古泉「何番煎じだと思ってるんですか!?」 (95)

~文芸部室~

古泉「本当に……」

キョン子「……いや、おい」

古泉「困ったものです……」

キョン子「なぁ」

古泉「やれやれ、と言うべきでしょうか……?」

キョン子「なぁ、おいコラ古泉、おい」

古泉「え、あ……すみません。少し取り乱してしまって。何ですか?」

キョン子「そんなに私が女なのはおかしいことなのか?」

古泉「おかしいんですよ」

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古泉「始まりは今日の放課後、文芸部室」

古泉「珍しく僕が一番に部室に来て、暇つぶしに詰め将棋をしていました」

キョン子「…………(語りだした)」

古泉「皆さん遅いなと思いつつ、問題を解いていたらドアがノックされて見知らぬ女性が入ってきました」

古泉「えぇ、貴女です」

キョン子「…………」

古泉「正直言うとこの段階でもう戸惑いましたよ。完全に僕の初対面の北高生でしたから」

キョン子「そんな奴ごまんといるだろ」

古泉「いえ、僕は全生徒のデータには一応目を通してますから」

キョン子「え……気持ち悪」

古泉「仕事の一環ですから。……それはそれとして」

古泉「まぁそれでもまだ『不思議事件の依頼の人かな』とか思ってたんですよ」

古泉「貴女が『古泉だけか』と言うや否や僕の対面に座るまでは」

キョン子「お前に無茶苦茶ジロジロ見られて私も戸惑ったよ。気持ち悪くてな」

古泉「不可抗力ですよ。僕の立場で考えてください」

古泉「謎の美女が何を言うでもなく目の前にいきなり座ってきたんですからね。身構えもします」

キョン子「はっ? びっ……」

キョン子「…………で?」

古泉「今ので僕が取り乱した理由は終わりですが」

キョン子「……………」

古泉「後は貴女の言動から正体を探るのは難しいことではありませんでした」

古泉「正直、性別が変わっただけなのに容姿がこうも違うのは未だに納得できませんが」

キョン子「お前、今随分失礼なこと言ってないか?」

キョン子「で、つまり私は本当は男だと」

古泉「えぇ、少なくとも僕の知るあなたは」

キョン子「私は生まれてから今の今まで女だった覚えしかないんだが」

古泉「もちろん涼宮さんの力でしょうね」

古泉「巧みに記憶操作されているんでしょう。周囲もね」

キョン子「じゃあお前は?」

古泉「恐らくこの部室が半ば異空間化していることと、僕自身が特殊な能力者だからでしょうね」

古泉「他の――僕と似たような立場の御二人はどうなっているのか、現状ではわかりませんが」

キョン子「仮にお前の言うとおりだとして私はどうすればいいんだよ」

古泉「その前に聞かせて欲しい事があります。貴女の知る涼宮さんは女性ですか?」

キョン子「あいつが男だったら一回は引っぱたいてるかもな」

古泉「なるほど……状況が僕の今言ったとおりだとしたら心配いりません。この事態はすぐに元に戻ります」

キョン子「聞いてほしそうだから一応聞いとくが、何でだ?」

古泉「涼宮さんが僕の知るとおりの涼宮さんならあなたを女性のままにしておくなどありえませんから」

キョン子「意味がわからん」

古泉(性別が代わってもこの鈍さはやはり変わらないのか)

キョン子「……よくわからんが、結局何もせずにいれば私は男になると」

古泉「さて? それはどうでしょう?」

キョン子「おい」

古泉「別の可能性もありますからね。機関としてはそっちの方が助かるのですが」

キョン子「ハァ……言いたいならさっさと話せよ」

古泉「あなたが貴女として歴と存在しているのが正しい可能性。つまり――」

ハルヒ「おっっまたせ~!」バーン!!

朝比奈「ふえぇぇぇ~! す、涼宮さん、ドアはもっと優しく開け閉めした方が……」

長門「…………」

古泉「――どうも皆さんお揃いで」

キョン子「またこいつはタイミングが良いのか悪いのか……悪いんだなこれは」

ハルヒ「はぁ? いきなり何のことよ」

キョン子「何でもない。こっちのことだ」

ハルヒ「ふ~ん……何?古泉くんにからかわれでもした?」

キョン子「言ってろ」

古泉「んっふ。心外ですね。僕にそんな度胸はありませんし、そんな酔狂も興味ありませんよ」

ハルヒ「わかってるわよ。古泉くんがそんなことするわけないじゃない。冗談よ、冗談」

古泉(…………)

古泉(僕の見る限り涼宮さんはいつもと大きく変わらないように見えますね)

古泉(あとは――)チラ

朝比奈「~♪」ニコニコ

古泉(……朝比奈さんがこの事態に何も疑問を抱いていないのは一目で理解しました。えぇ)

長門「…………」

古泉(長門さんは……僕では彼女の表情から考えを読むのは無理ですね)

古泉(あるいは『彼』ならできるのかもしれませんが)

長門「…………」

古泉(やはりまずは機関に現状を報告してから――)

ハルヒ「っで、古泉くん。悪いんだけど着替えさせるから出てってくれるかしら」

古泉「え? あ、ああ、そうですね。失礼しました」

古泉「では退室しましょうか――」

キョン子「おう、そうしろ」

古泉「……そうですよね。女性ですからね」

キョン子「?」

古泉「いえ、では」ガチャ

~廊下~

古泉「…………」プルルル…♪

古泉「古泉です。――えぇ、少々おかしな事態になっていまして」

古泉「あぁ、やはり機関の方では特に何も変化は見られないんですね」

古泉「今は僕自身状況を把握しきれていないんですよ。

古泉「――はい、詳しいことはまた帰宅した後にでも」ガチャ

古泉「ふぅ……」

長門「……」ガチャ

古泉「おや? どうなされたのですか長門さん?」

長門「……貴方は彼女の存在に疑問を抱いている」

古泉「ふふ、わかっていただきましたか」

長門「退室時、普段の貴方なら彼女にあのような掛け合いは行わない」

長門「あれは私、あるいは朝比奈みくるへのメッセージと受け取った」

古泉「御察しのとおりですよ。まぁ正直朝比奈さんへは届かないとも思ってましたが」

古泉「実は僕は今の状況に困惑していまして。貴女なら何か教えてくれるのではないかと」

古泉「よろしいですか?」

長門「…………」コク

古泉「では――――――――――」

古泉「――――――――――と、僕が惑っている理由はこんなところです」

長門「…………」

古泉「長門さんはどうなのでしょうか。『彼』に関する記憶は?」

長門「無い」

長門「また、それだけ不特定多数の人間および物質の情報を操作する改変なら情報統合思念体にとっては要観察事項」

長門「だが彼らに目立った動きは無く、私には何の指令も無い」

長門「つまり――」

古泉「情報統合思念体すら改変したので無ければ、この事態は……いやこの世界は一つを除いて何ら変わってなどいない」

古泉「つまり変わったのは『彼/彼女』ではなく――――僕ですか」

長門「そう考えるのが自然だと判断する」

古泉「……そうですね、確かに宇宙を塗り替えるより僕一人の記憶を弄った方がよほど効率的に思えます」

古泉「しかしそうなると――ふふ、弱りましたね。僕にとっては」

長門「…………」

ハルヒ「古泉くん、もういいわよ~」

古泉「……おや、そういえば着替えにしては随分かかりましたね。入りましょうか、長門さん」ガチャ

~文芸部室~

ハルヒ「あら、有希も一緒だったの? 忘れ物は見つかった?」

長門「教室にあった」

古泉「?」

長門「そういう理由で退室した」ボソ

古泉「ああ、それはわざわざ気を遣わせてすみませんでした」ボソ

ハルヒ「ん? 二人で何小声で――――ってまぁそれはいいわ」

ハルヒ「ほら、キョン! いつまで憮然としてるの!」

キョン子「…………」

ハルヒ「ったく! 着替えさせるのにも一苦労だわ」

キョン子「そりゃそうだ。着替えたくなかったからな。大体なんなんだこれは」

ハルヒ「はぁ? 見ればわかるでしょ、メイド服よ」

キョン子「なんで私がメイド服着なきゃいけないんだ! 朝比奈さんで間に合ってるだろうが!」

ハルヒ「ま、ちょっとした着合わせよ。来年の映画撮影に向けてね」

キョン子「は?」

古泉(こっちでも映画撮影はしたんですね……しかしこれは)

ハルヒ「今年のはアンタ雑用その他だけで出番なかったけど来年は出演させてみるのもいいかな~って」

ハルヒ「ユキの部下、メイド=トルーパーみたいな?」

キョン子「何が『みたいな?』だ。思いっきりパクリだ。やるならお前がやれ。

キョン子「それが駄目なら谷口でも国木田でもいっそ私の妹でもいい。他の奴がやれ」

キョン子「そもそもお前はまた来年の文化祭にあんな映画撮るつもりか」

キョン子「もういいだろ。来年は朝比奈さんや長門にメイド喫茶でもやらせろ」

キョン子「絶対その方がいい。有意義だ。とにかく私はやらない」

ハルヒ「ごちゃごちゃうっさい!」

キョン子「くっ……この野郎……」

朝比奈「あ、あの、でもでも! キョンちゃんとっても似合ってますよぅ!」

ハルヒ「ま、中々ね」

ハルヒ「わざわざみくるちゃんと有希の三人でキョンでも様になりそうな衣装見繕ったんだから、感謝しなさい!」

キョン子「無理矢理着せられて何に感謝しろってんだ……おい、そこ」

古泉「は、何でしょう」

キョン子「何だその顔は……ふん、笑いたいなら勝手に笑ってろよ」

古泉「いえ、僕は普段通りですが……とってもよくお似合いですよ」

キョン子「どーだか」

古泉(…………鋭い)

古泉(確かに似合っているんですが、どうしても頭の中で『彼』と重ね合わせてしまって正直……)

キョン子「……思いっきり脛蹴ってやろうか、こいつ」

古泉(そんなに顔に出てるんでしょうか、今の僕)

古泉「どうかご容赦を。それに貴女によく似合ってるというのは僕の心からの気持ちですよ」

キョン子「…………ふん」

キョン子「おい、まさか今日からしばらくこれ着ろってんじゃないだろうな?」

ハルヒ「え、そうね……まぁ、着せてみただけだし」

ハルヒ「ま、あんたがそんなに気に入らないって言うなら別の衣装を用意してあげてもいいわよ」

キョン子「そうかい……どうしてもやるなら私の希望は学生服だと言っておく」

ハルヒ「あっそ」

古泉「……!」ピロリロリン♪

古泉「失礼」ガチャ

古泉(閉鎖空間、発生……? 今……?)

古泉「――」チラ

ハルヒ「どうしたの古泉くん? ちょっと珍しい顔してるわよ」

古泉「あ……いえ、緊急にバイト先からヘルプに入って欲しいと連絡がありまして」

ハルヒ「あら? そうなの?

古泉「今日のシフト予定の方が来ないのか、はたまた人員を増やさないと対応できない事態なのか」

古泉「とにかくよほど急いでいるようでして。申し訳ありませんがこれで失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」

ハルヒ「う~~~~ん、でもバイトじゃ仕方ないわね」

ハルヒ「うん、わかったわ。でもキョンのレア姿堪能できないのは残念ね」

古泉「ええ、本当に。ですが気にせず後は女性同士で楽しんでください。では」ガチャ

~機関用車内~

森「何か面白いことになっているそうですね、古泉」

古泉「第三者から見るとあるいはそうなのかもしれませんね」

森「記憶に齟齬があるとか?」

古泉「僕にとってはパラレルワールドに飛ばされた気分ですよ」

古泉「いえ、この世界もまた正しいのなら、正真正銘パラレルワールドですね」

古泉「『鍵』の性別が変わっているだけなんですが、周囲の反応や僕自身のここでの振舞いがわからない」

古泉「なまじ他が変わらないように見えますからね。とりあえず元の世界と同じような行動をしましたが」

森「それでこの閉鎖空間ですか」

古泉「申し訳ありません。どうも状況から僕が原因のようで」

森「……まぁ、迂闊だったかもしれませんが貴方はこの世界の古泉一樹では無いんでしょう?」

森「この世界の涼宮ハルヒの精神状態に不慣れなのも仕方ないかと」

古泉「……慰めてくれてます?」

森「機関員として私の所感を述べたまでです。他の方々がどういう意見かはわかりませんが」

古泉「ふふ、そうですね」

森「何を笑って――――」ピロリロリン♪

森「待って、止めてください」

古泉「どうしました?」

森「閉鎖空間が崩壊しました」

古泉「それは……早いですね。まだ発生から10分足らずといったところですが」

森「対応した能力者の話では神人の動きも極めて緩慢。行動らしい行動をほとんどしなかったとか」

古泉「こちらではこういった閉鎖空間はよくあるのですか?」

森「頻繁に、ということはありませんが夏から二、三度似たような状況はありました」

古泉「なるほど……やはり今の閉鎖空間の発生原因は僕のようですね」

古泉「僕が部室からすぐさま姿を消したことで神人の動きも鈍ったのではないかと」

古泉「そしてそう考えるともう一つ見えてきました。『僕』がここにいる理由がね」

森「…………」

古泉「この世界の古泉一樹は涼宮ハルヒにとって煩わしい存在だったのではないですか?」

~古泉自宅前~

古泉「どうも、送って頂いてありがとうございます」

森「いえ」

古泉「それと、機関にある涼宮ハルヒとその周囲についての調査記録や報告書を貸してくれませんか?」

森「それは構いませんが……?」

古泉「こちらの『古泉一樹』が『僕』になった理由が、僕の考える通りだと結論付けて考えてみました」

森「えぇ……」

古泉「僕自身が閉鎖空間を発生させる原因の一つなのだとしたら、忌忌しき事態です」

古泉「今度こそ、こちらの涼宮さんは僕がいないのが当然の世界に創りかえる危険もあります」

古泉「……まぁそれでもう神人と闘わなくていいのなら少し魅力的ではありますけど」

森「古泉」

古泉「失礼、つまり今の状態はチャンスを与えられたのだと僕は考えています」

森「元の古泉一樹が煩わしくなった涼宮ハルヒは貴方の記憶を塗り替えた」

森「貴方が涼宮ハルヒの願うとおりのキャラクターならばSOS団は表面上何も変わらなくて済む」

森「けれど貴方も意に添わなければ世界を創り変えて――例えば貴方の位置には待ったく別の人物が座ることになると?」

古泉「その可能性もありますね。今度こそ谷口少年が超能力者になっていたりね」

古泉「しかし問題は改変後の世界がどう変わるか誰にも予想できないことです」

古泉「どこまで世界に影響を及ぼすのか見当もつかない」

森「そうならないために詳細な資料が要る、ということですか」

古泉「この世界を脅かす原因の一つがここにあり、それが対処可能なことなら実行したいと思いますね」

森「……わかりました。資料は本日中にでも必ず」

古泉「ありがとうございます」

森「……けれど古泉」

古泉「はい?」

森「…………いえ、私が言えることじゃないわね」

古泉「え?」

森「なんでもない……いえ、ありません」

森「……あまり根を詰め過ぎないように。それだけ」

古泉「心配要りませんよ。いつもと同じ、演じるだけです」

~古泉自宅~

古泉「…………」ペラ…

古泉(初期の世界改変から野球大会、カマドウマ事件、ループする夏休みに映画撮影)

古泉(起こった出来事自体は僕の記憶とあまり違わない)

古泉(しかしやはり彼女の存在によって細部は変わっているようですね)

古泉「それにしても……ふふ、当たり前ですが、こうして資料を見てもまるで実感が湧きませんね」

古泉「まるで他人のアルバムを見てる気分ですよ」

~翌朝、登校中~

キョン子「よう」

古泉「やあ、おはようございます」

古泉「……少し疲れているように見えるのは気のせいでしょうか?」

キョン子「あの後結局、どんな衣装がいいかハルヒと朝比奈さんの議論が白熱してな」

キョン子「朝比奈さんも自分が着せられる立場なのにどうしてあそこまで盛り上がれるのか……」

古泉「他人を愛らしくコーディネートするというのは女性にとっては面白いものなのかもしれませんね」

古泉「残念ながら男の僕にはよくわかりませんが」

キョン子「私にもわからんが別に残念とも思わんな」

古泉「ああ、失礼しました。他意はなかったんですが」

キョン子「……お前の方こそどうなんだ」

古泉「と、言いますと?」

キョン子「とぼけるな。お前の事情は大体長門から聞いた」

キョン子「お前が昨日言いかけた厄介じゃない方ってのはこの事か?」

古泉「えぇまさしく、この世界は貴女が存在するのが正しい世界だと思いますよ」

古泉「これなら問題は世界規模ではなく僕個人の物ですから、機関にとっては助かります」

キョン子「お前はどうするつもりだ?」

古泉「そうですねぇ……」

古泉「今日お昼をご一緒してもらってもよろしいですか?」

キョン子「は?」

古泉「ああ、いや、今後の対策を考えてはいるんですが。貴女にも協力して頂きたくて」

古泉「お昼なら涼宮さんは学食でしょうし、その隙に長門さんや朝比奈さんと一緒にお話を、と」

キョン子「…………」

古泉「あ、貴女はいつも谷口さんや国木田さんと昼を採ってるんでしたね。でしたらその後でも――」

キョン子「別に絶対にあいつらと昼飯を食わなきゃいけないなんて義務はない」

キョン子「仕方ない、行ってやる。昼休みに部室でいいのか?」

古泉「えぇ、ありがとうございます」

~昼休み、文芸部室~

キョン子「…………」コンコン

古泉「どうぞ、ああ、どうも」

キョン子「何だもう皆揃ってるんだな」

古泉「ええ、朝比奈さんにも大まかな事情は説明させてもらいました」

長門「…………」

朝比奈「古泉くん……そんなことになってるなんて私、全然気付かなくて……」

古泉「気にしないでください。動揺を悟られないように振舞ってましたから」

キョン子「私と会ったときは無茶苦茶動揺してやがったけどな」

古泉「んっふ、そうですね。僕もまだまだです」

キョン子「で、私たちを集めて何をさせる気なんだ?」

古泉「それほど難しい事をお願いする気はありません」

古泉「今の僕がこの世界の僕と微妙に違うというのは、とりあえず皆さん理解して頂けたかと思います」

朝比奈「は、はい」

キョン子「……それで?」

古泉「僕は何とかしてその微妙な部分をできるかぎり無くしたいんですよ」

キョン子「どういうことだ」

古泉「例えば……そうですね」

古泉「長門さん、こちらでも夏休みの二週間はループしていたんですよね?」

長門「そう」

古泉「そして夏休みの課題を最終日に皆でやることでループを抜け出した」

長門「……」コク

古泉「この流れは僕の記憶とも合致しているんです。貴女が女性でもね」

古泉「けれど貴女の記憶に残った二週間内で僕らはプールに行きましたか?」

キョン子「ああ、行った」

古泉「その時自転車で行ったと思いますが振り分けは?」

キョン子「私はハルヒを載せて古泉は三人乗りだったな」

古泉「そこです。僕の記憶では三人乗りだったのは貴女、いえ、彼の方だったんです」

古泉「僕は朝比奈さんと二人乗りでした」

キョン子「細かいな。要るのかこれ?」

古泉「まさにそうです。些事なので機関への報告書でも省かれているような事なんですよ」

古泉「けれど僕にはその記憶が無い。その時の自分の気持ちを推測するしかない」

古泉「こういった細かいことを少しづつ減らしていけば、僕でもこの世界の僕にだいぶ近づけると思うんですよ」

キョン子「…………」

朝比奈「で、でも私そんなところまで覚えてるかなぁ……」

古泉「大丈夫ですよ。それは長門さんに教えていただきます」

長門「…………」

古泉「まぁ涼宮さんもそこまで僕を気にはかけないでしょうが念のためです」

古泉「朝比奈さんは申し訳ありませんが、涼宮さんが僕を怪訝に思わないようにそれと無くフォローして頂ければ」

朝比奈「は、はぁ……」

キョン子「………………納得いかん」

古泉「え?」

キョン子「お前の言うのはつまりお前がこれからは元の古泉を演じていくてことだろ?」

古泉「……えぇ、まぁ、完全に元の通りとはいきませんし、そうするつもりもありませんが」

キョン子「私はこの集まりは何とかしてお前を元の世界に戻して、元の古泉に戻す対策会議だと思って来た」

古泉「あぁ……確かに貴女の言うことが自然です。ですが――」

キョン子「それをするってことはこの世界の古泉は捨てるってことだろ?」

古泉「……」

キョン子「すまん、教室に戻る」

朝比奈「きょ、キョンちゃん……!」

古泉「待ってください」

古泉「涼宮さんが僕をこうしたのは必ず何か意図があるはずです」

古泉「現に僕の行いで発生したと思われる閉鎖空間がこの世界では数件ありました」

古泉「僕のせいで厄介事が増えるなんて、貴女も望んでいないはずだ」

キョン子「……………………そんなの、知るか。私には関係ない」バタン

古泉「な――」

朝比奈「キョンちゃん……」

長門「…………」

古泉「…………」

長門「貴方の記憶を戻す確たる方法がわからない現状では貴方の提案はそれほど間違っていると思わない」

長門「戻す術が涼宮ハルヒにしかないのなら貴方が慎重になるのも当然と言える」

古泉「そう……思ったんですがね」

長門「ただ、貴方には端から戻ろうという意思が無かったように見えた」

古泉「……えぇ、そうです」

古泉「涼宮さんが僕を変えたのは、僕の彼女への対応がまずかったからです」

古泉「ここは……SOS団とは突き詰めれば涼宮さんと『彼/彼女』のための居場所なんですよ。僕はそう思います」

古泉「素直になれない少女が超常の僕達を隠れ蓑にして、ただ、友達と遊ぶ場所」

古泉「なのに……この世界の古泉一樹はきっと自分の感情を優先したんです……」

長門「…………」

古泉「僕からしたら信じられませんよ……」

古泉「予兆は……あったはずだ……」

古泉「何で閉鎖空間が出来たか、古泉一樹なら一回目で気付いたはずだ……」

古泉「なのに、それなのに彼女に惹かれる自分を抑制しなかったなんて」

長門「…………私には、わからない。わからなかった」

長門「古泉一樹は自分の感情を……彼女への好意を露わにしたりはしなかった」

古泉「けれど、涼宮さんは嗅ぎ取ったんです」

古泉「その時点で身を引くべきだったのに……」

古泉「消えて当然の愚か者ですよ……それなら、戻らないほうが……」

長門「…………」

古泉「……申し訳ありません。どうやら抑制が効かないのは僕も同じようですね」

古泉「見苦しい所をお見せしました」

朝比奈「あの、古泉くんの考えは、このままキョンちゃんとは少し距離を置くってことですよね」

古泉「そうですね……」

古泉「距離を置くと言う程ではありませんが、あくまで友人として接していきたいと思っています」

朝比奈「……それじゃあきっと、涼宮さんは納得しないと思います」ボソ

古泉「……ふふ、それは本当に困りましたね。いっそ彼女役でも作りますか」

朝比奈「ううん、違うの! そうじゃなくて、えっと、えっと!」

古泉「朝比奈さん?」

朝比奈「うん、今日! 今日中にキョンちゃんと仲直りしてください!」

古泉「は……?」

朝比奈「今日の部活はお休みにしてもらいます! だから、ね!?」

古泉「すみません。そのよく意味が……」

朝比奈「長門さん! 今日の部活がお休みになるように協力してください!」

長門「………………」

長門「………………わかった」コク

朝比奈「ありがとうございます!」

朝比奈「古泉くん!」

古泉「は、はい?」

朝比奈「この世界の古泉くんの行いが正しかったのかどうか、そんなの誰にも決められないと思うんです」

古泉「しかし、僕は現にこうして……」

朝比奈「うん、だから涼宮さんにも、わからなかったんだと思う」

朝比奈「だから古泉くんをこんな事態にしちゃってるんじゃないかな……」

朝比奈「でも、今の古泉くんがやろうとしてることは避けてることになりませんか?」

古泉「え……?」

朝比奈「キョンちゃんを想ってた古泉くんからも、古泉くんとどう向き合えばいいかわからない涼宮さんからも」

朝比奈「諦めて、避けて、触れないようにしてませんか?」

朝比奈「……二人を腫れ物扱いしないでください。古泉くんだって涼宮さんに選ばれてSOS団に入部したんだから」

古泉「…………」

朝比奈「あ、あれ、よく考えたら私なんか今凄い偉そうな事を……」

朝比奈「は、はわわわわわ……ご、ごめんなさい! でも、でも、その……」

古泉「……今初めて機関や未来人組織など関係なく、朝比奈さんが上級生に見えました」

朝比奈「ふぇ? ……えっと、それって結構失礼なこと言われてますよね?」

古泉「はい、だいぶ」

朝比奈「こ、古泉くぅ~ん!」

長門「……格好良かった」

朝比奈「長門さんまでぇ………!?」

古泉「ふふ、上級生にここまで言われたら僕も動かないわけにはいきませんね」

古泉「やってみますよ。どう転ぶかはわかりませんが確かに古泉一樹と涼宮ハルヒはSOS団員ですからね」

古泉「副団長の僕が放って置くことはできません」

古泉「部活の件、お任せしてもよろしいですか?」

朝比奈「あ、ま、任せてください! 絶対にお休みにしてみせます!」

長門「…………」コク

古泉「はい、僕もまずは彼女と仲直りしてみせますよ」

~放課後~

『今日の部活は有希もみくるちゃんも用事があるから中止! 気をつけて帰りなさい』ピロリン♪

古泉「本当に……ありがとうございます。朝比奈さん、長門さん」

古泉「……もう、会うことがないように願っていますよ」ピポパ…

古泉「もしもし、森さん。至急届けてほしいものがあるんですが」

古泉「お願いしますよ、……えぇ、僕への貸しにしておいてください」

谷口「――つーわけで、俺は今ちょっとした小金持ちだ」

キョン子「ふーん」

谷口「そもそも経済力の無い男はモテない。高校生でもそれは例外じゃねぇ」

谷口「デートってのはすべからく男が金を出すべきもんだからだ!」

キョン子「そうか」

谷口「もちろん俺もデートの時は金を出す男だ」

キョン子「そうだろうな」

谷口「……キョンよぉ、さっきからなんだよその態度は」

キョン子「んー?」

谷口「SOS団とやらが今日は中止になったってんでこうして連れ立って下校してるのによぉ」

キョン子「別に私は一緒に帰ってくれってお願いした覚えはないんだけどな」

キョン子「大体なんでお前と下校するだけでテンション上げにゃならんのだ」

谷口「カッー!? 友達甲斐のない奴だぜ!」

谷口「お前がなんか元気ねぇなと思って、俺がせっかく声かけてやったのによ!」

キョン子「……そんなに元気なかったか、私?」

谷口「ああ! 今日のお前に比べればまだ入学当初の涼宮の方が機嫌よかったぜ」

キョン子「さすがにそれは無いだろ」

谷口「……さすがにそれは無かったかもな」

キョン子「アホか、お前」

谷口「んだとォ! こんにゃろ、人が心配してやってんのに――」

キョン子「そっか。心配してくれて悪かったな、谷口」

谷口「ん……お、おお、良いって事よ。俺とお前の仲だしな」

谷口「気晴らしがしたいってんなら、このままゲーセンにでも――」

キョン子「よし、アホのおかげでモヤモヤすんのも馬鹿らしくなったし」

キョン子「明日会ったら腹いせに思いっきり引っ叩いてやる」

谷口「――って、ん? す、涼宮をか?」

キョン子「違う。私が引っ叩くのは――」

古泉「もしかして僕ですか?」

キョン子「!」

谷口「うぉ! 古泉!?」

古泉「やぁ、どうも。少し探しましたよ。寄り道なさっていたんですね」

古泉「下校経路を辿ればすぐに見つかるだろうと思ってましたが、僕の読みは割と外れますね」

キョン子「……なんで自転車乗ってんだ。朝は乗ってなかったはずだが」

古泉「機関から送ってもらいました。おかげで探索が捗りましたよ」

古泉「それと、もう一つ理由がありまして」グイッ

キョン子「うわっ、おい、何を――」ポス

古泉「貴女と二人乗りするために必要だったもので。では、行きますか、掴まっててくださいね」

キョン子「は、待て、ちょ――」

谷口「え、え、え……お、おいコラてめぇ古泉、待ちやがれ、オイ!」

古泉「いやぁ、貴女とこうして二人乗りするのはきっと初体験なんでしょうね」

キョン子「何かお前、谷口に無茶苦茶睨まれてたぞ」

古泉「んっふ、それはそれは。お気の毒ですが今の僕には関係ないことです」

キョン子「?」

古泉「それにしても中々の乗せ心地ですね。朝比奈さんを後ろに乗せるより漕ぎやすいですよ」

キョン子「殴るぞ。朝比奈さんの分含めて2回」

古泉「冗談です」

キョン子「…………何しに来たんだよ?」

古泉「仲直りをしてもらいに来ました」

キョン子「はぁ?」

古泉「いやね、恐い上級生に怒られてしまいまして」

古泉「僕としても貴女とあのままの雰囲気を続けるのは辛かったですしね」

キョン子「恐い上級生が誰だか知らんが趣旨はわかった……じゃあこの状況はなんなんだ」

古泉「二人乗りですか? いや、僕にこうされれば喜んですぐに機嫌を直してくれるかなぁ、と」

古泉「――すみません冗談です。だから背中を思いっきり叩くのはやめてください。危ないですから」

キョン子「ならさっさと答えろ」

古泉「二人っきりで話したかったんですよ。機関の車内ではそうもいきませんし」

古泉「貴女と二人乗りがしたかったというのも、まぁ冗談ばかりではありませんが」

キョン子「…………はぁ」

キョン子「それで、どこに向かってるんだ?」

古泉「さぁ、どこでしょう? それはまるっきり決めてませんでしたね」

キョン子「は?」

古泉「僕のプランはここまでしか考えてませんでしたから。何か希望の場所があったら仰ってください」

キョン子「……お前、本当に古泉か? 私の知る古泉はもっとこう……」

キョン子「お前の元居た世界ではそれが普通なのか?」

古泉「いいえ、ですが今の僕は知り合って間もない美女とのデートに身構えていますから」

キョン子「何なんだお前……」

~公園~

古泉「どうぞ、コーヒーで良かったですか?」

キョン子「……ああ、サンキュ」

キョン子「…………」グビ

古泉「…………僕は、きっと涼宮さんが好きだったんですよ」

キョン子「ぶっっ!! は、はぁ!?」

古泉「ああ、もちろん元居た世界の僕、つまり今の僕のことですよ。こちらの僕のことは知りませんから」

キョン子「い、いきなり何言い出してんだお前……コーヒーが制服にかかったらどうする!」

古泉「えぇ、まぁ、僕の制服には結構かかったんですけどね……」

古泉「まぁそれはともかく」

古泉「あっちでは僕は涼宮さんに憧れていた……きっと、好きだった」

キョン子「…………」

古泉「でもすぐに諦めました。というより最初から僕では役者不足だった」

古泉「彼女にはもう代えの効かない人が傍にいて、僕も彼と涼宮さんが一緒になることを望んでいた」

キョン子「……誰だったんだ、それ?」

古泉「…………貴女にも時々眩暈を覚えます」

古泉「いくら僕の居た世界を知らないとは言え……ある意味天然記念物ですよ?」

キョン子「悪かったな。わからないものはわからないんだ」

古泉「その人物が誰かは今重要では無いので省かせてもらいます。本気で考えれば答えはすぐ見つかるはずですし」

古泉「肝心なのは……あっちで僕は自分の気持ちに蓋をして、気付かないフリをしたということです」

古泉「それでよかったんだと、今でも思いは変わりませんけどね」

キョン子「本当にか?」

古泉「はい、そのことに後悔は一切していません」

古泉「けど、こちらの僕は違った」

キョン子「?」

古泉「抱いた想いを押し込めようとせず、その人物に惹かれる自分を良しとしたんでしょう」

古泉「その結果、僕の記憶に塗り替わった」

キョン子「…………正直、よくわからんが」

キョン子「お前の記憶を変えたのはハルヒなんだろう?」

キョン子「何で古泉がその……誰かに惹かれてあいつが動くんだ?」

古泉「ああ、はい、貴女ならそう言うだろうと思ってましたが……凄いですね、逆に」

古泉「もちろん、その人物が涼宮さんにとって一番大事な人だからですよ」

キョン子「はぁあいつにもそんな相手が……ん? ちょっと待て」

キョン子「それだとお前、いや古泉が好きだった奴って男……?」

古泉「……もう僕からは正直何も言いたくありませんが、女性だと思います」

古泉「涼宮さんの想いは恋愛とはまた少し違うのでは?」

キョン子「……そうだとして、あいつはお前が邪魔だったから記憶を弄ったのか?」

古泉「僕も最初はそう思っていたんですが……ある人の話を聞いて少し、違うのではないかと」

キョン子「ある人?」

古泉「その人が言うには、涼宮さんも古泉一樹とどう向き合えばいいのかわからなかった」

古泉「確かにそうです。彼女は困った人ではあるけど、残酷な人では決してない」

古泉「だから、彼女も時間が欲しかったんだと思います。そのためのインターバルが僕です」

古泉「僕なら安心ですからね。なにせそういう感情が湧きにくい」

キョン子「わかるように話せよ。具体的には目的語をな」

古泉「この世界の古泉一樹に戻れるのかもしれません」

キョン子「……またえらく話が飛んだ気がするが、本当か?」

古泉「涼宮さんに古泉一樹と向き合う時間が必要だったように、古泉一樹も涼宮さんにどう接すればいいかわからなかった」

古泉「下手をすれば世界崩壊の危機もありますからね」

古泉「そのくせ自分の気持ちは捨て去らないとは……まったく」

古泉「少し羨ましいですよ。こっちの僕の馬鹿さ加減が」

キョン子「古泉……?」

古泉「今晩、涼宮さんと話してみます」

古泉「放って置いてもいづれ戻る気もしてきましたが、早くこの体を本来の僕に返してやりたくなったのでね」

キョン子「昼と言ってる事が真逆だな」

古泉「ふふ、貴女や恐い上級生に叱られましたからね。宗旨替えですよ」

古泉「この世界は、この世界の人間が何とかするべきです。もう僕は知りません」

キョン子「拗ねてるみたいに聞こえるな」

古泉「若干、拗ねてますからね」

古泉「この世界に良かれと思って提案したのに、とね」

キョン子「…………お前は、どうなるんだ?」

古泉「…………」

この世界のハルヒはレズビアンだった?

キョン子「私は正直に言うと前の古泉が戻ってくるってんなら……ああ、嬉しいさ。文句あるか?」

キョン子「友達だと思ってる奴が一緒に過ごした出来事を忘れてるなんて癪だからな」

キョン子「でも、そうしたらお前はどこに行くんだ? 元の世界に戻れるのか?」

古泉「さぁ、どうでしょう? ふふ、まさに神のみぞ知る、ですね」

キョン子「おい」

古泉「冷えてきましたね。帰りが自転車なのは辛いと思って車を呼んであります。どうぞ」

古泉「ああ、僕は自転車で帰りますが、きちんと貴女の家まで送りさせますので」

キョン子「おい」

古泉「それは本当にわからないんです。僕にも、恐らく涼宮さんにも」

キョン子「…………」

古泉「……明日はいつもの不思議探索でしたね」

キョン子「……ああ」

古泉「よければ、祈っててください。明日の不思議探索ではいつもの僕に戻っていて、この僕が元居た世界に戻れるようにと」

キョン子「…………成功したら倍返しだからな」

古泉「了解しました。請求は明日の僕に。では、さようなら」バタン

~古泉自宅~

カキカキ

古泉「よし、こんなものか…………さて」ピポパ♪

ハルヒ『もしもし……古泉くん? どうしたの?』

古泉「どうも、涼宮さん、夜分遅くに申し訳ありません」

古泉「しかしどうしてもお話したいことがありまして」

ハルヒ『…………いいわ、何?』

古泉「ええ……実は人生相談なんですが」

ハルヒ『へ?』

古泉「今の僕はSOS団に入れたことをとても幸運に思っています」

古泉「えぇ、それはもう転校してから今日までそれ以外の自分など考えられないほどに!」

ハルヒ『こ、古泉くん……?』

古泉「ああ、でもある日ふと目覚めてもし、この思いが嘘のように消えてしまったらどうしようかと思うと不安で!!」

ハルヒ『古泉くん大丈夫……? 貴方……酔ってるの?」

古泉「あの入部した時の喜びも! 野球に興じた熱さも! 皆さんと過ごした夏の思い出も! 全て、全てが――」

ハルヒ『ちょっと、うるさい……古泉くん、いま夜、夜だから!!」

古泉「ある日、ふと目覚めたらあの映画撮影すら夢なのではないかと――――!!!」

~翌日、駅前~

ハルヒ「キョン、遅い!」

キョン子「お前ら……本当にいつ来てるんだよ?」

ハルヒ「ったく、毎度毎度なんであんたは遅れるのよ」

キョン子「へいへい、すいませんね。どうせ今回も罰金だろ?」

ハルヒ「そうよ! ……と言いたいところだけど今日はいいわ。ねぇ古泉くん?」

古泉「え……あぁ、はい」

ハルヒ「今日は全て古泉くんの驕りよ、全て!」

ハルヒ「今日の不思議探索は全員で周るわ。みくるちゃん、キョン、有希、必要なものがあったら古泉くんに言うのよ!」

ハルヒ「服でも食べ物でも本でも何でも言いなさい!」

朝比奈「ふえぇぇぇぇ……い、いいんでしょうかぁ?」

長門「…………」

キョン子「なんなんだ一体……」

キョン子「あと古泉……なんだそのシャツのプリントは」

“飲酒厳禁”
“反省中”

ハルヒ「ほんっとに信じられないわ! まさか古泉くんが酔っ払って私に絡んでくるなんて!」

キョン子「はぁ!?」

ハルヒ「もう最悪よ!人生相談とか言って深夜の2時まで」

ハルヒ「『僕はこれからどうなるんでしょうか』とか」

ハルヒ「『ずっと皆さんと一緒に居たいです』とか」

ハルヒ「『もしこの思いが消えてしまったらどうすれば』とか泣いたり笑ったりしながらずっと言ってくるのよ!?」

古泉「……本当に申し訳ありませんでした」

ハルヒ「古泉くんは金輪際飲酒禁止だからね! 絶対よ!」

古泉「はい……肝に銘じます」

キョン子「お前……それにずっと付き合ってやったのか?」

ハルヒ「だってこんな古泉くん初めてだったし、わざわざ私に電話してきたのを放り出すわけにもいかないじゃない」

ハルヒ「まぁ最後は私も意味わかんなくなっちゃってね」

ハルヒ「『古泉一樹はSOS団の副団長で、SOS団の思い出を忘れるなんて私が許さない!』って言ったのよ」

キョン子「ふぅん……それで?」

ハルヒ「……なんか眠くなってきたとか言って寝たわ」

ハルヒ「さすがに私もぶん殴りに行こうかと思ったわね、あれは」

キョン子「堪えたのか……凄いな」

ハルヒ「深夜だったし。それに今日とっことんお金使わせるからいいわ」

~デパート~

ハルヒ「みくるちゃん、この服なんか似合うんじゃない!?」

みくる「あ……本当ですね、可愛い。でも高いなぁ」

ハルヒ「いいのよ! 今日はタダなんだし!」

長門「タダではない」

ハルヒ「有希も欲しい服あったらジャンジャン言いなさい! もちろん本でも良いわよ!」

長門「…………あの棚一式でも?」

ハルヒ「いいわよ!」

古泉「勘弁してください!」

古泉「……はぁ」

キョン子「災難だな……ほれ、ジュース」

古泉「ああ、すみません。ありがとうございます」

キョン子「気にするな。どうせお前の奢りだ」

古泉「…………」

キョン子「飲まないのか?」

古泉「飲みますよ! ……はぁ」

キョン子「……お前は……どっちなんだ? 戻ったのか?」

古泉「えぇ、『元』古泉一樹の方だと思いますよ。僕が新しい人格じゃなければね」

古泉「どうやらあっちの……というのが正しいのか、昨日までの僕は上手くやってくれたようです」

古泉「涼宮さんの中では僕は酔っ払って本心を吐き出し、底知れぬ不安を吐露したことになっているみたいですね」

古泉「結果、貴女達の記憶を持つ僕が確固たる古泉一樹として戻ってきた」

古泉「……もう少し後のことを配慮して欲しかったところですが」

キョン子「贅沢言うな。あっちの古泉のおかげでお前はこうしてここに居るんだろうが」

キョン子「あ、クレープ買ってきていいか?」

古泉「……もうスイーツでも服でも好きにしてください」

キョン子「よし、全種類一口だけ齧る贅沢買いしてみるか」

古泉「すみません。常識の範囲内で好きにしてくだいさい」

キョン子「昨日までの古泉は、どうしたんだろうな」

古泉「……心配するな、と」

キョン子「ん?」

古泉「自宅で気付いたらメモが残してありました」

古泉「僕はこの二日間の記憶がほぼありませんが、彼はその間のことを列挙して残していったようです」

古泉「そして最後に『心配するな、こっちはこっちで選んだことだからなんとかする』と」

古泉「どうなったかはわかりません」

古泉「あるいは、消えてしまったのかもしれませんが、後悔だけはしてないんじゃないでしょうか」

古泉「自分のことですから、なんとなくそう思います」

キョン子「そっか……」

キョン子(……お前のそういう自分を省みない所が腹が立って……それで)

古泉「どうしました?」

キョン子「お前に昨日三万円貸したことも覚えてないのか」

古泉「それは書かれていませんでしたね」

古泉「もし事実でもこの状態の僕からさらに毟り取ろうとする貴女の人間性を疑いますよ」

キョン子「私には恩を倍返ししろと書いてなかったか?」

古泉「…………それは、書いてありましたね。そこら辺は何があったのか曖昧で……」

キョン子「何て書いてあったんだ?」

古泉「かなりいい加減でしたよ。貴女と公園に行った、僕に戻る決心をした、ぐらいで」

古泉「なにがあったか教えて頂けると助かるのですが」

キョン子「そうかぁ、お前は昨日のこと何も覚えてないのと一緒かー。あんなことも覚えてないのかー」

古泉「……なんでしょう。その勝ち誇ったような顔……正直かなり不愉快ですね」

キョン子「ま、一つ言えるのはお前は週明け、谷口から恨まれてるってことだな」

古泉「それも書いてありませんでしたね……事項が微妙過ぎて怒る気にもなれませんが」

ハルヒ「キョンー、古泉くーん、何座ってんの! 買い物……不思議探しはまだまだこれからよ!」

キョン子「よし、次は何を買うかな」

古泉「これ、経費で落ちますかね……」

古泉「ああ、それともう一つメッセージがありました」

キョン子「ん? 何だ?」

古泉「『わかっていると思うが二重の意味で手強いから、その道を行くなら覚悟しておけ』と」

キョン子「は? なんだそりゃ? 新しい脅威の予言か何かか?」

古泉「……なるほど、えぇ、わかってました」

古泉「行きますか、涼宮さん達を待たせても悪いですし」

キョン子「? 何だったんだよ? まぁ……行くか」

古泉「ああ、でも貴女のメイド姿が見れなかったのは確かに残念ですね」

キョン子「……は?」

古泉「見たかったですね。今度僕の前だけで着てくれませんか?」

キョン子「なに言ってんだお前、ちょ、顔が近いんだよ……!」

古泉「くく、冗談ですよ。さっきの勝ち誇った顔のお返しです」

古泉「――――すみません、思いっきり脛を蹴るのはやめてください。本当に痛いですから」


~終わり~

終わりです
お付き合いいただきありがとうございました!

>>61
若干そういう感じも混じってるかなぁ……って書いたつもりです
一番仲の良い友達が自分と遊ぶ時間より他の人と遊ぶ方が楽しそうなのが面白くない……みたいな
お姉ちゃんがかまってくれなくなった妹みたいな
まぁ書けませんでしたけど

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