魔法人形は涙を流さない(43)

魔力で動く人形、魔法人形(マジドール)

心のありか

魂の器

果たしてそれらは━━━━━

・・・・・

?「腹へったなぁ…」

パンひとつが100G
対して俺の財布にゃ56G
うん、パンひとつ買えないな。

?「餓死…餓死してしまう。これが世界を救った英雄の末路かよ…」

英雄。
そう、俺はかつてそういうものであった。
勇者の仲間、戦士。
屈強な肉体で勇者と前線で肩を並べ
肉弾戦が不向きな魔法使いや僧侶を守り
強烈な一撃をお見舞いする

戦士「あの!有名な!戦士だよ!」

グゥ~

戦士「…」

戦士「でけぇ声出したらさらに腹へった…はぁ…」

戦士「な、なんでもいい…空腹を少しでも…」

ガサゴソ

戦士「木の根…これをかじって何とか空腹をまぎらわすか…」

ガシガシガシ

戦士「青臭さと土臭さが吐き気を催す…唾液と混ざりさらに臭みが増す…」

ガシガシガシ

戦士「だが何かしら口に入れているだけで多少は…ましに…」

ガシガシガシ

戦士「なる…わけねぇよな」

グゥ~

戦士「あぁ…どうしてこうなった。勇者、魔法使いに僧侶、そして俺…魔王を倒した俺らには輝かしい未来が約束されていた筈だ…なのに」

戦士「国王の企みで、勇者と魔法使いは投獄、僧侶は国外追放…次は俺の番だと察した俺はこうやって人里離れた山奥でひっそりと隠居生活…」

戦士「なぜだ…なぜなんだ。俺たちは世界を救った英雄だろ?救うべき人間にこんな目に合わされるだなんて、酷いぜ…」

戦士「その点、女騎士のやつは上手くやったよ。早々にパーティーから離脱して国王に取り入った。もしかしたら俺たちがこんな目に合っているのも…あるいは…」

ガシガシガシ

戦士「チッ、だとしてもどうにもならねぇわな…俺はただ木の根をしがむしかないのだから」

グゥ~
クラッ…

戦士「空腹でめまいがしてきたぜ。ハハッ、このまま倒れちまうかぁ?」

クラッ
ズキッ

『…』
『…』
『…て
『…生きて』
『約束』

『生きて。約束、でしてよ?』

ハッ

戦士「!」

戦士「…」

フゥ

戦士「だ、よな」

ムクリ

戦士「しゃあねぇ、残り少ない体力だが山に出て野生動物を狩るか。生きるためには食わなきゃ、だ」

テクテクテク
ガチャリ

戦士「だよな、ヒメ…」

・・・・・

戦士「ソイヤッハ!」

スカッ

戦士「くそっ、野生のウサギを狩ろうと斧を振り下ろすも空振りした俺!」

ウサギ「よく喋る肉人形だ」

戦士「!?」

戦士「口悪いな君!」

ウサギ「そうやってのたまう暇があるなら何故再び斧を振りかざさない?チャンスは…運命の分かれ目はお前の都合とは関係なくやってくる。準備が整うまで待っていたら貴様は一生何もできないぞ」

戦士「めっちゃ喋るやんけ」

ウサギ「ウサギが喋ってはいけないか?」

戦士「いえ、その…」

ウサギ「ふん、どうせ貴様もウサギは性欲オバケだとでも思っているのだろう?ウサギは年中盛って腰を振るケダモノだと!プレイボーイの象徴だと!そう思っているのだろう?」

戦士「いや、そんな事は…」

ウサギ「ふん、ヤンマガヤンジャン、ヤングキング…コミックLoに快楽天!人間の読む雑誌の方がよほどエロだというのに!」

ギロツ

ウサギ「ふたりエッチ!Toらぶる!ベルセルクにサザンアイズ!エッチな漫画ばかりじゃあないか!!!」

戦士「後半はエロがメインじゃないだろう…」

ウサギ「うるさい!くらえ!」

シュババババッ

ウサギ「いでよ!土爪!」

バシュゥゥゥ

戦士「うわぁ!?」

ザシュゥゥゥッ

戦士「ぐわぁぁぁぁぁ!」

戦士「こ、こいつはヤクいぜ!」

戦士「ヤクいぜ!」

戦士「ヤクいぜ…」

戦士「ぜ……」

そうして戦士は意識を失った。

そして一年の歳月が流れた。
戦士はいまだ目を覚まさない。
なんやかんやあってウサギは戦士を看病していた。

ウサギ「ふぅ…」

ギュッギュッ

ウサギ「今日も目を覚まさないな…それでも体は綺麗にしておかないとな」

フキフキ

ウサギ「たくましい胸板…ほどよい毛深さ…気持ち悪いくらい、12個に割れた腹筋…はぁっ…いい…」

ムラムラ

ウサギ「俺はウサギ…だがこの人間の溢れる野性味が俺を悩ませるんだ!」

ウサギ「早く目を覚ませよ…早くこの俺の気持ちを…伝えなければ…俺は破裂してしまう!」

ウサギィ

ウサギ「うっ…!」

ウサギ「ふぅ…」

ウサギ「人は何故戦争などするのだろう…」

ウサギ「なんだかスッキリしたし、昼飯の準備でもするか」

テクテクテク

ウサギ「川に来たぜ。魚をとるんだぜ」

スイス-イ

ウサギ「おっ、のろまなお魚発見。さっそく捕まえるぜ」

ズビャビャ!
ザクッ!

魚「ぎゃぁぁぁぁぁ」

ウサギ「捕った!」

魚「い、痛い…血が…血が出ている…魚卵もだ!」

ポロポロ

魚「魚卵なさいよ!これがあなたのした事…私の腹を割き!卵をぶちまけた!」

ウサギ「たかが魚一匹!騒ぐほどのことかよ!」

魚「侮って!このままみすみす死んでたまるものですか!」

ピョイン

魚「これでもくらえ!命がけの必殺技!魚卵スプラッシュ!!」

ウサギ「うわぁぁぁ!かつてない魚卵が来る!」

バシバシバシィ

ウサギ「ぐふっ…」

魚「致命傷のようね…でも」

バタリ

魚「全ての魚卵を放出した私も、もはや数分の命…」

ウサギ「な、なぜこんな事をした…?結局俺もお前も死ぬんだ…こんな争いに意味はなかった…」

魚「意味…」

魚「そんなものは、初めから…」

魚「私…いえ、『僕』が…」

魚「僕が…過ちを犯した…あの日から…」

ウサギ「な、なんだ…何を…言っている…?」

魚「意味は無い…僕にとってはね。ここが終着駅だから…魚に転生して…この先は無い…完全な無になる」

魚「でも君は違う。輪廻の輪の中に居る君は…また生まれ変わる…そして…」

魚「その先に意味が…あるならば…」

魚「きっと…」

魚「…」

魚「…」

ウサギ「し、死んでる…」

ウサギ「そして俺ももう…ぐふっ…」

ウサギ「ぐっ…ふっ…っ…」

ウサギ「っ…」

・・・・・

~とある借家の一室~

国王「ふぅ…また安眠できなかった。いつ魔物どもが襲ってくるかと思うと気が休まらんわい」

ムクリ

国王「寝不足でも出社せん訳にはいかんからのぅ…今日もまた寝ぼけまなこで単車で城まで出勤じゃわい」

ガサゴソ
ガチャリ

国王「戸締まりよし!さぁて、単車単車」

マタガリ
ヴヴン

国王「今日も我が愛車はゴキゲンじゃわい!フゥッフーゥ!」

バルルルルルル!

ギュインギュイン バルルルルルル!

通行人A「わぁっ!単車が!」

通行人B「あぶねぇ!危険運転してんじゃねぇぞ!」

国王「うるさいわい!わしはこの国の王じゃぞ!何をやっても許されるんじゃわい!フゥッフーゥ!」

バルルルルルル!

国王「どけどけ愚民ども!わしの単車は世界一ィィィィィ!」

ピピーッ

警官「はい止まってー」

国王「ひぃっ」

警官「また国王様ですかー」

ケイボウ シャキンシャキン

警官「あんまり調子に乗っちゃ駄目だと言っているじゃ…」

ブンッ! バキィッ!

国王「ぎゃいんっっっ!」

警官「ないですかぁ」

ゴロゴロゴロ

国王「ぎゃひぃっ…」

警官「単車で人を轢けば死ぬことだってある…国王にだってやっちゃいけない事があるでしょうが」

国王「ひっひぃぃぃ…」

警官「分からせるために、どうすりゃいいですか?」

ブンッブンッ

警官「この固い固い警棒で脳天ぶん殴りゃ分かってもらえますかねぇ?あぁん?」

国王「ひぃっ、ひぃぃぃぃあぇぇぇ!」

ジョロロ…

警官「チッ、失禁しやがったか」

国王「わ、わしは国王じゃぞ…そんな威圧的な態度、ゆる、ゆるるるる許さんぞい!」

ジョロロ

警官「小便たれながら言われましてもねぇ…」

国王「わわわわしはこの国でいちばん偉いんじゃ…だから単車で暴走したっていいんじゃ…違うか?」

警官「違うわ!」

国王「な、なんじゃと…!?」

警官「いくら国王でも法律は守らなければなりませんよ…好き勝手やるのが許されるなんて…そんなの、まるで魔物と同じじゃあないですか」

国王「!」

国王「…」

警官「貴方が嫌悪する魔物…まるで、魔物…笑えませんよ」

国王「…」

警官「お願いですから、どうかそうならないで下さい…貴方はこの国の王…私たちの…王なのですから」

国王「…うむ」

ムクリ

国王「すまなんだの」

警官「いえ…」

国王「交通ルールは守る…当たり前の事じゃった…なのにワシは…いつしかそれを忘れ…ルールを破っていた…二段階右折さえもしなくなっていた!」

国王「てか二段階右折ってなに?詳細忘れてしもうたわい!標識もほぼ見たことないわい!てかむしろ危なくね!?」

警官「否めない」

国王「まぁなんにせよワシは城に行く。もちろん安全運転でな」

警官「国王らぁ…」

国王「ではの」

バルルルルルル!

国王「フゥッフーゥ!」

・・・・・

~城~

国王「ふぅーっ、始業ギリギリに王座に着いたわい。さてとメールチェック…」

ノートパソコン カタカタ

国王「武器庫の整理計画について…兵士長からか…たしかに魔物の襲撃に備え管理は必要じゃな…うむ、早急にまとめてもらうかのぅ」

カタカタ

国王「次は…姫からか」

国王「なになに…魔王討伐隊…勇者一行に参加したいとな…なにぃ!?」

国王「姫め…どこからこの情報を…しかし困ったのう。あのおてんば姫の事じゃ…勇者パーティーに参加するといってきかんじゃろうな」

国王「仕方あるまい…まぁ勇者と共にいれば安全ではあるか。姫も騎士としては有能じゃしな」

カタカタ

国王「じゃとすると…勇者…魔法使い、僧侶…戦士に姫…あとは女騎士…きり良く七人にするか…」

国王「うーむ、忍者でもいれとくかの。これで七人パーティーじゃ。七英雄といったところかのぅ」

国王「さぁて今日の業務は終わりじゃ」

国王「明日にでも七人を呼び出し旅に出すかのぅ。七英雄が魔王を倒してくれればワシも安心して眠れるのじゃよ」

国王「魔物は、魔王は滅ぼさねばならぬ…ならぬのじゃ」

・・・・・

~翌日、城にて~

国王「さぁて集まったな英雄たちよ」

勇者、魔法使い、僧侶、戦士、姫騎士、女騎士、忍者

国王「さっそくじゃがおぬし達には魔王討伐を命じる」

勇者「魔王…」

魔法使い「討伐…」

僧侶「ひぃっ、怖いですぅ~」

戦士「ガハハッ、腕がなるぜ!」

姫騎士「ついにこの日が…」

女騎士「命懸けの旅だ、報酬はたんまりもらえるんだろうな?」

忍者「ニンニン」

国王「まとまりねぇな」

勇者「で、資金や装備は用意していただけるんでしょうね?」

女騎士「もろちん軍資金と報酬は別だぞ」

国王「うむ、もちろんじゃ」

ガサゴソ
ドサッ

国王「まず旅の資金に一億ゴールド」

女騎士「ひぇっ」

国王「さらに全員にアルティメットソード、アルティメットアーマー、アルティメット拳銃を支給するわい」

魔法使い「アルティメット拳銃」

忍者「拙者忍者なんですが…拳銃て…」

姫騎士「そうですわお父様。それにわたくしには代々受け継がれしこの…」

シャキン

姫騎士「『妖刀・魔王ころし』がありましてよ!」

勇者「妖刀」

女騎士「名前的に絶対魔王ころせるやつじゃ~ん」

国王「姫よ、妖刀魔王ころしは使い手の命を吸う危険な刀じゃ…おぬしにそんな危険な刀を使わせたくはない」

姫騎士「大丈夫ですわお父様。わたくしはこの妖刀を使いこなしてみせみせみせみせみせみせみせみせみせみせみせみせ」

姫騎士「げばはぁっ!」

戦士「吐血してるー!?」

姫騎士「だ、大丈夫ですわ…ぐふっ…」

タマシィ…タマシィ…

勇者「絶対大丈夫じゃないよ!明らかに魂吸ってる効果音だよ!」

国王「姫よ、早くその刀から手を放すのじゃ!」

姫騎士「だ、だい…」

タマシィ…タマシィ…

姫騎士「ぐふっ…」

国王「姫ー!」

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