――おしゃれなカフェテラス――
高森藍子「~~♪ ……ふわぁ……。んっ……」ゴシゴシ
北条加蓮「やっほー、藍子。……なんか眠そうだね?」
藍子「あっ、加蓮ちゃん! こんにちはっ」
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レンアイカフェテラスシリーズ第137話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんが」北条加蓮「アイドルではない時間に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「普通のことをやるだけのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびりうたたねのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「思い出のあふれるカフェテラスで」
※[ルミナススター](2020)についてはもうこのシリーズでは扱いようがないので、扱いません。申し訳ございません。
藍子「♪」
加蓮「……また嬉しそうだね?」
藍子「そう見えますか?」
加蓮「そう見えます。加蓮ちゃんが言うんだから間違いないよ」
藍子「加蓮ちゃんが言うのなら、間違いありませんねっ」
加蓮「……って人から言われるとなんか違う感じがするねー」
藍子「ふふ。加蓮ちゃんは、どうしてほしいんですか~」
加蓮「さあ? ま、私が言うんだから間違いない。うんうん」
藍子「加蓮ちゃんが言うのなら、間違いありませんね!」
加蓮「……わざと言ってない?」
加蓮「でも間違えてないでしょ。藍子、さっき笑ったし。もしかしてそれも無自覚?」
藍子「自分が笑ったことくらいは、自分にだって分かっているつもり――ううんっ。ちゃんと、分かっていますよ」
加蓮「お、言い切った」
藍子「アイドルですから……。ちょっぴり傲慢な考えかもしれないけれど……もし、私の笑顔で、誰かの心に幸せを運んであげられるのなら。自分の笑顔を、好きでいようって!」
加蓮「……そっか」
藍子「あっ。……ごめんなさい、つい熱くなっちゃって。加蓮ちゃん、まだ座ってもいないのに」
加蓮「ホントホント。人を突っ立たせたまま熱弁し始めるとかさー。それってどうなの?」
藍子「うぅ、すみませ……って。加蓮ちゃんこそ、わざと言っていますよね?」
加蓮「何のことやらー」スワル
藍子「私、最近ここで加蓮ちゃんの顔を見るたびに、笑ってる気がします」
加蓮「そう? っていうか、それを言ったら私も……あー、でも最近いつも藍子が私を待ってる気がするなぁ」
藍子「約束をしたら、つい早く来ちゃうんです♪ こればかりは、ゆるふわとは言わせませんよ~?」
加蓮「おぉ……」
藍子「加蓮ちゃんを待たせてしまったら……何を言われるか分かりませんから」
加蓮「え、待って待って。私そんな酷いこと言ってる?」
藍子「え?」
加蓮「えっ」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……えへへ」
加蓮「…………」グニグニ
藍子「いひゃい、いひゃいっ」
加蓮「よし」
藍子「よし、じゃありませんっ。爪を立てたら痛いです!」
加蓮「痛くしたし」
藍子「も~っ」
藍子「さすがに加蓮ちゃんにひどいことを言われるっていうのは冗談ですよ。加蓮ちゃんを待たせたくないのは、本当のことだけれど――」
藍子「でも……少しの間だけ待って、加蓮ちゃんが来てくれて。手を振りながら、こっちに来てくれる時、すっごく幸せなんですっ」
藍子「その幸せを、加蓮ちゃんにも……なんて、ちょっとおかしなお話でしょうか」
加蓮「うーん……。うん。おかしい」
藍子「やっぱり?」
加蓮「それに、そういうのを狙ってやったらただの台本だよ。自然に起きるから、藍子は待つとか待たれるとかが好きなんでしょ?」
藍子「あっ、確かにそうですね。時間や、来る順番を計算して、それに合わせてしまうと……あれっ? それはそれで、ちょっと楽しそう」
加蓮「なんでも楽しいんじゃんっ」
藍子「あはは……。そうやって、幸せを受け取る順番をぐるぐるしたり、今日は私がもらったから、明日は私が……なんて巡るのも、いいかもって思ったんです」
加蓮「幸せの交代制?」
藍子「幸せの交代制♪ ……う~ん。いまいち、響きが好きではありません」
加蓮「ちょっと堅いよね。じゃあローテーション……ダメだー、なんかガッチガチに作ったルールっぽくてヤダ」
藍子「あぁ、規則みたいになっちゃうから、響きが好きになれないのかも」
加蓮「ね」
藍子「自然に発生することも、細かく決めちゃうと、まるでやらなくちゃいけないように感じちゃうから……」
加蓮「学校の教室の掃除だってやりたい子がやればいいのにー」
藍子「……いや、加蓮ちゃん? 教室はみんなで使うんだから、みんなで掃除しましょう」
加蓮「えー」
藍子「加蓮ちゃん」ジトー
加蓮「あーあ、ホント藍子ちゃんってば優等生だよね。あーあ」
藍子「…………」
加蓮「……ごめん。そろそろ元の目に戻って? さすがに怖い」
藍子「……はぁい」
藍子「何か、いい名前があるといいな……。交代していく幸せにも」
加蓮「幸せの……巡るもの、渡すものだから……幸せのバトン?」
藍子「あっ、それいいかも! 幸せのバトンを、渡し合いましょうっ」
加蓮「それもいいじゃん。なんかのキャッチコピーとかに使えない? LIVEでも握手会でも……いや、これならグッズ関係の方がいいかも?」
藍子「グッズ?」
加蓮「例えば、そうだね……。藍子だから……やっぱりカメラがいいかな。藍子がデザインしたカメラを、グッズとして売り出すの。握手会とかで藍子が渡してあげてもいいかもね」
藍子「ふんふん」
加蓮「そうしたら今度は、ファンのみんながそれで写真を撮って、藍子に見せてあげるんだっ」
藍子「わぁ……♪」
加蓮「藍子はそういうの、見るの好きでしょ?」
藍子「うんっ! みなさんが撮った写真って、その場の空気や、撮った方の気持ち……どんなきっかけがあったんだろう、どんな風に笑ったんだろう、って想像して、楽しくなるんですっ」
藍子「だって、写真を撮る人って、みんな笑顔ですから! つまらなさそうに写真を撮る人なんて、いませんからっ」
加蓮「んー……。んー……確かに、つまらなさそーな顔して撮る人は想像できないね」
藍子「でしょっ?」
加蓮「どうにか反論しようと思ったのにっ」
藍子「もう、加蓮ちゃんっ。でも今のアイディアすっごくいいです! 帰ったらモバP(以下「P」)さんに……一緒に、相談してみませんか?」
加蓮「相当乗り気だね。じゃ、帰ったら相談する話ってことで。スマフォにメモっとこ」
藍子「ファンのみなさん、どんな写真を見せてくれるかな……♪」
加蓮「もう想像しちゃってるー」
加蓮「人為的っていうか、自然じゃない幸せの作り方っていうのも悪くないんだね」
藍子「そうですね。……ふふっ。それこそ、アイドルがそうかも」
加蓮「アイドルが?」
藍子「みなさんの生きる社会に、幸せを作る存在。それは……ひょっとしたら、どれほど自然体でいようとしても、どこかに作られた部分があるかもしれませんね。私だって、衣装も髪飾りも、いつもとは違うものですから」
加蓮「私なんかもっとだよ。アイドルモード、ってヤツ?」
藍子「それは、人が作り出す幸せなんですっ」
加蓮「なるほどねー……。そういう考え方もあるんだ」
藍子「ふうっ。……また、ちょっぴり熱くなっちゃった」
加蓮「いいよいいよ。テラス席、他に誰もいないし。ま、誰かいても止めたりはしないけど」
藍子「そこは少しだけなだめてください……」
加蓮「むしろ他のお客さんを引き込む?」
藍子「やめて~っ」
加蓮「店内ならお客さんもいるよね。藍子がまた幸せを語りだしたら呼んであげよっかなー。もしかしたら昔の私みたいな人もいたりして、でも明日から前向きに生きられるよねっ」
藍子「……うぅ~……」
藍子「加蓮ちゃんがどうしても、そうしたいって言うなら気持ちを切り替えますけれど……」
藍子「せっかくカフェにいるんだから、ここではそういうのは、なしにしたいな……」
加蓮「そっか」
藍子「……」
加蓮「ごめんね? 私まで藍子にあてられてたかも」
藍子「……加蓮ちゃんも、熱くなってたってこと?」
加蓮「藍子みたいな素晴らしいアイドル、もっとたくさんの人に知ってもらいたいな、って」
藍子「もう……。またそういうことを言うんですから」
加蓮「これは本気なんだけどなー。ま、ここはカフェだよね。今の話はなかったってことで」
藍子「はい。なかったことにしましょう」
加蓮「それに藍子のファンの人達だって、藍子が急に熱く語りだしたらびっくりするよ」
藍子「や、やっぱり?」
加蓮「それよりは、いつもみたいにゆるふわで。そんな藍子の方がいいかな? ふふっ。なんて、プロデューサーさん面かな」
藍子「……そう言われると、熱くなっちゃうのも、いいかな? って、思いますね」
加蓮「お」
藍子「加蓮ちゃんが、私の熱を受け取っちゃったって言うのなら、私も、加蓮ちゃんの……意地っ張りで、負けず嫌いなところ。影響されちゃったかも♪」
加蓮「言うねぇ??」
藍子「それから、寂しがり屋さんなところと、何にでも好奇心を示すところと、あとやりたいことがいっぱいあるところ――」
加蓮「片っ端から並べんなっ」ペシ
藍子「きゃ」
加蓮「あと誰が寂しがり屋よ。いい加減、認識を改めなさいよ」
藍子「え~……。別に、寂しがり屋さんでもいいと思うのに……」
加蓮「絶対ヤダ。嫌って言ったらイヤ。そーやって人に気持ちを勝手に決められるのが嫌いな事、藍子だって知ってるでしょ?」
藍子「……それは、知ってますけれど」
加蓮「はい、じゃあこの話も終わり。影響されるって言うなら、せめて意地っ張りで負けず嫌いなくらいで留めておきなさい」
藍子「はぁい」
加蓮「っと、お腹すいた。コーヒーの注文もしてなかったし、ついでだからお昼にしよっか」
藍子「そうですね。私もお腹がすいちゃいました。加蓮ちゃんは、コーヒーにしますか?」
加蓮「そうするつもりだったんだけど……ご飯食べながらコーヒーってどうなんだろ」
藍子「コーヒーに合うご飯にするのは、どうでしょう。サンドイッチとか、パンケーキとか」
加蓮「そこまでじゃないかなー……。それよりご飯が食べたい気分」
藍子「分かりました。店員さん、呼んできますね」
……。
…………。
加蓮「やっほー、店員さん。加蓮ちゃんだよー」
藍子「ふふ。加蓮ちゃん、急にどうしたんですか? アイドルみたいな顔で――」
加蓮「ほらほら、藍子も」
藍子「えっ? じゃあ……どうもこんにちはっ。アイドルの、高森藍子です♪」
加蓮「……店員さんノリわるーい。そこで知ってるよって顔するのって最悪だよ」
藍子「まあまあ。無理なお願いをしてしまったのは、私たちですから。ええと、今日の日替わり定食を2人分と……ドリンクはどうしますか?」
加蓮「渋いお茶の気分かも」
藍子「だそうです。私も、それでお願いしますっ」
加蓮「……店員さん、なんか考え込みながら店内に戻ってったね。次に藍子が自己紹介したらどうリアクション取るかでも考えてるのかな」
藍子「も~。急にああいうことを言っちゃ、駄目ですからね?」
加蓮「はーい」
藍子「でも加蓮ちゃんみたいに、とっさにアイドルのあいさつができるようにもなりたいな……。どうしても、一歩遅れてしまいますから」
加蓮「ん? 普通にこんにちはって言えばいいんじゃないの? アイドルの笑顔で」
藍子「う~ん……」
加蓮「それこそいつも通りに……ちょっとだけ意識して、にこっ、って笑うとかさ」
藍子「ちょっとだけ意識を……」
加蓮「そうそう。意識しすぎるとそれだけ動きにくくなるし。ただでさえ藍子ちゃんはノロマなんだし、そんなあれこれ考えてたら顔を上げたらもう誰もいなくなってるよ」
藍子「むぅ……。そこまで言わなくても、いいじゃないですか」
加蓮「あはははっ」
藍子「ちょっとだけ意識した……自然な笑顔……」
加蓮「あーあ、考え込んじゃった」
藍子「――」
加蓮「いつ戻ってくるかな? ……っと、先に店員さんが定食を運んできちゃったね」
藍子「!」
加蓮「ありがと、店員さん。じゃあこっち、藍子の好きなおかずが多い方を――」
藍子「店員さんっ。いつも、ありがとうございます♪」
加蓮「……わぁお」
藍子「あれ? 店内に駆け戻っちゃいました……。次の注文があったのかな」
加蓮「…………」
藍子「か、加蓮ちゃん?」
加蓮「いや……。なんていうか……店員さんにちょっとだけ同情しちゃうね……」
藍子「???」
□ ■ □ ■ □
加蓮「ごちそうさまでした。いいよ、藍子はゆっくり食べてて」
藍子「そうさせてもらいますね。もぐもぐ……」
加蓮「ん~っ。お茶もいいかなって思ったけどさー」
藍子「ごくんっ。思ったけれど?」
加蓮「実際やるとオバサンっぽくなる」
藍子「えぇ……」
加蓮「加蓮ちゃんは花の10代ですから♪ もっとフレッシュにいかなきゃっ――う。これ、なんか何日か前に菜々さんが言ってたのと同じこと……」
藍子「もぐもぐ……♪」
加蓮「こらー、藍子ー。そこは否定するところでしょ? 加蓮ちゃんは菜々さんとは違うから大丈夫ですっ、とかなんとか」
藍子「ごくんっ。……ゆっくり食べてていいって言ってくれたのに」
加蓮「そだった。ごめんごめん」
藍子「もぐもぐ……」
藍子「……?」
藍子「ごくんっ」
藍子「加蓮ちゃん、さりげなく菜々さんに失礼なことを言ってますよ?」
加蓮「そっちは意識してるから大丈夫」
藍子「もっと駄目になってる気がします……」
加蓮「んー……。藍子……あぁ、食べながらでいいから」
加蓮「今度、茜にでもおいしいお茶の飲み方を聞いてみよっかなーって思って」
藍子「もぐもぐ……」ウンウン
加蓮「そういう話をすると絶対未央がついてくるんだけどさー。あ、もちろん未央が邪魔とか嫌いとかでは絶対ないよ。ただ大きなイベントにしたくないっていうか、こう……1日体験! 程度にしたくて」
藍子「もぐもぐ……」ウンウン
藍子「ごくんっ。茜ちゃん、きっと喜んで協力してくれると思います。今度スケジュールを聞いておきますね」
加蓮「いいよいいよ。それくらいならやるってば」
藍子「……」
加蓮「……?」
藍子「……」シュン
加蓮「……??」
加蓮「……、」
加蓮「……あー、えっと。そういうこと?」
藍子「もぐもぐ……」コクン
加蓮「別にいいじゃん、私が茜から勉強受けたって」
藍子「……茜ちゃんと2人でお茶を飲みたいってお話ですよね、それ」
加蓮「じゃあ礼儀作法も学んじゃえってことで、紗枝ちゃんにも声をかけてみよっかな?」
藍子「…………」
加蓮「……あのさ。そこまで複雑そうな顔をするなら、自分も参加したいって言えばいいじゃん」
藍子「……いいの?」
加蓮「なんで勝手に面倒なこと思ってるの……。当たり前でしょ。っていうか何なら藍子も誘おうって普通に思ってたし」
藍子「そうなんだ……」
加蓮「そういうさ、1人で面倒なことを勝手に考えるのとか、自分が遠ざけられてるのに嫌な思いをして、だけど何も言わないでいるのってさー……昔の自分を見さされてるみたいで、ちょっと嫌なんだけど」
藍子「……、」
加蓮「いや……違うよね。昔の自分みたいじゃなくて、昔の自分の、嫌なところを見さされてるみたいってこと」
加蓮「昔の自分を全部否定するのなんて、それこそ前の私なんだから」
加蓮「うんっ。大丈夫。むしろネタにしていける。ま、弄ってきたら全力で反撃するけど?」
藍子「…………」
加蓮「……言い過ぎた私も悪いけど、藍子さ……」
藍子「……ごくんっ。あ、ごめんなさい。落ち込んでいたとか、そうではなくて――」
加蓮「え?」
藍子「あの……。怒らないで、聞いてくれますか?」
加蓮「やだ。怒る」
藍子「そうですか」モグモグ
加蓮「あー、ごめんごめん! こう、昔のね! 昔の加蓮ちゃんモードみたいなヤツだから、今の!」
藍子「……」ゴクン
藍子「加蓮ちゃんのお話を聞いていて……そっか、これが前の加蓮ちゃんの気持ちなんだ、って思ってしまったんです」
加蓮「はあ。……って、おい」
藍子「そっか~……って。実は、ちょっぴり嬉しいって気持ちも――」
加蓮「私の! 嫌なところに浸って、喜ぶな!」
藍子「きゃ~っ」
加蓮「なんでもかんでもポジティブっていうのも限界ってあるでしょうが!」
藍子「だ、だって、こういうことで嘘はつけません!」
加蓮「だいたい加蓮ちゃんの黒歴史を体感して何が嬉しいのよ、何が!」
藍子「相手の気持ちが分かるのって、それだけで嬉しくなりませんか?」
加蓮「種類ってあるでしょ! じゃあ何、もし藍子の目の前で私が大泣きでもしてて、その理由が分かったらアンタは喜ぶの!?」
藍子「それは……その時は、真っ先に加蓮ちゃんを励まして、元気になってもらいます」
加蓮「う……。なんか簡単に思い浮かぶね。藍子に励まされる私……」
藍子「加蓮ちゃんが笑ってくれたら、もっと元気になってもらうために……どこに連れていこっかな? こういう時って、カフェのようにのんびりできてしまう場所よりも、嫌なことを忘れて、思いっきりはしゃげる場所の方がいいですよね」
藍子「そうだっ。遊園地とかはどうでしょう。ショッピングもいいなぁ。加蓮ちゃんなら、新しいコーデを探している間にあっという間に元気になっちゃいそう♪」
藍子「その後で……少しだけ振り返って」
藍子「加蓮ちゃんが元気になることができた理由に、私が気づけたことがあったら――」
藍子「その時初めて、加蓮ちゃんの気持ちになれてよかった。加蓮ちゃんの気持ちが分かってよかった、って、喜ぶかもしれませんねっ」
加蓮「……随分と具体的に言うんだね?」
藍子「ふふ。想像になっちゃいましたけれど、私、少しだけ考えていたことがあって。もし加蓮ちゃんが泣きそうな顔をしてたら……って」
加蓮「私が……?」
藍子「それこそ、昔のお話ですよ」
加蓮「あぁ……。そっか。昔の、ね」
藍子「ええ」
加蓮「準備してくれてたんだったら、それはまぁ……ありがと」
藍子「どういたしまして」
加蓮「ってことで、そろそろ未来に向かって歩きだそっか?」
藍子「はいっ。いつまでも昔のことばかりお話していたら、歩くことができなくなっちゃいますから」
加蓮「だから加蓮ちゃんの黒歴史を追体験するのはやめようねー」
藍子「……え~」
加蓮「なんでそこで不満そうにすんのよ!」
藍子「今は理由を説明しましたけれど、それはそれとして、加蓮ちゃんの気持ちが分かったり、加蓮ちゃんの気持ちになってみるのって、けっこう楽しいのに」
加蓮「藍子がそういうのが好きだってのは分かるけどさー……。じゃあせめて、モノマネくらいにして?」
藍子「……ものまねは、ちょっと」
加蓮「え。そこは違うんだ」
藍子「あの……。これも、怒らないで聞いてくださいね?」
藍子「この前、事務所でのんびりしていた時に、いろんな演技のお話になって……。未央ちゃんにそそのかされて、ものまねをやってみたんです」
藍子「…………」
加蓮「滑ったと」
藍子「……はい」
加蓮「加蓮ちゃんのモノマネをやったら空気を凍ったと」
藍子「そ、そこまでではありませんっ。ただ、未央ちゃんも茜ちゃんも、あと……Pさんと、柚ちゃんもいたのかな? みなさんぽか~んと固まっちゃって」
藍子「どうしたんだろうって思って、未央ちゃんに話しかけたら、びっくりしたって言われて……」
藍子「ものまねって、似てる似てるっ、って言って盛り上がるものですよね。びっくりさせるものじゃないと思うんです。だから、私はものまねはちょっと……」
加蓮「……今度お茶の時にでも茜に聞いてみるけど、それってもしかして似すぎててみたいな話だったんじゃないの?」
藍子「え?」
加蓮「いや、いいや……。それはそれで見たくないし」
藍子「……?」
藍子「……、」
藍子「……あ~……。でも、それはないと思いますよ。私と加蓮ちゃんは、似ているところはあるけれど雰囲気が違うって、未央ちゃんがよく言っていますもん」
藍子「そうそうっ。今度、加蓮ちゃんが私のものまねをやるところが見てみたいって言っていたのも、思い出しましたっ。加蓮ちゃんに会うなら、伝えてほしいって」
加蓮「それ前にやったことあるんだけど……。えー、藍子のマネ?」
藍子「私も見てみたいですっ。あ、でもちょっぴり見たくない気持ちもあるかも……。自分のまねをされるのって、どう見たらいいのか分からなくなっちゃいますね」
加蓮「ね」
藍子「う~ん……せっかくだから、やっぱり見てみたいかもっ」
加蓮「いいよ、今度みんなと会った時にね」
藍子「はいっ。……今、見せてくれたりはっ」
加蓮「加蓮ちゃんの貴重なモノマネシーンは1度きりとなっております。残念でしたー」
藍子「え~っ。そこをなんとか!」
加蓮「そうまでしてみたいの?」
藍子「……う~ん?」
加蓮「どっちよ」
藍子「ふふ。なんとなく、気持ちが盛り上がっちゃって。見せてくれないって言われたら、見たくなっちゃいませんか?」
加蓮「それはもちろんそうだけどさ」
藍子「そういうことですよ」
加蓮「でも残念。っていうか本人1人だけにやるのとか恥ずかしすぎるし。こういうのは大人数でやって誤魔化すものでしょっ」
藍子「じゃあ、その時を楽しみにしていますね」
藍子「今度はいつ、みんなで集まれるかな。みなさん忙しいですから。もちろん、加蓮ちゃんも」
加蓮「藍子もでしょー」
藍子「えへへ……。……ぁふ……」
加蓮「あくび?」
藍子「あはっ。ごめんなさい。今日、朝早くに撮影があったから……。すごく早くに起きて、いろいろ準備したり……そうそう、夜明け前に街を歩いてみたんですっ」
加蓮「ふふっ。大人だ」
藍子「大人になれたのかな? まだ薄暗かったから、Pさんに一緒にいてもらいました。それで、歩いて収録の現場まで行って……」
加蓮「未明のデートとかもう完璧に大人じゃん」
藍子「そ、そんなんじゃありませんよ~。でも、朝になる前の街ってなんだか不思議な感じでした。みなさんはまだ眠っているのに、自分がいつものように歩いていることや……いつものコンビニが、すごく不思議な場所に見えたりとか」
加蓮「うんうん」
藍子「大通りには、もう車が行き交っているんです。ものすごい速度の車もあれば、なんだかいつもよりのんびりに見えるものまで。どこへ行くんだろう……って思っちゃったりっ」
藍子「赤信号を待っている間、辺りを見渡してみたんですけれど……まるで違う世界みたいな雰囲気と、いつも通りに行き交う車がミックスして、とっても不思議な光景でした♪」
加蓮「そういう合わない感じも、1つの魅力なのかも?」
藍子「そうかも……? 加蓮ちゃんにも、おすすめしますよ。夜明け前のお散歩♪ あっ、でもひょっとしたら危ないかもしれないので、加蓮ちゃんのお父さんやPさんに、ついてもらいましょうね」
加蓮「えー、Pさんならともかくお父さんとお散歩? それはちょっとやだなー」
藍子「ふふっ。そっか」
加蓮「っていうかそもそも、そんな朝早くに起きれる気がしないし」
藍子「起こしますよ~?」
加蓮「藍子と一緒に寝たら、起きたらもう8時とか9時とかになってそう。アンタ夢の中でもゆるふわ空間を発動させたりしない?」
藍子「し、しませんよ。もしそうなっていたら、今日だって早くには起きられませんでした」
加蓮「あ、そっか」
藍子「もし、興味が出てきたら、ぜひ言ってくださいね。お話していたら、私もまた歩きたくなっちゃいました」
加蓮「じゃあ、ちょっと違う世界に浸りたくなった時に、かな?」
藍子「違う世界に浸る……」
加蓮「別に現実から逃避したいとか、嫌気がさしたとかじゃなくて。ちょっとだけ違う世界に行ってみたくなる気持ち。藍子にもない?」
藍子「う~ん……。違う世界をお散歩できるのは素敵かもしれませんけれど、私にはあまりないかも」
加蓮「そっか」
藍子「くすっ」
加蓮「一眠りしとく?」
藍子「うん……。もうちょっと眠くなっちゃったら、そうするかも。ごめんね、加蓮ちゃん」
加蓮「いいよいいよ。慣れてるって」
藍子「……1人が寂しくなったら、いつでも遠慮なく起こしてくださいねっ」
加蓮「ずっと夢の中で迷子になってろっ」
藍子「その時は、加蓮ちゃんが迎えに来てくれるんですよね?」
加蓮「…………」
藍子「えへへ」
加蓮「……もう。寝るならさっさと寝なさい」
藍子「もうちょっと眠くなっちゃったら」
藍子「朝早く……ううん、朝が来る前に、いつもの街をお散歩して……違う世界に行ったような気分になって」
藍子「その後は、収録があって、いつもとは少し違う私、アイドルの高森藍子になりました」
藍子「だからかな。今日、カフェで加蓮ちゃんを待っていて……」
藍子「加蓮ちゃんの顔を見た時に、改めて、私の見ている景色に加蓮ちゃんがいてくれることが、すっごく嬉しくなったんです♪」
藍子「加蓮ちゃん。私の好きなこの世界にいつもいてくれて、ありがとうっ」
加蓮「どういたしまして」
藍子「えへへ……。こうしていつもの場所があるから、私、いろんなところに歩いて行けるんですよ……」
藍子「…………すぅ……」
加蓮「……話しながら寝ちゃった」
加蓮「このまま倒れちゃったら痛いし、起きちゃうだろうし。店内まで運んでいってもいいけど……それもなんだかって感じ。私も、もうちょっとここにいたいし」
加蓮「じゃ、格好が悪くなっちゃうけど椅子を並べて横にさせてあげよっかな。他にお客さんがいないから、椅子を借りても大丈夫だよね」
加蓮「ま、店員さんに言っとかなきゃ。……うんっ。今空いてそう。じゃあ――」スクッ
藍子「……かれんちゃん……」
加蓮「……、」
藍子「……えへ……」
加蓮「……もう」ナデナデ
加蓮「しょうがないなぁ。店員さんが気まぐれで来てくれるまで待とっか」
【おしまい】
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