僕が彼女と出会ったのは、ほんの数日前の事だ。
何となく、眠れないなって時、あると思うんだけど、僕もたまたまそんな気分になったんだ。
だから、コンビニにでも散歩しに行こうと考えて、深夜だったけど外に出た時だった。
「素敵な夜ね、そうは思わない?」
いきなり話し掛けられて、びっくりしたよ。不審者か�� って思ったし。
でもそこに居たのは、雨も降ってないのに白い傘を差して、白いワンピースを着た、肌の白い女の子だった。
やけに白いから、ていうのとこんな時間に女の子が一人っていうので、僕は警戒したんだ。顔も傘で一部隠れて見えないし。
少女「ほら、綺麗な満月……」
そんな僕の様子を無視して、空に顔を向ける女の子。確かに彼女の言う通り、空には見事な満月が輝いてた。
少女「思わず、外に出ちゃった。貴方もそう?」
男「僕は……と、僕は眠れなくて……」
周りが静かで、思ったより声が大きく聞こえた様に感じたから、小声で説明したんだけど……。
少女「ん? 何?」
彼女は僕の近くに寄ってきて、僕の顔を覗き込んだんだ。
傘で隠れてた彼女の瞳は、空に浮かぶ満月を映したみたいに、金色に輝いていて……。
正直、ドキッとした。目が離せなかった。本当に綺麗に光って見えたから。
少女「どうしたの?」
首を傾げて不思議そうに僕を見つめる彼女。今度はサラリとした金髪に目がいく。
日本人じゃ無かったのか、と僕はそんな事を考えてた。だって、流暢だったし。
少女「ねぇ、ねぇ。もしもぉし」
気付けば彼女は僕の服の袖を摘んで、何度も軽く引っ張ってる。僕は謝りながら、理由を説明してあげた。
少女「何となく眠れない……私もそうなの。そんな時にこんな夜だったから、つい、ね」
イタズラっぽくウインクしながら微笑んで、悪い子よね、なんて言う彼女。
何だか変わった雰囲気の女の子だけど、その時には既に僕の警戒心は解されてたんだ。
男「でも、君みたいな子、一人で夜出掛けるなんて危ないよ」
少女「私は大丈夫。貴方の方が心配だわ」
またまた僕はびっくりした。間違い無く女の子が一人で夜外出する方が危ないのに、彼女は大丈夫って言い切ったんだ。
男「ど、どうして? 僕は大丈夫じゃないのかい?」
少女「こんな夜にはね、色んな物が寄ってくるの……人間以外の生き物が」
男「に、人間以外? 何を――」
言ってるんだ、と言い切る前に、僕はとんでもない物を見てしまった。
少女「――例えば、吸血鬼、とかね」
牙。明らかに人間の持つ物じゃない鋭い牙が、彼女から生えてるのを。
さっきまでの気分が一瞬にして暗く沈んで、僕の心が恐怖に満ちていく。
少女「ふふ、怖がらなくて良いわ。襲う気なら、声なんて掛けないもの」
男「じゃ、じゃあ何の用なんだ……」
少女「あのね、これ、ホントに一生のお願いになるんだけど……貴方の血が飲みたいの」
無論お断りだ、と言いたかったけど、怖がりながらも何で頼むんだろうと考えられてる自分が居た。
だから頑張って聞いてみたら……。
少女「だって、無許可で飲むなんて、失礼でしょ?」
思ってもみない回答に、ちょっと力が抜けてしまった。
男「そんな事、気にするんだね……」
少女「私にとっては大事なの」
頬を少し膨らませて、腕を組む彼女。見た目相応の子供っぽさというか、それを見てると段々吸血鬼じゃないんじゃ、って思えてきたんだ。
だって、彼女は一言も自分がそうだと言ってないし。ただ人の血が好きな危ない子なだけかもしれないし。
男「でも、血は飲ませてあげられないよ。それに、肌寒いし、今日はお家に帰った方が良いよ」
少女「う��ん……これは信じられてないわ……ま、仕方無いか」
男「……え」
少女「ふふ、信じてくれた?」
何が起こったかと言うと、彼女の背から大きな翼が出てきて、空に浮かんだんだ。いや本当に驚いた。
男「ひ、人に見られたら危ないよ……! 早く降りて」
少女「え、そこ?」
いやね、あまりの出来事にテンパっちゃって、翼を見た事より見られる方が不味いと思っちゃって。
少女「で、信じた?」
男「し、信じるよ……で、でも、僕の血を吸わなくたって」
少女「吸血鬼も楽じゃなくて……」
はぁ��……と溜め息を吐く彼女。太陽浴びちゃいけないとか、にんにくとか、弱点が多いから、確かに楽じゃないとは思った。
少女「相性があるの。合わない血は……何だろう、もう、例えるのが難しい位不味く感じちゃうし、頑張って飲んでも意味無いしね」
男「僕は、その相性に合ってる、て事?」
少女「そう! だから、ここで諦めると、死ぬまで見つけられないかも知れないから……人助けじゃなく、吸血鬼助けだと思って、ね?」
笑顔でお願いされても、僕には彼女を助ける理由が無い。いや、助けてあげるべきか、いやでも嘘かも知れないし……。
少女「勿論、ただでだなんて言わないわ。私に出来る事なら何でもしてあげる」
男「何でも、と言われても……」
少女「それでも、駄目? う~ん……」
自分より見た目幼い子に何でもさせるとか、人として問題あるよね、と思って断ると
彼女は頭を抱えて悩み始めてしまった。
少女「別に死ぬまで飲んだりしないし……そんな事したら私が死んじゃうかも……」
男「そもそも、好きで血を飲ませたがる人なんて、貴重だよ」
少女「う~……それは、分かってるんだけど……本当に死活問題だし……」
何だか言葉に詰まってきて、声が小さくなっていく彼女に、罪悪感を覚えてきてね。
どうしてあげるのが良いのか、僕も悩み始めた時だったね。
少女「なら、最終手段に出るしか……嫌だけど……」
そう言いだして目に涙を溜め始めてね、「警察に言って不審者として」って言いだしたから
飲ませるから止めて下さいと言いました。国家権力には勝てないよ……。
少女「そう? ありがとう、命の恩人さん」
涙は溜まったままだったけど、彼女はにっこりと笑ってくれた。
これでも良い事をした気分には多少なったけども、僕は一体どうなるのか……。
男「あのー……」
少女「はぁい? 何かしら?」
男「何故、僕は膝枕されてるのでしょうか」
少女「嫌なら、はっきり言って貰わないと」
男「そうじゃなくて理由がね、あと自分より見た目幼い子にされるのって、どうなんだろうって」
少女「良いじゃない、私がしたいって思ったからしてるの。気にしなくて良いの」
男「良いんだろうか……」
どうなるかと心配してたら、何だかヒモにされそうです。
彼女は僕の世話を焼きまくってると言いますか……。
美味しいご飯は作る、洗い物もする、綺麗に掃除はする、服は洗濯して畳んでくれる、お風呂は沸かして先に入れてくれる……。
至れり尽くせりで、このままではダメ人間になってしまう。
少女「どう? 私、役に立てているかしら」
男「立ちすぎて、僕のやる事無くなるから、そんなにしなくても」
少女「……? お世話されるの、嫌だった? 男の人なのに」
男「それは嫌じゃないけど、甘えすぎるのは嫌なんだ」
少女「ふぅん。そう……なら、一緒にしましょ? それなら良いでしょ、ね?」
男「それなら、まぁ」
少女「ふふ、じゃあ、宜しくお願いします」
男「い、いえいえ、こちらこそ」
少女「なら、早速お風呂に入りましょ。二人で♪」
男「え」
少女「え、じゃないでしょ。さっき約束したのは嘘?」
男「約束したのは家事なんだけ――」
少女「私は貴方のお世話の話しかしてないけど?」
男「いやでも僕は」
少女「聞こえな~い。さぁお風呂は湧いてるんだから、早く♪」
男(ど、どうする……! このままだと押し切られる……そ、そうだ!)
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