(劇場の控え室。二人とも椅子に腰掛けて、このみが風花の相談を受けている)
風花「このみさん、聞いてくださいー。プロデューサーさんがまたグラビアのお仕事を取ってきちゃって…。」
このみ「よしよし。風花ちゃんも苦労するわね。わかったわ。私の方からプロデューサーくんにガツンと言っておいてあげる!」
(このみが立ち上がってPに直接抗議に行くようだ。風花は黄昏ている)
風花「はぁ…、いつになったら清純なイメージの役がもらえるのかな…。」
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(劇場の事務室。小鳥は映像処理を、美咲は衣装作製に没頭し、Pはアイドルのスケジュールを確認しつつ、相手先に連絡している。そこに凄い剣幕のこのみが現れる)
このみ「ちょっと! プロデューサー! 風花ちゃんに無理させすぎよ!」
(ドン、という音が鳴るほど強くPのデスクが叩かれ、小鳥と美咲は何事かと振り向いた。Pはビックリしている)
P「ど、どうしたんですか、このみさん。いきなり」
このみ「風花ちゃん、泣いてたわよ!(大げさ)また苦手なグラビアの仕事だ、って。そもそもセクシーなら私が…」
(このみは不満そうだ)
P「へ? いや、風花に話をした時はそんなことなかったんですけど…。おかしいな」
このみ「…どういうことかしら?」
(プロデューサーの反応が思っていたものと違い、このみは訝しんだ)
P「とりあえず、席を移しますか。他の二人が仕事に集中できなさそうですから…」
このみ「コホン。わかったわ。…失礼しました。」
(小鳥と美咲に頭を下げて、事務室を出て行くこのみ。続いてプロデューサーが付いていく)
(近くの喫茶店に移動した。コーヒーの香りが漂っている。朝食の時間でもないため、人は疎らだ)
このみ「それで、どうして風花ちゃんにきちんとした仕事を回さないの?」
P「グラビアも立派なお仕事ですが…」
(そう言ったところ、このみの「そこは違う」といった迫力に気圧される。ご立腹のようである)
P「俺もアイドルが本当に嫌がっているのなら、それをクライアントの意向を優先してまで仕事を取りません。信じて下さい」
このみ「私はね、プロデューサー。お姉さんとして、年下の子の悩みを聞いてきたの。風花ちゃん、困っていたのよ?」
P「それは演技ですよ、このみさん」
このみ「演技? 私を騙したってことかしら?」
(二人のもとにアイスコーヒーが置かれ、店員が会釈してさっていく。機を見計らってPが説明しだす)
P「このみさんに相談したのは嘘偽りはないでしょう。困っている、というのも。
でも、それは『正統派アイドルとして否定しないといけない自分』を演じている立場からのもので、本心じゃない」
このみ「本当は『清純なアイドル』と見られたくない、ということ?」
P「風花は、アイドルなら明るく元気な存在という先入観がありました。でも、大胆なポーズを取って撮影する自分とでは重ならなかった。
理想と現実、というと言い過ぎですけど、目標としていたアイドル像から離れた自分を受け入れられず、遠ざけてしまった。それが心の仮面となり、悩みになっているんです」
このみ「それならなおさらグラビア撮影を控えた方がいいんじゃない?」
P「うーん、こればかりは見てもらった方が早いですね。
…グラビア撮影はここから近くの撮影スタジオでこの時間にありますから、予定が空いてれば来てみて下さい」
(Pは懐からメモ帳を取り出し、期日と場所とを記してから紙片を破り取り、このみに渡す。スマートフォンを取り出し、スケジュールを参照してPを向き直る)
このみ「今のところは空いてるわね。わかった。行くわ!」
(このみが注文票を取り支払いを済ませようとするのをPが止める。Pが、支払いをこちらが持つと提案すると、このみは頷いて先に劇場へ戻って行った)
(撮影当日。撮影スタジオに足を運ぶこのみ。撮影の準備中のようだ)
このみ「こんにちは、プロデューサー。まだ始まっていないのね?」
P「ええ。このみさんを待っていましたから。実のところ、このみさんにも撮影に参加してほしいんです」
(Pは声をかけたこのみに近付き、更衣室に水着とメイクの用意がしてある旨を伝えた)
このみ「はぁ? 私は風花ちゃんの件で来たんだけど?」
(このみが話していると水着姿に着替えた風花が走り寄って来る)
風花「このみさん! 来てくれたんですねー。プロデューサーさんが、このみさんも撮影に参加するって聞きまして、楽しみです!」
このみ「プロデューサー、謀ったわね…!?」
P「Wピンナップに変更してもいいと先方から承諾を得ていますから、そちらもご心配なく」
このみ「そんな心配してないんだけど…。まぁ、いいわ。仕事なら全力でやらなくちゃいけないわね! セクシーなお姉さんに見惚れなさい♪」
(このみは仕事モードに切り替わったようだ)
P「このみさんが着替えてくる間に準備を済ませておきます。先にこのみさんの撮影、後で風花の番になります」
このみ「いきなり私なのね。心の準備をしておかないと…よし。風花ちゃん、ちょっと待たせちゃうけど、一緒にがんばりましょう!」
風花「はい! このみさんはやっぱり頼りになりますー」
(こうして更衣室へ入っていくこのみを尻目に、二人は一言二言会話して、準備に取り掛かった)
P「このみさん、水着、良く似合っていますね」
このみ「花柄のビキニ…結構派手めなのね」
(着替え終えたこのみを迎えてPが褒めると、近くにいた風花が気にしたようだ)
風花「プロデューサーさん、私の水着姿は、どうですか?」
P「白地に赤のフリルが施されていて、可愛らしいですね。俺は好きですよ」
風花「あ、ありがとうございます…好き…」
カメラマン「本日はよろしくお願いします! あっ、このみさん、私、大ファンなんですよ! お会いできて光栄です!」
このみ「そうなの! 嬉しいわー。アダルティな魅力は惹きつけちゃうのね~♪ それじゃ、そろそろ始めましょう!」
(このみはカメラマンと打ち解け、滞りなく撮影を終えた)
P「このみさん、お疲れ様でした。次は風化の番だぞー。しっかりな!」
風花「はいー。が、頑張りますー!」
(背中を押された風花がよたよたと進む。このみとすれ違い様に会釈を交わし、一言「お疲れ様です」と伝えたようだ)
このみ「ふぅ、突然の撮影だった割には緊張せずに済んだわ…。やっぱり、私の良さを理解している人と一緒に仕事すると捗るのかしら♪」
P「このみさんが参加する旨を伝えたら、かなり喜んでいましたからね」
このみ「あら、風花ちゃん、あまり乗り気じゃなさそうね」
P「撮影開始してすぐは、こんな感じですね」
(カメラマンがポーズの変更を要求する。恥ずかしそうにしながら、大胆なポーズを取る風花)
このみ「少し、嬉しそう…? 恥ずかしそうに見えるけど、嫌そうじゃないわね」
P「風花は自信がないのとはまた違いますからね。こういった露出の多い衣装での撮影自体がキライではないんです」
(カメラのシャッター音が響く度に、風花の笑みは自然なものになっていく)
このみ「それなら、どうして困っていたの?」
P「風花は以前は無頓着でした。見られることに、あるいは、他者から視線ないしは感情が向けられることを気にしていなかった。
清純なイメージでないのに自分には合う、という事実がまた、風化には認めにくかった。受け入れてしまうと、自分のなかの『正統派アイドル』にはなれなくなりますからね。でも、」
(Pがこのみの視線を再び風花に向かせる。カメラマンの声に従って、さまざまなポーズに変えていく風花は、楽しんでいるようですらあった)
P「生の感情は否定できない、というわけです。普段は恥ずかしがっているけれど、風花はここでは輝くんです。
とはいえ、困っている風花にこういうオファーを振るのがまた楽しみでもありますが」
このみ「どう考えても変態よ、それ」
(風花の撮影がようやく終わったようで、このみは劇場へ行くことにした)
このみ「意外に時間かかっちゃったわね。このあと、劇場で用事があるからここでお暇するわね。
そうだ! プロデューサー、埋め合わせ、期待しているわね♪ 焼肉と飲み会、プロデューサーの奢りでいかがかしら?」
P「財布が空になりそうだ…。お疲れ様でした、このみさん」
このみ「風花ちゃんもおつかれさまね! 可愛かったわー、見られて良かった!」
風花「お疲れ様ですー、このみさん。プロデューサーさん、後でお話ししてもいいですか?」
P「…ああ、わかった」
(このみが二人の様子を窺うと、いつもと違うように見えた)
このみ「…気のせいよね」
(このみは二人と別れ、劇場でライブをサポートして、一日の仕事が終わった。莉緒から誘われ、いつもの居酒屋で飲んでいる)
莉緒「カンパーイ♪ いやー! この一杯が疲れを癒してくれるわー♪」
このみ「莉緒ちゃんはどことなくおじさんっぽいこと言うわね…。社長と飲んだりしているせいかしら?」
(社長がどこかでクシャミをした)
莉緒「このみ姉さんは時々辛辣になるわね…。ところで、今日は何かあったの? 何だか難しい顔しちゃって」
このみ「それがね、聞いてよ莉緒ちゃん。風花ちゃんの相談を受けたんだけど…」
(事の顛末を仔細に話すこのみと、ビールを飲みながら話を聞く莉緒。ウンウンと頷いたり、大げさに驚いたりする様からは少し酔いの影響が見受けられる)
このみ「莉緒ちゃんは、どう思う?」
莉緒「このみ姉さんばかり、ズルいわ!」
このみ「えっ?」
(思ってもみなかった感想にこのみは目を丸くした)
莉緒「プロデューサーくんのおごりで、一緒に焼肉食べながら飲めるんでしょー? 私も行けばよかったー。ねぇねぇ、焼肉、私も誘ってよ。いいでしょー、このみ姉さんー」
このみ「…もう! 人が真剣に相談しているときに。わかったわよ、日取りが決まったら誘うから」
莉緒「さすがこのみ姉さん♪ って、プロデューサーくんと風花ちゃんね。うーん、少しなら気持ちも分かるかなー」
このみ「そう?」
莉緒「急に目立つようになって、今まで通りでいいか悩んだり、自分で気付かなかったことに気付かされてショックを受けたり。プロデューサーくんからスカウトされてから、色々違って見えることが増えたもの」
このみ「そう言われてみれば…でも、困ってる風花ちゃんを放っておけなかったのよねー」
莉緒「このみ姉さんの良いところよ。でも、解決はしないと思うわ」
このみ「どうして? プロデューサーが気をつけてあげれば済む話でしょ?」
莉緒「プロデューサーくんが原因だけど、風花ちゃんはたぶん、不満に思っていないわ。それを風花ちゃんに問い質しても、困っちゃってます、としか言わないでしょうけど」
このみ「どうすればいいのかしら…」
莉緒「どうもしないのも行動のうちよ? そのうち、風花ちゃんも慣れるし、プロデューサーくんも反省するんじゃないかしら…あら? 生二つおねがーい♪」
(気がつくと二人のビールのグラスが空になっている。店員に注文して来るのを待つ)
莉緒「ところで、姉さんが撮影に参加したの、風花ちゃんが相談してきた時から仕組まれていたんじゃない?」
このみ「ええっ!? そんな回りくどいことしないでしょ。風花ちゃんを使って仕事に誘うなら、直接私に言うでしょうし」
莉緒「それもそうね…。それにしても見たかったわー!自信ありげなこのみ姉さんと、恥ずかしそうな風花ちゃん。いつ雑誌に載るのかしらね?」
(時を同じくして、先日このみと会っていた喫茶店、閉店間際のせいもあってか、風花とP以外に客は見当たらない)
風花「もう! プロデューサーさん、このみさんまで巻き込んで! 私だけにして下さいって言ったじゃないですかー!」
P「ごめんごめん。急遽、先方から連絡が来て頼む暇もなかったんだよ」
風花「私がああいう格好が苦手だって分かっているのに、わざとこんな仕事を受けちゃうし…このみさんを先に褒めるし…プロデューサーさんは意地悪です!」
P「いじわる、って。風花に少しでも慣れて欲しいからだぞ。本当はもっと沢山依頼が来ているのを、厳選しているんだからな。…依頼の量から風花の人気も窺えて、個人的には嬉しいかぎりだけれど」
風花「まったく、プロデューサーさんは……」
P「ん? 何か言ったか?」
風花「いーえ、なんでもありません」
(風花がふいと顔を背ける。窓際の花瓶に生けた白い茉莉花が、風花の瞳に映った)
ひとまず終わりです。
読んで下さった方、ありがとうございました。
前作
[シャニマス ]貴方さまに、下着を……?
[シャニマス ]貴方さまに、下着を……? - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1532327916/)
さすが風花Pだわ、乙です
>>1
豊川風花(22) Vi/An
http://i.imgur.com/VYT9CWm.jpg
http://i.imgur.com/a6GLsry.jpg
馬場このみ(24) Da/An
http://i.imgur.com/GrEtN72.png
http://i.imgur.com/IfeE9Bx.png
>>14
百瀬莉緒(23) Da/Fa
http://i.imgur.com/W6YU3KT.jpg
http://i.imgur.com/CwjvsCr.jpg
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