【きんモザ】綾「誕生花と花ことば」 (40)

※鬱要素あります。

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アリス「シノ、学校遅れるよ!新学期始まったばかりなのに!」

忍「アリス、先に行ってて下さい~」

アリス「ダメだよ!そんな先に行くなんてできないよ!」


――――


忍「綾ちゃんと陽子ちゃんは先にいっちゃってますね」

アリス「そうだね…」



アリス「シノ、行こう」

――――



「暑いわね…」

うだるような陽炎。強烈な日差しが容赦なく綾を突き刺す。

日頃そこまで汗をかかない綾だが、ハンカチは既にべたべたに濡れている。

「あぁ…溶けそうだわ」

蝉時雨が響く。入道雲のそそり立つ白藍の空も、この暑さの前では全く涼しさを感じなかった。

しかし綾の足取りは次第に速くなっていく。

そう、今日は陽子と2人で出かける日。

精一杯のおしゃれ(本人は指摘されると顔を真っ赤にして否定するだろうが)をして、待ち合わせ場所へと向かっている。


「ふぅ、着いたわ」

待ち合わせ場所の、いつもの駅前に到着。勿論、約束の時間の1時間前である。

「木陰は涼しいわね…」

いくら何でも、炎天下で陽子を待つのは自殺行為である。綾は木陰に入り、直立不動で待つことにした。

――――

綾『もう、陽子!遅いわよ!』

陽子『ごめんごめん、綾と2人だから、どんな服着てこうか迷っちゃってさ~』

綾『なっ…!』

綾『よ、陽子のバカぁ~!』プンスカ

陽子『え、えぇ~!?』


―――


綾『これなんか似合うんじゃない?』

陽子『んー、私に似合うかな?』

綾『陽子もこれぐらいおしゃれすればいいのよ』

陽子『いや、今日も一応自分なりにおしゃれしてきているんですが』

綾『ほら、試着するわよ』


陽子『おーすげー!』

綾『でしょ?』

陽子『なんか私じゃないみたいだ…』

陽子『よし、これ買うよ。ありがとうな、綾!』ニコッ

綾『』ボボーン

陽子『綾ー!』

――――

「はっ!いけない」

幸せな妄想から醒めた綾は、時計を見た。

「時間過ぎてるじゃない」

時刻は、集合時間を5分ほど過ぎていた。

「全く、陽子ったら…」

綾は怒っているようでいて、内心心配だった。陽子はガサツなようでいて、意外と時間は守る(むしろ忍の方がルーズだ)。待たされることはあるが、概ね綾が早く来すぎているだけである。

5分程度なら誤差の範囲内とも言えるが、綾は時計を見上げて、落ち着きなくうずうずとしていた。

しかし、10分経っても、15分経っても、陽子は来なかった。

「おかしいわね…」

30分経った。さすがに30分来ないのはおかしい。

綾は、陽子の家に向かうことにした。

「メールだけ送っておこう」

駅へ向かう時よりも暑くなっている日差しの下、陽子の家へと歩く。

「着いたわ」

陽子の家の前でしばし立ち止まってから、インターホンを押す。

「はーい」

出たのは空太と美月。

「あ、二人とも陽子いる?」

綾が訊く。

「さっき出掛けてったよー」

「出掛けた…?」

綾は怪訝な顔をした。

「どしたの?」

「い、いや、何でもないわ。ありがとう」

綾はインターホンから離れると、陽子の携帯に電話を掛けた。が、

「出ない…」

何回掛けても出ない。

「メールも送ってあるし、さすがに電話くらい出そうなものよね」

陽子が他のところへ出掛けたのか、とも思ったが、それはないだろう。約束してきたのは陽子の方である。

となると、「神隠し?」

いや、いくら何でもありえないだろう。

「まさか…誘拐?」

身長は高いし、力も強いが、無いとは言い切れない。あまり想像がつかないが。

「取り敢えず、駅前に戻ってみるわ」

約束の時間を1時間過ぎた駅前に来たが、陽子はいなかった。

「まさか本当に…?」

綾は、陽子の居そうな所を手当たり次第見て回ることにした。

学校の前、いつもの公園など、色々なところで捜したが、どこにも陽子はいなかった。

とうとう日も暮れかけて、夕方になってきた。

「陽子…どこにいるのよ…」

もう綾はあてもなくさまよっていた。

「ここどこ…」

気付くと、綾は森の中にいた。

「ここってもしかして」

――

陽子『綾ー!こっちこっち!』

綾『待って陽子!』

綾『何でこんな山の中…』

陽子『いいからついてきて!』

綾『もう…へとへとよ…』

陽子『ほら、綾、見て』

綾『わぁ…!』

綾『きれいな景色…』

陽子『秘密の絶景スポットだよ』

綾『きれい…』

――――

「あの時の山だわ」

綾は、夕日の中をその時のことを思い出しながら歩いた。

綾は突然立ち止まった。人影が見えたからだ。

「陽子?」

その人影は、まぎれもない、あの陽子だった。

「陽子!陽子!」

綾は思わず走り出した。しかし返事がない。疲れて寝込んでいるのだろうか?

「陽子…?」

綾は陽子に向かって走りながら、違和感を覚えた。

陽子は木にもたれて、
















「えっ」

死んでいた。

「ぃ、い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

陽子は生気のない、のっぺりと白い顔をしていて、綾が見てもすぐに死んでいると分かった。

綾は震えて涙を流した。しかし陽子から目を離すことができない。

「ぁああああああ!!!」

陽子の顔は無表情だった。綾は陽子の色々な表情を今まで見て来たが、全くの無表情は見たことがなかった。

眼に光はなく、瞳孔が開ききっている。口は半開きで、投げ出された手はぴくりともしない。

「陽子…!陽子!陽子!陽子!」

綾は、動かない陽子の肩に手をかけて揺らした。しかし陽子の頭がぐわんぐわん揺れただけだった。



「ああああああ!陽子ぉぉぉ!」




――――――

「んっ…」

綾は眼を醒ました。

傍らには昨日と変わらず冷たいままの陽子がいた。

いつの間にか朝になっている。どうやら叫び尽くして気を失っていたらしい。鞄から取り出した手鏡に、目もとの腫れた綾の姿が映る。

一晩経つと、さすがに少しは落ち着きを取り戻した。

しかし、その一方でどうしようもないほどの虚無感が綾を襲った。

「いっそ死んじゃおうかしら」

綾は立ち上がって、手頃な凶器が無いか辺りを探るが、めぼしい物は何も無かった。

「もう嫌よ…何もしたくない…」

綾はへたり込んだ。頭には陽子との思い出が甦る。

しかしその思い出も、呆けた顔をして冷たくなってしまった陽子の前では、セピア色に変色した、遠い昔の記憶のようだった。

「陽子、どうして…」

そこまで言って、綾は思わず口を噤んだ。

「まさか、まさかこれって…」

綾は気付いたのだった――陽子のスカートが、裂けていることに。

「これ…え…嘘よね…」

綾の顔が真っ青になる。

「本当に…そういうことなの…?」

陽子は弄られた挙げ句、殺されたということだ。

「嘘よ…嘘よ…こんな…こんなことって…」

綾は頭が真っ白になった。頬がぴくぴくとひきつっている。

※訂正
スカート× ズボン〇

「あぁぁ、は、は、は、嘘よ…こんなの嘘よ」

綾の頬は絶望にひきつり、渇いた笑いをこぼした。

「ねえ、陽子、何とか言ってよ、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、陽子、陽子、ねえ、ねえ、陽子、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、陽子、陽子、ねえ、ねえ」

何を言おうと、陽子は起きない。

「はは、ははは、ははは」

綾は、陽子の頬をつついた。普段は弾力のある陽子の肌は、すでに乾燥し始めていた。

そんな中、綾の心には、新たな感情が芽生えてきた。

「許さない…」

普段からおしとやかな性格の綾が、滅多に見せることのない強い怒りを面に出したのだ。

「許さない…許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない…ふ、ふふ、許さない…ははは。絶対に許さないんだから。許さない。許さないわ」

もはや綾の目は憎悪に血走り、歯を強く喰い縛っていた。

「ふふ、待っててね陽子。仇は必ずうつわ」

陽子は、何も返さない。

「もう私は別に死んでもいい」

森の中に風が吹いた。

「相手が誰だろうと許さないわ」

ふと、綾は、思い出したように陽子のもとに跪いた。

「陽子、私の色に染めてあげるわ」

そう言って綾は、陽子の唇に口付けた。

「陽子の唇ってこんなに美味しいのね…」

綾はにこりと笑うと、

「陽子、ちょっと待っててね」

陽子を物陰に隠し、自分の家へと向かった。



――――

忍「陽子ちゃんも綾ちゃんもいないですか?」

アリス「向こうはいなかったよ」

カレン「こっちもいなかったデス」

空太「ねーちゃーん…」

アリス「どこ行っちゃったんだろ…」

忍「何もなければいいのですが…」

カレン「みんなで遊ぶ約束していたのに…」


忍「本当に、何処へ行ったんでしょう…」


――――

「すいません、この辺りで怪しい男の人を見ませんでしたか?」

綾が訊く。

「さあ、知らんね」

そう言って、ランニング中の男性は去って行った。

「何も情報が無いわ…」

綾がメモ帳を見ながら呟いた。

「でも犯人はもう一回戻ってくるんじゃないかと思うのよね…」

何故かと言うと、陽子の遺体が地面に雑に遺棄されていただけだったからだ。

どうせなら埋めるなり何なりしそうなものだ。

「見つかるかは分からないけど…取り敢えず張り込みするしかないわね」

「実際に鉢会うかは分からないけどね…」

――――

「ついに届いたわ」

綾は、さっき届いたばかりの段ボール箱を開けた。

一見通販会社の段ボールのようだが、中身はネットの裏サイトで購入したマカロフだ。

「うっ…結構重いのね」

綾は、段ボールからマカロフを取り出した。

「ここが…こうかしら」

拳銃と言えど、非力な綾にはいささか重かったが、何とか構えてみる。

「練習できる場所が無いのは辛いわね…」

「でもスタンガンや刃物よりは確実だし」

そう言うと綾は通学用の鞄を取り出し、その中に拳銃を入れた。

「あとは張るだけね」

すると、外から何やら声が聞こえた。

「シノにアリス、カレン…家に帰ってるのがバレてるわ」

カーテンの隙間から外を伺う。

外には、忍とアリスとカレンがいた。どうやら口々に綾を呼んでいるようだ。

「でも…今3人に会うわけにはいかないのよ」

綾は足音を潜めて、裏口から外に出た。

あの日のような、強烈な日差しが綾に突き刺さる。

「今から行くよ、陽子」

綾は山を登り、陽子のいる場所まで歩いた。既に陽子の捜索は始まっているようだが、まだここまでは来ていない。

「ただいま、陽子」

陽子に声をかけると、後ろから声がした。

「小路…綾ちゃんだね」

自分の名前を呼ばれ、咄嗟に振り向くと、男の人が立っていた。

男は、概ね30代、中肉中背。ジャージを着て眼鏡を掛けている。

「あなたは…?」

綾が訊くと、男は携帯を取り出した――陽子のものだ。

「ここに着信履歴があったからね。この子の死体を動かしたのもあんただろ?」

「もしかして…あなたが」

俄に綾の目つきが変わる。

男は悪びれた様子もなく、言った。

「そうだよ。君も、このことを知ってしまったからには…」

綾は後手にマカロフを持った。

「死んでもらうよ」

男の振り回したナイフをすんでのところで避け、綾は拳銃を発砲した。

山に銃声が響き、鳥が一斉に飛び立つ。発砲した銃弾は、男の頭の横を飛んでいった。

「あなたのことは絶対に許さないわ」

もう一発、綾が発砲する。

「や、やめてくれっ」

二発目の銃弾は男の脇腹をかすった。

「ぐふっ……!」

血が飛び散る。

「死んでもらうのはあなたよ」

綾は、痛みでのたうちまわっている男に拳銃を向けた。

「許…して…」

男が哀願する。

「許す?なら陽子を返してよ!」

綾の目は見開かれ、手は怒りに震えていた。

「許さない…」

三発目の銃弾が火を噴く。が、慣れていない綾は上手く撃てず、銃弾は男の左肩に当たった。

「いぎやぁぁぁ!」

男が泣き叫ぶ。男を仕留めることはできなかったが、男を苦しませるほどではあったらしい。

「陽子はもっと苦しんで死んでいったのよ。分かってる?」

男の目が絶望の色を浮かべる。

「もう終わりね。私もあなたも」

綾は、男の顔に照準を合わせた。








「許さない」

綾は、引き金を引いた。

――――

「陽子、この手で…やったよ」

綾は、右手に拳銃を持ったまま言った。目の前には顔から血を噴いた男が倒れている。

ゆっくりと右手を下ろし、鞄から出したタオルで返り血を拭う。

「陽子…」

陽子は、あの時と同じ、表情のない顔をしていた。

「こんな人殺しが友達だなんて、陽子は嫌がるかしら」

陽子は、何も答えない。

「もう私には、何の希望も気力も残っていないわ」

陽子は、何処も見ていなかった。

「陽子が、一番の希望だったもの」

陽子は、全く動かなかった。


綾は、陽子を起き上がらせると、抱き着いた。

「陽子…」

静かに、陽子の体を温めるように抱き着きながら、綾は泣いた。

「あぁぁ…何で、何で…」

それでも陽子は、反応しない。

「犯人を殺しても、何も気分は晴れなかった」

陽子の顎を手でなぞる綾。

「陽子がいないんだもの」

「陽子が好きだったのに」

陽子を元の位置に持たせかけ、綾はその隣に座った。

「陽子…そっちへ行くわ」

綾は、自分の眉間に銃口を当てた。左手は、陽子の右手と繋がれている。

「ふっ…」

精一杯の力で、引き金を引く。






銃声が、こだました。

――――

??「--」

??「綾ー」

陽子「綾ー、起きた?」

綾「あ、は、え?陽子!?」

陽子「何?」

綾「陽子!はあ、よかったわ」

陽子「え、何が?」

綾「何でもないわ」

陽子「変な綾ー」

綾「あの鉢植え、きれいね」

陽子「マリーゴールドだよな、確か」

陽子「きれいな黄色だな」

綾「陽子みたいね」

陽子「そうか?むしろ綾っぽいと思うけど」

綾「なんなのよ、『綾っぽい』って」

陽子「いや、いい始めたのは綾だろ!?」


綾「と言うか、ここはどこなの?忍やアリスがいないし、カレンも見ないけど」

陽子「そりゃそうだよ」



陽子「ここは死後の世界なんだから」









冷たくなった陽子の左手には、綾からのラブレターと、マリーゴールドが添えられていたという。

完結です。駄文失礼しました。
バッドエンドは賛否あるかと思いますが、取り敢えずきんモザ3期がこうならなければいいですね。
まあないと思いますが。

最後に、きんモザ3期、待ってます。

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