「はい!今日の班分けはこれね!」
直観にまみれたミステリィ事件からわずかにたったある休日。
いつものように僕らSOS団は休日に喫茶店に集まり、不思議探索の班分けをしていました。
どうせ今日も、彼と涼宮さんは別々の班になるでしょう。
そう鷹をくくっていた僕にとっては、今日の結果は意外なものでした。
これはこれは。
思わず僕は顎を撫でてしまいました。
この動作をやる僕は少し緊張している証拠だな、と人ごとのように思っていました。
「わぁ・・・!」
わずかに驚く朝比奈さん。
「・・・・・・」
いつもの長門さん。
「今日の班分けはあたしとキョン、古泉くんと有希とみくるちゃんねっ」
涼宮さんが少し早い夏の到来を表してくれるような笑顔でそう言いました。
なんともまぁ。
と思って前を向くと、
苦虫を噛み潰した人として辞書に載れるような顔をしている彼と目が合いました。
そこで2人揃っていつものセリフ吐いて店を後にしました。
「「やれやれ」」
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「さて、今日はどこに行きましょう?」
店を出た僕はとりあえず朝比奈さんと長門さんに声をかけてみました。
「・・・・・・・・」
長門さんは安定していますね。逆にスムーズに答えられたら怖いくらいなので、
これで全然大丈夫です。
・・・このように無理にポジティブに考える時は焦っている証拠だな、心の中で笑いました。
「えっとぉ・・・わたしはとくにぃ・・・」
朝比奈さんも歯切れが悪く、ここで僕は話し相手を失ってしまいました。
「・・・・とりあえず、店に入ってどこにいくか決めましょうか・・・」
今日は大変な1日になりそうです。彼ではないですが、こうも言いたくなります。
やれやれ。
「・・・・・・・」
「えっと・・・・」
店に入ったからといっても、
状況は変わるはずもなく、痛い沈黙に包まれていました。
「なにか今日してみたいことなどありませんか?」
改めて僕は2人に提案してみました。
「わたしは・・・」
朝比奈さんは明らかに萎縮しているようでした。
ちらちらと横目で長門さんを見ているところから、
長門さんを意識していることは明らかでしょう。
この2人はあまり仲が良くないのでしょうか。
このようなことを考えていると、
「私は」
「貴方達がどのような人間か知りたい」
「私という個体は貴方達2人に興味がある」
なんと長門さんが話題を提供してくれました。
「僕達の・・・こと・・・?」
しかも話題が非常に意外なものでした。
まさか長門さんが僕達に興味を持つとは。
正直、僕としてはこの話題はあまり気乗りがしませんでした。
というのは、僕はまだこの2人のことを完全に信用している訳ではないからです。
『機関』と情報統合思念体、未来人は今はお互いの出方を伺っている様子ですが、
涼宮さんの扱いで意見の食い違いが発生するとどのようになるか想像もしたくないですからね。
そのような人たちに自分のことを話すというのは、気が引けるものです。
しかし、そんな僕の気持ちとは裏腹に、
「わたしたちのことですか・・・?あっ、でもわたしも長門さんと古泉くんのことは少しでも知れたらいいなって思うな。」
まさかの朝比奈さんもノリ気です。
こうなってしまってはもう腹をくくるしかないでしょう。
「わかりました・・・」
こういったものの、僕は少し気分の高翌揚を感じていました。
というのは、『機関』の古泉としては得体の知れないこの2人と話すことは危険だと思っているものの、
古泉一樹個人としては、この2人と少し話して見たいと思っていたからです。
まず僕らってなにか共通点はあるんでしょうか。
そう思った僕は2人に聞いてみることにしました。
「お二人の趣味とかなにかありますか?」
「私は本。」
「確かに長門さんは本が好きですよね。特にミステリーは前、Tさんがいらっしゃった時を鑑みると非常に教養深いと感じましたよ。」
「あ、別に私は本は特にですね・・・私はやっぱりお茶かなぁ。」
「確かに朝比奈さんのお茶は絶品ですね。」
「うふ。ありがとう。」
「「「・・・・・・」」」
うーん。会話終了ですね。
こんな時に延々と話し続けられる彼と涼宮さんは相性がいいんですね。
結局、あれから特に会話もなくお互いの飲み物を啜るだけになってしまいました。
なにか口火を切らないと。そう思っていた僕ですが、
「会話、続かないですね。」
朝比奈さんがそのように自嘲気味に呟きました。
「不思議ですよね。こんな私たちが休日に一緒に過ごしているなんて。」
「だってみんなそれぞれ属している組織も違えば、それぞれの理念も違うんですもん。」
朝比奈さんがこのようなことを呟くのは意外でした。意図的にこの手の話題を避けているように感じましたから。
僕と長門さんは朝比奈さんの発言を待ちます。
「でも」
「こんなわたしたちでも、涼宮さんっていう存在の元に集まっているのって」
「やっぱり不思議ですよね。」
この方は時々、このように年上であることを思い出させてくれます。
「確かに僕達は共通点もないし、別に仲良くもない。」
「ですけど、ぼくらは涼宮さんという一つの存在の元に集っている」
僕は朝比奈さんの言葉に強く頷きながら答えました。
「・・・・・・・・・」
長門さんが2ミリほど首を動かしたように見えます。
これが彼の言う長門さんの肯定の証でしょうか。
「一つだけ提言すると」
「私達は涼宮ハルヒのもとに集っているのは確かだが」
「彼のもとにも集っているとも言えると思う。」
長門さんが付け加えました。
これは彼女なりの親愛表現なのでしょう。
「うふ、確かに。」
「これは失敬。確かに僕達は彼のもとにもあつまっていますね。」
僕と朝比奈さんも親愛を込めてその発言に同調しました。
結局、話は広がりませんでした。
しかし、店に入った時のような痛い沈黙は僕らにももう流れていませんでした。
「よう。今日はどうだった?」
店を出て、メンバー全員が集まったところで、彼が聞いてきました。
目の前にはいつものようにSOS団3人娘が話しています。
そしてその少し後ろに僕と彼が並んで歩いています。いつもの光景です。
「そうですね。」
「ただ一つ言えることは」
ここから自分が紡いだ言葉に僕は未だに”驚愕”しています。
なぜこんなセリフを言ったんでしょうね。
「僕は涼宮さんと貴方に感謝を伝えたいです。」
「僕達全員を引き合わせてくれてありがとう。」
「お前・・・」
彼は心底驚いた顔をしました。
僕だってこんな臭いセリフも吐きたくなる時もありますよ。
失敬な。
「まあなににしても」
「いい顔してると思うぜ。今のお前。」
彼の顔はまるで、初めて1人で眠れた我が子をみる母のようになっています。
なんだか癪に触る気もしますが、
不思議と嫌な気持ちはありませんね。
「こらー!2人ともなに内緒話してるの!置いてくわよー!」
涼宮さんがそのように叫びました。
怒りながら笑うという奇妙な真似をしています。
今日で僕ら3人の仲は劇的によくなったというわけではないと思います。
共通点もとくにありません。
しかし。
僕、長門さん、朝比奈さんの3人は涼宮さんと彼のもとでSOS団という組織で確かに一つになっている。
その事実を認識することができました。
それだけでも今日は非常にいい1日でした。
「わかりました。直ぐいきますよ。」
我らの団長様のもとに彼と一緒に駆けていきます。
いつものセリフともに。
「「やれやれ」」
Fin.
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