男「注文こないな……」女店員(あのお客さん、食券制だってまだ気づいてない……?) (22)

― 定食屋 ―

ガラガラ…

男「……」キョロキョロ



女店員「いらっしゃいませー!」

女店員(……この人!)

女店員(いつも店の前でうろうろしてた人だけど、やっと入る気になってくれたんだ!)

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男「……」ガタッ

男「……?」

男(注文取りに来ないな……)



女店員「……?」

女店員(あれ? どうして食券を買わずに席に座っちゃったんだろう)

女店員(あ、そうか。まだどれを食べるか迷ってるのかも!)

10分後――

男「……」



女店員(まだ迷ってるのかな? しばらく、そっとしておいてあげよう……)

20分後――

客「サバミソ定食よろしく!」サッ

女店員「はーい!」



男「……」

30分後――

女店員「お待ちどおさまー!」コトッ

客「ありがとよー」



男「……」



女店員(あの人、まだ待ってる……いくらなんでもおかしいよね)

男「……」



女店員(あ、もしかして!)

女店員(あのお客さん、うちが食券制だってまだ気づいてない……?)

女店員(どうしよう? だったら伝えてあげなきゃいけないけど――)

女店員(今さら伝えたら、『今まで何やってたんだ!』ってものすごく怒られるかも……!)

女店員(怒るような人には見えないけど、大人しそうな人ほど怒ると怖いっていうし……)

女店員(どうしよう、どうしよう……!?)

女店員(私、どうしたらいいの……!?)

客「なぁ」

女店員「は、はいっ!」

客「あそこの兄ちゃん、ひょっとして食券買うことに気づいてないんじゃねえか?」

女店員「――!」ハッ

女店員(そうだわ、私ったら……今いわなきゃ、状況はどんどんひどくなるばかりじゃない!)

女店員「お客さん」

客「ん?」

女店員「ありがとう!!!」

客「!? ……お、おう」

女店員「あの、お客さん!」

男「!」ビクッ

男「な、なんでしょう?」

女店員「実はですね……うちの店は食券制なんです!」

男「あ……」

女店員「だからまず、入り口にある券売機で食券を買って下さい!」

女店員「勇気を出せずなかなか言えませんでした! 今まで黙っていてすみませんでしたっ!」ペコッ

男「……」

男「そうだったんだ……」

女店員「本当にごめんなさいっ!」

男「いやいや……! 悪いのはあなたに聞こうともしなかったこっちだし……」

男「こちらこそ……すみませんでした」ペコッ

女店員「……」ホッ

女店員(よかった……見た目通りのいい人でよかった……)

男「あの、それじゃ……」

女店員「?」

男「あなたが勇気を振り絞ったんだから、ぼくも勇気を振り絞ろうかな……」

女店員「なんでしょう?」

男「あの、ぼく……ずっと前からあなたのことが好きでした」

男「だから、お友達に……なってもらえませんか!」

女店員「……!」

女店員「……はい、喜んで」

男「ホ、ホントですか!」

女店員「私もいつも、あなたともっとおしゃべりしたいな、って思ってたんです!」

女店員「あなたは絶対いい人だと思ったから……」

男「あ、ありがとう……」



客「おおっ! いいねいいね~! 青春だね~!」

ヒューヒューッ!

ワアァァァァァッ!

パチパチパチパチパチ…



女店員「み、皆さん! からかわないで下さい!」

客「だったらさ、キスぐらいプレゼントしてあげたらどうだ?」

女店員「キ、キス!?」

男「そ、そんな……」

客「ハハハ、冗談だよ、冗談」

女店員「キスはまだできないですけど……私にだってプレゼントできるものならあります!」

男「え? なんですか?」

女店員「うちの店の食券です! さぁ、どうぞ!」ドッサリ

男「ええ……? い、いいの? こんなに……」

女店員「はいっ!」



客「……食券乱用だな」







― おわり ―

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