【モバマス】名前をなくした日 (1)


 私が事務所を辞めようと決意したのは、工藤忍と綾瀬穂乃香の二人ユニット『フリルドスクエア』の結成が決まった、その次の日の朝だった。

 普通に女子寮で朝ごはんを食べて、学校も普通の顔で過ごして、夕方事務所に顔を出してからPさんとちひろさんに意志を伝える。

 『残念だよ』とPさんは言った。

 だけど、引きとめてはくれなかった。

 ちひろさんが淡々と、契約を中途終了するにあたっての手続きを教えてくれて、親に書いてもらわなくちゃいけない書類とかを渡してくれた。

「週末、実家に戻って書いてもらいます」

「急がなくてもいいですよ」

 ちひろさんは、少し名残惜しそうにしてくれた。

 だけど、引きとめては、くれない。
 
 多分私みたいに途中でアイドルの道を諦めちゃう子はたくさん居て、引き止めても仕方ないことだって、二人ともよく知ってるんだ。

 ううん、もしかしたら。

 その子たちと同じように私も続かないだろうって、二人はとっくに気がついていたのかも――。

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