勇者「長老、なんかこの剣喋ってない?」長老「なんじゃと」聖剣「……」 (288)





勇者「長老、なんかこの剣喋ってない?」長老「なんじゃと」聖剣「……」

↑のつづき

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VIPから移動してきました
よろしくです

sagaでワロタ

乙乙
最後まで追うから頑張れー
一応、何時くらいに更新する予定ですとかあらかじめ言っておけばその時間に人集まりやすくなるから安価も成立しやすくなると思うぞ

>>7
サンクス
とりあえずまた板の仕様とか確認してから書き始めるのでもう少しかかりますとだけ

王城


ガラガラ……

女騎士「う……くっ……」

女騎士「今のは……?」

魔法使い「いたた……」

女騎士「魔法使いさん!」

魔法使い「やっと死霊騎士を追い込めたと思ったのに、急に壁が……」

魔法使い「一体何があったというの」

女騎士「それは私にも……」

女騎士「死霊騎士はどこへ……」

女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士「……っ!?」


女騎士「姫! 姫は!?」

魔法使い「……見当たらない……もしかして今の崩壊に巻き込まれて……!?」

女騎士「そんなっ!」

王城、外壁沿い


ズリ…ズリ…


死霊騎士「はぁ……はぁ……!」

死霊騎士「今のは一体……」

死霊騎士「妖術師か……?」


死霊騎士「……いや、違うな。奴ならこんな方法は選ばない」

死霊騎士「……今動ける者で考えられるのは……あの男か」

死霊騎士「…………がはっ……!!」

死霊騎士「はぁ、はぁ……!」

死霊騎士「奴め……どう言うつもりだ」

死霊騎士「城への攻撃に俺を巻き込むとは……!」

死霊騎士「だから奴は……はぁ、信用ならんのだ」

ズリ…ズリ…

死霊騎士「はぁ、はぁ……」

死霊騎士「…………む?」


姫「……」


死霊騎士「……」



死霊騎士「……この国の姫か」

死霊騎士「先の爆発に巻き込まれたか。気を失っているな」

死霊騎士「……」

王都、上空

バサッ!!

勇者「はぁ、はぁ……近づいてきたな」

勇者「主よ! とりあえず城に空いてるあの穴の方向へ……!」

主「キィーーーー!」

バサバサッ、バサバサッ!


勇者「なっ……! 急にどうしたっていうんだ、主よ」

勇者「……ん?」

勇者「………………あれは……!!」

「キィーーーー!!」

バサッ!!


死霊騎士「!」


スタッ

勇者「……」


死霊騎士「……貴様は」

姫「……」


勇者「……お前、その人に何をした?」

死霊騎士「……」

勇者「気を失ってるみたいだけど。それをやったのはお前か?」


死霊騎士「……ふん」

チャキッ


勇者「ッ!」

勇者「お前……!!」

死霊騎士「安心しろ。この小娘はまだ生きている」

死霊騎士「貴様は……主君に剣を向けられ牙を剥く……その反応を見るに、この城の騎士か?」

死霊騎士「いや、貴様からはどうにもそういった騎士の類の匂いは感じられない」

死霊騎士「その腰の装備を見るに剣士であることはわかるが、何者だ?」

勇者「……」


死霊騎士「……まあ、俺にとってはどうでも良いことか」チャキッ

姫「……」


勇者「……ッ!!」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……その剣を降ろせ。いや、降ろしてくれ」

死霊騎士「……」

勇者「そのひとに手を出すのは、やめてくれ」

死霊騎士「……」

死霊騎士「……一つ、条件がある」

勇者「条件……?」

死霊騎士「貴様にとっては違うようだが、俺にとって、この小娘の命はどうでも良いものだ」

死霊騎士「死のうが生きようが頓着はしない。王族とは言え、王でないのなら興味は無い」

死霊騎士「貴様の反応次第では見逃してやっても構わんのだ」

勇者「……」

勇者「……」

死霊騎士「そう睨むな。戦に綺麗も汚いも無いとはいえ、俺も好き好んでこのやり方を選んでいる訳ではない」

死霊騎士「だが、俺はこの戦いにおいて私情は挟まん。使える物はすべて使わせてもらう。それだけの話だ」

勇者「……お前の言う、条件ってのは?」



死霊騎士「この王都に存在する、聖女とやらの居場所を教えろ」

勇者「!」

死霊騎士「先の光からも、この王都に聖女がいることはわかっている。不在という訳ではあるまい」

勇者「聖女だって……?」

勇者(何であいつの名前がここで出てくるんだ?)

勇者(そもそもこいつ、聖女に会ってどうするつもりなんだ……?)



勇者「……知らない、と言ったら?」

死霊騎士「この小娘を斬り、次に貴様を斬る。情報が引き出せないのならそれで良い」

死霊騎士「小娘にも、貴様にも利用する価値はなく、そして生かしておく理由もなくなる」

死霊騎士「ただそれだけの話だ」

勇者「…………」

勇者「……俺は…………」


勇者(どうすればいいんだ?)

勇者(奴の剣の切っ先は今も姫に向けられている。下手に動くことはできない)

勇者(聖女は今、教会で休んでいる……筈だよな)

勇者(きっと今頃、神父さんに介抱されてることだろう)

勇者(そもそもこいつは、聖女に会って何をするつもりなんだ?)

勇者(この物騒な雰囲気からして、ロクな目的じゃない気はするが……)

勇者(……)



聖剣「>>40

ちっぱいには夢が詰まってる

聖剣「ちっぱいには夢が詰まってる」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「…………」

勇者「この状況でちっぱいって……お前……」


死霊騎士「何を言っている」

勇者「何でもないぞ」

勇者(落ち着け……落ち着け……!!)

勇者(聖剣の言葉の意味を考えなければ)

勇者(ちっぱい……ちっぱい……)

勇者(ちっぱいには夢が詰まっている……か)


勇者「……」


勇者(まるで意味がわからんぞ)

勇者(語呂的に小っちゃいとおっぱいを掛け合わせた意味な気はするが……)

勇者(胸……胸……胸かぁ……)

勇者(…………)

勇者(……聖女の胸は大きかったな)

勇者(この戦いが終わったらアレをああする訳だけど、さすがの俺も少しアレだ)

勇者(対して、姫の胸は……)

チラッ


姫「……」


勇者「……」

勇者(……)

勇者(まあ、大きくは無いが……)


死霊騎士「貴様……先ほどから黙りこくってどういうつもりだ?」

死霊騎士「まさか、妙なことを考えてはいないだろうな」


勇者「!!」

勇者「この状況で妙なこととか考える余裕があるわけないだろ。一国の姫君の命がかかってるんだぞ。俺のことを何だと思ってやがる」

勇者「俺は滅茶苦茶真剣に考えてるし。せっかく人が真面目に答えを出そうと頑張ってる時に変な言いがかりをつけてくるのはやめてくれないか? お前、さすがに性格悪すぎるぞ」


死霊騎士「……」

死霊騎士「…………」

死霊騎士「……目が泳いでいるが」

勇者「そんなことないし」

死霊騎士「……」


死霊騎士「しかし……真剣に考える、か」

死霊騎士「貴様、聖女について何かを知っているのか?」

勇者「!!」

死霊騎士「これ以上遊んでいる時間はない。これが最後の問いだ」

死霊騎士「聖女の情報を吐け。吐かなければこの小娘を殺し、貴様を殺す」

勇者「……!!」


死霊騎士「……」

勇者「……」

死霊騎士「…………」

勇者「…………」



死霊騎士「……どうやら答える気は無いようだ」チャキッ

勇者「ッ!!」

勇者「ま、待てっ!!」

死霊騎士「……」


勇者(ちっぱいには夢が詰まっている……)

勇者(夢は、守るべきもの……)

勇者(聖女は…………)

勇者(姫は…………)

勇者(聖剣の、安価の意味は…………)


勇者(……………………)

勇者「……わかった」

死霊騎士「……」

勇者「お前の言う通り、確かに俺は聖女の居場所を知っている」

死霊騎士「……ほう?」



勇者「聖女の居場所を教える。だから、その剣を降ろしてくれ」

死霊騎士「……」

勇者「聖女の居場所は……」

勇者「……」


死霊騎士「……どうした。言うと決めたのであれば早く言え」

死霊騎士「俺もそう気が長い方ではない」

死霊騎士「あまりに遅いと、虚言を繕う時間を稼いでいると見てこの女を斬るぞ」


勇者「……!」

勇者「……教会だ」

勇者「聖女は今、この王都の教会で身を休めている」

死霊騎士「……」



死霊騎士「教会……」

勇者「聖女の居場所は答えた……これで十分だろ」

勇者「早く姫から離れてくれ」


死霊騎士「……そうだな。情報の提供には感謝しよう」

死霊騎士「だが、それを飲むことはできない」

勇者「!!」

勇者「お前……約束が違うぞ!」

死霊騎士「貴様が正直に答えている保障はどこにもないのでな」

死霊騎士「教会には行かせてもらうが、コレは預かっていく」

ガシッ

姫「……」


勇者「!!」

勇者「俺は嘘なんか吐いてない! 本当に聖女の居場所を答えた!!」

死霊騎士「そう言いながら、平然と嘘を吐くのが人間だ」

勇者「……!」

勇者「……元から姫を解放するつもりはなかったってのかよ……!」

ギリリッ……!


死霊騎士「そう睨むな。貴様の言うことが真実であるとわかれば、その時点でこの女は放してやる」

死霊騎士「もし嘘であったなら」

死霊騎士「……この先を言う必要はあるまい」

バッ!


勇者「この野郎……!!」

王都、市街


死霊騎士「……はぁ、はぁ…………」

死霊騎士「教会……そこに、聖女が……!!」

死霊騎士「…………」


「キィーーーー!!」バサッ!


死霊騎士「!」

死霊騎士「鳥……」

死霊騎士「あの男、空から俺を追って来くるか」

死霊騎士「……当然ではあるか。俺が奴を疑ったように、奴にとっても俺が本当にこの女を解放するという保障はどこにもない」

死霊騎士「この小娘の命など、俺にとっては何の価値もない」

死霊騎士「故に、殺すことに拘るつもりはないのだがな」


死霊騎士「……」

死霊騎士「……ふん、好きに追うがいい」

教会前


死霊騎士「はぁ、はぁ……!」

死霊騎士「教会……」


死霊騎士「……まさか死霊の身となってから、この建屋の門を潜ることになろうとはな」

死霊騎士「……」

バン!!


死霊騎士「……」


氷の魔女「む?」



メロンパン職人「……」

氷の魔女「……ほう」

氷の魔女「これはまた仰々しい客が来たものだ」

氷の魔女「次から次へと落ち着きのない……わたしが言えた口でもないが、ここは神の家ではなかったのか?」

死霊騎士「貴様は……まさか、氷の魔女か?」

氷の魔女「そうだとしたら、どうする?」

死霊騎士「何故そのような袋に入っている」

氷の魔女「……」

氷の魔女「…………」

氷の魔女「………………ところで、このような場所に何の用だ?」

氷の魔女「ここは貴様のような魔物とは特に無縁の場所と思うが」


死霊騎士「……」

死霊騎士「……聖女はどこにいる」

氷の魔女「聖女だと?」

死霊騎士「我々がこの王都に来た目的だ」

死霊騎士「本来ならば貴様も担うべき役割だった筈だ。俺の問いに答えろ」

氷の魔女「……」

氷の魔女「ふふっ。これは……」

死霊騎士「……何がおかしい」

氷の魔女「お前も聖女が目的か。死霊の騎士よ」

死霊騎士「お前も、だと?」

氷の魔女「いやなに、つい先ほども聖女を狙い現れた男がいてな」

死霊騎士「……」

氷の魔女「聖女ならばここにはいないぞ。既に、フードの……わたしの封印を解いたあの食えない男が攫って行った後だ」

死霊騎士「!!」

氷の魔女「一足遅かったようだな、死霊の騎士。まあ、奴もお前の同胞なのだろうがな」

死霊騎士「奴が……」

死霊騎士「……」


死霊騎士(……既に聖女を手に入れたと言うのならば良い)

死霊騎士(奴も我々と目的を同じくして動いている)

死霊騎士(既にここを後にしていると言うのなら、魔将軍殿のもとへ連れ帰っている筈だ)

死霊騎士(気に入らん男だが……そこだけは信用してやってもいい)

死霊騎士(……だが。)

死霊騎士(ならば何故、奴はあの場面で俺を巻き込み城を攻撃した?)

死霊騎士(無駄なことはしない男だ。王都に攻め入る際も、暗躍はしても自らの動きは最低限としようとしていた)

死霊騎士(聖女を手に入れるために城を攻撃する必要はあったのか?)

死霊騎士(……俺を攻撃するためか?)

死霊騎士(奴は俺を……魔将軍殿の配下であるこの俺を、消そうとでも考えていたと言うのか?)

死霊騎士(……やはり、あの男は……!!)

死霊騎士「…………」

死霊騎士「……ふん」


姫「……」ドサッ


氷の魔女「なんだこれは」

死霊騎士「……用済みの荷だ。興味もない」

死霊騎士「邪魔なのでな。ここに捨ておくことにする」

死霊騎士「聖女を奪えたと言うのなら、俺もこの都市に用は無い」

死霊騎士「王の首を獲れなかったのは一つ惜しいが……俺も万全ではないのでな。ここは一度退かせてもらう」

氷の魔女「そうか」

氷の魔女「止めはしない。お前に用もない。お前もわたしに用がないのなら、立ち去るが良い」

死霊騎士「……」


死霊騎士「……」

氷の魔女「……どうした。行かぬのか」


死霊騎士「氷の魔女。我らの下に付く気はないか?」

氷の魔女「……」

死霊騎士「貴様ほどの者を埋れさせているのも勿体のない話だ」

死霊騎士「一度失態を犯したとは言え、その力にはまだ利用価値がある」

死霊騎士「その無様な姿も、人間に敗れ封印されているのだろう」

死霊騎士「我らの下に来るならば、今ここで解放してやらんでもない」

氷の魔女「……」

氷の魔女「……」

死霊騎士「……」


氷の魔女「お前は馬鹿なのか。わたしのことを舐めすぎだ」

死霊騎士「……」

氷の魔女「勘違いされては困る。わたしは確かにお前たちに力を貸してやろうとしていたが、お前たちの配下になったつもりは一度もない」

氷の魔女「何よりわたしは命令されるのが嫌いだ。誰の下にもつく気はない」

氷の魔女「……お前は運が良いな」

氷の魔女「もしもわたしに力が戻っていたなら、今この場でその霊魂ごと氷漬けにして、海に流して魚の餌にでもしてしまっているところだ」


死霊騎士「……」

死霊騎士「……なるほど。貴様の答えはよくわかった」

死霊騎士「魔女よ。こちらの側に付かぬと言うならそれで良い」

死霊騎士「……だが、その立ち位置。いつまでも通せるものとは思うなよ」

ジャキッ


氷の魔女「……このわたしに剣を向けるか」

死霊騎士「いずれ、我らの王が復活する」

死霊騎士「この先、人と魔族の対立はより激しくなるだろう」

死霊騎士「その際……人にも付かぬ、魔族の側にも付かぬ。そのような半端者と相容れることはない」

死霊騎士「邪魔なだけだ」

氷の魔女「……」


死霊騎士「この程度で貴様を殺せると思ってはいないが……」

死霊騎士「俺も、今回は思うように事が進まず苛ついている」

死霊騎士「不死の女とて肉は斬れる。それでこの気が紛れるか、試してみるのも一興か」

死霊騎士「まずはその首を落とし、その次はどうしてやろうか」

死霊騎士「不死者とはどこまで刻んでも生を維持できるものなのか」

死霊騎士「良い機会だ。この俺が見定めてやろう」

チャキ……


氷の魔女「……!!」

バン!!



死霊騎士「!」

氷の魔女「!」



勇者「はぁ、はぁ……!!」

死霊騎士「……貴様か。小僧」


勇者「お前……姫はどうしたっ?」

死霊騎士「……そこにいる。俺にとってはもうどうでも良いものだ」

死霊騎士「連れて行くなら好きにすると良い。今なら見逃してやる」

勇者「姫っ!」タタタッ

姫「……」

勇者「良かった……無事か……」


勇者「……ついでに聞くが、聖女はどうした」

死霊騎士「答える義理はないな」

勇者「……」

勇者「あいつにも無事でいて貰わなきゃ俺が困るんだが」

勇者「……まあいいや。お前が姫を解放したってんなら、話は早い」

勇者「これでようやく、俺も剣が振るえる」

勇者「後悔するなよ。後で返せって言われても、姫は渡してやらないからな」


死霊騎士「貴様のような小僧が俺に挑むだと……?」

死霊騎士「……構わないが。命が惜しくないようだな」

死霊騎士「拾えた筈の命を、わざわざ捨てに来るとはな」チャキッ

勇者「……」

勇者「……」


勇者「……ん?」


勇者(なんだ? あの物陰)

勇者(……下に、何か転がってるのか?)


勇者「……」


勇者「……」


勇者「床に何かが、拡がって……」


勇者「……血?」

勇者「誰が……!」

勇者「あれは、誰の血だ……!?」

バッ!



メロンパン職人「……」



勇者「……」

勇者「……」


勇者「…………」


勇者「……………………!!!」




勇者「……これやったの、お前か?」

死霊騎士「何の話だ」

勇者「……」

勇者「メロンパン職人……」

勇者「……まだ、息はあるな」

勇者「……」

勇者「……もうちょっとだけ頑張ってくれ」

勇者「すぐに医者まで連れてってやるからな」

勇者「……」シャラン


死霊騎士「ようやく剣を抜いたか」

死霊騎士「俺も万全とは行かないが……貴様のような小僧一匹捻る程度、造作もない」

死霊騎士「身の程を弁えないということが、時にどうなるか。その身に––––––––」


死霊騎士「––––––––ッ!!?」



ギィィィィィィン!!!

死霊騎士「き、貴様……!!」

ギリギリ……!!

勇者「時間がないんだから、ごちゃごちゃ喋ってるなよ」


ギィン! ガァン! ガギィン!

死霊騎士「はぁ、はぁ……!!」

勇者「……ッ!!」


ギィィィン!!


死霊騎士「ぐっ……!」ズザァッ!

死霊騎士「貴様、一体……」

死霊騎士「はぁ、はぁ……!」


死霊騎士「ッ!!!」


死霊騎士「その剣は……!!」

死霊騎士「…………」

死霊騎士「……そうか……そう言うことか」

死霊騎士「…………」


死霊騎士「忌々しい聖剣め……!! またも我らの前に立ち塞がるか……!!」

ギィィン!


ズザァッ!

死霊騎士「……小僧と侮るのはもうヤメだ」

死霊騎士「その聖剣の担い手だけは生かしておく訳にはいかん」

死霊騎士「この俺の手で……この場で確実に葬ってやろう!!」


勇者「……ッ!!」


ガギィィィン!!

トリップテスト

平日なので今日はこの辺りで

トリップテスト

少し前


タタタッ…

傭兵「……」

傭兵「王城までもうすぐか」

傭兵「勇者はもう辿り着いている頃だろうか」

傭兵「……」


タタタッ

「キィーーーー!!」バサッ!

傭兵「!」



傭兵「あの鳥は……主か?」

傭兵「上に乗っているのは勇者と思うが……教会の方向へと引き返しているな」

傭兵「……何があった?」

王城、崩壊部


女騎士「姫……姫っ!」

女騎士「どこにいるのですか! 返事をしてくださいっ!」

魔法使い「はぁ、はぁ……この辺りは調べ尽くしたけれど……」

魔法使い「瓦礫の下になっていないのがわかったのは幸いかしら」

魔法使い「でも、ここまで探して見つからないとなると……」

女騎士「……もしかして、城の外に……?」



「キィーーーー!!」バサッ!

女騎士「!」

魔法使い「!」

魔法使い「……何あの、大きな鳥」

女騎士「あれは……勇者さんの鳥!!」

魔法使い「勇者の……?」

魔法使い「王城から離れていくように飛んでいるみたいだけど」

女騎士「……」

教会


ギャリィィィン!!


勇者「……ッ!!」

死霊騎士「ぐっ……!!」


ギリギリ……!


勇者「おおッ!!」

死霊騎士「……ぬぅッ!!」


ガァン!!


ズザァッ!

死霊騎士(聖剣……)

死霊騎士(今の俺の状態では一太刀でも浴びるのは不味い)

死霊騎士(一撃一撃は確かに重い……)

死霊騎士(だが、それまでだ)

死霊騎士(重いだけで、受け切れないわけではない)

死霊騎士(耐えて、機を伺えば……!!)

勇者「はぁ、はぁ」

勇者(聖女の聖言の影響か。こいつ、なんか弱ってるみたいだ)

勇者(おかげで何とか押せてはいるけど、こっちの当てたい攻撃が通らない)

勇者(力任せに行ってもいなされる……)

勇者(……訓練場で女騎士を相手にしてた時に近い感覚だ)

勇者(技量の差ってやつか)

勇者(認めたくないけど、あいつの方が俺よりも上手だ……!)

勇者(……けど)

勇者(今は弱音なんか吐いてる場合じゃない)


勇者「……」チャキッ

死霊騎士「……」


勇者「今さら無い物ねだりをしたって仕方ない」

勇者「今は、俺が持ってる全部を使ってお前を倒さなきゃいけないんだ」


勇者「……聖剣よ! 俺を導いてくれ!」

勇者「あいつを倒す方法を!」


聖剣「>>155

st

スカートめくりの要領で

聖剣「スカートめくりの要領で」

勇者「……スカートめくりだと?」

勇者(スカートめくりって、あのスカートめくりか)

勇者(女の子のパンティを見るために、こう。ペラッと)

勇者(……それがこの戦いに何の関係があるって言うんだよ)

ギィン!


勇者「おい、お前!」

死霊騎士「何だ」

勇者「スカート履いたことってあるか?」

死霊騎士「……貴様は俺を馬鹿にしているのか?」

ガギィン!!


勇者「くっ!」

勇者(確かにスカートめくりの要領とは言ったが、相手のスカート履いたことの有る無しは関係なかったか)

勇者(スカートめくりの要領って……何だ?)

勇者(パッと見、重要そうって思うのは敵の不意を突くって辺りか?)

勇者(……いや、それだけの話じゃないか)

勇者(もっとその裏を読め)

勇者(安価の真意を深く掘り下げるんだ……!)

ガギィン!


勇者(こっそり相手に忍び寄り、思い切りよく下から上へと手を振り上げる)

勇者(大切なのは、踏み込みの速さ……間合いの管理……機を伺い、何事にも動じない精神力)

勇者(そして……この体を動かすその心、か)

勇者(……)

ガァン!

ズザッ!

勇者「……」


勇者「…………」


勇者「………………」


勇者「…………––––––––」チャキッ



死霊騎士「!」


死霊騎士(奴の醸す雰囲気が変わった……?)

死霊騎士(先ほどまでの、勢いに任せた荒々しい剣とは違う)

死霊騎士(奴に、何があった……?)

勇者「……」


勇者(集中だ……集中しろ……)

勇者(俺にスカートめくりの経験はない。けれど、イメージだけはできるだけ正確に思い浮かべるんだ)


勇者(奴の腰回りにスカートの姿を幻視しろ)

勇者(死霊騎士はスカートを履いている……あいつはスカートを履いた可憐な女の子だ……)

勇者(白い膝裏、眩しい太もも。そして膝上15センチのスカート……)

勇者(俺は今、見たいんだ。そのスカートをめくった)

勇者(その先にある、神秘の領域を……!)


勇者「………………」ギンッ!


死霊騎士「ッ!!」

死霊騎士(……あの目は何だ?)

死霊騎士(この俺が……どこか悍ましさすら感じている……!)


死霊騎士(こちらの隙を伺っているのか)

死霊騎士(獲物の隙を見逃さず、一刀のもとに斬り伏せる……そのような、確かな鉄の意志を秘めている)

死霊騎士(……ああいう目をした手合いは厄介だ。それが聖剣の使い手ともなれば)

死霊騎士(この俺と言えど僅かな隙を見せればやられる、か)


死霊騎士(……)

ジャキッ

勇者「…………」


死霊騎士「…………」



勇者「…………」


死霊騎士「…………」



ジリ……ジリ……!

勇者「…………」


死霊騎士「…………」






ガチャッ!

傭兵「勇者!」




死霊騎士「ッ!? 新手か!?」


勇者「…………」

勇者「––––––––隙を見せたな?」


勇者「……!!」

––––––––ザッ!


死霊騎士「!! 貴様、いつの間に––––––––!!」


勇者「…………」

死霊騎士(この男、視界の下に潜り込むように!?)



ズバッ!!

死霊騎士「…………」

ドサッ


勇者「……」


勇者「……スカートめくりに必要なのは、小手先だけの技術なんかじゃない」

勇者「最も真価を問われるのは、機会を見逃さない眼力。そして失敗を恐れない勇気」

勇者「何より、それを見たいと思うその心こそが大切なんだなって」

勇者「……俺、この戦いで学ばされた気がするよ」

––––––––キンッ


傭兵「君は何を言っているんだ」

死霊騎士「グ……グオオオオ……!!」


勇者「!」

死霊騎士「認めん……認めんぞ……!!」


勇者「浅かったか……!」

勇者(スカートめくり風な斬り方に拘り過ぎたか……?)

ブワッ!!


勇者「!!」

傭兵「これは……!」

勇者「死霊騎士の鎧から……黒い何かが抜け出ていく……!」

傭兵「……勇者、気を付けろ。あの黒い霧……一所に集まり始めている」



シュゥゥゥゥ……!!

巨大死霊『聖剣の勇者……貴様だけはぁ……!!』



勇者「……」

勇者「いや、デカすぎだろ。どう見てもあの鎧に収まる容量超えてるってば」

傭兵「そんなことを言っている場合か! ここは一旦退くぞ!」

勇者「……それは出来ない」

傭兵「何を……!」

勇者「この教会には姫が……メロンパン職人がいる」

傭兵「!」

勇者「メロンパン職人の奴、怪我してるんだ」

勇者「傭兵、俺があいつを引き付けてる間に姫とメロンパン職人を安全な所まで運んでくれないか」

勇者「出来ればそいつは、治療を受けられる場所まで運んでもらえるとありがたい」


勇者「……頼めるか?」

傭兵「……」

傭兵「君ひとりで奴を相手にすると?」

勇者「ああ」

傭兵「……大丈夫なのか?」

勇者「やってみれば何とかなるだろ」

傭兵「……」


傭兵「…………はぁ。」

傭兵「どの道、私の剣では奴に傷を付けることは叶わないだろうな」

傭兵「わかった。奴のことは君に任せる」

傭兵「姫とメロンパン職人は私が責任を持って安全な場所まで運んでおこう」

傭兵「メロンパン職人には応急でも手当てが必要みたいだ。君にその心得は無さそうだしな」

勇者「……ありがとう。二人を頼む」

巨大死霊『––––––––勇者ァァァ!!!』


傭兵「!」

勇者「行けっ!!」


傭兵「……ッ」


タタタッ……

ドォン!! ドゴォン!!


勇者「はぁ、はぁ……!」

巨大死霊『オオオオオオオオオオオ!!!』


ドガァン!!

パラパラ……


勇者「はぁ、はぁ……何だ、お前。でっかくなってから攻撃が随分と大振りになったな」

勇者「周りのことも見えてなさそうだし、冷静も失ってる」

勇者「さっきの騎士姿の時の方がよっぽど強そうに見えてたぞ」


巨大死霊『黙れぇ!!!』


ドォン!!

パラパラパラ……!

巨大死霊『はぁ、はぁ……潰れたか?』



「キィーーーー!!」

バサッ!


巨大死霊『!!』


巨大死霊騎士『上か!!』

勇者「うおおお!!」


ズバッ!!

巨大死霊『グオオオオ……!!』


勇者「はぁ、はぁ……」

勇者「そのデカさだと、聖剣の長さじゃ深い所まで届かないか」

勇者「……主よ!!」

勇者「突撃だ。あいつの上から頭目掛けて、そのまま急降下してくれ!」

主「キィ……!」

バサッ!

勇者「……」


巨大死霊『ウオオオオオオ!! 勇者ァァァ!!』


勇者「……これで最後だ」

勇者「その頭っから、ぶった斬ってやる……!」

勇者「主よ!」


主「……!」


バササッ!!

––––––––ビュン!!

主「…………!!!」

勇者「…………!!!」


巨大死霊『オオオオオオオオオオオ!!』ガバッ!!


勇者「…………今だ!!」

勇者「主!! 聖剣に!!」

主「––––––––!!」


カッ!!


巨大死霊『何っ!?』

勇者「おおおおおおッ!!!」

聖剣「––––––––」メラメラ


巨大死霊『この……聖剣がぁ……!!』

巨大死霊『……勇者ァァァ!!!』


勇者「ッ!!!」



ズバァァァァァン!!!

巨大死霊『……が……はっ……!?』

巨大死霊『………………勇、者……!!!』


シュゥゥゥゥゥゥゥ……!!



勇者「……倒したか」

勇者「……」


勇者「……」


勇者「…………」


勇者「……………………」



勇者「––––––––着地のこと考えてなかった」


べちゃっ!!

トリップテスト

某所

フードの男「戻りました」

魔将軍「……」

魔将軍「それが貴様の言っていた……」

フードの男「えぇ。王都の聖女。今は気を失っていますがね」


聖女「……」


フードの男「死霊騎士殿と妖術師殿が上手い具合にやってくれたのでね。何とか私の方で回収することができました」

魔将軍「……」

魔将軍「……奴らはどうした」

フードの男「……」

魔将軍「聖女は奴らが持ってくるものと思っていたのだがな。何故貴様だけがここにいる」

フードの男「彼らは……」


フードの男「恐らく、聖剣の勇者の手により討たれたものかと」

魔将軍「!」

魔将軍「聖剣の、勇者だと?」

フードの男「貴方の知る勇者とは別物です。人間の命は魔族ほど長くはない。頭に『今代の』と付きましょう」

魔将軍「今代の……」

フードの男「人はすぐに死ぬ。聖剣だけが世に残る」

フードの男「聖剣が残っていれば新たな勇者が選ばれる。新たな勇者が選ばれたのがこのタイミングと言うのは、まるで我らの動きが見透かされているようで少し面白くありませんがね」

フードの男「私も彼らの最期を見届けた訳ではない。ただ、彼らが勇者を引き付けてくれたおかげでこうして無事に目標のものを回収できたのです」

魔将軍「……」

魔将軍「……あの二人が、か」

フードの男「心中、お察しします。彼らは今や、かつての魔王様に仕えた数少ない生き残り……今の軍の中でも貴重な古参の者達」

フードの男「今回の働きから見ても、真の忠臣と言えるものでした」

フードの男「彼らは、貴方にとっても……」


魔将軍「黙れ」

魔将軍「知ったような口を利くな。貴様に我らの何がわかる」


フードの男「……これは失礼」

フードの男「では話を戻しましょう。聖女についてです」

魔将軍「……このような人間の女が、とはな。実物を見ると、より眉唾に感じる話だ」

フードの男「しかし、その力は本物です」

フードの男「事実、王都にて勇者が妖術師殿と死霊騎士殿を追い詰めた、その鍵を握っていたのがその聖女」

フードの男「歴代の聖女の中でも高い力を持つという噂も本物です」

魔将軍「……『神の声を聞く力』を持つのだったか」

フードの男「えぇ。これまでには確認されていなかった例です」

フードの男「神の声など、特殊な祭具を用いたところで確実に聞けると言うものはそうない」

フードの男「それを自力で……生れながらにして聞き取ることができるなど、規格外に過ぎる」

フードの男「神の声なぞ、聞こえたところで本来理解できるものではない」

フードの男「聞き取る力。そしてそれを理解し、読み取ることのできる力」

フードの男「一個の人間にそれだけの容量があると言うこと事態、本来ならば到底信じ難いことなのです」

フードの男「何の祭具も無しにこのような力。歴代の聖女どころか人間、魔族全体を見渡してみても持つ者はおりますまい」

魔将軍「……」

フードの男「ひとまず、この聖女は貴方の下へ預けておきましょう」

フードの男「人間達が奪い返さんと襲ってきても、今の魔族にとって、ここほど安全な場所はそうない」

魔将軍「……貴様は?」


フードの男「個人的な用事を済ませに。少し南の方へ」

魔将軍「南だと?」

フードの男「なに、大した用ではありません。すぐに済ませて戻りましょう」

魔将軍「……」

魔将軍「……待て」

フードの男「!」


魔将軍「行くのは構わん。だがその前に、その王都で会ったという聖剣の勇者についての情報を可能な限り詳細に開示しろ」

魔将軍「聖女の扱いについても下準備が要るだろう。……あの妖術師がいないのだ。ここに残っている術師だけでは心許ない」

フードの男「……慎重ですね」

魔将軍「当然だ。……かつての聖剣の勇者に対して、我らもどこか侮りがあった。たかが人間とな」

フードの男「……」

魔将軍「今回はそのような油断はしない。失敗は許されないのだ。備えを重ねるに越したことはないだろう」


魔将軍「それと、魔王様の棺の件についてもだ」

魔将軍「貴様は情報を小出しにし過ぎる。真に我らの信用を得たいのであれば、ここでお前の知る全てを晒していけ」

フードの男「……」

勇者「……」


勇者「……」


勇者「……むっ」


ムクリ

勇者「ここは……?」

勇者「病室っぽいな……」

勇者「……」

勇者「俺、あの後、着地失敗して気を失ってたのか」



「目を覚ましたか。勇者よ」


勇者「!」

勇者「その声は……!」

勇者「どこだ? どこにいる……?」

キョロキョロ


「……下だ」


勇者「!」

ズタ袋「……」


勇者「……」


勇者「……なんでそんなところに転がってるんだ?」

ズタ袋「望んでこうなったわけではない」

ズタ袋「あの女騎士め……ベッドが足らぬと言いわたしをこのような所に放っていった」

ズタ袋「敵とは言え、わたしを誰だと思っている?」

ズタ袋「何も地べたに放り捨てて行くことはないだろうに……!」

勇者「……」

勇者「お前、なんかちょっと全体的に小汚くなってないか?」

勇者「埃っぽいと言うかなんというか」

ズタ袋「……お前たちがわたしを近くに残していることを忘れて散々暴れ回ってくれたからな」

ズタ袋「お前。傭兵にメロンパン職人と姫を運ばせたくせに、わたしのことは忘れていたな?」

勇者「……あっ」


勇者「いや、お前ならほっといても大丈夫かなって」

ズタ袋「……ふん」

勇者「……そうだ! 姫は!? メロンパン職人はどうなった!?」

ズタ袋「……」


勇者「あれからどれくらい経ったんだよ」

勇者「メロンパン職人のやつ、なんかすげえ怪我してたみたいなんだけど」

勇者「と言うか、王都は無事なのか? 下級悪魔は全部倒せたみたいだけど、残りの敵は?」

ズタ袋「……そういっぺんに捲し立てるな」

ズタ袋「メロンパン職人ならそこのベッドで寝ているだろう」

勇者「!」


メロンパン職人「……」


勇者「……」


勇者「良かった。生きてたんだな」

ズタ袋「奴にとっては取るに足らん人間だったのが幸いしたのだろう。殺すまでもないと言ったところか」

勇者「奴……」


勇者(死霊騎士のことか?)

ズタ袋「ついでにあの教会の神父も運ばれていたか」

ズタ袋「あとは…………他は知らん。面倒な。そもそも何故わたしに聞くのだ」モゾモゾ

ズタ袋「わたしは今から寝る。他のことは適当な連中にでも聞いておけ」

勇者「寝るってか。まだ夜じゃないぞ」

ズタ袋「……知ったことか。わたしと話したいのであればせめてこの袋の汚れを落とせ」

勇者「拗ねるなよ……」

……

……

ガチャッ

姫「勇者さま!」

勇者「! 姫……」

姫「目を覚ましたと聞いて来ました。ご無事で何よりです」

勇者「お、俺はいいんだけど……姫は大丈夫なのか? 包帯巻いてるみたいだけど」

姫「そんなに大した怪我ではありませんので」

勇者「そうなのか……けど、無事で良かった」


女騎士「本当は、まだ出歩かせるわけには行かないんですけどね。勇者さんが目覚めたと聞いたらどうしてもと」

勇者「女騎士……」

勇者「とりあえず、あれからどうなったか聞いてもいいか?」

勇者「死霊騎士と戦ったところまでは覚えてるんだけど、それからどうしてこうなってんのかさっぱりなんだ」

姫「……」

女騎士「では、私から……」

……

……

女騎士「––––––––という訳で、聖女様の聖言により王都を襲った悪魔達は壊滅

女騎士「首謀者と思われる死霊騎士は勇者さんの手で倒され、今回の襲撃は終わったと見て良いと思われます」

勇者「……なるほど」

女騎士「……ただ、」

勇者「?」

女騎士「……」

勇者「なんだよ」

女騎士「聖女様が……」

勇者「……」


女騎士「……聖女様が、行方不明なんです」

勇者「!?」

勇者「聖女が行方不明って……え、何。どういうこと?」

女騎士「……そのままの意味です。教会にも、どこにも。聖女様の姿が見当たらないのです」

勇者「……聖女のやつ、逃げたのか!?」

女騎士「お、落ち着いてください、勇者さん。聖女様は聖言の発動まで力を尽くしていたと聞いています」

女騎士「逃げただなんて人聞きの悪い……それこそどういうことですか」

勇者「いや、だっておかしいだろ!」

勇者「これが落ち着いてられるかよ! あの戦いが終わったら胸を揉ませてもらう約束だったんだぞ! まさかそれが嫌で行方を眩ましたっていうのか!?」


女騎士「……」

姫「……」

ズタ袋「……」

姫「……お、女騎士……これは……」

女騎士「……」


女騎士「……こほん。落ち着いてください、姫」

女騎士「例え勇者さんの言うことが本当だったとしても、あの聖女様が混乱の残る王都を置いて個人的な理由で行方を眩ますとは思えません。きっと、何か事情があったのでしょう」


女騎士「それはそれとして勇者さん。後で話があるので覚えておくように」

勇者「……あっ。」

女騎士「ひとまず、この様子では勇者さんも聖女様の居所について心当たりはないみたいですね」

姫「そう、ですね……」

勇者「俺が最後に聖女を見たのは教会だな。聖言の発動が終わって倒れちゃったんだよ」

勇者「あれからてっきり、教会で休んでるもんだと思ってたんだが……」

ズタ袋「……」

女騎士「神父さんやメロンパン職人さん……その時教会に残っていたお二人は何者かの手により重傷を負ったみたいなんです」

姫「もしかしたら、お二人なら何か事情を知っているのかもしれないですね」

勇者「二人が目を覚ますのを待つしかないか」


ズタ袋「……」

ズタ袋「……勇者」

勇者「ん? なんだよお前。寝てたんじゃなかったのか」

ズタ袋「ひとり、誰かを忘れていないか?」


ズタ袋「お前が教会を後にして、メロンパン職人と神父以外で、その後の教会の様子を知っている者だ」

勇者「俺が教会を出て、その後を知っている者……?」

勇者「……………………」


勇者「……あっ!!」

ズタ袋「気付いたか」




勇者「そういやあの時、傭兵が残ってたな」

ズタ袋「……お前、わざとか?」

ズタ袋「わざと間違えてわたしをからかっていないか?」

勇者「お前、その時の様子見てたっていうのかよ」

ズタ袋「全部見ていたぞ。メロンパン職人に手をかけ、聖女を攫っていくさま。すべてな」


勇者「……」

姫「そ、そんなっ……聖女さまが攫われた……!?」

女騎士「その者とは一体……!!」

ズタ袋「……ふ。まさかタダで教えてもらえると思っていないだろうな」

女騎士「!」

姫「!」

勇者「……」


ズタ袋「何度も言わせるな。わたしはお前たち人間とは敵対する立場にある氷の魔女だぞ」

女騎士「……!」


ズタ袋「わたしの持つ情報を知りたければ、そうさな……見返りとして」


勇者「いやもういいよ、この流れ。どうせ対価がどうのこうの言うんだろ」

ズタ袋「!?」

ズタ袋「むぅ……。わかっているようだな」

女騎士「た、対価……?」

姫「……あの伝承の氷の魔女から要求される対価……わたしたちで払えるものであればいいのですが」


ズタ袋「では、対価の話を……」

勇者「言っておくけど、めんどくさいやつはナシな。姫と女騎士も、そんな深刻に考えないでいいぞ」

ズタ袋「!?」


勇者「あんまりめんどくさい話だったらメロンパン職人とか神父さんが起きてから事情を聞けばいいんだし。二人とも、やられた奴の顔くらい見てるだろ」

女騎士「た、確かにそうですけど……」

ズタ袋「……この……!!」

ズタ袋「し、しかし、このことを知っているのはわたしだけだぞ!」

ズタ袋「メロンパン職人も神父も、下手人の顔を覚えているかわからぬのだぞ!」

勇者「じゃあお前、そいつがどこに行ったかまでわかってるのかよ。聖女の居場所とかさ」

勇者「まさか顔だけ見たとか言われても俺たちにはどうしようもないし、そんなのメロンパン職人達だって見てるはずだ」

勇者「お前がどこまで知ってるかくらい先に教えてくれよ」

ズタ袋「…………」

ズタ袋「……服装とか」


勇者「……で?」


ズタ袋「……口調とか」


勇者「……それで?」


ズタ袋「むぅ……」

ズタ袋「…………顔は、よく見えなかったな。奴は顔を隠している」

勇者「顔がわからないってことがわかったってか?」

ズタ袋「後は……そうさな。何を考えているのかわからん食えぬ男よ」

勇者「……」

ズタ袋「わたしに王都の襲撃を指示したことから魔王軍の手の者かと思っていたが、どうもそう単純な話という訳ではなさそうだ」

ズタ袋「死霊騎士達とは雰囲気が違う。言動を見るに、どうにも魔王軍の者と動きを揃えている様子が見えんと言うか、なんというか……」

勇者「なるほど」

ズタ袋「……」



勇者「教えてくれてありがとうな」

ズタ袋「…………あっ!!」

姫「氷の魔女さんに王都の襲撃を指示って……」

女騎士「えぇ。この間、勇者さんたちが北の都市から帰ってきた時のお話に出てきた、魔女の封印を解いた例の男のことかと」

勇者「厄介だな……そいつのことは、魔女もよくわからねえって言ってたし。これ以上こいつに聞いても出てくる情報は何もないだろうな」


ズタ袋「謀ったな、勇者!!」

勇者「お前が勝手に話してくれたんだろう」

姫「とにかく、このことは……」

女騎士「はい。すぐに王に報告した方が良いかと」

姫「聖女さま……ご無事だと良いのですが」

女騎士「敵の狙いは何なのでしょう……」



勇者「ちなみに相手の行き先とかまでは聞いてたりしないか?」

ズタ袋「……知らん!!」

てす

……

……


王城


王「勇者殿、よく来てくれた」

王「まずは今回の一件、礼を言わせてもらおう」

王「王都の民を。そして私の娘を守ってくれてありがとう」

勇者「王様……」

勇者「俺なんかに頭を下げないでください、王様。俺はその場その場でやれることをやっただけです」

勇者「それに、まだ全部解決した訳じゃないみたいだし……」

王「……うむ。勇者殿の話は女騎士を通して報告を受けている」


王「……聖女殿が、連れ去られたそうだな」

勇者「……」

王「それと、敵の首魁が発していた言葉……これは勇者殿だけでなく女騎士や魔法使いの報告にもあったのだが」

王「『魔王』と。奴らは確かにそう言っていたのだな?」

勇者「はい」

王「……ふむ」


勇者「魔王ってあの魔王ですよね。古の勇者の話に出てくる、この聖剣に倒されたっていう」

王「少なくとも、私はそれ以外に魔王と呼ばれる者の心当たりは無いな」

王「勇者殿とその他敵と接触した者達の証言を合わせて考えるに、奴らの狙いは聖女殿だったのではないかと私は考えている」

勇者「聖女が?」


王「今回の魔物の群れの襲撃は計画的なものと見て良いだろう」

王「同時にあれだけの数の魔物を動かし襲撃して来たこともそうだが」

王「事前に隻腕の悪魔の身体の一部を王都内に潜ませ、先の襲撃に合わせるように暴れさせ」

王「王都の結界の破壊については入念な下調べがあったのであろうことも魔法使いから聞いている」

王「奴らは、何らかの目的のために聖女殿を必要としていて、今回の大規模な襲撃を前々から企てていたのだろう」

勇者「……」

勇者「確かにあいつら。下級悪魔たちは聖女の所ばかりに群がってたな……」

勇者「俺はてっきり、あの特別な聖言ってやつを警戒して聖女を潰しに来たものだと思ってたんだけど」

勇者「実際、効き目バツグンだったみたいだし」

王「……聖女殿の特別な聖言についてはこの王都においても知る者は少ない。魔物どももその効果については知らなかった筈だ」

勇者「……最初から聖女そのものが狙いだったってことか」

勇者(おかげで聖女の胸を揉めなくなってしまった)

勇者(俺があのとき、聖女のもとを離れちゃったのが不味かったのかな)

勇者(いや、でもそれだと姫のことは守れなかったし……)

勇者(……どうすれば良かったんだ)


勇者「……」



王「……勇者殿」

勇者「!」

王「今回の件はこの国の貴族達……そして私にも責がある」

王「勇者殿一人に押し付けるつもりはない。むしろそなたは良くやってくれていた」

王「聖女殿を守れなかったのは。至らなかったのは私達でもあるのだ」

王「そう自分ばかりを責めるような顔をしないでくれ」


勇者「……」

王「兎にも角にも、先の戦いは魔王を主と仰ぐ一派……奴らからの宣戦布告と取って良いだろう」

王「今までは潜伏していたようだが、これを機にまた派手に動くことがあるかもしれない」

王「こちらは見ての通り、先の襲撃で都全体が疲弊してしまっている」

王「王都の立て直しと奴らへの対策……これから忙しくなることだろう」

王「勇者殿。また、そなたの力を借りても良いだろうか」

王「奴らに対抗するには、きっとその聖剣とそなたの力が必要になる筈だ」

勇者「……」


勇者「もちろんです。このままじゃ俺、安価達成できないし」

勇者「これ以上あいつらに好き勝手させるわけにはいかない」

勇者「俺は難しい話はよくわかんないけど……大昔の魔王がどうとか言って暴れるような連中が、今の平和な時代に出て来たんだ」

勇者「丁度それと同じタイミングで俺はこの聖剣に話しかけられた」

勇者「古の勇者が魔王を倒してからこの時代になるまで。国のド田舎の台座でずーっとダンマリ決め込んでた聖剣が、初めて次の自分の使い手を選び出した」

勇者「そこにはきっと、何か意味があると思うんです」

勇者「俺は、あいつらを何とかするためにこいつに選ばれたんだって……なんか、そんな気がするんです」

王「勇者殿……」

王「協力、感謝する」

王「その力、ありがたく頼らせてもらうとしよう」

王「まずは奴らの手から聖女殿を取り戻したい」

勇者「それは俺も同じこと考えてたんですけど……あいつ、無事なんですかね?」

王「ただ始末することが目的ならば、わざわざ生かしたまま攫い出す必要もあるまい」

王「恐らく何か……良からぬこととは思うが、何かに利用するために聖女殿が必要だったのだと思う」

王「それを達成するまでは下手に手出しはしないと考える」

王「だが、時間的な猶予がどのくらいあるかもわからん」

王「年単位で掛かるものなのか。一月掛かるものなのか。はたまた明日には済んでしまうものなのか」

勇者「とにかく一刻も早く助け出さなきゃってことですか」

王「そういうことだ」


勇者「……そうと決まれば話は早いや」

勇者「一丁行ってきますよ。聖女のやつを、助けに」

勇者「それで、俺はどこに行けばいいんです?」

王「わからん」

勇者「……ふぇ?」

王「手掛かりがないのだ。奴らもあの規模で軍を持っているとなるとどこかに拠点があるはずなのだが」

王「勇者殿は今回接触した敵から、何か居所に関する情報を得ていたりはしないか?」


勇者「………………」

勇者「……何もないです」

王「……そうか」



勇者「まさかいきなり行き詰まるとか考えてなかったんですけど」

勇者「なんか、こう、ないですかね。行き先を決めるための情報みたいなの」

王「うぅむ……」

王「最近で言えば……王都の北側と東側で魔物の動きが活発化していたという報告がある」

王「北の動きは例の氷の魔女に関するものだろう」

王「西と南の方では特に動きは見られていない」

王「何かがあるとすれば東の方だろうか……」


勇者「…………」

勇者「これだけの情報じゃあ何とも言えないな……」

勇者「どうするよ聖剣」

勇者「俺は、どう動くべきだと思う?」


聖剣「>>265

ブラジャーを探せ

聖剣「ブラジャーを探せ」

勇者「……」

聖剣「……」

勇者「……」


勇者「…………えぇ……」



勇者「ブラジャーを探すことに何の意味があるって言うんだよ」

王「? 勇者殿、どうかしたか」

勇者「……何でもありません」

昨日までの土日で話が全く進まなかったのが痛かった
板移動してスレ落ちなくなったから気が緩んだのかもしれん…
明日からもうちょい頑張るようにしたい

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