔女娘の顔に浮かぶのは笑顔。
 喜悦に悦ぶその笑みは、ライバル魔女に対する愛情と信頼の証。


 やっぱりそうだ。ライバル魔女がただされるがままなんてありえないと。彼女はきっと同じ土俵で戦ってくれる。それが例え淫靡なことであっても。


魔女娘「あーむっ! ――ちゅるるる!!」


 だから、彼女の陰唇を貪った。
 彼女は負けないと言った。だったら魔女娘も負けてはいられない。
 ライバル魔女風に言うならば、魔女娘とライバル魔女は生涯のライバルなのだから――!


ライバル魔女「――ッッ~~~ッン!!!!」


 遠慮なしに魔女娘の全体重がライバル魔女の顔へのしかかる。
 強制クンニにいよいよ呼吸ができなくなる。苦悶と快楽の波に揉まれ、もはや声は声にならず。
 だが、それで引くようなライバル魔女ではない。
 むしろ、開いた口を一切の隙間なく陰唇へと――。

 ライバル魔女は残った少しの理性で考える。
 このまま続けたところでサキュバスと化してる魔女娘には勝てない。
 見ると魔女娘も魔女娘で理性が吹き飛び、サキュバスとしての欲望に忠実だ。手加減はまったくしていないのだろう。
 だとしたら、多少人より魔法が使えるだけのただの人であるライバル魔女は、精力を吸われ尽くしていずれ負ける。

ライバル魔女(でしたら――!)

 人より多少使える魔法で攻めるしかない。
 使うのは音の魔法。音とはつまり振動。
 振動を吠えてぶつける。口は未だライバル魔女の陰唇に隙間なく吸い付いている。


ライバル魔女「――――――ッ!」

 ヴヴヴヴヴヴヴッッッ――――!
 バイブレーションの声砲が魔女娘の陰唇を貫いた。

 
魔女娘「ひっ――な、な――」


 一瞬にして魔女娘の顔から余裕が消えた。
 分かりやすく例えるならば巨大なローターが女性器全体に押し付けられてるような……。
 しかも、パワーは最大。手加減はない。

 さしものサキュバスと化してる魔女娘だって喰らえば一溜りもない。
 たまゆらにして快感のメーターは振り切れ、絶頂へと上り詰める。


魔女娘「あぁあん――んッ! 駄目……だめだめっ! イク!! イクイクいくぅっ――――っ!!!」


 魔女娘の背がピンっと伸び、腰が感電したようにガクガクと震える。
 余計にライバル魔女の顔に乗っているお尻が重くなったが、それでも魔法だけは止めることはなく。ここで気絶しても決して止めないという気迫がライバル魔女にはあった。
 果たしてその執念は実を結ぶ。


魔女娘「――――――」


 不意にプツリと糸の切れた人形のように魔女娘が崩れ落ちる。
 重さから開放されたライバル魔女はお尻の下から抜け出し、くたりと倒れた魔女娘を見下ろした。

 ハァハァと肩で息をしてぐったりとしている魔女娘。
 ライバル魔女はそんな彼女を見て満足気な笑みを浮かべると。


ライバル魔女「う……力が……」


 自身もフラフラだということに気がついた。
 それも当たり前だ。
 まともに呼吸ができない状態で魔法を全力行使したのだ。
 クタクタになっても仕方がない。

 けれど、やっぱりライバル魔女の中で一番大きかったものは――


ライバル魔女「勝ちましたわ――」

魔女娘「流石ライバル魔女。まさかイカされるとは思わなかった」


ライバル魔女「…………え?」


魔女娘「それに魔法も使ってくるなんて」


 むくりと何事も無かったように身体を起こす魔女娘。その姿に倦怠感の欠片もなく……。


ライバル魔女「どうして……?」


魔女娘「どうしても何も……まだまだ腹八分目ってところだし。いやあ、なかなかどうして美味しいね、ライバル魔女」

魔女娘「あ、もしかして満足したと思った? まだまだ食べられるよ、私」


ライバル魔女「そんな……」

 愕然。今のライバル魔女にこそ、まさにその言葉が似合う。
 魔女娘が意識を取り戻した後も、ライバル魔女がエッチなことに付き合ったのは、……まあ、魔女娘のことが好きだからというのもあるが、サキュバスの本能に呑まれた彼女の事を正気に戻したいとも思ったから。

 サキュバスという種族は女をイカせることで精力を吸い取っていると思っていた。
 だからこそ、逆に派手にイカせ気絶させれば終わると。
 しかし、実際にはイカせてもイカされても精力を奪い取れるときた。


ライバル魔女「……いつの間にそんなエッチな人になっちゃったのかしらね?」

ライバル魔女「もしかして元から? ムッツリっていうやつかしら」


魔女娘「あはっ、どうなんだろうね。元から私の中にあった欲かもしれないし、違うかもしれない」

魔女娘「でもね、これだけは言えるの。――今、すっごい満たされてる」

 にこりと笑って。

魔女娘「でも、もっと欲しい」

 そう言うと魔女娘は右手を構えて魔法を唱える。

魔女娘「魔法を使うってアイデアいただくね」

魔女娘「ま、そのまま使うって言うのも味気ないからさ……」

 指先に水が発生する。
 その水がグルグルと渦巻いて、渦潮を形作る。
 それだけには留まらず、ヴヴヴッと渦潮に振動が加わった。


魔女娘「まずはだいぶエッチな汁で汚れちゃったし、水で綺麗にしようか、そこ」


 あの渦潮がどれ程恐ろしいか。ライバル魔女は息を呑んだ。
 回転と振動。それに水であるが故に流動的だ。
 つまり、ライバル魔女の陰唇にぴったりとくっつき、回転と振動を与えてくることに他ならない。
 あれで遊ばれたら最後、間違いなくなす術はないだろう。

 ちらりと友魔女のことを盗み見る。
 未だに寝息を立てており、それに若干顔色も悪い。精気欠乏の症状だ。よしんば目を覚ましたとしても手助けは見込めない。

ライバル魔女「自分で洗えますわ……と言っても聞いてくれませんわよね」


魔女娘「そんな悲しいこと言わずに――さあ、まだまだ楽しもうよ」


サキュバス「いんや、流石に欲張り過ぎだね」

魔女娘「サキュバ――ん!?」


サキュバス「――んんっ」


 サキュバスはライバル魔女の前に割って入ると、キスで魔女娘の唇を塞いだ。


サキュバス「ぷはっ……ふぅ。とりあえず腹八分目で我慢なさい。太るわよ」


魔女娘「ぅ――うぅ……」


 うめき声を上げると、油の切れたランプのようにフッと意識を失った。
 それを見たライバル魔女は慌てて――

ライバル魔女「魔女娘――!」

 抱えてみると穏やかな寝息を立てている。苦しげではない。
 そのことに安堵し、サキュバスの方を見ようとして、


サキュバス「ほら、貴方も――ちゅ」


ライバル魔女「んんん――!」


 ライバル魔女の唇も塞ぎ、短いながらもキスをした。
 

ライバル魔女「――っ、何しますの!!」


サキュバス「精気の再分配だよん」

サキュバス「我が愛しのマスターは、初めての吸精で舞い上がっちゃったからね」

サキュバス「マスターから過剰分の精気を吸精したの。あとまだ止まりそうになかったから催眠もかけた」


サキュバス「だから――」

 友魔女にも近づくと、寝ている彼女とも唇を重ねた。
 友魔女の表情が和らいだものへと変わる。


サキュバス「これでおっけー。みんな等しく精気は行き渡ったわ」


ライバル魔女「……一応、礼を行っておきますわ」

ライバル魔女「……って、アナタ、そんなことできるなら、わざわざワタクシたちがこの……えっちなことする必要なかったのではなくて?!」


サキュバス「まあ、いいじゃん。おかげで楽しい事もできたし。――それにサキュバスとして生きていくなら遅かれ早かれこういうことはしなくちゃいけないし」


ライバル魔女「……ああ、もう! 色々言いたいことはありますが、今日はもう疲れましたわ!!」

ライバル魔女「少し寝ますわ!」


サキュバス「うん。お疲れ様。お休みね」


 ライバル魔女は返事をすることなく、魔女娘の隣に横になる。

 そんな彼女達のことをため息混じりに見つめると、気を取り直してサキュバスもベッドに横になった。

 何も言わないライバル魔女を尻目にサキュバスは――


サキュバス(気づかれたかな……?)


 三人での吸精の強要。人一人分の精気を吸精しても満足しなかった魔女娘。その魔女娘は行為の最中、人の変わったようになった。


サキュバス(ほんと、マスターガチャでアタリを引いたな)


 魔女娘こそずっとサキュバスが求めていた人物かもしれない。
 始めて彼女のことを夢の中で抱いた時に感じた親近感。

 だからさっきの吸精のキスの際に仕込みをしたし、細工も施した。

サキュバス(あとは仕掛けを楽しみに……)

 そんなことを思いつつ、微睡みに身を落とした。

――???視点

???「ついにこの時が――」


 私の目の前に広がる広大な学園。
 王立カースカーム魔法学園。
 此処こそゲーム『乙女のハートは恋の魔法』略して『おつ恋』の舞台となる学園。

 十六歳となった私はこの学園へと入学することとなる。
 そう十六歳。
 つまり、あの日から――自称神が私をゲームの世界に転生させてから十六年経ったということになる。

 十六年。短かったと言えば嘘になる。
 それに、そもそも私が転生したのはヒロイン、つまり主人公だ。

 『おつ恋』のストーリーをざっと話せば、平民の女の子が王子様、もしくはお貴族様と恋に落ちる逆玉ラヴストーリー。
 そこで問題となってくるのが、主人公が割かし底辺気味な平民だったということだ。
 幼い頃に両親は事故で死別。それ以降、孤児院も兼ねている教会で過ごすのだが……お世辞にも裕福とは言えない環境だった。
 一日二食は当たり前。そこに住んでいる子ども達に課せられるのは週六日で朝から夕までの奉仕活動。加えて、あちこちがガタガタでボロボロな設備。

 現代日本出身者から言わせれば、どんなブラック企業だとツッコミたくなるところだが、悲しきかな、この世界に労基はない。
 だからと言って、仮にそこから逃げ出したとしても、人攫いに捕まって奴隷として売られるか、ガラの悪いやつに殺されるかの二つに一つかだ。
 それが分かっているから逃げ出す子どもはほとんどいなかった。


 だが、転生者でこの世界のことを知っている私から言わせれば、真っ黒な労働環境など二の次だった。

 何より、そこで奉仕しているシスターに問題があったのだ。

 この話をするには『おつ恋』のオチを語らなくてはならない。
 そもそも『おつ恋』は、ただのイケメン達とヒロインの恋物語ではない。
 敵役(ヒール)がいる。
 この場合の敵役とは悪役令嬢のことではなく、ヒロインと結ばれたヒーローを貶める悪役のこと。

 そいつは、【災厄の魔女】と呼ばれていた。
 その【災厄の魔女】は、物語の終盤突如として現れ、結ばれたばかりのヒロインとヒーローを襲う。
 物語の序盤からその存在は示唆されてはいたが、初見で登場したときには度肝を抜かれたものだ。

 悪逆非道で情け容赦のない彼女の登場によって話は急転。手に汗握る展開となった『おつ恋』は一気に面白くなった。事実、【災厄の魔女】が登場により良作だった私の『おつ恋』の評価は、傑作へとまたたく間に上がったのだ。

 初登場時に、悪役令嬢であるライバル魔女の腹を貫き絶命させ、さらに学園を半壊。あげく国そのものが崩壊寸前まで追い込まれた。
 主人公とくっついたヒーローまでもが【災厄の魔女】を止めようとして返り討ちにあってしまい、死ぬ寸前まで追い詰められてしまう。
 それを救ったのがヒロインで――ヒロインこそが【災厄の魔女】を倒すことのできる人物で……と、本筋のネタバレはここまでにしておいて。

 問題は【災厄の魔女】の正体だ。
 その魔女の正体こそ、孤児院兼教会のシスター。

 【災厄の魔女】の登場から物語が面白くなったと言っても、将来国を滅茶苦茶にする奴が近くにいるなんて冷や汗を?くなんてもんじゃない。
 いくら主人公の私が【災厄の魔女】を倒すことができる存在だとしても、いつ気まぐれに殺されやしないか……ラスボスとひとつ屋根の下で生活するのは流石に生きた心地がしなかった。


 だから、こうして無事に魔法が発現し、学園に入学できたことに物凄く安堵している。

 ……だというのに。


ライバル魔女「納得いきませんわ! どうして平民上がり如きが試験でワタクシよりも上の点数がとれますの!!」


魔女娘「……どうしても何も……私よりできないから、私より下なんでしょ」


ライバル魔女「なんですって!?」


 ………………。
 なんで、この二人が喧嘩してるの?
 まだこの二人はあまり接点がなかったはず。
 この段階じゃ、こんな口論をする仲じゃ……。

 そう思って聞き耳を立てていると、どうやら入学試験で魔女娘がライバル魔女より良い点数を取ったことで因縁をつけられたらしい。

 それを聞いてまたも唖然とした。
 私の知ってる『おつ恋』と違う。

 魔女娘は筆記も魔法も試験で高得点を取れるようなキャラじゃない。
 ライバル魔女のキャラはそのままだとしても、二人が入学当初に接点を持つなんてストーリーにはなかった。


 そこでふと転生前に自称神が言っていたことを思い出す。
 イレギュラーが起きたと。確かにそう言っていた。
 これが、それか。


 ストーリーが……『おつ恋』の世界が変わっているのだ。


 私は未だに口論を続けている二人へと近づいた。
 ストーリーに変化が起きている。そして、転生前に自称神が、物語をあるべき姿に戻してくれと言っていた。
 なんで戻してくれと言ったかは定かではないが、【災厄の魔女】という世界を簡単に破壊できるやつがいる以上、そいつを確実に倒すためにはストーリー通りに事を進めるのが一番だからか。
 だったら、私のすべき事は一つ。

 私は、二人の仲に割って入って口を開いた。


友魔女「喧嘩は辞めなよ。二人とも仲良くしよ?」


 物語に介入し、この世界をより私好みに改造しちゃえ。
 やることは『おつ恋』の二次創作みたいなものだ。
 それなら生前に『おつ恋』の二次創作で年二回の祭典で壁サーにまで上り詰め、某支部でデイリー一位を頻回に取るくらいには得意中の得意だ。
 要は最後に【災厄の魔女】さえ倒してしまえばいいのだろう?

 だったら、私は第二の人生、推しに――主人公の親友にして健気で麗しくひたむきな、それでいて儚い『おつ恋』……いや全メディアの中で最かわな魔女娘に幸せになってもらえるよう尽力しよう。


 ――有り体に言えば、私は魔女娘の限界オタクなのだった。

――――――
――――
――


魔女娘「んん~よく寝た……」


サキュバス「あらおそよう。体調はどう?」


魔女娘「おそよう……? ってもう夕方か……」

魔女娘「体調も何も……」


魔女娘「……ちょっと待って。私、どうなってた……?」


友魔女「うぅ……くふぁ……もう起きたのかい魔女娘」

ライバル魔女「んん……おはようございます……元気そうですわね。良かった」


魔女娘「はへぇ? ……なんで裸……?」

魔女娘「――って!? 私も裸ぁ!? なんで――」


ライバル魔女「なんでも何も……」

友魔女「その……魔女娘は私達にやったこと覚えてないのかい?」


魔女娘「やっ、やったこと……?」


サキュバス「ヤッたことと言ってもいいね」シュッシュッ


ライバル魔女「今すぐその下品なジェスチャーをお止めなさい。はしたないですわよ、淫獣」


サキュバス「はしたないことをしていたのは貴女たちでしょ。3人で絡まって……ねえ?」


魔女娘「えっ? えっ!?」

魔女娘「――――ぁ……!」カアアア


魔女娘「わ、私なにしてんの――!?」


サキュバス「あ、思い出した?」

魔女娘「思いだしたも何も――なんてこと」


サキュバス「そう慌てるなさんな。ちゃんと合意の上での行為だから」


魔女娘「合意って――」


友魔女「ぅ……まあ、キミを救う為に必要だったし……」


ライバル魔女「ワタクシ達のことを……き、気にする必要はありませんわ! 犬に噛まれたようなものですわ!」


サキュバス「でも、なんだかんだで満更でも無かったよね?」


友魔女「…………うぅ」カアア


ライバル魔女「何を言っていますの?!」


サキュバス「さてと、ご主人様も目覚めたことですし――」


魔女娘「な、なに……? まだするの……」


サキュバス「いや何かすると言うより、しなかったというべきかしらね」


ライバル魔女「む……勿体つけずに教えなさいな!」


サキュバス「いや、キミたち、午後の授業バックレたけど大丈夫かしら、と思ってね」


友魔女「えっ?」


ライバル魔女「あっ?!」


魔女娘「――今、何時!?」


サキュバス「夕暮れに入ったところ」


ライバル魔女「な、なんてことっ!? このワタクシが! 今まで無遅刻無欠席を誇ったこのワタクシがぁ!!」

ライバル魔女「爛れた事をして授業を無断欠席してしまうなんて!」

魔女娘「その……ごめんね。私のせいで……」


ライバル魔女「魔女娘さんが謝ることなんてありませんわ! 悪いのはこの淫獣なんですの! そう、この淫獣! どう落とし前つけてくれる気ですの!」


サキュバス「……君の実家絶対明るいことして貴族になってないよね。脅し文句がカタギじゃないよ」


友魔女「まあまあライバル魔女落ち着いて。やってしまったことは仕方ないよ。事情説明して謝りにいこうか」


ライバル魔女「なんて説明する気ですのよ」


友魔女「魔女娘が体調不良で看病してました、っていうしかないでしょ。嘘ではないわけだし」


ライバル魔女「それしかありませんわね……」


ドア「」コンコン

???「ライバル魔女様いらっしゃいますか?」


ライバル魔女「この声は取巻きさんですわね」


ライバル魔女「おりますわよ」

取巻き「ああ良かった。いらっしゃるのですねライバル魔女様。魔女娘さんの様態は如何ですか?」

取巻き「あ、部屋の中に入ってもよろしいですか」


友魔女「魔女娘のことなんで知って……? ――って、部屋は不味い。私達全員裸!」


ライバル魔女「――実は……ま、まだワタクシたち風邪気味で……ゴホゴホ……だから移したら申し訳ありませんのでどうかそのまま」


取巻き「そうなのですか?」


ライバル魔女「え、ええ……」


取巻き「でしたら申し訳ありませんがドア越しで」


ライバル魔女「そうして頂けると助かりますわ」


ライバル魔女「取巻きさんはどこで魔女娘さんが倒れたのを知ったのですか?」


取巻き「後輩さんです。授業が始まる少し前に教室までやってきて、魔女娘さんが倒れたのでライバル魔女様が看病していると伝えてくれたんです」


ライバル魔女「そうなのですか」


取巻き「ひょっとして友魔女さんもそちらにいらっしゃいますか?」


友魔女「ん、いるよ。その口ぶりからすると後輩ちゃんは私のこと話してないっぽいね。ごめんね心配かけたね」


取巻き「いえ、大事ないのでしたら構いませんよ」


取巻き「あ、そうそう先生から伝言を頼まれていたのでした」

取巻き「後日、午後の講義の補講を行うそうです。それと魔女娘さんの体調が回復せずに明日も休むのなら連絡するように、と」


取巻き「では確かに伝えましたので。私はこれで」


ライバル魔女「ええ、ありがとうございました。お気をつけて帰ってくださいね」


取巻き「ごきげんよう」


ライバル魔女「ごきげんよう」

ライバル魔女「さてと――」

ライバル魔女「もう体調は大丈夫ですわよね、魔女娘さん」


魔女娘「う、うん」

魔女娘「でも、なんで私、あんな風になってしまったの?」


サキュバス「そうね、じゃあそこらへんから話しましょ」


ライバル魔女「ちゃんと事実だけ話すんですのよ!」


サキュバス「わかってるよ。信用ねぇなぁ」


サキュバス「じゃあ心して聞いてねマスター。今のあなたに起こってること。今日みたいなこと何度となく起こるから」

――――――
――――
――



――???


取巻き「はい。ライバル魔女、魔女娘、友魔女の三人一緒にいました」


後輩「そう。やっぱりね」

後輩「もう遅いかな……できれば友魔女はこっちに引き入れておきたかったんだけど」


後輩「この馬鹿みたいね」バチン

王子「ウグァっ!!」ビクン

後輩「私みたいなか弱い乙女が小突いたくらいで動くんじゃないよ! 椅子すらまともにできないのか、この馬鹿は!」

王子「も、もうしわけありません……」


後輩「椅子がしゃべるな――汚らわしい……チッ、萎えるわ」


後輩「ああ、そうだ」ニヤリ


後輩「よく友魔女共の様子を見てきてくれたね。ご褒美をあげようね」


後輩「服を脱いで跪け」


取巻き「はい……」パサッ


後輩「いい眺め……顔は上げて……そうそう――」

後輩「うふふ……アハハ――あなたのお顔良い踏み心地だわ」

後輩「そら、お舐めなさい」

後輩「いま、あなたの顔を踏みつけてる私の足を、犬のように惨めったらしく舐め回して私に媚を売るの」

後輩「出来るでしょ……出来るわよね――出来たらもっといい事してあげる。そら……そらそらそらそら――!」グリグリ


取巻き「ぁあ、ピチャピチャ――れろ、ハァハァ……ありがとうございますありがとうございます……レロレロんちゅ、はぁ……後輩さまの足を舐められるなんて、私は幸せものにございます……」


後輩「あは、良いね。サイコー」

後輩「いいよ、合格。ご褒美に今夜も魅了してあげる。精々美味しく戴かれてね」ニヤリ


――
――――
――――――


――翌朝

魔女娘「ふわあ~よく寝た」


サキュバス「おはよマスター。おかわりはない?」


魔女娘「おかげさまで昨日みたいな空腹はないよ……けど普通にお腹空いた」


サキュバス「あら、だったら私のことつまみ食いする?」


魔女娘「いい。普通にご飯食べる」


サキュバス「やん、いけずぅ」


魔女娘「……それにしてもまさか私がサキュバスになるなんて……」


サキュバス「やっぱりショック?」


魔女娘「別に。食事の仕方が一個増えただけ」


サキュバス「昨日あんなに取り乱してたのによく言うね」


魔女娘「……まあ、なんとでもなるでしょ。だからもう気にしない」


サキュバス「セックスするのに?」


魔女娘「気にしないの――――」


魔女娘「ほら、学食いくよ。サキュバス云々の話より朝飯前の腹ごなしが私には必要。とりあえずパンにしとこうかな」


サキュバス「腹ごなしってそういう意味じゃないと思うけど……まぁついていきますよ、マスター」


――学食


ライバル魔女「おはようございますわ、魔女娘さん。朝からいい食べっぷりでわすわね」


魔女娘「ん! んぐんぐ……ぷはぁ、おはよライバル魔女」


ライバル魔女「おかわりなさそうで安心ですわ」

ライバル魔女「……その、あれから、えー……その、アレな気分になったりしていませんか?」


魔女娘「なってないよ。大丈夫。ありがと心配してくれて」


ライバル魔女「そうですか……
もし必要になったら……ち、ちゃんと言うんですのよ! ……昨日約束したんですからね!」

ライバル魔女「遠慮なんかしては駄目ですわよ! ワタクシと魔女娘さんは生涯のライバルなのですから――」


魔女娘「うん……ありがとう――」


サキュバス「ふぅん」ニヤニヤ

――昨日



サキュバス『――という訳でマスター、サキュバスになっちゃった』


魔女娘『なにそれ――嘘でしょ』


サキュバス『嘘みたいでしょ。でも本当。……私だって驚いてる』

サキュバス『これからどうするかも考えなくちゃいけないね』

サキュバス『サキュバスとしての空腹を長いこと放っておくと、また今日みたいなことになるだろうし』


友魔女『ということは、今日みたいなことを定期的にしなくちゃいけない、と?』


サキュバス『そりゃサキュバスだからね』


魔女娘『……その、特性の同調……っていうのは切れないの?』


友魔女『分からない。聞いたことのないことだから』


ライバル魔女『使い魔との契約を切ればあるいは……』


サキュバス『と、私も思って使い魔契約の魔法陣を確認したんだけど……ほら、これ』


ライバル魔女『なになに……ってこれ解除無効の刻印?! しかも難易度Sのものじゃありませんの、滅多に解けませんわよこれ!? この淫獣なんでこんな手のこんだ細工を――』


サキュバス『私じゃない。いつの間にか書き変わってた』


ライバル魔女『嘘おっしゃい!』


友魔女『まあまあ……とにかく今は魔女娘のことだよ』

魔女娘『……つまり、これから生きてくには、定期的にえっちなことしてかなくちゃいけないってこと?』


サキュバス『そういうこと』


魔女娘『……ぅわ』クラッ


友魔女『魔女娘!? 大丈夫!?』


魔女娘『どうなるんだよ、これから……』


ライバル魔女『魔女娘さん……』

ライバル魔女『――これからはワタクシが受け止めますわ!』


魔女娘『ライバル魔女……?』


ライバル魔女『貴女が必要だというのなら、身体ぐらい張りますわ』

ライバル魔女『だから、そんなに落ち込まないでください』

ライバル魔女『貴女はワタクシの生涯のライバルなんですのよ。ワタクシに落ち込んでいる姿を見せてはいけませんわ』


友魔女『もちろん私も協力するよ。遠慮なんかしないでよ』


魔女娘『なんで……なんで私なんかのために……』


ライバル魔女『簡単なことですわ』

ライバル魔女『ワタクシにとって魔女娘さんは“なんか”じゃありませんから』


友魔女『そうそう。大切な友達だからね。辛いかもしれないけど、私達がいるからね』


魔女娘『二人とも……』

魔女娘『ありがとう――――』


サキュバス『…………』

サキュバス『え? サキュバスになるのそんなに嫌?』


魔女娘『……』

ライバル魔女『当たり前じゃないですの』

友魔女『まあ、進んでなりたいものじゃないかな』


サキュバス『ひっど……』


――――――
――――
――

ライバル魔女「そうそう友魔女さんが特性の同調について知っている人に心当たりがあると言っていましたわよ」


魔女娘「本当? 何か分かればいいけど……」


サキュバス「早く私との同調が切れるといいわね」


魔女娘「昨日、サキュバスになるのは嫌だって言われたの気にしてるの?」


サキュバス「べっつに~」


友魔女「やあおはよう、お三方」


魔女娘「おはよ、友魔女」


ライバル魔女「ごきげんよう友魔女さん」

ライバル魔女「……同調について何か分かりました?」


友魔女「ごめん。話を聞いたけど同調のことは知ってても、それを切る方法までは知らなかった」


魔女娘「そっか……」


ライバル魔女「ところで誰に聞いたんですの?」


友魔女「後輩ちゃん。昨日何か知ったようなこと言ってたし、夜たまたま会ったから聞いたの。まあ成果は無かった訳だけど」


魔女娘「調べてくれただけで十分。ありがとうね」

モブ学生1「おーい、そっち持っててくれ」

モブ学生2「わあったよ――」


サキュバス「何か騒がしいわね……」


魔女娘「ん、ああ……再国祭が近いから。準備に忙しいんでしょ」


サキュバス「再国祭?」


魔女娘「ああ、知らないか。簡単に言えば建国祭みたいなもの」


サキュバス「だったら建国祭でいいじゃない。わざわざ再国祭なんて名乗らずにさ」


友魔女「詳しい説明いるかい?」


サキュバス「ぜひ」


友魔女「じゃあ話そうかな」


友魔女「昔々……って言う程昔じゃないけど、まだ年寄りの中には覚えている人もいるんじゃないかな」

友魔女「悪い魔女がこの国に攻めてきました。その魔女は一人きりであったのにも関わらず、大勢の国民を虐殺し、国を恐怖の渦に陥れました」

友魔女「その行いから魔女は【災厄の魔女】と呼ばれ恐れられました。【災厄の魔女】のあまりの悪行にこの国に住む人たち全員が【災厄の魔女】に殺される、そこには早いか遅いかの違いしかない。そんな恐れを抱きました」

友魔女「絶望に沈んだ国を救ったのは、当時の王子様と彼の愛した女性でした」

友魔女「ひっ迫した戦闘の末に王子とその恋人は力を合わせて見事【災厄の魔女】を打ち倒したのです」

友魔女「王子は残った国民達と共にこの国を再興し、また国としての形を整えました」

友魔女「その日を再国祭としたのです」

友魔女「って感じかな」


サキュバス「はえ~【災厄の魔女】ね……酷い人もいたものね」

ライバル魔女「『この恨み、この無念を決して忘れない――必ずや蘇りこの国の民を全員葬ってくれる』」


サキュバス「突然何言ってんの。頭壊れた?」


ライバル魔女「一々煽らないと気が済まないんですの?!」

ライバル魔女「はぁ……【災厄の魔女】が死の間際に発した言葉ですわ」

ライバル魔女「当時の王族はその言葉と、【災厄の魔女】を風化させないために再国祭を催したのです」

ライバル魔女「再国祭だけではありませんわね。この学園も【災厄の魔女】が復活した際に対抗できるようにという目的で建てられましたの」


魔女娘「まあ死人が蘇ることなんてないんだから、今じゃ再国祭に建国祭以上の意味はないよ」


友魔女「…………」

友魔女「でもさ、蘇ったらどうする。蘇るんじゃなくてもさ、【災厄の魔女】みたいな魔女が出てくるかも」


魔女娘「……その時は伝説みたいに王族がどうにかすればいいんじゃない。まあ、あの馬鹿王子だと返り討ちに遭いそうだけどね」


サキュバス「お祭りかぁ……楽しみね!」


魔女娘「うん。サンドウィッチにカステラ……あとあとフランクフルトとチョコバナナ、リンゴ飴もあるのかな――くふふ、屋台楽しみ。いっぱい食べる」


ライバル魔女「ほんと食べ物のことばかりですわね」


サキュバス「それでそのお祭りはいつあるの、近いんでしょ?」


友魔女「三日後だね。今年もみんなで回ろうね」

ライバル魔女「そうですわね! 楽しみですわ!」


魔女娘「去年はまだライバル魔女は素直じゃなかったから、思うように屋台を回れなかったけど今年こそ――」


ライバル魔女「ちょっと素直じゃなかったってどういうことですの――まるで今は素直みたいな言い方ですわね」


サキュバス「素直じゃん」

サキュバス「それにしてもお祭りが近いのね」

サキュバス「話には聞いたことがあるけどお祭り初めてだから本当に楽しみ」ワクワク


魔女娘「そうなんだ。それじゃ目一杯楽しもう。ワッフル! クレープ!」


サキュバス「たのしもー!」


ライバル魔女「盛り上がっていますけど、祭りはまだ始まりませんわよ」


友魔女「このテンションがいつまで続くことやら……」ヤレヤレ

――――――
――――
――


――友魔女視点。昨晩。


 ――今日はなかなかハードな一日だった。
 私はお風呂で身を清めながら、そんなことを思った。

 ライバル魔女と精気欠乏を起こした魔女娘を救うため、セックスをした。


友魔女「っっっんんん!! ――ぁわっっぁぁあ!!!」


 狭いバスルームで手足をバタバタとさせながら、行為のことを思い出して悶た。
 悶た。悶える。なんだったら叫びたい。叫んだ。ワキワキとした気分を抑えられそうにない!


 そう推したいしている魔女娘と、セックスしたのだ!
 まさか前世含めた初体験が一番の推しキャラ、魔女娘とだなんて――!
 サキュバス様々だ。ほんとヤッホー!

友魔女「――ふぅ……」

 シャワーを冷水にして頭からかぶる。
 それだけで火照った身体は幾分か冷静になった。
 思考に湧いたイレギュラーの名前にそうせざるを得なくなったのだ。

 ――サキュバス。

 『おつ恋』の中には出てこなかったキャラクター。
 殆どのキャラが本編ストーリーと性格が違っているが、こいつはそもそも存在さえしなかった。

 果たしてイレギュラーの一言で片付けてしまっていい存在か。
 ただのえっちな奴だったら放っておいても良かったが、『催眠』なる嫌らしい特技を持っているのが気にかかる。

 『催眠』がどこまで通じるのか分からないが、他人を思い通りに操ることに制限のないチート能力だったら放って置く事などできない。
 私だけではなく魔女娘にも危害が加わるかもしれないから。


 さてどうしたものか。使い魔契約は簡単には切れない状態。まさか殺すわけにもいかない。
 そう思いつつお風呂から上がり、パジャマを着た。


後輩「あ、先輩! お邪魔してます。お風呂に入っているようだったのでお部屋で待たせていただきました!」


 自室へと戻った私を待ち受けていたのは不法侵入者だった。

友魔女「なんでいるの?」


後輩「先輩に会いたくなって」キュルン

後輩「あ、そうそう駄目ですよ先輩。いくらここに女子しかいないからって、入浴中に部屋の鍵かけてないのは。怪しい人が勝手に部屋に入っちゃいますよ」


 そりゃ、お前のことだろうが。
 そう喉元まで出かかったがなんとか堪えたが、胡乱げな視線を向けることまで我慢できなかった。

 後輩もそれを分かって尚大げさに首を振った。


後輩「やだな先輩。もっと肩の力抜いてくださいよ。ただおしゃべりしに来ただけですよ」

 人好きのする笑顔を浮かべた後輩は、そのままの表情で。


後輩「使い魔との特性の同調について聞きたくないですか?」


友魔女「……」


 狙いは何だ。こいつの狙いは――。
 後輩――イレギュラーという点ではサキュバスと同様。
 そもそも後輩なんてキャラは『おつ恋』に出てきていない。

 私は知らないんだ。こんなキャラ。
 最初は私がヒロインとしての役割を放棄したため、それを代わりに行うキャラとして湧いてきたのだと――所謂世界の強制力によって生み出されたキャラだと思っていた。
 実際に王子然り、他の攻略対象とよろしくやっているのは確認済みだ。

 だが、今日のことでその考えに疑惑の念が生まれた。

 それが使い魔との特性の同調。
 『おつ恋』を手垢まみれになるまで遊び尽くした私が知らなかった要素。
 それを後輩ちゃんは知っていた。

 本人が言ったようにゲーム外の知識を偶々知っていた可能性もある。


 しかし、私の胸中に浮かんだのはもう一つの可能性。


友魔女「そうだね。後輩ちゃんとは一度話したいと思ってたところだしね」


 ――後輩も転生者なのではないか。

undefined

 例えばだ。私が前世で死んだあとに『おつ恋』の完全版設定資料集なるものが出ていて、その中に使い魔との特性の同調の記述があって、後輩はそれを読んでからこの世界に転生してきたのではないか。
 もしくは、特性の同調なる要素がDLCで追加されたか。いや、それなら素直に続編が出た可能性の方が高いか……。


 もしもそうなのだとしたら――


友魔女(『おつ恋』のこと語りたい――!)


 もともと『おつ恋』二次創作に人生捧げてた身としては、『おつ恋』語りが出来なくて燻っていたところだ。
 それもこれも『おつ恋』のことを知っている人がいないからだ。そりゃそうだ。だってここが『おつ恋』の世界そのものなんだもん。

 久しぶりにオタ活できそうで震える!!


後輩「……どうしたんですか……」


 突然オタクの血が騒ぎ出したせいでワキワキとしだした私を不審に見つめる後輩ちゃん。
 いけない。少し落ち着かないと。
 前世でも『おつ恋』熱が暴走して何人のリアル友人をドン引かせたか。

 ここは慎重に……。
 だけど、転生者かどうかなんてどう聞こう……。

 まさか馬鹿正直に、君も一回死んで転生したの? なんて聞けるわけがない。
 違ったら私ただのイタイ人だ。もしくは宗教に勧誘していると勘違いされるかも。
 別に後輩ちゃんにどう思われてもいいが、魔女娘に話が伝わって頭おかしいと思われるのは絶対イヤだ!
 せっかく今まで本性を隠してクールで友達思いのキャラを貫いて来たのに、こんなことで不思議ちゃんキャラに転向したくない。

 ここはオタクしか分からない符号で話しかけるか……?

 オタクかパンピーかを見分けるおあつらえ向きな質問を一つ知っている。
 よし! そうと決まれば早速……。

友魔女「ねえねえ後輩ちゃん、攻めの対義語って何?」


後輩「……突然なんですか」


友魔女「いいからいいから。攻めの対義語言ってよ。ね?」


後輩「………………攻めの対義語は守りじゃないんですか?」


友魔女「ん……ああ……そうだね。そうそう」

友魔女「話って何だっけ。使い魔との特性の同調の話だっけ」

友魔女「後輩ちゃんはなんで知ってたの」


後輩「ちょっと待って! 何で今度はテンションガタ落ちなんですか?!」

後輩「え? 私何か間違えましたか?! 間違えましたかっ?!」


友魔女「ううん、後輩ちゃんは何も間違えてないよ。私が勝手に舞い上がって、勝手にから回っただけだから」

友魔女「特性の同調について話そうか」


後輩「ほんと、何なんですか…………」

 納得できていないのがひしひしと伝わってくるが、私も期待を裏切られたのだ。許してほしい。

 そんなこんなで、やっとこさ話は本題へと進んだ。


後輩「まあ、特性の同調に関しては名前の通りですし、昼に話した通りですよ」


友魔女「私もそれは体験したよ。魔女娘、本当にサキュバスみたいだった」


 まさに天にも昇るような気持ちというものをリアルに体験した。
 意識がなくなる直前、魔女娘が元気になったのを安堵したのと同時に、これ死ぬのでは……とひそかに思うほどだった。
 推しの上で腹上死するのならそれはそれで幸せ、というのは置いておいて。


友魔女「特性の同調って切れるものなの? ほら、教会でお祈りしたら状態異常が治るみたいな、そんなノリで」


後輩「……教会にそんな力ありませんよ」

後輩「申し訳ないですけど、同調の解除方法は知らないですね」

後輩「多分ですけど使い魔が死んだら同調は切れます。試したことないから分からないですけど……どんな状態でも生きてさえいれば、同調は続くと思います」


友魔女「そっか……」

 さすがに使い魔を殺すのは抵抗がある。幾ら胡散臭いサキュバスだからと言っても変わらない。
 それはきっと魔女娘とライバル魔女も同じだろうから、二人にわざわざ言う必要もないか。


後輩「じゃあ私はそろそろ帰りますね」


友魔女「え? もう帰るの? 本当に、同調について話に来ただけ?」


 他に何があるんですか、と人好きのする笑みを浮かべながら後輩は私の後ろを通り過ぎた。


後輩「おやすみなさい。良い夢を」


 そう言ってあっさりと部屋から出ていった。

後輩「なんだったんだ……?」

 閉まったドアを呆然と見つめる。


後輩「――――!」


 瞬間、訪れる戦慄。
 それに気づいて愕然とした。

 ――私、素を出しすぎていなかったか。

 私はこの学園に入学してから猫をかぶり続けていた。
 魔女娘やライバル魔女の前ではもちろん。名前も知らないモブの前でもだ。

 だけど、今の私はなんだ。
 メタ発言ばかりしてなかったか……。
 猫をかぶり続けていたのは、おかしな奴に思われたくないからって理由もあるが、もう一つ大切な理由がある。
 それは【災厄の魔女】を倒すため。

 ヒロインとしてのロールは降りた私だが、【災厄の魔女】を打倒するという役割だけは降りていない。というか、【災厄の魔女】はこの物語の主役である私以外に倒せないはず。

 展開が変わりすぎて、いつ誰がキャラクターとしての役割を失ってもおかしくない。
 例えばヒロインでなくなった私のように。ライバル魔女だって原作から立ち位置が大分変わっているし、愛しの魔女娘にしたってそう。

 ちょっとしたことでキャラクターの役割が変わってしまう。

 私から【災厄の魔女】を倒すという役割がなくなってしまったら、設定上誰も【災厄の魔女】を倒せなくなってしまう。

 それは困る。困るからこそこの世界を好みの展開に変えつつも、私――友魔女の性格だけは変えないように、つまり【災厄の魔女】打倒の役割を失わないよう注意して行動してきたのに……。


友魔女「なんで今更……こんなミスを……」

 
 しばらく呆然とその場に立ち尽くした。


――後輩視点


 何が起こってる。
 あいつはあんなに馬鹿じゃなかったぞ。

 確かに世間知らずで夢見がちな性格をしていたが、もっと警戒心が強かったし、少なくとも突然訳のわからないことを言い出すような不思議ちゃんでは無かった。

 幾ら動きやすいように過去を改変したからと言って、あいつに関しては後に制御しやすいように改変は加えていない。

 そもそもだ。催眠が効くのもおかしかった。
 先程の会話の中で、弱みを握れたらいいな、どうせダメだろうけど……くらいのダメ元で本心を晒す催眠をかけたら、見事にかかった。
 普通に比べたら効き目は弱かったが、それでも効果が無いのと弱いのとじゃ話が違ってくる。
 まあ、催眠がかかったおかげであいつが前回とは違うと気づけた訳だが……それはともかく。

 ――加護が弱まりつつあるのか……。

 加護が弱くなったり無くなるんならいい。
 だが、無くなった加護が他の奴にかかったら……。

 そしたら、私が長いことかけて積み上げてきた計画が全てパーになる。

 【女神の加護】はあいつに――友魔女に持っていてもらわなくては困る。


友魔女「ちっ――――加護がまだ残ってる内に再国祭で仕掛けるしかないか」


 私は足早に夜の廊下を駆けた。


――
――――
――――――

>>105ミス

――後輩視点


 何が起こってる。
 あいつはあんなに馬鹿じゃなかったぞ。

 確かに世間知らずで夢見がちな性格をしていたが、もっと警戒心が強かったし、少なくとも突然訳のわからないことを言い出すような不思議ちゃんでは無かった。

 幾ら動きやすいように過去を改変したからと言って、あいつに関しては後に制御しやすいように改変は加えていない。

 そもそもだ。催眠が効くのもおかしかった。
 先程の会話の中で、弱みを握れたらいいな、どうせダメだろうけど……くらいのダメ元で本心を晒す催眠をかけたら、見事にかかった。
 普通に比べたら効き目は弱かったが、それでも効果が無いのと弱いのとじゃ話が違ってくる。
 まあ、催眠がかかったおかげであいつが前回とは違うと気づけた訳だが……それはともかく。

 ――加護が弱まりつつあるのか……。

 加護が弱くなったり無くなるんならいい。
 だが、無くなった加護が他の奴にかかったら……。

 そしたら、私が長いことかけて積み上げてきた計画が全てパーになる。

 【女神の加護】はあいつに――友魔女に持っていてもらわなくては困る。


後輩「ちっ――――加護がまだ残ってる内に再国祭で仕掛けるしかないか」


 私は足早に夜の廊下を駆けた。


――
――――
――――――

【食べる専門の人たち】

魔女娘「はぁ仔牛ちゃんうま」モグモグ


サキュバス「朝からステーキ……」ヒキ


ライバル魔女「本当に仔牛のステーキが好きですわよね」


魔女娘「ん。私死ぬときは仔牛のステーキに埋れて死ぬの」


ライバル魔女「……脂でベトベトになりますわよ」


友魔女「あはは、脂のおかげで死んでも暫くはお肌テカテカだね」


サキュバス「そういえばマスター食べてばかりだけど、自分で料理とかするの?」


魔女娘「しない。料理する時間があったら、ご飯買ってその分食べる」


サキュバス「なんともまあ……らしいっちゃらしいか。お二人さんは?」


ライバル魔女「したことありませんわね。幼少の頃より専属のシェフがおりますの。わざわざワタクシがする必要もありませんわ」


友魔女「私は昔はしたよ。孤児院に住んでたから当番制だった」


サキュバス「昔は?」


友魔女「今は国から補助が出てるから、そのお金で外食が多いかな。楽だし」


サキュバス「友魔女はともかく二人は料理する必要ができたらどうするの」


魔女娘「大丈夫。大抵のものは火を通せば美味しくなる」


ライバル魔女「ふふん。ワタクシを誰だと思っていますの? ワタクシですわよ! その気になれば料理なんて一瞬でマスターしてみせますわ!」


サキュバス「……ねぇ、友魔女ちゃん今度料理教えてくれない? もしもの時にこのままだと火を通しただけの肉と、ご飯と言えない物体を食べさせられることになるわ」


ライバル魔女「ちょっと!? それどういうことですの!?」


友魔女「あはは、やる気があるなら今度教えるよ」


魔女娘「いいじゃん火を通したお肉美味しいじゃん。ねぇ仔牛ちゃん」モグモグ


サキュバス「そのステーキだって香辛料で味付けしてあると思うけど……少なくともただ焼いただけじゃないと思う……」


魔女娘「…………」モグモグ

魔女娘「ああ、おいし」


サキュバス「もう……」

【初めての授業】


教師「――と、このように魔法のレジストを行うには反属性の魔法を同程度の力でぶつけるか、同じ魔法を相手より強くぶつける必要がある訳だ」


サキュバス「なんだか不思議な光景ね」


魔女娘「何が?」


サキュバス「こうやって大勢の人が同じ方向を向いて、同じようにペンで紙に文字を書いてる。おかしいじゃない」


魔女娘「そう? ……まあ、そう言われるとおかしいかもね」


サキュバス「でしょでしょ」

サキュバス「人間ってもっと無秩序なものだと思ってた」


魔女娘「…………」


サキュバス「自分の欲望に忠実で。自分だけ良ければ他は気にしなくて。
 ――好き勝手。人間ってそんなイメージだった。でも少なくともここにいる人たちは違うね。ルールを守ってその中で生活してる」


魔女娘「私にとってサキュバスは性に奔放で人を弄ぶ。好き勝手ってイメージはサキュバスの方が強い」


サキュバス「ふふっそうね。その通りだわ。だってそうやってしか生きられないんだもの」

サキュバス「でも人間にはいろんな人がいる。こうやって勉強している人。その人たちに教える人。学校を出たらもっといろんな人がいるんでしょうね。勤労に励む人。何もしてない人。悪事を働く人」

サキュバス「そのカテゴリーの中にも色んな人がいるんでしょう。真面目な人、怠惰な人、優しい人、怖い人、友達思いの人」

サキュバス「人間にはこうやって生きなくてはいけないなんて、そんなカテゴライズはないのね」


サキュバス「人間は何だって出来るし何にだって成れる。この光景を見てたらね、そう思ったの」


魔女娘「………………」

魔女娘「随分と飛躍したね」


サキュバス「そうねぇ……でも本心よ」


教師「こらそこ! 私語は慎む!」


魔女娘「あ、すみません」


サキュバス「怒られちゃったわね。もうお話は止めましょうか」


魔女娘「…………」

【使い魔との仲を深めよう】 
友魔女「使い魔との交流か……。昨日サボった分の補習がそんなに難しいことじゃなくて良かったね」


黒猫「にゃーん」

サキュバス「にゃーん」

ドラゴン「グルルっ」


友魔女「……訂正。癖あるわ、これ」


魔女娘「使い魔との交流って何するの? 遊ぶだけならわざわざ補習する意味」


ライバル魔女「そんな訳ありませんわよ。使い魔と接して何ができるか理解するんですわ」


友魔女「そうそう。で、レポートにまとめるみたい」


魔女娘「できること、ね……」


サキュバス「そりゃ、あはーんなことよ」


魔女娘「まあ、そうだよね」


ライバル魔女「ふふん! ワタクシのドラゴンちゃんは凄いんですのよ! 空も飛べるし、火も吐ける!」


魔女娘「おまけに美味しいし」


ドラゴン「ガルッ!?」ガーン


ライバル魔女「だーかーらー!! ドラゴンちゃんは非常食じゃないと何度言えば分かるんですの?!」


魔女娘「友魔女の使い魔はどう? 見たところただの猫だけど」


ライバル魔女「ちょっとぉ! まだ話は終わっていませんわよ!」


魔女娘「見かけだけならサキュバスも人間だし。この猫にも何か特別な力があるかも……」


サキュバス「私みたいに擬態してるかもしれないしね」


魔女娘「擬態って?」


サキュバス「羽と尻尾。普段隠してるのよ」


友魔女「わ、生えてきた! どうなってるのこれ?」


サキュバス「ただの催眠だよ。人間に見えるように自分の身体に催眠をかけてるの。私の身体は人間と同じだーって感じで。そうすると私の身体人間と同じになるの」


魔女娘「なんでまたそんなこと」


サキュバス「だって邪魔なんだもん。羽があると仰向けになれないし、尻尾は踏むと痛いし」


ライバル魔女「無視しないでくださる?!」


友魔女「なるほどねぇ。でも黒猫ちゃんにはそういうの無いからなぁ」


魔女娘「まだ分からないでしょ」

黒猫「にゃ」

友魔女「――そうだね。何かあるかもしれないね」
友魔女「ま、かわいいから何もなくてもいいや」

ライバル魔女「話は終わっていませんことよ! 魔女娘さん! 大体貴女は食い意地が――――」


魔女娘「そんなに怒るとお腹減るよ」


ライバル魔女「誰のせいだと――」


サキュバス「……なんで彼女はあんなに怒ってるの? ジョークなの分かってるわよね?」


友魔女「多分だけど、ライバル魔女は魔女娘に凄いねって言われたいんじゃないかな。レアな使い魔召喚できて凄いね、短い時間で使い魔のこと理解してて凄いねって具合に」

友魔女「なのに魔女娘はからかってばかりだから思い通りに行かなくてプリプリしちゃってるんだと思う」


サキュバス「なるほどねぇ……子供みたい」


ライバル魔女「な、何言ってますの――! ワタクシはただ不遜至高のドラゴンに敬意を払えと……」


魔女娘「まあちゃんと分かってるから」


ライバル魔女「何がですの!? ワタクシはそんな子供みたいな……」


魔女娘「それもだけど。ライバル魔女が凄いのは知ってるから。凄くあろうと努力していることもね」


ライバル魔女「あ、あう……」


サキュバス「あら照れてら」


友魔女「ライバル魔女のこういう所かわいいね」


ドラゴン「ガウガウ」


ライバル魔女「も、もうからかうのはやめてくださいまし!」カアアア

【ただのキス】


サキュバス「じゃ、おやすみなさい」


魔女娘「今度の休みの日にベッド買いに行く?」


サキュバス「なんで? 別に今のままでいいでしょ。スペース余分にあるし」


魔女娘「でも二人で一つのベッドを使うっていうのは……」


サキュバス「私は気にしないよ。それとも私と同じベッドは嫌?」ジッ


魔女娘「うっ……」

魔女娘(やっぱり顔は綺麗……心臓がおかしくなる)


魔女娘「顔が、近い」グイッ


サキュバス「あはは照れてる~。顔赤いよ」


魔女娘「赤くない」カオソラシ


サキュバス「えー赤いよ。りんごみたい」ズイ


魔女娘「顔、近いって……」ドキドキ


サキュバス「え~……ふふっ、やっぱり顔赤い」

サキュバス「ねえ、キスしよっか」


魔女娘「……寝言は寝て言うものだよ」ドキドキ


サキュバス「それは夢に見るくらい過激なキスをしてほしいってこと?」


魔女娘「そんなこと言ってな――んっ!?」


サキュバス「んっ――ん、はぁ……」

サキュバス「――。どうだった? ただのキスは」


魔女娘「…………夢に、見そう」


サキュバス「ふふっ、そう? ただのキスなんだけどな」

サキュバス「じゃあ過激なキスをしたらどうなるかな?」


魔女娘「……手加減」


サキュバス「しない?」ガバッ


魔女娘「きゃぁ――」ドサッ

魔女娘(その晩私はサキュバスに美味しく戴かれた)

魔女娘(――後になって聞いた話だが、このときサキュバスは空腹だったそうだ。お腹が空いてるとサキュバスは激しくなる。覚えておこう)

【寝言暴食】

魔女娘「すぅ……すぅ……」


サキュバス「寝ちゃった。ふふっ、可愛い寝顔」


魔女娘「うぅ、まだ食べられるよ……」


サキュバス「……? ああ寝言ね」


魔女娘「おいしおいし。もっと……」


サキュバス「はは、寝てても食べてばっかりね」


魔女娘「お肉おいし。野菜おいし」


サキュバス「…………」


魔女娘「お魚おいし。スープおいし」


サキュバス「…………ほんと食べてばっかりね」


魔女娘「えへへ。ステーキちゃん。パスタちゃん。ムニエルちゃん。いっぱいだ」


サキュバス「……ほんとに寝てるのよね?」


魔女娘「チーズも。ウィンナーでフォンデュー」


サキュバス「…………」

サキュバス「全然キスの夢見ないじゃん」


魔女娘「えへへ、シチューにプディング」


サキュバス「…………」

サキュバス(その晩私が寝入るまでマスターはずっと食べ物の夢を見ていました。寝言がうるさかったです)

――再国祭当日


サキュバス「うわぁー! すごい人!」

サキュバス「私こんな人の数見たことない!」


魔女娘「あっ! チョコバナナだ! スコーンもある!」

魔女娘「ちょっと手当たり次第に食べてくる!」


ライバル魔女「ちょっと、お二人ともあんまりはしゃいで迷子にならないでくださいませ!」


友魔女「去年も確かこんな感じで迷子になりかけたよね……」


サキュバス「マスター、早く行くましょ!」ワクワク


魔女娘「じゃあ手始めにこの地区の出店コンプリートしよう!」タタタッ


サキュバス「よしきた!」タタタッ


ライバル魔女「ちょ、二人とも話を聞いていて?! ――もう! ワタクシ達も行きますわよ!」タタタッ


友魔女「あ、ちょっと待って――わっと」ドン


モブ「痛えな! 気をつけろよ! 前見て歩け」


友魔女「す、すみません!」


モブ「たくっ」タチサリ
 

ライバル魔女「大丈夫ですの? 急かしたワタクシが良くありませんでしたわ。怪我はありませんこと?」


友魔女「うん。怪我はないよ」

友魔女「……って、魔女娘は――?」


ライバル魔女「…………あ」

ライバル魔女「言ったそばから迷子ですのぉ!??」



魔女娘「うまうま!」パクパク


サキュバス「マスタっマスタっ! こっちのふわふわしたの甘いわ!」


魔女娘「綿飴か、いいね。一口ちょうだい」


サキュバス「はいどうぞ――あーん」ヒョイ


魔女娘「あーん」パク

魔女娘「ん、あま~い」


サキュバス「……ふぅ食べた食べた。持つものはお金持ちのマスターね。おかげでお腹いっぱい」


魔女娘「ん。少し食休みしようかな」

魔女娘「――あれ、ライバル魔女は? 友魔女もいない?」


サキュバス「あちゃー迷子になっっちゃったか」


魔女娘「もう! 友魔女もライバル魔女も、いい歳して迷子にならないでほしい」


サキュバス(世間から見たら私達が迷子なんだろうけど……ま、いっか)


サキュバス「せっかくだから二人で回りましょ。そのうち会えるでしょうし」


魔女娘「まあ、あっちも子供じゃないし自分たちだけで動けるよね」

魔女娘「よし! ちょっと休憩したらまた出店回ろう!」ランラン


サキュバス「お供するわ!」

サキュバス「――――あら?」


ロリ「……ままぁ、どこぉ?」グスン


サキュバス「ねぇ、マスターあれって迷子よね」

サキュバス「子ども一人じゃ危ないわよね。どうしましょ……?」


魔女娘「…………」

魔女娘「どうしたい?」


サキュバス「そりゃ親御さんに送り届けたほうがいいと思うけど。それが無理なら衛兵の所にでも……」


魔女娘「まあ、そうしたほうがいいよね……」

魔女娘「休憩ついでにあの娘のお母さん探そうか」


サキュバス「よし、そうと決まれば!」

サキュバス「へい! そこのキュートなガール! 一人かな。良かったらお姉さんとお茶しない?」


ロリ「ふぇ!?」キョトン


魔女娘「ナンパすな!」バシッ

魔女娘「ごめんね。この人馬鹿なの」


サキュバス「イテテ……馬鹿ってひっど。ただ私は緊張させないように――」


魔女娘「はいはい」

魔女娘「君、迷子でしょ。良かったらお母さん探すの手伝おうか」


ロリ「ほんとう? いいの?」


魔女娘「ん。――君ここらへんの子?」


ロリ「うん。時計塔の後ろにね、おうちがあるの」


魔女娘「ってことは、旧市街地の方か」


サキュバス「それってここからどれくらい?」


魔女娘「徒歩で一時間ってところかな」

魔女娘「まあ、最悪お母さんが見つからなくても旧市街まで送り届ければいいか」


魔女娘「……じゃ、お母さん探そうか」


サキュバス「早く見つかるといいね」


ロリ「うん!」


魔女娘「ほんと、見つかるといいね」


ロリ「ねえねえお姉ちゃんお姉ちゃん!」


魔女娘「なに?」


ロリ「その服って魔法学園の人のでしょ」


魔女娘「そうだよ」


ロリ「すご~い! じゃあお姉ちゃん魔法使いなんだ!」

ロリ「魔法見せて! だめ……?」


魔女娘「駄目。人前で見せるものじゃないよ」


ロリ「えぇ……なんで駄目なの?! 見たい見たい!」


サキュバス「いいじゃないマスター。少しくらい」


魔女娘「普段から催眠使いまくってる貴女じゃわからないだろうけど、魔法はおおっぴらに使うものじゃないの」

魔女娘「無闇に使って怪我でもさせたらどうするの。そもそも町中での魔法の使用は禁止されてる」


ロリ「じゃあ人目につかない場所ならいいの!」


魔女娘「いや、そういうわけじゃ……」


ロリ「見たい! ちょっとでいいから~」


サキュバス「いいじゃん。怪我しないような魔法を使えばいいだけでしょ」


魔女娘「……少しだけだよ」


ロリ「やったー。こっちこっち!」


サキュバス「こら、一人で先に行かないの! ふふっ、喜んじゃってかわいい」


魔女娘「…………」

――路地裏


ロリ「もっと奥に行こう。ここだと魔法使ったのバレちゃうよ」


サキュバス「はいはい。それにしても薄暗くて雰囲気あるわね。暗闇から何か出てきそう」


魔女娘「……出てくると思うよ」


サキュバス「え――?」


魔女娘「『シャドウバインド』!」


ロリ「きゃっ――!」ギュルルン


サキュバス「――――! 何考えてるの!? 子どもに拘束魔法なんて!」


魔女娘「――黙って」

魔女娘「この娘のお友達はすぐに出てこい。いるのは分かってる」


「………………」


サキュバス「誰も出てこないじゃない! 早くその子を放しなさい」


ロリ「止めてよぉお姉ちゃん……なんでこんなことするの――ごめんなさいごめんな――」ウルウル


魔女娘「――――」グイッ、ボキン


ロリ「――っっああぁあ! イタイイタイッ。腕がっ! ひぃ……ぅわぁあぁ――――」


魔女娘「【クワイエットゾーン】」ピタッ


ロリ「――――! ――! ――――」シーン


魔女娘「次は反対の腕。その次は両方の足。すぐに大人しく出てくるなら、まだ四体満足で解放できるけど」


「………………」


サキュバス「マスター!」


魔女娘「はぁ……面倒くさい。いいんだよ、私は。別にこの娘の手足を全部へし折っても」


魔女娘「だから早く出てこい」


「………………」

魔女娘「ちっ――【解除】」


ロリ「――あぁったすけっ――助けて!」ガタガタ


魔女娘「質問に答えたら解放してあげる」

魔女娘「仲間は何人? あと名前」


ロリ「しらな、しらなぃ……」


魔女娘「そう」グイッ


ロリ「ぎゃあぁっ!!」ボキン


魔女娘「次は右足」


サキュバス「――! マスター!」


魔女娘「……サキュバス、そこから退いて」


サキュバス「いやよ。退くのは貴方の方よ! 拘束を解いてその娘から離れなさい!」


魔女娘「じゃあせめて頭はガードして。あと催眠は私じゃなくて後ろのやつに」


サキュバス「何を言って――うぐぁ」ガツン


???「ロリから離れて!!」


ロリ「お姉ちゃんっ!」


魔女娘「だからガードしてと言ったのに……」


ロリ姉「ごちゃごちゃ言ってないで早く魔法を解け!」


魔女娘「解かなかったら?」


ロリ姉「こいつの腕を砕く」


サキュバス「うきゅぅ……」クラクラ


魔女娘「……せめて気絶してなければな」

魔女娘「はあ……ほら解放」スル

ロリ姉「まだだ。有り金全部置いてけ」


魔女娘「やっぱり魔法使い狩りか……」


ロリ姉「はやく!!」


魔女娘「――ほら、ちゃんと拾えよ――――」ビュン


ロリ姉「なっ!? ――アガっ!」ガッ


ロリ「お姉ちゃん!?」


魔女娘「綺麗に顔面にあたったな――っと【シャドウバインド】」


ロリ姉「うっ――」ガシィッ


ロリ「そんな……」


魔女娘「さてと、とりあえず財布は返して貰う」

魔女娘「こいつは……まあいいか――」


サキュバス「ちょっと待って! それは酷くない!?」


魔女娘「あ、起きた」


ロリ姉「なっ!? 嘘だろ。手応えはあったぞ。暫く目覚めないはずなのに」


魔女娘「お生憎とこいつ頑丈でね」


サキュバス「一応人じゃないし。ほら、尻尾と羽」


ロリ姉「人型の使い魔か……くそ、運がねぇ」


サキュバス「……いてて、なんで殴られたの私」


魔女娘「魔法使い狩りだよ」


サキュバス「魔法使い狩り?」


魔女娘「魔法使い……っていうか、魔法学園の生徒は貴族のボンボンが多い上に、まだ魔法使いとしては未熟な奴が多いから、街に出てきた所を狩ってお小遣い稼ぎする輩が一定数いるんだよ。それが魔法使い狩り」


ロリ姉「いつからだ――」


魔女娘「何が? 貴女の浅慮ならきっと生まれた時からだと思う」

ロリ姉「……いつから魔法使い狩りだと気づいた」


サキュバス「そう、それ! マスターいつから気づいて――」


魔女娘「最初から。泣き真似してる子どもだなんて怪しすぎ」


ロリ「ウソっ。だって私ちゃんと泣いて……」


魔女娘「しゃくれて無かった。ひっくひっくって。ただ大声を出して涙を流すだけでは泣き真似にはならない。それにサキュバスが話しかけてすぐに泣き止むのもおかしい。それは涙をコントロールしてるやつの挙動」


魔女娘「それに焦ったんだろうね。自分から人通りのない薄暗い路地裏に誘い込むなんて、仲間が闇討ちしますよって言ってるようなもの」


魔女娘「まあ、それら抜きにしても一目で魔法使い狩りだと思ったけどね」


ロリ姉「……なんでだよ」


魔女娘「ロリちゃんから私と同じ匂いがした」


ロリ姉「はあ? 孤児院育ちがお貴族様と同じ? つまんねぇジョークだ」


魔女娘「今は貴族だけどね、昔はスラム街のゴロツキだったよ。精神を壊した娼婦の母親と借金に塗れた賭博師の父親。生まれだけだったら君たちより下じゃない?」

魔女娘「母親が稼げなくなってからは、よく父親と魔法使い狩りしてたよ。丁度君たちみたいに私が暗闇まで連れ込んで父親が襲うって感じで」


魔女娘「さてと……何で魔法使い狩りなんて危険なことした?」

魔女娘「身なりはそこそこ整ってる。痩せてるけど栄養失調って程じゃない。臭くない、ちゃんとお風呂も入ってる。ってことは家があるのかな――――孤児院育ちって言ってたか」

魔女娘「遊ぶお金欲しさって感じじゃない。すぐにまとまったお金が必要なのかな。じゃなきゃ魔法使い狩りなんて失敗したら殺されるかもしれないリスキーな真似しない」

魔女娘「……って考えたんだけど、どうだろう?」


ロリ「…………マザーが病気なの」


ロリ姉「ロリっ!」


ロリ「マザーが倒れて、お医者様に見てもらったら国の治療魔術師じゃないと治せないって」


魔女娘「なるほど。治療費か……」


魔女娘「【リキュア】」パァ


ロリ「――ぁ! 腕が……治った!」


魔女娘「他に怪我はない? ついでに治しておくけど」


ロリ「ありが……とう?」


ロリ姉「なんで――!」


魔女娘「市街地での魔法の使用は原則禁止だから、黙っててもらいたくて……そう、これは賄賂みたいな。腕を治すから魔法使ったの言わないでねってこと」


魔女娘「さてと、そのマザーの所に案内して。さっさと行こう。拘束解除してあるでしょ? それともまだどこか怪我して動けない?」


ロリ姉「はぁ――? なんであんたをマザーのところまで――」


魔女娘「ほんと浅慮。そのマザーさんを治してあげるって言ってる。私ならできる」


ロリ「いいの!?」


魔女娘「ん。だから魔法を使ったこと言わないでね」


ロリ「うん!」パァ

ロリ姉「信じられるか! お前はロリの腕を折った。マザーにも何するか分からない」


ロリ「でも腕治してもらったよ。ほら」ピンピン


ロリ姉「騙してるだけかもしれないだろ! マザーに何するかわからない! 治したあとに高額な治療費を請求されるかも……」


魔女娘「しないよ、そんなこと」


ロリ「しないって言ってるよ」


ロリ姉「すぐ信じるな!」


ロリ「ひうっ」ビク


魔女娘「しないよ」ジッ


ロリ姉「…………なんでだよ。なんで治そうとするんだ。お前には関係のない事だろ。それに治療魔術師でもないのに魔法を使って治療したらそれこそ違法だろ」

ロリ姉「治療して恩を売って魔法の使用を黙っててもらうより、私達を半殺しにでもして黙らせる方が利口なやり口の筈だ」


魔女娘「別にロリちゃんのことが気に入っただけ。だから治してあげる」


サキュバス「ロリコン……?」


魔女娘「違うわっ!!」

魔女娘「ロリちゃんは腕を折られても仲間のことを売らなかった。その仲間にしたってロリを見捨てて一人で逃げることも出来たのに、それをしなかった」


魔女娘「そこが気に入った」


ロリ姉「…………あああ!! くそっ変な真似したら今度はお前の頭蓋を沈めるからな」


サキュバス「じゃあマスターも変なことできないわね。あれ結構痛いわよ」


魔女娘「そりゃ金属の棒で殴られたら痛いだろうさ」


ロリ「ありがとう、お姉ちゃん!」


魔女娘「お礼はマザーを治してから言って……じゃあ行こう。さっさと治して食べ歩きの続きする」


サキュバス「まだ食欲があるのね。流石マスター……」

undefined

    ?


ライバル魔女「どこ行きましたの!? あの二人は!」


友魔女「あちこちで噂になってるから、ここらへんには来てたはずなんだけどな」


ライバル魔女「だいたいその噂ですわよ。暴食の嵐って……女性二人組が屋台という屋台の食べ物を食い荒らしているって……淑女のすることじゃありませんわ」


友魔女「まあらしいじゃん」


ライバル魔女「やっぱり魔女娘さんはワタクシが見ていないとだめですわ! 何をするか――」


友魔女「ほんと魔女娘のことが好きだね」


ライバル魔女「そ、そんなことありませんわ!」アタフタ


友魔女「分かりやすいなぁ――あれ?」


ライバル魔女「何か見つけましたの?! 魔女娘さん!?」


友魔女「ちがう……」


???「ロリ――! ロリ姉――!」


ライバル魔女「あの方も人を探してらっしゃるのかしら」


友魔女「おい! 少女――」


少女「――……友魔女姉ちゃん……いいところに! ロリとロリ姉見なかった?」


友魔女「見てない。何、迷子?」


ライバル魔女「知り合いですの?」


友魔女「孤児院にいたときの……妹みたいな子」


少女「ロリ達二人が今朝からいないの!」


友魔女「お祭りだからじゃなくて?」


少女「違うの――だって……」

少女「マザーが倒れたの」


友魔女「シスターがっ!?」


少女「うん……それで莫大な医療費が必要になって……孤児院の経営だって余裕がないのにとても払えるような金額じゃなくて。でも治療を受けないと近いうちに死んじゃう」

少女「それであの子達、昨日隠れて二人で相談してたの――祭りに乗じて魔法使い狩りするしかないって……」


友魔女「――――っ」ダッ


ライバル魔女「友魔女さんっ、どこに行きますの!?」


友魔女「私はシスターの様子を見てくるっ。ライバル魔女は悪いけど少女と一緒にロリ達を探して!」


ライバル魔女「友魔女さん――っ!」


友魔女(おかしい――! だってシスターはこの世界のラスボスで――【災厄の魔女】で――こんなのストーリーに無かった! 死ぬなんてことあるはずないんだ――)ダッ


友魔女「確かめないと……目覚めたかもしれない――」バタバタ

友魔女(ただ倒れたんじゃなくてシスターの中の【災厄の魔女】が目覚めたのなら私が処理しないと――私じゃないと出来ないんだから――)ギリ

   X



ロリ「でねでね、去年孤児院から魔法使いに覚醒したお姉ちゃんがいてね。友魔女お姉ちゃんって言うんだけど……」


サキュバス「あら友魔女の知り合いなの?」


ロリ「お姉ちゃん知ってるの?」


魔女娘「友達」


ロリ「そうなんだ! ねっねっ友魔女お姉ちゃん学園ではどんな感じなの?」


魔女娘「友魔女は……真面目だよ。勉強も出来るし魔法の扱いも上手。そうだね、優等生って言葉が似合う」


ロリ姉「けっ、変わんねぇな。あいつは孤児院にいた頃からいい子ぶりっ子の優等生ちゃんだったよ。……でもよ」


魔女娘「時々おかしい?」


ロリ姉「……なんだお前も分かってんのか」

ロリ姉「根拠のない万能感って言うのか……なぁんか鼻につくんだよあいつ。私には出来るだの私にしか出来ないだの……お前は神様かっての」


ロリ「でも友魔女お姉ちゃん魔法が使えるよ。孤児院からはじめての。だから少しは……」


ロリ姉「あいつの勘違いした全能感は魔法が使えるようになる前からあったよ。けっ! 思い出しただけでも腹が立つ」


魔女娘「随分嫌ってる」


ロリ姉「あいつのこと知ってて好きなやつがいるのかよ」


魔女娘「少なくとも私は好きだけど」


ロリ姉「はっ! そうかい気に入らねぇ」

ロリ「わ、わわわっ! お姉ちゃんだめだよ! 仲良く、ね?」


ロリ姉「……っ。あいつは……あいつだけはマザーのことを名前でシスターって呼ぶんだよ」

ロリ姉「それに……あいつ時々親の敵でも見るかのような目でマザーのことを見るんだよ……」

ロリ姉「上から目線も、人を小馬鹿にした態度も我慢できる……! だけど、あいつのあの目だけは――」


ロリ「お姉ちゃん――!!」


ロリ姉「あの目をする限り、仲良くなんかできない……」


ロリ「お姉ちゃん…………」


魔女娘「…………。興味ない」


ロリ姉「なに……?」


魔女娘「興味ないよ。――最近、友魔女は命をかけて私を救ってくれた」

魔女娘「それだけじゃない。友達思いで優しいところを知っている。だから私は友魔女のことが好き。お前が友魔女が嫌いって話に興味ない」

ロリ姉「……はっ、そうかい。そうだな。その通りだな。お前には関係のない話だった――ついたぞ」


魔女娘「ん。ここか――孤児院」


サキュバス「なんていうか……その……趣を感じる」


ロリ姉「素直にボロいって言っていいぜ」


魔女娘「ボロかろうとそうじゃなかろうと、マザーさんを治せれば関係ない」


メガネっ娘「あっ! ロリとロリ姉! 良かった無事だった! 突然いなくなって心配したんだよ。昨日のことがあったし」


ロリ姉「悪かった。けど、マザーを治療してくれる人を見つけたんだ」


メガネっ娘「本当!」


ロリ「うん! 私の怪我も一瞬で治せたんだ。きっとマザーも良くなるよ」


魔女娘「ん。マザーさんを治療するから案内してくれる」


メガネっ娘「学園の制服……大丈夫なの? 免許のもったひと以外が医行為すると捕まるんじゃ」


魔女娘「言わなきゃバレない」


ロリ姉「……どっちみち国の治療魔術師に払える金はないんだ。マザーを助けるにはこれしか……」


メガネっ娘「…………こっち。ついてきて」

――マザーの寝室


マザー「……すぅ……ぅう」


魔女娘「うなされてる。それに顔も白い」


サキュバス「…………これって」


魔女娘「どうしたのサキュバス」


サキュバス「……これを人間がどうやって治療しようとしたのか気になるわね」


ロリ姉「どういうことだよ。――まさか、もう手遅れなの!?」



サキュバス「いいえ、手遅れじゃないわ。なんだったらすぐ治る」

サキュバス「ねぇマスターもこの症状に覚えない? 最近も同じ症状と出会ってるけど」


魔女娘「いや知らない……――ってまさか――!」


サキュバス「そう――精気欠乏よこれ、中度のね」


ロリ姉「何言ってんだよ。分かるように説明してくれ! マザーは……マザーは本当に元気になるのか?!」

ロリ姉「何言ってんだよ。分かるように説明してくれ! マザーは……マザーは本当に元気になるのか?!」


サキュバス「……マザーさんはね、淫魔に食べられたんだよ。で、生きる元気を取られた状態」


メガネっ娘「淫魔って……本当に言ってるんですか! 冗談だったら許さないよ!」


ロリ姉「おい、淫魔ってなんだよ。食べられたって……怪我はないじゃないか」


メガネっ娘「そういう食べるじゃない。この人の言う食べるは、性的な意味での食べる……って解釈で合ってるよね」


魔女娘「ええ……サキュバスの言ってることは本当。私も先日マザーさんと同じ症状になった。私の場合もっと酷かったけど」


メガネっ娘「…………………」


ロリ姉「本当か! 何をすれば治るんだ!」


サキュバス「セックス」


ロリ姉「は?」


サキュバス「セックス」

メガネっ娘「ロリ姉、この人たちに帰って貰って」


ロリ姉「おう。ふざけるのもいい加減にしろよ。こっちが藁にもすがる思いで、どれだけ……」


サキュバス「本当よ」


メガネっ娘「だとしても、なんでマザーが淫魔に食べられたって言い切れるんだよ。マザーが美人だからうまい事言って強姦しようとしてるんじゃないの」


サキュバス「私も淫魔だからよ。そのまま精気欠乏の状態が続いたらどうなるか知ってるわ。廃人よ」


メガネっ娘「嘘もいい加減に……」


ロリ「でも、このお姉ちゃん……人間じゃなかったよ。……そのいん、魔? っていうのは本当なんじゃない?」


メガネっ娘「……本当?」


ロリ姉「……少なくともパイプで頭を殴ってもすぐに復活する程度には人じゃなかった。そこに関しては信じてもいいと思う。それにマザーが倒れていたときの格好のこと考えると、淫魔っていうのもあながち嘘じゃないんじゃないか……」


メガネっ娘「……ロリ姉がそう言うならそうなんだろうね……でも――」


サキュバス「私達がするのが気になるのなら、貴方たちの精気を補給すればいいじゃない」


メガネっ娘「何を言ってるの……?」


サキュバス「私が近くにいる必要はあるけど、人同士での精気のやり取りは可能だわ」

サキュバス「別にすぐに廃人になるわけじゃないから急いで決めなくてもいいけど、時間をかければかけた分だけ障害の残る確率は上がるわ」


メガネっ娘「…………マザー」


ロリ姉「――お前たちは絶対マザーに触るな! それが条件だ」


メガネっ娘「ロリ姉……正気?」


ロリ姉「もう他に手はないんだ。冗談じゃないってんならするしかない」

ロリ姉「そりゃ必死になって探した治す方法がセックスでした、なんて馬鹿にしてるし最初は腹が立ったけど――本気で言ってるんだろ」

ロリ姉「私はマザーを救いたい――それがどんな方法であっても」


メガネっ娘「……分かったよ。私だって同じ気持ちだよ」

メガネっ娘「おい、お前たち嘘だったら承知しないからな」


サキュバス「嘘じゃないって……まあ話が決まれば早い」


ロリ「うん。私も頑張るよ!」


ロリ姉「……ロリは向こうに言ってろ」


メガネっ娘「そうね……今からすることは大人のすることだから、ロリは見ちゃいけないよ」


ロリ「いや! 私もマザーを救うの! それに私、せっくすが何か知ってるよ!」


ロリ姉「おい待て誰に聞いた!」


ロリ「少女お姉ちゃん! 好きな人が出来た時のために覚えておきなさいって」


ロリ姉「あの馬鹿! 今度シメる」

ロリ「私マザーのこと好きだよ。だから私にもやらせて」


メガネっ娘「でも……」


ロリ姉「後悔しないか?」


ロリ「うん!」


ロリ姉「はぁ……いいよ。だけどちゃんと言うこと聞けよ」


ロリ「やった! ありがとお姉ちゃん!」


メガネっ娘「いいの……?」


ロリ姉「何するか分かってそれでもやるっていうんなら、本人の自由だ。止めねぇよ」

ロリ姉「それに、明らかにおかしい事しだしたら止めればいい」


メガネっ娘「……あなたが止めないなら私からは何も言わないよ」


サキュバス「さてと、それじゃあ始めましょうか」

サキュバス「マザーさんを助けるためにね」

―――――
――――
――


 マザーと呼ばれ孤児院の子どもたちから親しまれている女性――シスターには尊敬すべき養父がいた。
 そもそもシスターも孤児院の育ちで、幼き頃から他の子どもたちと共に孤児院で養父の世話を受けていた。
 養父は信心深い宗教家で、孤児院が教会を兼ねていたこともあって子供たちに様々な教えを施していた。
 曰く、神は苦労を見逃さずそれ相応の幸福を与える。曰く、人を助けることは回り回って自分を助けることにつながる、等々。

 敬虔なる神の使徒であった養父のことをシスターは心の底から尊敬し、彼のようになりたいと切に願っていた。
 だからこそ、養父が突然亡くなったとき、彼女が自分から孤児院の運営を名乗り出たのは当然のことであった。

 当時、シスターは十八歳の誕生日を過ぎたばかり――つまり、国の基準で成人したばかりの歳であったためすぐには国から認められなかったが、それでも折れずに説得した末に国が折れる形で孤児院の運営を任されたのだ。

 孤児院そして教会の運営はシスターの想像を超えるほど厳しく、借金も増えていき、何度も挫けそうになった。だが、その都度養父から教えてもらった神のお言葉を思い出し心を奮わせた。
 それに子どもたちもいた。
 孤児院にいた子どもたちは皆優しく、そんな子らがいたからこそシスターは決して弱音を吐くことなんてなかった。
 そして大人になり孤児院を出ていった子供たちが何かとシスターのことを気にかけ支援してくれることが次第に増えてきた。
 おかげで孤児院にあった借金を全て返済することができ、運営はなんとか軌道に乗り安定しだした。
 余裕はないが、少なくともすぐにでも潰れる危険はなくなった。
 それがシスターが四十を過ぎた頃のこと。

 落ち着きだしてみると今度は求婚の申し出が増えだした。町の商人、役人、果ては孤児院を巣立った子供からも結婚を申し込まれたことがある。
 シスター自身にもそういった願望が無いわけでも無かったが、自身の歳のことを考えて全てに断りを入れていた。
 今更結婚しても……という思いが強かったのだ。
 それにまだ孤児院には子供たちがいた。彼ら彼女らを放り出すわけには行かなかった。
 そう思ったとき、養父のことを思い出した。
 養父もきっとこんな思いだったに違いない。だから自分の幸せを顧みずに、子どもたちの面倒をみれたのだ。
 そして現在、子供たちはどんどんと大人になり一人一人巣立っていっている。きっとこれが養父にとっての一番の望みだったのだろう。

 そんな養父の気持ちを理解したと同時に……
 ――ああ、自分はちゃんと養父の後を継げていたんだ。
 嬉しくなった。達成感と言ってもいい。

 自分はこの気持ちのまま歳を取り、子供たちに囲まれて教会で亡くなるのだ。シスターは漠然とそう思った。それがシスターにとっての幸せで、苦難を乗り越えた自分に神から贈られた祝福だと思いこんでいた。

 しかし、幸せは突如として終わりを迎えた。
 何の予兆もなく、幸せを壊す爆弾が現れのだ。

 ――それは一人の少女。


「突然だけど、私に食べられてくれ」

 真夜中、何かに誘われるようにして礼拝堂へと足を運んだシスター。
 彼女のことを迎え入れたのは、見たことのない少女。歳の頃は十五、六といったところか。――昨年孤児院を出ていった友魔女と同じくらいの年齢だ。

 不法侵入してきた彼女に何も言うことができなかった。
 それどころか、なんで自分がこんな真夜中に礼拝堂に足を運んだのかすらも分からなかった。

 気づけば礼拝堂にいて、知らない少女が目の前にいた。
 まるで悪魔に化かされたかのような――。

 彼女を前にして分かったことはただ一つ。
 彼女には決して逆らえないということ。
 それ程までに、少女は絶対的で不可侵な存在に思えた。

 それに気づいた瞬間シスターの中で少女の存在がデカくなった。
 その圧倒的なまでの存在感にシスター自身も呑み込まれ、自我が沈む。

シスター「――――あ……」


 服を剥ぎ取られ、牙を立てられた。
 その牙は甘美な毒だった。

 四十余年の人生の中で全く知らなかった過激さへの当惑。身体のあちこちを駆け巡る甘い電流。

 それが『快楽』と呼ばれているものだと数瞬遅れて分からせられる。
 それは何故か。
 触れられた手に、熱に、吐息に――少女から与えられるもの全てに、身体が悦び震えたから。

 少女に触れられた所が、火傷したかのように熱を持ち、思考を狂わせる。
 ああ、もっと触れてもらいたい。その乱雑な手で自分も知らなかった自分をさらけ出させてほしい。

 欲の大火が身を焦がす。
 秘部を拗じられ、嬌声が漏れた。
 その先には子どもたちのことも、養父の遺志も、自身の幸せもなかった。
 何も考えられなかった。考えたくなかった。

 ――私は今までこんなに気持ちの良いことを知らずに生きてきたのか。
 胸中に渦巻く後悔と、悦び。


 その日、シスターは自身の浅ましさを知った。


 決して長くはない時間が過ぎた。
 教壇の上には衣服の一枚も纏っておらず、あけっぴろげに裸体を晒しているシスターの姿が。
 少女はいつの間にか姿を消していた。

 白くなったシスターの顔には生気は見られない。
 ただうわ言のように、もっと……もっと……と何かを求めて呟いていた。
 次第にその声も消えた。
 後には精気が抜け気絶したシスターだけが残った。

 意識の再灯火は秘部に流れた甘美な電流からだった。
 あれからどれくらいの時がたったのだろう。
 意識を失ってもなお、日に日に大きくなる快楽への渇望に気が狂いそうになっていた。

 その中で秘所にチロチロと滑らかな刺激が。
 たどたどしくも懸命に動くそれはシスターの女としての部分を疼かせるのに十分だった。

 次第に意識がはっきりとしだす。
 視界に映ったのはよく知った顔だった。

シスター「えっ――?」


ロリ姉「――マザー」


ロリ「やったぁ目が覚めたんだね!」


メガネっ娘「良かった……本当に良かった」


 彼女らはシスターが目覚めたことに安堵の表情を浮かべた。
 当のシスターは視界に入ってきた光景に口が開けなかった。
 よく見知った少女たち。だが、その格好が異様だった。

 全員一糸纏わぬ裸体を曝け出していた。


 そして秘部から走る快楽。
 視線を自身の下腹部へと下ろすとロリ姉と目があった。
 彼女はシスターの足と足の間に挟まるように身を潜り込ませていた。
 ロリ姉の顔が秘部に近い。

 瞬間、あの日と――己の浅ましさを知った日と、目の前の光景が重なった。


シスター「きゃあぁ――、っ――――!」

 悲鳴が出そうになるのを塞がれた。
 唇に柔らかい感触。
 マウストゥーマウス。悲鳴はロリからのキスによって塞がれた。

 突然の熱く柔らかな感触に身を強張らせる。
 その隙にロリは口腔へと舌を挿し込んだ。


シスター「ん、んんんっっ――!!」


 口の中を滑り気を帯びた軟体に蹂躙される。
 舌を絡ませ、歯を舐められ――引き剥がさなくては、と思った頃には口腔を全て舐めとられ、満足そうに微笑むロリの姿が目の前にあった。


シスター「――なんてこと…………」


 長年面倒を見続けた少女たち。なんだったら全員のおしめを変えたことだってある。
 だのに――

ロリ姉「ふふふっ、マザーすっごい濡れてるぜ。まだ足りないよな」


メガネっ娘「あっ次は私ね。お胸もいいけど、そこも舐めてみたい」


ロリ「じゃああたしはキスの続き~」


 こんな好き勝手に犯されるなんて。

 なんとか抵抗しようとするも身体に力が入らず、なされるがまま。


シスター「やめ――やめなさい! あなた達!」


 なんとか言えた静止の声も聞く耳はなく。
 身体を這う指と舌は止まることなく激化した。


ロリ「ふふっ」


 その中で不意にロリが微笑む。
 育て子に犯される絶望に沈む中聞こえた明るい声はやけに不吉に思えた。


ロリ「そんな顔しないで――」


 ――いや、不吉じゃない。
 シスターは既には知っていた。
 この身を焦がすような甘い情動を。
 身体に刻まれた悦びを。


ロリ「そんな気持ち良さそうな顔してたら、やめられないよぉ」


シスター「――――」


 ああ、そうだった。
 本当の私はこうだった。
 今まで自分を厳しく律してきたが、本心では快楽を求めていたんだ。
 ひょっとしたら、彼女達を育ててきたのだって、今日この日のためだったのかもしれない。

シスター「お、おねがい――」


 浅ましい自分に。
 もっと――――。


シスター「きもちぃことして……」


 瞬間、少女たちの目が変わる。
 それはまさしく捕食者の眼だった。


 その後、シスターはまた気を失うことになる。
 淫魔と化した少女三人が満足するまでおもちゃとされたからだ。

 行為後、三人分の愛と抑圧してきたものが満たされたことにより、シスターの顔は満ち足りた表情となっていた。

――――――
――――
――


サキュバス「あらら全員寝ちゃった」


魔女娘「……3人とも途中から明らかに性格が違った……何したの?」


サキュバス「別に。ただの催眠よ」

サキュバス「自分のことを淫魔だと思いこむように催眠をかけたの」

サキュバス「そのおかげで淫魔にしか出来ない精気のやり取りもできたわけ」


魔女娘「それは……特性の同調じゃないの?」


サキュバス「少し違う。そもそも契約を結んでなくちゃ特性の同調は起こらないよ」


サキュバス「……まあ、マスターになら言ってもいいかな」


サキュバス「私って特別なの」


魔女娘「…………そう」


サキュバス「あ、軽口だと思ってるでしょ! 本当なんだからね!」

サキュバス「はぁ……マスターは『世界催眠』って知ってる」


魔女娘「……なにそれ。聞いたことない」


サキュバス「だよね。特別なサキュバスだけが使える催眠術だから知らなくて当たり前だけど――正しくは『世界を惑わすほどの催眠』っていうんだけど」
サキュバス「おかしいと思わなかった。マスターだって知ってるでしょ、催眠はそんなに便利なものじゃないって。人のことを操るのは……まあ出来るけど、操れる時間と人数は術者の資質と魔力量に依存してるし、それに催眠じゃ見た目を変えることは出来ない」シッポフリフリ


魔女娘「じゃあ人間に見えるように自分に催眠をかけたっていうのは嘘?」


サキュバス「んにゃ、本当」

サキュバス「私が望んだように事象を改変する――言うなれば世界そのものに催眠をかける。これが【世界催眠】の能力」


魔女娘「――なんでも自分の思い通りに出来るの?」


サキュバス「そうだね。なんだったら世界だって滅ぼせるよ。ま、【世界催眠】は私が認識できることにしか作用しないけどね」


魔女娘「……とんでもないな」


サキュバス「そう。だから特別なの」


魔女娘「…………。その力で死んだ人を蘇らせるのは可能?」


サキュバス「――少なくとも今まで成功したことはないわね」


魔女娘「そう……」


サキュバス「誰か……蘇らせたい人がいるの?」


魔女娘「……ほんと、こういう時デリカシーないな」


サキュバス「あらごめんあそばせ。なにしろ淫獣崩れなもので」


魔女娘「――母親だよ。また会いたいのは」

サキュバス「……余りいい人ではないみたいに言わなかったっけ」


魔女娘「確かに娼婦だったし、私の前で客引きするような倫理観の欠片もない人だったけど……」

魔女娘「それでも私の母親だから」


サキュバス「ふぅん……どんな家族だったの」


魔女娘「底辺も底辺。娼婦の母親とツキのない賭博師の父親」

魔女娘「お金もなかったし、住む場所が無い時もあった」


魔女娘「――ある日、母親が廃人になった」


サキュバス「廃人?」


魔女娘「物も言わない。ご飯も食べない。動きもしない」

魔女娘「ただ息をしているだけの状態だった」


魔女娘「母親の稼ぎだけで暮らしていたから、何とかしてお金を稼ぐ必要が出てきた。借金もあったしね」


魔女娘「それでやったのが魔法使い狩り」 


サキュバス「やってたって言ってたわね……」


魔女娘「ん。父親と二人でね。数回はうまくいったけど」

魔女娘「所詮ツキのない賭博師のやること。すぐに返り討ちにあった」

魔女娘「父親が半殺しになる様を見て、私も殺されると思った――その時だった。私が魔法に目覚めたのは」

魔女娘「なんとかその場は魔法使いを返り討ちにしたけど……」


サキュバス「まあ、問題よね。貴族のお子様をボッコボコにしちゃったんだもの」


魔女娘「すぐに身元がバレて親の方が報復にやってきた」

魔女娘「……そのとき、そのお貴族様は私に二つの選択を迫った」


魔女娘「養子に来るか。殺されるか」


サキュバス「養子……?」

魔女娘「魔法の才能がずば抜けてたみたい」

魔女娘「それに養子に来れば大金を渡すとも言われて、父親は目の色を変えた」

魔女娘「父親は喜んで私をお貴族様に差し出した」


サキュバス「それは……」


魔女娘「別に同情が欲しいわけじゃない。お貴族様になったおかげでご飯もいっぱい食べれるし」


魔女娘「ただ家を出て少ししてから母親が死んだと聞いた。それが……」


サキュバス「気になるのね……」


魔女娘「まあね」


魔女娘「サキュバスは? 家族いないの?」


サキュバス「姉がいたわ」


魔女娘「いた?」


サキュバス「……あら、マスターだってデリカシーないじゃない」


魔女娘「……ごめん」


サキュバス「ははっ、いいよ。ただの軽口だから」


サキュバス「行方不明なのよ。もう十年になるかな。死んだかどうかすらわからない」


魔女娘「そっか……」


サキュバス「――いなくなった人と……また、会いたいわね」


魔女娘「そうだね……」

――――――
――――
――


友魔女(よし! 教会まであと少し)


ドゴーン


友魔女「なに今の音??」


???「ギャオオオォッ!!!」


友魔女「あれは――【災厄の魔女】の下僕! やっぱり【災厄の魔女】が目覚めたのか?!」


タスケテーダレカーシニタクナイッ


友魔女「っ! 町が!」


下僕「グルルルッ!!」ドカーン


友魔女「こっちに来るか!」トタタ


下僕「ギャオォン!!!」ギロリ、ドシドシ


友魔女「――違うなこれ」

友魔女「私を狙ってるんだ!」


ライバル魔女「【オーバーノヴァ】!」ドガーン


下僕「グッガァアッ!」ドガーン


ライバル魔女「大丈夫ですの!? 友魔女さん!」シュタッ


友魔女「何で――」


ライバル魔女「貴方って結構顔に出るタイプですのよ! 何があったか知りませんけれど、明らかに冷静さを欠いていた貴方を一人にはできませんわ!」


友魔女「だからついてきたの!?」


ライバル魔女「あら? 余計なお世話でした?」


友魔女「……いや、助かったよ。ありがとう」


ライバル魔女「礼を言うにはまだ早いですわよ」


下僕「グルル」ギロッ


ライバル魔女「なかなか大きいじゃありませんの」


友魔女「……オーバーノヴァが効いてない」


ライバル魔女「そんなこともありますわ」

友魔女「――あいつを操ってる奴に心当たりがある! そいつを叩けば多分こいつも消える!」


ライバル魔女「じゃあお互いにやるべきことは一つですわね」


ライバル魔女「ワタクシはコイツを力の限りねじ伏せる。友魔女さんはその隙きに心当たりとやらの場所へ行く」


友魔女「そんな……上級破壊魔法のオーバーノヴァが全く効いてない相手だよ! 応戦するんじゃなくて逃げながら操ってる奴を倒したほうがいい!」


ライバル魔女「そんなことしたら町にどれ程の被害がでるか分かりませんわ。今のオーバーノヴァが効かないんだったらもっと魔力を込めて撃てばいいだけの話。十二分に戦えますわ」


友魔女「でも……」


ライバル魔女「ワタクシを誰だとお思いで!」

ライバル魔女「魔法界の華と呼ばれ、学園生屈指の実力を持ち――なにより」

ライバル魔女「魔女娘さんの生涯のライバルですわよ! こんなところでくたばりませんわ!」


友魔女「……ごめん。すぐ大元を潰してくる」タタタッ


ライバル魔女「あら、その前にあのデカブツ程度いなしてみせますわよ」


下僕「ガルルッ!!」


ライバル魔女「おっと――ここから先へは行かせませんわ」

ライバル魔女「【サモン】!!」


ライバル魔女「折角の初陣ですもの。カッコよく決めますわよ――ドラゴンちゃん!」


ドラゴン「ギャアアアアァァッッッ!!!」


下僕「グゴアァァッッツツツ!!」

   ☓


ドーンドゴーン


サキュバス「なんか外騒がしくない?」


魔女娘「……爆発音?」


サキュバス「戦争でもやってるのかしら。ちょっと見てくるわ」


魔女娘「危ないと思ったら逃げるんだよ」


サキュバス「はーい。……冗談で戦争って言ったけど、本当に起きてないわよね?」


魔女娘「起きてるとしたら戦争じゃなくてテロ」


サキュバス「うへぇ……ま、滅多なことにはなってないでしょ」ガチャ


シスター「う、うーん――」


魔女娘「あ、おきた」


シスター「あなたは……?」


魔女娘「通りすがりの魔法使い。仮免だけどね」


シスター「はぁ……あ、お祈りの方ですか? でしたら聖堂の方に……」


魔女娘「それだけ話せるなら大丈夫そう。覚えてる? 数日寝込んでたみたいだけど」


シスター「数日……? そういえばここ寝室――あ」


ロリ「すうすう」

メガネっ娘「すぴー」

ロリ姉「ぐぅすか」


シスター「なんでこの子達が私のベッドで――。――――あっ!」


シスター「――私、なんてこと……」アワアワ


魔女娘「落ち着いて」

シスター「夢……じゃありませんよね」


魔女娘「……思い出したか」

魔女娘「マザーさん。貴女は淫魔に食べられて精気が欠乏している状態でした。その娘達は欠乏分の精気を注いでくれたんです」


シスター「淫魔……? アレは淫魔のせいで……」


魔女娘「そう。だから……」


シスター「嘘よ」


魔女娘「……嘘じゃなくて本当に――」


シスター「嘘よ――! おぞましい……現実なわけありません! あんなことを娘達に……」


ロリ「ん……ふわぁ――あっマザー起きてる! えへへ元気そうだねぇ」


シスター「ロリ……」


ロリ「えへへ、恥ずかしかったけどキスして良かったよぉ」


シスター「――忘れなさい」


ロリ「ふぇ?」


シスター「このことは忘れなさい」


ロリ「えぇ?! なんでぇ? マザーだってあんなに気持ち良さそうだったのに――」


シスター「黙りなさい!」


ロリ「マザー……?」ビク


シスター「あれは悪い夢だったのです」


シスター「……少し一人にさせてください」フラリ


ロリ「ま、マザー……どこに行くの? 病み上がりなんだから安静にしてなきゃ駄目だよ……」


シスター「………………」ガチャ、バタン


ロリ「マザー……」

シスター(取り返しのつかないことを……
シスター(あの子達はまだ子どもで守らなくてはいけないというのに……私が……)


サキュバス「あ……」


シスター「――――? 礼拝の方ですか? 申し訳ありませんが本日は……」ヨロ


サキュバス「よかった。目が覚めたのね」


シスター「……貴方もですか」


サキュバス「はい?」


シスター「私は淫魔になんて食べられていません! 何か……そう! 悪い夢を見ていただけなのです! だから……あんなの……嘘」


サキュバス「嘘じゃないけど。記憶が混濁してるのかしらね。貴女は淫魔に食べられて倒れて、あの三人娘に救われた。それは本当のことだけど」


シスター「だから――! それは夢で……」


サキュバス「なんでそんな無かったことにしたがるのよ」


サキュバス「あの子達があなたの事を大切に思ってたからしたことじゃない」


シスター「え……?」


サキュバス「分かってないみたいだから言うけど、あの子達があなたの事を抱かなければ、あなた廃人になって死んでたのよ」

サキュバス「それが嫌だからあの子達はあなたとセックスしたのよ」


サキュバス「それにあの子達じゃなくて私が抱いても貴方を治せた。……けどあの子達は自分たちの手であなたの事を治したのよ」


サキュバス「なんでかは私にだって分かるわ。――あなたのことが大切だったからよ。あなたの事を思っていたから、よその誰かに任せずに自分の体を張って助けたかったのよ!」

サキュバス「その思いを夢なんて言葉で否定するのは、あの子達が可哀想だわ……」


シスター「だとしても――私は……あの子達を汚してしまった」


サキュバス「セックスは汚すことじゃないわ――愛を交わす行為よ」

サキュバス「そりゃ同族の中にはただの食事だと思ってるやつもいるし、人間の中にだって恥ずべき行為だとしているやつもいるわ」
サキュバス「でも、愛してなきゃ自分から身体を捧げるなんてできないわよ。……少なくともあの子達は自分達が汚されたなんて思ってないはずよ」


シスター「……気持ちいいと思ってしまったんです」


サキュバス「そりゃ、気持ちいいことしてたんだから当たり前でしょ」


シスター「……彼女達を気持ちいいことするための道具のように思ってしまうかもしれない」


サキュバス「それは……ないんじゃない? だって、貴女はそんなにも悩んでる。道具だなんだって思うやつはそんなに悩まないわよ」


シスター「でも……いけないことです」


サキュバス「なんで? 好き同士なら当たり前にすることだよ」

シスター「なんでって……娘同然の存在ですよ」


サキュバス「実の娘じゃないし。仮に血が繋がってたとしても、お互いに望んでるでしょ――だったら問題なしよ」


シスター「望んでいないですし、そんなこと許されません!」


サキュバス「だれが? だれが許してくれないの?」


シスター「それは……そう、主です。主は婚前の姦淫を許しません。この逸話は御神歴にも記してあります」


サキュバス「倒れた貴方を救ったのは主じゃなくて、三人娘よ」


サキュバス「ねえ。いい加減認めたら?」


シスター「…………――――ぃ」


サキュバス「え?」


シスター「認められる訳ないじゃない!」

シスター「私がこの気持ちを認めてしまったら、養父は……養父の遺志はどうなってしまうのですか!」

シスター「子ども達を立派に育て上げる。その志を養父は生涯やり遂げました! 私はその遺志を継いでいるのです」

シスター「養父の遺志は私の誇りです! 私は! 養父に誇れない自分にはなりたくないのです!」


サキュバス「それが本音か。――って言ってるけど」


シスター「え?」


ロリ姉「マザー……」

ロリ「……マザぁ」ウルウル

メガネっ娘「…………」


シスター「あなた達……」


メガネっ娘「マザーにとって私達は誇りを守るための道具ですか?」


シスター「何を言って……」


ロリ姉「メガネっ娘の言うとおりだぜ。マザーにとって私達はそんだけの価値しかなかったのかよ」


ロリ「マザー……そうなの?」


シスター「ちがっ――」


ロリ姉「だったら――だったらその誇りって重荷降ろせよ」

メガネっ娘「孤児院のマザーとしても、教会のシスターとしてもマザーはもう十分すぎるほど頑張ったよ。――いい加減自分のために生きても良いはずだよ」

ロリ「ねぇマザー……マザーの思いを教えて……」


シスター「………………」

シスター「あの日から……自身の浅ましさを知った日からおかしいのよ」

シスター「まるで篝火みたいな小さな火が、お腹の下にずっと燻って…気を抜くと抑えられないほどの大きな炎になりそうで」

シスター「狂いそうなの。身体が快楽を求めて……求めて――我慢できなくなりそうで……」

シスター「今も気をしっかり持たないと貴方達を押し倒してしまいそうで……今までの自分と全く違う。まるで自分が自分じゃなくなったみたいで、怖いのよ……」


ロリ姉「なんだ。そんだけのことかよ」


シスター「そんだけって……」


ロリ姉「そんだけのことだわ――押し倒したかったら好きに押し倒していいぜ」


メガネっ娘「はい。私もです」


ロリ「私も〜」


シスター「なんで…」


ロリ姉「なんでも何も、マザーのことが好きだからに決まってるだろ」

メガネっ娘「私達はあなたの全てを受け入れますよ」

ロリ「だってマザーのことが好きなんだもん! マザーのためだったら何だってできるよ!」


シスター「あなたたち……」


ドゴーン!!


ロリ「わわわっ!! なんの音!?」


魔女娘「サキュバス、音の正体は分かった?」


サキュバス「あ、いたんだマスター」


魔女娘「ずっといたわ。で、音は?」


サキュバス「残念ながらまだ外出てないから分かってないわ」



友魔女「シスタァァァアアアアッッ!!!!」ドガン


魔女娘「友魔女!?」


友魔女「魔女娘っ?! なんでここに……じゃない! シスターっ! 今すぐに下僕を止めろ!」


シスター「なんのこと……?」


友魔女「とぼけるな! お前が【災厄の魔女】の生まれ変わりだってことは分かってんだ――だから――!」


下僕「ゴォオォオオオォ!!!」ドゴーン


友魔女「早くこいつをとめろ!!」


ロリ「きゃあああぁっっ!」


ロリ姉「なんだよ、あれ」


メガネっ娘「壁が……おもちゃの積み木みたいに……」


魔女娘「――っ! 友魔女! あれは何?!」

友魔女「【災厄の魔女】の下僕! 操ってんのがお前だってことは分かってんだシスター!」

シスター「ち、違います! 私じゃありません!」

魔女娘「落ち着け、友魔女! 自分がおかしなこと言ってると分かってる?」


友魔女「どいて、魔女娘! そいつを殺せば後ろの怪物は止まるんだ!」


魔女娘「どかない。――あの怪物は私が倒す」

魔女娘「そのあと落ち着いて話を聞くから」


友魔女「倒せるようなものじゃない。足止めしてくれたライバル魔女もやられたんだぞ!」


ライバル魔女「誰がやられたですって――!」


友魔女「ライバル魔女――! 無事だったの!?」


ライバル魔女「ええ! 勝手に負けたと決めつけないでくださいまし! むしろ一回叩き潰して差し上げましたわ!」


魔女娘「じゃあそのデカブツはなに?!」


ライバル魔女「木っ端微塵に叩き潰したら、吹き飛ばした腕から再生して逃げられたのですわ!」

ライバル魔女「で、この怪物はどこの誰が操っているんですの?!」


友魔女「シスターっ!」


シスター「ひっ!?」


魔女娘「違う! この人じゃない!」


友魔女「いいえ、この人が全ての現況なの! 私は知ってるだから!」


魔女娘「友魔女!」


ライバル魔女「……なるほど。友魔女の方の解決策は解決策になりそうにありませんわね」


友魔女「――なんで誰も信じてくれない! あいつが消えれば――」


魔女娘「とりあえずあのデカブツを倒してから話は聞く」


ライバル魔女「狙いは友魔女さんですわ」


魔女娘「だったら――」ガシッ


友魔女「ちょっと! 魔女娘! 私は――」


魔女娘「いいから、一緒に来い。あのデカブツを人気の無いところまで誘導する」


ライバル魔女「ドラゴンちゃんにお乗りなさい! 外にいますから」


友魔女「そんなことしなくても、この場であいつを殺せば――」

ロリ姉「いい加減にしろよ――!」
ロリ姉「マザーを殺すだなんだ……聞いてれば好き勝手言いやがって! お前がマザーのこと嫌いなのは知ってるよ! けどなせめて最低限の育ててもらった恩はないのかよ……」


友魔女「――――魔女娘、手……離して」

魔女娘「友魔女……」バッ

友魔女「――……さい」トタトタ

ロリ姉「は?」


友魔女「うるさいんだよ! 名前すらなかったモブ風情が! 私だけしか知らないんだから――私にしか出来ないんだから! モブはモブらしくそこらへんにすっこんでろよ! 邪魔――するな!!」


ロリ姉「なんだと――」


ロリ「――! お姉ちゃん!」グイ

メガネっ娘「ロリ姉――! 下がって!」グイ

ロリ姉「ぅ――わ!!」


魔女娘「友魔女――避けて――!!」


友魔女「なに……?」


下僕「ウゴアアァアァァァ!!」ゴゥン


友魔女「う、そ……」


魔女娘「友魔女――――っ!」


ライバル魔女「ごほっ……ごほごほ――! 土煙が……ごほっ!」


魔女娘「友魔女――友魔女っ友魔女っ――!」


ロリ姉「そんな――」


友魔女「ごほっ……大丈夫……」


魔女娘「友魔女っ!!」

魔女娘「よかった! 怪我は――え?」


ロリ姉「嘘だろ……なあ――嘘って言ってくれ――!」


ロリ姉「マザー――!」


シスター「ぅ……あ、かはっ――」ゴポッ


メガネっ娘「瓦礫に……友魔女を庇って……」


ロリ姉「すげぇ量の血……おい、頼むよ魔法で治療してくれ。……はやく……死んじまうよ」


ライバル魔女「……残念ですが……出血だけならまだしも、腹部の損傷が激しすぎますわ……これは……もう」


ロリ姉「おい! ふざけるな! マザーはさっき寝たきりから回復したばっかなんだぞ――それなのにこんなのって……」

ロリ姉「お前の……お前のせいだ、友魔女ォ――!」


友魔女「なんで、なんで私を庇って……え? なんで死にかけてるの……シスターは【災厄の魔女】で、この世界のラスボスで……こんなことで死ぬはずないのに……え?」


下僕「グゴオオォオオオォぉぉ!」


ライバル魔女「お逃げなさい、友魔女! 追撃がきますわよ!」


友魔女「なんでこいつも消えてないの? 【災厄の魔女】が死んだらこいつも消えるはずなのに……」
友魔女「あれ……なんで……」

魔女娘「ちっ――【オーバーノヴァ】ッ!!!」ドゴゴゴンッ


下僕「グオオン!!」ヨロリ


ライバル魔女「……明らかにタフになってますわね。魔女娘さんのオーバーノヴァでも怯む程度ですか」

ライバル魔女「ですが逃げる時間は稼げますわね……友魔女早くこちらへ、外に逃げますわよ。他の皆様も! 建物がもう持ちませんわ」


ロリ「お姉ちゃん、早く逃げよう」


メガネっ娘「ほらロリ姉もはやく――」


ロリ姉「……逃げるんならマザーも一緒だ」


友魔女「……だって……こんなのおかしい……」


ロリ姉「友魔女――!」


友魔女「――……」ビクン


ロリ姉「お前のせいだぞ」


友魔女「わたしの……」


ロリ姉「お前の、その無根拠な自信がマザーを殺したんだ……」


友魔女「だって……だって本当ならシスターが【災厄の魔女】で……全部悪いのはこいつのはずなのに……」


ロリ姉「まだ言うか――」


シスター「だめよ、ふたりとも」ヒューヒュー

シスター「仲良く……しなさい。家族でしょ」


ロリ姉「マザー……!」

シスター「ロリ姉……あなたのその真っ直ぐなところは美点だけれど、少しは折れることも知るべきね」

ロリ姉「やめろよ……そんな遺言みたいな」

友魔女「なんで……なんで私のことを庇った……お前のこと殺そうとしたんだぞ」

シスター「友魔女……あなたが私のことを嫌っているのは分かっていました。……それでも、あなたの年下に対する面倒見の良さ、優しさを私は知っていますよ。自慢の娘と思うにはそれだけで十分」

シスター「……なんで庇った、なんて悲しいこと聞かないでください……あなたは、私のかわいい娘なんですもの」

シスター「例え……ゴボッ……死んだって、あなたのことを守ります」ニコリ

友魔女「――そんな……そんなのって」

ロリ姉「おい! マザー! 駄目だ……駄目だよ! いかないでくれ! お願いだ――いかないで!」

友魔女「私は――私は、ただ……」

シスター「笑ってください。二人とも。私は自分の子供たちに笑顔で送られるのが夢だったんです」

魔女娘「じゃあその夢はしばらく叶わないな――」

魔女娘「【オーバーリキュア】」パアァ

ロリ姉「傷が――!」

シスター「これは……」

ロリ「治ってる――見て、マザーの傷治ってるよ!」

メガネっ娘「嘘――嘘じゃないよね」

ライバル魔女「さすがワタクシのライバルですわね……あれ程の怪我を治せるなんて」

魔女娘「立てよ。友魔女」


友魔女「魔女娘……違う……違うの……私は……」


魔女娘「言いたいことはあるし、聞きたいこともある――だけど今は、アイツをどうにかするほうが先!」


下僕「グゴォ――!」


ライバル魔女「動き出した! ――魔女娘さん友魔女さん、はやく!」


魔女娘「いくよ!」グイッ


友魔女「う……うぅ」フラリ


ライバル魔女「大丈夫ですの……?」


魔女娘「大丈夫じゃなくても、あの化け物、友魔女を狙ってるんでしょ。ここにはおいておけない」


ライバル魔女「……やるしかありませんわね。……ほらドラゴンちゃんの背に乗って!」

ライバル魔女「――行きますわよ! お願い、ドラゴンちゃん!」


ドラゴン「グルォオオオン!」バサッ

 空から見る町の惨状は思わず目を覆いたくなる程だった。
 あちこちから上がっている煙。
 止まらない悲鳴と爆発音。

 そして――

魔女娘「何体いるんだよ――」


 数体の下僕が町を破壊していた。
 大きさは友魔女を追っているやつよりは小さいが、それでも人の二倍は背丈がある。


友魔女「……下僕は分裂する。何体にも増えるし、倒してもすぐ再生する」

 未だ茫然とした友魔女は、淡々とした調子で告げる。

友魔女「倒す方法は一つだけ。召喚者を殺すしかない」


魔女娘「じゃあ、それは無理だ。召喚者が分からない」


ライバル魔女「でしたら直接あの化け物を倒すしかありませんわね」


友魔女「だから無理だって……見たでしょ、単純に強いし、傷を負わせてもすぐに再生する」


ライバル魔女「じゃあ再生する前に倒しきればいいだけの話じゃありませんの」


友魔女「無理だって! 数だってどんどん増えていってる! 私の手じゃ負えないよ!」


魔女娘「友魔女だけじゃない。私もいる」


友魔女「端役に何ができるって?」


ライバル魔女「友魔女さん! あなたちょっとおかしいですわよ!」


友魔女「黙れよ……【災厄の魔女】にやられるためにいる奴が私に口答えするな」


サキュバス「あぁ〜お三方、言い合いそろそろ止めたほうがいいかも」


 サキュバスはそう言うと眼下に広がる町を指差した。
 魔女娘は何も言わずに指差された方を見る。

 破壊が止まっていた。
 そして、いつの間にか数十体まで増えていた下僕の全てがこちらを――ドラゴンに乗り宙を飛んでいる魔女娘達を見上げていた。


下僕「グゴォォォォアッ!!!」

 下だけじゃない。背後からの雄叫びに鼓膜が震える。
 雄叫びの主は先程から友魔女のことを追っている下僕だ。
 魔女娘たちがドラゴンに乗って飛んで逃げると、背中から翼を生やして飛行しながら追って来ていた。
 その下僕が叫ぶ。

「「「グルォオオオンッッツ!!!」」」

 咆哮に共鳴し下にいる下僕も吠えた。
 化け物共の咆哮に魔女娘達の身体が震える。比喩でもなんでもなく声による振動で実際に震えているのだ。


サキュバス「こりゃまずい」

 サキュバスの頬に冷や汗が伝う。
 下にいた下僕の背に翼が生え、一斉に羽ばたき出したのだ。
 一直線にドラゴンへと向かって飛んできた。


ライバル魔女「――! ドラゴンちゃん! スピードを――」


魔女娘「いや、今のままでいい」

ライバル魔女「追いつかれますわよ!」


魔女娘「迎え撃つんだよ」

 そう言うと魔女娘は指先を背後から追ってきている下僕へと向け――


魔女娘「とりあえずお前は一回落ちろ――【オーバーノヴァ】」


 下僕の翼が爆ぜた。
 飛ぶために必要な部位が突然なくなったことにより、下僕は重力に捉えられた。

 町へと落ちる前に魔女娘は再度魔法を発動する。


魔女娘「【シャドウバイト】」


 落下する下僕の下に突如巨大で漆黒の顎が現れた。
 顔はない。肉食獣を思わせる鋭い牙とそれを覆う口角。

 バグリ。
 大きく開かれた影の口が下僕を捕食した。
 咀嚼され、バキバキとかたいものが砕かれる音が響く。
 だがそれも長くは続かない。

 不意に影の顎が弾けて消えた。
 顎から出てきたのは“三体”の下僕だった。


友魔女「分裂した……ほら無理じゃん」


魔女娘「ドラゴン止めて。合図したら全速で郊外へ」


ライバル魔女「迎え撃つんですのね。やれますの?」


魔女娘「やる」


 眼下には四方八方に下僕が。
 総数は二十八。
 視線を巡らせ、下僕の正しい数と位置を瞬時に把握する。


魔女娘「【シャドウバインド・チェイン】」


 イメージするのは首輪。そしてそれを繋ぐ鎖。
 犬に首輪を括って制御するように。


魔女娘「どっちが上か教えてやる――」


 下僕全ての首に黒い円が描かれる。
 その円は一瞬にして質量を持ち首輪となって下僕を縛る。
 首輪から鎖が伸びて、それら全てが束ねられ魔女娘の手へ。


魔女娘「【ライトニングボルト】」


 バリリリリッ!!
 鎖を伝って紫電が走る。

 下僕共は突然の感電に悲鳴にならない悲鳴を上げる。
 魔女娘の握る鎖が重くなる。
 数体の下僕が飛んでいられなくなったのだ。
 それを身体強化の魔法を使って握り続ける魔女娘も見事なら、ものともせず滞空するドラゴンも素晴らしかった。


魔女娘「ライバル魔女! お願い――!」

ライバル魔女「ドラゴンちゃん! まっすぐ全霊で羽ばたきなさい!」

 暴風爆発。
 許しを得たドラゴンは雄叫びを上げると、力強く翼をはためかせた。
 風とともに下僕を引き連れ、最高速度で前へと進む。
 ぐんぐんと前へ。景色が目まぐるしく変わる。
 やがて人の気配のない開けた土地へとたどり着いた。

魔女娘「ありがとう」


 鎖を手放し、下僕を地面へと放り投げた。ドシンと重たい音がして土煙が上がる。
 ドラゴンはそこから少し離れたところで地面に着地した。


魔女娘「これで全力で叩ける!」


 カッカッカッ!
 地に降り立った魔女娘は、数回踵を踏み鳴らす。


魔女娘「【オーバーフィジカルブースト】【オーバースピードソニック】【オーバーリジェネルーター】」


 最上位の身体強化の重ねがけと自動回復で準備完了。
 眼前で蠢く異形の化け物共に狙いを定める。

 腹の底に力を込めて、精魂を四肢に漲らせ――――思いっきり地面を踏み込んだ。

 ドッ――――!
 踏み込みと同時に空気の爆ぜた音が鳴り響く。
 加速――加速! 加速!
 下僕目がけて目にも止まらぬ速さで駆け抜ける!

魔女娘「【スターダストメテオ】!」


 流星となって敵に突っ込む。
 メテオの名を関する通りのインパクト。
 たまらず下僕共は散り散りに吹き飛んだ。
 衝撃が下僕共を駆け巡り、数体の下僕は身体を維持することができず塵となってボロボロと崩れ去った。

 【スターダストメテオ】。
 限界ギリギリまで引き上げられた身体能力が可能にする亜音速の体当たり。自爆特攻の大技。威力だけなら【オーバーノヴァ】より幾段も上。
 それだけにまともに撃ったら魔女娘だって無事で済まない。
 だが、そのための自動回復。
 空気との摩擦で焼け焦げた肌が瞬時に回復し、反対に曲がった両腕と肉が裂け骨の見えた両足も一瞬で元に戻った。

魔女娘「……十八体――結構残った」
 カッカッカッと再度踵を踏み鳴らす。


魔女娘「とりあえずあと2回。やろうか」


 暴力が吹き荒れる。
 下僕達はなす術なく着々と数を減らしていった。



 二度の衝突の後、辺りは一面更地となっていた。
 そこに立っていたのは――


魔女娘「ん。全部消えた」


 無傷の魔女娘だった。

 破壊の限りを尽くした魔女娘は晴れ晴れとした顔でドラゴンの元へと戻る。
 彼女を出迎えたのはあんぐりと口を開けている友魔女。
 ライバル魔女は一度目の突撃で下僕を蹴散らした時までは当然といった顔で見ていたが、躊躇うことなく自爆技を連発する様を見て、口角を引つらせ若干引いていた。ドラゴンでさえ顔をそらして目を合わせないようにしていた。


友魔女「な――なっ――」


魔女娘「……ま、こんなもん」


友魔女「こんなもんじゃなくて! なんで下僕を倒せるの!?」


魔女娘「あの化け物共に大した強さは無かった。……いや強かったけど私ほどじゃなかった」

魔女娘「ライバル魔女だってあの化け物を抑え込むことができたって言うし。ライバル魔女にできるなら私にだってあの化け物を倒せる」

ライバル魔女「学園生でアレを倒せるのはワタクシか魔女娘さんくらいでしょうね」

魔女娘「ん。それくらい強かった」

友魔女「でも再生は!? なんで復活しなかったの?!」


魔女娘「あの手のやつは修復不可能なくらい粉々にすると再生してこない」


友魔女「じゃ、じゃあまさか本当に……」


魔女娘「ん。倒した」


友魔女「そんな……」


ライバル魔女「……とりあえず町へと戻りましょうか」


魔女娘「そうだね。……町についたら話聞かせてね、友魔女」


 この時四人の雰囲気は弛緩していた。
 倒しきったと……下僕共を全て倒せたと思いこんでいた。

 黒い霧が渦巻く。
 そして、一陣の風が吹きすさぶ。

 最初に異変に気づいたのは友魔女だった。


友魔女「やっぱり……」


 ポツリと漏らしたその言葉。


友魔女「やっぱり私の言ったとおり――!」


 諦念と絶望に……ほんの少しの喜びを織り交ぜ。


友魔女「あいつは倒せない!」


 風が凪ぎ、霧が晴れた。
 そこにいたのは――


下僕「――――――――ッオ!!!!」


 巨大。圧倒的なまでの大きさ。
 先程まで友魔女を追ってきたやつとは比べ物にならないほどに。
 存在感と威圧感。さながら城だ。


ライバル魔女「再生しましたわね……」


魔女娘「ん」


ライバル魔女「どうしますの……?」


魔女娘「決まってる」


 下僕を見上げる。
 その強大さにさしもの魔女娘も肝を冷やしていた。
 果たして勝てるかどうか。

 だが、引く気はない。
 あいつは友魔女を――友達を狙っている。
 それが分かっているからこそ引くわけにはいかなかった。


魔女娘「また倒す!」


ライバル魔女「ええ! 今度はワタクシも手を貸しますわ!」

 第2ラウンドの始まりだった。

魔女娘「【オーバーノヴァ・フォーマルハウト】」

 今日一番の爆音。
 星の生まれる爆発。それと同等の爆発を受けても下僕はビクリともしていない。

 思わず舌打ちの一つでもしたくなるが、そんな余裕はない。

 下僕が魔女娘目がけて腕を振り下ろした。

ライバル魔女「【オーバーアースウォール・ハード】」


 魔女娘と下僕の間に巨大な壁が現れる。
 ゴウンっと固いもの同士がぶつかる特有の音が響く。
 長くは持たない。壁の方がミシミシと軋み、積み木で作った壁のように簡単に崩された。
 ただしそのおかげで魔女娘は下僕からの攻撃を余裕を持って避けることができた。
 だがそれだけ。そこから攻撃に転じられない。

 戦況は劣勢。
 こちらの攻撃は通らず、あちらの攻撃はガード不能。おまけに一撃でも喰らえば致命必死。
 
 魔力だって無限にあるわけじゃない。魔力だけじゃない集中力だって切れる。
 現に魔女娘はまだなんとか戦えてはいるが少しバテてきていた。

 ジリ貧。
 魔女娘とライバル魔女の胸中には焦りが生まれ始めた。


 焦りは二人の戦いを見守っていたサキュバスにもあった。

サキュバス「――――」


 実はサキュバスにはこの状況を好転させる手が一つだけあった。
 だがそれをすれば必ずバレる。――自身を縛っていた闇に気づかれる。
 気づかれればまた闇の中に連れ戻されてしまう。

 サキュバスの中に迷いがあった。
 せっかく召喚されるという抜け道で自由を得たというのに、みすみす自由を手放すというのか。
 まだ出会って数日の人のために。


サキュバス「――違うだろ」


 思い起こされるのは召喚されてから今日までの記憶。
 厄介な使い魔を召喚したせいで死にかけたというのに、その後も変わらず一緒に笑い合ってくれたマスター。
 誰かと話をするだけでも楽しくて――心をときめかせた毎日。
 未知の体験、見たことのない風景。

 生きてきて今までで一番楽しかった。
 彼女達と一緒にいたから楽しかった。

 数日とか知り合った日数は関係ない。


サキュバス「好きなんだ――マスター達のことが」


 失いたくない。
 失いたくないから、覚悟を決めた。

サキュバス「マスター! 今から【世界催眠】でその化け物を無力化するから、一撃で仕留めて!」


 大声で主人へと告げる。
 それと同時に自身にかけていた催眠を解いた。
 羽としっぽがクルリと翻る。
 身に纏った服も姿を変え、布地の面積が極端に減る。
 上と下、紐のような太さの黒い布で大事なところをかろうじて隠すのみで肌の殆どを見せていた。
 これが淫魔としての本領を発揮するための正装。

 催眠の本質は誘惑だ。
 相手に自分のことを魅力的に見せなくては催眠の効きは悪くなる。
 【世界催眠】とて同じこと。
 淫魔の正装には催眠をかけやすくする能力がある。

 つまり今のサキュバスは十二分に催眠の力を行使することができるようになっていた。


 下僕含めこの場にいる全員がサキュバスに目を奪われる。
 淫魔の正装が持つ誘惑能力のせいだ。

 サキュバスは下僕を見上げる。
 敵は強大にして圧倒的。


サキュバス「――違う」


 強大さも。威圧感も。
 再生能力も。馬鹿力も。
 五感も。筋力も。知能も。

サキュバス「違うでしょ――」


 りーん。
 鈴の音が鳴り響いた。
 いや、鈴の音が鳴った幻聴。

 鈴の音なんか鳴ってない。

サキュバス「必要ないわ、あなたには――」


 地面が波紋を描く。
 いや、波紋を描いた幻覚。

 地面は波紋を描いていない。


下僕「――――――――?」


 だが、下僕には鈴の音も聞こえていたし、波打つ地面も見えていた。


サキュバス「――あなたは何もできない木偶の坊」


下僕「――ぁ?」

 強大さも。威圧感も。
 再生能力も。馬鹿力も。
 五感も。筋力も。知能も。

 一瞬にして下僕の全てがなくなった。


 赤子ほどのサイズになった下僕が、魔女娘の足元に転がる。


サキュバス「マスター!」


魔女娘「――――!」


 サキュバスからの呼びかけにはっと我に返った魔女娘はとっさに魔法を発動する。


魔女娘「【オーバーノヴァ】」


 今日だけで何度も放った爆発魔法。
 ボンッと小気味いい音がして小さくなった下僕が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

魔女娘「…………」

ライバル魔女「…………」


 再生しない。
 蘇らない。
 当然だ。サキュバスがそうなるよう望んだのだから。
 それこそが【世界催眠】の力。
 【災厄の魔女】の下僕を完全に倒した。


サキュバス「やった――」

 サキュバスは糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んだ


魔女娘「勝った」

 魔女娘もその場にへたりこんだ。


ライバル魔女「やりました――やりましたわ!」

魔女娘「わっ……ぷ」

 ライバル魔女は歓喜のあまり魔女娘のことを抱きしめた。ライバル魔女の豊満な胸に魔女娘の顔が埋まる。


友魔女「……ありえない」

 そんな光景を友魔女は唖然として見つめていた。


友魔女「……下僕を倒せるはずがないんだ……」

――数日後。学園

ライバル魔女「随分と復興が進みましたわね」

サキュバス「最初は何年かかるかと思ったけれど、この分ならすぐだね。魔法ってすごい」

魔女娘「うん……」

サキュバス「あ、そうそう。食堂に新しいスイーツが追加されたらしいよ。何でも栗のクリームを使ったモンブランなるケーキだって。美味しそうよね」

魔女娘「もう食べた」

ライバル魔女「いつの間に……。まったく魔女娘さんの食欲には脱帽いたしますわ」

魔女娘「そう……」

サキュバス「……」

ライバル魔女「……」

魔女娘「……」

サキュバス「いい加減に元気出したら、マスター?」

ライバル魔女「そうですわよ。貴方が落ち込んでいたからって友魔女さんが部屋から出てくることはありませんわ」

魔女娘「分かってるし、落ち込んでもない」

サキュバス「でも……」

魔女娘「本当に落ち込んでない。ただどうすればいいか悩んでるだけ」

ライバル魔女「……どうしようもできませんわよ……あんなに人が変わったようになるなんて……」

サキュバス「あれは、医者とかそういうんじゃないと無理なんじゃない? 病気だよ、あれ」

魔女娘「そういう言い方はしないで」

ライバル魔女「……自分のことを特別だと思い込むことはまあ良いですわ。そういう人もいるでしょう。
       ですが、まるで今生きているこの世界を作り話のように捉えているのは問題ですわ。物語と現実がつかない子供じゃないのですから」

魔女娘「そういう言い方も嫌」

ライバル魔女「……ですがどうしようもありませんでしょう。部屋から出て来ず、話しかけても拒絶するのみで会おうとはしない。……今は気にするだけ無駄ですわ」

魔女娘「そんな言い方――」

ライバル魔女「今は、ですわよ。時間を置いて冷静になったらまた話せるようになるかもしれないですし、悪化するようならそれこそ精神科医の出番ですわ」

魔女娘「……でも」

ライバル魔女「――ワタクシだって! ……ワタクシだって友魔女さんとは友達なんですのよ……。何もできなくて歯がゆいと思っているのは同じですわ」

魔女娘「ライバル魔女……」

サキュバス「……よし! 打ち上げしよう!」

魔女娘「打ち上げ?」

ライバル魔女「……何を言っているんですの?」

サキュバス「こうさ暗い話ばっかじゃなくて! 私達あの化け物倒して国を救ったんだから、わぁっとしてもいいんじゃない」

魔女娘「…………。そうだね」

ライバル魔女「……魔女娘さんがそう言うなら。どこか食べに行きますか」

サキュバス「およ。あっさり納得したね」

魔女娘「サキュバスの言う通りだと思っただけだよ」

ライバル魔女「そうですわね。取り敢えず街に出ましょうか」

サキュバス「お店やってるかな?」

ライバル魔女「やってなければその時はその時ですわ」

魔女娘「とりあえず外へ」

ライバル魔女「ええ行きましょう」

サキュバス「ちょ、ちょっと急がないでよ。そんなに楽しみなの?」

魔女娘「いいから」

――学園の外


ライバル魔女「ドラゴンちゃんお願い」

ドラゴン「ガウ」

サキュバス「え、ドラゴンに乗るの? 街へ行くのに?」

魔女娘「いいから乗って」

サキュバス「ちょ、押さないで」

ライバル魔女「乗りましたわね。行きますわよ」

ドラゴン「グオオオオォ!!」

サキュバス「きゃあ! 急に何?!」

魔女娘「少し静かに。――【クワイエットゾーン】【インヴィジブルフィルム】」

ライバル魔女「何人いました?」

魔女娘「三人。魔力の質が違った。全員人じゃない」

ライバル魔女「人じゃない……エルフですの?」

魔女娘「エルフが隠密の魔法を使ったら私でも分からない。……あれは多分淫魔」

ライバル魔女「サキュバスのお仲間ですか……」

サキュバス「どういうこと!? なんで突然――誰から逃げてるの?」

ライバル魔女「逃げてるって分かってるんなら十分ですわ」

サキュバス「十分じゃないですわ!?」

魔女娘「学園にいるときから誰かに監視されていた。そのうち一人が私とライバル魔女にサキュバスから離れるよう暗示……催眠をかけようとした」

サキュバス「え? え?」

魔女娘「催眠は私がレジストしたから問題はない。催眠が効いてないと見るやまたかけようとしてきたから、それに気づいてない振りをしてドラゴンに乗って逃走したって訳」

ライバル魔女「助かりましたわ。誰かに見られているとは思いましたけど、催眠に対する耐性はありませんでしたから。魔女娘さんに解いてもらえて良かったですわ」

サキュバス「催眠……催眠ってまさこそれって――」

魔女娘「言ったでしょ。多分淫魔って。心当たりは?」

サキュバス「……ある」

魔女娘「あるか……」

ライバル魔女「目的は分かりますの?」

サキュバス「私を連れ戻しに来たんだと思う……」

魔女娘「そう」

サキュバス「――マスター。今まで迷惑かけたわね。けど楽しかったわ」

ライバル魔女「どういうことですの? まるで別れの挨拶みたいな……」

サキュバス「別れの挨拶だよ。バレちゃったから、もう逃げられない。かえらなきゃ」

魔女娘「…………」

ライバル魔女「馬鹿なことを言うのはおよしなさい。魔女娘さんも何か言いなさいな」

魔女娘「……あいつら全員倒せば帰らなくてよくなる?」

サキュバス「それこそ馬鹿なことだよ。倒せたとしてもすぐ次のが来る。いたちごっこだよ。こっちは私含めても三人しかいないのに無理だよ」

魔女娘「そう――」

魔女娘「――じゃあ全員倒す」

サキュバス「はぁ?! ――話を聞いて……」

魔女娘「――【ライトニングボルト】」バチチ

ライバル魔女「存外に早かったですわね。隠蔽の魔術も見透かしてきますか……」

魔女娘「今ので一匹落とした」

ライバル魔女「じゃああと2匹ですわね」

サキュバス「何やってるのよ――!」

魔女娘「……手放す気はない。それだけ」

ライバル魔女「そうですわ。それにまだ打ち上げしてないじゃありませんか。友魔女も復活したらやりましょう。四人で!」

サキュバス「でも……」

魔女娘「さっき三人しかいないって言ってたけど、違う。私達は三人もいる」

ライバル魔女「ワタクシ達はあの化け物も倒せたんですのよ。淫魔だっていくらでも撃退できますわ」

サキュバス「二人とも……」


???「中々いい友を持ったな」

魔女娘「だれ――?」

ライバル魔女「いつの間にドラゴンちゃんの上に――!」

???「逸るなよ。お前たちは【魔法を使えない】」

魔女娘「な――? どうなって……」

ライバル魔女「そんな……嘘でしょう。魔法が使えなくなっていますわ……」

???「そこで大人しくしていてくれ」

???「さて、つかの間の自由は楽しかったか、サキュバス?」

サキュバス「長……」

魔女娘「おさ……?」

???「名乗りくらいはしておいてやるか。私は蠱惑を纏い、妖艶を繰り、夜を往く。生をすする淫魔を統べる者――」

零「零のサキュバスという。零とでも呼んでくれ」

零「帰るぞ、サキュバス。よもや嫌とは言うまい。私がどんなやつかお前はよく分かっているだろう」

サキュバス「…………はい。帰ります」

魔女娘「サキュバスっ!」

サキュバス「ごめんね。マスター。長には……【零のサキュバス】には絶対に敵わない」

零「そういうことだ。大人しく諦めてくれ」

魔女娘「――――かよ……」

零「やめておけ」

魔女娘「諦めるなんてできるかよ!」

魔女娘「――ッ――! このォ喰らえ! ――【オーバーノヴァ】!!」ドゴンッ!!

零「――――なッ!!?」ドガゴンッ!!!

ライバル魔女「直撃――! やりましたわ! 流石魔女娘さん!」

魔女娘「どんな理由かは知らないけれど、サキュバスは返さない。サキュバスが怯えている奴に渡すもんか!」

サキュバス「怯え……?」

ライバル魔女「気づいてないかもしれませんけれど、先程から震えておりましてよ」

サキュバス「そんな……私は……」

魔女娘「――いいから四の五の言わずに守られてて。それともあっちのほうがいい?」

サキュバス「私は……私は……」

サキュバス「マスターと一緒にいたい。
      楽しかったんだ。生まれて初めて誰かと笑い合って……知らない場所に行って、初めてのことをして……マスターと、みんなと一緒だったから楽しかった……戻りたくない――帰りたくないよ……」

魔女娘「分かった。任せろ」

零「……なるほど。特性の同調ですか。同調したサキュバスの【世界催眠】の力で、私の【世界催眠】をレジストしましたね」

魔女娘「無傷か……」

零「いえ、死にかけました。死にかけたので、自分は無傷だと自身に催眠をかけました」

魔女娘「デタラメ。嫌になる」

零「それが世界を惑わす程の催眠――【世界催眠】の力」

零「そんな力を持った輩を野放しにしていいと思いますか?」

魔女娘「ちゃんと訓練すればいいだろ」

零「その訓練の途中だったのです。そいつは」

零「おまけにサキュバスの【世界催眠】は不安定で不完全。とてもじゃないが市中に出せる代物じゃありません」

ライバル魔女「だとしても……」

零「あなたには言っていません。――同調により【世界催眠】の一端を行使できるようになった、あなたに言っているのです」

魔女娘「…………」

魔女娘「確かに何でもできる力だろうね。世界だって簡単に滅ぼせるだろう」

零「でしたら――」

魔女娘「だけどそれがサキュバスを苦しめていい理由にはならない! ――お前には絶対に渡さない!」

零「……淫魔の魅了にあてられてるな。面倒くさい」

零「もういい――【お前たちはドラゴンの上にいない】」

ライバル魔女「はい? ――って、えええぇ!」

魔女娘「――嘘だろ」

サキュバス「マスタァァア――!!!」

零「魔法は使えるみたいだからこの高さから落ちても運が良ければ助かるでしょう」

零「さて、トカゲもどきこのまままっすぐ行きなさい。【あなたの主人は私です】。言うことを聞きなさい」

ドラゴン「ガウ」

零「……里に付くまでにあなたの使い魔契約切れれば良いですけど」

サキュバス「ごめんなさい……ごめんなさい、マスター……」

  ?

後輩「もっしもーし、生きてますかー?」

魔女娘「……おかげさまで」

ライバル魔女「あいたた……どうなりましたの……」

後輩「空から降ってきたから、私が受け止めました。魔法で」

魔女娘「なんでここに」

後輩「いやーたまたまですよぅ、たまたま」

魔女娘「…………」

後輩「ははっノッてくれませんか」

後輩「本当は先輩達が大急ぎでどこかに行っていたので、何があるのかなぁと思ってつけてきました」

ライバル魔女「つけてってあなた……まあ、今回は助かったから何も言いませんが……」

後輩「あはは……えっと、友魔女先輩がいないのは分かるとして、魔女娘先輩の使い魔さんはどこにいるんですか?」

魔女娘「っ! いかなきゃ!」

ライバル魔女「魔女娘さん!? 手がかりがないのにどこに行くというのですか。落ち着いてください」

後輩「ええっと……どういうことですか?」

ライバル魔女「……サキュバスが攫われましたの」

後輩「――へぇ……」

魔女娘「早くしないと。サキュバスが……」

後輩「誰に攫われたんです?」

ライバル魔女「……零のサキュバスと名乗っていましたわ……長とも呼ばれていました」

後輩「淫魔の長ですか……」

魔女娘「何か知ってる!?」

後輩「ええ。知っています」

ライバル魔女「本当ですの!?」

後輩「はい。零のサキュバスが出てきたってことは淫魔の里に連れてかれたんだと思います。淫魔の里なら場所分かりますから案内しますよ」

魔女娘「……なんで知ってる?」

後輩「嫌だなぁ先輩。もしかしてなにか企んでるかもしれないって疑ってます? ただ私が勉強熱心なだけで、たまたま場所を知ってただけですよ」

魔女娘「…………」

後輩「それとも私の機嫌を損ねてサキュバスさんの手がかりを捨てますか?」

魔女娘「……お願いだ。案内してくれ」

後輩「分かりました! 魔女娘さんにそう言われちゃ断れないですねぇ~」

ライバル魔女「それならドラゴンちゃんを呼び戻して……あれ?」

魔女娘「どうした?」

ライバル魔女「どういうことですの……使い魔契約が切れてますわ……」

魔女娘「……【世界催眠】か」

ライバル魔女「どういうことですの!? まさかドラゴンちゃん……」

魔女娘「殺されてはないと思う。多分契約を上書きされた」

ライバル魔女「そんなことできるわけ――」

後輩「できますよ。それが【世界催眠】です」

後輩「息を吸うように世界のありようを改変できる力。言ってしまえば何でもありのチート能力ですね」

魔女娘「私達二人の使い魔があいつに取られたわけだ」

ライバル魔女「――っ! やってくれましたわね……はやく行きましょう! あの人達に自分達が何をしたのか思い知らせてやりますわ!」

魔女娘「どれくらいかかる?」

後輩「まともな手段で行ったら数週間って所かな。ドラゴンとかの移動手段があるならば数日」

ライバル魔女「遠いですわね……」

魔女娘「で、あるんでしょ。まともじゃない手段」

後輩「あはは、話が早くて助かります」

後輩「【世界催眠】を使うんですよ」

ライバル魔女「また【世界催眠】ですか」

後輩「ええまたです。便利ですからね」

魔女娘「確かに私は同調のせいで【世界催眠】ぽいのは使えるけど、あくまでもどき。使いこなすというのには程遠い」

後輩「そこは私がアシストしますよ」

ライバル魔女「後輩さんがですの……?」

後輩「ええ、任せてください」

後輩「あ、また疑うのはよしてくださいよ~。話が進まなくなりますから」

後輩「ほら、先輩。頭の中空っぽにして私に全てを委ねてください。そうすればすぐに淫魔の里です」

魔女娘「……サキュバスのところまでお願い」

後輩「はい! よろこんで――」ニヤリ

   ?


 むかしむかし。
 あるところに双子の姉妹がおりました。
 姉の方は可愛らしい容姿をしていたことも相まって誰からも好かれていました。その好かれっぷりたるや、まるで世界から祝福を受けているようだと誰からも持て囃される程でした。

 対してその妹は真逆でした。
 誰からも嫌われて、誰からもいなくなればいいのにと願われていました。
 それを妹も分かっていたため、誰に対しても心を開きませんでした。

 ただ一人を除いて……。
 姉の魅力は妹をも虜にしていました。
 妹は姉のことが大好きだったのです。

 二人は時には喧嘩もしましたが、それでも仲の良いまま大きくなりました。
 そんなある日二人の前に一人の王子様が現れました。
 その王子様は姉のことを一目見て好きになり、求婚をしました。
 姉は最初は断っていたのですが、何度も求められているうちに気持ちが絆され最終的には王子様からの誘いに手を取ってしまいました。

 仲睦まじく寄り添う姉と王子様を誰もが祝福しました。
 ただ一人、妹を除いては……。

 妹は恨みました。
 自身から姉を奪った王子様のことを。
 そして自身を捨て王子様のことを選んだ姉のことを。

 妹は強い憎しみの心で一杯になりました。
 ――私を捨てた世界を……私を害する世界を、壊してやる。全部全部壊してやる!

 そう言った妹は目に付くすべてを壊しました。
 親を、生まれ育った村を、そこに住む人を――何もかも、破壊の限りを尽くしました。

 妹にはそれができるだけの力がありました。
 壊して、殺して、壊滅させて。

 残ったのは僅かな人、それも大怪我した人ばかり。
 そして、姉と王子様。

 姉と王子様は力をあわせて妹のことを止めようとしました。
 そこで妹は一つの提案をしました。

 ――王子の命を差し出せ。そうすればもう止めてやる。

 それでこれ以上罪の無い民が傷つかなくなるのならと王子様はその提案を受け入れようとして……姉に止められました。

 姉は妹に向かって言いました。
 ――あなたのやったことはもう取り返しが付きません。あなたのせいで何百何千と言う人が傷つきました。許されることはないでしょう。
 ……ですが、あなたは私に残った最後の家族。あなたが今までの行いを悔いて改心するというのなら姉としてあなたと共に罪を背負い償う手伝いをしましょう。

 妹は答えました。
 ――今更何を言うのか。私を捨て王子を選んだお前にそんなことを言う資格はない。それにこの醜い世界相手にどう改心するというのか。今まで散々拒絶してきたのはお前たちの方だ。だから私は世界の全てを破壊する。
 ……でもね、安心してお姉ちゃん。お姉ちゃんだけは残すから。私と一から世界を作り直そう。

 姉は妹のことが大好きでした。
 妹は姉のことを愛してました。

 いくら裏切られようとも、いくら拗れようとも、その思いは決して変わることはなく……そして決して交わることはありませんでした。

 涙を流しながらも戦う二人を、もはや止める者はおらず……。
 ついには姉の振るった剣が妹の心臓を貫きました。

 妹は死の間際に言いました。
 ――私は必ず蘇って世界を破壊と絶望で満たしてやる。せいぜい束の間の安息を楽しむがいい。

 戦いは終わりました。
 ですが、残されたのは荒れ果てた大地と血を流し傷ついた人々。
 目も当てられない惨状を前にして姉は悲しみ、涙を流しました。

 その時奇跡が起こりました。
 流れた涙が大地に充ちると荒廃した世界が一変、大地は豊かな緑を育み、さらにそこにいた人々の傷が癒えていきました。
 姉の慈愛の心が世界を癒やしたのです。

 このことから姉は【救国の女神】と人々から崇められ、妹は【災厄の魔女】として恐れられました。

 姉はその後平和になった世界で王子様と結婚し、幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。

   ?

 ――淫魔の里

零「強い力を持つ者にはそれを行使するための役割がある。当然、【世界催眠】は強い力に分類される」

零「世界の流れを円滑にすすめるための駒――それが【世界催眠】を持つ者の役割だ」

サキュバス「……理解しています」

零「いいや。お前は分かっていない。でなければ己の立場から逃げ出さない」

サキュバス「それは……召喚されて、仕方なく……」

零「だったらすぐに戻ってくるべきだったな。まだ不完全とは言え【世界催眠】を持っているんだ。使い魔契約の書き換えくらいできただろう」

零「いいか。何故神は【世界催眠】を人間でなく淫魔にのみ与えられたか分かるか?」

零「人は愚かで、残忍で――弱いからだ」

零「優しさなど見せかけで、その本質は自己中心的。己の利権のためなら同族間での殺し合いを厭わない。だというのに精神も肉体も吹けば飛ぶような脆さだ。
 実際に百年前には嫉妬に狂ったなんて理由で人間の魔女が世界を壊しかけた。そいつも心臓を一刺しされただけで事切れた。
 そんな奴らにどうして世界をどうにかできるだけの力を与えることができるだろうか」

サキュバス「………………」

零「何か言いたげだな」

サキュバス「……淫魔だって、愚かですよ」

零「……ほう。続けてみろ」

サキュバス「大抵の淫魔には知性がなく、品性もなく。ただ精をすするだけしか取り柄のない……この数日人間を見て、彼らの方が淫魔よりもっと自由で尊い存在だと感じました」

サキュバス「それに……淫魔が【世界催眠】を得るには、愚かで、残忍な方法が必要でしょう」

零「――くはっ……はははっ……お前が言うか」

零「そうかそうか。淫魔に対する偏見はまあいい。どう思おうがそれこそ自由だ。だが、【世界催眠】を得たお前が言うか」

零「【世界催眠】を得るために姉を殺した淫獣が――!」

零「ああ、お前の言うとおりだ。【世界催眠】を得るためには愚かで残忍な方法が必要だ」

零「千の人を犠牲にして得た精気、そして一つの淫魔の魂。それらを始祖のサキュバスの遺骸へと捧げることで【世界催眠】は獲得できる」

零「お前の姉は愚かにも【世界催眠】を求め、すんでのところで妹のお前に命とともに掠め取られた」

サキュバス「――違う! 私はお姉ちゃんを殺してなんかない!」

零「では、お前の姉はどこに行った。姉が【世界催眠】を得るために当時何人もの人を殺したのは調べがついている。だが、実際に【世界催眠】を手にしていたのはお前だ。実の姉を始祖様に差し出したのだろう」

サキュバス「ちがう……ちがう……私は……」

零「……まあ、いい。大切なのは【世界催眠】を持っているということだ。大きな力を持つ者にはそれ相応の役割がある。お前は私の後継だ。そのことを忘れるな」

サキュバス「……お姉ちゃん…………」

   ?

魔女娘「ここは……?」

 気づけば見知らぬ場所に立っていた。
 そこにはドアも窓もない。完全に外と隔離されている密室。
 真ん中にポツンとベッドがあるだけで殺風景な部屋に、突然一人で放り出された。

魔女娘「……いや、来たことある」

 ベッドに腰掛ける。
 雲の上にいるようだと形容できるほどふわふわで柔らかいベッド。
 以前にもそこに座った覚えのあった私は、それがいつのことだったか記憶を探ると、すぐに思い出せた。

 ここは、サキュバスと出会って初めて吸精された時にいた場所だ。

魔女娘「ということは、ここは夢の中?」

 確か、あれは私が見ていた夢の世界にサキュバスがやってきたことで起こった出来事のはずだ。
 またここにいるということは、気絶でもしたのだろうか。

魔女娘「いや、だろうか、じゃなくて」

 私はサキュバスを助けるために後輩の力を借りて【世界催眠】を使ったはず。
 ここにいるということは力が使えず失敗したのだろうか。それとも【世界催眠】を使えはしたが、反動で力を使い終わったと同時に気絶したのだろうか。もしそうなら、敵地で気絶したことになる。
 それは不味い。ライバル魔女も一緒にいるから滅多なことにはなっていないと思うが、あまり彼女に借りを作りたくないというのがライバル心だ。

???「やあ、おはよう」

 不意に声がかけられた。
 鈴のような声というのだろうか。耳にして気持ちのいい声だった。

???「ごめんね。混乱しているね。私が君をここに呼んだんだ」

 それは気がついたらベッドに腰掛け横にいた。
 その女性の顔を見ると、驚きで目が見開いた。

魔女娘「サキュバス――! 無事で――んん!」

 夢に現れたサキュバスは、再開に喜んだ私の口を瑞々しい自身の唇を使って黙らせた。
 唇に柔らかい感触。鼻孔を擽る甘い匂い。
 呆気に取られてぽかんと見つめることしかできない。

 暫くすると唇は離された。
 サキュバスは呆然とし何も話さない私を見て満足気に頷いた。

???「まず謝らないといけないね。私はサキュバスじゃないよ」

魔女娘「いや、ちょ――ええ?」

 突然のことの連続で処理が追いつかず、素っ頓狂な鳴き声を上げることしかできない。
 サキュバスじゃないと言う女性の姿はどこからどう見てもサキュバスと同じで。
 やはり夢を見ているだけなのだろうか、と懐疑の念が鎌首もたげる。

魔女娘「じゃ、じゃあ誰なの――? ていうかだったらなんでキス……」

???「私はサキュバスの姉。サキュ姉と呼んで」

サキュ姉「キスした理由は……前々からしたかったから。可愛い子に目が無いのよね私」

 目が点になった。多分今の私を友魔女あたりが見ていたらそう指摘したことだろう。
 目の前の女性のことが何一つ処理できない。それほどまでに情報過多だった。

魔女娘「あね……サキュバスの……?」

サキュ姉「そうそう。愚妹が迷惑をおかけしてます」

魔女娘「いえ、そんなことは……え? 本当に、姉?」

サキュ姉「顔見ればわかるでしょ。そっくりそっくり」

 人好きのする笑みを浮かべた自称サキュバスの姉は、ぶりっこするように自身のほっぺたを両の人差し指でつついた。

魔女娘「いや、本当に姉だとして……なんでここに……? ここって私の夢の中だと思うのだけど」

サキュ姉「そうだよ。ここは君の夢の中。だけど私の夢の中でもある」

魔女娘「……はい?」

 訳が分からなかった。
 私がここにいる理由も、目の前にいるサキュバスの姉を名乗る女性のことも。

魔女娘「――っ――!」

魔女娘「なにこれ――――」

 一番訳が分からなかったのは、突如として知らない記憶が溢れてきたことだった。

 それは幼い少女と日常を過ごした誰かの記憶。
 その少女は私のことを姉と慕って懐いていた。
 その少女にはサキュバスの面影があった。
 これが正しいのなら――

サキュ姉「あ、見た? 私の記憶」

 戸惑い狼狽えている私を見て察したのだろうサキュ姉が人好きのする――いや、ただの嫌らしい笑みを浮かべて聞いてきた。
 何が楽しいのか分からないが、サキュ姉の顔に刻まれた笑みは次第に深くなる。

魔女娘「これは――」

サキュ姉「おかしいと思わなかった?」

サキュ姉「人よりも高い魔法適正。心のどこかで他人の技術を盗んでいるように感じなかった?」

サキュ姉「それに――ねぇ、なんで精気欠乏になったと思う。サキュバスと特性の同調をしたとはいえ、すぐに倒れるほどの欠乏状態になるのはおかしいでしょ」

 サキュ姉は私が薄々と感じていた疑問を挙げ連ねる。
 何故かと問われ、冷や汗がつぅと走る。
 ある仮説が私の中で生まれたからだ。

サキュ姉「そもそもなんでサキュバスを使い魔として呼び出せたと思う?」

 それは――


魔女娘「――あなた、ずっと私の中にいた?」

 私の言葉を聞いたサキュ姉はこれ程ないくらいに口角を上げ。

サキュ姉「――せぇかい。よく分かったねぇ」

 私の仮説が正しいことを小馬鹿にしたように厭味ったらしく言い放った。

 ――サキュ姉視点

サキュ姉「さてと。じゃあどうして私が人間の女の子の中に封印されていたか。気になるでしょ」

魔女娘「……それよりもずっと私の中に知らない女が封印されてた事実に震えてる。気持ちわる……」

サキュ姉「ははっ、言うねぇ」

 こういう時につく悪態は虚勢だ。
 十二年という長い月日を共にしたから分かる。
 間違いなく今の魔女娘は状況が飲み込めずに狼狽えている。
 
サキュ姉「いや、まあ気にならなくても話すんだけどね。私が封印されてた理由」

 狼狽えている魔女娘を見て本当に話すタイミングが今でいいのか逡巡するが、今を逃すと次がいつになるのか分からなかった。
 私が表に出てこられたのは、ただの偶然だ。

 この精神の中にある部屋に魔女娘を連れ込めたのは、【世界催眠】がたまたま私にも作用して意識を増長させたからだ。
 ……いや、たまたまで片付けていいかは分からない。
 魔女娘が【世界催眠】を使う直前に懐かしい――それでいて嫌な感覚があった。
 子供の頃いじめてきた輩と大人になってからばったり会ったような感覚と同じ。
 できれば、もう二度と感じたくない不快感。

 だが、不幸中の幸いというべきか、おかげでこうして魔女娘と会うことが出来た。
 次はないものとして考えないといけない。
 正直気は重いが、魔女娘には話さなくてはいけないことがある。
 だから覚悟を決めた。

サキュ姉「話すにあたって最初に謝っておくね」

サキュ姉「あなたの母親を殺したのは私なの」

 瞬間、私の体が真横に跳んだ。
 魔女娘に殴られたからだ。

サキュ姉「――ぃったァ……ここじゃ私達は魔法が使えないから安心してた……そうだね、あなたはこういう時手が出るやつだ……」

 大人しいふりして感情で動くところがある。
 ライバル魔女が婚約破棄されたときがいい例だ。
 後先考えず手を出そうとする。

魔女娘「冗談を言うな。もしくは本当ならもう一発いく」

サキュ姉「容赦ないねぇ。……まあ、本当なんだけ……どっ――!」

 言葉通り拳が飛んできたため、今度はひらりと身を翻して避けてみせた。

魔女娘「ちっ――!」

 避けられたのを見た魔女娘は追撃の手を緩めようとせず、猛進的に殴りかかってきた。
 殴られるべきかとも考えたが、できれば痛いのは勘弁願いたかった。

サキュ姉「ちょちょっ! 話をきいて! 殺したのは私だけど、命令されて仕方なくっていうか……ていうか、私も封印されたんだからおあいこっていうか――」

魔女娘「だから?」

 目の座った魔女娘に睨まれて、ああこれ駄目なやつだと心の中でため息をついた。
 しょうがない……。

サキュ姉「一発! 本当に一発だけだからね! それ以上したら怒るからね!」

 開き直った私は――

魔女娘「ふんっ!」

 魔女娘の右ストレートを左の頬で受け止めた。



サキュ姉「いたた……」

 頬をさすりつつ、目尻に溜まった涙を擦り飛ばす。
 対する魔女娘は警戒を一層強めていた。まるで闘争心を剥き出しにした狼だ。
 言葉に気をつけないとまた拳が飛んでくることだろう。

サキュ姉「とりあえずこれで手打ちで」

魔女娘「人の母親を殺しておいてそれだけで済むと? お母さんが倒れたせいでどれだけ大変な目にあったと……」

サキュ姉「それは……申し訳ないと思ってるよ」

サキュ姉「けどこっちにも事情があったんだって」

魔女娘「戯言も大概に――」

サキュ姉「話を聞け! 事態はお前が思っているより深刻なんだよ!」

サキュ姉「このままだと大切な人がみんな死ぬぞ!」

 魔女娘の殺気が弱まった。
 未だに瞳は不服を訴えているが、とりあえず話を聞いてもらえるくらいには落ち着いたようだ。

サキュ姉「これから話すのは、君の母親の死に際、私が封印された理由――そして、今この国を脅かそうとしている魔女の存在」

サキュ姉「この話を聞いた後これからどうするかは君に任せる。好きにすればいい」

サキュ姉「ただできれば私を封印したやつと戦ってほしい。それが君の周りの人たちを守ることにもつながるから」

魔女娘「…………」

 魔女娘は何も言わない。
 警戒を説かない魔女娘に苦笑しながらも、私は語りだした。

サキュ姉「十二年前のことよ――」

――――――
――――
――

娼婦「わぁ、女の子のお客さんなんてはじめてだから緊張しちゃいますぅ」


サキュ姉「あはは、私は慣れてるから変な緊張しないでね」


娼婦「ええぇ、それはそれでぇ緊張しちゃうっていうかぁ」


娼婦「だってぇ他の女性と比べられちゃうじゃないですかぁ」


サキュ姉「比べられるのが、嫌なの?」


娼婦「うふふぅ、比べられるのが嫌なんじゃなくてぇ、誰かより負けているのが嫌なんですぅ」


 そう言うと娼婦の女はわたしの事を押し倒した。


娼婦「だから精一杯ぃ……尽くさせていただきますねぇ――」


 女の瞳は私だけを写していた。

 私だけに興味を向けるよう、私が仕向けたのだ。

 それは、サキュバスの魅了。

 食虫植物が甘い匂いを出して虫をおびき寄せるように。


サキュ姉「じゃあ、楽しもうね」

 私は女の精を啜る獣。

 己の欲望のために、魂まで蹂躙する淫魔。


 女の顔が私の股を割った。

 ぬめぬめとしたものが太ももから奥へかけて這った。

 あてがわれたのは快樂への切符。体の奥から熱が溢れ、蜜となって、私を夢中になって舐めている女を汚す。

 女は、蜜の持つ淫気に当てられたか。気が狂ったように私の股ぐらにむしゃぶりついた。

 まるで私から溢れるものを全て吸い付くさんとばかりの所業。

 苛烈な攻めにそうそう耐えられるはずもなく……。

 すぐに私は果てた。

 歓びを示すように腰が無意識に震えた。


娼婦「あはぁ、気持ちぃですかぁ? 私がぁ、一番でしたかぁ?」


サキュ姉「……」


 どうでも良かった。そんなこと。

 どうでも良かったので、私は女を押し倒し返した。

 マウントを取りつつ、女を見下ろす。


 女の顔はだらしなく歪んでいた。

 何かを、期待している顔。

 快楽を得ることしか考えていない豚。そんな顔。

 今まで私が抱いてきた女がみんなしてきた顔だ。

 

 誰が一番でもない。

 皆すべからく、愚かだ。

 それだけのこと。


 私は手を動かし、腰を振り、何も言わずに女に望んだような快楽を与えた。

 与え続けた。


 女が嬌声を叫び、何度も何度も高みへと登りつめる。


サキュ姉「じゃあね」


 今宵もまた一つ命が、絶頂の果に潰えた。

男「終わったか?」


サキュ姉「ちょっと勝手に入ってこないでよ」


 無作法に乙女の寝室に入ってきた男を非難する。


 非難の言葉を口にはしたが、別に対して気にしていなかった。

 そうした方が自然だと思ったからそうしただけ。

 それを男の方も知っている。だから彼からは謝罪の言葉は出てこない。


 代わりに聞かれたのは、私の釣果。


男「あとどれだけだ?」


サキュ姉「今日のはあたり。ずいぶん業が深い人だったよ。ざっと二十飛んで三人分」


男「……あと、どれだけだ?」


 まるで聞かれたことだけを答えればいいんだと焦れているような言い様に私は苦笑した。

 この男と、私の目的は同じ。

 その目的を達成するまで協力関係を結んでいる。


 その目的は――


サキュ姉「合わせて九百人ちょうど。――あと百人分の精気で、【世界催眠】の贄に使える」


 【世界催眠】の獲得。

 通常、【世界催眠】を得るには千人の人間の精気と一人の淫魔の魂を生贄に捧げなくてはいけない。

 千人の精気を集めるのは、非常に手間と時間がかかり、面倒くさいことこの上ない。実際、大抵の淫魔は途中で飽きて辞めてしまう。種族柄、コツコツと何かを成し遂げるのが苦手なのだ。ひょっとして【世界催眠】を保有する人数を抑制するために、わざと淫魔全体が飽き性にデザインされたのかもしれない。と、この話は置いておいて。


 実は、楽に精気を集める裏ワザみたいなものがある。


 世の中には保有する精気の量が多い人間がいる。

 それはどんな人間か。 

 その人のもっている業の深さにより精気は質を高め、量を増やし、何人分もの精気となる。

 つまり、犯した罪が多ければ多いほど所有する精気の量も多いというわけだ。


 私達はそういった人を狙って精気を奪っている。

 おかげで目標まであと少しとなった。


サキュ姉「今更だけどさ」


男「なんだ?」


サキュ姉「精気って穢れみたいなものだよね」


サキュ姉「その人が今まで集めた業がさ、積み重なっていって精気の量が増すなんてさ」

 二度と目を開かない娼婦の顔を撫でる。

 先程まで獣が如く興奮しながら私を求めてきたというのに、今では初霜を思わせる静けさと冷たさだ。

 この女は誰かに負けるのが嫌だと言っていた。

 二十人近い精気を溜め込んでいたのだ。負けないためにそれだけあくどい事をやってきたのだろう。

 でも、この女だって初めからこうだったわけじゃない。

 昔は、きちんと、一人分の業しか背負っていなかったはずだ。

 ――一人分の、業。


サキュ姉「だったらどうして生まれたばかりの人間に精気なんてあるんだろう」


 生まれたばかりの淫魔には精気はない。人間から吸精をして初めて胎内で精気を生み出せるようになる。

 他の動物にしたってそうだ。

 他の命を貪り、己の胎内に取り込むことで初めて精気が生まれる。

 人間だけなのだ。生まれたそばから精気を宿しているのは。


男「そんなの分かりきったことだろう――」


 男は今更そんなことを聞くなと煩わし気な態度を微塵も隠さず、言った。


男「人間は生まれてくること。それ自体が罪なんだよ」

 必要な精気の量が百人分となってから数日が過ぎた。

 生贄として捧げるにたる目ぼしい人物をこの数日見つけられていなかった。


 いつまでこの生活が続くのだろう。

 道の端に腰を下ろして行き交う人々の精気量を一人一人識別しながら、そんなことをぼんやりと考える。

 百人分。目標まではだいぶ減ったが、それでもまだ遠い。

 人一人がもっている精気はどんなに多くても二十人かそこら。

 いつも生贄に捧げているのは十人分くらいの者が多い。

 つまり最低でもあと十人。それだけの人を犠牲にしなくてはいけない。

 そのことを考えると気が重くなる。

 そんな私の心境と共鳴するようにしだいに空も重い雲で覆われていった。

 

 空が重さに耐えきれなくなって、ついには雨が降りだした。

 叩きつけられた雨が落下と同時に地面に弾ける。

 その音が幾重にも重なり曲を奏でているみたいだった。

 悲しい曲だ。

 少なくとも私はそう思った。

 豪雨といっても差し支えない雨量。

 だけど私は立ち上がる気にはなれず、そのままじっと座っていた。


???「――なに、しているの」


 どれくらい経ったのだろうか。

 雨で濡れそぼった体が芯まで冷え切っていたことから、数時間はこうしていたのだろう。


 その数時間の間、閑散とした街を見つめ続けていた。

 だというのに、女が近づいてきているのに気が付かなかった。


 その女は雨の中、傘も刺さずに路上に座り込んでいた私を見下ろしていた。


 突然話しかけられたことで、少し面食らい、まじまじと女の事を見てしまった。


???「……なに、してるの?」


サキュ姉「おっと、不躾だったね。ジロジロ見てごめんね」


 女は奇異だった。

 女もこの雨の中、傘をさしていなかった。

 そんなことしていたら、当然ずぶ濡れになる。


 だが、女は違った。

 女の黒髪は絹を思わせるような滑らかさを描き、肌は陶磁器のように透き通っている。纏った服は華美ではないが、みすぼらしさはない。

 美しい人だな、と思った。

 そしてその美しい人は、この雨の中、全く濡れてはいなかった。

 まるで透明な膜に覆われているかのように雨粒が弾かれていた。

???「なに、してるの?」


 三度目の問い。

 どうしてそこまで私のしている事にこだわるのか疑問に思う。

 だが、こちらとしても別段隠す理由もない。

 問いへの返答はシンプルなものだった。


サキュ姉「人を待ってるんだ」


???「人?」


サキュ姉「そう。運命の人をね」


 女は一瞬、キョトンとした顔を浮かべたが、すぐにプッと吹き出しクスクスと笑い出した。


???「おもしろい」


サキュ姉「そりゃどうも」


 こんなつまらない冗談でも、面白そうに笑うなんて、これを箸が転んでも笑うと言うのだろう。

 もしくは、ただ馬鹿にされているだけか。


 どちらでも良かった。

 それよりも気になるのは、この雨の中、女が全く濡れずに済んでいること。

サキュ姉「それ、どうなってるの? その膜みたいなやつ。全然濡れてない」


???「これは魔法、障壁の」


サキュ姉「なるほど、魔法か……」


???「ん」


 女は短く頷くと膝を曲げて、地面に座り込んでいる私と目線を合わせた。


???「私は、魔女。落ちこぼれた野良の魔法使い」


魔女「お金がないから身体を売ってる。どう、買わない?」


サキュ姉「――――!!」


 女の瞳を見て、脳が震えた。

 運命。

 そんな言葉が頭の中を埋め尽くした。

 女の瞳は、奥深くまで罪を湛えていた。


サキュ姉「百人――」


魔女「?」


 百人分の罪を映した瞳。

 目の前の女性の業の深さに心が踊った。

 今までこれ程までに罪を背負った人間はいなかった。

 しかもきっちり百人分。

 彼女から精気を取れば、終わる。

 ――やっと終われる。


サキュ姉「近くに宿を取ってるから、一緒に行こうか」


魔女「ん。お金は持ってる?」


サキュ姉「安心して。それに関してはいくらでも出せる」


魔女「ん」


 魔女は私の手を引き立ち上がらせる。

 私達は、雨の中を傘も刺さずに歩きだした。



 ――――

 ――

 部屋に女をつれ込み、乱雑な手付きで鍵をかける。


魔女「お風呂は、入る?」


 私は無言で首を降った。


魔女「風邪、引かれたら困る」


 魔女は困ったように眉尻を下げると、私の頭をなでた。


魔女「――これで、どう?」


サキュ姉「…………」


 一瞬にして雨に濡れていた私の身体から水気がとんだ。

 先程まで雨に濡れていたのが嘘みたいにカラッと乾いた私の体。

 器用な魔法の使い方に思わず舌を巻いた。


魔女「ん。まだ体は冷たいね」


 そう言うと、魔女は私の背に手を回し、力を込めて引き寄せると、そのまま抱きしめてきた。


魔女「あったかい?」


サキュ姉「うん」


魔女「そう」


 言葉少ななため魔女の感情が読み取りづらいが、私の言葉に安心したのだろうということは分かった。

 そのまま、数回、魔女は私の頭を撫で付けた。

魔女「ん。あったかく、なってきた」


サキュ姉「……もっと暖かくなれる方法を知ってるんだけど」


魔女「……ん? ……ああ、そういう……」


 魔女は私の言葉の中に何が込められているのかすぐに察し、腰に回っている手に力が込められた。


魔女「ん――」


 魔女は瞳を閉じると、唇を私へと重ねた。

 不意打ちじみた口づけ。

 私は目をぎょっとさせるが、こちらとしても願ったりの展開だ。

 鼻と鼻とを何度もぶつけながら不器用に押し付けられる唇に、彼女がキスに不慣れなことがよく分かったが、一生懸命なのは伝わった。


 暫くすると唇が離れ、僅かな熱の残滓と、息を乱した魔女の姿があった。

 おそらくキスに目一杯になり、息をすることを忘れていたのだろう。


魔女「……ん、はぁ……どう?」


サキュ姉「へたくそだねぇ」

魔女「……ん」


 ムッとした顔を浮かべる魔女。

 私はその魔女の肩を掴み、足を払

って、ボフッとベッドを潰しながら押し倒した。


サキュ姉「ははっ、ムードもへったくれもない」


魔女「……普通は、どうやってムード作る?」


サキュ姉「そうねぇ……」


 言っては見たものの、特段今まで意識したことがなかったことに気がついた。

 ムードというのは、要は相手をその気にさせる雰囲気のこと。

 そんなもの淫魔の魅了を使えば作らなくても済んだため、意識したことがなかった。


 だが、仮にも私は淫魔。

 伊達や酔狂で今まで幾多もの女を抱いてきたわけじゃない。


サキュ姉「キレエな髪ね」


 壊れ物でも扱うように丁寧に魔女の髪を取った。


サキュ姉「ふふふ、緊張してるの? 体、固まっちゃってる」


サキュ姉「ほら、リラックスして……ね?」

 サラリと伸びている黒髪に指を通す。

 抵抗なくするりとした指通り。

 気持ちよくって何度も指を通した。


 絹を思わせる髪を優しくかき分けると、小ぶりで可愛らしい耳が晒された。


 ぱくり。

 露出した耳をはむりと加える。


魔女「ひゃ、ひゃあぁ!」


 驚いたのか魔女はビクリと身体を震わせて、甘い悲鳴を上げた。

 だが、私の事を振り払おうとはしなかった。

 抵抗しないのを良いことに、舌を這わせて耳への蹂躙を開始した。


 窪みをなぞるように耳を舐めるたびに身体を震わせ、恥ずかしそうに口を結び落ち着かないのか視線をあちらこちらに泳がせる。


 つくづく初々しい反応だ。

 よくこれで客なんか取ろうと思ったものだ。いや、そのおかげでこうして楽に精気を奪えるのだが……。

サキュ姉「――ねぇ、ひょっとして……こういうの初めて?」


魔女「……お金を貰っては、そう」


魔女「セックスは初めてじゃない。旦那と娘が、いる」


サキュ姉「――はあっ!?」


 予想外のカミングアウトに、思わず頓狂な声を上げてしまった。

 今まで夫や彼氏の命令で身体を売っている女性はいなくもなかったが、勝手に魔女はそういうのとは違うと思っていた。

 ――彼女は魔法が使える。魔法を使える奴は総じてプライドが高い。誰かの命令で体を売ったりしないはずだ。

 自分の意志でやっているのだとばかり……。


魔女「……子持ちは……だめ?」


サキュ姉「駄目じゃないけど……少し……いいえ、すごく驚いただけ」


サキュ姉「……なんでこんなことでお金を稼ごうとしたの? 魔法が使えるなら、もっと楽に稼げるんじゃない?」


魔女「魔法を使ってお金を稼ぐには資格がいる。資格がないのにやったら警備の人がすぐ飛んでくる」


サキュ姉「その資格は……持ってないから体を売っているのね」


魔女「ん。学校を途中で辞めちゃったから」


魔女「魔法以外、私には何もない」


魔女「だから、体を売るより他ない」

サキュ姉「旦那さんは……? なにか仕事をしているの?」


魔女「賭博師。元手がいるから。お金がいる」


魔女「娘にも我慢させている」


魔女「私が……私が、お金を稼がないと……」


 今までにもこういった女は一杯いた。

 だが、魔女に対しては違うと思った。

 言うなれば解釈違い。

 彼女にはそんな世知辛さなど感じさせてほしくなかった。


 私は黙って指を下腹部へと伸ばした。


サキュ姉「忘れさせてあげる」


魔女「え?」


サキュ姉「お金を稼ぐ辛さも、理不尽を感じる心も……」


サキュ姉「頑張る理由も、生きる意味も――全部、全部忘れさせてあげる」

 お腹を撫で、更にその下へと指を滑らせる。

 魔女は、んん……と呻いて身じろぎ一つ。

 私の指は彼女の秘所へと。


 僅かな茂みの奥、僅かに潤ったオアシス。その狭間に指を沿わせて、潜らせる。


魔女「ん………あぁ」


 甘い吐息を漏らし、目を潤ませながらこちらを見上げてくる。


サキュ姉「何も考えられないくらい、トばしてあげる」


魔女「ん、んん――!」


 プクリと膨らんだ突起。

 皮に包まれた豆を潰すように押すと、逃れるためか足を閉ざそうとしたため、私は魔女の足の間に自身の足を差し込んでそれを防ぐ。

 逃れられないことを教えるよう、見せつけるように舌なめずりを一つ。


サキュ姉「抵抗しないでよ」


魔女「んん………ゃぁ――」


 なおも顔を赤くしながら身じろぎし、足を閉じようとする魔女。

 そんな彼女を見て、淫魔の魅了を使うことを即決した。

 何もかもを忘れさせるために、快楽を求めるよう催淫をかけようとして……。


サキュ姉(魅了のかかりが悪い……)


 目の前にいるのは羞恥の抜けない魔女の姿。

 本来だったら、獣のように私のことを求めてくるようになるはずだった。

 魅了が効かないのだったらしょうがない。

 淫魔としてやるべきことは一つ。

 長年積み重ねてきたテクニックで目の前の女性を天へと昇らせるのみ。


 私はそのまま弄っていた肉豆の皮を向き、赤々しく充血した真珠を露出させる。

 私はなんの遠慮もなしにそれを虐めた。


魔女「あ、あぁん――んんんっ!」


 もどかしげな吐息が魔女の口から漏れる。

 その声に比例して、乙女の部分から透明な蜜が止めどなく溢れ出てくる。

 その淫蜜を潤滑油にしてクリを扱く指を加速させた。


魔女「あ、あぁあん――だめ……だめ、それ」


 魔女の喘ぎ声も激しいものとなる。

 切羽詰まった声から彼女に余裕がないのが見て取れた。


サキュ姉「限界? ねぇ限界? もうイきそう?」


魔女「分かんないぃ。分かんないけど……やめて……やめてぇ、おかしくなりそぉ――」


サキュ姉「いいよ、おかしくなって――!」

 くちゅくちゅくちゅ。

 楽器のように魔女のことを爪弾く手から、部屋全体に淫靡な水音を響き渡らせる。

 その音が、魔女の耳を犯し、脳を淫ら色に染めあげる。


 傍目から見ても分かる。

 魔女には余裕がなくなっていた。


 そして、絶頂へと加速度的に駆け上がっていく。


魔女「なにこれぇ?! 知らないぃ……わたし、こんなのしらない――こわい……こわいよぉ!?」


サキュ姉「怖がらないで。身を委ねて。――そしたら、体験したことのないような快楽を教えてあげる」


 その言葉を聞いた魔女は、目尻に涙をためながら、何も言わずにぎゅっと私を抱きしめてきた。

 押し付けられた熱を持った身体とその震えから、彼女が限界近いことを察し、動かく手にスパートをかけた。


サキュ姉「――イッちゃえ!」


魔女「――っ! ふっぐぅぅぅ!! イクっ! わかんない! なにこれっ! いくぅっ――!」


 それはまるでダムの決壊だった。

 溜まりに溜まった快楽の波が一度に溢れ出たかのように、トんだ。

魔女「――――っ!!!」


 あまりの快楽に腰がガクガクと震え、空気を求めてか口をだらしなく開けっぱなしにしている。


サキュ姉「ははっ、こりゃいい」


 私にも満ち足りた感覚が。

 魔女の精気が私の中に注がれたのだ。

 かなりの量の精気だ。

 それだというのに、魔女は息を切らしているだけで、精気欠乏の予兆は見られない。


 目の焦点のあっていない魔女の頬を撫でる。


サキュ姉「気持ちよかった?」


魔女「……ん」


 魔女は惚けた顔で頷いた。


サキュ姉「それは良かった」


サキュ姉「でも、まだまだ夜はこれからよ」


魔女「えっ――きゃっ!?」


 魔女は驚きの声を上げたが、もう抵抗する力も残っていない。

 つまり一晩私になされるがままだ。

 私は再度魔女から吸精するために、今度は顔を花園へと向かわせた。


 ――夜はまだ始まったばかり。

 溢れ出る蜜を舐め取りつつ、これからの夜一晩どうやって可愛がるかを考えた。


 結論から言えば、一夜で魔女から全ての精気を吸い取るのは無理だった。

 それだけ量が膨大で、一度で絞り切るにはこちらの体力が持たなかった。


 その魔女は私の横で穏やかな寝息を立てている。


サキュ姉「これで子持ちねぇ……」


 無警戒に寝顔を晒している魔女は子持ちとは思えないほど幼い雰囲気をしていた。

 果たしてこの幼い顔立ちでどうやっていくつもの罪を重ねたのか。


 だが彼女がこうして罪を重ねてくれていたおかげで終わりの見えぬ目標までの道筋がはっきりと見えた。

 そう。終わりまでもう少し。これまでの苦行が報われる時。


魔女「ん……んん? ――あぁ、そっか。寝たんだ」


サキュ姉「目が覚めた?」


魔女「ん。ごめん。途中で気を失ったみたい」


サキュ姉「大丈夫。楽しめたから」


 それなら良かった。

 魔女はそう言って起き上がろうとした。


サキュ姉「もう行くの? もう少しゆっくりしていったら」


魔女「家族が、まってるから」


サキュ姉「そう」

 よそよそしげに言う魔女に、引き止める言葉は言えなかった。

 私も立ち上がり、カバンの中から封筒を取り出すと、一目見て一晩寝ただけにしては多いと分かるほどの札束を引き抜き魔女へと差し出した。


サキュ姉「どうぞ。楽しめたわ」


魔女「……多いみたいだけど」


サキュ姉「楽しめたって言ってるでしょ。色つけたのよ」


魔女「本当にいいの?」


サキュ姉「うん。その代わりまた会ってね。同じところにいるから」


 魔女は受け取ったお金をじっくりと見つめると、何も言わずにこくんとうなずいた。


 そして部屋から出る直前


魔女「また」


サキュ姉「うん。またね」


 バタンと静かにドアが閉まる。


サキュ姉「――――」


 それと同時に私はベッドへと身を投げた。

サキュ姉「ああ――――」


 あと少し。

 あと少しで、終わる。


 あの綺麗な女から未来も命も、全てを奪って。


サキュ姉「ああああっ――――!」


 喉が異様に渇く。

 体が重い。

 何の重さか。分かりきってる――今まで奪ってきた命の重さだ。


サキュ姉「ああああぁあアァッッ――――!!!」


 あと少しだ。

 あと少しで、この重さから開放される。

 この気が狂いそうな儀式から逃げられる。


 否――


サキュ姉「とっくに! とっくにさあっ!」


サキュ姉「狂ってるだろお前!」


 何人もの命を奪った果てに。

 私は世界を手に入れる。


 だけど、別に世界なんて欲しくなかった。

   ?


 私は淫魔の中では利口な方だった。

 といっても、あくまで相対評価。

 淫魔という括りの中では理性的であったというだけ。

 私だって他の同族のように人を襲って腹を満たしている。

 それでも自由気ままに人を襲い時には人を殺す、性に乱れた同族よりかはマシだという自覚があった。

 私には人間に対するリスペクトがあった。それが他の同族と私の違い。


 私は人から吸精する時には決して余剰に精気を吸い取ることはしなかったし、ましてや吸精のし過ぎで殺すようなことはしなかった。


 人間だって一生懸命生きてるのを知っていたから、無闇に殺す真似はしたくなかった。

 それに、母の存在も大きかった。


 母は淫魔全体を取りまとめる立場にいた。言うなれば淫魔の長だ。

 長として淫魔全体が幸せに暮らせるよう、時に他種族と交渉し、時に自国内の風紀を律し、まさに八面六臂の働きぶりで日々骨を折っていた。

 そして実際母の治める国は平和であった。

 流石に誰もが笑顔というわけにはいかなかったが、それでも淫魔内で大きな争いは起きず、また人間含む他種族とも良好な関係を築けていた。

 私は母に憧れた。

 母のようになりたかった。


 でも母はそんな私を良しとはしなかった。


「私のようにはなるな。私の後継としてお前を期待していない」


 事あるごとに母はわたしにそう言った。

 突き放した母の言葉に当然私は反発した。

 悪いことをするわけでもない。

 娘の私から見ても立派な母のようになることをどうして母が止めるのか。


 理解のできなかった私は毎日のように母と衝突した。


 そんな私と母の良好とは言えない関係に転機が訪れた。


 ――使い魔として呼出されたのだ。

 突然身一つで見知らぬ場所に飛ばされた私に、一人の男が現れた。

 手入れのされていない髪はボサボサととっ散らかっており、肌も異様に白くあちこちにデキモノができていてとても綺麗とは言えなかった。


「望みを叶えるためにお前が必要だ」


 初対面の第一声でそう言ってのけた男。

 当然私はよく思うわけもなく。


「なんで私が――」


「お前にとっても悪い話じゃない。世界を手に入れるんだ」


「世界……?」


「ああそうだ。淫魔だけが手に入れられる力――世界を惑わす程の催眠」


「……どこで世界催眠のことを知った?」


「どこでだっていいだろう。大切なのはお前に世界催眠を取らせたいってことだ」


 【世界催眠】。

 それは淫魔しか得ることのできない世界そのものの有り様を書き換えられる力。使い手はどんなことだって可能にし、力を振るえば世界を手に入れることができる。


「それをどうして私に」


「淫魔だったら誰で良かった。お前だったのは偶々だ」

「そうじゃなく! 世界催眠を使って何をしようっていうんだ」


「死者の蘇生。取り戻したい人がいる」


「それをどうして私が手伝わなくてはいけないの!」


「……お前も欲しいだろ。世界催眠」


「私はそんなもの――」


「嘘だね。世界催眠を必要としているやつを条件に使い魔召喚を行った。お前も欲しているはずだ、世界催眠を」


「そんなこと――」


 そう言いかけて言葉が詰まった。

 世界催眠。それは母が――零のサキュバスが世界を平定するために使っている力。

 どうすればそれが手に入るのか。母は決して私に世界催眠の得方を話そうとはしなかった。


 私は母のようになりたい。

 そのために母と同じ力が欲しい。

 それを許してくれない母への反発があった。

 私は――


「……どうすればいいの。どうすれば世界催眠を手にできるの?」


「ははっ。やっぱりな」


 男は薄気味悪く笑うと


「必要なものは――」


 世界催眠を得るための手順を説明しだした。


 そこからだ。

 私が狂いだしたのは。




    ?

サキュ姉「初めの一人ももう思い出せないや」


魔女「……何の話?」


サキュ姉「いや、ね。初めて抱いた人のこと、もう覚えてないなぁって思って」


 いつもの、と呼べるくらいには利用しているホテル。

 その一室で生まれたままの姿で私達はくっちゃべっていた。

 彼女との逢瀬も今回で四度目となる。

 初めは行為が終わったら逃げるように帰っていた魔女だったが、体を重ねるごとに気も許してくれているのか、こうして同じベッドに横になってピロートークする時間がだんだん増えていった。


魔女「……。別の女の話――?」


サキュ姉「怒った?」


魔女「全然」


 言葉とは裏腹にそっけない態度。

 いや、淡白なのはいつものことだが。

 それでもいつもと比べたらツンとした雰囲気になっていた。


サキュ姉「ごめんね。他の娘の話なんて面白いもんじゃなかった」


魔女「だから気にしてない」


サキュ姉「またまた」

 フイっと顔を背けた魔女。

 私は仰向けで寝ていた彼女を覆いかぶさるように抱きしめると、彼女の頭を抱きしめるように手を回した。

 少しだけ抵抗があったが、ほっぺたにキスを一つ落とすと、観念したようにゆっくりと首を回してこちらを見た。

 不服そうな顔の魔女と目があった。


サキュ姉「かわい」


魔女「それはどうも」


サキュ姉「怒んないでよ」


魔女「怒ってない」


 明らかに怒っている彼女へ苦笑一つ。

 そして、むくれっ面の魔女の機嫌を取るため、彼女の口へ私の唇を重ねた。


魔女「んっ」


 彼女は一瞬身をこわばらせたが、頬を撫でるとすぐに身体から力が抜けた。

 それをいいことに親鳥が子へと餌付けするように、唇を啄み続けた。


サキュ姉「ん、はぁ……ん、ん」


魔女「んんん……もぅ――」


 じっくりと魔女の唇を味わい、満足したところで唇を離した。

 二人の間に繋がった証として透明な糸がかかる。

サキュ姉「きげん、直った?」


魔女「……ほんと女たらし」


サキュ姉「それしか能がありませんから」


魔女「淫魔だもんね」


サキュ姉「あれ? 言ってたっけ、私が淫魔だってこと」


魔女「言ってない」


サキュ姉「ありゃ、じゃあカマかけたの? 墓穴掘っちゃった?」


魔女「ん。けど、初めて見たときから人じゃないなぁとは思ってたから、今日じゃなくてもいつかはバレてた」


サキュ姉「初めてでか。さっすが~」


魔女「それに会うたびに身体が軽くなるの」


サキュ姉「それは良い事だけど、私と関係ある?」


魔女「ある。奪ってるんでしょ、私の精気」


サキュ姉「……そうだね」


魔女「別に責めてない」


魔女「貴女とね、会うたびに身体が軽くなるの」


魔女「初めは身体を動かすから血行でも良くなってるのかと思った」

魔女「けど、違った。無くなってるのに気づいたの。精気が――穢れが。だから軽くなった」


魔女「……ねぇ。あと何回こうすれば私の中から精気は無くなるの?」


サキュ姉「それは……」


 正直驚いた。

 魔女は私の正体を分かった上で私に会いに来ていた。

 彼女の口ぶりから私の目的だって察しているのだろう。


 目的とは、即ち精気を全て吸い取って彼女の魂まで奪うこと。

 彼女は――魔女は自分を殺そうとしているのを分かった上で私に会いに来ていた。


サキュ姉「……あと……あと、本気を出せば次で最後」


魔女「本気……?」


サキュ姉「加減せずにってこと」


魔女「加減してたんだ」


サキュ姉「……だって、死んじゃうんだよ。私が精気を吸い取り切ると――!」


魔女「…………」


 魔女は何も言わずに私の瞳をじっと見つめた。

 彼女の瞳は深く、底なく。

 まるで深淵のような瞳に射抜かれて、身体が固まった。


 そして魔女は口を開いた。


魔女「今更でしょ。初めて殺した人のことも覚えてないのに」


魔女「ねぇ何がそんなに怖いの?」


サキュ姉「怖い……?」


魔女「ん。だってさっきから身体が震えてる」


 震え。

 言われて気がついた。

 恐ろしいのだと。

 何が恐ろしいのかと問われれば――


サキュ姉「貴女が――」


魔女「私? ……違うでしょ。精気の中にある業でしょ」


サキュ姉「業……?」


魔女「気づいているでしょ。そんなに多くの精気を持っていて、気づいてないなんて言わせない」


魔女「多少の量の誤差あれど、基本人間は一人分の精気しか蓄えられないし、作り出せない」


魔女「精気は食べ物を――他者の命を摂取することで作り出される。その時容量以上には増えない」


魔女「分かる? ただ生きてるだけじゃ、何人分もの精気を孕むことはない。だけど例外がある――」


サキュ姉「……知ってる。罪を犯せばその分精気が増える」


魔女「罪……確かに罪」


魔女「――人を殺すことは立派な罪」

サキュ姉「人を……待って、だったら……」


魔女「そう。おかしいと思わなかった? 精気を集めるだけなら殺す必要ない。八分目に留めておいてまた回復してから奪えばいい」


魔女「でも、貴女は殺してる」


サキュ姉「なんで……分かるの……?」


魔女「私より多くの精気を持っているから」


魔女「そんなに精気を抱えている理由は知らないけれど――それだけの物を抱えてよく正気でいられるなと思うよ」


魔女「――人を殺せば、殺した人間の精気を背負う」


魔女「それが精気の量が増える仕組み」


魔女「精気は増えれば増えるほど狂気を孕む」

魔女「私には百人分の精気で限界だった。これ以上増やせば間違いなく廃人になる」


魔女「感謝してる。貴女が精気を吸ってくれているから、数年ぶりに意識がしっかりとしている」


魔女「私は思うの。私の罪を全て引き取ってくれるなら、殺されたっていいって」


サキュ姉「……」


サキュ姉「――でも、家族のことはどうするの……」


魔女「私がいなくてもやってけるでしょ。精気の狂気に当てられていたときに作った子どもと旦那。未練も執着もない」


サキュ姉「でも……そう、貴方にだってやり残したことあるでしょ。こんなところで死ぬなんて……」


魔女「そんなものないよ」


魔女「どうしたのさっきから……でもでもって、まるで私を殺したくないって言ってるみたいだけど」


サキュ姉「でも……」


魔女「なんで今更躊躇うの。貴女は私よりも多くの精気を抱えている――いっぱい殺してきたんでしょ」


魔女「躊躇わないでよ。私を楽にしてよ」

魔女「私はね、狂ってるの。とっくに戻れないの。気を抜くとね、殺した母が! 妹が! それだけじゃない。名前も知らない私が命を奪った誰かが! 私のことを責め立てる!」


魔女「どうしてお前はまだ生きてるんだって! 早く死ねってみんなが私に指をさす!」


魔女「貴女も同じでしょ……ねぇ、分かるでしょ」


サキュ姉「わ、私は……」


 別に誰かを殺したかったわけじゃない。

 母のようになるために必要だったから、やっただけ。

 私は淫魔の中では利口な方で、人間に対してリスペクトがあって。

 だから殺したかったわけじゃ――


「嘘つき」


 誰かが私に向けて言った。

「嘘つき。お前は望んで私達を殺した」


サキュ姉「あ、ぁあ――」


 重い。

 心が耐えられないほど、重い。


「どんな文言立て並べたってお前が正当化されることはねぇ」


 見ては駄目だ。耳を貸すな。

 心が全力で拒否している。


「お前は自分の目的のために私達を騙して殺した」


サキュ姉「あああ、ぁああっ――」


 けれど見てしまった。

 今まで気づかない振りをしていたものを。


 ずっと私に指を指していた。

 ずっと私に囁いていた。

 私が殺してきた人たちが――。


「「「ほんと、シネよ」」」


サキュ姉「ああああっあああぁあ!!!」


 死ねよ、と。

 その言葉を掻き消すように叫んだ。


 何人も――何人も何人も!

 私が今まで奪ってきた重みが私を押しつぶす。


 耐えられない。

 耐えられない耐えられない。

 罪だ。罪の重さだ。

 あと少し。あと少しで必要な精気を集め終わる。

 でもその少しが集められない。

 人を殺すことがこんなにしんどいことだとは思わなかった。

 これ以上、私は――


魔女「落ち着け!」


サキュ姉「まじょ……?」


魔女「深呼吸しろ。そいつらにお前のことをどうこうする力はない」


魔女「そいつらは死んでる。お前は生きてる。それが全てだ」


サキュ姉「でも……でも……わたしは……」


魔女「……気持ちはわかる。けど、今更止まるの? 止まれるのか?」


魔女「ここで止まったら今までしてきたことが全て無駄になる」


魔女「目的があるんでしょ。どうしても叶えたいんでしょ。じゃなきゃそんなに精気は集められない」


魔女「ねぇお願い――私も殺して」


サキュ姉「うっ……あうぅ」


 目的なんて言われても、こんな思いをしてまで叶えたいものじゃない。

 今なら母がどうして止めたか分かる。

 でも、今更止まることはできない。彼女の言葉の通りだ。


 ――今更、止まれないのだ。

サキュ姉「殺すの……私が……?」


魔女「そう」


 魔女は短く肯定するのみ。

 本音を言うとまだ殺したくないと思っている。

 でも、あと少しなのだ。

 あと少しで私の夢が――母のようになるという夢が叶う。

 そして魔女は、殺されてもいいと言ってくれている。


サキュ姉「はは――はははっ!」


魔女「……?」


 魔女が怪訝な顔を浮かべているというのに、私は高笑いを止めることができなかった。


 私はとっくに狂っている。

 うじうじうじうじと悩んで……なんで今更常人のフリを出来ようか。

 私の夢を遮るものはない。

 だったら、やるしかない。

 もう今更止められないのだから。

 私は高笑いを上げたまま立ち上がると、脱ぎ捨てられた外套の中から手鏡を取り出し、魔女へと差し出した。


サキュ姉「これ」


魔女「鏡……? これがどうしたの?」


サキュ姉「持ってて。妹から貰った大切なやつ」


魔女「どうして私に……って聞いてもいい?」


サキュ姉「私が逃げ出さないため。あなたを殺したら、返してもらうわ。だから肌見放さず持ってて」


魔女「……わかった」


 魔女は私からまるで宝物でも受け取るかのように仰々しく受け取ると、絶対に離さないとばかりにぎゅっと握りしめた。


魔女「貴方だと思って大切にする」


サキュ姉「ははっ、そうしてくれると助かります」


 魔女はまじまじと鏡を見つめている。

 その顔は私が今まで見たことのないくらい誰よりも綺麗で……


魔女(ああ、そっか……)


 今まで見たことないくらいなんて当たり前だ。

 死を覚悟し受け入れてる人間の顔は初めて見るのだから。


 私は、次に彼女と会うとき――彼女を殺す。


 少しして男が現れた。
 
男「後どれくらいで終わりそうだ」

 男は挨拶もなしにいきなり切り出した。
 タイミングの良さに舌を巻く。
 少し前まで魔女がいたのだが、よく出くわさなかったものだ。
 ……と思ったが、男の方でタイミングを見計らっただけか、と思い直す。

サキュ姉「次で決める」

男「そりゃいい。やっと終わる」

サキュ姉「ほんと、やっと――」

男「おっと感慨にふけるのはまだ早い。集めた精気を始祖のサキュバスの遺骸に捧げないと、世界催眠は手に入らない」

サキュ姉「……その始祖のサキュバスの遺骸っていうのはどこに?」

男「淫魔の里の地下。詳しい場所もわかる」

サキュ姉「ほんとうに地下にあるの? 聞いたことないけど」

男「ある。前に一度見た」

 そう断言されたら私からは何も言えない。
 だが、一つ気にかかる言葉が男の口から出た。

サキュ姉「前に見た……?」
 
男「色々あったんだよ」
 
 それ以上は答えようとはしなかった。
 どうせ詳しく聞いてもはぐらかされるに決まっている。
 私はそれ以上の追求をやめた。
 
 そして今一番の問題へと意識を向ける。
 次で最後。次に会ったらあの女と会うことはなくなる。
 私が殺す。殺してしまう。
 迷いがないと言われれば嘘になる。
 でも説得されてしまった。今更止まることなんてできないのだ。

 
 

    ?

 
 
魔女「今日はよろしくね」

 
サキュ姉「……」
 
 運命の日はすぐに来た。
 場所はいつものホテル。
 私は何も言わずに魔女を見た。
 
魔女「どうしたの。緊張でもしてるの」
 
サキュ姉「……逆に魔女はなんとも思わないの?」

 
魔女「私? 私は晴れ晴れとした気分。だってこの苦しみから開放されるんだから」 
 
 あっけらかんにそう言った。

 自分がこれから死ぬというのによくそんな顔できる。
 関心を通り越して恐怖すら覚えた。
 だが、私だってもう止まらない。止まれない。
 覚悟は前に彼女とあった時から決まっている。
 
 私は魔女にキスしようと彼女の肩に手をおいた。
 魔女も瞳を閉じてそれを受け入れる。
 私は顔を近づけ口づけをしようとした――そのときだった。
 

 ドンドンドン。
 ドアが何度か叩かれた。
 ガチャガチャとドアノブが回る音がする。
 鍵がかかっていたためドアが開くことはなかったせいか、執拗にドアを叩かれた。
 私は思わず魔女から手を離しドアを凝視する。
 すると、「ママー、いるんでしー!」
 そんな声が聞こえてきた。
 舌足らずな幼い少女の声だ。
 その声を聞いて魔女がギクリとした顔をした。
 
魔女「娘だ……」
 
サキュ姉「え……」
 
 どうやらドアの向こうにいるのは魔女の娘らしい。
 どうしてここに……?
 
 魔女は迷ったような素振りを見せたが、私の方を一度向くと申し訳無さそうにドアへと向かった。
 そのままドアを開く。
 
娘「やっぱりママだ」
 
魔女「娘ちゃん、なんでここに」
 
娘「ママのこと追いかけてきたの。だってママがいなくなっちゃうきがしたの」

魔女「娘……」
 
 そのとき初めて魔女の瞳に迷いが映った。
 果たして子供をおいて死んでしまってもいいのだろうか。そんな迷い。
 私はそんな抱きしめ合う彼女達を見て、悟った。
 もう彼女からのこれ以上の吸精は無理だ。
 
 だって彼女、死ぬことに疑問を持ってしまった。
 もうここで止めよう。自分もこれ以上精気を集めるのは止めよう。
 誰かを殺してまで叶えたい願いなんかじゃない。
 これまでに殺してしまった命に関しては、私が背負うべき十字架だ。
 償い方はわからないが一生をかけて償おう。
 そう思っていた矢先。
 またも、廊下から騒がしい足音がしてきた。
 足音の主は男だった。
 
サキュ姉「あんた……なんで」
 
 男の姿はボロボロだった。
 片腕なんて消し飛んでる。
 その男の姿を見た魔女もぎょっとしている。
 
 そんな周りの様子など気にせず、男は焦ったように。
 
男「居場所がバレた。逃げるぞ。その女が精気持ちだな。そいつも一緒に……」

 言うが早いか、男はすでに滴っている血で魔法陣を描く。
 転移の魔法陣だ。
 範囲はこの部屋にいる人物全員。
 
サキュ姉「どういうこと……」
 
男「説明してる暇はねぇ」
 
 魔法陣に魔力が込められる。
 世界が光り輝き、身体が揺れた。
 転移の前兆だ。
 
 何かを言う日まもなく私達は飛んだ。
 

 次に目が覚めたとき、私の前に広がっていた光景は見慣れたものだった。
 
サキュ姉「ここって……」
 
 私の故郷。淫魔の里だった。
 なんで……なんて困惑していると。
 
魔女「ここどこ……」
 
 困惑している魔女がいた。カノジョの胸の中には転移のショックから気絶してしまった子供が抱えられている。
 
男「おい、こんなところで立ち止まってる暇はない! こっち来い」
 
 男は焦ったように私達を誘導する。

サキュ姉「どこに行くっていうの……」
 
男「地下だ。世界催眠を獲得する儀式を行う」
 
サキュ姉「待って私はまだ精気を集め終わってない」
 
男「だから、その女も連れてきたんだろ」
 
 そう言って指さしたのは魔女だった。

男「どっちみちこんなところでグズグズしてられない。すぐに追いつかれる。早く移動するぞ」
 
 そう言うと男は走り出した。
 私はどうするべきかわからず、それは魔女も同じだったようで、とりあえず男についていった。
 
???「あれは、お姉ちゃん……」
 
 そんな私達を見ている小さい影があるとも知らずに……。

 
 

 ――地下。
 
 私達は里の寺院の裏手にある石碑の下に隠されていた隠し通路を通って、地下に広がる大空間へと来ていた。
 まさか私の住み慣れた里の地下にこんな空間があるなんて。
 
男「さて、ここだ……」
 
 厳かに祀られている祭壇の中央に棺があった。黒の棺だ。
 
サキュ姉「その中にあるの」
 
男「ああ。始祖のサキュバスの遺骸がな」
 
男「早く世界催眠獲得儀式の準備に移りたい。吸精してくれ」
 
 焦っているのだろう。
 男の口ぶりからして何者かに追われているのが分かる。そのせいで余計に焦っている。
 
 だが、私としてはためらう時間というか、心の準備はさせてほしかった。
 というか、先程子供と抱き合う魔女を見て殺さないと決めたのだ。
 魔女相手に吸精できない。
 
 だが、当の魔女は覚悟が決まっているのか子供を端の方に置くと服を脱ぎ始めた。

サキュ姉「ちょっと、魔女!」
 
魔女「止めないで。一思いにやって」
 
サキュ姉「でも……」
 
魔女「決めたことでしょ。今更意思をブラさないで」
 
 そういわれては私からは何も言えない……。
 だから。
 
サキュ姉「いいんだね」
 
魔女「いいから」
 
 彼女は覚悟を決めていた。
 私の夢も。魔女の覚悟も。彼女の子供のことも。
 どれが正解が分からなかった。
 もう何も考えたくなかった。
 
 だから私は一番楽な選択――相手から言われたとおりにする、を選んでしまった。
 
魔女「あっ……」
 
 私が触れると微かに吐息が漏れた。
 最後の吸精が始まった。

 …………。
 取り返しがつかないことをしたんだなぁと、他人事のように思った。
 私の腕の中には魔女がいる。
 もう息をしていなかった。
 彼女を抱きしめても、もう何も感じない。暖かさも何もかも。だって死んでいるのだから。
 
 そして私の中の業が囁く。
 
「お前がやった。お前が殺した」
 
 そうだ。私がやった。私が殺した。
 私が魔女を……。
 
 急に現実感が湧いてきて、吐きそうになった。罪の意識に苛まれる。
 だが、それすらも許されなかった。
 
男「よし、終わったな。早く始めるぞ」
 
 いつの間にか男が傍に居た。
 彼は片腕で未だに気絶している魔女の娘を抱えている。
 
サキュ姉「……少しまってよ」
 
男「待ってられるか! もうすぐあいつが来るかもしれねぇ。ちんたらやってる余裕はないんだよ!」
 
 男は私を無理やり引っ張って棺の前に投げ捨てた。
 そして、彼自身は少し離れると
 
男「始祖よ。ここに贄の準備が叶いました。そのお姿を現しください」
 
 男がそう言うと、棺がガタガタと震えだした。
 そして蓋が少し開くと指がにょきりと生えてきて、蓋をズズズッと開き出した。
 
 中から現れたのは美しい女性だった。
 
始祖「そやつが、贄か」

 始祖のサキュバスと思しき女が私を指差す。
 
男「ええ、はいそうです」
 
 私は訳がわからぬままその場の成り行きに身を任せた。
 というより何も反応する気が起きなかった。
 私の中で業がお前が殺した。お前が殺した。と囃し立ててきたせいもあるし、魔女が死んでしまったという事実を受け止めるのに時間がかかっているからでもある。

始祖「では、世界催眠を手に入れるのはお前ということだな」
 
 そう言って男の方を指さした。
 私はそれに対して、いやちがうと言おうとした。
 だって世界催眠が欲しかったのは私だ。
 と、そこで一つ疑問が浮かんだ。
 世界催眠を得るには千の人の精気と一つの淫魔の魂が必要。
 千人の精気は集まった。では一つの淫魔の魂は……?
 
サキュバス「最初から犠牲にする気だった……?」
 
 愕然とした。
 愕然とした自分に驚いた。
 だってそうだ。愕然とするほど男のことを信用していたということになる。こんないつ裏切るかわからない怪しい男を。
 私は今の今まで裏切られないと高をくくっていた。
 そのつけを今払わされそうになっている。
 
 苦しい思いをしてきたのは私だ。
 今まで精気を集めてきたのも私だ。

サキュ姉「男っ――!」
 
 許せなかった。利用するだけ利用して、自分は手を汚さない男に怒りが湧いた。
 あまりの怒りに私の拳がわなわなと震えた。
 その勢いのまま、殴りかかろうとして、
 
???「お姉ちゃん……?」
 
 この場には似つかわしくない少女の声が聞こえてきた。
 その声はここ唯一の出入り口から。
 そちらの方を見ると、そこにいたのは……。
 
サキュ姉「妹……なんで」
 
妹「お姉ちゃんが帰ってきてるのを見たから、何してるのかと思って」
 
 私は焦った。
 こんなところに妹がいてはだめだ。男に何をされるかわからない。
 大切な妹なのだ。傷一つでもついたら後悔する。
 幸いなことに男は妹には興味を示さなかった。
 それよりも始祖のサキュバスに対して意識が向けられていた。
 
男「さあ、はやく世界催眠を!」
 
サキュ姉「ちょっとまった!」
 
 そんな男を遮るように私は叫んだ。
 
サキュ姉「世界催眠を得るのはその男じゃない。あそこにいる私の妹――サキュバスに」
 
男「なっ?!」
 
妹「へ?」
 
 男も妹も私の言葉に面食らったように言葉を漏らす。
 始祖のサキュバスだけが静かに頷いた。
 
始祖「良かろう。確かに世界催眠は淫魔が持つが道理。ソナタの意を優先しよう」
 
男「ふっざけんな! 私が世界催眠を得るためにどれだけ準備したと……」
 
サキュ姉「精気を集めたのも、生贄になるのも私! 世界催眠を得る対象は私が決める!」

 男は激昂したのか懐からナイフを取り出す。
 だがもう遅い。
 私の体からは力が抜け始めた。
 それと同時に私が今まで背負ってきた業が綺麗サッパリ吸われてなくなっていく。
 贄として私の体が消費され始めたのだ。
 
妹「お姉ちゃん――!」
 
サキュ姉「ごめんね。変なこと押し付けて」
 
 ああ、そうか。
 今になって母が、私のようになるなといった理由が分かった。
 母も世界催眠を持っている。
 つまり私と同じ苦しみを味わったのだろう。
 そりゃ、私のようになるな。なんて言うわけだ。
 ごめんなさい。お母さん。
 私はあなたの言いつけを破り、あなたのようになろうとして失敗しました。
 許してくれないだろうなぁ。
 お母さんは怒ると怖いのだ。
 
男「ふざけるなあっ!!」
 
 不意に男の怒号が響いた。
 ざまーみろ。
 私のことを利用しようとするからそうなるんだ。
 
 してやったリと思って男の方を見ると、ぎょっとした。
 ナイフを魔女の娘に対して振り下ろそうとしていた。
 
サキュ姉「やめろ――っ!」
  
 叫ぶが、その声は男へと届かない。
 
娘「――き、きゃあああぁっっ!!」

 一閃。
 魔女の娘の胸にナイフが走る。
 赤い線が横一線に娘の胸を刻んだ。
 その痛みで気絶から覚めた娘が叫ぶ。
 
 なんてことをしてくれたんだ!
 魔女娘は関係なかっただろ。
 そう思ったが、男にとってはそうではなかったようだ。
 
男「この娘の中にお前の魂を封印する」

 
サキュ姉「何言って……」 

男「私が世界催眠を手に入れなきゃ意味がないんだよ! だから、千の精気を抱えたお前の魂を拘束しこの娘の中に封印する」
 
サキュ姉「そんなことしても無駄だ。お前に世界催眠は渡さない」
 
男「いいや。決めるのは始祖のサキュバスだ。……次は私は淫魔に転生する。私が世界催眠を手に入れる」
 
 その瞬間だった。
 私から力が抜けた。
 男の言葉通り封印されているのだ。
 だが、未だに贄として始祖のサキュバスにも力を吸い取られている。
 私から吸い取られる力が拮抗している。
 
始祖「魂が足りない。贄として不十分だな」
 
男「だったら……」
 
始祖「だが、世界催眠の譲渡は行う。不完全で未完成になるがな……」
 
男「な……だったら今まで集めてきた精気は、私の計画は――」
 
 愕然と崩れる男。
 その瞬間、ドアが開け広げられた。
 現れたのは――

零「見つけたぞ、災厄の魔女!」
 
 零のサキュバス――私のお母さんだった。
 
男「くっそ、こんなところで……こんなところてぇ――」
 
零「お前の罪だ。大人しく死ね」
 
男「あと少しだったんだ、あと少しで……」
 
 その言葉に母は現状を理解したようだ。
 世界催眠獲得の儀式が行われていたことを。
 
零「お前、サキュ姉をどこにやった」
 
男「はっ、もう贄になっちまったよ」
 
 何言って……私はまだここに……。
 そう思ったが、声が出ない。体が動かせない。
 どうなって……と思ったら、さっきと視界が違っていた。
 これは……たぶん、魔女の娘の視界だ。
 ということは、私は彼女の中に封印されてしまったことになる。
 世界催眠の儀式は完了したということか……だったらサキュバスは……。
 
零「だったら、だれが世界催眠を……まさか」
 
 サキュバスがその場にいることに気づいたのだろう。
 零のサキュバスは驚いたように目を見開く。

男「ちっ! そうさ、かすめ取られちまったよそのガキに」
 
零「なんてこと……」

男「くそが! 本来なら私が手に入れていたはずなのに……」
 
零「黙りなさい! 『貴方は呼吸の仕方を忘れる』」
 
 零のサキュバスがそういった瞬間、男の動きが止まった。内に抱えていた魔女娘を取り落とす。
 その拍子に魔女娘は気絶したみたいだ。
 私も急に意識が重たくなった。
 
男「わ、私は、なんどでも、蘇る」
 
 男は苦しげにあえぐように言葉を紡ぐ。
 それはまさしく呪いの言葉だった。
 
男「わたしは、災厄の魔女……幾度でも蘇り、幾度も殺す……」
 
男「次に蘇ったときがお前たちの最後だ」
 
男「ぜんいん……みな、全て……殺してやる」
 
 男はそう言うと事切れた。
 私の意識も闇へと沈んでいく。

零「ちくしょう……」
 
 薄れゆく意識の中、悔しげな母の声がやけに耳に残った。

――――――
――――
――

 
サキュ姉「これが十二年前に起こった出来事」 
 
魔女娘「そう」

 
魔女娘「じゃあとりあえず齒ぁ食いしばれ」シュッ
 
サキュ姉「へっ――うごぁ!」バキッ!
 
魔女娘「やっぱりお前がお母さん殺してんじゃねぇか!」
 
サキュ姉「イタタっ、くっそ、喧嘩っ早いな。嫌になる」

魔女娘「あのあとお母さんは廃人になって……あれ、お前の話だと死んだって」
 
サキュ姉「お母さん……零のサキュバスが世界催眠でなにかしたんだろ。じゃなきゃ、サキュバスの里にいた幼いお前が元いたところに帰れるわけない」
 
サキュ姉「そんなことより、災厄の魔女の話だ」
 
魔女娘「それ、ホントなの……? 自称してるだけの狂人じゃなくて?」
 
サキュ姉「ちょっと前に災厄の魔女の下僕が暴れただろ。間違いなく災厄は復活してる」
 
魔女娘「だったら私は何をすればいい。流石に伝説の化け物を倒すなんて私には荷が重すぎる」

サキュ姉「わかってる。だからあなたにお願いしたいのは、目が覚めたあと世界催眠を使える人――母と妹に事情を説明して協力を取り付けて」

 
魔女娘「世界催眠なら災厄と渡り合えると……?」 
 
サキュ姉「あなたも見たでしょ。サキュバスの不完全な世界催眠で下僕を完封できていた」

 
魔女娘「確かに、そうか……」
 
サキュ姉「だからお願い、どうにか災厄を倒して。あいつがいたからみんな……」
 
魔女娘「……わかったよ。できる範囲のことはやる」
 
サキュ姉「ありがとう。――さあ、もう夢が覚める。今の私はゆらゆらと揺らめく幻みたいなもの。意識が完全に目覚めて、輪郭がはっきりとしたら封印を解いて外に出るわ。それができたらあなた達の力を貸すわ」
 
魔女娘「……わかった」
 
サキュ姉「どうしたの。なにか納得できない?」
 
魔女娘「納得できるわけない。母親を殺したのはあんただ」
 
魔女娘「けど、その災厄の魔女のせいでもある」
 
魔女娘「私は、災厄の魔女も許せない。だからお前の言うとおりにしてやるよ」
 
サキュ姉「そう……。母親のことはごめんね」
 
サキュ姉「それと気をつけてほしいことがある――」
 
サキュ姉「後輩は災厄の魔女だ」
 
魔女娘「……は? それ、ほんと……?」
 

 
――
――――
――――――

ライバル魔女「大丈夫ですの!?」
 
魔女娘「ん? ふぁ……よく寝た」
 
ライバル魔女「怪我はありませんの?!」
 
後輩「落ち着きなよ先輩。こうして魔女娘先輩が目を覚ましたんですから」
 
魔女娘「ごめんライバル魔女、心配かけた。どこもどうとないよ」
 
ライバル魔女「もう! ついたと同時に気絶するんですもの、心配しましたわ」
 
魔女娘「ついた……ってことはここは……」
 
後輩「はい。サキュバスの里です」
 
魔女娘「早くサキュバスを探そう」
 
後輩「そうだね」
 
魔女娘「あてはある?」
 
後輩「それがどこにいるかは分からないんだ」
 
魔女娘「そっか、なら――」
 
魔女娘「『エアロブラスト』」ゴオオオッ
 
後輩「なっ――ぐはっ」ドゴン
 
ライバル魔女「な、何をしていますの魔女娘さん。突然後輩さんに攻撃なんて」
 
魔女娘「こいつ後輩じゃないよ」
 
ライバル魔女「え?」
 
後輩「ケホッ……何いってんですか、私は偽物なんかじゃ」
 
魔女娘「いや、まあ確かに後輩なんだけどさ……こう呼んだほうがいい?」
 
魔女娘「災厄の魔女――」
 
ライバル魔女「え」
 
魔女娘「私の中のサキュ姉が言ってたよ。転移するとき私の心に嫌なものが触った。触れたやつは災厄の魔女に違いないって。あのとき私のことを手伝うって言って私に触れてたのは誰だっけ」
 
後輩「嫌だなぁ、それだけで疑ってるんですかぁ?」
 
魔女娘「疑ってる。とりあえずボコる。違ったら全部終わったあとに治してあげる」
 
後輩「まっずいなぁ……」
 
後輩「ここはにっげよー」シュシュン
 
ライバル魔女「ちょっと後輩さん――!」
 
ライバル魔女「どういうつもりですの、魔女娘さん。こんなところで仲間割れしてるわけには」
 
魔女娘「あいつはいない方がいい。お願い私を信じて」
 
ライバル魔女「……分かりましたわ。けど全部追わったあと勘違いだったらちゃんと謝るんですのよ」
 
魔女娘「わかってる」

 
魔女娘「……さて。サキュバスとはまだ使い魔契約きれてないから場所わかる。行こうか」 

 ――地下牢
 
魔女娘「いた」
 
サキュバス「ます、たー……?」
 
サキュバス「なんでここに。どうやって」
 
魔女娘「そういうのはいいとりあえずここから出よう」
 
ライバル魔女「そうですわ。早く出ましょう」
 
サキュバス「いやでも、出たらバレちゃ……」
 
零「ほう。ここまで来るか」
 
ライバル魔女「零の――まずいですわ!」
 
サキュバス「お母様――!」
 
ライバル魔女「お母様っ!? え、親子……?」
 
魔女娘「らしいよ」
 
零「落ち着いているな。まだ彼我の差を理解していないのか」
 
魔女娘「いいえ、あなたが強いのは知ってる」
 
魔女娘「私と一緒に災厄の魔女と戦ってほしい」
 
零「気でもふれたか。何を言うかと思えば……」
 
魔女娘「あなたも知ってるはずです。災厄の魔女は転生を繰り返している」

魔女娘「私は災厄の魔女が誰に転生したか知ってます」

零「なぜ貴様がそのことを」
 
魔女娘「私の中にいるサキュ姉から聞きました」
 
零「サキュ姉!? なんで貴様がその名前を――まて貴様まさか」
 
魔女娘「はい。十二年前、私もあの場にいました」
 
零「あのときの子供か……」
 
零「サキュ姉が貴様の中にいるというのは本当か」
 
魔女娘「本当です。あの時、災厄の魔女は私の中にサキュ姉の魂を封印しました」
 
魔女娘「さっきサキュ姉と話をしました。それで十二年前に何があったかを知りました」
 
零「……話をきかせろ」
 
魔女娘「はい……」
 


 ………………。
 ………………。
 ………………。

 
 

魔女娘「――――それでサキュ姉は私の中に封印、サキュバスは中途半端に世界催眠を獲得したというわけです」
 
零「そうか……」
 
サキュバス「やっぱり……お姉ちゃん近くにいたんだ」
 
魔女娘「やっぱりって……?」
 
サキュバス「なぜだか、マスターから懐かしい感じがして、それに淫魔の気配もしたの。だから、前にマスターの中の淫魔の力が活性化するように細工をしたんだけど……それでお姉ちゃんが目覚めたんだね」
 
零「使い魔として淫魔と契約したからというのもあるでしょう。見たところ特性の同調までしているようですから余計に」
 
零「分かりました。あなたの話を信じましょう」
 
魔女娘「それじゃあサキュバスを返してくれる?」
 
零「あくまで災厄の魔女と戦う間のみです」
 
魔女娘「それって……」
 
零「この娘はあくまで私の娘。サキュバスの里の次の長です。それが使い魔としていなくなられては困ります」
 
サキュバス「そんな……」
 
魔女娘「……わかったよ」
 
ライバル魔女「いいんですの?」
 
魔女娘「使い魔契約なんてこっちの事情に突き合わせるわけにも行かない。彼女には帰るところがあるんだ」
 
サキュバス「マスター……」
 
魔女娘「それに使い魔とマスターじゃなくたって私達は友達でしょう」
 
サキュバス「マスター――! うんそうね!」
 
魔女娘「さて、話は纏まった」
 
零「その後輩というのが災厄の魔女の生まれ変わりということで良かったな。そいつを倒すまでの協力関係だ」
 
魔女娘「分かってる。よろしく頼むよ」
 

 ――後輩視点
 
後輩「ちっ、正体がバレたな」
 
 途中まではうまく行っていた。
 不信感は抱かれながらも、それでも敵対するといったところまでは行ってなかった。
 おかしくなったのは、魔女娘が気絶してから。
 
 心の中に封印したサキュ姉とあったか。
 ここ最近封印のかかりが甘くなっているのは感じていた。
 それがこの結果をもたらすか。
 
 もう私が災厄の魔女の生まれ変わりだということはバレていることだろう。
 
 だったら動けるうちに動いておかなくてはいけない。
 私の目的は世界催眠の獲得と、女神の加護の奪取。
 世界催眠に関しては零のサキュバスを敵に回したから簡単には行かないだろう。
 だから女神の加護の方を狙いに行く。

 私は使い魔との特性の同調が強く出る体質だ。例え転生してもその使い魔が生きていれば同調が続く。
 だから今の私には三つの力がある。
 一つ目は、私本来の魔法の才能。
 二つ目は前世で私の使い魔だったサキュ姉のサキュバスとしての能力。
 そして三つ目。私の初めての使い魔。その能力。私が初めて召喚したのは神と呼ばれる存在だった。だから私は転生とやりなおし二つの能力を使える。
 やり直しは現在二回目。一回目のときは女神の加護の所在を確かめるだけで終わった。
 だが、そのおかげで今誰が女神の加護を持っているか把握している。
 私は今そいつのところに向かっている。
 転移を繰り返し、学園へと戻ってきた。
 
 そいつは先日から量の一室出引きこもっている。

 
 
後輩「友魔女ちゃんこんにちは」

 
 壁抜けの魔法を使い、彼女の部屋へと侵入する。
 真っ暗な部屋の中に座り込んでいる彼女は驚いた様子で私のことを見た。
 
友魔女「なんでここに」
 
後輩「なんだっていいじゃないですか」
 
 私は私ぐらいの背丈の下僕を召喚する。
 
友魔女「なんで下僕が……まさか」
 
後輩「そうそう、私が災厄の魔女なんだよね」
 
 私は軽々しく言った。
 もうみんなにバレていることだ。今更隠す気もない。
 
後輩「あなたの女神の加護をちょーだい」
 
 私は友魔女に襲いかかった。

 加護というのは要は遺志の力だ。
 特別な力を持っている人が死後、その意思が特別な力となって誰かを守る力となる。
 守護霊という言葉が近いかもしれない。
 ともかく加護には元となる人物がいるということを覚えておいてほしい。
 そこで女神の加護のことだ。
 女神の加護は言ってしまえば私にだけ効く特別な力だ。
 私の力を封じ込める力がある。
 それはなぜか。加護のもととなった人物が影響している。
 私の姉なのだ。
 姉は救国の女神と呼ばれ、災厄の魔女を倒した人物。
 そこから私に対して特効の加護になったのだろう。
 
 友魔女はその加護を持っている。どうして持っているかは分からないが、前回の周回で把握した。
 
 私には目的がある。
 それは大好きなお姉ちゃんを蘇らせることだ。
 女神の加護と世界催眠の力があれば可能だ。
 いくら万能の世界催眠といえど視認を蘇らせることは不可能だ。無理やり蘇らせても廃人……人とは呼べない状態で蘇ることとなる。
 だが、そこに加護が重なると話は変わってくる。加護は遺志であり意思だ。そこには元となった人の魂が存在する。
 魂があれば世界催眠で人を蘇生できる。
 
 私は、今度こそ世界を滅ぼしたあとで、私とお姉ちゃんだけの楽園を作るのだ。
 
 だから世界催眠と女神の加護が必要なのだ。
 世界催眠の手に入れ方はもう分かっている。
 魔女娘とサキュバスの使い魔契約をのっとってしまえばいい。私の魔術なら二人が近くにいて時間をかければ可能だ。使い魔との特性の同調をすれば、私も世界催眠を使えるようになる。手に入れようと思えばいつでも手に入れることができる。だから後回し。
 問題は加護の方だ。

 加護は他者への譲渡は不可能だ。
 ただし、加護自体の意思で所有者を変えることはある。
 だから誰が持ってるかは分からない。それを周回で突き止めた。
 奪い方は簡単だ。加護を持ってる人間を殺せばいい。
 そうすれば行き場を失った加護は自然と一番近くの人間につくこととなる。
 だから、友魔女を殺せば女神の加護が手に入ると思ったのだが……
 
後輩「お前……」
 
 私は焦った。
 目の前にはズタボロの友魔女が。
 彼女は私と下僕の攻撃を為すすべもなく受けていた。
 あきらかに、弱い。弱すぎる。

後輩「なんで、加護を持ってないんだ」
 
 そう。この弱さ、友魔女が女神の加護を持っていないのは明らかだった。
 思えばこの周回はイレギュラーが多すぎた。
 主要人物のほとんど全員が性格や過去が変わっていた。
 だからか。そのあおりを受けて友魔女から加護が消えているのか。
 
 ここまで変わってはだめだ。
 それに十二年前に世界催眠を手に入れられていればもっと楽に物事を進められていた。
 ここまでこじれてちゃダメだ。
 
後輩「最初からやり直そう」
 
 私にはループする力がある。
 始まりはお姉ちゃんに殺されて初めて転生してから。だから百年近く前。ループするためには自決する必要があるが恐れることはない。
 戻ることを決意した。今回集めた情報も含めて次はもっと効率よく動こう。
 そう思い、私は自分の首を切り落とそうとした。
 そのとき

友魔女「死ぬんですか」
 
 ボロボロの彼女は虫の息になりながらもそう問いかけてきた。
 
後輩「ええ。この周回はこれ以上何かやっても無駄だから」
 
友魔女「だから死ぬんですか」
 
友魔女「死ぬんなら、私のために役立てろ」

 
後輩「――え?」 
 
 私の土手っ腹に穴が空いた。

 遅れてそれが友魔女の魔法によるものだと気づく。
 この一撃のために力をためていたな。

友魔女「私の加護になれ」
 
後輩「……ははっ」
 
 思わず笑ってしまった。
 彼女の目は私とおなじだった。
 愛されることを望む目。
 でも満たされることのない愛情。
 
後輩「いいよ、加護になってあげる」
 
 私と彼女は多分同類だ。
 それなら彼女に手を貸すのも一興か。
 すべて終わったあとに転生しても遅くない。
 
 私の体が光の粒子となって友魔女を包む。
 私は加護――災厄の加護となった。
 

 ――友魔女視点
 
 前世の私は孤独だった。
 私の孤独を埋めてくれたのはゲーム。とりわけ乙女ゲーだった。
 ゲームの世界では王子様達が私に優しくしてくれる。私に愛を注いでくれる。
 けど、それだけで十分とはいかなかった。
 いくら王子様たちに愛されようと私の中になにか物足りなさを感じた。
 その物足りなさを埋めてくれたのが、ゲームの中の魔女娘だった。
 
 初めての感情だった。
 彼女は友としてゲームの中の私を何度も助けてくれた。
 愛情は今までいくらでももらってきた、でも友情をくれたのは彼女が初めてだった。
 私は夢中になった。
 彼女のことしか考えられなくなった。
 そして、私は死んでこの世界に転生してきた。主人公として。
 最高だと思った。
 これで魔女娘と実際にお話できる。
 ゲームの中のような彼女との友情を実際に体験できる。
 
 だが、実際にはそんなことはなかった。
 イレギュラーが多すぎた。
 全然ストーリー通りに事が進まない。
 それに、再国祭の日、魔女娘達は私以外には倒せるはずのない怪物を倒してしまった。それと同時に気づいてしまった。私には私が本来持っている力がない――すなわち災厄の魔女を倒すことのできる女神の加護をもっていないことを。
 じゃあ私は何なんだ。私はなんのためにここにいる。
 魔女娘とは思ったような関係を結べず、本来主役として果たすべき役割すらなくなった私は、なんでここにいるんだ。
 

 私の存在意義について悩み、意識の底に深く沈んでいく。
 そんなときだった、後輩が現れた。
 そして明かされた彼女こそが災厄の魔女だと。
 怪しいとは思っていた。本来彼女はこの世界に深く関わるようなキャラクターではないというのに、色々と分け知りすぎた。
 そんな彼女が告げる。私の女神の加護が欲しいと。
 
 私は笑いそうになった。
 どうして彼女がそのことを知っているかは気になったが、だが、そんなことはどうでもいい。
 私にその加護はない。
 私に女神の加護を持つ資格はないということだろう。
 だってそうだ。救国の女神は作中であまねく全ての人に慈愛と博愛をもって接していた。主人公もそうだ。
 だが、私はどうだ。魔女娘魔女娘と、彼女のことばかり。
 女神の加護をもつ資格は無い。自分でも分かった。
 私は抵抗する気になれなかった。
 
 しばらくすると攻撃はやんだ。
 するとどうだ、災厄の魔女が自殺しようとするではないか。

 そのときひょっとしてという思いが走った。
 だから彼女を私が殺した。
 
「死ぬんなら、私のために役立てろ」
 
 その力、加護としてもらう。
 そうすれば、私ののぞみが叶う。
 
 災厄の魔女は笑った。
 何を思ったかは分からない。
 けど、愉快そうに笑った。
 
「いいよ、加護になってあげる」
 
 そして災厄の魔女は私の加護となった。
 
 これで私の望みが叶う。
 私にはもう魔女娘しかいらない。
 だから全部壊す。世界を全部破壊して、私と魔女娘だけの世界を作る。
 それが私の望みだった。

 
 
 

    X

 
 
ライバル魔女「きゃー帰ってきましたわ、愛しのドラゴンちゃん」

 
ドラゴン「がうがう」
 
サキュバス「感動の対面してるとこ悪いけど、これからどうするの」

 
魔女娘「一回学園に戻ろう」 
 
零「ほう、それはどうしてだ」

 
魔女娘「学園に友魔女って人がいるんだけど、災厄の魔女について何か知ってるぽかったから」
 
ライバル魔女「話を聞きに行くというわけですわね」
 
魔女娘「そう」
 
零「だったら私の世界催眠で学園まで送ろう」
 
魔女娘「うん、お願い」

 
 
 

 ――学園
 
零「……と、ついたぞ」
 
魔女娘「ありがとう」
 
魔女娘「――――!」
 
魔女娘「なにこれ……?」
 
ライバル魔女「なにか異様な雰囲気が」
 
友魔女「や、遅かったね魔女娘」
 
魔女娘「友魔女! もう気分は大丈夫なの?!」
 
友魔女「ええお陰様で生まれてきて今までで一番さいっこーうの気分」
 
魔女娘「それならいいんだけど……」
 
零「待て、近づくな」
 
零「お前から災厄の魔女の気配がする」
 
魔女娘「えっ!?」
 
友魔女「流石だね。気づくんだ」
 
零「ちっ――『お前は身体の――」
 
友魔女「言わせねぇよ」ドゴン
 
下僕「ゴオオオオォォォっ!!!」ドガッ
 
零「ぐはっ」ガクリ
 
友魔女「世界催眠は口に唱えなきゃ発動しない。だったら言わせなきゃいい」
 
サキュバス「お母さん――!」
 
サキュバス「しっかりしてください! ……っ、気絶してる」

魔女娘「何やってるの友魔女!」
 
友魔女「何って邪魔者を消してるんだよ」
 
ライバル魔女「邪魔者ですって!」
 
友魔女「そう。この世界には魔女娘と私以外いらない。全部消すの」
 
下僕達「「「ウオオオンンン!!」」」ワラワラ
 
サキュバス「下僕があんなにたくさん」
 
魔女娘「やめて、友魔女!」
 
友魔女「もう無理だよ、止まれないし止まる気はない」
 
友魔女「それが嫌なら倒して、私を止めてみな!」
 
魔女娘「――やるしかないか」
 
魔女娘「【オーバーノヴァ】」ドゴン
 
下僕「ぐおお……」

 
友魔女「知ってるでしょ。それくらいじゃ下僕は止まらない!」 
 
魔女娘「だったら何度だって倒す。友魔女が目を覚ますまで」

 
友魔女「やれるもんならやってみろ」 
 
 

ライバル魔女「始まってしまいましたわ……くっ、こうなったらワタクシも――」
 
サキュバス「ちょっと待って」
 
ライバル魔女「止めないでくださいまし……って」
 
サキュバス「うん。この子って」
 
猫「にゃーん」
 
ライバル魔女「友魔女の使い魔ですわね」
 
サキュバス「なんでここに……」
 
猫「あーあーてすてす」
 
ライバル魔女「え……」
 
サキュバス「猫が喋ったぁ!?」
 
猫「非常時に付きこの猫ちゃんの体を借りてるだけだから、そんなに驚かないで」
 
ライバル魔女「借りてるって……」
 
猫「そう。私は救国の女神と呼ばれてるわ」
 
ライバル魔女「救国の女神ですって!?」
 
サキュバス「それって……?」
 
ライバル魔女「昔、災厄の魔女を倒した人よ……とっくの昔に死んでるはずだけど」
 
猫「ええ、私は死んでるわ。今の私は加護になって意思だけの存在になったの」
 
サキュバス「なんでそんな……」
 
猫「馬鹿な妹を止めるため、よ。お願い力を貸して」

魔女娘「いい加減目が覚めた!?」
 
友魔女「目なんてとっくに覚めてるよ!」
 
友魔女「だからこうして、世界を壊してる」
 
友魔女「ね、お願い。壊した世界で一から私とやり直そう」
 
魔女娘「馬鹿言わないで!」
 
ライバル魔女「魔女娘さん! 下がって」
 
ライバル魔女「【オーバーノヴァ・フォーマルハウト】」ドゴン
 
下僕「ウオオオウオッ」ドカコーン

友魔女「ち、厄介なのが来た」
 
ライバル魔女「魔女娘さんはそのまま下がってて。猫がいるから話を聞いて」
 
魔女娘「何言って……」
 
猫「こちらです」
 
魔女娘「猫だ。猫が喋ってる」
 
ライバル魔女「そのまま猫と話して力をもらってくださいまし!」
 
魔女娘「力を……」
 
友魔女「……まあいいよ。ライバル魔女も殺さないといけないと思ってたからさ」
 
ライバル魔女「はい? あなたじゃワタクシを殺せませんわよ」ビュン

下僕「ぐおお」シュウゥ
 
友魔女「な!? 下僕が一振りで消滅した?! どうなってるの」
  
ライバル魔女「女神の加護の力ですわよ」
 
ライバル魔女「さあ、戦いましょう。ワタクシもあなたの友達。友達が間違った道に行くというのなら、全力で止めますわ!」
 
友魔女「チっ、ちょこざいな!」

 
 

猫「はじめまして、私は救国の女神と呼ばれている存在です」
 
魔女娘「本物なの?」
 
猫「はい、本物です。貴方にも馬鹿な妹を救うため力を貸していただきたい」
 
魔女娘「……? よくわからないけど友魔女のことなら言われなくても止めるよ、私は」

 
猫「いえ、今の友魔女さんは妹の加護、災厄の加護を纏っています。そう簡単には倒れません」  
 
猫「ですので私の加護を差し上げます。女神の加護を」

 
猫「すでにライバル魔女さんには半分渡しました。残りの半分の力をあなたに」
 
魔女娘「なんでもいい。友魔女を止められるなら」
 
猫「では、私の加護を授けます」
 
猫「どうか、どうか友魔女を打災厄の魔女を止めてください」

 
 

魔女娘「おまたせライバル魔女」
 
ライバル魔女「遅いですわよ」
 
友魔女「うぐ、ここで増えるか」
 
魔女娘「キツいんなら降参したら」
 
友魔女「だれが!!」バキン
 
ライバル魔女「無駄でしてよ!」ドッ
 
友魔女「なんで、なんでよ!」
 
友魔女「なんで二人して私を止めるだよ。私のことを気にかけてくれるんだよ! 私は――私は!」
 
ライバル魔女「なぜって? そんなの決まっていますわ」
 
魔女娘「うん。私達友達だから」
 
友魔女「とも、だち……?」
 
魔女娘「友達だから間違ったことをしてたら止めるよ」
 
ライバル魔女「そうですわ」
 
友魔女「私は……私は……」
 
魔女娘「……っ。なんだこれ」シュウゥ
 
ライバル魔女「力が、抜けるようですわ……」シュウゥ

女神の加護「すみませんお二方。やはり私が決着をつけます」
  
女神の加護「もう終わりにしましょう」
 
友魔女「おまえは……うぐあ」シュウゥ
 
災厄の加護「お姉ちゃん……」

女神の加護「愚かな妹よ。あなたの罪は私が一緒に償います」
 
災厄の加護「馬鹿言わないで、今更そんな」
 
女神の加護「……本当に今更でしたね」
 
女神の加護「もっとあなたを気にかければ良かった。もっとあなたとお話をしていればよかった」
 
女神の加護「愚かだったのは私の方ですね」
 
災厄の魔女「お姉ちゃん……」

 
災厄の魔女「そんなことない。私のほうが」 
 
女神の加護「仲直りしましょう。長い長い……百年続いた姉妹喧嘩をおしまいにしましょう」

 
災厄の魔女「……ごめんね、お姉ちゃん」
 
女神の加護「私こそごめんなさいね」

 
 
魔女娘「二つの加護が消えていく」

 
ライバル魔女「戦いで壊れた街も直っていきますわ……」
 
サキュ姉「っとと、わあ!」ポン
 
サキュバス「お姉ちゃん……なんで……」
 
サキュ姉「女神の加護に当てられて、封印が完全に解けたみたい」
 
サキュ姉「ただいま、サキュバス」
 
サキュバス「おかえりなさい、お姉ちゃん」ギュウ
 
友魔女「私は……」
 
魔女娘「あんまり落ち込まないで。戦いで傷ついたところは加護のおかげでなかったことになったんだし」
 
ライバル魔女「そうですわよ。それに友達ですもの喧嘩くらいしますわ」
 
友魔女「……ありがとう二人とも」
 

 ――数日後、教室
 
ライバル魔女「ですからうちのドラゴンちゃんはご飯じゃないと何度行ったら分かるんですの」
 
魔女娘「いいじゃん。尻尾の先くらいすぐ生えてくるでしょ」
 
ライバル魔女「だからトカゲでもありませんってば!」
 
友魔女「あはは、二人は相変わらずだね」
 
友魔女「……本当はここにサキュバスもいたんだけど」
 
魔女娘「しょうがない。サキュバスはお姫様だからね。使い魔として召喚するにはあまりにも不敬。里に帰るのは当然だよ」
 
ライバル魔女「それに離れていても友達ですものね」
 
魔女娘「そうそう」
 
教師「はい皆さん席について下さい。授業が始まりますよ」

 
教師「と、その前に皆さんに報告があります。他国からの留学生がこられました。入ってきてください」  
 
友魔女「留学生だって」

 
ライバル魔女「どのような人かしらね……ってあら」
 
魔女娘「――――」
 
サキュバス「淫魔の里から来ました。里長からは人の世界を、ひいては人のことを理解するよう言われました。精一杯頑張るので仲良くしてください」
 
魔女娘「サキュバス――!」

 
サキュバス「うふふ、みんなまたよろしくね」 

おわり
終盤は息切れしました

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 06:46:42   ID: S:a-ghRs

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