姉「ここにたわわに実った果実が二つあるじゃろ?」 男「……は?」 (143)


姉「そんで、ここに腐りかけのバナナがあるじゃろ?」

男「……」

姉「腐りかけのバナナは甘さが増して美味しいとよく言われるのじゃが、あんまり黒くなりすぎてもちょっとアレなのじゃ」

男「……」

姉「すこーし黒い斑点がプツプツっと……」

男「……」



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姉「……」

姉「あの」

姉「無視はダメです。わたし悲しくなっちゃいます」

男「……あ、うん」

姉「こほん」

姉「男くん。ちゃんと返事するのじゃぞ」

男「はいはい」


姉「はいは一回じゃ」

男「はい」

姉「はいじゃないが」

男(何言ってんだこいつ)

姉「聞き流す程度でもいいのじゃが、できれば返事をしてくれるとな、わたしの気分が高翌揚して話しやすくなるのじゃ」

男「はい」


姉「じゃがこれはダメかもわからんね……」

男「……なにが?」

姉「こっちの話じゃ」

男「そうですか」

男(わけわかんねえ……)

姉「そういえばこの前、駅前のスタバでMacBook Airを開いて周囲を威嚇してたんじゃが」

男「ああうん」


姉「そしたら、見るからに倦怠期のカップルが喧嘩しておったのじゃ……」

男「うん」

男(前の話はどこに行ったんだろう)

姉「くたびれたリーマン風の彼は『おまえの話は井戸端会議と変わんねぇ。俺じゃなくたって誰とでも話せる話題だろ』と言っておって……」

男「ほう」

姉「気が強そうな彼女は『あなたにしか話せない話題なんてあると思ってるの? そんなに自分が特別な存在だと思ってるの?』と言ってたのじゃ……」

男「ほうほう」


姉「彼氏は激昂じゃ……。『特別なのが恋人ってものじゃねえのかよ!』などと言っておった」

男「なるほど」

姉「……」

男「……」

男「……それで?」

姉「終わりじゃ」

男「そっすか」

姉「そっすじゃ」


男(なんか今日の姉ちゃんおかしすぎるな……いつもおかしいけど今日はいつにも増して)

男(ていうか、さっきから服をたくし上げて胸をテーブルの上に置いてるのはなんなんだろう)

男(あっなんか目が合った…………逸らされた)

姉「ときに男くんや。しばらく見ないうちに彼女でもできたかね?」

男「はい?」

姉「むっ……どうなのじゃ?」


男「できてないけど」

姉「けど?」

男「……」

男「……できてないよ」

姉「なっ、なんじゃその間は」

男「いや……」

男(どうして慌ててるんだろう)


姉「男くん……」

姉「まさかお姉ちゃんに黙ってかわいい彼女を作って毎日学校でイチャイチャしてるとかそんなことありえないですよね?」

姉「男くんに限ってそんなのないですよね。お姉ちゃんが一番ですよね? お姉ちゃん以外は何もいらないってくらい好きですよね? どうしようもなく愛してくれていますよね?」

男「……はあ? 愛してるって」

姉「いやちょっと待ってください。待ってください、心の準備とかありますし今考えてますし」

姉「ん……もっ、もしかして」


姉「もしかして学校でイチャイチャするどころか普段使ってないお姉ちゃんの部屋に連れ込んで『ぐへへ……姉貴はいっつもここで寝てたんだぜ』とか言って大人の体操ごっこをしてたりするんですか?」

男「……は?」

姉「『姉貴の使ってたペンがペンじゃなくなっちゃったな(暗黒微笑)』とか言ってませんか?」

男「いやいやいやいや」

男(ほんとに何言ってんのこの人……)


姉「相手は誰ですか? わたしの知ってる人ですか? 知らない人ですか? 将来のお嫁さん候補ですか? ただの思春期特有のお遊戯ですか?」

姉「子供は何人欲しいんですか? わたしは二人がいいかなって思ってます。上が男の子で下が女の子。でもそうするとお部屋がいっぱい必要なので二階建ての一軒家に住みたいです。もし男くんくんが養ってほしいっていうならお姉ちゃんもっともっと頑張ります」

男「姉ちゃん落ち着いて」

姉「わたしは落ち着いてますよ」

男「どう見ても落ち着いてない!」

姉「ワタシ オチツイテ イマス」

男「なぜカタコト」


姉「ワタスィー オティツイティー マス」

男「めんどくせえ……」

姉「いま面倒くさいって言いましたね! 面倒くさいって!」

男「だって絡みがいつもよりだるいし……」

姉「だるいって…………」

姉「だるい、だるい……そうですか……」

男「……」

男(そんなあからさまに悲しそうな顔されるとな。シンプルに心が痛む)

男「いや……」


男「ごめん。面倒ではないよ」

姉「ほんとですか?」

男「うん」

姉「ふふふ、そうですよね。男くんはお姉ちゃんのことを面倒だとは言いませんよね。もしほんとに言っていたとしたらあまりの悲しみで眠れぬ夜を過ごしてしまうところでした」

姉「今年の春休みは忙しくてなかなか帰ってこれませんでしたからね。この連休が待ち遠しくて待ち遠しくていろいろなものが手に付かなくて大変だったんですよ」

男(あっやっぱ面倒くさいわ)


姉「さてと、お腹が空いてきたのでコンビニにでも行きましょうか」

男「いまもう夜の十一時なんだけど」

姉「一人で晩酌でもしようかなー、と思ってて。あっもちろん男くんはダメですよ、未成年ですからね」

男「わかってるよ」

男「つーか姉ちゃんお酒飲むんだ」

姉「わたしはもうハタチになりましたし、お酒自体も嫌いじゃないので」


男「どれくらい飲むの?」

姉「まあ…………ほんの少しです」

男「へえ……」

男(嘘だな)

姉「なにか買ってほしいものがあるならお姉ちゃんが買ってあげますよ」

姉「でもこの時間に揚げ物はダメですよ。体に悪いと思います」


男「いや、まず行くとは言ってないし」

姉「ええっ……」

姉「そうですか。お姉ちゃんは男くんと二人きりで夜道を歩けるかもしれないと期待していたのですが……」

姉「そうですよね。こんな時間にわたしたちのようなカップルが手を繋ぎながらコンビニに行ったりでもしたら店員さんに勘違いされてしまいますよね」

姉「『女の方はお酒を買って、男の方はその様子を見ている。カゴの奥底にはきっとアレがあるはずだ』」

姉「『あれっ? ……ない? ってことはもう家に準備してあるのか。あ、財布のお札を入れる部分からチラッとホログラムが見えた。なるほど……』」

姉「……なんてなっちゃいますよね。男くんはそういうふうに思われたくないですもんね」


男「はあ……」

男(ツッコミどころが多すぎて何も言えないんですけど)

男「……まず姉ちゃん」

姉「はい」

男「俺たちカップルじゃないよね? ていうか普通に姉弟だよね?」

姉「えっと、わたしは普通の姉弟でありたくはないです」


男「んで次だけど、姉ちゃんと手を繋ぐとかありえないからね」

姉「スルーですか!?」

男「……で、ホログラムどうのこうのっていうのが何を指してるのかは知らないんだけど」

姉「あ、あの。わたしと手を繋ぎたくないってどういうことですか」

男「いや一旦それはおいといて」

姉「わたしの手がすぐ汗ばんでしまうのは前々から自覚してはいますけど、昔はよくふたりで手を繋いでお出かけしたじゃないですか」


姉「二人きりに緊張するあまりついつい手汗が出てしまうのは、実はかなりのアドバンテージなのではないかと一人でいるときに考えて空気を握って感触を確かめていたのですが、それはダメだったのですかね」

男「……ちょっと静かにしてて」

姉「『上の口は静かでも下の

男「静かに」

姉「え、あっ……はい静かにします」

男「よろしい」

姉「えへへ、ありがとうございます」

男(かわいい)


男「そんで最後にだけど、こんな休み期間にバイトをしてる人は絶対に疲れ切ってるからお客さんのことを考えてる余裕はないと思うんだよね」

男「姉ちゃんの財布に何が入ってるかも正直どうでもいいけど、店員さんがそんなまじまじと確認してくるのはさすがに不審すぎるし」

姉「お姉ちゃんの財布にそんな不審なものは入っていないです」

男「不審なものなんだ……」

男(知らないふりをしとこう)

姉「……」

姉「えと、違いました。わたしたちの将来にとって大切なものです」

男「将来?」

姉「…………」

姉「しょ、将来……です」

男(なぜ顔を赤らめる)


姉「と、とにかく! お姉ちゃんはお買い物に行ってきますからね!」

姉「さっきも言いましたけど、なにか欲しいものを思い出したらメールしてください。ちゃんと買ってきますから」

男「ああうん。てか俺も暇だし行くよ」

姉「えっ? だってさっきは……」

男「いや行かないとは言ってないし」

姉「あう……」

姉「こ、こんなふうにお姉ちゃんをからかって楽しいですか?」

男「姉ちゃんが勝手に早とちりしただけだと思うよ」

姉「…………」


姉「手を出してください」

男「どうして?」

姉「前言通りに手を繋いで行きましょうと言っているのですが」

男「え、やだよ」

姉「そう言われたとしてもわたしは無意識のうちに男くんの手を取ってしまうんですけどね」

男(うわ熱っ!? ていうか声に出してるんだからそれはもう無意識じゃないでしょ)

男「ほんとに汗ばんでるね」

姉「て、ててててててててを握ってる……」

男「いきなりどうしたの」


姉「おとこきゅ……んん゛っ」

姉「お、男くんの手がひんやりしてて気持ちいいです。姉弟でどうしてこうも違うのでしょう」

姉「二十四時間握っていればわたしと中和されていい感じの温度になると思うほどです」

男「さすがに気持ち悪いよ?」

姉「またまた~」

男「……」

姉「ま、またま……ごめんなさい」

男(結局あっさり離しちゃうのね)

男(まあなんか面白そうだし俺から握ってみるか)

男「姉ちゃん」

姉「はい、なんで……って、え?」


男「手を繋いで行きたいんでしょ」

男(べつに気にするほど汗かきでもないと思う)

男(と思ったらどんどん溢れ出てくる手汗。普段クールなのに……もしかして身体中の汗が手に行ってるのかな)

男(姉ちゃんなんか固まってる……)

男「行くよ?」

姉「あっちょっと待ってください。いま頭のなかでI will always love youが三周ほど流れているので」

男「なにその曲」

姉「知らなくていいんですよ」

起きたら続き書きます

訂正>>3
高揚ですね。


§

姉「ところで、焼き鳥は塩派です」

男「そうですか」

男(さっきから俺の左手がえげつないことになってる)

姉「でもタレも捨てがたいですね……。砂肝は絶対に塩がいいですけど、皮やモモはタレでも塩でも美味しいです」

姉「焼き鳥屋さんに行くとお店の人のおすすめにしてもらいます。と言っても大抵おいしいのでわかりませんがね」

男「へー」


男「そういう、居酒屋みたいなところって一人で行くの?」

姉「いえ。お友達と、です。さすがに一人で行く勇気はありません」

男「姉ちゃんって友達いるんだ」

姉「し、失礼ですね! わたしだってお友達くらいいますよ!」

男「そうなんだ」

男(んー……)

姉「そうですよ! …………あっ、もしかしてわたしへの独占欲ですか?」

姉「『姉貴に友達なんて要らない。俺さえいればいいはずだ』」

姉「『でもなんで姉貴は俺に黙って友達を作ってるんだ。許せない』」

姉「……って心を病んでしまっているんですか? 男くんもなかなかかわいいところがありますね」


姉「ちなみにわたしは男くんの交友関係には干渉しないつもりです。そこまでくるとさすがに重すぎると思うので」

男「いやさっき彼女がどうのって言ってなかったっけ」

男(つーか、姉ちゃんの脳内妄想だと"姉貴"ってなってるのはどうしてなんだろう)

姉「もー、彼女は別問題ですよ。わたしに黙って彼女なんて作っていたら普通に許せませんし」

姉「お姉ちゃんにとってのお友達は本当の意味でのただのお友達ですから。それが彼女ならお友達とは言いません」

男「うわ重っ」

姉「はい?」

男「えっ?」

姉「えっ?」


男「……」

姉「……」

男「……重くない?」

姉「……え、ええ? ……いやあのわたしかなり痩せ型ですよ」

姉「男くんが女性はちょっとぽっちゃりしている方が好みと言ってくれるなら、増やしてもいいって思ってますけど」

男「いつのまに体重の話に……」

男(てか絶対話逸らしただろ……)

姉「まあ、男くんの好みは既に知っているのでこのままのわたしでいますね」


姉「あ、青になりました。コンビニまでもう少しですね」

男「ああ」

男(さらっと激重なこと言うな)

姉「そういえば男くん」

男「ん?」

姉「……い、いいっ、いつまで繋いでるおつもりなのでしょうか」

男「手?」

姉「手です」


男「えーと……帰るまで?」

姉「コンビニの中でもですか?」

男「どっちでもいいよ」

姉「わたしのこと好きですか?」

男「いやべつに」

姉「はうっ……」

男「……」

男「まあこのままでいいよね」

姉「え、あ、はい。……いいですよ」


§

姉「お酒には堅あげポテトが欠かせません」

姉「あと鮭とばと、カルパスと、サラダチキンも最近はおいしいですよね」

姉「ナッツ系は食べすぎて飽きてしまいました」

男(カゴに酒入れすぎ……)

姉「男くんはなにか買ってほしいものは見つかりましたか?」

男「んー、いや……」

姉「なんでもいいですよ?」


男「じゃあ、アイス買って」

姉「パピコですか? パピコですね! お姉ちゃんと半分こしていちゃいちゃしながら食べてくれるんですね?」

男「いやわらびもち味のやわもちアイス」

姉「どうしてですか!」

男「俺がそれ食べたいから」

姉「うー……」

姉「ならわたしもアイスを買います」

姉「棒アイスです。べつに深い意味はありません」


男「聞いてねーよ」

姉「これはひとりごとです」

姉「わたしとしては男くんと一緒にアイスを食べたかったですけど、男くんがイヤと言ったのでそれはもういいです」

男「……」

姉「……」

男(そんな拗ねなくても……)

男(奢ってもらう手前なんか悪いからフォロー入れておかなきゃな……)

男「まあ、あれだよ」

姉「なんですか」


男「パピコってさ、最初は二つくっついてるわけじゃん」

姉「はい」

男「でもいざ食べるってときは離れちゃうじゃん?」

姉「……」

姉「……たしかに」

男「そういうこと」

男(その場の思いつき)

姉「……」

姉「わかりました」


姉「男くんわたしのこと好きすぎじゃありませんか?」

姉「てっきりほんとうにわたしと同じものを食べるのがイヤなのかと思っていたのですが」

姉「これは愛ですね、愛。愛を感じます」

男「お、おう……」

男(なぜか心が痛む)

姉「さてさて、男くんからの愛を受け取ったところで……」

姉「……」


男(あ、なんか雑誌コーナーを凝視してる)

男(普通にピンクな方を見てるんだけど……あ、店員のおばさんにめっちゃ不審な目で見られてる)

姉「つかぬことをお聞きしますが」

姉「漫画はよく読みますか?」

男「え、うん。まあ少しくらいは」

姉「な、なら何冊か貸してもらってもいいですか?」

男「いいけど。姉ちゃんって少女漫画しか読まないんじゃなかったっけ」

姉「……男くんの好きなものを知りたいと思いまして」


男「じゃあ帰ったら姉ちゃんの部屋に持ってくよ」

姉「部屋に来たら出られなくなりますよ?」

男「……」

姉「……」

姉「冗談は置いといて」

男(冗談だったんですか)

姉「明日のお昼にでも読みたいので、そのときにわたしが取りに行きますよ」

男「え、でも俺明日部活あるよ」

姉「大丈夫です。取りに行きますから」

男「そう?」

姉「そうです。男くんが帰ってくる頃にはちゃんと元の場所に戻しておきますよ」

男「そっか」

男(なんか怪しい……まあいいか)


姉「ここにガムがあります」

姉「買いましょう。というか男くんにあげます」

男「いいの?」

姉「アイスだけだと貢いだ気になれないので」

男「いや貢ぐって……」

男(なぜか姉ちゃんにやにやしてるし……)

姉「ガムは最近売ってないですよね」

男「グミばっかだね」

姉「わたしはいつもカバンに常備してます。ミントが強いものはあまり好きじゃないです」


男「そうなんだ」

男「あ、会計のときは手は離そうね」

姉「え」

男「え、ってなんですか」

姉「帰りまで離さないと、さっき……」

男「いや言ったけどさ」

姉「この場合"帰る"の定義がどこからどこまでなのかというのも考えていたところだったので……」


姉「もし"土に"還るまでというのなら、これが本望だと言わんばかりに歓喜しているところでしたけど、普通に考えてありえないなと口に出すことは避けました」

男「うわあ……」

姉「そ、そんな目で見ないでください。ちょっとしたお姉ちゃんジョークじゃないですか」

男「はいはい」

姉「手を繋ぐのは家に帰るまで。でもさすがにレジは邪魔だから今は手を離す」

姉「これでいいんですよね?」

男「うん」

姉「ふふふ、わたしだって馬鹿じゃないんですからそれぐらいはわかりますよ」


姉「お会計してきますね。外で待っていてください」

男(わかってるならわざわざ引かれるようなこと言わなけりゃいいのにな)

男(でもこういうときの姉ちゃんって、ほかになにか隠したいことがあるような……)

男(一個前の会話では、たしかガムの話をしてて、なぜかめちゃくちゃ顔を緩ませていたはずだ)

男(…………いや、さすがに)

男「姉ちゃん」

姉「……? はい?」

男(自分でもこういうことを思いついてしまうのは気持ち悪いわ……)


男「さっきのガムなんだけど」

姉「あ、はい」

男「えっと……」

男「その、食べかけとかあげないからね?」

姉「えっ」

男「……」

姉「……」

男(おいおいおいおいおいおい)

男(いや、ないだろ……ないだろ)


姉「えっ……あの、なんのことでしょう」

姉「わたしは男くんのことが大好きですけど、さすがにそれはないですよ。ていうか男くんはそういうの断るって思いますし。やるならやるであからさまにはせずそんな気はさらさらないって様子で道を歩きながら包み紙を渡してゴミはあとで捨てておきますね? とさりげなく受け取ったりしますよ」

男「ちょっと待って。本気で引いてる……」

姉「えっえっ……あの、あくまで一例ですよ? わたしがそうとは限らないじゃないですか」

男「嘘ついてない?」

姉「はい」


男「ほんとに?」

姉「……はい」

男「本当に?」

姉「は…………」

姉「……」

姉「……」

姉「……えっと、飴玉ならいいですか」

男「あっ先帰ってますね」

姉「え」

男「さようなら!」

姉「男くん! あの、冗談だから! ほんとに、あの、冗談ですから!」

寝起きですけど起きたら続き書きます


§

姉「……お、男くん!」

姉「待ってください!」

男「……」

男(足めっちゃ速ぇ…………)

姉「ぜえ、ぜえ……あの、ごほっ」

姉「ちょっ、ちょっと男くん、待ってください」

男(でもそのぶん体力が絶望的にないのは昔から変わらないんだな)


姉「いっ、言われてからまた速くするとか、ほんともう……ごほっ」

姉「あ、あの……ほんとに速い……」

男(全くスピード上げてないのにどんどん離れていく……)

男(……仕方ない、可哀想だから次の角で待ってよ)

男(なんかなあ……姉ちゃんが絡むと、やっぱりどうにも……)


姉「……」

姉「……はあ」

男「……どうかしたの?」

姉「あ、お、男くん?」

男「大丈夫?」

姉「だ、大丈夫もなにも……」

男「ん?」

姉「……ほんとに帰ってしまったかと思ったじゃないですか」

男「いや帰るわけないじゃん」

姉「ですよね。わたしがわる…………って、えっ?」


姉「いま、なんと?」

男「だから帰るわけないじゃんって」

男「……それと手繋ぐ? 一応帰りまでって約束だけど」

姉「わっ……、でも……」

男「ああもう面倒くさい」

男「俺が繋ぎたいから繋ぐね」

男(なに言ってんだろ俺)

姉「……」

姉「男くんが、まさかのデレ期……」

男「……繋ぐのやめようか?」

姉「やめないでください」


男「やめましょう」

姉「なら離してみてください」

姉「きっといまの男くんはわたしにでれでれなので離したりはできないと思いますよ」

男(わざとやってるよな、マジで)

男「デレデレなのは姉ちゃんの方だよね」

姉「知らなかったんですか?」

男「はあ……」

姉「ふふふ」


姉「男くんはほんとに優しいですよね。わたしがどうしてほしいのか分かっているみたいです」

姉「もし仮に手を離したとしたら、わたしが約束ですと頼めばぜったい聞いてくれますし」

姉「逆に離さなかったとしても、わたしの気持ちは昂ぶったままです。どのみち嬉しいです」

男(あっそうなるんすか)

姉「もちろん男くんは後の方を選ぶってことは分かってましたよ」

姉「わたしが嬉しいのは、最初に男くんから繋いでくれたこと、です」

男「いや……」

姉「えへへ、いいんです」



姉「男くん」

姉「わたし、とっても嬉しいです!」



男「……っ」

男(はあ……もうさ、そういう顔こそやめてほしい)

男(少し距離を詰めて肩を寄せてくるのもそうだし、見計らったようにぎゅっと握るのを強くしてくるのもそうだし、普段とは違う甘えたような声のトーンも……)

男(いやいや、落ち着け俺落ち着け俺)

男(マジで、マジで……。いやほんと、乗せられちゃダメだ)

男「はあ……」

男「……もう息は整った?」

姉「はい、ばっちりです」

男「そっか」

姉「……ふふっ」


男「……」

姉「あの、これから家に帰って、もしよかったらでいいんですけど」

姉「あんまり夜遅くまではしないので、ちょっとだけお酒に付き合ってくれませんか?」

男「……えっと」

姉「いや、お酒を呑む必要はありませんし、途中でお風呂に入っても寝てもかまいません。男くんは明日部活動がありますし、わたしもそこまで起きていられません」

姉「ただ、……えっと、なんでしょう」

男「……」

姉「……」

姉「……もうちょっとだけ、お話しませんか?」


§

男(あのときどうして頷いてしまったんだろう……)

男(そのまま家に帰って、テレビを観ながらなんでもないような会話を交わして、日付がまわって少ししたところで風呂に入って……)

男(俺が風呂に入ってる間に呑み始めるって言ってたから、もう呑んでるんだろうな)

男(つーか姉ちゃんってお酒入るとどんな感じなんだろ)

男(あんまり変わらなそうだけど、悪酔いして近付いてきたりしたら……いつもならともかく今日はやばい)

男(そういうのは我慢しようって思ってたのに……姉ちゃんなんか普段とちがうし)

男「はあ……どうしてこうなった」


§§

男(案の定めっちゃ呑んでる……)

男(缶チューハイだけど、俺が風呂に入ってる間だけで四本も……)

姉「男くん」

男「上がったよ」

姉「ん、こっち……来て」

男(手招きされた。隣に座れってことか?)

男(あ、肩に手を置かれた)

姉「よいしょっ、と」

男(いや……言わんこっちゃない)


姉「対面座位……」

男「……」

姉「わたし、酒くさくない?」

男「……いやべつに」

姉「……んふふ、そーですか」

男(普通にスルーしてしまった……)

男(ていうか姉ちゃん顔真っ赤だ……服も微妙にはだけてて、妙に艶っぽいっつーか)

姉「アイス、出しときましたから……いっしょに食べましょう」


男「これじゃ食べられないと思う」

姉「たしかに、そーですねえ……んー……」

姉「んー……」

男(口元に指を置いている姿もかわい……ああっ! もうなんか俺おかしくなってきた)

男(さすがに寝惚けたテンションで接してると間違いが起こりかね……いや、この思考もまずおかしいよな)

男(目覚ましも兼ねてお風呂に行ったのに、まるで効果がない! むしろ頭がまわってない! 姉ちゃんの甘い匂いも悪い!)

男(ていうか、まずさっきの帰り道から姉ちゃんの一挙一動がかわいく見えて仕方がないんだが……)

男(いや落ち着け落ち着け……相手は姉ちゃんだぞ。俺の噛んだガムを回収しようとするような変態な姉ちゃんだぞ)

男(いやそれだって俺を好いてくれての行動だったら…………もうダメだ俺の頭)


姉「あ、……ふふふ」

男(なんか笑い出したぞ)

男「どうかしたの?」

姉「……こほん」

姉「男くん」

男「なに?」

姉「……ここに、たわわに実った果実が、二つある、……じゃろ?」

男「……」

姉「……じゃろ?」

男「…………は?」

寝ながら書きます。次かその次で終わり。


姉「……ん? 聞こえなかったんじゃろか……」

男(手を取られて、って、いやいや……)

男「姉ちゃん」

姉「んっ……んふふ」

姉「……あるじゃろ? 実はさっき下着を脱いだのじゃ……」

男「……」


姉「そんで、ここに溶けかけの棒アイスがあるじゃろ」

姉「これを封を切らずに、こうして……」

姉「……ど、どうじゃ?」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「……男くん、無言で手を動かすのは、ちょっと……」

男「……あ、ごめん」

男(おのれ無意識……)


姉「ベッド、行きますか?」

男「はあっ?」

姉「……ふふ、冗談ですよ」

姉「するならシャワーを浴びてからにしたいです」

男「えっ」

姉「……これも冗談です」

男「……」

男「……あ、うん。知ってたけど」

姉「そうですかねえ……どうでしょうねえ」

男「うるさい」


姉「…………まあ、あれじゃ」

姉「反応に困ったときは、とりあえず『うん』か『まあ』で答えればいいんじゃぞ」

姉「それか、気になった言葉を復唱しておけば形にはなるとは思うのじゃ」

男(……口調がまた変わった)

姉「ほら、練習じゃぞ」

男「……」


男(……なんか、この状況だと喋ってもらっていた方がいいかもしれない)

男(できるだけ心を無にしよう。さすがの姉ちゃんでもそんな変な質問はしてこないと思うし……)

姉「わたしの持っている棒アイスは溶けかかっているのじゃ」

男「うん」

姉「……それは、わたしの体温で、じゃが」

男「……」

男(しょっぱなから?)

男(でも、そう、そうだ。心を無に心を無に心を無に心を無に心を無に……)


姉「男くんと触れ合っているとな、普段よりもずっと胸があったかくなるのじゃ」

男「……」

男(無に無に無に無にむにむにむに……むにっ?)

姉「お、男くん、…………またっ」

男「……あ、はい」

男(俺の馬鹿! なに両手で小気味よく揉んでるんだよ!)

男(と、とにかく冷静になれ。冷静に)

男(冷静に今の状況を考えると手に伝わる感触はすごく柔らかくて、目と鼻の先にいる姉ちゃんが頬を染めて俯いていて……)

男(うん、考えた時点で負けだ。やめよう)


姉「ちなみに、じゃが」

姉「……いー……なのじゃ」

男「……」

男「いー?」

姉「……」

姉「……お、大きさ、じゃ」

男「……あ、うん」

姉「いろは、……らいち」

男「ん?」

姉「な、なんでもない! ……のじゃ」


男「そっか」

姉「そうじゃ」

男(あ、肩……また掴まれた)

姉「それで……」

姉「いまが、一番の食べごろじゃから……」

姉「食べて、くれるじゃろか」

男「……」

男(……は、はあっ?)

男(食べっ、食べるってなにを?)


姉「このアイスを……」

男「…………ん?」

男「アイス?」

姉「……な、なんじゃ?」

男(やべえやっぱり今の俺すっげえ馬鹿だ)

男「いや……なんでもない」

姉「そ、そう……」

男「もともと姉ちゃんの分だったんだし、姉ちゃんが食べればいいんじゃないの?」


姉「それは、そーなのじゃが……」

姉「……わたしの体温で溶けたアイスを男くんに食べさせるというのが」

姉「な、なんか、すごく……いいなあって」

男「……」

男(いくらなんでも変態すぎないか?)

男(と思ってるうちにもう袋を破ってるし……)

姉「はい、男くん」

姉「あーん」

姉「ん、はやく」

男「……ん」

男(どろっどろに溶けてる、なんだこれ)


姉「んふふ、おいしーじゃろ?」

男「……まあ」

男(味とか全く分からないんですけどね……)

姉「そんなにおいしいかの」

姉「なら、わたしも食べていーかの?」

姉「男くんの、食べかけアイス」

男「っ……どうぞ」

男(姉ちゃんほんとそういうところだぞ……)

姉「んっ……ふふ、おいしい」

姉「おさけも、のんじゃうからの」

姉「男くんもいるかの?」

男「……いや、俺は」


姉「のむと、気持ちよくなれるんじゃよ」

男(つーか、姉ちゃんめっちゃふらふらしてる気がする)

男(いつものキリッとした顔からは考えられないほどにこにこしてるし)

男(顔がりんごみたいに赤いのはそのままだけど、さっきよりも目がとろんと垂れていて、話し方も心なしか舌ったらずになっているような……)

姉「……あの」

姉「男くん、無視はダメです」

姉「……無視するなら、わら、しも」

男(姉ちゃんなんか言ってる…………って、え? 顔近っ!?)

姉「んっ」


男「……っ!」

男(いやいやいやいや、いやほんとにほんとに)

男(……はあ? いや、マジで?)

男(ふにゅって……いや、え?)

姉「……はじめて、ですよ」

姉「もっかい、ものたりない」

姉「……こんどは、おさけも、まぜちゃうんですからね」

姉「んっ、んー」

男(舌が……あと、酒も入ってきた)


姉「……ふふふ」

姉「男くん、おいしいです」

姉「あの、このまま……」

男「ちょっ、姉ちゃん」

姉「なんですかー、男くん」

姉「もっと、きすしたって……」


姉「…………ん、あれ?」

姉「でも、なんか、男くんが……ぼやけて、」

男(あっ、姉ちゃんの身体がゆらゆら揺れて……)

男(うわなんかこっちに倒れてきた……)

姉「……すぅ、すぅ」

男「……」

姉「……んんっ、すぅ……」

男「……」

男「……寝てるし」

睡眠は大事。次でラスト。


§

姉「……おとこ、くん」

姉「……す、き」

姉「……ずっと、ずうっと」

男「……」

姉「……すぅ」

男「……」

男「……はあ」


§

姉「……うぅっ」

男「……姉ちゃん?」

姉「……ぅ……ん、男く……はっ」

男「ん?」

姉「……」

男「水飲む?」

姉「……あ、はい。いや、えっと……」

姉「……」

姉「……わ、わたし、どうして男くんの膝の上にいるのでしょうか」


男「……おぼえてない?」

姉「え、あの、おぼえて、って……」

男「寝る前のこと」

姉「……」

男「けっこう、いろいろあったんだけど」

姉「……」

姉「そう、なんですか。わたし、まったく……」

姉「……いや、おぼえては、いると思います」

姉「……おさけ、のんでて、……いろいろ考えてて」

男「……うん」

姉「お、男くんと話をしていて、なんだかものすごく……どきどきして」


姉「それで……」

男「……それで?」

姉「……おさけ、またのんだら、くらっとして」

姉「……」

男「……」

姉「……」

姉「……」

姉「………………あっ」


姉「わ、わっ、わたしっ!」

姉「え、いやっ! えっ…………」

男「思い出した?」

姉「……」

姉「……えっと、か、確認させてください」

男「いいよ」

姉「き、きすをしちゃいました、よね?」

男「うん」

男「口移しもされた」

姉「はうっ……」


男「俺、はじめてだったんだけどな」

姉「わ、わたしも、です」

男「それ聞いた」

姉「……」

姉「……ごめんなさい」

男「……べつにいいよ」

姉「怒ってないんですか?」

男「怒るって、なにを?」

姉「勝手に、その、したこと」

男「……」


男「いいよ」

姉「……?」

男「俺は姉ちゃんとキスしたの、イヤじゃなかったし」

姉「……」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「……わたし、顔赤いですか?」

男「とても」

姉「ううっ……」

男「……」

姉「……」


男「体調戻ってきた?」

姉「……はい」

男「じゃあ、シャワー浴びてきたら?」

姉「……」

男「ん?」

姉「……いや、はい」

姉「浴びてきます……」

男「そっか」

男「俺もう部屋行ってるから」

姉「……」


男「……じゃ」

姉「……」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「…………あの」

男「なに?」

姉「……上がったら、行ってもいいですか?」

男「……」

姉「……男くんの、お部屋に」

男「……」

男「……いいよ」


§

姉「……お、男くん」

姉「……お邪魔、しますね」

男「……」

姉「……」

男「……入ったら?」

姉「え?」

男「ベッド」

姉「あ、はい……」

姉「……失礼します」

男「……」

姉「……」


姉「……手、べとべとじゃないですか?」

男「そんなことないよ」

姉「そ、そうですか」

男「うん」

姉「……」

男「……」

姉「……」

男「それよりさ」

姉「……は、はい」

男「なにか言うことないの?」

姉「え?」

男「……」

男「その……キスをした理由、とか」


姉「……あ、あー」

姉「……」

姉「えっと、話さなきゃダメですか?」

男「ダメ」

姉「あう……」

男「……」

姉「……は、話します。話しますから、あたま撫でるのやめないでください」

男「欲張り」

姉「……否定できませんね」

男「……」

姉「……」


姉「えっと──」

姉「……わたしは、もう気付いてると思いますけど」

姉「男くんのことが好きなんです」

男「……」

姉「もちろん、その……姉弟としてではなく、異性として」

姉「ずっと、ずうっと前から、好きでした」

男「うん」

姉「……それで──えっと、わたしは、わたしが思っているよりも男くんが好きみたいで」


姉「お母さんにも、お父さんにも、こっちの友達にも、そう言われて……」

姉「わたし、怖くなってしまったんです」

男「……」

男「……どうして?」

姉「……」

姉「……好きは、好きなんです」

姉「でも、たまにわからなくなるときがあったんです」

男「……」

姉「わたしが好きなのが、男くんなのか、それとも男くんを好きなわたしなのか」


姉「一番近くにいる異性だから、とか」

姉「……ふつうなら好きになってはいけない相手を好きになる状況に酔っているだけなんじゃないか、だとか」

姉「そういうことばかり、その、考えて……」

男「……それは、今も?」

姉「いえ」

姉「……それを確かめるために、わたしは遠くの大学に行くことにしたんです」

男「……」

姉「約束、だったんです」


男「約束?」

姉「はい」

姉「離れていても好きでいられたら、気持ちがなくならなかったら、……本当に好きなら、四年間くらい男くん離れできないといけないって」

姉「自分との、大切な約束です」

男「……」

姉「……」

男「それで、どうして?」


姉「はい?」

男「いまそうしたってことは、我慢できなかったってことだよね」

姉「それは、はい。…………でも、そうじゃないんです」

男「どういうこと?」

姉「……」

姉「……えっと」

姉「失敗だったと後悔したんです」

男「……?」

姉「……」

姉「……あ、会う機会が減ったら減ったで」

姉「むしろ大きくなってしまった、といいますか」


姉「ひとりでいるときに男くんとしたいことを妄想するようになって、ますます好きになってしまった、といいますか」

姉「『わたしはわたしが思っているよりも男くんのことが好き』というのが、紛れもない事実なのだと認識してしまった、といいますか……」

男「電話とかメールしてくれれば良かったのに」

姉「毎日何回もしてしまいそうで、さすがに重いかなあって」

男「気にしないのに」

姉「……じゃ、今度からします」

男「うん」

姉「……」


姉「……続けますね」

姉「男くんと会えないことが寂しくて、でも連絡を取るのは億劫で、どうしたらいいのでしょうって、考えて……」

男「……」

姉「お母さんに、言ってみたんです」

男「……そしたら?」

姉「そんなに不安なら告白しちゃえば、って」

姉「もし失敗しても家族なんだから、って」

姉「自分たちは旅行に行くからその間にさっさと気持ちを伝えちゃいなさい、って言われました」

男「……」

男「それで、キスを?」


姉「……わたしがした別れかけのカップルの話、覚えてますか?」

男「コンビニに行く前に言ってた話?」

姉「はい」

姉「それが、頭に浮かんだんです」

姉「わたしにとっての男くんが"特別なことを話したい人"だとしても、男くんはわたしのことを"そうとは思っていない"かもしれないって、思っちゃったんです」

男「……」

姉「そして、ここから先は、とても馬鹿らしい話で、恥ずかしいんですけど……」

男「……うん」


姉「男くんに飽きられないためにはどうしたらいいのかなと」

男「……」

姉「まずは、話し方から変えてみようって」

男「……のじゃ?」

姉「……」

姉「……は、恥ずかしいのでやめてください」

男「ええ……」

姉「いや、あの、これにだってちゃんと背景のようなものはあるんですよ」

男「ああ、はい」


姉「わたしの口調だと、年下をあやしてるみたいだって、友達に言われまして……」

姉「そういうふうに育てられたので、今さら変えることは難しいですけど、好きな人にそうは思われたくないじゃないですか」

男「でもむしろ歳とってるよね……」

姉「だ、だって! その、常語で話すのは、あまりにも恥ずかしすぎるかなって」

男「面倒くさ」

姉「だったら男くんはどうなんですか! わたしがこんなに悩んでたのに、全然相手にしてくれなかったですし!」

男「……」

男「いや、俺もずっと姉ちゃんのこと好きだったよ」

姉「えっ」


男「ちなみに一目惚れ」

姉「……ちょ、っと待ってください」

男「つまり初恋」

姉「ちょっと待ってください、胸が爆発しそうです」

男「……」

姉「……」

姉「……えっと、本気ですか?」

男「嘘言ったって仕方ないだろ」

姉「男くん、ちょっと照れてます?」

男「……うるさい」


姉「じゃあ、どうして今まで……?」

男「なに言っても引かない?」

姉「わたしも十分恥ずかしいので……」

男「そりゃそうか」

姉「な、なんですかその言い方!」

男「……」

男「……いや、なんつーか」

男「俺も姉ちゃんと同じこと考えて、それで、俺にはまだ早いって思ってさ」

姉「……?」


姉「どういうことですか?」

男「大学。姉ちゃんと同じとこ受けようと思ってて、それに受かったら伝えようって、気持ちを封印してたんだよ」

姉「……」

男「姉ちゃんから比べたら俺はまだ子供だし……」

姉「な、なんですかそれ」

姉「……好きなら好きでいいじゃないですか!」

男「……」

男「……でも姉ちゃんがそれ言う?」


姉「……」

姉「……たしかに」

男「……」

姉「……」

男「なんか俺たち、すっごく馬鹿だよな」

姉「ですね」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「……でも、好きですよ、男くん」

男「……俺も、姉ちゃんのこと好きだよ」


§

姉「……」

男「……」

姉「どうします?」

男「なにが?」

姉「これから…………しますか?」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「……」

男「いや……寝よう」


姉「そう、ですか……」

男「だいぶ眠いし、明日早いし……あと、」

姉「……あと?」

男「そういうのは、もっと大切にしたいから」

姉「……」

姉「……ふふ」

男「……」

男「姉ちゃんがどうしてもって言うなら、俺は拒んだりはしないけど」

姉「……」

姉「……いえ、また今度にしましょう」

姉「今日のところは、受け取った気持ちでいっぱいっぱいです」


男「そっか」

姉「愛されてますね、わたし」

男「……っ」

男「いいからもう寝よ」

姉「はい……でも、ひとつだけいいですか?」

男「……」

男「……んっ」

姉「んっ」

姉「……」

姉「ど、どうしてわかったんですか」

男「そんな気がした」

姉「……も、もう一回」

男「やだ。俺はもう寝る」


姉「……」

男「……」

姉「……わたしからすれば拒まないんですよね」

姉「……」

姉「んっ」

男「……」

姉「……」

男「……」

姉「……おやすみなさい、男くん」

男「……おやすみ」


§

姉「──きてください」

姉「……起きてください、男くん」

男「……ん、ああ」

男「おはよ、姉ちゃん」

姉「おはようございます、男くん」

男「……」

姉「……」

男「……なにしてんの?」

姉「……えっちな本探し?」


男「はあ……」

姉「まあ、なかったですけど……姉モノの薄い本があるかもしれないって昨日コンビニに行ったときからうきうきわくわくしてたんですけど……」

男「……持ってないし」

姉「……」

姉「……かわりに、わたしのおねショタ本を置いておくからの」

男「……は?」

姉「……読んでおくんじゃぞ」

男「……」

姉「……」

男「……変態」


姉「……わたしの胸を揉んだ男くんはなにも言えないと思うんじゃぞ」

男「じゃあ今揉んでいい?」

姉「……ん、どうぞ」

男「……」

姉「……」

男「……支度するからどいて」

姉「生殺しですか!?」

男「……まあ」

姉「……」


男「明日、部活休みだからさ」

姉「はい」

男「どっか二人で遊びに行こ」

姉「……」

姉「……んふふ」

姉「ホテル、予約しときますね」

男「……」

姉「……じょ、冗談じゃよ」

男「その口調恥ずかしいんじゃなかったの?」

姉「……」

姉「……だけど、これは照れ隠し、……じゃよ」

おわり。睡眠と敬語姉は正義。


おまけ

男(ついに姉ちゃんに好きって言ってしまった……)

男(姉ちゃんのこと考えてたから部活に全然集中できなかったし……)

男(……ていうか、好きとは言ったけど付き合うとかなんとかはなにも言ってないんじゃね)

男(いや、アレだな。帰ったらきっと姉ちゃんから言ってくるはずだな……)

男(あ、そういえば連絡とか来てたりして)

 通知  57

男(あっ超重いわ)

ゴールデンウィークさよなら!おやすみなさい!

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