P「誕生日おめでとう」 (9)
「"私"も、今日が誕生日なんです。祝ってくれませんか?」
何を言っているんだろう、と思った。
事務所の控え室でささやかに行われた自分の誕生日パーティー、その最中のことだった。
自分がプロデュースしているアイドルだ、そのプロフィールを憶えていない訳がない。
「わかったわかった、ちゃんと誕生日のお祝いはするから。
欲しいものとか、食べたいものとか、ちゃんと考えとけよ?」
チキンを頬張りながら答えると、相手は少しムッとした顔をしてから背を向け、みんなの輪の中に戻っていった。
なんだか不安になってきたので、近くでお菓子を食べている事務員さんにそんなことを話すと、少し考える素振りを見せたあとで「去年の手帳を見たら、何か分かるかもしれませんよ?」と
悪戯っぽく返された。デキる事務員さんは、なにかピンときたらしい。
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アドバイス通りに、デスクの引き出しの奥にしまってあった去年の手帳を探し出し、ページを開く。今よりも密度は薄いが、一年間よく働いたものだ。
去年の自分の誕生日のところに"顔合わせ 1300〜"と書いてあった。そういうことか、思わずうなり声が漏れる。
「プロデューサーさんって、妙なところで真面目な人ですよね、ホントに。」
声に驚いて振り返ると、居た。ちょっと恥ずかしい。どうやら事務員さんに言われてこっそりつけてきたらしい。デキる事務員さんめ。
「あー、その、悪かった。」
まずは謝る。サラリーマンの悲しい性分だ。
「いいですよ。これでちゃんと憶えてくれましたよね?」
「おう、憶えやすいからな。」
「自分の誕生日、忘れてたじゃないですか。」
今日のパーティは、サプライズ的なものだった。事務所のドアを開けた瞬間に鳴らされたクラッカーに目を丸くしてしまった。「お誕生日おめでとう」の声に、アイドル達のプロフィールを思い返してしまったのが本音だ。
そういえば去年の誕生日にあったものは、親からのメールとSNSのメッセージ、あとは溜まるばかりのメールマガジンくらいだったなぁ。仕事に夢中だったというのもあったが、年々そういう記念日に対する意識はすり減っている。
「フツーの一日なんです、誕生日なんて。プロデューサーさん自身が忘れちゃうくらい。
祝ったり、祝ってもらったりするから特別な日なように感じてしまうだけで。」
若さのわりには寂しい考え方だな、と思った。「ただ、」と続ける。
「プロデューサーさんの誕生日と同じだって知ったとき、なんだか運命的だなぁ、大切にしたいなぁ、なんて。
私とあなたしか知らない、あなたと"私"の誕生日。ステキじゃないですか?」
少しはにかんだような、くしゃっとした笑顔。"あなた"の笑顔なのか、それともあなたの笑顔なのか。
ただ、この瞬間だけは自分だけのものだと思いたかった。誕生日だし、少しくらいワガママなことを思っても許されるだろう。
そして沈黙。なんだか恥ずかしくなってきた。
「あー、戻るか。」
「・・・そうですね。」
返事までの間から察するに、向こうも同じだったみたいだ。
「あのさ、誕生日おめでとう。ありがとうな。」
背中に投げかける。
「はい、プロデューサーさんも、誕生日おめでとうございます。それと、アイドルにしてくれてありがとうございます。」
「プロデューサーさーん!そろそろケーキ、切りますよー!」
事務員さんの声がする。控え室に戻ると、机の上にはケーキが並べられていた。
そこまで立派なものではなかったが、一個、二個、三個。まさに所せましといった感じだ。
「これはこれで、またすごいな・・・。」
「アイドルの皆さんの人数分ですからね。さ、このケーキです。お願いしますね?」
祝って、祝われて。来年もその次も、こうやって歩いていけたらと思いながら、ローソクの火を消した。
以上です。ありがとうございました。
今日誕生日なんです、祝ってください。
Pixivにも似たようなものが上がると思いますが本人です。
アイドルマスター的関係において、アイドルと誕生日で思いついたネタです。
どこの事務所の誰だとかを設定しないように書きました。
SideMのおかげで性別までぼかさないといけなくなったから大変だぁ・・・。
英語なら"I"で片付くから日本語は大変だなぁ、と。
自分と担当アイドルとを思いながら読んでいただければ幸いです。自分は萩原雪歩と佐竹美奈子のPです。
各種アプリに誕生日を入力しておくとお祝いボイスがもらえる機能つかないかなあああ!!
あ、「自分と担当あいどる」っていうのは読者様自身と、ということです、はい。
ふわふわしたこと言わせてるので、書いてて百合子っぽくなってしまった気がします。
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