とある魔術の聖杯戦争 (223)
fate zeroと禁書を混ぜたssです。
禁書の方は新訳10巻辺りの上条さんだと思ってください。
注意事項
急に地の文入ることがあります。
詳細な描写がない所は原作(fate zeroの)通りだと思ってください。
あと、上条さんが異様な身体能力を見せる所があるかもしれません。そこは自分の塩梅で決めていますので、気になる方はブラウザバック推奨です。
一応サーヴァントということなのである程度はね…みたいな風に考えてください。
もう何回か使われているタイトルかもしれませんが、他に思いつきませんでした。許してください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1529753464
失礼します。
初めてやるssなので、至らない所があれば教えて下さい。
これでOKなのかな?
ーーーアインツベルン城
切嗣「来たれーーー天秤の守り手よ!」
ズドォォォォォン??????
切嗣「こいつは……!」
上条「…えーっと、ここ、どこだ…?」
切嗣「………こいつが…アーサー王?」
上条「へ?アーサー王?アーサー王ってあのゲームとかの?っていうかあんた誰だ?んでここはどこなんだ?教会…みたいな所だけど…?」
切嗣「おい、どういうことだ!聖剣の鞘を触媒にした筈だ!お前はアーサー王じゃないのか!?」
上条「は?俺?俺の名前は上条 当麻だけど…そういうあんたらは誰なんだ?」
切嗣(上条…?日本人の名前だぞ…?一体どういう理屈だ、そんな英霊の名前は聞いたことがない)
切嗣「アイリ、鞘の様子はどうなっている?」
アイリ「それが……見て欲しいのだけど」
切嗣「!魔力が…通っている、だと?」
アイリ「ええ。この少年の言ってることが本当ならこの少年はアーサーではない。でも、それなのにこの鞘には明らかに魔力が通っているの」
切嗣「…訳が分からない。僕は召喚に失敗したということなのか?」
アイリ「分からないわ…でもおそらくこの鞘は宝具としての力を発揮出来るくらいの魔力を今内包している」
切嗣「なんて事だ…分からない事だらけだが、一番解せないのは…」
上条「えーっと、話に置いてかれてるし、名前言ったのにそっちは教えてくれなくて心が折れそうな上条さんは泣いてもいいんですかねー……?」
切嗣「…コイツの存在か」
ーーー室内
上条「せ、聖杯…?」
アイリ「そう。7組の魔術師とサーヴァントとして召喚される英霊。これらが互いに戦い、最後に勝利した者が聖杯を手にし、願いを叶えることができるの」
上条「んでもって、ここに居る切嗣とアイリさんが魔術師として聖杯戦争に参加するつもりで、そんで…」
アイリ「そう、アーサー王の聖遺物を触媒にサーヴァントを召喚したはずが、あなたが現れたの」
上条「一体どういう理屈なんだ…?俺は普通に学園都市で買い物してて…その後は…」
切嗣「お前の元居た世界の事なんてどうでも良い」
上条「………」
切嗣「問題はお前がサーヴァントとして戦力になるのか、ならないのか。それだけだ」
アイリ「切嗣…この子は本当に何も知らない様子よ。もしかしたらサーヴァントじゃないのかもしれないわ」
切嗣「そんな事は関係ないさ、アイリ。微かな感触だが、この令呪は確実にこの男と繋がっている。アーサー王ではないのはアハト翁に申し訳が無いが、コイツは正真正銘、僕のサーヴァントとして召喚された者のはずだ」
アイリ「確かにそうだけれど…」
切嗣「ならば使う。僕の願いを叶える為にも、それが必要だ」
上条「えーっと…ちょっといいか?」
切嗣「…なんだ」
上条「何だも何も…俺はサーヴァントなんかじゃねぇ!普通の高校生なんだよ!なんか俺もあんたらと一緒に聖杯戦争とやらに参加する流れになってるけど、全然流れが読めないんだよ!」
アイリ「上条君…気持ちは分かるわ」
アイリ「でも、切嗣が言う通り、あなたはサーヴァントとして現代に存在しているの。その時点で私と切嗣は…あなたに頼るしかないのよ」
アイリ「それに、あなたが元々居た世界に帰る。そんなことをするつもりならそれこそ、聖杯を使いでもしないと無理よ。もしあなたが帰りたいと願うのなら、あなたにも戦う理由はあるはずだわ」
上条「そうは言っても…」
切嗣「もういい。話はこれで終わりだ」
切嗣「聖杯戦争まではまだ時間がある。それまでに自分の状況でも整理していろ。僕には令呪を無駄に使う気なんて無いんだ」
上条「状況整理って…」
切嗣「行こうアイリ、元々サーヴァントなんぞに頼る気は無かったが、思った以上に使えない駒を引いてしまったようだ。戦略を考えなくては」
上条「おい!ちょっと待ってくれ」
切嗣「……なんだ。時間が惜しいんだが」
上条「あんたら、こんな戦いに参加するくらいなら何か願いがあるんだろ?なら、それだけでも教えてくれ。何考えているか分からない連中に手を貸すなんて出来ない」
切嗣「………ハァ」
切嗣「……………だ」
上条「…ん?なんだ?」
切嗣「………」
切嗣「世界の…救済だ」
今移動中なんで一旦切りますね。
すいません。
再開します。
上条「独りになった訳だけど」
上条「本当にここはどこなんだ…?またインデックスを独りにしちまってるし。あああ…帰ったらまた頭を食いしん坊シスターに噛みつかれる未来しか見えないんですけどーっ!」
上条「……はぁ。全く、いつ帰れるのやら」
上条(世界の救済、って言ってたな)
上条(そんな事を言い出すタイプには見えなかったけど、一応切嗣は悪人じゃない…って考えて良いのか…?)
上条(まぁ、いくら願いが殊勝なものでも、その為に敵の魔術師を殺すってのは正直認めらんねぇよな)
?「……」ササッ
上条(フィアンマも根本としては『世界を救う』のが目的だった訳だけど、とても許せるもんじゃなかった)
?「………」チラッ
上条(もしあんな風に多くの人達を犠牲にしてまで世界を救おうと考えて居るのなら、目的がなんであれ、放って置けない)
?「………」ジー
上条「何にせよ状況を見る時間が必要……ってなんだ?さっきから」
?「……!」ビクゥッ??
上条(女の子…か?結構小さい、っていうか)
上条「誰だお前?」
イリヤ「わ、私はイリヤ、イリヤスフィール。キリツグ達が出てくるのが見えたから来たのだけど、あなたは誰?」
上条「俺か?俺は上条、上条当麻」
イリヤ「んー、カミジョー、トウマ?変な名前ね、なんかノロそう。あなたの周りの人みんなそう思ってるでしょ?」
上条「上条さんはそんな事を言われたのは初めてです」
上条「それより、イリヤスフィールって名前とその髪の色からして、アイリさんの関係者なのか?」
イリヤ「そうよ!この髪はよく褒められるの!『お母様とよく似ている』って!中々良い眼をしているわね、トウマ!」
上条「えーっと、髪を褒めた訳じゃないんだけど。まー、確かに綺麗な銀髪だな。…って、アイリさんがお母様!?じゃ、じゃあ父親って…」
イリヤ「お父さんはキリツグよ!」
上条「……あの二人、夫婦だったの……?」
イリヤ「そんなこと良いじゃない。ねぇ?暇なの?暇でしょ!だったら遊びましょうよ!」
上条「は?遊ぶ?確かに暇だけど、いきなり現れて遊んじゃうってのは…」
イリヤ「えー!いいでしょ!遊ぼう!遊ぼー????」
上条「えー、そこまで言われると断りづらい…」
イリヤ「よし!決まりね!何して遊ぼうかしらー!」
上条「勝手に決まってるし!あーもう分かったよ!この上条当麻、何でもやってやりますよーーーーっ!!!」
イリヤ「そうね!じゃあ、クルミの芽探しにしましょう!」
上条「クルミの芽探し?」
イリヤ「はーい、見つけたー!これでイリヤ八つ目ー!」
上条「く、くそぅ!全然見つからない!何なら小さすぎてどれがクルミの芽なのか分からない!まさか上条さんがこんなちびっ子に手玉に取られるなんてーーっ!!!?」
イリヤ「ふっふー、修行が足りないわねトウマ!私は切嗣とよくクルミの芽探しで勝負しているから、この辺のクルミには詳しいのよ!」
上条「な、なにーっ!!勝敗は視力じゃなくて経験の差だとぅ!?」
イリヤ「そういうことよ!あ、九つ目!」
上条「いやぁぁぁぁっ!!差がどんどん開いて…ってあれ?日頃からこの遊びやってるってことはもしかして、どこにクルミの芽があるか分かってるってことなんじゃ…?」
イリヤ「そうとも言えるわね!」
上条「おいぃぃぃいいい!!卑怯だろそれ!?いつの間にかアウェーで勝負させられてんじゃん俺!!最早この森が敵じゃん!!」
イリヤ「勝敗はスタートラインに立つ前から始まっているのよ!」
上条「この歳でそんな言葉を…っ!?なんて恐ろしい子…っ!!!?」
イリヤ「あ、また見つけた!もー、トウマ弱すぎてつまんなーい。しょうがないから、ハンデあげようかー?」
上条「」プッチーン
上条「ふふ、ふふふ。舐められたもんだな。おいちびっ子、いくらクルミの芽の場所を覚えてても、そこに辿り着けなきゃ意味ねーよなー……?」
イリヤ「な、なに?トウマおかしくなったの?」
上条「つまりは視力や記憶力が重要に見えて実際はスピード勝負なんだよなぁぁぁぁぁぁっ!この脚力でクルミの芽をバンバン見つけて逆転してんやんよーーーっ!!!」
数分後
イリヤ「18-2で私の勝ちーっ!」
上条「ぜぇーっ!ぜぇーっ!」
イリヤ「まったく。訳の分からない事言って走り出したけど、肝心のクルミの芽を見逃して走ってるんだもん。トウマはバカだなー」
上条「う、うるせぇ。こちとら全力疾走続けてたんだ、少しは休ませてくれ…」
イリヤ「はいはい、分かりましたよー」
数分後
イリヤ「18-2で私の勝ちーっ!」
上条「ぜぇーっ!ぜぇーっ!」
イリヤ「まったく。訳の分からない事言って走り出したけど、肝心のクルミの芽を見逃して走ってるんだもん。トウマはバカだなー」
上条「う、うるせぇ。こちとら全力疾走続けてたんだ、少しは休ませてくれ…」
イリヤ「はいはい、分かりましたよー」
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あれ、なんか上手くいかないですね。
何が原因なんでしょう?
上条「ハァ、ハァ…。そういや、イリヤはずっとここに住んでるのか?」
イリヤ「ええ、そうよ」
上条「だよな。普通お前くらいの子はクルミの芽探しなんてやらないと思うぞ」
イリヤ「えー?そうなのー?」
上条「多分な。学校は?友達とか居んのか?」
イリヤ「学校?何それ?友達って言葉も知らないなー」
上条「嘘だろ…?お前の年で学校にも行かせないって、一体何考えてんだよあの二人は……!」
イリヤ「うーん?どうしたの?トウマ、怒ってるの?」
上条「…!いや、まぁ学校に行くだけが全てじゃないしな、イリヤも全然元気そうだし」
イリヤ「うん!私は元気だよ!友達ってのは知らないけど、お母様と切嗣がいるもん!」
上条「…そう、か。二人のことは好きか?」
イリヤ「うん!大好きだよ!あー、でもでも、トウマも好きだよ!お母様と切嗣以外に初めて遊んでくれたし!」
上条「ははは、そりゃ嬉しいな。なんならまた遊んでやるよ。しばらくは暇そうだしな」
イリヤ「えーっ!本当!?やったーっ!トウマはいつまでここにいるのー?」
上条「喜びすぎだろ。うーん、いつまでいるんだろう?そもそもここに来た理由もよく分かってないし」
イリヤ「へー、でもお母様は『私達を手伝いに来てくれた』って言ってたよ?」
上条「ああ、まぁそういうことに……っ?」
イリヤ「どうしたの?」
直りました。コメントありがとうございます。嬉しいです。続きですね。
上条「……い、いや、なんでもない」
上条(そうだ、聖杯戦争に参加する以上、あの二人も同じく他の魔術師に狙われるってことだ。さっきは混乱して参加しねぇ、とか言っちまったけど、もし俺が行かなかったらあの二人だけで敵のサーヴァントとやらと戦うことになる……のか。)
上条(それより、イリヤは聖杯戦争を知っているのか?あの二人が危険な戦いに挑もうってことを、知っているのか?)
上条「…なぁ、イリヤ。お前アイリさんから俺が何の手伝いに来たのか、って聞いてるか?」
イリヤ「うん!知ってるよ!二人は今度日本へお仕事に行くの!そのお手伝いじゃないの?」
上条「ああ…まぁ、そうだ……そうだな」
上条(知ってる…訳ないか)
上条(もし…もしあの二人が聖杯戦争で負けて、最悪の結果になった時、イリヤは…ずっと、ずっと独りになっちまうかもしんねぇのか…)
上条(この広い城に、たった独りで…)
上条「………」
イリヤ「どうしたの?トウマ。元気ない?」
上条「…イリヤ、もしもの話なんだけど」
イリヤ「…?うん」
上条「もし…もし、あの二人が事故かなんかで仕事に失敗して、ここに帰ってこれなかったとしたら…どうする?」
イリヤ「大丈夫だよ」
即答だった。
イリヤ「切嗣は約束は絶対守るもん。お仕事は知らないけど、帰ってくるって約束したから、ちゃんとイリヤの所に帰ってくるよ」
イリヤ「だから、何も心配なんかしてないの」
その言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようだった。
そうでもしないと、今にも崩れてしまうのだろう、と上条は思った。
あの二人が帰ってこなかったら、イリヤはどうなるのだろうか。
泣くのだろうか。
悲しむのだろうか。
あるいは、もっとひどい結末になるかもしれない。
なら、自分は何をしたいのだろうか。
自分が関わるには、まだイリヤのことを知らなすぎるだろう。
でも。
それでも。
ここは自分の世界とは違うのかもしれないけれど。
まだ会って1日も経っていない少女だけど。
この顔が曇ってしまうのは嫌だな、と。
ただ、そう思った。
上条「…イリヤ」
イリヤ「んー?なに?」
上条「俺実はさ、ちょっと混乱してたんだ。いきなりアイリさんと切嗣に会って、自分がなにをするのかも分からないままだったからよ」
イリヤ「んーと、とうまは困ってるの?」
上条「ああ、さっきまではな」
上条「でも、今は違う」
上条「約束するよ。あの二人は必ず、イリヤの所に連れ帰ってみせるさ」
上条「そんでまた遊ぼう。クルミの芽探しだってなんだっていいさ、今度は切嗣とアイリも一緒に遊ぼうな」
その言葉にイリヤは。
イリヤ「うん!約束だよ!」
笑顔で、そう答えた。
ーーー切嗣の部屋
コンコン
切嗣「…誰だ」
上条「よう」ガチャ
切嗣「…何の用だ」
アイリ「上条君、気持ちは落ち着いたかしら?どうやらイリヤと一緒に居たようだけど」
上条「ああ。イリヤのおかげで、拳を握る理由が出来た」
アイリ「…どういうこと?」
上条「つまりこういうことだ」
上条「俺も、聖杯戦争とやらに参加してやるよ」
切嗣「…随分な心変わりだな。さっきのお前と同一人物とは思えない」
アイリ「上条君、急にどうしたの?聖杯にかける願いを思い出した、とか?」
上条「別に思い出した訳じゃないんだ、アイリさん。確かについさっきまで聖杯戦争に参加する気なんてなかった」
上条「正直、聖杯にかける願いなんか思いつかないし、あんたらを信用して良いのかも分からない。だからこんな戦いは辞退しようと思ってた。あんたらがどうなろうと、俺には関係ないからな」
切嗣「……」
上条「でも、今は違う」
上条「あんたらのことはまだ分からない。でも、あんたらの事を何よりも大切に思ってる奴を俺は知っちまった」
上条「あんたらが居ないと、悲しむ奴がいる。あんたらが帰らないと、泣く奴がいるってな」
上条「会って間もない奴の為に命を賭けるなんて馬鹿げたことなのかもしれない。でもな、目の前で辛さに耐えてる女の子を無視して逃げるような腰抜けになる気もねぇさ」
上条「だから、俺はそいつの為にあんたらを守る」
上条「敵の魔術師とやらを殺す気なんてないさ。けど、あんたら二人を見殺しにして、逃げるつもりもさらさらねぇ」
上条「もしかしたら裏があるんじゃないか、何か企んでるんじゃないか、って思うかもしれない。なら、聖杯をもし手に入れたとして、俺が叶える願いを教えてやるよ」
上条「『イリヤが悲しむ顔を見たくない』」
上条「そんな馬鹿が一人くらい居たっていいはずだろ?」
今日はここまでにしておきます。
ストックはありますが、ペース考えないと無くなっちゃいそうなので笑。
見てくれた方ありがとうございます。
すぐに続きも出すと思うのでよろしくお願いします。
こんにちは。再開します。
切嗣(なんだこいつは…?)
切嗣は困惑していた。
目の前の男は明らかに英霊とは違う存在であることは、一目見た時から思っていたことだ。
切嗣(しかし、こいつの行動原理はなんだ?)
切嗣(イリヤの為に戦う?会って数時間しか経っていない者の為に、命をかけるだと?)
切嗣は上条のことを道具と思っている、それは今も変わらない。令呪で無理やり戦場に連れ出そうとまで思っていたが、その必要が無くなっただけのこと。
上条がなぜ心変わりしたのか、などといった無駄な推察は普段の切嗣ならまずしない行為である。
しかし、上条の述べた『戦う理由』は切嗣が普段と違う行動を取ってしまうほどに、不可解で、意味不明で、短絡的で、馬鹿げていて。
なぜか、懐かしさを感じるものだった。
切嗣「……っ」
アイリ「どうしたの?切嗣?上条君と今後の方針を話すんじゃないの?」
切嗣「…あ、ああ。そうだね、アイリ」
切嗣(何を考えている、僕は。私情が頭に入るなんて、いつ以来だ)
上条「ほら、さっさと方針とやらを教えてくれよ。まぁ、俺はあんたらを信用してる訳じゃないけど、あんたらが戦うことを邪魔するつもりはねぇ。俺が勝手について行って、勝手に守るって決めただけだけどな」
切嗣「ああ、お前と僕は別行動だ。正直、お前は使えないと踏んでたからな、元々戦力にはほとんど数えていない」
上条「そうかよ」
切嗣「お前の役目は単純だ」
切嗣「アイリと共に、この戦いに参加しろ」
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ーーー日本
上条「んで、なんで俺はこんなとこにいるんだ……?」
アイリ「ほら!上条君早く!次のお店にいきましょう!」
上条「まだいくの!?っていうかもう持てない!これ以上の紙袋は上条さんには持てませんって!!」
そう、アイリと上条はショッピングをしていた。
切嗣に「アイリと行動しろ」と言われ、切嗣とは別ルートで日本に到着した上条達だったが、日本に着いたアイリの第一声が「買い物がしてみたい」とのことだった。
上条的には一応命懸けの戦いに来ている訳だし、少し躊躇ったのだが、なんやかんやで二人でショッピングに勤しんでいた。
しかし、しばらくして上条は自分の判断を呪うことになる。
上条「ちくしょう!気づくべきだった!この人イリヤの母親だった!ロクな扱いを受けられると思ってた俺が馬鹿だったんだ????」
見ての通りの雑用っぷり。
サーヴァントの日本訳に「召使い」があるが、サーヴァントかどうか分からない曖昧な存在である上条らしからぬ「サーヴァント」もとい、「召使い」ぶりであった。
切嗣はもしやアイリさんに振り回されるの分かってて俺に押し付けたんじゃねぇだろうな…?などと上条が考えて始めた矢先。
アイリ「あー、ごめんなさい。上条君。ついはしゃいでしまったわね、少し休みましょうか」
と、アイリが上条に気を使い広場のベンチで休むことになった。中々の広さのある広場で、公園が隣接している。
二人は並んでベンチに座っていた。
傍らには先ほど買ったペットポトルがある。
上条「うぉぉおう…、あー、いいなこの感じ。足がくすぐったいというか、回復してるぞー、って感じが気持ちいい」
アイリ「ふふ、ごめんなさいね。上条君、長旅の後で疲れさせてしまって」
上条「まぁ、少し休ませてくれるなら全然付き合うけどさ」
そう言いながら上条は周りを見渡す。
上条(…それにしても)
上条「日本……なんだよな」
ここは日本だ。それは間違いない。
ここは冬木という土地らしいが、歩いている人々も日本人だし、文字も言葉も分かる。
しかし、上条が知っている日本と違う点が一つあった。
そう、学園都市がないのだ。
実際に足を運んだ訳じゃない、しかし、インターネットなどで調べたところ、学園都市はこの世界には存在しない、というのが結論だった。
上条(やっぱ、違う世界…みたいだな)
イリヤの為に二人を守る。その為にこの戦いに飛び込むことを決めた上条だが、やはり違う世界に来た、という不安はあった。
思った以上に長く滞在することになったが、帰る方法などはあるのだろうか?などと考え始めるとキリがない程に上条にとって問題は山積みなのである。
上条「まぁ、終わったら考えればいいだろ…って、ん?」
そんな上条の足元にコロコロとボールが転がって来た。
少年「すいませーん、投げて下さーい!」
どうやら、公園で野球をしていたらしい。
それに気づいて上条はボールを拾い、ひょい、と少年達に投げ返す。
少年「ありがとうございまーす!」
元気だなー、などと上条が呑気に考えていると、隣で真面目な顔をしたアイリが居た。どうやら何かを見ているらしい。
なにを見ているのかは分からない、しかし、あまりにも真剣な様子なので、もしかしたら敵のマスターが隠れているのかと思い、声を潜めながらアイリに話しかける。
上条「アイリさん、どうかしたのか?」
アイリ「いえ、なんでも……いや」
上条「なんだ?まさか、他のマスターなのか…?クソっ、まさかこんな人混みでもおかまいなしに戦おうってつもりじゃ…」
アイリ「…あれは、何をしているのかしら……?」
アイリの視線の先には、先ほどの少年たちがいた。
マスターもサーヴァントなんてものも見当たらない。
彼らは野球に勤しんでいた。
つまり、そういうことだった。
上条「………は?」
アイリの視線の先を見ると、先程の少年達が居た。
上条が投げたボールを使い、試合を行なっている。
上条「なにって……野球、だろ」
アイリ「…………野球…?」
首を傾げながら上条の言った単語をアイリは呟いた。
上条「えーっと、そのリアクションからすると、初めて見たのか?」
アイリ「………な、何よ。別にあんなもの知ってようがあなたには関係な」
上条「正直に言うと?」
アイリ「初めて見ました…」
そう答えるアイリに上条は驚きを隠せなかった。
上条「え…?もしかしてアイリさんって箱入り娘だったの…?確かに城に住んでる辺りセレブな感じはするけど…?」
アイリ「べ、別に良いじゃない。それに、箱入りではないわ。車だって運転出来るもの」
箱入りと言われたのが恥ずかしかったのか、そんなことを言ってアイリは上条に反論した。
上条「いや、別に馬鹿にしてるとかじゃねぇよ。城の中でしか過ごしてない割には元気だなー、って思っただけだし」
アイリ「そう、ね。でも、私は最初から感情を露わにするタイプでは無かったわ。切嗣が居てくれたから、今の私がいるのよ」
そう言ってアイリは続ける。
アイリ「実は、こんな風に外に出るのは初めてなの」
上条「え!?本当かよ?」
アイリ「ええ」
驚く上条を気にせずにアイリは話し始めた。
アイリ「だから、上条君に無理言って買い物をしたのも、こんな風に街を歩いているのも、実は私の我儘なのよ。聖杯戦争とは何の関係もないけれど、私にとって初めての街、初めての景色を自分の足と目で見てみたかった。上条君にとっては何でもないことなのかもしれないけれど、私にとっては新鮮で、体験してみたかったものなの」
そんな風に語るアイリは嬉しそうでもあり、上条にはどこか悲しそうにも見えた。
アイリ「この戦いは壮絶なものよ、上条君。自分の身がどうなるかなんて誰にも分からない。だから戦いが始まる前に、最期になるかもしれないこの風景を、目に刻んでおきたかったのよ。切嗣には怒られてしまうかもしれないけどね」
アイリ「それに私は……いえ、これは言わなくても良いわね」
そう言ってアイリは言葉を切った。
二人の間に少しの静寂が訪れる。
が、すぐに。
上条「ああ、くそ!ふざけんな!!」
と、上条が大きな声で言った。
そんな様子の上条を見てアイリは言う。
アイリ「ええ…ごめんなさい。こんな無関係なことに費やす時間も労力も無いってことは、私も分かってた。今日はここまで、もう帰りましょう」
そう言って立ち上がるアイリの前に上条は立ちはだかる。
上条「違う!そんな事情があるなら、先に言えって言ってんだよ!」
アイリ「え…?」
上条「ったく、行くぞ!ほら!」
そう言って上条はアイリの手を握り、歩き出した。
アイリ「ど、どうしたの上条君!?」
上条「どうしたも何もあるかよ!」
そう言いながら上条はアイリに向き直り、叫ぶ。
上条「何も恥ずかしがることなんかねぇ、何も躊躇う必要なんかねぇだろ!」
アイリ「え…」
上条「無関係なことだ?無駄な時間だ?そんな訳ねぇだろ!あんたがやりたいって思ったんだろ?あんたがずっと願ってたことなんだろ?だったら聖杯戦争なんて小せぇ事情なんか無視して一番にやるべきに決まってんだろうが!」
アイリ「いえ…でも…」
上条「でも、じゃねぇ!」
上条「確かにアイリさんはこの戦いに勝たなきゃならないのかもしれない、聖杯を手に入れて望みを叶えたいのかもしれない」
上条「でもそれはアインツベルンの魔術師としての願いだろう!?あんたは人間だ!魔術師である前に人間なんだろうが!だったら、自分がやりたいと思ったことは我慢なんかしないでやるべきなんだよ!」
アイリ「………人間、だから…」
その言葉は、アイリが初めて聞く類のものであった。
別に切嗣がいつもアイリに向かって冷たい事を言っている訳ではない。むしろ切嗣はアイリを気遣い、大切に思っていることが分かるであろう言葉を贈ってくる。
けれど、その言葉は切嗣のものとは違って、
何故か暖かく、自然と信じたくなるような強さがあるように感じた。
上条「ほら、行くぜ!世界は違うけど、一応俺の生まれた国だからな、案内は任せろよ!」
そう言いながらアイリの手を取る上条は、先程までとは違い、自身も楽しんでいるように見えた。
アイリ「…でも」
アイリは断ろうとした、けれど。
上条「うーん、どこにしようかな。アイリさん野球知らないんだろ?なら、バッティングセンターとかも悪くないな!あー、でもスポーツ全然知らないなら、それこそ色んなスポーツが出来るアミューズメントパークとか良いんじゃないか?あそこならゲームも出来るしな!どうだ?アイリさん?」
目の前の少年がまるで子供の様な顔で計画を練っているのを見て、そんな自分が馬鹿らしく思えてきて、
アイリ「ええ!とても楽しそう!」
そう言って二人は再び街に繰り出した。
それからは色んなところに行った。
野球を知らないと言ったアイリの為にバッティングセンターに行ったり、アイリが見たことのない動物が沢山いる動物園にも行った。
アイリはどこに行っても楽しそうで、一緒にいた上条も嬉しかった。
しばらくして日が暮れ、最後にアイリが行きたいと言った場所は。
海、だった。
ーーー海岸
上条「うお、流石にすごい景色だな」
アイリ「ええ、素敵ね」
上条「本当だな。…俺も記憶なくなってからはそこまで海に来たことないから、少し感動モンかもなー。……前来た時は『天使堕とし』やらなんやらでそれどころじゃなかったしな……」
アイリ「ん?上条君どうかした?」
上条「いやー、なんでもねーよ」
基本属性が不幸である自分が今更過去を振り返っても仕方ない、と考え直し素直に海の景色を楽しむことにした上条。
だが代わりに、数ヶ月前の切嗣との会話が蘇ってきた。
---
切嗣「まず、お前の宝具を教えろ」
上条「は?宝具?」
唐突な切嗣の質問に面食らう上条。だが、そんなことを気にせずに切嗣は続ける。
切嗣「ああ、宝具だ。英霊には最低一つ、自らの神話や伝承に即した武器や道具がある。聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは皆それを持って現れるのが普通だ」
上条「って言われても、俺は英霊なんかじゃねーんだけどな…」
切嗣「なんだ?本当に宝具もなにも持って無いって言うのか?戦力外にも程があるぞ」
失望を隠そうともしない切嗣。そんな様子に上条は少しムッとしながら自らの右手を差し出しながら言う。
上条「まぁ、宝具なんて大層なもんはねーけど……一応、俺の右手に能力はあるぞ」
切嗣「なんだ……右手だと?」
訝しむ切嗣に上条は続ける。
上条「ああ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。それが俺の右手に宿ってる能力だ」
切嗣「幻想…殺し?随分と大層な名前だな。見掛け倒しか?ただの右手にしか見えない、何か魔力を感じるわけでもないぞ」
上条「ああ、普段はただの右手と変わんねぇよ。なんせ俺の右手は『異能の力を打ち消す』って能力を持ってるからな」
切嗣「なんだ…?異能の力を打ち消す…だと?」
上条「なんなら、試してみるか?なんでもいいぜ、魔術的な力が加わっている物品とかでも俺の右手の能力は発動するんだからな」
そう言いながら、右手を差し出す上条。
切嗣(魔術的な力が加わっていれば…か)
そうして切嗣は懐からある銃弾を取り出した。
上条「あん?なんだこれ?銃弾…か?これに魔術的な力が加わってんのか?」
切嗣「ああ、一見するとわかりにくいが、確かに魔力を通してある」
切嗣(こいつの右手とやらはどこまで信用できるか分からない。なら、僕の最大霊装で試す。奴の能力がもしこの『起源弾』を打ち消すほどならば、戦力としての見込みが生まれるかもしれない)
切嗣(数が多い弾ではないが、元々この聖杯戦争で使う機会は最後になるはず…いや、最後にするんだ。なら、弾の一つくらいは消費してもかまわない)
上条「んじゃ、渡してくれ」
そう言いながら上条は起源弾を受け取る。
その瞬間、
バギン??????、と。
ガラスを思い切り割ったかのような強烈な音が部屋に響いた。
切嗣「………っ????」
思わず飛びのく切嗣。
しかし、体に害はない。
念のため五体の調子を確かめた後、上条の右手に目を向ける。
そこには。
砂のように細かい、起源弾の残骸が残っていた。
ーーー
上条(あれからろくに話もしてないけど、切嗣も日本に着いてんのかな)
上条は切嗣の行動を聞いていない。
いつでも助けに入れるように隠れているのか、そうでないのか。
上条(アイリさんには特殊な霊装があって、それがある以上危険は無いって聞いてるけど…)
正直言って気は進まない。例えそんな霊装があったとしてもアイリを危険に晒していることに変わりはないし、上条の様なイレギュラーが現に存在する以上、油断も出来ない。
上条(なんにせよ、俺のやることは変わんねぇ、か)
アイリ「上条君?どうしたの?随分真剣な顔ね」
上条がしばらく黙っていたせいか、アイリが顔を覗き込みながら声をかけてきた。
上条「いや、ちょっと考え事してただけだ」
なんか、!が?に変換されてるところありますね、すいません。
一旦切りますね、あとは夜に投稿したいと思います。
乙
初ssで長編は大変だと思うがとにかく完結目指して頑張ってほしい
なんかバグ多くないか?環境大丈夫?
地の文にもスペースいれたらどうや
>>43 ありがとうございます。自分のペースで頑張ってみます。
>>44 どうやら行数が多すぎると出るバグみたいです。原因分かったので調整していきたいと思います。
再開します。
読んでくれてる人ありがとうございます。
そう言いながら携帯を開くと海に来てからかなり時間が経っていた。
上条「うお、もうこんな時間か。そろそろ帰るか、アイリさん。アイリさんも疲れただろ。うおー、なんていうか、濃い一日だったなぁ」
軽く伸びをしながら歩き始める上条。しかし、しばらくしてもアイリの足音が聞こえないので、上条は後ろに振り返った。
上条「どうした、アイリさん。帰らないのか?」
上条がそう声かけると、アイリは頷きながら、
アイリ「上条君、今日は本当にありがとう」
笑顔でそんなことを言った。
上条「何言ってんだ。今日はとことん付き合うって最初に言っただろ?別に気にすることなんかないって。俺も楽しかったしな」
アイリ「いえ、そういうことじゃないのよ」
アイリはそう言うと、笑顔のまま続ける。
とても、嬉しそうに。
アイリ「上条君には言ってないけれど、実は私…」
アイリ「ホムンクルスなの」
あと、!が?に変わるバグは、携帯からやってるんで、その辺の変換齟齬みたいです。
本編の方は、見てくれてる人が多そうだったら結構話進めるつもりです。
色々とごめんなさい、続きです。
上条「ホムン…クルス…?」
アイリ「ええ、私は真っ当な人間ではない、アインツベルンによって作られた存在なの」
驚く上条をよそにアイリは続ける。
上条「なんで…そんなこと初めて聞いたぞ!?」
アイリ「ずっと黙っていてごめんなさい。今言った通り、私はアインツベルが作り上げた、とある目的を遂行するための存在なの」
言いながらアイリは強く上条を見据える。その目に宿る意志の強さは、昼間とは別人のようだった。
上条「目的…?なんの目的だよ?」
上条は思わずそんなことを聞いていた。
どうやって作られたのか、切嗣はそのことを知っているのか、数多くの疑問を差し置いてそれが出た。
何故最初にそのような質問をしたのかは上条自身にも分からない。
だが、頭の中でそれを聞き逃してはいけない、そんな風に警鐘が鳴っているような気がした。
何故だろうか。
訳もなく一瞬、『妹達(シスターズ)』と呼ばれる少女達の顔が頭に浮かんだ。
アイリ「ごめんなさい。そこまでは話せないの」
そう言った後、アイリは黙って俯いた。
その顔は厳しく、上条にはそれ以上追求できなかった。
そしてしばらくの静寂が流れる。上条は何と声を掛けていいか分からず黙っていた。
しばらくそうしていると、意を決して上条は一番最初に湧き上がってきた疑問を口に出した。
上条「そんな中途半端に言われたって俺にはなんも分かんねぇよ。……でも、なんで急にそんなことを俺に言おうと思ったんだ?アイリさん」
その言葉を聞いて、ようやくアイリは顔を上げる。
その顔には、笑顔が浮かんでいた。
アイリ「嬉しかったから」
上条「………え」
予想外の答えに上条は何も言えない。
しかし、アイリは笑顔のまま続けた。
アイリ「今言った通り、私は真っ当な存在ではないの。でも」
アイリ「あなたはこんな私を『人間』だと言ってくれた。好きなことを好きなだけやっていい、って言ってくれたから」
アイリはやさしい瞳で上条を見据えていた。その瞳は、アインツベルンの目的など忘れているようだった。
アイリ「嬉しかったの、とても。そんな風に私と接してくれる人なんて、切嗣とイリヤの他にはいない、そう考えていたから」
だから、とアイリは続ける。
アイリ「本当にありがとう。上条君。今日のことは忘れないわ。この戦いが終わった後も……きっと忘れない」
アイリは、笑顔でそう告げた。
少しばかりの沈黙、それを破ったのは上条だった。
上条「……別に特別なことなんかじゃないだろ」
アイリ「え?」
目を丸くするアイリに、上条は淀むことなく言葉を続けた。
上条「戦いが終わったら、またみんなで日本に来ればいいじゃないか。今度は俺達だけじゃない、イリヤと切嗣も一緒にまた遊びに来よう。アイリさんは今日のことを特別だって思ってるのかもしれないけど、そんなことないんだ。家族で遊んで、笑って。それが当たり前のことなんだ…だから、特別なことなんかじゃないさ」
上条「また俺が案内してやるよ。どこまでも付き合ってやる。だから、アイリさん。これで最後みたいに言わないでくれよ」
そう言って上条は、手を差し出す。
正確には、その小指を。
上条「ほら、指切りだ。今は信じられないかも知んないけど、絶対、今度はみんなで日本に来て、今日のことなんか些細に思えるくらいの思い出作りを手伝うからよ」
そして上条はアイリと指切りをした。
小さいけれど大切な、約束の証として。
アイリは自分の役目を自覚している。
その役目を終えた後に、自分がどうなるかも。
この約束が実現するのは、限りなく可能性の低いものだということも。
けれど。
それでも、アイリは。
アイリ「うん……約束ね」
この少年を、信じてみることにした。
『人間なら、やりたい事をやれば良い』。
そんな風に、彼女は教わったから。
アイリ「じゃあ、そろそろ城に行きましょう。大分時間を使ってしまったから」
そう言ってアイリと上条は海岸を離れることにした。
車を用意してあるとのことで、海岸に来た時とは違う道のりを進んでいる。
船の積荷を集めている場所なのだろうか、そこには多くのコンテナが存在していた。
だがコンテナ同士の間隔がかなり広いので、狭いという感覚はない。
しかし夜の暗さと相まって、コンテナの影などが少し不気味な雰囲気を醸し出していた。
上条「何つーか…何か出そうなとこだな」
思わず呟く上条。
しかし、アイリには意味が伝わらなかったらしく、
アイリ「何か?何かってなにかしら?」
と、呑気なことを聞き返してくる。
自分だけが怖がっているようで気恥ずかしくなった上条は、
上条「な、なんか良くないものってこだよ!いいから早く抜けちまおうぜ」
と、アイリに言いながら足を速める。
その瞬間、
?「なるほど、良くないものとは言ってくれる」
そんな声が、正面から響いた。
もういいや、話結構進めちゃいます!笑
その声と共に、空気が変わる。
上条(な、んだ…いつの、間に…)
警鐘が鳴る。
肌にピリピリと何かが伝わる。
呼吸が乱れる。
迂闊に身じろぎさえ出来ない。
それすらも隙になると、身体が訴えてくる。
眼球をゆっくりと動かし、ようやく前を見据える。
もはや何者か、と聞くまでもない。
そこに居たのは、
上条「サーヴァント…か?」
?「ご名答」
暗がりから月明かりの下へと、現れたのは一人の男だった。
長身に黒髪と、外見に異様な点は見当たらず、特に一般人と大きく異なるようには見えない。
しかし、二つ。
その男を異様たらしめるものがあった。
一つは、その存在感。
サーヴァントと直に会ったことがない上条さえ、相対しただけでそれを認識する程の圧がある。
もし街中でこの男が歩けば、無意識にでも多くの人間がその背中を振り返っていたのかもしれない。
そしてもう一つ。
それは、その男の両手にある、
上条「槍……か?」
ランサー「その通り、双槍使いは珍しいか?この程度なら真名が割れる心配もないだろう。俺はクラスまでもコソコソと隠す気はないのでな」
アイリ「ランサーのサーヴァント…!」
アイリの口調と雰囲気が厳しいものへと変わる。
それは先程までのアイリとは違う、アインツベルンの魔術師が発しているものだった。
上条(これが…サーヴァント…)
切嗣やアイリから話は聞いていた。
自分が何らかの間違いで召喚され、真っ当なサーヴァントではないことを上条は重々承知している。
しかし、ここまで違うものか。
上条(明らかに普通の人間じゃねぇ。下手したら聖人クラスに太刀打ち出来るんじゃねぇか…?)
甘く見ていた訳ではない。
しかし、動揺は隠せない。
武器を持った相手とまともに戦えるのか。
そもそもこの右手が役に立つのかどうか。
多くの疑問が湧き上がる。
しかし。
上条(最悪でもアイリさんだけでも逃さなきゃならねぇ)
この男相手に逃げる隙を作れるかどうかは分からない。
上手く逃げても、再戦の可能性すらある。
いつかは戦う相手。
つまり、一つしか道はないのだ。
上条(やるしかねぇ…っ!)
そう考え、硬く拳を握り直す上条。
その直後。
屈め、と。
上条に向かって、全身が吠えた。
上条「………ッッッ!!?」
どこからか鳴る警鐘に、上条は抗わなかった。
頭が何かを考えるよりも速く、とっさに本能で身体を屈める。
そこを。
轟!!!、と。
上条の頭上を神速の槍が突き抜ける。
数瞬前に上条の頭があった位置を、だ。
上条「う、おおおおおおおッッッ!?」
無意識のうちに吠え、咄嗟に横へと転がる。
そうやって少しでも間合いを取る上条。
息を乱しながら、目の前の男を見据える。
上条と目が合うと、ランサーと呼ばれたサーヴァントは話し始める。
ランサー「ほう、今のを避けるとはな。意識の隙を突いた、半ば不意打ちのような一撃だったのだが」
冷や汗を流す上条とは対照的に、微笑さえ浮かべながらランサーは続ける。
ランサー「武器は持たず、構えは素人。こんなものがサーヴァントかと疑ったが、いやはや良い勘だ。どうやら甘く見ていたらしい」
その言葉に緊迫感というものは感じられない。
純粋に戦いを楽しんでいる、そんな風に上条は感じた。
ランサーが話している間、上条はジリジリとアイリの方へとにじり寄っていた。
上条(不意打ち紛いの攻撃してきた野郎だ…いきなりアイリさんが狙われてもおかしくねぇ)
そんなことを考えながら足を少しずつ動かす上条。
その様子を見てランサーは、
ランサー「心配するな、お前のマスターをいきなり襲ったりなどはしない」
と告げた。
その言葉に上条の心臓が跳ねる。
どうやら、こちらの思惑は見透かされているようだ。
上条「心配するなだと?あんな攻撃仕掛けておいて、よく言えるな」
軽口を叩きながらも上条は足を動かす。
ランサー「そう言うな。さっきのはお前の実力を計りたかっただけだ」
手の中の槍を弄びながらランサーは続ける。
ランサー「俺の一撃を躱したんだ、お前はそれほどの実力者だということ。そしてこれは一対一の決闘だ。マスターを狙うなどと無粋なことはしない」
ランサーが嘘を言っているようには見えない。
だが、信用する理由もない。
上条「うるせぇよ。なんでこっちがあんたの戦い方に合わせなきゃならねぇんだ。何ならこっちが先にあんたのマスターを捕まえたっていいんだぞ」
そう言いながら辺りを見回す上条。
そして周りにランサーのマスターらしき人物がいないことに気づく。
ランサー「ああ、悪いな。我がマスターはこの近くにはいない。故にお前は俺のマスターを狙うことなどできない。むしろ合わせているのはこちらの方かもしれないな」
言い終えて、ランサーは槍を構える。
ランサー「なに、俺も召喚されてから会うサーヴァントはお前が初めてでな。少し昂ぶっている」
雰囲気がガラリと変わる。
その男の目には眼前の敵しか見えていないようだった。
そんなランサーの様子を見て、上条もまた意識を研ぎ澄ます。
この男が戦う理由は知らない。
勝ち目があるかどうかも分からない。
自分の居たのとは違う世界で、見たこともない存在と戦おうとしている。
しかし。
戦わなければ、何も守れず。
自分の背には守らなければならない人がいる。
それだけは、いつもと変わらない。
だから。
上条は、その右手を握りしめた。
そして。
ランサー「……行くぞ」
短い言葉と共に、両者は激突した。
ランサー「……ッ!」
短い気迫と共に横薙ぎに繰り出される槍撃。
その直前、上条のこめかみに電流のようなものが走る。
上条「うぉっ…!」
思わず首をすくめ、上手く槍を躱す。
槍の下にへと入り込み、そのまま前へと進む。
そして、次の槍が来ない間に懐へと潜り込む上条。
上条(この位置なら、俺の方が速い!)
そう考え、全力で拳を突き出す。
しかし、
ゴッ!!、という音と共に上条の身体に衝撃が走った。
上条「がっ……!?」
ランサーによって蹴り飛ばされたのだ、そう気づく前にその衝撃で上条は転がりながら吹き飛ぶ。
全身を打ちつけながらも、ようやく身体が止まったところで立ち上がる。
上条「くっ…そ!」
敵を見据える。
そこには、片足を上げたままの姿勢でいるランサーがいた。
アニメの幻想殺しの異能打ち消し音は打ち消しをわかりやすくするためのものであって本当は音なんてしないよ
ランサー「どうした?俺の武器は槍だけではないぞ」
言い終えて、ランサーは間合いを詰めてくる。
ランサーは槍だけで攻撃してくるのでは無い。
しかし上条は素手だ、どうしても武器に過敏に反応してしまう。
上条(槍だけでも手一杯だってのに…!)
繰り出される槍撃を躱す上条。
しかし、攻撃の合間を縫って繰り出される打撃がダメージを少しずつ蓄積していく。
上条(クソ、避けきれねぇ…っ!)
再び衝撃。
迫り来る攻撃を躱しきれない。
「幻想殺し」など関係なく、相手に触れることが出来ない。
上条(このままじゃジリ貧だ…!)
状況を打開するため、
ダン!!、と地面を蹴り攻撃に転じる上条。
しかし。
ゴッ!!、と上条の顔面に蹴りが突き刺さる。
単調な動きでは近づく事さえ出来ない。
上条(ち、くしょう…ッ!!!)
後ろに飛ばされながら夢中になって悪あがきのように腕を振り、ランサーの足に右手で触れた。
その瞬間。
ぐらり、と。
ランサーの視界が「歪んだ」。
>>58 あ、原作では確かに音は鳴りませんよね。なにぶん素人なので、上条の幻想殺しが上手く表現できるものなのか?と、不安になったのでアニメのように効果音が付いているということで書かせて頂きました。表現力が無いものですから、この後もなるべくこんな感じでいこうと思っています。ご指摘ありがとうございます。
ランサー「………ッ!?」
思わず飛び退くランサー。
いきなりの事に困惑するが、視界の異常はもう無い。
だが、言い表せない奇妙な感覚を感じていた。
ランサー(なんだ…今のは。現界してから一度も感じなかった感覚だぞ…?)
つまり今のを引き起こしたのは。
眼前にいる、サーヴァント。
ランサー(一体何が…?)
ケイネス『おい、ランサー。何を手こずっている』
困惑するランサーに声がかかる。
ランサーはそれに素早く答えた。
ランサー「主よ、敵のサーヴァントは一筋縄でいく相手ではないようです。油断はできません」
声の主は呆れたように続ける。
ケイネス「はぁ…私の引いたサーヴァントはどうやらこんな簡単なことにも気づかないらしい」
ケイネス「マスターを狙え。マスターを。マスターが死ねば、魔力供給は止まりやがてサーヴァントは消滅する。ならば貧弱なマスターを先に始末する方が効率が良いのは明白だろう?」
当然のようにケイネスは告げた。
しかし、ランサーはその提案を受けたりはしない。
攻撃を受けながらもなお立ち上がろうとする上条を横目に、
ランサー「なりません。これは俺とあのサーヴァントとの決闘なのです。誰にも邪魔することはできません」
と答えた。
ケイネス「………」
わずかに沈黙が流れる。
声の主に宿るのは怒りか、落胆か。
直接相対していない以上は分からない。
だが、主が激怒しようともこの決闘を汚すことはできない、そうランサーは考えていた。
ケイネス「そうか、なるほどな」
しかし、予想に反してその声は平静なものであった。
訝しむランサーを無視して声は続く。
ケイネス「なるほど、お前はそういう男だったなランサー。確かにその信念は中々だが…この戦いにおいては不要なものでしか無い。それが分からない、と言うのであれば仕方ない。主として、お前に教え込むほかないな」
その言葉が含む何かを感じ、ランサーは思わず身構える。
そして、ケイネスはこう告げた。
ケイネス「令呪をもって命ずる」
ランサー「……ッ!?」
ケイネス「アインツベルンのマスターを、殺害しろ」
~~~
上条「…くっそ、ボコスカ蹴りやがって…」
悪態をつきながら立ち上がる上条。
そして再びランサーに目を向ける。
そこには、変わらぬ様子で佇むランサーが居た。
しかし何故か。
上条(なんだ…?)
嫌な予感を、感じていた。
その時、ランサーはちょうど槍を振り上げている途中だった。
槍を投げるつもりか、と上条の警戒心が跳ね上がる。
ランサーと目が合った。
その目は、今までとは違う感情を宿しているようだった。
そしてランサーの視線は外れ、他のものへと移っていく。
何を見ているのか、一瞬では上条には判断出来なかった。
ランサーの手から槍が放たれる。
ヒュッ、という軽い音が夜空に響く。
そして。
そして。
一本の槍が、アイリスフィールの胸の中心へと突き刺さった。
上条「………あ?」
思考が停止した。
状況が飲み込めなかった。
何が起きているのか分からなかった。
いつの間にかアイリの傍にランサーが立っており、アイリに向かって手を伸ばす。
ランサーはアイリの胸にある槍を引き抜き、アイリから離れていった。
直後にドサリ、という音と共にアイリが崩れ落ちた。
上条「あ、あああああああああ!?」
絶叫し、走った。
ランサーから受けた攻撃の痛みなどもはや感じなかった。
ただ、早く駆けつけなければならないと本能が訴えていた。
アイリに手を伸ばし、その上体を起こす。
上条「おい!アイリさん!大丈夫か!?返事してくれ!!」
必死になって叫ぶ。
しかし、返答は無く。
アイリの口からは、微かな呼吸音が漏れ出しているだけだった。
アイリの傷口から流れる鮮血が、アイリの白い服を赤く染め上げていく。
それを見てようやく、上条は何が起きたのか気づいた。
アイリが、攻撃されたという事実に。
何故いきなりランサーはアイリを攻撃したのか。
何かアイリを助ける手はないのか。
切嗣が言っていた礼装の効果はなぜ発揮されないのか。
数々の疑問が浮かぶ。
しかし、それら全てを置いて上条は。
上条「この、クソ野朗がぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
ただ、真っ直ぐに。
己の敵へと、向かっていった。
ランサーは己に向かってくる少年を真っ直ぐに見つめていた。
ランサー(私のした事は、騎士として許されることではない)
自ら持ちかけた決闘、それを自ら汚してしまったのだ。
マスターの介入があれど、その事実は変わる事はない。
ランサー(マスターは脱落した。お前の魔力も尽き、やがて消滅するだろう)
ランサーは槍を構える。
ランサー(ならば最後にその拳と我が槍、どちらが上回るか決着をつけよう!)
そして槍を突き出す。
それに向かうように上条も拳を突き出す。
ランサーはそれを躱しはしない。
正面からその拳に挑んでいく。
槍と拳の距離が徐々に縮まる。
やがてその距離はゼロとなり、両者の一撃が正面から激突する。
そして。
そして。
バキィィィィィィィン!!!、という音と共に、
その幻想(ほうぐ)は、根本から砕け散った。
ランサー「な、に……ッ!?」
槍兵から、初めて困惑の声が上がる。
無理もない。
生前を含め、自らの槍がこんな姿になったのを見たのは初めてなのだから。
ランサー(拳で、俺の槍を……!?)
しかしランサーの思考はここで中断される。
なぜなら、槍を砕いた上条の拳が眼前まで迫っていたからだ。
普段の彼ならこの攻撃を躱すことなど簡単なことであっただろう。
しかし、自らの宝具を破壊された直後となれば話は別。
ランサー(しま……っ!)
動揺した今のランサーには、その拳を受ける他に道は無かった。
上条「う、おおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォッッッ!!!」
ドゴォン!!、と。
咆哮と共に、渾身の一撃がランサーに撃ち込まれる。
ランサー「が……ッ!」
耐えきれず、たたらを踏むランサー。
だが、所詮素手での一撃。
それだけであればランサーは瞬時に距離を取り、再び攻撃を仕掛けることも出来ただろう。
しかし。
先程と同じ「異変」が、ランサーを襲う。
ランサー「な、んだ……!?」
その正体は「揺らぎ」だった。
視界が、平衡感覚が、存在が揺らいでいくような感覚。
それらが一斉にランサーに襲いかかり、意識を逸らす。
同時にそれは攻撃に転じようとするランサーの動きを妨害する。
その隙を、上条は見逃さなかった。
ゴッ!!!、と。
ランサーの顔面を上条の拳が捉える。
ランサー「ぐ……ッ!」
そして訪れる「揺らぎ」。
それは再びランサーの動きを妨げる。
ランサー(何だ一体…!?奴の拳を受けるたびに……ッ!?)
ドッ!!!、と。
今度は腹部へと拳がめり込んでいく。
ランサー(くそッ……!またか!?)
「揺らぎ」は収まらない。
それどころか、さらに激しくなっている気さえする。
ランサー(このままでは……!)
攻撃を喰らい続けるハメになる、そうランサーは考えた。
ランサーの視線の先には再び拳を振り上げる上条がいる。
攻撃を喰らい続ける限り「揺らぎ」は収まらない、ランサーは直感でそう感じ取っていた。
だから。
ランサー「ぐ、おおおおおおおッッッ!!」
「揺らぎ」に体を傾かせながら。
最大限の力で、残った片方の槍をコンクリートに叩きつけた。
ランサーの叩きつけた槍はコンクリートを捲り、破片を飛び散らせる。
それは眼前に迫っていた上条へと、容赦なく降り注いだ。
上条「ぐぁ………っ!?」
咄嗟に腕を交差させて顔を守る。
しかし全ての破片は防げず、腹、足といった箇所に破片がめり込む。
ようやく出来た隙に、ランサーは距離を取ることに成功する。
だが、安堵などは出来なかった。
混乱は、まだ解けた訳ではない。
ランサーはもう何も持っていない片方の手を見つめる。
ランサー(霊体に変えられた訳じゃない。本当に、俺の槍が『消えた』………だと!?)
問題はそれだけではない。
ランサー(あの男の攻撃。いや、あの『右手』か?あれは只の攻撃などではない)
先程とは違い、少しずつ冷静になった頭ならある程度予測が出来る。
ランサー(あの体が『揺らぐ』ような感覚。あれは身体が揺らいでいるのではない)
そして結論を導き出す。
ランサー(間違いない。あの右手は、俺の『霊核』に干渉している……!!)
信じ難いが、そう考える他ない。
あの右手は、触れるだけで相手の霊核を不安定な状態にしている。冗談のようだ、そんなもの聞いたことがない。
しかし宝具を消し飛ばされている以上、何が起きてもおかしくない状況なのだとランサーは考え直す。
ランサー(…待てよ、まさか)
自分の体、正確には顔のあたりに意識を向ける。するとランサーの呪いである、その泣き黒子。
それが、解呪されていることに気づいた。
ランサー(忌々しい、俺の黒子の呪いまで、打ち消している……だと!?)
ランサー(何て奴だ……!)
どうやら敵は、魔力が関係しているものに干渉できるらしい。
迂闊に槍での攻撃はもう出来ない。
腕力で槍が破壊されたのならばまだ理解できる。それならば力を受け流し、槍への負担を減らすことで対処も出来ただろう。
しかし、そうではなかった。
槍は拳と接触した『瞬間』に破壊されたのだ。
もし次にあの右手に触れられたら最後、ランサーの武装は無くなる。
そう考えると、ランサーに残った槍を無闇に使うことなど出来なかった。
上条(……いける)
動揺を隠せないランサーとは違い、上条は手応えを感じていた。
上条(あの槍、妙にリアルだから魔術もなんも関係ねぇ武器かと思って避けてたけど、俺の右手で打ち消せた。ってことは、あれが切嗣から聞いた『宝具』ってやつだったのか)
そして、拳を握り直す。
上条(なら、槍を気にする必要はねぇ!!もう一つの槍も壊せれば、形勢は変わるはずだ!!)
そしてランサーへと歩を進めようとした、その時。
アイリ「上、条……君…」
そんな声が、後ろから聞こえてきた。
はい、今日はここまでにします。
大分ストック使っちゃいましたね笑
色々とツッコミたい部分があるかもしれませんが、最後までお付き合いしてくれたらな、と思います。
個人的にはバトルシーンまでようやく漕ぎ着けたので、ちょっとした満足感あります笑
見てくれた方ありがとうございました。
ストックを貯めたいので、一週間くらい空くかもしれませんが、よければまた見に来てください笑
ありがとうございました、おやすみなさい。
再開しますね、よろしくお願いします。
上条「え………」
驚きながら振り向く上条。
そこには、
上体を起こしながらこちらを見ているアイリが居た。
ランサー「な、んだと?」
驚いたのは何も上条だけではない。アイリを攻撃したランサー自身も驚愕していた。
そんなランサーを気にも留めず、上条はアイリの元へと駆け寄る。
上条「アイリさん!?どうして……傷は!?大丈夫なのか!?」
先程槍が刺さってた箇所に目を向ける。その周囲の服は赤く染まっていたが、しかし、
上条「傷が……なくなってる……?」
アイリ「ええ、どうやら予め持っていた礼装がようやく効果を発揮したみたいなの」
上条「マジかよ……どんだけ凄い礼装なんだそれ…ってか何で発動が遅れたんだ?」
上条は知る由もないが、アイリの持つ「全て遠き理想郷(アヴァロン)」は確かに強力な礼装である。しかし、その効力はとある宝具によって阻害されていたのだ。
その名は「必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)」。
英雄ディルムッドが持つ、武具の一つである。
曰くその槍がつけた傷は、槍が破壊されるか、持ち主が死ぬまで生涯残り続けるという。
その呪いが、アイリを蝕んでいたのだ。
もし、呪いが解除されていなかったら、アイリはそのまま死亡していただろう。
しかし幸か不幸か、上条の幻想殺しがその槍を破壊した。
そのため呪いは解け、今になって「全て遠き理想郷」の効果が発揮されたのだ。
元々アーサー王召喚の触媒であったこの鞘だが、上条の出現と同時に何故かそれは魔力を宿していた。その為切嗣はアイリの自衛のために、と鞘を渡したのである。
上条「なんにせよ良かった。とにかく下がっててくれ、アイリさん。また怪我されたら洒落にならねぇ、それに」
そう言って上条はランサーに向き直る。
上条「まだ、終わってねぇ」
そんな風に言う上条に、ランサーは正面から答える。
ランサー「その通りだ」
そして、ランサーは続ける。
ランサー「弁明の余地は無いが、お前のマスターを攻撃したことを詫びたい。俺の意思ではないとはいえ、許されない事をした」
上条「……令呪ってやつか」
ランサー「…ああ」
小さく答えるランサーに上条は言葉を続けた。
上条「退く気は、ねぇんだろ?」
ランサー「……ああ」
その言葉を合図に、再び激突が起ころうとしていた。
幻想殺しがある限り、ランサーは迂闊に槍を使えない。しかし、それはランサーが退く理由にはならない。
両者の緊張が高まり、弾けようとした、しかしそれは。
?「ふははははははは!!!良い!実に良いぞ!!心踊るわ!!!!」
ある男の言葉によって、中断することとなる。
それは、雷だった。
比喩ではない。
急に現れたソレは、その名の通り「雷」と共に上条たちの前に現れた。
ランサー「な……!」
上条「……んだ!?」
両者ともに驚愕の声が上がる。
そして。
?「ふははは!!我が誰と申すか?よろしい!これほどの決闘を見せた勇者に隠す理由などありはせん!!!」
声の主は、男。
二頭の牛に引かせた戦車に乗っている。
圧倒的な巨躯、それはその自尊心を体現しているかのようだった。
そして呆然とする二人をよそに、その男は高らかに告げる。
ライダー「我が名は征服王、イスカンダル!!!此度の聖杯戦争においてライダーのクラスにおいて顕現した!!!さて要は相談だ、お主達」
巨躯に似合わなぬ朗らかな笑顔で、二人の男に声をかけるライダー。
発せられた言葉は、どちらにとっても予想外のものだった。
ライダー「我が軍門に降り、我が軍勢として余に聖杯を譲る気はないか!!!?」
上条「……………は?」
純粋な第一声である。
聖杯戦争は何が起こるか分からない、と聞かされてはいたがこんなことまで起こるとは流石に予想外だ。
上条「あんた…何言ってんだ?」
ライダーならばこの男は、上条と戦う相手の一人ということになる。
正直、他のサーヴァント達は問答無用で切り掛かって来るような相手ばかりだと考えていた。
しかしこんな男もいるのか、と上条は考え直す。
ライダー「言葉通りの意味だが?それより小僧、先ほどの戦い中々に見事だったぞ。ランサー相手に素手で挑み、一矢報いるとはな。マスターへの忠義も深いように見える、中々に面白い奴よ。その心意気、主を変えて発揮しようとは思わんか?」
そうライダーが言った直後。
ウェイバー「おい!ライダー!!お前って奴は、一体何してくれやがってるんですかぁ!!?」
ライダーの傍から声が聞こえて来た。
姿を現したその男は小柄な男だった。傍に居るライダーの巨躯と相まって、さらに小さく見えるようだった。
ライダーに声を荒げているあたり、ライダーのマスターなのだろうかと上条は考える。
ウェイバー「ギャッ…!!!」
バチン!!という音ともにウェイバーが変な声を出した。
どうやらライダーが額にデコピンをして黙らせたらしい。
ライダー「さて、話の続きだ。返答はどうかな?勇者達よ!!?」
ランサー「断る」
即答するランサー。
ランサー「此度の聖杯戦争において俺の主は、ただ一人。そしてその方に聖杯を捧げることが我が使命だ。故にあの方以外の者に忠義を捧げることなど無い!」
ライダー「あー、それは残念だ………お主はどうだ?名は何という?」
分かりやすく落ち込むライダー。
しかし、タダでは転ばぬつもりらしい。
ライダーの目が上条に向けられた。
上条「お、俺は上条当麻だ。あと、やっぱりあんたの言ってる事は良く分からねぇ。軍門に降れ、ってめちゃくちゃなこと言ってんぞ」
でも、と上条は続ける。
上条「正直、俺は聖杯なんかに興味はない。アイリさん……俺のマスターを守る為にここに来たんだ。だから、戦いたくて戦ってるって訳でもねぇ」
上条「あんたは、悪い奴じゃない……気がする。だから、あんたとは戦いたくないって意味じゃあんたと同意見かもしれないけど」
そう、上条は付け足した。
ライダー「なるほど。上条といったか、正直、聞いたことのない名だが…。お前の方はまだ脈ありといった所だな。よしよし!余はいつでも歓迎するぞ!!!」
あれ?俺の言った事ちゃんと通じてんのか?、と心配になる上条を無視してライダーは、
ライダー「さて、そろそろ覗き見して居る連中にも出て来てもらおうか」
そんなことを、言い出した。
上条「覗き見…?」
ライダー「おうとも」
そう言ってライダーは辺りを見回す。
ライダー「あれほどの戦いを演じていた勇者に釣られて出てきた者が、まさか余だけとはあり得まい」
そこまで言うと、ライダーは顔を天に向け高らかに叫ぶ。
ライダー「さぁ!お主らも英霊と言うのならば、この場に馳せ参じるが良い!!!もしこの誘いを断ると言うならば、この征服王の侮蔑を受けると知れぃ!!!」
一瞬の静寂。
正直、覗き見しているような奴がこんな挑発に乗るのか?と上条は思っていた。
しかし。
コツン、という軽い音と共に。
1人の英霊が、現れる。
音の発信源は上条の後方から。
どこからか現れた1人の男が電灯に乗る足音であった。
思わず振り返る上条。
そこには。
ギルガメッシュ「まさか我以外に王を名乗る不敬者が現れるとはな。全くもって度し難い」
黄金に輝く鎧を纏う英霊が、こちらを見下ろしていた。
上条「なんだ…あいつ……?」
上条は思わずそう漏らしていた。
サーヴァントには色んなタイプの性格をした人間がいる、それはイスカンダルと会って上条が感じたことだ。
しかし。
ギルガメッシュ「王とはこの我を呼称する名だ。誰に許しを得て王を名乗っている、雑種」
このサーヴァントは、特に異質だ。
上条は、そんな風に感じていた。
イスカンダル「誰も何も、余は世界に名を轟かす征服王に違いないのだがなぁ」
困ったようにイスカンダルは呟く。
そこに悪意はなく、純粋に事実だけを述べている様子が伺えた。
しかし、ギルガメッシュはその返答が気に食わなかったらしい。
厳しい顔のままこちらを見下ろしながら、
ギルガメッシュ「喚くな」
そう言うと、ギルガメッシュの背から数本の剣が現れた。
上条(なんだ…?あれが全部あいつの宝具ってやつなのか…!?)
目を見開く上条。
切嗣の話だと、宝具は多くて二つか三つだと聞いている。
しかし、それより多くの武具が金色の英霊の背後に現れたのだ。
上条(反則だろ………!?)
そんな上条の心の声など聞こえるはずもなく、ギルガメッシュは続ける。
ギルガメッシュ「我の前で王を名乗ったこと、それは万死に値する。すぐに我自ら貴様にその罪を思い知らせてやろう、だが」
そう言葉を切ると、ギルガメッシュは上条の方に目を向けた。
いきなりギルガメッシュと目を合わせた上条は思わず体を強張らせた。
ギルガメッシュ「何だ?そこの薄汚い小僧は。見たところ魂の純度が高い訳でもない。ここは英霊のみが集う場所なのだろう?ならばあのような紛い物は、予め掃除しておくのが礼儀であろうが!!!」
上条(まず、い………ッ!?)
ギルガメッシュの怒声を合図として、
数本の宝剣と宝槍が、上条へと襲いかかった。
続きです。コメントありがとうございます。
ドゴォン!!!、と衝撃音が響き、土煙が舞う。
上条に攻撃を避ける時間など存在していなかった。
さらに、上条の身体能力は特筆するほど高いものでもない。なおさら回避など不可能であっただろう。
しかし、
ギルガメッシュ「おい、一体どういう了見だ…?鼠……?」
ギルガメッシュは、怒りを露わにしながらそんな言葉を発した。
そう。
上条の身体能力に特筆する点などない。
しかし上条当麻には、
神の奇跡すら打ち消す右手がある。
上条(あっ、ぶねぇ……っ!)
煙が晴れると、そこには右手を上げたままの状態の上条がいた。
なぜ上条がいきなりの攻撃に対応できたのかと問われれば、上条自身、咄嗟に体が動いた、としか答えられない。
実際のところ、上条にとって、その行動は賭けでしか無かった。
敵の得体の知らない攻撃、もしそれが異能の力もなにも関係の無い攻撃だったら右手から直撃して死亡していただろう。
しかし、上条が受け止めたのは宝具による攻撃。
よって、幻想殺しが効果を発揮したのである。
上条(宝具を飛ばして攻撃してくるのか…!?いきなり攻撃してきたのも含めても、コイツ、かなりヤバイ……!?)
なんとか初撃を躱した上条。
だが、ギルガメッシュの目は上条を捉えたままである。
ギルガメッシュ「……貴様、我の財に何をした………!!!」
怒りが収まっているようには見えない、むしろ怒りを増していることは誰の目からも明らかだった。
当然である。
英雄王の財。それを捌き、躱すことの出来る英霊ならば数人はいるかもしれない。
しかし、宝具そのものを「消す」ことの出来る者などこの世界に存在しうるのだろうか。
背後にさらに多くの宝具を展開しながら、ギルガメッシュは叫ぶ。
ギルガメッシュ「我の財宝はお前の命で償える程安くは無いぞ、小僧……ッ!!!」
十数本に渡って展開される宝具。
上条には幻想殺しがある。しかし同時に、上条はその弱点を十分に理解している。
右手しか効果を発揮しない幻想殺しは、異能の力が関係しない攻撃、上条自身が反応できない速度で迫る攻撃。
そして、数で押しつぶすそうとする攻撃に圧倒的に弱いのだ。
その場合、そこに異能の力の有無は関係ない。
つまり。
次に放たれる攻撃を、上条は凌ぐことが出来ない。
無事では済まない。
直感で上条はそう結論づける。
先ほどの戦闘、何も上条は身体能力だけでランサーの攻撃を避けていた訳ではない。
『前兆の感知』。
上条自身さえ自覚していない、上条を支える戦闘技術の一つである。
どのような攻撃にも予備動作というものがあり、能力者や魔術師といったように、扱う力が大きい程大きくなるソレを、上条は感じ取って攻撃を避けているのだ。
それがサーヴァントに対しても通用することは、先の戦いで実証されている。
そしてその『前兆の感知』が、次に放たれる攻撃を凌ぐことは難しい、と告げているのである。
上条(ちくしょう……!なら、アイリさんだけでも…っ!)
捨て身の覚悟でギルガメッシュの背後の宝具を睨む上条。
いよいよ宝具が放たれようとしたその時、
?「殺せ、バーサーカー……!」
そんな言葉が、冬木のどこかで発せられた。
少し経ち、攻撃が来ないことに気づく上条。
気になってギルガメッシュを見ると、ギルガメッシュはこちらを見てはおらず、別の方向を見下ろしていた。
その視線を追うと、そこには、
バーサーカー「…………」
漆黒の騎士が、屹立していた。
アイリ「バーサーカー……!」
アイリの声で乱入者が何者かを知る上条。
バーサーカー、理性を失うことで基礎的な能力を底上げしているクラスだと聞いていたが、話以上に不穏な空気を醸し出している、そう上条は感じていた。
ランサー「おい、ライダー。あいつは勧誘しなくていいのか?」
沈黙を破り、冗談めかしてライダーに話しかけるランサー。
それを受けてライダーは、
ライダー「誘うも何も、あいつはのっけから交渉の余地は無さそうなのでなぁ」
再びバーサーカーに目を向ける上条。
バーサーカーはこちらの話など聞こえていないのか、電灯の上に立つギルガメッシュを凝視している。
ギルガメッシュ「おい」
上条に向けられていた砲口が、バーサーカーへと狙いを変える。
ギルガメッシュ「一体誰の許しを得て我を見上げている、狗!!」
そして、宝具が放たれる。
バーサーカーは動かない。
ゴッ!、という爆音が再び夜空に響いた。
ーーー
時臣「…不味いな」
暗闇の中、ギルガメッシュのマスターは呟く。
聖杯戦争はまだ序盤、迂闊に手の内を晒すような行動は避けたい。
つまり、
時臣(ギルガメッシュにこのまま戦わせるのは得策ではない)
しかし、激怒する己のサーヴァントを撤退させるのは困難だ。それはこの短い期間でも分かりきっていること。
仕方ない、そう考えながら時臣は右手の令呪に目を向けた。
ーーー
ギルガメッシュが宝具を放ち、数秒後。
煙が晴れ、バーサーカーの立っていた位置が視認可能となっていく。
そしてそこには、変わらぬ様子で立つバーサーカーがいた。
ランサー「あれが、バーサーカーだと!?」
沈黙を破ったのはランサー。
その言葉に賛同しているのか、他の者が言葉を発することはない。
バーサーカーは、ギルガメッシュが放った宝具を空中で掴み、続く宝具をそれで撃ち落としたのである。
素人の上条ですら、あのバーサーカーが只者ではないことが分かる。
ギルガメッシュ「その薄汚れた手で我の宝具に触れるとはな!もはや血肉の一片も残さん!!!」
多くの砲口がバーサーカーに向けられる。しかし、その直後。
ギルガメッシュ「ほう…我相手に随分と大きく出たな、時臣!!!」
そう言ってギルガメッシュは宝具を収めた。
しかし宝具を収めただけで、瞳に宿る殺意は微塵も消えてはいなかった。
ギルガメッシュ「今の内に有象無象を間引いておけ。我と合間見えるのは、
真の英霊だけでいい」
そう言葉を残すと、ギルガメッシュは霊体化して消えていった。
上条「何だったんだよ……」
思わずそう漏らす上条。
辺りを見回すと、いつの間にかバーサーカーの姿も無くなっていた。
ライダー「全く、好き勝手な連中よのう」
あんたが言うのか、と突っ込みたくなるのを抑えて上条はランサーへと向き直った。
上条「どうすんだ?これ以上続ける気か?もしかしたら、バーサーカーがその辺で隠れて隙を狙ってるのかもしんねぇけど」
ランサーは、ふぅ、と息を吐いて構えを解く。
ランサー「いや、遠慮しておこう。ライダーもこの場に居るんだ、これ以上ここで消耗するのは避けたい。それに、お前への対策無しに戦うのは危険そうだからな」
ランサー「貴様の名、上条当麻といったな」
上条「…ああ」
それを聞くとランサーは槍を地面に突き刺し、高らかに宣言した。
ランサー「我が真名は、ディルムッド・オディナ!我が宿敵、上条 当麻よ。貴様との再戦、そして今は亡き我が槍の仇を討つことをここに誓おう」
言い終えて、ランサーは霊体化してその場を去って行った。
ライダー「ならば余も帰還するとしよう。今晩は良いものを見せて貰った。上条 当麻、我が軍勢に加わりたい時は、いつでも余に言うが良いぞ!!!」
豪快に笑ってライダーは空の彼方へと去って行った。
上条「あれが…サーヴァントか」
アイリと残され、呟く上条。
ランサーにライダー、そのどれもが常人には無い雰囲気を持っていた。
礼装のおかげでアイリは無事で済んだ、しかしランサーの槍があったように、これから先もアイリの安全が確保されている訳ではない。
アイリの安全だけではない。
上条自身の身を守ることすら危ういのかもしれない、
まだ出会ってすらいないサーヴァントは二騎もいる。
無事で済む確率の方が低いのは明確なのかもしれない。
でも。
それでも、戦うと決めたのだ。
上条の決意は変わらない。
小さな少女との約束を守る為に、彼は走り続ける。
上条当麻の存在は、果たして冬木の運命にどのような影響を与えるのだろうか。
それを知る者は、まだいない。
此度の聖杯戦争、その初戦はこうして幕を閉じた。
今日はここまでです。
今まで結構既視感のあるシーンがあったと思いますが、見てくれた方々ありがとうございます。
個人的にはここで一段落ついたつもりです、次回からは結構本編とは変わってくると思うので懲りずに見てくれたらな、と思います。(例の如く本編と同じシーンがあれば、詳細には描写しないつもりですが)
『前兆の感知』ですが、禁書本編より便利なものとして解釈してます。けど、これくらいじゃないと上条が太刀打ち出来ないので見逃して下さい。
まぁssだしな、くらいに受け止めて下されば幸いです。
また一週間後くらいに書き込みたいと思ってます。
また見に来てくれたら嬉しいです。
ありがとうございました。
ーーー新都
ケイネス「一体何だ!あのザマは!」
広大な部屋にある男の声が響き渡る。
そこは新都内にある高級ホテルの一室であった。
声の主は、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。此度の聖杯戦争のマスターの一人である。
ケイネスが座る椅子の前には、その激怒の矛先を向けられているランサーが臥していた。
ケイネス「よりによって素手のサーヴァント相手に宝具を破壊され、撤退するだと!?私のサーヴァントがこんなにも無能だったとはな!」
話の内容は先程行われた戦闘についてのものだった。
おそらくあのサーヴァントはアインツベルンが召喚したものであろう。横に居た白髪の女がそれを証明していた。
ランサー「…お言葉ですが、我が主よ。あの男、上条当麻の右手には特殊な力があるようです。俺の槍を破壊したのも、偶然ではありません。あのような特異な右手を相手に無策で戦えば、最悪残りの槍も破壊されると判断し、撤退した次第であります」
自分の意見を淡々と語るランサー。
相手の力量を把握するのが難しい聖杯戦争において、ランサーの選択が間違っておらず、勝利の為に必要な事だとケイネスは理解している。しかし、ランサーの考える「勝利」とは、ケイネスの目指す「勝利」とは少しズレたものなのである。
ケイネス「いいか、ランサー。ただ勝利するだけなら誰にでも出来る。しかし、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトによって召喚されたサーヴァントである以上、『完璧な勝利』が求められるのは必然だ!」
つまりケイネスの怒りの元は焦りだ。
自ら課した勝利条件がケイネスを縛り付けているのである。
ランサー「………」
そんなケイネスにランサーは何も言い返さない。
そこへ。
?「そこまでにしたら?」
と、声が一つ増える。
声の主は、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。
ケイネスの婚約者であり、ランサーへと魔力供給を行う、魔術師の一人である。
ソラウ「みっともないわよ、ケイネス。敵のサーヴァントの力量は知らないけれど、ランサーの槍は破壊され、撤退した。これが事実でしょう?起きてしまったことに固執しては、成すべきことも成せないんじゃないのかしら?」
ケイネス「そ、それはそうだが…」
口淀むケイネスにそう言い放つソラウ。
一見冷たく見える発言だが、なにもソラウはケイネスに対して侮蔑の意を含めたわけではない。彼女自身、事実を述べただけだと考えている。
そして、
ソラウ「けれどあなたを擁護するつもりもないわ、ランサー。敵サーヴァントの能力が分からないことは初めから承知していたはずよ。にもかかわらず、素手の相手に正面から戦うなんて、油断にも程があるんじゃなくて?」
ランサーに対してもその姿勢は変わらない。彼女は正面切っての戦闘に出ることはないが、その分冷静に状況を見極めていた。
ランサー「…返す言葉もありません、ソラウ殿」
ランサーは主の許嫁であるソラウにも従順に頷く。
その傍、ランサーは自らの黒子の呪いについて考えていた。
ランサー(ソラウ殿の様子が変わっている)
上条当麻との戦闘の前後でソラウのランサーに対する態度が明らかに変化しているのだ。それはランサーだけでなく、ケイネスの目から見ても明らかであった。
そしてランサーが抱いてた疑問は、確信へと変わる。
ランサー(どうやら、あの右手で俺の呪いが解呪されたのは事実らしい)
このことはランサーにとっては喜ばしい事でしかない。生前でさえ振り回された呪いに、二度と振り回される訳にはいかないのだ。
ソラウが黒子の呪いの影響を受けている危険性を感じていたランサーだが、どうやらその心配はないらしい。
ランサー(その点においては感謝するぞ、上条当麻)
今はいない宿敵に礼を述べるランサー。
ケイネス「君の言う通りだ、ソラウよ。だが、これ以上無様な姿は見せたりはしないさ」
ソラウに対して反論するケイネス。
ケイネス「このホテルには多くの魔術的な仕掛けを施してある。私の工房に攻撃を仕掛けることなど、サーヴァントでも手こずるだろう。つまり、これ以上遅れをとることなどない」
その言葉には自信が満ちていた。
ケイネスの言った通り、自らの工房とはまさに自分の土俵。ケイネス・エルメロイが本気で仕込んだ魔術工房に侵入できるものなど僅かしかいない。
ソラウ「そう。期待してるわよ、ケイネス」
その言葉には言葉以上の意味は含まれていない。
ソラウ自身、自らの変化に驚いていた。
この冬木に来る前まで、ランサーに対して不思議な感情を抱いていたのは自覚していた。しかし、ランサーとケイネスが帰還した時には、それは消えていたのだ。
ソラウ(あれは…何だったのかしら)
自身に疑問を抱くソラウ。
彼女に生じていた感情は、彼女にとって初めてのものだった。
しかし、それは既に消えている。
彼女が再びソレを抱く時があるのかどうかは、彼女自身にとっても分からないものであった。
ソラウの心情を知らないケイネスは、そんな風に答える自らの婚約者に満足そうに頷いていた。
ケイネスにとってソラウの目を惹くことは、何よりも重要なことなのである。
少し前までは、ランサーに甘い部分を見せていたソラウだが、今はそんな気配は無い。
とうとう頼りにするべき男を理解したか、と考えるケイネス。
次は完膚なき勝利を手に入れる、そう考えながらグラスを傾けた。
だが。
この会話の数十分後。
とあるホテルが爆発し、崩落したとのニュースが新都に走った。
ーーーアインツベルン城
上条「テメェ………ッ!!」
上条の鋭い声が響く。
その声は切嗣に向けて放たれたものだった。
ーーー
数時間前、上条とアイリは拠点とするアインツベルン城に帰還した。
アイリの運転する車は上条には少し恐ろしいものだったが、敵に遭遇することもなく無事に辿り着いた。
かなり大きい城に気圧された上条であったが、アイリと一緒に切嗣を待っていた。
そしてしばらくして帰ってきた切嗣の第一声が、
切嗣「マスターの一人を仕留めた」
というものだったのである。
普通のサーヴァントとマスターの関係であったら、この報告は喜ばしい事なのかもしれない。
しかし、この二人にとっては違った。
確かにこの聖杯戦争はマスターとサーヴァント同士が戦う儀式だということを上条は理解している、しかし。
上条「何で俺を呼ばなかったんだ!?マスターを脱落させたいなら、サーヴァントを倒せば良いんだろう!生身のマスターを狙う必要なんかねぇじゃねぇか!!!」
切嗣はビルを爆破させ、ビルごとマスターを始末した、そう告げたのである。
この世界の魔術師というものがどれくらいの強さなのかは知らない。しかし、無事では済まない筈だ。
それだけではない。一歩間違えれば関係のない人々も巻き込まれていたかもしれない。
切嗣「これが最善だ。たとえサーヴァントが消滅しようと、マスターの権利というものは残り続ける。マスターを失ったサーヴァントとの再契約されでもしたら厄介だ。殺すのが一番確実で、手っ取り早い」
激昂する上条に対して切嗣は動揺することなく反論する。確かに理屈の上では切嗣の言っていることは正しいのかもしれない。
だが、淡々と語る切嗣に上条は気持ちを抑えられなかった。
上条「うるせぇ!!マスターを失ったサーヴァントなんてまだいねぇだろうが!!!理屈捏ねたところで俺が納得するとでも思ってんのかよ!!!」
そう言って上条は切嗣へと一歩近づく。
気づけば、その胸倉を掴んでいた。
上条「大体、お前は世界の救済ってのを目指してるんじゃないのか!?こんなやり方で聖杯を手に入れたって、そんな犠牲の上に成り立ってる世界を『幸せ』なんて呼べる訳ねぇだろうが!!!」
切嗣の胸倉を掴みながら叫ぶ上条。
しかし、それでも切嗣の表情は変わらない。
むしろ、その表情はさらに冷酷なものになっているかのようだった。
切嗣「………黙れ」
切嗣は低くそう呟くと、乱暴に上条の手を引き剥がした。
切嗣「随分大層な事を抜かすもんだな。なら、早くサーヴァントを倒してきたらどうだ?ランサー相手に苦戦し、アイリを危険に晒した人間にそれが出来るとは思えないが」
上条「……!」
どうやら切嗣は、ランサーと戦っていた所を見ていたらしい。
しかし、その事実は余計に上条の怒りに油を注いだ。
上条「オマエ…ッ!見てたのかよ、俺達の事見ておいて何も手出ししなかったっていうのか!?アイリさんが攻撃されて知らん顔してたのも、戦略の為だ、って抜かすつもりかよ!!」
数秒の沈黙。
上条の視線を正面から受けて、切嗣は、
切嗣「……ああ、よく分かってるじゃないか」
ハッキリと、そう述べた。
上条「この野郎……ッ!!!」
もう我慢出来ない。
そう考えながら拳を握りしめ、切嗣へと飛び出す上条。
アイリ「やめてっ!上条君……!」
しかし、それはアイリの言葉によって止められた。
上条「アイリさん!でもコイツは……っ!」
アイリ「良いの、結果的に私は怪我なんかしてないわ!」
そう言ってアイリは、
アイリ「切嗣が倒したマスターのことは、正直私も受け入れられるものとは思ってないわ……でも、相手は私達を殺す気で動いてる。やり方は確かに強引かもしれない。でも、結果的には切嗣も私達を守る為にやった事なの」
アイリ「だから、二人で争ったりしないで……」
悲しそうに、そう告げた。
上条「………っ」
確かに自分が甘かったのかもしれない。
実際、アイリを危険に晒したのは力の足りない上条のせいではないか?
方法がなんであれ、味方が襲われる可能性を下げた切嗣の方が正しいのではないか?
守りたい人を守る為には、手段を問う暇なんてないのではないか?
弱気になったのか、そんな事を考え始める上条。
しかし、
上条(そんな、訳が……ッ!)
上条当麻は、そんな言葉には屈しない。
上条(そんな訳ねぇだろうが!上条当麻!!!)
そうだ。
相手が殺す気で向かってくる以上、殺したって構わない?
方法がなんであれ、守りたい人達を守れればそれで良い?
そんな訳がない。
もし、そんなやり方で大事な人を守ったとしよう?
なら、その人になんて告げるのだ?
「君の命を狙う人達がいたから、皆殺しにして君を助けた。ああ、そいつらの事は君が気にする事じゃない」と、そんな風に言えばいいのか?
見知らぬ人々の命を背負って生きる事を、大事な人に強制しているんじゃないのか?
それは正しい事なのか?
もしそれが正しい事ならば。
なぜ、
なぜアイリは、こんなに悲しい顔をしている?
上条(諦めねぇ、諦めてたまるもんか!!!)
上条のやる事は変わらない。
サーヴァントと戦い、その者たちを英霊の座へと還す。
敵のマスターを殺したりはしない。
そして、アイリ達を守り抜く。
だが。
上条(……切嗣は、本当にこんな真似を続けるつもりなのか)
そんな不安を、上条は抱いていた。
今日はこんな感じで終わりにします。
あまり進んでませんが、明日も書き込むのでその時もよろしくお願いします。
コメントありがとうございます、すごく嬉しいです。
再開します。
切嗣「気は済んだか?なら、今後の方針を決めさせてもらう」
そう言って話を再開する切嗣。
彼の目はもう上条など見ておらず、机の上にあるパソコンに向けられていた。
切嗣「ついさっき入った情報なんだが、今回の監督役からのお達しでね。どうやら追加のルールが出来たらしい」
アイリ「追加のルール?」
不思議そうに首を傾げるアイリ。
切嗣「ああ、どうやらキャスターのサーヴァントとそのマスターがかなりの問題を起こしているらしくてね」
そう言いながら切嗣は一枚の新聞紙を投げて来た。
なぜ新聞?と、疑問に思う上条とアイリであったが、素直に読み進めてみる、すると、
『冬木市で誘拐事件。被害者の大半は子供である模様』
上条「問題って……まさか」
自分の思い違いであってくれ、そう思いながら呟く上条。
しかし、そんな期待は、
切嗣「ああ。どうやらキャスターのサーヴァントとそのマスターは、冬木市に住む子供を誘拐しーーー」
切嗣「殺害して、回っているらしい」
切嗣の言葉によって、砕かれた。
上条「嘘、だろ…」
呆然と呟く上条。
傍らに居るアイリも口に手を当て、黙っていた。
上条「なんで、何でそんな事をする必要があるんだ!?こいつらも聖杯戦争に参加してんなら、狙うのは敵のサーヴァントだけで良い筈だろう!!?」
今まで考えさえもしなかった敵の行動に、動揺を隠せない上条。
そんな上条の言葉を受けても、切嗣は一切動じず、
切嗣「世界には二種類の人間しかいない、意味のある事をする奴と意味の無い事をする奴だ。もしキャスター達が前者なら、それは魔力補給の為だろう」
上条「魔力補給……?」
切嗣「そうだ。魔力というのは人間の生命力と同義だ。つまり、一般人の命を犠牲にしてサーヴァントの魔力補給を行なっていると考えられる。……何にせよ、許されるものじゃあないが」
しかし、と切嗣は一旦区切ってから話を続ける。
切嗣「子供が内包する魔力など未熟で、僅かだ。もしキャスター達が魔力補給を目的としているなら、成熟した人間を狙うのが最も効率が良い。しかし、こいつらはそれを度外視している」
上条「待てよ、それじゃあつまり……」
その通り、と上条の言葉を肯定しながら切嗣は告げる。
切嗣「コイツらは後者の人間。もはやサーヴァントでもマスターでもない、ただの快楽殺人者という訳だ」
上条「そんな奴ら、ほっとく訳にはいかねぇだろ!!」
思わず声を上げる上条。
切嗣「どうやら教会の方もそう考えているらしくてね。まぁ、奴らが重視しているのは神秘の秘匿なのかもしれないが」
ここからが本題だ、と切嗣は続ける。
切嗣「今言った暴挙を止める為、キャスターを仕留めたサーヴァントのマスターには令呪を一画与える、そんなルールが追加された」
上条「令呪って、アレのことか」
ランサーとの戦いを思い返す上条。
あの時ランサーは、自分の意思ではない行動を強制されたと言っていた。
どうやら令呪というのは魔力の塊であり、マスターがサーヴァントへの命令を可能にするものらしい。そして使い方によってはサーヴァントを強化することも出来ると切嗣から聞いていた。
切嗣「三画しかない令呪が報酬というのは、中々に破格の条件。キャスター討伐に動き出すマスター達も増えるだろう」
上条「当然だ。令呪なんて関係ねぇ、そんな奴ら放置しておく訳にはいかねぇだろ!」
切嗣の言葉を肯定する上条。
しかし、
切嗣「今回の件、僕達は干渉しない」
切嗣の放った言葉は、上条にとって予想外のものだった。
上条「おい、切嗣………ッ!」
再び上条からの視線を受けても、切嗣の態度は変わらない。
アイリ「…切嗣、何故そのような方針にするの?説明してちょうだい」
切嗣を見つめたままでいる上条の代わりに、アイリが切嗣へと話しかける。
切嗣「この聖杯戦争において最も危険なことは、『動きを読まれること』だからね。キャスターを追う、そんな行動を取ったら他のマスターから叩かれる隙を作るだけだ。それに、残っている令呪は三画。消費しているならまだしも、これ以上無茶をする必要はないさ」
だから、と切嗣は続ける。
切嗣「僕らが狙うのはキャスターじゃない、キャスターを狙う他のマスター達だ。確かにキャスターの居場所を探るのは重要だが、僕達が直接出向くことはない」
アイリ「……そう」
上条「…………」
そんな切嗣の言葉を、上条は黙って聞いていた。
上条「……お前の言いたい事は分かった。もう話す事はねぇ、寝させてもらう」
そう言って上条は部屋を出た。
残されたアイリと切嗣の間に沈黙が流れる。
アイリ「……切嗣、今更あなたのやり方に文句を言うつもりはないわ。でも………」
切嗣「………」
アイリ「…………いえ、何でもないわ。私もそろそろ休みます。おやすみなさい」
切嗣「……ああ」
ーーーそして、夜が深まった頃
用意された寝室で、上条は眠ろうとしても眠れない頭でベッドに転がっていた。
その原因は無論、先程の会話についてである。
上条(……切嗣が言ってることも、理解できない訳じゃない)
おそらく、自分が言っている事は我儘なんだろう。
この聖杯戦争に参加している人物の中で、自分の様な考え方をしている者など殆どいないのだろう。
確かに、傲慢なのかもしれない。
上条だって、全ての人を救える訳じゃない。
今この瞬間にも苦しんでる人はいるだろう。
上条が知らない所で涙を流している人もいるだろう。
そんな人達を救えないのに、誰かを助けたいと、そう思うのは思い上がりなのかも知れない。
けど。
それでも。
それは、苦しんでいる人達を見過ごす理由にはならない筈だ。
それだけじゃない。
もし、罪の無い人々を苦しめるキャスターを無視して聖杯戦争を勝ち抜けたとしよう。
その時、どんな顔をしてイリヤに会えば良いのだ?
多くの人を見捨てた人間が、イリヤに胸を張って会えるのか?
結局のところ、
上条当麻は、一体何がしたいのだ?
ーーー郊外の森
アインツベルン城は、郊外の森の中にある。
そこから新都まではかなりの距離があるのだが、そこを拠点として切嗣が選んだのは、部外者が滅多に立ち入らないこともあるだろう。
夜が深まり、生物が寝静まる頃。
普段なら人っ子一人いない時間帯だ。
しかし、
そんな月明かりに照らされる森の中、一つの動く影があった。
それは、人の影だった。
それは、ある方向に走っていた。
それは、ツンツン頭の少年だった。
その男は、上条当麻だった。
上条(………悪い、アイリさん。少しだけ約束、破らせてもらう……!)
上条の周りには誰もいない。
そう、上条は単独で城を抜け出したのだ。
切嗣に話したところで、状況は変わらない。
目的は、ただ一つ。
上条(キャスターを倒す……!!)
もうキャスターの暴挙は見過ごせない。
戦略だの、他のサーヴァントなど知った事ではない。
この戦いにおいて、これ以上の『敵』など、上条当麻には存在しない。
魔境と化した冬木の地。
その中心部へと駆ける上条を遮る者は、いない。
続きです。随分空きましたが、よろしくお願いします。
ーーー
凛「………コトネ、どこに行ったの?」
とある少女の小さな言葉。
事情を知らない人からすれば、迷子を探しているように感じるかもしれない。
けれど、少女の問いはそんな簡単なものではない。
少なくとも、この問いに答えられる者が、この街にはまだいない程には。
この少女は、とある選択を委ねられていた。
彼女の名前は遠坂凛。
魔術家である遠坂家の長女であり、正統の後継者だ。
しかし後継者といっても彼女はまだ幼く、小学校に通う年齢である。
魔術師というと曲がった考えの者が多い、と思うかもしれないが凛は誰にも明るく接し、友達も多くいた。
彼女はとても誠実で、自身の友人をとても大切に思っていた。
それはとても微笑ましく、喜ばしいことだ。
しかしそれが、今回の選択を生み出した。
冬木で児童の誘拐事件が起きている事は凛も知っていた。
父である時臣が聖杯戦争に参加していることも含めて、身辺には細心の注意を払っていた。
しかし、自分の友人の身辺となると話は別である。
その知らせを聞いたのは凛が学校に着いてからである。
朝は苦手な凛だが、学校に遅刻などはしない。いつもの様に学校に間に合い、いつもの様に友人と談笑していた。
しかし、一つだけ普段と違うものがあった。
いくら待っても、大切な友人であるコトネは現れなかった。
風邪でも引いたのだろうか、そんな風に考えていた凛だったが、担任の教師が放った言葉でそんな予想がいかに甘かったのかを、思い知らされた。
「コトネちゃんは昨日からお家に帰っていないそうです。今警察の方に連絡して捜索をしていますが、みなさんも気をつけてーーー」
途中から教師の声は入って来なかった。
冬木に住んでいるものなら、世間を騒がす誘拐事件と、この失踪を結びつける事など、子供にもできる。
そして、コトネが無事でいる可能性が、限りなく低いことも。
しかし、凛は普通の子供では無かった。
今回の誘拐事件、それが聖杯戦争と何かしらの関連があることに凛は勘づいていたのである。
つまりコトネは魔術に携わる者に攫われたのだと、ほとんど凛は確信していた。
それだけではない。
魔術師というのは、自分の痕跡を隠匿するもの。
つまり。
警察などでは、コトネの発見することは難しいということを。
そこで、二つの選択肢が生まれた。
警察に任せる、そう言ってコトネを見捨てるか。
自分の手で、コトネを助け出すか。
しかし、遠坂凛をよく知っている人間ならこう言うだろう。
「そんなこと、聞くまでもない」。
そして凛は冬木の地へと舞い戻った。
父から授かった、魔力計を胸に。
ーーー数時間前。
凛が冬木に戻ると決意する少し前。
同じように冬木の中心部へと足を踏み入れた者がいた。
その者がいたのは住宅街の外れ。
近隣の者でもあまり近寄らない、ましてや誘拐事件などが噂されている現在では、なおさら人気のない場所だった。
そんな場所で一人、荒い息を抑えながら辺りを見回している。
何かを探すように動く仕草は、遠くから見てもその必死さを醸し出している。
しかし、はたから見るとそれは不審者の動作にも見える。
まるで、巷に噂される誘拐事件の犯人のように。
?「……くそ……こんな……!」
今度は悪態をつきながら走りだす。
しかし目的地が分からないその足取りは、徐々に弱まっていき、やがて止まる。
疲労しているのか、その者は膝をつきながら呼吸を整える。
そしてしばらくして、その者は顔を上げ空を見上げる。
怒りと困惑、それらの表情が絶妙に混ざったような顔で、
上条「み、道が分からねぇーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
大声で、そんな風に叫んだ。
つまるところ、迷子の上条さんだった。
アインツベルン城を単独で抜け出した上条。
キャスターを倒そうと、飛び出したのはまだ良い。
だが、アインツベルン城から森を行けるまでの道のりは笑えるほど遠かった。
時間にして三時間、迷いながら深夜の森を走り続けた上条。
住宅街が見えた時は、思わず泣きそうだったりしたのだが、それは上条にしか分からない感情だったろう。
取り敢えず公園のベンチで休み、満身創痍の体を少しでも回復させることにした。
まぁ、そこまでもまだ良い。
問題は、上条にキャスターを探す手段が全く無かったということだった。
上条がそれに気づいたのは、休憩を終え、そろそろ動きだすか、と考え始めた時だった。
そこで初めて「俺はどこに行けばいいんだ……?」と、あまりにも間の抜けた自問自答を行い、自分の無計画さに頭を抱えていたのだ。
そこで「誘拐ってことは……路地裏…とか………?」という何とも短絡な思考で人のいない方へいない方へ、がむしゃらに進んでいったのだ。
しかし、土地勘のない上条が道に迷うのに大した時間はかからず、現状に至った訳である。
上条(まずいまずいまずいぞこれは。キャスターを倒すとかそれ以前の問題だろ………ッ!?)
人通りのある場所に出たとしてもキャスターを見つける事が出来なければ、上条の目的を果たすことは出来ない。
しかしこうしている内にも、キャスターは動いているのかと思うと焦りはひどくなる一方だった。
上条(いや、とりあえず人が集まる場所!特に子供が集まりそうな場所に行くしかねぇ!!!)
現在の状況がいかに悪いものなのか再認識したことで、上条の足にも力が戻る。
よし!、と力を込めて走り出す上条。
しかし曲がり角まで行った辺りで、
ドン!、と何者かに上条はぶつかった。
上条「うぉっ………!」
いきなり現れた人影に思わず声が出る。
どうやら走る事に夢中になっていたようだ、ぶつかる瞬間までその人影に気づくことが出来なかった。
体を地面に打ちつけることは無かったが、体が前の方へと倒れ、地面に手をついてしまう。
?「…………っ」
どうやら、ぶつかったその人物も上条には気づかなかったらしい。
衝撃に負けて、地面に尻餅をついていた。
しかし、困ったことが一つ起きる。
そのぶつかった人物は女の子だった。
おそらく小学生なのだろう、背中にランドセルを背負っている。
そこまでは問題無い。
先程ぶつかって上条が前のめりに倒れ込んだ際にどんな原理か、上条はその少女に覆いかぶさるように倒れてしまったのだ。
もしこんな真似を常盤台中のとあるお嬢様にでもしてしまったら、怒声の後に電撃の槍やら砂鉄の剣やらで追い回されかねない展開だ。
しかし幸か不幸か、その少女はどうやらそういった行動をするタイプではなかったらしい。
上条の体の下で、無言で倒れたままでいる。
一応上条の威厳の為に言っておくと、彼はその少女には指一本も触れてはいない。
まだ通報するには早いだろう。
だから一応これも問題は無い。
だが、最後に一つ。
上条の下で、少女のスカートが全開でめくれていた。
人間はここぞという時に驚異的な身体能力であったり、判断力だったりを発揮するとよく聞くが、この時の上条の頭は今までに無いほどに働いた。
小学生女子、それに覆いかぶさる自分、おそらくパンツが大変なことになっているだろうスカートの状態、人気のない通り、近頃話題の誘拐事件。
それらを結びつけて、少しの間考えてみる。
………………完全にアウト。
逮捕案件だ。
上条は怖いくらい冷静にそう結論づけた。
しかし、冷静な時間というのは長くは続かない。
我に返った上条は、バビュン!!、と素早く立ち上がり少女へと話しかけ始めた。
上条「わ、悪い!前見てなかった!怪我とかしてねぇか!?これは偶然であってやましい気持ちだとかはこれっぽっちもなくてだな最近は誘拐やなんやらで物騒だと思うけれど俺はそういった類の人物じゃないということだけは伝えておきたくてだな!!!!」
もはや聞かれてもいないことを話し出すほどに動揺している上条。
そんな上条の様子などお構いなしに少女はスカートを直し、立ち上がった。
そこでようやく少女の顔を見た上条。
そして、ある事に気付いた。
桜「………大丈夫です。………気にしないで下さい」
淡々と語る少女。
羞恥、動揺、不安。
そういった類の感情を、その少女から微塵も感じることが出来ない事に。
上条「え…………?」
想定外のリアクションに拍子抜けしてしまう上条。
頭に噛み付いてきたり、電撃を操る少女を普段から相手にしている上条としては、そのような反応に慣れていない。
上条(た、確かに悪気はないけれど、こういうリアクションはそれはそれで申し訳なさを感じるぞ………)
五和とかも暴力を振るったりはしないけど、それとはまた違うような……、そんなことを考えながら体が固まってしまう上条。
そんな上条を気にも留めず、少女は上条に背を向けて歩き出そうとしていた。
少し違和感を感じる対応だったが、今の状況なら普通なのかもしれない。
少女の立場からしたら当然だろう。
上条には本当に悪気はないが、最近の誘拐事件の事からも、見知らぬ人物といるのは抵抗感があるだろうし、両親にも早く帰宅するように言われているかもしれない。
そんなことを考えている間にも、少女の背中は徐々に小さくなっていく。
少女とその両親の為を考えるなら、この少女にこれ以上関わるのは控えておくべきだろう。
しかし、
上条「ち、ちょっと待ってくれ!」
少女を引き留めた明確な理由は特になかった。
しかし、もし理由をつけるなら、
上条「今道に迷っててよ、少しだけでいいから道を教えてくれねぇかな?」
その子の瞳が、自分が御坂妹と呼ぶ少女のソレと似ていたからだろうか。
今回はここまでです。
時間が空いてしまってごめんなさい、自分でも予想外に忙しくて驚きました。展開に迷いまくってたというのもありますが…。
このssは要所要所の展開は決めているのですが、どうやってそこまで持っていくかというのは決めてないんですよね…笑。書き込んだら変更は出来ないしな、という緊張もあって筆が遅くなってしまいがちなんです……。
まぁ、全部書き込みが遅れた言い訳なんですが笑
何が言いたいかというと、書き込みが遅くなりがちですがまた見に来てくれたらなと、切に願っている限りなので、次の更新の時も来てくれたら嬉しいです。
ありがとうございました。
桜「……道、ですか?」
その声はあくまで淡々としていた。
事実、間桐桜にとってはその他の事象など無関心なものであり、今回もそれは変わらないからである。
上条「ああ。ちょっと事情があってよ、人が集まりやすいっていうか、子供が集まりやすいような場所を探してるんだけど……見ての通り迷っちまってな」
しかし上条はそんな桜の様子を大きく気にすることなく話を続けた。
普段の桜を知る者なら、こんな誘いに乗るはずないと考えるのが普通だろう。
しかし、上条の「子供が集まる場所」という言葉がそんな桜の反応を少し変えた。
ーーーまた一緒に、あの公園へ行こう。
数日前にかけられた言葉。
そんな言葉が、桜の脳裏によぎった。
桜「…………………公園」
上条「ん?」
もう一度あの場所へ行きたい、そんな願いが現れたのかどうかは分からない。
だが、
桜「……公園でいいなら、知ってます」
桜は、上条へとハッキリそう言った。
そうして二人は件の公園に行く事となる。
時刻は夕暮れ。
結構遅い時間まで付き合わせちまったな、上条はそんな風に考えながら前方の少女についていく。
上条(それにしても、静かな子だよな)
二人は今、無言で歩いている。
少女は間桐桜という名前らしい。
間桐という名前は聞いたことあるような気がしなくもないが、どうにも思い出せずにいた。
歩き始めた時は上条から何度か話しかけてみたのだが、その返答は「はい」か「いいえ」しかなく、長い会話が続くことはなかった。
別にそれに腹をたてる訳でもなく、そういうタイプの子なんだろう、とそれ以上大きな干渉はしなかった。
向こうからしたらこっちは完全な不審者だと思われても文句は言えない。
そんな自分の道案内してくれるというのだから、悪い子ではないのだろう、と上条は結論付けた。
そんなことを考えながら歩いて行くと、前方に大きな公園が見えてくる。
随分と広い公園だ、もし誘拐事件なんて騒動がなければ今の時間でも随分賑やかだったに違いない、そんな事を考える。
おそらくあれが目的地の公園なのだろう、そう考えて上条は、
上条「ん、アレが言ってた公園か。ありがとう、助かった。場所は覚えたし、暗くなってきたから一回家まで送るよ。家はどこにあるんだ?」
そんな風に桜に話しかけた。
隣にいる少女を見てみると、顔を俯いたままじっと佇んでいる。
調子でも悪いのだろうか、そう思い言葉をかけようとした上条。
すると桜は、
桜「…………あの……」
上条「ん?」
家がかなり遠いから言い出しにくいのだろうか、そう思いながら桜の言葉に耳を傾ける上条。
しかし、桜が発した言葉はそういった類のものではなく、
桜「あの……私も行ってもいいですか?」
遠慮がちに、そんな予想外のことを桜は上条に言った。
上条「え?」
思わず聞き返す上条。
この公園まで歩いてきて、なるべく沈黙を続けようとしているように思えた少女にしては随分意外な質問だと思ったからだ。
上条(急に遊びたくなった…とか言い出す子には見えねぇけど…)
そう思いながら桜の様子を見つめる上条。
俯きがちな顔からは詳細な表情は見えなかったが、どうにも事情があるらしい。
なら、悩む理由もない。
上条「分かった、一緒に行こうぜ。別に俺もまだ急いでる訳じゃないし。でも暗くなったら危ないからな、ある程度の時間になったら桜、お前を家まで送り返す。それでいいか?」
その言葉を聞いて桜小さく頭を上下させた。分かったらしい。
キャスターの討伐は急がなくてはならないが、足取りはまだ掴めていない。
一緒に公園についていきたいと頼む桜を断る理由も正直なかった上条は、桜と共に公園へと入っていった。
ーーー
間桐桜は、静かにその公園を眺めていた。
普段の彼女を知る者からすれば、このように能動的な言動を彼女がしたことに驚くかもしれない。
実際のところ、学校が終わればすぐに帰宅するように言い付けられている桜がこのように寄り道することなど珍しい事であった。
ましてや公園に入りたい、など。
桜自身、何故このような行動をしたのかよく分かってはいない。
そんな自身の不可解な行動に内心首を傾げつつ、桜は公園を見つめていた。
その公園は人がいない為か静寂に満ちており、少し不気味さすら醸し出している。
小さな子供が今の公園を見て、ここで遊びたい、とは言いださないだろう。
しかし、そんな公園であっても、
桜の目には、違うものが写っていた。
それは。
多くの子供、優しい陽だまり、笑い声。
いつか桜が体験した公園の風景が、桜の目の前には流れていた。
新しい祖父には、元の家族のことなど忘れろと言いつけられている。
だが、これくらいのことは覚えていても良いだろう。そんな風に考えながら目の前の公園が呼び起こす記憶に浸る桜。
この公園は確かに色々な思い出を蘇らせる。
蘇る思い出の中には、「元の家族」のことも含まれている。ということはつまり、この公園に来たことで、桜に何らかの変化が起きるかもしれない、そんな風に考える者もいただろう。
しかし、そんなことは起きない。
何故なら。
桜は、祖父の言いつけを守るために隣にいた筈の『誰か』を、記憶から消していたから。
ほら、今だってそう。
手を繋ぎながら公園に通った記憶。
ーーーでも、手を繋いだ相手を覚えていない。
シーソーを楽しんだ記憶。
ーーーでも、相手の顔は覚えていない。
ブランコでどちらが高く漕げるか競った記憶。
ーーーでも、競った相手を覚えていない。
陽だまりの中で昼食を楽しんだ記憶。
ーーーでも、誰と食べたのかは覚えていない。
つい数年前に間桐の家に帰ってきた、雁夜という人物。
彼は、「またあの公園に行こう」と桜に言った。
少なからずその言葉に感化されてこの場所に訪れた桜だったが、
依然としてその目は、心は、人の気配の無い眼前の公園よりも静寂を保っていた。
ーーー
上条「本当に、誰もいないな……」
隣にいる桜の心情など知り得ない上条は、公園に入ってすぐ、そんなことを口にする。
普段は自分と同年齢、及び年下の学生達が多く暮らす学園都市に住んでいる上条にとって、公園という学生達の遊び場に人がいないというのは少し新鮮でもあった。
現在冬木市を騒がせる誘拐事件などなければ、多くの子供達が遊具の奪い合いなどしていたのかもしれない。
上条(流石にキャスターはいない、か……)
忘れそうになるが、上条が公園に来たのは子供を襲うというキャスターの足取りを掴むためだった。
しかし、ここまで子供がいないとなるとキャスターがこの公園に現れることはないだろう、上条はそう結論付ける。
まさか最初に訪れた場所で手がかりが掴めるとは思ってはいなかったが、ここまでないとなると心情的には辛いものがあるのは否定出来ない。
上条(一周回ってこの公園は安全ってことなのかもしれないな)
標的がいないのならキャスターもわざわざこんな所を襲わないだろう、そんな風に上条は考える。
正直な所、上条は今現在、キャスターと遭遇したいとは思っていない。
理由は、桜の存在だ。
子供を狙うと聞かされている以上、もしこの場でキャスターと遭遇した場合、桜が集中的に狙われることになるかもしれない。
そうなった場合、上条が桜を守り切れるかどうかは分からない。
今まで数人のサーヴァントと出会った上条だが、そのどれもが手強い者達だった。
その例として、ランサーがいる。
彼は令呪による命令があったものの、積極的にマスターを狙うようなサーヴァントではなかった。
そんな相手だったからこそ自分に放たれる攻撃だけに集中し、なんとか自分の身を守る事が出来たのだ。
しかし、もし相手が上条だけでなく、桜も標的にして攻撃して来た場合、桜の身まで守らなければならないのである。
自分の身一つ守るのに精一杯だった上条にとって、それは避けたい事態だった。
ひとまずこの公園は安全だろう、そう考えて桜の方へと向き直る上条。
そんな上条に気づいた桜は思考を止め、顔を上げて上条と目を合わせた。
上条「よし、じゃあ………」
口を開く上条。
桜にはもうこの公園に思い残すことなどなかった。
少しだけ、彼女の記憶の奥底にある大切な「何か」が顔を見せたが、それが開花されることはなかった。
もう二度と、自発的にこの公園に来ることはないだろう。
つまり、もう彼女が「何か」を思い出す機会を持つことはないということだ。
しかしそれに気づくことも、それを憂うこともない彼女に、未練などなかった。
だから、上条に「もう帰ろう」と言われても何の文句を言うつもりもなかったし、素直に従うつもりだった。
だから、上条が放った言葉は。
上条「桜、何して遊ぼうか?」
桜にとって、全く予想していないものだった。
桜「…………え」
思わず声を溢す桜。
桜「あ、あの……今、なんて」
当然の疑問である。
桜は「公園に入りたい」とは言ったが、「遊びたい」とは一言も言っていないのだから。
しかし、
上条「ん?公園に入りたいってことは、遊びたいってことだろ?ほら、こう言っちゃなんだけど、今は俺達しかいないし、貸切状態だぜ!」
桜の疑問はどうやら上条にはうまく伝わっていないらしい、困惑する桜をよそに公園を見渡している。
確かに上条の発言は突飛なものに聞こえる。しかし、上条本人はそうは思っていない。
その理由は、アインツベルンの白いちびっ子にあった。
イリヤは上条がアインツベルンの城にいる間、嫌という程「遊んで欲しい!」と頼んでいた。
さらにその殆どでイリヤと上条による競争が行われていた。
その度にイリヤに付き合って来た上条だったが、その習慣のせいで「このくらいの年齢の子はみんな遊びたがりなんだな……」と上条の頭に刷り込まれてしまったのである。
一見すると、上条にはイリヤも桜もそう大きく年齢が違うようには見えていなかった。
そのため、「公園に行きたい」=「遊びたい」といったように上条の中で桜の言葉が自動的に解釈されてしまったのである。
勘違いが重なり、上条は桜の手を引きながら公園の遊具へと歩いて行く。
上条「桜は普段どんなので遊んでんだ?」
そんなことを聞く上条。
それに対し桜は思わず、
桜「ブランコ……で遊んだ事は、ありますけど……」
そんな風に答えた。
それは普段、というより以前は、と言った方が正しいのだが、自然とそう答える桜。
それを聞いた上条は、よし、と言いつつブランコの方へと向かう。
近づいて見てみると少し小さいブランコだった。
それは上条がブランコという乗り物に乗らなくなり、身長が伸びたからなのか、単に対象年齢が低いのかは上条には分からない。
だが乗れなくはないだろうと上条は判断した。
上条「さて、それじゃあ…」
ブランコを掴みながら喋る上条。
その声のトーンは無意識に下がっていた。
しかし、その眼光は鋭いまま、
上条「かかってこい、桜。格の違いを見せてやる」
そう、宣言した。
唐突な勝負宣言。
高校生である上条が、小学生程の桜にする行為とは到底思えないが、これも先ほど述べた白いちびっ子が原因だと思ってくれていい。
普通の人間なら唐突な上条の言動に戸惑い、頭を混乱させるかもしれない。
しかし、
桜「…………」
桜は沈黙を貫いていた。
これは混乱から来るものではなく、全てを受け入れた上での沈黙である。
桜を知る者なら思い当たるかもしれないが、間桐桜という少女の基本的な姿勢とは、『抗わないこと』だ。
「今の桜」にとって、それはどんな状況でも変わらない。
よって、このような妙な事態になっても桜はそれを受け入れていた。
そんな桜の心情など知らない上条は、
上条(こいつ、全く動じていない……だと!?)
と、勝手な勘違いをしていた。
かなり大見得を切ったつもりだったが、目の前の少女は、一挙一足乱すことなくブランコに手を掛けていた。
イリヤにこのような挑発をすると大抵「ふふーん、トウマになんか負けないよーだ!」、などと言って挑発に乗って来ることが多い。
しかし、桜はどうか。
挑発されたことすら無かったかのように振舞っている。その姿に、上条は歴戦の戦士の影を重ねていた。
上条(桜の野郎……ッ!コイツ、出来る…ッ!!?)
思わず、わなわなと抑えきれない武者震いが起きてしまう。
客観的に見れば、ブランコを片手に握り、女子小学生を見つめながら震える男子高校生、といったような大変不気味な光景だが、そこに口を出す者、もといツッコミを入れる者はいない。
そのため、誰に邪魔される訳でもなく静かに戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
とりあえず、ここまでで。
明日また書き込みますので、よろしくお願いします。
書き込みます、よろしくお願いします。
上条「勝負は簡単、ブランコを5往復まで漕いでどちらが遠くまで跳べるかで決める」
要するに、少し変則的な立ち幅跳びのようなものである。
そしてその勝負内容を告げる上条に一切の遊びの気持ちなどない。
はたから見たらふざけてようとも、彼にとっては真剣勝負と変わらないのだから。
しかし、高校生と小学生だ、肉体的な差が大きすぎる。
そう考えた上条は、
上条「俺は3往復までしか漕がねぇ。それで対等だ、桜」
そう言いながら桜を見つめる。
桜「…………」
桜は何も言わない。
代わりに自身の乗るブランコをすこし下げて、力を加える為の体勢を作っていた。
要するに、準備万端である。
それを見た上条もブランコの上に座る。
そして、勝負が始まった。
言わずもがな、この勝負に大きく影響するのはどれだけブランコによる遠心力を生み出せるかどうかだ。
その点、自らハンデを課した上条が少し不利なのは明白である。
しかし。
上条「甘く見んなよぉぉぉぉっ!」
そう吠えると上条は、ブランコの上で立ち上がった。
そう、立ち漕ぎである。
確かに上条のハンデは大きい。
だが、脚力を全力で使うことの出来るこの漕ぎ方ならば、そのハンデを覆せるッ!
上条(ハッ!これならハンデがあっても十分に勝算はある!今すぐそのクールな面を暴いてやるぜぇぇぇぇぇ!!!)
そして脚力を全開にしてブランコを漕ぎ出す上条。
その過程で膝が真っ直ぐになり、限界まで足が伸びる。
上条(ふはははははーっ!!!こっから上条さんの脚力を見せてやるぜぇぇえーーーっ!!!)
意気揚々とブランコに力を加えていく上条。
そして。
ゴンッッッッッ!!!、という音が人のいない公園に響いた。
上条「あ、が……っ!?」
そして驚愕の声が上がる。
理由は単純明快。
上条が立ち漕ぎ出来るほど、この子供用のブランコは大きくなかった、ということである。
さらに率直に言うなら、骨組みに頭ぶつけた。
上条「~~~っっっ!!!?」
声にならない叫びを上げながら後ろに倒れる上条。
皆も経験はあるかもしれないが、不意の一撃だったからこそ、痛みを強く感じていた。
どうすることも出来ずのたうち回る上条などお構いなしに、桜はギーコギーコ、とブランコを漕いでいた。
そして、ブランコから跳ぶ。
スタッ、と危なげなく着地する桜。
その距離、目算で約2メートル。
上条「あ」
桜が地面に着地した音で我に帰る上条。
対する上条は、目算で-1メートル。
上条の、完敗であった。
ブランコ勝負が終わり、「負けたままじゃいられねぇーーーっ!」と意気込む上条であったが、その後の勝負も転んだり、滑ったりと、多くの不幸っぷりを桜に見せつけ次々と敗北した。
そうしている内に今更になって虚しさを感じて来た上条は、勝負などせずに純粋に桜と遊ぶ方針へとシフトした。
「別に勝算がねぇ訳じゃねぇからな」などと悪役でも今時言わないであろう台詞を吐きつつ桜との時間を過ごして行く。
しばらくすると、
上条(うーん、遊具を使うとどうしても2人で遊んでる、ってよりは一人で遊具と遊んでるって感覚が拭えないんだよな)
そんなことを考えながらどうしたものかと公園を見渡していく上条。
シーソーは体重差がありすぎるし、アスレチックも前述した通りの理由で好ましくない。
すると、ある物が目に留まった。
上条「ん、これって」
それはベンチの上に置いてあった。
つい先日も目にした物だった。
上条(野球のグローブ、か。誰かが忘れていったのか?)
グローブは二つ置いてあり、ボールを掴む部分にはボールが収められている。
少し借りて、使い終わったら元の場所に戻しておこう。そう考えてグローブを二つ手に取り、その片方を桜に渡した。
そしてもう片方を手に嵌めながら、
上条「よし、桜。キャッチボールってやったことあるか?」
そんなこんなで、キャッチボールが始まった。
上条「おー、結構良い球投げるな」
桜「………」
相変わらず桜の口数は少なかったが、返ってくるボールの感触からして、割と楽しんでいる……と感じている上条。
上条(でも、そろそろ暗くなり始めるだろうし、コレが終わったら桜を家に送るか)
そんなことも考えつつ、キャッチボールを続ける。
黙っているだけというのも気まずい、そう考えて上条は、
上条「中々上手いなー。誰かとやったことあんのか?」
桜「………はい、何回か…」
そう答える桜の表情が少し陰る。
近くにいれば上条もその変化に気づいたかもしれないが、キャッチボールの性質上、桜との距離は離れていた。
そのため、
上条「へぇー、っていうと、お父さんとかか?」
そんな質問を、桜に投げかけていた。
その質問が桜にどんな心情を引き起こしたのかは分からない。
しかし、少なからず桜は動揺していた。
桜「…………あ」
小さな声と共に放たれたボールは、上条を大きく超えて公園の茂みへと転がっていった。
上条「おっとと、気にすんな桜。取ってくるよ」
呑気にそんな事を言いながら茂みの方へと歩いて行く上条。
桜は、じっとその背中を見つめていた。
いつかの記憶と、その背中を重ねるように。
しかし、その思考は途中で中断される。
なぜならーーー
上条「あれ、どこにいったんだ」
茂みの中をしばらく探しても、中々ボールが見つからないでいた上条。
上条(そんな遠くまでは行ってないと思うんだけどな、っと)
そんな事を考えていると、視界に白い球体を見つける。
思ったよりは遠くにあったそれに手を伸ばそうとする上条。
上条(あったあった)
暗くなって来たのも、ボールを見つけづらかった理由かもしれない。そろそろ桜を帰す時間だろう、上条はそう考え、ボールへと手を伸ばしていく。
上条「………?」
しかし、その手は途中で止まった。
理由は特にない。
ただ、なんとなくという理由で上条は手を止めたのだ。
代わりに、それを見つめた。
すると、いくつかの疑問が湧いて来る。
あのボールは、あんなに土で汚れていただろうか。
あのボールは、こんなに遠くまで転がるほど勢いがあったのだろうか。
あのボールは。
こんなにも、球体の原型を崩した形をしていただろうか?
上条(なん、だ?何か、ヤバい………ッ!?)
思わずその場から飛び退くように離れる上条。
すると、数瞬前まで上条が立っていた場所に、
べチャリ、と。
粘質な音と共に、『何か』が飛来した。
いきなり現れたソレに驚きながら視線を向ける。すると、
海魔「ギギギィィイイイイイイイイ!!!」
ソレは。
地面に着地してすぐに奇声を上げ、上条の方へと向き直った。
複数の脚、毒々しい容姿、そして軟体生物を思わせるその動き。
見る者達に生理的嫌悪を与える『何か』が、そこには居た。
上条「なんだ、こいつ…!?」
思わず呟く上条。
相対する存在の正体も分からず、急な事態に動揺を隠せない。
だが、突如現れたソレはそんな上条を気にも留めず。
海魔「ギィィィィィイイイイイ!!!」
不快な奇声を上げ、上条へと飛びかかった。
距離を詰めて来るソレに、恐怖心を煽られる上条。
だが、
上条「うおおおおおッ!!!?」
大きな声を上げ、自らを奮い立たせる。そして、その右拳を突き出した。
得体の知れない存在に対して行う行動には到底思えないが、もはや反射的に繰り出されたその右手を今更止めることは出来ない。
しかし、その判断は吉と出た。
上条の右手がその海魔に触れた途端、
海魔「ギ………ッ!?」
海魔は奇声を上げたまま、ボッ!!!と音を立てて、その体を爆散させたのだ。
散り散りになった海魔は、そのまま宙に溶けるように消えていく。
そんな様子を見て上条に浮かぶ感情は、安堵でも、安心でもない。
上条「魔術……ッ!?」
それは、驚愕だった。
そう、上条の幻想殺しが効果を発揮したということは、今の得体の知れない海魔は魔術によって生み出されたモノだということである。
上条「何でこんな場所に……?」
混乱が止むことはなく、思考を続ける。今の海魔に異能の力が加わっているとして、その動きは随分と生物的なものだった気がする。
となるとさっきの海魔は魔術で出来た使い魔といった存在、ということになるのだろうか。なら、操っている術者というのが存在するのだろう。
上条(……ってことは操ってるソイツには何か目的があったはず。そうでなきゃこんな所に使い魔を送る意味がねぇ)
なら、その目的とは一体何だ?
この公園に、それだけの理由があるというのだろうか?
使い魔という言葉を聞くと、アイリとの会話が頭によぎる。
アイリ『使い魔っていうのは、生物を模したモノが多いの。でも、それほど大きな力を保有する存在ではないから多くの魔術師はそれを使って実験対象の観察、監視をすることが多いのよ』
アインツベルンの城、そこで切嗣がカメラ以外の機材でどこか遠くの景色を観察しているのを見てアイリに質問した時に帰ってきた台詞だ。
そのせいか使い魔、と聞くと「監視」というイメージが強く引き出される。
上条(監視って、一体何を?ここは普通の公園で、何かあるにしてもどこにでもある遊具と子供くらいしか……)
そこまで考えて、思考が止まった。
何か、違和感を感じる。
小さいけれど、見方を変えるだけで大きくその意味を変えるような。
絶対に見逃してはいけないような、僅かな違和感を。
それの正体はまだ分からない。
だから、今述べた自分の言葉を一つ一つ振り返る。
ここに、監視する様なモノは何もない。
あるとしても、どこにでもあるような遊具、そして。
どこにでもいるような、子供達が来るだけだ。
上条「…………まさ、か」
呆然と呟く上条。
体は強張っていて、少しも動くことはない。
だが、思考は止まらない。
もし先程の海魔を放った術者の目的がこの公園の、「この公園に訪れる子供達の監視」だとしたら?
そもそも、上条は何故単独でアインツベルンの城を抜け出した?
無関係の子供達を襲うキャスターを倒す為だった筈だ。
つまり、この海魔の術者とは。
上条「キャスター……ッ!!!」
その声は驚愕よりも、怒りに包まれていた。
この公園に最初に訪れた時、上条はキャスターが居ない事からまず確認した。しかし、考えてみればキャスター本人が子供達を攫う必要など、何処にもないのだ。
自らの使い魔を放っておいて、標的が来たら勝手に襲わせてしまえば良いだけのこと。
そんな簡単な事にも気づけなかった自分に腹が立つ。
怒りで歯を噛みしめる上条の視線が、ある物を捉える。
それは、自分の左手に嵌めたままのグローブ。
誰かが忘れたのだろうと先ほど借りたモノだ。
しかし、本来の持ち主は今何処に行ったのだろうか?
本当に忘れただけなのだろうか?
もしかしたら、この持ち主達も。
などと良くない想像ばかりしてしまう。
上条(こんな所に長居する訳にはいかねぇ…ッ!)
焦りが上条の胸中に広がる。
今上条は一人ではない、桜の身を危険にさらす訳にはいかないのだ。
素早く茂みから抜け出し、公園の中心へと向かう。
他にも海魔が居ないか、茂みを見つめ、後ろ向きに歩きながら声を掛ける。
上条「桜!もう帰るぞ、ここに長居してると危ない!」
そんなことを言いながら茂みから目を外し、桜が居た場所へと振り返る上条。
するとそこには、
誰も、居なかった。
上条「さく、ら………?」
もう一度声を出す。
しかし、少女は現れない。
上条「おい…桜!!!何処にいるんだ!?」
声を荒げる。
それでも、結果は変わらない。
視線を巡らすが、依然として人っ子一人いない公園があるだけだった。
何処か別の場所で遊んでいるかもしれない、もう一人で家に帰ったのかもしれない。
そんな楽観的な考えも一瞬浮かぶ。
しかし、そんな訳がない。
あれほど大人しい少女が上条に何も言わずに何処かへ消えてしまうなど、考えにくい。
さらに言うならば。
キャスターの海魔が一匹しかいないと、誰が言った?
つまり。
上条「ち、くしょう……ッッッ!!!」
間桐桜は、キャスターの海魔によって攫われた。
そして上条当麻は、それを止める事が出来なかった。
ただ、そんな事実だけが残っていた。
上条「桜ァああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
その声に応える者は、もう居ない。
そんな上条を嘲笑うかのように、風に揺れたブランコがギィイ、と錆びた音を立てた。
今日はここまでです。
サーバーが落ちたのもあり、本当に更新に時間がかかってしまいましたが、引き続き見ていただいてくれてる方には本当に感謝しかないです。
今回の分は本当に展開で迷いましたが、こんな形になりました。楽しんで頂ければ幸いです。
また更新していきたいと思うので、その時も是非見に来てください。
ありがとうございました。
ーーーアインツベルン城
上条が城を離れてから数時間後。
招かれざる客が、この城には居た。
ケイネス「………」
その男、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは瓦礫の上に一人佇んでいた。
そこはアインツベルン城の大広間だった場所。今では見る影もなく、無残な破壊跡が残っているだけの空間と化している。
ランサー「マスター」
そこに、音も無く一人の男が現れる。
ケイネスに仕えるサーヴァント、ランサーが霊体化を解き、主人の前へと参上したのだ。
ランサー「城の内部、周辺の捜索を行いましたが、上条当麻及びそのマスターの姿はありませんでした」
ケイネス「………鼠風情が。逃げ足だけは速いようだな」
そんなランサーの報告に怒りを含めながらそう返答するケイネス。
数時間前、ケイネス達の工房はホテルごと破壊された。自らの礼装で身を守ったケイネスだったが、そのような行為をされて黙っている男ではない。
襲撃者を使い魔によって追跡し、報復としてこの郊外の城ごと逃げ込んだであろう敵を叩き潰そうと目論んで訪れたケイネスだったが、そこに標的となる者達は既にいなかった。
最初はどこかに忍んでいるのかと考え、城の中を破壊しながら捜索を行ったが、ランサーの報告からある事実が浮かび上がる。
ケイネス「城を捨てて逃げた、ということか」
ランサー「十中八九そうでしょう。しかし、気になることが一つあります」
そう言ってランサーは続ける。
ランサー「自らの拠点を放棄してまで逃走に徹した点ではありません。逃走を始めたタイミング、それが速すぎるということです」
ケイネス「…続けろ」
ランサーの発言に思う所があったのか、ケイネスは話を促した。
ランサー「はい。もし敵が探知の魔術などを使っていたとしてもその範囲は精々この森一帯が限界。しかし、我々がこの森に踏み込んでから城を出た者は誰一人いません。それはマスターの使い魔の監視からも明らかです」
ケイネスは敵を確実に逃さぬよう森の外周には予め使い魔を放っていた。それに反応がなかったからこそ、敵は城内にいると考え、城に踏み込んだのである。
ランサー「ここから考えられるのは二つ。元々この城は敵の拠点ではないダミーの隠れ蓑だった。もしくは」
ケイネス「何らかの理由で本命の拠点であった城を放棄した後だった、ということか」
ランサー「その通りです、マスター」
ふむ、と顎に手を当てしばらくの間思考に耽るケイネス。
この二つの違いは大きい。
前者であればケイネス達は敵の策略に嵌められた、ということになり今の状況はケイネス達にとって不利、ということになる。
つまり、この二つの見極めは現時点での状況を把握するために、必須なことなのだ。
傍にいるランサーは、己が主人が結論を出すのを見守っていた。
そして足元に視線を向けたまま、
ケイネス「前者…つまりこの城がダミーだった、という可能性は考えにくいな」
と、結論づけた。
ランサー「と、いいますと?」
そんな風に尋ねる自分のサーヴァントに思考を整理しながらケイネスは続ける。
ケイネス「理由はいくつかある」
そう言いながらケイネスは無残な姿となった大広間に目を向ける。
その破壊は何もケイネスが全て行った訳ではない。敵が予め仕掛けていったのであろう罠が行ったものも含まれている。そのどれもが不意打ちを狙い、ある程度の脅威を持ったものではあった。が、
ケイネス「迎撃を目的とした罠だろう。しかし、あまりにもお粗末過ぎる。もしこの城がダミーだとするなら一体どのような罠が最も効果的か?私ならこの周囲一帯を吹き飛ばす魔術礼装を仕掛けるくらいはするだろうな」
そして、ケイネスは違和感の正体を浮き彫りにしていく。
一つ一つ、絡まった糸を解いていくように。
ケイネス「奴はそれをしなかった。何故か?それはこの城こそが奴らの本命とする拠点だったからだろう。拠点を巻き添えにするような破壊をもたらす罠など仕掛けては本末転倒だ。奴らの基盤が一気に揺らぐことになるからな。もし、私が現れるような事があれば最低限の罠を活かしつつ、生意気にも直接私との決着を着ける腹だったのかもしれん」
つまり、とケイネスは続ける。
ケイネス「この城が私達を貶めるダミーの拠点だったとして、余りにも手ぬるい。敵の前にさえ現れず、ビルごと吹き飛ばすような人間だ。こんな手の抜いた罠など仕掛けまい。つまり、ここはそういった目的を持つ場所ではないということだ」
ランサー「…なるほど、理に適っています」
ケイネス「それだけではない」
感心するランサーをよそにケイネスは話を続ける。
推測を、確信へと変えるために。
ケイネス「探知の魔術がこの森一帯に仕掛けてあるが、もしこの城が現れた敵対者に向けた罠だった場合、そこまで広い範囲を探知する必要はない。せいぜい城の内部に踏み込んだものを感知する程度で十分だ、その方が精度も上がり、敵対者に余計な警戒を抱かせずに済むからな」
そして、ケイネス一つの仮説から一つの考えを導き出す。
ケイネス「この一帯の森に探知の魔術があるということは、この森を出入りする者を逐一警戒する必要があった、ということだ。つまり、ここが本命の拠点だということに他ならん。臆病者である程安心を求め、過剰な警戒を行うものだからな」
ふん、と鼻で笑いながらケイネスはそう言った。
しかし、話はここで終わらない。
ここが敵対者を貶めるダミーの拠点でない場合、もう一つの可能性について考える必要がある。
ランサー「ならばこの城は私達が来る前に放棄された、ということになるのでしょうか?」
ケイネス「そう考える他ない、が……」
真剣な面持ちで問いかけるランサーにケイネスは複雑な表情を浮かべながら、
ケイネス「本命の拠点を放棄するほどの事態とは、一体何だ……?」
答える者などいない問いを、一人呟いていた。
ーーー新都某所
そこは、暗いビルの一室だった。
電灯は付いていない、しかしその部屋はある光によってぼんやりと照らされている。
その光源は、部屋の壁に取り付けられている大量のモニターであった。
とはいっても、正常な映像を写しているのはそのモニターの内半分もない。
大半のモニターはノイズ音を撒き散らしているだけだった。
その部屋に無表情で佇む男、衛宮切嗣は大量にあるモニターの内の一つに目を向けていた。
切嗣「…………」
そのモニターに映るのは、とある場所での映像。
つい数刻程前のアインツベルン城を映し出していた。
その映像に映っているのは、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
切嗣が工房ごと仕留めた筈の魔術師だった。
切嗣(……なるほど。半自動的に発動する水銀を媒介とした魔術礼装、か。攻撃だけでなく防御、索敵まで行えるとはな)
ビルの崩落から逃れる事は難しいと考えていたが、これ程の礼装があれば納得だ。
並みの魔術師では、あの礼装を突破することさえ難しいだろう。
切嗣(だが、僕にとっては好都合だ)
そして切嗣はモニターの電源を切り、懐に忍ばせていた通信機器に手を伸ばす。
切嗣「舞弥、そちらはどうだ?」
そう言うと、しばらくして返答が返ってくる。
舞弥「問題ありません。他のマスターに気づかれている様子もありません」
切嗣「了解した。もう伝えているが、ここから先は下手な行動は一層禁物だ。お前には援護を任せていたが、ここから先はそうもいかない。アイリの事は任せた」
舞弥「はい、あなたも気をつけて。切嗣」
その言葉を最後に、通信は途切れる。
今現在、切嗣、舞弥とアイリは別行動を取っていた。理由は一つ。
上条当麻の離反だ。
昨晩の会合のあと、アインツベルン城に上条当麻の姿はなかった。理由はいくつか考えられたが、サーヴァントが消えたと言う事態に対する対処をする方が優先された。
そして切嗣達はアインツベルン城を即座に離れる事とした。
索敵としての魔術などを仕掛けていたが、上条当麻が消えた以上、侵入するサーヴァントに対抗する策はない。ならばここから先の戦いは切嗣一人で戦わなければならない。
そう考えての行動だ。
それが決まってからアイリは舞弥に任せた。だが、先程の会話にもあったが彼女ではサーヴァントを倒せない。そのために隠密行動を義務付けている。
上条当麻を呼び戻すには、令呪を使う手もあった。
しかし、奴がアインツベルン城を離れた理由は何となく目星がついている。
おそらく、昨晩話したキャスターについてだろう。
その問題が解決しない限り、何度令呪を使おうと逃れられる可能性が高い。
そうなっては令呪の無駄になる。
ならばキャスターを追う上条を狙った他の陣営を狙う他ない、そう考えた切嗣の手の甲にはまだ三画の令呪が残っていた。
切嗣(全く…厄介なサーヴァントを引いたものだ)
上条との繋がりは随分と希薄なのか、どこに居るのか把握することが出来ない。ぼんやりと方向くらいは分かるが、その距離などはさっぱりだ。
ダメ元で自らの令呪に少し、意識を向ける。
すると三時の方角、丁度冬木の街を見渡すことの出来る窓枠がある方から自らのサーヴァントの気配を感じていた。
その先にいる男が何をしているのか。
それを問うかのように、切嗣は窓の外にある風景を睨んでいた。
今日はここまでです。ありがとうございました。
おつりんこ
当麻じゃ鯖相手は無理やろと思ったが鯖自身が魔術によるものって裁定なのね
>>201
そうですね。異能の力が関係してるってことで、一発で完全に消す事は出来ないけど、相手の存在に干渉する事はできるって感じにしてます。
結局書いてないよぉ
面白いな
テスト期間とか言ってるけど高校生か? だったら凄いな
>204
ごめんなさい。遅れちゃいましたね。
>205
そう言ってもらえると嬉しいです、完結まで頑張るのでよろしくお願いします。
ちょっと遅れましたが、よろしくお願いします。
ーーー冬木市、某所
凛「何……これ」
呆然と呟く。
そこは、深夜の冬木。彼女が生まれ育った地であり、つい先日までは普通に生活をしていた場所だ。
しかし、それを疑いかねない程にこの街の雰囲気は変化していた。
空気が、重い。
凛は電車からここに降り立ってすぐにそう感じた。確かに深夜に外出した経験などほとんどない。昼間とは少し違う街の顔に驚いているだけかと最初は思った。しかし、それだけでは説明出来ない程の「何か」を凛は感じていた。
正直、少し怖い。
冬木がこんな場所になっているとは予想外の事であった。母にこの行動がバレたら大目玉を喰らうだろう。
しかし、彼女には立ち止まれない理由がある。
凛「……コトネ」
無二の友人。
彼女を救う為に凛はこの土地へ戻って来たのだから。
凛(……急ごう)
グズグズしていられない。
こんな時間に子供である自分が一人で居たら、おそらく補導されてしまうだろう。
それでは意味がない。
ここまで来て、コトネを助けだせなかったら、きっと自分が嫌いになる。
そう考えながら、凛は手の中にある物を覗き込んだ。
魔力計。
父である時臣から預かった、魔力を感知する道具だ。
コトネを攫った相手はおそらく魔術に関係している。
なら、その痕跡を辿って居場所を突き止めようとした凛だったが、
凛「何、これ………」
手の中にある魔力計は、壊れたかのようにその針を色んな方向へと向けていた。
一瞬、故障したのだろうかと考えるが、即座にその考えを切り捨てる。
冬木に来る前にこの魔力計がちゃんと使えるかどうかの点検はしてきている。
つまり、これは魔力計の故障などではなく。
無数の魔力の痕跡が、この冬木にあるという事実を示していた。
凛(止まってても、仕方ない…!)
魔力計の反応に少し焦る凛だったが、まず足を動かし始めた。
今この一瞬にもコトネは苦しんでいるかもしれないのだ。
一見壊れたように見える魔力計もデタラメを教えている訳ではない。
魔力の反応がより強い方へと向かって歩いて行く。
凛(こっち……今度はあっちか)
少しの変化も見逃さぬよう、魔力計と睨めっこしながら進んで行く。
凛(………ッ)
魔力計から顔を上げると、思わず息を飲む。
正面からパトカーが走って来ていたのだ。
今見つかってはマズイ、そう考えて咄嗟に路地裏へと入り込む。
心臓の音が大きくなるのを感じながらパトカーをやり過ごす。
これでもう3台目にもなる。恐らく誘拐事件の騒動で警戒が大きくなっているのだろう。市民にとっては安心できる事なのかもしれないが、今の凛にとっては迷惑でしかない。
凛(周りにも注意しないと……)
パトカーと十分な距離が取れたのを確認してから再び動き出す凛。
しかし手元にある魔力計を見て、その動きは止まる。
今自分が入った路地裏。
その奥から強い魔力を感知していると、魔力計が訴えていた。
凛「…………」
無意識にゴクリ、と喉を鳴らす。
緊張が高まる。
今まで以上に慎重に、その足を動かしていく。
魔力計は、この先に強い魔力があると言っている。しかし、それはコトネがいるという事を証明する訳ではない。
だが、
凛(コトネ……!)
この先にいる、と。
彼女の勘がそう告げていた。
ならば引き返す理由などない。その為に自分はここまで来たのだから。
固まっていた足を動かす。
一歩ずつ、慎重に。
暗闇の先を見通すように目を凝らす。
何かが動いてもすぐに反応出来るように。全神経を集中させていた。
しかし、それが原因だった。
凛は魔力計が指している方向に気を取られすぎたのだ。
その結果。
「……誰か、居るのか?」
後ろから迫る影に、気づく事が出来なかった。
凛「…………ッ!?」
まずい、と思うのと同時に凛は声がした後方へと振り返る。
声をかけて来た人物を認識するためだったが、それは叶わなかった。
その人物はその手に懐中電灯を持っており、それに照らされるせいで顔がよく見えなかったからだ。
「子供、か?何でこんな夜中に…?」
だが、凛はその言葉を聞いてこの人物は悪人ではない、自然とそう考えた。ましてや誘拐事件の犯人だとも思わなかった。
なら、この男は何者か。
決まっている。今の冬木市でこんな夜中に不用心に徘徊するなどまともな人間ならしない。
おそらく、さっきのパトカーに乗っていた警察官だろう。おそらく路地裏に逃げ込んだ自分が見えて、様子を見に来たに違いない、そう凛は考えた。
しかし、状況は何ら良くない。
こんな時間に一人で出歩く自分を警察官が黙って見過ごす訳がない。
恐らく母の葵に連絡がされて、連れ戻されるのだろう。
「親はどこにいるんだ?迷子なのか?」
そんな凛の考えている事など分からないであろう男はそう続ける。その様子は、本当に凛のことを心配しているように思われた。
この男に悪意は無いのだろう。
でも、今の凛にとっては余計なお世話でしかなかった。
何故なら。
この男が自分を保護するということは。
自分がこの場から離れるということは。
コトネを、見捨てるということだからだ。
凛(……嫌だ)
恐らくこの男は凛を見つけてしまった以上、放っておくことなどしないだろう。
この路地裏の先に進む事を阻んでくる事だってあり得る。
凛がこの男に何かを言った所で状況は変わらないのかもしれない。
どんなに筋の通った『理由』を述べた所で子供の戯言だと聞き流され、結果は変わらないのかもしれない。
けれど。
だからこそ。
凛「………嫌、だ」
遠坂凛は。
凛「嫌だ……っ!!!」
自分の想いを、正直にぶつけた。
凛「……私の友達が、誘拐された大事な友達がこの街にいるの」
そうして凛は話し始めた。
何故、自分はこの土地に戻って来たのかを。
この男に話しても無駄かもしれないと、凛は分かっている。
それでも、凛は言葉を続けた。
続けるしか、なかった。
凛「理由は詳しくは言えないけど、普通の人じゃ絶対にコトネは見つけられないわ……!でも、私なら見つけられるかもしれない!今も苦しんでいるかもしれない友達を助けられるのは、私だけなの!」
客観的に見て、そんな言葉に説得力など微塵も無い。しかし魔術のことは一般人に話せない以上、凛にこれ以上の説明をする事など出来なかった。
この言葉を目の前の人物がどう受け取ったのかは分からない。
頭に?を浮かべて、聞き流しているだけかもしれない。
それでも、凛は言葉を紡ぐ。
自分の本音を、吐き出していく。
誰にも言えず溜め込んでいた、心の声を。
凛「だからお願い!私を家に連れて帰らないで!私にコトネを見捨てさせないで!!!こんなの子供の我儘だって思うかもしれない。でも、仕方ないじゃない!大切な人が苦しんでるかもしれないの!今にも助けを求めてるかもしれないの!!!それなのに、家でじっと過ごす事なんて出来ないのよ!!!」
普段の凛を知る者であれば、こんなに感情を表に出している姿を見て驚くかもしれない。
無理もないだろう、彼女の生まれた遠坂家には『常に余裕を持って優雅たれ』という家訓がある。そして、まだ幼い凛もそのような振る舞いを努めているのだ。
「らしくない」と。
そんな風に言う人もいるかもしれない。
なら、逆に問いたい。
この少女の「らしさ」とは。
『遠坂凛らしさ』とは、一体何なのだ?
誰もが「らしい」、「らしくない」を論じて他人を規定しようとする。
みんなが無意識に行うことだ。
他人を規定して、理解の範疇に押し込めようとする。
誰だって理解出来ないものは怖いから。
だから「らしさ」という言葉で安心を得ようとする。
しかしそれは、他人から見た人物像に過ぎないのではないか?
「らしさ」とは、その人物の本質を隠してしまうモノなのではないのか?
もし、「らしさ」というものがその人物の本質を語るものではないとするのなら。
他人から押し付けられる勝手な人物像であるとするのなら。
そんなものに従う理由など、遠坂凛には何一つない。
だから凛は、今までの振る舞いをかなぐり捨ててでも『自分の心』に従った。
誰にも規定する事など出来ない、『自分』の為に。
凛「子供は大切な人の為に何かをしちゃいけないの?子供は大切な人を自分の手で守ろうとしちゃいけないの?そんな訳ない!他の誰よりも私はコトネを救いたいって思ってるのに、何で私がコトネを助ける事を諦めなくちゃいけないの!!!?」
この少女の言葉に、飾りなんて無かった。
躊躇いなんて無かった。
羞恥なんて無かった。
戸惑いなんて無かった。
迷いなんて無かった。
美しさなんて無かった。
それは、綺麗なモノなんかじゃなかったのかもしれない。
我儘で、自分勝手で、独りよがりなモノだったのかもしれない。
でも。
だからこそ。
その言葉には、何よりも彼女自身の『想い』が込められていた。
そして、少女は叫ぶ。
凛「もう、我儘でも良い。何だって良いから……っ!」
誰にも打ち解けることのなかった、
凛「コトネに、会いたいよ……!」
少女自身の、本当の願いを。
そして、路地裏には静寂が戻る。
「………」
男は、凛の言葉を黙って聞いていた。
凛の言葉に困惑の表情を浮かべる事もなく、その声に耳を傾けていた。
その間、男が何を考えていたのかを知る者はいない。
そして。
「……ダメだ」
と、低い声でそう言った。
凛「…………っ」
その言葉を聞いた瞬間、凛は唐突な虚脱感に襲われた。
もう、無理なのだと。
もう、コトネに会う事は叶わないのだと。
そんな考えが、自然と凛の頭をよぎる。
「友達を大切にしている気持ちは分かる」
懐中電灯を消しながらその男は凛に少しずつ近づいていく。
そして、言葉を続ける。
「でも、自分の身はどうするんだ?そんな危険な場所にいって、無事に帰ることが出来なかったら両親がどんなに悲しむか、想像出来る筈だ」
その言葉は、凛の心にチクリと刺さる。
男の言い分に矛盾など無い。
凛自身も、それはずっと考えていた事だ。
だからこそ、凛に反論する事など出来なかった。
座り込んでいる凛に男は近づいていく。
「気持ちは痛いくらい分かる。でも、一人で行かせる訳にはいかない」
そう言いながら男は凛の頭を撫でる。
そして、言葉を紡いだ。
「だから」
その少女に、言い聞かせるように。
自分自身に、誓うように。
上条「ここから先は、俺がお前を守ってやる」
ハッキリと。
上条「行こうぜ。友達を助けるんだろ?」
座り込んだ少女に手を差し出しながら。
上条当麻は、そう言った。
今回はここまでです。
ちょっと書き込むタイミングズレちゃいましたが、見ていただけたら幸いです。
コメントしてくれる方もありがとうございます。
すごい嬉しいです。
次回もなるべく早く書きたいと思ってるのでよろしくお願いします。
このSSまとめへのコメント
面白いわ。続きまってます
この作品は京都大学霊長類研究所で飼育されている賢いお猿さんが一生懸命かいた作品です!人間が書いたものとは出来が程遠いものですが、何卒温かい目でご覧になってください。
更新レス短すぎて草。もうちょいまとまってから書いてほしい
>>2
でもお前ってこれ以下の作品しか作れやんやろ?ありか何か?
サーヴァントをコロせる宝具を壊せる右手なら霊格に干渉云々じゃ済まないと思うが…
少なくとも魔力による霊体なんだし体を貫通ぐらいはするだろ?
それにアイリに触れるだけでも最悪聖杯消滅なんだがw
色々と突っ込みどころだらけだったわw