月明かりの夜、敵対者同士である筈の二人は長年連れ添った恋人にも思える程の落ち着きを見せ寄り添っていた。
恐らく、それはただの傷の舐めあいでしか無いのであろうが、それでも役割すら奪われた存在が独りで居られる筈もない。
一人は勇者。
電撃魔法を司り、聖剣を携え魔なる者を殺し尽くし、人類に平和を齎すべく歩み続けた救世主の少年。
もう一人は魔王。
魔を統べるダークロード。人類を滅ぼし魔物の世を広めるべく戦う少女。
だがもう戦う事はない、戦う意味はない。
何故ならば勇者には既に存在価値がないからだ。戦う理由を失い、戦う意味さえも奪われた。
挙げ句に魔王にすら同情されこうして側に寄り添われる始末だ。
勇者は魔王に向かい、ゆっくりとした口調で嫉妬混じりの自分語りをいた。
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――もうその名前の意味すらも思い出せないけども、僕は勇者だ。
自分で言うのもなんだけど才能はあったんだ。
血筋は良い訳じゃないけども剣の才能に魔法の才能とその両方を持ち合わせていた。
思えば生まれから既に僕の運命は全て決められていたのかもしれない。兎も角、勇者となるべき才能はあったんだ。
それに相応しい教育もその才能を聞き付けた伯爵が王に進言、それが認められ僕だけが貴族として扱われた。
恥ずかしい話、親と離れ離れになった時は泣きじゃくったよ。
でも、両親は言ったんだ。「お前は世界を救うんだ。だから私達の側に居るべきではない」ってさ。
その時の僕はそんな事どうでも良かったんだ。ただ友達と一緒に、親と一緒に生きたかった。
好きな幼馴染の女の子もいたんだ。笑うなって、初恋だったんだよ。
それからの生き甲斐というものは、少しでも早く皆の元に帰る事だった。
今、思えば相当憐れだったと思うよ。それでも僕はその事だけを目標に頑張り続けたんだ。
だから嬉しかったんだ、聖剣に選ばれた時はさ。これで魔王を倒しにいける、もう少しで皆の元に帰れるって。
けども、その努力も存在価値も奪われたんだ。知ってるだろ?ニホンから来たとか言っているあの男の事。
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