白菊ほたる「艦隊」 (15)

(注意・シリアスな話ではありません)

P「ほたる。お前はこれまでうちのフロントメンバーとしてがんばってくれた」

ほたる「……」

P「苦しいときも大変なときも、文句ひとつ言わずライブバトルを戦ってくれたな」

ほたる「そんなの、当たり前です。ここで頑張りたいって、私、本当に」

P「本当に感謝してる。だが、それでも俺はお前に、残酷な通達をしなくてはならない」

ほたる「……言ってください。じつは、薄々もうわかってるんです」

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P「――すまんな。ほたる。明日からお前にはフロントメンバーから外れてもらう」

ほたる「……」

P「本当に、すまない」

ほたる「私が外される理由を、聞かせてもらってもいいですか」

P「実力だ。わが事務所は新しくより実力のあるアイドルを獲得し、ユニットに組み入れることにした」

ほたる「――ずっと、思っていたんです。だんだんみんなに置いていかれてるって」

P「ほたる……」

ほたる「みんなはどんどん伸びていくのに、私は伸び悩んで。どんなに努力しても、レッスンしても、みんなのようには出来なくて……」

P「……」

ほたる「みんなの足を引っぱるのが、苦しかった。だから――言ってくれてよかったです」

P「……すまない」


ほたる「ぐすっ……でもきっと、またうんとレッスンをしてみんなに追いついて見せます。Pさん、その時は」

P「ああ、待っているぞ、ほたる」

ほたる「――聞かせてください。私の替わりに入る人って、どんな人なんですか」

P「うん。『〔雨空のむこう〕白菊ほたる+』さんだ」


ほたる「そうですか、雨空の――え? ごめんなさい、もう一度」

P「『〔雨空のむこう〕白菊ほたる+』」

〔無印〕白菊ほたる+「え、私のかわりに――しら、しらぎく?プラス?」

P「実はもう来てもらってるんだ。紹介しよう。『〔雨空のむこう〕白菊ほたる+』さんだ!」

〔雨空のむこう〕白菊ほたる+(以下雨ほた)「こんにちは、はじめまして」

〔無印〕白菊ほたる+(以下ほたる)「ほ ん と に わ た し で す !?」

雨ほた(ニコッ)

ほたる「でも同じ私なのになんて素敵な笑顔……!!」


P「彼女は様々な経験を積むことで他人を不幸にすることへの恐れを乗り越え、握手会まで開いたんだ」

ほたる「私にはとても出来ない……!」

雨ほた「いいえ、そんなことはありません」

ほたる「えっ……」

雨ほた「私もきっと、一人ではできなかったことなんです。だけど、色々な人が支えてくれて、勇気を貰って。積み重ねがあって――できるようになったんです。自分を信じられるようになったんです」

ほたる「雨ほたさん……」

雨ほた「同じ私ですもの。貴女にもきっとできます――だって、アイドルは、夢ですものね」

ほたる「……はい」

雨ほた「それにきっと、貴女を支えてくれる人も周りに沢山、いるはずです」

ほたる「……はい!!」


P「そうだぞほたる。いつか全員ほたるでフロントを組む日まで、お前にも頑張ってもらわないと」

ほたる「はい、Pさん。わたしがんばり――全員!?」

P「うん。スズランの少女、ヴォヤージュ・ブレイバー、一輪の幸せ……全員白菊ほたるの白菊ほたる艦隊だ!!!」

ほたる「なぜ艦隊!?」

雨ほた「頑張りましょう、艦隊を目指して!!」

ほたる「雨ほたさんまで。か、艦隊って何……!?」


雨ほた「艦隊は艦隊ですよ。そうですね、植木鉢関連の名前をつけるのはどうでしょう」

P「うーん、ほたる関連だから植木鉢ってもうやってる人いそうだなあ」

ほたる「ほかにもあるんですか艦隊」

P「もちろんだ。数限りない艦隊があって白菊ほたる縛りの艦隊もけっこう」

ほたる「それ私何人居るんですか!?」

P「数えたことはないけど5000や10000はいるのでは」

ほたる「私がいちまんにん!!」

P「ほたるがこんな大きな声出すところ初めて見た」


ほたる「えっ、みんな私で? 私が何種類もいて?」

雨ほた「そんなにおかしいですかねえ」

P「ねえ」

ほたる「何からなにまでおかしいですよ!?」

P「?」

ほたる「むしろけげんそうな顔をされた……!!」

雨ほた「今更こんなことで慌てるなんてどうしたんですか」

ほたる「えっ、慌てるのっておかしいんですか」

雨ほた「そりゃあ普通のことですし」

ほたる「普通じゃないです。絶対普通じゃないです。私がいっぱいいるのも、私の替わりに私が移籍してくるのもヘンです。絶対おかしいです――!!」

……

……

……

パジャマほたる「……はっ!?(がばっ)」

パジャほた「……夢……夢ですよねそうですよね」

パジャほた「へんなゆめ。へんな夢でした。びっくりした……!!」


【翌朝】

P「ほたる、ちょっと紹介したい人がいるんだ」

ほたる「はい――あの、一体?」

P「うん、実は今度うちに移籍してくる子がいてな」

ほたる「ぎくっ」

P「ぎくっ?」

ほたる「あ、いいえ、その、なんでも」

P「実はわが事務所は新しくアイドルを獲得し、ユニットに組み入れることにしたんだが――なんだほたる顔色悪いぞ?」

ほたる「いえ! ほんとに! なんでも……」

P「変な奴だな――紹介しよう。森久保さんだ」

森久保「ど、どうも……」


ほたる(Pさんの後ろから姿を現したのは、巻き毛のかわいい、素敵な女の子です)

ほたる(初対面だけど、なんだかどこか、自分に似ているような気がして、私は親近感を覚えました)

P「さっきも言ったがほたると森久保さんにはこれからユニットを組んでもらう。ほたるは先輩になるから、仲良くしてやってくれ」

ほたる「はい――」

ほたる(手を差し出して握手を求めようかどうか少し考えて、私はやっぱり手をひっこめました)

ほたる(だって、私に触れて、森久保さんが不幸になって、しまったら)


ほたる(でもその時、あの夢の雨ほたさんの言葉が思い浮かびました。同じ私なんだから、できるって)

ほたる(あんなのは、夢です)

ほたる(私が一万人とか、おかしすぎる夢)

ほたる(だけど私も、いつかできたらいいなって思ったんです)

ほたる(恐れを乗り越えて、誰かと握手を――)

ほたる「よ、よろしくお願いします、森久保さん」

ほたる(だから私は森久保さんにそっと手を差し出したのです)

おしまい。
読んでくださってありがとうございました。

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