少女「とりっくおあとりーと!お菓子をくれませんかっ」男「えー、君は誰だい?」 (56)

SS12作目となります。

SS製作者非安価スレ
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(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602513584/)
のレス番46より、お題「ハロウィン」です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1603820145

ーーー学校ーーー

「あ、かわいい!なにそれ!」

「これ?なんかね、ピクシーって言うんだってー」

ワイワイ

「トリックオアトリート!お菓子くれてもイタズラするよ~♪」

「えぇ?あげてもあげなくてもイタズラ!?」

男「……」

男子生徒A「女子は張り切ってんなー」

男子生徒B「な。別にバレンタインデーでもないってのに……って、うわ」

男「……」ドッサリ

男子生徒B「男、お前すごい量のお菓子だな…」

男「おう、そりゃあな。今日の俺は菓子の親善大使だから」

男子生徒A「マジ?じゃあ俺も貰っていい?」

男「いいけど、ちゃんと言えよ?」

男子生徒A「分かってるってー」

男子生徒B「あ、じゃあ俺も」

男子生徒A・B「「トリックオアトリート」」

男「うむ。なら君らにはこれをやろう」スッ

男子生徒A「サンキュー!」

男子生徒B「昼ん時に食おっかな~」


男(10月31日。今日はハロウィンの日)

男(世間でもハロウィンムードが漂う中、うちの学校ではハロウィン祭なる行事が行われる。生徒、教師全員が好きな仮装をしてお菓子を受け渡すというイベントだ)

男(それだけなんだけど、当日は仮装のまま授業を受けていいし、また別の意味でも盛り上がる)

「ね、ねぇ、トリックオアトリート…!」

「俺!?これしか持ってないけど…」

「…半分こしてよ」

男(こういうイベントに託けて恋を発展させようという輩が絶対に一定数いるからだ。さっき言ってたバレンタインデー云々も強ち間違いじゃないのかもしれない)

男(…かく言う俺も、その一人だしな)

女友「女似合ってるじゃん!」

女「そう?えへへ」

女「小悪魔の衣装。小道具もあるんだって」

女友「でっかいフォーク!今日それでお昼食べてみてよ」アハハ

女「えー?女友ちゃんの貰っちゃうよ?」

女「ということで、トリックオアトリート♪」

女友「あざとかわいい」


男(…女さん)

男(進級して同じクラスになってから、ずっと片想い中の人。最初は物静かなその笑顔がなんとなく気になるだけだったのに、いつの間にか女さんをしょっちゅう目で追うようになってた)

男(体があんまり強くないみたいで、時々学校を休むんだけど……それすらなんか、保護欲を掻き立てられるというか……守りたくなるんだよね)

男(つか、その小悪魔仮装、反則的です)

教師「ほら、もう授業の時間だぞー」ガラッ

「「「先生、トリックオアトリート!」」」

教師「分かった分かった、全員の分ちゃんと配るから席に着いとけ」

男(今日はこれを、女さんに渡す)



(星印の付いた菓子袋)



男(それでこれをきっかけに仲良くなってやるんだ!)

男(大丈夫、今日の俺は他の奴らにせがまれても平気なようにカモフラージュ用のお菓子を目一杯用意してある!あとは女さんにトリックオアトリートと言われるのを待つだけ…!)

男(このハロウィン祭で、俺は変わる!)




ーーーーーーー

「お疲れ~。じゃ、私部活だから」

「うん、またね」

男「………」

男子生徒A「じゃあなー男!その内ジュースかなんかでお返ししてやっから!」

男子生徒B「ごちそうさん!」

男「あぁ、うん」

男子生徒A「ていうか今日部活出来んのかね?」

男子生徒B「片付けだけで終わりそうだよなー」



テクテクテク...



男「……」

男(…そんな…)

男(もう放課後なのに……)

男(カモフラ用のお菓子はクラスのほぼ全員と、あいつら二人にほとんどあげたからなんだかんだ捌けた)

男(…けど……肝心のこれが……)

(星印の付いた菓子袋)

男(渡せてない…)


女「……」

男「…!」

男(女さん…俺の方を見てる…?)

男(もしかして…!)

女友「女ー?何してるの、早く行くよー」

女「うん。ごめんね」

男(あ…行っちゃう…)

女友「ボーッとしてた?体調悪くなってない?」

女「何でもないよ。平気」

男(こうなったら俺からでも声をかけなくちゃ…)

男(俺から……声を…!)



――ガララ バタン



男「」ポツン

男「……くそぅ……」




ーーーーーーー

カー、カー

男「!」ハッ

男「え、夕方!?」

男「もう5時……そんなに経ってたのか……」

男「……はぁ……」

男(結局、渡すどころか会話すら出来なかった)

男(気付いたらこんな時間だし、どんだけショックだったんだよ、俺…)

男「……帰るか」スクッ

テクテク

ガラッ

男(明日渡そうかなぁ……いや、一日遅れで渡されたところで微妙な空気になるだけ…?)





少女「わわっ!」タッタッタッ





男「!?」

男(ぶつかる!?)

少女「~~!」グググッ

少女「せ、セーフ…」

少女「ごめんなさい…!」

男「びっくりしたー…」

少女「え!」

男「ん?」

少女「…あ!」

少女「とりっくおあとりーと!お菓子をくれませんかっ」

男「……?」

男「えー、君はだれだい?」



.........




ーーー教室ーーー

男「へぇー。それで、お姉さんの部活が終わるのを待ってたんだ」

少女「そうなんです。でもなかなか終わらなくて、暇だったのでつい…」

男「学校の探検をしていた、と」

少女「えへへ」プラプラ

男(ちょうど女さんの席に座って足を泳がせてるこの子は、小学校の帰りに姉を迎えに来たところらしい)

男(学校帰りにしてはランドセルとか持ってないけど、どっかに置いてるのかな)

男「でも、学校の中とはいえ一人で歩き回るのは危険だよ。もう暗くなるのも早いんだしさ」

少女「そう、ですよね」

男「お姉さんの部活は何部?そこの顧問の先生に言えば見学しながら待たせてくれるかもしれないよ」

少女「…えーと…」

男「?」

男(あぁ、まだ小学生だから部活の種類なんて訊かれてもあんまり分からないのか)

男「陸上部とか?ほらあそこ、校庭で走ってる人達」

男「今見えるのは男子だけだから、女子はもしかしたら第二校庭の方かもだけど」

男(この時間まで残ってるのって活動的な運動部くらいだしな)


少女「…そ、そうです。はい」

男「そっか。なら連れてってあげるよ」

少女「……」

男「そこの校庭には顧問居なさそうだな…」

男「まずは職員室に行ってみようか」

少女「あのっ!」

少女「…姉からは、部活が終わり次第連絡をくれることになってるんです」

男「そうなんだ?」

少女「はい。ですからその…」

少女「それまで、この学校の案内をしてもらえませんか?」

男「え、案内?」

少女「ダメですか…?」

男「ダメというか……」

男(本当は先生の居る場所で大人しくしてもらってた方がいいんだろうけど…)

少女「……」

男(ここまで必死な目をされちゃあ……そんなに高校が見てみたいのかね)

男「分かった、いいよ」

少女「やたっ!」

男「ただし、はしゃぎ過ぎて危ないと思ったらすぐおしまいにするからね」

少女「ありがとうございます!えへへ」

男「聞いてる?」


少女「ねぇねぇ、ところでここって教室ですよね!」

男「そ。お兄さん達はいつもここで難しーい勉強をしてるんだ」

少女「」テッテッテッ

少女「これが黒板…大きい…!」

男(言ったそばからこのはしゃぎよう。こりゃちょっとでも目離したらいけないやつだ)

男(こんなこと、普段なら面倒にしか思わないもんだけど……今日はいいや)

男(気も紛れてくれそうだしな、はは)

少女「どんなお勉強してるんですか?」ワクワク

男「お、見たい?」

少女「はい!」

男「例えばこんなの」

(数学の教科書)

少女「!!」

男「……」ペラペラ

少女「……?」

男「……」ペラ..ペラ..

少女「??」

少女「…お勉強って、暗号なんですね…」

男「ははっ、まぁそうなるよね。大丈夫大丈夫、みんな最初はそうだから」

男「国語とか社会はこんな風に、現代文、地理歴史みたいに細かく分かれていくんだよ」

少女「へー……ん!本当ですね」

男「今小学校でやってる勉強が土台になるんだぞー?」


少女「……」

少女「男さん?」

男「? おう?…あぁ、教科書の」

男(裏に名前書いてあるもんな)

男「そう、俺の名前ね」

男「君は?」

少女「私は……少女、です」

男「少女ちゃんか」

少女「…その、ちゃん付けで呼ばれるの、くすぐったいです」

男「え?」

少女「いつも"少女"って呼んでもらってるので、そっちの方が呼ばれ慣れてて…」

男「じゃあ…少女」

少女「はい♪」

男(おぉ、全然反応が違う。女の子にいきなりちゃん付けってデリカシーないんかな?)

少女「ね、男さん早く行きましょう?学校ってもっともっと色んなお部屋があるんですよね!」

男「ちょちょ、待って!また走ったらぶつかっちゃうって!」

男(なんか、小学校に入りたての子供でも見てる気分だ)クスッ




ーーー化学実験室ーーー

少女「男さん、ここは?」

男「あれ、読んでごらん」

少女「んーと…かがく、じっけんしつ」

男「大正解。小学校で言う、理科室みたいなところだね」

少女「かがく…ってことは、あのペットボトルロケットとかやるんですか!」

男「それとはまた違うんだ。よく見て、漢字が違う。ばけがくなんだよ」

少女「ばけ…」

男「薬品混ぜたり試験管で熱したり。よくみんなのイメージで真っ先に出てくる、ザ・実験みたいなことをしてる」

少女「博士みたいになるんですか?」

男「博士?」

少女「失敗して、爆発したら、頭がもじゃもじゃに…」

男「あっはは!それは漫画の見過ぎ!」

男「実際そんなことが起きたら割とシャレにならない一大事だよ。学校の先生も薬品はまだ触らせてくれないっしょ?危険だからって」

少女「ほー…」


少女「…気になってたんですけど、これ、水道…で合ってます?」

男「合ってるよ。ここに薬品流すわけじゃないけども」

少女「この水道たち、どうしてホースみたいなものが付けられてるんでしょうか…?」

男「ん?」

男(…確かに。実験室の水道には何故か短いホースが付いてる)

男(その理由は)

男「…何でだろう。使い終わった器具が洗い易いように?」

少女「ホースじゃないと洗えないものがあるんですね?」

男「…いや、ないかなぁ」

男・少女「「うーん…」」

少女「! 分かりました!」

男「本当!」

少女「きっとお水遊びが出来るようにですよ!」

少女「ホースの先を横にして、発射!ビャーって!」

男「…少女、それ学校でやらないようにな…?」




ーーー家庭科室ーーー

少女「ここ知ってます、家庭科室ってとこですよね」

男「調理実習でくらいにしか使わないんだけどね。高校になるとほとんど縁のない場所だよ」

少女「けど、少し散らかってますよ。誰か使ってたんじゃないですか?」

男「あー」

男「ハロウィン用のお菓子、ここで作りたいって人が昨日の放課後作ってった跡っぽい」

少女「お菓子…!」

男「お姉さんから聞いてるかもだけど、うちは10月31日にハロウィン祭っていうのをやっててさ。この日だけは仮装したりお菓子をあげ合ったりしていい日なんだ」

少女「素敵な日があるんですね」

テクテク

男「少女?」

男(テーブルの前に立って何を…?)

少女「昨日、ここでたくさんの人たちが一緒にお菓子作りをしてたんだ」

少女「お友達どうし、好きな人どうし、同じクラスの人どうし」

少女「とっても楽しそう…」

男「……」


男「少女も頑張ってここに入学すれば、同じことが出来るよ」

男「あぁいやそんなことしなくても、家に友達呼んで一緒にやればいい話か」ハハ

少女「なら…私はお鍋を見てる係をやりますね。お料理したことないですけど、それくらいは出来るはず」

少女「グツグツ、グツグツ、ゴポゴポ…ドッカーン」

少女「って」

男「最後のは明らかに失敗してるよね」

少女「男さんもお菓子作ったりしたんですか?」

男「俺は買ったよ。作れるほど器用でもないからさ」

少女「…ドッカーン?」

男「爆発はしません」

男(そういえばこの子と出会った時、トリックオアトリートって言われたけどまだ何も渡してないな)

男(でも今持ってるのは女さんへの特別製だし…)

少女「見て見て男さん!型抜きがあります!」

少女「ハート型にお星様に…!いいなー私もペタペタやってみたいなー」

男「…はは、お姉さんに頼めばさせてもらえるかもね」




ーーー音楽室ーーー

少女「ここは…他のお部屋と雰囲気が違いますね」

男「まぁね~。音楽室って基本、席に着いたまま授業することの方が珍しいし、あとはこっちを見下ろす偉人達のせいのあるかも」

少女「? わ、本当だ!」

少女「べーとーべんに…あの人がもーつぁると、かな?」

男「そうそう。左端の人は知ってる?」

少女「眉毛が太い人ですね……んー、分かんないです」

男「ハチャトゥリアン」

少女「え?」

男「ハチャトゥリアン」

少女「……クスッ。なんか、面白いですね」

男「な」ククッ

少女「…わ、笑ったら睨まれちゃうかな…?」

男「どした?」

少女「音楽のお部屋にはよくその学校の七不思議があるみたいなお話を耳にするので…」

男「七不思議かー。うちはそういうの聞いたことないな」

男「あ」

少女「!…?」

男「いや、今思い出したんだけどね、ちょうどこんな感じに日が沈んだ後、音楽室の前を通ったっていう女子が誰も居ないはずの音楽室からピアノの音を聞いたらしくて…」

少女「え、え」

男「思い切って中を開けて確かめてみたら」

少女「や、やめましょ…男さん…?」

男「なんとそこには」

少女「」ギュッ(目を瞑る)


男「切り忘れた音楽CDの音があそこのラジカセから流れてたんだってさ」

少女「………」

男「なんて、よくあるオチ。世の中そうそう奇妙なことなんか――」

少女「うー…」ナミダメ

男「あ……ごめんなさい」

少女「怖いのは、やです…」

男「悪かったよ、もう脅かしたりしないから」

少女「……」

男「えー、少女さん?」

少女「……」

男(まさかここまで怖がるとは。やっちゃったかな…)

少女「……てください」

男「! ごめん、何?」

少女「ピアノ、弾いてください」

男「ピアノですか」

男「猫踏んじゃったくらいしか弾けないよ…?」

少女「何でもいいんです」

少女「私ピアノ弾けませんし、演奏してる人直接見たことがなくって……だから弾いてるとこ、見せてください」

少女「そしたら許してあげます」


男「……」スッ

パサッ(布をとる)

男「よし」

男(先生に見つかりませんように)

男「それでは、ご静聴ください」



~~♪



_~♪

男(やべ、音外した)

~_♪

男(また)グヌヌ

男(…だけど)

少女「♪」

男(すっごい上機嫌)

男(猫踏んじゃったでここまでノってくれる人、初めて見た)

男(……♪)



~~♪




ーーー放送室前ーーー

男「……」ガチャガチャ

男「ま、そうだよな」

少女「どうしたんですか?」

男「見ての通りここは鍵が掛かってるから入れない」

少女「!? そんな!」

少女「放送室……チャイムにお昼の放送に……流してるお部屋見てみたかったなぁー…」

少女「…男さん、鍵持ってこれません?」

男「いや無理無理!先生が許してくれないよ。絶対理由訊かれるから」

少女「ちょっとでいいんです!」

男「難しいと思うけど…」

少女「……」ジー

男「そんな顔されても厳しいものは厳しくてですね…」メソラシ

少女「…そうですよね。わがまま言ってごめんなさい…」

男「……」

男(用もないのに放送室の鍵なんか借りられるわけがない。この子が見学したいんですって言えば出来なくはないかもしれないけど、赤の他人の付き添いで時間も時間だしなぁ)

男(そういや、お姉さんの部活はまだ終わらないんだろうか)

少女「……」

男(……んー)

男(素直に喜んでる姿ばっか見てきたからかな、この子が落ち込んでると落差がすごい)

男(気落ちしたまま帰って欲しくはないな…)

男(………!)

男「そうだ、いいところがあるよ」

少女「はい…?」




ーーー視聴覚室ーーー

少女「く、暗いですね…」

男「ちょい待って。今電気つけるから」

少女「! 離れないでくださいよ…!?」

男「大丈夫だよすぐそこだから」

カチ、カチ

少女「ん、まぶし…」

少女「……わぁ…!」



(多種多様な仮装用衣装)



少女「すごいですね!お洋服室ですかっ?」

男「視聴覚室って言うんだ」

少女「しかく、ちょう?」

男「はは。しちょうかく、ね」

男「いつもはぶっちゃけ、何のためにあるのかよく分からない教室なんだよね。集会したり交通安全のビデオ見せられたり」

男「でも今日だけは違うんだ」

男「ハロウィン祭をやってたって言ったでしょ?ここは女子が着替えて仮装するための更衣室として使われててさ」

男「当日持ち帰らなくていいからって、衣装だけはこうやって放置されっぱなしになってんだよね」

男「ちなみに男子はそれぞれの教室で着替えます」

少女「わー…あれキラキラしてる…」

男(聞いちゃいないか)


男(あんなに目輝かせて、連れてきて正解だったかな。元気が戻ってくれてよかった)

男「せっかくだし、ちょっと着てみる?」

少女「えぇ!?」

男「多分ぶかぶかだろうし、服の上から羽織るくらいなら問題ないよ」

少女「で、でも…そんな勝手に…」

男「かわいい服、嫌い?」

少女「……」ウズウズ

少女「じ、じゃあ、あっちのキラキラした……っ!」

少女「……やっぱり、いいです」

男「? そう…?」

少女「………」

男「………」

男(あれ…また落ち込ませちゃった。なにか気に障ることでも言っちゃったか…)

男(女の子の心って難しい…)


少女「…男さんも着たんですよね」

男「ん…?あ、仮装。もちろんしたよ」

少女「どんなお洋服だったんです?」

男「邪悪な魔法使いってコンセプトのやつ。黒いマントにくたびれた黒帽子!」

少女「くたびれた…?」キョトン

男「先がとんがったこういう形の帽子でね、この先っぽの部分がへにゃってんだよ」

少女「! なるほど」

少女「」キョロキョロ

少女「ここには置いてないんですね」

男「さすがに女子の着替えに混ぜる勇気は無いよ」アハハ...

少女「…見たいな…」

少女「……」チラリ

少女「男さん」

男「着ません」

少女「むぐ…まだ何も言ってないのに」

男「ここにある衣装を着たら俺はめでたく変態さんの仲間入りですー」


少女「じゃあじゃあ!」

少女「この中で好きなお洋服は?」

男(まぁ、それくらいなら)

男「そうだなぁ…」



ーーーーー

女「ということで、トリックオアトリート♪」

ーーーーー



男「…小悪魔とか」

少女「小悪魔……それはどういう…?」

男「! そ、そのうち分かるよ」

少女「……」

少女「それって、私が着ても似合うと思いますか?」

男「少女が?」

男(小学校の劇かなんかで着てる姿なら、簡単に想像出来るなー)

男「似合うんじゃないかな。可愛らしくて」

少女「…そうですか」

少女「…えへへ」

男(なんだかんだ、機嫌は直ってくれたみたいだ)

男(初対面の俺に対してあまりにも打ち解け過ぎなんじゃないかって思うことがあるけど、人見知りのしない子ってこんなものなんかね)

男(あと今気付いたけど、この子、どっかで見た覚えがあるような…?)




一旦ここまでとなります。

次回の投稿で完結する予定です。
10月31日が期限なので、それまでには。

ーーーーーーー

男「――だから、最終的にその時は全員で補習を受けることになっちゃってさ、1クラスだけ7時間目をやってたのよ」テクテク

少女「えぇ?みんなで受ければすごく面白そうじゃないですか」テクテク

男「まさか!あんなにピリピリした教室は初めてだったよ。補習担当の先生でさえ気を使って授業してたみたいでさ」

少女「それはそれで見てみたい気もしますね」フフッ

男(こうして話してみるとよく分かるが、この子聞き上手なんだよな)

男(リアクションとか表情なんかは基本年相応に子供なのに、所々妙に対応が大人びてる時がある)

男(それにこの子の笑った顔を見てると、やっぱり既視感があって……何だろうこれ)

少女「――男さん?」

男「! はいはい」

少女「私たち次はどこに向かってるんですか?」

男「次ねぇ……どこがいい?」

少女「どこでも!男さんの連れてってくれるところなら全部楽しいので!」

男(どこでもって、地味に一番困る返答だったりする)

男「そうだなー、ここから近い場所といったらあとは…」

男「体育館、進路指導室、保健室、職員室……はあれか、少女が見つかったらちょっと大変だな」




古文教師「おい、何やってるんだ?」



男「っ!」

古文教師「こんな時間まで居残りか?部活ではないよな、男は帰宅部だもんな」

男(マジかよ……よりにもよって古文教師に見つかるなんて。眠くなる授業してくるくせに何かと口うるさいんだよこの人)

男(どうする…?)

古文教師「たまに居るんだ、ハロウィン祭の日にわざわざ遅くまで残りおかしな真似を――」

男「友達を待ってるんです」

古文教師「む?」

男「そいつ、陸上部なんですけど今日もなかなか終わらないんで暇だったんすよ」

古文教師「あー…まあな、さっき見かけたがまだやっていたからな」

男(一応嘘はついてない……よな?)

男(あとは後ろの少女をどう説明するか)

男(いっそ正直に言った方がかえって拗れずに済むか…)

古文教師「陸上部も今は終わってるかもしれん。どっちにしろあまり遅くまで残るなよ」

男「あ、はい」

カツカツカツ...


男(…あれ。何も訊かれなかった)

男「…?」

男(少女が居ない…!?)

少女「男さーん、こっちですよー」

男「!」

(物陰に隠れる少女)

男「いつの間に」

少女「向こうから誰か来るのが見えたので。隠れない方がよかったですか…?」

男「……」

男「いいや、ナイス機転」

少女「えへ」

少女「なんか、こうしてると悪いことでもしてるみたいです…ふふ」

男「確かに。本当に人を待ってるだけなのにね」

男(にしても、単に物陰に移動しただけでよく見つからなかったよ)

男(先生反対側に歩いていったし、その時に振り向かれでもしたらあっさりバレてたもんな…)


男(…しかし)

男「……」チラッ



(すっかり暗くなった窓の外)



少女「…!」

男(先生の言ってた通り、さすがにもう)

少女「男さん!」

男「」ビクッ

少女「私……えと……」

少女「広い場所、行ってみたいですっ!」

男「ひ、広い場所」

少女「はい」ジッ

男「…広いと言ったら…」



........




ーーー体育館ーーー

少女「ふあー…」

少女「高ーい…!」

男「電気がついててよかったよ。今からつけるわけにもいかないからね」

男(だからてっきり誰かしら居るもんだと思ってたけど、誰も居なかった。消し忘れ?)

少女「あ、あそこ!」

男「んー?」

男「あぁ、はは、ボールが引っかかっちゃったやつだ。ああいうのってさ、どうやって取ればいいんだろうね?」

少女「どうしたらあんな高い場所にいくんでしょう…」

男「あれバレーのボールだから、多分思いっきりトス上げた時かなー」

少女「バレー…」

少女「他には、ここでは何をするんですか?」

男「ん?体育館なら少女の学校にもあるでしょ?同じようなことばっかりだよ」

少女「…ここのことが知りたいんですー」

男「バスケとかバレーとか…室内の競技としか言えないけどなぁ」

男「でも大縄なんかはやらないなぁ」


少女「もしかして、そういう運動もハロウィンのお洋服着ながらしなくちゃいけないんですか…?」

男「ううん。仮装は強制じゃないからハロウィン祭の間はいつ着ても脱いでも構わないんだ」

男「あ、でも去年のハロウィン祭は、マラソン大会に向けての練習で、雨でこの体育館の中を走ることになったんだけどさ」

男「でっかいカボチャの仮装して走ったやつが居てな?案の定派手に転んだと思ったらゴロゴロゴロゴロ転がってってみんな大爆笑、なんてことがあったよ」

男「もうアニメのワンシーンそのものでさ」ハハッ

少女「えー!なんですかそれ!絶対面白いじゃないですか!」

少女「ビデオとか残ってないんですかっ?」

男(ビデオ?)

男「授業中だからね~。録画してる人はさすがに」

少女「残念です…」

少女「…! 分かりました!」

男「?」

少女「この地面の線に沿って走ったんですね?何かのお絵描きかなって思ってましたけど…ぐるーっと一周してますもんね」

男「そうそう。確か一周150メートルくらいだったはず」

少女「やっぱり!」

少女「よいしょ…こうかな」

男(歩く人のパントマイム?)

少女「よーいドン、て言ってくれませんか?」

男(あぁそういうこと)

男「…よーい、ドン」

少女「」バッ

タッタッタッ


男(そうして少女は走り出した。トラックに沿って一周するつもりだろう)

男(…案外速くない。というかぎこちない?)

少女「はっ、はっ…♪」

男(でも楽しそうに走るなぁ)

男「……!」

ゴソゴソ

スマホ『19:10』

男(危ない危ない、忘れるところだった)

タッタッ...

少女「ふぅ、ふぅ…」

少女「結構、長いん、ですね」ハァ、ハァ

少女「ね、次は男さんも一緒に走りましょう!」

男「いいね~。かけっこなら負けないよ?」

男「と言いたいとこだけど、また今度」

男「もうお姉さんから連絡は来た?」

少女「あ…えっと……まだです」

男「うーん、帰りのミーティング中だったりするのかな…」

男「さっきの先生も言ってたけど多分そろそろ陸上部も終わる頃だと思うんだよ。他の部活の人はとっくに帰ってるみたいだし、時間も遅いからさ、お姉さんのところで待ってようか」

男「お姉さん、なんて名前?」

少女「……」


男「? 少女?」

少女「…もうちょっと、かかりそうです」

男「え?お姉さんがそう言って――」

少女「こ、この壁に付いてるのは何に使うものなんですかっ?」

男「それはジャンプ力を測る……ってそうじゃなくて」

少女「ジャンプ力ってことは、こうですよねっ」ピョン

少女「こうやって」ピョン

少女「高いとこにタッチして…!」ピョンッ

男「少女、話を――」

少女「あっ…!」ヨロ...

男「! 危ない!」バッ



――スルリ



男(!?)

ドテッ


少女「~~……いたぁい……」

男「……」

男(今……すり抜けたよな…?)

男(俺の伸ばした手が、少女の体を素通りした……)

男「……なぁ……今の……」

少女「………」

少女「…ごめん、なさい」

少女「私、嘘ついてたんです…」

男「嘘……?」

少女「………」ウツムキ




ーーー教室ーーー

少女「………」

男「………」

男(ひとまず、教室に戻ってきた)

男(窓から見える校庭にはもう誰も居ない。というか校内には俺たち以外残ってないんじゃないかと思えるほど静かで、そして)

少女「………」

男(ずっと黙ったまま…)

男「……」

男(…冷静に考えれば、人の体がすり抜けるなんてあるはずない。さっきのは気のせいか何かに決まってる)

男(もう一回ここで、この子の肩に手を置いてみれば分かる)

男(……分かることなんだけど……)

少女「……私」

男「!」

少女「学校って、行ったことないんです」

男「……え」

少女「だから一度、学校をちゃんと見てみたくて、男さんに案内してもらったんです」

少女「学校の帰りなんて嘘でしたし、姉もいません…」

男「ち、ちょっと待って!どういうこと…?」

少女「……」


少女「私は…ちっちゃい頃から体が弱くて、ずっと病院の中で過ごしてきました」

少女「お医者さんは優しい人で、お父さんもお母さんも毎日のように会いに来てくれて、寂しく感じたことはほとんどありませんでした」

少女「ただ……私くらいの子って、みんな学校に通うものなんですよね?」

少女「学校のお話聞いたりご本読んだりしてるうちにどんどんどんどん気になってきちゃって…」

少女「お母さんたちに学校に行きたいって言ったことがあったんですけど、元気になったら絶対行こうね、としか言ってもらえなかったんです」

男「……」

男(そっか。これまで感じた違和感の正体はこれか)

男(どこを案内しても目を輝かせてたのは、高校が目新しいんじゃなく学校そのものに初めて来たからで、少し大人びて見えるのは、病院で同い年の子とじゃなく大人の人とばかり話をしていたからなんだろう)

男「…それで、今日は一人でここへ?」

少女「いえ…それが、目を覚ましたらこの学校の、ベッドの上だったんです」

少女「ここまで来た覚えとか全然なくって…」チラッ

男「…?」

少女「…壁や床には触れるんですよ。だけど…」

少女「男さん、教科書見せてくれませんか」

男「ん?うん…」スッ

少女「……」ソー




スル...



男「あ…」

少女「…物や人には触れないみたいなんです」

少女「それどころかみんな、私が話しかけても聞こえない、姿も見えてないみたいで」

少女「知らない場所で一人きり、もう誰にも見つけてもらえないんじゃないかって思うと……怖くなっちゃって……とにかく走ってたら……」

男「俺にぶつかりそうになった、ってわけか」

少女「……」コク

少女「私が見える人に会えてすごく安心しました。お話しているだけで嬉しくなったの、久しぶりでしたよ」フフッ

少女「……本当は、今日手術を受ける予定だったんです」

男「…!」

少女「成功したら他の子たちみたいに学校に行けるようになるかもしれない。けれど、失敗したらもっと悪くなるかもって言われました」

少女「もちろん私はやりたいって言いましたよ。お母さんたちは心配してくれましたけどね」

少女「だって仕方ないじゃないですか。私も学校に行ってみたかったんです」

少女「朝起きてご飯を食べてお着替えして、登校して授業を受けて給食食べて…。お友達もいっぱい作りたいしたくさん遊んでみたいよ……お泊まりとかもさ……」

少女「…でも、起きたらこんなお化けみたいになってたってことは…」

少女「手術、失敗しちゃったのかもしれませんね…」

男「……」

少女「……」


男(…こんな)

男(こんなことが現実に起こり得るのか…?けど実際目の前で起きてる…)

男(幽霊……本当にあった怖い話……)

少女「今日は、本当にありがとうございました、男さん」

少女「私は多分、どうしても学校に通いたいって思い過ぎてこうして出てきちゃったんだと思います」

少女「もう男さんのおかげで未練はなくなりました」ニコ

男「……」

男(未練がなくなった人が、こんな悲しそうに笑うかよ)

男「…まだ、分かんないよ」

少女「え…?」

男「生霊って知ってる?生きてる人でも霊として出てこれちゃうみたいな、そんな感じの」

男「君は手術中の少女の生霊なんだ。大規模な手術は10時間とか平気でかかったりするらしいからね、君は今も頑張ってるんだよ」

男「大丈夫、手術はきっと成功する」

少女「……そう、かな……」

男「うん」

男「そうだ、これ」

ガサゴソ



(星印の付いた菓子袋)



少女「これ…お菓子…?」

男「あげる。トリックオアトリートって言ってくれたのに、何も渡してなかったからさ」

男「手出して」

少女「でも…」

男「いいから」

少女「……」オソルオソル



...チョコン



少女「!」

少女(触れた……!)

少女「……♪」ギュ

男(本当は女さんにあげたかったけど、この子を少しでも元気付けられたなら、勿体なくなんかないよな)

少女「えへへ…ありがと」

男「どういたしまして」


少女「…ハロウィンは魔法の日なんですね」

少女「こんな不思議なことが起こって、何より"とりっくおあとりーと"って言うだけでみんなからお菓子がもらえちゃう」

少女「男さんに会ったときはついとっさに、口から出ちゃったんですよね」エヘ

男「よっぽどお菓子好きなんだ?」

少女「好きです。チョコもアメもクッキーも」

少女「男さんは何が好きですか?」

男「グミとかラムネかな~。かむかむシリーズは特に」

少女「分かります!おいしいです!でも体に悪いからってあまり買ってもらえないんです…」

少女「怒られちゃうし…」ボソッ

男「…さては隠れて食べて、ご飯が食べられなくなったことがあるね?」

少女「う……え、えすぱーですか…?」

男「俺も何っ回もあるから」

男・少女「「……」」

少女「ふふっ」

男「ははっ」


男(結局この子がなんなのかはよく分からない)

男(生霊なのかはたまた本物の幽霊や怪奇現象の類か…)

男(…んなこと、どうだっていいんだ)

男(女の子はやっぱり、明るく笑っててくれないと)

少女「ねぇ男さん」

男「うん?」

少女「今日学校を見てまわって、改めて感じたんです」

少女「学校って、とっても楽しいんだろうなって」

少女「…未練がなくなったなんて嘘です。ますます学校が楽しみになっちゃいました」

男「……」

少女「もし手術が成功したら、私もここに通いますね」

少女「男さんの居るこの学校に」

少女「そしたら……そしたら、待っていてくれますか?」

少女「私と一緒に……学校生活送ってくれますか…?」

男「…それは」

男(――無理だ)

男(少女が回復して、本当にここに入学出来たとしても、その頃には俺はもう…)

男(いや、多分この子もそんなことは分かってる)


男「…あぁ、待ってる」

男「だから少女も、ちゃんと元気になって戻ってくるんだぞ」

少女「! はいっ。約束ですよっ…!」

少女「私、今日のこと忘れません。このお菓子もずっとずっと大切にします」

男(お菓子は食べてもらうためにあると思うよ)

男(とは言わない)

少女「……あの、男さん」

少女「頭…なでてくれませんか…?」

男「頭を?」

少女「そしたら、もっと頑張れると思うんです」

男「いいけど、直接触るのって…」

少女「今なら…大丈夫だと思います」

男「……」

少女「……」

男「……」ソー...




――フッ



男(!)

男「……消えた……」



(男以外誰も居ない教室)



男(………)

男(……夢?)

男「……」

男(…いや、あの菓子袋がない)

男「………」

男「………」

男「………」

古文教師「なんだやはり男か!」

男「!?」

古文教師「電気がついてると思って来てみれば…何時だと思ってる!陸上部もとっくに帰ってるぞ!」

男「は、はい!すいませんすぐ帰ります!」



ガタッ タッタッタッ...



古文教師「まったくあいつは…」

古文教師「話し声が聞こえた気がしたが……電話でもしてたのか?」




ーーー翌日 学校ーーー

男「……」ボー

「ねー見て!?私の衣装ここが破けちゃってる!」

「昨日あんだけ動き回ってたらそりゃあね…」

ザワザワ

男「……」ボー

男子生徒A「よ、男。昨日のお菓子、どんくらい余ったよ?3分の1くらい?」

男子生徒B「半分は残ってるとみた」

男子生徒A「つーことで賭けしてんだ。遠かった方が男へのお返しを倍にする」

男「…もう残ってないぞ」

男子生徒B「なぬ」

男「全部配りきったからな」

男子生徒A「マジかよすげーな…」

男子生徒A「…ま、まあお前の方が遠いから倍返しはBってことで」

男子生徒B「えぇ?この場合無効でもいいだろ。なぁ男」

男「…そうだな…」

男子生徒A「どうしたよ。なんか元気ない?」

男「……」

男「少女って女の子知ってるか?」

男子生徒A「少女?」

男子生徒B「いや知らんけど…誰?」

男「そうだよな……何でもない」

男子生徒A・B「「?」」


男(……)

男(少女…)

男(誰に訊いても全員、口を揃えて知らないと言う)

男(あれは本当に、幻覚とかじゃないんだよな…?)

男「……」

男(…手術は、成功したんだろうか…)

男「……」

男(どうか元気になってくれますように)



...テクテク



女「……」

男「んっ!?」

男(女さんだ…!)

男「ど、どうしたの女さん」

女「……ふふ」

男(笑ってる…何だろう…?)

男(! まさか、昨日女さんにだけお菓子を渡せなかったからそのことで何か…!?)

女「もう…待ちわびたんだからね」

男「え?な、なにを?」

女「これ」



(星印の付いた、よれた菓子袋)



男「……あっ!」

男(嘘だろ?これ……昨日の……?)

女「ね」

女「ちょっとお話しよ」




ーーー屋上前 階段踊り場ーーー

女「んー…」サスサス

女「11月になると、さすがにもう寒くなってくるね」

男「……女さん、その袋って」

女「うん。昨日男くんからもらったやつだよ」

男「…? でも俺、女さんには何も…」

女「あれ?まだ気付いてない?」

女「あんなに熱心に学校の案内をしてくれたじゃない」

女「私ですよ、男さん」ニコ

男「……!」

男「少女!?」

女「懐かしいなーそれ。その日しか呼ばれたことない名前」

男「え…?ん…?」

女「偽名だったってことだよ。少女は小さい時の私」

女「ほら、漢字を一つ付けただけ」


女「あのあとね、病院の中で目が覚めたの」

女「手術は成功だよって、お医者さんが言ってくれて、すぐ横にはこれが置いてあった」

女「私を励ましてくれた人からもらったお菓子…」

女「…えへへ」

男(!)



ーーーーー

少女「えへへ」

ーーーーー



男(昨日のあの既視感……少女の笑ってる顔は女さんのそれに似ていたんだ)

男「なんか…すんなりとは信じられない話だけど…」

男「そのお菓子もそうだし、昨日あったことも覚えてるんだよね…?」

女「うん。忘れないって言ったもの。細かく話してあげよっか」

男「いや…いいよ」

男「じゃあさ、女さんはもしかしてずっと…俺のことを知ってたの?」

女「当然」

女「ずっと待ってたの。昨日のハロウィン祭の日を」

女「本当はまた男くんからお菓子もらいたかったんだけどね、私がもらっちゃうと"私"がもらえないから」


男「……」

女「……」

男「世にも奇妙過ぎるな」ハハッ

女「世にも奇妙過ぎるよね」フフッ

男「なんだー、予め説明してくれれば信じたかもしれないのにー」

女「嘘だよー。私が同じ立場だったら絶対信じられないもん」

男「分かんないよ?女さんの言うことならあるいは――」

女「それ」

男「え?」

女「女さんっていうの。他人行儀な感じがする」

男「うーん…女ちゃん?」

男「! ごめん、ちゃん付けは嫌いなんだったっけ」

女「もういいよ。あの頃はね、病院の人たちみんな私を女ちゃんって呼ぶから、ちゃんを付けて呼ばれると病院に居るみたいで好きじゃなかったんだ」

女「もう平気」

女「でも、呼び捨ての方が嬉しいかなぁ…あの時みたいに」

男「女」

男「…ちゃん」

男「……呼び捨てはもうちょっと待ってください……」

女「ふふっ」


女「男くん。私ね、心残りが一個だけあるの」

男「心残り?」

女「頭、撫でてもらってない」

男「あ…その前に消えちゃったもんね」

女「……」ジー

男「…今ここで?」

女「うん」

男「……」

女「……」

ソー...



ポム



男「……」ナデナデ

女「…♪」

男(こういう反応は、確かに少女の面影があるなぁ…)


女「やっぱりね、男くんが教えてくれた通り学校はすごく楽しいよ」

女「はしゃぎ過ぎてたまーに体壊しちゃうくらい」

男「そこはほどほどにね」アハハ...

女「…そしてね、あなたと過ごす学校生活は、絶対もっと楽しいんだって思うの」

女「今日までそんなことばっかり考えてきたんだから」

男(…そうか…俺にとってはたった一日でも、女さんにとってはもう何年も……頑張り続けてここまで来たんだ)

女「これからよろしくね」ニコッ

男「…うん」

男(あぁもう、本当にこの人は!)

男(…好きだな)

女友「こんなとこに居た!」

女「女友ちゃん。私を探しにきたの?」

女友「そうだよ。心配したんだから、どっかで倒れてるんじゃないか、って…」

女「ちょっと教室出ただけじゃない。もー、心配性だなー」

女友「…? そっちは、男くん…だよね?」

男「あ、ども」

女友「女、知り合いだったんだ?」

女「んー」






女「私の大切な人」





女「かな♪」

男・女友「「!?」」

女「さ、教室戻ろっか。そろそろチャイム鳴っちゃうよね」

テクテク

女友「……」ボーゼン

女友「! 待って女!大切な人ってどういう――!」スタスタ



スタスタ...



男「……た、大切な…」

男(どういう意味で言ってくれたんだ!?)

男(女さんも俺のことを…)

男(気になる、気になる)

男「……」ドキドキ

男「………」

男(正直、まだ頭がこんがらがりそうだ)

男(昨日の少女が女さんで、俺があげたお菓子をボロボロになるまで持ち続けて…)

男(女さんは一度霊になって未来にタイムスリップして、お菓子と一緒に過去へ戻っていったことになる)

男(…荒唐無稽にもほどがある)

男「……けど」

男(昨日は10月31日。ハロウィンの日)

男(不思議なことが起きても不思議じゃない……日なのか)



ーーーーー

少女「とりっくおあとりーと!お菓子をくれませんかっ」

ーーーーー



男「…ふー、悩むだけ無駄かな」

男(来年はもっともっと、特別なお菓子を用意しよう)

男(彼女がとびきり喜んでくれるように)



キーンコーンカーンコーン



男「あ、やば!」



タッタッタッ...









10月31日。

それは一年に一度、魔訶不可思議な物語と、誰かの幸福を運んでくる、

ハッピーハロウィン。





ー終わりー

以上で完結となります。

ハロウィンって他の諸々のイベントと比べると怪しくて不思議な印象があります。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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