アナスタシア&一ノ瀬志希「はるのうた」 (164)

 モバマスよりアナスタシアと一ノ瀬志希がメインのSSです。
 独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。


 前作です↓
輿水幸子「事務所に帰ると狸が死んだふりをしています」
輿水幸子「事務所に帰ると狸が死んだふりをしています」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519982670/)

 最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
小日向美穂「こひなたぬき」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521733502


 あるところに、女の子がいました。

 女の子は、冬が嫌いでした。

 冬は雪の季節です。雪を降らす雲は空を覆って、月も星もすっかり隠してしまいます。

 満天に輝く無限の星々が、永遠のように遠くなってしまいそうで、切ないのです。


 とりわけ、その雪を降らせるのは自分自身だということが、とてもとても悲しいのです。


 女の子の名前は、アナスタシア・スネグーラチカ・マロースといいました。


【一ノ瀬志希かく語りき・そのいち】


 冬が好きって言うと意外そうな顔をされる。

 ――え、シキちゃん匂いフェチなんでしょ? だったら花とかあった方が良くない? 冬ってそんなの何もないじゃん?

 とゆー。
 その解釈も間違いじゃない。
 花の風が吹く春、雨が匂い立つ夏、草葉の枯れゆく秋にはそれぞれのニオイがあってそれなりにお気に入りだった。

 けど逆に、冬にはそれが「無い」のがイイ。

 冷えて澄んだ無臭の空気は、あたしのテンションをフラットにする。
 特に雪が積もってたりするとよりベターかも。死んだ植物や眠るケモノを優しく覆って隠しているようで。

 命が終わった後の世界を、一人てろてろ歩くのが好きだった。


 それに、雪の色にはそれなりに親しみがある。

 ちゃんと覚えてるんだ。

 3歳と202日目の冬の日に、あたしは雪だるまを作ったことがある。

 優しくて退屈な、なんもない故郷の冬。

 白一色の世界には、あたし以外の色と匂いが二つあった。

 げんこつサイズの小さな雪だるまは、そういえば、この手で作った最初のものだった気がする。

 だけどもう、どこにも無い。


 もちろん気温が上がれば雪は融ける。
 わざわざ融点の計算式を引っ張り出すまでもない自明のこと。

 春になって形を失い、水となって地面に飲まれ、そのカタチは跡形も残らない。
 それが自然科学とゆーものなのです。


 だけど……融けた雪だるまの行き先を、あたしは今でも時々考える。


  ―― 3月某日 事務所


 一言で言えば異常気象だった。
 窓の外でびょうびょうと吹き荒ぶ雪風を、俺は頬杖を突きながら眺めている。

「もう桜の季節だってのに……」
 
 テレビではお天気お姉さんがテンパっており、都心を襲う季節外れの大雪に関して、
 学者やらなんかの専門家やら役者や芸人が激論を戦わせている。

「ホントだね~。これじゃお花見できなさげ?」
「花見を楽しむってキャラでもないだろ、お前は」
「にゃはは、そんなことないよぉ。花とかお料理とか、気化したアルコールとか吐瀉物とかいろんなニオイが楽しめるし?」
「ゲロの臭いをありがたがるんじゃないよ」

 ていうか、そうじゃない。
 このまま異常気象が続くと、事務所としては結構ガチで困る事態なのだ。

 熱いコーヒーを一口すすり、俺は手元の資料に目を落とした。


『プロダクション合同 スプリングフェスティバル』


 近日開催されるこのフェスは、かなりでかいハコを押さえたプロダクションの一大イベントだ。
 もちろんうちの部署からも何組か出演する。
 みんなこの日の為に仕上げてきており、そのクオリティに今さら疑問を差し挟む余地も無いものの……。

 まずいことに、会場が野外なのである。

 桜の咲き誇る季節に、広大な会場で……というコンセプトは良いものの、やはり天候の問題はあるもので。
 ちょっとした雨天くらいならまだしも、異常気象そのものの寒気と大雪が続けばどうなるか。

 一過性のものならいいのだが、そもそも到来が唐突なせいでいつ過ぎ去るかの見通しも全く立たない。

 運営側としては「どうせそのうち治まるだろう」と楽観視するわけにもいかず、さりとて自然現象には太刀打ちしようもない……
 とまあ、なかなか厄介な状況になっているのだった。


「さむいー」
「乗んな」
「くんかくんか」
「嗅ぐなっ」

 志希はといえばいつも通りそのものだった。
 こいつも出演するのになぁ。

 まあ、有事に際していつも通りのノリなのはある意味頼もしくはある。
 そもそも付き合いが長くなってくると一ノ瀬志希という少女がどういう時どんな態度を取るのか分析しようという気自体なくなる。
 
 ……のだが、それでも多少の指標というものはあり。

 なにかしらエキセントリックなことが起こると、彼女は彼女なりに興奮する。
 遊びたいのやら解決したいのやら、とにかく何かの形で嬉しそうに首を突っ込んでくるのだ。

 少なくとも、俺が知る志希のパターンはそういう感じであって。

 要は、この異常気象に際して「いつも通り」ということ自体がある意味おかしいとも言えるのだ。


「なあ志希」

 なのでひとつカマをかけてみることにした。

「お前、何か隠してないか」


 沈黙、五秒ほど。
 べったりしなだれかかる志希は、そのまま耳元に唇を寄せ、ぽそりとこう囁いた。


「…………バレた?」


 当たりか。


 志希は一人暮らしをしている。

 しかも一軒家である。

 しかもしかも持ち家である。

 18の少女が都内一等地に土地付き一戸建てをポンと買っている。
 聞けば「昔取ったアレとかコレとかの特許料がなんか余ってるし」とのことで俺はそれ以上追及するのをやめた。
 
 何度か行ったことがあるのだが、それはもう立派な門あり庭付きの新築デザイナーズハウス。
 格差とは……大人とは……。
 といったことを考えつつ、これほどの家にもたまに帰らない志希の奔放さに呆れるなり慄くなりした。


 天気が天気だからここに来るまでにも一苦労だった。
 寒さに身を縮めながら、一度は仕舞った筈の一番分厚いコートを動員してまでやっと辿り着く。


「そいえばキミんちってどんなだったっけ」
「普通に賃貸アパートだよ悪かったな」
「それならウチ来る~? 部屋なら余ってるしー、キミだったら大歓迎だよー♡」

 まさに悪魔の囁きだが、いくら快適だろうと一ノ瀬博士の巣で無防備に寝泊まりできるほどの胆力は無い。
 ……ということを伝えると、家主は「やだにゃ~なんにもしないよ~」と朗らかに笑った。明後日の方向を見ながら。


「……で、ここに秘密が?」
「うん」

 観音開きの電動門扉をリモコンで開き、志希はいたずらっぽい笑みを見せた。

「びっくりしないでね。してもいいけど」


 凍り付いたような石畳の道を行き、門と同じくリモコンキーの玄関扉を開けた時、奥から声がした。

「ふふふ……とうとうここまで辿り着いたようだね……」
「この声は……?」

 ばっ、と物凄く見覚えのある奴が飛び出してきた。

「よくぞここまで来たものだ! アタシは秘密のアンドレ!!」
「フレデリカじゃねーか!」
「そ……そんな! フレちゃんがアンドレだったなんて!」
「お前も驚くのかよ!」


「まあそれはともかく、二人ともお帰り~♪ あ、シキちゃんお邪魔してまーす」
「いえいえ大してお構いもできずー」

 出迎えるフレデリカは何故かフリフリのエプロンを着ていた。料理でもしていたのだろうか?
 志希の家には度々アイドル仲間が遊びに行ったりしているが、特にフレデリカはそれが頻繁で、
 もはや勝手知ったる他人の家といった感じになっているらしい。
 
 寝たまま起きてこない、または実験に没頭したまま出てこない家主を迎えに訪うようなことも一度や二度ではなく、
 俺も何度かそうしてくれるよう頼んだことがある。


「今お台所に立ってたんだ~。二人ともランチまだでしょ?」
「んー、そいえば昨日からなんにも食べてない気がする」
「それはもうちょっと気にしろよ。俺もまだだけど」

 家の中は意外なほど整頓されているというか、物が極端に少なくて生活感に乏しい。
 志希は普段半地下の研究室に引きこもりがちで、こういう生活スペースにいること自体が少ないのだ。

 なので響子や美嘉、今いるフレデリカなどが定期的に掃除や食糧の補給などをしてくれており、
 それだからキッチンには志希よりむしろ彼女達の気配が色濃く残っている。

「そう思って用意しといたよ。はいフレちゃん特製パスタ!」
「おう、これはありがた……ラーメンじゃねーか!!」

 ネギにチャーシュー、メンマに味玉というスタンダードな醤油ラーメンが出てきた。
 イチから手作りらしい。なんて器用なことを……。


「……あ、すげーうまい。これ何からダシ取ってんの?」
「猫」
「猫!?」

 というのは冗談で、普通に鶏ガラをベースとして、輝子のトモダチから取ったダシをブレンドしたスープらしい。
 珍しい味に感じたのはキノコのおかげか。本当に猫ラーメン食わされたのかと思った。焦ったものの、味は無類だ。


 午前11時30分、外は暗い。分厚い雪雲が空を完全に覆い隠してしまっている。
 冷えに冷えた体に、あつあつのラーメンは実際ありがたいものがあった。

 スープまで一滴残らず飲み干したところで、話はいよいよ本題に移る。

「じゃ行こっか」
「行く? どこに?」

 家の中だというのに何故か一層厚着をして、志希は飄々と舌を出す。

「今、日本でいっちばん寒い場所」



 一ノ瀬邸には「開かずの部屋」がある。

 寝室だ。

 といっても大層なもんじゃなく、単に「全然使ってない」というだけの理由による。
 志希の睡眠事情はといえば、
 シュラフを持ち込んだ研究室で寝落ちするのが五割、
 失踪先で適当にホテルを取るのが三割、
 残り二割は事務所のどっかで丸くなっている、というのが大体のところだった。

 なので立派な寝室は建築当時からほぼ使われず、クイーンサイズの立派なベッドは今日も今日とて持ち腐れの有様だ。

 ……その筈だった。


「開けるよ」

 志希は耐低温のシリコン手袋を付けた手でドアノブを握った。
 硬そうな手応え。ぱきんと音がして、ノブが回る。


 開いた瞬間ものすごい冷気が廊下まで侵食した。

 俺はその時、遊園地によくある「アイスワールド」だか「氷の世界」だかを思い出していた。
 館内が極低温に保たれた、いわば極寒の体験型アトラクションで、よくミラーハウスとかと隣接していたりするアレ。


 ……もっとも、これはそんな生易しいものじゃない。
 寝室は床から天井まで凍り付き、氷雪を孕んだ風は今まさにそこから生まれていた。

 そして、その中心。

 そこだけ霜一つも走っていないベッドの上に、白い少女が眠っている。



「たまに起きて話すんだよね」

 吐く息は雲のように白かった。
 睫毛にさえも氷柱が降りるような寒風を受け、志希は目を細める。


「名前はアナスタシア。アーニャちゃんっていうんだって」


【一ノ瀬志希かく語りき・そのに】


 そこそこ前のことになるんだけど、あたし失踪しました。
 ちょっとそこの北海道まで。

 きっかけは何だったっけ? まあ何でもいっか。
 その時はたまたまヒマだったフレちゃんもついてきて、二人してかるーい北海道旅行と洒落込んだのだった。
 レンタルでカブちゃん借りて。なんかオマケについてきたダルマとお米も積んで。

 それで、カラッと晴れた最終日。

 信号のさっぱり無いロジスティック曲線みたいなカーブを曲がってる時、フレちゃんが声を上げた。

「だるま屋さーん」
「なにかな米屋さーん」


 と、米屋さん(フレちゃん)が指し示す方の空は暗かった。

「向こうの方、雪降ってしるぶぷれー?」

 ホントだった。
 わお! って感じ。局地的豪雪? 
 行く先に雪雲が垂れこめていて、いきなり晴れ間と雪の境界に飛び込んだ感じ。

 カブちゃんで分厚い雪のカーテンを抜けて、より激しく降る方へと進んだ。

 引き返したって良かったのにね。どうしてそうしたのかって? どうしてかなー。わかんにゃい。
 なんか面白いモノが見つかると思ったのかもね。
 

 そして、実際にあたし達はそれを見つけた。


 長い長い曲線道路の只中に、もう使われてなさげなボロっちいバス停があって。
 白い女の子が、そこにぽつんと座っていた。

 女の子は不可思議な大雪を当然のように受け容れながら、時刻表の剥がれた跡を見上げていた。

 たった一人で、きっと永遠に来ないバスを待ちながら。


 ぼへぼへぼへぼへぼへ、とカブちゃんのエンジン音が近付くと女の子はびっくりしてた。

「はろはろぼんじゅ~」
「あたし達とイケてるお薬キメないかーい」

 大きな瞳は、サファイアみたいな深い青色。

「……アー……その……?」

 発音の仕方に外国の訛りがある。息遣いと発声の仕方から考えるに多分ロシア語。
 一瞬、ほんの一瞬だけちかりと輝いた瞳は、だけどすぐに伏せられた。

「イズヴィニーチェ……アー……ごめんなさい」
「おや?」

 なんか謝られた。


「ここは、とてもホーロドナ……寒い、ですね」

 んん?

「わたしのせい、です。だから、ごめんなさい」
 
 ほほー。
 フレちゃんと目を見合わせる。
 結構「そういうこと」はあると、近くにたぬきちゃんとかきつねちゃんとか悪魔ちゃんとかがいるとわかる。

 具体的に何がどうなってるのかは、今の判断材料ではよくわかんないけど。

「このまま進めば、スニェーク……雪、止みますね。わたしから、遠くに行けば、です」

 まるで道案内をするみたいに進行をうながして、彼女はにっこり微笑んだ。

 その顔を見て、あたしは考える前にこう言った。


「うち来る?」



 隣でフレちゃんが、ワオ! みたいな顔してた。

 どうしてそんなこと言ったのかって?

 どうしてかな。
 それも、よくわかんにゃいんだな。


 ただ一つ言えることは、その子からはニオイがしなかった。


 まるで雪だるまみたいに。

 一旦切ります。
 以降の更新は随時ゆっくりめになると思います。すみません。
 のんびりお待ち頂けますと幸いです。

好きなシリーズの好きなアイドル登場は嬉しい

わーい、新鮮な肥後たぬきだー

そっかー、雪女さん(?)来ちゃったかー、そりゃ春分だろうと雪も積もるわー(武蔵国秩父郡)
って言うかロシアでも雪女って言うのかしら?教えてエロい人


>レンタルでカブちゃん借りて。なんかオマケについてきたダルマとお米も積んで。
おいそのレンタル屋絶対藩士だろ

>>2でアナスタシアの後についてるスネグーラチカってのが雪女、というか雪娘
ジェド・マロース(ロシア版サンタクロース)の孫娘ってことになってる


   ―― 後日 事務所


 今日も豪雪。記録的異常気象の原因は何か、爆弾低気圧がどうこう、政府の秘密の気象兵器が云々、
 某元プロテニスプレーヤーの国外遠征などあーだこーだ言ってるテレビは何の役にも立たない。

「今日も寒いなぁ」
「ほんとですね~」
「ブモッ」
「ぽこぽん……」

 一旦は片付けたコタツを引っ張り出し、ちょうどヒマしているイヴとブリッツェンと鍋をつつく。
 ちひろさんにバレたら殺されるかもしれんが、寒いものは寒いのである。
 ちなみに中では狸モードの美穂が丸くなっている。

 ……寒さの原因を俺はもう知っている。

 昨日、この目で見たのだから。


 ――しばらくうちで居候してるんだ、この子。

 ――まああたしもこういう子の生態に興味あったし、ちょうどよかったみたいな?


 事の経緯は聞かされたものの、そうなると気になるのは彼女を連れ込んで何をしているのかだ。
 聞いてみると志希はこともなげに答えた。投薬とか、採血とか………………

 投薬とか採血とか!!?

 お前それ人体実験じゃないのか!?

 まあ似たようなものかもねーと本人は笑う。
 流石に許容できなかった。プロデューサーとして担当アイドルの凶行はなんとしてでも止めねばならず、
 彼女を解放して北海道に帰すべく説得を試みたが、そこで状況に変化があった。

 アナスタシアが目覚めたのだ。



 ――シキは、わたしのことを治そうとしてくれています、ね?


 治す……とは、何をだろうか。
 原理はさっぱりわからないが、「雪を降らせる」という体質そのものだろうか?

 アナスタシアは穏やかに微笑するばかりだった。
 だけどその笑みは、どこかひどく悲しそうに見えて。

 雪は、止む気配がなかった。

 白く暗い窓の外を一瞥し、志希は平気そうな顔で「にゃはは」と笑った。


 俺はその後、彼女をどうするかの判断をしきれないでいた。
 志希の狙いもわかる。二人の間にわだかまりはなく、両方納得ずくでああしているようだ

 飽きっぽいと見られがちな志希だが、ある事柄においてはその限りではない。

 異常気象の件、フェスの件、彼女達の件……と、不透明なことばかりだった。


「……アナスタシア・スネグーラチカ・マロース……だったっけか」


「まろーす?」

 ただの独り言だったのだが、ブリッツェンをもふもふしていたイヴが反応した。


「? どうしたイヴ?」
「いえ~。まろーす……マロース……」

 あ!
 と、目を丸くして、

「ひょっとして、ジェドおじさまのご親族ですか~!?」
「知ってるのか!?」
「知ってるもなにも、ロシア担当のベテランサンタさんですよぅ! ジェド・マロースおじさま!
 懐かしいなぁ、小さい頃によくお世話になってたんですよ~っ」

 覚えがあるのか、ブリッツェンも嬉しそうにブモッブモッと鳴いた。


 何があったのかを説明してみせると、イヴは頬に指を当ててうーんと考え込んだ。

「そうだったんですか~……。そういえば、日本に小さいお孫さんがいるって聞いたことがありますねぇ」
「そっかサンタ繋がりか。なあイヴ、そのマロースさんと連絡が取れるか? お孫さんについて話を聞けるかもしれない」
「古風な人ですから、お電話やSNS(サンタネットワーキングサービス)も使ってないんですよぅ。
 やるとしたらお手紙のやり取りになると思いますけど~……」

 いつものハの字眉にちょっと皺を寄せて思案するイヴ。
 ややあって、そうだ、と手を叩いた。

「私、ちょっと今から会いに行ってきます~!」
「会いに? 今から!? ロシアに!?」
「ブモッブモモッ! ブモモォーッ!」

 テンションたけーなブリッツェン!


「大丈夫ですぅ! すっかりご無沙汰でしたし、ブリッツェンも会いたいって!」
「って言うけどお前ロシアまで、しかもこっちはこんな天気だし……!」

 えへんっ、とイヴは胸を張った。ブリッツェンも張った。

「私達、寒さには強いですから~!」

 ……そういえば初対面が全裸だったなこの子。
 寒いもんは寒いのだろうが、大丈夫なのかほんとに。

「国境越え用の高速巡行モードもありますっ! ブリッツェン、いくよ~っ!」
「ブモオッ!」

 取り出したるは、透明な液体の詰まった瓶。
 ……って、ウォッカって書いてますけど。


 かきゅっ(瓶の蓋を開ける)。
 がぽっ(ブリッツェンの口に突っ込む)。

 ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ………………ぷはっ。

「ブ」
「おお……」
「ブ!」
「おお!?」
「モ!!」

 ブリッツェンの全身に力が漲っていく……!!


 イヴは隅っこからソリを取り出してブリッツェンにくくりつけた。

「何かわかったら、すぐお知らせしますね。お孫さんはプロデューサーさんと志希ちゃんにお任せします~!」
「あ、ああ! とにかく気を付けて! お祖父さんにもよろしくな!」

 ということくらいしかもはや言えなかった。
 イヴはサンタ色のコートを羽織り、鍋の後にとっておいたミカンを一つ手に取る。

「それじゃ、いってきます~っ!」
「ブモモモモモモモモモモモーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 ブモォォーーーーーーーーーーーーーーォォゥゥゥゥゥ……(ドップラー効果)


 …………行ってしまった。

「こ、行動力の化身……」


「ぽこっ」

 にゅっと美穂がコタツから顔を出し、人間に戻った。

「アナスタシアちゃんっていうんですね、その子」
「……ああ。まあ、うちから見たらそういうこともあるのかなーって感じではあるけど」

 十分あったまった美穂はアホ毛の先までほかほかしている。
 もう小さな点となってしまったイヴ達を見送り、窓を閉めてまたコタツに戻った。

「フェスの件もある。なんとかしたいもんだけどなぁ」
「もうすぐですもんね……」
「ああ。……でも」

 まだ残った鍋の中身をよそう。
 残り汁で雑炊でも作ろうかな。


「どんな形で解決するにしても、あの子に何か苦痛を伴うような形にはしたくないし」
「……」
「北海道からここまで来たってことは、そうしたい何かがあったんだと思う。
 志希やフレデリカとの関係もまずくはないみたいだし、引き剥がして送り返すってのもなんだかな……。
 志希も志希で、何か考えがあるみたいだし」

 となると、担当プロデューサーとしては最大限その意思を尊重したく。
 とはいえ、フェスの運営側としては何かすぐにでも打つ手を見つけなければならず。
 その打つ手が現状さっぱりわからないから困るわけで…………。

「プロデューサーさんは、優しいですよね」
「日和見主義なだけだよ」

 何がおかしいのやら、差し向かいに座る美穂はにこにこうれしそうに笑っている。
 こいつも出演するんだけどなぁ。


「……みかん剥くけど食う?」
「食べますっ」

 待つか、動くか。
 どうするにせよ、当事者達を信じなくてはならない。

 一旦切ります。
 スネグーラチカは、杏仁豆腐先生のアクリルキーホルダーのイラストから拝借した設定です。

スピッツ期待

このシリーズ好き

カブ、ダルマ、お米…以前の周子と同じウィリー事件ネタか


【一ノ瀬志希かく語りき・そのさん】


 なんでもアーニャちゃんは、雪の精霊と人間との――ロシアのソレと日本人とのハーフなんだという。
 ハーフ&ハーフ的な? うーんピザみたい。彼女タバスコは苦手みたいだけど。

 寝て起きて、時間が止まったような静かな生活を続けるアーニャちゃんは、だいたいいつも笑顔だった。

 目を覚ましている間は、概してとても素直で明るい女の子だった。
 その不思議な体質のナゾを解明せんとするあたしに、イヤな顔ひとつせず付き合った。

 それにとにかく好奇心旺盛。
 ホントに雪から生まれたんじゃないの? ってくらい色んなものを知らなくて、
 その分色んなものを知りたがって、あたしは何かと質問攻めに遭ったものだ。


「シキ、これは何ですか?」
「台本ー。お芝居する時に読むやつ。ちなみにあたしは悪の天才科学者セクシーマッドネス役」

 連続テレビドラマ版『モーレツ☆世直しギルティ!』のシーズン4だってさ。
 結構ぶっ飛んだ内容で個人的にもなかなか気に入ってたり。

「これは何ですか?」
「エッセンシャルオイル。植物の成分が凝縮されてる油で、そこから香りを留出するの」
「それは何ですか?」
「獣脂の瓶だよー。蝋燭とか石鹸にもなるよね」
「あれは何ですか?」
「志希ちゃんのふぇいばりっと・ふれぐらんす、濃縮プロデューサースメル」
「プロデューサーとは、誰ですか?」
「いろんなのの飼い主のおにーさん。ヘンなヤツ」
「何を飲んでいますか?」
「カフェインとポリフェノールによって脳細胞を覚醒させる秘密のクスリ。飲む?」

 無糖のブラックコーヒーを一口啜り、アーニャちゃんは「うぇ」みたいな顔をした。にゃはは。
 ……なんてやり取りを繰り返したりもして。


「物知り、ですね。シキは、何でも知っています。凄いです」
「スゴくはないかにゃ。知識は詰め込むだけで済むから楽ちんだよ」

 知識は無色透明だ。
 あればあるだけ腐らないけど、それだけでは意味を持たない。
 つまりは単なる触媒なのであって、器にたっぷり知識だけを満たしていても凄いことは何も無い。

 もちろん、あたしの知識のプールに無いものもある。

 たとえば雪の精霊の生態とか、その思考パターンとかね。たとえばこんなことがあった。


 そんなに色々気になるならお外に出てみる?
 楽しいヘンテコがたくさんだよー。うちの事務所とか。


 アーニャちゃんは、その提案を拒絶した。


「どして?」
「アー……」

 彼女は小さく首を傾げ、一生懸命言葉を探した。

「わたしは、普通の子ではない、です」

 東京では冬から春にかけて「特別寒い日」が幾つかあって、そのほとんどにこの子が関わっていた。
 そんな時、彼女は声もなく涙を流したり、ひどく寂しそうな顔をしていた。

「シキのプリヤーチェリ……友達、きっとみんな優しくて、素敵です。フレデリカを見れば、わかりますね」

 ――ああ、ほら。その顔。

「けど、迷惑かけてしまいます。だからアーニャは、ここにいるのが一番、です」

 言いながら、また微笑むんだ。



 そんじゃメーワクじゃなくなればいいのかな?

 と思うようになるのは自然のことだけど、あたしだって間抜けじゃない。
 とっくのとうに結論は出ているのだ。


 アーニャちゃんの体はほぼほぼ普通の人間。薬の効き目も個人差に収まる程度。
 その全てが、彼女の引き起こす現象を決定的たらしめているものではない。


 つまり、科学的、薬学的、身体的に手を入れて解決できるものでは、最初からない。


 ―― 数日後


 イヴから連絡が来た。

 彼女は無事ロシアに渡り、噂のジェドおじさまと十数年ぶりに再会を果たしたらしい。

 ジェド氏は北海道で暮らすアナスタシアをいつも気にかけていた。
 なので、彼女が今東京にいることももちろん承知していたようだ。

 本人としては心配で夜も眠れぬ有様だそうなのだが、反対はしなかったらしい。
 ただ、息子(つまりアナスタシアの父親)は最後まで乗り気ではなかったようだが……。

 上京はアナスタシア自身の強い希望だという。
 その理由についてジェド氏はなんとなく察していたようだが、敢えて言うことはなかった。

 何よりも彼女の体質と、それに伴う心の問題を懸念していた。

 アナスタシアは、体はほぼ人間なのだが、サンタ……というか雪の精霊としての力が特別強いらしい。
 いわゆる隔世遺伝だろう。
 吹雪や寒波を司るジェド氏の血が、アナスタシアにも色濃く現れたのだ。


 そして彼女は幼く、心優しく、なおかつ繊細な少女だ。

 感情が大きく揺れ動く時、寒波は押し寄せるという。
 アナスタシアは自分の力をまだうまくコントロールできていないのだ。

 なんとなれば、彼女はまだ15歳の女の子。

 ただでさえ多感な時期。自分の感情を制御しきるなど常人だって大人だって難しい。
 更に特異な体質をも抑えつけろなどというのは、いくらなんでも酷というものだ。


 身も蓋もない言い方かもしれないが――

 心の問題だと、ジェド氏は語った。


『そっか』
「ああ。どうしてもアナスタシアさん自身の問題になってくるそうだ」
『流石にそっちは専門外だにゃ~。あたし人の気持ちわかんないかんね』

 電話口の向こうで志希はあっけらかんと笑った。
 いつもの軽い口調の中に諦念の色がある。
 口惜しいとか残念とか、そんな気配はおくびにも出さない。

『それじゃあとは任せよっかな。プロデューサーそういうの得意でしょ? あたしは――』

 だが。

「いや」
『んにゃ?』
「引き続き彼女を任せたい。多分お前にしかできないと思うんだ」
『おやおや、キミ話聞いてた? あたしの専門はケミカルで心理学(サイコロジー)じゃないよー?』
「心理学者じゃないけど、アイドルだ」

 束の間、志希が沈黙した。


「あのさ。感情って何だと思う?」
『……?』
「なにも心がどうたら~みたいなクサい芝居がしたいんじゃない。一般的な解釈でいいから」
『……脳の電気信号と特定の分泌物によって発生する化学反応』
「そう。ちゃんと説明のつく現象で、言ってみりゃ物質だな」

 志希はじっと次の言葉を待っている。
 その気配に、伏せて獲物を見つめる猫の姿を想起した。

「物質は変化する。特定の作用にそれぞれの反応を見せていくらでも色を変える。
 確かに曖昧だが、感情も手の届かないフワフワした概念じゃないし、そう考えたら得意分野だろ?」
『キミってたまによくわかんないこと言うよね』
「うっせお互い様だ」

 つーかわかるだろ理屈としては一応。
 ここまで来ると志希は俺が何を言いたいのかくらい察していて、だからこそ皮肉げに笑った。

『……あたしが、望ましい反応を引き起こせる溶媒だって?』
「その可能性が一番高いと俺は思ってるよ」


「誰かの感情に作用して、反応させて、変化させる。それをするのがアイドルだ。科学者でも心理学者でもない」
『じゃあせんせー、必要な工程と材料の提示をおねがいしまーす』
「この先はキミ自身の目で確かめてくれ!」
『おにあくま』

 通話を切って一息つく。

「フーレちゃーんだ!」

 いきなり後ろから目隠しされた。

「……普通こういう時は『だーれだ』じゃね?」
「そこはアタシも悩んだよね」
「悩んだのか」
「プロデューサーはきっとアタシをわかってくれる……そう信じてるから、じゃあ最初からネタバレでいっかーってなった!」
「へへっよせやい、信頼がこそばゆいぜ。そしてその理屈はおかしい」


 こっちはブラック、フレデリカは角砂糖を四つも入れた。

「レッスンどうだった?」
「順調順調~。もうアタシに掬われないドジョウはいないよ!」
「誰が安来節やれっつったよ」

 今回、フェスの舞台には志希とフレデリカの二人で立つ。
 周子は新規ユニット「ケセラセラ」として、美嘉と奏はソロだ。
 
 アナスタシアのこともあり、今日の志希はレッスンスケジュールをずらして休ませている。
 本人のパフォーマンスには問題ないため、二人きっちり合わせる機会を作れば憂いはない。

 フレデリカはいつもの調子で冗談を言っていたが、コーヒーカップで手を温めながらふと、

「シキちゃん、なんて?」


「鬼とか悪魔とか言われた」
「ワオ! プロデューサー鬼だったのー? それならそうと早く言ってよね!」
「そこだけ真に受けんなっつの。……まあ、とにかくあれだ」

 電話での会話を、要点だけ掻い摘んで説明した。
 フレデリカはエメラルドグリーンの眼を細めて、じっと聞き入っていた。

「そっかそっか、なーるなるなる」
「とにかく、俺の見立てではそんな感じ」
「二人ともよく似てるもんねー」

 ああ、やっぱりわかってたのか。

「俺はとにかくフェスの運営とみんなのバックアップに専念する。だから――」
「ういむっしゅ。お任せデリカ!」

 元気よく答えて、フレデリカは意気揚々と事務所を出ていった。
 ……さて、仕事の続きといくか。


「あ、そうそうプロデューサー。鼻メガネと馬の被り物どっち好き?」
「何の話!?」

 一旦切ります。ペース遅めですみません。
 ここまでで大体半分くらいです。


【一ノ瀬志希かく語りき・そのよん】


 視点を変える必要がある。
 現状から変化が起こらないということは、そもそもの前提条件が間違っていたということだ。
 だけど、どうアプローチをかければいい? どこから切り込めば?

 プロデューサーは、どうしてあたしに丸投げしたんだろう。

 どうして……「どうして」、か。

 何のためにとか、どうしてとか、そういう理由で何かを始めたことがない。
 強いて言うなら、全て自分のためだった。


「どうしてあたしについて来てくれたの?」

 初めてそんなことを聞いた。
 アーニャちゃんは目を丸くして、だけどあまり迷うこともなく答えた。

「眩しかったから」
「……何が?」
「二人が、です」

 言って、彼女は綺麗な目を線みたいにして笑う。

「シキも、フレデリカも、とてもスヴァボーダ……自由に見えました。
 アーニャは、違いますね。今まで守られて、静かに暮らしていました」


 アプローチの仕方を変えれば、反応もおのずと変わってくる。
 体質や健康状態とは違う質問を投げれば、当然回答も違ってくる。

「二人の眼は、きれいでした。わたしの好きな星(ズヴェスダ)みたいに、きらきらしていました。
 だから二人と一緒にいれば、アーニャもそうなれる……かもしれない、と」

 そこまで語って、彼女は小さくかぶりを振った。

「――今でも、楽しいです。シキはなんでも知っていて、フレデリカもとてもユニーク、です。
 呼んでくれて……連れてきてくれて、スパシーバ……感謝、していますね」

 そして相手が答えたら、手番はこっちに回ってくる。

「シキはどうして、わたしを呼んでくれましたか?」

 先読みはできていたのに、驚いたことに答えに詰まった。



 なんかおもしろそーだったから。


 いつもなら間違いなくそう答えたと思う。
 思い付きの行動に理由を求めたことはこれまで無い。失踪も同じ。

 ほとんど反射のようにこう答える。


「――キミ、自分のこと嫌いみたいだったから」


 感情は現象で、思考は物質で、サンタの孫もヒトも同じ。

 反応はもう始まっている。
 



 フツウの子供は何かと「どうして」を問いたがるもの、らしい。
 どうして空気はあるの?
 どうして夜は暗いの?
 どうして海があるの?

 どうして雪だるまは融けちゃうの?

 過程と結果と構造がすぐにわかるあたしには、誰かにそう問う必要がなかった。


 アーニャちゃんはあたしの言うことを否定しなかった。
 ならば、改めて問う段階にある。

「ねえ、どうして自分が嫌いなの?」


「わたしは……星が好き、です」

 ぽつぽつと語り出す彼女から、微笑みは失せていた。

「月や、太陽や……草原や街や、人も動物も、好きです。好きなもの、たくさんあります。
 だけど、星も太陽もみんな、アーニャのことを好きではない、ですね」

「それは、どうして?」

「わたしは、吹雪を呼びます。凍った雲、とても冷たくて……みんな、寒い思いをします。
 空には蓋がされて、何も見えないです。アーニャがいたら、好きなものが曇ってしまいます」

「…………」

「それに、アーニャはポロヴィナ――半分、ハーフ、です。
 ロシアのものでも、日本のものでも……人でも、グランパのような精霊でもない、ですね」

 外の雪がまた深くなったように思う。
 あたしは窓の外には一瞥もくれず、彼女の蒼い目を見ている。

「時々、どこに居ればいいか、わからなくなります。だから……悲しいです、少しだけ」

 ――あるいは、その虹彩に映る自分を見ている。


【一ノ瀬志希かく語りき・むかしばなし】


 あなたは志希。あなた自身が、希望なのよ。


 小さなあたしを抱いて、ママはそう言った。
 その意味は今でもよくわからないけど、ともかく言われた通り望み続けた。

 知識を、知恵を。この目に映るあらゆる構造体の仕組みと実態を。

 そこに深い意味は無くて、単純に「できる」から「やった」。
 多分ママはそうしろって言ったんだと思うから。

 脳細胞の求めるままに、食べられそうな全てを食べた。


 最初、周りは驚いていた。
 続いて諸手を挙げて喜び始めた。
 そのうち「天才」や「ギフテッド」と呼ばれ出した。
 いつの間にか、幾つもの目があたしに向けられていた。

 あたしは望むものを片っ端から解きほぐし、理解することしか頭になかった。

 やがて喜びの声は困惑と不審のそれに変わっていく。
 ちっぽけな子供がみんなの理解を越えていく。
 その度合いがある閾値を過ぎた時、子供は子供ではなく「手に負えないもの」になっていく。

 パパは自身も研究者だったから、あたしの理解力を「好都合」くらいに考えて、あえて放任した。


 ママは、あたしの眼を恐れ始めた。


 あたしの眼は全部をバラバラにしてしまうと。

 優しさや思いやりをも理屈で解体し、損得の筋が通る身も蓋もない骨組みに帰してしまうと。

 理解と解体はやがて、この世の全てから色を取り払ってしまうと。


 その時期に夫婦の間で交わされた会話をあたしは知らない。
 何らかの取引がなされて、どこかに妥協点を見出したのかもしれない。
 もしくは妥協点が見つからなかったから、計算式そのものを放棄するしかなかったのかもしれない。


 ――あなた、何者なの?


 いなくなる直前、ママはそう言い残した。
 どうして、と口にすることはその時も無かった。
 あたしはどうやらあのひとの希望ではなかったらしいと納得するのみだった。


 フツウの女の子になるには所定の手続きが必要だ。

 1.正常に運営されるカゾクの中で健全な幼少期を過ごす。
 2.キンダーガーテンからハイスクールまでの階段を順序正しく昇る。
 3.トモダチとセイシュンして、正しい人間の正しい情緒と社交性を身に着ける。

 役所に転居手続きを出すみたいに、混合液を濾紙に付けて溶媒に浸すように、当然かつ必要な手順。
 自分から「フツウになりたい」と思った時点でそうなる資格を失う。
 手順を全部すっ飛ばしちゃった人間には、もちろん、更生の機会は永久に来ない。


 だけどそれがあたしには当たり前で、いたって平気なことで。
 周りの食べられそうなモノを吸収しちゃったから、パパが行った海の向こうでも見てみようかと思った。


 行った先でもやることは変わらなかった。
 昔作った雪だるまと同じ。興味のあるものを掘り返して、丸めて固めて形作り、論理の筋道を立てる。
 方法論がわかってしまえばもうおしまい。
 雪みたくまっしろな紙とボードに数式を書き連ねていって、いっぱいになれば次に行く。

 周りにある野心とか妬心とか畏怖とか阿りとかは全部ただの言葉だし、彼らの行動原理は全部簡単に理解できた。
 それもまた、わかってしまえばもうおしまいだった。

 何かを発表する度に貼り付けられる名声は重ったるいだけ。

 あたしは、あたしが望むべきものを望む。
 他のことはみんなどうでも良かった。



 ――あれ? と、ある時ふと思う。

 あたし今、どこにいるんだっけ。

 周りは渺茫たる広ーいどこかで、自分自身がほぐしてばらした真っ白い論文だけがあり、
 あたしが見るのはそれらでまるっと説明できる無機質な数学と物理の世界だった。


 ああ、つまんないや。


 自分でも呆気ないほど急に結論が出て。
 かちこちに凍てついたまま、科学の道からころんと転げ出た。

 パパと再会することは、結局なかった。


【むかしばなしおしまい】


 生まれ持つモノを生まれる者が選ぶことはできない。

 それら使いこなすか持て余すか、肯定するか否定するかは誰にもわからないのだ。

 今ようやくわかった。
 あたしがどうしてあの時、この子を引き寄せたのかも。

 あたしとアーニャちゃんは似ている。


「……シキ?」

 ならば、あたしという存在がこの子にどう作用するのか。

「いっこだけ聞かせて」

 まだ論理の筋道が立たない。
 今の自分はホワイトボードいっぱいの膨大な計算式を俯瞰する時の眼をしている。
 状況を解決し、彼女にかかる靄を払う為の閃きを細胞が求めている。

「キミは、自分のことも好きになりたいと思う?」

 アーニャちゃんはしばらく、大きな目であたしのことを凝視していた。
 それから、ゆっくり頷いた。

 頷いたまま、弱々しく肩を震わせた。


 あと一歩何か足りない。
 科学は自然現象を観測して噛み砕き、法則の系統樹を打ち立てる為のものだ。
 だけどこの場合、雪を呼ぶ少女の心を晴らすには、もう一つの飛躍が必要になりそうだった。

 銀色の綺麗な髪に指先で触れ、ものも言わず思考の雪原に埋没する――


 その時、玄関のチャイムが鳴った。



 来訪者はフレちゃんでもプロデューサーでも、他のみんなでもなかった。

 その大柄なおじさんは、とても複雑なカオをしていた。
 最初の一声は謝罪だった。あたしへの、そして娘への。
 最大限の謝意を示す、重々しいロシア語で。

 アーニャちゃんはおじさんを見上げて、呆然と呟いた。


「パパ……」


 お前の望みを尊重したい気持ちは変わらない。
 東京のニュースは逐一チェックしていた。
 けれど、もう限界だ。

 春はもう来る。

 アーニャ。これ以上、お前に悲しい思いをさせるわけにはいかない。


 パパさんは、そういう意味のことを言った。
 きっと「親」として一から十まで正しい意見に違いなかった。





 ――――ああ、そっかぁ。





「パパ! でも、アーニャは……!」
「そのひとの言う通りだよ」

 アーニャちゃんが愕然とした顔で振り返る。
 彼女はきっともう少しの時間を願おうとしたのだろう。
 だけど、とっくに時間切れだったのだ。

「キミには帰る場所があるんだよ。それはキミだけの、特別なもの」

 広がりかけた思考の海が消えていく。
 インスピレーションが光を放つことは、もうなかった。

「家族が待ってるなら、そこには帰らなくっちゃだめだよ」


 アーニャちゃんは何か言いかけて、でも口をつぐむしかなかった。
 彼女の手を優しく、だけど力強く引く大人の手。
 きっと温かいのだろうなと思う。

「だいじょぶだよ。たとえ他の全てがキミを拒絶したって、キミはいつでも帰れる。
 それは才能や能力なんて及びもつかない、代替不可能な場所だから」

 衷心からそう言って、あたしはにゃははと笑う。
 だってそれ以上に望ましいことがこの世にあるだろうか?


 扉が閉まる。
 風の吹く音と、誰かの声がする。

 玄関に立ち尽くしたまま、薄暗い天井を見上げた。


 似ていると思った相手は、深いところで決定的に違った。
 残されたのは、帰る場所のない雪だるまだけだった。

 そんなものだ。
 いつものことだ。

 悲しいとも喜ばしいとも、腹立たしいとも楽しいとも思わなかった。

「へぷちっ」

 だけど何故か、季節外れの寒さがやけに堪える。

「……寒いや」



 またお腹の底で悪い虫がぐるりと蠢動する。
 大した理由もなく、どこかへ行きたいなぁと悪魔が誘惑する。

 うん。


 そんなわけで、あたしは失踪しました。
 

 一旦切ります。


  ―― 事務所


 志希がいなくなった。

「そうか」
「そうか、って……」

 事務所に飛び込んできた美嘉は既に汗だくだった。
 レッスンが終わったその足で辺りを探し回って、あえなくスカに終わったらしい。

「大丈夫、帰ってくるから。なんだかんだでこれまで帰らなかったことがあるか?」
「けど今回は様子が違うっぽいよ? 最後に志希を見た子も、なんかいつも通りじゃなかったって……」
「そういう日もあるさ。志希だって人間だ」
「でも……!」

 着々と近付くフェスに向けて、うちのアイドルの出演スケジュールとタイムラインを確かめる。
 各ユニットのセトリとかステージ演出とかカメラの位置とか、考えることは山積みだ。

「っ……もう一回探してくる」
「やめとけ」
「なんで!」
「お前はお前のステージに専念するんだ。それが志希の為にもなる」


 連日の雪は弱まりつつあるようだった。
 このまま順調にいけば、予定日には問題なくフェスを開けそうだ。

「なんか……平気そうじゃん。意外なんだけど」
「まあ一度や二度じゃないからなぁ」
「慣れたから気にしないって言いたいの? だったらアタシ……!」

 焦るな焦るな、とスマホの通話履歴を表示して見せる。
 つい数分前まで通話していた相手の名前を見て、美嘉はいくらか安心したようだった。

「今回の件がちょっと違うってことはわかってる。だからこそ、本人が何か掴まないとダメだ」
「…………」

 美嘉は難しい顔で押し黙り、踵を返して事務所を出て行く。
 二分くらいして、そこの廊下の自販機で買ってきたらしい飲み物と共に戻ってきた。

「じゃあ、アタシもここで待つ」


 自分用のスポーツドリンクと、俺がいつも愛飲している缶コーヒーも持ってきてくれた。
 手隙の時はちゃんと淹れたりするのだが、手っ取り早く済ませたい時はいつもこの銘柄だ。

「好きなんでしょ? ソレ」
「おう。覚えててくれたのか」
「そりゃ、いつも見てたら嫌でも覚えるし」

 ……………………。

「…………へ、変な意味じゃないからね!?」
「アッハイ」

 なに今の間。


「アタシもだいたいの話は聞いてるんだ。この雪のことも」

 ドリンクで喉を潤して、美嘉はぽつりとこぼす。

「多分……今がそっちを解決できるかできないかの瀬戸際だってことも。
 天気のことだけじゃなくて、そのアナスタシアちゃんって子も気になるしさ」
「なんとかなるさ。志希を信頼してやれ」
「してるよ。でも心配しないってのとは話が別でしょ」

 美嘉は、志希がこの部署に来た当初から何かと彼女をサポートしていた。
 俺がそうしてくれるよう頼んだのだ。
 美嘉には妹さんがいて元々面倒見も良く、教えるのも上手く、その姿勢から新人に示す規範として申し分ない。

 でまあ当の志希がアレなので、だいぶ苦労させてしまったりもした。


「最初はこっちもびっくりしてさ」

 当時のことを思い出したか、美嘉はくすりと笑う。

「あの通りのビジュアルだし、ダンスも一発で覚えちゃうし、歌声だって綺麗。天才っているんだなーって」

 こっちも覚えてる。美嘉も無意識に張り合っていたのか何か、いつも以上のハードなレッスンを入れたりもして、
 あんなにテンション高い青木トレーナーはそうそう見られるもんじゃないと思ったものだ。

 呑み込みの早い志希は美嘉と並び、砂が水を吸うように色々なものを吸収していった。
 しかし持ち前の失踪癖やら実験観察好き、先読みできない飽きっぽさで何かと手を焼かせることもあった。
 それに関しては、美嘉だけでなく俺も(色んな意味で)被害をこうむったものだが……。


「いやぁ、よく面倒見てくれたよ。美嘉に頼んだのは大正解だった」
「恨んでるからねー? さんざ振り回されたんだよアタシ」
「よく言うよ。あいつがただのちゃらんぽらんだったら俺より先にお前が黙ってないだろ」
「ま、ね」

 窓の外を一瞥する美嘉。
 その眼はやはり、今も雪降る街のどこかにいるであろう少女を案じていた。

「いつもはああだけど、『やりたい』ってロックオンしたことには、本気だったから」


 今もそうだ。間違いなく。
 どこかで足踏みをしているのだろう。なにしろまだ18歳の女の子だから。
 けれど、必ず何かを見つけ出すだろう。なんといっても一ノ瀬志希だから。


【一ノ瀬志希かく語りき・そのご】


 失踪先に小さな公園があって、そこも白一色だった。
 素手でさくさく雪を集めて、丸めてみる。子供の時みたいにうまくいかない。

「キミも、融けたらどこに行くんだろーね」

 中途半端に丸めたそれをほっぽり出して、ベンチで一息つく。
 とりとめもないことを考えていると、向こうの物陰から何かがひょっこり顔を出した。


 お散歩する黒猫が描かれた傘の下、白い景色に映える金髪が揺れた。

 傘の主は鼻メガネを着けていた。


「アタシは通りすがりの鼻メガネ紳士」

 なにっ、キミがかの有名な。

「あんまり寒いから、この鼻息で雪を融かしに回っているのダ」

 そうなんだすごい。

「そこなマドモアゼルや、アタシの仕事ぶりに惚れてはいけないよ」

 気を付けます。

「せーの、セボーン、セボーン……モンサンミッシェルッ!?」

 あ、こけた。


 雪で滑った拍子に立派な鼻メガネもずれて、鼻メガネ紳士の素顔が露わになった。
 こうなるとさしものジェントルも形無しだ。弱りきった様子で四つん這いになる。

「ふぇ~ん……メガネと鼻がどっかいっちゃったよう~……」
「……」
「メガネメガネ~……あと鼻~……鼻*鼻~……」
「…………」

 寒さに麻痺していた頭が、だんだんと日常の感覚を取り戻していく感じがした。
 ベンチに座ったまま、あたしはアドバイスを投げた。

「あたま、あたまー」
「頭? ……ワオ! ほんとだ! 鼻メガネ紳士復活っ!」

 再び元気よく立ち上がって、紳士はあたしの隣に座る。
 そうして改めて鼻メガネを外し、傘をこっちに傾けた。


「探したよー」

 フレちゃんはいつも、いつも通りに笑う。


 あたしのテンションはフラットだった。

 そのはずだった。

 こんなとこいたらカゼ引いちゃうよー、と肩の雪を払うフレちゃんに、また反応が起こった。


「アーニャちゃんさ、パパと一緒に行っちゃった」
「そっかぁ」
「必然の帰結とゆーことだね。子供は親のところに帰るものだ」
「うん、かもね」
「去る者は追わなーい、だから去っても追われたくなーい。これがシキちゃん流なのだ」
「それはなかなかトレビアンだねぇ」
「だからね」
「うん」
「だから……だからさ」

 やっぱり寒くて、ベンチの上で膝を抱え、おにぎりみたいに丸くなった。


「あたしは、どこ行ったらいいかわかんなくなった」


 あたしはどこへ行きたかったんだろう。
 あの子はどこに居たかったんだろう。

 どちらも何も失ってなどいない。全ては冬が来る前の日常に戻るだけだ。
 だけど、求めていた解は空欄のままだった。

 答えのない状況というものに慣れない。


「どっか行きたいの?」
「そうかも。そうでもないかも」
「アーニャちゃんとこ行ってみる?」
「それはだめ」
「なぜにー?」
「あのコは違う。あたしとは違う」

 彼女のいるべき場所に、あたしは介入してはならない。

「違うの?」
「違うよ」
「シキちゃん鯛焼き好き?」

 ?


「あ、いきなりゴメンねびっくりした? じゃ質問変えるねー、鯛焼きの中身ってなに好き?」

 変わってないねぇ。

「ジャーマンポテト。タバスコがあるとなおよし」
「おっ、変化球来たね~。フレちゃんはねー、ホワイトソースがお気に入りかな!」

 それもなかなかグッドかも。

「じゃあじゃあ、自転車好き?」
「シキちゃん自転車乗れないからにゃー」
「アタシも五回に一回はひっくり返るよね。でも見るのは好き! 趣味は自転車ウォッチング!」



「次はえっとね、うえきちゃん好き?」
「相当興味深い題材だよねー」
「サメ好き?」
「潮臭いのはけっこー好き」
「ネコ好き?」
「わりと親近感があるとゆー」
「レッスン好き?」
「あのさ」
「踊るのとか好き?」
「フレちゃん」
「アーニャちゃんは好き?」
「ねえ」
「みんなのことは好き?」
「ねえ、ってば」
「シキちゃんは、好き?」
「何を――」


「アタシは、ぜーんぶ大好き!」


「フレちゃん……?」

「だけどね。アタシの大好きな子は、どこかでブレーキかけちゃってるんだー。
 ぐいーんって走ってていきなりブレーキしたら絶対こけちゃうのにね、自転車と同じで」

 フレちゃんがあたしとの間に何かを置いた。
 さっき作ってほっぽり出した、小さくていびつな雪だるまだった。


「シキちゃんの『好き』は、まだ途中なんじゃないかなぁ」


 ――ああ。

「ダメだよ。そういうわけにはいかないよ」
「どうして?」

 人間が幼少期から抱く原初の質問があたしを打つ。

「居る場所が違う。あたしはそういうんじゃない」
「多分ね、アーニャちゃんもおんなじ気持ちだと思う」


 雪の降るバス停に彼女はいた。
 永遠に来ないバスを待っていた。
 もしかしたら、自分が乗ってもいいバスが来るかもしれないと思っていたのだろうか。

 そこにやって来たのが、ダルマのカブとお米のカブだったのだろう。

「アーニャちゃんは多分きっと、色んなものをもっと好きになれるし、なりたいんだと思うな。
 それを探しに来たんだよ。だって楽しいことたくさんあるんだもん」


「なのに色々タイヘンで、遠慮しちゃってるんだよ。優しい子だもんねー。
 あと一歩っていうところで、みんなのこと考えちゃう」


 でも、と前置きして、フレちゃんは顔いっぱいで笑う。


「もっと知りたくなっていいんだよ。もっともっと、好きになっていいんだよ」

 
 ……ダメだよ。

 それには、障害があるんだよ。

 だって、家族がいるんだ。
 あのコはそれを愛してるんだ。
 フツウじゃない人間とは決定的に違う前提条件があるんだ。

 あたしが触れれば、それは何らかの不可逆な変容を来すかもしれないんだ。


 要素が足りないんだ。あたしでは――――

「アタシ達じゃダメかなぁ」



「覚えてる? うえきちゃんに変なタイミングでお水あげちゃって、すっごい増えたの」

 最近のことだね。会社ごと焼いちゃうとこだった。

「プロデューサーを元気にしたげようって思ったらやりすぎちゃったりもして」

 覚えてる。スタドリの成分百倍濃縮のやつ作ったらブ〇リーみたいになった後一週間筋肉痛で寝込んだ奴ね。

「シューコちゃんちの生八つ橋をもっとおいしくしようとしたら生命を持ち始めたり」

 すごかったねアレ。物体Xみたいになって。

「こずえちゃんが風邪引いちゃって、治す為にヘンテコな実験したりとか♪」

 青ざめた血ってなんなんだろーね。


「色んなことがあってさ。でも全部、楽しかったよ。シキちゃんがいたからだよ」


「シキちゃんとアーニャちゃんは似てるよ。似てないけど、似てるんだと思うな」
「そう、かな」
「ウイ♪ あとは、もひとつグイッていけるかな、的な?」

 あたしに無い要素が、アーニャちゃんにはあって。
 アーニャちゃんに無い要素が、あたしにはあって。

 心の奥底で、同じ足踏みをしていて。

 似ていながら深い部分で違って、だけど更に奥の部分で類似しているのだとしたら。

 その上で導き出される、決定的な一手とは何か。


「どんなことが起こっても楽しいの。アタシ達が大好きな日常なんだ」


「だから、何したっていいんだよ。好きなことやっちゃおーよ。アタシ達なら、ぜーんぶ楽しいからさ♪」


 求めて、究めて、突き詰めて、解して、暴いて、認めて。
 そうして、最後の解を出すのは誰だ。
 それを受け止めるのは、誰だ。


「……にゃはは。矛盾だね、色々と」
「矛盾もたまにはよくない?」
「フツーはよくない。でも特定の状況では、意外とよくなくない」
「そうなの? でもそれってよくなくなくない? たまにはよくなくなくなくなくなくなくない?」

 あれ? どっちだっけ。とフレちゃんは笑う。

 矛盾。
 矛盾か。

 似てるけど似てない。無いのにある。あるのに無い。
 見えるのに見えない。見えないのに見える。

 無限に遠いのに、すぐそこにある。嫌いなのに、好きなもの。


「――――――ぴっこーん」


「おおお? なになにシキちゃんなんか閃いた?」
「キた。なんかキた! びびびーってなった!」
「トレビアーン! じゃ行こっか! ハンカチとティッシュ持った!? たてぶえは!?」
「ノープロブレム!! あれっ事務所どっちだっけ!? ていうかここどこ!?」
「あったよ! 事務所の住所入りスマホ!」
「でかした!」

 振り向いたらフレちゃんは馬の被り物を装着していた。

「アタシはウマ魔人!」

 なにっ、キミがあの噂の!

「ウマ魔人は足が超速い魔人。本気を出せば事務所まで一秒なのダ」

 こいつは面白いことになってきたぜ。

「ついて来られるかなマドモアゼル! ウマダーッシュ!!」

 なんの見ろこの天才ダッシュ!!


「ポンデュガールッ!?」
「に゙ゃーっ!?」

 こけた。あたしもこけた。
 並んで雪にまみれて、大声で笑った。

 雪は柔らかくて、優しかった。


 事務所に帰り着く頃には、上から下まで真っ白けだった。

「あっ、おか――何してたの!?」
「いや~馬の力には勝てなかったよ」
「鼻メガネも形無しだよねー」

 美嘉ちゃんが慌てて拭いてくれる。こんなこともあろーかとバスタオル用意してくれてたそうな。
 その後、あつあつのお茶とか飴ちゃんとかで一息ついて、なんかほっとして眠くなってきたりした辺りで。

「で?」

 プロデューサーが切り出す。

「どんな大仕掛けを考案したんだ、天才?」
「なんのことはない、ごくごくシンプルなトリックだよ、助手くん」

 あたしはにまっと笑う。


「今からじゃ滑り込みだ。準備期間は短いし、この上で何か仕掛けるなら相当な横車を押さなきゃならん」
「キミが捻じ込んでくれるんでしょ?」
「面白ければな。そっちがステージのプロならこっちは裏方のプロだ。つまんなかったら即却下するからそのつもりでいろ」
「いひひ」

 遠慮会釈の無い物言いが脊椎にさくさく刺さって、気持ちよくってつい笑う。

 作戦会議が始まった。

 会場の規模、外観、設備の位置、アレとかナニとかコレとかソレとか。
 薄暗い外が真っ黒けになるまで話し込んで、思い付いたこと全部ぶちまけて、そこからは喧々囂々。

 可能かどうか、成功するかどうかすらも未知数なままで、ただ衝動のままに。

 99.999999………………までの解を、詰めて、詰めて詰めて詰める。


 話がまとまって。

 一息ついた後、プロデューサーはどこかに電話していた。


  ―― 後日 レッスンルーム


「プロデューサー殿より話を伺った。敢えて深くは聞くまいが、答えを得たようだな、一ノ瀬。
 その意気や良し! フェスに向けて、最後の仕上げを私が担当しよう!!」


 …………わ~~お。

 青木トレーナー・ザ・マスターを前にして、あたしは一歩先の地獄を幻視する。
 すぐ隣ではフレちゃんがにこにこ笑っていて。
 あたしはこっそり耳打ちする。

「……フレちゃん、汗かいてる?」
「ふっふっふ。ちょうこわい」

 
 ここから始まる特訓について、一ノ瀬博士からの言及は差し控えます。


【一ノ瀬志希かく語りき・もうひといき】


 あたしは砂漠の雪だるまだった。

 どこにいても異邦人(ストレンジャー)。
 誰と一緒でも不適当(ミスキャスト)。
 場違いな場所でころころ転がって固まって、一人で大きくなっていく。
 融けることはない。その必要もない。生まれながらそうだった。

 日本にふらっと帰ってきても、多分それは同じなんだろうと思っていた。


 街中ふと見上げた大型スクリーンに、踊る女の子が映っていた。

「あいどる?」

 その時はそんなに響かなかった。ふーんって感じ。
 変化はその後で起こった。


 なんかの撮影をしてる一団のそばを通りかかり、五歩ほど行き過ぎたあたりで止まる。
 なんだろ。
 つつつと戻って覗き込み、最後列で何かメモしてる背広の肩をつついてみる。

 つんつん。つんつん。なにしてんの?

 向き直る動きで風が動いて、鼻がぴくりと反応した。
 あたしが足を止めた理由はソレだった。
 いきおいネクタイの結び目を引っ張ってボタンを二つ目まで外し、噛み付くような勢いで首元に突っ込んだ。


「ケモノのニオイがする」

 少なくともヒトじゃない。もっと野性的? 犬猫とも違うような。

 というか一言でナニと特定しきれないくらいに色んなものが混ざり合っていて、他にも樹木のようなそれだとか、
 潮の匂いだとか、上質な女性もののフレグランスだとか、菌類の酵素っぽい……たぶん麹菌のそれだとか。
 全部が色濃く混ざってる。
 こんな街のど真ん中で、何をしたらこうなるんだろう?

 顔を上げて、ほとんどキスの距離で生の疑問を口にした。

「キミ、何者?」

 後から聞くところでは相手は「こっちの台詞だ」と思ったんだとか。にゃはは。
 何故か本人じゃなく近くのギャルっぽい子が顔真っ赤にして怒ってあたしを引っぺがした。あ、こっちもいいニオイ。


 貰った名刺からはプロデューサー本人のものっぽいニオイが染み付いていて、これもいいなぁと思った。

 そういうわけで、アイドルを始めたのだ。

 そこからは、もう何も読めなかった。
 再現性のない出来事が起こって、不可逆の変質が炸裂して、やたらめったらのヘンテコが跋扈していて。

 初めて立ったのは、デパートの屋上の小さなステージだったり。
 自分のことでもないのに泣きそうになってるヒトがいたり。
 言葉一つ、表情一つで、蝶の羽ばたきのようにあらゆる要素が極彩色の変容を遂げていって。

 アイドルは、楽しかった。


   ☆
 

 昔むかし、あるところに雪だるまがいました。
 知識と論理で凝り固まる、融けたら終わりの雪のカタマリです。


 変なニオイのするお兄さんがやってきて、そこにガラスの靴を埋め込みました。

 いつも笑ってる金髪娘がやってきて、閃きのスパイスを振りかけました。

 悪魔的いいニオイのギャルが、サイズぴったりのレッスンシューズを添えました。

 大人びた女の子が颯爽と現れて、艶やかなリップの色を加えました。

 自称フツーの京娘がふらっと寄って、全体のカタチをなかなかいい感じに整えました。


 他にもナイスな駄洒落を添えたり、ご利益たっぷりのお守りを括り付けたり、ハンバーグをお供えしたり、
 いなせなスナップ写真を撮ったり、ツリーのてっぺんの星を刺したり、鮮やかなお花を置いたり、ほかほかご飯があったり、
 たぬきとかきつねとかうさぎとかのもふもふ毛がこれでもかと埋め込まれたり。


 白一色の雪は、だんだん見慣れない色に包まれていきました。
 そして実は、それは終わりではなく、始まりだったのです。



   ☆

 一旦切ります。
 もうすぐ終わります。



>いつも笑ってる金髪娘
ん~、天使さまか何かかな?
いや、肥後たぬきに都キツネ、神宮ウサギがいる事務所に天使が居ても今更驚かないけど


何やら不穏な思い出が山ほど出てきたんですがそれは


  ―― フェス当日


「よし、集まったな。みんな聞いてくれ」

 土壇場でアイドル達を集め、全ての事情を事細かに説明する。
 彼女達は神妙に聞いてくれていた。

「で、まあ……志希とフレデリカの舞台が、ある意味正念場になるんだ。
 特に五人の出番はあいつらのすぐ後だ。何が起きるにせよ、その後のフォローを頼めるか?」


「是非もなくー。ふぁんと友の為に尽力せしことこそ、わたくしたちの歓びなのでしてー」

「あの二人のフォローなんていつものことでしょ。任しときー」

「なんやけったいなからくりを仕込んではるんやろ? どないなもんが飛び出すか、楽しみやわぁ♪」

「深淵より出でし混沌を御してこその魔王! 瞳持つ者よ、我を見くびるでないぞ!」

「どんなことがあったって、楽しいステージにしてみせますっ。私達を信じてください!」


「……ありがとう。頼むよ」

 頭を下げて、俺は車のキーを取り出した。
 行っておく場所がある。


  ――


「仕掛けは出来た。理論はカンペキ。シキちゃんの式に隙はなーい」

「やったーカッコいい~!」

「にゃっはは。…………だけど」

「んー?」

「前提条件として、あのコがいなきゃ無意味とゆー。こればっかりはフィフティフィフティ。
 シキちゃんともあろーものが最後の詰めを不確定要素(イレギュラー)に頼るとはねー」

「来るよ」

「……そうかな」

「来る来る、超来る。ひゃくぱーせんと来るよ! フレちゃん太鼓判押しちゃう!」



 三月某日、曇天。風は無し。

 問題だった寒さも前日辺りから相当マシになり、なんとか春と言えるくらいの気温。


 プロダクション合同スプリングフェスティバルは、滞りなく開催された。


  ―― 都内 某ホテル


 なんとかアポイントを取って、都内の某高級ホテルでその人と顔を合わせる。
 色々ギリギリになってしまったが間に合った。

 アナスタシアとその父親は、今夜の飛行機で北海道に帰ってしまう予定だったという。

 父親の方は純血のロシア人で、かのジェド・マロースの息子というから存在感が半端じゃない。
 冬の原野に立つ巨木のような体躯に、娘と同じ銀髪碧眼。


 彼は紳士だった。
 突然やって来た俺にも嫌な顔を見せず、娘を気にかけていた志希やフレデリカや俺に礼を言った。

 そしてまた、天気が持ち直したのは父親の力もあった。

 隔世遺伝の娘ほどではないが彼も直系だ。
 東京の雪を抑えるだけの力はあり、今日まで滞在していたのはフェスの開催に配慮してのことで、
 それをもって謝礼の代わりとしたいと言ってくれた。


 ただ、娘を連れ帰るということに関しては頑として譲らなかった。


 俺のような若輩者に親心のなんたるかを語る資格など無いが、大切な子を案ずる気持ちはわかる。
 けれど、このまま帰らせてしまうわけにはいかない。


「アーニャに彼女達のステージを?」
「はい。会場は野外ですが、関係者席にご案内します」
「あなたは、自分の仰っていることの意味がわかっておいでか?」

 至極当然の反応である。にしても流石に日本語上手いな。

「我々が北海道に帰れば、東京には春が戻ります。そちらとしても、その方が好都合でしょう。
 それに、彼女達の顔を見れば別れが辛くなる」
「ですがそれでは、娘さんは東京で何も得るものが無かったことになってしまいます」

 それを承知で連れ帰ろうとしているのだ。父親とて快い判断ではないだろう。
 彼からすれば、ここまで待っただけでも十二分の譲歩に違いない。
 そして、それを承知で、俺はまた彼女を連れ出そうとしている。事の重さは重々承知の上だった。


「一ノ瀬志希と宮本フレデリカがステージに立ちます。二人は、娘さんに舞台を見て欲しいと望んでいます」

「……!」

 父に隣に座るアナスタシアさんが、息を呑んだ。


「天候のこと、娘さんの精神状態のこと、ご懸念は尽きないことと存じます。
 仮にこの件で何か問題が起こった場合、責任は全て私が負います。
 どうか、あの二人のステージだけでも見届けて貰うわけにはいかないでしょうか」

 父親は渋い顔で腕を組み、無言。
 アナスタシアは俺と彼の顔を見比べる。

「この通りです」

 椅子を降り、土下座をした。

 頭の上でアナスタシアがうろたえる気配。父親も僅かに低い唸りを漏らした。
 言葉一つ行為一つでこちらの誠意が100%伝わるかはわからないものの、アイドルの為、こちらも頑固を通させて貰う。


「パパ……。アーニャは、行きたい、です」


 今度は父親がはっきりうろたえた。
 激しくやり取りされる父娘の会話。全部ロシア語。やっべ全然わからん。

 語調から判断すると娘が若干有利なのか……?
 彼女の声には芯が通っており、確かな覚悟があった。

 ややあって、細い手がポンと俺の肩を叩く。

 ようやく顔を上げると、アナスタシアがこちらを見下ろして微笑んだ。


「やっぱり……変わりたい、です。わたしも、このままは悲しいから。
 ……連れて行ってください。プロデューサー」


「済みましたか?」

 駐車場の入り口辺りに自販機があって、その傍のベンチに楓さんが座っていた。

「なんとか。けど、わざわざ付き合ってくれなくて良かったんですよ」
「もしもの場合がありますから」

 どういう場合だ。

「プロデューサーったら、ついて来るなと言うんですもの。私も頼み込むつもりでいたんですけど」
「仮にもうちのトップアイドルに土下座なんてさせられませんよ」
「けどなかなか悪くないと思いません? 二人で土下座をトゥゲザー」
「最後の言いたいだけだろ!」
「ンー……その……?」

 不思議そうな顔のアーニャに、軽く彼女のことを紹介しておく。楓さんはゆるいぴーすを彼女に示した。


「大変だったでしょう? なりふり構わない所がありますから、この人」
「いえ。とても……アー、嬉しい、でした」

 アナスタシアが微笑むと、楓さんも我が事のように嬉しそうに笑みを浮かべた。

「プロデューサーは……Pさんは、アイドル馬鹿ですからね」
「誰のおかげでそうなったと。って言ってる場合じゃないわ急ぎましょう」
「もうですか? 近くにおいしい焼き鳥屋さんがあるので、良かったら行きがけに軽く……」
「あんたにもあんだよ! 出番! 最後!! 大トリ!!」
「鳥だけに?」
「ええいああ言えばこう言う!」

 なんなら一瞬抜けてついて来るのだって反対だったからなこっちは。
 アホなやり取りに、後ろのアナスタシアはくすりと笑った。

 父親は飛行機の予約日をずらし、ホテルで娘を待つという。
 万が一アナスタシアを悲しませ、涙を流させるようなことがあれば、相応の覚悟を――と言い含めて。


 時刻は宵の口。雲があるから辺りはもう夜の暗さだ。

 フェスが行われている特設会場の喧騒は、数キロ先からでも届いてきていた。
 お台場の空は広く、ステージの光が遠目にも薄ぼんやり浮き上がって見えた。

 準備がある楓さんと途中で別れ、二人で関係者用のスペースに向かう。


 アナスタシアは目を見開いた。

 光輝と音色の渦が、肌を打つほどに激しく乱舞していた。


『みなさーんっ! 今日は楽しんでいってくださいねーっ!!』
『しまむーしまむ、名乗り忘れてるよ! ほらっ、私達ー?』
『わわわっ、そ、そうでしたぁ!』
『ふふっ……それじゃ、行くよ』
『『『私達、ニュージェネレーションズです!!』』』

「……!」

『ヒィィヤッハァアーッ!! まだまだ終わりじゃないぜエエエーーーーッ!!』
『最高の悪夢、見せてあげる~……♪』
『フフフーン! 世界の幸子たるこのボクが、皆さんをカワイイ浸けにしてあげましょう!!』

『こずえのおうたー……きかせるよー……。みんなー……いやされろー……』
『あの、新人アイドルの成宮由愛です……! 一生懸命歌いますから、どうか、聴いてください……っ』
『緒方智絵里ですっ。わ、私もがんばっ……え、耳? あっ、あのこれはっ、衣装、衣装ですっ!』

「…………っ!」

『ッしゃあ! 魅してやンぜ、“亜威怒流(アイドル)”の“心粋(ココロイキ)”ってヤツをヨォ!?』
『たくみん気合鬼盛りぢゃ~ん! てかアタシもテンションぶち上げMAXだしぃ、このままテッペンまでカッ飛ばしちゃうぽよー☆』

『みんなありがと~っ☆ それじゃ恒例のしゅがーはぁとあたっく、いっくぞ~!! おいザザッて引くな☆ 距離取んなおい☆』
『心さん、それ以上乗り出すと落ちてしまうんじゃ……。あ、次はこの曲です』

『セクシーの名のもとに、平和を守る~……』
『セクシーギルティ、出動よっ!!』
『セクシーのSはサイキックのS! 私達のパーリータイムが始まりますよーっ!!』

『ええ夜じゃ……まさに侠女(おんな)の晴れ舞台よのぅ。聴いてつかいや、うちの歌!!』

『レイナサマ砲どーーーーんっ! ……クフフッ、度肝を抜かれたようね! 覚悟なさい、本番はこれからよ! アーッハッハッハブッゲホゴホッ!』

『ヘーイ! 待たせたわねエヴリワン!! 今宵は忘れられない夜にしてあげるわ、レッツ・ダンシンッ!!』

「っ! っ!」


 合同フェスとある通り、うちの部署からだけでなくプロダクションのあらゆるアイドルが出演する。
 色んなカラーのアイドルが一堂に会する、まさにお祭り騒ぎだ。
 ここだけの話、一観客としても今日の日をずっと楽しみに待っていた。

 いつしかアナスタシアは舞台に釘付けになっていた。
 体でリズムを取り、無意識の鼻歌が漏れ聞こえてくる。

「どうだろう。楽しめてるかな」
「ダー!」

 彼女の瞳は輝いていた。
 無邪気にステージを楽しみ、歌に聞き入り、MCにころころ笑う。

 けれどそれは、決して手が届かないものに向ける遠い憧憬の眼だった。

 
 やがて。
 満面の笑みに、徐々に翳(かげ)が降りてきて。

 憧れが上げた無意識の手を、理性と諦めが下げる。

 ステージを見上げる顔は、それでも微笑を浮かべていた。

「いつも、そうでした」


「プレクラスニイ……素敵なもの、いつも、キラキラ光っています。
 だけど、アーニャは、それをずっと遠ざけてしまいますね。
 ズヴェズダ……星も、雲で隠して、凍らせて……」


 優しい子だ。少ない会話からでも十分にわかる。
 家族からたくさんの愛を受けて育ち、この世の色んなものを愛しながら、必ずしも世界には愛されなかった。
 そんな彼女が身に着けたのは、世界に対する距離感と精一杯の微笑。

 だけどそれでも、もう一歩を踏み出してみたかったんだろう。

 あの二人の手に引かれて、家族に守られる外の世界を見ようと思ったんだろう。


「次だ」
「……シトー?」
「レイジー・レイジー。志希とフレデリカの出番だよ」
「……!!」

 直前のユニットが大歓声のもとにハケて、途端にステージBGMと照明がムーディーなものになる。
 怪しくてどこか色っぽく、軽妙洒脱で何をしでかすかわからない。そんな彼女達のイメ―ジ。

「あらかじめ言っておくよ。君は何も我慢しなくていい。
 いいか? 何も、だ。どんなことになってもいい。責任は全部俺が取る。親御さんとも約束したろ?」

 アナスタシアは最初、俺の言った意味がわからないようだった。
 期待と憂いを等分に秘めた目で、ステージを見上げる。


『ボンソワール! みんな久しぶり~元気してた~?』
『にゃははっ、初対面のクランケも結構いるのではー? それじゃ……実験、始めよっか』


 アナスタシアは、まばたきもしなかった。
 楽しそうに。嬉しそうに。
 眩しそうに。羨ましそうに。

 心の底から彼女達の歌を楽しんで、目に焼き付けて、やがて限界が来た。

 反応が起こり、感情がある閾値を超え、眦(まなじり)に結露する。
 


 ぽろり。


 人々の頭に、雪が落ちる。


「ア……」

 一度零れた心は抑えることができない。 
 いきなり気温がぐっと下がり、雲は濃さを増した。

 そうかと思えば、頭上には真っ白な無数の涙。

 一度は収まったと思われた豪雪が、このタイミングで戻ってきたのだ。
 会場にざわめきが起こる。

 その時の彼女の表情を何と言えばいいだろう。
 取り返しのつかないことをしてしまったと。抑えることが、変わることができなかったと。
 藁にも縋るような目を向けてくる彼女に、ただステージを見ているよう促す。


「ここからが一番いいとこだぞ」





 来た。


 ステージ上で空を睨み、一ノ瀬志希は不敵に笑う。



 一曲目が終わり、会場はもう白く霞むほどの雪に包まれている。
 興奮と困惑がない交ぜになった不思議なムード。
 スタッフ達が動き出すかの瀬戸際に、志希が声を張り上げた。


『プロフェッサー一ノ瀬の科学電話相談~~~っ!』


 ほとんどの人がぽかんとした。
 それがMCらしいと気付いたのは少数だった。

 どうも生徒担当らしいフレデリカが、マイクを電話に見立てて何か始める。

『ぷるるるる、ぷるるるるる』
『がちゃー。はいこちら科学電話相談室』
『なぜ人を好きになるとこんなにも苦しいのでしょう?』
『おっとっと、さては番号を間違えてるな?』
『パルドン、間違えました。では、んー、おっほん』

『お星さまってー、どうして遠くにあるんでしょーか?』


『のっけから壮大な話だねーガール』
『だって気になっちゃったんセボーン。あ、みんな寒いよね? ごめんねーすぐあっためるから』
『星とゆーのはだね、あたし達が浴びる太陽と同じように、宇宙のあっちこっちに散らばる恒星なのだよ』

『恒星はずっとずーっと、気が遠くなるくらい向こうでぴかぴか光ってて、その何十何百年も前の光がようやっと地球に届いてるのだ。
 つまり光の時間旅行の結果なわけさ。人類は、星が放つ遠い過去の姿を見ているのだねー』

『え~~~~っ、そんなの寂しいよお! それに、お天気が悪かったらすぐに見えなくなっちゃうしー!』

 びくん、とアナスタシアの肩が跳ねる。
 雪はまだ降り続けている。


『そんなキミに朗報! プロフェッサー一ノ瀬は、星をすぐ近くまで呼び出す一大実験を計画中なのだ!』
『ええっ!? でもお高いんでしょう!?』
『いえいえ奥さん、これがそうでもないんですよぉ!』

 おい番組変わってるぞ。


『今から、それを実践してみせましょう! テレビの前の皆さんもご注目~っ!!』



『un』

 ざわめきが起こり、

『deux!』

 アナスタシアが息を呑み、

『trois!!』


 会場の照明が、全て消えた。


 ざわめき、雪、寒さ、闇。

 アナスタシアは何も言わなかった。

 もしかしたら、自分へ下される裁きを覚悟していたのかもしれない。

 実際には十数秒だったが、沈黙はやけに長く感じられた。


 そしてスポットライトが復活する。


 誰もがまずステージを見た。

 本来ならまず演者を照らす筈の証明は、しかし壇上に向いてなどおらず。


 逆光を背負い、夜空をまっすぐに指差す志希のシルエットが映る。



 何万もの目が同時に空を見る。


 すぐ頭上に、宇宙があった。


 それは降り注ぐ雪を照らす、ライトアップの魔法だ。
 空に向けられた色とりどりの光が雪を染め上げて、千差万別の動きで夜空を彩っていた。

 降り立つ雪は、会場の誰もが持つペンライトの輝きをも受け、万華の色彩を表現する。

 遥か遠くの恒星ではない。
 季節外れの雪こそが、それを表現している。

 光り輝く星雲(ネビュラ)の空を。


 ――二曲目は、新曲でいく。

 二人は舞台上で二曲歌う。どちらも既存曲の予定だったが、演出の変更に応じてサプライズで新曲を披露することになった。
 実際ここらへんの取り次ぎが一番大変だった。
 懇意にして頂いてる作曲家さんに頼み込み、作詞は志希とフレデリカ自ら行った。

 で、なんとか両方が仕上がった後で――

「曲名どうする?」

 聞けば二人して「あ」という顔をした。考えてないんかい。
 さあここからは緊急会議だ。せっかく出来上がった曲が無題なんて笑い話にもならない。
 ああでもないこうでもない、あちらを立てばこちらが立たず、ところでキノコとタケノコどっちが好き?

 ……と俺とフレデリカが激論を戦わせる中、一人涼しい顔の志希がふと提案する。


「『アストロノート・スノウマン』なんてどう?」


 スノウマン……雪だるま。の、アストロート、宇宙飛行士?
 イメージは合っている。これは冬のような冷たさと静寂を打ち砕き、前へと進まんとするキメキメのロックナンバーだ。
 とはいえ志希のチョイスは意外といえば意外で、それが顔に出ていたのか、彼女はいつも通り飄々と笑った。

「雪だるまだって飛びたいのだ。にゃはは」



 激甚なギターサウンドが歓声をも切り裂いた。

『星はここにある』

 マイクを両手で握り締め、天才は歯を剥いて笑う。
 いつも思うけどあいつ、温まりきった時の笑顔がちょっと獰猛なんだよな。

『あるいは、作ることもできる』

 それをMCの一環だと思うか、それとも誰かへのメッセージだと思うか、ともかく――

『あたしは、あたしを肯定する』


 噛みつくような歌声が放たれる。


 煌めく無数の雪が、一つ残らず音圧で揺れた。


 そこからの盛り上がりは、言葉ではとても表せるものではなかった。
 宙の雪が融けて雨になるのではと思うほどの熱狂的な歓声。暴力的な音のうねり。

 アナスタシアは、魂が抜けたような顔でステージを見ていた。

 その瞳の奥底には、まだ見せたことのない新しい光があった。

 舞台上で狂乱する志希の、藍晶石色の瞳がちかりと光る。
 その焦点は、はっきりこちらに結ばれていた。

 手が伸びた。

 ステージ上のパフォーマンスのようでいて、それは確かにこちらに差し伸べられている。


「シキ……!!」
「ほら、行っておいで」

 背中を軽く押すと、アナスタシアは意外なくらいよろめいた。
 俺とステージを何度も見比べる。こっちなんか全然気にしなくていいのに。

「友達が呼んでるんだ。行かない理由がどこにある?」


 ところで。

『アストロノート・スノウマン』の一番の盛り上がりポイントに歌詞が無いという問題がある。
 最後の大サビに向かう、いわばCメロの部分がまるっと空白で(ここらへんアドリブ♡)とだけ書かれていて。

 いやそこはもうひと頑張りしてくれよ、とツッコミを入れても二人は涼しい顔だった。

「ここはね、歌じゃなくていいんだ~」
「そうそう。いわば、走性(タキシス)に任せるアドリブ部分ってゆー?」

 その意味が今わかる。

 息を切らしたアナスタシアが、壇上に上がっていた。


 こんなこともあろうかと、警備の皆さんには先に言い含めてある。
 銀髪の女の子が飛び出してきても、それは演出の一環なので見逃してやってくださいと。
 ……マジで良かったんすか? 的な目がこっちにめちゃくちゃ刺さっている。いやすんませんね。責任取るんでホント。


【一ノ瀬志希かく語りき・ほしのはなし】


 にゃはは。なんて顔してるのかね。

 何か言ったり言われたりする前に、あたしはマイクを渡す。
 アーニャちゃんは戸惑いながら受け取って、自分が立っている場所を改めて認識した。

 上にも下にも、光があった。

 ぎゅっと圧縮された、極彩の宇宙だった。

「やーやーようこそアーニャちゃん。一緒に楽しいことしよっか~♪」

 フレちゃんがいつもみたいに笑った。バキバキのギターソロが佳境に入った。
 何が起こってもいい、アドリブの空白パートだ。

 歌じゃなくていい。
 言葉である必要すらない。

 マイクを手にして、アーニャちゃんは両目いっぱいに宇宙を映している。


 不可能性に牙を立てろ。
「異端」も「天才」も後付けのラベルに過ぎない。

 嗤われても疎まれても、自らの声に従って進む。自分を突き通す。
 長い、長い長いトンネルを潜り抜けて、その先にある何かを求める。

 希望のカタチが曖昧でも、志すとは、きっとそういうことだと思うから。
 

 あたしはあたしを肯定するように、キミの全てを肯定する。

 キミは、どうする?


 アーニャちゃんが、肺一杯に息を吸い込んで――


「Ура(ウラ)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」


 ダイヤモンドダストのように綺麗な咆哮を上げた。



「うぅっ……良かった……良゙がっだぁ゙……」
「……美嘉、ハンカチ。顔が凄いことになってるわよ」
「ん……ありがと、奏……ふぐむぐ……ぐしゅぐしゅ……ちーん゙っ!」
「あ」


 心の問題――とは、まったくよく言ったもので。

 凍てついた雲は急速に晴れて、ホンモノの宇宙が顔を覗かせる。
 月と星の灯りがまだ残る雪を照らして、辺りは昼みたいに明るくなった。

 光が乱反射する、さながら宇宙戦争の巷だなぁと思った。


 曲が終わり、会場のボルテージはなんかもー凄いことになっちゃってて。

 次に飛び込んでくるのは、美穂ちゃん、蘭子ちゃん、周子ちゃん、紗枝ちゃん、芳乃ちゃんの「ケセラセラ」。
 脳の芯まで白熱したあたしらに変わり、カンペキな運びで次に進行してくれる。
 周子ちゃんなんかはすれ違いざまにパチッとウインクなんかしてくれちゃったりして。

 もちろんあたし達はハケなかった。



 出番とかセトリとか全然関係なかった。
 ロンリ的なシコウは幾千光年の彼方にぶっ飛ばして、走性のままに肩を組んで踊った。

 ケセラセラのみんなもばっちりノリノリだった。もはやヤケクソの勢い。にゃはは。

 空にはスポットライトと月明かりがあって、中空にまだ残った雪の一つ一つが眩しく光っていた。


 壇上で、あの子は笑っていた。


 とても朗らかに、笑っていた。


  ―― 後日 事務所


 結論から言うと、スプリングフェスは大成功だった。




 でまあ、当然の帰結として。
 後日、プロダクションにはそれはもう大量の問い合わせが殺到した。

 言い方は千差万別だが、要点は一つ。

 つまり、「あの銀髪の少女は何者なのか?」――ということだ。

 んなもん観客だけでなく事務所関係者も聞きたいことに違いなく、そこの処理には会社全体が苦慮した。
 何にせよ、全ての責任は俺にある。


「ちかれた」
「重い重い乗るな乗るな」
「すーはーすーはー」
「嗅ーぐーなっつの」

 当の実行犯は電池が切れて完全にオフモードなんだから困る。
 死刑を待つ囚人の気持ちでデスクに向かっていたところ、ついに執行の時が来る。

「プロデューサーさん。専務がお呼びです」

 志希をひっぺがして席を立つ。


「何か申し開きはあるかね?」
「ございません。今回の件は、全て私の独断によるものです」

 背筋を伸ばして受け答えする俺に、彼女は手元の書類を見ながら言う。

「……知っての通り、スプリングフェスは好評に終わった。
 件の『銀髪の少女』の騒ぎは、トータルで言えば話題性という意味で大きなプラスになっている。
 が、結果論で全て不問としては示しがつかない。それも重々承知していることと思う」
「はい……」

 クビかなこれ。
 覚悟の上ではあるが。
 しかしみんなに何て言うかと、後任のことはまだ決まっておらず、みっともなくも命乞いをしたい気分になるもので――

「君は至急、かの少女を迎え入れた新たなアイドルユニットを編成した企画書を提出したまえ。
 観客の目がこちらに向いている今を逃さないように。一週間は待たない」
「覚悟の上で………………お?」
「私からは以上だ。期待している」

 お…………おお?

「……一日中そこに立っているつもりかね?」
「は、はい! ではそのように! 失礼致します!」


 首の皮一枚繋がったって感じだ。
 廊下を歩いているところ、見覚えのある後姿が先にあった。

「川島さん!」

 その人は振り返って目を丸くする。

「あら、楓ちゃんとこの……」

 川島瑞樹さん。別部署の筆頭アイドルだ。
 この人にも改めてお礼を言わなきゃいけない。

「先日はありがとうございます。うちのアイドル達がこう、だいぶはっちゃけた感じで……。
 川島さんのまとめが無いと多分大変なことになってましたよ」

 アナウンサーから転身という異色の経歴を持つこの人は、歌や踊りはもちろんMC力が半端じゃない。
 この人が壇上に立ってまとめられない事態は存在しないんじゃなかろうか。
 ケセラセラの後がこの人達のユニットだったことが、こちらにとってのある意味大きな勝算でもあった。


「やーねぇ、そんなに畏まらなくたっていいのよ。私達も楽しかったし。
 それにしても凄い仕掛けだったわね。あれも天才少女のトリックって奴かしら?」
「いやーまあ、半分はそんな感じですかね……ははは……」
「ん~? ――ま、いいわ。ああそうだ、楓ちゃんに伝えておいてくれない?
 いいお店が見つかったから、暇な時に一杯やりましょうかって」
「ええ、すぐに」
「……ふふっ」
「? ……何か?」

 川島さんは俺の顔を覗き込んで、いたずらっぽく笑った。

「そっちはいつも賑やかよね。君も大変なんじゃない?」
「わはは。それがうちのカラーですから」
「いいわねぇ、グーよグー」

 川島さんは眩しい笑顔でサムズアップし、うきうきした足取りで去っていく。

 …………さて。

 アナスタシアをアイドルに迎え入れたい。迎え入れよう。もうこれは命懸けでやろう。
 なんならお父さんにスクリューパイルドライバーを喰らってでも、やり遂げよう。

 ユニットは三人。志希、フレデリカ、そして彼女だ。

 名前は――そうだな。未確定ではあるが。


 ひとつ、『春(ヴェスナ)』とでも付けようか。



【一ノ瀬志希かく語りき・さいご】


 最後にちょっとだけ時系列きゅるきゅるさせてね。


 フェスが終わった後、隅っこにはまだ残っている雪があった。
 暖かい夜の中、溶けていないそれをあたしは掬う。

 フレちゃんとアーニャちゃんを振り返って提案した。

「雪だるま作ろーよ」


 名付けて、セントルイス田吾作アレクサンドル。

 そこらじゅうの雪を集めてまとめたから、サイズはそこそこ大きい。
 白く立派なソレは、春の色を増す月光を受けて誇らしげに立っている。


「おーい、そろそろ戻るぞー」

 あ、プロデューサーだ。

「って、セントルイス田吾作アレクサンドルじゃねーか。完成度たけーなオイ」
「でしょでしょ~? 特にこのおヒゲのとこがリアルだよね~♪」
「プロデューサー、アー……わたしは……」
「いいんだ。ひとまず、帰ろうか」

 アーニャちゃんは、はにかむように微笑した。その色は最初出会った時のそれとは違った。
 ここで手を繋ぐことを提案してみる。
 四人並んではなかなかシュールで笑えた。

 あたしと繋ぐアーニャちゃんの手は、とても温かいものだった。


 聞こえるかな――――と、頭の隅で思った。
 遠い空のたぶんずっと向こうに、あたしが想起した誰かはいる……と思う。


 さらばセントルイス田吾作アレクサンドルよ。


 もう雪だるまの行方を考えたりはしない。
 消えゆく彼らのことを惜しいとも思わない。

 季節は巡るのだ。これから新しい季節が来る。

 暖かな風が吹いて、燃える命が隆盛をきわめ、やがてそれらは静かに眠りゆく。


 そうすれば、きっとまた逢えるから。


   *


 東京のあるところに、女の子がいます。

 名前はアナスタシア。アイドルです。

 アナスタシアは時折、故郷の両親、ロシアのグランパやグランマに手紙を書くそうです。

 内容はアイドルの仕事のこと、東京での暮らしのこと。

 友達ができたこと。人間でも人間じゃなくても、色んな不思議な子達がいること。

 グランパと知り合いのサンタの女の子もいて、びっくりしたこと。

 自分は幸せだということ。


 歌を歌うようになったこと。

 自分だけの為の、友達の為の、声が届く全ての人々の為の。

 去りゆく冬に再会を誓う、あたたかな春の歌を。


 ~おしまい~

 https://www.youtube.com/watch?v=94uxNQqmknk


〇オマケ


  ―― 都内 某公園


楓「お花見しよ~よっ!」

茄子「はいっ♪」

楓「アーイドルだっていいじゃな~い!」

茄子「ぱーりらっ♪ ぱりらはいっ♪」

P「もう出来上がってんのか成人組ィ!」


P(異常な寒気が過ぎ去った直後、嘘みたいな陽気が降り注いだ)

P(街中の桜が満開になった。まるで凍った蕾が一気に開いたように)

P(うちの部署は予定していた通り、フェスの打ち上げを兼ねてお花見会を開くことにした)


P「でも限度ってものがあるぞ。ちひろさんも何か言って――」

ちひろ「わらひらってねぇいろいろくろうしへるんれふよぉ!!」ダンッ

P「ウワーッ完全に仕上がってる!!」

ちひろ「ゆきはふるわうさぎはわくわ、そのあいだずーっとじむしょりなんれふよわらひは!!」

ちひろ「…………ぷろりゅーさーさん、そこにすわってくらはい」

P「ち、ちひろさん落ち着いて。ほらお茶でも……」

ちひろ「せいざーっ!!!!」

P「はいいーッ!!」ピシー

ちひろ「あなたいっつもおかひなことにくびつっこんでばっかくどくどくどくどくどくどくどくどくど」クドクドクドクド

ちひろ「こっちらってしんぱいしてるのにそのきもしらないでうだうだうだうだうだうだうだうだうだ」ウダウダウダウダ

ちひろ「わらひのでばんがぜーんぜんないけんについてはぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐち」グチグチグチグチ

P「ふぇぇ……」


P「あのぉ……あんまり騒ぐとですね……一般の方にバレてごにょごにょ……」

茄子「そういえば場所取りが良かったのかしら。運良く、どなたにも気付かれていませんねー」

P「運良く……はッ」

茄子「♪」ニコニコ

P「無敵だ……ここは無法地帯だ……!」ワナワナ

楓「まあまあPさんも一本」トクトクトクトクトクトクトクトクトクトク

P「多い多い多い! てかジョッキにウォッカはおかしいだろ!!」

茄子「ここは一つ、新ネタの裸踊りでもご披露しましょうか~♪」

P「やめて! それはマジでヤバい!!」

ちひろ「ちょっと!! きいへるんれふか!! わらひのめをひゃんとみなさらりるれろ!!!!」グルグルグル


周子「やー大人は大変だねぇ」

芳乃「無礼講なればー、時には羽目を外すも吉かとー」

紗枝「まあ、見なかったことにしといて差し上げまひょか~」

美穂「わわわ、ウォッカ一気はまずいよぉ!」タッ

美嘉「あーもう何やってるんだか! プロデューサー!」タタッ


みく「そこで、こんな感じにネコミミをー……」スチャッ

アーニャ「……ミャウ、ミャウ……?」

響子「かわいい!」

茜「あぁ~いいですねぇ~!」

アーニャ「ミャーウ♪」

みく「やっぱりみくの見立て通りにゃ! アーにゃんはネコチャンのポテンシャルを秘めてる……!」

みく「みくの野望のネコチャンユニット、せめてあと一ピースがあれば完成するのに……!」

菜帆「志希ちゃんやフレデリカちゃんじゃいけないんですか~?」

みく「あの二人はガチなので逆にアカンにゃ」



イヴ「それにしても、ジェドおじさまのお孫さんにお会いできて光栄ですぅ。大きくなって~♪」

アーニャ「ダー♪ グランパから、お話は聞いています」

桃華「それにしてもあのお二方、遅いですわね……もしや何かトラブルに巻き込まれたのでは……? あっ」


  ノソノソ


桃華「志希さん、フレデリカさん! もう少ししたら、こちらからお迎えに上がろうと思っていましたのよ!」

フレデリカ「や~ゴメンね~? 二人して三度寝くらいしちゃってさ~」

志希「ねむねむ……」


アナスタシア「シキ! フレデリカ!」パァッ


志希「おうっっふ」ガバッ

フレデリカ「わおーう大胆ー♪」ダキッ


桃華「ふふっ。お二人とも、すっかりアナスタシアさんのお姉さまですわね♪」

志希「おかしなことをゆーものだね桃華ちゃん。あたしはそんなキャラではー」

アーニャ「シキ! アーニャ、コーシュカ……ネコの耳を付けました。似合う、ですかっ?」ワクワクグリグリ

志希「ぬほーい」グリグリグリグリ

フレデリカ「いやーシキおねーちゃんも大変だねー」

周子「おっいいこと聞いた。ねーねーおねーちゃーんお腹すいたーんなんか奢ってー」

奏「そういえば私、年下だったのよね……。私もお姉ちゃんと呼んでも?」

志希「やめれー」グリグリモゾモゾ


P(…………)

P(うん、良かったなぁ)

ちひろ「よそみをしてるんじゃあないれふよーっ!!!!」

P「はいいいーっっ!!!」ピシーーー

美嘉「ち、ちひろさん! その辺にしといてあげてよ!」

美穂「プロデューサーさんっ大丈夫ですかっ!? わ、私も一緒に正座しますからっ!」

ちひろ「そういうとこなんれふよー!!!!!!」

P「理不尽!!!!」



~オワリ~

 以上となります。長々とお付き合いありがとうございました。

 志希にゃんはもうちょっと闇属性寄りな気はしますが、たぬき事務所の一解釈ということで、ご容赦ください。

 依頼出しておきます。

乙乙良かった
いつもよりは非常識事態になってないような気がするのは
感覚が麻痺してきたんだろうか


狸合戦とかウサギパニックとかあったし雪女一人くらい誤差だよ誤差

次は宇宙からのあさん来襲ですな

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