キョン「9マイルは遠すぎる」 (16)
それはどんよりとした雲が立ち込め、降りしきる雨が今にも雪になりそうな寒い冬の日。
定期テストが午前中に終わり、谷口と虚しく慰め合いながら迎えた放課後。
普段のように旧校舎の片隅へ特に目的もなくやって来た俺が、普段のように古泉の玉将に詰めろを掛けた瞬間だった。
ハルヒ「キョン、ちょっと電器屋行ってきて」
キョン「.........は?」
虚を突かれて将棋盤から顔を上げると、そこに広がっていたのは普段通りの部室。
長門は定位置のパイプ椅子に座って人間を撲殺できそうな分厚いハードカバーに目を落としているし、
お茶くみを終えたメイド服の天使は微笑みを浮かべながら何か編み物をしている。朝比奈さん、今日も変わらず素敵です。
悪びれもせず人に指図するこの女――――涼宮ハルヒについても、いつもと変わった様子はなかった。
ハルヒ「だから電器屋に行ってこいって言ってるのよ」
キョン「いや、唐突すぎて訳がわからないぞ。どこへ?どうして?」
ハルヒ「映画でCM打ってもらったところからこの前ストーブを貰ってきたでしょ?えーっと......」
キョン「大森電器のことか?」
ハルヒ「そうそう。そのストーブの調子が最近悪いのよねぇ」ガンガン
誰かさんがその熱源を独り占めするせいで俺たち廊下側はその恩恵に全くあずかれていないわけだが、それは一旦置いておこう。
曲がりなりにも貰い物であるストーブをハルヒが叩きつけるが、確かに動作していないようだ。
ハルヒ「だから、そのなんちゃら電器で直してもらってきなさい」
キョン「なんで俺が?!お前しか使ってないんだからお前が行けばいいだろ」
キョン「第一この雨の中そんなもん持ったら傘がさせねーだろうが」
ハルヒ「却下。雑用としての責務はちゃんと果たしなさいよ」
キョン「あそこじゃないとダメなのか?そんなに遠出しなくても、修理してくれる店くらい近場にもあるぜ」
ハルヒ「だーめ。スポンサーとは良好な関係を築いておかなくちゃね」
キョン「はぁ」
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ちらりと目線をやって他の面子に助けを求める。
長門、無反応。こちらを見ようともしていない。
朝比奈さん。あたふたする様子は目の保養にもってこいだが、少なくとも現状打開の策は持ち合わせていないようだ。
古泉......ダメだ。こいつのニヤケ面を見るだけでこれ以上の抵抗をする気も失せてしまった。
ハルヒ「ついでに買い出しもお願い。これとこれとこれと、それから――――」
キョン「――――待て待て。ストーブだけならまだしも、そりゃ俺だけじゃ無理だ」
キョン「せめてあと一人くらい居てくれないと持ちきれん」
ハルヒ「誇りあるSOS団員としてあるまじき貧弱さね......ま、いいわ」
この傍若無人の権化は大きく溜息を吐くと、大袈裟に部室の中を見渡す。
その視線が想像通りイエスマンの方を向いた所で止まると、そいつも立ち上がって仰々しくお辞儀した。
ハルヒ「そうねぇ......古泉くん!」
古泉「畏まりました」スッ
キョン「どうせなら朝比奈さんと一緒が良かったぜ」
古泉「おや。たまにはこうして男二人で外出というのも悪くないでしょう?」ズッ
キョン「やめろ必要以上に近づくな距離を保ってくれ気持ち悪い」
古泉「やれやれ、相変わらず手厳しいですね」
「途中で道草食うんじゃないわよ!」という喝が、部屋を出ていく俺たちを送った。
古泉「ふむ。これで全部ですね」
キョン「電池はどうした?」
古泉「あなたが修理の依頼をしている間に買っておきましたよ」
キョン「抜け目のないやつめ」
古泉に傘を持ってもらったお陰で濡れずには済んだが、何とも気色悪いひとときを過ごした俺だ。
それから大きなお荷物を店主に預け、買い物リスト全てにチェックマークが着いた頃に経過していた時間は一時間半。
正直もう少し掛かるだろうと思っていたから嬉しい誤算ではあるが、これからのことを想像すればそれも半減というものだ。
何せこれから部室へ帰るために寒空の下、住宅街を数キロと長い坂をえっちらおっちら歩かなければならんのだからな。
キョン「あーあ、やってらんねーぜ......なあ古泉、このあたりで茶でもしていかないか?」
古泉「確かに僕もそうしたいのは山々ですが、涼宮さんの――――」
「意向に反するわけにはいかない」とでも続けようとしたのだろう。しかし古泉は腕時計に目をやると、わざとらしく右手を顎にやって何やら考え事をした。
数瞬してヤツの口から飛び出たのは、意外にもこいつらが言うところの『神様』に逆らう発言だった。
古泉「良いでしょう。たまにはゆっくりしましょうか」
キョン「――――それで佐々木は言ったんだ」
佐々木『君は与えられた情報から理路整然と事実を推察することには長けている』
佐々木『ただ、何かを仮定することが苦手なのさ』
キョン「ってな」ズズッ
キョン「......うえっ、冷めちまった」
佐々木と同じ塾に通っていた頃、あいつは何度か俺に『推理ゲーム』なるものを出題していた。
立ち寄った喫茶店で、古泉から佐々木についての事を聞かれた――『機関』がどうって話じゃない。野郎同士の与太話だ――俺は、それを語りながら懐古に浸っていた。
古泉「おかわりでも頼みますか?」
キョン「いや、生憎修理代を払ったせいで財布が空っぽだ」
古泉「それはそれは」
これはお前に対する恨み節でもあるんだぜ、古泉。
しかし買い出し費用の大半を持ってもらった手前、電器店での出費について表立って言うことは出来なかった。
古泉「しかし、やはり佐々木さんは非常に面白い方だ」
キョン「そんなに興味があるなら紹介してやろうか?橘たちもセットだろうが」
古泉「それは適いませんね。またの機会ということにしておきましょう」
そう言ってこのニヤケ面は、ストローからコップの中を満たしている褐色の液体を吸い上げた。
こんな季節に何故かこいつはアイスティーを注文し、ウェイターが去ってから漸く「しまった」とでも言いたげに肩をすくめたのだった。
古泉「......確かに『正しく仮定する』というのは非常に重要なことです。ことさら推理においては」
キョン「イマイチ解らん。具体的に説明しろ」
古泉「彼女の作った『推理ゲーム』は非常に実践的なものだったという事です」
古泉「推理小説においては、謎を解く為に必要な情報を事前に読者へ全て提示しないのはルール違反とされています」
古泉「しかし現実は違う。実際の探偵は、不十分な情報に仮定を組み合わせなければ真実へ辿り着くことはできないのですよ」
キョン「.........?」
古泉「おや、少々解りづらかったですか.........ではこれならばどうですか」
古泉「ゲームをしませんか?あなたが何か一つ短い文章を作る。それを元に僕が状況を推理しましょう」
キョン「文章?」
古泉「ええ、文章です。原稿用紙一行分くらいで構いませんよ」
そう言って古泉は立ち上がると、通路際に置いてあった伝票を自分の側に寄せた。
古泉「考えておいてください。僕がこれを払ってくる間にね」
うざったいウインクと共にレジへ向かう古泉。俺は取り敢えず荷物を半分持って店から出ることにした。
古泉の衒学趣味には毎回飽き飽きさせられるが......やれやれ、今回はそこまで悪くも無さそうだな。
ガラス戸のベルを鳴らしてそいつが姿を現した頃には、俺の頭には一つのフレーズが不自然なほど自然に降りてきていた。
古泉「どうですか。思いつきましたか?」
キョン「なんというか、ふと頭に浮かんできたんだけどな――――」
『一時間三十分は遠すぎる。ましてや雨の中となれば尚更だ』
キョン「――――ってのはどうだ」
古泉「待ってください。ふむ......『一時間三十分は遠すぎる。ましてや雨の中となれば尚更だ』ですね?」
キョン「ああ」
古泉「これは困った。手掛かりはあまり無いようですね」
キョン「だがお前が言った通り原稿用紙一行分くらいだ。少しはみ出ちまったが」
古泉「これは誰かの発言ということでいいのでしょうか?」
キョン「うーん......まぁ、そうだろうな」
古泉の顔から嘘臭いスマイルが薄れる。こういう時のこいつは決まって、幾分真剣に何かを考えているのだ。
しかし、それもやがて合点がいったと言わんばかりに元に戻った。
古泉「なるほど、分かりました」
何がなるほどなのかはよく解らんが、少なくともしたり顔でこんなことを持ちかけてきたことは確かだ。
古泉「ところで賭けをしませんか。負けたほうががジュースを一本ということで」
キョン「それは構わんが、どうやって勝敗を決めるんだ?」
古泉「あなたが感心して『参った』と思ったらあなたの負け。そうでなければ僕の負けで良いでしょう」
キョン「おいおい、本当にそれで良いのか」
古泉「はい。勿論ですよ」ニコッ
高校に向けての長い復路を歩き出した頃には、幸運にも雨は既に止んでいた。
それにホッとする俺の様子を伺って、古泉がこう話を切り出す。
古泉「早速ですが、まず第一の推理。この語り手には時間的猶予がないのでしょう」
推理1:『語り手は時間的に切迫している』
キョン「それが推理なんて高尚に呼べるなら、そうだろうな」
古泉「当たり前のことでも列挙していくのが大切なんです」
古泉「そして第二の推理。一時間三十分というのは相当正確な数値と見なしていいでしょうね」
推理2:『<一時間三十分>は正確な時間を指す』
キョン「確かにその通りだ。『一時間三十分』っつーのは含みのある言い方だし」
古泉「これが二時間という表現であれば、そこには凡そ一時間三十分から二時間三十分くらいまでの幅があります」
古泉「もしくは一時間半と言っても、一時間三十分から前後十分くらいの大雑把さはあるでしょう」
キョン「そこをご丁寧にも、わざわざ『三十分』とまで言ってくれているわけだ」
古泉「いかにも」
推理っつーのはこんなに当然のことを聞かされなきゃならないものなのか?
解りきった小学校くらいの授業に出席するつもりで話に付き合っていたが、俺の思考は次の話題で早くも躓いた。
古泉「そして第三の推理。語り手は歩いて何処かに行こうとしています」
推理3:『語り手は徒歩で移動する』
キョン「おいおい、ちょっと待て。それについてはもう少し説明が欲しいね」
古泉「まず前半の『一時間三十分は遠すぎる』という部分で、これが移動に関する話題であることが分かりますね」
キョン「ああ。普通なら『一時間三十分は短すぎる』とか言うだろうな」
古泉「一般には時間に対して近い・遠いといった表現は使いません――――もっとも、『遠い将来』などと書くことはあります」
古泉「ですが具体的な期間についてあえて使うとすれば、それは移動時間について言及する時です」
キョン「だが、歩いてってのはどうやって分かる?」
古泉「語り手は雨降りにうんざりしています。もしこれが自動車や電車なら、そのような事は無いと思いませんか?」
キョン「自転車かもしれないだろ」
古泉「ええ、ですからここで重要なのが第四の推理です」
推理4:『この文章は北高における発言である』
古泉「まず、何故あなたがこの文章を思いついたのか考えてみましょう。あなたは先程こう言っていましたね」
キョン「なんというか、ふと頭に浮かんできたんだけどな――――」
キョン「ああ、確かにそう言った」
古泉「何気なく頭に浮かんでくる文章というのは、こんな複雑なものにはなりません」
古泉「大抵は『わたしは牛乳が好きだ。それは健康によいから』というように、もっと単調でありふれたものになるはずです」
古泉「だからこの文章はもっと特定の状況......例えば、あなたが見聞きした内容を示すものに違いありません」
古泉「部室を出てからここまでの間にそのような機会があったでしょうか?」
古泉「ここまであなたと一緒に行動していましたが、僕が見ていた限りそんな特徴的な会話はありませんでした」
古泉「あるいは僕が喫茶店で会計をしている隙に、外で偶然耳にしたという可能性も考えられますが......」
......人通りも少なかったし、俺がたった一分か二分の間に誰かとすれ違ったとは考えにくい。ということか。
古泉「ご名答。そうなれば、あなたがこれを聞いたのは学校の中で聞いたのだという推測ができます」
古泉「周知の通り我らが母校は高い丘の上にあります。これを自転車で登り下りするのはさぞ骨が折れるでしょうねぇ」
古泉「当然運動部などにはそういった人もいるでしょうが......あなたのお知り合いに、学校まで自転車でやってくる方はいらっしゃいますか?」
俺は首で否定――――つまり、古泉の意図に対する肯定を示した。SOS団の面子や国木田、それからアホの谷口。
自転車を使っている奴でも、家から最寄りの駅か坂の下にある駐輪場に停めて、高校までは歩いてくるのが普通だ。
これらの事実によって、二つの推理は同時に解決されたことになる。
古泉「ここから更に踏み込めば、もっと環境を絞り込めますよ」
推理5:『この文章はSOS団における発言である』
古泉「今日の午前中は全て考査でしたから、あなたがご学友と交わす会話は短い休み時間くらいのはずです」
古泉「あなたが涼宮さんと試験の内容についてあれこれと話していたとは思えません」
その通りだ。ハルヒは毎回試験時間の中頃には既に机に突っ伏しているし、
終わった後に何か聞こうとしても「そんなことも解らないの?」という態度で対応されるということは去年だけで充分に学習した。
テストの合間の貴重な休み時間をわざわざ浪費してまで気力ゲージを減少させようという気にはならん。
古泉「国木田くんとそういった事を話していた可能性は否定できませんが......」
古泉「おおよそ、谷口くんとテストの出来を嘆いていたくらいでは?」
キョン「それは俺に対する嫌味か?えぇ?」
古泉「あはは、まさか。これまでの事実から予想されることを率直に話しただけです」
いや、もう一人。
こいつも薄ら寒い笑いを貼り付けておきながら地味に毒舌を吐く奴だった。完全に失念してたぜ。
古泉「そしてあなたが部室に来てから、涼宮さんによって命令が下されるまでは僕と将棋をしていましたね」
そういえば対局から始まってからしばらく、彼女らは窓際に集まって何やら会話をしていた。
声量は小さかったし俺も目の前の戦局に集中していたから、ガールズトークとかいうやつだろうと思って特段気には留めてなかったっけ。
古泉「従って、その間に女性陣――――部室に残った三人が話していたことが関係しているのではないか。と予測できます」
古泉「ここで僕は、一つの仮定を立てることにしました」
仮定:『<一時間三十分>は往復の所要時間』
古泉「つまり北高から目的地への往路だけではなく、用事を済ませて帰ってくるところまで含めた時間だということです」
キョン「その根拠は?」
古泉「さあ......勘でしょうか」
ここまで議論を積み上げてきておきながら勘だと?まさか「超能力者の勘」とか、あるいは「解ってしまうんだから仕方ない」とか言い出すんじゃないだろうな。
もしそうなら今まで付き合った時間を最低時給換算でいいから返還してほしいね。興醒めにも程度ってもんがある。
古泉「まあまあ、そう言わないでくださいよ。こうせざるを得ないのが仮定なのですから」
キョン「どういうこった」
古泉「推理、あるいは推測というのは判明している情報から帰納的に新たな情報を得る過程のこと」
古泉「そして最初にも申し上げたでしょう?それらがカバーしきれない役目を担うのが仮定です」
キョン「何の根拠もなく決めちまっても仕方ないってことか?」
古泉「端的に言えばそうなりますね」
古泉「......しかしこの仮定はきっと『正しい』と思いますよ」
キョン「一応聞いておく。何故だ?」
古泉「勘ですよ」ニヤリ
そう古泉がニヤケ面を晒したのは、俺たちのトルソーが長い坂を登りきって校門に差し掛かったのと同時だ。
昇降口で下足から上靴に履き替えると、二時間半の間に中敷きはすっかり冷たくなっていた。
俺だって試験の点数はそりゃツバメの如き低空飛行かもしれんが、地頭は悪いほうじゃない――――と思いたい。
古泉の理論がどこへ着地しようとしているのかは、何となく察しがつき始めていた。
古泉「目的を達成するのに三十分ほど掛かるとして、ここから片道三十分で行ける距離には何があるでしょうか?」
キョン「!!......ちょっと待ってろ」カチカチ
現代文明の利器というのは非常に優秀で、北高から最寄りの電器屋までの所要時間はほんの数分足らずで判明した......丁度三十分。
ここに行けばもっと少ない労力で済んだろうに、ハルヒはそれを拒んで俺と古泉を倍以上も距離のある大森電器へ出向かせたのだ。
キョン「つまりお前はこう言いたいわけだな。ハルヒたちは俺たちを学校から、たぶん部室から遠ざけたかった」
キョン「そして時間をなるべく稼ぐために、わざわざ遠くの電器屋まで徒労を掛けさせた、と」
古泉「はい。その通りです」
キョン「理屈は完全に理解できたぜ。だが一番不可解な謎が残っちまう」
古泉「どうして涼宮さんたちが、あなたと僕に二時間半も席を外させたかということですね」
キョン「そうだ。ハルヒが奇行に走ってるってのが第一に考えられることだが――――」
古泉「彼女がそういった事をする時、わざわざ僕たちを遠ざけるでしょうか?」
キョン「いいや。あいつは俺たちが居ようが居まいが構わず実行する女だからな」
古泉「僕もそう思います」
キョン「となると......うーん、さっぱり解らん!」
俺はここで考えることを放棄した。古泉の推理が本当だとすればハルヒが何かを企んでいることは確かだが、それを知る術はない。
だがそもそも、そんなに物事が上手くいくものだろうか?こいつがいつも通りの悪い癖で要らぬことまで考えてしまっただけだとする方が自然だ。
そうこうしているうちに、俺と古泉は再び部室の前に立っていた。
コンコン
「どうぞー!」
古泉「そうだ、僕はコーヒーの無糖でいいです」
キョン「......は?」
古泉(ごめんなさい。この賭けは最初から僕の勝ちだったのですよ)
古泉(なにせ......ふふっ)
そんな発言とは関係なく、俺の右手は古びたドアノブを回して――――
「ハッピーバースデー!」
――――破裂音と紙吹雪が俺を迎えた。
〜〜〜朝〜〜〜
我らが団長から直々のお呼び出し。
慌てて部室に赴くと、既に彼以外の団員は到着しているようでした。
ガチャッ
古泉「どうも、おはようございます」
ハルヒ「おっはよー古泉くん!うんうん、全員揃ったわね」
みくる「あれ?でも、まだキョンくんが来てないような......」
ハルヒ「それはいいのよ。キョンは呼んでないから」
ハルヒ「わざわざこんな朝からみんなに集まってもらったのは、明日の団活についてよ」
古泉「明日の、ですか。今日ではなく」
ハルヒ「私も最近知ったんだけど、明日ってキョンの誕生日らしいのよね......」
ハルヒ「よって明日はキョンの誕生日パーティーをやります!」
ハルヒ「今日は私があーだこーだ言ってキョンを早めに帰らせるから、みんなで買い出しと準備をするわよ」
みくる「わぁ!楽しそうですねぇ!」
長門「お菓子」
古泉「しかし、どうして急にそのような事を?」
ハルヒ「うーん、特に理由はないんだけど......いっつも迷惑かけちゃってるから」
ハルヒ「それで......オッホン、たまには、アイツを労ってやってもいいかなーって思ったのよ」
古泉「なるほど」ニヤニヤ
みくる「涼宮さん、素敵です」ニヤニヤ
ハルヒ「なっ、なによ!///」
ハルヒ「言っとくけど、次はみんなの分もやるからね!//」
古泉「承知しております」ニヤニヤ
ハルヒ「何よ、まったく......」プスー
長門「......今日」
ハルヒ「ん?」
みくる「長門さん、どうしたんですかぁ?」
長門「彼の誕生日は今日」
「「「えぇぇぇ?!?!」」」
ハルヒ「ちょ、ちょっと!みくるちゃんどうしよう?!」ワタワタ
みくる「えぇ、えぇーっと......」アタフタ
古泉(長門さん、どうにかできませんか?)ヒソヒソ
長門(情報操作によってこの問題を解決することは容易。しかし......)ヒソヒソ
古泉(しかし?)ヒソヒソ
長門(......あなたたちは本当にそれで構わない?)ヒソヒソ
古泉(た、確かに......)ヒソヒソ
古泉(困った。涼宮さんが不機嫌になれば久しぶりの閉鎖空間発生に繋がりかねません)
古泉(何よりせっかくの彼女の想いを無駄にするわけには......そうだ)
古泉「では涼宮さん、こうしませんか?」
僕が提案した作戦はこうでした。
何らかの理由をつけて、僕が彼を長時間連れ出します。
その間に涼宮さんと長門さん、朝比奈さんが大急ぎで近くの商店へ買い出しに行き、部屋のセッティングを済ませてしまうのです。
古泉「そして肝心の連れ出す要件ですが......皆さん、何かいい案はありませんか」
「「.........」」
長門「ストーブの修理に行かせればいい」
ハルヒ「でも有希、修理なんていっても別に壊れてもいないわよ」
長門「これから壊す」
みくる「壊すって......」
古泉「しかし、下手な壊し方では電器屋の方にバレてしまうのでは?」
長門「......バレないように壊す」
キーンコーンカーンコーン
その時旧校舎中に響き渡ったのは始業を五分後に控えていることを意味する余鈴。
最早、これ以上相談する時間は残されてはいませんでした。
ハルヒ「じゃあそーいうことで!詳しいことは放課後に考えましょう!」
ハルヒ「それじゃ解散!またね!」バタバタ
みくる「......行っちゃいましたね、涼宮さん」
古泉「そうですね.........はぁ、また骨が折れそうです」
古泉「やれやれ」
完
元ネタはハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』でした。
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