伊吹「あ、そうそう。この前花の妖精になって撮影したんだけどさ」

奏「あーはいはいかわいいわね」

伊吹「雑っ！？」

奏「私のデレって案外貴重なの。　タイミングを逃した伊吹ちゃんが悪いわ」

伊吹「よくわかんないけど、デレた奏ってかわいいからもっと見せてくれてもいいと思う」

奏「伊吹ちゃんみたいに？」

伊吹「アタシってそんなにデレ多いっけ？」

奏「ええ。主に自分の担当プロデューサーさんに対して」

伊吹「なっ！？　そ、そんなことないし！　デレてないし！」

奏「そうかしら」

伊吹「そんなに言うなら証拠を出しな！　証拠！」

奏「あら、伊吹ちゃんのプロデューサーさん」

伊吹「えっ」←身だしなみを整える

奏「の眼鏡を持った輝子ちゃん」

輝子「忘れ物……届けに来ました……」

伊吹「か～～な～～で～～」

伊吹「あ、輝子ちゃんはありがとね。アタシからPに渡しとくから」

奏「でも証拠はちゃんと出たわね」

伊吹「どこに出たの」

奏「輝子（しょうこ）ちゃんだけに」

輝子「フヒ？」

伊吹「アンタよくそれドヤ顔で言えたね」

奏「ふふっ、なんてね」

伊吹「言った後に恥ずかしくなってごまかしても無駄だよ」

奏「さて、輝子ちゃんも帰ったところで話を戻すけど」

伊吹「さくらもち食べる？」

奏「戻るポイントが違うわよ。食べる」

伊吹「ほい」

奏「………」ﾊﾑ

伊吹「………」

奏「………」ﾊﾑﾊﾑ

伊吹（食べ方がお上品）

奏「それで、話を戻すけど……花の妖精の撮影。珍しく髪を下ろしたのね」

伊吹「うん。たまにはいいかもと思って。せっかく普段のアタシとイメージ違う役柄？　を演じるんだしね」

奏「なるほど。確かに、いつもの伊吹ちゃんとのギャップが強調されているわ」

伊吹「そう？　へへー……Pにも褒められたし、これからはたまに下ろしてみようかな、なんて」

奏「髪は女の武器と言うけれど、伊吹ちゃんもその例に漏れず、ね」

伊吹「髪といえばさ。奏もこの前、番組の収録でツインテールにしてたよね」

奏「あぁ、小学校の卒業式にお邪魔させてもらった時の？　ウィッグをつけただけだったけれど、あれはあれで新鮮だったな」

伊吹「似合ってたよね、あれ！　でもあれってツインテールって言うの？」

奏「広義の意味ではツインテールに含まれるらしいわ」

伊吹「ふーん。じゃあもしかして、アタシの髪型もツインテールだったりするのかな」

奏「そうね。きっと本人がツインテールと言えばツインテールなのよ」

伊吹「自己申告制ってやつ？」

奏「プロ野球の球種と同じね」

伊吹「あれ絶対ツーシームじゃないよね」

奏「それにしても。こうして髪を下ろした写真を見ると、伊吹ちゃん思ったより伸ばしているのね」

伊吹「じゃあ奏も伸ばしてみる？　髪綺麗だし、きっと似合うと思うな」

奏「そう？　なら、少し検討してみようかしら」

伊吹「してみれしてみれ？　長いほうが射程距離も広がるし」

奏「髪は女の武器と言ったけど、そういう意味の武器じゃないわよ？」

伊吹「冗談だって♪　さすがのアタシでもそのくらいの比喩表現はわかるよ」

奏「比喩って漢字で書ける？」

伊吹「書けるわ！　一応高校卒業してるんだぞっ」

奏「ふふ、冗談よ」

伊吹「もう……奏こそ、卒業して何年も経ってるからって書き順忘れたりしてないだろうな～」

奏「私、現役JK」

伊吹「あ、そうだった」

奏「……前から気になっていたから聞くんだけど。最初に私を見た時、何歳くらいだと思った？」

伊吹「ん～……具体的に何歳くらいっていうのは考えなかったんだけど」

奏「だけど？」

伊吹「カジノでディーラーやってそうだと思った」

奏「そう、赤に賭けるのね。ふふっ、情熱的な瞳……ゾクゾクしちゃうわ♪」

伊吹「っぽい～～！！　本物見たことないけど」

奏「褒め言葉として受け取っておくわ」

伊吹「ちなみにアタシは初見でどんな感じに見えた？」

奏「ダンス大好きで一見大雑把な性格に見えるけどそのくせ恋愛映画とか大好きな乙女っぽく見えた」

伊吹「なんだよエスパーか！」

奏「なんてね。さすがに初対面でそこまではわからないわ」

奏「わからなかったからこそ、案外気が合うことがわかった時はうれしかったもの」

伊吹「………」

奏「どうかした？」

伊吹「デレたと思って」

奏「私、別に素直になれないわけじゃないこともないなんてことはないのよ」

伊吹「その表現がすでに素直じゃなくない？」

奏「そういえば、最近ずっと読んでいた恋愛小説。あれ、読み終わったの？」

伊吹「うん、つい昨日ね。いや～、最後は一気に読み進めたから肩凝っちゃった」

奏「面白かった？」

伊吹「すごく面白かった！　クライマックスはもうドキドキしっぱなしで、この二人の愛の行方はどうなるのかと」

奏「確か、ちょうど映画をやっているのよね」

伊吹「そうそう。今度Pと一緒に行く約束してるんだ」

奏「へえ、伊吹ちゃんもなかなかやるのね。恋愛映画を男と一緒に観に行くなんて」

伊吹「なっ……そ、そういう深い意味はないからっ！　ただ、Pが興味ある感じだったから、せっかくだし一緒にと……」

奏「はいはい、わかったわ。伊吹ちゃんのところのプロデューサーさんも大変ね」

伊吹「そ、それはともかくとして！　奏は相変わらず恋愛映画は観ない感じ？」

奏「そうね。嫌いってわけじゃないんだけど……」

伊吹「そっかー。じゃあ今度、他の映画を観に行こうよ」

奏「いいよ。どんな映画にする？」

伊吹「アタシが気になってるのは、このサメとクジラとオオカミウオが戦うやつかなー」

奏「想像がつかないわね、それ」

伊吹「ん～～～～～～～」

奏「急に唸りだしてどうしたの？　お腹痛い？」

伊吹「違うってば。奏が今なにを考えてるのかを考えてた」

奏「伊吹ちゃんと同じことよ」

伊吹「えっ？　そんな、照れるな……って、どこのラブラブカップルだよ！」

奏「ふふ。お茶、おかわりいる？」

伊吹「まったく奏は……ぷはーっ！」

奏「やっぱりさくらもちには日本茶よね」

奏「それで、唐突に私の心を読もうとしたのはどうして？」

伊吹「いつもアタシが心を読まれるばっかりだから、たまにはやり返してやろうと思ってさ」

奏「あぁ、なるほど。かわいい理由ね」

伊吹「ふっふっふ、そんな顔してられるのも今のうちだぜ」

奏「どこのオッサンよ……」

伊吹「む～～～～～～～」

奏「………」

伊吹「む～～～～～～～」

奏「………」

伊吹「む～～～～～～～」

奏「………」ｽﾞｽﾞｰｯ

伊吹「今『あっ、このお茶おいしい』って思っただろ！」

奏「それちょっとずるくないかしら？」

伊吹「勝てばいいのだ♪」ﾆｺﾆｺ

奏（……まあ、うれしそうな顔が憎めないからいいか）

伊吹「あっ、今『こいつムカつく』とか思ってるな？」

奏「……ふふっ。本当、伊吹ちゃん面白い」

伊吹「どういう意味～？」

奏「好きってことよ」

伊吹「えっ……な、なんだよもう。しょうがないなぁ」

奏「……伊吹ちゃん」

伊吹「ん？」

奏「将来ダメ男にひっかかりそうになったら私が守るわ」

伊吹「どういう意味だよ！！」

奏「そのままの意味だけど」

伊吹「ていうか、奏こそそういうの気をつけないとダメじゃないの？　割と面倒見いいほうだし、『しょうがないわね……』でなんでも受け入れたりしちゃダメだよ？」

奏「私は大丈夫よ」

伊吹「そう言ってる人が一番危ないんだぞー。まあ、何かあればアタシが守ってあげるから！」

奏「守るのは私よ」

伊吹「アタシだって！」

奏「………」ｼﾞｰｰ

伊吹「………」ｼﾞｰｰ

奏「………」

伊吹「………」


伊吹「もうお互い守り合えばよくない？」

奏「そうね。それで解決ね」

伊吹「うん。それでさ、未解決の問題がもう一個あるんだけど」

奏「なに？」

伊吹「比喩の『喩』って、『く』みたいなヤツ2本だっけ？　3本だっけ？」

奏「やっぱり書けないんじゃないの。というか、今までずっと考えいていたの、それ」

翌日


奏「ねえ、Pさん。私、ダメ男に引っかかりそうに見える？」

奏「………『わりと見える』って顔、してるね。ふうん……そう」ｼﾞﾄｰ

奏「でも、あなたはダメ男じゃないよね？」

奏「……どうしてそこで俺の話になるのかって？　ふふ、どうしてでしょうね」


奏「それはさておき。今度、映画でも観に行かない？　最近話題になっている、恋愛映画」

奏「………驚きすぎじゃない？　確かに私、普段は恋愛映画は観ないけど」

奏「まあ、理由を聞かれたら……そうね」

奏「春のイブキに、あてられたのかもしれない……なんてね」ｸｽ



おしまい