恋と宇宙と運送業 (284)

-火星 ネオロンドン-

-ヒースロー宇宙空港 貨物積込ドック-


ヒュゥゥン…キキッ

男「ふぅ、到着」ポチッ

[荷積ミ作業ニ入リマス]ピコ-ン

男「さっそく積み込みますか」

ガチャ バタン

作業員「おー男!早いじゃねぇか!」シュゥゥン

男「おはようございます」

作業員「積み込みか?」

男「はい、ステーション行きの食料品を積みに来ました」ペラッ

作業員「どれどれ…しかしステーションの連中は気楽でいいよな」

作業員「こっちはこうして地に足付けて仕事に追われてんのによ」

男「まぁ向こうも向こうで大変だと思いますよ?」

男「自給能力が無いから、こうして何から何まで地上(こっち)から取り寄せなきゃならないんですし」

作業員「まぁ…そのお陰で俺やお前さんの食い扶持があるって訳か、モノは考え様だな」フム

男「そういう事です」

作業員「じゃーちょっと待ってろ、今積荷を準備すっからよ!」シュゥゥン

男「お願いします」



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-休憩室-


男「お疲れさま」ガチャ

同僚「よーwwお疲れちゃんww」

男「今日は?」

同僚「これから積み込みwwわざわざ地球まで行ってよwww」

男「地球?一体何を積むんだ?」

同僚「そりゃお前、諸々の"訳あり品"に決まってんだろwww」

男「あぁ…あまり詳しくは知りたくない感じだな」

同僚「詮索しないのがジャスティスwwまぁその分運賃が良いからよwww」

男「あんまり無茶するなよ?心配掛けたら元も子もないんだから」

同僚「わーってるよんwww」

ピンポ-ン

<ステーション行きの荷物が揃いました

男「お、準備出来たみたいだな」

同僚「今日はステーション行きかww」

男「そうだよ」

同僚「それじゃ伝えといてくれwwまだ11月なのに暑過ぎだってwww」パタパタ

男「確かに…春だってのに最近暑いな」

同僚「あいつらの気候制御テキトーだかんなwww自然の営みをそんな形で再現しないでいいわwww」

男「あぁ、言っとくよ」クスッ

-貨物積み込みドック-


作業員「待たせたな!」

男「いえいえ、ハッチ開けますね」ポチッ ウィ-ン

<フォークリフトガ動キマス… ピピ-ッピピ-ッ

作業員「…しかしよぉ」ガチャン シュィィン

男「?」

作業員「お前いつまでソロで仕事続けるつもりなんだよ?」

男「あはは…なかなか良い出会いがなくてですね」

作業員「出会いだぁ!?んなモン若いんだからいくらだってあんだろ!」ガハハ

男「まぁ艇乗りっていったら相棒とコンビを組むのが一般的ですからね」

男「実際俺の艇(ふね)も複座式だし」

作業員「だろ!?同僚の奴でさえコンビ組んでるんだからよ!」

男「あいつの場合は組んでるっていうか…あれ?」

男「そういえばあいつさっき一人だったな」

作業員「まぁオッサンの老婆心だと思って聞いてくれや」

男「オッサンなのか老婆なのか」

作業員「お前、仕事はバッチリだけど時々アホだよな」

作業員「おし!終わったぞ」

男「ありがとうございます、ハッチ閉めます」ポチッ ウィ-ン

作業員「デッキに連絡すっからちょっと待ってな」ピピッ

作業員「物流協会の艇が1隻出るぞ!あぁそうだ、ステーション行きの」

作業員「了解!じゃ頼むぞ」ピピッ

作業員「32番のデッキが空いてる、300秒で支度出来るそうだ」

男「分かりました、それじゃ向かいますね」

作業員「気をつけてな!」フリフリ

ガチャ バタンッ

-32番出航デッキ-


ピピ-ッ ピピ-ッ

誘導員「オーライ!オーライ!」

シュゥゥン…キキッ

ピコ-ン

[グリーン 発進出来マス]

男「了解。さて、行きますか」グッ

バシュゥゥ…!!

-男の艇 操縦席-


ヒュゥゥン…

男「さて、離昇してしまえばあとはオートクルーズみたいなモンだ」ピコピコ

[ステーションヘノ軌道ヲ修正シマス…現在ノ周回速度ハ…]

男「誘導電波を辿って行くだけだからあんまり実感湧かないけど」

男「サッカー場ほどもあるステーションが秒速8kmで火星の周りを飛び回ってるなんて…」

男「今更ながら信じられないな」

男「…二人とも元気にしてるかな?」チラッ

写真「」ヒラヒラ

バシュゥゥ…

-ステーション 到着デッキ-


ピピ-ッ ピピ-ッ

<物流協会の運搬艇が到着します

スィィィ…キキッ

男「到着っと」


<ハッチ閉まるぞー

<重力制御問題なし、現在1.02G


ガチャ バタンッ

ステーション作業員「やぁ、食料品の搬入かい?」

男「はい、これが伝票です」ペラッ

ステーション作業員「確かに。荷下ろしはこっちでやっとくから」

男「ありがとうございます」ポチッ ウィィ-ン

ステーション作業員「到着したら顔出せって言ってたぞー?」

男「あぁ…了解です、じゃあお願いしますね」

ステーション作業員「はいよー」シュィィン

ピピ-ッ ピピ-ッ

[フォークリフトガ動キマス…]

-ステーション内 通路-


テクテク

男「ホントに広い施設だな、地図がなくちゃ絶対迷子になるよ」

カツカツ

女「そう思って迎えに来たわ」

男「久し振りだな、女!」

女「ステーション便は運賃が安いから、みんなあまりやりたがらないものね」

男「いや別に避けてたわけじゃ」

女「ふふっ冗談よ、元気そうで何よりだわ」ニコッ

男「女もな」

男「あ、同僚の奴から最近暑過ぎるって苦情が来てたぞ?」クスッ

女「あら、それは失礼」

女「気温の制御もなかなか難しいのよ、良かったら見学していく?」

男「いいのか?」

女「男くんなら構わないわ、実際見てもらえば分かる事もあるもの」

-ステーション内 "ソレッタ"制御室-


ピコ-ン ピコ-ン

女「お疲れ様」ガチャ

男「お邪魔しまーす」

研究員「お、噂の弟くんですか」クルッ

男「いつも姉がお世話になってます」ペコッ

女「ここは"ソレッタ"…太陽光を反射させて火星の大気温度を管理するシステムの制御室よ」

男「太陽光を反射…あの巨大な鏡みたいな奴でか?」ノゾキ

研究員「そうです。発想としては原始的ではありますが」

女「火星の公転周期に合わせて照射角度を微調整しているのだけれど…」

女「どうしても照射量にバラつきが出てしまうのよ」

男「コンピュータ制御でもか?」

研究員「ご存知の通り、ステーションは火星の周囲を絶えず飛び回っています」

研究員「それに合わせてソレッタも火星の公転軌道を移動し続けているのですが」

女「照射する面や太陽との位置関係によって、どうしても温度のバラつきが出てしまうのよ」

男「それで暑くなったり寒くなったりするってわけか」

女「そういう事。一年の…地球でいう24ヶ月の間でね」

男「そういえば地球の一年って12ヶ月しかないんだっけ」

女「今更何言ってるのよ、男くんも航行で地球に行く事あるんじゃないの?」クスッ

男「いや…俺の艇じゃ地球までは行けないんだ」

女「…そうだったわね」

女「まぁそういう訳だから、多少の気温のバラつきはご愛嬌だと思って欲しいのよ」

研究員「はじめましてって感じがあまりしませんね」

男「?」

研究員「女さんから、男さんの話はよく聞いてるものですから」

男「そうなんですか?」

研究員「というか、弟くんの自慢話を聞かない日はないというか」クスクス

女「ち、ちょっと何言ってるのよ」アセッ

男「なんだか照れ臭いな」

研究員「愛されてますねー」

女「もうっ」プイッ

-ステーション 到着デッキ-


ステーション作業員「荷下ろし終わってますよ」

男「ありがとうございます」

女「帰り荷はないのかしら?」

ステーション作業員「えぇ、廃棄物関連はもう少し溜まってからにします」

女「そう、それじゃ男くん気をつけてね」

男「あ、そういえば先ぱ…義兄さんは?」

女「言ってなかったかしら、地熱関連のラボへ異動になったのよ」

男「えっそうなのか、それじゃオリンポス山に?」

女「えぇ、山の麓にあるラボへ行けば会えると思うけれど」

男「全然知らなかった…顔出してみるかな」

男「それじゃ出発します。女、またね」

女「えぇ」


バシュュゥン…!!

-地球 イタリア南部-

-カポディキーノ宇宙空港 第2到着デッキ-


ピピ-ッ ピピ-ッ

<物流協会の艇が入るぞー!

ヒュゥゥン…キキッ

同僚「ほい到着wwwんぁー長かったwww」ノビ-ッ

同僚「ビーコン辿ってのオートクルーズとは言えほぼ丸一日だからなwww」コキコキ

同僚「コンビで来りゃーその分楽なんだが…地球じゃな」

ガチャ バタンッ

同僚「まいどー物流協会でっすwww」

空港職員「いつも悪いな」

同僚「いえいぇwwwその分ギャランティーを頂戴してますからwww」

空港職員「人は裏切るが金はそうじゃない」

空港職員「仕事に見合った報酬を支払い、報酬に見合った仕事をこなす」

空港職員「それが信頼関係ってモンだろう?」

同僚「仰る通りでwww」ヘ-コラ

空港職員「いつも通り荷物はこっちで積んでおく」

空港職員「お前は何も見ない、触らないし詮索しない」

同僚「www」コクコク

空港職員「お前に荷物を運ぶ以外の責任は発生しない、それがお前の為だ」

空港職員「いいな?」

同僚「畏まりましたwww」

空港職員「積み込みが終わったら呼ぶ、食事でもして待っていろ」

同僚「よろしくお願いしますwww」ビシッ

-空港内 ロビー-


ワイワイ ガヤガヤ

同僚「おーこわwww毎度の事ながら慣れねぇわwww」ブルッ

同僚「まぁ艇のローンや改造費もバカにならんしwwアイツに苦労させたくねぇしwww」

同僚「とりあえずパパッと済ませて火星に帰ろうそうしようwww」


<お願いしまーす

<間も無く開演でーす


同僚「おっなんだイベントかww地下アイドルのライブか何かかwww?」

スタッフ「巫女様による祈歌の公演でーす」

スタッフ「観覧無料でーす」

同僚「巫女様ーwww?何だか胡散臭ぇなwww」

同僚「まぁタダならいっかwwヒマだし見てこーっとwww」

スタッフ「こちらパンフレットでーす」スッ

同僚「なになに…"母なる太陽"?ますます胡散臭ぇなwww」ケラケラ

オルガン奏者「」チャララ-♪

同僚「おっ始まるかwどっこいしょとww」スワリ

テクテクテク…

巫女「…。」スクッ

同僚「おーあれが巫女様かww結構可愛いじゃんかww」

同僚「そしてあのたゆんたゆんwww悪くないw悪くないぞwww」

巫女「」スゥ




巫女「No one can steal the sun♪」




同僚「!!」ゾクッ

同僚「なんだこの歌声…腹の底に響いてきやがる」ビリビリ




巫女「ー♪」




巫女「…。」ペコリ


<ワァァァ…!パチパチパチパチ…!!


同僚「すげぇモノを見た…」ポカ-ン

-火星 ネオロンドン-

-物流協会 倉庫-


ヒュゥゥン…キキッ

男「ふぅ、到着」ポチッ

[航行データヲ記録シテイマス…]

男「さて、明日は何の仕事かな?」ガチャ


-物流協会 事務所-


男「お疲れ様でーす」ガチャ

配車係「男さん、お疲れ様です」

男「明日の仕事決まってますか?」カチャ

[航行データヲ印字シテイマス…]

配車係「えぇ、明日はラボへ燃料の搬入です」

男「って事は倉庫(ここ)積みか、ラッキーだな」ペリッ

男「ん?ラボってオリンポス山の麓ですよね?」

配車係「そうですよ」

男「今日ステーションに行った時に聞いたんですよ、先輩そっちに異動になったって」

配車係「そうなんですか?じゃあ顔を合わせるのにちょうど良かったですね」

男「ですね」

配車係「先輩さんが物流協会(うち)を辞めてもう3年ですか…」

男「…。」

配車係「よろしくお伝え下さい」

男「了解です」


-カポディキーノ宇宙空港 積み込みヤード-


ガラガラ…ゴトッ

空港職員「さっさと積み込むんだ」

作業員「…。」セッセ

空港職員「星を結ぶ運送屋か、まったく便利な存在だ」

空港職員「こんなモノここらに置いておくわけにいかないからな」

作業員「…。」セッセ




???「…。」ササッ コソコソ

-火星 陸運専用道路-


ブロロロ…

男「今日は陸送便だから気が楽だな」

ガタッ ゴトッ

男「しかしこのカーゴって奴は揺れるなぁ」

男「だけど何でだろう…カーゴの運転席ってすごく落ち着くんだよな」



ブロロロ…

-オリンポス山麓 地熱制御ラボ正門-



ブロロロ…キキッ

男「さて、ここがラボか」

男「しかし、いつ見てもデカイな」ミアゲ

男「オリンポス山…火星だけじゃなく、太陽系でも最大の活火山」

男「その標高26000m…デカ過ぎて壁にしか見えないな」

テクテク

先輩「お!男じゃないか!」フリフリ

男「先輩!じゃなかった…義兄さん」

先輩「お互い慣れないな、その呼び方は」クスッ

男「ですね」

先輩「今まで通りでいいんだぞ?呼び名なんて大した問題じゃない」

先輩「大切なのは俺達の関係性だ、そうだろ?」バシッ

男「いてて…はい、先輩は俺にとっていつまでも頼れる先輩ですから」

先輩「俺だって一緒さ、お前も同僚も俺にとっちゃ大事な後輩達だ」

先輩「今日は燃料の搬入だったな?」

男「そうです、どこに下ろしましょうか?」

先輩「ラボの裏手に倉庫がある、誘導するからそっちにカーゴを着けてくれ」

男「了解です」


ブォン!ブロロロ…

<バックシマス… ピピ-ッピピ-ッ

-地熱制御ラボ 休憩室-



先輩「…異動になった事、てっきり連絡したモンだと思ってたよ」

男「昨日ステーションで女に聞きました」

男「でも職場が離れちゃって寂しいですね、せっかく新婚なのに」

先輩「なぁに、今は通信手段も発達してるからな」

先輩「火星圏内ならテレビ電話も使えるし、ステーションなんてすぐそこさ」

先輩「それよりあいつと話してても話題と言えばお前の事ばっかりだぞ?」クスッ

男「え、そうなんですか?」

先輩「ちーっとばかし妬けちまうよな」ワハハ

男「なんだかその…すみません」

先輩「お姉ちゃんはいつまで経っても弟の事が気がかりなんだろうよ」

先輩「愛されてんな」

男「…。」

男「先輩はここでどんな仕事をしてるんですか?」

先輩「そうだな、ステーションが大気の温度を制御してるように」

先輩「ここでは地面の中から星の温度を制御しているんだ」

男「地面の中から?」

先輩「そうだ、火星は元々火山活動が活発なんだが…」ズズッ

先輩「そいつを上手いこと制御して地面を暖め、ついでに熱エネルギーを取り出しているってわけだ」

男「へー凄いな、じゃああのオリンポス山も?」

先輩「知っての通り、あいつは太陽系最大の活火山だ」

先輩「噴火でもしようモンなら火星丸ごと吹っ飛んじまう」

先輩「大地の加熱も熱エネルギーも、あいつを制御する為の副産物ってわけだ」

男「なるほど」


-地熱制御ラボ正門-


ゴゥンゴゥン…

男「それじゃそろそろ出発します」

先輩「同僚によろしくな、配車係の奴にも」

男「了解です」

先輩「近い内に女と3人で食事でも行くか、ネオロンドンならいい店もあるだろう」

男「リサーチしておきますよ」ニコッ

先輩「それじゃあな」フリフリ


ブォン!ブロロロ…


男「3人で、か」

-カポディキーノ宇宙空港 出航デッキ-



空港職員「待たせたな」

同僚「いえいえww空き時間ですんげぇ歌も聴けましたしwww」

空港職員「あぁ、巫女か」

同僚「ご存知なんすかww?」

空港職員「最近ここらじゃ名前を聞かない日がない、歌による布教活動とは考えたもんだ」

同僚「あ、割とウェルカムな感じなんすねwww」

空港職員「古来より我々イタリア人は芸術には寛容だ、それがどんな形であれな」

空港職員「宗教についてはともかく、あの歌は芸術と言っていいだろう」

同僚「ホントっすねwww鳥肌立ちまくりでしたもんwww」

同僚「それじゃそろそろ出発しますねwww」

空港職員「荷下ろしはいつもの場所で、いつもの通りにな」

同僚「畏まりましたwww」ビシッ


バシュゥゥ…!!

-小惑星帯 廃棄物の星-


ヒュゥゥン…キキッ

同僚「ほい到着www」

ピピッ…ザザッ

無線『物流協会だな?』

同僚「毎度wwカポディキーノからですwww」

無線『連絡は来ている、ハッチを開けろ』

同僚「あいあいさーwww」ポチッ

ウィィィン…

無線『荷下ろしはこっちでやる。いつも通りエンジンを止めて視界グラスもオフにしろ』

同僚「了解っすwww」カチャ

[エンジン停止…視界グラスダウン]

フッ…

同僚「そして真っ暗になったwww」


ゴソゴソ…ゴトンッ

ピピ-ッ ピピ-ッ


同僚「何を運んでいるのやら…いや考えない考えないwww」ビクビク




???「…。」ササッ コソコソ


<コンコンッ

同僚「お、終わったかwww」カチャ

ヒュゥゥン…!

[エンジンスタートシマス…機関良好]

[視界グラスガ作動シマス]

フッ…パァァァ

同僚「満点の星空www復活www」

無線『作業終了だ、ご苦労さん』

同僚「毎度ありーwww」ポチッ ウィィィン…

ゴゥンゴゥン…

同僚「さて帰るべwww大至急帰るべwww」ピコピコ

[SSS起動…]

同僚「燃費なんざ知るかwww全速前進www」

同僚「飛びます飛びますwww」ググッ

パァァァ…ヒュンッ




ー♪




???「…歌?」コソコソ

-火星 陸運専用道路-


ガタゴト ブロロロ…

ピピッ ピピッ

男「ん?無線?」カチャ

配車係『男さんお疲れ様です』

男「お疲れ様です、何かありましたか?」

配車係『実は急な集荷依頼がありまして、ちょうど男さんの帰り道なんですが』

男「そうですか、大丈夫ですよ」

配車係『すみませんね、位置情報は送っときますので』

男「了解です、それじゃ向かいますね」カチャ

男「まぁ空荷で帰るよりはマシだな」

ピコ-ン

[新シイ位置情報ヲ取得シマシタ、行先ヲ変更シマスカ?]

男「なんだすぐ近くじゃないか」ピコピコ

[行先ヲ設定シマシタ]

男「それじゃ行きますか」


ブォン! ブロロロ…

-農園地帯-


ブロロロ…キキッ

[目的地ニ到着シマシタ]

男「凄い…見渡す限り赤茶けた玄武岩の広がるこの辺りで」

ガチャ バタンッ

男「この一帯だけ緑がいっぱいだ」キョロキョロ

テクテク

男「畑はもちろん、大きな広葉樹が繁っていて気持ちがいいな」

男「木陰に咲いてるこの花は…ラッパスイセンかな?」

プシャァァ…クルクル

男「スプリンクラーが水撒きしてる、地下水でも使ってるのか?」

農園主「その通りさ」テクテク

男「あ、こんにちは物流協会です」ペコッ

農園主「この辺りはマグマの影響で地下の永久凍土が溶けたおかけで」

農園主「こうして色々な作物を栽培出来るようになったんだよ」

男「なんだかこの一帯はオアシスって感じがしますねー」キョロキョロ

農園主「ははっ確かにな」

農園主「予定よりも作物が豊作でな、頼んでいたカーゴだけじゃ積みきれなくなった」

農園主「急な依頼で悪いな」

男「大丈夫ですよ、ちょうどオリンポス山からの帰りだったので」

農園主「そうかい、そしたら早速頼むよ」

男「これで…最後っと!」ゴトッ

男「ふぅ、終わった」

農園主「助かったよ、これだけの量を一人で手積みじゃ大変だからな」

男「たまには身体を動かさないと…いい運動になりましたよ」

農園主「それじゃこれが伝票だから」ペラッ

男「はい、それじゃお預かりします」

ガチャ バタンッ

農園主「よろしくなー」フリフリ


ブォン!ブロロロ…

-火星 物流協会倉庫-


ヒュゥゥン…キキッ

同僚「かーやっと帰ってきたwwwんーwww」ノビ-ッ

[航行データヲ記録シテイマス…]ピピッ

同僚「艇を仕舞っちまう前に点検だけしとくかwww」ガチャ バタンッ

同僚「全開でかっ飛ばしたからなwww今日もごくろーさんwww」

<冷却装置ガ作動シマス…

プシャァァ…ジュワァァ!!

同僚「冷却装置って言っても水掛けてるだけだけどなwwwまぁボディを冷やすのには手っ取り早いんだけどwww」

同僚「さて工具はっとwww」ゴソゴソ



???「…!」サッ タタタッ

-物流協会倉庫 通路-


男「お、同僚の奴ちょうど帰ってきたか」ノゾキ

男「やっぱり一人…あいつまさか地球までソロで行ってんのか?」

男「身体壊さなきゃいいけど」




タッタッタッ…




男「ちょうど良いから溜まった洗濯物を片付けちまおう」ヨイショ

男「家でやれば良いんだけど、仕事から帰ったら何もする気がなくなるんだよなー」

男「独身男あるあるだよな」




タッタッタッ…




-ランドリー室-


男「よし着いた」ヨイショ

男「洗濯機空いてるかなー」ガチャ




タッタッタッ…

キキ-ッ!




男「ん?」




ドンガラガッシャ-ン!!




男「いてて…な、何だ!?」キョロキョロ

???「うぅ…」バタンキュ-

男「だ、大丈夫ですか!?」

???「あてて…。っ!!」バッ

???「!!?」キョロキョロ

男「走ってきて俺の開けた扉にぶつかったのか…怪我はありませんか?」チョイチョイ

???「あ!あの!!」

男「な、何でしょう?」

少女「か、匿ってくれへん!?」

短いですが本日ここまでとします
ありがとうございました

-物流倉庫 ランドリー室-



男「匿う??」

少女「えぇから!…あっ!」



<クソっ!どこへ行った!

<ランドリー室の方か!?



少女「やばっ!なぁはよー!!」アセアセ

男「と言われても…あ」


ガサゴソ…ガコンッ


ガチャ

警備員「誰かいるのか!?…む、なんだ男か」

男「あ、お疲れ様です」

警備員「またお前は洗濯物溜めて…自分ちで洗えよ!」

男「すみませんつい…」

警備員「まぁ分かるよ、独り者あるあるだな」

警備員「それより怪しい奴を見なかったか?どこかから侵入して来たみたいなんだが…」

男「いえ、特に見てないですね」フルフル

警備員「そうか、何か変わった事があったら知らせてくれ」

男「分かりました」


ガチャ バタンッ


テクテクテク…

男「行ったぞ」

ガサゴソ…

少女「ぷはっ!」ガバッ

少女「まさか洗濯機の中に突っ込まれるとは…」

男「仕方ないだろあの状況じゃ」

少女「うぅん、ホンマ助かったわ!ありがとー♪」ニコッ

男「しかし…お前何者なんだー?」ジロジロ

少女「あ!男ちゃん!も一個だけお願いしてもえぇ??」

男「どうして俺の名前を」

少女「胸んトコに名札ついてるやん」ツンツン

男「あ、そっか」

少女「それより!…外まで連れてってくれんかなぁ??」

男「おいおいそれって」

少女「お願い!頼むわぁ!!」コノト-リ

男「そう言われてもなぁ…」

少女「な?な??」ウルウル

男「うっ…そんな目で見つめられると」タジッ

男「しかしどうしたもんか」


-物流倉庫 通用門-


テクテク

男「お疲れ様でーす」ペコッ

少女「…。」ペコッ

守衛「男か、お疲れさん」

守衛「ん?そのちっこい奴は??」

男「あはは…実はその」アタフタ

少女「…。」キュッ

守衛「…ははーん」ピコ-ン

守衛「お前もついにコンビを組んだって訳か!」

男「へ?あぁいやその…はは」

守衛「そーかそーか!しかもお前の制服まで着ちゃって!」

男「これはその、間に合わせで」

少女「…。」クンクン

守衛「しかしそんな可愛い子、どこで捕まえやがったんだよ!」バシッ

男「いてて!あはは…」

守衛「まぁせっかく相方を見つけたんだ、仲良くやるこったな!」

守衛「記録はテキトーに誤魔化しとくからよ!あとまぁその…なんだ」

男「?」

守衛「人は過去には戻れんが、前進する事は出来る」

守衛「そうだろ?」

男「…はい」

少女「?」

守衛「じゃあな、お疲れさん!」フリフリ

男「お疲れ様です」

少女「…。」キュッ

少女「せーふ!やな♪」

男「全くヒヤヒヤしたよ」

少女「いやホンマ助かったわぁ!ありがとうな♪」ニコッ

男「成り行きでこんな事に…一体何がどうなってるんだ」ハァ

少女「ってか、これ男ちゃんの制服?めっちゃえぇ匂いするな」クンクン

男「…それ一昨日着ててまだ洗濯してない奴だぞ?」

少女「んなっ!?」ガビ-ン

男「ヘンな奴だな」クスッ

-ネオロンドン 酒場街-


[BAR REQUIEM]


カランッ…

男「サファイヤトニックを」

少女「シャンディガフで!」

男「お前だいぶ若く見えるけど?」ジト-ッ

少女「これでも20歳やで!モーマンタイ♪」エッヘン


<乾杯! カチンッ


男「…それで?どういう事か聞かせてもらおうか」

少女「いやー話せば長くなるねんけどな?」

少女「ウチ地球から来てんかぁ」グビ

男「地球から!?お前さては同僚の艇に隠れて…!」

少女「同僚ちゃんって言うんや、あのおにーさん」

少女「めっちゃ草生やしまくりでウケたわぁ」ケラケラ

男「旅行…なんて訳ないよな?観光船じゃなくわざわざ運搬艇に隠れて乗ってくるなんて」ゴクゴク

少女「観光船なんてムリムリ」チッチッチ

少女「あの辺じゃどこ行っても見張られとぉもん」

男「なんで微妙に上から目線なんだ」

男「ってか、見張られてるってお前まさか…!」

少女「だいじょーぶ、犯罪者とかではないから」フルフル

少女「むしろ逆やねん」

男「逆?」


少女「ウチな?パパとママを探してんねんかぁ」

男「両親を?行方不明なのか?」

少女「ある日突然な」

少女「でな?事情を知ってそうな奴らのアジトに潜り込んだんやけど…」

男「…見つかって逆に追われる身となった、ってわけか」

少女「あとちょっとやってんけどなー」グヌヌ

男「警察には通報したのか?」

少女「話なんて聞いてくれへんよ」フルフル

少女「相手が相手やからなー、今のナポリはそういう街やねん」

男「警察も尻込みする相手…」

少女「そ。イタリア南部を根城にする怖ーい人達」

男「それって…!」

男「お前…そんなの相手に本気で何かしようとしてるのか?」

少女「…無謀なのは分かっとぉけどな、パパとママは大事な家族やもん」

少女「このまま何もしないでおるなんてでけへんよ」

男「家族か…それを聞いちゃったらなぁ」ポリポリ

男「しかしなぁ…俺ただの運送屋だしなぁ」

男「出来る事なんか荷物を運んで飛ぶ位だしな…うーむ」ムムム


少女「…ありがと。」ボソッ

男「ん?何かいったか?」

少女「男ちゃんホンマにありがとって言ったんよ♪ウチそろそろ行くね」ガタッ

男「行くって、当てはあるのか?」

少女「んーまぁ何とかなるやろ♪実際宇宙を旅してここまで来れたんやし」ニシシ

少女「ほなバイバイ」ホッペチュ

男「っ!」

少女「やっぱえぇ匂い…男ちゃんの匂い、好きやで」ニコッ


ガチャ カランッ…


男「…何だったんだ一体」ポカ-ン

-夜 物流協会宿舎 同僚の家-


ガチャ

同僚「ただいまんもすwww」


タッタッタ…ドゲシッ!!


同僚「くっはぁwww手厚い出迎えご苦労www」

同僚妹「まーた一人で地球まで飛んだんですの!?」プンスカ

同僚「わりーわりーwww乗っけてくの忘れてたwww」

同僚妹「嘘ばっかり!」

同僚妹「いいですか?兄様が私の身を案じて下さっているのは承知しています」

同僚妹「でもそれは私だって同じですのよ?」

同僚「…悪かったな」ポンポン

同僚妹「もぅ…」

同僚「さてとww今日のディナーはなんじゃろなーwww?」

同僚妹「兄様の苦手なグリーンピースたっぷりですわ」フフン

同僚「なんたる仕打ちwww」ガビ-ン


-同僚の家 ダイニング-


<乾杯 カチンッ

同僚「ぷはーっwww仕事の後のスプリッツァーは染みるばいwww」ゴクゴク

同僚妹「どこの方言ですの…」

同僚「今日は野菜がいっぱいだなwwwうん旨いwww」モグモグ

同僚妹「男さんにお裾分けを頂きましたの、集荷先でお土産を貰ったとかで」モグモグ

同僚「あいつ今日は陸送便だったもんなwww」

同僚妹「それで?地球へはいつもの"訳あり品"の仕事でしたの?」

同僚「そーそーwww見ざる言わざる聞かざるってなwww」

同僚妹「…あまり気乗りしませんわね、仕事とは言え」

同僚「そうは言うけどよw多分あいつらいないと社会そのものが回らんぜww?」グビ

同僚「昔から行政やなんかとベッタリだからなーあいつらはwww」

同僚妹「マフィア、ですか…」

同僚「あ!それでよww向こうでスゴいモン見たんだwww」ペラッ

同僚妹「"母なる太陽"…巫女の祈歌?」

同僚「歌の力であそこまで心が揺さぶられる事ってあるんだなーwww」ウンウン

同僚妹「普段音楽なんてちっとも聴かない兄様が…」

同僚「そーそーwwwなんか腹の底に直接響いてくる感じなのよwww」

同僚妹「興味深いですわね」シゲシゲ

同僚「はい俺からもお裾分けwww」ササッ

同僚妹「あ!また私のお皿にグリーンピース寄越して!」

同僚「いっぱい食べてすくすく育ちなさいなwww各部www」

同僚妹「ぶん殴りますわよ…」ワナワナ


<ワイワイ ガヤガヤ…

-3日後 物流倉庫事務所-


ガチャ

男「おはようございまーす」

配車係「男さん、おはようございます」

少女「おっはー♪」フリフリ

男「んなっ!何でお前が…!?」

ガチャ

同僚「ぐっもーにんwww」

同僚妹「おはようございます」

配車係「お二人共おはようございます、今日はコンビでよろしくお願いしますね」

同僚「あいあいさーwww」

同僚「ん?こちらの美少女はどなたかしらんwww」

同僚妹「綺麗な金髪…確かに美人さんですわね」

配車係「紹介します、本日から一緒に勤務してもらう少女さんです」

少女「よろしくやでー♪」ピ-ス

男「おい!一体これはどういう事なんだよ!?」ヒソヒソ

少女「どうもこうも今配車係さんから説明あったやん」

配車係「少女さんには仕事を覚えてもらう為に、何日か男さんと同乗してもらいますので」

男「ま、マジですか…」

同僚「なんだー男www可愛い子相手にビビってんのかwww?」ケラケラ

男「いやそういう事じゃなくてだな」

同僚妹「はじめまして、兄様共々よろしくお願いしますわ」ペコリ

少女「うん!よろしゅうね♪」

少女「わーツインテめっちゃ似合っとぉな!触ってもえぇ?」サワサワ

同僚妹「もう触ってるじゃありませんか…別に構いませんけれど」クスッ

男「一体何がどうなってるんだ…」

同僚「何かが始まる予感ってかwww」

少女「…。」フフッ

-物流協会倉庫 出航デッキ-


ヒュゥゥ…

男「…。」ピコピコ

少女「へーここが操縦席かぁ♪計器がいっぱいやんなぁ」キョロキョロ

[目的地ヲ設定シマシタ]ピピッ

[グリーン 発進デキマス]

男「了解、発進します」ググッ


バシュゥゥ…!

-上空 定期航路-


ヒュゥゥ…

男「…。」

少女「なぁ男ちゃん、怒っとぉ?」

男「怒る以前に混乱してるんだよ、大体どうやって物流協会に入ったんだ?」

少女「もっちろん正面から堂々とやで♪ほら」ペラッ

男「物流協会の協会員証(パス)か」

男「名前、少女。住所、…ん?」

男「これ、俺んちの住所じゃないか!」

少女「にししー♪」

男「これじゃ丸っきり偽造じゃないか!信じられん…」フルフル

少女「偽造ちゃうよ?だってウチ今日から男ちゃんちに住むんやもん♪」ウキウキ

男「な、なんだと!?そんなの聞いてないぞ!!」

少女「まーまーカタい事言わんでぇな、ちゃんと家賃も払うって」ペシペシ

男「いやそういう問題じゃ…」

少女「それにウチ…お望みならアッチの方も器用にこなせるタイプやで♪」ムフフ

男「バカにするな!出会ったばかりの女の子に手を出す趣味はない!」

少女「…男ちゃんはそういう人やと思ったんや」フフッ

少女「勝手に決めてゴメンな?でもウチ火星(こっち)に知り合いおらんからさ」

男「それは分かるけどさ…」

少女「出会いはあんなんやったけど、ウチの話端から否定しやんで聞いてくれたん男ちゃんが初めてやってんかぁ」

男「…。」

少女「嬉しかった。ウチ地球(むこう)でも大人と揉め事起こす厄介者扱いやったから」

男「…相手が相手だからな、そこに住んでる人達にとっては死活問題なんだろうけど」

少女「せやからな、この人やと思ってん!」

男「なんだか良いように丸め込まれてる気が…」

少女「お願いお願い!なるべく迷惑かけへんようにするから!」

少女「洗濯位なら出来るで!あと料理も!」

男「うーむ…」

少女「お願いしましゅ!!」

少女「って、大事なとこで噛んだし…」グヌヌ

男「…しょうがないなーもう」クスッ

少女「ほ、ホンマに!??」パァァ

男「あぁ。その代わり家事は交代制だ、しっかり協力してもらうぞ」

少女「もちのろんやで!いよっしゃぁ!!」ガバッ

男「おい後ろから抱きつくな!危ない!」

少女「これからよろしゅうね!男ちゃん♪」ムギュ-

男「分かったから!一回離れろ!」

少女「…♪」ニコニコ


ヒュゥゥン…

-宇宙空間 火星→地球定期航路-


ヒュゥゥン…

同僚妹「今日も地球へ行くんですのね」

同僚「宇宙空間で採掘されたレアメタルの搬入wwwなんとクリーンな仕事www」

同僚妹「正確には火星と地球の間に無数に存在する小惑星帯で採掘された、ですわね」

同僚「こまけぇ事はいいんだよwww」

同僚妹「…男さん、大丈夫でしょうか?」

同僚「あの美少女かwww?浮き足立って事故んなきゃいいけどなwww」ケラケラ

同僚妹「そうではなくて!」

同僚「…あいつの事だろ?」

同僚妹「彼女の指定席でしたからね、男さんの後ろは」

同僚「…男はあぁ見えて強い奴だ」

同僚「でもって、アホみたいに優しい奴なんだ」

同僚「きっと上手くやるさ」

同僚妹「だといいのですが…男さんの艇」

同僚妹「未だにSSSを外したままだと聞きました」

同僚妹「まだ葛藤があるのではないでしょうか?」

同僚「…。」


ヒュゥゥン…

-火星上空 定期航路-


ヒュゥゥン…

少女「SSS?」

男「スペースソニックシステムの略だ」

少女「なんやSFっぽくてカッコえぇな!ほんで何なんそれ??」

男「ソニック粒子という、火星探査の最中に宇宙空間で見つかった物質があるんだが」

男「そいつを振動させる事で、核融合を遥かに凌ぐエネルギーを生み出せるんだよ」

少女「へー凄いやん!」

少女「でも何でソニック?確か音とか音波って意味やんな」

男「ソニック粒子を振動させた時の波形が音波…人の歌声に似ているからだよ」

少女「そうなんやー、あ!じゃあ」

男「?」

少女「同僚ちゃんの艇に乗っけてもらった時にな」

男「正確には勝手に乗った、だろ」

少女「細かい事はえぇねん!ほんでな?その時に歌みたいのが聴こえた気がしてんかぁ」

男「歌?確かにSSSの波形は音波に似てるけど…」

男「形が似てるだけで音としては聴こえない筈だぞ?」

少女「え、そうなん?」

男「そもそも真空の宇宙空間で音は伝わらないだろ、空気の振動なんだから」

少女「いやーでも何か聴こえた気が…」

少女「聴こえたというか身体に直接響いてきたような気がしたんやけどなぁ」ムムム

男「同僚の鼻歌か何かじゃないのか?」

少女「あれが鼻歌やったら同僚ちゃん大至急歌手デビューするべきやな」

ヒュゥゥン…

-地球 イタリア南部-

-母なる太陽 総本部-


テクテク

巫女「…。」

秘書「巫女様、本日の予定ですが」ペラッ

秘書「11時から大講堂で祈歌の公演、13時から各支部長の皆様との打ち合わせ」

秘書「15時からはマルコポーロにて祈歌の公演となっています」

巫女「はい」

秘書「いつも通り、開演10分前にはお迎えに上がりますのでご準備お願いします」

ガチャ

秘書「どうぞ」

巫女「有難うございます」

秘書「それでは後程。失礼致します」ペコッ

バタンッ


-巫女の私室-


シ-ン…

巫女「…。」

巫女「だぁぁ疲れましたぁぁー」バフッ

巫女「毎日毎日祈歌と布教活動と打ち合わせ…」

巫女「身体が持ちませんよぉぉ」

トコトコ

猫「みーみー」

巫女「おいで、ベルナルド」スクッ

猫「みー」スリスリ

巫女「よいしょ」ダキアゲ

巫女「窓の外は今日も曇天…」

巫女「この空のように曇ってしまう人々の心に、少しでも安らぎを齎す為と頑張ってはいますが」

巫女「祈歌が根本的な解決にはならないのも事実です」ナデナデ

猫「」ゴロゴロ

巫女「それでも、祈歌の歌い手としてどんどん祭り上げられていってますけど」タカイタカ-イ

猫「うにゃー」ジタバタ

巫女「このままでいいんでしょうか、私…」

ジタバタ ピョイッ

猫「みー」トテトテ

巫女「…私の心の安らぎはベルナルドと」

巫女「院での思い出だけです…」スッ

写真「」

巫女「…元気にしているのでしょうか」


-火星南東部 ヘラスの港-


ヒュゥゥン…キキッ

男「到着っと」

少女「すげぇぇ!海やー!」

男「テラフォーミングによって極冠部の氷が上手く溶けてくれたおかげで」

ガチャ バタンッ

男「火星にも広大な海が再生されたんだ」

少女「再生って事は、火星にも元々海があったん?」

男「何十億年も昔にな」

テクテク

漁師「おー!男じゃねぇか!」

男「漁師さんこんにちは」

少女「おっちゃんはろー♪」

少女「うはー!筋肉半端ねー!」

漁師「面白いお嬢ちゃんだな!」ガハハ

男「今日は海産物を積みに来ました」

漁師「準備出来てるぞ!早速積み込み場に着けてくれや!」

男「了解です」

-地球 カポディキーノ宇宙空港-


ピピ-ッ ピピ-ッ

<物流協会の艇が到着します

ヒュゥゥン…キキッ

同僚「到着www」ガチャ

同僚妹「ここがカポディキーノですか、特に治安が悪いようには見えませんが」キョロキョロ

同僚「こっちは表の玄関口www観光船とかも出入りするから綺麗なモンさwww」

テクテク

同僚「例の仕事は別のデッキから入るのよwwwまさに裏口入港www」

同僚妹「別に上手くも何ともありませんが…そうなんですのね」

同僚「言っとくが、そっちには連れてかねーぞ」

同僚妹「分かっていますわ」

同僚「例の怖い大人逹の名前を口に出す事も禁止だ、ここでのタブーだから絶対守れ」

同僚「いいな?」

同僚妹「承知しましたわ」

同僚「おっしwwwそれじゃーパパっと下ろしますかねぇwww」

同僚「すいませーん職員さーんwww」タタッ

同僚妹「あ!ちょっと兄様!」

同僚妹「…一人で行っちゃいましたわ」ハァ

同僚妹「まぁいいです、艇の近くにいれば戻ってくるでしょう」

同僚妹「それにしても、ここが地球ですか」ミアゲ

天窓「」ドヨ-ン

同僚妹「大気圏からの降下中もずっと視界に広がっていた厚い雲…」

同僚妹「環境の悪化によって日照時間が減少しているのは事実なんですのね」

-火星 ヘラスの港-


ガタゴト

少女「男ちゃん!ラストやで!」ポイッ

男「はいよ!よいしょ…っと!」ツミアゲ

少女「お、終わったぁ…」ヘナヘナ

男「いやーしんどかったな」

漁師「二人共ご苦労さん!今時手積みでなんてすまないな!」

男「いえいえ、火星では結構あるんですよ手積み」

少女「そ、そうなん!?」ガビ-ン

漁師「汗をかいたら水分補給だ!ほらよ!」ヒョイ

男「すみません、助かります」ゴキュ

少女「おっちゃんありがとー!」ゴクゴク

漁師「それで、この海産物をどこまで運ぶんだ?」

男「物流協会(うち)の港湾倉庫へ持って行きます、そこで冷凍処理してから」

少女「火星の各地に届けるんやな!」

男「そういう事だ」

漁師「それならすぐだな!まぁ気をつけて行けや!」

男「ありがとうございます」

少女「おっちゃんまたなー♪」フリフリ


バヒュゥゥン…!


-カポディキーノ宇宙空港 レストラン街-


テクテク

同僚「さて無事に下ろしてもらえたでござるwww」

同僚妹「出航まで時間がありますし、ランチでも如何でしょう?」

同僚「全力で賛成www南部といえばマルガリータだなwww」

同僚妹「あら、シーフードも悪くないですわよ?」

テクテク

通行人「…。」ジロジロ


-トラットリア 店内-


同僚「お腹空いたなーwww」

同僚妹「美味しそうな匂いがしますわね」クンクン

<お待たせしましたー コトッ

同僚「きたきたwwwいただきまーすwww」ガブリ

同僚妹「あら、オリーブオイルはよろしいんですの?」

同僚「もうはべひゃったwww」モグモグ

同僚妹「食べながら喋らないで下さいまし…あら?このオリーブオイル」スッ

同僚妹「火星産ですわね」

同僚「…ん、そりゃそうだろ」ゴクンッ

同僚「日照時間の減ってる今の地球じゃまともなオリーブが育たないんだろうよ」 モグモグ

同僚妹「環境悪化の影響をこんな所で感じるとは…」

同僚「割を食うのはいつだって普通に生きてる奴らなんだよ」

同僚妹「…。」


テクテク

同僚「さてお腹も膨れたしwww」

同僚妹「そろそろ艇に戻りましょうか」

タッタッタ…バシンッ!

同僚妹「痛っ!?ち、ちょっと気をつけて下さいまし!」

同僚「…!追い掛けるぞ!」ダダッ

同僚妹「へ?いや何もそこまでしなくても…」

同僚「アホ!スリだよスリ!!」

同僚妹「あ!財布がない!!」

ダダッ

-空港近く 並木道-


テクテク

同僚「どうにか取り戻せたなwww」

同僚妹「私の不注意でしたわ、申し訳ありません」ペコッ

同僚「いーって事よwww中身も無事だしモーマンタイwww」

同僚妹「兄様がいて助かりましたわ、ありがとうございます」ニコッ

同僚「そうやっていつも笑ってりゃー可愛らしいのになぁwww」

テクテク

同僚妹「ん?木陰のベンチに誰か座ってますわね」

同僚妹「どうやら眠り込んでらっしゃるみたいですわ…私の二の舞になったら大変です!」

同僚妹「兄様!ゴー!」グイッ

同僚「俺は犬かwwwまぁ確かに不用心だしなwww」

同僚「もしもしお嬢さん…って、あれ?」

巫女「…ん、ふわぁぁ」ノビ-ッ

同僚「あんた…巫女さんか!」

巫女「そうれすよー、それではおやすみなさ…」ウトウト

同僚「いや寝るなってwwwこんな道端で不用心だろがwww」ユサユサ

同僚「ってか酒くさwww」

巫女「ふぇ…あんですかぁお兄さん?ナンパれすかぁ??」

同僚「いやいやw俺達ここらでスリに遭ったばかりだからよ」

巫女「スリれすかぁ?あーお兄さん火星の人れすねぇ」

同僚「そうだけど…あぁ地元民じゃねーから狙われた的な事か」

巫女「それもありまふけど…ふふ、感じませんかぁー?」クスクス

同僚「?」

巫女「お兄さん、歓迎されてませんよぉ?」


-火星 物流協会港湾倉庫-



ゴゥンゴゥン…

少女「こっちは荷下ろししてくれはるから楽やな」

男「全くだな、でも港ではお前がいてくれて助かったよ」

少女「へへー♪相方やもん当然やん!」

男「相方ね」

港湾職員「お待たせしました、それではこちらが受領書です」ペラッ

男「ありがとうございます」

少女「ほなまたねー!」フリフリ


バシュゥゥ…!


-火星上空 定期航路-


ヒュゥゥ…

少女「運送屋さんってこんな感じなんやなぁ」

男「地味な仕事で拍子抜けしたか?」

少女「そんな事ないで、だってさっき運んだあのお魚が…」

少女「いろーんな人の手を経由してみんなのお家のテーブルに届くんやろ?」

男「そういう事だ、海産物に限らずな」

少女「なんかえぇやん♪」

男「そう言ってもらえて良かったよ」


-夕刻 ネオロンドン郊外 商店街-



テクテク

男「さて夕飯は何にするか」

少女「ウチお魚がえぇなー!さっき見てたら食べたくなってもた」

男「魚か、悪くないな」

男「それじゃスズキでアクアパッツァでも作るか」ヒョイ

少女「お!えぇなー♪」

少女「そしたら白ワインもやんな、丁度アクアパッツァ作るのに使うし」ヒョイ

男「少女は嫌いな食べ物とかあるか?」

少女「ウチは何でも食べれるで!男ちゃんは?」

男「俺は…人参がちょっと」

少女「ぷぷっお子様やなぁ」ケラケラ

男「うるさいなぁ」


テクテク


-物流協会宿舎 男の家-



ジュゥゥ…トントントンッ

男「なかなか手際がいいな」

少女「へへっ♪せやろー?」

少女「で、塩揉みしたコイツをさっと水で流してっと」シャ-ッ

男「さて、ワインは冷えたかな」クルクル

<乾杯! カチンッ


男「いただきます」

少女「んー♪」モグモグ

少女「男ちゃんの作ったアクアパッツァめっちゃ美味しいやん!」

男「少女の作ったマリネも旨いよ、これなら人参も抵抗なく食べれる」モグモグ

少女「やったぁ!好き嫌い克服やんな!」ピ-ス

少女「…。」チラッ

写真「」

少女「あ!ほんでさぁ」

男「?」モグモグ

少女「男ちゃんは今度いつ地球に行くん?」

男「…俺は地球には行かないよ」フルフル

少女「え!そうなん!?」

男「昼間、SSSの説明をしたろ?俺の艇には搭載してないんだ」

少女「そうなんやぁ…ちなみにSSS無しで行ったら地球までどん位かかるん?」

男「今の俺の艇でか?時期にもよるけど」

男「ざっと3ヶ月ちょっとってところかな」

少女「さ、3ヶ月!?」ガビ-ン

少女「それじゃお魚腐ってまうわ…」

男「ははっそうだな」

男「役に立てなくてすまないな」

少女「それはえぇねんけど…」

少女「搭載しやんの?SSS」

男「…色々あって外したんだ」

少女「色々、ね」チラッ

写真「」

男「…。」モグモグ

少女「…。」モグモグ

少女「…いつかさ」

男「?」グビ

少女「いつでもえぇから、聞かせて欲しいな」

少女「その話。」

男「…。」

少女「苦しい事や悲しい事、話すと少しラクになるやん」

少女「男ちゃんがウチの話、ちゃんと聞いてくれたみたいに」

少女「ウチも男ちゃんの話、ちゃんと聞くからさ。」

男「…ありがとな」

少女「言うの忘れててんけど」モグモグ

男「?」

少女「ウチのパパとママ、ホントのパパとママちゃうねん」

男「…。」

少女「孤児院で暮らしてたウチを引き取ってくれて、ホンマの子供みたいに育ててくれてん」

男「そうだったのか…」

少女「血の繋がりはないけど…ないからこそ」

少女「ウチの事いーっぱい愛してくれる二人の事、放ってなんておけへんの」

男「…そっか」

少女「あ、もしかして引いた?」

男「…いいや」フルフル

男「血の繋がりは確かに重要な事かも知れないけど」

男「家族ってそれだけじゃないよ」

少女「…。」コクコク

男「だからお前の気持ちも理解出来る」

男「もし俺が同じ立場だったら、同じ事をすると思うから」

少女「男ちゃん…」ウルッ

男「まぁさすがに運搬艇にこっそり乗り込んでは来ないだろうけど」ケラケラ

少女「う、うっさいなぁ!」

-地球 カポディキーノ宇宙空港内 カフェ-



巫女「さ、先程はとんだご無礼を…」フカブカ-

同僚「いやいや全然平気よんwwwただ歌ってる時とのギャップに驚いただけでwww」

同僚妹「お茶を飲んでシャキッとなさった所で、先程のお話ですが」

巫女「…地球に住む人の中には、そういった考えの人もいるんです」フゥ

巫女「自分達は取り残された、と」

同僚「火星移住の時の話か?一体どんだけ昔の話を持ち出すんだよwww」

同僚妹「火星のテラフォーミングと移住は何世代も前の話ですものね」

巫女「さ、さすがに全体から見ればマイノリティですけどね」

巫女「それでも私からすれば、そういう気持ちを理解できない訳でもないのです」

同僚「そう言われてもなぁwww隣の芝が青く見えてるだけかもよwww?」

同僚妹「当時と違って今は火星の開拓も大幅に進みましたからね」

同僚妹「実際、地球から移住してくる方も年々増えているとか」

巫女「産まれ育った土地を愛し、離れたくないという気持ちは自然な事だと思います」

巫女「それに移住をするにしても、金銭的な問題を誰もが解消できる訳ではありません」

同僚「いや分かるけどもwwwなんだかなぁwww」

同僚妹「デモデモダッテに聞こえてしまいますわね」

巫女「…私にも正直、分からなくなる時があります」フルフル

巫女「自分のしている事は本当に正しいのか、と」

同僚妹「難しいですわね」

同僚「だな…うーむ」

巫女「ご、ごめんなさい!初対面の方にこんなお話を」アセッ

同僚「気にすんなってwwwむしろそういう話は今聞くまで知らなかったからなぁwww」

同僚妹「実際に地球(こっち)に来てみないと分からない事も沢山ございますのね」

巫女「そ、それはきっと私達も一緒ですよ」

同僚「…それだ」ピコ-ン

同僚妹「兄様?」

同僚「巫女ちゃん!今度の休みは空いてるか?」ガタッ

巫女「は、はい」

巫女「特に友達もいませんし、お休みの日は大体お部屋で本を読んでいますから」

同僚「ちょーっと待っててwww5分俺にくれwww」ダダッ

同僚妹「あ!兄様!」

同僚妹「もう…すぐ一人で突っ走ってしまうんですから」ハァ

巫女「…なんだか羨ましいです」

同僚妹「そうですかー?まぁ行動力だけは人一倍ですが」

巫女「そ、それに優しい方だと思います」

巫女「素敵なお兄さんですね」

同僚妹「恐縮ですわ」



タッタッタ

同僚「わりwwwお待たせwww」ハァハァ

同僚妹「もしかして艇まで走ってきたんですの?」

同僚「向こう何日かの仕事の依頼www確認してきたwww」

同僚「なんとか休みを合わせられそうだwww」

同僚妹「…何を企んでいるのか大体想像つきましたわ」

巫女「あ、あの話がよく見えないんですけど」

同僚「巫女ちゃん!!」

巫女「は、はひ!!」ビクッ

同僚「あんたを火星に招待するぜ」ニカッ


-4日後 火星-

-ヒースロー宇宙空港 到着ロビー



ワイワイ ガヤガヤ…

巫女「本当に来てしまいました」

巫女「ここが火星ですか、空港の中は地球と変わりませんねぇ」キョロキョロ

巫女「同僚さんとの待ち合わせ時間まで余裕がありますし」

巫女「少し歩き回ってみましょうか」テクテク

少女「わー!ここがヒースローかぁ」キョロキョロ

男「そういえば少女は初めてだったな」

少女「ウチは同僚ちゃんの艇で物流協会に直行やったからなぁ」

少女「ほんで今日は何積むん?」

男「今日はここで飲料水や生活物資を積んでステーションに行くぞ」

少女「あの空に浮いとぉ建物?楽しみやんなぁ♪」

巫女「土産物屋に飲食店…ほんとに地球の空港と変わりません」

巫女「むしろ火星(こっち)の方が活気がある位ですね」テクテク

少女「美味しそうなご飯屋さんもいっぱいあるやん!何か食べてく??」

男「積み込みまでそんなに時間ないからな、ってあんま走ると危ないぞ」

少女「へーきへーき!」タタッ

少女「…あっ!」

巫女「きゃっ!」

バシッ

男「あ!すみません!!」タタッ

少女「いてて…おねーさんごめんなさい!」

巫女「だ、大丈夫ですよ」

巫女「お怪我はありませんか?」

少女「ウチは平気やで!おねーさんは?」

巫女「私も大丈夫ですよ」

男「ほんとにすみません!ほら少女、行くぞ」

少女「うん!おねーさんばいばい♪」フリフリ

巫女「は、はーい」フリフリ


男「もう気をつけろよ!」

少女「ごめんやで」シュン

少女「…あのおねーさん、どっかで会ぅた事ある気が」

巫女「ビックリしたぁ…」

巫女「でもあの子、まさか」

本日ここまでとします
ありがとうございました

同僚「おう来たかwww」

巫女「お、お待たせしちゃいましたか?」

同僚「うんにゃww俺も今来たとこだwww」

巫女「あれ、今日は妹ちゃんは一緒じゃないんですか?」

同僚「あいつは仕事www今頃小惑星帯を駆けずり回ってるよwww」

同僚「色々見て回る前に腹ごしらえといくかwwwお腹空いてるかww?」

巫女「わ、私は」グキュルルル

巫女「///」

同僚「おkwwwじゃあ決まりだなwww」


テクテク

-ネオロンドン 酒場街-


巫女「ひ、昼間からお酒ですか!?」

同僚「どの口が言うのそれwwwここらのパブはランチも出してるんだよww」

カランカランッ

<いらっしゃーい

-パブ 店内-


同僚「はいおまっとさんwww」コトッ

巫女「うわー!フィッシュフライおっきいですねー!」

同僚「ここのは肉厚で旨いんだぜwww」

巫女「っていうか店員さんが運んでくれるんじゃないんですね」

同僚「パブは大体そうだなwwwカウンターでお金払って自分で運ぶのwww」

巫女「運送屋さんだからかと思いました」

同僚「この何歩かの距離で運賃もらえたらいいなwwwそれじゃ冷めないうちにww」

<いただきまーす!

巫女「んー!さっくさくでふわっふわ!」モグモグ

同僚「やっぱ旨いなこの店wwwこのスイートチリソースがまた合うwww」パクパク

-同刻 火星周辺 小惑星帯-


ヒュゥゥゥ…

同僚妹「結局ナンパじゃないですか兄様」

同僚妹「まぁいいですわ、いつまでも妹の子守だけでは可哀想ですし」

同僚妹「それに地球の方に火星の現状を見て頂くのも有益な事ですわ」ウンウン

ピピッ

配車係『妹ちゃん、問題ありませんか?』

同僚妹「オールグリーンですわ」

配車係『今日の仕事は、複数の小惑星を巡っての物資の積み下ろしです』

配車係『スケールは違えど、宅配業務に近い考え方でいけば問題ないと思います』

同僚妹「近場をあっちこっち飛び回って積んだり下ろしたり…」

同僚妹「全く目の回る思いですこと」クスッ

配車係『同僚さんの大型艇じゃここまでの小回りは効きませんからね』

同僚妹「私の小型艇がこの仕事には最適という事ですわね、お任せ下さい」ピピッ

同僚妹「さて、今日巡る小惑星は…」ペラッ

同僚妹「あと20箇所ですか」フム

同僚妹「本気でぶっ飛ばさないと終わりませんわね」グイッ

ギュゥゥン…!

[エンジン回転数オーバー 速度ヲ落トシテ下サイ]ピピ-ッ ピピ-ッ

同僚妹「アラートが鳴ってからが本番…」クックック

同僚妹「それではダンスの時間ですわ!」クワッ

バヒュゥゥゥン…!!

-火星 ネオロンドン郊外-


ヒュオォォォ…

巫女「見渡す限りの赤茶けた大地ですね」

同僚「火星のイメージそのまんまだろwww」

同僚「開発が進んだとは言え、カーゴで1時間も走りゃこんな景色が広がってる」

巫女「わ、私てっきりもっと草木の生い茂るユートピアみたいな所だと思ってました」

同僚「そういう場所もあるぜ、海もあるし農地もある」

同僚「だけどまだまだ完成じゃない、俺達は今も毎日戦ってるんだ」

巫女「戦ってるって…え、エイリアンとかですか!?」

同僚「ちげーよアホwww」ケラケラ

同僚「この星と、だ」

巫女「星と?」

-火星上空 男の艇-


ヒュゥゥ…

男「火星は地球と比べて太陽から遠い」

男「何にもしなきゃ地表の温度が氷点下を上回る事はまずない」

少女「氷点下!?さぶっ!!」

男「だから上空と地面の中、両方から暖めてやらなきゃ」

男「とても人間の暮らせる環境にはならないんだよ」

少女「そっかぁ、火星に住んどぉ人達も大変なんやな」

ヒュゥゥ…

-ステーション内部 カフェテリア-


女「はじめまして、少女ちゃん」ニコッ

少女「はははじめまして!」カチコチ

男「何だお前、緊張してるのか?」

少女「そ、そりゃするやろ!男ちゃんのお姉さんがおるなんて聞いてへんで!」

男「あれ言ってなかったっけ」

少女「もぉ頼むわぁ…」

女「可愛らしい子ね、彼女とコンビを組む事にしたの?」

男「暫定でな、と言うか成り行きで」

女「そう…男くんちょっといいかしら」ガタッ

男「ん?何だ?」

女「少女ちゃん、一瞬男くん借りるわね」グイッ

少女「ひ、ひゃい!」

男「どうしたんだ?」

女「彼女の素性は理解しているのよね?」

男「少女から聞いた内容に関しては、まぁ」

女「彼女自身についてはいいの、素敵な女の子だと思うけど」

女「男くんはマフィアという存在を軽く考えている気がするのよ」

男「正直なところ実感は湧かないな」

女「充分に気を付ける事ね、そこいらのチンピラとは訳が違うのよ?」

男「…少女の雰囲気がさ」

女「?」

男「似てる気がするんだ、あいつと」

女「…。」

少女「あの窓の外に見えるのがソレッタかぁー」ノゾキ

少女「あれで太陽の光を反射して火星をあっためとぉわけやな」ウンウン

少女「地球でもやったらえぇのにな」

女「少女ちゃんお待たせ、無礼を許して頂戴」ストッ

少女「い!いえあの大丈夫れす!」

少女「ってまた噛んだし…」ショボン

男「ちょっと肩の力抜けよ」ポンポン

女「せっかく地球からのお客さんが来てる事だし、色々質問してもいいかしら?」

少女「はい!ウチに分かる事なら」コクッ

女「少女ちゃんは火星(こっち)で何日か過ごしてるわね、地球と比べて相違点はあるかしら?」

少女「んとね、まず晴れとぉ!」

男「そこかよ」クスッ

少女「かーっ男ちゃん分かってへんなぁ」チッチッチ

男「出たな上から目線」

少女「今地球ではお日様の出とぉ時間がどんどん減ってんねん」

少女「いっつもどよーんと曇っとってテンション下がるねんかぁ」

女「日照時間の低下…農業なんかには深刻な問題ね」

少女「でな?みんながお日様の光を欲しがるわけやん」

少女「やから日照権?っていうのがお金で売り買いされてるんやって」

男「日照権の売り買い?」

女「今の地球の治安を考えると、金銭で解決できるケースだけじゃなさそうね」

少女「基本的に日照権って、そこに住んどぉ人のモンなんやけど」

少女「怖い人達がお日様の出とぉ場所に人を住ませて、お日様の光を独占しようとしてるんやって」

男「人を?自分達の仲間を日の当たる場所に住ませてるのか」

男「なんだか長閑な話だな」

女「本当にそこに住んでいるなら、ね」

少女「女さん鋭いで」

少女「実際には住所だけ移して、地球のあっちこっちでお日様の光を独占してんねん!」

女「太陽光を独占…エネルギー利権を掌握しようとしているのね」

男「お金の為にそんな事を」

少女「怖い人達を動かすのはいつだってお金やで」

女「でも地球のあちこちでそんな事を…書面上だけとは言え」

女「一体それだけの人をどうやって集めているのかしら?」

-地球 オーストラリア北部 平原地帯-



テクテク

調査員「暑いな」フキフキ

ガイド「この辺りは世界でも有数の日照時間を誇りますからね」

ガイド「年間で言えば3000時間程はあるかと」

調査員「成る程、それはいい」

ガイド「ただ、見ての通り何もない土地です」

ガイド「大規模な宅地の造成をお考えと伺ってますが、些か不便かと思いますよ?」

調査員「星間旅行をするご時世に交通の便など些末な問題だろうよ」

ガイド「確かにそうですな」ハハ

調査員「何よりここには太陽の恵みがある」

調査員「悪くないな」


-アフリカ大陸南端 荒野-


テクテク

調査員「この辺りの権利関係はどうなってるんだ?」

不動産業者「殆どがアフリカーナーの所有する土地ですね」

不動産業者「彼らは金を持っています、地元の産業を掌握していますから」

調査員「アパルトヘイトの名残という訳か、全くマンデラが泣いて喜ぶぞ」

調査員「しかし、金で解決出来るならば却って都合がいい」

-火星 オリンポス山麓-


巫女「凄い…これが山なんですか?」ポカ-ン

巫女「近くからだと壁にしか見えません」

同僚「太陽系最大の活火山だかんなwww」

テクテク

先輩「よう、久しぶりじゃないか」

同僚「先輩ちーっすwww」

巫女「あ、あの」

先輩「ん?この子が噂の少女ちゃんか?」

同僚「違いますよwww俺が地球で知り合った巫女ちゃんっすwww」

巫女「(少女ちゃん…?)」

同僚「この人は3年前まで物流協会にいて、俺に運送屋の仕事を一から教えてくれたんだぜwww」

巫女「は、はじめまして!地球から来ました巫女です」ペコッ

先輩「あぁ、はじめまして」ニコッ

先輩「地球から来たのなら色々見て行くといい」

先輩「新たな場所で一から生活基盤を作るのがどういう事なのか、よく分かるだろう」

同僚「今日は先輩ヒマなんすかwww」

先輩「別に暇を持て余してブラブラしてるわけじゃないさ」

先輩「あちこちに点在してる観測所をチェックして回るのも大事な仕事なんだ」

同僚「あの時々道端で見かける百葉箱みたいな奴すかwww」

先輩「そういう事だ」ガチャ

キュルル… ブォン!

先輩「それじゃあな同僚、近々飲みに行こう」

同僚「やったwwwごちでーすwww」

先輩「巫女ちゃんも火星を満喫してってくれ」

先輩「地球からのお客さんなら、俺達はいつだって歓迎するよ」ニコッ

巫女「は、はいです!」


ブォン!ブロロロ…

-夜 ネオロンドン酒場街-


テクテク

少女「男ちゃんは地球へは行かへんのかー」

少女「まぁ言うてもしゃーないな、なんや色々あったみたいやし」

少女「にしてもあの写真…今よりちょっと幼めな男ちゃん」

少女「可愛かったなぁ」デヘヘ

少女「…じゃなくて!」フルフル

少女「一緒に写ってた女の子」

少女「色々あったって、たぶんあの子の事やろな」

少女「なんや…モヤモヤするなぁ」

テクテク

同僚「さてwww一日の締めはwww」

巫女「雰囲気あっていいですねーこの辺の飲み屋さん」キョロキョロ

同僚「ほいじゃいつもの店にすっかwwwたのもーwww」

巫女「道場破りじゃないんですから…」


[BAR REQUIEM]


カランカランッ

<いらっしゃいませ


テクテク

少女「当てもなくフラフラしててもしゃーないわ」

少女「ネオロンドンで地球(むこう)の事がどんだけ分かるか知らんけど」

少女「捜査の基本は聞き込みやもんな!」
フンス

少女「とりあえずこのお店で…こんばんわー!」


[BAR MISSING]


カランカランッ

<いらっしゃーい

同僚「ジントニックでww」

巫女「あ、アマレットジンジャーお願いします」


<お待たせしました

<乾杯! カチンッ


同僚「さてどうだったねww初めての火星はww」グビ

巫女「すごく勉強になりました」コクコク

巫女「実際に見なければ分からない事が沢山あるんですねー」

同僚「…地球から見りゃさ、ユートピアみたいに見えるかも知れないけど」

同僚「俺らは俺らで毎日頑張って生活してんだぜ?」

巫女「住んでる場所が違っても、人の営みは変わらないんですねー」

同僚「そーゆー事ww俺達みたいな運送屋が荷物運んだりなwww」

少女「シャンディガフで!」


<お待たせしました


少女「んっ…ぷは」グビ

少女「なぁなぁマスター?ウチ地球から来たんやけど」

男性客「なんだいお嬢ちゃん!地球から来たのかい?」

少女「へ?うんそうなんよ」

男性客「それじゃ歓迎しなくちゃな!俺らのかつての故郷なんだから!」ハハ

男性客「マスター!この子に一杯!」

少女「えぇの!?おっちゃんありがとー♪」

男性客「いいって事よ!それじゃ地球からのお客人に…」


<乾杯! カチンッ

少女「でな?ウチ色々あってパパとママを探してんねんかぁ」

男性客「両親を?こんな可愛い子置いてどっか行っちまうなんて考えにくいが」グビ

男性客「最近ここいらに夫婦で移住してきたって話は聞かねぇなぁ」

少女「そっかぁ…」シュン

男性客「マスターは何か聞いた事あるかい?」

マスター「そうですねぇ、逆の話なら」

男性客「逆?」

マスター「つまり火星から地球へ、です」

少女「へ?何で??」

マスター「正確には地球(むこう)に別荘のようなものを買う、という事みたいですが」

男性客「星を隔てた別荘かよ!」

少女「そう聞くとロマンチックやけど…そんなえぇとこちゃうで?」

巫女「…今日は誘って下さってありがとうございました」

巫女「私、地球(むこう)ではあんな感じですから」

巫女「みんな怖がって話し掛けてくれないんです」

同僚「確かに歌ってる時の巫女ちゃんはオーラがヤバいwww」

同僚「そういやふっつーに誘っちまったけど…」

同僚「彼氏に怒られたりしねぇのか?」

巫女「いないですよそんなの」フフッ

同僚「あーやっぱ宗教的な理由で?」

巫女「"母なる太陽"では交際も結婚も自由ですよ」

巫女「単に私がモテないだけです…」

同僚「やべww地雷踏んだかwww」

巫女「…。」フルフル

巫女「だから余計に嬉しかったんです」

巫女「私の事、普通の女の子として見てくれたのが」

同僚「だって普通の可愛い女の子じゃんかwww」

巫女「か、可愛いだなんてそんな」

少女「なるほどなー!寄付かぁ」

男性客「多額の寄付をするのが金持ちのステータスみたいな所があるからな」グビ

マスター「噂話ですので、詳しい事は分かりませんが」キュッキュ

少女「うぅん!参考になったわ!」

少女「おっちゃんもマスターさんもありがとぉな♪火星(こっち)の人はみんな優しいわぁ」ニコッ

男性客「…。」

<ありがとうございましたー

<カランカランッ


少女「あんまり進展はなかったけど…」

少女「少なくとも火星から地球へお金の流れがあるって事は分かったわ」

テクテク

少女「ん?カウンターに座っとぉの同僚ちゃんやん!」ノゾキ

少女「しかも良く見たら女の子連れやんか!」

少女「同僚ちゃんも隅に置けへんなぁ」ニシシ

少女「邪魔したアカンな!今度会ぅた時じーっくり聞かせてもらお♪」

テクテク

巫女「あら?外を歩いていったのは朝の…」チラッ

同僚「んーどしたwww?」

-ネオロンドン郊外 先輩の家-



<乾杯! カチンッ

先輩「何だか久しぶりだな、こうして同じテーブルを囲むのも」グビ

女「そうね、ラボでの仕事はどう?」

先輩「どうにかこなしてるさ」

先輩「ただ、いつも隣にいた君がいないってのは寂しいもんだ」

女「距離がある分、いつまでも新鮮味があっていいのかも知れないわよ?」

先輩「物は言い様だな」クスッ

カチャ… モグモグ

先輩「今日、同僚の奴が来てな」

先輩「地球からのお客さんを連れてたよ」

女「あら、同僚くんもなのね」

女「男くんは地球から来た女の子とコンビを組んでるらしいわ」

先輩「そうか、あいつがコンビをな」

女「…もう3年も経つのね」

先輩「男の奴、一人で背負い込み過ぎなんだよ」

先輩「俺にはあいつを責める気持ちなんて、これっぽっちもないってのに」

女「そういう子なのよ、男くんは」

女「彼女…少女ちゃんに対して思う所はあるけれど」

女「男くんにとってはいい機会なのかも知れないわ」


先輩「思う所?」

女「…"紅き月"」

先輩「…イタリア南部で幅を利かせてるマフィアか、まさかそんなのと関わりが?」

女「今の所なんとも」フルフル

女「ただ、資産家だった彼女のご両親が何らかの理由で姿を消したものだから」

女「少女ちゃんは行方を探しているらしいわ」

先輩「ふむ…金の絡んだ諍いとなると、そいつらの関与も有り得るな」

先輩「危ない事に巻き込まれなきゃいいが」

女「…男くんが言っていたのだけれど」

先輩「?」

女「少女ちゃんの雰囲気…どこか似ているらしいわ」

先輩「…。」グビ

-深夜 男の家-


男「…ん、あいつまた出掛けたのか」フワァ

男「聞き込みだなんて言っても、ネオロンドンで地球(むこう)の事がどれだけ分かるのやら」

ムクッ

男「なんだか目が覚めちゃったな」

男「ココアでも淹れるか」コポポ

男「」ズズッ

男「…ふぅ」

カチャ キィィ…

男「窓を開けると夜風が気持ちいいな」

男「何だか勢いに流されてしまっているけど…」

男「少女の事、何となく放っとけないんだよなぁ」

スッ

写真「」

男「…。」

男「少女がこれからやろうとしてる事を考えると」

男「どうしたって地球へ行かなきゃならないよな」

男「SSS…宇宙の歌声」

男「…助手、お前にも聴こえたのか?」

男「俺にまた鳴らせって言うのか?」

写真「」

短いですが本日ここまでとします
気付いてくれた方がいたので前作貼っておきます
剣と魔法と運送業 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524705171/)
ストーリーに繋がりはないので前作未読でも大丈夫です
それではありがとうございました

-深夜 ネオロンドン酒場街-


テクテク

同僚「どうしてこうなったwww」

巫女「はにゃぁぁ飲み過ぎまひたぁぁww」グデングデン

同僚「背負って歩くのも一苦労だwww」

巫女「あー!それって私が太ってるって意味ですかぁぁ!??」

同僚「普段使わない筋肉を使うからだよwwwしかし…」

ポヨ-ン

同僚「背中に伝わるこの感触…悪くないw悪くないぞwww」

巫女「まぁ減るもんじゃないれすし、構わんですよww」クスクス

同僚「そう開き直られると却って冷静になるwww不思議www」

同僚「…そういえばよ」

巫女「?」

同僚「巫女ちゃんの所属してる団体…"母なる太陽"だったか」

同僚「一体どういう集まりなんだ?」

巫女「…バーでする話じゃないですもんね」フゥ

巫女「"母なる太陽"は、太陽を信仰の対象とする宗教団体です」

巫女「太陽を崇拝し、祈りを捧げる事で豊かな陽の光を取り戻そうというのが基本的な理念です」

同僚「太陽崇拝?なんだか古代宗教にありそうだな」

巫女「原点回帰と言えるかも知れませんね」

巫女「ただ古代エジプトに見られるような多神教のスタイルとは違い、太陽を唯一神としていますが」

同僚「それで"No one can steal the sun"か…」

巫女「減少を続ける日照時間と、それに対する渇望」

巫女「旧来の宗教に対する諦念などが重なって、今急速に信者の数が増えているんです」

同僚「なるほどな」

巫女「まぁ地球(むこう)ではあんな感じで活動してますけど…」

巫女「私自身は誰かに信仰を強制するつもりはありませんので安心して下さい」

同僚「そりゃどうもwww俺あんまよく分かんないからよwww」

同僚「太陽崇拝か…男が聞いたら何て言うかな」ボソッ

巫女「へ?なんか言いまひたかぁ??」

同僚「巫女ちゃんオンとオフの差が凄いwww」

巫女「同僚しゃん、いい匂いしますねぇ」クンクン

同僚「おい首筋はやめろwwwくすぐったいwww」

-朝 男の部屋-


チュンチュン…

男「…ん」パチ

少女「」zzz

男「いつの間に帰って来てたのか」

男「おい起きろ、朝だぞ」ユサユサ

少女「んん…あと5分…」

男「そう言っていつも起きないだろ、ほらサクッと起きろ」バサァッ

少女「んぁ…」シタギ-

男「っ!す、すまん!!」

少女「ほぇ…男ちゃんおはよーさん」

少女「ん…?なんや朝から欲しがりさんやなぁ♪」ニヤニヤ

男「見てない!見てないぞ!」

少女「別にえぇのに、減るもんちゃうし」

男「そういう問題じゃないだろ!ほら着替えて支度しろ!」

少女「いただきまーす!」

男「簡単なものですまんな」

少女「エッグベネディクトをささっと作る男の人ってそうおらんと思うで」モグモグ

少女「ほんで今日の仕事はなんやったっけ?」

男「今日は艇の定期メンテナンスの日なんだ」

少女「そうなんや!物流協会にそんな施設もあるん?」

男「いや、ヘラスの港の手前にある国連軍の基地でやってもらうんだよ」

-同刻 ヒースロー宇宙空港-



ワイワイ ガヤガヤ…

巫女「見送りまで来て頂いてありがとうございます」

同僚「いいって事よwwwそれより酒は残ってねぇかwww?」ニヤニヤ

巫女「だ、大丈夫です!」

同僚妹「ご一緒出来ませんでしたが、火星の現状はご理解頂けまして?」

巫女「はい!やっぱり百聞は一見に如かずって事ですねー」

同僚「そりゃ良かったよwww」

同僚「まぁせっかくこうして仲良くなれたんだ、また会えたらいいな!」

巫女「あ、あの同僚さん…これ」スッ

同僚妹「!」ピコ-ン

同僚「?」

同僚妹「そいっ」ドンッ

同僚「おおっとwww」ヨロケ

同僚妹「レディに恥をかかせるおつもりですか?さっさと受け取って下さいまし」ヒソヒソ

巫女「わ、私の連絡先です」

巫女「良かったらその…あの…」モジモジ

同僚「あぁ!また酒でも付き合ってくれや」ニカッ

巫女「は、はいです!」パァァ

同僚「あんまりとっ散らからない程度になwww」ケラケラ

巫女「うぅ…気をつけます」

同僚「必ず連絡するよ!また会おうぜ!」

-17年前 地球-

-ブリュッセル郊外 太陽孤児院-


ワイワイ キャッキャ…

幼児A「ー♪」フンフン

幼児B「お歌上手だねー」トコトコ

幼児A「へへー!せやろー」

幼児B「あなたはどこから来たの?」

幼児A「んーわからへん」フルフル

幼児A「けどな、あたらしいおうちがきまってん!」

幼児B「良かったじゃない!おめでとう!」

幼児A「おねーさんは?」

幼児B「わたしはまだ」フルフル

幼児B「もしかしたらこのまま教団に引き取られるかもって」

幼児A「きょーだん?」

幼児B「でもそれもいいかなって。ここの人はみんな優しいし」

幼児A「そしたらウチがおっきくなったら、おねーさんのことむかえにきたるわ!」

幼児B「ほ、ホントに?」

幼児A「うん!やくそくや!」ユビキリ

幼児B「ふふっ。うん、約束ね!」ゲンマン

-火星 アルギュレ盆地-

-国連軍火星基地-


テクテク

少女「うわー!ひろー!!」キョロキョロ

男「火星での軍備がここに集約されてるんだ」

少女「ってか、軍の人が物流協会の艇をメンテナンスしてくれるん?」

男「物流協会自体が国連軍主導の下に組織された機関だからな」

少女「そうなんやー」

少女「あ、じゃあもしかして有事の時は駆り出されたりもするん??」

男「名目上はな」

男「今まで一度もないけど」

少女「そっか…良かった」

ピンポ-ン

<物流協会所属の運搬艇 R-3104

<メンテナンスが終了しましたので、乗組員は整備ドックへ来て下さい


男「お、終わったみたいだな」

少女「迎えに行こか!」

-国連軍火星基地 整備ドック-



男「お世話になります、R-3104の乗組員です」

少女「こんちわー!」

整備士「おぉ来たか、バッチリ診ておいたぞ」

男「ありがとうございます」

整備士「と言っても消耗品の交換位で、特に修理が必要な箇所は無かったが」

整備士「大事に乗ってるんだな!」ニカッ

男「一張羅ですからね」ハハ

整備士「SSSの方も診ておいた、こっちもシステム自体は問題ないぞ」

整備士「ただドライバがインストールされてないみたいだが、いいのか?」

男「あぁ…それはいいんです」

男「ドライバ自体は持ってるんで」

整備士「そうかい…まぁ俺は俺の仕事をするだけだが」

整備士「宇宙を飛ぶのなら、備えは常にしておいた方がいいぞ?」

整備士「何が起こるか分からんからな」

男「…はい」

少女「…。」

-火星上空 男の艇-


ヒュゥゥン…

少女「メンテナンス完了で絶好調やんな!」

男「あぁ、こいつが不調じゃ仕事にならないからな」

少女「ってか、さっき話してたけど…」

少女「SSS搭載してるんやんけ!」ビシッ

男「ははっ説明が足りなかったな」

男「システム自体は搭載されてるんだけど、起動に必要なドライバを外してあるって事さ」

少女「そうなんや、じゃあどっちみち使われへんって事なんやな」

男「…すまないな」

少女「何で謝るん?気にしやんでえぇて」

少女「それより明日の仕事はなんやろなー?」

男「あぁ、それなら無線で確認するか」

少女「えぇやんこのまま飛んでこ?メンテナンス後の慣らしついでにお散歩や♪」

男「ふふっそれもいいな」

少女「ほなれっつごー!」


バヒュゥゥン…!


少女「…。」

-物流協会倉庫 事務所-



男「調査任務ですか?」

配車係「はい、国連軍からの依頼で」

少女「フラグの回収早過ぎやろ…」

配車係「ただ戦闘や後方支援などではなく、純粋な調査任務ですのでご安心を」

少女「それは一安心やな」ホッ

男「それで、何を調査するんですか?」

配車係「星図を見ながら説明しましょう」バサッ

配車係「中心が太陽、その周囲を囲む楕円が火星の公転軌道です」

少女「ふむふむ」

配車係「現在の火星の位置はこの辺り」トントン

少女「ちょうど楕円の一番潰れとぉ辺りやんな」

配車係「まぁ誇張して書かれているので、実際にはほぼ真円に近い軌道なんですけどね」

男「…。」

配車係「今回はこの辺りの公転軌道上に存在する、未確認の浮遊物を調査してもらいます」

少女「公転軌道上って事は、火星の重力圏内なん?」

配車係「そうとも限りませんが、多少の距離ならSSS無しでも問題ありませんので」

男「…。」

配車係「…男さん、仰りたい事は分かります」

配車係「ただ僕は敢えて男さんにお願いしてるんです」

配車係「意図は分かってもらえますね?」

男「…分かりました」

少女「…。」


-夕刻 男の家-


少女「今日はウチの当番やな、パスタでえぇ?」ゴソゴソ

男「あぁ、頼むよ」

少女「あった、ディ・チェコとは男ちゃん分かってるなぁ♪」ウンウン

少女「そしたらクリームソースにしよか」

少女「極東の国ではナポリタンとかいうレシピがあるみたいやけど…」

少女「ケチャップで炒めるなんて邪道もえぇとこや!ナポリにそんな料理ないわ!」フンス

グツグツ…ジュワァァ


少女「おまちどーさん!」コトッ

男「ありがと、鮭のクリームソースか」

少女「ほうれん草もたっぷりやで!ほな…」


<いただきまーす


男「…。」モグモグ

少女「ありゃ、口に合わんかった?」

男「あ、いやそんな事ないぞ!ブラックペッパーがいい塩梅だ」

少女「…明日のお仕事?」

男「…。」

少女「…。」チラッ

写真「」

男「…話すか」フゥ

少女「…。」

男「…俺もかつてコンビを組んでたんだ」

男「そいつは幼馴染で、お世話になってる先輩の妹で…」

男「その頃は俺の艇でもSSSを起動してて」

男「地球へも時々行ってたんだ」

少女「…。」コクッ

-4年前 物流協会倉庫 事務所-



配車係「今日から一緒に勤務してもらう助手さんです」

助手「よろしくお願いしまーす!」

男「あぁ、よろしくな」

同僚「よろしくちゃーんwww」

同僚妹「よろしくお願いしますわ」

先輩「…お前ら騙されるなよ」クックック

先輩「今はしおらしくしてるが、家じゃとんだじゃじゃ馬なんだぜ」ワハハ

助手「お兄ちゃん一言多い!」バシッ

先輩「いてて…ほらな」

配車係「ちょうど男さんのパートナーを探していた所でしたので」

配車係「二人に組んでもらうという事でよろしいですか?お兄さん」

先輩「仕事に関する事なんだ、お前さんの決定を尊重するさ」

配車係「男さんもよろしいですか?」

男「もちろん!」

-火星上空 男の艇-


ヒュゥゥン…

男「昔から知ってるから、改まってとなると照れ臭いけど…」

男「よろしくな!助手!」

助手「うん!よろしくね、男っち♪」

助手「これが噂のSSSかぁ」ノゾキ

男「人類の宇宙開拓における要だな」

助手「これを使うとどの位のスピードが出るの?」

男「驚くなかれ、光速の1.5%だ!」ババ-ン

助手「1.5%って聞くとそうでもないような気がするけど…」

男「時速にすると1620万kmだな」

助手「せ、せんろっぴゃ…まん?」ポカ-ン

助手「スケールが大き過ぎてよく分かんないね」

男 「確かにな」

男「ウォッカトニックで」

助手「シャンディガフで!」


<乾杯! カチンッ


男「どうだった?初めての地球は」グビ

助手「いやー噂通りの曇天だったねぇ」ゴクゴク

助手「でもあそこが私達人類の故郷なんだと思うと感慨深いよね」

男「そうだな」

助手「あ!でもアレ気になったなー」

男「?」

助手「アメリカ英語っていうの?can’tをキャントって発音するの」

男「すげー分かるよそれ、英国流はカントだからな」

助手「すっごいモヤモヤしたなー」

男「English なんだから英国流に揃えるべきだよな」ウンウン


助手「ねー見て!昔の写真持ってきたよ!」ババ-ン

同僚「おー男ちっちぇーなwww」

同僚妹「助手さんは相変わらず美少女ですわね」

男「なんだか恥ずかしいな」

先輩「おーまた懐かしいモンを」

助手「お兄ちゃん今とおんなじ仏頂面だねー!」プ-クスクス

同僚「ホントだこりゃ酷いwww」ケラケラ

先輩「む、そんな事ないだろ」

ガチャ

女「みんなで楽しそうに何見てるの?」

同僚妹「あら女さん、ご機嫌よう」

男「あれ、今日は地上(した)なのか?」

女「先輩くんにお弁当を届けに来たの」ヒョイ

先輩「いつも悪いな」

女「いいのよ」

同僚「こっちも相変わらず仲良いなwww」

助手「早く結婚しちゃいなよー」ウリウリ

男「ふふっ」

同僚妹「写真と言えば、私最近カメラを新調したんですの」ジャ-ン

男「こりゃまた本格的な」

同僚「せっかくだからみんなで撮ろうぜww助手ちゃんの宇宙デビューを記念してwww」

配車係「私が撮りましょう、はい皆さん集まって下さい」

先輩「おし、男と助手は真ん中な」グイグイ

同僚妹「ほら女さん、旦那様ともっとくっついて下さいまし」グイグイ

男「みんな強引だなー」

女「ホントにね」

同僚「隣が俺でわりぃなwww」

同僚妹「なーに言ってるんですの」

助手「男っち!もっと近くに!」グイッ

男「おわっ」ヨロケ

配車係「それじゃ撮りますよー、はいチーズ!」

カシャッ

-3年前 物流協会倉庫 事務所-



助手「男っち!この星図どうやって見るの?」

男「あぁこれはな…」



配車係「いいコンビですね、あの二人」

先輩「もともとガキの頃からの幼馴染だからな、息はピッタリだ」

配車係「近々、また国連軍から調査航行の依頼が来てるんですが…」

先輩「あの二人なら大丈夫だろう」

配車係「火星の公転軌道からは外れますが、まぁSSSもありますしね」

-数日後 先輩と助手の家-


先輩「そうか…分かった、助手には伝えとく」

先輩「あぁ、それじゃあな」ガチャ

助手「お兄ちゃんおはよー」トコトコ

助手「電話?どしたの?」

先輩「起きたか、男が風邪でダウンしたらしい」

助手「マジで!?」

先輩「それで急遽なんだが、例の調査航行…」

先輩「お前の単独航行(ソロ)で行って欲しいそうだ」

助手「ホントに急だね…大丈夫かなぁ」

先輩「目標地点まではコンピュータがナビゲートしてくれる」

先輩「いざとなったらSSSもあるから、すぐに火星まで戻ってくればいいさ」

助手「そっちじゃなくて!」

先輩「ん?あぁ男の方か」

助手「出勤する前にちょっと様子見てくるね!」

ガチャ バタンッ

先輩「おいおい!…行っちまった」


-男の家-


ガチャ

助手「男っち!大丈夫!?」

男「ごほっ…ノック位しろよな」ヨロヨロ

助手「隣に住んでるとこういう時に助かるね…熱は?」ピトッ

助手「あー結構熱いねぇ」

男「すまない…こんな時に」ゴホゴホ

助手「そうやってすぐ自分を責めるんだから!」

助手「キミの悪い癖だよ?人間なんだから体調崩す事位あるって!」

男「調査航行、ソロで行くのか?」

助手「図らずもソロデビューを迎えちゃったわけだね…うん、行ってくるよ」

男「気をつけてくれ…公転軌道の外は危険も多い」

助手「大丈夫だよ!危ないと思ったらSSSですぐ戻って来るから」

助手「それより男っちはしっかり休んでね?ちゃんと寝てなきゃダメだよ?」

男「なんだか女みたいだな」

助手「女さん…いつかお義姉さんって呼ぶ日が来るんだよね」

助手「上手く呼べるかなぁ」

男「どうだろな」

助手「じゃあそろそろ行くね!風邪治ったらソロデビューのお祝い、頼むよ?」ニコッ

男「あぁ、気をつけてな」

-現在 男の家-



男「それが、生きてるあいつを見た最後だ」

少女「…。」

男「助手の乗った艇は、原因不明のトラブルによって航行不能となった」

男「後日、国連軍によって船体と助手の遺体が回収されたが」

男 「トラブルの直前にSSSの振動が異常値を示していた事以外…」

男「結局、何一つ分からなかった」

少女「そんな…」

男「人類の宇宙開拓における要であるSSS…」

男「だがそれを持ってしても、あいつ一人の命すら救えなかったんだよ」


-深夜-


男「」zzz

ゴロンッ

少女「…ヤキモチなんて焼いとぉ場合やなかったな」ハァ

少女「でもな?男ちゃん」

少女「ウチはSSSのお陰で男ちゃんと出会えたんや」

少女「それは忘れんとって欲しいな…」

-深夜-


男「」zzz

ゴロンッ

少女「…ヤキモチなんて焼いとぉ場合やなかったな」ハァ

少女「でもな?男ちゃん」

少女「ウチはSSSのお陰で男ちゃんと出会えたんや」

少女「それは忘れんとって欲しいな…」

-同刻 -


[BAR REQUIEM]


カランッ…


同僚「アードベッグをソーダ割でww」

同僚妹「シャーリーテンプルをお願いしますわ」


<乾杯!カチンッ


同僚妹「珍しいですわね、兄様が誘って下さるなんて」ゴク

同僚「だって酒飲まないじゃないのアンタww」グビ

同僚妹「まぁそうですけれど…何かあったんですの?」

同僚「…ちょっと気になるんだ、前にお前が言ってた事」

同僚妹「私がですか?」

同僚「男の奴、明日は調査航行らしくてな」

同僚妹「調査航行…ですか」

同僚「今回は火星の公転軌道上だからそれ程危険はないって話なんだが」

同僚妹「…SSS」

同僚「あいつ、助手ちゃんの事は自分のせいだと未だに思ってやがるんだ」

同僚妹「男さんの性格を考えると頷けますわね」

同僚「だが、今回は少女ちゃんも一緒だ」

同僚「これは極論だがな、自分の決めた生き方で自分が命を落とすのは勝手だ」

同僚「けど、他人を巻き込むのは違う」

同僚妹「…SSSのドライバは助手さんの形見でもあります」

同僚妹「彼の性格を考えると、恐らく今も肌身離さずお持ちになっているかと」

同僚「あとはあいつの気持ち次第か」

同僚妹「必要に迫られればお使いになると思いますわよ?艇のメンテナンスもなさっている筈ですから」

同僚「俺…考え過ぎかな?」

同僚妹「兄様のそういう所、嫌いではありませんわ」フフッ

同僚「やだもう照れちゃうww」

同僚妹「またすぐ茶化すんですから」ハァ

同僚「シリアスなの苦手なんだってばwww」

-翌日 火星上空 男の艇-


ヒュゥゥン…

少女「調査対象んトコまでどん位かかるんかなぁ?」

男「火星の重力圏から少し離れた所だけど、俺の艇でも6時間ちょっとってとこだろうな」

少女「そっか、ってか国連軍も自分とこで行ったらえぇのに」

男「言えてるな。きっと他の任務で艇が出払ってるんだろう」

少女「なるほどなー」

少女「…。」

少女「(…昨夜の話聞いてから、なんやモヤモヤする)」

少女「(でも助手さんにヤキモチ妬いとぉわけじゃなくて)」

少女「(むしろ男ちゃんに…?)」

少女「だぁー分からへん!!」ジタバタ

男「っ!?急にどうした??」ビクッ

少女「あ、ゴメンなんでもないねん」

男「ビックリさせないでくれよ…」フゥ


-宇宙空間-

ヒュゥゥン…

男「火星の大気圏を抜けたぞ」

少女「すご…見渡す限り星の海やん」

男「ここから先はステーションへ行く時みたいに誘導電波は使えないから、レーダーで調査対象を捕捉するぞ」

少女「これやんな?」ポチッ

[索敵レーダー起動…攻撃対象ヲ捕捉]ピコッ

少女「…なーんや物騒な事言っとぉで?」

男「元々が国連軍のお下がりだからな、文言の設定が軍仕様になってるだけさ」

男「攻撃しようにも武器なんか積んでないから安心していいぞ」

少女「なんや脅かさんとってーな!」

少女「しかしこの眺め…まさに天の光は全て星って感じやなー」

男「何となく縁起悪いからやめなさい」

-宇宙空間 謎の浮遊物近く-


ヒュゥゥン…

[攻撃対象ニ接近]ピピ-ッ

男「お、アレか」

少女「なんやあれ…機械の残骸?」

男「スペースデブリって奴だな…っと」ポチッ

ウィィ…カシャッ

少女「誰がデブやねん」

男「デブじゃなくてデブリだよ」

男「宇宙に漂う無意味な人工物…つまりゴミだ」カキカキ

少女「ゴミぃ!?」

男「多くはロケットを飛ばす時に途中で切り離されるパーツとか」

男「あとは活動を終えたり、故障して動かなくなった人工衛星とか」

男「そういったゴミが回収されずに漂ってるんだよ」

少女「なんや…エイリアンでも攻めて来たんかと思ったわ」

男「ははっそれは恐ろしいな」

男「こいつはかなり古そうだ…恐らく宇宙開拓黎明期の物だろう」

少女「これはこのまま放っとくん?」

男「俺達の艇はただの運搬艇だからな、今日の調査報告を出しておけば」ペラッ

男「後日、国連軍が回収してくれる筈さ」

少女「(あ、今"俺達の艇"って…)」

少女「…。」ニヘラ

男「?」

少女「意外とあっけなく終わったなぁ」

男「まぁこんなモンだろう」

チカッ チカッ

少女「ん?なんや光っとぉ」チラッ

ピピ-ッ ピピ-ッ

[警告 周辺ノ重力値二異常アリ]

男「何だと!?」

少女「な、何が起こってるん!?」アワアワ

ギシッ ミシミシッ…!

少女「なんやなんや!艇が軋んどぉ!?」

男「何だってんだ…!?」

-物流協会倉庫 事務所-



同僚「重力ポケット!?」

配車係「周辺の天体による引力が作用し合い、空間上の一点に外向きの重力が掛かる現象です」

配車係「ポケットに嵌ってしまうと、船体があらゆる方向から引っ張られ…」

配車係「最悪の場合、粉々に砕け散ります」

同僚妹「じ、じゃあお二人は!?」

配車係「幸い、完全に嵌まり込む前に離脱行動に移れましたので」

同僚妹「よ、良かったぁ…」ホッ

配車係「あとはSSSを全開起動すればどうにか抜けられる筈です」

同僚「…おい相棒」

同僚妹「?」

-男の艇-



バシュゥ!バシュゥッッ!!

男「クソっ!ダメか!!」

少女「ま、まだそのポケットに引っ張られてるん??」

男「あぁ…最悪の事態は免れたみたいだけどな」ピコピコ

男「これなら何とか帰れるだろう」

少女「よ、良かったぁ…」ホッ

男「だけど通常のエンジン出力じゃ振り解けそうにないな」

男「…使うしかないか」スチャ

少女「あ、SSSのドライバ!」

男「助手の形見さ…さて頼むぞ」シャコン

[SSSドライバインストール…]

少女「(形見かぁ…男ちゃんにとってお守りみたいなモンなんやなぁ)」



ピピ-ッ ピピ-ッ

[エラー SSSドライバヲ認識デキマセン]


男「な、何だと!?」

-物流協会倉庫 出航デッキ-



ゴゥンゴゥン…

同僚「なーんか嫌な予感がするんだ」ピコピコ

同僚「あいつの艇のSSS、助手ちゃんの事故以来使ってないんだろ?」

同僚妹「如何にSSSと言っても機械ですからね」

同僚妹「長年使用していなければ、起動に問題が発生する事も考えられますわ」

同僚「だろー?」ピコピコ

[グリーン 発進デキマス]ピコ-ン

同僚妹「…優しいんですのね」

同僚「心配性なだけだよwwほら行くぞwww」

同僚妹「了解ですわ!」シャコン


ゴゴゴ…バヒュゥゥ…!!


-男の艇-

男「何度やってもダメか…クソっ!」

少女「さっきのミシミシで故障してもうたんかなぁ…」

男「あり得るな。長い間使ってなかったのが原因かも知れないし」

少女「…SSS無しやと出られへんねや?」

男「このまま出力全開で回し続けても、ジリジリとポケットに吸い寄せられて行くだけだろうな」

少女「マジか」

男「(考えろ…考えるんだ!)」

男「誰かが救援に来てくれるまで持ち堪えるか?いやその前に燃料が…」ブツブツ

少女「ま、まぁどうにかなるやろ!同僚ちゃんあたりが来てくれるんちゃう?」

男「クソっ…またSSSか!」

男「どうして大事な時に限って…!」

少女「…男ちゃん、落ち着いてぇな」ポンポン

男「…。」

少女「ウチらは生きてるし、今すぐ危険が迫っとぉわけでもない」ナデナデ

少女「でも慌ててワケ分からんくなったら、それこそ助かるモンも助からんよ?」

男「…すまん」シュン

少女「謝らんでえぇて」

少女「元気出して?ええ子やから。な?」ナデナデ

男「…お前、そういう所ホント似てるよ」

少女「…助手ちゃん?」

男「あぁ。俺がテンパってる時、いつもそんな感じで宥めてくれたっけ」

少女「そっか」ナデナデ

少女「…そうやって比較されるの、ちょーっち複雑やけどな」ホッペギュ-

男「いてて!いや、そういうつもりじゃ」

少女「冗談やて」ケラケラ

少女「(…でもないけど)」


ピピ-ッ ピピ-ッ

[エンジン回転数オーバー 水温計異常値]

少女「…なんや暑くない?」

男「エンジンにだいぶ負担掛けてるからな、艇内の空調じゃカバーし切れなくなってきてるんだ」

少女「マジかぁ…うーん上だけでも脱ごかな」モゾモゾ

男「お、おいちょっと!俺も一応男なんだぞ!?」アセッ

少女「…うっそぴょーん♪」テッテレ-

男「…お前なぁ」ハァ

少女「やーい引っ掛かってやんの♪男ちゃんホント可愛いなぁ」ケラケラ

男「なんかすんげぇ悔しい…」

男・少女「…。」



少女「(…ふざけて気ぃ紛らわすのも限度があるなぁ)」

男「(少女に気を遣わせてしまってる…情けない)」

少女「(ってか暑さのせいかいな…)」クラクラ

男「(頭がボーっとしてきたぞ…)」クラクラ



男・少女「…。」ウツラウツラ




-???-



…とこっち…おと…ち…



男「ん…」



『男っち!!!』



男「!?」パチッ

『やっと起きたねー!』

男「その声…助手!?助手なのか!??」キョロキョロ

『久しぶりだね!男っち♪』

男「お前…お前って奴は…!」ウルウル

『元気そうで安心したよ』

『でも案の定、あの時の事を引き摺ってるんだね』

男「当たり前だろ!!お前は俺にとって家族みたいなモンなんだぞ!!」

『アタシにとってもおんなじだよ』

『でもね男っち、忘れないでいてくれるのと過去を引き摺ってるのとは違うよ』

『男っちは生きてる。生きてる限りは前を向いて進まなきゃ』

男「…俺だってそう思うよ」

男「だけどそんなに簡単に割り切れる程、俺は強くないんだ」

『弱さは欠点じゃないよ』

『それは優しさだから』

男「…SSSが起動しないんだ」

『SSS…宇宙の歌声』

『もしかしたら男っちの側にいる子が鍵になるかもよ?』

男「少女が?どういう事だ!?」

『アタシにもよく分かんないけどね、何となくそう感じるんだよ』

男「少女が…。」

『ねぇ男っち、少しずつでいいからさ』

『前を向いて進んでいって欲しいな』

男「…。」

『あの事故の後、お兄ちゃんと女さんが当初の予定を変えずに結婚したのって』

『それがアタシの一番望んでた事だからなんだよね?』

男「あぁ…先輩はそう言ってた」

『さっすがお兄ちゃん!分かってるぅ♪』

『…アタシの時間は止まっちゃったけど、みんなの時間は進んでく』

『男っちだって同じだよ?アタシが望んでるのは』

『キミが幸せに生きてる事だからさ』

男「助手…」

『アタシはいつでも男っちの心の中にいるから』

『何かに迷った時は想像してみて?』

『"あのじゃじゃ馬娘だったら何て言うかな"ってさ』

男「ぷっ…自分で言うかそれ」フフッ

『やーっと笑ってくれたね』

『ほら、そろそろ行かなきゃ。レディを待たせるなんて紳士じゃないぞー?』

男「あぁ…ありがとな、助手」

-???-


ー♪


少女「…ん」パチ


ー♪


少女「歌…?この歌、前にどっかで聴いた事あるなぁ」ウツラウツラ


ー♪


少女「孤児院…パパとママに会う前…」

少女「仲良ぉしてくれたおねーさん…」

少女「一緒に歌ったような…」


ー♪


少女「…それだけやない」

少女「あれは確か…同僚ちゃんの艇に潜り込んだ時にも」

少女「あったかぃ歌…」


スゥ


少女「ー♪」

-男の艇-


男「っ!!」ガバッ

男「…夢、だったのか?」

男「…。」

男「助手…お前の言う通りかも知れないな」

男「前を向いて、か…」

少女「」ポケ-ッ

男「ん?少女??」クルッ

少女「」ポケ-ッ 

男「おい少女!具合でも悪いのか!?」ユサユサ

少女「聴こえる…歌…」

男「???」

少女「」スゥ




少女「ー」♪




男「歌…?お前、その歌って」




少女「ー」♪




男「身体の奥底に響いてくる…もしかして同僚の言ってたのと同じ…?」ビリビリ




ピコ-ン

[SSSドライバヲ認識…システム起動シマス]

ヒュィィィン…



男「!!!」


-母なる太陽総本部 巫女の私室-


巫女「火星での体験、色々新鮮でしたねぇ」シミジミ

巫女「火星でも地球でも、人間の営みは同じ…」

巫女「私達に出来る事って、祈る以外にもまだまだあるような気がしますね」

巫女「…そう言えば、男性とあんなに自然にお話出来たのって初めてかもしれません」

巫女「不思議な人だったなぁ…同僚さん」

猫「みー」トテトテ

巫女「おいでホースト」ヒョイ

猫「みー」スリスリ

巫女「それにしても、あの女の子…」

巫女「背も大きくなって、髪も伸びてたけど間違いありません」

巫女「だってあの声…鈴の鳴るような」チラッ

写真「」

巫女「元気で生きていたんですね…少女ちゃん」


-17年前 太陽孤児院-



少女B「ついに行っちゃうんですね」

少女A「いままでありがとぉな、おねーさん」

少女A「おねーさんがおしえてくれた歌、ぜったいわすれへんよ!」

少女B「私もです。いつかまた必ず一緒に歌いましょうね」

少女A「うん!」

少女父「さて、ご挨拶は済んだかな?」

少女母「車を待たせてあるからね」

院長「それでは最後に記念写真を撮りましょう」

院長「一番の仲良しだった二人と、ささご両親も一緒に」

少女A「ぜったいわすれへんからね」キュッ

少女B「私もです、忘れません」キュッ

院長「それでは…はいチーズ」



カシャッ

-男の艇-


男「目が覚めたか!少女!」

少女「あれ、ウチ眠って…?」

男「SSSが起動した!これで帰れるぞ!!」

少女「マジで!?いよっしゃぁー!!」

男「早速ジャンプするぞ!」ピコピコ

少女「がってん承知!!」


[SSS起動問題ナシ…機関オールグリーン]

[目的地ヲ設定…設定完了]ピコ-ン


男「でも不思議な事もあるんだな」

少女「?」

男「歌だよ歌!お前の歌声に反応して起動したとしか思えない!」

少女「歌?ウチなんも覚えてへんで」

男「心ここにあらずって感じだったからな、心配したぞ?」

[SSSジャンプマデ10、9、8、…]

少女「よぉ分からんけど…ま、結果オーライって事やんな!」

男「そうだな」

男「(…助手、ありがとう)」

男「(俺も少しずつ前に進んでみるよ)」

[SSSジャンプ開始]

…ヒュンッ

-同僚の艇-
 


[SSSジャンプ終了…目的地付近デス]ピコ-ンッ

…ヒュンッ

同僚「ここら辺か」

同僚妹「とりあえず調査対象の辺りまで来ましたわ」

同僚妹「あまり近付き過ぎると我々も危険ですので、ある程度の距離はありますが」

同僚「レーダーに何か反応あるか?」

同僚妹「お待ち下さいませ」ピコピコ

[索敵レーダー起動…超高速移動体ヲ確認]ピコ-ンッ

同僚妹「この速度…間違いありませんわ!男さんの艇がSSSジャンプで接近しています!!」

同僚「無事に動いたかー」フゥ

同僚妹「兄様の心配も杞憂に終わりましたわね」フフッ

同僚「こういうのは杞憂で終わってくれていーんだよwww無駄足大歓迎www」

同僚妹「同感ですわ」ニコッ



バヒュンッ…!!



[移動体ガ停止…船舶番号ヲ認識シマシタ]

[物流協会所属R-3104]ピコ-ンッ


-男の艇-



バヒュンッ…!!

男「戻ってきたな」

少女「上手いこと振り切れたんやな」

男「んー…さすがに焦ったよ」ノビ-ッ

少女「ん?男ちゃんそのまま上向いとって?」ガシッ

男「な、なんだよ顔を掴むなよ」

少女「さっきの衝突で眼鏡欠けてもぅてるやん!どっか切ってへん??」ノゾキ

少女「ちょっと眼鏡外すで」スチャ

男「お、おい顔が近いぞ」アセッ

少女「…男ちゃん睫毛ながっ」ジ-ッ

男「あの…少女さん?」ドキドキ

少女「…。」ドキドキ


-同僚の艇-



同僚「戻ってきやがったなwww一応元気そうか見てみようぜwww」

同僚妹「そうですわね、故障等していたら大変ですもの」ピコピコ

[スコープ起動 倍率上昇]ウィィン

同僚「船体は平気そうだな、操縦席は、と…ん??」

同僚「…あwいwつwらwwww」

同僚妹「人が心配して駆けつけてみれば…」

-ネオロンドン酒場街-


[BAR REQUIEM]


カランカランッ


男「サファイヤトニックで」

同僚「俺もwww」

少女「シャンディガフで!」

同僚妹「サラトガクーラーをお願いしますわ」


<乾杯! カチンッ


同僚「ぷはーっwww全くヒヤヒヤさせやがってwww」グビ

同僚妹「まぁ何事もなくて何よりですわ」

男「心配かけてすまなかった」

同僚「いーって事よwww」

少女「同僚ちゃん達なら来てくれるんちゃうって話しててんで!なー?」

男「あぁ。実際同僚の艇が見えた時には安心したよ」

同僚妹「本当ですのー??」ジト-ッ

少女「へ?なんでぇさ?」

同僚「完っ全に二人の世界に入ってたもんなwww」

少女「!」カァァッ

男「見られてたか…」

同僚妹「ま、その点では兄様も…」チラッ

少女「せやせや!見たでー?可愛い女の子とココに座っとぉの!」ニヤニヤ

男「ん?もしかして例の巫女さんか?」

同僚「お前余計なこと言うんじゃないよwww」

同僚妹「いいじゃないですか、素敵な出会いがあったのは事実なんですから」

男「詳しく聞かせてくれよ」

少女「ひゅーひゅー♪」

同僚「お前らそういうの好きねーwww」

少女「どーちゃん!久しぶりやん!」

同僚妹「なんですのその呼び名は…」

少女「同僚ちゃんの妹ちゃんやから略してどーちゃんやで♪」

同僚妹「まぁいいですけれど」

少女「なぁなぁどーちゃん、助手さんの事は知っとぉ?」

同僚妹「男さんにお聞きになったんですのね、勿論知ってますわ」

少女「あんなぁ?そのぉ…二人って」モジモジ

同僚妹「あのお二人は小さい頃からの幼馴染でしたの」

同僚妹「殆ど家族みたいな関係でしたから、少女さんの心配されてる様な事はなかったかと」

少女「そ、そっかぁ」ホッ

同僚妹「…男さん、少し表情が変わりましたわね」

同僚妹「柔らかくというか、優しくなった気がしますわ」

少女「せやねん!ウチがボーっとしとった間に何かがあったっぽいねんけど…」

少女「まぁ何かえぇ事やったんやなきっと!」ウンウン

同僚妹「ですわね」

少女「今の表情の方がえぇなぁ♪見てて安心するっちゅうか」ニヘラ

同僚妹「顔が緩みまくってますわよ」

少女「こればっかりはしゃーないわ!」

少女「あ!どーちゃん手ぇ出して?」スッ

同僚妹「?何ですの?」スッ

パチンッ

少女「親愛の証!ハイタッチやで♪」ニコッ

同僚妹「親愛の…」

同僚妹「…。」ニコッ

男「知らない間にそんな事があったのか」グビ

同僚「百聞は一見に如かずって言うだろwwwだから見てもらおーってさwww」

男「…それだけじゃないんだろ?」ゴクゴク

同僚「なんだよwww」

男「その巫女ちゃんって子の話をする時」

男「いい顔してるぜ?お前」

同僚「うるせーなwwwお前こそ少女ちゃんとどーなのよwww」

男「どうって…その」

同僚「噂じゃ地球(むこう)のマフィア絡みとかwwホームラン級の"訳あり"じゃんかよwww」ケラケラ

男「それなー、俺も心配してるんだけど」

男「でも両親を…家族を探してるなんて言われたらさ」

同僚「お前のそういう所嫌いじゃないぜ」

同僚「まぁ気を付けるに越した事はねぇよ、俺も仕事で絡みがあるが」

同僚「シャレにならないぜ、あいつらは」

男「肝に銘じるよ」

同僚「なんつって巫女ちゃんの方も新興宗教の活動家だかんなww母なる太陽とかいうwww」

男「…そういえばさ」

同僚「?」

男「重力ポケットに嵌りそうになった時、助手の声が聴こえた気がしたんだ」

同僚「…。」

男「忘れない事と過去を引き摺ってる事は違うってさ」

同僚「…助手ちゃんっぽいなぁ」ウンウン

男「肉体は無くなっちまったけど…」

男「あいつの心…魂は、今も宇宙の何処かで生きてるんじゃないかって気がしたんだよ」

同僚「それを言うならココだろ、ココ」トントン

男「心の中、か」

同僚「人は誰からも忘れ去られた時に本当の死を迎えるんだ」グビ

同僚「逆に言えば俺達が忘れないでいる限り…」

男「そうだな」

同僚「そいじゃー男と少女ちゃんの無事と…」スッ

男「…助手に」スッ



<乾杯 カチンッ


第一部完となります
ありがとうございました

投下します

-地球 イタリア南部-

-"赤き月" 幹部邸宅-



幹部「さて、進捗の報告を聞こう」

調査員「はい」ペラッ

調査員「現在、計画の候補地として挙げられた場所のうち」

調査員「アフリカ南端とアメリカ西海岸地域については買収交渉が完了しております」

幹部「カネで解決出来るならそれに越したことはないからな、スマートで良い」

調査員「オーストラリア北部ですが、国立公園に近い事と先住民の実権が強い事から」

調査員「交渉が難航しております」

幹部「想定の範囲内だ、そんな時にこそ彼等の出番という訳だな」

工作員「現在、現地民による民間組織の立ち上げを進めています」

工作員「無論、我々の名は出さず」

幹部「あくまで善良な市民の集団、という事だな」

工作員「仰る通りです」コクッ

幹部「よろしい」

スクッ

幹部「忘れるな」

幹部「恐れるべきは聡明たる悪意ではなく盲目なる善意である、という事を」

調査員・工作員「はぁっ」


カチャ

幹部「私だ。子猫の居場所は掴めたのか?」

幹部「そうか、そのまま監視を続けろ」

幹部「手荒な真似はするな、あくまでスマートにだ」カチャ

幹部「…。」

-火星 物流協会倉庫 出航デッキ-



ゴゥンゴゥン…

男「さっそく火星重力圏外の仕事が回ってきたな」

少女「無限の彼方へさぁ行くぞ!やな♪」

男「今回はそんなに遠出じゃないさ」

少女「そうなん??」

男「地球育ちの少女には一番馴染み深い星だろうな」

少女「それって…!」

男「あぁ、月だ」

-宇宙空間-


ヒュゥゥン…

少女「そういえば地球から見たら一番身近な天体やもんな」

男「月は火星みたいに大気がないから、全面的なテラフォーミングは行われていないんだ」

男「その代わり、必要な面積分だけ囲いを作った"パラテラフォーミング"という方法が採られたんだよ」

少女「でーっかいビニールハウスみたいな感じ??」

男「そうだな、天井まで最大で3km位あるけど」

少女「イチゴ作り放題やん!!」

男「ビニールハウス=イチゴなんだな」

男「実際のハウス内には、物流協会の倉庫や宇宙船の建造拠点なんかがあるぞ」

少女「そーなんや!じゃあこの艇も月で造られたん??」

男「そうだよ、地球より重力がうんと小さいから工業施設を稼動するのに都合が良いんだ」ピコピコ

[目的地ヲ設定シマシタ]

少女「♪」フンフン

男「古い歌だな」

少女「月へ行くとなったらこの曲やろ♪」

男「実際月面で最初に鳴らされた楽曲らしいからね」

少女「ほんで今日の仕事はー?」

男「火星や小惑星帯で採掘された金属資源を、宇宙船の建造工場へ持って行くんだ」

少女「ほうほう」

男「…今度は忘れない内に言っとくけど」

少女「?」

男「宇宙船の建造工場を取り仕切ってるのは…俺の親父だ」

少女「まままマジか」

男「まぁ顔を合わせるとは限らないからそんなに固くなる事ないよ」ハハ

少女「どうしてそうフラグ立てるかなこの人は…」


ヒュゥゥン…

-月 第13プラント 搬入口-


ヒュゥゥン…

男「こちら物流協会所属R-3104」

男「宇宙船建造工場へ金属資源の搬入に来ました」

無線『R-3104、連絡来てますよ』

無線『今開けますね』ザザッ



ガコンッ!ゴゴゴゴ…

-月 第13ハウス内部-


ヒュゥゥン…

少女「月面!って感じの景色やんなぁ」

男「人間の居住地というより工業地域って感じの所だからな」

少女「あ!男ちゃん大変や」

男「どうした?何か問題か!?」

少女「こんな荒涼とした所やったらウサギさん住まれへんやん…」シュン

男「…。」

少女「あれ、もしかして呆れとぉ?」

男「…いや、地球と火星における価値観の違いを痛感しただけだ」

少女「なんや引っかかるなぁー」ホッペギュ-

男「ほいやめろ!あぶないはろ!」

少女「何言うてるか分かれへんわ」ケラケラ


ヒュゥゥン…

-宇宙船建造工場 貨物搬入ドック-


ゴゥンゴゥン…

親父「久しぶりだな!男!」

男「なんで責任者である親父がわざわざ…」

親父「何年かぶりに息子が来るのにデスクに噛り付いてられるかよ!」スッ

シュボッ スゥ

男「工場内で煙草吸う奴があるか」クスッ

親父「このエリアに火器を伴う施設はない、ほらよ」スッ

男「ったくもう」シュボッ スゥ

スパァ…モクモク

少女「あ、あの」

親父「ん?この可愛い女の子はもしかして」

男「あぁ、最近コンビを組む事になった少女だ」

男「少女、俺の親父だ」

少女「はじめましてやでー!」

親父「そうかそうか!」

親父「…助手ちゃんの事、俺も忘れた日はねぇぞ」

男「…。」

親父「だが生きてる限り、俺達は前に進んでいかなきゃならねぇ」

親父「お前もようやくその気になったって事だな」

男「助手にも同じような事を言われた気がするよ」

親父「少女ちゃん、こいつは俺に似て不器用な奴だが」

親父「相手の気持ちになって考えることの出来る優しい奴だ」

少女「ウチもそう思う」コクコク

男「なんだか照れ臭いな」

親父「やっぱ分かるか!ま、仲良くしてやってくれ」

少女「もちのろんやで♪」

親父「あ、それとな」

親父「お前が来るって話をしたら大慌てで修練室に向かってったぞ」

男「ま、まさか」ゴクッ

少女「?」

親父「"師範"がお待ちかねだぜ?」ニヤッ

-国連軍月面基地 修練室-


ピッ ウィィイン

男「失礼しま…っく!?」グラッ

少女「な、なんやこれ!?体が重っ!!」ガクッ

兵長「おー男くん!久しぶりじゃないか!」タッタッタ

男「ど、どうも兵長さん…お久しぶりです」

少女「ちょっとこれ立ってられへんわ」クタッ

兵長「む?女の子が一緒だったか!これは失礼!」ピピッ


[重力値変更…現在1.00Gデス]


男「ふぅ、やっと普通に立てる」

少女「なんやったん今の??」ヨロヨロ

兵長「すまんすまん!修練の為に室内の重力を1.2Gに上げてたんだよ」

少女「1.2Gって…体重が1.2倍になるって事?」

男「その通りだよ、俺の体重が55kgだから突然11kg増量するって事だな」

少女「それじゃあウチの場合はよんじゅ…っ!」ハッ

少女「誘導尋問とは…やるな男ちゃん」ゴクリ

男「何の話だよ」

兵長「自己紹介が遅れたな!俺はここで兵士達のトレーニングを担当している兵長だ!」

兵長「男くんのお父さんとは古い友人でな!現役時代は火星の三傑なんて言われたもんさ!」

少女「男ちゃんとコンビ組んどぉ少女やで!よろしゅうね♪」

兵長「少女ちゃんか!よろしくな!」ニカッ


少女「っていうか1.2Gの状態で普通に走り回るってどういう筋力してんねん…」

兵長「鍛え方が違うのさ!これも人々の暮らしを守る為だ!」ワハハ

男「こういう分かりやすーい人なんだよ」

少女「うん、大体把握出来た気がする」

兵長「荷下ろしは工員さん達がやってくれるんだよな?久し振りにトレーニングでもどうだい?」

少女「男ちゃん頑張って!陰ながら応援しとぉで!」ササッ

男「あ、逃げたな」

兵長「レディを巻き込む訳にはいかないさ!さて、始めるぞ!」ピピッ


[重力値変更…現在1.25Gデス]


男「さっきより重く…んなっ!!」ズシッ

-宇宙空間 男の艇-


ヒュゥゥン…

男「酷い目に遭った」

少女「男ちゃんタバコくせー!」オエ

男「ゴメンな、親父と会うと付き合いで吸っちゃうんだ」

少女「帰ったら速攻シャワーな!」

男「はいはい」

少女「あ、そういえば」

男「?」

少女「さっき兵長さんが"火星の三傑"って言うてはったけど」

男「あぁ。親父も元国連軍だったのさ」

男「兵長さんと組んで色々な任務にあたったらしいよ」

男「"三傑"とも"酸欠"とも言われてたみたいだけど」

少女「酸欠…あぁ」クスッ

少女「でも三傑っちゅー事は三人やろ?男ちゃんのおとさんと、兵長さんと」

男「もう一人…俺もその人の事はよく知らないんだ」

男「なんでも軍を退役した後、地球へ行ったらしいけど」

少女「地球?なんでまた」

男「あまり話したがらないんだよ。親父と兵長さんは今も仲良しなんだけど」

少女「そっかぁ」


ヒュゥゥン…

-母なる太陽総本部 会議室-



巫女「活動エリアの拡大、ですか」

職員1「はい。ご存知の通り"母なる太陽"は今急速に信者数を増やしています」

職員1「イタリア国内やヨーロッパに留まらず、アメリカ西海岸、オセアニア、アフリカ南部…」

職員2「インターネット上では、巫女様の祈歌が連日話題になっています」

職員2「太陽の恵みと巫女様の祈歌を望む声は、今や世界中から上がっているのですよ」

巫女「世界中の人が私の歌を…?」

ガチャ

指導者「その通りだ」

職員1・2「指導者様!」

巫女「おはようございます…お義父様」

指導者「巫女よ、お前の歌声によって心を救われたという声が後を絶たない」

指導者「今後我々はイタリア国内に留まらず、世界へと活動の規模を広げていこうと思う」

巫女「世界へ…」

指導者「世界各地に教団の支部を建設し、祈歌と教団の理念を普及するのだ」

指導者「力を貸してくれるな?」

巫女「…分かりました」コクッ

-巫女の私室-



ガチャ パタンッ

巫女「…ふぅ」

巫女「私の気持ちなんかお構いなしに、どんどん教団が大きくなっていきますね」

猫「みー」トテトテ

巫女「アーツは甘えんぼさんですね」

巫女「よいしょっと」ダキアゲ

猫「」ゴロゴロ

巫女「しかし、気になります」

巫女「先程上がっていた地域…世界的に見ても日照時間の長い場所ばかりでした」

巫女「曇天続きの地域に住む方達ならまだしも、なぜ陽の光に溢れた地域からそのような声が…?」

-宇宙空間 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

同僚「男も無事にSSSジャンパーになった事だしwww俺の仕事もラクになるwww」

同僚妹「そう言いつつしっかり地球行きの仕事を押さえてるあたり流石というか」

同僚「別に邪な気持ちがあるわけじゃないぞww?単に稼ぎが良いからだなwww」

同僚妹「分かってますわ」フフッ

同僚「なーんか気になるなwその笑い方ww」


ヒュゥゥン…

-地球 南アフリカ南端-



ヒュゥゥン…キキッ

[目的地付近デス]ピコ-ン

同僚「なんだここwwなんもねー平原じゃねぇかwww」

同僚妹「依頼書に記載された緯度と経度は確かにこの辺りなんですが」ペラッ

同僚「ん?よく見りゃちっちぇー倉庫みたいのがあるなww」

タッタッタ…

現場監督「おーい!物流協会!」

同僚妹「どうやらここで間違いないようですわね」ガチャ

同僚「まいどーwww」

現場監督「遠路はるばるご苦労さま、何もない所で驚いただろ」

同僚「行き先間違えたかと思いましたよwww」

同僚妹「しかしこんな場所に宇宙空間の鉱物資源を…一体何に使われるんですの?」

現場監督「ここに新しい教団支部を建設するんだよ」

同僚「教団?」

同僚妹「それってまさか」

現場監督「何でも"母なる太陽"とかいう新興宗教みたいだ」

同僚「マジかwww」

同僚妹「巫女さんの所属している教団ですわね」

現場監督「そうそう巫女!お前達も動画を見たのか」

同僚妹「動画?」

現場監督「今ネット上で話題になってる巫女って子の歌だよ!」

同僚「そうなんすかww?俺は偶然通りかかって生で見たっすwww」

現場監督「そりゃ羨ましい!運送屋だからあちこち飛び回ってるわけだもんな」

同僚妹「巫女さんの歌…そんなに凄いものなんですのね」

現場監督「動画で見てても心に響くんだから、生で聴いたらさぞ凄いだろうよ」

同僚「確かに凄いっすww身体が震えるっすよwww」

現場監督「ここにもその巫女さんがいずれはやって来るんだろう、その為に今せっせと準備を進めてるってわけだ」

現場監督「さて、それじゃ荷下ろしを始めるか!今重機を持ってくるからな!」

タッタッタ…

同僚「おなしゃーすwww」フリフリ

同僚「しかし巫女ちゃんのいる教団ってそんなにでけぇのかよww全然知らなかったぞwww」

同僚妹「確かに、火星では名前を聞く事すらありませんでしたものね」

同僚「何だか急にあいつを遠くに感じちまったな」

同僚妹「ロミオを気取るのはまだ早計ですわ、肝心なのはお互いの気持ちですから」

同僚「気取ってなんかないやいwwってか俺もしかして慰められてるwww?」

同僚妹「兄様ももう少し素直になればよろしいのに」ハァ

-深夜 火星 国連軍本部-

-中央電算室-


カタカタ ピコピコ…

職員「それじゃお先に失礼します」ガチャ

主任「おうお疲れー」フリフリ

シ-ン…

主任「さて、ようやく誰もいなくなったな」

主任「深夜のお楽しみタイム開始っと!」カタカタ…ッタ-ン!

主任「今やネットが地球とも繋がってるからな、何か面白そうな動画はと…ん?」カチカチ

画面「"今話題!神秘の歌声!"」

主任「神秘の歌声?ちょっと見てみるか」カチッ

画面「"太陽に祈りを捧げる、巫女の祈歌をお聴き下さい…"」

主任「祈り?新興宗教か何かか」


画面「"ー♪"」


主任「!!?」ゾクゾクッ

主任「な、なんだこりゃ…」


画面「"ー♪"」

主任「腹の底に響く歌声…そして歌詞」

主任「"太陽を奪う事など誰にも出来ない"か」

主任「…そういえば前から疑問だったんだよな」

主任「地球で日照時間が低下してるなら、火星(こっち)のソレッタみたいのを向こうでも建造すればいいのにって」


画面「"ー♪"」


主任「太陽を奪う…」

主任「もしかして、地球の奴らからしたら俺達が太陽を独り占めしてるように思ってるのか?」

主任「もしそうなら、俺達のやってる事って…」


画面「"ー♪"」


-宇宙空間 同僚の艇-


[SSSジャンプ開始 オートクルーズニ移行シマス]ピコ-ン

同僚「よしwあとは火星近くまで放置プレイだぞっとwww」

同僚妹「プレイって…それでは少し休憩致しますわね」ゴソゴソ

同僚「おやすみちゃーんwwほれ毛布www」パサッ

同僚妹「ありがとうございます…ふわぁ」モゾモゾ

同僚「シートの上で丸まっちゃって可愛いなおいww」

同僚妹「はいはいそりゃどう…も…」zzzz

同僚「寝るの早過ぎwwの○太かよwww」


スゥ…スゥ…


同僚「さて」ピコ-ン

画面「"よう 今日アフリカの教団支部の建設現場に行ってきたぞ"」カタカタ

画面「"巫女ちゃんのいる教団ってすげぇデカいんだな 少し遠くに感じちまったぜ"」カタカタ

同僚「"なーんつって"って…既読はやっw返信もはえぇww」

画面「"展開のスピードが急過ぎて私も戸惑ってるんですよねー"」

画面「"行ってみたなら分かると思うんですけど、アフリカ南部って日照時間めちゃめちゃ長いんですよ"」

同僚「確かに暑かったなwww」

画面「"何でわざわざ日照に恵まれた土地に展開するのか分からないんですよねー"」

同僚「"それはあれじゃね?祈りの力でこんなに日光が!まぁ素敵!みたいな事をしたいんじゃね?"…っと」カタカタ

画面「"あ、そういう事ですか!?なんて安易な笑"」

画面「"それと、私は遠くへなんか行ってないですよ?確かに地球と火星じゃ2億km程離れてますけど…"」

画面「"…また会えたらいいな、って思ってます"」

同僚「!」ドキッ

同僚「」ジタバタ

同僚妹「…。」パチ

同僚「"俺もだ 近い内に飲みにでも行こうな"」カタカタ

同僚「…。」ニタニタ

同僚妹「…可愛いのはどっちですか」クスッ

-火星 物流協会倉庫-


テクテク

男「今日は遅くなっちゃったな」

少女「まぁしゃーないね、晩ご飯どーしよっか?」

男「たまには外で食べてくか」

少女「さんせーい!」

-ネオロンドン酒場街-



ワイワイ ガヤガヤ

男「ほいお待たせ」コトッ

少女「でた!名物フィッシュフライ!」

少女「それとこっちは?」

男「牡蠣のソテーだよ、スコッチと合うんだ」

少女「美味しそー♪ほんならウチはボウモアのソーダ割にするわ!男ちゃんは?」

男「俺も同じのにしようかな」

少女「はいなぁ♪ちょっと待っとって」ガタッ

<乾杯! カチンッ


少女「んー♪」

男「いけるだろ」グビ

少女「最高やね!」

男「海産物にはアイラモルトが合うよな」

男「しかしいい顔して食べるよなほんと」

少女「だってホンマに美味しいねんもん!」

男「たまには外で食べるのもいいな」

少女「あ!男ちゃん、あーん」ズイッ

男「な、何だよ照れ臭いな」

少女「えぇから!あーん!」

男「あ…あーん」パクッ

男「うん!美味い!」モグモグ

少女「せやろー♪」



男性客「…。」ジ-ッ

-地球 ナポリ市街 酒場街-



ワイワイ ガヤガヤ

酔っ払い「おいマスター!酒が足りねぇぞ!!」バンバン

店主「おいお客さん、いい加減にしてくれよ!」

酔っ払い「あぁん!?客が飲みたいっつってんだから酒持って来りゃいいだろー!」

酔っ払い「お?おねーちゃん可愛いじゃねぇか、一緒に飲もうぜ」ワキワキ

女性客「や、やめて下さい!」

店主「言ってるそばからこの野郎!おい手を離せ!」グイッ

酔っ払い「おいおい客に手ぇ上げんのかぁ!?」

酔っ払い「ここのマスターは客に暴力を振るうのかよー!!」

ザワザワ…ヒソヒソ…

店主「っ…こいつ…!」

カランカランッ


店主「いらっしゃい!ちょいと騒がしくてすまねぇ…あ」

黒服「…。」スッ

幹部「ようマスター、今日は賑やかだな」

店主「これはこれは幹部さん…すんませんねぇ」ヘコヘコ

幹部「酒場だからな、多少騒がしい位の方が興が乗るってもんさ」ストッ

幹部「モレッティを」

店主「はいよ!」ソソクサ

酔っ払い「あんだぁーお前?随分デカい態度じゃねぇか」ジロリ

幹部「…。」

店主「お待ちどうさま!」コトッ

幹部「」グビ

幹部「この甘みと香りが堪らんな」

店主「美味いですよね、流石はイタリアが誇る伝統のビールだ」

酔っ払い「おい聞いてんのかよ!?」グイッ

店主「…。」

幹部「…。」スクッ

ドカッ バキッ

酔っ払い「うぐっ!?」バタッ

店主「…。」フキフキ

幹部「店主が手を上げるならともかく、酔っ払い同士の喧嘩じゃ…」

幹部「そいつは客同士の問題だ、そうだろ?」ブンッ

酔っ払い「がふっ!!」

店主「…。」

酔っ払い「こ、この野郎…」ヨロヨロ

幹部「…。」チャキッ

酔っ払い「ひっ!な、ナイフ!?」

幹部「酒に飲まれて他人に迷惑をかける…」

幹部「実に醜い」ギロリ

酔っ払い「な、何を…!?」

幹部「こんなゴミ野郎に指なんざ10本もいらないんじゃないか?」ザシュ

酔っ払い「ひゃあぁぁ!ゆ、指がぁ」ダラダラ

幹部「グラスが持てるように3本だけ残してやる、どっちの手がいい?」ヒュンヒュン

酔っ払い「す、すいませんでしたぁぁ」

幹部「外に連れてけ」

黒服「…。」コクッ

酔っ払い「や、やめてくれぇぇ」ズリズリ


バタンッ カランカランッ


幹部「お騒がせしてすまないな、お客の皆さん」クルッ

幹部「ここは俺の奢りだ、後は好きに飲んでくれ」札束ドンッ

ワイワイ…ガヤガヤ

店主「先程はありがとうございました」ペコリ

幹部「構わん、余所者なんだろうよ」

幹部「…時に店主、我がイタリアは資本主義国家だ」

幹部「何かを得るのに対価を支払う、シンプルで洗練されたシステムだ」

幹部「そうは思わないか?」

店主「…ごもっともです」

店主「」スッ

幹部「迷惑な客が消え、店の平穏が戻った」シマイ

幹部「人の命はカネじゃ買えない」

幹部「どれだけ大金を積んでも、死んだ者は蘇らないんだ」フルフル

店主「…。」

幹部「だが店の平穏はそうじゃない」

幹部「良かったな、カネで買えるもので」

店主「…。」コクッ

短いですが本日ここまでとします
間が空いてしまいましたがこれからまたぼちぼち投下していきますのでよろしくお願いします
ありがとうございました

投下します

-火星 物流協会事務所-


少女「星祭り?」

男「あぁ。火星入植当時からの伝統で、毎年16月の終わりにやるんだ」

配車係「当日はネオロンドン中の電灯を消して、満天の星空を堪能するんですよ」

少女「ほぇーめっちゃロマンチックやんなぁ♪」

配車係「お祭り自体はまだ先ですが、皆さん少しずつ準備を始めています」

男「露店なんかも沢山出るから、その為の資材や材料の搬入で俺達も忙しくなるぞ」

配車係「お二人には星間便に加えて陸送便も頼もうと思っていますので、よろしくお願いしますね」

男「了解です」

少女「がってん承知やで!」

-火星 陸送便専用道路-


ブロロロ…

少女「火星でそんなお祭りをやっとぉなんて知らんやったわ」

男「俺達は地球から星の海を渡って来たんだ」

男「世代が変わってもその事を忘れないようにっていう意味が込められてるのさ」

少女「なるほどにゃー」ウンウン

男「当日は音楽の演奏なんかもあるんだけど」

男「…少女も参加してみないか?」

少女「へっ!?ウチが??」

男「少女の歌声は心の底に響いてくるんだよ」

男「みんなも喜ぶと思うんだけど…どうかな?」

少女「マジかぁぁぁ」テレテレ

少女「で、でもウチが参加してもえぇの?ウチ火星の産まれちゃうで??」

男「関係ないさ。星が違ったって俺達はこの宇宙で共に生きてるんだから」

少女「この宇宙で…」

男「ま、考えといてくれよな」


-宇宙空間 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

同僚「今年もこの季節が来たなwww」

同僚妹「星祭りですか?楽しみですわね」

同僚妹「そういえば兄様、星祭りのジンクスはご存知でして?」

同僚「ジンクスwww?」

同僚妹「満天の星空の下で愛を告白すると、想いが成就するという話ですわ」

同僚妹「今の兄様にうってつけかと」

同僚「なんだそりゃwww大体俺達ゃ毎日のように星の海を飛び回ってるじゃねぇかよwww」

同僚妹「それはそうですが…何だかんだ女子はそういったロマンチックなお話が好きなものですわよ?」

同僚「まぁ確かに雰囲気はいいわなwww」

同僚妹「えぇ。ですから…お誘いになってみては如何ですか?」

同僚「ジンクスはともかく星祭りは火星の伝統だかんなwww見せてやりてぇなwww」

同僚妹「お見せするのではなく一緒にご覧になるのです」

同僚「はいはいわーったよwww」

同僚「(巫女ちゃん…喜んでくれっかな)」ニヤニヤ

同僚妹「…。」クスッ

-ステーション 女の執務室-


先輩『休みは取れそうなのか?』

女「星祭りの日かしら?えぇ、みんなが気を遣ってくれたから」

先輩『そうかい、感謝しないとな』

女「そっちはどうなの?」

先輩『こっちも似たようなもんだ、"新婚なんだから是が非でも休め!"ってさ』ハハ

女「それじゃ今年は一緒に過ごせそうね」

先輩『あぁ。星明かりの下で女神様を迎えに行くとしよう』

女「そういうあなたは星の王子様ってところかしら?」

先輩『王子様なんてガラじゃないけどな』

先輩『従者でも何でも構わないさ、君の美しさにひれ伏すばかりのオトコだよ』

女「これ以上口説いたって何にも出ないわよ?私はあなたの妻なんだから」クス

先輩『自分の妻を褒められないだなんて夫失格だとは思わないか?』

先輩『何度でも言うさ、俺は君を愛してる』

女「ほんとにもう…」

女「私もよ。愛してるわ」

-火星 国連軍 中央電算室-


主任「母なる太陽…資料を取り寄せてみたが素晴らしい教義じゃないか!」ペラペラ

主任「まさに俺の長年の疑問に応えてくれる教えだ」

主任「正直、新興宗教なんざ胡散臭い集団だとばかり思っていたが…」

主任「ここは違う…人類を含む全ての生命への愛が教義には詰まっている!」ウンウン

主任「これは実際に話を聞いてみたいな」

-地球 母なる太陽総本部-



主任「ここが教団の本部か」テクテク

主任「白壁の瀟洒な建物だな」

ウィィン

主任「あ、あのすみません」

受付嬢「こんにちは、入会をご希望ですか?」ニコッ

主任「いやあの、まだ資料を見させてもらっただけで…」

受付嬢「左様でございますか、それでは一度ご見学なさってみては如何でしょう?」

主任「見学ですか」

受付嬢「間もなく祈歌の公演と指導者様の講話が始まります」

受付嬢「どなた様も無料でご見学頂けますよ?」

主任「そ、それじゃあ見学だけ…見学だけですよ?まだ入会するとは言ってないですからね!?」

受付嬢「こちらから入会を強要するといった事は一切ございませんのでご安心ください」ニコッ

受付嬢「我々の理念や教義をご理解頂いた上でご検討下されば幸いです」

主任「そ、そうですか」ホッ

受付嬢「それではこちらへどうぞ」


ガチャ ギィィ…

-母なる太陽総本部 大講堂-



巫女「ー」♪



主任「これが巫女様の祈歌…心が洗われるようだ」


巫女「…。」ペコッ



ワァァ…! パチパチパチ



司会者「それではこれより指導者様の講話の時間です、お願いします」

指導者「」スクッ


パチパチパチ…


指導者「皆様」

指導者「我々"母なる太陽"は、全ての命の源たる太陽を崇め」

指導者「その恩恵が、この星に暮らす全ての命に齎される事を願っています」

巫女「…。」

指導者「イタリアの小さな組織であった我々の理念は、今や世界中の人々に受け入れられ」

指導者「熱き賛同の声となって鳴り響いているのです」


<世界中で…!

<素晴らしい事だわ!


指導者「今後も我々は賛同者の皆様の為、そしてこの地球の全ての命の為に」

指導者「我々の理念を声高に叫び続けていかねばならないのです」


<ワァァァ…!!


指導者「人は誰も、自分が可愛いものです」

指導者「しかしそれと、他者を蔑ろにする事とは似て非なるものであります」

指導者「化石燃料の高騰は皆様の生活にも切迫した問題でしょう」

指導者「同じ事が、太陽の恵みたる日照権にも起こっているのです」


<日照権を?誰かが独占しようとしているのか!?

<許せない!太陽は誰にも奪う事は出来ない筈だ!!


指導者「皆様の仰る通りです」

指導者「今こそ我々の小さき力を結集し、太陽の恵みを強奪者の手から守る時なのです!」


<ワァァッ…!!


巫女「…。」

受付嬢「如何でしたか?」ニコッ

主任「素晴らしい講話でした…」

主任「もはや迷う必要はない!さっそく入会します!」

受付嬢「ありがとうございます、それではこちらの申込書にご記入下さい」スッ

主任「名前と、住所は…と」カキカキ

受付嬢「火星にお住まいなんですね!わざわざお越し頂きありがとうございます!」

主任「え?はは…実はネット動画で巫女様の祈歌を視聴しまして」

受付嬢「そうでしたか、今火星の方からの問い合わせも増えているんですよ」

主任「そうなんですか?」

受付嬢「とは言え地球と火星では距離も離れていますし、我々の理念にご賛同頂ける方も少なくて…」

主任「やはり現地に降り立ってみなければ分からない事も多いでしょうしね」

受付嬢「それでも主任様にこうしてご賛同頂けたこと、大変嬉しく思います」ニコッ

主任「(か、可愛い…)」ドキッ

受付嬢「これから宜しくお願いしますね!主任様」

主任「あぁいや、こちらこそ!」

-地球 アメリカ西海岸-

-"母なる太陽"支部 建設現場-


ガンガンッ ピピ-ッピピ-ッ

同僚「おうやってるやってるwww」

同僚妹「こちらも比較的晴れ間が見える場所ですね」

同僚「今日はここで鉱物資源を下ろしたらイタリアで帰り荷を積むよんwww」

同僚妹「兄様…やっぱり地球へはソロで来たかったのではありませんこと?」

同僚「そんな事はないwww仕事だから来てるんであってwww」

同僚妹「まぁいいですわ」

現場監督「はいよ!受領書にサインしといたぜ!」ペラッ

同僚「あざーっすwwwしかしここもデカい建物が出来そうっすねwww」

現場監督「全くな。俺達はカネさえ払ってくれりゃオーダーされたモンを作るだけだが…」

現場監督「一介の宗教団体がこれ程の資金をどうやって集めてるんだろうな」

同僚「そんなに儲かるなら俺も宗教始めようかなwww"母なる大草原"とか言ってwww」

同僚妹「またアホな事を」

現場監督「よし乗った!本部の建設は任せてくれや!!」

同僚・現場監督「HAHAHA!」

同僚妹「さ!帰り荷があるならさっさと参りますわよ」

同僚妹「地上ではSSSが使えないんですから急がなくては」

同僚「そうだったなwwそれじゃーまいどありっすwww」

現場監督「おう!気をつけてな!」


バシュゥゥ…!

ヒュゥゥン…

同僚「地上だと途端に鈍行だなwww」

同僚妹「仕方ありませんわ、化石燃料は高騰するばかりですから」

同僚妹「少しでも燃費を抑えなくてはなりませんのよ」

同僚「心得ておりまっせwwwさて」ピコッ

画面「"こちらには何時頃着きそうですか?"」

同僚「"だいたい16時過ぎってとこかな"っと」カタカタ

画面「"分かりました、それなら少し早めのディナーにしましょう"」

画面「"美味しいお店知ってるんですよー"」

同僚「"オッケー!じゃあお店は任せるぜ"」カタカタ

同僚「…。」ニタニタ

同僚妹「…兄様」

同僚「っ!?はい何でしょうww」ビク-

同僚妹「そんなに驚かなくても」

同僚妹「帰り荷、私が積みに行って参りますわ」

同僚「何だよ変な気を使わんでいいよwww」

同僚妹「兄様に、というより彼女の方にですわ」

同僚妹「せっかくお会いになるんでしたら、少しのんびり出来た方がよろしいでしょう」

同僚「なぜバレた…」

同僚妹「逆に隠してるつもりだったんですの?」

同僚妹「という事ですのでお二人でゆっくり…ん?」

ワイワイ ガヤガヤ


同僚妹「工事現場に沢山の方が集まってきましたわ」ノゾキ

同僚妹「見たところ工事関係者ではなさそうですが」

同僚「なになにww喧嘩かww?」ピコ

[スコープ拡大]キュィィン

同僚妹「プラカードを持った人達…工事に反対する市民団体か何かでしょうか?」

同僚「その割にはガラの悪そうな奴ばかりだなww悪◯商会も真っ青だぜwww」

同僚妹「あちら側から来たのは…母なる太陽の信者達?」

同僚妹「一悶着ありそうですわね」

-母なる太陽総本部 巫女の私室-



巫女「"それではまた後で"っと」カタカタ

巫女「…ふふっ」

巫女「さて、どこのお店にしようかなー?」

ピピッ ピピッ

巫女「電話?今お話したばっかりじゃないですか」クスッ

カチャ

巫女「もしもし?」

同僚『やっほい巫女ちゃんwww』

巫女「どうしたんですか?航行中に電話なんて大丈夫なんですか?」

同僚『艇の方は相棒もいるからなwww』

巫女「そっか…声を聞けるのもいいですね」ニコッ

同僚『あぁ。相変わらず綺麗な声だな』

巫女「そ、そんな事ないですよ」

同僚妹『兄様!イチャイチャするのは後にして下さいまし!』

巫女「い、イチャイチャって」カァァッ

同僚『うるっせーなぁww』

同僚『…まぁ、実は緊急事態なんだ』

巫女「緊急事態?」

同僚『今アメリカの教団支部建設現場なんだが、信者の人達と工事反対派が睨み合ってんだわ』

巫女「反対派?地域の住民とかですかね」

同僚『プラカードには地元民と書いちゃいるが、どう見てもマトモな連中じゃなさそうだぜww』

巫女「た、大変です!信者の皆様に何かあっては」アタフタ

同僚『…俺に考えがある』


かくかくしかじか

-母なる太陽総本部 巫女の私室-



巫女「"それではまた後で"っと」カタカタ

巫女「…ふふっ」

巫女「さて、どこのお店にしようかなー?」

ピピッ ピピッ

巫女「電話?今お話したばっかりじゃないですか」クスッ

カチャ

巫女「もしもし?」

同僚『やっほい巫女ちゃんwww』

巫女「どうしたんですか?航行中に電話なんて大丈夫なんですか?」

同僚『艇の方は相棒もいるからなwww』

巫女「そっか…声を聞けるのもいいですね」ニコッ

同僚『あぁ。相変わらず綺麗な声だな』

巫女「そ、そんな事ないですよ」

同僚妹『兄様!イチャイチャするのは後にして下さいまし!』

巫女「い、イチャイチャって」カァァッ

同僚『うるっせーなぁww』

同僚『…まぁ、実は緊急事態なんだ』

巫女「緊急事態?」

同僚『今アメリカの教団支部建設現場なんだが、信者の人達と工事反対派が睨み合ってんだわ』

巫女「反対派?地域の住民とかですかね」

同僚『プラカードには地元民と書いちゃいるが、どう見てもマトモな連中じゃなさそうだぜww』

巫女「た、大変です!信者の皆様に何かあっては」アタフタ

同僚『…俺に考えがある』


かくかくしかじか

短いですが本日ここまでとします
ありがとうございました

本日も少しだけですが投下します

-母なる太陽総本部 談話室-



主任「し、失礼します」ガチャ

信者1「こんにちは!」

信者2「新人さんですね!こっち空いてるよー」テマネキ

主任「こりゃどーも」

主任「み、皆さんはじめまして」ペコリ

信者A「はじめまして!最近入会したんですか?」

主任「そうなんです、ネットで巫女様の動画を見まして…」

信者A「ビビッと来ましたか!いやー初めて見た時の衝撃たるや!」

信者B「巫女様の祈歌は動画でも良いですけど、やっぱり生で聴くと迫力が違いますよねー」

主任「はい!しばらく鳥肌が治まりませんでした」ウンウン

主任「それで教団に興味を持ちまして、資料を見たり指導者様の講話を聞いたりしているうちに…」

信者A「理念に賛同する気持ちになった、ってところですか?」

主任「その通りです」コクコク

信者B「指導者様の掲げる理念には愛が溢れていますからねー」ウンウン

信者A「それで主任さんはどちらから?イタリアの方じゃなさそうですけど」

主任「実は火星から来てまして」

信者A「それはまた遠くから…!」

信者B「火星の人が教団の理念に賛同してくれるなんて…!歓迎しますよ!」

主任「あ、ありがとうございます」


主任「それで、皆さんはどういった活動をなさってるんですか?」

信者A「人によって様々ですね、太陽光と地球環境改善について勉強したり」

信者B「街中で清掃活動に勤しむ人も多いですね」

主任「清掃活動?」

信者A「ゴミが適切に処理されればその分化石燃料を使わずに済みますからね」

主任「巡り巡って環境保全になるってわけか」

信者A「"一人一人の小さな力でも、積み重なれば大きな力になり得る"」

信者B「あんたはまた指導者様の言葉をさも自分で思いついたように…」

主任「良い言葉だなと思ったらそういう事ですか」

信者A「良いものは広めるべきですからね!」

信者B「それは確かに…教団の理念と共にね」

信者A「そういう事!」ウンウン

主任「(気さくな方達だな…火星生まれの俺にも偏見なく接してくれる)」

主任「そういえば」

信者A「何ですか?」

主任「巫女様の歌声…あれはやはり天性のものなのでしょうか?」

信者B「そりゃそうですよ!同じ旋律を歌っても普通の人じゃあぁはならないです」

主任「そうですよね」

信者A「聞いた話ですが、巫女様の歌声にはある特定の周波数帯の成分があって」

信者A「それが祈歌の魅力を最大限に引き出すそうです」

主任「特定の周波数帯…身体に響くあの感じですかね」

信者B「その周波数帯を発声出来るのはほんの一握りの選ばれた方だそうで」

信者B「今の所、世界に巫女様ただお一人だという話です」

主任「そうなんですか」

主任「…。」

-2週間前-

-火星 国連軍中央電算室-



主任「SSSの動作異常?」

部下「はい、以前物流協会に依頼した調査航行の報告が上がって来てるんですが…」

主任「見せてくれ」ペラッ

主任「重力ポケット遭遇時の動作不良…」

主任「ふむ、しばらく起動してなかったSSSが不調を起こしたと」

部下「それだけなら分からない話じゃないんですけど…ここです」ツンツン

主任「なになに?…SSSの復調に人声が影響を及ぼした可能性??」

主任「なにをバカな」ハハ

部下「僕もそう思いますが、実際のクルーズレコーダーのデータと突き合わせてみると…」

主任「?」

部下「音声ファイル再生します」ポチッ




『ー♪』



主任「(こ、この歌声は!)」

主任「(…いや、ネットで聴いたのとは違う人物だな)」

部活「この声の直後に、SSSが再起動しています」

主任「この声の主について情報は?」

部下「報告によれば、最近物流協会に入会した少女という人物だそうで」

主任「(やはり巫女様ではない…しかしこの身体の底に響くような歌声)」

部下「上にはどう報告しましょうか?」

主任「どの道、人声がSSSに影響を及ぼすなど荒唐無稽だ」

主任「経年劣化による不調と偶発的な復調とでも報告しておいてくれ」

部下「分かりました」

カツカツカツ

主任「巫女様に匹敵する歌声の力…」

主任「これは気になるな」

-地球 アメリカ西海岸-

-"母なる太陽"支部 建設現場-


ザワザワ…


<教団施設建設反対!

<カルト宗教団体は出て行け!


現場監督「おいおい何だよ急に」


ザッザッザッ

教団信者「我々は邪教ではない!」

教団信者「この星の未来の為、祈り戦う集団である!!」

反対派「ふざけるな!だいたい余所者に何が分かるってんだ!!」

反対派「ここらは昔から陽の光に恵まれた土地なんだ!お前らなんか必要ないんだよ!」

教団信者「太陽の恵みは万人に平等に降り注がねばならない!」

教団信者「あなた方の土地を奪おうというのではない!この地にて祈りを捧げる事が人々の為なのだ!!」

反対派「言葉じゃ伝わらないみたいだな」パキポキ
 
反対派「おい!やっちまえ!」


<うぉぉー!


ドカッ バキッ


教団信者「や、やめろ!!」ヨロケ

教団信者「暴力に訴えるとは!!」



「ー♪」



反対派「む?なんだこの歌声は」

反対派「腹の底に響く…」

教団信者「こ、これはまさしく巫女様の祈歌!」

教団信者「一体どこから…あっ!」


-上空 同僚の艇-


巫女『ー♪』

同僚妹「こ、これが巫女さんの歌声…」

同僚「いやーやっぱいつ聴いても癒されるわねぇwww」

同僚妹「船外マイクで電話越しの歌声を流すとは考えましたね」

同僚「元が軍用艇だからなw威嚇用の拡声器が付いてんの思い出してよwww」

同僚「これであいつらもちったぁ頭冷えるだろwww」

同僚妹「だといいのですが…おや?」

同僚妹「反対派の人達が帰っていきます」

同僚「効果はてきめんだってかwww」

同僚妹「…まさか本当に効くとは」

-ナポリ市街地 トラットリア-


ガヤガヤ…

巫女「星祭りですか!素敵ですねー!」

同僚「火星の伝統的なお祭りなんだぜww露店が出たり色々と催しもあるんだwww」

巫女「わ、私も行きたいです!」

同僚「じゃ決まりだなww一緒に見て回ろうずwww」

巫女「やったー!楽しみにしてますね!」ニコ

同僚「あぁ、俺もだ」ニコ

巫女「そういえば妹ちゃんも一緒に過ごせるんですか?」モグモグ

同僚「どうだろうなwアイツは別件があるからwww」

巫女「別件?」


-同刻 ナポリ市街地 商店街-


ワイワイ ガヤガヤ


同僚妹「環境悪化の影響で様々な産業が低迷しているとは言え…」ウロウロ

同僚妹「やはり伝統的な工芸品に関してはそれほどダメージを受けていないようですわね」スッ

パラリ

同僚妹「これは素晴らしいですわ…」ウットリ

店員「お嬢さんお目が高いですな」

店員「これはベネツィアの伝統的な織物で、今でも職人が手織りしてるんですよ」

同僚妹「この大きさを手作業で!?」

店員「昔から使われている木製の織り機が今も現役バリバリでしてね」

同僚妹「イタリア人の美意識を感じますわね」


-火星 物流協会事務所-



同僚「ただいまらどーなwww」ガチャ

同僚妹「戻りましたわ」

配車係「お二人共お帰りなさい」

男「…。」ムス

少女「…。」ムッス-

同僚「なんだなんだぁww?二人して膨れっ面してからにwww」

同僚妹「喧嘩でもなさったんですの?」

配車係「えぇ、運行から帰って来てからずっとこの調子で」

同僚「男が怒るなんて珍しいじゃんwww」

同僚妹「一体何があったんですの?」

男「…別に」

少女「なーんもやで」

同僚「いやいやwwwそんなに分かりやすく何かがあった事を示唆する人もいないぜwww」

同僚妹「全くですわ、というかリアクションが息ピッタリじゃないですか」

配車係「星祭りに向けて、これからどんどん忙しくなる時期です」

配車係「コンビを組んでいる以上、お二人には上手くやって頂きたいんですけど…」ハァ

男「…。」

少女「…。」

同僚「わーったよwww」ガタッ

同僚妹「仕方ないですわね」スクッ

男・少女「?」

同僚「ほれ男wwwたまには野郎二人で繰り出すべwww」グイグイ

男「あ、ちょ」

同僚妹「女子会って言うんですの?一度やってみたかったんですのよ」グイグイ

少女「あわわ」


ガチャ…バタンッ


配車係「よろしくお願いしまーす」フリフリ

-ネオロンドン 酒場街-

-BAR REQUIEM-


カランッ…


同僚「で?どったのよww」

男「」グヒグビ

男「…ぷはっ。全くオンナってのは分からないもんだな」

同僚「なになにwww興味をそそる滑り出しじゃないのwww」

男「茶化すなよ…きっかけは些細な事だったんだ」ハァ


-同刻-

-BAR MISSING-


カランッ…


少女「どーちゃんお酒飲まへんのに…」

同僚妹「ノンアルコールカクテルもなかなか良いんですのよ?それより…」

同僚妹「どうなさったんですの?むくれていては折角の美人が台無しですわよ?」

少女「…どーちゃんと同僚ちゃんってそういうトコ似とぉよな」

同僚妹「どういう事ですの?」

少女「適度にチャラいところ」クス

同僚妹「完っ全に無自覚でしたわ」

少女「…あんなぁ?ホンマはウチも悪いねん」

少女「それは分かってんねんけど…」ハァ

-日中 宇宙空間-


ヒュゥゥン…


少女「同僚ちゃんコンビは今日も地球かぁ」

男「まぁ配車の都合もあるからな、俺の艇でもそのうち行く事になるだろ」

少女「…。」チラッ

写真「」ヒラヒラ

少女「…これが助手さん?」

男「ん?あぁ、そうだよ」

少女「美人さんやね、ショートボブがここまで似合う人ってなかなかおらへんで」

男「アイツは小さい頃から男勝りだったからな、単に長髪が鬱陶しかったんじゃないかな」

少女「…男ちゃん、えぇ顔しとぉな」

男「そうか?確か助手に無理やり引っ張られてよろけた瞬間を撮られたんだったな」クス

少女「…。」

少女「(助手さんの話をしとぉ時の男ちゃんは、いつもより優しい顔になる)」

少女「(他人のウチには向けられる事のない表情…)」

男「ご両親の事、何か分かったか?」

少女「…へ?あ、あぁいやまだ何も」

少女「何処かに捕らえられとぉにしても恐らく地球のどっかやし、火星(こっち)で調べるにも限度があるねん」

男「…そうか」

男「少しでも早く見つかるといいな」

少女「…うん」

少女「(それでもウチの事だってちゃんと心配してくれとぉ)」

少女「(男ちゃんは優しい…でも今はその優しさが…)」

-夕刻 火星上空-



男「俺の家を出て行く?」

少女「うん…いつまでも男ちゃんに迷惑かけられへんし」

男「俺は別に迷惑してないぞ?そりゃ最初は面食らったけど」

少女「…それに男ちゃんの」

少女「二人の邪魔でけへんし」ボソ

男「…どういう意味だ?」

少女「…。」

男「あのなぁ」ハァ

男「俺と助手は家族みたいなもんだ、そういう関係じゃない」

少女「…分かっとぉ」イジイジ

男「アイツは確かに俺達の心の中に居続けるだろう」

男「でもそれはそれだ、忘れないでいる事と過去を引き摺ってる事は違う」

少女「分かっとぉって!分かっとぉけど分かれへんねん!!!」

男「分からないのは俺の方だよ…突然どうしたってんだ?」

少女「…もうえぇ」グスッ

男「良くないだろ、何か言いたい事があるなら言ってくr少女「もうえぇて!!」

男「な、何なんだよ…」

同僚「にゃるほどねーwww」

男「全く何だってんだよ…」ハァ

同僚「でもまぁー話聞いた限りじゃ…」



同僚妹「どっちもどっちですわね」

少女「うぅ…」

同僚妹「同じ女子としては、確かに少女さんの気持ちも分かります」

少女「せ、せやろ!?」

同僚妹「…ですが、男さんと助手さんの関係を実際に見てきた私からすれば」

同僚妹「あのお二人がそういう関係でない事は断言出来ますわ」

同僚「とは言えw可愛い女の子と楽しげに写ってる写真を見りゃー妬けちまうってのも人情ってもんよwww」ウンウン

男「そう言われてもなぁ」

同僚「助手ちゃんとお前は確かに男女の関係じゃねぇ」

男「勿論だ」コク

同僚「でもそれはお前と助手ちゃんの間の話であって」

同僚「そこんとこ知らない奴が見りゃイチャついてるように見えなくもなかったぞwww」

男「そ、そうなのか!?」



同僚妹「互いを知る為に歩み寄る事は不可欠です」

同僚妹「ですが、いたずらに踏み込んでいけば良いという訳でもありませんわ」

少女「どゆこと?」

同僚妹「誰にでも心の奥に大切にしまっておきたい思い出があるのです」

同僚妹「男さんにとってはそれが助手さん…大切なご家族との思い出なのです」

少女「家族…」

同僚「思い出は消えねぇ」

同僚「特にお前の事だ、忘れろって言われたって忘れられやしねぇだろ」

男「あぁ」

同僚「だからこそ、自分の中に大事にしまっておいてもいいんじゃねぇのか?」

同僚「人目に付かない所へさ」

男「それは分かるけど…大体俺と少女は付き合ってるわけでもないんだぞ?」

同僚「それを言うなら付き合ってもいねぇ男女が一つ屋根の下ってどうなのよwww」

同僚「お互い何の気持ちも無かったら絶対続かないと思うぜwww?」

男「うぐっ…そりゃまぁ」



同僚妹「まぁ写真の件に関しては少女さんに同情しますわ」

同僚妹「お互い何の感情もないなら、そもそも共同生活など出来ませんもの」

同僚妹「少女さんの気持ちも慮って頂きたいですわね」

少女「せやねんせやねん!どーちゃん分かっとぉなぁー!!」バシバシ

同僚妹「い、痛いですわ」

同僚「まぁー女子の気持ちを100パーセント理解しようなんざ無理な話だwww」

同僚「俺も妹に毎日のように怒られてっからなwww」ワハハ

男「お前の場合は俺でも怒ると思う」

同僚「突然の四面楚歌www」

男「冗談だよ。そういえば俺も助手の奴にしょっちゅう怒られたっけ」

同僚「まー無理やり理解しようとせんでもいいけどw出来る配慮はしてやれってこったwww」

男「そうだな」



同僚妹「しかし男さんも鈍いんですのね、少し意外ですわ」

少女「ホンマやで!あのエロメガネ!」

同僚妹「酷い言われようですわね…ん?」

同僚妹「と言う事は、お二人は既にそういった事を…?」

少女「へ?…いやいやないない!!男ちゃんはそういう人ちゃうから!!」ブンブン

同僚妹「ビックリしましたわ…ここ全年齢板なんですから」

少女「単に見た目の話やで?男ちゃん眼鏡外すと睫毛長くてエロいねん」ムフフ

少女「でなー?あの茶色掛かった深緑色の瞳がまた綺麗でなー♪」ニタニタ

同僚妹「何か始まってしまいましたわ」

-深夜 ネオロンドン酒場街-


テクテク

同僚妹「では私はこれで」

少女「どーちゃんありがとぉな!話したらスッキリしたわぁ♪」

同僚妹「何か困ったらいつでも仰って下さいね」

少女「うん!また女子会しよなー!」



男「付き合わせちゃってすまなかったな」

同僚「いやいや俺が拉致ったんだかんねwww?」

男「そうだったな」フフ

同僚「まぁ俺に出来る事なんて話聞く位だからよwwwあとはお前が上手いことやれやwww」

男「ありがとな。今度は巫女さんの話も聞かせてくれ」

同僚「気が向いたらねんwww」

少女「どーちゃんと話して心ん中が整理出来た気がするわ」ウンウン

少女「明日の朝一番で男ちゃんにごめんなさいしよ!そーしよ!」

少女「んでもって本腰入れて地球(むこう)でパパとママを探すんや!」フンス

少女「次の地球行きの仕事はいつ回ってくんねやろ?それまでに色々準備しとかなあかんなぁ」



男「配慮か…確かに感じ方は人それぞれだもんな」

男「朝になったら謝らなくちゃな」

男「でも…第一印象で少女の事、助手に似てると思ったけど」

男「知っていくほど全然違う性格なのが分かるなー」

男「どうして似てると思ったんだろう?」

ザッ…


男性客「おー!地球のお嬢ちゃんじゃないか!」

少女「あ!この前のおっちゃん!」フリフリ

男性客「その後どうだい?何か手掛かりは見つかったかな?」

少女「なーんもやで」フルフル

少女「でもな?これからは地球に戻って色々調べられそうやねん!」

男性客「地球に?観光船のチケットでも取ったのかい?」

少女「ちょーっちね」フフン

男性客「そうかい」

男性客「まぁそれが何かは良く分からんが…」

男性客「もう必要ないかも知れんぜ?」ニヤッ

ザッ…ザザッ…


黒服「…。」

少女「へ?な、何この人達??」キョロキョロ

男性客「手荒な真似はするなと言われてる。言う事に従ってくれりゃあ俺もコイツらも紳士でいられるって訳だ」

少女「おっちゃん…まさか」

男性客「"月をも喰らいて紅く染むる"」

男性客「ダンスタイムはおしまいだぜ?お嬢ちゃん」

少女「紅き月…!!」ゾクッ

男性客「お前さんと一緒にいた坊やには伝えといてやるよ」

男性客「"姫は一足先にご帰還なすった"ってな」

男性客「連れて行け」

黒服「来い」グイッ

少女「うっ…まさか火星まで追ってくるなんて…」

少女「男ちゃん…!」

-男の家-


男「あれ、あいつまだ帰ってないのか」ガチャ

男「酒場に繰り出したついでに聞き込みでもしてるのかな」

男「さてシャワーでも浴びるか」テクテク




カタンッ…

本日ここまでとします
ありがとうございました

投下します

-早朝 物流協会倉庫 事務所-



配車係「少女さんが行方不明?」

男「はい、昨夜出掛けたまま帰って来なくて…」

男「代わりにこんなものが」ペラッ 

配車係「招待状?」

配車係「"ジュリエットは月へ戻った"」

配車係「"貴君を我々の晩餐に招待する"」

配車係「"貴君に剣を取る覚悟があるのならば、だが"」

配車係「…。」

男「…。」

配車係「全体的に何を言ってるのか分かりませんねぇ」

男「俺も最初は悪戯かと思ったんですけど…」クルッ


配車係「封筒の裏側に刻印…これは!」

男「…。」

配車係「"紅き月"…地球で今急速に勢力を拡大しているマフィアですね」

配車係「ちょうど国連軍からも注意喚起の通達が来ていたのですが…」

配車係「まさかこんな形で実物を目にするとは」

男「やっぱりそうですか」

男「…配車係さん、俺何日か休みを貰いたいんですけど」

配車係「何か良からぬ事を考えてはいませんよね?男さん」ジロ

男「…。」

配車係「マフィアのアジトに一人で突っ込んで行くなんて自殺行為ですよ!?」

配車係「取り敢えず地球(むこう)の当局に連絡をしてですね…えーと紅き月はイタリア南部でしたっけ」ゴソゴソ

男「…!」ダダッ

配車係「あ!ちょっと男さん!」

-火星上空 男の艇-


ヒュゥゥン…


[SSS機関良好 ジャンプマデ10、9、8…]


男「何ていうタイミングなんだ…」フルフル

男「けど俺にはまだ、お前に言わなきゃいけない事がある」

男「後悔はもう…したくないんだ」


[5、4、3…]


男「マフィアが相手じゃ地元の警察なんか動いちゃくれない…」

男「だったら俺が行くしかないじゃないか!」

男「…今度は俺が助けるからな、少女!」


[SSSジャンプ開始]


ヒュンッ

-地球 "紅き月"幹部邸宅-


少女「…ん」パチ

少女「こ、ここは!?」キョロキョロ

黒服「目が覚めたか」

少女「ここはどこや!ウチをどうするつもりや!!」

黒服「喚くな。ここは幹部さんの邸宅、その地下室だ」

少女「紅き月の幹部…!?」

黒服「お前の事は丁重に扱うよう言われている。だが無益な押し問答は不粋だからな」

黒服「拘束だけはさせてもらっている、悪く思うなよ」

少女「くっ!手錠が」ジャラッ

ガチャ

幹部「お姫様のお目覚めか」

黒服「…。」ペコッ

少女「あ、アンタが紅き月の…!」ビクッ

幹部「我が家へようこそ」

少女「ウチをどうするつもりや!パパとママを返さんかい!!」ジタバタ

幹部「成る程、やはり姫君は大きな勘違いをしているようだな」スッ

シュボッ…スゥ

少女「か、勘違い?」

幹部「まず最初に、我々はお前に危害を加えるつもりはない」スパ-

幹部「お前が我々の事を嗅ぎ回っていた事など大した問題ではないからな」

少女「それは…」

幹部「象が蚊に刺された位でいちいち目くじらを立てないのと同じ理由だ」

少女「誰が蚊やねん!ウチは人類やで!」プンスカ

幹部「ユーモアの分からん奴だな、まぁいい」

幹部「お前に来てもらったのは別の理由だ」グシグシ

少女「別の理由?」

幹部「招待状を送っておいた。坊やが駆けつけるまではのんびり過ごすといい」

少女「???」

幹部「監視だけは怠るな。何かあればすぐに連絡しろ」クルッ

黒服「はぁっ」


ガチャ バタンッ


少女「一体どういう事やねん…」

-同刻 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

同僚妹「少女さんが!?」

同僚「あぁ。んでもって男の奴が追っかけてったと」ピコピコ

同僚妹「追っかけてって…マフィアの所へ一人で突っ込むつもりなんですの!?」

同僚「だからこうして俺達も行くんじゃねぇか、まぁ」

同僚「実際何が出来るか分からないけどな」フゥ

-宇宙空間 男の艇-


[SSSジャンプ終了 通常航行速度ヘ移行]

ヒュンッ

男「さて、招待状に書かれた住所は」ペラ

男「こりゃまた風光明媚な場所だな」


[大気圏突入マデ10、9、8…]


男「少女…無事でいてくれ」


[大気圏突入]ピコ-ン


ヒュゥゥン…ボワァッ

-イタリア南部 "紅き月"幹部邸宅-


ヒュゥゥン…キキッ

男「まさか個人宅に宇宙船の発着デッキがあるとは」

テクテク

男「デカい邸宅だな」キョロキョロ

鉄門「」ドド-ン

男「ここが入り口か、ご立派に警備員までいるのか」

黒服「誰だ?」

男「ご招待どうも」ペラ

黒服「お前か、よし入れ」ポチッ


カチャッ…ゴゴゴ


男「助手…見守っててくれ」


ダダッ

-同刻 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

巫女『少女ちゃん!?今少女ちゃんって言いましたか!??』

同僚妹「あら、お二人って面識ございましたっけ?」

巫女「じ、実は」

同僚「紅き月っつー事はイタリア南部だけど、具体的にどこなんだ?」

同僚妹「レーダーにかけてみましょうか」ピコピコ

[識別番号R-3104 位置情報ヲ確認]ピコ-ン

同僚「どれどれ…アマルフィ?」

巫女『あ、あの!』

同僚妹「どうしました?」

巫女『その男さんという方の艇はアマルフィに停まっているんですか?』

同僚「そうみたいだな、でもこの辺に大型艇を停められる所なんてあんのか?」

同僚妹「そうですわね、カポディキーノ以外近くに空港もありませんし」

巫女『…一箇所心当たりが』

巫女『紅き月の幹部、その邸宅には大型艇が停泊できるデッキがあります』

同僚妹「自宅にデッキですか」

同僚「しかしあのアホ…マジでマフィアの自宅に一人で乗り込んでったのかよ」

-幹部邸宅 応接室-



黒服「入れ」ガチャ

バタンッ…

男「し、少女!」

少女「男ちゃん!」ジャラッ

幹部「お前が王子様というわけか」

男「少女を返してもらうぞ!」

幹部「そう急くな。お嬢さんにも言ったが、我々は彼女に危害を加えるつもりはない」

男「何だと…?少女、何もされてないか!?」

少女「う、うん今んとこ」

黒服達「…。」

幹部「クライアントからの依頼はお嬢さんの身柄の拘束と」

幹部「小僧。お前の殺害だ」

男「お、俺を!?」

少女「ますます意味が分からへん…男ちゃんは何も関係あらへんやろ!!」

幹部「依頼の遂行は容易い、が」

幹部「何事にも遊び心というものが必要だ」スッ

男「な!?拳銃…!」

幹部「前時代の遺物に等しいが、リボルバーはやはり美しい」ナデ

幹部「そうは思わんか?」

男「な、何言ってんだ…」

幹部「銃は一丁、弾は一発」ジャラララ…シャコンッ

幹部「この部屋にはお前とお嬢さん、俺と俺の部下が5人」

コトッ

幹部「お前に選択する機会をやろう」

男「選択…?」

幹部「お前がその手で彼女を撃てば、お前をここから無事に帰してやろう」

少女「!!」

男「な…!!」

幹部「銃を取れ。お前の選択を見せろ」

-同刻 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

同僚「シャレになってないぞ」

同僚妹「ですわね、とにかく現地の警察に連絡を」

巫女『警察は…無駄だと思います』

同僚「マフィアってのは官公庁ともズブズブなんだっけか」

巫女『警察や司法とも繋がりがありますから、一個人で相対するなんて無謀という他ありません!』

同僚「打つ手なし、か」

同僚妹「このまま見守るしかないっていうんですの!?」

巫女『…私が行ってみます』

同僚「いやいやいや!今あぶねーって話をしたばかりだろ!」

巫女『先程名前が出た少女ちゃんという方』

巫女『…私の一番古い友人なんです』

同僚妹「どういう事ですの?」

男「少女を撃つだなんて…そんな事!」

幹部「出来ないか?それなら俺に銃を向けるんだな?」

幹部「お前が俺に向かって引き金を1mmでも動かせば、お前も彼女も蜂の巣だ」

黒服達「…。」スッ チャキッ

少女「お、男ちゃん!!」ビクビク

男「くっ…どうすりゃいい…!?」

幹部「…。」シュボッ! スゥゥ

幹部「さぁどうした?勢い良く乗り込んできた割には情けないじゃないか」スパ-

黒服達「…。」

男「お、俺は…」ブルブル

少女「…撃ってぇな」ボソ

幹部「?」

少女「男ちゃん!ウチを撃ってぇな!!」

男「し、少女!何言ってんだ!!」

少女「男ちゃん…迷惑かけてホンマにごめんな」ウルウル

少女「でもこの話は、そもそもウチとこの人らとの問題や」

少女「男ちゃんにこれ以上迷惑かけられへんよ、だから…」

男「お前は…お前はいつもそうやって!!」クワッ

少女「男ちゃん…」

男「突然現れたと思えば勝手に俺んちに居着いて!!」

男「散々振り回して心配かけて…最後は殺してくれだと!?自分勝手にも程がある!!」

男「勝手に…俺の心に入って来て…」

男「俺の心の中にはもう、少女の存在がしっかり染み渡ってるんだよ!!」

男「それなのに…今更居なくなるなんて言うなよ!!」

少女「男ちゃ…うぅ」ポロポロ

幹部「美しいじゃないか」

男「(クソっ…考えろ!考えるんだ!!)」

男「(絶対に少女を死なせはしない!二人でここから出るんだ!!)」

男「(…。)」

男「(…そうか)」ハッ


スッ…チャキッ


少女「男ちゃん…?何してん!?」

幹部「…。」

男「これが俺の選択だ」グッ

少女「男ちゃん!!アカン!!」







ガキンッ






少女「お、男ちゃ…!!」

男「…。」ガタガタ

幹部「…Bravo!」パチパチパチ

黒服達「…。」パチパチパチ

少女「へ?な、何なん??」

男「は、はは…」ヘナヘナ

幹部「互いを慈しむ心、そして極限状態での冷静な判断」

幹部「楽しいショータイムだったぜ、小僧」ニヤッ

男「…弾なんて最初から入ってなかったのさ」フゥ

少女「な、なんじゃそりゃ!?」

男「この状況で仮に少女を撃った所で、約束が果たされる保証はない」

男「かと言って一発の銃弾でこの人達と戦うなんて不可能だ」

少女「だ、だからって!!自分の頭狙って引き金引くかぁ!?」

男「ここからは推測だけど…いくらマフィアの人達でも、突然素人に弾の入った銃を持たせるだろうか?」

男「俺ならやらない…たとえ一発でも、この距離で撃たれるリスクを考えればな」

幹部「やるじゃないか小僧」

幹部「加えて言うなら、お前が彼女に銃を向けた時点でこのゲームはおしまいだった」

男「んなっ!?」

幹部「小僧、我々が一番大切にしているものは何か分かるか?」

男「大切なもの?」

幹部「カネは確かに大切だ、だがそんなものより」スパ-

幹部「最も大切なのはな、ファミリーだ」

少女「よぉ言うわ!ウチのパパとママどこへやったんや!?」

幹部「…手錠を外してやれ」

黒服「…。」ゴソゴソ カチャリ

少女「お!男ちゃん!!」ダダッ

男「少女!!」ギュッ

幹部「ついて来い」

-幹部邸宅 地下の小部屋-


少女「パパ!ママ!!」ダダッ

少女父「おぉ…少女!」ヒシッ

少女母「許して…許して頂戴」ギュッ

男「どういう事なんだ…」

幹部「彼等…お嬢さんの養父母を拉致するよう依頼してきたのは教団だ」

男「教団って…まさか!」

幹部「"母なる太陽"さ」

少女「パパ…ママ…良かったぁ」ポロポロ

幹部「教団は規模の拡大に伴い、新たに祈歌の歌い手が必要になった」

幹部「それで一度は手放したお嬢さんに白羽の矢が立ったんだろうよ」

男「どういう事だ?」 


-同僚の艇-


ヒュゥゥン…

巫女『私と少女ちゃんが育った孤児院…』

巫女『今になって思えば、あそこは祈歌の歌い手を育てる為の施設だったんです』

同僚妹「音楽の養成所みたいな感じですの?」

巫女『選別、と言った方が近いでしょう』

同僚「選別?ルックス審査とかあんのかww?」

同僚妹「…それは遠回しに巫女さんが可愛いと仰りたいのですか?」

同僚「そういう意図はないwwwいや可愛いけどもwww」

巫女『えへへ…照れますよぉ』

同僚妹「おほん!」

巫女『は、話を戻します』

巫女『祈歌は歌唱技術というより、声質が非常に重要なんです』

同僚妹「声質は先天的なものですものね」

巫女『ある特定の周波数帯を発声出来る人が、歌い手として選ばれるんです』

同僚「それが巫女ちゃんの祈歌には有るって事かー、身体に響くあの感じね」

巫女『恐らく少女ちゃんもその資質を備えていたんです、或いは私以上の資質を』

同僚妹「しかし彼女は養父母に引き取られた…」

巫女『少女ちゃんの養父母は地元の資産家でしたから』

巫女『孤児院の建前上、養子縁組の依頼を断る事が出来なかったんでしょう』

同僚「んーでも何で今更その養父母さん達が狙われるわけ?しかもマフィアに」

巫女『分かりません…金銭を狙ったのか、あるいは』

同僚妹「…日照権ですか」

巫女『可能性はあります』

-幹部邸宅 応接室-



幹部「失意と絶望だ」

男「失意と絶望?」

幹部「教団は我々に養父母を拉致させ、その失意と絶望によって彼女の心を挫くのが目的だったのさ」

男「何でそんな事を…」

幹部「折れかかった心は何かに縋りたくなるものだ」

幹部「そこへ追い討ちを掛けるようにお前さんが殺される」

幹部「自分達で失意のどん底に叩き込んでおいて、それに乗じて彼女を教団に取り戻そうと考えたんだろうよ」

幹部「宗教屋の考えそうな事だ」

男「そんな…あいつの心を何だと思ってるんだ!!」

幹部「気に入らないな、実に気に入らない」

男「…?」

幹部「所詮我々は日陰者だ」

幹部「暴力を愛し、血と硝煙の匂いに塗れて踊り続けるのみだ」

幹部「だがそんな我々にも流儀というものがある」

男「流儀…?」

幹部「さっきも言ったろう、我々にとって最も大切なものはファミリーだ」

幹部「自らの手を汚す事なく、家族を想う心に付け入り操ろうとするそのやり方」

幹部「実に醜い」ギリッ

男「…。」

幹部「教団トップの指導者という男」

幹部「清廉潔白な人物として持ち上げられてやがるが」

幹部「奴は"こっち側"の人間だ、匂いで分かる」

男「指導者…?」

幹部「対して小僧、お前は"そっち側"だ」

幹部「心に任せて突っ走るのはいいが、喧嘩するにも相手を選ぶんだな」

男「…っ!」ビクッ

幹部「とは言えお前の真っ直ぐさは美しい」

幹部「美しいものは尊い、美を尊ぶのは我々の…俺の流儀だ」

男「マフィアの流儀…」

幹部「お前の殺害については保留にしておいてやる、ショータイムのチップとして受け取っておけ」

幹部「さて、俺の気分が良いうちに彼女達を連れて出て行くんだな」

-同刻 幹部邸宅前-


ササッ コソコソ

巫女「こ、ここが紅き月幹部の邸宅…」

巫女「白亜の豪邸って感じですねー」

同僚『おい巫女ちゃん!危ない真似はするなよ!?』

巫女「分かってます、ただ少しでも中の様子が分かれば…」ノゾキ

黒服「」ビシッ

巫女「入り口に人が立ってます、門番なんでしょうか」

黒服「」チラッ

巫女「あ」

同僚妹『ど、どうしたんですの!?』

黒服「」テクテクテク

巫女「みみみ見つかっちゃいました」アワアワ

同僚『言わんこっちゃない!おい相棒、この艇ミサイルとか積んでなかったっけ!?』

同僚妹『あるわけないでしょ!私達運送屋ですのよ!?』

黒服「」テクテク ピタッ

巫女「あ、あのその」

黒服「」ジ-ッ

巫女「…。」

黒服「あんた、巫女だな」

巫女「ひ、ひゃい!」

黒服「」スッ ゴソゴソ

巫女「(ふ、懐に手を…まさか撃たれる…!?)」ビクビク

黒服「」スッ

巫女「…へ?紙とペン?」

黒服「空港であんたの歌を聴いた」

黒服「素晴らしいの一言だった」

巫女「そ、それはどうも」

-上空 同僚の艇-


ヒュゥゥン…

同僚「…。」

同僚妹「…。」

『良ければサインをくれ、友人に自慢したい』

『へ?は、はぁ私で良ければ…』

『ありがとう、また空港で歌う機会はあるのか?』

『そ、そうですね…もし良ければ毎週日曜日に教団で定期公演がありますけど』



同僚「…この状況で布教活動を始めたぞあいつww」

同僚妹「信じられませんわ」

-幹部邸宅 入り口



カチャ ゴゴゴゴ…

男「…。」

少女「…。」

少女父母「…。」

男「は、はは…」ヘナヘナ

タッタッタッ

同僚「男!無事か!」ダダッ

同僚妹「全く無茶をなさるんですから!」

少女「同僚ちゃん!どーちゃんも!」

男「来てくれたのか…」

巫女「し、少女ちゃん!」ダダッ

少女「あ、この前のおねーさん」

ギュゥゥ

巫女「良かった…良かったです」ポロポロ

少女「はぇ?お、おねーさん?」

巫女「憶えていませんか?太陽孤児院で一緒だった…」

少女「孤児院で…あーっ!!」

男「彼女が巫女さんか、少女と知り合いだったとは」

同僚「色々あったのよwww」

同僚妹「少女さんのご両親ですわね?お怪我などありませんか?」

少女父「あぁ…私達は大丈夫だ」

少女母「それより…この子の為に皆さん駆け付けて下さったんですか!?」

同僚「少女ちゃんと王子様の為になwww」

巫女「無事で良かった…本当に」ポロポロ

少女「おねーさん…ウチの事憶えててくれたんやな」

巫女「忘れた事などありません、あなたは私の一番古い友人ですから」

少女「えへ…なんやこそばいなぁ」


-火星 ネオロンドン酒場街-

-BAR REQUIEM-


カランッ


<乾杯!カチンッ

同僚「ったく心配させやがってww」グビ

同僚妹「まぁ何事もなく帰って来てくださって良かったですわ」

男「すまん、少女の事を考えたら居ても立っても居られなくて」

巫女「優しいんですね」

同僚「そうなのよwwアホ程優しいのwww」

男「それ褒めてないだろ」

同僚妹「まぁただのアホよりはマシなのでは?」

同僚「それもしかして俺の事ww?」


巫女「改めまして、巫女です」ペコッ

男「はじめまして、男です」

巫女「今回の事、少女ちゃんの友人としてお礼を言わせて下さい」

男「いやいやそんな…そういえば少女とは古い仲って事だったけど?」

巫女「私と少女ちゃんは同じ孤児院で育ったんです」

同僚妹「祈歌の歌い手を選抜する為の施設…と仰いましたか」

男「歌か…そういえば」

巫女「?」

男「俺の艇のSSSが動かなくなった時、少女の歌声に反応して再起動したんだ」

同僚「マジかよそれwww」

同僚妹「確かにソニック粒子の振動波形は人の声に似ているといいますが…」

巫女「SSS…ソニック粒子」

同僚「まぁ地球で暮らしてるとあんまりピンと来ないわなww」

巫女「いえ…確かお養父様がそんな話をしていたような」

同僚妹「お養父様?」

巫女「お養父様は"母なる太陽"のトップで、指導者と呼ばれています」

男「…!」

同僚「マジかwwガチガチのお嬢様だったのかよwww」

巫女「お嬢様だなんて」フルフル

同僚妹「そしてまたおセンチな気分に浸ってしまうんですねわかります」

巫女「?」

同僚「うるっせぇなぁwww」

男「…。」

同僚妹「…男さん?」


-深夜 男の家-


男「あいつがいないと静かだな」

男「…。」

男「さて」ピコンッ

男「"母なる太陽 代表"っと」カタカタ

画面「"…2xxx年、指導者は当団体を設立し、その崇高なる理念の元…"」

画面「"…今やその活動は地球全土は元より、遠く火星の地へも賛同の波は広がりつつあるのです…"」

男「火星(こっち)にも信者がいるのか」カタカタ

画面「"指導者来歴"」

画面「"…国連軍火星部隊を退役後、故郷であるイタリアにて母なる太陽を設立…"」

男「国連軍の火星部隊!?」

画面「"…国連軍時代に培った豊富な知識と経験を元に、全ての生きとし生けるものへ太陽光の恵みを還元する為の活動を…"」

男「親父や兵長さんと同じ部隊だったとは」パタンッ

男「"紅き月"幹部は、少女の拉致を画策したのは教団だと言った」

男「マフィアの言うことを鵜呑みにするのは危険だけど、もし彼の言葉が真実だとしたら」

男「教団の本当の目的が少女だったとしたら」

男「…まだ何も解決してないんじゃないのか?」

-同刻 ネオロンドン-

-HOTEL NOVEMBER 客室-


巫女「少女ちゃんとご両親、無事で本当に良かったです」

巫女「孤児院にいた頃はまだ幼かったですから、私の事もあんまり憶えてないでしょうけど…」

巫女「まぁでもこれからもう一回仲良くなればいいんですから!」

巫女「また一緒に歌いたいなぁ…」フフッ

巫女「それはそうと、結局紅き月の目的は何だったんでしょう?」

巫女「金銭、日照権…いまいちピンと来ないですねぇ」

-同刻 同僚の家-


同僚「いやーやっと帰って来たwww」

同僚妹「根っこが生えてしまう前に私はシャワーを浴びてきてしまいますわ」

同僚「そうだなwwあ、たまには一緒に入るかwww?」ワキワキ

同僚妹「小さい頃はそうでしたわね…今そんな事されたら捻り切りますけれど」

同僚「何を!?」

ガチャ パタンッ


シャワァァ…

同僚妹「…指導者、巫女さんのお養父様」ワシャワシャ

同僚妹「その名前を聞いた時の男さんの表情」

同僚妹「何かご存知なんですのね…或いは紅き月幹部に何かを聞かされたか…っぷ」シャワァァ

同僚妹「少女さんの一件、これで解決と見てよろしいのでしょうか…?」キュッキュ

同僚妹「ん?あーまた枝毛が」

同僚「はーどっこいしょっとwww」スワリ

同僚「…しかし何だったんだ?工事現場での衝突」

同僚「巫女ちゃんの歌を聴かせる事で信者達が落ち着いたのは分かる」

同僚「でも反対派の住民があんなに簡単に退散するなんて…」

同僚「というかホントに住民かアレ?ほとんどマフィアみたいな見た目だったぞwww?」

同僚「…マフィア?」

-夜 ベネツィア中心部 少女父母の家-


少女「ナポリから引っ越してたんや!」

少女父「ここは非常用の別邸みたいな場所だ」

少女父「もう紅き月に狙われる心配はないだろうが、念の為しばらくはこっちで暮らそうと思う」

少女母「はいはい、ご飯が出来ましたよ」

少女「はーい!パパ、ご飯やて!」

少女父「あぁ」

<いただきまーす


少女「んー♪やっぱりママの料理は最高やな!」

少女父「全くだ」モグモグ

少女母「ふふ、沢山食べてね」

少女父「…少女、今回は心配を掛けてすまなかったな」

少女「二人が無事に戻ってきたならモーマンタイやで!」

少女母「邸宅まで助けに来てくれた男の子…きちんとお礼をしなくちゃいけないわねぇ」

少女「男ちゃんって言うんやで!火星で会ぅてんけど」モグモグ

少女父「火星で?」

少女「物流協会の艇乗りで、めっちゃ優しいねんでー♪」

少女父「そうか…それじゃお前も火星に?」

少女「うん!地球(こっち)からじゃ見えへんモンいっぱい見てきてん!」フンス

少女母「知らないうちにそんなに遠くまで…危ない事はしないでね?」

少女「ママは心配性やんなぁー」

少女「でも…実際ハラハラした事もあったけどな?」

少女「それでも男ちゃんと一緒やったらなんとかなるって、今回の事で改めて思ってんかぁ」モグモグ

少女父「…。」

-深夜 少女父母の寝室-



少女父「少女…変わったな」

少女母「あんなに嬉しそうに誰かの事を語るのは初めてかもしれませんね」

少女父「男の子…か」

少女母「ふふ、あなたにすれば気が気じゃないでしょうね」

少女父「も、もちろん普通の父親として思うところもある!…が」

少女母「えぇ…」

-少女の寝室-


少女「パパとママが無事でホンマに良かったわぁ」

少女「色々あったけど、これで男ちゃんと一緒に住んどぉ理由もなくなってもた…」

少女「…寂しいなぁ」ズキン

少女「あ、でも巫女のおねーさんにはまた会えるかもな!おんなじイタリアやし」

少女「ウチ孤児院におった頃はめっちゃ小さかったからあんまし覚えてへんけど…」

少女「これから仲良ぉなれたらえぇな♪」

少女「ウチの事ずーっと憶えててくれたなんて…」

少女「なんやあったかぃなぁ」ニコ

-紅き月幹部邸宅-


幹部「教団から抗議の電話?」

幹部「あぁ分かった、繋げろ」

幹部「俺だ」

『両親を解放したとはどういう事だ!?』

幹部「はて?我々が請け負ったのは彼等の拉致のみのはず」

幹部「その後の処遇については何の依頼も受けていないが?」

『…っく!それで、彼等は何処へ!?』

幹部「部下に見張らせているが、ナポリの自宅には戻っていない」

幹部「資産家だからな、何処かに別邸でも持っているんじゃないのか?」

『…分かった、両親の事はもういい』

『すぐに少女を捜すんだ!』

幹部「お前、何か勘違いしちゃいないか?」

『…何だと?』

幹部「我々は我々の流儀に従って仕事をする。美を尊び、ファミリーを尊ぶ」

幹部「美しくないんだよ、お前のやり方は」

-同刻 母なる太陽総本部 指導者の私室-


指導者「美だと!?大義の前にそんな事を言ってる場合じゃないんだ!」

『大義ねぇ』クスッ

『その大義とやらの為なら、そこらのチンピラを使って住民感情を捏造する事も厭わない…と?』

指導者「…何の話だ」

『まぁいい。依頼という事なら受けてやらんでもない』

『だが勘違いするな、我々はお前の小間使いではない』

『命令は受けない、あくまでビジネスだ』

『今度ナメた口を叩いてみろ、月より先にお前が紅く染まる事になるぞ』ブチンッ

指導者「っく…」

指導者「外道め…!」ガチャン

指導者「流儀だ何だと言いながら結局はカネの為に動くんじゃないか!」

指導者「まぁいい、少女の捜索は彼らに任せるとして…」

指導者「我々は我々の目的に向かって進まねばならない」

ガララッ

指導者「人々の為、全ての生きとし生けるものの為」

指導者「必ずや取り戻してみせる…!」

第二部終了となります
書き溜めたいのでまたしばらく間が開くと思います
見掛けた際には覗いてみて下さい
それではありがとうございました

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