拙者「暑い……もう駄目だ」 (36)

孫「おばあちゃん、おばあちゃーん!」バキャア!

媼「こらこら、壁を蹴破る小僧がどこにおる」

孫「昨日言ってた話聞かせてよ! ジャパン侍の物語!」

媼「よしよし、ではそこに座りなさい。寝たらアカンぞ」

孫「うんッ!!」

媼「あれは昔々……」

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ーとある中央アジアの砂漠ー

灼熱地獄の中を、1人の侍がふらふらと彷徨っていた。

拙者(食糧も尽きたし水筒もカラカラ。まさか砂漠がこんなにも過酷な環境だったとは)

拙者(やっぱ感情に任せて行動したのが間違いだったか……)

拙者(我が故郷ジパング……。遂に帰れず終いか……)

拙者「道隆、済まない」ガクッ

拙者の意識は暗転した。

拙者「う……ここは……人家か!? 確か砂漠で倒れたはずだが」

状況把握のため窓から外を覗く。

周りは砂漠、紺碧の湖、畔に悠然と立つヤシの木。

拙者「成る程、拙者は今砂漠のオアシスにいるようだな」

コンコンッ

拙者「どうぞ」

ガチャッ

少女「おはよう、気がついたのね」

拙者(目が青い……胡人か? 黒髪だから同じジパング人かと思ったが色白過ぎる)

拙者「貴女が拙者を助けてくれたのか。誠に感謝する」

少女「ふふ、そう畏まらなくても良いよ。人命救助も仕事の一環だしね」

拙者「人命救助……。ここは簡易的な救護施設か?」

少女「違うわ、駅よ」

少女「西と東の文化が丁度混ざり合う場所。それがここ」

拙者「そうか……しかし手間をかけてしまったな。すまない」

少女「別に私は大丈夫だから。日常茶飯事だし」

少女「あ、まだあなたの名前聞いてなかったね!」

凍陽「私は凍陽。父はソグド人で母はジパングです」

拙者「ソグド……聞いた事が無い。混血なのか」

凍陽「うん……。そのせいで雑胡雑胡って馬鹿にする人が沢山いるんだ」

凍陽「他にも性交渉を頻繁にしようとする人もいるし」

拙者「不埒な奴らだ。拙者ならすぐに斬り捨てている」

拙者(だが実際そそるもんあるよなこの娘……)

凍陽「で、あなたの名前は?」

拙者「滝野翔介。徒歩でバグダッドからジパングへ向かっている途中だ」

凍陽「徒歩で!? 何でそんな無茶な真似してるの!?」

拙者「病で苦しんでいる親友に……約束したんだ。必ず薬を持って帰ると」

凍陽「……」

拙者「我が友・道隆の病は普通の薬では絶対に治らない」

拙者「特効薬がバグダッドにあると風の噂で聞いてな……」

拙者「船を乗り継いで手に入れたのだが、帰り賃を無くしてしまったのだ」

拙者「道隆の余命は残り2年……。それまでに薬を持ち帰らなければならない」

拙者「いや、絶対に持ち帰ってみせる」

凍陽「……ねぇ」

拙者「何だ?」

凍陽「私が……なってあげようか? ジパングまでの水先案内人」

拙者「しかしそれでは、ここが駅として機能しなくなるぞ」

凍陽「大丈夫。人が居なくても休憩地として使えるから。それに……」

凍陽「困っている人がいるのに助けない訳にはいかないよね」

拙者「……ご厚意痛みいる」

凍陽「ううん、私もジパングには行ってみたかったし」

凍陽「黄金の国なんて商人の血が騒ぐよね」

拙者「商人?」

凍陽「ソグド人の職業は殆ど商人なんだ。最近はもう見なくなったけど」

拙者は水を一杯飲むと立ち上がった。

拙者「それでは行こうか」

凍陽「えっもう? 大丈夫なの? 体の方とか。ほらフラついてるじゃない!」

拙者「大丈夫だ、問題ない」

彼女は何度も明日にしないかと喚いてきたが、結局今夜10時頃に出発することになった。

それから凍陽は拙者より2歳下の16歳らしい、グフッ。

凍陽「夜の砂漠は昼とは違って寒いから、はい毛布」

拙者「かたじけない」

馬「ブルルッ」

拙者「馬には掛けてやらなくても良いのか」

凍陽「この子は大丈夫、私達より強靭だから」

馬「それは無いっしょ……」

一歩一歩進むごとに砂が草履と足裏の間に入り、気持ちが悪い。

風が吹けば目にも入るので厄介さは倍増である。

拙者(もしこの毛布に凍陽とくるまれたら……)

ハッ

拙者(いかん、道隆がいるのに拙者はなんと淫らなことを)

凍陽「翔介さん、この砂漠を抜けると清涼国に着きます」

凍陽「あそこはアジアでも有数の避暑地なんだよ」

凍陽「シルクロード沿いにあるから流通の中継地にもなるしね」

拙者「ほほう、貴女は物知りなのだな」

凍陽「えへへ/// そのくらいの知識持ってないと駅長なんてやってられないよ」

凍陽「それより翔介さんって侍なのに髷を結ってないんだね」

拙者「髷など面倒臭くて結ってられるか。ボサボサが1番しっくりくる」

凍陽「ふぅん、何だか不思議」

拙者「貴女の髪飾りも綺麗だ。朝顔か、良い趣味ですな」

凍陽「ふふ、参りましたかー?」

拙者「参るも参らんも……一体何の勝負をしているのだ!?」

ザッザッザッ

凍陽「あら? 前から人影が。隊商かな?」

拙者「……違う。あれは隊商なんかじゃない。盗賊の一団だ!」

豚と並んでも相違ない程のブサメン軍団が拙者と凍陽を取り囲んだ。

ザッザッザッ

凍陽「あら? 前から人影が。隊商かな?」

拙者「……違う。あれは隊商なんかじゃない。盗賊の一団だ!」

豚と並んでも相違ない程のブサメン軍団が拙者と凍陽を取り囲んだ。

頭領「隗より始めよ!」

子分「「隗より始めよ!」」

拙者「か……かい?」

頭領「大事を為すにはまず手近な事から始めよ」

頭領「国宝級の宝を盗むため、貴様らには踏み台となってもらう」

拙者「???」

凍陽「無理に格好つけようとして失敗したパターンだね、これ」

子分1「親分! あの女、中々イイですぜ」

ジロッ

頭領「フム……。おい侍! 貴様が腰に差している刀と連れている女を寄越せ」

拙者「ほ、渡せば助かるのだな」

凍陽「翔介!!」バチン

子分1「親分! あの女、中々イイですぜ」

ジロッ

頭領「フム……。おい侍! 貴様が腰に差している刀と連れている女を寄越せ」

拙者「ほ、渡せば助かるのだな」

凍陽「翔介!!」バチン

子分1「親分! あの女、中々イイですぜ」

ジロッ

頭領「フム……。おい侍! 貴様が腰に差している刀と連れている女を寄越せ」

拙者「ほ、渡せば助かるのだな」

凍陽「翔介!!」バチン

子分1「親分! あの女、中々イイですぜ」

ジロッ

頭領「フム……。おい侍! 貴様が腰に差している刀と連れている女を寄越せ」

拙者「ほ、渡せば助かるのだな」

凍陽「翔介!!」バチン

※連投失礼
後ろ3つは無かったことにして下さいm(_ _)m

強烈なビンタを左頬に喰らった拙者は我を取り戻した。

頭領「容姿端麗なだけでなく力も強いとは!」

凍陽「……ッ!」

頭領「で、どうだ! 渡すのか渡さないのか!」

拙者は深いため息を吐くとカッと双眼を見開き

拙者「刀は武士の魂! 渡すわけにはいかぬ。凍陽はジパングへの大切な水先案内人。これも渡すわけにはいかぬ」チャッ

泰然自若としている頭領を押しのけ剣を持った子分が現れた。

子分1「ホウ……。俺達と闘おうってんかい。度胸だけは認めてやんよ!」ギラッ

凍陽「ひっ……!」

拙者「貴女は下がっていろ、危険だ。それに戦闘面では役に立たん」

凍陽「え、それ酷くない!?」

子分1「ククク……」

\ヤッチマエーアニキィー/

拙者「南無八幡大菩薩、どうか我を護り給え!」

拙者(精神を統一し、敵がどこから攻めて来るかを予想する)

子分1「ホッ!」ヒュン!

拙者(左か! 予想通り!)スカッ

子分1「な、避けただと!?」

拙者(一瞬の隙を突く! 奴はこれで終わりよ)ブスッ

子分1「ひぎッ」ドサッ

\ダイジョウブカアニキィー/

子分1「ぐおお、いでェェ!」

拙者「咬ませ犬としては上等だった、褒めやろう」

子分2「よくも兄貴を!」ダダッ

拙者「あらよっと」ズッ

子分2「げふぁっ!!」

頭領「フッ中々やる様だな。しかし、数知れぬ程の人間を屠ってきたこの俺には敵うま――」グサッ

凍陽「んっ……! ふぅ」

頭領「こ、小娘! いつの間に背後へ……」

凍陽「武芸の心得なら多少あるわ。どう? 翔介さん。私も少しは役に立つでしょ?」

拙者「ハハハ、よくやった。しかし今夜からは安心して眠れないな」

凍陽「そんなぁ/// 寝首を掻くなんて外道な真似しないよ♪」

拙者「ふぅむ、如何せん信用できんなぁ」

子分「「お、親分が死んだ! さっさとずらかるぞ!」」

拙者「盗賊は基本逃げ足だけは速いな」

凍陽「さて、全員逃げたところで盗賊の荷物を拝借しようかな」ガサゴソ

拙者「おいおい、それではまるで貴女が盗賊みたいではないか」

凍陽「そうね、うふふふ」

宝石箱の様に星が散りばめられた夜空の下、二人の笑い声が木霊した。

結局その日は清涼国には着けず、野宿することになった。

拙者「……この食べ物は何だ? 随分と平たいが」

凍陽「それはナン。西方の商人さんから貰ったの」

凍陽「他にも胡椒とか薬草とか奴隷とか。感謝しないとね」

拙者「奴隷?」

凍陽「うん、私より少し年下の女の子で気が合いそうだったんだけど……」

拙者「死んだのか?」

凍陽は寂しそうに頷いた。

凍陽「死んだって言うか……崖から落ちて行方不明の方が正しいかな」

拙者「うむ、忘れた」

口では調子良く答えたものの、気になって仕方がなかった。

凍陽「じゃ、おやすみ。明日は早いから」

拙者「あ、ああ……」

拙者(こうしている間にも我が友は病で苦しんでいる。急がなければ)

―ジパング―

道隆「ゴホッゴホッ!」

母「道隆さん! 大丈夫!?」

母「お医者様はいつ死んでもおかしくないと仰っていたのに……」

母「あんたの生命力本当尊敬するわ。ゴキブリ並ね」

道隆「……翔介は大変な思いをして薬を取りに行っている……ゴホッ俺だけ楽になるわけにはいかねぇ、ゴボッ」

母「道隆さん……ホウ酸団子を投げつけてやりたいわ……」

―清涼国―

ワイワイガヤガヤ

八百屋「さぁハミウリの安売りだよー! 何と一個につき金貨二枚!」

鍛冶屋「剣はいらんかー盾はいらんかー」

肉屋「新鮮な山羊の肉だ! ケバブもあるぜ!」

凍陽「わぁ~活気に溢れてますね。商売魂が疼きます!」

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