食蜂「1番幸せな時代」 (96)

食蜂「お久しぶりぃ☆」

上条「ん?……誰?」

食蜂「あはは。大丈夫大丈夫。それで正常力だから。あなたはすぐに私の事を
   忘れてしまうようになっているのよぉ」

上条「いや……でも、顔とかその蜂蜜色の髪に……なんか見覚えがあるんだよなぁ……」

食蜂「あはは……はぁ。なんていうか、ずるいわねぇ。もう可能性は無いはずなのに。
   こうやって期待を持たせてくれちゃうんだから」

上条「それに御坂と同じ常盤台の制服………………。あぁ!! そうか! あいつに似てたのか」

食蜂「あいつ……? 私と似てる子が常盤台に? そんな子居たかしら?」

上条「久しく会ってないんだけど……いやー、よく見ると凄い似てるなぁ。ひょっとしてお姉さん?」

食蜂「よく分からないけど……姉妹はいないわよ?」

上条「すっごい似てるんだけどなぁ……同じ常盤台だったら知ってると思うんだけど、
   食蜂ってやつ。レベル5の」

食蜂「……えっ?」

食蜂「い……いまなんて……」

上条「ん? 食蜂だよ。食蜂……みさきだったっけな。人に向かって記憶消去連発するような
   危ないお子様なんだけど、聞いたことないか?」

食蜂「ど……どうして……思いだして……」

上条「思い出すって……何を?」

食蜂「……う……うわぁぁぁぁあん!!!」

上条「えぇぇぇ!??? なにゆえ!??」


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――――――――――――――――――

食蜂「うぅ……ぐす」

上条「あ、あのぅ、何か気に障るような事言いました? 上条さん全力で謝りますので
   なにとぞお許しいただけないでしょうか……周りの人の視線が辛くて……」

食蜂「ふ……ふふっ……。こうやって普通に話してるだけでこんなにも昂るなんて……。
   結局、私も普通の女の子だったってわけねぇ……」

上条「お、お姉さん? どこかおかしいなら病院で診てもらいます? ここの医者は
   凄腕だからきっと精神病でも治してくれるはずだけど……」

食蜂「その失礼極まりない発言も今は心地良いのだから不思議よねぇ、
   乙女力全開中なんだろうけどぉ」

上条「あの……本当に大丈夫か?」

食蜂「えぇ、ちょっと取り乱しちゃったけど、大丈夫よ。上条さん☆」

上条「ほっ……。あれ? 俺、名前言ったっけ?」

食蜂「もぅ。確かに1年前だけど、あんなに衝撃的な出会いを忘れちゃ駄目なんだぞ☆」

上条「ん、んん? 1年前? こんな豊満なお姉さんとの出会いなら覚えているはずなんだけど……」

食蜂「体型でしか判断されないのは腹立たしいけどぉ……。
   まぁ、あの頃がちんちくりんだったのは認めるわぁ。でも、今じゃ素敵なお姉さんになったでしょ?
   ねぇ、『交差点食パン激突山頂のナンパ男』さん?」

上条「!? そ、その忌々しい呼び名は! も、もしかして……食蜂なのか?」

食蜂「改めて、お久しぶりぃ☆」

上条「う、嘘だ……。あんなお子様ボディな食蜂がこんな劇的な進化を遂げるはずが……」

食蜂「ふふん。この1年で成長したのよぉ。体も……心もね」

上条「信じられん……。あの食蜂がなぁ……」

食蜂「お眼鏡に適ったかしらぁ☆」

上条「いやー、立派になったなぁ……。何というか上条さん感動しちゃいました。
   人ってこんなに育つものなんだって」

食蜂「もうお子様じゃないんだぞ! そろそろ目線を同じ高さに合わせなさいよぉ!
   せっかく大事な話があるっていうのにぃ!」

上条「悪い悪い。俺の中ではあの時の食蜂で止まってるからな」

上条「それで? 話ってなんなんだ?」

食蜂「そ、それはぁ………」

食蜂「い、いい? 一回しか言えないだろうから、よく聞いておいてねぇ?」

――――――――――――――――――

上条「……あの……食蜂さん? そろそろお話をいただきたいのですが……
   あまり遅くなりすぎると命に関わる問題が発生しそうでして……」

食蜂「わ、分かってるわぁ! こっちだって言いたいのは山々なのに
   緊張力が高まりすぎて言葉が出てこないのよぉ!」

上条「さいですか……」

食蜂(そもそもこんな事になるとは全くの想定外だったのよぉ。

   今日だってただ一喜一憂して終わる事になると思っていたのに……。
   なんだか昔読んだ少女マンガの展開に似てるわねぇ……)

食蜂(……ただ、あのヒロインと違って私が積み上げてきたものは高くない。

   私に向いている感情はお世辞にも愛情とは言えないわよねぇ。
   あまりにも分が悪すぎる勝負だわぁ)

食蜂(けれど……何故、思い出してるのか分からない……。

   明日にでも忘れてしまうような不安定な状態なのかもしれない。
   伝えられず、明日からまた繰り返す事になったら一生後悔する事になるでしょうねぇ……)

食蜂(……)

食蜂「……連絡先を……教えてほしいのよぉ」

上条「……いいけど……それだけ?」

食蜂「それだけって何ぃ! 乙女にとっては大事な話なのよぉ!」

上条「いてっ! 怪我人だから! 上条さん怪我人だから! その硬すぎる鞄で攻撃するのやめてぇ!」

上条「乙女心なんてモテない男代表の上条さんには分かるはずのない代物なのに……不幸だ……」

食蜂「相変わらず鈍感すぎて腹立たしいわねぇ…………。はい、連絡先交換できたわよぉ」

上条「というか、連絡先知らなかったんだな。俺たちって。
   その割には以外と街中で出会ってた気がするけど……。
   意外と相性良かったりしてな。ははは」

食蜂「うぅぅ……ほんと天然でやってるんだから大したものだわぁ……。
   これじゃどっちが心理掌握か分からないわねぇ」

上条「んじゃあ、そろそろ戻るわ。これ以上遅くなるとほんとに噛み付き修道女やお人形魔人に
   何されるか分からないからな」

食蜂「…………今のあなたと……次はいつ会えるかしら」

上条「ん? どういう意味だ?」

食蜂「ううん……何でもないわぁ。次にどうなっているかなんて誰にも分からないもの」

上条「よく分かってないけど……明日会うか? 土曜日だし」

食蜂「ふふっ……えぇ。期待せずに待ってるわぁ」

――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

上条「もしもーし、こちら上条でーす」

食蜂「わ、私だけどぉ?」

上条「オレオレ詐欺は間に合ってまーす」

食蜂「違うわよぉ! そんな化石じみた手法がここで通用するわけないでしょぉ!」

上条「これこれ、食蜂君。今は21時ですよ?あまり大声を出すのは感心しませんなぁ」

食蜂「誰のせいよぉ! もぅ!」

上条「んで、何か用か? あっ、明日の事か。一応ギプスは付けたままだから
   あんまり無茶はできないぞ?」

食蜂「明日の事じゃないわぁ……」

上条「あれ? 別の用事なんてあったっけ?」

食蜂「……ちょっと電話しただけよぉ」

上条「何で? 明日会うのに」

食蜂「……会えないかもしれないでしょ」

上条「……お前……もしかして、何かあったのか? また、誰かに狙われているとか」

食蜂「そうじゃないわ……強いて言うならあなたのせいよぉ……人をこんなセンチな気分にさせて」

上条「お、俺のせい? も、もしかして、昼間お子様扱いした事をまだ気にしているのか?」

食蜂「見当違いもここまでくるとため息すら出ないわねぇ……もういいわ。また明日にしましょ。
   じゃあねぇ」

上条「お、おい」

――――――――――――――――――

食蜂(告白の返事を待つ女の子ってこんな気持ちなのかしら……)

食蜂(合格発表待ちの受験生といった方が近いかもしれないわねぇ……)

食蜂(はぁ…………よし)

食蜂「も、もしもし?」

上条「ふわぁ、もしもーし」

食蜂「しょ、食蜂だけどぉ」

上条「あぁ、食蜂かぁ……朝早くから元気ですなぁ……」

食蜂「良かった……覚えててくれたのねぇ……」

上条「あのなぁ、いくらなんでも昨日の事は覚えてるっての」

食蜂「ん……んふふふふ……」

上条「……急にご機嫌になったな」

食蜂「何でもないわよん☆ 今日のプランはあなたが考えてねぇ」

食蜂「せっかくの記念日なんだし、期待しちゃうんだぞ☆」

上条「記念日って……今日、誕生日なのか?」

食蜂「んー、ある意味ではそうかもねぇ」

上条「といってもなぁ、これといって女の子が喜びそうな店とか知らないし
   ……それに溜りに溜まった物もあるからそんなに長くは……あっ」

上条「ふっ……ふははは。食蜂君、最高のプランを考え付いたよ。お互い満足できる最高のプランをな」

食蜂「……悪い予感しかしないわぁ。やっぱり私が決めようかしら……このままだと
   cute力0の別の何かになりそうな気がするしぃ」

上条「待て待て! 大丈夫だ! 信じろ! デルタフォースで培った上条さんの乙女力を!」

食蜂「……そこまで言うなら信じてみるけどぉ」

――――――――――――――――――

食蜂(……嫌な予感は的中するものねぇ……ほぼ確信してたけど)

食蜂(……公園っていうのはまだいいわぁ。この暑さの中、直射日光は体力的にもお肌的にも浴びたくなかったけどぉ)

食蜂(添加物多目のファーストフードも百歩譲って目を瞑るわぁ……ただ)

食蜂「テーブルに数々のプリントを展開して、中学生が高校生に宿題を
   教えてる光景はどう考えても異常だと思うんだけどぉ」

上条「何をいいますか! 上条さんは宿題を終わらせられる。食蜂さんは
   年上に勉強を教えられて満足感を得られるという2人とも幸せになれる
   これ以上ないってプランなのに!」

食蜂「曲がりなりにも年上のプライドは無いのかしらぁ」

上条「ふん! そんなものインデックスの奴にでも食わせておけばいいのだよ!」

食蜂「暑さで脳がやられたのねぇ」

上条「何とでもいうがいいさ! 上条さん今最大の試練はこの数多のプリント
   なんだからな。それさえ済ませられるなら数々の罵詈雑言も小鳥のさえずりに
   しか聞こえないなぁ!」

食蜂(はぁ、やっぱりこういう感じになるのねぇ。恋愛力のれの字もないじゃないのぉ)

食蜂(……ただ、他愛の無い話が……私の事を認識してくれている事がこんなにも)

食蜂(……無理やり口角を押さえつけるのって疲れるのねぇ……派閥の子達には決して見せられないわぁ)

――――――――――――――――――

上条「ふぅー、やっと終わった」

食蜂「何やりきった顔してんのよぉ……9割方私が解いたじゃないのぉ……」

上条「あ、あはは……いや、食蜂さんがあまりにも頼りになるもんだからつい……」

食蜂「つっかれたわぁ……暑いし……」

上条「い、いやー……そ、そうだ! 何か飲むか? 喉かわいただろ?」

食蜂「そうねぇ……」

上条「よし! 買ってくるからちょっと待ってろ!
   前に御坂から貰った『ヤシの実サイダー』があそこで売ってたような……」

食蜂「ちょっと待ちなさいよぉ!」

上条「へっ?」

食蜂「どうしてそこで御坂さんの名前が出てくるのかしらぁあぁん?」

上条「ど、どうしてって言われても……常盤台で流行ってるのかなと……」

食蜂「そんなわけないでしょぉ!! 仮にもお嬢様学校にいる女の子達がそんな怪しい名前の
   缶ジュースを優雅に飲んでる姿を想像できるわけぇ? あなたはぁ?」

上条「言われてみれば……いや、逆に俗世に憧れている女の子達が好奇心でっていう可能性も……」

食蜂「もう突っ込むのも疲れるわぁ……この近くに私が行っているお店があるからそこにしましょぉ」

――――――――――――――――――

上条「お嬢様ってもっと華々しい場所に行くもんだと思ってたけど……思ってたより普通なんだな」

食蜂「あからさまなお店なんてどこもごった返し状態だし、
   そんな気品力溢れる所に行っても場違いすぎて
   空気に徹する事になるだけだと思うけどぉ? そんな自虐体験したいって
   いうなら止めはしないわぁ。そもそも経済力の低さで皿洗いする光景が目に浮かぶけどねぇ」

上条「しょ、食蜂さん? や、やっぱりご立腹でいらっしゃるので?」

食蜂「……怒ってなんかないわよぉ? 猛暑の中、やっすいホットドックとジュースだけで
   長々とこき使われた事なんか……怒ってないわよぉぉ?」

上条「ひぃ!」

食蜂(はぁ……まるで駄々をこねる子供ねぇ……)

食蜂(以前なら私以外の誰かのために視線が向いていようと、その視線が私を向く
   ことが無くても、感情をコントロールできたのに、今はこんな些細な事でこんなに苛立つなんて……)

食蜂(……今まで見返りなんて求めてなかった……求められなかった。
   全部自分のために勝手にやっていた事だから)

食蜂(だけど、今は求めている。これだけ頑張ったんだから見てほしいと、
   御坂さんや他の誰かじゃない、私を見てほしいと思ってしまっている)

食蜂(……仕方ないじゃない。あれだけ手を尽くしても届かなかったものが。
   叶わないと知りつつ盲目に追い続けていたものが、今は……触れるところにあるんだもの……)

――――――――――――――――――

御坂「げっ、食蜂……」

食蜂「あらぁ……。御坂さんじゃなーい。嫌な偶然ねぇ、こんな所で会うなんて」

食蜂「も・し・か・し・て、あの人に会いに来たのかしらぁ?」

御坂「は、はぁ!? ちちち違うわよ!」

御坂「この公園にはたまたま……そ、そう! たまたま好きなジュースが売ってたのを思い出して
   寄っただけよ。だ、誰があの馬鹿がいるかなんて見にきたりなんか……」

食蜂(……私が御坂さんとの相性最悪な一番の要因ってやっぱりこれよねぇ。

   人が喉から手が出るほど欲しかった関係力をあっさりと手に入れて
   まざまざと見せ付けるような言動をして……当然自覚力は無いんだろうけど……)

御坂「あ、あんたこそこんな所で何してんのよ!」

食蜂「……べっつにぃ? ただ、散歩してただけよぉ?」」

御坂「散歩? あんたが取り巻き一人も付けないで?」

食蜂「乙女には一人になりたい時もあるんだゾ。あっ、ごめんなさーい。男の子の御坂さんには分からないかぁ」

御坂「だっれが男だぁぁぁ!!!」

食蜂「いやん、こわーい☆」

食蜂「でもぉ、あんまりビリビリしないほうがいいんじゃなぁい? 
   そこのお掃除ロボット君が明らかに挙動不審な動きをしてるし」

御坂「あっ、やば……」

食蜂「仮にも品行方正がスタンダードな常盤台のお嬢様が器物破損なんて許されるのかしらぁ?」

御坂「あんたのせいでしょうが!! あんたが変に絡んだりしてこなきゃ! って、ほんとにやばそうね…………」

御坂「……よし、逃げよう」

食蜂「えっ? に、逃げるのぉ!?」

御坂「当たり前でしょ! 寮監にばれたらただじゃすまないし!」

食蜂「ちょ、ちょっとぉ!!」

食蜂「も、もうあんな所に…………。ふ、ふん! 足が速いからって何だっていうのぉ!?
   社会に出たら備考欄にすら入れられないステータスじゃない!」

食蜂「…………」

食蜂(でも、確かに撤退力高めの案件よねぇ。あの動き的に対物センサーでも壊れたのかしら?。

   異常検地されるまではあの状態だろうし、お掃除ロボットに掃除されたなんて
   不名誉な称号は断固として拒否よぉ。よし、向こうに行ってるうちに……)

「いてっ!! な、なんだ!?」

「掃除ロボット!?」

「あー!!! やめてくれぇぇぇ!!」

「それはごみじゃなくて今日の晩飯なんだよぉ!」

「インデックスとオティヌスがすっごい楽しみにしてたの!
 もといそれが無くなったら心身の無事は保障されないの!」

「だから返してくれぇぇぇ!!」


――――――――――――――――――

上条「色とりどりの食材がただの絵の具に……」

上条「せっかく奮発して買ったのに……何故こんな事に巻き込まれるんだ……
   しかもこれから惨劇が起きると思うと……不幸だ」

食蜂「はぁ……どうしたらこんなに期待を裏切らない展開力を持てるのかしら……」

上条「食蜂……? 何でここに……?」

食蜂「偶には余韻に浸りたくもなるのよぉ。それより時間無いんじゃないのぉ?」

上条「時間は無いんだけど……お金も無くて……八方塞がりというか、もうどこかに逃げ出したいというか……」

食蜂「哀れすぎて見てられないから操祈ちゃんが特別に力を貸してあげるんだゾ☆」

上条「えっ!? い、いいのか?」

食蜂「誰かさんには……まぁ、借りもあるしぃ? 不本意ながら協力してあげるわぁ」

上条「??? お、おう? よく分からんけどありがとう!! 助かるよ! 食蜂っ!!!」

食蜂「ひゃ!!!! ちょちょちょちょっと!!」

食蜂「い、い、い、いきなり手を握らないでくれるぅ!!?」

上条「えっ? あっ、悪い」

食蜂「あっ…………」

上条「何せ人から厚意を受ける事なんて殆どないからな。感動しちゃいまして。
   しかもあの食蜂からと思うと尚更なぁ」

食蜂「も、もう! 子供扱いはやめろって言ってるでしょぉ!?」

食蜂「そ、それで? 何をすればいいのよぉ?」

上条「おっと。そうだった、時間も無いし、早く行こう」

食蜂「えっ!? は、走るのぉ!!?」

――――――――――――――――――

食蜂「ぜぇぜぇ……こ……これで終わりよねぇ?」

上条「お前……未だに運動音痴だったのか……」

食蜂「う……うっさいわねぇ……そ……それが……恩人に対する……言葉……なのぉ???」

上条「その事については心底感謝しているんだが、
   ただ、あの公園から大して距離も無かったはずなんだけどなぁ……」

食蜂「はぁはぁ…………と」

上条「と?」

食蜂「というか何で特売品を狙ったのよぉ!!!
   こっちは奢るって言ってんだから有り余ってる通常価格の物を買えばいいじゃない!!
   後何店舗も回る必要もないわよねぇぇ!??」

上条「お、落ち着け。いつもの癖でつい……」

食蜂「…………」

上条「で、でも見たまえよ食蜂君。苦労して手に入れた食材は輝いて見えないか!?」

食蜂「全く見えないわねぇ。むしろ傷ついてるわぁ。あれだけぶつかり合ってたのだから当然だけどぉ」

上条「うっ、そ、それならこの食材達が料理に昇華する所を見にくればいいだろ!
   上条さんのお袋さんスキルによって絶品家庭料理に生まれ変わる姿をな!
   大事なのは見た目じゃないって事を思い知らせてやるよ!」

食蜂(これほど情感力皆無な誘い文句も珍しいわよねぇ……。警戒されることはないだろうから
   意図して言ってるなら中々役者だわぁ……まぁ、ありえないけど)

食蜂「……止めておくわぁ」

上条「えっ? 何で?」

食蜂「そろそろ門限も近いし……それに」

食蜂(何より嫉妬丸出しで無様力全快な姿は見せたくないもの……)

上条「あー、そっちは門限があるのか…………」

上条「なら昼間だな! 次の土曜日でいいか?」

食蜂「ちょ、ちょっと強引すぎるわよぉ! これじゃあ結局同じ結果に……」

上条「同じ結果って?」

食蜂「え、えっとぉ……」

上条「あー……その問題があったか……。うーん……ま、まぁ、それも当日までに何とかする!
   何にせよこのままこのまま引き下がるわけにはいかないからな!
   庶民代表として特売品でも工夫次第でいかに美味しい物が出来るかその舌に教えてやるよ!」

――――――――――――――――――

食蜂「限りなく普通だわぁ」

上条「嘘だろ!? 上条さんお手製の芋の煮っ転がしが普通だと……??
   改良に改良を重ねたこれが!?」

食蜂「あくまで私基準で、だけど。そこら辺の高校生が作った物なら合格点なんじゃない?」

上条「な、何という上から目線……ち、ちくしょう……」

食蜂「えーっと? 工夫次第で何だったかしらぁ?」

上条「ふ、ふん! これは上条さんの腕が足りなかっただけであって
   決して特売品が負けたわけじゃないのだ! 今日のところは引き下がるけど
   次こそはギャフンと言わせてやるからなぁ!」

食蜂「そんなモブ発言は小物力を増すだけだと思うけどねぇ……」

上条「ぐ、ぐぎぎぎぎ」

食蜂「そんな事よりぃ」

上条「そんな事!?」

食蜂「同居人が居たんじゃなかった? シスターと……まじん?」

上条「あぁ、あいつらには席を外してもらったよ。何か悲劇が起きそうな気がしたし、
   何よりこの勝負を邪魔されたくなかったからな!」

食蜂「そ、それならぁ……今この部屋には2人しか居ないってことぉ?」

上条「そうなるなぁ……。我が家の猫様もいるけど」

食蜂「ふ、ふーん……」

上条「? 顔赤いけど……そんなに暑いか?」

食蜂「ふ、ふ、不幸力振り切れてるあなたにとってこ、こ、こんなに可愛い女の子と
   ふふふたりっきりになれるなんて、ななな何て幸せなのかしらぁ?」

上条「そんなどもりながら言われても……どんな反応をすれば正解なので?」

食蜂「い、い、いくら性欲漲るとと年頃だってぇ、きっ、きっ、急に襲ってくるのは駄目なんだぞっ!
   もももっと段階を」

上条「だからどう反応すればいいんだって」

上条「紳士な上条さんがそんな事するわけないでしょーが」

上条「それにインデックスの奴にも言えるが、君たちは精神的にお子様なのだよ。
   もう3年社会経験を積んでから出直してきなさい」

食蜂「!! な、なんですってぇえッッ!?」

――――――――――――――――――

食蜂「今日も進展力は無し、か……でも……」

食蜂「えへへ……」

楽しい!

楽しい!! 

楽しい!!!

新しい感覚が芽生えたように。

ふつふつと気力が体の隅々まで行き渡る。

とめどない多幸感で満ちていくを感じる。

浮かれていると言われても否定はできない。

傍から見ると恋をただの恋する少女なのだろう。

この感情はどうしようも無いほどに制御不可能だった。

それだけに、今は……この時間は……あれやこれや、色々抱えている何かを
全て忘れて、干したばかりの暖かい布団に身をうずめた時のように
心地の良い何かに身を浸しておきたかった。

――――――――――――――――――

帆風「女王。金萱茶でも入れましょうか?」

食蜂「気が利くわねぇ。ちょうど甘露力の高い飲み物が欲しかったのよぉ」
  
帆風「ふふっ。これでも長く付き添わせていただいておりますので」

食蜂(……帆風の配慮力が少しでもあったらねぇ)

食蜂「……ねぇ、帆風」

帆風「はい。何でしょうか?」

食蜂「あなた今日、能力開発試験があったのよねぇ。疲労力高めのぉ」

帆風「えぇ。陸上競技ばかりでしたので。多少は」

食蜂「た、多少? ふ、ふぅーん……」

帆風「はっ! い、いえ! 疲労困憊です!」

食蜂「うんうん。そうよねぇ。あなたはあんな器物損壊逃走電撃女とは違って、少し運動したら
   息切れしちゃうか弱い女の子よねぇ?」

帆風「そ、それはもしや……」

食蜂「おほん。ちょっと脱線しちゃったけど、疲れているのなら
   そこにうつ伏せになりなさい」

帆風「い、いえ! そのような事は!」

食蜂「いいから。私の言う事が聞けない?」

帆風「うっ。そ、それでは……失礼します」

食蜂「よいしょっと。えっと……こんな感じかしらぁ?」

帆風「ひゃぁぁあああ!! じょ、女王が私の足を!」

食蜂「ちょっと! 悲鳴力高すぎるわよぉ!」

帆風「す、すみません!」

食蜂「ど、どぉ? 気持ち良い?」

帆風「は、はいっ! 気持ちいいです!」

食蜂「ふっ、ふっ。マッサージって、力が、要るのねぇ」

帆風「あ、あの。女王?」

食蜂「はぁはぁ……な、なぁにぃ?」

帆風「何故このような事を。勿論とても嬉しいのですが……」

食蜂「き、気まぐれだと思うわぁ」

食蜂「に、二度と無いかもしれないけど」

食蜂「あ、明日からもこんな事があるなら」

食蜂「だ、誰かに影響されたって事なんでしょうねぇ」

――――――――――――――――――

上条「賞品?」

食蜂「そっ。あって然るべきじゃない? この前の味見を勝負と言い張るのであれば、
   私の舌を唸らせられなかったあなたの負けという事になるわよねぇ?
   というか自分で負けを認めていたけどぉ」

上条「覚えていたのか……」

食蜂「それにぃ? 半ば強制的に参加させられたわけだしぃ? 私の時間はタダじゃないんだけどぉ?」

上条「怖いって! その恐喝の仕方はやめなさい!」

食蜂「さーって、どうしようかしらぁ?」

上条「あ、あまり無茶な要求は……今月特に金欠でして……」

食蜂「んーー。それじゃあ……」

――――――――――――――――――

上条「恋人役って、なんで?」

食蜂「なによぉ! 嫌なのぉ!?」

上条「理由が知りたい」

食蜂「理由? い、いくつかあるけどぉ……ナンパ避け……よぉ」

上条「あぁ……。まぁ、外見はいいもんなぁ」

食蜂「内面もっ!」

食蜂「私くらいになってくると、ちょっと外に出ただけで
   男女問わず辟易するくらいナンパされるのよぉ。
   だからもうパートナーが居る事にして断る口上を作りたいわけぇ。
   流石にそこら辺のミーハー力高い一般人全員洗脳使うのも気がひけるしぃ?」

上条「そんな事気にするお人でした?」

食蜂「高潔な人格を持ってると無闇に能力も使えないから困ったものよねぇ」

上条「……そうか」

上条「でも、そんなナンパ受け抜群な見た目の性格も良い有名人と
   役でも付き合うってなったら俺の身が危ない気がするんですが」

食蜂「気にする必要はないわよぉ」

上条「そんな心持ちでどうにかなる問題!?」

食蜂「えぇ。そもそも敗者には文句を垂れる権利はないんじゃない?」

上条「そんなどぎつい事を当たり前のように……」

上条「分かった、分かりましたよ。微力ながらこの上条当麻。
   しっかりと彼氏役を勤めさせてもらいますよ」

食蜂「じゃ、じゃあ、これからは恋人同士って事ねぇ」

上条「役な、役」

上条「聞いてなかったけど、期限っていつまでなんだ?」

食蜂「な、なら呼び方も変えないといけないわよねぇ! こ、恋人同士が
   苗字ってのも不審力あるしぃ!?」

上条「聞いてる?」

――――――――――――――――――

食蜂「と……と……とう」

御坂「何一人でぶつぶつ言ってんのよ」

食蜂「ひゃあぁぁ!!」

食蜂「み、御坂さん!?」

食蜂「後ろから声をかけないでくれるぅ!?」

御坂「あんた最近何かあったの?」

食蜂「……御坂さんには関係ないわぁ」

御坂「こっちだって別に関わりたくないけど、あんたの派閥の子達から
   相談されたのよ。女王の様子がいつもと違うって。何か知らないかって」

食蜂「あの子達……。はぁ、余計な心配掛けちゃってるみたいねぇ」

食蜂「迷惑掛けちゃってごめんなさい。あの子達には私から言っておくから」

御坂「あんたやっぱり変よ。頭打ったの?」

食蜂「もぅ! 喧嘩なら余所で売ってきてよぉ!」

――――――――――――――――――

食蜂「かみじょうさ~ん?」

上条「ん?」

食蜂「今日ってぇ、仮にも1回目のデートなのよねぇ?」

上条「その通りですよ食蜂さん」

食蜂「私、今すっごいデジャブ力を感じてるんですけどぉ」

上条「あっはっは、気のせい気のせい」

食蜂「気のせいなわけないでしょぉぉ!! 何が悲しくて
   またあなたの宿題をかりかりかりかり埋めないといけないわけぇ!??」

食蜂「しかも炎天下の公園の中でって何の悪夢よぉ!
   嫌がらせとしか思えないんだけどぉ?」

上条「でも、デートって日時や場所を定めて男女が会うことって
   書いてあったし、そこさえ守ってれば何でもいいんじゃないか?」

食蜂「私の意思はぁ!??」

上条「……さて、続きをやろう」

食蜂「帰る」

上条「待って! 食蜂さんに帰られるとほんとまずいんです!
   上条さん単体だとこのまま日を跨ぎそうなんだって! 終わったら何でも付き合うから!」

食蜂「……なんでもぉ?」

上条「……良心が痛まない範囲でお願いします」

――――――――――――――――――

上条「終わったぁ……」

食蜂「ふぅ……あなた一体どれだけ教師から恨まれてるのよぉ。
   前にも思ったけど、宿題って量じゃないんだけどぉ?」

上条「いや、恨まれてるんじゃなくて、ただただ出席日数が足りてなくて……」

食蜂「生活態度を改めた方がいいんじゃないかしら?」

上条「生活態度というよりこの不幸体質のせいだな」

食蜂「……それはご愁傷様ねぇ」

上条「まぁ、俺の話は置いといて……。それで? 食蜂様は何をしたいんでしょう?」

食蜂「何でも……いいのよねぇ?」

上条「……うん」

――――――――――――――――――

上条「こ、これは流石にまずくないか? 辺りに人が居ないから
   まだいいけど、あまりに羞恥プレイがすぎると言いますか……」

食蜂「静かにしてなさいよぉ。こっちだって恥ずかしいのは同じなんだからぁ」

上条「じゃあこの膝枕には何の意図があるんだよっ!! どっちも損しかしてねぇ!
   あれですか? 心を鍛えようっていう食蜂さんの粋な気遣いなんですかぁ!?」

食蜂「声が大きいわよぉ! いくら改竄できるとはいえ人に見られたくは
   無いんだから黙って置物に徹してなさい!」

上条「そ、そうは言っても太ももの生暖かさが伝わってきて
   何か喋ってないと気まずくて……」

食蜂「変態力高めの発言は尚更やめてもらえるぅ? 次変な事言ったら気絶するまで
   物理的に攻撃するからねぇ」

上条「はい……黙っておきます……」

――――――――――――――――――

成長というより自制心を捨てているような気がする。
女王と称される存在が恋愛事にうつつを抜かしているなんて、
もはや偶像崇拝の域に達している一部の信者からも求心力を失うかもしれないと、
ぼんやりと考えてはいたが、今日の出来事が思考を遮ってしまっていた。
そんな今日の出来事は思い返すだけで、今もなお顔を紅潮させ、少し動機を乱れさせる
程度にインパクトはあったが、それは当然ながら忘れるべきではない、今後も大事に保管しておく記憶。
彼女がおくびにも出さなかった想いを臆面もなく吐き出しているのは、
もし、彼が記憶を失わずに今日まで一緒に歩いていたらという、
彼女だけが持っている架空の歴史を体現しようとしているのかもしれない。

――――――――――――――――――

「おねーちゃーん! 一緒にあそぼぉー!」

食蜂「わわっ! 引っ張らないでぇ!」

「兄ちゃんはこっち!!」

上条「はいはい。上条さんは逃げませんよー」

食蜂さん、次の土曜日って空いてます……? とよそよそしい口調で電話が掛かってきたのは
水曜日の事だった。この時点で華やかな話では無い事は断言できたが、万が一の可能性を信じて
話を聞くと、どうやらあの理学生の論文程の宿題をもってしても出席日数の穴を埋めるには至らず、
追加で社会貢献することで何とか目を瞑ろうと言われているようだ。
『流石に何十人もの子供を1人で相手にするには……』という結びの言葉も添えて。
『それって私には何の関係力もないわよねぇ?」と冷たく返しても、
『頼れる人が食蜂さんしかいなくて……』と言われると何だかんだで引き受けてしまうあたり、
中々に重症だなと自嘲してしまう。

「兄ちゃん! 最近流行ってる遊びがあるんだ! 一緒にやろー!」

上条「へぇ、どんな遊びなんだ?」

「お尻タッチゲーム!」

上条「うん。それは止めとこうな」

「えぇ!? 面白いよ!?」

上条「牢屋に入れられる前にそこから手を引いておきなさい。
   というか、その遊びに面白さを感じるのをやめなさい」

「ほんとに面白いんだって! 俺が手本見せるから! 兄ちゃんは見てて!」

上条「あっ!」

「姉ちゃんのお尻ターッチ!」

食蜂「うひゃぁぁあ!」

「あははは!! うひゃぁ! だって!」

食蜂「こっ、こんのクソガキぃぃぃ!!! 精神いじくってお尻見ると
   泣き出すようにしてやるわよぉぉぉ!!???」

「ひぃ!!!」

上条「わー!! 待て待て! 既に泣いてるから! トラウマになりかけてるから!」

――――――――――――――――――

食蜂「散々な目に合ったわぁ……泥まみれだし園児にセクハラされるし……」

食蜂「毎回こきつかわれてる気がするんですけどぉ?」

上条「すみません……何も取り繕えません……」

食蜂「今度はこっちの言う事聞いてもらうからねぇ」

上条「あぁ、それは勿論。何でもござれだ」

食蜂「そ、そう……それならぁ」

食蜂「わ、私の事、な、名前で……呼んでよぉ」

上条「名前?」

上条「あぁ、そういえば言ってたっけ。そんな事でいいのか?」

食蜂「う、うん」

上条「それなら……」

上条「これからは操祈だな」

食蜂「っっ。わ、私も」

食蜂「と、と、とうまって呼ぶからぁ!」

上条「そんなはりきって宣言しなくても……別にどうやって呼んでくれてもいいんだけどな」

――――――――――――――――――

まだ道のりの1歩目を踏み出しただけではあるのだが、
とにかく嬉しかった。1人、部屋の中で小さくガッツポーズを出してしまうほどに。
名前を呼び合える事になっただけでこれだけの高翌揚を覚えるのなら、
2歩、3歩と歩みだしていくとキャラ崩壊どころではない、
四六時中にやけながら生きていく事になってしまうのではないだろうか。
ただ、そうなったらなったらで、受け入れてしまうのかもしれない。
それは今の地位を捨てる事になるのだろうが、それも厭わないだろう。
あの人の隣に並べるのなら。

――――――――――――――――――

上条「カップル割?」

食蜂「今月ピンチなんでしょう? だから、割引がある店を探しておいたんだゾ。
   と、当麻のためにねぇ」

上条「それは大変ありがたいんだけど……これは一体どういう意味なんだ?」

【カップル割引ご利用の方には写真の提供も行っております】

店頭で話を聞いてみると、割引利用者は微笑ましいレベルでいいのでそれっぽい行動をして
店員が確認、はいOKですという一連の流れ作業をする必要があるのだが、
それに加え、客側が望めばその光景を写真で貰えるというものだった。

「カップル割は利用されますか?」

上条「はい。お願いします」

「写真撮影はどうなされますか?」

上条「せっかくだから撮っておくか? はは、なんて」

食蜂「撮りまーす」

上条「随分とノリがいいな……」

「かしこまりました。それでは、恋人らしい感じでお願いします」

上条「恋人らしいって……一緒に並んでいるだけじゃ駄目なんですか?」

「それはちょっと……。皆さんだいたい手を繋がれてますけど……」

上条「手……手なぁ……操祈さんどうします?」

食蜂「ど、どーぞ」

上条「お……おう……」

上条「それじゃあ失礼して……」

「はい、大丈夫です。写真撮りますよー? 3、2、1」

――――――――――――――――――

食蜂「ぎこちない顔してるわねぇ……」

上条「それはお互い様でしょうに。操祈も中々に表情筋を動かせてないぞ」

食蜂「と、当麻よりは可愛く写れてるわよぉ」

上条「争点そこなの?」

食蜂「でも……」

食蜂(撮って良かった……)

――――――――――――――――――

気がつくと写真を手にとって眺めていた。
まるで小学生のような初々しさで青春模様の欠片も見れない写真だったが
これはこれで変に嘘くささがなくて良いと思う。
防災ホイッスルから始まってこれで2つ目。
傍から見るとなんて事のない物だが、自分にとってはあの人との
物語を語る上で外せない大事な大事な一片。
これからは何を手にするのだろうか、そう考えるだけで胸が
少し熱くなったが、今日はこれくらいにしておこう。
彼女は手にしていた写真を丁寧に机の上に置き、
僅かに口角あげてゆっくりと瞼を閉じた。

――――――――――――――――――

食蜂「何よここぉ……」

映像研と音響研が最新技術の粋を集めて作った新感覚ホラー、絶叫する事間違い無しという、
キャッチフレーズはどこぞのワインメーカーのように毎年様変わりしていた。
毎年、一定の人気を誇るこのおばけ屋敷は人を使わず、
立体映像・音響のみでどれだけ怖がらせられるかという試みのもとに製作されていた。

上条「前から気になってたんだよなー」

明日、遊びに行かないか? という珍しい誘いに舞い上がっていたのも
店の前まで。特段何か期待してたわけではないが、
それでもまさかこんな所につれて来られるとは夢にも思わなかった。
所謂、幽霊というものの存在については信じてはいないのだが、
これは理屈ではないのだ。とどのつまり、怖いものは怖いのだ。

食蜂「ほ、本当に入るのぉ?」

上条「平気だって。ここは人が驚かせるタイプのおばけ屋敷じゃないそうだし、
   いざとなれば、目と耳を塞いでおけばいいんだから」

食蜂「う、うん……」

――――――――――――――――――

上条「あ、あの、操祈さん? そんなにがっつりしがみ付かれると進めないんですけど……。
   それにまだ入り口から5mなので、何も恐怖体験してないし」

食蜂「だってぇ……」

上条「ほらほら、このままだとつっかえるから」

食蜂「うぅぅ……もういやぁ……」

上条「でも、薄暗い空間が広がっているだけで特に何も無いな」

上条「立体映像と音響が凄いって話だけど、これといって特には……」

「ねぇ」

上条「ん?」

「私の顔、知らない?」

上条「うわっ!」

食蜂「きゃあああああ!!!」

知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない
知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない
知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない

上条「うるさっ! どこに立体音響使ってんの!?」

食蜂「もう帰るぅ!!!!」

――――――――――――――――――

食蜂「はぁはぁ……怖かったぁ……」

上条「さすが学園都市製、クオリティ高かったなぁ」

食蜂「二度と行かないからねぇ!」

上条「悪い悪い。まさかあんなに耐性が無いとは思ってなかったから」

食蜂「だから入りたくないって言ったでしょ!」

上条「いやぁ、でも、やっぱり昔と変わったんだなぁ」

食蜂「? 何がぁ?」

上条「さっき抱きつかれた時にも思ったけど、育つ所は育っているといいますか。
   女体の神秘を背中で体感できたのは棚ボタだったなぁっと」

食蜂「…………」

上条「嘘嘘嘘!! その鈍器はふりかぶるのをやめて!」

あげさせてもらいます
正直スレ主さんへの配慮が足りない内容だと思ってますので批判等バシバシお願いします

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食蜂「……ばか」

上条「すんません…もうセクハラしないんで赦してください…」

食蜂「はぁ…もういいわぁ」

上条「ああ、帰るのか?送ってくよ」

食蜂「結構ですぅ!一人で行けますからぁ」

上条「送るって」

食蜂「本当にいいわよぉ」

上条「帰り道一緒の方が恋人っぽいだろ? 最近迷惑掛けっぱなしのお詫びも兼ねてさあ」


食蜂「…ふ、ふぅん」

食蜂「……な、なら…かか、勝手にすればいいじゃなあぃ?」

上条「よしきた、上条さんが華麗にエスコートして差し上げますよ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

上条「今更だけど、俺たちって直接会話するのって大分ご無沙汰だったよな」

食蜂「…今まで合う暇もなかったですしぃ。それがぁ?」

上条「こうしてまた二人隔てなく話せるのは楽しいって思ってさ」

食蜂「……そう」

上条「元気ないな。さてはお化け屋敷が堪えたな?」

食蜂「…別に、例のセクハラ発言をどう訴えれば利益になるか思考していただけよぉ?」

上条「こわ!?」



食蜂(本当は…もしまた彼の私への認識がまた歪んで…いいえ、或いは『正常』に戻ってしまったら…なんて一瞬だけど、考えてしまったわぁ。
無いとは思うけれどぉ)

食蜂(…でももし、もし本当にそうなったら…耐えられる気がしないわねぇ。少なくとも今は)

食蜂(一番幸せな時間に浸かりっぱなしの今だけは…どうか私を、忘れないでほしい)

食蜂(以前は望む気概すら起こさせなかったものを…掴みかけているのだもの)


上条「…じゃあ俺はこの辺で」

食蜂「へっ?」

上条「ほら、こっから先に入るにはID認証が必要だろ?だから悪いけどここまでな」

食蜂「…難なら入れ込みの手引きをしてあげても構わないわよぉ」

上条「ダメです。流石に二度目の不法侵入は気が引ける…」

食蜂「一度目よろしく私の改竄翌力でどうとでもなるしぃ」

上条「でも監視カメラには残るだろ?
何より中学生が物騒なこと言うもんじゃありません。
さあ大人しく帰った帰った」

食蜂「わかってるわよぉ……もう」


上条「…………………………」

上条「…なあ操祈!」



食蜂「…なーにぃ」




上条「またな」




食蜂「…………」

食蜂「……うん」

undefined

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

上条(食蜂との再会から一ヶ月が過ぎたけど、未だに進展はなし…っていやいやべつに恋愛とかじゃねえし。この進展ってのはもっと別の…)


ハッと彼女との記憶を思い出した時とは裏腹で、いつの間にか上条には靄がかかったように朧げな感情が芽生え始めていた。
意固地なだけだと一蹴されればそれまでだが、好きか嫌いかで片付けるには余りあると思いあえて結論付けてはいない。
唯一。
顔を俯かせる彼女の姿を見たとき、動揺や哀れみなんかよりも真っ先に飛び出たのは、憤りだった。
相手にじゃなく、自分にだ。

上条(なにか…記憶を取り戻すよりずっと先に、言わなきゃいけない事があるようなーー)



上条「やっぱり好きなのかなー」

土御門「おおっ、やはり上やんも最強の萌属性は義妹守られ系見習いメイドに賛成かにゃー!?」

青髪「なんやて!?ホンマか見損なったで上やん!!」

上条「いやごめんなんの話」

青髪「聞いてなかったんか…しゃあないな」

土御門「青ピの野郎が『この世に冷たくあしらう系下宿先のお姉さんに勝る属性無し』なんて抜かしやがるから、俺が正気に戻るよう諭してやってるってわけですたい」

青髪「あのなぁ何度説明せなあかんねん。
ええか?ソーシャルディスタンスが基本なこの時代、接触が少ないことはプラスに作用するんや。
不要不急な触れ合いを避けることでこの社会を淀みなく動かす潤滑油となる。
冷たくあしらわれる=社会貢献、
クール系の活躍はまんま世界情勢の好況に直結するんや!少しでもこの世の中を良くしたい善良な学生としちゃ乗るしかあらへんやろがい!」

上条「お前って性別女子ならなんでもいいんじゃなかったっけ」

青髪「確かにおにゃのこなら誰でもウェルカム、でもなんでもいいってことやないねん…」

土御門「要するにマイブームにこじつけ理論ブチ込んだだけだにゃー」

青髪「ニャにおぉお!?…ツッチーや、ぼかあ君の趣向には一切口出しせえへんで?でもな?たった一つしかないつよつよ属性の座はもうクール系女子で残念ながら埋まっとんのや!シスコン軍曹はここらで大人しく引いてもらおか?」

土御門「こっちこそ下宿先の先輩への妄想こじらせたことは理解してやるがにゃー、義妹属性は最早世界の真理に到達してるぜよ。そんなん今更口出しもなにもできないわけですたい」

青髪「ぐっ…おんのれまだ認めへんか土御門ぉ!」

土御門「そっちも引き際考えろにゃー?」

上条「……ふっ、甘いな」

土御門&青髪「「アァん?」」

上条「聞いて見ればお前ら甘すぎるぜ!俺の彼女の口調より甘ったるいな!」

土御門「こいつ…とうとうイカれちまったぜよ」

青髪「上やんに彼女て…モテモテなんは認めるけど彼女だけはありえんわ」

上条「んなこたぁどうでもいいんだよ!お前らさっきから最強の萌属性は義妹メイドだの下宿先の先輩だのいうがなぁ、…違うんだよ、もっといるだろうが、最も身近に途轍もない萌が!!」

青髪「どうせ年上の寮母さんやろ?」

土御門「もう聞き飽きてるにゃー」

上条「確かに一ヶ月前までの俺だったらそう答えていただろうな。だか今の俺は違う、この一ヶ月で俺は萌の境地へと上り詰めたのだ!!」

土御門「ほほう…それだけ大口叩くにはこりゃ相当の属性ってことぜよ?」

青髪「まあまあ土御門クン、取り敢えず聞くだけ聞いてみよかぁあ?」

上条「ふう…いいだろう、この世で最も萌える属性、それはなーーーー」

上条「生意気系後輩系心理学者系ボランティア系ネガティブ運動音痴金髪巨乳同身長で実は一途で尽くしてくれる系キラキラお嬢様中学生が一番なんだよよぉおく覚えておけこの視床下部どもがァァァァァァアアアアア!!!!!」




土御門&青髪「「よろしいならばクリークだ」」

上条「…どうせてめぇらとは戦いでしか分かり会えないと思ってたぜ」

土御門「上やんの変わりぶりには驚いたが、こっちもこっちで引くわけには行かないぜよ」

青髪「下宿先のお姉さんに義妹メイドに生意気後輩…誰の正義が本物か白黒つけたろぉかぁ?」

上条「いいぜ…てめぇらが俺の萌属性を否定するってんならまずはーーーー」



上条「その幻想をブチこr」
吹寄「……っるさいわねもう授業始まってんのよ三馬鹿共がぁーーー!!!!」


上条「あべあつしっ!?」
土御門「ゲボっ」
青髪「イヤぁん…」

上条&土御門&青髪「「「」」」


吹寄「暫く寝てろ!」

姫神「………」

姫神(留年しようかな。)

もうなんか全体的にボロボロ…
萌=萌えに自動変換お願いします

――――――――――――――――――

上条「だからさー、どうせ割り勘なんだし贅沢するメリットなんて皆無だろ?手頃な屋台で済まそうぜ」

食蜂「だから…わたしが出すからいいって言ってるでしょぉ!!
沽券に関わるとか言ってる余裕あるわけぇ!?」

上条「そんなもん元からほぼゼロに等しいけですど!でもやっぱりビンボーだからタダ飯食わせては金無心するよりより一層居心地悪いんだって!」

食蜂「呆れるわぁ…もぉいいもん勝手にすればぁ!」

上条「お、おいどこ行くんだよ!」

食蜂「お昼は一人で済ませるからついてこないでよねぇ!!」

上条「あ、おい!………行ってしまった」

上条「はぁ…大覇星祭、せっかく二人でゆっくり回れると思ったんだけどなぁ…」

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 18:20:27   ID: S:mjM02W

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 01:10:23   ID: S:X5rldh

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3 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 06:26:25   ID: S:bzH-7Z

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