【モバマスSS】大石泉「大人の階段」 (11)

さくら、泉、亜子の3人と一緒に誕生日ケーキを囲んでいた俺は、余韻に浸りながら机を片付けていた。

親御さんもゆっくり祝いたかろう、遅く帰って心配させてもいけないから、と言って早く帰らせたつもりだったのだが、2階にある事務所の窓から外を見渡すと日はすっかり落ちていて、思いのほか冬は近づいていたのだった。

今日は11月11日、泉の誕生日だが、どうやら暦の数字よりも日の沈む早さの方が季節を感じさせてくれるらしい。俺はまだまだアナログ人間なのだろう。

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「P、忘れ物しちゃった」

不意に声が聞こえて、振り向くと今日の主役が立っていた。

「おお、そうか。どこだ?見当たらなかったけどな」

「Pが今手に持っているそれよ」

俺が持っていたのは何でもないポッキーだった。そういえば、これは珍しく亜子が持ってきたものだ。ケーキは俺が用意しているって知ってたはずなのに。

「ポッキー?最後まで封切らなかったから棚にしまっておこうと思ったんだけど、これもプレゼントだったのか?」

「そうなるわ」

泉は階段を急いで登ってきたせいか少し息が乱れていたが、その口調は3人で帰っていった時のはしゃぎたりない雰囲気とは打って変わって落ち着いていた。

「そうだったのか。はい、どうぞ」

ポッキーを手渡して背を向けると、おもむろに箱を開ける音が聞こえた。俺は驚いて振り返り泉の顔を見つめたが、彼女の視線は箱の方に向いたままだった。

「ねえP、今日はポッキーの日でもあるんだよね」

泉はぽつり、ぽつりと話し始める。

「アイドルになってから、人の心は理屈じゃ計れないってことがよくわかったの」

「私自身の心もどんどん自由になって、思いがけないことも感じるようになった。」

そして泉は視線を上げて、俺の目を見てこう言った。

「私は今、Pとポッキーゲームがしたいの」

これには流石に面食らった、がそれでも俺は落ち着いて諭す、つもりだった。

「泉、そういうことは好きな人とするものだ」

「私はPのことを好きよ。Pもそうでしょう?」

「likeとloveは違う」

「likeとloveの定義なんて、きっとできないわ」

俺は何も言えない。

「私はPとしたいの。Pは、嫌?」

なんてずるい言い方をするのだろう。俺は天井を見上げてふっと息を吐き、それから泉の目を見て言った。

「嫌なわけないだろう」

やっと泉の表情が柔らかくなり、止めていた手を動かして包装を開け始めた。

「もっと手強いかと思ってた。Pも最初からその気だったの?なんて」

「なに、泉の諦めが悪いのをよく知ってるだけさ」

照れ隠しに軽口を叩いていると、あっという間に1本のポッキーが泉の口元まで運ばれていた。

「実は2人が待ってくれてるの。さあ、早く」

お互い、目は開けられなかった。急に辺りが静まり返ったような気がして、ただサク、サクという音が心臓の鼓動より大きく響いていた。

少し背伸びをしていた泉が元に戻ると、頬を赤く染めながら、それでもはっきりとありがとう、と言った。

俺は背筋を正して、今日だけだぞ、と返した。

「0と1に還元できないきもちを、またPと味わえたわ。最高の誕生日プレゼントね」

泉はそう言い残して、階段を降りていった。

俺は窓を開けて、火照った顔と頭を冷やしながら片付けを再開する。途中でふと下を見ると、いつも通りの3人の背中が街頭に照らされていた。

おわりです。
ギリギリになってしまったけど、泉、誕生日おめでとう。

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