干からびたミミズ「なぜ俺が干からびちまったかだって?」 (16)


俺はミミズだ。

日なたに出て、見事に干からびちまった。


こうなっちまうともう助かる術はねえ……くたばるだけだ。


――ん?

なぜ俺が干からびちまったかだって?


ハハ、やっぱり気になるよな。


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俺はこの通り、自分の心情を独白できるぐらいの知能はある。

人間どもの言葉も分かるし、人間の文字も読める。

雌雄同体だが、恋だってする。

自分でいうのもなんだが、ミミズにしてはかなり賢くて感情豊かな部類のはずだ。


しかし、そうなるとなおさら気になっちまうだろう。


そんな賢い俺が、どうしてこんな自殺めいたことをしちまったのかってな。


そうだな……。

一言でいうなら、まあ、冒険したかったから、だろうな。


湿った土や涼しい木陰で過ごしてれば、もしかしたら俺はもっと長生きできたのかもしれねえ。

天寿をまっとうできたのかもしれねえ。


だが、俺にはそんな安穏とした暮らしを捨ててでも、やり遂げたいことがあったんだ。


俺には野心があった。

俺には理想があった。

俺には信念があった。



だから、俺は土や木陰を離れ、日に照らされたコンクリートの世界に旅立った。


一世一代の大冒険ってやつだ。


もちろん、勝算はあった。うまくいくはずだった。

だが、計算は狂った。


一番の要因は、今年のこの早めの猛暑だな。

もう少し気温が低ければきっと俺の計画はうまくいったんだが……結果はごらんの通り。


干からびて、使い古されたゴム紐みたいなありさまになっちまった。


予想より遥かに強い日光は、みるみるうちに俺の水分を奪い、生命力をも奪っていった。


これはヤバイ、湿気のあるところへ、と気づいた時にはもう手遅れ(ジ・エンド)。


俺の体には独白するぐらいの力しか残ってなかった……。


こうして俺はコンクリの上でただ死を待つ身となったわけだが、いっとくが後悔はしちゃいねえ。


俺は自分が定めた目的に向かってまい進し、こうなった。

結末は残念っちゃ残念だが、やりきったという達成感もある。


この達成感は、少なくとも安全や安心な道を選んでいたら絶対味わえなかったことだ。

俺は無謀な冒険をした自分を誇りに思うぜ。


おっと、意識が薄れてきやがった。

もうそろそろお別れのようだ……。


これを読んでいる奴らよ。

もし、バカな俺に同情するってんなら、俺の生きざまに少しでも共感してくれたってんなら、

決して危険の少ない穏やかな選択をするだけの奴にはならないで欲しい。


自分の野心や信念に向かって突き進む、無謀なバカになって欲しい。


それが俺に対する何よりの供養だからよ……。


繰り返すが、俺は後悔しちゃいねえ……。


干からびたことに胸を張って、三途の川を渡るとするぜ……。


じゃあな……。


生きるってことは冒険だ……。


冒険しなきゃ、生きるかいが、ねえ……だろ……?


……。


ミミズA「あれ、あいつどこ行ったんだ?」

ミミズB「なんか、人間どもが森に捨ててった雑誌を読んだとたん、どこか行っちまったぜ」

ミミズA「このクソ暑いのになに考えてんだか……」

ミミズA「ちなみにその雑誌、どんなことが書かれてたんだ?」

ミミズB「えーと、たしか……『今年の夏は日焼けしてモテよう!』とかなんとか……」









―終―

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