そのかわり、おどろくほどたくさんの塩を買ってきて「この塩でアタシはきれいになる！」と吠えました。

それで、本当にきれいになるかどうか、研究してみようと思ったのです。

また、いろんな種類の塩を買ってきたのでどの塩が効果があるのかわかりません。

また、体重もへるのだと自慢していました。


◎お姉ちゃんの体重

☆月二十一日には四十七キログラムでした。

お姉ちゃんがお風呂あがりに体重計に乗っているとき後ろから素早く観察しました。

お姉ちゃんはメモリを見る前に大きく息をはいて、閉じた目をそっと開いて測ります。

それにしても後ろから覗いたくらいで、ほっぺたをつねるのは大人げないなぁと思いました。

◎観察記録

（☆月二十二日）

お姉ちゃんが買ってきた塩を調べました。

ビニール袋に入っていたり、歯みがき粉みたいなチューブに入っていたりいろいろです。

＜死海でとれた塩＞とか、＜天日干しの塩＞とか、＜沖縄のなんとか島の塩＞とかがあります。

なめてみると、どれもしょっぱかった。色は白とちょっと茶色っぽいものでした。


（☆月二十四日）

今日は、お姉ちゃんといっしょにお風呂に入ってどのように塩を使っているかを研究しました。

体をぬらして全身に塩をぬりつけて、おなかと太ももを特に一生けんめい、もんでいました。

どう体にいいのかとたずねると「お肌がツルツルになるんだよ★」と言いました。

アタシは菜々ちゃんから聞いた浅漬けを作るのと同じやりかただなと思いました。

とにかく体にはいいそうです。

（☆月二十八日）

今日は、パパとお風呂に入りました。

背中を洗ってほしいと頼まれたので、洗ってあげました。

塩は男の人にはきかないのかなと思い、背中にすりこんで研究してみることにしました。

虫に刺されてかきむしった所に死海でとれた塩をたくさんすりこんであげると、パパはお風呂で

飛び上がって泣きさけびました。

アタシが「塩は体にいいんだよ☆ってお姉ちゃんが」と言うと、「そうかそうか、ありがとうな」と顔をしかめて感激して泣きました。



（☆月二十九日）

パパは朝から背中にオロナイン軟膏をぬってお仕事にでかけました。

（☆月三十日）

夜、アタシが寝たふりをしているとお姉ちゃんがお風呂場へ行きました。

こっそりすき間から覗いてみるとお姉ちゃんは全身の服をぬぎ捨てて体重計に乗りました。

そして「ｯｯｼｬ300グラム！」という声を聞きました、効果が出ているようです。

アタシはパンツはぬがなくても変わらないのになぁと思いました。



（★月二日）

お姉ちゃんが買い物に行っているときにアタシも塩で顔を洗ってみました。

ヌメヌメだけ残ってあんまり気持ちよくなかったです。

お姉ちゃんによると、塩のしんとーあつ作用（？）で余分な水や脂肪が体の外に出るそうです。

（★月四日）

本当に塩で効果があるのか、研究の本に比較研究も大切ですと書いてあったので、

お姉ちゃんがレッスンに行ってるスキに、塩の袋の中身を砂糖とアジシオと味の素に入れかえてみました。

これで、ちがう結果が出れば塩に効果があることがわかります。


（★月六日）

お姉ちゃんは毎日砂糖とアジシオと味の素で体を洗っています。


（★月七日）

今日も洗っています。目立った変化はありません。

（★月九日）

お姉ちゃんの部屋の前を通りすぎるとき「一キロやせたんだー★」

と電話で話しているのが聞こえました。

砂糖や味の素でも効果があったようです、明日は学校から持ってきた

クレンザーと石灰と入れかえようと思います。


（★月十二日）

お姉ちゃんが、紫色をした怪しげなドリンクをたくさん持って帰ってきました。

よく話を聞くと、志希ちゃんから"美容ドリンク"が完成したと言われすべて引きとったそうです。

アタシはまたダマされたであろうお姉ちゃんを不憫に思いました。

お姉ちゃんが「これで目標体重までマチガイなし！」と吠え、

「もう塩はいらないから、これ使って莉嘉のお弁当を作ってあげるよ」と言いました。

「お母さーん、今日はアタシが晩ごはん作るからー」という声も聞こえてきます。

アタシはクレンザーの入っているお弁当なんて食べたくないなぁ。でも、お姉ちゃんには言えないし……

（★月十四日）

これ以上、研究を進められませんでした。お姉ちゃんが塩を使わずにきれいになろうとしているからです。

それに、昨日から家族全員、原因不明の食あたりで入院しています。

研究を完成させられなかったのが残念です。



◎最終報告

病院での測定ではお姉ちゃんの体重は四十三キログラムでした。

お姉ちゃんは「ふへへ……目標達成……★」と病院のベッドの上でうめいていました。