少女「学校のヒキコさん」 (16)

窓から外を覗くと、庭に彼女が立っていた。

即座にカーテンを閉めて布団にもぐりこむ。

まるで子供みたいに、呟き続ける。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


ああ、けど、こんな謝罪はもう間に合わない。

間に合いはしないのだ。

一緒に彼女をいじめていた友達二人は、居なくなってしまった。

あの小さな個室に「引きずり込まれて」以来、一度も見ていない。


次は。

次は、私の番だ。


恐怖に打ち震える私の耳に、ペタリという音が聞こえた。

見なくても判る。

誰かが、誰かが窓に張り付いて、部屋の中の様子を伺っているのだ。

気づかれてはならない。

私が布団の中にいることを。

決して気づかれてはならない。

もし。

もし気づかれたら。

きっと二人の友達と同じように。

同じように。


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あなたそれ
ジャパリパークでも同じ事
言えるフレンズなんだね?
すごーい!
     ハ ハ
     ∧Y∧
    / |||∧
    |ミ|||ミ|
    V|||ミ/

    / ̄ ̄ ̄\
   / (人人) \
  //  人 人ヽヽヽ
  /| ハ(光)ノ光)ノ | |
 |人|(● ●)|ノ |

  レ| 人″ _ ″ノ N
  ヽ从>、― <从ノ
   /{⌒只⌒}\
   L_| ̄∥ ̄|_亅
  〈 | ∥ | 〉

   |_`ー―――⌒)
   ヽ>―――-イ
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ



私のクラスに「森 妃姫子」という女の子がいた。

成績優秀で優しくて身長が高くて顔もとても可愛い。

教師からの受けも良い優等生。


けど、彼女は非の打ち所がなさ過ぎた。

一部の生徒がそれに嫉妬し、彼女を排斥しようと動き始めた。

まあ、その主導者は私だったのだけど。


「だって、粗がない人間って何だか共感できないじゃない?」

「共感できない人とは共存したくないもの」

「同じ教室にもいたくないの」


同級生を扇動し、少しずつ彼女に対する風当たりを強める。

内容は些細なものだ。


挨拶されても最初の一度は必ず聞こえないフリをする。

彼女に配る分のプリントだけが毎回足りない。

彼女の顔を見た後に友達とヒソヒソ話をする。


「いじめ」には達していない小さなトゲ。

刺さっても少し痛いだけ。

だから複数の人間がこの行為に参加した。

ある者は、些細な悪戯のつもりで。

ある者は、少しの優越感を得るために。

ある者は、ストレス解消のため。


けど、やられた方は毎日毎日「小さな痛み」を味わうワケだ。

普通なら激昂するか、卑屈になるかする。

けど、彼女は態度を変えなかった。

何時ものように優しく模範的な生徒で居続けた。


「まるで痛みを感じてない、ムシみたいね」


私の中の嫌悪感が一段階上がった。

こんな言い訳が通じないのは判っている。

けど、こう思わずにはいられない。

彼女がもう少し人間らしい態度をとっていれば、また違った結果が待っていいんじゃないかな。

彼女が少しでも悲しそうな顔をしていたら。

逆に怒りで突っかかってきていたら。

そこに「共感」が生まれて、私は自分の中のブレーキを踏めたんじゃないかなって。


まあ、けど、そんな事には成らなかったんだけどね。


結果的にいうと、私は特に仲が良かった友達二人と共に、彼女に対する「いじめ」を開始した。

上靴を隠し、机を荒らし、体操服をズタズタにし、お弁当の中にゴミを放り込んだ。

勿論ばれないように、慎重に。

過去にも同様の事をしていた経験があったから、その辺は慣れたものよ。

けど……。


けど、それでも彼女は態度を変えなかった。

何時もどおり、遅刻もせずに出席して模範的な態度で学校生活を続けていた。

成績もまったく落ちなかった。


まあ、そこまで徹底されたら私達も止まれないよね。

とても短慮な話し合いの末、やれる所までやっちゃおうって事になった。

だから私達は彼女がトイレに入った隙を突いて、直接的な行為に踏み切った。

数分後、彼女は床に倒れていた。

その周囲には少しではあるけど、血が飛び散っている。

友達二人は酷く高揚していた。

恐らく、直接的な暴力を振るうことに、慣れていなかったのだろう。

私は少しだけ焦った。


「やば、やりすぎたかも」


外傷を与えてしまうとイジメの証拠になりかねない。

私は直接手を下していないので言い訳はできるけど。

共犯者として吊し上げられると今後の学校生活がやりにくくなる。

ここは何としても口止めをして……。


そこまで考えた所で、彼女……「森 妃姫子」がピクリと動いた。

床に手を着き、起き上がろうとする。

良かった、意識はあるみたいだし、上手く立ち回れば事件にはならないかも……。


私は彼女の様子を見て安心していた。

けど、安心しなかった者がいた。

彼女に対する直接的な暴力を行った友達二人だ。

二人は、彼女の様子を見て、恐怖したのだ。

恐怖し、直感的に「このままだとやり返される」と思い込んでしまったのだ。

だから。




起き上がりつつある彼女の頭を、思いきり踏みつけた。

正直、あの時の事は思い出したくない。

いや、明確に思い出せないと言った方が正しいかな。

それくらいショックだったの。

思い出せるのは、飛び散った血と、悲鳴と、怒声。

そして……。


そして、そう。

「何かを引きずる音」だ。


確かにそれは聞こえた。

気がつくと私は友達と二人でトイレに立っていた。

「……あれ、あの子は?」


「あの子」とはどちらを指しているのか、自分でも判らなかった。

ただ「友達の片割れ」と「森 妃姫子」がトイレから居なくなっていた。


意味が。

意味かわからなかった。


ひょっとして、私は白昼夢を見ていたのだろうか。

いや……。


……いや、仮に夢だとしても、まだ終わっていない。

だって、床にはまだ血が残っていたのだから。

血は、何かを引きずったかのような跡を残していた。

その跡は、トイレの個室に続いている。

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