「だって虫って気持ち悪いじゃん!」
莉嘉「カブトムシは違うよ!」
「足とか……お腹とか、なんか無理かも」
莉嘉「よく見たら、結構可愛いじゃん……」
「えー莉嘉ちゃんって変わってるね」
莉嘉「……」
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莉嘉「ねえねえお姉ちゃん」
美嘉「んー? どうしたのー?」
莉嘉「カブトムシって気持ち悪いのかな……」
美嘉「何かあったの……?」
莉嘉「今日、学校の子にカブトムシなんて気持ち悪いって言われたんだ……。触角とか、足とか、お腹とか、気持ち悪いって。でもリカね、カブトムシってそういうところも含めて可愛いなあって思うんだ! お姉ちゃんはどう思う?」
美嘉「あー、アタシは……む、虫は、ちょっと……」
美嘉「あ、で、でもね! 莉嘉がカブトムシ好きなのはいいことだと思うよ!」
莉嘉「なんでお姉ちゃんはカブトムシ嫌いなの?」
美嘉「あー……えーと……それは……」チラッ
美嘉「あっ、いけない! アタシこのあとちょっと用事が……。ご、ごめんね! またあとで話すから!」ガタッ
莉嘉「あっ、お姉ちゃん……」
莉嘉「…………」
――――
――
―
みりあ「あっ、莉嘉ちゃんだ!」
莉嘉「みりあちゃん……」
みりあ「どうしたの? 何かあったの?」
莉嘉「実は……」カクカクシカジカ
みりあ「うーん、カブトムシかあ。私は結構可愛いと思うけどなあ」
莉嘉「それ本当!?」
みりあ「うん!」
莉嘉「良かったあ! てっきりアタシだけだと思ってたから、みりあちゃんもそう言ってくれて嬉しいかも☆!」
みりあ「莉嘉ちゃんが元気出してくれて私も嬉しい!」
莉嘉「あ、そうだ。アタシ、さっきカブトムシ見つけて捕まえたんだ!」
みりあ「えっ……?」
莉嘉「はい、みりあちゃん!」
カブトムシ「」ワサワサ
みりあ「あ……えっと」
莉嘉「どうしたの?」
みりあ「え、あ。ありがとう……みりあ、触るね!」
カブトムシ「」ワサワサ
みりあ「カブトムシって、か、かわいいね!」
莉嘉「やっぱりそうだよね☆! 良かったー、アタシちょっと安心しちゃった」
みりあ「あの、莉嘉ちゃん……これ、ありがとう。もう私……大丈夫かな」
莉嘉「え? そのカブトムシ、みりあちゃんにあげるよ?」
みりあ「え……、でも莉嘉ちゃんに悪いよ……」
莉嘉「そう? アタシは別に気にしないけど……」
みりあ「ごめんね? 私もうお仕事行かなくちゃいけないから……」
カブトムシ「」ワサワサ
莉嘉「…………公園に帰してあげようかな」
――――
――
―
莉嘉「ここで元気に暮らしてね!」
カブトムシ「」ワサワサ
「あ、こんなところにカブトムシいるじゃん」
「本当だ」
「捕まえる?」
「そうだな」
莉嘉「あっ、小学生が捕まえてる……」
莉嘉「でも、アタシのものじゃないし……仕方ないよね」
莉嘉「あの子たちのところにいっても、元気でね」
――――
――
―
莉嘉「お仕事終わったあ!」
莉嘉「今日は結構疲れちゃったなあー」
莉嘉「あ、さっきカブトムシを帰してあげた公園だ」
莉嘉「あれ……あそこ、なにか落ちてる」
カブトムシ「」
莉嘉「……あ、足がなくなってる」
莉嘉「酷い……なんで、こんなこと」
カブトムシ「」ワサ…
莉嘉「あっ! ま、まだ生きてる!」
莉嘉「とりあえず家に持って帰らないと……!」ダッ
莉嘉「ただいま!」
美嘉「ん、おかえりー……って莉嘉、それ何?」
莉嘉「カブトムシだよ! まだ生きてるの!」
美嘉「そ、そうなんだ」
莉嘉「ねえお姉ちゃん、カブトムシどうすれば元通りになるかな?」
美嘉「え、それは……」
カブトムシ「」ワサ…
莉嘉「早くしないと死んじゃうよ!」
美嘉「そ、そうね。早く何とかしてあげないと……」
莉嘉「あっ……」
カブトムシ「」
莉嘉「死んじゃった……」
――――
――
―
美嘉「莉嘉? 大丈夫?」
莉嘉「…………うん」
美嘉「早くお風呂に入っちゃわないと――」
莉嘉「ねえお姉ちゃん」
美嘉「どうしたの?」
莉嘉「もしも……アタシの足とか手が千切れちゃったら、どれくらい痛いのかな」
美嘉「莉嘉……」
莉嘉「きっとカブトムシだって、痛いって思ってたんだよね……」
美嘉「……」
莉嘉「カブトムシだって生きてるのに……」
――――
――
―
莉嘉「……」
P「莉嘉、どうしたんだ? そんなに落ち込んで」
莉嘉「Pくん……」
P「何かあったんなら俺に聞かせてくれないか?」
莉嘉「実はね――」
P「うーむ、そんなことがあったのか」
莉嘉「Pくんはどう思う?」
P「俺は……全員平等にっていうのは難しいじゃないかなと思うな」
莉嘉「!」
莉嘉「それは……どうして?」
P「莉嘉はカブトムシが好きなんだろう?」
莉嘉「うん」
P「それじゃあ……ゴキブリは好きか?」
莉嘉「……ううん」フルフル
P「それはなんでだ?」
莉嘉「分かんない……」
P「そういうものなんだよ――人は好きだとか、嫌いだとかそういうことで物事を決めつけてしまうことが凄く多いんだ」
莉嘉「好きとか、嫌いとか……」
P「ああ、例えばアイドルのファンだって……この子は好き、あの子は何だか気に入らないから嫌い――そう考える人間も少なくない」
莉嘉「……」
P「でもな、俺は莉嘉みたいに優しい考えを持つことはすごくいいことだと思うんだ」
莉嘉「アタシ、優しいの……?」
P「大人になるとさ、そういう気持ちっていうのは少しずつ忘れていくものなんだ」
莉嘉「Pくんはカブトムシ嫌いなの?」
P「昔は好きだったなあ……。でも、今は触ろうと思ったりしないな」
莉嘉「どうして?」
P「もしかするとそう言う風に出来てるのかもしれないな」
莉嘉「んー?」
P「俺がもしもカブトムシが嫌いで嫌いで仕方なかったとしたら、小学生みたいにその足をちぎったりすると思うか?」
莉嘉「ううん」フルフル
P「それは俺にも分からないんだ――ただ、今俺がそういうことをしないのは、ただカブトムシに興味がないからなのかもしれない」
莉嘉「……そうなの?」
P「ああ。そういう気持ちは、少しずつ変わっていくものさ」
莉嘉「アタシも、いつかカブトムシを嫌いになったりするのかな……」
P「莉嘉がずっと好きって気持ちを持っていたら大丈夫だよ」ナデナデ
莉嘉「Pくん……!」
P「よし、それじゃあそろそろ仕事に行くか」
莉嘉「あ……」
P「どうした?」
莉嘉「アタシ、みりあちゃんに自分の好きって気持ちを押し付けちゃったかも……」
P「みりあに?」
莉嘉「ごめんPくん! アタシちょっと、みりあちゃんのところ行ってくる!」ダッ
P「あっ……行っちまった」
――――
――
―
P「それにしても、莉嘉がああいうことを考えてるとは思わなかったな……」
P「……虫、か」
P(俺が虫に対して微かな嫌悪感を抱くようになったのはいつからだったろうか)
P(偉そうなことを言っておいて、俺は莉嘉よりもずっと心が汚くなってしまったのかもしれない)
P「……」
ゴキブリ「」カサカサ
P(事務所を這うゴキブリを見下ろして――俺はゆっくりと新聞紙を丸めた)
おわり
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