【モバマスSS】奈緒「小さくなっても頭脳は同じ……だといいんだけど」 (46)

――これまでのあらすじ


奈緒『あたしは、高校生アイドルの神谷奈緒だ』

奈緒『幼馴染で同じアイドルの北条加蓮と遊園地に遊びに行って、緑ずくめの人物の怪しげな取引現場を目撃した』

奈緒『野次馬根性で取引を見るのに夢中になっていたあたしは、背後から近付いてくる、もう一人の仲間に気付かなかった』

奈緒『あたしはその人物に毒薬を飲まされて、目が覚めたら……』



ナオ(奈緒)『体が縮んでしまっていた!』

ナオ『神谷奈緒が生きていると奴らにバレたら、また命を狙われて周りの人間にも危害が及ぶ』

ナオ『同じアイドルの池袋晶葉博士の助言で正体を隠すことにしたあたしは、加蓮に名前を聞かれて、とっさに『神山ナオ』と名乗り、一般家庭の加蓮の家に転がり込んだ』

ナオ『加蓮にあたしが神谷奈緒だってバレないようにするには、毎日大変だけどな……』


……
…………

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『第3話 ネイリスト殺人事件』



――朝、北条家(居間)

カチャッ

ナオ「お、おはよう……ございます」


加蓮「あっ、ナオちゃん起きたんだ、おはよう。そんなに固くならないでいいから、自分の家だと思っていいんだよ?」

ナオ「い、いや……うん、まあ……」

加蓮「そうだ、私今日は学校行った後に事務所行かなきゃならないけど……ナオちゃんどうする?」

ナオ「う、うーん、それじゃあたしは、晶葉……じゃなかった、晶葉ねえちゃんのところに遊びに行ってるよ」

加蓮「そう? それじゃ夕方は一緒に帰ろっか。ちゃんといい子にして、晶葉に迷惑かけちゃダメだからね?」

ナオ「はーい……」

ナオ(くぅー……加蓮、人の気も知らないでそんなことを……はぁ、あたしも学校行きたいんだけどな……)


……
…………

――数時間後、東京、事務所(晶葉の研究室)

ナオ「学校も行けないしさー、子供の姿だとアイドルもやれないだろ? 一日中やることなくて暇でしょうがないよ」

晶葉「そうだな。大変だな」カチッ、カチカチッ……

ナオ「そりゃあ、母さんも父さんも出張で外国に行ってるから家に帰ってもいいけど、この状態じゃあな……」

晶葉「奈緒の言う、緑の組織とやらがいつお前の存在に気付くか分からないからな。一人でいるよりは、子供のフリをして加蓮の家にいたほうがいいだろう」カタカタカタッ!

ナオ「でもそれだと加蓮の身に危険が……って、さっきから何やってるんだ?」

晶葉「んー……よし、出来た。ほら受け取れ」シュッ!

ナオ「わっ!? っとと……いきなり何投げて……こ、これは……!!」

ナオ「マ、マジカルガールのトレカじゃないか! しかもマジカルプリティーハートの!」

晶葉「それはトレーディングカード型変声機だ。この前ナオが加蓮の仕事について行って巻き込まれた誘拐事件で、お前の発言を誰も聞いてくれなかったって話を思い出してな」

晶葉「カードの裏に数字のボタンがあるだろう? 順番にボタンを押せば子供から大人まで、好きな声を出すことが出来る」

ナオ「へー……凄いじゃんこれ!」

晶葉「試しに155-83-55-81と入力して何か喋ってみてくれ」

ナオ「思ったより押すボタンが多いな……えーっと」ポチポチポチ

ナオ「『あー、あー……おおっ!? これ、加蓮の声じゃん!』」

晶葉「うむ、これなら何かの役に立つだろうし、もし厄介事に巻き込まれたときは上手く使ってくれ」

ナオ「うーん……確かにすごいけど、この前の事件みたいな出来事がそう何度も起きるとは限らないし……」

晶葉「それもそうだがな。無いよりはあったほうがいいだろ……っと、電話か」

晶葉「もしもし?」ピッ!

P『俺だ。今日は事務所に来てるのか?』

晶葉「ああ、研究室にいるが、何かあったか?」

P『いやな、ほら、この前晶葉が連れてきた子……ほら、ナオちゃん』

晶葉「ナオか? いま一緒にいるが、どうした?」

P『ちょっとな。もうすぐ出先から事務所に戻るから、ナオちゃんと待っててくれ』

晶葉「ふーむ……分かった。それじゃ研究室は閉めておく」ピッ!

ナオ「誰からだ?」

晶葉「助手からだ。何やらお前に話があるらしい」

ナオ「ふーん……?」


……
…………

――午後、事務所

ナオ「えええええー!? あ、あたしがアイドル!?」

P「うん、いいと思ってね。どうだい?」

ナオ「えええええー……ってあれ?」

ナオ(反射的に驚いたけど、そういやあたし元々アイドルなんだよな……)

晶葉「ちょっと来いナオ。助手よ、少し待ってくれ」

シュバババババッ!!


晶葉「ちょうどいいチャンスじゃないか。これで金には困らなくなるぞ」ヒソヒソ

ナオ「でもどうするんだよ。事務所との契約とか、住所とか……」ヒソヒソ

晶葉「そこは上手いこと私のほうで何とかしてやる。いざとなれば洗脳も出来るし問題ない」

ナオ「いやそんな物騒なことはするなよ……」


P「おーい晶葉、ナオちゃん?」

晶葉「おおっと……うん、そうだな、私はいいと思うぞ、なあナオ?」

ナオ「へっ? あ、ああ……うん」

P「そっか、よかった。それじゃあナオちゃんのお父さんとお母さんとお話しなきゃダメだな……」

晶葉「それについてだが助手よ、ナオの両親は仕事の都合で海外にいるんだ。契約書については私のほうで海外に郵送しておくから、預からせてくれないか?」

P「ん、そうだったのか。だけど説明もしなきゃ困るんだがな……」

晶葉「それについても、私のほうからある程度話しておく。向こうも忙しい身と聞いているし、電話するのも難しい。都合を見て私のほうから話しておいたほうが手っ取り早いだろう」

晶葉「だから契約書類をよこせ、ほら、ほら、ほれ」

P「そ、そうか……それじゃあ頼むよ。電話が難しいなら、俺のほうで文書も作るから後で渡すよ」

晶葉「すまんな。ほら、ナオもちゃんとお礼を言ったほうがいいんじゃないか?」

ナオ「うっ……あ、ありがとう、Pさん」

P「はははっ、ナオちゃんならいいアイドルになると思う。レッスンとかは色々大変だけど、お父さんとお母さんがアイドルしていいよって言ってくれたら、一緒に頑張ろうか」

ナオ「う、うん」

ナオ(元からアンタのアイドルだっつーの……)


……
…………

――夕方、事務所

加蓮「おはようございまーす」


晶葉「おっ、加蓮が来たか」

ナオ「か、加蓮ねーちゃん」


加蓮「ナオちゃーん♪ ちゃんといい子にしてた?」ナデナデ

ナオ「う、うん……」


凛「おはようございます」


ナオ(あ、凛と一緒に来たのか……)


凛「あれ……加蓮、その子って……」

加蓮「あ、そうそう、この前からうちで預かってるナオちゃん。このお姉ちゃんね、渋谷凛っていうの。私と同じアイドルなんだよ」

ナオ「か、神山ナオです……よろしく……」

凛「……ふーん」

スッ

ナオ「えっ」

モフッ、モフッ、モフッ、モフッ、モフッ

凛「……ま、悪くないかな。よろしくね、ナオちゃん」モッフモッフモッフ

加蓮「ねー、ナオちゃんの髪ってすっごくモフモフしてるでしょ?」

凛「まあまあかな」モフモフモフモフ

ナオ「は、はははは……」

ナオ(元の体に戻ったら覚えとけよ……)

加蓮「あれ、ところでPさんは?」

晶葉「いまそこで電話してるぞ。仕事の話らしいが」



P「はい、はい……そうですね、いますぐ都合がつく者であれば……おっ」

加蓮「?」

P「ちょっと確認してからお電話しますので……はい、では失礼します」ピッ!

凛「どうしたの、プロデューサー」

P「ちょうどいいところに来てくれたな。実は……」



……
…………

――東京、車内

凛「……で、あたしたちは夕方からネイルモデルの仕事に駆り出される、ってことね」

P「いやホントすまん。先方のほうで元々準備していたモデルさんの都合が合わなくて、うちの事務所から誰か来てくれる人はいないかって連絡がきてさ」

加蓮「ま、いいでしょ? せっかく降ってきた仕事なんだから」

凛「加蓮はネイルとか好きだから乗り気みたいだけど……ま、それはいいとして」チラッ

ナオ「……」

凛「ナオ……ちゃんをこの時間から仕事に連れていくのって、ちょっと非常識じゃない?」

P「まだご両親と契約の話もしてないし、ちょっとなって思ったんだけどな……」

加蓮「ナオちゃん凄いねー♪ アイドルになったら私も先輩になっちゃうね」モフモフ

ナオ「う、上手くできたらいいなーって……」

P「まあ、加蓮の家で預かってるっていうし、帰りは二人共俺が送って帰るよ」

凛「もう……しっかりしてよ」

ナオ「ねえ、お仕事ってどんなことするの?」

P「うん? ネイリストさんが考えた新しいネイルのモデルをやるんだよ」

加蓮「爪に直接お化粧っていうか、色んな模様のペイントをしたりするんだよ。いまの私の爪みたいなカンジ」

ナオ「へ、へえー、そうなんだ。綺麗だね」

加蓮「でしょ? ナオちゃんにはまだ早いけど、私や凛くらいになったら、仕事でこういうこともやるからね」

P「そういえば、もう別の事務所にも声かけてモデルに来てもらうって言ってたな……誰呼んでるんだろ」

……
…………

――東京都内、ネイルスタジオ

ナオ「へー……すっごいたくさん人がいるんだ」

凛「てっきり私たちくらいしか来ないと思ってたけど……」

P「なんだったかな、ネイルアートセレクションっていう企画で、大勢のネイリストさんを呼んだらしいが、いや多いなホント」

加蓮「ナオちゃん、あんまり変なところ行かないで、私たちと一緒にいようね?」

ナオ「はーい」

ナオ(はー、加蓮たちが終わるの待ってなきゃダメなのか……暇だ)

P「えーっと、凛と加蓮を担当してくれる人は……」キョロキョロ



「ちょっと、私が担当するモデル、全然来ないじゃないの!」

「も、申し訳ありません」


ナオ「ん?」


深爪「人だけこんな大勢集めてスケジュール管理もまともに出来ていないじゃない! 貴方、この企画のプロデューサーはどこにいるのよ!」

ディレクター(D)「プロデューサーは本社のほうにいますので……現場は私たちが担当しておりまして……」

深爪「呆れた……それならさっさと代役でも立てなさい! こんな時間まで待たせるなんて常識も何もあったものじゃないわ!」

D「代役については順次都合をつけていますので、もうしばらくお待ちください……」

凛「ヒスってるのが一人いるね」

P「現場の調整が上手くいってないみたいだな……まあ俺たちもこの時間に来ることになったし」

ナオ(時計時計……壁にあった。もう18時か……)

加蓮「あれ? あの人……」

凛「加蓮、知ってる人なの?」

加蓮「知ってる知ってる。あそこでヒスってる人、深爪塗子さんだよ。かなり有名なネイリストで雑誌でもよく見るし」

P「俺も聞いたことあるな……お、あそこにいるのは……」


巻津明「次はストーン埋めますね」



加蓮「あの人も知ってる。巻津明多伊さんだ……この前のネイリストコンクールで賞取った人なんだよね。深爪さんと同じ事務所の人だよ」

ナオ「へー」



「詳しいんですね」

凛「ん?」クルッ

楓「どうも、お疲れ様です」

P「お疲れ様です。モデルの方ですか?」

楓「はい。事務所のほうから急なお仕事だって連絡があって、来ちゃいました。そちらもですか?」

P「私たちのほうも午後に連絡があったので……っと、すみません、私こういう者でして」

楓「CGプロダクション……Pさん、ですか。あ、私いま名刺が……えっと、高垣楓です。あら……」

ナオ「ん?」

楓「あら可愛い子。お名前は?」

ナオ「えっと……神山ナオです」

楓「ナオちゃんですね。この子も、モデルさんですか?」

加蓮「うちの事務所に所属する予定の新人アイドルですっ」

楓「あら、そうだったんですか。アイドル、楽しそうですね」


「高垣さーん! こちらのほうでお願いしまーす!」


楓「あ、はーい。呼ばれちゃいましたね、それじゃあ失礼します」



凛「綺麗な人だったね」

P「そうだな……さて、俺たちも仕事の確認しないとな。ディレクターさんに挨拶しないと」


深爪「ちょっと貴方、真面目に聞いているの!?」

D「申し訳ありません、もう少しお待ちください……」


奈緒(はは……ありゃまだ時間掛かるな……)


……
…………

――数十分後

「乾燥させますね。指入れてください」

加蓮「はーい」

凛「私、あんまりネイル詳しくないんだよね……」

加蓮「いい機会だし覚えれば? 結構楽しいし」

凛「自分でやるのが面倒っていうか……」



ナオ(暇だな……加蓮たちもまだ掛かりそうだし……)キョロキョロ

ナオ「ん?」



巻津明「少し削りますね。指は動かさないようにしてください」

楓「ガリガリガリガリ……」


ナオ(楓さん、だったっけ……巻津明さんのところでネイルやってもらってるのか)


深爪「ちょっと、巻津明さん! いまのところ、手順が違うわよ!」

巻津明「す、すみません……」

楓「あ、深爪さんのそのネイル、青いグラデーションでキレイですね」


ナオ(ははは……深爪さんが叱りにきてるところで楓さん、空気読んでないな……)


深爪「賞を貰ったからって、調子に乗って手抜いているんじゃないわよ!」

巻津明「はい……」

深爪「まったく……私が担当するモデルもまだ来ないし、休憩室に戻ってるわ」ガタッ!



楓「あらら……行っちゃいましたね」

巻津明「すみません、お仕事中に……」

楓「いえいえ」

巻津明「っと、少し乾かしますから、その間にちょっとお手洗いに行ってきていいですか?」

楓「いいですよ。爪をながーくして待ってますから」



ナオ(二人とも、厄介なのがいなくなってホッとしたって顔してるな)

加蓮「ナオちゃーん、あんまり変なとこ行っちゃダメだからねー」

ナオ「はーい」


……
…………

――数十分後

加蓮「どう?」

凛「ちょっとギラギラしてない?」

加蓮「これくらい普通でしょ。やっぱり自分でやるよりキマッてるねー」

ナオ「ねえねえ、あたしにも見せてみせて」

加蓮「ほーら、綺麗でしょ?」

ナオ「うん!」

凛「この爪じゃモフれないか……」

P「二人とも終わったか。撮影のほうも順番にやってるみたいだから、もう少し待っててくれ」

凛「ま、仕方ないか……プロデューサーはどうしてるの?」

P「ちょっとDさんと、今回の仕事の話をしておかないとダメなんだが、しばらく外してるみたいなんだ。こっちも待ってるんだが」

P「今回の仕事の契約の話とか、いまのうちにしておかないとまた時間取らなきゃいけないし」

ナオ(まーこの時間から急にってなるとな……)

ナオ「……」ブルッ

ナオ「あ、ごめん加蓮ねーちゃん。あたしちょっとトイレ行ってくる」

加蓮「場所分かる?」

ナオ「大丈夫、行ってくるね」

……
…………

――数分後、ネイルスタジオ(廊下)

ナオ「ふー……結構危なかった。まさかスタジオのすぐ近くのトイレが清掃中だったなんて……っていうか他のトイレの場所が遠すぎる……」

ナオ「えーっと、スタジオに戻るには……」



巻津明「あら、お嬢ちゃん、迷子?」

ナオ「あ……えっと、巻津明さん?」

巻津明「ええそうよ。お仕事でここに来てるの。お嬢ちゃんは?」

ナオ「お仕事についてきたんだけど、トイレに行ったら帰り道わかんなくなっちゃって……」

巻津明「それじゃスタジオに来てたのね。一緒に戻りましょうか」

ナオ「うん、ありがとう」

ナオ(助かったー……)


……
…………

――数十分後、ネイルスタジオ

「お疲れ様でしたー」

P「お疲れ様でした。ありがとうございます」

加蓮「終わったー……疲れた」

凛「そうだね……」


楓「お疲れ様でした」

巻津明「お疲れ様です」


加蓮「あ、楓さんのほうも終わったんだ」

楓「あら……みなさんも終わったんですか?」

P「つい先ほど終わりました。お疲れ様です」

巻津明「お疲れ様です。もう遅い時間になっちゃいましたね」

楓「ずーっと指を伸ばしっぱなしだったので疲れちゃいました。さてと……それじゃあ、私はこれで」

凛「お疲れ様です」

ナオ「ばいばい、楓さん」

楓「ふふっ、それじゃあね、ナオちゃん」

加蓮「……で、PさんはDさんと話出来たの?」

P「一応な。さっき戻ってきたから捕まえたけど、後追いで契約書は今週中までに事務所に送ってくれるって話にはなったが」

ナオ(あれ……そういえば、深爪さんって結局戻ってこなかったな……)



「きゃあああああああっ!!」


凛「えっ!?」ビクッ!

「おおい、なんだ今の声?」

ナオ「な、なんだ!?」

P「今の声……高垣さんか? 帰ったはずじゃあ……」

タタタタタタッ!


加蓮「あ、ちょっとPさん、ナオちゃん!」

タタタタタッ!



……
…………

――ネイルスタジオ(女子トイレ)


楓「あ、あ……あ……」


P「高垣さん!」ガチャッ!

ナオ「いったいどうし……」


ナオ「なっ!?」



深爪「……」



楓「ト、トイレに、入ったら……ふ、深爪さんが……し、死……」

P「背中にナイフが……」

ナオ「こ、これは……殺人……!?」



……
…………

――ネイルスタジオ

刑事「では貴方は仕事が終わり、帰宅する前に女子トイレに立ち寄ったところ、深爪さんを発見したということですね?」

楓「は、はい……」

刑事「現場を取り仕切っているのは、Dさんでしたな。今日の仕事の流れについて説明をお願いします」

D「はぁ……ええとですね……」



凛「……大変なことになったね」

加蓮「うん。もう21時だよ……今日中に帰れるかな……」

巻津明「まさかこんなことになるなんて……」

加蓮「そうですね……ってあれ、ナオちゃんは?」キョロキョロ

P「どこいったんだ……ちょっと探してくる。加蓮たちはここで待ってろ」

加蓮「あ、ちょっと待ってPさん、私も行くっ!」



……
…………

――ネイルスタジオ(女子トイレ)

ナオ(鑑識が入り始めたけど、ナイフで刺された深爪さん……犯人が深爪さんの背中にナイフを刺したとして……争った形跡がないな)

ナオ(となると、後ろから一突きで刺されたのか? いや、だけど不可解なのは……この場所)

ナオ(このトイレは少し前まで清掃中の看板が立っていた。現にあたしは別のトイレまで走ることになったし……)

ナオ(犯人が深爪さんを殺害した時間は分からないけど、殺される直前に清掃作業が終わったのか?)


P「コラッ!」

ナオ「わっ!?」ビクッ!

P「ダメじゃないかナオちゃん。こんなところに来て」

ナオ「あ、ご、ごめんなさーい……」

加蓮「警察の邪魔になっちゃうでしょ? ほら、みんなでスタジオの中で待ってよう?」

ナオ「う、うん……」

P「……かわいそうなもんだな。こういう形で仏さんになるなんて」

加蓮「深爪さん、爪直してる最中だったんだ。でもネイルも割れちゃってるみたいだし……」

ナオ「え? あ……」

タタタタッ!

ナオ(気づかなかった。確かに、奥の洗面台にネイル道具が置いてある……ていうか、あんなにたくさん道具並べて、他の人が来たら邪魔になって仕方ないだろ……)

P「ほら、邪魔にならないうちに俺たちも戻ろう。凛も置いてきたままだし」

加蓮「そうだね」

ナオ「……」

……
…………

――ネイルスタジオ

楓「ち、違います! 私じゃありません!」


P「ん?」

ナオ「なんだなんだ?」


刑事「いえ、高垣さんが深爪さんを殺害した犯人と言ってるわけではありません。ただ第一発見者として、署で詳しい話をと……」


加蓮「凛、どうしたの?」

凛「あ、戻ってきたんだ……うん、それがね、さっきDさんが第一発見者が怪しいんじゃないかっていきなり言い始めて……」

巻津明「刑事さんが、楓さんに詳しい話を聞きたいから署まで来てくれって」

P「っとに、あのディレクターは……ちょっと、すみません」


刑事「はい、なんでしょうか?」

P「Dさんが何言ったのかは知りませんが、高垣さんが深爪さんを殺した犯人って思っているわけじゃないですよね?」

D「い、いや私は第一発見者が怪しいんじゃないかって言っただけで……でも可能性はあるでしょう?」

P「でも難しくないですか? 深爪さんは背中をナイフで刺されたんですよ?」

P「ナイフで背中を刺すのなんてすごく力が必要だろうし、それに高垣さんがスタジオから出る直前まで、私は彼女と話をしていました」

P「高垣さんの悲鳴が聞こえたのも、スタジオから出て行った直後です。そんな短い時間でトイレにいた深爪さんを殺すなんて難しいと思いますが……」

刑事「おっしゃることは分かりますが、それよりももっと以前に深爪さんが殺害された、という可能性もあります。それも含めて、高垣さんには……」

P「いえいえ、それこそ無理ですよ。だって今日ここにいる人たちは、ネイルモデルの仕事で来ているんですよ?」

加蓮「あ、そっか。深爪さんを刺すのにナイフを強く握るとか、出来ないもんね。今日は私たち、スカルプネイルで余計に爪伸ばしたし」

刑事「確かに、爪を弄っている最中の手で、人を刺すほどの力でナイフを強く握ることは難しい、か……」

ナオ(なるほどなー、Pさんも加蓮も、よく気付くもんだ……あれ? そういえば……)

ナオ「ねえねえ加蓮ねえちゃん」

加蓮「なあに?」

ナオ「さっきトイレで、深爪さんが爪を直してる最中だって言ってたよね、あれなんで分かったの? あのトイレ、入り口から洗面台とか見えなかったよね?」

加蓮「うん、深爪さんの手が見えたんだけどね、ネイルも割れてたリしてたけど、親指のところが――」



ナオ「……!!」

チュピーン!!

ナオ(そうか……わかったぞ!)

タタタタタッ!

加蓮「あっ、ナオちゃーん! どこいくのー!」


……
…………

――ネイルスタジオ(女子トイレ)

鑑識「お、おいお嬢ちゃん! こっちに来ちゃダメだよ!」

ナオ「ごめんなさい、ちょっと忘れ物……」キョロキョロ

ナオ(……やっぱりそうだ! この洗面台と、殺害された深爪さんの状況。さっき感じていた違和感はこれだったんだ!)

ナオ(いやー……アイドルやっててよかった。前だったらこういうこと気にしなかっただろうし)

ナオ(となると、犯人はあの人か……それに、あのときも一度……)


加蓮「ちょっとナオちゃん! どこ行ってるの!」

ナオ「げっ……ご、ごめんなさーい……」



……
…………

――ネイルスタジオ

刑事「とりあえず、この時間に20数名の方々をこれ以上拘束させるわけにもいきません」

刑事「必要であればこちらから後日お話を伺う為にご連絡しますので、連絡先を教えてもらえますかね」

P「まあ、そういうことでしたら……」

楓「どうしてこんなことに……」

「っとに、仕方ねえな」

巻津明「明日からどうしよう……深爪さんがこんなことになるなんて……」

凛「これ、私たちも連絡先渡さないとダメなのかな」

加蓮「Pさんが渡してればいいんじゃない?」



ナオ(マズイ、ここで解散させてあの人を帰すわけにはいかない。きっとまだあの人の体に……)

ナオ(どうする……どうすれば……でも、この前みたいに子供のあたしの言うことなんて誰も……!)ゴソッ

ナオ(そうだ……晶葉からもらったトレカ型変声機を使えば……!)


ナオ(ちょうどいい。ここに休憩用に置いてあったガラスの灰皿がある)


P「俺の連絡先は渡しておくから、加蓮と凛はとりあえずはいいぞ。ご両親には後で俺のほうから説明しておくから」

加蓮「はーい」


ナオ(よし、加蓮には悪いけど、この灰皿を加蓮の頭にぶつけて……!)


――
――――


ナオ「そらっ!」ブンッ!


ゴッ!

加蓮「ヴゥンッ!?」ビクンッ!

ドサッ!


ナオ(よしっ!)


凛「加蓮!? どうしたの突然倒れて……加蓮……加蓮……!」ユサユサッ!

加蓮「……」

ナオ「へ……?」

P「どうした、凛」

凛「加蓮、加蓮……! プロデューサー、加蓮が!!」

P「加蓮……? 加蓮!! し、死んでる……!?」

加蓮「……」

刑事「なんだって!?」

ナオ「そ、そんな……か、加蓮……」



ナオ「かれーん!!!!!!」






――
――――

――ネイルスタジオ

ナオ(……なーんてことになりそうだな、加蓮だし……加蓮はやめておくか)

ナオ(それじゃ頭やっても死ななさそうな……凛でいっか。悪いな、凛)

ナオ「せいっ!」ブンッ!


ゴッ!

凛「ウッ……」ドサッ!


ナオ(よし、都合よく手前のソファに座ってくれたぞ……!)タタタタッ!

加蓮「ん、凛? どしたの?」

ナオ(えーっと、凛の声の番号は確か165-80-56-81だったはず……!)ポチポチポチポチッ


ナオ「『……いや、大丈夫だ加蓮。ちょっと驚いちゃってさ』」

加蓮「うん? どうしたのそんな奈緒みたいな口調で喋って」

ナオ(やべっ!? えっと、凛っぽい台詞、台詞……)

ナオ「『……蒼』」

加蓮「は?」

ナオ(やばい、あたしにはあの蘭子程じゃないが若干厨二っぽい台詞回しをするのは無理だ……無難に喋ろう)

ナオ「『今回の殺人事件、誰が深爪さんを殺害したのか……それが分かって、ね』」

ナオ(くそー……今思えばなんであたしはこんなことやってんだよ……! こういうのは刑事の仕事だろ!)


……
…………

――数十分後

ナオ「『刑事さん、調べてみて。巻津明さんの体のどこかに、深爪さんと争ったときにネイルで付いた傷跡がまだ残っているはず』」

ナオ「『そしてその傷跡には付着している。深爪さんの遺体の右手親指から剥がれた、元々の、マニキュアと同じ色の跡が!』」


巻津明「……」

刑事「巻津明さん……失礼します」

グイッ!

刑事「これは……巻津明さんの二の腕の後ろに、青い爪痕が!」

楓「この色……深爪さんのネイルの色と……」

P「そうか、相手に二の腕を掴まれたら、相手の指は自然と二の腕の後ろ……本人の見えない場所に食い込むから……!」

ナオ「『そう。だから気付かなかった。そして洗面台に並べられたネイル道具は、深爪さんがネイルを直すために置いてあったわけじゃなくて、深爪さんのネイルに付着した血を消すために置いた巻津明さんの物』」

ナオ「『割れたネイルも、たぶんそれを誤魔化す為に意図的に割ったものがいくつかあると思う。血の付いたネイルは、トイレにでも流して捨てたんじゃないかな』」

D「ひええええ……」

刑事「……どうなんですか。巻津明さん」


巻津明「……全部、全部あの女が悪いのよ」

巻津明「事務所のオーナーでもあるあの女は、コンクールの賞も、事務所を売るために主催に金を渡して、無理やり私に取らせた……!」

巻津明「私の実力じゃあ、まだコンクールに入賞するなんて無理なのに、そんなことをされたから答えられない取材や、無理な仕事も増えて……!!」


楓「巻津明さん……」

刑事「わかりました。続きは、署のほうで……」


……
…………

――数分後

P「まさか、巻津明さんが犯人だったなんてな……」

楓「そう、ですね……望んでいない、分不相応な名誉を与えられて……それで、色々なことが嫌になって……」

P「事務所の為、とはいえなぁ……」

楓「あ……あの、プロデューサー……さん」

P「はい?」

楓「その、先程は……庇ってくれて、ありがとうございます」

P「まあ高垣さんもずっとここで仕事してたのは見てましたから。うちの子たちが座ってる場所の奥でネイルやってたから、見えていましたし」

ナオ(ふー……どうにか終わった。ていうか、あたしは何で犯人を推理したりしてるんだよ。警察がしっかりしてくれればいいのに……それか都がいてくれれば……)

加蓮「あ、ナオちゃん! もうっ、どこに行ってたの!?」

ナオ「ご、ごめんなさーい……ちょっと探検してて……じ、事件ってどうなったの?」

加蓮「うん、それがね、すごいんだよ。巻津明さんが犯人だったんだけどね、凛がそれを推理して当てたんだよ」

ナオ「へー! すごいや凛ねえちゃん!」

凛「……」

加蓮「ね、凄いよね。凛も、よくわかったよね。まるで探偵みた……凛?」

凛「……」

加蓮「凛……凛……?」ユサユサッ!



ナオ(凛……すまない……)



加蓮「りーん!!!!」



……
…………

――1週間後、昼、事務所

ガチャッ!

加蓮「おはよーPさん」

ナオ「おはようございます」


P「おお来たか二人共。今日からナオちゃんはレッスンだから、レッスン場についたらトレーナーさんの言うことを聞いて頑張ってな」

ナオ「はーい」

加蓮「大丈夫、他の子たちもレッスンしてるけど、今日は私と凛でちゃんと付き添いするから」

凛「プロデューサーも、心配ならレッスン見に来れば?」

P「そうしたいんだが午前中に仕事の話が来ててさ、14時まに全員のスケジュール確認して、先方に連絡しておかなきゃダメでな」

ナオ(相変わらず忙しそうにしてるな……)

P「あと今日は養成所にも顔出す予定だから、そんなに時間取れないし」

凛「養成所? ふーん……新しい子、探すんだ」

P「なんだその言い方は……いまの人数だと仕事も周りきらないから検討しようかと思ってな」

加蓮「ま、学校休む日も増えて、結構忙しいしね」

ピーンポーン!

凛「あれ、お客さん?」

P「おっと……はい」ガチャッ!!



楓「どうもー」


P「高垣さん? どうしたんですか突然……」

ナオ「お?」

加蓮「こんにちは。Pさん、仕事の話って楓さんと?」

P「いや全然、別の事務所だけど……」

楓「ちょっと先日のお話にと……」

P「あ、そうでしたか。どうぞ、向こうのソファに座ってください。いまお茶を……」

ナオ「楓さん、こんにちは」

楓「あらナオちゃん。こんにちは」

加蓮「この前、大変だったもんねー」

楓「そうですね。私、Dさんのせいで犯人だって疑われちゃいましたし」

加蓮「ホントホント、あのディレクター、何言ってんのってカンジで」

ナオ「今日はこの前の事件のお話に来ただけ?」


楓「ええ、あと、それと……」

凛「ねえプロデューサー、新しい子ってどういう子探してるの」

P「うん? そうだな、イメージとしては凛や加蓮くらいの子をもう一人と思ってるんだが……あ、どうぞ高垣さん、お茶です」

楓「わざわざすみません……何のお話ですか?」

P「え? ああいえ、事務所も忙しいし、新しいアイドルも増やしたいなと思っていたので、この後養成所に行くって話が……」

楓「あ、それなら丁度良かったです」ゴソゴソ

ナオ「ん?」

楓「はいどうぞ」スッ

P「履歴書?」

楓「はい」

P「なんですかこれ」

楓「前の事務所、辞めたんです」

P「はあ、なるほど」

楓「アイドルやろうかなーって思って」

加蓮「え」

楓「どうですか?」

P「……」

凛「プロデューサーが探そうとしてるの、私や加蓮くらいの子って言ってたよね」

楓「……高垣楓、15歳です」

ナオ「いや25歳って書いてるじゃん」


……
…………
………………
……………………

――次回予告

凛「へえ、ここが新しく出来たマリンパーク……まあ、悪くないかな」

楓「レポのお仕事って何話せばいいんですか? 台本あります? お酒は?」

P「酒はないです」

加蓮「もう……」

ナオ「ははは……」



ナオ「今日は仕事でレッスン足りてないし、ちょっとステップ踏んでおくかー」タッタタンッ!

加蓮(あのステップ……トライアドの……!?)



ナオ「あれれー? おかしいぞー?」

ナオ「ねえねえ刑事さん、いまのおかしくなーい?」


加蓮(小学生とは思えない洞察力、あのダンスのステップ、毎日見ていたような凄まじいモフモフ髪……もしかして、奈緒……!?)



『次回、マリンパーク密室殺人事件!』



……
…………

おわり

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