久々にオリジナルを書いてみたのであげようかと思います。
よろしかったら見て行ってください。
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私「級友さん、昨日美術部に行くって言ってましたよね?」
級友「うん、展覧会近いからねー、追い込みー」
私「ですよね、あれー?」
級友「どうしたの?」
私「昨日の帰り、級友さんを街で見かけたんですよ」
級友「見間違いじゃない?」
私「いや、あれは間違いなく級友さんでした」
級友「何が言いたいの?」
私「いや、何が言いたいっていうか、なんか不思議だなって。こういうのなんて言うんでしたっけ?」
級友「ドッペル、ゲンガー?」
私「そう、それです!」
級友「君はあたしのドッペルゲンガーを見たって言うのかい?」
私「いや、そんなことありえないですよね、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」
級友「いや、君は変なことなんて一言も言ってないよー」
私「え?」
級友「うふふー、なぜなら私がドッペルゲンガーなのですからー」
私「またまたー、級友さん面白い冗談ですね」
級友「うふふー」
私「え? マジですか?」
級友「うふふー」
これは私がドッペルゲンガーに出会ってしまった話
級友「わたくしこそがー、かの有名なードッペルゲンガーその人なのですよー」
私「ごめんなさい。理解が追いつかないんですけど……」
級友「ふむー?」
私「いや、そんなかわいい顔で小首をかしげられても……」
級友「俺様こそがドッペルゲンガーだ!!」
私「力強いカミングアウトをされましても!!」
級友「なんとー、ついに僕ちんの正体に気が付いた人間が出てきたのかと思いましたー、ああ大変だぁこれは僕ちん、やっちゃいましたー、まさか自ら正体を明かしてしまうとはー」クネクネ
私「やっちまった感じが感じられない!? 級友ちゃんってそんなキャラでしたっけ!?」
級友「ええ、猫被ってましたー、ドッペルゲンガーなんでー」
私「あれ? 私、思いがけず日常の不発弾を大爆発させちゃった感じですか!?」
級友「これからは気楽にドッペルさんと呼ぶがいいですよー」
私「日常に潜む非日常に対応できてない!!」
級友→ドッペル「まぁ、秘密を知られたからには放っておくわけにはいきませんー、あなたには覚悟を決めてもらいますー」
私「いや、その覚悟とかいきなりそんなこと言われてもちょっ! ひゃぁぁぁあああ!!」
級友「………」
ドッペル「うふふー」
私「うわぁ、本当に同じ顔……」
級友「ドッペルさん、なにしてんの? 私になりきるんじゃないの?」
ドッペル「あなたがー、不用意に街に出るからですよー」
級友「絵の具が切れてたの。しょうがないでしょ」
ドッペル「そんなこと言われましてもー」
級友「はぁ……で、どうするの?」
ドッペル「そんなの簡単ですー、秘密を知られたならやることは一つですー」ジャキンッ
私「え? ちょっ、なんですかその物騒な剣!?」
ドッペル「どっぺるせいばー」テッテレー
私「紹介の仕方がファンシーなくせに実物が全然ファンシーじゃない!!」
ドッペル「大丈夫ですー、これでちょっと首と胴体を分けるだけですからー」
私「いやいやいやいや! そんな簡単に言わないでくださいよ!」
ドッペル「先っちょだけー先っちょだけですからー」
私「そんなクズ男みたいなことを言われても困るんですけど!」
級友「やめて、ドッペルさん」
ドッペル「ですがー」
級友「ここでこの人に死なれたら面倒になるから」
私「あれ、クラスメイトなのに距離感が……」
級友「そりゃそうだよ、私、あなたに会ったの今日が初めてだもん」
私「それって……」
級友「そ、新学期からずっと入れ替わってたの。ドッペルさんからは入れ替わってからのことは逐一聞いてたけどあなたの話は出なかったし」
ドッペル「ええー、特段報告することでもないと思いましたのでー」
私「ああ、そういう……うわぁ、ちょっとショック」
ドッペル「うふふー」
級友「お願い。このこと、誰にも言わないでくれる? 今秘密がバレるわけにはいかないんだ」
ドッペル「それがダメならー」ギランッ
私「言わない言わない!」
ドッペル「仕方ないですー、ここで死んでもらいます―」
私「言わないっていってるじゃないですか!」
ドッペル「死ねー」
私「ぎゃああああ!!」
級友「ドッペルさん。いい加減にして、契約守らないよ」
ドッペル「むー」
私「た、たすかった……」
級友「あなたも女の子ならもうちょっと上品に叫べないの?」
私「巨大な剣を振り回す女子高生に迫られたら誰だってそうなりますよ……」
級友「とにかく、私たちのことは他言無用でお願いね。できるだけ私たちのことは放っておいて」
私「わ、わかりました」
級友「ん、じゃあもう帰ってもいいよ」
ドッペル「殺さないんですかー?」
級友「殺さない。とりあえず今はね」
私(とりあえず今は!?)
ドッペル「うふふー命拾いしましたねー」
私「あ、あはは……」
私「ひ、ひどい目にあった……」トボトボ
「ちょい、そこの幸薄そうな姉ちゃん」
私「はい?」
銀髪の男「俺、手相の勉強してるんだ、ちょっと手見せてくれよ」
私「私、占いとか信じない性質なんで……昔それでひどい目にあったし」
銀髪「安心しな、金ならとらねえよ。あんたくらいのわかりやすく幸の薄そうな奴を探してたんだ。協力してくれよ」
私「清々しいくらい失礼な人ですね」
銀髪「そうか? 俺は正直なだけだぜ?」
私「ちょっとだけですよ? あとから怪しい壺とか売りつけようとしても絶対買いませんからね?」スッ
銀髪「わかってるよ、どれどれ……うわっ、こいつはひどいね」
私「一目見ただけで!?」
銀髪「だって姉ちゃんの生命線、17歳で途切れてるぜ?」
私「いや、私今18歳なんですけど!」
銀髪「お前はもう死んでいる!」
私「そんなんで死んでたまるか! もう、真面目にやってください!」
銀髪「ごめんごめん、えっと……君、最近なにか大変なことに巻き込まれた?」
私「大変なこと?」
銀髪「普通じゃ考えられないことが起きたとか、信じられないものを見たとか」
私「えっと……」
銀髪「具体的に言うと、超常現象にあったとか。例えば悪霊に取り憑かれたとか」
私「そ、それは……」
銀髪「どうなんだい?」ギュッ
私「い、痛いです……」
銀髪「おっと失礼。なにか大変なことが起きたらすぐ大人に相談するんだぜ? なにか大変なことになっちまう前にな」
私「………」
銀髪「気が付いた時には全部手遅れってことになる前にな」
私「私、帰ります………」
銀髪「おお、協力してくれてありがとな、いい勉強になった。夜道を歩くときは気を付けてなー」
――翌日――
ドッペル「ちょっといいですかー?」
私「あ……」
ドッペル「今日の放課後、顔貸してくださいー」
私「こ、断ったら?」
ドッペル「ご想像にお任せします―」
私「ご一緒させていただきます……」
ドッペル「うふふー」
――――
級友「………」
ドッペル「くんくん、くんくん」
私「あ、あのドッペルさん? 私の体を嗅いでどうするつもりですか?」
ドッペル「くんかくんか、フゴフゴ……」
級友「自分と同じ顔の人間が同級生と百合ってるところ見るのはなんとも複雑な気分ね」
私「あはは……あの、に、においます?」
ドッペル「クサいですー」
私「そ、そんな!?」ガーン
ドッペル「とっても嫌な臭いがしますー」
私「い、嫌な臭い……」ズーン
級友「お風呂入ってく?」
ッペル「そういうのじゃないですよー。あなた、悪魔狩りに会いましたねー?」
私「悪魔狩り、ですか?」
ドッペル「余の様な異形の者を狙う人間のことですー。あなたの体から同業者の血の匂いがほんのちょっとしましたー。普通に生きている人間には絶対にないことですー。恐らくあの家を出てから今に至るまでの間に出会ったのでしょうー」
私「あ、あの人……」
ドッペル「心当たりがー?」
私「はい、昨日の帰り道に手相の勉強をしているって人が近づいてきて」
ドッペル「ビンゴですー、私たちのことは話しましたかー?」
私「話してないです」
ドッペル「賢い判断ですー、もし話してたら……うふふー」
私(続きが怖くて聞けない……)
級友「どういうこと? 私、そういう話聞いてないんだけど」
ドッペル「ここまで早く嗅ぎつかれるとは予想外でしたー、あははー」
級友「誤魔化さないで」
ドッペル「あなた、悪魔狩りの人の顔は覚えていますかー?」
私「えっと、大丈夫です。印象的な人でしたから」
ドッペル「ちょっと失礼しますー」ポスッ
私「ひゃっ!」
ドッペル「じっとしててくださいー。今、あなたの頭の中を覗き込んでいるのでー」パァァ
私「え、頭の中!?」
級友「じっとしてなさいって。頭がパーになってもしらないわよ」
私「えええ!!??」
ドッペル「ふむふむ、なるほどなるほどー。わかりましたー。ちょっと出かけてきますねー。級友さん、この人逃げ出さないように見張っててください」
私「え!?」
級友「……殺すの?」
ドッペル「うふふー」スタスタスタ
ガチャッ、バタン
私「あ、あの……」
級友「別に取って食ったりなんかしないわよ」
私「は、はあ……」
級友「………」
私「………」
私(き、気まずい……)
級友「あんたさ……」
私「な、なんでしょう?」
級友「いや、なんでもない」
私「そ、そうですか……」
級友「………」
私「そ、それにしてもすごいですよね、ドッペルゲンガー! あんなにそっくりだなんて!」
級友「別にいいもんじゃないわ。自分が取るに足らない普通の容姿だってことをずっと見せつけられてるみたいで気分悪いだけよ」
私「級友さんはかわいいですよ!」
級友「はいはい、ありがとね」
私「ドッペルさんとはどこで出会ったんですか?」
級友「なんか道歩いてたら」
私「普通……」
級友「自分と同じ顔した奴が向こうから歩いてくるわけ。信じられる? しかもあんな間抜けなしゃべり方で近寄ってくるのよ。『あなたの存在を私にくださいー』ってね」
私「それ普通にホラーですよ!」
級友「でもその時私、思ったわ。これはチャンスだって」
私「チャンス、ですか?」
級友「だって自分と同じ顔の人間がもう一人いるんだよ? これを利用しない手は無いでしょ!」
私「確かに……」
級友「だから私、ドッペルさんに言ってやったのよ。私の望みを叶えてくれたら存在でもなんでもあげるってね。それからよ、私とドッペルさんが入れ替わったのは」
私「ちなみにその望みっていうのは?」
級友「昨日会ったばかりの人にそんなこと簡単に言うと思う?」
私「一応、クラスメイトなんですけど私……」
友「クラスメイトって言えば、あいつ学校ではどういう感じなの?」
私「どういう感じとは?」
級友「さぞあたしの様に毎日色々な人に注目されているんじゃない?」
私「いや、そういう感じではないですけど……いたって普通ですよ」
級友「ふーん、つまんないの」
私「普通に学校に来て、普通に勉強して、普通に笑ってって感じです。まさか本性があんな感じだとは思いませんでしたが」
級友「あんたとは仲良いの?」
私「ええ、たまたま席が隣で。それからです。向こうはどう思っているかわからないですけど……」
級友「まぁ、ドッペルさんはそういうのは気にしないだろうからね。なにせ、元の作りが私達とは違うから」
私「私もまさか友達がドッペルゲンガーだとは思いませんでしたよ」
級友「これからもドッペルさんと仲良くしてやってよね」
私「ええ。もちろん」
級友「よかった」
私「ちなみに私は級友さんとも仲良くしていきたいと思っているんですけど」
級友「え? あたし? あたしなんかと仲良くしてどうすんのよ?」
私「えー、いいじゃないですか」
級友「あたしはいいわよ、そういうの。それに……」
私「それに?」
級友「ううん、なんでもない。それよりあんたにいいもの見せてあげる」
私「いいものですか」
級友「そ、いいもの」
私「これ……」
級友「中々の出来でしょ?」
私「なんていうか……すごいです!」
級友「ありがと」
私(級友さんが見せてくれたのは一枚の油絵だった。夕日が照らす土手を母親とその子供が手を繋いで歩いている、そんな絵だった)
級友「あたし、こんなんだけど画家なんだよね。だから学校に行ってるより、絵を描いてたいんだよ。でも高校は出ておけって親戚がうるさくてね」
私「えっと、ご両親はなんて?」
級友「あれ、ドッペルさん言ってなかった? 私が小さい頃に母親は出て行ったの。んで、お父さんは高校に入る前に……ね」
私「ごめんなさい……」
級友「いいっていいって。とにかく今のあたしは、描いて描いて描きまくりたいわけ。そんでもっと有名になればきっと……」
私「きっと?」
級友「大金持ちになれるってもんじゃない」
私「ふふっ、そうですね」
級友「だからドッペルさんには感謝してる。あたしに絵に没頭する時間をくれるんだから」
私「級友さん……」
ドッペル「戻りましたー」
級友「おかえりー、どうだった?」
ドッペル「うふふー」
私「なんですかその怪しげな笑い」
ドッペル「うふふー」
級友「その様子だとまだまだこの入れ替わり生活を続けていくことはできそうね」
ドッペル「はいー。しばらくは安全でしょうー」
級友「そ。もうこの子は家に帰してもいいのよね?」
ドッペル「はいー。もちろん秘密を守り続けてくれるのならですがー」
私「私、絶対喋りませんってば!」
ドッペル「ですかー。でしたら大丈夫ですー。家までお送りしますー」
級友「ん。それじゃあね。あんたと話してて楽しかったわ」
私「また、ここに来てもいいですか?」
級友「はあ? あんた、まだ私たちに付きまとうわけ?」
私「友達の家に行くくらいいいじゃないですか」
級友「友達の家ってあんたね……」
私「また絵、見させてください」
級友「しょうがないわね、たまに来るくらいなら別にいいわよ」
私「やった!」
級友「いい? たまによ? たまになんだからね?」
私「はい!」
ドッペル「あなた、本当に変わった人ですねー。普通、これ以上首突っ込む必要なんてどこにも無いと思うんですけどー」
私「いやー、乗り掛かった舟と言いますか。二人ともそんなに悪い人だとは思えなくてですね……」
ドッペル「私は別に悪い人でも、良い人でもありませんー。単純に生きたいだけですー」
私「でも、級友さんのお願いを聞いて、級友さんの代わりになってるんですよね? やっぱり良い人じゃないですか」
ドッペル「ふむー、そもそもの考えがどうやらずれているみたいですー」
ドッペル「いいですかー、僕は無償で夢見る少女の『学校サボりたい』に加担するほどお人よしではありませんー」
私「じゃあ、どういうつもりで?」
ドッペル「あなたはドッペルゲンガーがどんな時に人前に現れるかご存知ですかー?」
私「……わかりません」
ドッペル「新しい体が欲しい時ですよー」
ドッペル「以前の私はこんな顔でしたー」スッ
私(そう言って彼女は自らの顔に手を当てると次の瞬間には別の人の顔になっていました。青い目のどこか違う国の女性に見えます)
ドッペル「80年前、私はこの人から全てを奪いました。顔も地位も家族も恋人も全て」
ドッペル「その人に成り代わり、その人が送るはずだった人生を送りました。ですがそれも限界です。いくら歳を取らないと言われたって、ずっと容姿が変わらない人なんていないでしょう? だから次の人を探すことにしたんです」
私「それが級友さんだったんですか?」
ドッペル「成り代わるなら孤独な人の方がいいです。欲を言えば親がいない人間の方が圧倒的にいい。愛は絶対ですからね。その人を愛している人が見ればうまく成り代わってもバレてしまうのですよ」
私「級友さんをどうするつもりですか?」
ドッペル「私は契約を守るだけです。私は彼女の望みが叶うのを全力で手助けするだけですよ」
私「契約を果たしたら? 級友さんの望みが叶ったら級友さんはどうなるんですか?」
ドッペル「私が完全にあの人に成り代わります。完全に」
私「それって……」
ドッペル「ええ、ご想像の通りですよ」
ドッペル「彼女は死にます。私が生きるために」
私「………」
ドッペル「理解してください。私、生きたいんですよ。生きていたいんです」
私「り、理解できません! 人の体なんか借りなくても生きていけるはずです!」
ドッペル「ふーん、じゃあこれを見ても同じことが言えるかしら?」ズズズズズ
私「あ、あ……ああ!!」
私(それは、それはとても醜い『なにか』でした。ドロドロな『なにか』。周囲は腐敗臭で満たされていきます。私は思わず胃からこみあげてくるものを抑えるのに必死になりました)
ドッペル「この姿を見てもあなたは普通に生きていけると思う?」
ドッペル「わかったような口、聞かないでよ」
「お、見っけた!」
ヒュンヒュンッ!!
ドッペル「ガッ……!!」
私「ドッペルさん!!」
銀髪「ヒーロー見参、ってな」
私「あなたは……」
銀髪「大丈夫かい、姉ちゃん」
ドッペル「クッ、お前はあの時確かに殺したはず!」
銀髪「死んだふりは俺の専売特許なんでね~、今度の獲物はその子か? ドッペルゲンガー」
ドッペル「お前には関係の無いことだ」
銀髪「ま、そりゃそうだわな。俺も別にあんたを殺せたらそれでいいし」
私「あ、あの……」
銀髪「下がってな、姉ちゃん。これからちょっとした戦争が始まるんでな」
私「あの人、別に悪い人じゃないんです、だから……」
銀髪「おいおい、それは困るぜ。そういうの持ってこられるとさ」
銀髪「俺が殺せなくなるじゃん」
私「え?」
銀髪「いいか、姉ちゃん。人を殺すと罪になるだろ? でも悪魔を殺しても罪にはならないんだよ。そこのところわかってる?」
ズズズズズ……
ドッペル「頭がイカレちゃってるんですかねー?」
私(元の姿に……)
銀髪「あ? 存在がイカれてる奴に言われたくねぇよ」
銀髪「いいか、姉ちゃん。俺の殺しを邪魔するんじゃねぇぞ?」
ドッペル「ちぃー」ダッ
銀髪「行かせるか!」
ドッペル「どっぺるせいばー!」ブンッ
銀髪「ぐぁぁぁ! てめ、俺の腕を!」
ドッペル「次は首と胴体ですかねー」
銀髪「くそっ……!」
ドッペル「逃げますよー」
私「は、はい!!」
銀髪「待ててめぇ! 殺させろ!」
ドッペル「聞けないご相談ですー」
ドッペル「ここまで来れば大丈夫でしょうー」
私「ありがとうございます……」
ドッペル「あなたに死なれると後々面倒なのでー」
私「普通に喋れたんですね、ドッペルさん」
ドッペル「魂が無ければ完全にその人に成り代わることができませんー」
ドッペル「ドッペルゲンガーの成り代わりは成り代わる人物の魂を吸収することで完全となりますー。ですから今の私はこんな感じなのですー。まぁ、頑張ればそれなりにモノマネはできますがねー、あなた方が私と級友さんが成り代わっていることに気が付かないのと同じようにー」
ドッペル「ですがそれは本物ではありませんー、さっきも言ったようにその人を本当に愛する人には必ずバレてしまうでしょうー」
私「ドッペルさんはそれでいいんですか?」
ドッペル「生きるためですー。それに中途半端な成り代わりをし続ければまたあのような連中に狙われるでしょー」
ドッペル「理解してくださいー、拙者は生きたいのでござるよー」
私「じゃあ、あなたは級友さんが死んでもいいと思っているの?」
ドッペル「うふふー、当然ですー」
私「そんなの、おかしいよ……」
――別の日――
級友「………」カキカキ
私「………」ジー
級友「……なによ」
私「いえ、なんでもありません」
級友「……描きづらいんだけど」
私「どうぞ私のことはお気になさらずに」
級友「………」
私「………」ジー
級友「だぁぁ!! さっきからなんなのよ! 言いたいことがあるならちゃんと言いなさいよ!」
私「いえ、ですから私のことはお気になさらずに……」
級友「あんた、今描いている絵、どう思う?」
私「素晴らしいと思います」
級友「こういっちゃなんだけどあたし、天才なのよ」
私「はあ」
級友「この間、あんたに見せた絵、あったでしょ?」
私「はい」
級友「あれ、昨日2000万で売れたわ」
私「はぁ!?」
級友「あんたは今、その2000万の仕事をしている人間の邪魔をしているのよ。お分かり?」
私「す、すみません……」
級友「で? 私になにか聞きたいことあるんじゃないの?」
私「いえ、あの、その……」
級友「大方、あたしの望みが叶ったらあたしが死ぬって聞いたんでしょ?」
私「……はい」
級友「あたしの命なんだもの、好きに使ったっていいでしょ? あんたにとやかく言われる覚えは無いけど?」
私「その通りです。その通りなんですけど……死んでも構わないって思えるような願いってなんなのかなって」
級友「あんたのその好奇心はいつか自分自身を滅ぼすわね」
私「よく言われます……」
級友「前に話したでしょ、家族の話」
級友「あたしね、もう一度でいい。もう一度でいいからお母さんに会いたいのよ」
私「そんな簡単なことでいいんですか?」
級友「そんな簡単なことってなによ。あたしにとっては重要なことなの。それができたら死んだって構わないわ。だから絵を始めたんだし」
級友「有名になればその分、世間から注目されるでしょ? そしたらどんどんお母さんが私を見つけてくれる可能性が増えてくる。絵を描けば描くだけ、有名になれば有名になっただけ、お母さんはあたしをきっと見つけてくれる」
私「級友さん……」
級友「だから邪魔しないでくれる?」
私「はい。すみませんでした」
級友「……大人しく見ているだけなら別にいいからさ」
私「はい!」
級友「まったく、学校なんて時間の無駄だとは思ってたけどあんたみたいな奴がいたなら楽しかったかもね」
私「なにか言いました?」
級友「なんでもない!」
ドッペル「………」
――――
ドッペル「朗報ですー、級友さんのお母さんから連絡がありましたー」
私「本当ですか!?」
ドッペル「ええ、僕の携帯にかかってきまして、僕が対応したので間違いないですー。明日会うそうですよー」
私「明日……」
ドッペル「うふふー、これでこの体は俺様のものですー。うふふー」
私「やっぱり、級友さんの魂を吸収するんですか?」
ドッペル「もちろんですー、なんのためにここまでやってきたと思っているんですかー? あなたは馬鹿なんですかー?」
私「なにか別の方法は……だって級友さんは探していたお母さんと出会ってこれから幸せになるっていうのに……」
ドッペル「これがドッペルゲンガーという生き物なんですー、ドッペルゲンガーは人の体を奪わないと誰からも愛されないのですー」
ドッペル「僕は、誰かに愛されたい。愛して欲しい。生きていたい。だけど僕の本当の姿じゃ誰にも愛してもらえませんー」
ドッペル「それともあなたは僕のありのままを愛してくれるんですかー?」
私「それは……っ!」
ドッペル「無理はしなくていいですー。そんな当たり前のこと、とっくに気付いていましたからー」
ドッペル「とにかく僕は、級友さんの望みが叶うのを見届けて、彼女の魂を奪いますー。邪魔はしないでくださいねー?」
ドッペル「それに、あなたはとても大きな勘違いをしている気がしますー」
私「勘違い、ですか?」
ドッペル「人間ってそんな単純な生き物なんでしょうかー?」
私「どういうことですか?」
ドッペル「うふふー」
私「答えてください」
ドッペル「うふふー」
――――
級友「………」カキカキ
私「……あの」
級友「ちょっと待っててくれる? これで仕上げだから」カキカキ
私「描きながらでいいから聞いてください!」
級友「なによ?」カキカキ
私「明日、お母様と会うのやめにしませんか?」
級友「……ドッペルさんね?」ピタッ
私「やっぱり、死ぬのなんておかしいですよ。せっかくお母さんと連絡がついたんですし」
級友「あたしにドッペルさんを裏切れってこと?」
私「そういうことでは……でもまだ交渉の余地とかも……」
級友「ありえないわね。あたしがなんのためにここまでやってきたと思ってんの? 全部お母さんに会うためよ」
私「だからって、あなたが死ぬことなんて無いじゃないですか!」
級友「帰って。あなたと話すことなんて何もない」
私「級友さん……」
級友「帰ってよ!」
私「……はい、お邪魔しました」
ガチャッ、バタンッ
級友「………」
――翌日――
私「………」トボトボ
銀髪「よ、姉ちゃん。どうした? 浮かない顔して」
私「………」
銀髪「おいおい、無視かよ。あー、あいつに切り落とされた腕が痛むなぁ……」
私「……なんですか?」
銀髪「へへっ、そうこなくっちゃ。見てくれよ、おじさんこんなんになっちまった」ウィーン
私「その手……」
銀髪「義手だよ義手、結構高かったんだぜ?」
私「い、いきなり襲い掛かるから悪いんです!」
銀髪「なんだよ、俺は姉ちゃんが襲われていると思って助けに入ったんだぜ? これは名誉の負傷って奴だ」
私「頼んでません!」
銀髪「まぁいいや。俺は殺しができればそれでいいし」
銀髪「生きづらい世の中だよなぁ、まったく。ちょっと興味があって人殺してみたら牢屋行きだぜ? ひどくない?」
私「それは当然の結果です」
銀髪「まぁ、もっともさっさと抜け出してやったけど」
私「日本の警察は何をしているんですか!?」
銀髪「そこで俺は学習したわけさ。人間がダメなら人間以外でいこうってな」
私「それで悪魔?」
銀髪「悪魔でもなんでもよかったんだよ。殺せるならなんでもな。だから面倒じゃないこっちでいこうってな」ギャハハ
私「あなたは狂っています」
銀髪「狂ってる? したいように生きている奴が狂ってるってのか? 俺から言わせればお前らの方が狂ってるぜ?」
銀髪「なにをそんなに我慢してんだ? したいことすればいいじゃん、面倒なのは嫌いだろ? 我慢なんて馬鹿のやることだよ」
私「………」
銀髪「理解できませんって面だな。殺したくなる」
私「!!!」
銀髪「そう身構えんなよ。言ったろ? 人間は殺さねぇって。今日は姉ちゃんに忠告しに来たんだよ」
私「忠告?」
銀髪「ドッペルゲンガーを見つけた。今から俺は奴を殺す。邪魔すんじゃねーぞ」
私「!!!」
銀髪「忠告したからな、んじゃ、そういうことで」シュンッ
私「ちょ、ちょっと待って……!!」
私「き、消えた!?」
きゃあああああああ!!!
私「女の人の悲鳴!? ドッペルさん!!」タッ
――路地裏――
女性「やめて! お願い来ないで!!」
ドッペル?「………」ユラァ
私「ドッペルさん!! ………!!」
私「包丁なんて持ってなにしてるんですか!?」
ドッペル?「馬鹿な事聞くのね……決まってるじゃない。そいつを殺すのよ」
私「だ、ダメだよそんなこと!」
ドッペル?「……止めないで」ユラァ
女性「いやぁあああああ!!!」
私「ダメ!!」
ズブッ!!
ドッペル?「……え?」
銀髪「へへっ、ヒーロー見参ってな」
私「ああ!!」
銀髪「どうだい? 対悪魔用の特注品、聖水をしみこませた特殊なナイフだぜ」
ドッペル?「ぐぅ……」
銀髪「おう、遅かったな姉ちゃん。悪いが邪魔しないでくれよ。今、最高にハイって感じなんだよ。手のひらに伝わってくる命の感覚。たまんないぜこりゃ!」
女性「あ、ああ、あああああ!!!」
銀髪「なんだようるせえ女だな。見世物じゃねぇーぞ。さっさと消えな」
女性「ひぃぃぃぃ!!!」ダッ
ズブッ!!
ドッペル?「……え?」
銀髪「へへっ、ヒーロー見参ってな」
私「ああ!!」
銀髪「どうだい? 対悪魔用の特注品、聖水をしみこませた特殊なナイフだぜ」
ドッペル?「ぐぅ……」
銀髪「おう、遅かったな姉ちゃん。悪いが邪魔しないでくれよ。今、最高にハイって感じなんだよ。手のひらに伝わってくる命の感覚。たまんないぜこりゃ!」
女性「あ、ああ、あああああ!!!」
銀髪「なんだようるせえ女だな。見世物じゃねぇーぞ。さっさと消えな」
女性「ひぃぃぃぃ!!!」ダッ
>>42
すみません、誤爆です。
銀髪「姉ちゃん、あんたもだ。誰にも邪魔されたくねぇんだ。さっさと消えろよ!」
私「どうして、どうしてこんなこと!!」
ドッペル?「……あんた、さっさと逃げなさい……」
私「でも!」
ドッペル?「私のことは……いいから……」
銀髪「さっさと消えろって言ってんだよ!」
「消えるのはあんたの方ですー」
銀髪「あ?」
ザンザンザン!!!
銀髪「ガアアアアア!!!」
ドッペル「てってれー、救いのヒーロー、ドッペルさんですー」
銀髪「てめぇ……!」
ドッペル「さっさと目の前から消えてくださいー、でないと今度こそ殺しますよー? それこそ完膚なきまでにー」
銀髪「覚えてやがれ! てめぇは俺が殺してやる!」
ドッペル「やれやれですー」
私「級友さん!!」ダッ
ドッペル?→級友「……愛している人なら、見破れるって本当のことだったのね……」フフッ
ドッペル「だから言ったじゃないですかー」
級友「……疑ってごめんなさい……でもやっぱりそっかぁ……」
ドッペル「動いたら死にますよー?」
私「……なんでこんなこと?」
級友「言ったでしょ? ……あたし、やりたいことがあったのよ」
私「お母さんに会いたいんじゃなかったんですか!?」
級友「ええ……お母さんに会いたかったわ……会って、殺してやりたかった……」
私「え?」
級友「……信じられる? 出会って数日しか経ってないあんたがあたしのことに気が付いて、あの人はあたしがドッペルさんと入れ替わっていることに気が付かなかったのよ? 嘘みたいな話でしょう……?」
級友「あの人、お父さんを置いて外に別の男を作って出て行ったのよ! お父さんはそれで精神を病んで自殺したわ……私も親戚中をたらい回しにされた……全部、全部あいつのせい!!」
私「級友さん……」
級友「あたしが有名になれば絶対に向こうから近づいてくると思った。誰だって有名人とは仲良くなりたいでしょう? 自分の娘ならなおさら。だからあたしは絵を描き始めた。あいつをおびき出すために……」
級友「殺してやりたかった。この手で。あたしから全部奪ったあいつを。あたし、それだけのために生きてきたのよ。それだけのために……」
級友「あとちょっと、包丁を突き立てるだけでよかったのよ」
級友「だけどなんでかなぁ……あんたの顔を見たら……できなくなっちゃった……」
級友「……思えば、誰かに心配されたのなんて……初めてだったかもしれないわね……」
私「気をしっかり持ってください! 今、救急車を!」タッ
級友「馬鹿ね……もう、間に合わないっつーの……」
級友「ドッペル……さん……」
ドッペル「動かないでくださいー。出血が激しいので下手したら死にますよー」
級友「下手しなくても……死ぬよ、これはもう……」
ドッペル「黙ってください―」
級友「……これはこれで……悲劇のヒロインぽくない……?」
ドッペル「喋らないでくださいー」
級友「ドッペルさん、最後にお願いが……あるんだけど……」
ドッペル「喋るなって言ってるだろ!」
級友「……どうしたの? キャラ、崩れてるよ?」
ドッペル「私が魂を吸収するまで死なれては困ります―」
級友「ふふっ、そっか……お母さんの記憶をいじることってできる?」
ドッペル「僕はドッペルゲンガーですよー、人の認識をいじるくらいはお茶の子さいさいですー」
級友「そっか。さっきあったこと、無かったことにできるかな?」
ドッペル「わかりましたー、いずれお母様になるかたですからーうまいことやっておきますー」
級友「よかった……それともう1つ」
ドッペル「図々しいですねー」
級友「いいじゃない、最後なんだし……ドッペルさんの本当の姿、見せてくれない?」
ドッペル「………」ズズズ
級友「なんだ、思ってたより大したことないね?」
ドッペル「そんなこと言うのあなたが初めてですよー」
級友「あたしは、好きだよ。ドッペルさんの本当の姿……」
ドッペル「………」
級友「……あー、もう満足……あたしはもう……満足」
級友「ドッペルさん」
級友「あたしの魂、好きに使っていいよ」
ドッペル「………」スッ
パアアアアアア!!
私「今、救急車を呼んでき……! それ、なんですか?」
ドッペル「級友さんの魂ですー。あーあ、死んじゃいましたー」
私「そんな……」
ドッペル「予定は少し狂いましたが、魂は手に入ったのでなにも問題ありませんー」
ドッペル「あとは彼女の魂を取り込めば完全な成り代わりの成功ですー」
ドッペル「いやー、あっけなくて笑いがこみ上げてきましたよー」
ドッペル「うふふー」
私「級友さん……そんな……」
ドッペル「うふふー」
ドッペル「うふふー……」
――数日後――
級友「えっと、久しぶり。急に呼び出しちゃってごめんなさい。お母さんのこと、ずっと探してたんだ。ううん、お互い生活があるから……だから会うのはこれ1回きり。どうしても伝えたいことがあったから」
級友「……私、お母さんのこと大好きだよ! 産んでくれてありがとう。お母さんのお陰で毎日楽しいの。私、今すごい幸せだから! だからお母さんも安心して幸せになってね!」
ドッペル「……ふう」
私「お疲れ様」
ドッペル「……うまくできたでしょうかー? まぁ、できなくても仕方ないですよねー」
私「愛している人なら気付くはずですよ」
ドッペル「ですねー。あーあ、折角の成り代わりのチャンス、逃しちゃいましたー」
私「なんで成り代わらなかったんですか?」
ドッペル「あなたがそれを聞きますかー?」
私「それを聞かなきゃいけないような気がするから」
ドッペル「あたしが彼女と交わした契約、ご存じですかー?」
私「お母さんに会わせる、ですよね?」
ドッペル「いえー、正確には『母親に会って伝えたいことがある』ですー。彼女はお母さんにまだなにも伝えられていませんー。あの日のことは記憶を操作しましたから、お母さんにはなにも伝わっていないのですー」
ドッペル「ですからあたしは彼女の魂を使うわけにはいきませんー。契約違反はできませんから―」
私「ドッペルさん……」
ドッペル「まったく、面倒な人に絡んでしまいましたー。お陰でこんな目にー、ヨヨヨー」
私「……ドッペルさんはこれからどうするんです?」
ドッペル「彼女の魂を探して、契約を果たさせますー。どんな手を使ってもですー」
私「そっか。私も協力しますよ」
ドッペル「なぜあなたはそんなに首を突っ込みたがるのでしょうかー?」
私「なんでですかね? 乗りかかった舟と言うやつでしょうか」
ドッペル「変わってる人ですー」
私「あはは……でもこのままバットエンドは悔しいじゃないですか」
ドッペル「そうですねー。このままじゃ終われませんー」
ドッペル「まぁ、彼女がいつかあたしの前に現れるまで、仕方が無いのでこの姿のまま醜く、歪んだまま生きるとしますー」
ドッペル「うふふー」
これは私とドッペルゲンガーが一人の少女に出会った話。そしてこれから続いていく話。
<終わり>
以上です。
久々に書いてみました。お付き合いありがとうございました。
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