岡崎泰葉「私の憧れの人」 (92)
泰葉とフレちゃんとプロデューサーの物語です
後、このSSの泰葉はちょっと変だと思います
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その人は軽薄な笑顔を浮かべながら目の前に現れました。
そしてとんでもないことに仕事をしている私に「楽しくなさそう」なんて言ってきたのです。
だから、初めての印象は最悪でした。それこそ、こんな思いを寄せるなんて思わないほど……
泰葉「だから、プロデューサーさんったら酷いんですよ……フレデリカさん、聞いてますか?」
フレデリカ「うん、聞いてる聞いてる」
泰葉「じゃあ今まで話したこと言ってみてください。」
フレデリカ「うーんとねえ、ヤスハちゃんのアプローチにプロデューサーが振り向いてくれないって話でしょ。」
泰葉「そうですけど、そうじゃなくて……」
フレデリカ「やーん、照れてるヤスハちゃんカワイイー!」
泰葉「ちょっ、フレデリカさんやめてください……!」
フレデリカさんに抱きしめられてしまいました。
私は細かいことを聞きたかったんですけど、ついフレデリカさんの言葉に照れて隙を見せてしまいました……
泰葉「わ、私はちゃんと細かいことも聞いてるか……」
フレデリカ「聞いてるよー、いつものでしょ?」
泰葉「いつも、とかじゃなくて……」
フレデリカ「ちゃんと聞いてるよ、ヤスハちゃんの話。」
フレデリカさんが私の目をじっと見つめる。
フレデリカさんは目力が強くて、こうして見つめられるとどうにも押しきられてしまう。
泰葉「むむぅ……まあ、いいです。プロデューサーさんったらつれないんですよ、私とプロデューサーさんの仲なのに。」
フレデリカ「プロデューサーとアイドルの関係だね。」
泰葉「チョコをあげたこともあるのに……」
フレデリカ「お仕事だね、一緒で楽しかったよ!」
泰葉「色んな姿を見られたのに……」
フレデリカ「お仕事の衣装だね!」
泰葉「そして、色んな壁をふたりで乗り越えたのに……」
フレデリカ「ビジネスパートナーとしてね!」
泰葉「フレデリカさん……」
余計な茶々を入れるフレデリカをじっと睨む。
フレデリカ「えっ、フレちゃんひとつも間違ったこと言ってないよ!」
泰葉「とにかく、いくら誘っても乗ってこないんです。ポッキーゲームもダメでしたし、背中のファスナーも特に反応なく上げられてしまいました……」
フレデリカ「うーん、それはショックだよね……」
泰葉「私に魅力がないんでしょうか……」
フレデリカ「そんなことないよ!たくさんのファンがヤスハちゃんにメロメロだし、もしプロデューサーがそんなこと言ったら真実の口に食べさせちゃうんだから!」
泰葉「フレデリカさん……ありがとうございます。」
フレデリカさんの励ましに気力が沸いてくる。彼女はそういうのが本当にうまいと思う。実際今回を含め何度も励まされた。
泰葉「それでプロデューサーさんを誘惑する方法ですけど……」
フレデリカ「それフレちゃんも考えなきゃダメ?」
泰葉「もう私には手がないんです……!」
フレデリカ「うーん、そう言われても……あっ!」
泰葉「何かありましたか!?」
フレデリカ「プロデューサーは放っておくといいと思うよ。」
泰葉「それ成り立つんですか?」
フレデリカ「そうだよそうだよー、押してダメなら引いてみろって言うでしょ。プロデューサーにはピッタリの作戦だと思うな!」
泰葉「……確かにプロデューサーさんはそういうことを気にするタイプですね。フレデリカさん、ありがとうございました!」
私は天啓を得ました、プロデューサーさんを落としてみせます!
泰葉「ぐうぅぅぅぅぅぅ……」
薫「泰葉ちゃん、大丈夫?すごい顔だよ?」
泰葉「だ、大丈夫……薫ちゃん、ありがとう……」
まさかみんながプロデューサーと遊んだり話をしているのを離れて見るのがこんなに辛いなんて……
フレデリカ「ヤスハちゃん、大変だねー。」
泰葉「う、裏切り者……」
このフレデリカさん、私には離れるように言って自分はプロデューサーさんに構って貰っていたのだ。裏切り者と言わざるを得ない。
フレデリカ「えー、でもアタシも一緒に離れていたらフレちゃんもプロデューサーの対象になっちゃうよ?」
泰葉「ぐうぅぅぅぅ……」
桃華「あの、プロデューサーちゃまから話してほしい気持ちはわかりますが、無理はよくないですわよ……」
泰葉「あ、ありがとう桃華ちゃん……もう耐えられないから帰るね……」
薫「泰葉ちゃん、気をつけてね……」
フレデリカさんと薫ちゃんと桃華ちゃんに見送られながら帰ることにした……
うぅ……まさかプロデューサーさん断ちがこんなに辛いなんて……
大した時間ではないはずなのに体が震えて心が凍えてしまいそうです……
そして気づいたのですが、今日帰るのであれば次の日も続けなければ意味がない……
恐ろしい、あまりに恐ろしすぎます!
プロデューサーさんと離ればなれになる恐怖に襲われながら、私は女子寮への道をとぼとぼ歩きます。
せめて、女子寮の仲間と触れあって回復しなければ……そう思いながら歩いていると後ろから聞き馴染んだ声が聞こえました。
嗚呼、あまりにプロデューサーさんが恋しくて幻聴まで聞こえたのか、そう思い振り返らないでいたのですが、更に大きく聞こえてきました。
流石に振り返り、目を向けるとそこには私に向かって駆けているプロデューサーさんの姿が!
フレデリカさん、ありがとうございます。あなたは私の救世主です。
P「おい泰葉、大丈夫か?」
泰葉「え、ええ。はい。」
P「よかった、様子が変だったから心配したんだ。もしかして俺に変なところあったか?」
泰葉「いえ、そんな……」
P「俺じゃないのか?俺のせいじゃなくても俺に出来ることがあったらなんでも言ってくれ。」
なんということでしょう、少し離れていただけでこんな台詞が出てくるとは……
フレデリカさん、私にとってあなたはアポロンでした……
泰葉「だだ、だったら……!」
P「おう、なんだ?」
泰葉「キス、してください……」
千載一遇のチャンスを逃さないこの要求!ママ、パパやったよ!私、これから大人になります……!
P「……ハァー」
え、今のため息なんですか?
P「あのなあ泰葉。それはダメだ。」
泰葉「なんでもって言ったじゃないですか……」
P「それは出来ないことだ。俺たちがアイドルとプロデューサーという関係である以上な」
泰葉「でも、でも……」
P「たまにそういう話も出るが良くないことだ。アイドルがプロデューサーの権力で手込めになっている。」
泰葉「でも私はプロデューサーさんが好きです……!」
P「それでもだ。誤解を与えることもあるだろうし、仕事の仲間としてそういったことはよくない。」
泰葉「プロデューサーさん……」
先程の天に舞い上がるような気持ちから一気に地獄に落とされた気分です。
プロデューサーさんは、あまりに理性的でした。
泰葉「プロデューサーさん、せめて何か……」
P「そうだなあ……」
そう言うと、プロデューサーさんは優しく頭を撫でてくれました。
いつもなら子供扱いしている、せっかく整えた髪が乱れる、そんなことを考えてしまうのだけど。
今日だけはその手に甘えたい気分でした。
泰葉「と、こういうことになりました。」
フレデリカ「へー、結構効果あったねー。」
泰葉「ここまで聞けたのもフレデリカさんのお陰です、ありがとうございました。」
フレデリカ「いやいや、アタシは大したことしてないよー」
泰葉「じゃあお礼もすんだし……さて、プロデューサーを落とすにはどうすればいいでしょうか……」
フレデリカ「ええー、まだやるのー?アイドルやっている内は脈なしじゃない?」
泰葉「そんなこと言って誰かと付き合ったらどうするんですか!最低でもアイドルやめた後付き合ってもらう約束をするまでやりますよ!」
フレデリカ「えー……」
この後もフレデリカさんは嫌な顔をしつつも付き合ってくれました。
ひとまず投下終了です
次の話は乙倉ちゃん、森久保の後輩ズと共にブドウ狩りに行く話の予定です
乙倉悠貴「泰葉さん乃々さん、ぶどう狩りですよっ!」
乃々「ぶどう狩り……ですか?」
乃々さんが怪訝そうな顔で聞く。
P「うん、この前悠貴とぶどう狩りに行ったら気に入られてね。お仕事として受けることになったんだ。」
そうなんです、お休みに行く予定が行けなくなったって話したら連れていってくれて。プロデューサーさんって本当に優しいですっ。
泰葉「なるほど、そうなんですね。それでなんで私と乃々ちゃんもなんですか?」
P「他にも何人か欲しいって言われたんだ。乃々は合いそうなイメージ、泰葉はバランサーだ。」
泰葉「バランサーならフレデリカさんが適任じゃないですか?」
確かに泰葉さんの言う通り、フレデリカさんは周りの事をよく見ていてあの人がいると大体うまくいきます。
P「フレデリカはレイジー・レイジーの仕事がある。それに乃々と泰葉という選択は全体のバランスも考えて選んだんだ。
撮影には俺もついていくが、期待に応えてくれると助かる。」
乃々「そ、そうなんですか……」
悠貴「泰葉さんも乃々さんも、一緒にお仕事したことありますもんね!」
泰葉「そういえばそうだね、あの時は乃々ちゃんを机から出すのが大変で……」
乃々「あぅぅ、掘り起こすのはやめてほしいんですけど……」
悠貴「ふふっ、あの時のお仕事も楽しかったし、ぶどう狩りのお仕事もきっと楽しくなりますよねっ。」
P「そうだな。軽く打ち合わせるから机の方に来てくれ。」
そこから段取りなど少しだけ打ち合わせました。
悠貴「今日はぶどう狩り当日ですね、頑張りましょう!」
泰葉「はい、頑張りましょう。」
乃々「はい~……」
P「それじゃあぶどう農園まで行くぞ。」
泰葉「じゃあ私、助手席に乗りますね。」
P「んー、ふたりはそれで大丈夫か?」
悠貴「? はい、大丈夫ですけど……」
乃々「もりくぼは助手席嫌なんですけど……」
P「……ならいいぞ。ふたりは後ろの席に乗ってくれ。シートベルトも忘れないでな。」
泰葉「はい、わかりました。」
悠貴「はいっ。」
乃々「はい、着けます……」
プロデューサーさんは慣れた動作で車を起動させて、出発しました。車を運転する男の人ってカッコいいですよね、少し憧れますっ。
泰葉「それで、今日行くぶどう農園は採った後にぶどうジュースにして飲むこともできるところなんですよね。」
悠貴「はいっ、ぶどうジュースとってもおいしかったですっ。」
乃々「もりくぼはぶどうをちまちまと食べていたいです……」
P「そういうのも果物狩りの魅力だよな。カメラを気にする必要もあるけど、基本的には各自で楽しんでほしい。
それがぶどう農園の魅力の宣伝になるしな。」
泰葉「はい。」
悠貴「はいっ。」
乃々「はい。」
その後はとりとめのない話をしていたんですけど、私はある噂を思い出して聞いてみました。
悠貴「そういえば、泰葉さんがプロデューサーさんに告白したって本当なんですか?」
P「えっ……」
泰葉「そうなんですよね、好きって言っちゃいました。」
乃々「す、すごいですね……」
悠貴「憧れちゃいますっ。」
P「いや、いやいやいや……」
悠貴「プロデューサーさん、どうしたんですか?」
P「いや、プロデューサーとアイドルの関係上そういうのはよくないよ。俺も色々断ったしね。」
乃々「あ、それもそうですね……」
悠貴「残念です……」
P「まあ、年頃だしね。付き合うこと自体を否定するつもりはないけど。
相手がどういう人間か、もし公になった時誤解を与えないかとか色々気にしてやってほしい。
後、基本的には付き合っているのは隠す方向で。」
泰葉「くっ、既成事実を掴むチャンスが……」
P「そういう悪巧みはね、本当にやめてね。心臓に悪いから……」
この話の後はまたとりとめのないような話に戻り、ぶどう農園まで向かいました。
カメラマン「今日はね、楽しい表情をたくさん撮らせてもらうから。よろしくね。」
泰葉「はい、よろしくお願いします」
悠貴「はいっ、よろしくお願いしますっ。」
乃々「は、はい、よろしくお願いします……」
P「じゃあみんなで楽しくぶどうを採ろうか。」
泰葉「プロデューサーさんも楽しみですか?」
P「んー、そうだな。この前も楽しんだし、それがまた味わえるのはいいな。
ただそれよりも、泰葉と乃々がそれを体験して楽しんでくれるのが一番だよ。」
乃々「プロデューサーさん……私、嬉しいです……」
泰葉「私もです。目一杯楽しんできますね。」
P「うん、楽しんできてね。」
そして撮影が始まりました。色んな表情を撮ってもらいました。途中で乃々さんが落ちそうになってプロデューサーさんがかばうハプニング(泰葉さんは羨ましそうでした)がありましたが、凡そ順調。そして、採る時間が終わって食べる時間です。
悠貴「ここでは、採ったぶどうをジュースにして貰うことも出来るんですっ。私たちもジュースにしましょう!」
泰葉「食べる分は……これくらいで事務所へのお土産はこれくらいかな。じゃあこの分をジュースにお願いします。」
農家「はい、わかりました。こうして、実の部分を皮ごとミキサーに……
はい、できました。新鮮なうちにどうぞ」
乃々「……わっ。美味しいですね、本当に」
泰葉「はい、ぶどうの豊かな風味がちゃんと出ていて、フレッシュな味が喉を通り抜けます」
悠貴「ですよねっ、私も以前来たときに飲んで感動したんですっ。この味をTVの前のみなさんにも体験してほしいですっ」
乃々「悠貴さん、熱がすごい……」
悠貴「えっ、そうでしょうか……?興奮しすぎましたね」
泰葉「ジュースにしても美味しいですけど、もちろんそのまま食べても美味しいです。皆さん、ぜひ来てみてくださいね。」
カメラマン「……うん、よかったよかった。これで撮影は終わりだね。後は好きに楽しんでよ。」
泰葉「はい、ありがとうございました。」
悠貴「はい、ありがとうございましたっ。」
乃々「あ、ありがとうございました……」
P「……うん、やっぱり美味いな。みんな今日はどうだった?」
乃々「ぶどうを採るのは大変でしたけど、ぶどうは美味しかったですしよかったです」
P「ぶどうを採るのもみんなと楽しく出来たし、こうして食べる時のスパイスになったよな」
乃々「はい、そうですね。もりくぼもそう思います」
泰葉「お仕事でこうした色んな体験が出来て嬉しいです。乃々さんがプロデューサーさんに抱き留められていたのは嫉妬しましたけど」
P「……そうだな。泰葉も仕事を通して色んな体験をして、感性もさらに豊かになったと思うよ」
泰葉「そうですね、お芝居の仕事とかにも生かせそうです。それで、私も抱き留めてくれませんか?」
P「……悠貴はどうだった?」
……ええっと、泰葉さん大丈夫なんでしょうか?
悠貴「この前来た時すごく楽しかったですし、ぶどうも美味しかったのでこうして仕事という形でまた来れてよかったですっ。」
P「そうだな。悠貴の表情が一番光っていたと思うし、以前きた経験も生きていてよかったよ。」
プロデューサーさんに褒めてもらえたっ……!
悠貴「ありがとうございますっ!」
泰葉「あの、私への返事は……」
P「泰葉、今日はまとめ役としてちゃんとしてくれて助かったよ。これからも頼りにしているからな」
そういうとプロデューサーさんは泰葉さんの頭を軽くポンとしました。
泰葉「もう、こうすればいいと思っているんですから……」
そう言いながらも泰葉さんは顔を赤くしていました。やっぱり好きなんですね、素敵ですっ。
この後は色々お仕事の話をしながらぶどうを食べたり、ジュースを飲んだりしました。
悠貴さんと岡崎さんは車に乗ってしばらくすると寝てしまいました。もりくぼとプロデューサーさんだけが起きています。
P「あーあ、泰葉まで寝てる……まあ大丈夫なんだけどな。森久保も寝てていいぞ」
乃々「あっ、大丈夫です……」
P「そうか?じゃあ話に付き合ってもらうけど」
乃々「もりくぼも聞いてみたいことあるんですけど……」
P「んー、なんだ?」
乃々「なんで泰葉さんの思いに応えないんですか?」
P「前も言ったけど、誤解を与えるような関係はダメだよ。元々ビジネスパートナーなんだし……」
乃々「嘘、ですよね?」
P「……なんで嘘だって?」
プロデューサーの顔に不穏な物が見えます。それでも、私は聞きます。恩がある岡崎さんのためですから……
乃々「わかるんです、プロデューサーさんはそういう建前を使うけどそこまで重要だと思っていないし……」
P「酷い言い分だなあ……」
乃々「その時のプロデューサーの顔は恐れて拒絶している顔です」
P「!」
プロデューサーの顔から余裕が消えます。私に見抜かれたことを猛烈に恐れているんでしょう……
P「それで、何が聞きたいんだ?」
乃々「……なんで正直に答えないんですか?」
P「……それを教えるわけにはいかない」
プロデューサーは苦汁を舐めたような顔でそう言いました。恐らく本質に関わる事で答えるわけにはいかないのでしょう。
乃々「じゃあ……プロデューサーさんは岡崎さんをどう思ってますか?」
P「……好意を寄せてきて面倒くさい、ただの担当アイドルだよ」
……嘘はなさそうでした。果たして岡崎さんの恋は叶うのでしょうか……
私のLINEにメッセージが届きました。
泰葉
ごめんね、訊きづらいこと訊かせて……
あの質問は、岡崎さんに頼まれての事でした。悠貴ちゃんが寝た場合、私も寝たふりをするから訊いてほしいと。
もりくぼ
大丈夫です、岡崎さんはもりくぼを助けてくれる人ですから。
もりくぼも岡崎さんを助けたいです。
そう送ります。もりくぼを助けてくれる岡崎さんへの本心。
あんなことを言われていましたけど、やっぱり岡崎さんに報われてほしい。
切にそう願います。
泰葉
そう?今日は本当にありがとう。
またがあったらよろしくね。
そう返ってきました。また……
今度はもっと岡崎さんの力に……
以上です。泰葉の恋は叶うのか、森久保の決意でどう動くのか……
次回は事務所のアニバーサリーで、今までに登場した所属アイドルが全部出てくる予定です
すいません、まだ続きます
今回からつづくって入れますね
後、間隔が空いたのも申し訳ないです
それでは投下していきます
岡崎泰葉「私達のメモリアル」
……プロデューサーさんは、私の事を「好意を寄せてきて面倒くさい、ただの担当アイドルだ」と言った。
乃々さん曰く嘘はついてなさそうとの事。だから多分、プロデューサーさんからの私の認識はその程度、という事になる。
そして、私の告白に正直に答えず嘘があるという事。あの時の態度からそれ自体が嘘である可能性は薄そう。
プロデューサーさんも色々抱えているという事なのだろうか。だとすれば私の手で解きほぐせばプロデューサーさんは靡いてくれる……?
そうして色々考えて歩いていたら、もう事務所に着いていた。
気になる事は多い。それでも私は歩いていく。
アイドルという道も、プロデューサーさんのお嫁さんになる道も。
そう決意して私たちのプロジェクトルームの扉を開いた。
プロジェクトルームに入るとみんな大体集まっていた。
P「お、泰葉も来たな。という事は後はフレデリカだけか……」
泰葉「あれ?みなさん早いですね。確かまだ時間に余裕ありますよね。」
悠貴「事務所のメモリアルって聞くと、なんだか緊張して落ち着かなくって……」
乃々「もりくぼはプロデューサーさんが迎えに来ました……」
P「いざという事があるといけないからな。」
乃々「そんな事恐れ多くて出来ないんですけど……」
うーん、信頼が無いのはかわいそう……
泰葉「乃々さんの事もうちょっと信じていいと思いますよ。」
P「それもそうだな。乃々、ごめんな。」
乃々「あー、いえ。あまり気にしないでください。」
薫「かおるもね、朝からそわそわしてた!」
悠貴「ですよね、こんなの初めてですからっ!」
薫「うん、今日はたくさん頑張りまーっ! 桃華ちゃんも落ち着かなかった?」
桃華「いえ、わたくしはレディとして早めの集合を心掛けただけですわ。」
乃々「さすがですね、桃華さんはプロ意識が高いです。」
桃華「そのプロ意識なら泰葉さんの方がすごいと思いますわ。いつも意識を働かせて、今日もしっかり早めに来てますし。」
泰葉「うーん、桃華ちゃんより遅れてきたのに褒められても困るかな。」
桃華「いえ、泰葉さんはわたくしの目標のひとつですから。」
泰葉「じゃあ目標でいられるように今日も頑張るね。」
悠貴「後はフレデリカさんですけど、フレデリカさんがいないのも珍しいですね。」
P「まあ、そうだな。大体早めに来て遊んでいたりするし。」
桃華「まだ集合時間ではないと言えばそうなのですが……大丈夫ですわよね?」
P「まあその点については大丈夫……だと思う。」
少しずつトーンダウンするプロデューサーさん。
泰葉「もっと信じてあげてくださいよ。」
P「いや、そりゃあ以前から言ってたけど何か別の用事が出来たとかありえなくもないからな……」
別の用事……フレデリカさんが事務所のみんなで集まる撮影を放って行くとはなかなか考えづらいですけど、何か重大な事があったらって事なんでしょうか……
泰葉「うーん……」
P「まあ深刻になっても仕方ないよ、何かしらあるならあるで連絡するだろうし適当に待っていよう。」
プロデューサーさんもそう言いましたし、私たちはこれからの撮影についてなど話しながら待っていました。
そうして待っていると、ノックの音が聞こえてきました。
P「……開いてますよ、どうぞ」
フレデリカ「ふむ。ここが君たちのプロジェクトルームか。」
フレデリカさんが大仰な感じで入ってきました。
桃華「?一体何を……」
フレデリカ「君。」
P「はい、なんでしょう。」
プロデューサーさんは飽きれ気味で向かいました。
すると、フレデリカさんはプロデューサーさんのネクタイを持って……!
フレデリカ「アイドルの仕事を取る時、一番最初に見るのは君だ。身だしなみには気をつけたまえ。」
P「どうも……」
薫「せんせえの服を直しただけだったね」
フレデリカ「……えーっと」
P「フレデリカ。」
フレデリカ「ん?」
P「似てないぞ。」
フレデリカ「ええっ、酷い!プロデューサーはいつからそんな冷たくなったの……」
P「……」
フレデリカさんは物真似をしていたんですか……。でもネクタイ直すのは必要だったのかな……
乃々「泰葉さん……?」
泰葉「あっ、うん、大丈夫大丈夫!」
よくないものが漏れ出していたらしい。嫉妬して表に出すなんてよくないですよね……
P「まあ、これで全員揃ったな。時間もちょうどいいくらいだし、説明しながら向かうぞ。」
プロデューサーさんによると、今回のお仕事は事務所のメモリアルアルバムの撮影。今までのお仕事で撮った写真からいくつか出しつつ、それぞれの部門で一緒に撮影した写真も使ってアルバムを作るらしい。
そのための部門の写真をこれから撮りに行くというわけだ。
悠貴「うわー、たくさんありますね!」
撮影する部屋に着くと、風船や遊具がたくさんあった。これで遊んでいる姿を撮るらしい。
P「この撮影で遊ぶのに抵抗があるアイドルもいるかもだけど、頑張ってほしい。」
桃華「大丈夫ですわ!わたくしだってプロですもの!」
私もそのセリフに倣って頷く。こうして遊ぶのは子供っぽい姿かもしれないけど、お仕事だしみんなでやるから大丈夫だ。
ちなみに最年長のフレデリカさんは特に聞かずに遊んでいる。プロデューサーの思いは知っているのだろうか……
カメラマン「うん、泰葉ちゃんその調子その調子!いいよー!」
基本はみんなが遊んでいる姿を勝手に撮っていくスタイルみたいだけど、時々ポーズとかのリクエストが来る。
それに応えながら遊び、撮影はどんどん進んでいく。
カメラマン「うん、最後にみんなで撮ろっか!」
空いているスペースにみんなで集まり、簡単なポーズをとり決める。
カメラマン「うん、これでいいかな。」
薫「ねえねえ、後ひとついい?」
カメラマン「ん?なんだい?」
薫「せんせえも一緒に写真撮りたいな!」
悠貴「あっ、そうですね。私も撮りたいですっ!」
プロデューサーさんも一緒に……隣を取りたいな。
P「えー、俺はいいよ。」
プロデューサーさんは否定的でした。でも……
桃華「わたくしは、プロデューサーちゃまも一緒に撮るべきだと思いますわ」
乃々「もりくぼもそう思います……」
泰葉「わ、私も!」
桃華ちゃんが援護射撃をしたのに合わせて、乃々ちゃんと私も言いました。
P「フレデリカ……」
フレデリカ「んー、撮るくらいいいんじゃない?」
P「……そうだな。じゃあ撮ろうか。」
薫「やったー!」
薫ちゃんの満面の笑顔。これを見られただけでも賛成した価値はありますけど……プロデューサーさんの隣は譲れません!
P「なあ、ここじゃなきゃダメか?」
悠貴「ダメです♪私たちのプロデューサーさんですからっ。」
立ち位置は前に左から薫ちゃんと桃華ちゃん、中間に私、プロデューサーさん、乃々ちゃん、後ろに悠貴ちゃんとフレデリカさんになりました。
なんとか身長を理由に隣を確保しましたよ……!そうそう、プロデューサーさんはみんなのということで、立ち位置は真ん中になりました。
カメラマン「それじゃあ撮るよ、はいチーズ。」
パシャリ
撮るかどうか、立ち位置がどうとか言ってた割に撮るときは一瞬で決まりました。
桃華「では、この写真は人数分お願いしますわ」
薫「カメラマンさん、ありがとうございまー!」
薫ちゃんのお礼に合わせてみんなで頭を下げる。この写真も含めてどうなるか楽しみだ。
フレデリカ「それにしてもこの一年、色々あったよねー。」
桃華「はい。みんなプロデューサーちゃまに見出され、アイドルになって……」
悠貴「確かフレデリカさん、泰葉さん、桃華ちゃんと薫ちゃん、そして私と乃々さんの順で所属したんですよね。」
泰葉「そうだね、私がアイドルになった時にはフレデリカさんは既にいたよ。」
薫「かおるたちがいなかった時の面白い話ってある?」
フレデリカ「んー、特にないかなー」
撮影が終わってみんなでプロジェクトルームに戻って思い出話をしています。思えば本当に色々ありました。
あの頃の私と今の私はまるで別人で。それでもどちらも私で。
その時の話をすればみんな楽しんでくれるのかなとか考えたりして。
泰葉「私は、あの頃とはだいぶ変わったなって思うよ。」
思えば口をついていた。こういうところも変わったところかもしれない。
乃々「そうなんですか?どう変わったんでしょう」
泰葉「あの頃はみんなに心を閉ざして、大人の言うことを聞くことに精いっぱいだったと思う。
プロデューサーさんの印象もあんまりよくなかったし。」
悠貴「以外かもです。泰葉さんが思いを寄せているのをずっと見てきたから……」
泰葉「プロデューサーさんは私に真剣に向き合ってくれて……だから私もプロデューサーさんに向き合いたいんですよね。」
フレデリカ「……そうなんだ。」
桃華「泰葉さん、そういうことを考えてらしたんですね。」
泰葉「うん……。これ以上話すと湿っぽくなっちゃうかな。フレデリカさんの初仕事はどうだったんですか?」
フレデリカ「んー、頑張った♪」
乃々「あの、どう頑張ったかを聞きたいと思うんですけど……」
フレデリカ「どう頑張ったか……あんまり覚えてないかも。」
薫「そうなんだ、残念……」
この後も色々話しました。プロデューサーさんってこんなことしてたんだってお話していて知ったり。
あっ、嫉妬はしてませんよ!……そんなには
楽しく話していると時間が経つのが早いものです。そして、最後に
フレデリカ「こうやっていろんなお仕事をやって、そのことをお話しできるのもプロデューサーのおかげだよね。」
泰葉「本当にそうですね、プロデューサーさんには頭が上がりません。」
桃華「これからも、プロデューサーちゃまと共に歩んでいきたいです。」
薫「うん!だからせんせぇ!まだアニバーサリーには早いけど……」
「「「「「「いつもプロデュースしてくれてありがとう!!」」」」」」
つづく
なんとなくどうだったか調べてみたら薫ちゃんのがせんせえじゃなくてせんせぇであることが判明
最後の以外間違ってます……うーむ
次は泰葉が関ちゃんと一緒に恋愛映画を撮るお仕事。今度は近いうちに投下できると思います
よく見たら途中の乃々さんが乃々ちゃんになっている……
お前の呼称ガバガバじゃねーか
修正したのはpixivに上げているんでもしよろしければ
それでは投下していきます
岡崎泰葉「私と『彼女』の恋心」
それはアルバムの撮影の四日後。私はプロジェクトルームに呼ばれました。
泰葉「えっ、私が恋愛映画のヒロインですか?」
P「ああ、メインの子じゃなくてちょっと意地悪な役なんだけどな。
泰葉、やってくれるか?」
泰葉「……私の演技経験を買っての役なんですよね。」
P「うん、そう聞いているよ。」
泰葉「そう聞いたら受けないわけにはいきませんよね。」
恋愛映画の意地悪なヒロイン。難しい役で、もしかしたら損をするような役かもしれないけど。
私なら出来る、演じて魅せれると判断してくれたのならそれに応えたいと思いました。
P「そっか。何か手伝えることがあったら言ってくれ。」
泰葉「はい、わかりました。」
プロデューサーさんは私の事をあまりよく思っていないみたいだけど、私の事は変わらず友好的に接してくれます。
それはプロデューサーとしての立場から来るものかもしれないけど、そこから私の事を知って好きになってくれたら……と淡い希望を持ってしまいます。
実際にはそううまくいかず、私からプロデューサーさんを知る必要があるんでしょうけど。
泰葉「用件はそれだけですか?」
P「ああ、今は特にないな。」
泰葉「それじゃあ失礼します。映画のお仕事、楽しみにしてますね。」
P「ああ、またな。」
またな。そう言ってくれて何度も会えるのが嬉しいのはきっと恋心。
この恋心を映画の演技に生かせるだろうか?そんなことを考えながら帰っていきました。
P「台本、届いたぞ。」
泰葉「あっ、ありがとうございます。早速ホン読みしますね」
台本を読んでいき気になった所、大事だと思った所にマークを入れていく。
時に実際に演技しながら、『彼女』の事を解釈していく。
P「んー、見事なものだなあ。」
泰葉「あっ、プロデューサーさん見ていたんですか?」
P「ああ、ちょっとだけな。しかし、まだ始まってもいないのに色々書いているな。
こういう解釈って実際に聞いた方が早くないか?」
泰葉「これだけの量を一気に聞いたりできないですよ。それに……」
P「それに?」
泰葉「私は自分自身で理解しようとするのが大事だと思うんです。
彼女はその世界で生きているからその思いを私の手で汲み取りたいんです。」
P「……へー。」
なんとなく、溜めのあるへーでした。私の話に思うところでもあったんでしょうか?
泰葉「香澄役の岡崎泰葉です、よろしくお願いします。」
そして、いよいよ演者の顔合わせです。メインヒロインの役を射止めたのは関裕美ちゃんでした。
歌った曲とタイアップしたドラマ『礼節と灼熱の嵐』での演技を見込まれて抜擢されたのだとか。
裕美「泰葉ちゃん、私慣れないところもあるだろうしよろしくね。」
泰葉「うん、一緒に頑張ろうね。」
裕美ちゃんはユニットでの活動の他プライベートでも仲良しです。
他の役者さんや演出の方、監督も優しそうな人だったり気心が知れていたりで、この撮影も楽しくできそうです。
*
「なあ、花。一緒に遊びにいかない?」
裕美「なんで?」
「えーと、俺が花に興味あるから……」
裕美「私、軽い人って嫌いなんだ。失礼するね。」
「あー、クソッ!ダメだったか……」
泰葉「……」
*
泰葉「ねえ、翔くん。私、あなたの事好きだよ。」
「そんな事言われても困るよ。俺には好きな人がいるんだ。」
泰葉「それって、花ちゃん?」
「! なんでそれを……」
泰葉「私、ずっと翔くんを見ていたもん。気づくよ。
翔くん、花ちゃんは自分に自信がなくてそんな自分を誰かが好きになるなんて信じられない人だよ。
ずっと、からかっているんだと思って振り向かないよ。だから私を見て……?」
「香澄……!」
*
裕美ちゃんの撮影が終わって、水を持っていきます。
泰葉「裕美ちゃん、大丈夫?」
裕美「うん、大丈夫。ありがとう泰葉ちゃん。」
慣れないこともある中で裕美ちゃんは懸命に『花』という役を演じています。
繊細で健気な『彼女』の邪魔をするのは心が痛みますが、『香澄』としては仕方のない事です。
裕美「やっぱり泰葉ちゃんってすごいね。」
泰葉「裕美ちゃんも経験を積めばもっと出来るようになるよ。」
裕美「そう、かな?」
泰葉「うん、そう。」
ふたりの間に暖かい空気が流れます。
裕美「演技をしている時はちょっと怖いけど、こうして話すといつもの泰葉ちゃんで安心するな。」
泰葉「ふふっ、裕美ちゃんと花ちゃんは結構近いよね。」
裕美「うん、なんとなく共感できるところが多くて……彼女と会えて本当によかったよ」
泰葉「演技畑の人間としてはそう言って貰えて本当に嬉しい。ありがとう。」
裕美「そんな……!お礼を言われることじゃ……」
泰葉「裕美ちゃん、これからも頑張ろうね。」
裕美「うん、泰葉ちゃん!」
*
裕美「翔くん、どんな人なのかな……」
泰葉「翔くんは私と付き合っているよ。」
裕美「え、なんで……」
泰葉「私が告白したの。そうしたら付き合ってくれた。」
裕美「そっか、やっぱり誰でもよかったのかな……」
泰葉「……そうかもね。」
*
撮影はどんどん進んでいきます。花ちゃんに翔くんに、二枚舌を使う彼女を演じるのは罪悪感もあるけど、きっと彼女も感じていて。
そこまでするのはひとえに翔くんが好きで誰にも譲りたくないから。
彼女の気持ちを理解し、それを演技へと反映していく。
それはいつも通り、とても楽しいことでした。
P「泰葉、大丈夫か?」
泰葉「大丈夫です。私はやりきって見せます。」
P「そうか……」
役にのめり込む様子が危うく見えるのか、プロデューサーさんが心配してきます。
私はプロデューサーさんを独占できるようで、なんだか嬉しくなりました。
P「演技って、生で見るとこんなにすごいものなんだな……」
泰葉「プロデューサーさんも演技が好きになってくれたら嬉しいです。」
それと一緒に私も好きになってくれたらもっと。
*
夜の帳が降りた道で、ふたりは言い争っている。
泰葉「ねえ、なんで別れるなんて言うの!?」
「俺、やっぱり花が好きなんだ。この気持ちに嘘はつけない。」
泰葉「そんな……!」
「今、花はへこんでいる。そんな彼女を救いたいんだ!」
泰葉「無理だよ、翔くんには出来ない!」
「なんでそんなことを……!」
泰葉「だって翔くんは私と付き合ったじゃない!そんな翔くんが繊細な花ちゃんと付き合っても傷つけるだけだよ!」
「ぐっ……」
泰葉「ふたりが一緒になっても幸せになれないよ!翔くんも、花ちゃんも、みんな不幸になる!
ねえ、だから私と付き合おう?私なら翔くんを幸せにするから……」
泰葉は相手にすがる。外聞もなにも気にせず、ただ関係を維持するために。
「そうかもしれない……」
泰葉「だったら……!」
泰葉の顔に一気に喜色が浮かぶ。だけど……
「でも、お前の思いに応えることは出来ない。
例え俺のエゴだとしても花を救いたい。
今も花は傷ついている。だったらせめて愛して傷つけたいんだ。」
泰葉「そんな……」
一転して絶望したような顔になる。そんな泰葉を置いて相手は駆け出していった。
*
公園で落ち込んでいる裕美の前に息を切らした彼が現れる。
「花!」
裕美「え、翔くん……? 香澄ちゃんはどうしたの?」
「別れたよ。」
裕美「え、なんで……?」
「花の方が、もっと好きだったから。」
裕美「……」
「花が振り向かないと思って香澄と付き合ったけど、そんなの間違いだった。
花の事が気になるって言ったんだからその事に責任を持つべきだったんだ。」
裕美「翔くん……」
「花、好きだ。今日までたくさん傷つけたし、これからも傷つけることがあると思う。
それでも好きって気持ちに嘘はつけない。許してくれるなら、付き合ってくれ。」
裕美「……翔くん、翔くん!」
裕美は感極まって相手に抱きつく。
「付き合ってくれるか?」
裕美「うん、付き合う!私も翔くんが好き!」
「これからは放課後は一緒に帰ろうな。」
裕美「寄り道もいっぱい教えてね?」
「ああ! だから帰ろう。」
裕美「うん……。ねえ」
「なんだ?」
裕美「手を握って」
「ああ。」
そしてふたりは手を繋ぎ歩み始める。その姿はきっと、これから先も変わらず……
*
演出家「これで撮影はオールアップです、お疲れさまでした!」
泰葉「お疲れさまでした」
裕美「お疲れさまでした」
演出家「ふたりとも本当によかったよ。選んで間違いなかったね。」
泰葉「ありがとうございます」
裕美「あ、ありがとうございますっ」
演出家「それじゃあ帰り道気を付けてね」
泰葉「はい、ありがとうございました」
裕美「はい、ありがとうございました」
P「泰葉、お疲れ様」
泰葉「あ、プロデューサーさん」
P「本当に、頑張ったな」
泰葉「はい。」
プロデューサーさんに労って貰って自然と笑顔になる。
好きな人にこういって貰えるなんて、本当に幸せだ。
P「なあ、泰葉は香澄の事を理解できたか?」
泰葉「はい、共感できることもありましたし……」
P「それは本当にか?」
泰葉「……はい。」
プロデューサーさんはどうしたんだろうか?なんだか、恐い。
P「リテイクを要求されて演技が変えられたこともあるよな。」
泰葉「私の解釈が通ったこともありますよ。そもそもみんなで作るものですし。」
P「……そうか。今回は本当に頑張ったな。」
そう言うとプロデューサーさんは誤魔化すように頭を撫でてきました。
嬉しいけど、流石に不自然だと思うんですが…
私の演技が、もしくは生き方が、プロデューサーの琴線に触れるものがあったんでしょうか?
それだったらどういう形でも嬉しいんですけど。
つづく
投下終了です
次の話はアルバムが完成して、泰葉とフレデリカが話し合います
フレちゃんの話って書いたのに出番少なくてゴメンね、ちゃんと書くから……
またお久しぶりになってすみません
そして、次のはフレちゃんタイトルだけどまず泰葉視点で始まって泰葉主軸になります
フレちゃんの視点は後でがっつり使う予定があるので許し亭許して
宮本フレデリカ「ふたりのウソつきの馴れ初め」
プロデューサーさんを理解するため、そして救うため、私は以前よりプロデューサーさんを見ている。
乃々さんも協力してくれているけど、未だに底は見えない。プロデューサーさんはそれを隠しているから。
正直、行き詰っていた。どうすればいいのだろうか。そんな事を思いながら、プロジェクトルームに向かった。
泰葉「おはようございます……」
フレデリカ「おはよー、なんだか元気ないね?」
泰葉「そうかもしれません……」
フレデリカ「本当に大丈夫?」
泰葉「プロデューサーさんのことが分からなくて……」
フレデリカ「ああ、それじゃあ……」
フレデリカさんが喋ろうとしたところで、プロジェクトルームのドアが開いてプロデューサーさんが現れた。
P「よいしょっと。今日いるのはフレデリカと泰葉だけか?」
泰葉「そうですね、他の子はオフで遊びに行ったりしているみたいです。」
P「んー、まあいいか。アニバーサリーのアルバムが出来たから、ふたりにも。」
フレデリカ「おー、出来ていたんだ。どれどれー」
P「基本は前に配った見本のと変わらないぞ。他の部門のもあるところが強いて言えば違うところだけど。」
フレデリカ「そこ違えば全然違うよー、えーとシキちゃんのはー」
P「やれやれ、元気だなあ……。泰葉も受け取っておけ、ほれ。」
アルバムを受け取ります。大きな事務所の記念アルバム、流石に大きいし思いです……。
フレデリカ「んー、そうだ!ヤスハちゃん、カフェでアルバム見よう!」
泰葉「え? 誰もいませんしここでもよくないですか?」
フレデリカ「フレちゃんパンケーキ食べたいなあ……」
泰葉「わかりました、行きましょうか……」
朝早いのに……朝食を食べてなかったんでしょうか?
そんな事を思いながらカフェへ向かいました。
フレデリカ「んーと、カフェオレひとつでー」
店員「……そちらのお客様は何か注文おありでしょうか?」
泰葉「えっ、じゃあココアをお願いします」
店員「わかりました、それではカフェオレとココアでよろしいでしょうか?」
フレデリカ「うん、オッケー。よろしくねー。」
泰葉「あの、パンケーキ頼まないんですか?」
フレデリカ「ヤスハちゃんパンケーキ食べたい?」
泰葉「いえ、フレデリカさんが食べたいって……」
フレデリカ「アレ、嘘!ゴメンね♪」
泰葉「う、嘘だったんですか……」
なんでそんな嘘を……
フレデリカ「うん、アタシはウソつきでね。そしてプロデューサーもウソつきなんだ★」
フレデリカさんは明るくそう言い放つ。嘘つき……あんまりいいイメージはありません。
フレデリカ「今から話すのは、ひとりのウソつきがもうひとりのウソつきと出会うおはなし。
プロデューサーはあんまり知られたくないし聞きたくないと思うからカフェに来たの。」
泰葉「なんで、それを私に話すんですか?」
フレデリカ「ヤスハちゃんが本気で悩んでいたから、かな?」
泰葉「……」
やっぱりこの人は、他人をよく見ている。この人がいればプロデューサーを理解するのも……
フレデリカ「じゃあ話していくね。」
*
それはフランスの大統領から下された使命。
50年前、当時は世界も色々ゴタゴタしていて、日本は危険な国だった。
そんな国を見張るために大統領はエージェントたるアタシ、宮本フレデリカに使命を下したの。
日本に来たアタシはハーフという立場を生かしてアイドルとして日本社会に溶け込んで……
*
泰葉「ちょっと待ってください。」
フレデリカ「ん、なに?」
泰葉「嘘ですよね?」
フレデリカ「うん、嘘だよ♪」
泰葉「前に友達に勧められたからって言ってましたよね。」
フレデリカ「うん、その通りー。よく覚えていたね。」
泰葉「覚えるのは得意な方なんで……で、なんでそんな嘘を?」
フレデリカ「ちょっとした小手調べだよ~」
泰葉「なんでそんなファンタジーみたいなことを言うんですか……」
そう言うと、フレデリカさんはそれまでの楽しげな雰囲気から一気に真剣になりました。
フレデリカ「ヤスハちゃん、アタシは過去の事を喋るけどそれが全て本当である保証なんてないんだよ。」
泰葉「……フレデリカさんは嘘つきだからですか?」
フレデリカ「……ウソつきじゃなくてもだよ。」
泰葉「? それはどういう……」
フレデリカ「ヤスハちゃんはアタシの事を疑いながら話を聞いてね。」
泰葉「……はい。」
どうやらこの話を聞くにあたって、気を抜いてはいけないようだ。
*
アタシは友達に勧められてアイドルになろうと思ったんだよね。その容姿を生かさない手はないって。
そうしてオーディションに行ったんだけど、ずらっと並んでいる人達のひとりにつまらなさそうにしている人がいたの。
ヤスハちゃんには信じられないかもしれないけど、それがプロデューサー。
アタシはその人を笑わせたいって思ったんだ。
P「自己アピールをお願いします」
フレデリカ「んー……ジュテーム!シルブプレー?クレーム・ブルレー!マカローン、クレープ、ババローワー?」
P「……自己アピールを、お願いします」
フレデリカ「……あは、バレちゃってる?そうなのー。こう見えて、フランス語は全然しゃべれないんだー♪
てことで♪ はじめましてー ! 宮本フレデリカだよー!見てのとおり、コテコテのフランス人……じゃなかった!日本人とのハーフでーっす♪
んーと、高校生のころはモデルみたいなコトをしてたかなー。
ホラ、私、金髪で青い瞳だし、スタイルもいいじゃん?学校でもけっこう目立つコだったんだよねー♪ 」
P「なんでオーディションを受けに来たんですか?」
フレデリカ「今回、オーディションを受けようと思ったのは、ん~……『ついカッとなってやった』って感じかなー♪」
P「へ?」
フレデリカ「あー、コレじゃ違うか。『ついカッとなった人にやられた』みたいなー?つまり被害者!フレデリカは被害者だったんだよー!」
P「えーと……?」
フレデリカ「つまり、カッとなった……かどうかはわかんないけど、友達に応募させられた的な感じだね~。
せっかくママにもらった自慢のルックスだしー、これをお仕事に生かさない手はないかなーって。」
P「はぁ……」
フレデリカ「あ、ねぇねぇ、もしかしてアナタがアタシのプロデューサーさんになる人?」
P「いや、私は……」
フレデリカ「んー、違うの?あなたは優しそうであり、厳しそうでもある……甘そうでもあるけどしょっぱそうでもある……そんな感じがする1」
P「なんですかそれは……」
その時、プロデューサーさんは少し笑ったんだ。苦笑いだったかもしれないけど、確かに。
フレデリカ「そしてあなた!」
美城常務「私か?」
フレデリカ「あなたはー、辛(から)くて辛(つら)くて、すごく美味しくて不味い。そんな感じかなー」
美城常務「ふむ……」
プロデューサーさんは笑いをこらえていた。他の人は青かったけどね。
フレデリカ「んー、こうしていると逆オーディションみたいだね!まぁ、アタシにも選ぶ権利はあるよね!たぶん!」
P「うーん……?」
フレデリカ「そうそう、アタシ、よく『喋らなければ美人』って友達に言われるんだけど、アナタから見てはどうかなー?そう思う?」
P「はい、そうですね」
フレデリカ「やったー♪ 喋らなければ美人ってことは、喋ったら超美人ってことだよね♪
じゃ、そんな感じでアイドル目指して頑張るから、最初の人よろしく♪ウフフ、じゃーねっ!ラビュー★」
美城常務「ほう……」
P「というわけで、君の指名通り私がプロデューサーになった。よろしく頼みます」
フレデリカ「ふんふんふん、オーディションだと違うって言ってたよね」
P「私は新人で元々はプロデューサーではないのですが、上からのお達しであんな逸材を逃すわけにはいかないから、だそうです。」
フレデリカ「おー、フレちゃん高評価!あなたから見てはどうかなあ?」
P「……素敵だと思いますよ」
多分嘘だった。この時のプロデューサーさんは表面上隠しているけど、その嘘はあんまりうまくなかったんだ。
フレデリカ「うん、じゃあよろしくね。これで後の最強コンビの結成だ!」
P「……そうですね、頑張りましょう」
その時の顔は笑顔だったけど、いろんな感情が混ざってて読めなかった。
今ならなんとなくわかるけど。多分アタシの言葉に笑ったのと、それが本当にできるかどうかわからない気持ちと、自分に対する自信のなさ。そういったものが頭の中でぐるぐるしていたんじゃないかな。
*
泰葉「つまり、フレデリカさんがあったころのプロデューサーさんは今のプロデューサーさんではなかったということですか?」
フレデリカ「んー、そうだねー。だからこれは、あたしと一緒にいる中でプロデューサーが今のプロデューサーになるお話、なのかな?」
泰葉「……なるほど。」
そういう話を知っていけば、確かにプロデューサーさんに近づける。フレデリカさんの話に油断はできないけど、話してもらえるのはありがたい。
泰葉「それにしても、プロデューサーじゃない新人だったのにプロデューサーにしてもらえるなんてフレデリカさんの評価って高かったんですね。」
フレデリカ「そうだねー、あの常務さんになぜか気に入ってもらえたみたい。ユニットのお誘いもよく受けるし♪」
泰葉「そうなんですね、確かによくあちらに行ってますね。」
ユニットの話もそうだけど、常務の部屋にもたまに行っていると聞く。
そういう話を聞くたびに恐れ多いなと思っていたけど、こういう経緯があったんですね……
泰葉「話の続きはどうなるんでしょう?」
フレデリカ「んーと、次はー……」
*
それからレッスンをしたりしながら、何日か経って。
センザイシャシンを取りに行ったんだ。
フレデリカ「フンフンフフーン、フレデリカ~♪ あ、プロデューサー、こっちこっち~、待ってたよ~♪
アタシ、今から『センザイシャシン』撮るじゃない?やっぱ泡だらけで、バブリーラブリーな感じなのかな~?」
P「そのセンザイじゃないですよ」
フレデリカ「オー、間違えちゃったデース!オー、ニホン語ムズカシーデース!なんちゃって~♪」
初めてのプロデュースで緊張していたプロデューサーの頬はその時には緩んでいたんだ。
フレデリカ「オフランス生まれのフレちゃん流ボケ、ツッコんでくれてありがとね!アイドルで芽が出なかったらお笑いでトップをめざそーね!」
P「それもいいけど、ちゃんと写真を撮ろう」
フレデリカ「あー、写真……じゃあ場の空気も暖まってきたみたいだし、そろそろ準備を始めてもらおっか!」
P「そうですね、みなさんよろしくおねがいします」
そういってプロデューサーは頭を下げる。それを見てアタシも一緒に頭を下げた。
フレデリカ「アタシね、ハーフだし、ビジュアルは完璧でしょ?だから今日のお仕事、すっごく楽しみだったんだ~♪
でも、プロに撮ってもらうなんて、ドキドキだよ~!もう、緊張しすぎちゃって、心臓が口から出ちゃいそ~。
うえ~。あ、ホントに出てきちゃった~!大変だ~!」
P「……ホントに緊張してる?」
フレデリカ「ホントに緊張しているかどうかは……どっちでもいいじゃん♪あたしもプロデューサーも、スタッフさんも楽しく、お仕事したいからねー!」
P「……」
プロデューサーは何やら思案顔だった。楽しいということに反応していたと思うよ。まあこのあたりの詳しいところはもうちょっと後で。
フレデリカ「ほらそこー、カメラマンさん、さっきのボケで笑いすぎて手がぷるぷるしてない~?写真がブレブレだったらや~よ♪」
カメラマン「うん、気をつけるよ」
フレデリカ「照明さんも、笑いすぎて光調節間違えないでね~?アタシ肌白いから、白飛びしたら背景に溶け込んじゃうんだから!」
照明「ふふっ、そうだね。気をつけなきゃ」
フレデリカ「あ、プロデューサーもそのままの顔で見ててねー!その笑顔で見ててもらえれば、アタシもきっといい顔できると思うから!」
P「はい、わかりました」
プロデューサーも思案顔から解放されて、みんな笑顔になって、楽しそうで。
こんなみんなが笑顔の場所がアタシは好きで。だから
フレデリカ「じゃ、はじめよっか!『喋らなければ美人』の、本気を見せてあげるー♪ ラビュー★」
みんなを笑顔にできる最高の空間で、アタシは笑って写真に写った。
*
泰葉「フレデリカさんは昔からフレデリカさんだったんですね。」
フレデリカ「うん、アタシフレデリカ!」
泰葉「そういうことじゃないんですけど……」
苦笑いしながらそう言う。多分、フレデリカさん流のボケで私を和ませようとしているのだろう。
泰葉「楽しいということに反応していたんですか……。なんだかイメージと違います。」
隠しているだけで今もそんなものを抱えているのだろうか……
フレデリカ「まあまあ、その辺りはこれから話すから。次の話はね……」
*
フレデリカ「フンフンフフーン、いよいよフレちゃん、アイドルデビュー♪ファーストお仕事は、遊園地のトークショーのゲストだね。おしゃべりなら得意分野だよー!」
P「そうですか、それなら安心です」
フレデリカ「でも、すんなりやると思ったら、大間違い!ここはひとひねり、ううん、3回転半ひねりくらいして☆おしとやかデビューでいってみよう♪」
P「喋らない方向性ですか?」
フレデリカ「うん!まずは美少女のアタシを楽しんでもらおうと思って。いーい? プロデューサー。レッスンした演技力、見せてあげるからさ!」
P「実際やってみるとどういう感じになりますか?」
フレデリカ「ボンジュール……♪アー……ジャポン……ンー……。アンシャンテ……。」
P「……」
フレデリカ「フレデリカでーす。オウエン……してくださーい……♪」
P「ウソつきですね……」
フレデリカ「んー、どうせなら、ウケる方がいいでしょー?今日のところは、このキャラで楽しんでもらおうと思って♪」
P「……なるほど」
プロデューサーさんは納得してないみたいだけど、そう言った。
フレデリカ「まだお仕事まで時間あるねー、ちょっとだけ遊ぼっか★」
P「ああ、どうぞ」
フレデリカ「むー……」
P「?」
フレデリカ「プロデューサーも一緒に来て遊ぶの、ホラ!」
P「わっと……!」
アタシはプロデューサーの手を引いてアトラクションへ駆け出して行った。
P「うぅ……辛い……」
フレデリカ「プロデューサー、大丈夫?」
P「まあ、なんとか……」
ジェットコースターやフリーフォール、コーヒーカップを経てプロデューサーはグロッキーになって、園内の喫茶店で休むことにした。
フレデリカ「んー、ただ休憩するのもなんだから質問に答えていってねー」
P「えっと、それは……」
フレデリカ「心理テストの本!これでプロデューサーを丸裸にしちゃうよー!」
そう言った途端、プロデューサーの目に一気に光が戻った。一瞬やる気が出たのかと思ったけど、その目は怯えてもいるようで……
フレデリカ「あなたは美しい森の中にいます。太陽はキラキラと輝き、風があなたの頬を気持ちよくなでています。
質問その1!誰と一緒に歩いていますか?」
P「……フレデリカさんかな」
フレデリカ「うん……。あなたはアタシと一緒に森の中を歩き続けていくと、ある動物に出会います。
質問その2!その動物は、一体何ですか?」
P「犬かな」
フレデリカ「犬種は?」
P「雑種だと思うよ」
フレデリカ「んー、じゃあ大型犬?小型犬?」
P「小型犬」
フレデリカ「ふむふむ……。さらに深く森の中を進むと空き地に出ました。その中心には、一軒の家があります。
質問その3!見つけた家はどれくらいの大きさ?その家に、フェンスはありますか?」
P「小さな家で、フェンスはない」
フレデリカ「そっか。家に近づいてみたところ、ドアが少し開いていました。そっと中へ入るとそこにはテーブルがありました。
質問その4!テーブルの上には何が置かれていますか?」
P「……リンゴかな」
フレデリカ「うーむ……。あなたは家の中をひと通り見て、裏口から外に出ます。そこには芝生が広がっていて、中心には庭があります。
そこで、あなたはマグカップを見つけます。質問その5!マグカップは何で出来ていますか?」
P「木製だと思う」
フレデリカ「んーと……、これ以上はいいかな。森の中を一緒に歩いているのは人生で一番大切な人だって!わーお、フレちゃん一番大事!」
P「そうなんだ……」
フレデリカ「出会った動物は抱えている問題の大きさだって!プロデューサーは大丈夫かな?」
P「まあ、そうですね。」
フレデリカ「家の大きさは野心の強さ。フェンスがないから素直な性格だって!」
P「ふむ……」
フレデリカ「テーブルの上が食べ物、人、花だと幸せだと感じているらしーよ。幸せ?」
P「はい、そうですね」
フレデリカ「マグカップの強度によって、一緒に歩いている人との関係の強さがわかるんだって!
フレちゃんとプロデューサー、あんまり仲良しじゃない?」
P「まあ、まだ出会ったばかりだし……」
アタシが泣き真似をすると、プロデューサーは慰めてきた。
フレデリカ「で、プロデューサー、楽しかった?」
その言葉にプロデューサーは一瞬ひるんだ後、「楽しかった」と答えた。
だけど……
フレデリカ「ウソつき」
P「!? なんで……」
フレデリカ「プロデューサーは自分のことを知られたくないんだよね、多分」
P「……」
この推測は多分合っていると思う。プロデューサーは答えなかったけど。
答えたくないのだろうと思って違う話題に移った。
フレデリカ「ねえ、プロデューサー。プロデューサーは楽しくなかったんだよね」
P「……ああ」
フレデリカ「じゃあ楽しくしちゃおう!嘘をついてもダイジョーブだから、アタシもつくし!」
P「なんで……?」
フレデリカ「誰だってウソはつくよ。だけど、ウソで楽しいふりをしても持たないよ。だったら自分で楽しくしちゃおうよ★」
P「ウソで……楽しく……」
フレデリカ「プロデューサー、プロデュースするのもやりたくなかったみたいでしょう?」
P「ああ、いきなりだったしな……。事務員で済むと思っていたし」
フレデリカ「じゃあ仕事を楽しくプロデュースしよう!それがウソでもいいから」
P「ウソで楽しく……そう、だな。楽しくないのなら自分で楽しくすればいい……!」
フレデリカ「うん、プロデューサーその調子その調子♪」
P「……で、どうすれば楽しいんだろう?」
フレデリカ「おっとっと……」
思わず滑りかけた。
フレデリカ「今日のトークショー、楽しくやるからプロデューサー見ててよ」
P「……うん、わかった。ありがとうフレデリカ」
*
フレデリカ「この後は色々あったけど、楽しく仕事を終えてプロデューサーは段々と今のプロデューサーになっていくんだよ。」
泰葉「そうなんですか……」
フレデリカ「つまりプロデューサーはアタシが育てた!」
泰葉「確かにそう言えるかもしれませんね」
フレデリカ「いや、これはおフランス流のボケで……」
フレデリカさんは遠慮しているけど、実際にそうと言えるほどフレデリカさんはプロデューサーに影響していると思う。
これだけ影響しているということは、もしかしてプロデューサーはフレデリカさんが好きなのでは……?
それにフレデリカさんが答えれば……
フレデリカ「で、他に質問ある?」
泰葉「ちょっと聞きづらいんですけど……」
フレデリカ「んーなになに?」
泰葉「フレデリカさんってプロデューサーのこと好きですか?」
フレデリカ「好きだよー、好きじゃなきゃこんなに一緒にお仕事してないよー」
泰葉「えっと、そういう事じゃなくて恋愛的な意味で……」
フレデリカ「……どっちだと思う?」
フレデリカさんの瞳に見つめられる。そのまっすぐな視線はどこまでも私を射抜いて……
P「ああいたいた。フレデリカ、そろそろ仕事だぞ。」
そこにプロデューサーが現れた。
フレデリカ「あれ、そうだっけ?」
P「そうだぞ、連絡したんだけどな……」
フレデリカ「あっ、来てる来てる♪ 気づかなかったー★」
P「今日の仕事は何だと思う?」
フレデリカ「んー、おでんを食べさせられるのかなー。」
P「おしいな、みんなで買い食いをする仕事だ。」
フレデリカ「あー、そっかー。じゃあレッツゴー!」
P「あーもう、いきなり走るなよ。」
そう言いながらも走る姿や息の合った掛け合い。今までだって見てきたもののはずなのに、フレデリカさんの話を聞いた後だとどうしても焦燥を覚えてしまうのでした。
投下終了です。これからサブタイトルは最初にサブタイトルだけ投稿した後名前欄に入れますね
次はアニバーサリーライブでプロデューサーとフレデリカと泰葉の今を書こうと思います
あっ、SS最後のレスにつづくって書き忘れた……
今回はそこまで間が長くならなくて済みました
今回は桃華視点のリトルチェリーブロッサムで動かす感じでやってみました
櫻井桃華「アニバーサリーといたずらな運命」
メモリアルアルバムが完成して、遂にアニバーサリーライブ当日。
わたくしたちはそれぞれこの日に向かって準備してきました。
今日はそれをたくさんのファンの前で披露いたします。
P「よし、みんないるな!ちょっとこっちに来てくれ。」
プロデューサーちゃまが確認をして呼びかけます。
机の下にいたり、そこらで遊んでいたアイドル達がその呼びかけに反応して集まってきました。
P「今日は事務所のアニバーサリーだ。事務所にとってとても大事な日だし、上の方はこれの成功を前々から計画して期待している。」
改めてそんなことを言われて、その場にいる全員が真剣な表情になる。
P「だから絶対成功させてほしい……というのが事務所からの指令だけど、俺はただいつも通り楽しめばいいと思う。事務所のことは気にしなくていい。」
泰葉「ならなんで言ったんですか……」
P「いや、上の方からこう言えって言われて……言ったからセーフだよね?」
桃華「どうなんでしょう……」
フレデリカ「フレちゃんは知ーらないっ!」
P「フレデリカは薄情だなあ……寂しくなっちゃうよ。」
フレデリカ「じゃあ今だけでもかまってあげるね~、わしわしわし~」
P「うおっ!俺の髪をモフモフするな!」
ふと隣を見ると、泰葉さんが羨ましそうに、そして寂しそうにプロデューサーちゃまたちを見ていました。
今までの泰葉さんは羨ましがるような感情を抑えていましたし、そこまで寂しそうにはしていなかったと思います。
一体何があったんでしょうか……
悠貴「あの、とにかく今日もいつも通り頑張る、ってことでいいんですね?」
P「ああ、いつも通り頑張って来い。そもそもアニバーサリーとかあんまり実感ないだろ。」
乃々「確かに……私たちが入ってから1年経っていませんし……」
フレデリカ「そうだよねー、困るよねー。」
P「だから、今日はとにかく楽しんで来いってことだ!諸々の責任は俺が持つ!」
フレデリカ「ひゅー、プロデューサービールっ腹ー!」
P「それ悪口だぞ!ビール腹でもないし!」
桃華「それを言うなら太っ腹でしょう。」
フレデリカ「そうそう、それそれー。」
P「全くもう……」
薫「ねえねえ、このブレスレットってもしかして……」
P「おっ、よく気付いたな。俺がデザインしてみたんだ。流石に何度か手直しが入ったけど……」
薫「せんせぇ、前からこういうの描いてたもんね!」
プロデューサーちゃまはこういったファッションが趣味で、以前から余った時間でロゴやアクセサリーなどを考えていました。
本人は実益を兼ねていていい趣味だなんて自賛していましたけど、なかなかそういったものを使う機会はなかったのですけど……
P「うん、前々からやってみたくてな。出来てよかったよ。」
こういった表情を見ていると、プロデューサーちゃまの夢も叶ってよかった、そう思えます。
P「っと、言いたいことは言えたからもう大丈夫だぞ。何かあったら俺や周りのスタッフに言ってくれ。じゃあ今日はよろしくな。」
桃華「はい、よろしくお願いいたします。」
薫「はーい、よろしくお願いしまー!」
泰葉「はい、よろしくお願いします。」
フレデリカ「はーい、よろしくねー。」
悠貴「はいっ、よろしくおねがいしますっ!」
乃々「はい、よろしくです……」
プロデューサーちゃまの挨拶が終わり、みんながライブに出演する知り合いに会いに行ったりする中でわたくしは泰葉さんについていきました。
泰葉「あの……桃華ちゃん。どうしたの?」
桃華「そのお言葉、そのまま返させていただきます。泰葉さんこそどうしたのですか?」
泰葉「えっ……」
桃華「先ほどの泰葉さんはらしくありませんでした。なんだか寂しそうで……」
泰葉「寂しそう……そっか。私寂しいんだ。」
泰葉さんにはその自覚がなかったようです。本当に何があったのでしょう。
桃華「あの……もしよろしければ何があったのか聞かせていただけますか?」
泰葉「……うん。今は挨拶回りもあるし、話すことを整理したいし後でいいかな?」
桃華「はい、では後で聞かせていただきます。……泰葉さん、わたくしは貴方の味方ですから、あまり思いつめないでくださいね。」
泰葉「うん、ありがとう桃華ちゃん。」
その力ない笑みは今すぐ問いただしたくなるほど心配な物でしたが、ぐっと我慢してわたくし個人の挨拶へ行きました。
ライブの幕開け。アニバーサリーにふさわしいオープニングの後、出演するアイドル全員で1曲。
アイドルそれぞれが自己紹介をした後、それぞれのソロ曲やユニット曲でライブは続いていく……
そんな中でわたくしたちリトルチェリーブロッサムは待合室で顔を合わせていました。
桃華「薫さんもいますけど、大丈夫でしょうか?」
泰葉「……薫ちゃんが大丈夫ならいいと思うけど。」
薫「えっと、何の話?」
泰葉「私とプロデューサーさんの話。薫ちゃんは大丈夫?」
薫「泰葉ちゃんとプロデューサーが?何かあったの?」
泰葉「うん、ちょっとね……」
薫「かおる、泰葉ちゃんが困っているなら力になりたい!おはなし、聞かせて?」
泰葉「そっか。じゃあ話すね。」
そうして泰葉さんが話したのは、プロデューサーが以前違うような人物だったこと、そう買えたのがフレデリカさんであること。そして……
桃華「プロデューサーちゃまがフレデリカさんのことが好きで、フレデリカさんもプロデューサーちゃまを……」
泰葉「恋愛的な意味で好きだって確認が取れたわけではないけど、そうじゃないかなって……」
薫「うーん、よくわかんないけどせんせぇとフレデリカお姉ちゃんって確かに仲いいよね」
泰葉「うん、それとこのブレスレット……」
桃華「これがどうかしまして?プロデューサーちゃまがデザインしたものでしたが……」
泰葉「フレデリカさんもファッションが趣味なんです。私がいない間に色々あったんだろうなって……」
桃華「……なるほど。」
大好きなプロデューサーちゃまにフレデリカさんの影を感じてしまい、ふたりの仲にかなわないと思ってしまっている。
桃華「だから、諦めるんですのね。」
薫「桃華ちゃん?」
泰葉「諦め……そうかもしれません。」
桃華「そんな覚悟でプロデューサーちゃまと付き合うと、救うと言っていたんですのね」
泰葉「そんな覚悟って……私は……!」
桃華「じゃあそんな簡単に諦めないでください!たとえプロデューサーちゃまが自分のことを好きでなくても、振り向かせると決めたのではないのですか!?」
泰葉「!」
わたくしの檄に泰葉さんは衝撃を受けていました。そして
泰葉「そうだね……私らしくなかったかもしれない。例えプロデューサーさんがフレデリカさんが好きでも、私がプロデューサーさんが好きなんだ。」
そうです、その思いがあれば……
泰葉「フレデリカさんからプロデューサーさんを寝取ってみせる!」
薫「ねと……それどういう意味?」
桃華「知らなくていいことです……」
たまにテンションが上がると変なことを言い出すのはどうにかならないでしょうか……
わたくしたち3人で歌った曲は「Spring Screaming」。
薫さんたちの曲ですが、泰葉さんはかなり心が入っていてすごい表現力でした。
いたずらな運命、恋、ざわめき。やはり思うところがあったのでしょうか。
後で薫さんのほかにも泰葉さんも曲に関することを聞かれて照れていました。
こう思いを込められたのがわたくしの檄のおかげであれば、あのタイミングでお話が出来てよかったです。
そして合間のトークが終わって、舞台をはけるとプロデューサーちゃまとフレデリカさんがいました。
P「よっ。3人ともよかったぞ。」
泰葉「ありがとうございます、プロデューサーさん。」
フレデリカ「アタシはこれからなんだー、緊張で口から胃が出てきそう。おえっ。」
P「珍種のカエルかキミは……」
フレデリカさんと抜群の掛け合いをするプロデューサーちゃま。言ったそばからこういったものが来ましたが……
泰葉「ふふっ、それなら口から心臓ですよね。」
フレデリカ「あー、それそれ。ありがとうヤスハちゃん!」
泰葉「フレデリカさん。」
フレデリカ「ん、なーに?」
泰葉「私、負けないですからね。」
フレデリカ「んー、アタシもこれから頑張ってくるよ!」
泰葉さんの思いを込めた決意。フレデリカさんに伝わっているかはわかりませんが、それでも意味のあったものだったと思います。
桃華「泰葉さん、ナイスファイトでした。」
薫「うん、頑張ったね!」
泰葉「ありがとう、ふたりとも。私もこれから頑張るよ。」
その瞳は清々しいほど綺麗で、きっと今の泰葉さんならこれから待つ壁も越えられると思いました。
それがたとえどんなものでも……
ライブは大盛況のうちに終幕を迎え、大成功になりました。
プロデューサーちゃまの言っていた上の人たちの思惑通り、ということで大丈夫なのでしょう。
P「みんな、お疲れ様!よく頑張ったな!」
泰葉「はい、頑張りました!」
フレデリカ「アタシもー、最高に楽しかった!」
プロデューサーちゃまの呼びかけにみんなが集まっていきます。
あんなに囲まれて、プロデューサーちゃまも大変ですわね。
薫「あれ、桃華ちゃんは行かなくていいの?」
桃華「わたくしは、もうちょっと後で構いません。落ち着いて話したいですから。」
薫「そうなんだー、じゃあかおるも行ってくるね!せんせぇー!」
そうして待っていると、泰葉さんがプロデューサーちゃまたちから離れてこちらにやってきました。
泰葉「今日はありがとうね、桃華ちゃん。おかげであの曲も最高のパフォーマンスが出来たよ。」
桃華「いえ、ユニットの仲間ですから。お気になさらず。」
泰葉「ふふっ、そうだね。そういえばユニットを初めて組んだ時も桃華ちゃんにいろいろ支えてもらっていたね。」
桃華「そうですわね。今では泰葉さんも立派に他のアイドルを引っ張れるようになって……成長しましたわね。」
泰葉「うん、本当にプロデューサーにスカウトされてから私は成長したんだ。だから恩返しがしたい、私なりのやり方で。」
桃華「ふふっ、その意気ですわ。頑張ってくださいまし。」
泰葉「うん、私頑張るよ。プロデューサーのため、支えてくれる乃々ちゃんのため、そして今日励ましてくれた桃華ちゃんのためにも。」
そう聞いて少しポカンとしてしまいました。
泰葉「桃華ちゃん?」
桃華「いえ。……それならいい報告、期待していますわね。」
泰葉「うん。きっと期待に応えてみせるよ。」
その覚悟を決めた笑顔を見て、わたくしはやはり泰葉さんに報われてほしいと改めて思ったのでした。
つづく
投下終了です
次はトークバトルで泰葉が思い出を薫に話すみたいな感じの予定です
泰葉タイトルだけどまずは薫視点。薫でいいタイトルが思いつかないで……すまない
後、思ったよりシリアスになって薫っぽくもないかもしれない
うーむ(画像略)
岡崎泰葉「ふたりの始まり」
アニバーサリーライブからしばらく経って、今日はトークバトルのお仕事!
泰葉ちゃんは応援する側、かおるはトークする側で呼ばれたんだー!
かおるが泰葉ちゃんのところへ行くと、泰葉ちゃんは花束を持ってたんだー
薫「泰葉ちゃん、その花束どうしたの?」
泰葉「あ、薫ちゃん……子役時代から応援してくれていた人が楽屋に届けてくれたの。ファンレターもくれて……」
薫「わー、よかったね泰葉ちゃん!子役の時から……だから、ずっと応援してくれている人なんだね!」
泰葉「うん、ファンレターにも色々書いてくれて……私のアイドルとしての成長も見てくれていて、思わず笑顔になっちゃいます。」
薫「そうなんだ……。そういえば泰葉ちゃんってなんでアイドルになったの?せんせぇからのスカウト?」
泰葉「うん、スカウトだよ。だけどそれだけじゃなかったかな。」
薫「それだけじゃないって?」
泰葉「実は最初にプロデューサーさんと会ったときは、印象よくなかったんだ。私も今と全然違いましたから。」
薫「そうなんだー……。ねえねえ泰葉ちゃん、その時のお話って聞かせてもらえる?」
泰葉「うん、いいよ。トークバトルショーの前にお話ししちゃおっか。」
薫「やったー!」
泰葉「ふふっ。それじゃあ話していくね。」
*
それは私がアイドルになる前、モデルとして活動していた頃。
プロデューサーさんは私の撮影の見学に来たんだ。
泰葉「スタッフのみなさん、おはようございます。モデル部門の岡崎泰葉です。よろしくお願いします。」
スタッフの人たちも私に挨拶してくる中で、ひとり見知らぬ人が近づいてくる。
それがプロデューサーさんだった。
P「おはようございます、私はこういうものです。」
泰葉「……アイドル部門のプロデューサーさんですね。見学に来ると聞いていました。よろしくお願いします。」
挨拶を終えて、軽く準備をして撮影は始まりました。
カメラマン「はーい、ポーズ変えてー。つぎ目線外してー。そうそう、カメラ慣れしてるねー。さすが芸歴11年っ。」
泰葉「…………。」
撮影は順調に進みました。私は自分を抑え、カメラマンさんの言う事を考えてその通りに動いていました。
だからこそそこに反応など起こらず、余計な時間などなくただカメラマンさんの作品が出来上がっていきました。
そして、撮影が終了して私の荷物をまとめて。
私は少し気が進みませんでしたが、プロデューサーさんに話しかけに行きました。
泰葉「お疲れさまでした。プロデューサーさんも、見学はいかがでしたか。何か気付いたことがあったら教えてください。」
P「んー、楽しくなさそう?」
とんでもないことを初対面の人間に言うものだと思いました。私に、楽しくなさそうだなんて……
泰葉「……私が、ですか?そんなことありませんよ。お仕事はいつも楽しくやらせてもらっていて……。」
P「本当に?」
軽薄そうな笑みを浮かべてプロデューサーさんはそう言いました。何と腹の立つことでしょう。
ただ、その頃の私は光を見失って、ただ周りの大人の言う事を聞き、義務感で動いていました。
そのプロデューサーの発言は的を射ていましたが、そのまま認めるのはあまりに癪でした。
泰葉「たとえ、私が楽しいと感じていなかったとしても、お仕事自体はカンペキにこなしたはずです。……何が言いたいんですか。」
つい、棘のある言い方をしてしまいます。何年も大人にそんな言い方をしたことはないと思っていたのですが。
P「楽しみたくはない?」
泰葉「楽しくないよりは楽しいほうがいいかもしれませんね。でも、ずっと芸能界で生きてきた私にしてみれば、そんなの、甘えです。夢が見られるような甘い場所じゃありませんし、やりたいことをできることなんてないんです。華やかなだけじゃない、それが芸能界ですから。」
P「なるほど、泰葉さんの言う事も一理ある。」
泰葉「だったら……」
P「でも、楽しくないなんてそんなに持つことじゃないよ。いつか破綻する。」
泰葉「……何が言いたいんですか?」
P「一緒に『楽しい』を見つけよう。」
泰葉「……失礼します。」
なんとなく惹かれるものがありましたが、プロデューサーさん個人への反感で私はその日何も聞かずに帰っていきました。
*
薫「そんな出会いだったんだー……」
泰葉「意外だった?」
薫「んー、せんせぇはせんせぇであんまり変わらないかな。初めて会ったのにそんなこと言うのは酷いけど……」
泰葉「そうだよね、いきなりあんなこと言うんだもん。」
薫「でも、今は仲良しだし泰葉ちゃんはせんせぇのことが好きだよね!」
泰葉「うん、だからこれは私が『私』を取り戻して、プロデューサーさんを好きになる物語。」
泰葉ちゃんは愛おしそうにそう語ります
幸せそうで、薫も幸せになってきまー!
泰葉「続き、話していくね。」
*
その日から2日後。仕事も学校もないオフの日。
私はモデルの勉強もかねてウィンドウショッピングに行きました。
そこでどこかで聞き覚えのある声に話しかけられました。
P「泰葉さん、偶然だね。」
泰葉「あなたは……」
思わぬところで最悪の人に出会い、しかめっ面になってしまいます。
泰葉「なんでここにいるんですか、女性服のお店ですよ。」
そう。ここは女性服の店。私が見ているから当然なのだけど、プロデューサーさんのような男がいるのは不自然です。
P「あーいや、趣味だよ。」
泰葉「女性服を着る趣味が……?」
ますます眉間のしわが濃くなります。
P「いや違う違う違う!こういうファッションを見るのが趣味なんだよ。アイドルのプロデュースという職業との兼ね合いもいいだろ?」
泰葉「…………。まあそうですね。」
確かに職業との兼ね合いもいいし、そういう趣味ならここにいるのは納得がいく。
ただ、不快な人物と出会った事実は変わらないわけで。
P「それで、泰葉さんはその服を買うの?」
泰葉「いえ、手に取ってみただけです。私もモデルの勉強も兼ねてみているので。」
P「なるほど、じゃあお仲間だ。」
しかも、こちらについてきて仲間だなんて言う。この時点でかなりイライラ来ていました。
泰葉「あの、ついてこないでもらえますか……?」
P「んーダメかな。」
泰葉「何故ですか?」
P「今日出会ったのは運命だと思う。きっとアイドルの神様が泰葉さんを逃しちゃダメだって言っているんですよ。」
運命、神様……妙にロマンチックな言葉を使うなと思いました。
だからこそ、妙に『楽しい』に執着するんだと私は考え、突き放したい思いでいっぱいでした。
だから、ここで私が考えたのは意地悪。
わざと話を聞いて、それを否定しようと思ったのです。
泰葉「そうですね、じゃあ話し合いましょう。この近くのカフェででも。」
P「おっ、ホント?やったー!」
この軽薄そうな笑顔が苦渋で歪むのが楽しみでした。本当に趣味の悪いことですけど。
*
薫「泰葉ちゃんそう言う事考えていたんだ……」
泰葉「うん、あんまり人に言いづらいことだから秘密にしてね。」
薫「うん! それで結果はどうなったの?」
泰葉「それは、まあ私がここにいることから見れば大体わかると思うけど……」
*
カフェについて、飲み物を頼んで。私たちは話し合いを始めました。
泰葉「それじゃあ、話しましょう。」
P「はい。それでは、泰葉さんはなんで楽しいことをしないのでしょう?」
泰葉「……それが甘えだからです。プロならば、周りの人の期待に応えるべきです。」
P「期待に応える、それは正しいね。でも甘えって何だろう?」
泰葉「この業界は夢を見れるような世界じゃありませんし、やりたいことをできるなんてありません。華やかなだけじゃないのが芸能界です。」
P「うん、でも厳しいだけじゃない。ずっと夢を見てもいられないけど、やりたいことはやってみればいいと思う。」
泰葉「周りの人が期待していないかもしれませんよ。」
P「周りの人たちも巻き込めばいい。楽しいは伝わる。」
泰葉「楽しいが、伝わる……?」
P「そう。泰葉さんは経験がない?」
泰葉「どうでしょう……わかりません……」
P「前も言ったけど、楽しくないことをずっとやっても続ける気力がなくなっていく。だったら楽しいを作り出していく方がいいんだ。」
泰葉「楽しいを作り出す……」
P「泰葉さんの『楽しい』を作らない?きっと素敵なことだよ。」
泰葉「わかりません……」
意気揚々と乗り込んでいったのに、プロデューサーさんに返されて何も言えないでいる私がそこにいました。
P「……じっくり考えてほしい。そして、私を、アイドルを選んでくれると嬉しいです。今度こそ楽しみな返事を待っていますね。」
その笑顔は出会った頃のように軽薄だったけど。
その奥に見えないものがあるようでどこか魅力的に思えました。
*
薫「せんせぇ、こんな感じだったんだ。でもこれって……」
泰葉「うん、プロデューサーさんはフレデリカさんの影響を受けてこうなった。それは忘れてないよ。」
泰葉ちゃんの顔に少し寂しさが見えました。まだ、色々考えているのかな……
薫「後、泰葉ちゃん本当に『楽しい』を見失っていたんだね」
泰葉「うん……。今は取り戻せて本当によかったよ。」
そう言って泰葉ちゃんは花束に目を落としました。心から、そう言っているのがわかるような言い方でした
泰葉ちゃん、本当に大変だったんだね……
泰葉「ここから先も話していくね。」
*
それから何日か考えて。私はアイドルになることを決めました。
泰葉「あの、おはようございます。……アイドルに、なろうと思います。」
P「そっか、よかった。大歓迎だよ。」
泰葉「一緒に『楽しい』を探してくれますか?」
P「ああ、探していこう。」
泰葉「おはようございます。今日のレッスン、よろしくお願いします。」
P「うん、よろしく。レッスン、どういうのがいいかな?」
泰葉「子役のモデル上がりだからって、特別扱いされるのは嫌です。アイドルの基礎から学びたいんです。まず、何をすればいいですか?」
P「そっか。じゃあビジュアルレッスンをしてみよう。」
泰葉「ビジュアルレッスンということは、お芝居ですよね。わかりました。どんな役を演じればいいですか?」
P「自分を、表現してみて」
泰葉「自分を、表現……?役を演じるんじゃないんですか?」
P「どうかした?」
泰葉「子役時代にそんな要求をされたことはなかったので、戸惑ってしまって……。」
P「……ふむ。」
泰葉「与えられた役に合うように演技するだけでしたから。自分を表現するには……どうしたらいいんでしょうか?わかりません……。」
P「こう……内なるパッションを……」
泰葉「何ですかそれ……」
全く分かりませんでした。
P「おう……視線が刺さる……。うーん、だったら自己分析だな。」
泰葉「自己分析……」
P「自分を表現するには自分がどういう人間か知る必要があると思うんだ。」
泰葉「……なるほど。たしかに、知らないものは表現できませんよね。自分、か……」
泰葉「……。そんな風に考えたことありませんでした。」
P「? そうなのか?」
泰葉「子役時代は、良い子でいることが正解でしたから。大人の言う事をよく聞いて、ワガママを言わずに子供らしく……。」
P「……」
泰葉「でも、ここでは違うんですね。自分で考えて、それを表現することが大切で。」
P「そうだな、それが大事だ。」
泰葉「それがわかっただけでも、アイドルになった意味は合ったのかもしれません。では、以上を踏まえて……もう一度、お願いします。」
P「ああ、自分の表現、やってみてくれ!」
P「んー、やっぱ流石だな。」
泰葉「なんでしょうか?」
P「自分の表現ってとこでは躓いたけど、後は流石の演技だったよ。」
泰葉「そうですか、ありがとうございます。」
P「この調子なら案外すぐ見つかるかもな、『楽しい事』。」
泰葉「それだといいのですけど……」
演技は子役の延長線上にあったから出来たこと。私はこの時点ではまだ悲観的でした。
泰葉「でも、私自身を知って成長できれば……。後、プロデューサーさんの事も知ってみたいです。」
P「……人が他人を理解できることなんてないよ。」
泰葉「……そうでしょうか。」
P「そうだよ。」
このセリフだけどうにも夢をよく語るプロデューサーの発言の中で浮いていて。なんとなく気になっていました。
*
薫「それって、せんせぇの問題なのかな?」
泰葉「うん、多分。」
せんせぇはフレデリカちゃんの影響を受けているけど、全部が全部じゃない
影響を受けていないところもあって、そこに問題がある。それはかおるにもわかっていました
薫「泰葉ちゃんは、どんな問題か分かる?」
泰葉「ううん、でも過去に何かあったのかな……」
そうして考える瞳は真剣そのものでした
*
そしてレッスンを積んで、宣材写真も撮って。
私はアイドルとして初めてのステージに立つことになりました。
泰葉「……」
P「んー、大丈夫?」
泰葉「人前で歌う機会は前にもありましたし、今回の歌詞もダンスもカンペキに覚えました。その面では大丈夫なんですけど……」
プロデューサーさんの顔を見ます。相変わらずよくわからない笑みを浮かべていて、なんとなく軽薄なイメージが拭えません。
泰葉「ここまで来ても、まだ楽しめる事の答えがわかりません。本当にこのままお仕事をして見つかるものでしょうか……。」
P「……見つかるよ、きっと。」
そう言った時のプロデューサーさんは本当に確信しているようで。どこか底知れず、それに自分も触れてみたいと思ったのでした。
泰葉「……………………。」
私は呼ばれてステージに出たのですが、上手に出来ませんでした。
P「大丈夫?」
泰葉「あ、はい。いえ、その……。お客さんの反応がよくなくて……。」
P「……うん、そうだったね。」
泰葉「私、何か失敗したでしょうか……。プロデューサーさんは分かりますか?」
P「泰葉は、自分を表現できた?」
泰葉「自分を表現……そんなこと考えてもいませんでした。そうでしたね……。いつかのレッスンで言われたのに……。」
P「……。」
プロデューサーは何かを秘めるように笑っていました。
泰葉「私、プロ失格です。お客さんのこと、何も考えていなかった。……でも、どうしたら……。」
P「何をしたらいいと思う?」
泰葉「……わかりません。どうしたらいいんでしょう……。」
P「泰葉は前、子役として活躍していたよね。ステージもやっていた。その時は成功していた。そこに鍵があると思わない?」
泰葉「私の、過去に鍵が……?」
P「泰葉は子役の時、どうやってお仕事をしていた?」
泰葉「周りの大人の言う事を聞いて、いい子として……」
P「……そうだったね。じゃあなんで子役のお仕事をしようと思ったの?」
泰葉「それは、親に言われて始めたんです。」
P「そっか。なんで断らなかったの?」
なんで断らなかったのか?何故だろう……
泰葉「……芸能界の光に、憧れがあったからでしょうか。明るくて、楽しそうで……」
そうだ、その憧れがあったから飛び込めた。
P「そうして始めたお仕事はどうだった?」
泰葉「……楽しかったです。私の演技で、ステージで、みんなが笑ってくれて……」
P「……。」
プロデューサーさんは笑っている。私を慈しむ様に。
泰葉「そうです、楽しかったんです。みんなが笑ってくれるのが……!」
P「じゃあ、やるべきことは決まったね。」
泰葉「やるべきこと?」
P「みんなを笑わせよう。そのために……」
プロデューサーさんのアドバイスを受けて、私は再びステージに立ちます。
泰葉「みなさん、すみません。私は自分を見失っていました。」
泰葉「私は……私は!みなさんを楽しませたいです。みなさんの笑顔が見たいです。」
泰葉「だから見ていてください。そして笑って欲しい。私らしいステージを。」
今度こそ、私はステージを成功させました。
*
薫「せんせぇの協力があって、ステージ成功したんだね!」
泰葉「……うん」
泰葉ちゃんの様子は少しおかしかった。まるで……
薫「嘘?」
泰葉「!?」
薫「あー、泰葉ちゃん嘘ついたんだー!」
泰葉「えっ、だって恥ずかしくて……」
薫「恥ずかしいって?」
泰葉「その、プロデューサーさんが可愛くって言って……頑張ったら沈みかえって……」
薫「せんせぇ……」
せんせぇの悪戯好き、そこでもやったんだ……。
泰葉「もういい?じゃあ先に行くよ?」
*
泰葉「プロデューサーさん!」
P「おー、泰葉。よかったぞ。」
泰葉「可愛くって……沈みかえったじゃないですか!」
P「あはは、そうした方がやりやすいかと思って。」
泰葉「やりづらかったですよ!」
P「でも、うまくいっただろ?」
泰葉「はい、それもプロデューサーさんのおかげです。」
P「俺はちょっと手を貸しただけだよ。答えは泰葉の中にあった。」
泰葉「そうですね、私の中に……」
でも、それを探し当てたプロデューサーさんには感謝の気持ちしかありませんでした。
ちょっと変なことされましたけど。
泰葉「プロデューサーさん。私、もっとアイドルしたいです。プロデュースしてくれますか?」
P「おう、これからよろしくな。」
泰葉「これが、私とプロデューサーさんの馴れ初めです。」
薫「馴れ初め……」
使い方あってるっけ?
泰葉「この後も、プロデューサーさんは私に向き合ってくれて……。でも今は向き合っていない。」
薫「うん、そうだね……」
せんせぇは泰葉ちゃんの気持ちに対して誤魔化し続けている。
泰葉「だから、問題を解決して無理やりこっちを向かせてみせます!」
薫「……」
泰葉ちゃんは冗談めかしているけど、その眼は本気でした
せんせぇと泰葉ちゃん。ふたりの意思はきっといつかぶつかり、何か起きそうです
その時、かおるには何が出来るんだろう
お仕事が始まるまで、自分に問いかけ続けました
投下終了です
次はプロデューサーの過去を知っているアイドルが出てきて~みたいな感じです
よろしくお願いします
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