上条「よう、また会ったな」食蜂「!?」 (31)
上条「名前は……なんだっけ……?」
食蜂「え、えっ?今、なんて!?」
上条「お前とは病院で会ったことあるだろって話だ。でも、詳しくは思い出せない……何でだ?」ウーン
街中でたまたま見つけた上条さん
彼は私のことを覚えていられないのだから、きっと見向きもせずに通り過ぎていくだろう、とそう思っていた
けれど私の予想を裏切り、上条さんは立ち止まって声を掛けてきたのだ
『また会ったな』と
ためらうことなく、確信を持ってその言葉を口にしたのである
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書き忘れた
新約11巻ネタバレ注意
食蜂(これは……一体、なんで……?)
絶対にありえないはずのその言葉に、私は目を見開いた
そう、絶対にありえないのだ
彼が私のことを覚えていられるわけがないのだから
その事実を私は世界の誰よりも強く思い知らされている
上条「なぁ、病院で会ったこと、お前も覚えているだろ?」
食蜂「……っ」
何と答えるか、正直迷った
だがよくよく考えてみれば
これが私の夢ではなく現実であっても、彼はすぐに私との会話など忘れてしまうだろう
何が原因で今もまだ覚えているのか分からないが、どうせそんなのはちょっとしたイレギュラーであり、すぐに記憶を保つことなどできなくなるはずだ
だから、素直に答えることにした
食蜂「ええ、病院で会ったわねぇ」
上条「ああ、やっぱり」ニコッ
上条「アンタが一体どうして病院にいたのかとか、全然思い出せないのはなんでだろうな?割と最近のことだけど……」
食蜂「あなたはなぁんにも気にする必要なんてないのよぉ」
私は、乾いた笑みを浮かべながらそう告げた
もうこんなやり取りは慣れっこだ。残念だけれど……
上条「俺はこれでも、人のことを覚えるのはそんなに苦手じゃないんだぜ。名前だとか、顔だとか色々含めてな」
食蜂「…………そう」
上条「でも、最近出会ったはずのアンタのことはよく思い出せない。なんでだろう……」
食蜂「…………っ」
嬉しかった
たとえちょっとしたイレギュラーが起こした異常な事態だとしても
私は、どうしようもなく嬉しかった
少しの間かもしれないけれど、あなたの記憶の片隅で、私は確かに存在しているのね―――
食蜂「あの……っ」
だから、もう叶わないと分かっている『それ』に
もう一度、すがりたくなってしまった
食蜂「私の名前は食蜂操祈っていうのよぉ。よろしくねっ☆」
言った瞬間、「馬鹿だ」と思った
これで何度目の自己紹介だ?何度傷付けば気が済む?
上条「食蜂操祈……?変わった名前だな。これならすぐに覚えられそうだよ」ニコッ
食蜂「……………………そう」
上条さんは優しく微笑みながらそう言うけれど、それはありえないことだと私にはもう分かっていた
今回は何かしらのイレギュラーで少し記憶が残っていたようだけど、次はないだろう
こんな奇跡みたいなこと、一度でもあったことが驚きだ
きっと次会ったときは、『お前誰だっけ』とお決まりの台詞を言われてしまうはずだ
いや、話しかけることさえできないかもしれない
記憶のどこにも残っていない、ただの一般人Aとしてでしか認識されてもらえないのだろう
食蜂(……分かってたことじゃない。今更悲観的になる必要なんてないわぁ)
だから、私は『最後』のお別れとして彼に告げた
食蜂「私のことを少しでも覚えてくれていて……ありがとう。とっても嬉しかったわぁ」ニコッ
帰り道、私は考えていた
蜜蟻愛愉の件はもう片付いている。あの一件以来、『ストロビラ』が体に取り付けられたことも無い
今の私は特にそういった外部からの干渉は受けていない、ということだ
つまり、彼は本当に私のことを覚えていたことになる
食蜂「……そんなこと、ありえるのかしら」
暗闇の中で、私はポツリとつぶやいた
彼の脳は私のことを認識できないようになっている。それはもう、私の力をもってしても復元することは出来ない
それなのに、彼は私のことを覚えていた。細かくは記憶できていないようだが、それでも確信を持って『会った』と言えるくらいには覚えていた
食蜂「……私は、オカルトの類は一切信じないけどぉ」
食蜂「それでも、今日ばかりは神様に感謝しなきゃ」
食蜂「あの人がほんの少しでも長く私を覚えててくれて……」
食蜂「それだけで、私は幸せ……」
そう
あくまで今回はイレギュラーな事態だ
次会えば、いつもどおりに彼は私のことを忘れてしまうだろう
けれど、それでもいいのだ、今は
この小さな奇跡が起こっただけで、私は十分なのだから
しかし数日後
街中を歩いている私に、声を掛けてくる人がいた
それは、驚くことに、上条さんだった
彼から声を掛けてもらえるなんて、一体なんだ?もうすっかり忘れているはずだけど……
頭の片隅で、『もしかしたら……』という考えが浮かぶがすぐに振り払った
奇跡はもう二度と起きない。彼は私のことなんて思い出せないんだ
上条「よう、また会ったな。えーっと……名前は……しょく……?」
上条「ああ、そうだ。食蜂だったよな」
食蜂「!?」
ありえない……
今、彼は確かに言った。言ってくれた
『食蜂』
私の名前を
彼は呼んでくれたんだ
私の表情を不安そうに眺める彼はあたふたと焦り始めた
上条「あっれー?おかしいな、確か会ったことあるよな、俺達は」
食蜂「え、そのぉ…」
上条「前もこのあたりで会ったじゃねえか。その前だって……あれ?その前は、どこで会ったんだっけ……?」
相変わらず記憶はあやふやで、どうやら今日は病院で会ったことを覚えていないようだった
でも、だけど
彼はまた、私のことを覚えていてくれた
事実、私の目の前ではにこやかに佇んでいる上条さんの顔がある
食蜂「…………ねぇ、私の名前、もう一度言って?」
上条「ん?食蜂だろ?食蜂操祈」
彼がそう言った瞬間、私の中で何かが爆発した
全身が燃えるようにカッと熱くなり、呼吸が加速する
目の前には彼しか映らない。周りにはもう、何も見えない
食蜂(どうして彼が私を覚えているかなんて関係ない!今はそんなのどうだっていい!)
食蜂(上条さんが私のことを覚えてくれてる!上条さんが私の名前を呼んでくれた!)
食蜂(一度だけの奇跡じゃない……!!私はもしかして、もう一度、この人と、一緒に―――)
インデックス「とうまー!」
その瞬間、私の思考は断たれた
金色の刺繍を施した白い修道服を身に着けた銀髪シスターが、とてとてと彼に駆け寄ってきた
すると彼は嬉しそうな顔で「おー、インデックス!」と頭を撫でる
食蜂(…………馬鹿、ねぇ。たとえこの人が私のことを覚えていられるようになったって、もう隣にはいられないのに)
今の彼の隣には、あの銀髪シスターがいる
私の入り込む余地なんてこれっぽっちもない
食蜂(でもぉ……私は決めてたの。彼が、私のことを思い出してくれたその時は)
食蜂(とてもとても大切なお話をするって……そう決めてたのよねぇ)
そう
たとえ私がもう彼の隣に立つことは出来ないと分かっていても
それでも、私は伝えたかったんだ
食蜂「上条さん」
上条「ん?」
食蜂「私は……あなたが大好きです」
――――――――――
―――――
―――
食蜂(あっ)
街中で上条さんを見かけた
そのまま歩いて行き、やがて目の前まで近付き、そして通り過ぎた
これでいいんだ
これが、私と上条さんのあるべき形だった
彼はもう、私のことを覚えていない
今の彼にとって私は、一度も会ったことのない一般人Aでしかなく、もちろん名前も呼べない
今までが異常だった。絶対にありえないはずなのに、どうして彼は私のことを覚えていたのだろう
食蜂(結局、彼が私のことを断片的にでも覚えていた理屈はいまだに分かっていないけれど、でも)
食蜂(もしあれが夢でないのなら、いつか、また―――)
わずかに口元を綻ばせながら、私は人混みの中を進んでいった
―――え?あの時の告白はどうなったのかって?
それは、いつかまた、彼が私のことを思い出してくれた時に、ゆっくりお話しましょう
終わりです
駄文失礼しました
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