刃牙の家――
ドドドドド… ガガガガガ…
勇次郎「さっきから外が騒がしいな」
刃牙「近くで工事やってるみたい。親父が手伝えば、一瞬で終わるんじゃない?」
勇次郎「フン、下らねェ」
刃牙「それはさておき、親父……」
勇次郎「なんだ、改まって」
刃牙「“刃牙道”って一体なんだったの?」
勇次郎「……」
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刃牙「“刃牙道”って響きからして、俺が想像(イメージ)してたのは――」
刃牙「親父と喧嘩して人生に一区切りついた俺が、たとえば、強さとは何かってのを更に追い求めるとか」
刃牙「他の格闘士たちと交流を重ねて、自分の新しい人生を見つける、みたいな……」
刃牙「ウマく説明できないけど、そういう物語を想像してたんだ」
勇次郎「うむ……」
刃牙「だけど、実際には――」
刃牙「みんながアクビする中、徳川のジッちゃんが宮本武蔵をクローンとして復活させて、
俺がいきなり二度敗けて、愚地さんが武蔵に気遣われて引きこもって、
烈さんが死闘の末死んじゃって、俺が本部さんに背後取られて、本部さんは300点で、
渋川のジイちゃんがエア斬りされて、親父が本部さんに守護る宣言されてキレて、
武蔵と戦って無刀奥義を出すってとこで守護られて」
勇次郎「……」ビキッ
刃牙「続けるぜ……ハナシ」
刃牙「ジャック兄さんも本部さんに惨敗しちゃって、
武蔵とピクルが出会って、武蔵がやっぱり刀持つとか言い出して、
超軍人ガイアさんがガキの頃の俺にも通用しなかったスペツナズナイフ持ち出して敗けて、
武蔵とピクルの戦いが始まって、ピクルは逃げ出しちゃって、
本部さんが武蔵に勝っちゃって、これで守護達成と思いきや、
武蔵は警官を斬りまくって国家を敵に回して、花山さんが武蔵に挑むけど敵わなくて、
いよいよ俺と武蔵の最終戦が始まって、現代格闘技も人は殺せるらしくて、
徳川寒子さんの熱いキスで武蔵昇天しちゃって、武蔵の遺体は保存されることになって、
石炭を握力でダイヤモンドにする“スクネ”って力士が現れて……終了」
勇次郎「……」
刃牙「なァ、親父……」
刃牙「ハッキリいって、ワケわかんねェよ」
刃牙「“刃牙道”なのに、俺のまともな出番が最初と最後だけだし」
刃牙「最後の締めもバアちゃんが決めちゃうし。しかもディープキス」
刃牙「武蔵さんも刀持ったり持つのやめたり忙しいし」
刃牙「本部さんの隠れた実力が明らかになったのはまァいいけど」
刃牙「結局、何をどう守護ったのかよく分からないし」
刃牙「徳川のジッちゃんはどんどんタチ悪くなってるし」
刃牙「いきなり力士を掘り下げたいなんてハナシになるし」
刃牙「言い出したらキリがねェよ」
勇次郎「……」
刃牙「親父ィ……黙ってないで答えてくれよ」
刃牙「“刃牙道”ってなんだったんだよッ!」
刃牙「答えてくれよ……答えろッッッ!!!」
勇次郎「……」
刃牙「怒鳴っちゃった……ゴメン」
勇次郎「……刃牙よ」
勇次郎「“道”とはなんだ?」
刃牙「道って……道路のことでしょ? 国道とか高速道路とか」
刃牙「ようするに、交通の便をよくするための設備、みたいな……」
勇次郎「そうではない」
刃牙「!」
勇次郎「古の時代……たとえばピクルがいた時代には舗装された道路などなかったハズだ」
勇次郎「宮本武蔵がいた時代も、今よりずっと道路は少なかっただろう」
勇次郎「しかし、ヤツらが不便をしたり、歩きやすい場所しか歩かなかったというと、そうではない」
勇次郎「なぜなら――人が歩いた足跡そのものが“道”だからだッ!」
刃牙「……ッ!」
勇次郎「道とは、決して整備され、人が歩きやすいようにお膳立てされたものではない」
勇次郎「道とは険しいものッ!」
勇次郎「道とは歩きにくく理不尽なものッ!」
勇次郎「道とはどこに通じてるかワカらぬものッッ!」
勇次郎「つまり一見、支離滅裂で右往左往してるように見えるが――」
勇次郎「“刃牙道”とは、道の険しさの本質を捉えている物語なのだッッッ!」
刃牙「~~~~~~~~ッッッ!」
刃牙「アリガトウ……親父」
刃牙「やっと……やっとスッキリしたよ」
刃牙「“刃牙道”ってのは、道なき道を進む険しさ・難しさを表現する物語だったんだね」
勇次郎「うむ……」
刃牙「それだったら俺の出番がないのも納得がいく」
刃牙「だって、俺が分かりやすく大活躍する物語だったら、とても険しい道とはいえないもんね」
勇次郎「そういうことだ」
勇次郎「さて……そろそろ帰るか」
刃牙「あ、だったらそこまで見送っていくよ。いいだろ?」
勇次郎「……フン」
ズチャッ…
ザッザッザッ…
ザッザッザッ…
刃牙「やっぱり親父はすごいや。俺とは頭のデキが違うよ」
勇次郎「……」
勇次郎(フゥ……)
勇次郎(“刃牙道”が一体なんだったのか――ンなもんこっちが知りてェ)
勇次郎(ただ宮本武蔵が大暴れしただけのハナシだったじゃねェか。終わり方もひでェもんだ)
勇次郎(しかし、ウマくごまかすことができた……)
勇次郎(これで俺の親父としての威厳も保たれたってもんだ……)ニィ~…
刃牙「あっ、親父!」
刃牙「そこ、工事で掘った穴があるッッッ!」
勇次郎「――ッ!」ガクンッ
勇次郎「邪ッッッ!!!」バババッ
スタッ
勇次郎「……」
刃牙「身のこなしスゲ……」
刃牙(だけど、親父が道にあいてる穴にハマるだなんて、よほどの考え事をしてたに違いない……)
タタタッ
作業員「スンマセン、大丈夫ですか!? 看板は立てておいたンですけど……」
勇次郎「キサマ……」
勇次郎「道はもっと歩きやすいようにちゃんと整備しておけッッッ!!!!!」
刃牙「エ~~~~~~~~~~ッ!!?」
― 完 ―
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