ベルトルト「モテたい」(72)
ベルトルト「モテる要素は十分だと思うんだけどな」
ライナー「そりゃお前コミュ力ないからだろ」
ベルトルト「いや、あるよコミュ力。Q&Aできるし」
ライナー「どうせ答えて終わりなんだろお前。話を広げる努力をしろよ」
ベルトルト「理解できないな。質問に回答すればそれで要件が成立するじゃないか」
ベルトルト「そんな余計なことどうしてする必要があるの?」
ライナー「いや…だからその、な?」
ベルトルト「確かに僕はおとなしいかもしれないけど、長身且つ顔立ちも端正で実力もある」
ベルトルト「普通ならわらわら女が寄ってくると思うんだけどな」
ライナー「そうだな。その通りだろう。おそらくお前は世に言う『イケメン』に該当する素材だ」
ベルトルト「でしょ?」
ライナー「初対面の印象はかなりいいだろうな」
ベルトルト「だよね。じゃあどうしてモテないんだろう」
ライナー「じゃあ例えばの話をしよう。アニがいるだろ?」
ベルトルト「あ、ああ。いるね」
ライナー「アニは鷲鼻で人を選ぶが、全体を見れば結構な美人だろう」
ベルトルト「人類学的に見て美人だと思うけどな」
ライナー「その分だとお前から見ての印象は最高なんだろう。それでお前がアニに歩み寄ったとして」
ベルトルト「うんうん」
ライナー「何もしていないのに気持ち悪い、近付くな、みたいな暴言を発してきたらお前はどうだ?」
ベルトルト「アニはそんなこと言わない」
ライナー「例えが悪かったな。美人が暴言を発してきたらお前はどう思う」
ベルトルト「そりゃ、性格の悪い人だと思うね」
ライナー「そんな人間と付き合いたいと思うか?」
ベルトルト「思わないかな」
ライナー「つまりそういうことだ。必ずしもイケメン美女がモテない理由はそこにある」
ライナー「性格の悪い可能性を踏まえて、見定めた結果、イケそうだったら寄ってくる」
ベルトルト「なるほど。でもその説だと僕はモテているはずじゃないかな」
ライナー「そうだな。イケメンとしての条件は既にクリアしている。ここでさっき言ったコミュ力が絡んでくる」
ライナー「コミュ力というものは結果的に容姿より重視される項目だ」
ライナー「ここ次第ではブサメンフツメンでも女の子と綿密な付き合いができる」
ベルトルト「どうしてイケメンの僕がそんなブサメンフツメンのために設けられたようなハンディキャップを利用しないといけないの?」
ライナー「あのなベルトルト。お前はやたらと現実主義というか形に表れるものを重視したがるけどな」
ライナー「例えばだ、外見の良さに惹かれて付き合いだしたカップルがいたとする」
ベルトルト「例えば?」
ライナー「…仮にベルトルトとレオンハートさんにしようか」
ベルトルト「うんうん!」
ライナー「最初は良いと思う。相手の容姿や上っ面の部分を見ていればいいんだからな。きっと幸せなひと時を送れるはずだ」
ベルトルト「そりゃそうだよ。なにせ僕とアニだし」
ライナー「だがそれはひと時に過ぎない。長く一緒に居れば…例えば同棲なんかを始めるとだな」
ベルトルト「ど、同棲…///」
ライナー「今まで見えていなかった相手の部分が見えるようになる」
ベルトルト「うん?」
ライナー「デートなどの場では当然、どんな人間でも自分を良く見せようとするだろう?」
ライナー「それ故にデートの時に見た相手の姿、人間性に惚れこみ、そのまま結婚までもつれ込むケースも少なくない」
ベルトルト「ほ、ほう」
ライナー「まあ結婚とは言わずとも、起きてから寝るまでの相手の生活を身近に見るようになる」
ライナー「その結果、相手が隠していた素の部分に気付いてしまうんだ」
ベルトルト「あの、ライナー。話がずれていないか? どうしてイケメンの僕がモテないのかという話だろう、これ」
ライナー「ああ、すまん。つまりだな…ただイケメンでも、一緒に居て楽しくなければ意味がないということが言いたかった」
ベルトルト「? 容姿端麗な人間と居れば誰だって楽しいと思うけどな」
ライナー「だからそれは最初の内だけだと言っただろ。容姿に飽きられたらお前には何も残らないと言っている」
ベルトルト「…そういうものなの?」
ライナー「そういうもんだ。今話していても思うが、どうもお前は物事を理屈で考え過ぎている」
ライナー「そこで出てくるのがコミュ力だ」
ベルトルト「ふむ」
ライナー「容姿だけの人間は相手がよほど盲目的なヤンデレでもなければやがて飽きられてしまう」
ライナー「だがコミュ力があれば、ブサメンだとしても話は別だ。一緒に居て楽しいわけだからな」
ベルトルト「顔面奇形どもと一緒にいたらそれだけでストレス溜まりそうだけど」
ライナー「まあ最初はそうだろうな。お前とは逆パターンだ」
ライナー「むしろマイナス印象から入っている分、コミュ力を発揮した時の好感度はお前よりいいだろう」
ベルトルト「でもコミュ力のあるイケメンには敵わないんでしょwww」
ライナー「まあな。とりあえずコミュ力の重要性が伝わっていればそれでいい」
ベルトルト「つまり僕がコミュ力を身に付けさえすれば、他の追随を許さない絶対的な高みに立てるわけだね?」
ライナー「そういうことだな。長くなってしまったが、お前に足りないものがあるとすればそのコミュ力だ」
ライナー「ついでに言うと、その数字を重視する卑屈な感性だな」
ベルトルト「?? どうしてだい? 数字は絶対的な事実を表してるんだし、重視して然るべきだろ」
ライナー「一理アルミン。だが人には目に見えない良さや数値化できない魅力のようなものもある」
ベルトルト「…?」
ライナー「…わからないのか?」
ベルトルト「ああ」
ライナー「…お前、コニーをどう思う?」
ベルトルト「騒がしい奴だと思うよ。奇形レベルのチビの分際でみんなの注目を集めてるし、いけ好かないかな」
ベルトルト「滑稽な容姿をしてるくせにサシャといい感じだし、なんていうか、鼻につくよね」
ライナー「…アルミンは?」
ベルトルト「身の程を弁えてる感じはするよ。奇形チビらしくおとなしくしているし」
ベルトルト「ただインテリぶって女子にアドバイスしたり知識をひけらかしているのは腹が立つかな」
ベルトルト「顔立ちも女みたいで気持ち悪いし」
ライナー「…ジャンは?」
ベルトルト「ジャンか。頭に血が上り易いのが馬鹿っぽくて嫌だね」
ベルトルト「容姿はなかなかだと思うんだけど、勿体ない」
ライナー「……お前は、実に戦士に向いているな」
ベルトルト「そうかな?」
ライナー「ああ、今痛いほど実感してる」
ベルトルト「それはどうも」
ライナー「…」
ベルトルト「また話がずれてるよライナー。数値化できない人の良さって何さ?」
ライナー「コニーは小柄で馬鹿だが、仲間想いで周りを盛り上げることができる」
ライナー「アルミンはおとなしい性格をしているが、度胸があって、周りを励まし導くことができる」
ライナー「ジャンも喧嘩っ早い印象が先行しているが、いざと言う時には仲間を手伝い、リードできる」
ベルトルト「何を言ってるんだいライナー?」
ライナー「そして全員は共通して"いいやつ"だ」
ベルトルト「いいやつって…そんなの主観でしかないだろ。数値化できない事柄は見方によっていくらでも変化する」
ライナー「そうだな…だが、あいつらを嫌っている人間を見たことがあるか、ベルトルト」
ベルトルト「ないけど、本心なんていくらでも隠せるだろ。僕らがみんなを騙してるように」
ライナー「…ベルトルト」
ベルトルト「なに?」
ライナー「昔はそんなんじゃなかったよな、お前」
ベルトルト「は?」
ライナー「そんな人を傷つけるような言葉を吐く奴じゃなかったし、そんなナルシズムの塊でもなかった」
ライナー「むしろお前は、虫も殺せないくらい優しくておとなしい奴だったはずだ」
ベルトルト「何を言っているのかわからないよ、ライナー」
ライナー「なあ…わかるぞ、俺だって壁を壊した。お前と同じように後悔もある」
ライナー「心を閉じ込めないでくれ。他人の殻を被るのをやめてくれ」
ライナー「頼む、ベルトルト」
ベルトルト「…僕たちは戦士だろ、ライナー」
ベルトルト「君も今評しただろ、僕は戦士に向いているって」
ライナー「ベルトルト…」
ベルトルト「おかしいのは君だよライナー。敵を"いいやつ"って…馬鹿じゃないのか」
ライナー「……」
ベルトルト「そんなことより僕はモテたいんだよ。ほら、僕がモテるために知恵を絞ってくれ、ライナー」
ライナー「……」
ベルトルト「なんで黙り込むのさ? ほら、さっきみたいに熱心にアドバイスしてよ」
ライナー「……すまん、それは無理だ」
ベルトルト「どうして?」
ライナー「容姿とか、コミュ力とか、それ以前の問題がある。今のお前はもう、ブサメンとかそんなレベルじゃない」
ライナー「人間として、見ることができない……」
ベルトルト「冗談キツイな。僕ほど人間らしい容姿の人間はいないだろ」
ライナー「……」
ベルトルト「手足も長いよ。顔立ちも整ってる。身長だって高い。成績も優秀だ」
ベルトルト「あらゆる点で人間として高水準のはずだよ」
ライナー「ある意味人間らしいかもな…すべてにおいて優れている反面、一番大事なものが欠損しているという意味では」
ベルトルト「僕に欠点なんてないよ。強いて言えば君の言うコミュ力だけだ」
ライナー「もう嫌だ…駄目だ、限界だ…お前と一緒にはいられない…」
ベルトルト「あ、ちょっと、どこに行くんだよライナー。おい。…まあいっか。少し頭を冷やせば戻ってくるだろ」
ライナー「…くそ、くそ、くそ!!」
ライナー「あの優しいベルトルトが…どうして、あんな…」
ライナー「全部、あいつらのせいだ…あいつらが、こんな命令を下さなければ、あいつがあんなに壊れることもなかったのに…」
ライナー「くそっ…くそ…くそぅ…」
翌日
ベルトルト「さて、今日こそはアニと距離を縮めるぞ。コミュ力を身に付けた僕ならお茶の子さいさいだけどね」
ライナー「……」
アニ「…」
ベルトルト「アニだ。おっ、おは、おはおはよう、あああアニ…」
アルミン「あ、アニ。その…大丈夫? 昨日の…」
アニ「だ、大丈夫だよ。ちょっと股が痛いくらいで…///」
ベルトルト「…は?」
アルミン「ごめんね…知識不足だった」
アニ「いや、その、い、いい体験だったと思う…その、アルミンとだったし///」
アルミン「あ、うん…///」
ベルトルト「…」
ライナー「…」
ベルトルト「どういう、ことだよ…」ガタッ
アルミン「あ、ベル…トルト? 今の聞いてた…?///」
ベルトルト「何をした?」
アルミン「え」
ベルトルト「アニに何をした!?」
アルミン「え、何って、えっと…」
ベルトルト「はっきり喋れよ根暗チビが!」
アルミン「ひぃっ!?」ガシャァン
アニ「アルミン!?」
「おいおい…なんだ?」
「うわ、木偶の坊がアルミンを殴りつけてるぞ」
「と、止めないと…」
「や、やだよ。あんな何考えてるかわかんねーヤツ…」
「いきなり殴りつけて…やっぱ性格悪かったんだな、あいつ」
「やだ、怖い」
ミカサ「アルミン!」
ベルトルト「ぐわっ!?」
エレン「てめぇ…アルミンに何しやがる!」
ベルトルト「だ、だってこいつがアニを!」
アニ「アルミン、大丈夫?」
アルミン「頭がくらくらする…」
コニー「お、おい! 血が出てるじゃねえか! お、応急処置ってどうやるんだ、サシャ!」
サシャ「き、急に言われたって…」
ジャン「あまり揺するな! 医務室まで運ぶぞ!」
コニー「俺も手伝う!」
アルミン「ご、ごめん…二人とも」
エレン「…アニが、なんだよ?」
ミカサ「人を殴りつけておいて…責任転嫁するつもり?」
ミーナ「最低…」
「最低だ…」
「最悪だよこいつ…」
「普段おとなしいだけに性質悪い…」
「嘘でしょ…ベルトルト、イケメンなのに」
「だから人は顔によらないんだって」
ベルトルト(なんだこれ…何で、僕がこんな言われ方をしなくちゃいけないんだ…)
ベルトルト(僕はいつだって正しいのに…すべてにおいて秀でている僕の判断は、絶対なのに…)
エレン「おい腰巾着野郎。アルミンに謝れよ」
ベルトルト「い、嫌だね…あんなチビに頭を下げるなんて、死んでもごめんだ」
ベルトルト「常に見下される惨めな奴には、いい薬だよ」
ミカサ「……ッ!」
ライナー「待ってくれミカサ!」
エレン「ライナー?」
ライナー「ベルトルトには俺からちゃんと話をする! だから拳を収めてくれ!」
ミカサ「どうして庇うの? そいつはアルミンを傷付けたばかりか、貶めた。相応の罰は与えるべき」
ライナー「その…こいつは、病気でこうなっているだけなんだ。実際はこんな奴じゃない。もっと優しい良い奴なんだ!」
ベルトルト「ライナー…?」
エレン「病気って…そんなの初耳だぞ」
ミカサ「本当にそんな精神病だったらとっくにリタイアしてるはず。でもここに居る…それはつまり、健常者の証」
ライナー「…な、なら、俺が殴っておく! だから許してやってほしい」
エレン「悪ぃけど、ライナー。現に親友を傷付けられた側としては、納得できねえ」
ベルトルト「……、そうだよ、ライナー。勝手に人を病気にしないでくれ」
ライナー「ベルトルト…!?」
ベルトルト「僕を庇ったら君まで色々言われるだろ…やめろよ、そういうの。嬉しくない」
ライナー「…」
ベルトルト「営倉に行けばいいんだろ。そこで反省すれば。常識で考えてよ。あのチビならともかく、君らに僕を殴る権利なんてない」
ベルトルト「審判者にでもなったつもりなのかい? 勝手に罰を与えようとしたり…非常識が過ぎるよ」
ベルトルト「…えっと、マルロ、だったっけ?」
マルコ「…マルコだよ」
ベルトルト「教官のところまで連れて行ってくれ。この中じゃ、君が一番まともそうだから」
「なんだよあいつ…加害者のくせして偉そうに」
「だから性格悪いんだって」
ライナー(…こんなはずでは)
エレン「…くそっ、頭に来るな。正論ぶちかましやがって」
ミカサ「…アニ。腰巾着があなたの名前を言っていたけど、アルミンの件と何か関係あるの?」
アニ「それは…」
ミーナ「もしかしてあの腰巾着、アニのこと好きだったんじゃないの?」
アニ「は?」
ミーナ「絶対そうだよ! 他にアルミン殴る理由なんて思い当たる?」
「なにそれ、気持ち悪い」
「きっとライナーの後ろからずっとアニのこと見つめてたんだぜ」
「きもー」
エレン「なあ、なんであいつがアニを好きだったらアルミン殴る理由ができるんだ?」
ミカサ「教えてほしい」
ミーナ「え…二人とも気付いてなかったの?」
エレミカ「何に?」
ミーナ「えっと…アルミンとアニが最近付き合い始めたって…聞いたことないの?」
エレミカ「初耳だ」
ミーナ「それを腰巾着は知らなくて、今朝その仲睦まじさに嫉妬して…って感じだと思ったんだけど」
ライナー(…あいつのためを思って言わなかったのが仇になったか…くそっ、いつも俺は…)
エレン「じゃあ何だ…ベルトルトは片思いのくせに、アニを自分の物だと思い込んで、取られたから、アルミンをぶん殴ったってことか?」
ミカサ「気持ち悪い…人間としてどうかしている」
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