カエル「俺は……井の中の蛙だ」 (41)

薄暗く水で満たされた世界……

生後間もなく、俺の最初の修羅場は訪れた。



オタマジャクシ「な、なんだおまえ?」

メダカ「ククク……オレはメダカってもんだ」

メダカ「卵からかえったばかりのオタマジャクシは、うめえんだよなァ!!!」グワッ

オタマジャクシ「!」

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ザシュッ!

オタマジャクシ「ぐっ!」

メダカ「ヒャハハ、よくぞダイヤモンドをも噛み砕くオレの牙をかわしたァ!」

メダカ「だが次はねぇ!」グワッ

オタマジャクシ「えーいっ!」

バチンッ!

メダカ「げぶっ!」



尾での一撃でノックアウト。

これが俺の初陣だった。

少し大きくなった俺は活動範囲を広げ、水面近くを泳いでいた。すると、



アメンボ「消えろ」ギュンッ

ドゴォッ!

オタマジャクシ「ぐはぁっ!」

オタマジャクシ「な、なにするんだ!」

アメンボ「水上は俺の縄張り(テリトリー)だ……侵入するなら、子供といえど始末する」

オタマジャクシ「そういわれると帰る気がなくなるんだよな、カエルの子なのに!」

ギュンッ ギュンッ ギュンッ



オタマジャクシ「は、速い……!」

アメンボ「水上での俺の速度は音速と同等……」

アメンボ「未熟な貴様では……見切れん」



ギュンッ

ズガァッ!



オタマジャクシ「ぐあっ……!」

アメンボ「――トドメだ!」



スカッ



アメンボ「む!? かわされた!?」

オタマジャクシ「悪いけどあんたの“リズム”はもう見切った……」

アメンボ「な!?」

オタマジャクシ「僕はリズムをつかむのが得意なんだ!」

アメンボ「リズムを……!? そんなことで俺のスピードを破れるか!」ギュオオオオッ



ドゴォンッ!

アメンボ「がふっ……!」

アメンボ「ふふっ、やはり、速さだけで天下は取れんか……」

アメンボ「お前ならば、ザリガニにも勝てるかも……」

オタマジャクシ「ザリガニ……」

オタマジャクシ「そいつを倒せば、僕がこの世界のボスになれるんだな!」

アメンボ「そういうことだ……」

さっそく俺は世界の覇者になるべく、ザリガニに勝負を挑んだ。



ザリガニ「ガッハッハ、俺に挑もうというのはお前か!」ジョキジョキ

オタマジャクシ「ああ……ボスの座はいただく!」

オタマジャクシ「行くぞっ!」スイスイッ

ガツンッ!

ザリガニ「ガッハッハ……ぬるい体当たりだ」

オタマジャクシ「なんて頑丈な装甲だ!」

ザリガニ「ちょん切ってやる!」

ジャキンッ!

オタマジャクシ「あ、危ない……」

オタマジャクシ「あのハサミに切られたら、ひとたまりもないぞ……」

オタマジャクシ「ハサミには絶対近づかないように、タックルするしかない!」

ザリガニ「……」ニヤッ

ガツンッ! ガツンッ! ――ガツンッ!



オタマジャクシ「いくらやってもビクともしない……」

オタマジャクシ(攻撃してるのはこっちなのに、消耗してるのもこっちだ!)

ザリガニ「ここまでだな、ちょん切ってくれる!」グアアッ

オタマジャクシ「そうか、分かったぞ!」



ドガァッ!

ザリガニ「ぐああっ!」ピシピシッ…

オタマジャクシ「やっぱりな……」

オタマジャクシ「強大な武器として振りかざしてたハサミは、弱点でもあったんだ!」

オタマジャクシ「いや、弱点だからこそ、あえて武器として誇示してたという方が正しい!」

ザリガニ「ぐっ……!」

オタマジャクシ「どうする? もう一撃加えれば、体ごと砕け散るぞ?」

ザリガニ「ま、参った!」



こうしてザリガニを屈服させた俺だが、ザリガニは世界の一地方のボスに過ぎなかった。

しかし、俺はまだまだ自分は未熟と考え、この地にて力を蓄えることに専念した。

数年後……

尻尾が消え手足が生え“カエル”となった俺は、世界の覇者となるため動き出す。

その大きな障壁となったのは――サメだ。



カエル「勝負を申し込みたい」

サメ「おもしれえ……!」

サメ「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!!」グワァァァッ

ガブッ!

カエル(アメンボ以上の速度と、ザリガニ以上の攻撃力!)

カエル「ぬんっ!」バッ

ガキンッ!

サメ「俺の鮫肌に、そんなタックルは通用しねえぜ!」

カエル(防御力も、あのザリガニ以上!)



カエル(これだ! こうでなくては面白くない!)ゾクゾクッ

カエル「ならば、この足についた水かきを存分に生かした――」

カエル「カエル張り手!」ブオンッ

バチィンッ!

サメ「ぐおおっ……!?」

サメ「やるじゃねえか……! こんな気合の入った攻撃は久しぶりだぜ!」

カエル「そちらこそな……。勝敗の見えない戦いというのはゾクゾクする」

カエル(この勝負――至ってシンプル!)

カエル(俺の張り手とサメの牙、どちらが上かの勝負!)

カエル「げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

サメ「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!!!」



ズガァンッ!!!



カエル「勝った……!」

サメ「クジラさん以外で、俺に勝てる奴がいる、なんてな……」

サメを倒した俺は、クジラへと挑戦状を叩きつけた。



クジラ「ぬふふふふ……」ズゥゥゥゥン

カエル(でかい……)

カエル(いったい、何百メートルあるんだ!?)

クジラ「チミかね? 私に挑みたいという小さき者は」

カエル「そうだ。お前を倒し、世界の覇者となる」

クジラ「ぬふふ、私は争いは好まない。出来れば穏便に帰ってもらいたいのだが……」

カエル「帰らん!」

クジラ「嬉しいよ。ならば心おきなく叩き潰せる」

クジラ「私はねえ、穏やかなイメージがあるが本性は好戦的なのだよ」グオッ



ズシンッ!!!



カエル「ぐええっ……!」

カエル(なんて重量だ! ただ上に乗られただけで、これほどのダメージを……!)

クジラ「ぬふふ、たまにはカエルを食べるのもよかろう」

クジラ「いただきます」グバァァァァァ…



ズゴォォォォォ……!



カエル「吸い込まれる……!」

カエル「うおああああああああっ……!」

カエル(食われてしまった……!)

カエル(体内にいるだけで、どんどん体が消化されていく……!)

カエル(だが、俺は諦めん!)

カエル(体内からこのクジラを攻撃し、なんとしても外に帰る!)

カエル「げろおおおおおおっ! 張り手っ! 張り手っ! 張り手ぇぇぇぇぇっ!!!」



ドカンッ! ドカンッ! ドカァンッ!



クジラ「ぐううううううううう……!!?」

クジラ「ぐごおおおおおっ!!!」オエッ

カエル「よし、吐き出された!」

カエル「トドメだ! 俺の跳躍力を、キックにして叩き込む!」



ズドォッ!!!



クジラ「ぐぬぅぅぅぅぅ……!」ズズゥゥン…

カエル「これで、俺がこの世界の頂点……」

クジラ「ではない……」

カエル「!」

クジラ「この世界の王は、偉大なる竜≪ウォータードラゴン≫だ……」

クジラ「あの方こそ王の中の王、絶対なる君臨者なのだ……」

カエル「まだ上がいたというのか……!」

クジラ「だが、小さき者よ……。チミならば、あの方に勝てる、かも……」

カエル「教えてくれてありがとう。礼をいう」

クジラ(ぬふふ……もしかすると、王者交代の瞬間を見られるかもしれんねぇ……)

俺は世界の覇者ドラゴンと対峙した。



ドラゴン「クジラは我の存在を知る、数少ない強者だった」

ドラゴン「そのクジラを倒したのが、まさか蛙だとはな」

ドラゴン(だが、この者……気迫は凄まじいものがある。過小評価はすまい)

ドラゴン(我と対等に戦う資格あり!)

ドラゴン「来るがいい」

カエル「げぇろおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」ピョーンッ

ドラゴンは全てが規格外だった。今までの強敵とは比較にならなかった。

だが俺とて、無数の修羅場をくぐり抜け、その規格外に通用する戦力を得ていた。



ドラゴン「ウォーターブレス!!!」ズゴォォォォォォッ

カエル「カエル張り手!!!」バチィンッ

ドラゴン「ドラゴンテイル!!!」ブオオオンッ

カエル「カエルキック!!!」ドガァッ



必殺技の応酬が続き、ついに……!

ドラゴン「グオオッ……!」ドズゥゥゥゥン…

カエル「ハッ、ハッ、ハッ……や、やった!」

ドラゴン「見事だ……我の完敗だ」

カエル「いや……ギリギリの勝利だったよ」

ドラゴン「新たな時代の幕開けのようだ……」

ドラゴン「ならばついに、この世界の真実を話す時が来たようだな……」

カエル「世界の……真実!?」

ドラゴン「こちらへ来るがいい」ザブ…



俺はいわれるがまま、ドラゴンについていった。

俺は≪世界の果て≫を目撃した。



カエル「これは……壁!?」

ドラゴン「そうだ、この世界は閉ざされた世界≪井戸≫に過ぎん」

カエル「井戸……!」

ドラゴン「上空にある、あの小さな光……あれを越えると外には無限の世界が広がっているという」

カエル「あの上に世界があるだなんて……」

ドラゴン「あの光にたどり着くことは、この我でも出来なかった」

ドラゴン「だが、貴公の跳躍力なら……越えられるかもしれん。外に出られるかもしれん」

ドラゴン「行くか?」

カエル「無論! 行くに決まっている!」

メダカ「ヒャハハッ、頑張ってこいよ!」

アメンボ「井戸に住まう者たちの意地を見せてきてくれ」

ザリガニ「まさか、あのオタマジャクシが、ここまででかくなるなんてな……」

サメ「負けて帰ってきたら承知しねえぞ!」

クジラ「ぬふふふ、チミならばやれる!」

ドラゴン「存分に暴れてくるがいい」



カエル「みんな、ありがとう……! 世界の覇者になるまで俺は帰らん!」

カエル「げろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ピョーンッ!



俺は≪井戸≫の外に飛び出した……。

記者「こうして、カエルさんは井戸から旅立ち――」

記者「外の世界で、破竹の勢いで強者を倒しまくり、このたびついに≪世界最強の生き物≫を倒し」

記者「“真の世界一”となられたわけですね!」

カエル「……」

記者「今のお気持ちをどうぞ!」

カエル「さっき倒した≪世界最強の生き物≫とやら……」

カエル「奴の強さははっきりいって、俺が生まれて初めて倒したメダカ以下だった」

カエル「こんな軟弱な世界には、もうなんの用もない……俺は帰る。井戸こそが俺の居場所だったんだ」

カエル「俺は……井の中の蛙だ」








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