ザッザッザッ…
男(インターネット上にひっそりと流れてる都市伝説……)
男(どんな漫画も無料で読めるという通称“漫画村”……)
男(そこにたどり着けば、漫画ファンは最高の幸福を味わえるという……)
男(この秘境中の秘境にあるって話だけど……)
男「……着いた! 村がある!」
男「都市伝説が真実なら……ここが漫画村か……」
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男(とりあえず、誰かに話しかけてみるか)
男「あのぉ~」
村長「ようこそいらっしゃいました!」
男「え」
村長「漫画村へようこそ! 我々は村をあげてあなたを歓待いたしますぞ!」
男「はぁ……どうも」
男「ですけど、歓待はありがたいんですが、俺は漫画を読みたいんですが――」
村長「おお、流石ですな。では、この者に案内させましょう」
村人「ささ、こちらへどうぞ!」
村人「いかがです?」
ズラッ…
男「……!」
男「すげえ~!」
男(本棚にびっしりと漫画が置いてある……)
男(しかも、ラインナップもすごい! メジャーな作品からドマイナーのまでバッチリだ!)
男(まさに漫画の大図書館っ……!)
男「あ、あのこれ……全部読んでいいんですか?」
村人「はい」ニコッ
男「……無料で?」
村人「もちろんです!」
男(や、やったぁ……!)
男「……」ペラ…ペラ…
村長「いかがですかな?」
男「いやぁ~楽しませてもらってますよ。まさか雑誌の最新号まであるとは思いませんでした」
村長「ありがとうございます」
男「だけど、お腹すいてきちゃって……この村でご飯食べられるところってあります?」
村長「ああ、食事なら村人に命じていただければ、いつでも好きなものをお出ししますよ」
男「へぇ~、すごい。料金は持ってきてもらった時に払えばいいんですか?」
村長「料金? とんでもない! 全て無料で提供させていただきますよ」
男「マ、マジですか!?」
村長「マジです」
男(すげえ……こりゃ“漫画村”どころか“食事村”でもあるじゃないか!)
男「ふぅ~……もう100冊くらい読んだかな」
男「肩こってきたな……」モミモミ…
村娘「お客様」ニコニコ
男「は、はいっ!?(可愛い……)」
村娘「よろしければ、マッサージしましょうか?」ニコッ
男「え……あの、おいくらで?」
村娘「もちろん、無料です」ニッコリ
男「お、お、お願いしますぅぅぅぅぅ!!!」
男(この村は最高だぁ~っ!!!)
一ヶ月後――
男「……」ペラ…
村長「こんにちは」
男「村長さん!」
村長「この村には慣れましたかな?」
男「はいっ! 慣れるどころか、もうすっかり堪能させてもらってますよ!」
男「漫画だけじゃなく、衣食住の世話までしてもらっちゃって……ここは最高の村です!」
男「いやぁ~、こんな漫画みたいな村が本当に実在するなんてビックリです!」
村長「時として、漫画みたいなことが本当に起こる、それが現実というものなのですよ」
男「なるほどぉ~!」
村長「話は変わりますが、あなたが一番お好きな漫画家はどなたですかな?」
男「うーん、そうですねえ……」
男「……」
男「やっぱり、デビュー作『バクバクヒューマン』以降、ヒット作を連発してる」
男「売れっ子漫画家ですかねえ」
村長「おや、あなたもですか。私も彼のファンなのですよ」
男「村長さんもですか!」
村長「『バクバクヒューマン』は人を食ってパワーアップする主人公という」
村長「荒唐無稽な設定でありながら、リアリティのある描写で記録的大ヒット漫画となり」
村長「次回作の『ラブ☆ブラ』では、とろけるような恋愛をみごとに描写」
村長「さらに次の作品『冥探偵・多摩川ドイル』も映画化もされる大ヒット!」
村長「他にもギャンブル漫画、歴史漫画、ヤンキー漫画、ファンタジー漫画、と……」
村長「あらゆるジャンルを描けるオールマイティな作家ですからな」
男「そうなんですよねえ。村長さんもなかなか漫画にお詳しい」
村長「こりゃどうも」
男「彼こそまさに“漫画の申し子”だと思いますよ」
男「今やってるバトル漫画『ダイヤモンドの拳』も最終回が近いですが」
男「彼ならきっと素晴らしいクライマックスを描いてくれると思いますし」
男「その次回作もきっと大ヒット作を描いてくれることでしょう!」
村長「私もそう思いますよ」
村長「……おっと、長話が過ぎましたな。読書の邪魔をしてしまいました」
男「いえいえ、時間はたっぷりありますから」
村長「そうですな。漫画村の漫画をたっぷりご堪能下さいませ」
男「はいっ!」
男「よーし、今日も読むぞー!」
半年後――
村長「こんにちは」
男「あ、村長さん。それに、皆さんも」
村人「こんにちは!」
村娘「こんにちは~」
男「どうしたんですか?」
村長「実はですね、あなたに会っていただきたい方がいるのです」
男「俺に?」
村長「漫画を読むのを中断して、我々についてきて頂けませんか?」
男「いいですけど……」
スタスタ…
男「……」
男(こっちは俺もまだ入ったことがない区画だな……)キョロキョロ
男「あの、どこまで行くんですか?」
村長「あの部屋です」
男「え?」
村長「あなたにとって憧れの人が、あのドアの向こうにいます。さ、どうぞ」
男「は、はい」
男「失礼します……」ガチャッ
漫画家「……」カリカリカリ…
男(男が一人、一心不乱に漫画を描いてる……何者だ?)
男「あなたは……?」
漫画家「はじめまして」
漫画家「私、今は『ダイヤモンドの拳』を連載している漫画家です」
男「あっ……」
男(信じられない! 大ヒット作家とこんなところで会えるなんて!)
男(“漫画村”ってのはいったいどこまで至れり尽くせりなんだ!?)
男「お、お、お会いできて光栄です!」
漫画家「ありがとうございます」
漫画家「村長さんから話は聞いております」
漫画家「私の漫画を楽しんでいただいているようで、嬉しいです」
男「こちらこそ!」
男「一度でいいからあなたにお会いしたかったんです! 本当に嬉しいです!」
漫画家「漫画村で、たっぷり漫画を読んでいただけましたか?」
男「はい、俺の体はもう漫画で満たされてますよ! いってみれば漫画でできた漫画人間です!」
男「ハハハ……な~んて……」
漫画家「そうですか……」
漫画家「私の予想通り、ようやく頃合いになったということですね」
男「……はい?」
漫画家「村長、皆さん、お願いします」
村長「はい」サッ
村人「はい」サッ
村娘「はーい」サッ
ガシッ!
男「!?」
男「な、なんだ!? いきなりなにするんだ! はなせっ!」ジタバタ
村長「あなたに申し上げておきたいことがあります」
男「……なんだよ!?」ジタバタ
村長「実はこの人の漫画で、完全なフィクションじゃないものが一つだけあるんです」
男「フィクションじゃない……? どの作品が!?」
村長「デビュー作ですよ」
男「『バクバクヒューマン』……」
村長「『バクバクヒューマン』は……彼が自分自身をモデルにした漫画なんです」
『バクバクヒューマン』は人を食ってパワーアップする主人公という
荒唐無稽な設定でありながら、リアリティのある描写で――
男「ちょ、ちょっと待て! それってまさか――」
村長「はい、彼は漫画をたっぷり読んで、心身を漫画で満たされた人を食べることで」
村長「新たに素晴らしい作品を描くことができるんです」
村長「これこそが、この漫画村が存在する理由だったのです」
男「ハハ……そんなバカな……。んなこと信じられるかっ!」
村長「時として、漫画みたいなことが本当に起こる、それが現実というものなのですよ」
漫画家「本当にありがとうございます」
男「え……」
漫画家「あなたのおかげで、私はまたさらに面白い漫画を描くことができる」
男「ひっ……!」
男「ま、待ってくれ! やめてくれっ! 俺はあんたのファンなんだぞ!? ファンを食うのか!?」
漫画家「では……」
漫画家「いただきまぁす」グパァッ
男「やだっ! いやだぁっ! 助けてくれぇぇぇぇぇ……!」
うわぁぁぁぁぁ……!!!
………………
…………
……
漫画家「ふう……とても美味だったよ。おかげで創作意欲がはち切れんばかりだ」
漫画家「これなら『ダイヤモンドの拳』終了後、すぐ新しい作品を描けそうだ」
漫画家「しかし、いつもやってることとはいえ、彼には気の毒なことをした」
村長「彼は漫画ファンとして最高の幸福を味わえたのです。人気作の糧になれるというね」
漫画家「そして、作品が売れて君らもさらなる幸福を味わえるというわけだね……編集長」
村長「おっと……ここでは私は村長ですよ。他の編集者もみんな村人です」
村長「なにしろ、ここは漫画の楽園“漫画村”なのですから」
漫画家「これは失敬」
村長「では、執筆のほどよろしくお願いします、先生」
漫画家「君たちも新たな餌の調達を頼むよ」
村長「はい……近いうちに必ずや来るでしょう」
村長「無料で漫画を読める“漫画村”の伝説にいざなわれる、漫画ファンがね……」
……
……
オタク「ふぅ、ふぅ、やっとたどり着いた」
オタク「ここが漫画村かぁ……」
村長「ようこそいらっしゃいました!」
― 終 ―
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