学年主席の女子高生「私があなたに告白の仕方を教えてあげる」 (18)

あれは忘れもしない、去年の夏休みの終わり。
遊び呆けていた俺の宿題は、手付かずだった。
新学期まで、あと3日。万事休すだと悟った。
もう無理だと諦めかけていたその時、閃いた。

そう言えば、近所にガリ勉女が暮らしていた。

俺はすぐさまチャリを飛ばし、アポなし訪問。
なにせその女子生徒とは電話番号はおろかメアドもLINEも交換していない。赤の他人だった。
それなのにどうして自宅を知っていたかと言えば、それはひとえに席が隣同士だったからだ。
欠席の際にプリントを届けてくれと担任教師に頼まれた折、近所に住んでることが発覚した。

これも何かの縁だと勝手に解釈をして。
パパッと宿題を写させて貰おうと目論んだ。
ガリ勉女は学年主席。テストはいつも1番。
間違いなく、宿題は片付けている筈である。

そんなわけで、ピンポーンと呼び鈴を押すと。

『……何しに来たの?』

インターフォン越しに、不機嫌な声が届いた。

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「実は、宿題を写させて貰おうと思って……」
『帰って』

取り付く島もないとは、まさにこのこと。
ガリ勉女は社交的ではなかった。勉強一筋。
故に、昼休み時間には独りで読書している。
放課後、女子に遊びに誘われても全て拒否。
周囲に断崖絶壁を築いて籠城しているらしい。

「……典型的な引きこもり予備軍だな」

そんなわけで、ガリ勉女には、友達がいない。
だから、俺がプリントを届ける羽目になった。
とはいえそのおかげで自宅が発覚したのだが。
よもや写させてくれないとは。想定外である。
そんなだから友達が出来ないのだ。ケチんぼ。

まあ、人のことだから、とやかく言うまい。
好きに生きればいいさ。俺には関係ない。
ただ、今日に限っては、そうはいかない。
何せこちらの人生が懸かっているのだから。
いや、流石に大袈裟かも知れないけれど。
それでも諦めきれずに再び呼び鈴を連打連打。

『うるさいっ!』

返って来たのは初めて聞く大声。良い反応だ。

「お願いします。どうか私めに宿題を……」
『自分でやれ』
「それが出来たら苦労しません」
『じゃあ他の友達に頼め』
「やだなぁ、奴らが宿題なんてやる訳ないでしょう? 皆、他力本願っすよ。だから頼むっ!」

一応、事前に他の友達には確認しておいた。
返事は聞いた通り。1人残らず手付かずだ。
そりゃあそうだろう。一緒に遊んでたし。
宿題なんぞやる暇なんて、存在しなかった。
だからこそ、こうして最終手段に頼ったのだ。

文字通り、まさに、最終兵器ガリ勉である。

『……見返りは?』
「はい?」
『宿題を写させる代わりに、何してくれる?』
「んなこと、急に言われても……」
『じゃあ、私のお願いをひとつ聞いて貰うわ』

この最終兵器は、わりと現金なやつだった。

「入って」
「お、お邪魔します」

問答の末、ようやく開いた玄関からお宅訪問。
なんだか、緊張するな。これでも女子の家だ。
意味もなく照明やら壁紙やらを眺めていると。

「キョロキョロしない」
「あ、でも、親御さんは……?」
「今はいない」
「あ、そうですか」

どうやらご両親は不在らしい。
安心したような、そうでもないような。
ちょっと安堵して、すぐにまた緊張する。
ていうか、俺はこいつに聞きたいことがある。

「あ、あのさ……」
「何?」
「その髪、どうしたんだ?」
「家では下ろしてるだけ」

いつもはワンテールの三つ編みのガリ勉が。
今日は髪を下していた。それだけであるが。
たった、それだけで、印象が違って見えた。
いや、よく見ると、もうひとつ違っている。

「ちなみに、メガネはどうしたんだ?」
「家では外してるの」
「ふーん」
「ジロジロ見るな」

メガネを外したガリ勉は、なかなかイケてた。

「ここが私の部屋」
「ほほう。これはこれは、結構なお点前で……」
「はあ?」

部屋に通されるといい匂いがして、錯乱状態。

「お茶が飲みたいの? 図々しい男ね」
「あ、いえ、お構いなく……」
「そこに座って待ってなさい」

どうも茶を催促されたと思ったらしく。
ガリ勉は一旦退室して、取り残された。
クッションの上に独り、体育座りで待機。
またしてもキョロキョロ。綺麗な部屋だ。
読みかけの漫画だけが、床に伏せられている。
どうやら少女漫画らしく、とても意外だった。
びっくりだ。あいつもこんなものを読むのか。
物が少ないように見えるのは収納が多い証拠。
壁一面に、収納棚の扉があり、興味が湧いた。

恐らくどれかに下着類が収納されている筈だ。
あのガリ勉が、普段どんな下着を着けてるか。
全く想像もつかない。そもそも興味なかった。

でも、メガネなしの素顔は、わりとイケてた。

「何してるの?」
「いや、別に、なにも!」

戸棚に手を伸ばすと、ガリ勉が戻ってきた。

「今、戸棚を物色しようとしてなかった?」
「ま、漫画を片付けてやろうと思ってさ」
「まさか、中身を読んでないでしょうね?」

言い訳に少女漫画を利用すると、睨まれた。

「よ、読んでません! 神に誓って!」
「……それなら、いいけど」

まあ、読まなくても大体中身はわかるけどな。

「はい、お茶。紅茶で良かった?」
「あ、どうも。これはこれは結構なお点前で」

ようやく本来の使い方で、俺は紅茶を褒めた。

「ただ写すだけでは勉強は身に付かないわ」
「では、どうしろと?」
「教えてあげるから、少しは頭を使いなさい」

早速、宿題を写そうとすると講義が始まった。

「これはこの公式に当て嵌めるのよ」
「どの公式だって?」
「だから、これ! 目も見えないの?」

厳しいけれど、存外、面倒見が良いらしい。

「他の奴らにも勉強教えてやったら?」
「嫌よ。面倒臭い」

俺の提案を心底嫌そうに、にべもなく却下。
そう言われると、なんだか変な気持ちだ。
俺だけは特別だと言われた気がしたの、だが。

「約束、忘れないでね?」
「あ、ああ……わかってるよ」

あくまでも、これは取り引き。
交換条件であると、念を押された。
わかってるけれど、ちょっと萎えた。

「もう、また間違えてるじゃない!」
「えっ? どこ?」
「ここよ! ここ! 何度同じミスをするのよ!」

叱責されて、ガリ勉の手元を注視。
すると、視界の端に胸が入ってしまって。
なんだかいつもより盛り上がってる気がして。

「ちょっと、どこを見てるのよ」
「あ、悪い、つい……」
「いやらしいわね。そんなに溜まってるの?」
「ち、ちげーって! 毎日抜いてっから!」
「最低」

これは酷い誘導尋問だ。
思わず余計なことを口走ってしまった。
でもさぁ、男の子だもん。男子高校生だもん。

そんな不埒な俺に、ガリ勉は嘆息して、一言。

「まあ、ブラを着けてない私も悪かったわ」
「えっ?」
「出かける予定もなかったし、窮屈だから」
「えっ? えっ?」

この女は今、ノーブラらしい。思わずガン見。

「ガン見すんな。どんだけ飢えてんのよ」
「う、飢えてないし! 俺もノーブラだし!」
「はあ? ……ふふふっ。馬鹿じゃないの?」

我ながら、馬鹿馬鹿しい発言だったとは思う。
でも、意外だった。まさかガリ勉が笑うとは。
初めて見た、その笑顔に、見惚れてしまった。

「どうしたの?」
「えっ? なにが?」
「さっきから、上の空だけど」
「いや、なんだろ、風邪かな?」

いかん。全然集中出来ない。意識してしまう。

「大丈夫? 熱は……」
「ふぁっ!? な、なにするだっ!?」

おもむろに、額に手を当てられ、狼狽すると。

「熱いわね。今日はここまでにしましょう」
「だ、大丈夫だって! 元気だから!」
「いいから、明日に備えてゆっくり休んで」

有無も言わさぬ口調に頷くことしか出来ない。

「病欠は認めないから」
「はい、這ってでも行きます」
「よろしい。楽しみにしてるわ」

不敵な笑みに不安を感じながら、思い返す。

『明日、私とデートしなさい』

これが、ガリ勉に突き付けられた交換条件。
なんでも、一度は体験してみたいとのこと。
こいつも一応、色恋に興味があるらしい。
恐らく、さっきの少女漫画の影響だろう。
俺としては背に腹は代えられず、承諾した。

だから明日は2人で街にお出かけするのである。

「お、お待たせ……」
「遅い」

場面は変わって、翌日の駅前。晴天だった。
待ち合わせ場所に向かうと、既に待っていた。
開口一番に叱責されて、言い訳を口にする。

「でも、まだ30分前だし……」
「女の子を待たせるなんてあり得ない」
「いや、いつから待ってたの……?」
「さ、行くわよ」

こちらの質問に一切答えず華麗にスルー。
先陣を切り、颯爽と街へ繰り出すガリ勉。
服装は白のワンピース。着こなしている。
これを着れる女はなかなか少ないだろう。
生地と同じく、真っ白な素肌が、眩しい。
恐らく、引きこもりの恩恵だと思われる。
その後ろ姿に、またもや見惚れていると。

「なにグズグズしてるの! 早く来なさい!」
「は、はい! ただいま!」

やれやれ、楽しいデートになりそうだぜ。

「疲れた」
「えっ? もう?」

元気だったのは最初だけ。すぐにバテた様子。

「喉渇いた」
「んじゃあ、スタバにでも行ってみるか?」
「豚箱?」
「スタバだよ! コーヒーを飲む店!」
「ああ、あの伝説の……」
「駅前に伝説があってたまるか!」

これも引きこもりの弊害か。嘆かわしい。
地元なのに、行ったことがない様子。
先行きに不安を感じつつも、入店。

「見て、人がゴミのようだわ」
「失礼だろうが! 口を慎め!」

丁度休日ということもあって、混雑していた。
どうやらこの女は、人混みが大の苦手らしい。
ガリ勉の口の悪さに辟易としながら注文する。

「ヘーゼルナッツアイスカフェモカのトール」
「何それ、呪文?」
「呪文じゃなくて注文だよ。お前は?」
「そう言われても、わからないわ」

そう言って俯くガリ勉の哀しげな表情を見ていると、人目を憚らず抱きしめたくなって、そんな気持ちを誤魔化す為に早口で呪文を唱える。

「アイスエクストラショットソイキャラメルキャラメルマキアートのトールをください!!」
「二度もキャラメルって言う必要ある?」
「も、文句があんなら自分で注文しろ!」
「いいえ。あなたが選んでくれたのだもの」

ここぞとばかりに、笑顔になるのは、反則だ。

様々な困難に直面しつつも、喉を潤す。

「美味しい」
「そりゃ、ようございましたね」

どうやら口に合ったらしい。ほっとしたら。

「あなたのも飲みたい」
「はいはい……って!」

ついつい、自然な流れで手渡してしまった。

「どうかしたの?」
「いや、別に……」
「うん、これも美味しいわ」
「そ、それなら良かった」
「じゃあ、次は私のを飲んでみる?」

まあ、そうなるよな。ストローが魅力的だ。

「いや……遠慮しとくよ」
「豆乳嫌いなの?」
「そうじゃなくて、その……」
「どうしたの?」

どうも、この女は全然気づいていないらしい。

「これって、たぶん……間接キス、じゃね?」
「は?」
「だって、同じストロー使ってるし……」

どうしてこんなことを説明しているのだろう。

「だから、間接的にキスしたことに……」
「……ッ!」

ようやく気づいたか。今更顔を赤くすんなよ。

「まあ、気にすんなよ! 事故だからさ!」
「……気にするに決まってるでしょ」
「そ、そんな深刻になられても困るんだけど」
「うるさい! 責任取って!!」

何故か、俺は責任を取らされることになった。

「どう責任を取ればいいんだよ?」
「そんなの自分で考えて!」

こうして波乱万丈なデート体験は幕を下ろし。
それから俺は、夏休み最終日まで悩み続けた。
ちなみに、連日ガリ勉宅に通い、宿題をした。
おかげでどうにか終わったが、難問は残った。

「水に流してくれるつもりは……」
「ない」
「……よな。くそっ、参ったなぁ」

結局、問題は解決しないまま。
明日から新学期。ちょっと気まずい。
不注意とはいえ、流石に不味かった。
少しは責任を感じてしまう。本当に参った。

「何をそんなに悩んでいるのよ」
「んなこと言ったってどうしようもないだろ」

途方に暮れていると、ガリ勉がぽつりと囁く。

「……あるわよ。責任を取る方法がひとつだけ」
「ほ、本当か!? 教えてくれっ!」

藁にも縋る思いで尋ねると、こう言われた。

「私と付き合えばいい」

それが冗談か本気か、俺にはわからなかった。

「冗談、だよな?」
「冗談で済ませるの?」

哀しげな瞳で見つめられて、息が詰まる。

「いや、でも、付き合うなんて……!」
「嫌なの?」
「そうじゃなくて、お前はどうなんだよ!?」
「どういう意味?」
「だから、お前は俺を、どう思ってるんだ?」

付き合うには互いの気持ちが重要なのだけど。

「言わない」
「な、なんでだよ!」
「そんな聞き方じゃ、言う気が失せるわ」

なんて言い草だ。どんだけわがままなんだよ。

「もしかしてあなた、告白したことないの?」
「……ねーよ。悪かったな」
「それなら、仕方ないわね」

正直に答えると、ガリ勉は、にやりと笑って。

「私があなたに告白の仕方を教えてあげる」

そうして俺はガリ勉に告白の仕方を教わった。

「まずは、相手の交友関係を尋ねて」
「いや、でもお前、基本的にぼっちじゃん」
「いいから言う通りにしなさい!」

気炎を上げられて、慌ててガリ勉に尋ねる。

「な、仲の良い奴とかいるのか?」
「いない」
「デスヨネー」

ねぇ、この問いかけに何の意味があるわけ?

「次は退路を断って」
「なんだそりゃ、どういう意味だ?」
「交際の申し込みを断りづらくするのよ」
「どうやって?」
「今、付き合ってる人が居るかを尋ねて」
「でも、さっき友達すら居ないって……」
「いいから、さっさと聞け!」

ひぇっ。もうなんなのこの女。おっかない。

「お前、付き合ってる奴とかいんの?」
「いない」
「デスヨネー」

だからさぁ……わかりきったことはやめようよ。

「最後は物理的に退路を断って」
「は?」
「ほら、立ちなさい! 壁際まで追い詰めて!」

手を引かれて、壁際まで向かう。意味不明だ。

「ドンッ! って、強く壁に手をついてみて」
「お、おう」

言われた通りにドンッ! と、壁に手をついた。

「きゃっ!」
「わ、悪い。びっくりさせちまったか?」
「あ、謝るな! 堂々としろ!!」

わっけわかんねーよ。もう、おうち帰りたい。

「そのまま顔を近づけて」
「こ、こうか?」
「……近すぎ」
「む、難しいな」

思わず謝りそうになったが、ぐっと堪えたぞ。

「それから、ええっと……なんだったかしら?」
「おいおい、大丈夫か? しっかりしてくれよ」
「う、うるさい! 今考えてるから待ってて!」

どうやら即興の演出らしい。しかし、困った。

「なるべく早くしてくれないか?」
「せ、急かさないでよ! 考えてるんだから!」
「でも、そんなに長く待てないというか……」
「はあ? 何それ、どういう意味よ?」
「こうしてると……キス、したくなっちまう」

顔が近いだけで、吸い寄せられる。やばい。

「ちょ、ちょっと待って! まだ早い!」
「もう待てねーよ。だいぶ我慢してる」
「告白が先! キスはそのあと、たっぷり……」
「どっちが先でも変わんねーだろ」

もう自分が何を言ってるかわからず接近して。

「や、やっぱりだめぇーっ!!」
「ぶべっ!?」

盛大なビンタと共にその夏は終わりを告げた。

「喉乾いた」
「なら、スタバにでも行くか?」
「うん、行く」

あれから1年が過ぎ、俺たちは再びスタバに。

約束したわけではないが、何故か足が向いた。
意味もなく、去年と同じ、待ち合わせ場所へ。
今年は1時間前に行ったのに、先に待っていた。
驚きつつも、待たせてしまったことを謝った。

「待たせて悪かったな」
「別に気にしてないわ」
「今日は待たせたことを怒らないのか?」
「1年も待ったことに比べたら、平気よ」
「……ずっと、待ってたのか?」
「さ、早く行くわよ」

今回は怒られることもなく、すんなり向かう。

「注文して」
「前と同じのでいいのか?」
「うん、あれがいい」

去年と同じ、商品を注文する。

「ヘーゼルナッツアイスカフェモカのトールと、アイスエクストラショットソイキャラメルキャラメルマキアートのトールをください」
「やっぱり二回もキャラメルって言うの、変」
「文句があるなら自分で注文しろよ」
「いいえ。あなたに頼んで欲しかったから」

相変わらず、わがままなところは健在らしい。

「元気だったか?」
「ええ、そっちは?」
「まあ、理系でも上手くやってるよ」

学年が上がって、俺たちはクラスが分かれた。
俺は理系コースに進み、ガリ勉は文系コース。
だから、こうして会うのはわりと久しぶりだ。

「私も、いつも通りよ」
「新しいクラスでも、ぼっちなのか?」
「うるさいわね。ほっといて」

変わりなくて心配なような、安心するような。

「やっぱり、美味しいわ」
「それなら、良かったな」
「ほろ苦いけれど、とても甘いところが好き」
「……気に入ったようで、何よりだよ」

懐かしい味に舌鼓を打ち、喉を潤していると。

「タイムマシンって、作れると思う?」

ガリ勉が、いきなりおかしな質問をしてきた。

「なんだよ、いきなり」
「あなた、理系でしょう?」
「高校生に聞く質問じゃねーよ」
「単純に所感を知りたいだけ」

俺は今でも馬鹿だけど、少しは知識があった。

「まあ、不可能ではないだろうな」
「ほんと?」
「ただし、莫大なエネルギーが必要だ」

途方もなさすぎて、具体的な数字は知らない。

「でも、俺は……戻りたいと、思ってる」

非科学的な内心を吐露すると、断言してきた。

「戻れるわ」
「は?」
「時間は、巻き戻せる」
「どうやって?」
「簡単よ。同じ状況を、再現すればいい」
「同じ状況を再現する?」
「ええ、そうすれば、去年と同じでしょ?」

なるほど、それは盲点だった。観点が違うな。

「その為に待ち合わせ場所に来たんでしょ?」
「いや、俺は別に、なんとなく……」
「それなら尚更、運命的な邂逅ね。素敵だわ」

流石は文系。まるで物語のような解釈だった。

「今日も親が不在なのだけど」

当然、今年は間接キスなどしなかったのだが。

「うち、上がっていく?」

宿題だって理系と文系では内容が異なるけど。

「ああ、お邪魔するよ」

解けていない難問に回答する決意を、固めた。

「入って」

1年ぶりのガリ勉の部屋は、変わりなかった。
物が少なく、綺麗だけど、寂しさを覚える。
そして、またしても、去年と同じように。
読みかけの少女漫画が、床に伏せられている。

「今、お茶を淹れるから……」
「いや、いいよ。さっき飲んだばっかだし」
「そ、そう言えば、そうだったわね」

落ち着かない様子のガリ勉に、俺は質問する。

「お前って今、仲の良い奴とかいんの?」
「い、いないわ」
「じゃあ、付き合ってる奴は?」
「い、いない……です」

よーし、言質は取った。仕上げは、壁ドンだ。

「きゃっ!」
「こうして、告白すればいいんだよな?」
「して、くれるの……?」
「ああ、好きだ。俺と付き合ってくれ」

随分と遠回りになったけれど、やっと言えた。

「はい……よろこんで」

1年越しのキスの味は、キャラメルの味がした。


【告白の仕方の再現】


FIN

おつおつおつ

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