すみれの咲く春に淡い期待を込めて (212)


更新頻度低め、sage更新で行きます

地の文多めなので、苦手な方はスル―お願いします

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【咲-saki-】淡「とどかぬ思い」

「やっぱりわたしのきもちはかわらないよ」

あわい「やっぱり……あのはなしはほんとうだったんですね」

「ごめん、あわい。でもこれだけはゆずれない」

あわい「センパイはバカです。おおばかです」

あわい「もう、しりません」タッタッタ

「まって、あわい はなしをきいて―――」

(いっちゃった…… わたしまちがってたかな)



~この物語を語るためには少し時間を遡らなくてはならない~


  私は大星淡 東京の中学校に通ってる三年生、勉強がちょっと苦手で趣味は麻雀、いわゆる普通の中学生です。
  その日、私は外におでかけしようと思っていたけど外は生憎のお天気。グスン ついてないです。
  
  両親は二人とも外出しているので相手をしてくれる人も居ないし、暇でもつぶそうとTVを点けるとちょうどIHの麻雀中継がやっていました。
  

淡「今年の団体戦、結構競ってるな」

  私が見たとき試合はちょうど副将戦が終了したところ、1位から3位まで2万点の差、
  勝負は下駄を履くまで分からないというけれど、ほぼこの3校に絞られたと言っても過言ではありません。


 「ロン、1500点です」

淡「ふーん 白糸台の人随分安い手、連荘優先かな? このくらいなら私でも打てそうだね」

  この頃、私は少し天狗になっていました。周りは雑魚ばかりで、手加減しないと相手をしてもらえない。
  だから私は麻雀は趣味で打てれば十分、本気で打つなんて馬鹿らしいと思っていました。
  でも……

 「ロン」

 「ツモ」

 「ロン」


淡「うそ……これで何連荘? これだけ強いなら一回で沢山稼げば良いのに もったいない」

  他に見たい番組もないのでそのまま中継を見ていると、同じ選手が連続で和了を続け、順位が逆転しました。
  ひとつつひとつの打点はあまり高くないけど、真綿を締めるような戦いぶりに少し興味が出てきました。


 「ロ、ロン」

 その後も白糸台の大将さんが何度か和了した後、別の選手が和了し、ようやく白糸台の親が終わりました。

淡「……大分点差離れちゃったな……って何で私見てるんだろ」

  心のどこかで私は求めていたのかもしれません。
  全力でぶつかりたい相手が現れるのを……


実況「決着だー 熱戦を制したのは東東京代表白糸台高校です」

淡「かっこいいな」ポー

淡「白糸台の大将の人すごく強い……白糸台の宮永照」

 試合が終わるころには、自分はすっかり彼女の虜になってしまいました。
 
 白糸台高校 大将 宮永照(二年)

 
 彼女と対戦してみたい…… そう考えるようになりました。
 この出会いが私の運命を大きく変える事になろうとは……
 そして時計の針が静かに動き始めました。

西東京だろ

>>11
指摘ありがたいです。 白糸台は西東京ですね

 桜が満開を迎える頃、私は校舎へと続く道を一人歩いていました。
 
 校舎からは、吹奏楽部でしょうか? 楽器の音が聞こえてきます。
 
 私は、これから三年間通う校舎を横目に見つつ頭の中では別の事を考えています

 それはもちろん、彼女のこと。

 合格通知が送られて来てからずっと彼女のことが頭からはなれません。

 やっぱり第一印象は大事だから、しっかり挨拶しなくちゃだよね。
 
 時間があったら一局打ちたいな

 私は胸の衝動をおさえる事ができず、鼓動はますます大きくなるばかりです。

 
 一応事務の方に確認を取ったところ、今日も麻雀部は活動をしているとのことですが、部活棟はとても静かで物音一つしません。

 それでも私は案内図の通り進んで部室の前に辿りつきました。私はそこで一度息を整えてから部室の扉に手をかけました。
 
 私は、少し緊張しつつ思い切って扉を開けると何やら作業をしている人影がありますした。


淡「あの……ここって麻雀部の部室で合ってますか?」

 「何か用かな?」

そこに居た女性は長髪・ロングスカートの綺麗な方でした……

少しだけ投下します

「中に入らないのか?」

 扉のところで中に入るか迷っていた私に先輩はそう声を掛けました。
 私はそこでようやく決心して、恐る恐る中に入りました。

 私は容姿の事もあって周りには良く勘違いされるのですが、私は初対面の人と話すのはかなり苦手だといっても過言ではありません。
 特に、自分より目上の人と話すときはどうしても目を見て話す事ができません。

淡「し、失礼します」

 「もう入って来ているがな」

淡「す、すみません」

「別に良いぞ。今は休憩の時間だから他に部員も居ないしな」

 むぅ、 この人クール系美人だと思ったらちょっと口悪い、私の苦手なタイプ。
 でも、今部室に居るのは本当にこの人だけみたい……

 宮永照さんが部活に出てきているか聞いたらさっさと帰ろうかな? なんて考えている私に先輩は椅子を勧めてくれました。


「それで、貴女は麻雀部に何か用かな? あ、何か飲むか?」

淡「えっと、じゃあお茶で」

「分かった。ちょっと待っててくれ」

 先輩は席を立つとお茶の準備を始めました。


 早く誰か戻って来てくれないかな。
 なんとなく、このまま沈黙が続くような気がしたので話題を提供することにします。

淡「わ、わたし新入生なんです。それで今日麻雀部が活動してると聞いて見学しに来ました」

「なるほどな、感心、感心」

 先輩はお茶を準備する手を止めず、淡々とそう答えました。
 妙に反応が薄いなぁ

 つまんない もうちょっと反応してくれても良いのに。あまりにも反応が薄かったので、少し踏み込んでみることにします。

淡「今日は宮永先輩いらっしゃるんですか?」

「居ないよ。今日は用事があるそうだ」

 今日は先輩が居ない。私にはそれだけで十分でした。後は適当に理由を付けてお暇しちゃえば良いよね。

「はい、どうぞ えっと……まだ名前聞いてなかったね 教えてもらえるかな」

淡「大星です。大星淡」

菫「大星さんか良い名前だな。私は弘世菫、一応白糸台の部長をやらせてもらってる」

 ぶ、ぶちょー この人部長さんだったの!? ど、どうしよー失礼なことしてないよね アセアセ
 私は心を落ち着ける為に弘世さんに淹れてもらったお茶に口を付けました。

淡「ふぅ、おいしい」

 淹れたてのお茶が喉を通った為、すごく喉がひりひりします。
 頭を冷やそうと思ったのにこれじゃあ全然冷静になれないよ。

 先輩がコッチ見てる……ど、どうしよう
 やっぱり……いきなり一対一とか無理だよー ここは出直して来た方が良いかな。

 撤退の二文字が頭をよぎりましたが続けて先輩が口を開きました。

菫「貴女も、照目当てなのか? 悪い事は言わない。やめておけ」

 先輩が初めて感情を露わにしたのは宮永先輩の話でした。

淡「えっと、先輩? それはどういう意味ですか?」

 私は先輩の言わんとすることがよく分かりませんでした。

 白糸台高校の宮永照(三年)といえば先頃行われた春大でも優勝し、通算で三大会負けなしの絶対王者
 全国を目指す者にとって白糸台に入学するのが一番の近道です。

 ですから、憧れて全国から腕に自信のあるメンバーが集まるのはちっとも不思議ではありません
 それなのに、先輩はやめておけと言いました。これはどういうことなのでしょうか

 先輩は言葉を選ぶように、ゆっくり話始めました。

菫「―――照の後を追って麻雀部に来るやつは後を絶たない。だが、あいつとまともに打ちあえる奴は一軍メンバーでも数えるほどしかいない」


 宮永照は選ばれた人間。一目みた時から私と同じ匂いがしました。
 彼女と出会ったあの日を境に私は変わりました。
 両親や担任に頼みこんで志望校を白糸台一本に絞りこんで死に物狂いで勉強し、それと並行してインターネットで過去の牌譜をあさる日々。

 白糸台は宮永照が出てくるまで無名校に近く、東京で強い高校といえば松庵女学院でしたが、この二年は白糸台が勝ちぬいています。
 なるほど、先輩の言わんとすることが何となく分かってきました。


菫「中途半端な憧れで入部して、何人挫折していったことか……」

菫「それにだ。一番上に登ってしまったら後は下しかない。学校側も連覇を期待しているから始末が悪い……」

 弘世先輩も今の方針には納得がいっていないということでしょうか?
 この二年間(?)宮永照と打っている先輩にだけ分かる悩みかもしれません。

淡「私は、絶対投げ出したりしません」

菫「なるほど……な」

菫「だが競争が厳しい事に変わりはない、頑張ってくれたまえ大星さん」

 先輩は私にそれだけ言うと自分のカップを持って元の作業に戻りました。
 とりあえず、名前を覚えてもらえたみたい(?)です。

淡(緊張した―)

 彼女の視線が外れたのでようやく周りを見回す余裕も出て来ました。
 最初に受けた感想は、意外に部室が狭い事でしょうか、全国から生徒を集めている割には卓の数が少ない印象です。

 連続優勝を果たした学校にしては少し味気ない……対効果を考えればもう少し施設が充実していても良い気がしますけどね。

 ふと、腕時計を見るともうこんな時間です。そろそろお暇する時間になっていました。
 それにしても……休憩時間というのは弘世部長の嘘だったんですね。

淡「それでは私は先に失礼しますね」

 弘世先輩は作業に集中しているのか返事はありませんが軽く手を振ってくれました。
 私は持ってきた鞄を持って作業の邪魔をしないよう静かに部室を後にしました……

 これが白糸台の弘世菫部長 スミレとの出会いでした。

<菫side>

菫「帰ったか……」

 私は一旦作業を中断して、先ほど相手をした新入生の事を考えることにしました。

菫「まあ、とりあえず第一関門突破、及第点かな?」


 あの新入生は今までの奴とは少し違うかもしれない! でも過度の期待は厳禁だともう一人の私が語りかけます。

 この春休み期間、麻雀部を訪ねて来る人は後を絶ちません。後援会・教師陣・生徒会のメンバー等々誰もが労いの言葉を掛けてくれます。
 秋大終了後、部長に就任した私にとって今が一番忙しい時期かもしれません


菫「私はもっと気楽に打ちたいのに…… ああ、もう全部あいつが悪いんだ」

 一通り、この場に居ない彼女の文句を吐き出して、すっきりしたところで再び作業に戻ることにしました。

菫「渋谷や亦野は頼めば手伝ってくれるだろうが、この仕事は私に任されたもの」

菫「早く、4月になるといいな」


 噂をすれば何とやら、一通りカタが付いたところで彼女の携帯に着信がありました。

菫「はい、もしもし」

「その様子だと元気そうだな」

菫「何か用か? 今忙しいんだよ」

「それはすまなかったな。あいつから菫に伝言を頼まれたんだよ」

「来月から宜しくだとさ」

菫「そうか……やっとこの仕事から解放されるよ。 ありがと、私も嬉しいと伝えておいてくれ」

「ああ、それじゃあな」

これにて、プロローグ終了

次回から本編に入りますが予定は未定&安定のsage更新です。

少しだけ投下します

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 入学式当日

 私は希望に胸を膨らませ、クラス発表が行われている掲示板へと歩みを進めます。
 私のクラスは……ありました。私はC組のようです。

 確か同じ中学から白糸台に進学した知り合いは居ないはずなので足早にその場を立ち去り次の目的地に進みます。
 目当ての場所は恐らくあちらでしょう、私の第六感がそう言ってます。

 というのは冗談で、三年生があっちに集まっているからなんですけどね。


 み み み うーん前半のクラスに宮永先輩の文字は見当たりませんねぇ、
 まあ、前半は理系クラスなので読書と麻雀が趣味の先輩は十中八九、後半のクラスですよね。


淡「あ、宮永先輩。あと弘世先輩も同じクラス ちょっと羨ましいかも」

   おまけに先輩達の名字は弘世で『ひ』、宮永で『み』で続きの番号というおまけ付き

モブ子「あら?また弘世さんと宮永さんは同じクラスなのね。おまけに続きの番号、これで三年連続だからすごい偶然だわ」

  お二人は、一年の時から同じクラスなんですか それは貴重な情報です。
  見知らぬセンパイありがとうございます。心の中で感謝させてもらいますね ペコリ

  その口ぶりから二人はかなり親しい間柄だと推察されます。
  だから私につれない態度を取ったのでしょうか?


 学長の挨拶で始まり、来賓やら後援会のありがたーい(退屈)挨拶も終わりやっとクラス担任発表です。
 正直退屈でした。

 えっと、私のクラスはあの女性が担任ですか。見たところ私より背が低くて、珍しくスーツではなく着物を着ていますね。

 「これで入学式を終わります。 続いて部活紹介です」

 いよいよ、今日のメインイベントお待ちかねの部活紹介の時間。
 
 司会の方の説明によると、どうやら麻雀部が一番最初に紹介されるそうです。
 
 心なしか周りが騒がしくなってきたような気がします。かくいう私も少し緊張して来ました。
 やはり白糸台の麻雀部に入りたい人沢山いるのでしょうか。私も頑張らなくてはいけませんね
 
 壇上の片付けも終わり準備が整ったところで、いよいよ部活紹介の時間
 さっそく横の階段を登って来たのは、やはり部長の弘世先輩、そしてその後ろに居るのは……宮永先輩

 私の目標とする選手。


モブA「宮永センパイだわ きゃあー」

モブB「こっち向いてー」

菫「あー 麻雀部部長の弘世と横に居るのは宮永だ」

照「どうも」キリッ

 自分の眼で本物を見るのはこれが初めてだけど、やっぱりオーラが違います。
 今も自信満々で部活の紹介してる先輩達、恐らく私が同じ年齢になってもあれほど堂々とした立ち振る舞いは出来ないでしょう

 そこで私は気付きました。先ほどまであれほどに騒がしかったのに、今は静寂そのもの。
 それだけ真剣に説明を聞いているのですね


照「―――それでは、皆さんお待ちしています」ペコリ

 直に見た宮永先輩はとても凛々しくて、私の想像していた通りの方でした。
 早く先輩と打ってみたいという欲求がどんどん強くなっていくのを肌で感じる瞬間でした。
 

照「あ……」ズルッ

菫「大丈夫か、照?」

照「ううっ、足痛い…… 手貸して? 菫」

菫「分かった分かった。何もないところでよく躓けるもんだ」ヨイショ

 えっと……今のは見なかった事にすべきでしょう 何かの手違いだと思いたい…… あと先輩方マイク音拾ってますから!

 その後は特にトラブルもなく入学式は終了。
 各々新しい教室へ分かれて簡単に連絡事項を聞いて今日のスケジュールは終了です。
 
 私はその足で部室へ向かうことにしました。
 確か、部活紹介の話では(ちゃんと話は聞いてましたよ ええ、ちゃんと……)今日から新入生も参加可能との事、早速顔を出しに行きます。
 そういえば、私のクラス担任が麻雀部の顧問みたいです。人を見かけで判断してはダメなんですね。

 
 
 そんなこんなで、部室に到着した私ですが……


菫「新入生の皆さん、ご入学おめでとう 部長の弘世菫だ!」

 想像以上に入部希望者が多いというのが最初の感想、こんなに人数が居て部活出来るのかな?
 なんて一人考えてると、弘世部長がいろいろと説明を始めました。


菫「早速だが、貴女達には試験を受けてもらう。試験の成績に応じて2軍と3軍に振り分ける」


 やっぱり、強豪校ともなると部内でランキングとかあるんですね。ふむふむ 一日でも早く宮永先輩と打つためにも2軍に入らなくてはいけませんね
 でも周りのみんな強そう 大丈夫かな?


菫「じゃあ、名前が呼ばれた者から順に席についてくれ」

 弘世部長は次々に名前を呼んで行きます。新入生3人と先輩1人の4人1組で対戦、新入生の力を試しつつ、上級生の試験も兼ねてるのかな?

菫「大星淡」

淡「はい」


 真ん中位で私の名前が呼ばれたので、指示された卓について一息つきます。
 ううっ、緊張してきた……

 最後に二年生の先輩が席について試合が開始されました。
 ちゃんと実力発揮できるかな……

南3局0本場 親:モブA ドラ表示:1

淡(ここまで何とか凌いで来たけど……)

 流石一年間麻雀部で鍛えられた先輩は違いますね。今まで戦ってきた相手とは比べ物になりません。
 でも、このくらいなら十分対応できるかな?
 なんて、親で三連荘した時には考えていましたが決して油断していた訳ではありません。

 しかし先輩は南入してから明らかに生き生きとした表情に変わり、じりじり私との点差をつめていき南3局を迎えた時にはこの点差にまで迫って来ました。

   淡:42700
 モブA:11900
 モブ2:29800
 モブB:14600


淡(ちょっと不味いかも……)

北家:配牌 56四五六九⑦⑧⑧⑨⑨白中 ツモ牌:白


 私の配牌はごらんの通りなかなか良感触。ただ先輩の親がまだ残っている事を考えると、この点差は安全圏とはいえません。
 この局での目標はとりあえず一盃口を見つつ、振り込みを回避、先に和了って点差を広げることです。


「ギギギ!!!」


淡「えっ(何だろ、震えが止まらない。それと だ、誰かに見られている気がする)」

 今まで感じたことのないような鋭い視線と威圧。
 あまりに強烈な衝撃を受けたため同じ卓の子は左右をきょろきょろ見回して何も見つからなかったのか首を捻っています。


モブ2「ほらほら、ちゃんと集中しないとだめじゃない。リーチ一発タンヤオドラ1 8000だよ」

モブB「あぅ……」


 動揺している隙を突いて、モブBさんから先輩が和了っていよいよ勝負は南4局、先輩の親番。
 恐らく、次和了った方が1位です。

   淡:42700
 モブA:11900
 モブ2:37800
 モブB: 6600


照(ワクワク、ドキドキ)

淡「集中、集中 (こんな時こそ普段通り打たなくちゃ)ふぅ……よしっ」

 やっぱり、白糸台に入学して良かったです。こんなに楽しく麻雀を打つのは家族麻雀以来でしょうか。
 でも、麻雀は勝利してこそ喜べる競技、いくら一年先輩が相手とはいえ負ける訳にはいきません


南4局 ドラ表示:⑨
西家:手牌 34567六六七八九⑥⑥⑥ ツモ牌:東


淡「リーチ」

 ダブルリーチのチャンス。
 この点差でリーチを掛けるのは危険かもしれません、しかし、私はあえてリーチを掛けました。
 
 何となくです、直感のようなモノですがこの手は必ず和了ることができると思ったからです。
 そういえば、家族麻雀で初めて和了った時もダブルリーチだったような気がします。
 うっかり和了牌を出してしまったお父さんは『これが当たりだったのかー よしよし淡は麻雀強いなー』なんて褒めてくれてあのときは本当に嬉しかったな。


淡「カン!【⑥⑥⑥⑥】」新ドラ:⑤

 八順目4枚目の⑥を引きました。
 ここでも私はリスクを取ります、確かにドラを増やせば逆転される危険も高まります。
 しかし、これが私の打ち方、最終的に収支が上回れば問題ない。

 今までは、それで勝ち続けています。

淡「ツモ」  

 手牌:34567六六七八九 ツモ牌:8 カン【⑥⑥⑥⑥】


淡「えっと、ダブリ―チツモ 裏ドラは……⑤と四ですね」


 ドラが8つ乗って三倍満 6000、12000
 偶然とはいえ、ここまでドラが乗ったのは久しぶりです。ちゃんと私の所に来てくれたんだねありがと、信じてたよ。


最終結果
   淡:66700
 モブA: 5900
 モブ2:25800
 モブB: 600

淡「ふぅ…… 何とか逃げ切った」

 自分のスタイルを変えず攻め続けて逃げ切り勝ち。
 今回ばかりはちょっと疲れちゃいました。
 最終的に1位にはなったけど、このスタイルがどう評価されるのか、それはまた別の話

 白糸台はチームごとにコンセプトがあり、宮永先輩率いる『チーム虎姫』は攻撃重視なので私も希望していますがそう簡単にはいきませんよね


菫「ここも終わったのか早いなどれどれ……なるほど大星が1位で終了か」

 勝利の余韻に浸っていたところに弘世部長が来て何やらメモをしています。
 私はどっちに入ることになるのかな?


淡「そういえば他にも対局が終わってる卓あるのかな?」

 急に暇になってしまったのでふと周りを見渡してみると、もう1卓対局が終わっている所がありました。
 そこは宮永先輩が入った卓です。

 ですが少し雲行きが怪しいような? そうです……同じ卓に座っているはずの新入生の姿がどこにも見当たりません
 宮永先輩はというと弘世さんと何やら話をして、頭を小突かれてます。その顔から読み取れる感情は怒りを通り過ぎて諦めの表情でしょうか?


菫「みんな、お疲れさま、流石に今年はレベルが高いな、皆それなりに打ってきているようだ」

菫「だがレギュラーの相手をするにはまだまだ力不足だ。まあ、入部すれば嫌になる位体験することになるだろう」

菫「では、もう一度組み合わせを発表する―――大星、お前はそこに入れ」


 指示通り、卓に座って相手を待っているとそこに現れたのは宮永先輩でした。


淡「よ、よろしくお願いします先輩」

 初日からいきなり憧れの宮永先輩との対局チャンスが訪れようとは……私の願いが弘世部長に届いたのでしょうか。
 それとも、生意気な一年生に現実を見せてやろうということなのでしょうか?
 どちらにしても私の力がどこまで先輩に通用するのかを試す良いチャンスを与えてくれた弘世部長に感謝です。

ここで一旦終了です。今日中に入部編を終わらせて、再び書き溜めタイムに入る予定

淡「ツモ 1300 2600」

手牌:333456三四⑥⑦⑦⑦⑧ ツモ牌:二

 宮永先輩の親で始まった東1局
 
 この局は私が40符3飜の手で和了り幸先の良いスタート……なのでしょうか?
 しかし、ここからが本当の戦いです。

 実は先輩にはある特徴があります。それは最初の局で上がるケースが少ないこと。
 これはデータでも実証されていますが、他の局だと二向聴や三向聴スタートが多いのに比べ最初の局だけ極端に向聴数が大きいようです。


淡(できればもう少し高い手、作りたかったけど仕方ないよね)

 少ないとはいえ全く上がらない訳ではありませんから、稼げるときに稼いでおくべきです。

照「ゴゴゴッ」

淡(まただ、さっき感じた強い視線……まるで、心の中を覗かれているみたい)

淡「もしかして、さっきのも宮永先輩が?」


照「もったいない―――」ボソッ


 今先輩が何かを呟いたような気がしますが、対面に座っていた私の耳には何も聞こえませんでした。
 私も少しだけ気になりましたが、雑念をかき消して目の前の対局に集中することにします。

照「ロン 1300」

照「ツモ 500 1000」

 予想していた通り、東2局から宮永先輩の連荘が始まりました。
 低い打点から真綿を締めるように少しずつ打点を上げていき、十分打点の上がった親番で相手を飛ばしてしまう。

 去年の個人戦も、2位以下を大きく突き放して優勝。

照「ツモ 4000の3本場は4300」


 ああ、これで宮永先輩は6連続の和了
 これが、噂に聞く高校チャンプの作り出す世界。まさに宮永先輩の独壇場でした。最早モブ2さんとの対局に勝ったことなんてもう頭には残っていません。
 

照「……」シュン

 ふと、対面を見ると先輩がどこか悲しげ表情をしていました。
 そんな表情しないでくださいよ宮永先輩、こっちだって必死に食らいつこうと頑張っているんですよ。


淡(宮永先輩の手が段々上がって来てる…… だとしたら次来るのは跳満以上)残り5800


 負けたくない。負けたくない。飛び終了なんて絶対嫌。
 せめて一矢報いなくちゃ……何のために同じ卓に座ってるのか分かりません。


淡(今日はもう和了れなくても良い。だからお願い私に力を貸して)


 心の中でそう願った瞬間、急に視界が歪んで体に力が入らなくなってしまいました。

 これはちょっとまずいです…… あれ? どうしたのかな 先輩がこっちを見て、ダメですよ今は対局中なんですから。 
 それに流石に対面からだと距離が―――そこで私は意識が遠のいて行くとともに体がゆっくりと横に傾いていくのを感じました。
 
 あはは、本当に危ない時って周りがゆっくりに見えると言われていますけど本当なんですね。
 そこで私の意識は途切れてしまいました。

淡「んっ…… ここ、どこだろう」


 次に私が目が覚めたのはベットの上でした。
 そして、しばらくそのままベットの上で今日の出来事を整理することにしました。
 
 午前中は入学式に出席して、隣の席の娘とアドレスを交換したり、部活の話で盛り上がったりして
 それから、HRで明日以降の予定なんかを担任の先生から聞いて今日の授業は終了。

 その後、部活に出て……そこから急に記憶が曖昧になっています。

 そっか、きっと対局中に体調を崩して倒れてしまいそのまま意識を失ってしまったんですね。
 そのまま、部室に寝かせておくわけにもいかないので保健室に運んで診てもらった。とまあこんなところでしょうか


淡「最近は規則正しい生活送ってたはずなんだけど、貧血かな」

 こう見えても身体は丈夫に出来ている方だと思うので、今まで外で倒れたことなどありませんし、
 ましてや麻雀を打っている時に体調を崩したことなど一度もなかったのですが……

淡「でも、何か大事なことを忘れているような気がするのだけど……」

 ベットの上で一人思いに耽っていると、こちらに近づいてくる足音がします。


菫「失礼します。おっと、先生は席を外しているのか」

菫「大星さん、気分はどうだ?」

 ベットのカーテンを開けて、私が起きている事に気付いたのでしょう。私は身体の調子を聞かれたので、『大分良くなりました』と答えました。
 どうやら弘世部長は私の事を心配して様子を見に来てくれたようです。

菫「無理に起きなくて良いよ、寝ながらでも良いから聞いてくれ」

菫「持病とか、そういうのじゃないんだよな」

淡「はい、多分貧血か何かだと思いますよ」

 それでも、何か言いたげな表情をしていましたが、結局その言葉が口から出る事はありませんでした。
 口には出さないけど私の体調が心配なんですよね。
 これは、選考にも影響してしまいますよね

淡「弘世先輩、本当に私は大丈夫ですよ。きっと早く麻雀部に入って先輩と打ちたかったから舞い上がってしまったんですよ」

 もう手遅れかもしれませんが、再度アピールしておきます。
 先輩……そうです。私が気を失う前に対戦していたのは宮永先輩でした。
 一瞬身体がふわっとしたと思ったら急に体に力が入らなくなってそのまま……

菫「それでだ、大星さんには当面二軍で打ってもらうことになったから」 

淡「えっと、あの ありがとうございます 私精いっぱい頑張りますね」

菫「ただな…… あんなことがあったキミが二軍に居る事を良く思わない娘が居るかもしれない」 

菫「そこらへんは覚悟してくれ」

淡「はい 分かりました」
 
 今日は顧問が不在で部長である弘世先輩には監督責任が課せられていた。そこで、私が倒れてしまった。
 自分が情けないです。今後、このようなことを二度と起こさぬ為にも体調管理に改めて気をつけるよう気を引き締めました。

 
菫「―――とまあ、こんな感じだよ」

 その後弘世先輩から簡単な説明を受けて、まだ用事の残っていた弘世先輩を保健室から送りだしました。


 白糸台のシステムは定期的に入れ替え戦を行い、強豪校との合宿などを経てチーム分けを行い、
 大会の2週間前に代表を決めるとのことでした。
 そこでようやく私は、王者白糸台の麻雀部に入ったことを実感できたんです。

<菫side>

菫「じゃあ、気を付けて帰れよ」

 そう彼女に伝えて、私は保健室を出てまっすぐ部室まで戻ることにした。
 大事に至らずに済んで本当によかった。新入生とはいえ大事な生徒を預かる身になった、ということを今日程思い知らされた事はないだろう。

 それに比べれば、小言を言われる位どうと言う事はない。


モブ子「弘世さん、今御帰りですか?」

菫「ああ、モブ子さん ちょっとね…… それで華道部はどう? 人数集まりそうなのか?」 

モブ子「ええ、おかげさまで そっちは今年も沢山入部希望者集まったみたいだね ちょっと羨ましいな」

 私達、麻雀部も部室がある別棟には他にもいくつかの部室があって、彼女達とは一種の協力関係にある。
 私も時々お邪魔して日頃の疲れを癒したり、隣の茶道部でお茶菓子を食べたりもしている。
 まあ、その代わりといってはなんだが、豊富な部員を駆使して人出が必要な時に手を貸す約束になっている。


菫「そろそろ良いかな? モブ子さんも麻雀部に遊びに来てくれたらお相手するよ」

モブ子「ええ、また明日」

 気を使わせてしまったかな? ちょっとした騒ぎになったし
 って ああ、そうか そのために外で待っていてくれたのか


菫(部員にはそんな表情見せられないからな)バシバシ

菫「さてと(私が部室を出た時はまだ何人か残っていたが流石にみんな帰っただろうし)データ整理でもするか」

~部室~

照「……」ペラッ

菫「照、まだ残ってたのか」

照「スミレおかえり 大星さんどうだった?」

菫「本人は大丈夫だと言ってるぞ、まあ念のため安静にしておくよう念を押しておいたよ」

照「大したことなくて良かった」

菫「お前がギリギリの所で受け止めてくれたから良かったようなものの、本当に驚いたよ」

菫「それで、お前は何で気付いたんだ?」


照「ねぇ、菫 私の座ってた卓、あれから誰も触ってない?」

菫「質問を質問で返すなとあれほど…… 多分誰も触ってないはずだぞ」

照「そう…… こっちきて菫 そうしたら答えてあげる」

菫「分かった 分かった」


照「大星さんが倒れる前、私が6連荘中で次は跳満を上がるつもりだった」

菫「記録によると…… ふむふむ お前が1位で大星さんが2位、ほかの2人がやきとりか あいかわらずだな」

照「菫に無理言って変わってもらった割には、全然大星さんらしくない麻雀でちょっと期待外れだなって思ってたんだけど」

菫「私も驚いたよ。普段殆ど相手に頓着しないお前が、相手を指定するんだからな」

照「そうだね。でも、最後の局だけは違ったの。大星さんから負けたくないって気迫が伝わってきて、やっぱり面白い娘だなって思ったら」

照「急に髪の毛が逆立ったと思ったらすぐそれが収まって身体が左右に揺れ始めたからこれは不味いと思ったの」

菫「お前の照魔鏡か……まあ、あんなことがあったんだし、大事に至らなくて本当に良かった」

菫「でも、それだけの話ならわざわざ移動しなくても良かったんじゃないのか」


照「意味はあるよ。受け止める瞬間、大星さんの手牌が目に入って驚いたの」

菫「どれどれ…… 何だこれは」

 配牌:⑥⑦⑧四四白白白中中中撥撥


照「これだけなら、時々堯深が上がってるとこ見てるから驚かないんだけど」

菫「まだ続きがあるのか」

照「これで最後だよ。私の配牌も見て」パララララ

 配牌:②⑤⑨一一八ⅣⅢⅨ西北南中 ⑧


照「大星さんは誰が担当するの?」

菫「とりあえず、渋谷に任せるつもりだ」

照「えー もう一回打ちたいよ」

菫「あんなことがあったんだ。暫くお前と打たせるつもりはない」

照「……」ムスー

菫「そんな顔するな。彼女が部活に慣れてきたら、また打たせてやるから」

照「しょうがないか」ポンポン

 
 まったくお前ってやつは 何も考えていないようでしっかり私の弱いところを……
 今日は久しぶりに照の好物でも作ってやるか。
 冷蔵庫に材料残ってたかな


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これで、淡の入部編終了

絶対安全圏や連続和了を言葉で表現するのはなかなか骨の折れる作業ですね
一応、説明しておくと淡は無意識に発動しているときと今回のように強く願う(負けたくない時)ことで意図的に発動することができるということにしておきます。

 周りにオカルト能力者が居ない、もしくは受け入れる土壌がなければ、和の言葉ではありませんが偶然だと思っていてもおかしくないということで

 
 続きは来月の中頃までには何とかしたい

少しだけ投下します

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 週も改まって今日から本格的に部活が始まります。
 私はぶじ二軍入りすることができたので、基本的には試験を行った部屋で練習です。
 

菫「さて、まだ来てない人も居るようだが、始めるぞ」

菫「まず、君達はしばらく一年生だけで打ってもらうことになる」

菫「ある程度適性を見極めたらそこからは、チームに分かれて練習してもらうことになる 渋谷」

尭深「はい」ペコリ

菫「基本的に私とこの渋谷の二人が君達を指導するからよろしく頼む」

 「宜しくお願いします」

尭深「渋谷尭深二年生です。みんな分からないことがあったら何でも聞いてね」

 渋谷先輩はとってもお茶が似合いそうな方です。あと弘世先輩と違ってやさしそうな印象
 飴と鞭、なかなか相性良さそう 菫×尭深 うんうん すばらしい

 
 その後、早速練習が始まりました。
 予想通り尭深せんぱい(自分でそう呼んでほしいと言っていました。)は実力者、特にオ―ラスでの役満率は異常です。

 弘世先輩は一、二軍と三軍の部屋を行き来されていて暇を見てはこちらにも参加してホントに頭が下がります。ペコリ
 
 それだけ仕事が忙しいにも関わらず、卓に入ると狙い澄ましたような打ち筋で次々と直撃を奪っているところなど、
 流石は団体戦メンバー(後で映像を見なおした所、先輩は副将を務めていました。)ですね。


照「……」ロン 1000テン

尭深「大星さん、こんにちは」
 
 部活にも少し慣れて、友達も少しずつできた頃の事でした。
 昼休み、購買でパンを買おうと階段を下りていると踊り場で尭深さんと出会いました。
 
 横に居る髪の短い方は尭深さんのお友達でしょうか? でもどこか見覚えのある方です。


尭深「ほら誠子ちゃん、彼女が今年期待の新人の大星さんだよ」

誠子「ああ、尭深が時々話してる娘か どうも、私は二年の亦野誠子 尭深と同じで麻雀部員だよ」

 なるほど、見覚えがあるはずです。時々菫さんや宮永先輩と話しているのを見かけたことがあります。
 

尭深「大星さんは今から購買でお昼ご飯?」

淡「はい、今日はちょっと寝坊してしまって、お弁当作る時間がなかったんです」

尭深「そっか、大星さんは自分でお弁当作ってるんだね。そうなると今もお腹ぺこぺこなのかな」ニコニコ

尭深「どうしよっか 誠子ちゃん」

誠子「別にひとり増えても構わないだろ」

尭深「それもそうだね。大星さんならすぐこっちに来ちゃうと思うし、大人数の方が喜んでくれるよね」


 私なんてまだまだ尭深さんや弘世先輩の足元にも及びませんよ。
 そう言いたいのをぐっと堪え、努めて笑顔で尭深さんとお話をします

尭深「じゃあ、ついて来てほしいところがあるから一緒に行こうか」 

 もしかしなくてもお昼ご飯のお誘いなのかな?と このとき私は軽く考えていました。
 とりあえず購買で自分の昼食を確保してから、尭深さんと誠子さんについて行くことにします
 まさか取って食われる心配はないと思いますので……

 ~回想~

尭深「はい、ストップ」

尭深「淡ちゃん、今の局何でその牌切ったの?」

淡「えっと……何となくです」

尭深「そっか、淡ちゃんは直感に頼り過ぎるところがあるからちゃんと捨牌も見てね」

淡「やっぱり、駄目ですか?」

尭深「淡ちゃんの打ち方は華があってとても魅力的だよ。でも、引くべき所を見極めて打つのも大切だと思うの」


 中学時代の顧問の先生も同じようなことを私に言いました。
 
『大星 お前もう少し守りも覚えたらどうだ? 俺もお前がウチで一番強いのは知ってるが時々心配になるんだ』

『自分より強い相手と出会ったとき、そこで立ち止まることができるのか……』


淡(先生が言いたかった事が少しだけ理解できた気がするな)

 一年生相手なら、殆どの人に勝つ自信はあるけど尭深せんぱいや弘世部長と打つ時は自分の未熟さが身に染みて分かります。
 上手い人は、殆ど振り込まないし余剰牌をきっちり狙い打ってきて苦戦することもしばしば

 今までのようになんとなく打って勝てるほど高校麻雀は甘くはありません


菫「堯深どうした」

 私がせんぱいと話していると私達が二人で話しているのに気づいた弘世部長がこちらにやって来ました。


菫「なるほど、確かに大星にはそういう傾向があるのは承知しているが…… お前はどう考えているんだ」

淡「私ですか? 先輩達がそう言うならその辺りを気をつけて打ってみます」

菫「そうか、私もどちらかというと攻めの方が得意だが、分からないところがあったら遠慮なく聞いてくれ」

淡「はい……」


 一週間程試行錯誤して分かった事が一つだけあります
 それは私がどれだけ楽な麻雀をしていたかということです。
 
 意識的に場を観察するようにして気づいたことは、対局者の目線や傾向で危ない牌を捨てた時は一瞬空気が固まるとでも言うのでしょうか
 勉強以外に頭を使ったのは久しぶりだったけど、好きな事なので何とか耐えることができました。
これが、部長から課せられた問題を解く取っ掛りになれば良いのですけど……


 そのようなことを考えつつ、二人の後に付いて部活棟に入りました。
 どうやら目的地は部室のようです。まあ部室は冷暖房完備で静かなので昼食を取るには最適の場所だと言えるかもしれません


尭深「先輩、遅れてすみません」

菫「いや、私達も今来たところだ、ふむふむなるほど大星、お前も来たのか」

淡「階段で尭深先輩達にお昼誘われたんです」

 弘世先輩……この頃になると、あの日に持った印象とはまた違う印象を持ち始めていました。
 最初は怖い先輩で目を付けられるのは嫌だなぁと思っていました。
 正直今でもあまり得意ではありませんが、本人が気付かない細かいところまで良く見ていて、頼りになる方だと思います。


菫「ギャラリーが増えるのは良い事だ。歓迎する」

尭深「じゃあ私は皆のお茶用意するね。麦茶でいいよね」

 尭深さんは自分の鞄を机に置いてから、早速お茶の用意を始めます。
 
 何でも、部室に置いてあるお茶は尭深さんがブレンドした茶葉で、お気に入りの人にしか淹れてあげない
 それだけ特別なモノだと聞きました。 私、気になります!

尭深「5人分用意あれば良いから、この位かな ふふっ」

菫「ああ、言い忘れていたな、ひとり追加だ」

尭深「えっと、弘世先輩と誠子ちゃんでしょ、あと私それから淡ちゃんと宮永先輩の五人ですよね」

 えっと、宮永先輩もいらっしゃるんですか? これは図らずしも虎姫メンバー勢ぞろい
 本当に私がお邪魔しても良いのかな?

 
菫「さっきメールが来てな……そろそろ上がってくるはずだ」コンコン

菫「はい、どうぞ」

?「しばらくぶりじゃな」カラカラ

 扉を開けて部室に入って来たのは私と同じ金髪で車いすに乗った女子生徒(多分上級生)でした―――

一旦終了 夜また来ます

ふぁ!?車椅子の金髪…?

 あ、ミス発見 まだ誠子は正式に虎姫のメンバーって訳じゃなかったんだけど
 まあ影響も無いからこちらで処理しておきます

~~~~~~~~~~~~~~~~

 「サプライズ成功じゃな。 菫ねえがバラさんかハラハラしておったわ」

尭深「え……嘘…体大丈夫なの!?」ツンツン

 「尭深を驚かそうと思ってのぅ。やっぱり良い反応じゃ」

 「その反応が見たかったから菫ねぇに頼んで秘密にしてもらったが、いやー成功 成功」

 「誠子も久方ぶりの対面じゃ、元気だったか?」

誠子「うん、まあ、相変わらず悪戯好きみたいだね。一先ず安心したよ」

 「そんなの当たり前じゃ、検査入院で少し病院に入っていただけじゃからな ふふ、退屈で死にそうだったわい」

 ぽかーん はっ、頭がショートしていました。
 どうやらあまりの急展開に脳の処理が追い付いていないみたですが、とりあえずこの先輩は皆さんのお知り合いということですよね。


淡「あの、すいません 先輩 はじめまして」

 「おう、そこに居るのは新入生じゃな、驚かせてしまったようじゃな、すまんすまん」

巽「私は、そこの堯深と誠子と同じ二年の巽だ。まあ、少しばかり悪戯好きの先輩と思ってもらえば良いぞ」

 巽先輩、どうしてでしょう初対面のはずなのにどこか懐かしい感じ……
 私の周りには居ないタイプ。

 おや? 何故か尭深先輩の胸を思いっきり揉みしだいて誠子先輩に制裁を受けていますね
 うらやま…… いえ、何でもありません

菫「相変わらず、お前はテンションMAXだな。お前の少しは私達からすれば充分やっかいだぞ」

菫「それはさておき、巽 退院おめでとう」

巽「菫ねえも元気そうで何より何より。菫ねえには私が居ない間デ―タ管理を任せてしまったのう」

巽「ホント、すまんかった」

菫「別に良いさ。でも、よくもあれだけの情報を一人で管理できるものだ。本当に人間か」

巽「何を言うかと思えば菫ねえ」ポン

巽「あのくらい出来んとお主らの対策を立てられんではないか」

菫「それを実際に活用して勝ちに来るところが またお前の凄いところだがな」

巽「褒めても何も出んぞ! ところで、照ねえはどこに居るのじゃ? 真っ先に抱きついてきそうな気がしておったから、身構えておったんじゃが……」

菫「あいつなら今頃家庭科室だな。でも時間的にそろそろこっちに来る頃だな」

 弘世先輩の言葉を待っていたかのように、部室の扉がノックされ勢いよく開け放たれました。
 噂をすれば何とやら、宮永センパイの到着です。

照「すみれー もう巽来た?」

菫「良いタイミングで来たな。ほら、そこに居るぞ」

照「あ、巽だあ~ ホントにきてくれたんだー」

菫「おい待て、まずはその手に持ってるモノを置いてからにしろ」

照「それもそっか…… よいしょっと。これで準備万端」ワキワキ

照「退院おめでと―」ダイブ

巽「むぅ……この匂いは本物の照ねえだ~ 帰って来たよ~」スリスリ

照「よしよし、かわいいかわいい」ナデナデ

巽「照ねえ 照ねえ 照ねえ」

淡「ふぁっ……これマジですか」

 うん、分かってました。部活紹介の時から薄々思っていました。宮永照は普段猫を被っている。
 いえ、正しくは取材等では地が出ないよう気を付け、本当のセンパイはおっちょこちょいで守ってあげたい そんなセンパイなんです。

 まあこれはこれで、とても魅力的なので私は構わないのですが ここまで極端に違いますか……
 ああ、でも良いな。私も、先輩の胸に飛び込みたい! なでなでされたい 
 巽さん気持ち良さそう 良いな~

菫「満足したか?」

照「うん、しっかり妹成分充電したよ~ 満足満足」ホッコリ

巽「まったく……照ねえはいちいちやることが大げさじゃな」クシクシ

巽「あと、何をフザケタ事を言っておる、照ねぇには最強の妹が居るではないか」

照「ぶーぶー そっちだって、喜んでたのにー 咲は長野に居るもん だから巽は東京の妹だよ」

巽「やれやれ、照ねえがそんなだから咲ちゃんは長野の高校を選んだんじゃな。 ああ、残念残念」

照「違うもん。咲があの娘達と一緒の学校へ通うって自分で決めたんだよ。でも大会では容赦しない」

巽「大人げない姉じゃな、その友達とやらはどうじゃ? 照ねぇが咲ちゃんを任せるくらいじゃから、少しは骨がありそうなメンバーなのだろうな」

照「それは、ヒミツだよ☆」てへっ

菫「営業モードでやるよりはマシだが充分ウザいな」

照「……そんなことをいう菫は罰としてケーキなしの刑です」

菫「そんな……殺生な」

 事情を何も聞かされていない私には何が何やらですが、とりあえず先輩の退院祝い?が始まりました。
 私だけ置き去りにされた感もありますが、楽しい会に違いありません。


淡「この料理全部センパイが作ったんですか すごいです」

照「昨日から準備したんだよ。ほら、大星さんもどんどん食べて」

尭深「ん……お茶に合います」ゴクリ

巽「照ねえもすっかり料理が板についてきたのぅ。こっちに来た時は酷いもんじゃったが……まあ、喜ばしい事じゃな」

菫「私もウカウカしていられないな ……おいしい」


 購買のパンだけだと、午後の授業が少し心配だったので渡りに船です、ここは遠慮なくいただくことにします。
 ええ、そうですよ。こんなチャンス二度と訪れないかもしれませんので――――――

 一通り先輩の作った料理を食べ、お腹も良い具合に満たされた所で尭深せんぱいに淹れてもらったお茶を(噂に違わぬ味でした。)飲んでいると巽せんぱいに声をかけられました。

 そういえば巽せんぱいは宮永先輩ととても親しいようですが、どういう関係なのでしょうか


巽「ふむふむ、大星さんが今年の有望な新人か なるほどなるほど」ジロリ

淡「部長、今の話本当ですか!」ドキドキ

菫「さあて、どうだろうな」

 そうですよね。期待されているとしてもまだ私はどこにも所属していないただの新入生
 でも、少しだけ本当に少しだけですが今までの苦労が報われた気がしました。


巽「菫ねえは素直じゃないな。大星さんは誉めて伸ばすタイプじゃぞ」

照「そうだね。こればっかりは、巽の方が正しいと思う」

巽「どうじゃ? 昼休みが終わるまでじゃが、相手をしてもらえんか? ちなみに私に勝ったら照ねえの秘密を教えてやるぞ」

 その言葉を聞いて、私は心が動きました。
 強者と打てる機会をみすみす逃す手はありませんし、ここはセンパイにアピールできるチャンスでもあります

淡「じゃあ、一局だけお願いします」

巽「うむ、よろしく頼む。淡ちゃん」

今日も短いですが、ここで終了

>>78
車椅子少女と言えば、察しの良い方はどこで出てきたか分かるでしょう あの少女です。
彼女も(自主規制)なので結構強い設定です。

『白糸台版の船Qみたいな立ち位置だと良いですね』ニヤリ

照「じゃあ、私も」ソソクサ

菫「お前はダメだ。渋谷、亦野頼めるか」
 
照「菫のイジワルー」ジタバタ

菫「お前が入ったら、本気で勝ちに行くだろ」フウ

照「だって、まだちゃんと大星さんと打ったことないし この前だって」チラチラ

菫「だ・か・ら・だ。そこで静かに観てろ」

 それでも先輩は不満そうな表情をしていましたが、部長の指示で尭深さんと亦野さんが入りました。

東1局 親:誠子ドラ:①


淡(亦野先輩はどういうスタイルなんだろ)

 宮永先輩はとにかくテンパイ速度が速くて、徐々に点数が上がって行くのが特徴
 尭深さんは、以前も言ったようにオ―ラスに役満で和了る事が非常に多いこと

 両者に共通するのは、非常に攻撃的な麻雀でまさに攻撃型チーム『虎姫』のメンバーにふさわしい人材です。


淡(配牌はいつも通り良い感触だから、少し高め目狙ってみよっと)

尭深(最近忙しくて誠子ちゃんとあんまり打ててないから嬉しいな)トン

誠子「ポン」ポイ

風花「(早速、来たのぅ。)となると次はこの辺りかな」トン

誠子「ポン」ポイ

淡(やっと私の番…… せっかくの配牌でも順番が回ってこなければ台無し。亦野先輩は速度重視なのかな でも……それだけで虎姫に入れるものなのでしょうか)トン

誠子「それ、チ―」ポイ ⑧

誠子(これで3副露、先制させてもらう)

尭深「誠子ちゃん、それロン」 ピンフ ドラ2 3900テン

567一二三七八九②②⑥⑦ 和了牌:⑧


誠子「いつの間に……まさかその為にわざと」

風花「お主の力を利用させてもらったのじゃ。自分が上がれぬならば他の者をサポートするのも立派な戦略じゃからのぅ」

風花「さてと」ゴゴゴ

風花(ふむ、これは照ねえが興味を持つのも居た仕方ないのぅ)

 またこの感覚。宮永先輩と対戦したときにも感じた視線と同種のモノ
 これは後で先輩に訊ねてみようと思います。

東3局 親:風花

淡(おかしいな てっきり先輩も宮永先輩と同じタイプだと思ったから警戒していたのにさっきは流局で尭深さんの親番終わっちゃった)

淡(掴みどころがないというよりも周りを使って放銃をかわしてる? そんな気がする)

風花(大星さんが悩んでる。ふふっ、若人よ。今は少しでも多くの経験を積む時期じゃ 大いに苦労するがよい)


尭深(これで3枚、でも、このメンバーだとあんまり蒔けないかもしれないな)トン 北

誠子(まったく、全然衰えてないじゃないか。華を持たせてやろうなんて考えてるからこんなことになるのか)トン

風花「それ、ポンじゃ」

誠子(はぁ……やり辛いな 尭深のスロットが増えないよう気を付けつつ相手を惑わす独特な打ち筋)

誠子(おまけに)トン

「チ―」

「ポン」


風花(これでよしっと、さあて三人はどう出る?)

尭深(これがあるからちょっと苦手なんだよね 麻雀が絡まなければとっても良い娘なんだけど)

淡(こんどは先輩が3副露、普段ならどのあたりが危ない牌か分かりそうなもんだけど この人は何考えてるか分からないし…… とりあえず安牌にしようかな)トン

(二ヤニヤ)

誠子(うわー どっちなんだろ 実はブラフだったり? いやいやそう思わせておいて狙い打つ時もあるし)トン

風花(面白いのぅ これだからやめられん。 まぁあまり余裕な表情ばかりしておるとうっかり!という事もあるから尭深だけは警戒っと)

(さてさて、セオリーならこのまま行くべきじゃが あえてここは)トン

淡(また、危なそうな牌引いちゃった。この牌を通さないと上がれないけど、すごく危ないそうだし)ウーン

淡(悩んだ時は直感を信じて……こっちかな!)トン

風花「通らんのぅ、それロンじゃ!」

淡「そんなー」
 
 まるで私が捨てる牌が分かっていたかのように先輩は直前で単騎待ちに変えていました。
 そんなことが果たして可能なのか、それともたまたまなのか、この時点で既に先輩の術中にはまっていたのかもしれません

淡「グスン……」


照「大丈夫かな。大星さん落ち込んでるみたい」

菫「いや……正直ここまで一方的な展開になるとは思ってなくてな」

菫「それと、お前と対戦した時のような行為は絶対やってはダメだぞと昨日の帰りにきつーく言ってしまったからなのか」

菫「いつも以上に、縮こまっている気がするな」

照「必要以上に意識して空回りしている感じだね。もっとのびのび楽しく打ってる大星さんに戻ってほしいな」


南4局 親 淡

淡(全然上がれないよ)ナミダメ

風花(あの表情 対局中じゃなかったら抱きつきたい 後ろからギュッと)

風花(ああ、照ねえ 尭深に続く三人目の娘 二人とはまた違った魅力が)キュフフ

風花「(ダメダメ、今は対局中じゃ)そういえば照ねえは打った事があるんじゃな」

照「初日に一回だけだよ。それも途中で打ち切り」

尭深「淡ちゃんが体調崩しちゃったの」


風花「それで、か…なるほど。どうじゃもう一度やってみてもらえんか」

淡(えっ、そんなことまで伝わっているの?)

菫「何を言っているんだ。万が一の事があったら―――」

淡「弘世先輩、お願いします。このままヤキトリで終わりたくありません」

淡(あ、つい本音が……でもこんなふがいない姿を見せるくらいなら いっそ)

菫「いや、しかし」ムムム

照「大丈夫、もしもの時は私がすぐ対処するから」テクテク

照「ほら、ここならすぐ動けるよ」

菫「―――分かったよ。でも、少しでも気分が悪くなったらすぐ言うこと。分かったか」

淡「はい」

照「大星さん約束だよ。絶対無理しちゃだめだからね」

風花(それでこそ、私の大好きな姉達じゃ。それに照ねえは前科があるからのう 二度とあんな目に遭いたくないはず)

淡「それでは、改めてお願いします」ペコリ

淡(いつも通り、いつも通り)

照(大丈夫かな)ソワソワ

風花(むぅ、肩の力が抜けて心なしか表情が柔らかくなったきがするのぅ そうこなくては)

淡(まずは、軽めにっ!)


誠子(これが、大星さんのオカルト また厄介そうな能力を……)五向聴

風花(データや鏡で見るのとはまた少し違う、照ねえが見たフルスロットルを引きずり出してやるわい)六向聴

尭深(結局スロットは7個だけ。でも淡ちゃんがいつもの調子に戻ってくれて嬉しい)

↑『オ―ラスで他の人が連荘した場合どうなるか分からないので現時点では連荘しても増えないという事で』


淡(簡単な事だったんだ。いつも通りの私で良かったのに変に意識するからあんな事に)

淡(うん。最初にこれだけリードしていれば、絶対安全なはず)


………
……


淡「リーチ」

誠子(こっちはまだ全然揃ってないのに)トン

風花(じゃが、まだ甘いな。多分当たり牌はこの辺り最後まで抱えておけばリスクを避けられる)トン

尭深(相変わらず、風ちゃんは守りが固いな 淡ちゃんはどうだろ)トン

誠子「(やっと来た)ポン」ポイ

風花(その牌は…… だからもう少し河を見て)

淡「ロン」リーチ ウラ3

淡「もちろん続行です」メラメラ

風花(なかなかやるのぅ。誠子も制約があるのは分かるんじゃが、この辺りがまだまだ甘いの)ケホッ

風花(―――少しはしゃぎ過ぎたようじゃ……もってあと1局って所かのぅ)

風花(やっぱり、最後はこれで締めくくらんとな)ゴッ

淡(風? どこも窓とか開いていないはずなのに何でかな?)

照(無理しちゃダメなのは風花もだよ)プンスカ

照(まったく、何で私の周りの娘は皆無理したがるのかな)

淡風((もちろん、目の前の相手に勝つためだよ))

 そして、運命の南4局1本場が始まった。

淡(やっぱり、麻雀は楽しんで打つのが一番。それで勝利できればなお嬉しい)

淡(宮永先輩しかり、弘世部長しかり大きなモノを背負っている人もまた……)

風花(さすがに負担ぱないのぅ)グヌヌ

誠子(完全に私は蚊帳の外だな。私の武器はこの二人に通用しないのかな?)

誠子(―――いや、必ず突破口があるはず)


淡の手牌 12244556五七④⑤⑥ ツモ:⑤


淡(まずまずかな。やっぱりいつも通りには行かないな)トン

風花(……)トン


風花の手牌 ????????????? ツモ:七


尭深(前の局と同じ7枚、自分で引かないと……)

尭深の手牌19??????南西西北北 ツモ:4


………
……


淡(これで一向聴)トン

誠子「(これを鳴いて)チ―――」

風花「ごめん、それポン」ポイ

誠子(また、このパターン? でもこの様子だとむしろアッチか)

尭深(風ちゃんがあそこで鳴いた事を考えると、はぁ 間に合わないってことかな)トン

淡(……)スゴイナ


 次のツモで有効牌を引けなかった時点で、既に勝負は決していました。
 執念のなせる技。
 
 いえ、この一局に全身全霊を掛けた先輩の思いが私の支配を上回った結果ですね。


風花(……カン)

 先ほど私から鳴いた牌に加槓、そして嶺上牌をツモり先輩はそのまま牌を倒しました。
 嶺上開花のみ
 点数はそこまで高くありませんが引き離すには十分な点数。
 
 見事に敗れた私ですけど、今は清々しい気分です。
 破られてしまったとはいえ、一度は先輩から上がることができたのですから!

淡「やっぱり一軍の方は皆さんお強いんですね」

 対局も終わり、私はあらためて先輩にそう声を掛けました。
 幸い、特に身体の変調が表れる事も無く息も整っているのに安心したのか弘世先輩はほっとされたようです。


風花「いやいや、大星さんも充分力を秘めておる。だが力を制御できなければ充分な結果を得る事は出来ん」

菫「初見の相手にここまでできれば上出来だよ大星さん。それに、こいつはちょっと特殊だから」

風花「聞き捨てならん発言じゃぞ。菫ねぇ」プンスカ

照「ウズウズ」

尭深「センパイ、今は我慢して下さい」

淡「残念です。先輩より上の順位になりたかったのに」

菫「ああ、さっき言っただろ。こいつの担当はデータの分析だ。当然新入生のデータも渡してある」

菫「というよりも、一日、二日でデータを頭に入れ対策を講じてくる奴なんて全国を探してもコイツくらいのもんだから」

風花「ちぇ……せっかく良いところ見せようと思ったのに菫ねぇと来たら…… まあそういう事」

 先輩はまだ言いたりない様子ですが、宮永先輩がねぎらいの言葉を掛けると素敵な笑顔に変わりどうでも良くなったみたいです。

 一応言っておきますけど、負けたり怒られたりと散々な結果に思えるかもしれませんが、『虎姫』のメンバーが飛びぬけているだけなんだからね。
 
 風花先輩…… 強かったなぁ

 
 ー照sideー


照「ねえ、風花聞いて」

風花「やはり照ねえは私が喜ぶ場所を知りつくしておるのぅ」ゴロゴロ

風花「それで、何じゃ聞いてほしい事とは」

照「あのね。照魔鏡だけならともかく、菫や誠子の能力を使ったのはどうしてなのかな」

照「風花の事だから事前にシュミレーションだってしていただろうし。全力じゃなくても」

風花「私の事心配してくれているの?、嬉しいな照ねえ」ダキ

風花「照ねえ、大星さんはまさに原石じゃ。磨きかたによってはとんでもない打ち手になるじゃろう。
   菫ねえもその辺りを熟知しているからこそ私をあやつの指導係に任命したのじゃ」

照「そうなの?」

風花「ああ、昨日電話でな……(まあ、二年前の照ねえの方が完成されていて強い印象だったがのぅ)

風花「それにあれくらいでへこむような娘でもなさそうじゃからな」

風花「とはいえ久しぶりに使ったが鏡は疲れるのぅ。他にもいろいろ貸してもろうたし、恩に着るわい」クンクン ハアハア

照「ん……」ナデナデ

照(私が知っているだけでも照魔鏡・フィッシャー・SS、あとは技術的なものだけど2つ)

照(大星さんの支配を破って嶺上開花。あと点数調整までこなして自分は『プラスマイナスゼロ』で終了)

照(限定条件下でのみ発動とはいえこの小さな身体で……私が守ってあげなくちゃ)



菫「無理に理解しようとしなくても良い、ただ人よりちょっとだけ感覚が鋭くて吸収が早いだけなんだ」

淡「はぁ……」

 すごくもやもやした気持ちです。でも今できることを全てやった結果がこれなら仕方ないんですよね

 
誠子「大星さんはすごいな、私なんてすぐ追い抜かれそうだ」

風花「何を言っておる。大星さんにとって誠子は天敵じゃよ、ちょっと耳貸してみい ごにょごにょ」

誠子「えっ……そんなことしても、確かにその手なら私でもやれそうだけど……」

尭深「頑張ろうね、淡ちゃん」

淡「よろしくお願いします

風花「ところで、大星さんはネット麻雀の方はどうなんじゃ」

淡「ネット麻雀ですか? いえ、ありませんけど……」

淡「でも、興味はあります」

風花「そうか、そうかだったら大星さんにも教えておくかのう」

風花「はい、これ」

 先輩から受け取ったメモ用紙にはアドレスとパスワードが書かれていました。
 恐らく会員登録に必要なのでしょう 


菫「それは私達が時々使っているサイトなんだ。やはり一人で研究するには限界があるからそういう場も必要だと思ってな」

菫「未だに使いこなせない奴もいるがな……」

照「菫が居るから大丈夫だもん」

菫「いつまで、私に頼るつもりだ。いい加減に覚えてくれよ」
 
 本当に先輩達は仲が良いです。同居も3年目ともなればお互いの恥ずかしい所など把握していることでしょうからね。
 

風花「大抵は誰か居るはずだから、困ったことがあったら遠慮なく聞くんじゃよ」

 その日から私は通常の部活に加えて、力を制御する練習が加わりました。
 今までは能力に頼った麻雀でも勝てたけどこれからはそうはいきません。
 せっかく宮永センパイに興味を持ってもらったんですから、期待に答えるだけの結果を出さなくては……

モブa「お疲れさま もう淡ちゃんには敵わないな もう上に行けるんじゃない?」

淡「そんな、私なんてまだまだだよ」フルフル

モブa「淡ちゃんって最初は取っつきにくそうだったけど、話してみると女の子女の子してて反応が一々かわいいんだよね」ペチペチ

淡「もぅ やめてよー」

モブa「そういうところが、私のS心をそそるんだよ☆」

モブa「さてと、じゃあ私は帰るけど、淡ちゃんは今日も先輩とヒミツの特訓?」

淡「ヒミツの特訓―――」ポワポワ


淡「か、からかわないでよー」カアア

モブa「はいはい、じゃあ頑張ってねー」

淡「まったく、人騒がせな……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


淡「ふぅ…… んー 練習では上手くいくんだけどなぁ」シュン

風花「なにを落ち込んでおるんじゃ?」

淡「あ、先輩 今日も宜しくお願いします」

風花「どれどれちょっと見せてみぃ なるほどなるほど」カラカラ

淡「制御しようとすると、隙が出来るみたいなんです。前より弘世先輩に狙い撃ちされる回数が増えたような気がするんですよ」

風花「今までどれだけ力に頼ってきたか分かるじゃろ、良い傾向じゃ」

風花「昨日のネット麻雀も散々じゃったからのう」

淡「ネットだと、余計に力が入り過ぎるといいますか 後で見直すと何でこんな打ち方しちゃうのかなって ずっと考えていたんです」

風花「こればかりは一朝一夕に手に入るものでもない、これからも精進すること」

風花「じゃあ、これが今日の課題じゃ。残ったらまた夜にな」ドサッ

淡「――センパイはその……なんで私に付きっきりで指導してくれるんですか? 自分の練習もあるはずなのに」

風花「これも立派な練習なんじゃよ。私の担当はデータ分析、当然沢山打つことも大切なんじゃが、大星さんを指導することだって勉強になっておる」

淡「そういえば、先輩はいつごろ目覚めたんですか」

 どうやら、先輩も私と同じで何らかの力を持っている方でその力を駆使して今の地位に上り詰めたそうです。 
 そういった意味で、とても興味があります。


風花「能力を暴くだけなら、照ねぇの力を使えば問題ない、しかしそこから伸ばすのは本人の努力しだい」

風花「また、能力には相性もあるだろ。その辺りを考えるのが私の仕事じゃ」

 うまくはぐらかされてしまいました。流石に軽率すぎましたね反省したいと思います


淡「いろいろ考えてるんですねー 尊敬しちゃいます」

風花「私は、大星さんが羨ましいよ。白糸台に来た動機はともかく良い指導者に囲まれて立派に成長しておる。誇って良いのだぞ」

風花(私には、あまり時間が残っていないんじゃからな)

淡「え、センパイはそんなことも分かるんですか?」

風花「ふふ、照おねーちゃんはすごいんじゃ」

菫「二人でヒミツの話か? 私も混ぜてくれないか」

風花「うむ、良いタイミングで来たのぅ菫ねぇ。ちょうど今後の方針を相談したいと思っていた所じゃ」

菫「そうだったのか」ヨッコイショ

風花「大星さんは全体的にまだまだ待ちを読むのが弱い所があるし、格上との対戦では下手を踏むことが多い」

菫「だが、入部した時から比べればかなり良くなってきている」

風花「そこで菫ねえに相談なんじゃが、そろそろ一軍昇格を視野に入れるべきなんじゃなかろうか」

菫「それは私も考えていたんだが、こればっかりは顧問に聞いてみないと……私の一存では決められないな」

風花「それもそうじゃな。まあ、尭深と私が指導している所を見れば周りの者も納得するはずじゃ」

 とりあえず、私の健康不安は払しょくされたようです。 
 最初の頃はモブaさん他同級生にも心配されてちょっと壁を感じていたので、一安心といったところです。


菫「大星さん、近々キミの昇級試験を行うことになるだろう」

淡「昇級試験ですか?」

風花「そう、顧問と一軍メンバーから二人選出して対局してもらう。そこで認められれば晴れて一軍の仲間いりじゃ」

菫「なあに、大星さんはいつも通り打てば良い」

風花「そうと決まれば早速準備じゃ」

菫「そうだな……今まで頑張った大星さんに免じてこれから特別指導でもしてやるか」

風花「おぅ、久しぶりじゃな では早速準備せねば」ピポパ

 センパイは携帯で誰かと連絡を取っています……ここに一軍の方を呼ぶつもりなのでしょうか?
 急な話で面を食らってしまいましたが、一軍への昇格チャンス
 これを乗り越えれば、念願の一軍入り!


菫「これで良しっと」

風花「こっちもOKじゃ、さて帰るとするか」

淡「あの、ここでやるんじゃないんですか?」

菫「そうか大星さんには何のことやらか、詳細は後だ。とりあえず部室の鍵閉めるから帰り支度してくれ」



今日はここまでです。
単行本読み直して気づいた事がある。 金髪少女が『照おねーちゃん』と呼んでいた。
あとこの娘 みなも(仮称)とか言われてるらしい

いつの間やら性格が竹井さん、しゃべり方がまこのイメージで書いてます(ネット麻雀の辺りも拝借しました。)

最初は尊大なしゃべり方にしようかとも思いましたが、(部活中は)菫さんが許すわけないなと

二人に急かされるように私は手早く荷物をまとめ、職員室に向かう弘世先輩といったん離れてセンパイと二人で下駄箱に行く道すがら、
どうしても気になったことがあったのでセンパイに聞くことにしました。

淡「その、センパイが車いすに乗ってるのって何か事故にでもあったんですか?」

風花「やけに唐突じゃな大星さん。まあ、話せば長くなるんじゃが……」

風花「そっちから聞いておいて、その顔はないと思うんじゃがまあ良いか。
   一つ言えるのは少し不便なだけで日常生活を送るには何の問題もないってことじゃな」
 
風花「もう一度自分の足で歩いてみたいとは思うが、多分無理なんだろうな」

淡「何か言いました?」

風花「ちょっとひとり事をね。今でも週2回はリハビリに通いながら、高校に通ってるよ。
   担当の人がなかなかに厳しい人で、ヘトヘトになるけど良い人だよ」

風花「それにこういう生活も案外悪いものでもないんじゃ、普通の人とは違う視点で見えるというのもね」

風花(あれからもう2年も経つのか……長いようであっという間だったな)

淡「はぁ……そういうモノですか」

 まったくもって掴みどころのないセンパイです。
 自分の境遇を悲観するわけでもなく、ただ流れるまま身を任せているそんな性格が羨ましくもあり、悲しくもあります。

「おっとそれじゃ、一旦お別れじゃな」

淡「そうですね」

 一年と二年の下駄箱は少し離れているので、一旦ここでお別れです。
 靴を履き替えて先輩と再び合流してから、雑談をしつつ弘世先輩が来るのを校門の前で待つことにしました。

菫「遅れてすまない、それじゃあ行こうか」

淡「はわわ、待って下さい」

 いつも私が帰る道とは反対の方向――確かこっちには白糸台の寮があります――を先輩の後に付いていきます。
 その道中、二人から簡単な説明を受けました。
 どうやら、今から私達は先輩と宮永先輩が一緒の部屋に暮らしている家で特別指導をするべく向かっている所だということ。

 本当は、まとまった時間がほしいけど、私の家の都合もあるので夕食の時間までには帰宅できるようにするけど、大星さんの方は大丈夫か?と聞かれたので

淡「私の両親は共働きで、二人とも帰宅時間が遅いので今日はどこかで外食する予定です」

 すると、弘世先輩から夕食のお誘いが!
 おまけに今日は宮永センパイが料理当番だと聞けば断る理由などありません いや断る人などいるのでしょうか。

 急遽一人追加になったので、スーパーに寄って足りない食材を買い足して二人の愛の巣(?)へと歩みを進めました。

菫「ただいまー 照、二人を連れて来たぞ」

照『うんうん そっか、そうなんだ。やっぱり練習大変なんだね』オカエリー

照『ごめんごめん、ちょうど菫が帰って来たところなの』

照『そんな、全然迷惑なんかじゃないよ。めったに会えないんだし、これからも遠慮なく連絡してほしいな』


淡「取りこみ中みたいですね。先輩」(小声)

風花「相手は咲ちゃんかな? それとも別の娘?」

菫「まあ誰でも良いさ、とりあえず二人はその辺に座っててくれ」

菫「ちょっと照に聞いてくる」

淡「え、でも今電話中ですよ」

菫「口がふさがっていても問題ない。手が空いているだろ」

菫「照」ツンツン


菫(夕飯の準備はどのくらい終わっているんだ?)

照「えっと」カキカキ

照(下ごしらえは終わってるよ。後は調理するだけ)

菫(じゃあ電話がすんだら台所だぞ)サラサラ

照(分かった。ゴメンね スミレ)カキカキ

風花「流石、菫ねえじゃな」

 一方、私は生活感漂う、二人のお部屋に入る事ができただけで幸せです。
 ああ、これが二人のお部屋……ドキドキ せんぱいのにおいがそこかしこから おちつかねば すーはー
 ぐへへ ますます興奮して―――

風花「大星、お主興奮しておるな」ジロリ

風花「同性の部屋に入る事位あるじゃろうに……まったく」テイッ

 センパイに注意されたので私はおとなしく座っていることにします。
 そんなに怒らなくても良いのに グスン

照『私? うーん、まあ相変わらずかな。菫には迷惑掛けっぱなしだけど何とかやってるよ』

照『一年生に面白い娘が沢山来てくれたから、これから対戦するのが楽しみなんだけどやり過ぎちゃいそうで』エヘヘ

照『今度こっちに来れたら、腕によりを掛けておもてなししてあげるから覚悟しててね』

照『そんなことないよ。もうあの頃の私じゃないんだから』プンプン

照『うん、じゃあ、頑張ってね。絶対大会で会おうねー』ポチ


照(ふう……久しぶりに声聴いたけど元気そうで安心したよ。かなり激戦区だけど、頑張ってね)

照「ゴメン、スミレ 今行くねー」

菫「やっと終わったか、さっきお前に連絡しておいただろ何人か来るから準備しとけって」

照「だって急に電話掛かって来たんだもん」ブー

菫「お前が怒ってもちっとも怖いないからな、じゃあ場所交代だ。私はサラダを作る」

照「うん、えっとどこまでやったかなー スミレ 私エプロンどこに脱いだか覚えてない?」

菫「私が知ってるわけないだろ」

淡「あ、先輩こっちにエプロンありますよ どうぞ」

照「ありがと、大星さん。いつの間に大星さん来たの?」

菫「ちゃんと二人連れてくるって私は言ったぞ」

風花「照ねえ私も来てるよー 誰からの電話か知らないけど随分仲良さげだったね」

照「そうかなー 私いつもあんな風だよ」

風花「そうだっけ?」

照「そうだよ」ナデナデ

菫「ほら、ちゃんと手を洗えよ。もうすぐ堯深達も来るんだからそれまでに準備終わらないといけないぞ」

照「はいはい」

風花「大星、この光景を見てどう思う? 羨ましかろう むふふ どうなんじゃ」

淡「絶対分かってて言っていますよね 先輩」プンスカッ

淡「ホント、先輩は人の弱みに付け込むのが得意ですよね」

風花「ちゃんと相手を選んでおるよ。大星や照ねえは反応が良いから好きじゃよ」

淡「私ってそんなに、反応が良いんですか? 自分では自覚ないんだけどなー」

風花「照ねえはあれで人見知りだから、親密な関係になるまでは大変じゃが一度懐に入ってしまえばちょろいからのう」チラ

照「ん……(気のせいかな?)」ウーン

風花「大星は…… まあ、見た目がアレだから敬遠されがちじゃが」プニプニ

淡「しぇんぱい、なんでほっぺたを」ム- フニャ

風花「前から、やってみたかったんじゃ。これは癖になりそうじゃ」プニッ

風花「まぁ あれじゃ、頑張れ若人よ」

淡「若人って先輩と一つしか歳違わないじゃないですか!」


 もー いきなりほっぺたをぷにぷにされてしまった……
 この前もモブaさんが私の頬をもの欲しそうに見ていたから、急いで逃げたんだけど
 今日は不意を突かれてしまいました。 グスン

 確かに、肌の手入れはしっかりしているから、誉められて嫌な気はしないけど流石に触られるのは――ねっ?
 

風花「あはは、大分打ち解けてきたな 私達も」

淡「そりゃ、あれだけ顔を合わせてれば? こうなりますって」

菫「お前達、なかなか良いコンビだな」

淡「コンビじゃありませんから!」

風花「そうだったかのう」

 
 それで良いのかな? いや、気にしちゃだめなんですよね

 
 作業しながらだと時々終了宣言忘れがあります
 あと、一旦休憩=今日の投下終了が多いかと

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^^

菫「これでよしっと。照、そっちはどんな感じだ?」

照「こっちもあとはじっくり煮込むだけだよ」

 
 台所から良い匂いがしてきました今日の献立はカレーのようです。
 カレーって家庭の味が出るメニューですよね。先輩はどんな具材を入れているのかな? 楽しみです。
 
 私も多少はお料理の心得があるつもりでしたが、お二人の手際の良さを見ていると私ももう少し経験が必要みたいです。

 ぐ~ ううっ、お腹の虫が鳴いちゃいました。 お昼も沢山食べたはずなのにー


菫「大星ー すまんがそこに畳んだあるテーブルを持って来てくれ 横につなげるから」

淡「はい、分かりました」

淡(練習は夕飯食べてからになるのかな?)ヨイショ ヨイショ

風花「すまんのう大星さん。それじゃ、配膳は私がやるよ」

菫「適材適所だな。照、大皿どこに置いたか分かるかー」ガサゴソ

照「見当たらない? 洗ってそこに置いたと思うんだけど」

ピンポーン

 チャイムが鳴りました。多分尭深さん達が到着したのでしょう

淡「先輩、誰か来ましたよ 私出ますね」

菫「たのむー 勧誘なら断ってくれよー」

淡「了解でーす」

 私の思っていた通り、玄関の前に居たのは――尭深さんと誠子さん――お二人でした。

淡「弘瀬先輩 尭深さんと誠子さんがいらっしゃいましたよ」

菫「ああ、分かった。今手が離せないから、適当に案内しておいてくれ」

淡「はい。それじゃあ先輩こっちですよ」

尭深「淡ちゃんこんばんは あ、これお土産です」ペコリ

淡「えとえと、どうも(?)です」

 
 そうして尭深さんから受け取ったのは、駅前でおいしいと噂の洋菓子店の箱
 一度食べてみたいと思っていたんです。


尭深「お二人の部屋におじゃまするのは久しぶりなので、途中でお菓子買ってきました」

照「なになに、どこのお店?」テクテク

菫「こら、まだ準備が終わってないんだから後にしろ」グイッ

照「ちょっ、まってそこ引っ張ると首が――――」

誠子「この匂い、今日は宮永センパイの当番ですね 分かります」

菫「まあな。今日は大人数になりそうだったから簡単に作れるものにしようと思ってな」

菫「もうすぐ、夕飯の準備が整うから少しだけ待っててくれよ」

尭誠「淡ちゃん。それ冷蔵庫に入れておいてね」


 そういえばこれでいつものメンバーが勢ぞろいですね。
 他のチームの事は良く知りませんが、虎姫はメンバー同士の仲がとても良いみたいです。
 白糸台は二連覇中ですが、どちらかというと新興の高校、足の引っ張り合いとかはあまり見かけませんし、とても居心地の良い部活だと思っています。


照「じゃあ、テーブルに持っていくねー」

風花「転ばんよう気をつけるんじゃよー」

 先輩の心配を他所に料理は無事テーブルに運ばれ、各々適当に座って夕食の時間が始まりました。
 この前ご一緒したときも思いましたが、今回もボリュームがすごいです…… アセアセ

ま、まあここにいるのは育ち盛りの乙女ですからこのくらいはなんてこと無いはずです。(多分)
そ、そういえば最近ちょっとお腹の周りが……


 今日はこの辺にしておきます
 全然物語が進まん
 白糸台のゆるーい話は他所で間に合っているというのに……

菫「全員に行き渡ったな。よーし、それじゃあ手を合わせて」

全員「「いただきまーす」」

照「うん、やっぱりカレーは中辛が一番」モグモグ

菫「私はもう少し辛い方が好きだから二杯目はもう少し辛くしようかな」ヨイショ

淡「先輩、それ何ですか?」

菫「ん、大星も入れるか?」ドウゾ

淡「いえ、見るからに辛そうなので遠慮します」

菫「そうか? 仲間が出来たと思ったのに……」ウンウン

風花「あの二人は割と味覚が似ておる二人じゃが、これだけは正反対なんじゃよ」

菫「こんなことするのは、家で食べているからだ。あと、最初から味を変えるのは作ったヤツにも悪いからな」エッヘン

照「何事もベースがしっかりしてないとダメだってことだよね」ゴックン

照「スミレー おかわり ル―多めで!」

誠子「私の分もお願いします」カラッポー

菫「はいはい、亦野はごはん多めで良かったんだよな」テクテク

淡「――先輩って、皆のお母さんみたいですね……(やっぱりおいしいなー)」

風花「心の声が出てるぞ」

菫「誰がお母さんだ! 大星言ってみろ!」ゴゴゴ

照「しゃもじ片手に菫が怒ってる」ニコニコ

菫「よーし、照お前の分はル―だけ。野菜はなしにしてやる」


ヒドイヨ スミレ フン、シッタカコトカ

 ワイワイガヤガヤ


尭深「フー フー」パクッ

尭深「……おいしい」ニコニコ

風花「尭深はあいかわらずだな」

尭深「???」ズズズ

誠子「ごちそうさまです」

 誠子さんが、残りのおかずを片付けてテーブルにある皿は全て空っぽです。 いやーあの量が本当になくなるもんですね。
 私のお腹も一杯で、しばらく動く気が起こらりません

 とても幸せな気持ちです。

照「さてと、食後のおやつ♪」トテトテ

菫「おい、おい、おい!」ブロック

尭深「宮永先輩相変わらずですね」フフッ

菫「だから、冷蔵庫を開けて食べようとするな」ペシッ

淡「やっぱり、お母さん……」

菫「何か言ったか?」

淡「いえ、何も」モゴモゴ


 どうやら弘世先輩に『お母さん』という単語は禁句みたいです。
 というより、宮永先輩が手のかかる娘なだけかもしれませんけど。

風花「それじゃ、早速特別指導始めるかのぅ。大星さんこれが資料じゃ」ドサドサ

風花「二人が洗いモノ終わるまでに目を通しておいてくれ」

淡「すごい量ですね……これ全部センパイがまとめたんですか」

風花「まあのう。入院中は暇で暇で死にそうだったから、ちゃちゃっとまとめたんよ」ケラケラ

 
 その資料は今の一軍メンバーの簡単な経歴とこれまでの棋譜などが何ページにも渡って詳細に書かれているもので、かなりの時間を割いている事が分かる資料でした。


誠子「相変わらずのデータ狂っぷり、良くやるよ」

菫「お前にはいつも助けられてばかりですまないな」ジャー

尭深「フキフキ」

風花「菫ねぇの口癖は『適材適所』自分の力を最も発揮することができる場所で働くのが理想 でしょ」

照「データはあくまでデータ、生かすも殺すも自分次第だよ」スミレ ダメ?

菫「ああ、もう。そんなに言うなら照も大星さんの特訓に参加しろ」

菫「しっかり、できたらお前に一番選ぶ権利をやるからさ」

照「頑張る……」チラッ キラキラ

淡尭(何だかんだ言っても、先輩は宮永先輩に弱いなー)アタタカイマナザシ

菫「どうした? 私の顔なんか見て?」

淡尭「いえいえ」ネー キャッキャ

菫「じゃあ最初は私と照、あと亦野が入ってくれ。2人は何か気付いたことがあったら言ってくれ」

菫「では始めるぞ」

「「はい」」

淡「私が起親ですね」

照「むぅ……」

淡(センパイがコッチ見てるー 練習試合とはいえ同卓出来るなんて幸せだよ)

照(頑張ったらご褒美、ご褒美)ブツブツ

風花「大星、集中集中」コツン

淡「分かっていますよ」


淡(えっと、いつも通りに打てば良いんだよね……)トン

誠子(配牌は普通というか、前よりは格段に良い)

誠子(流石に、大星さんも最初から本気じゃないのか)トン

菫(このメンバーで一位抜けするのは難しい。十中八九、照が勝つだろうが何か見せてくれ)トン

照(念のため、鏡を使っておこうかな どのくらい成長したか見たい)

淡(これ要らない、これも要らない……よし、これでテンパイです)

淡(でもこんな見え見えの捨て牌では何が当たり牌か丸分かりですしここはダマかな)トン

菫(そろそろ大星がテンパイの気配……まあリーチしないだけ成長したかな。それにしても面倒な力だな)トン

誠子(また、裏目あと一歩が遠いな)

淡「(そろそろ引きたいなー)あ、ツモ! 三色ドラ1です」パタン

菫(ここ一番での引きの強さはあい変わらずか……)

照「(上がられた)……」ゴッ!

淡(えっ……何このプレッシャー!)カタカタ

誠子(センパイの『見』が終わったみたい。大星さんは二回目だっけ)

誠子「私も、まだ慣れていないけど今日の宮永先輩は一段と気合入っているみたい」


風花(まっ 照ねえの事だから、おやつの事を考えているんじゃろうなー)サワサワ

尭深「もー」

照「………」

淡(えっと、おさらいしなくちゃ)チラリ

淡(宮永先輩は早上がりに注意、特に低打点の序盤は振り込まないように気を付ける事)

淡(弘世先輩は唯一デジタル打ち。でも時々見せる狙い打ちに注意。少しでもその兆候を見せたら迂回路を探す事)

『大星は気付いているかも知れんが、菫ねえは特定の相手を狙い打ちするとき、和了を誘導するため無理をしておる
 つまり、そこを乗り切れば自分にもチャンスが訪れるんじゃ』

『リスクを取るか、安全を取るか よーく見てみることじゃな』

淡(宮永先輩の早上がりは配牌の時点でかなりリードしていないとダメだから。私の力が機能すれば大丈夫だけど)チラッ

淡(弘世先輩の方はまだ良く分からないです。癖とかで判断できれば楽なのに……)

照「ツモ! 300 500は400 600」パタン

誠子「(早い!) まだ5順目ですよ 先輩」

菫「照よりテンパイ速度が速い奴はなかなか居ないと思うが、それでも照を上回るつもりで向かってこないとダメだぞ」

誠子「そんな人居ませんよ。これでも私先輩方と打つ時以外は二位になったことありませんし!」

菫「自信があるのは良い事だ。だが、その自信ゆえに足元を掬われないか心配だな。この前も大星とどっこいどっこいだったし」

誠子「どうも、大星さんとは相性が良くないらしくて」

淡(先に上がられた! 先輩相手だといつものように上手くいかないよー)

風花「ふむ―――――」

尭深「どうしたの?」

風花「いや、何でも無い」

風花(もしかして、菫ねえ……)

風花(―――いや、まだその時期ではない。確実な証拠を掴むまでは黙っておくべきじゃ)

照「ロン! 2000」

照「ツモ! 700 1300」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


菫(今日は大星の特訓が目的なんだが、やっぱり照が手加減するわけないよな)

菫(これで、照の4連荘。そろそろ落ち着いてくるころなんだが)チラッ

菫(今日は大星が居るから、私も悪いままか)フウ

淡(また宮永センパイ……これで何連続だっけ)残り10000点

誠子(私だけ焼き鳥、先輩はともかく大星さんより順位が下)

誠子(ちょっとショック)

尭深「あきらめないで誠子ちゃん、そろそろセンパイも作るのが大変になるから絶対チャンスが来るよ」

風花「大星もここが踏ん張りどころじゃ、上を目指すならこの試練を乗り越えなきゃダメじゃ」

風花「それを乗り切ってこそ、真の強者になれるのじゃ」

菫(アドバイスしろとは言ったが、二人を応援しろとは言っていないんだがな)

菫(しかし今日の照はかなり調子が良いと見た。大星頑張れよ)

淡(中途半端な集中じゃ、先輩には通用しない……だったら!)

淡「センパイ、アレ使っていいですか」

風花(最近は安定してきたし一度だけなら大丈夫じゃろうな)

風花「既に見破られていると思った方が良いが、やってみるがよい」

風花「ただし、一回だけじゃ」

淡「ありがとうございます」

淡「(すぅー はー)いきます」ゴッ

尭深(淡ちゃんの髪が凄い事になってる。これが淡ちゃんの全力全開)ブルッ

照(この前の支配には驚いたけど、同じ手が通用すると思ったら大間違いだよ)ギュルギュル

照(今度こそ破って見せる!)

~♪ you got a mail ♪~

「」ブーブー

菫「こんなときに……照 お前の携帯メール着てるぞ」

照(この着メロ誰だっけ? はっ、まさか)

照「ごめん、菫取ってくれない」

菫「はいはい」


照「ありがと、スミレ。 えーっとなになに」

照「あっ……」アセアセ

照「スミレ ちょっと抜けても良い?」

菫「今対局中だぞ。後にしろ」

照「でも……」チラチラ

菫「……」

照「……」ジー

菫「分かったよ。じゃあ、一時中断だ。みんな、それで良いか」

淡誠「はい」コクコク


 盛り上がって来たところで、水を差されてしまいました。
 それにしても、先輩が対局を中断してまで連絡を取りたい人とは誰なのでしょうか?

 先輩は、台所の方へ移動して何やら話をしていますが、とても嬉しそうな顔をしています。
 漏れ聞こえて来る単語から推察するに久しぶりに連絡を取った相手みたいです。
 
 あーあ、センパイと打っている時に限って邪魔が入ってしまうんですよ
 そういう星の下に生まれたんでしょうか?

誠子「お疲れさまです。先輩 それで尭深どうだった?」

尭深「相手がアレだけど、やっぱりスピードだけじゃ……」

誠子「確かに、ある程度鳴ける相手ならまだしもこのメンツだと他にも武器が無いとキツイものがあるね」

尭深「でも誠子ちゃんの持ち味を消しちゃいけないもんね、どう思う?」

「生かす所は生かし、潰す所は潰さねばならんな。特に誠子はどうしても守りが薄くなる」

「絶対収支をプラスにできる自信があるならまだしも、今のままでは足を引っ張りかねないのぅ」

「だが大星と誠子の弱点は強い者と打つことである程度改善できる」

尭深「この調子なら、絶対一軍に昇格できるから頑張ってほしいな」

尭深「でも、淡ちゃん驚くだろうなー」

風花「そうじゃな、尭深。あの人は実力もさることながらスカウトの方もなかなかのもんじゃ。なんと言っても照ねえを見出したのはあの人じゃからな」

尭深「厳しいけど、とっても思いやりのある人だよね」

風花「特にオカルトの存在を認めている所なんてのぅ」フォッフォッフォ



淡「あの、弘世先輩」

菫「どうした、大星 私に用か?」

淡「先輩にお聞きしたい事がありまして……」

淡「その、先輩はいつ頃麻雀を始めたんですか」

菫「そんなこと聞いてどうする? と言いたいところだがまあ良いだろう」

菫「子供の頃、仲の良かった友人に誘われたのがキッカケでかれこれ10年位だな」

菫「それでどうしてまた、そんなことを?」

淡「それは……先輩の強さの源って何かなと思いまして」

菫「源と言われても、私の場合切磋琢磨し合っているうちに何の縁か照と一緒の学校に入ることになり、
  あいつと打っている内に力が付いたって感じかな」

淡「確か宮永先輩は一年生の時から、レギュラーでしたよね」

菫「ああ、確かに照は一年のIHで副将を務めていたな」

菫「そうか、大星は照に憧れてウチに来たんだったな」

菫「その年白糸台は優勝こそ逃したが、ベスト4に入った事でウチは本格的に麻雀に力を入れることになった」

菫「次の大会の事は知っているだろ。照をエースに据えた白糸台は見事優勝し、それからウチは一度も陥落したことがない」

菫(あの事件さえなければ、一年の夏もウチが獲っていたかもしれない。でも、もしそうなっていたとしたら……)








               『照は麻雀を辞めていたかもしれない』







 
 今日は一軍への昇格が掛かった試験当日
 朝からずっと試験のことで頭がいっぱいで授業中何度も注意されたり、お昼ご飯もあんまり喉が通らなくてモブa子さんにも心配されちゃって・・・・・・
 あーあ 何やってんだろ私

 そんなこんなで授業も終わり部室に向かうべく教室を出るとそこには先輩の姿がありました。

淡「あれ? 先輩方どうかされましたか」

尭深「あ、淡ちゃん」

尭深「助かりました。私、一年生の教室に来るの久しぶりだったから」

風花「なぁに、堂々として居れば良いんじゃよ」

淡「それで? 私に何か用でも?」

尭深「えっと、今日淡ちゃん大事な日でしょ。だから少しでも緊張を解そうと思って来たの」

尭深「それでね……続きは歩きながらにしよっか。ここだと……そのね」カアア


 「あ、渋谷先輩が一年生の教室にいるわ」ワイワイ ガヤガヤ

 「渋谷先輩また部室に顔出してくださいね」キャー


淡(尭深さんはやさしいな。わざわざ私を迎えに来てくれてこんなに大切にされても良いのか時々不安です)テクテク

風花「なんじゃ? 緊張しておるのか大星」

淡「当たり前じゃないですか」

淡「私のために特別指導までしていただいたのに、ふがいない結果に終わってしまったら私・・・・・・」

淡「今も不安なんです」

風花「気持ちはよーく分かるがそれで中途半端な打ち方をされる方があやつらは嫌だと思うぞ」

風花「特にコイツはな」

尭深「えっ」

風花「尭深は一番近くで大星の事を見ていたんじゃ。当然一軍に来て欲しいんじゃろ」

風花「だから大星はもっと自分の力に自信を持つんじゃよ」ポンポン

淡「そういうものですかね」ハアッ

「お・お・ほ・し・ちゃん」ドン

淡「うわっ」ビクン

淡「って先生……じゃなかったコ―チじゃないですか 驚かさないでください」ペコリ

淡「今日は宜しくお願いします」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫 それに私あんまり部室に顔出せなくてごめんね」

「でも今日はよろしく頼むよ」

淡「はい。よろしくお願いします」

「でも、楽しみだねぃ。何てったってあのすみれちゃんの推薦だもん」

「これは、嫌でも期待しちゃうね」

淡(弘世先輩が私を推薦・・・・・・改めて責任を感じるよー)

風花「ほら、大星」

淡「精いっぱい頑張ります!」

「うん、うん。頑張ってね」

 
 本番前だというのに、先輩と先生に発破を掛けられてしまいました。
 当然、今から向かう先は部室に決まってますから先生も横に居る訳でして……
 
 うー余計緊張して来ちゃいました。
 おまけに、先生は他の学年にも人気が高いので生徒とすれ違うたびに声をかけられ一言二言言葉を交わしていきます
 そんなこんなで、校舎から部室棟までのわずかな距離がいつも以上に長く感じられました。

「みんなー 集まってねー」パンパン

「うんうん、みんな揃ってるみたいだね もう知ってる娘もいると思うけど今日は昇格試験をやるよ」フリフリ

「ルールは簡単、誰かを飛ばすか私より上の順位もしくはそれに準じた成績で合格だよ」


淡(そういえば、先生と打ったことってまだ一度も無いや…… ちょっと楽しみかな)

尭深「淡ちゃん」ツンツン

淡「?」

尭深「さっきはごめんね まさかコーチと会うなんて思わなかったから……」

尭深「調子はどうかな? イケそう?」

淡「先輩方に教えてもらったことを思い出して頑張るので見ててください」

尭深「――私はこんなことしかできないけど、はいコレ」

淡「良い香りです…… 先輩が淹れてくれたんですか? いただきますね」ズズズ

淡「美味しい」パアッ

尭深「――それはね。特別な時だけ淹れて飲むお茶で、誠子ちゃんが受けたときも淹れてあげて合格したの」

尭深「ゲン担ぎみたいなものだけど、どう かな?」

淡「尭深さん…」ジワッ

淡(これは絶対失敗できないなー)

尭深「淡ちゃん ファイトだよ」

淡(尭深さん、しっかり効果出てますよ)


 ツモ1000 2000です


淡(いつもより周りがよく見えるような気がします。それに……)

モブA「チー」

淡(ここで鳴いたってことはこのあたりが危ないんですよね。亦野先輩)

淡(Aさんは先輩と同じでスピード重視、打点は低いけど連荘されると厄介)

淡(自分で上がるのが理想だけど、多分一手足りない)

淡(・・・)

淡(ダメダメ まだ早すぎるよ。だって約束したんだもん 本当に危なくなるまで能力は使わないって)

淡(まだ自分でコントロールできていないから使うのは一度きり)

淡(きっとそれは今じゃないはずだもん)

淡(それよりも思い出せ、今まで教わったことを先輩に見せるんだ)

淡「ノーテン」

モブA「テンパイ」


淡(やっぱりこの牌当たりだったんだ…… 去年までの私だったら振り込んでたかもしれない)

淡(この調子なら、何とか逃げ切れるかも)


(へえー、結構慎重に打ってるみたいだね、ここまではツモで削られたのみで直撃は回避し続けてる)

(流石、すみれちゃんが見込んだだけの事はあるね。それに、対戦相手のことも事前に調査してあるって感じだね)

(まあこのくらいのハンデはあげなくちゃ面白くないもんね)ウンウン

(でも正直ちょっと拍子抜けだね。最初の印象とすみれちゃんの推薦だからもっと激しい戦いになると思ったのにおとなしすぎるよ)

(お姉さんちょっと本気になっちゃおうかな)

(ねえ大星ちゃん、そんなもんじゃないよね。お姉さんに見せてくれるよね)ゴッ


尭深(ここまで一度も先生が上がってないなんてオカシイ……もしかして様子見?)

尭深(だとしたら……気をつけて! ここからが本当の戦いだよ)

~~~~~~~

尭深『ーーー傾向と対策はこんなところでしょうか』

菫『ああ、こんなもんで良いだろう。流石風花と渋谷がまとめたデータだけあってすごく読みやすいレポートだった』

照『すごく分かりやすかった……菫より上手』

菫『どうせ、私がまとめると読みづらいとか言うんだろ。照』

照『そうは言ってないけど、比較の問題だから』

淡『むふー 覚えることが沢山で疲れました』プシュー

尭深『淡ちゃんお疲れ様、今お茶淹れるね』

淡『ありがとうございますー 麻雀ってこんなに頭を使うスポーツだったんですねー』ダラダラ

菫『そういえば大星は、対外試合の経験があまり無かったんだったな』

淡『―――ええ、大会とかあまり興味なかったので……』

菫『そうか…もったいないな』

淡『……』

尭深『はいはい、お茶が入りましたよ』ドウゾ

照『ん、ありがと』ズズズ

尭深『それと戸棚の奥にお菓子があったので持ってきました』

照『―――誠子、尭深とすみれ交換してほしい……』

誠子『ダメです』キッパリ

照『なんで!?』

誠子『尭深は先輩の言うことなんでも聞きそうなのでダメですよ』

尭深『そうかな』テレリコ

菫『照がそれを望むなら私は構わんよ』

菫『入学以来ずっと照と暮らして愛着もわいているが、学園生活も残り1年弱あることだし交換するのも悪くないな』

尭深『先輩がそういうなら……』

淡(この感覚久しぶりだなー……一人だけ話題についていけなくて取り残されてる)

風花『ほらほら、そんなところでふてくされておらんでコッチに』グイグイ

淡『あ、どうも‥‥‥‥‥‥‥‥‥です』

風花『それと尭深、照ねえの世話は大変だぞ。今でこそ交代で家事をこなしているがそれでも朝にはめっぽう弱いんじゃから』

照『最近はちゃんと一人で起きてるもん』エッヘン

尭深『えっと……』

誠子『あはは……』

菫『それが当たり前なんだ』ペシ

照『また、叩いた! すみれはすぐ手が出る』

淡(やっぱり、部活中と全然雰囲気違うなー でもこっちの先輩の方が―――)

淡『そういえば、前から気になってたんですけどコーチってどういう人なんですか』

菫『うーん、そうだな……一言で言いあらわすのは難しいな。照はどう思う』

照『先生は楽しい事・ドキドキすることが好きな人だと思う』

菫『確かに、そんな節はあるな』

誠子『そういえば、先輩だけ名前で呼ばれてますけど理由とかあるんですかね』

照『理由って程でもないけど先生と出会ったのは中学の時だから、その時からずっと名前で呼ばれてるよ』

尭深『え、先輩って中学の時からコーチに指導してもらってたんですか』

菫『おや、初耳だったか。照は中3の時こっちに越してきたからだな』

菫『私は1年からだからもう6年になるかな』

風花『照ねえと菫ねえそしてあやつを加えた3人が同じ学校に居合わせただけでも恐ろしいのに』

風花『引き続き高校でも二人の指導をしてるんじゃからつくづく不思議な話よのう』

菫『あれであの人も世話焼きだからな』

淡(へぇ、もう一人すごい人が居たんだ。誰か居たっけさっきの口ぶりだとその人も今年3年の人だよね)


………
……

なんで更新バレたし。いや、反応があって嬉しいのですが放置気味ですし月1ペースの更新とかいろいろ思うところもありまして……


~~~~~


淡(結局あの後、話題が逸れちゃって先生の事あんまり聞けなかったなー)

淡(それに先輩が言ってたもう一人の選手の事も気になるし……ってダメじゃん。わたし)ブンブン

(大星ちゃん、目の前の対局に集中しないとダメだよ)

(そんなに自信があるのかなっと)ヒョイ

(うんうん。ここで来ちゃうよね♪)

モブA(なんとなく危ない気がする。それもかなり打点の高い手を張ってる)

モブA(……オリます)トン

(ふふん♪ Aちゃんはちゃんと気配を感じてオリたみたいだね。うんうん)トン

淡(その牌通るんだ……だったら!)トン

尭深(あ……ダメ。その牌は……)

「はい、それ ロン 8000だよ」

淡(情報が少ないと、やっぱり難しい……なんて言ってられないよね)

淡(でも、まだ一回振り込んだだけ、次こそ……)

「ツモ」

「それ、ロン」


………
……


淡(あの局から、コーチは連荘を続けてあっという間に点差が離れて)

淡(一回だけ上がれそうな気がした局も流局……)

尭深(流石コーチ、完全に流れを自分の元に引き寄せましたね)

尭深(それだけ淡ちゃんを警戒している証拠なんだけど、淡ちゃん自身どうすれば良いか悩んでるみたい)

尭深(一言言葉をかけてあげることさえできれば……)

尭深(このままじゃ……)ドクン

尭深「淡ちゃん、練習を思い出して」

「もー 対局中は静かにしていなくちゃダメじゃないさ 渋谷ちゃん」

尭深「すみません つい……」

「やっぱ大星ちゃんのこと気になるみたいだねぃ」

「うんうん、やっぱり渋谷ちゃんに任せて正解だったよ」

淡(先輩……)

淡(先輩は自分の練習があるはずなのに自分の時間を削ってまで指導してくれた)

淡(多分、私が帰ったあと残っで練習不足を補ってるんだと思う)

淡(時々すごく眠そうな表情してる時があるもん)

淡(でも私にそこまでの価値ってあるのかな……)

淡(期待が重圧に変わるってこーゆーことなの)

淡(私の武器は聴牌を遅らせることができる事と火力が高いことくらい)

淡(それにあの能力だって一度使ってしまえば後は制御不可能)

淡(あれから毎日家で練習してるけど未だにコントロールできない困った能力)

淡(上手く使いこなすことができれば、宮永先輩とだって互角に渡り合える自信だってあるのに)

淡(そりゃ確かに攻撃は最大の防御って良く言われてるけど、今の私は中学の時の私が少し周りに気を配ることができるようになっただけで
まだ牌に打たされているだけの選手)

淡(先が見えないのがこんなに苦しいなんて…… いっそ いっそこんな力なら、無い方がずっとマシだよ!)

 大星淡 今年麻雀部に入った新入生
 そのなかでも特に目を引く容姿をしている淡ちゃんへの印象はあまり良くありませんでした。 
 この娘みたいにかわいくて、麻雀も出来る子って居るんだ。
 いえ、そんなことは私にとってどうでも良かったのかもしれません

 
 ただ…先輩が淡ちゃんに興味を持っているって知った途端、私は淡ちゃんに嫉妬しちゃったんだ。
 私が必死になってようやく手に入れた場所『チーム虎姫』
 その席に座れるメンバーはごく少数で、いくら強くても適性が合わなければ座ることはできません

 なのに淡ちゃんは、最初から注目を浴びてて、すごく羨ましかったの。
 そこを弘世先輩に見抜かれちゃったのかな?
 何故か私が淡ちゃんの教育係に任命されて、部活の間は一番近くで面倒を見ることになっちゃった。

 それが却って良かったのかもしれないね
 
 淡ちゃんと接しているうちに、あれっ?って思うことが何度か有って……
 この娘は私と同じで自分に自信が無いんだって確信したの。

 片や虎姫の良心と呼ばれている渋谷尭深
 ゴールデンルーキー 大星淡

 傍から見れば変な組み合わせだって思われるかも知れないけど実は似たもの同士
 それが分かった途端、今まで対抗意識を燃やしていたのが馬鹿らしくなっちゃった。

 つまり何が言いたいかというと弘世先輩はちょっと狡い人です。でも、感謝もしています。
 そして私もまた狡い人間です。 
 わだかまりを心にしまったまま、徒らに時を過ごしていれば和解するのに時間が掛かったかもしれませんから……

 
 
 淡ちゃん……確かにコーチはかなりの実力者で今の実力じゃ太刀打ちできないかもしれないね

 でも、私はそれで良いと思うの。
 一番悪いのは実力を出しきれず中途半端な結果を残すことだから。
 
 ―――私もそれで失敗したから

 だから、淡ちゃんには私と同じ道を歩いて欲しくないの

尭深(思わず声を掛けちゃった。初犯だから許して貰えたけどもう一回やったら……)

尭深(私も同じ場面に立ち会ったことがあるから、今淡ちゃんが何を考えてるかなんとなく分かっちゃうんだ)

尭深(―――私も最初戸惑ったんだよ、最初に捨てた牌がオーラスになったら戻ってくるんだもん)

尭深(ほんのひと握りの人しか使えないはずの力が、まさか私ところにだもん)

尭深(多分、宮永先輩の麻雀を見たことが無かったらどこかで疑ってたと思うの。偶然なのか必然なのかってことを)

尭深(でも淡ちゃんには逆効果だったのかな? 近くに仲間がいた方が実力を発揮してくれると思ったからこの場所で見守ろうって思ったのに)

尭深(私も先輩みたいに別の部屋で待機していたほうが良かったのかな)

尭深(ごめんなさい)ジワッ テクテク


尭深(淡ちゃんが気づく前に涙を止めて戻らなきゃ……)

尭深(それまで、一人にさせちゃうけど頑張って)

淡(あれ? 尭深先輩がどこかに行っちゃう……)

淡(何で?どうして最後まで見ていてくれないんですか)

淡(やっぱり私が……情けない教え子でごめんなさい)

淡(もう二度と、今度こそ、約束を守るって決めてたのに、また私のせいで……)

「渋谷ちゃんは任された事はきっちりこなす娘だから大丈夫」

「当然大星さんなら分かってるよね」

「でも、女の子を泣かせちゃダ・メだよ」

淡「えっ!?」ビクン

淡(先輩が泣いてた? でも、それは私のせいじゃない?)

(でも良い判断だよ)

(大星さん ここ一番で、自分の殻を破れない娘にチャンスを与えてあげるほど白糸台麻雀部は甘くないよ)

(だから……もっとお姉さんを楽しませてほしいな)

(私が何度も対局したくなるような、それこそうちのエースみたいにね……)


淡「……」ブツブツ

淡(マケナイ 負けたくない!)

淡(決して優等生ではない私に一から教えてくれた先輩を泣かせちゃった)

淡(よく分からないけど、まだ私の事を信じてくれてる)

淡(こんな能力だけど必要だって言ってくれた先輩の為に……)

淡(そして、『自分より強い相手と出会ったとき、そこで立ち止まることができるのか……』)

淡(この言葉を本当の意味で理解する為にも)



              『私は勝ちたい』

ひとまずここらで一旦終了
年内にこの章を終わらせたい

Aパターン

 アリガトウゾザイマシター


 お疲れ様でした!


アッ、オオホシサン ドコニイクノー

アリャ、イッチャッタ・・・・・・マダケッカキイテイナイノニ

デモ、アノケッカナラ キクマデモナイヨ

ソウダネ サイショカラキマッテイタヨウナ モノダネ

~廊下~

淡(尭深先輩・・・私なりに今出来る精一杯の麻雀をしたつもりです)

淡(結局先生より上の順位にはなれなかったし、まだまだかも知れませんけど今はとっても清々しい気分です)

淡(・・・この気持ちが冷める前に先輩に沢山お礼を言わなきゃ)タッタッタ

風花「あ、ご苦労さん大星 終わったのか」

淡「あ、先輩 尭深さん何処に居るか知りませんか?」

風花「尭深? そっちの部屋に居たんじゃなかったのか?」

淡「そうですか・・・先輩ありがとうございました」ペコリ

風花「それはそうと結果はどうなったんじゃってもうあんなところに・・・肝心な事を聞きそびれてしまったわい」

風花「まあいいか・・・部室に行けばわかる事じゃ」

 「渋谷さん? 今日は来てないわ」

 「ごめんなさい、お力になれそうにないわ」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


 部室棟の中を一通り回って、もしかしたら他の部室におじゃましてるかもしれないと思って聞いて回ったけど、
 誰も尭深さんの居場所をご存知ありませんでした。


淡(どこに行っちゃったんだろ・・・先輩何処に居るんですかー)トボトボ

淡(次はあの人に聞いてみようかな・・・)

淡(確かどこかの部長さんで弘世先輩とも親しげに話してたから、何か知ってるかも・・・)

淡「あの、すみません ちょっとお聞きしたいことが―――」

モブ子「あら、貴女は菫ちゃんところの・・・(ふむふむ・・・なるほど見れば見るほど)」

淡「えっと、2年の渋谷先輩を探しているのですがご存知ありませんか」

モブ子「尭深さんのことね。ごめんなさい 今日はあいにく見かけていないのだけど、尭深さんがどうかしたのかしら」

淡「渋谷先輩に用事があるのですが・・・なかなかつかまらなくて」

モブ子「それは大変ね・・・うーんそうねぇ・・・その様子だと思いつく場所は大体回ったのよね」

淡「はい・・・」

モブ子「そうなると・・・多分あそこね」

淡「先輩は心当たりがあるんですか? 教えてください」

モブ子「あらあら、せっかちな子ね うふふ(噂通りの娘ね。あーあウチにも遊びに来てくれないかしら)」

淡「・・・」ジー

モブ子「あら、ごめんなさい その場所はね―――」

~校内遊歩道~

淡(中庭も探したけど、尭深先輩はいませんでした)

淡(でも、本当にこんなところに尭深さん居るのかな?)キョロキョロ

淡(先輩の話だとこの辺だよね)

淡(あ、本当に道がある。これ、先輩から話を聞いてなかったら通り過ぎてたかも・・・)


淡「せんぱーい」

淡「どこに居るんですか 尭深さーん」

「・・・・・・」

淡(返事はなしっと。もし、ここが外れだったら次はどこを探せば・・・屋上? それとも荷物を置いたまま帰っちゃったとか?)

淡「このまま会えなかったらわたし・・・嫌だよ」

淡(確か、この道を抜けて温室の横にあるベンチがお気に入りの場所なんだよね)

淡(お願い、尭深さんそこに居てください)

淡「渋谷せんぱーい」


尭深「―――気のせいだよね。だって淡ちゃんは個の場所は知らないはずだもん」

淡(やっと見つけました。尭深さん)

淡「せんぱ―――」

尭深「もう終わっちゃったかな? ふうっ、部室に戻りたくないよぅ・・・」

尭深「淡ちゃんの結果を聞くのすごく怖いな・・・」

尭深「一人で悩んでいたって何にも解決しないのに・・・私どうすれば良いの?」

淡(尭深さんが落ち込んでる、先輩が落ち込む事ないのに・・・)

淡(ここまで来たんだもん。勇気を出さなきゃ)

淡「渋谷先輩、やっと見つけましたよ」

尭深「え、淡ちゃん!? どうして?」フキフキ

淡「やっと見つけました」

尭深「見つかっちゃったね・・・」

淡「この場所を見つけるまで道行く人に先輩の事聞いたり、教室の方にも行ったりしてもうとにかく大変でした」

淡「こんなところに隠れて、もしかして私に見つかりたくなかったとかですか?」

 
尭深「そんなことないよ。ちょっと一人になりたくていろんなところを彷徨ってるうちにここにたどり着いたの」 

淡「でも、そんなのどうでも良いです。こうして先輩を見つけることができました!」

淡「心の中どこかで、もし先輩に拒絶されたらどうしようって……それだけは心配でした」

尭深「私がそんなことするわけないよ」

淡「先輩はそういう方ですよね。分かってます。でも直接言われなければ分からないこともありますから」

淡「それに、私決めたことがあります。聞いてください」

淡「私はもっと先輩の事が知りたい、もっと私の事を知ってほしいんです」

淡「そして先輩の前だけは、素の自分をさらけ出そうって」

 尭深さんは私の言葉を飲み込もうと必死に頭を働かせているみたいです。
 そして、私は畳み掛けるように言葉を続けました。


淡「あとこれは我儘なお願いかもしれません。でも、先輩にしか頼めない事なんです」

淡「実はあの後、私約束を破って能力を使ってしまいました」

淡「それでも、先生には敵いませんでした・・・・・先生は上手くて高くて麻雀のことが大好きなんだって伝わってきました」

淡「だから私ももっと麻雀が上手くなるように、引き続き尭深さんに指導してほしいんです」

淡「ダメですか?」


 それからしばらく私たちのあいだには沈黙が流れました。
 その時間は私には何分にも感じましたが実際にはもう少し短かったみたいです。


尭深「・・・淡ちゃんひとつ聞いても良い? どこも痛いところないんだよね」

淡「そんなのいつの間にか消えちゃいました。ただただ、先輩を探すのに必死で」

尭深「頭痛? それともカラダ? どっちにしても症状があったんだよね」

淡「ごめんなさい でも―――」

尭深「でも、今はもう大丈夫なんだよね」

淡「はい、このとおり・・・あ、あれ? 安心したら急に」フラッ

尭深「淡ちゃん?」ダキッ

淡「せん・・・ぱい・・・すみません ありがとうございます」

淡「はぁ はぁ ちょっと疲れちゃったみたいです。でも、少し休めば大丈夫ですから」

尭深(こんなになるまで私の事を探してくれたの・・・)

尭深「私の事、必死になって探してくれたからだよね。淡ちゃんごめんね。疲れてるのに心配かけちゃって」

尭深「横になれる場所案内するから、続きはまたあとにしよ。少し我慢してね」

淡「えっと・・・確かに良い眺めですけど」

尭深「ここ、私のお気に入りの場所なの」

尭深「まだ少し時期が早いから色とりどりというわけにはいかないけど、もう少し暖かくなったら見に来てね」

淡「あ、はい それはもちろん・・・それでひとつ質問が」

尭深「なぁに?」

淡「どうして私の頭が先輩の膝の上にあるんでしょうか」

尭深「ここなら下が芝生だから痛くないし、横になれる場所の方がゆっくり休めるかなって」

淡「ふかふかでとっても気持ち良いです」

淡「でも、この体勢はちょっと」

尭深「これは私からのご褒美だよ。それにこの体勢淡ちゃんの顔がよく見えるから嬉しいな♪」

淡「私は先輩の胸が邪魔であんまり見えませんよぉ」

尭深「―――ねえ、淡ちゃん さっきの話本気なのかな」

尭深「もし、それが淡ちゃんの希望なら私は叶えてあげなきゃいけないよね」

尭深「うぅん、むしろこっちからお願いします」

淡「良かった・・・これで、明日から安心して部活に励めそうです・・・」コクリ

尭深「眠っちゃっても良いよ」

淡「じゃあお言葉に甘えて少しだけ・・・」

尭深「淡ちゃん?」

淡「・・・」スヤスヤ

尭深(ふふっ、やっぱり相当疲れがたまってたみたいだね 淡ちゃん)

尭深「最後までよく頑張ったね。淡ちゃん」ナデナデ

尭深(私はもうどこにも行かないから、今はゆっくり休んでね)

尭深「淡ちゃんだって、勇気を出してくれたんだもん。私もそれに応えなくちゃいけないよね」

尭深(淡ちゃんの寝顔見てたら私も少し眠くなってきちゃった・・・)

尭深(わたしも・・・少し眠いな・・・少しだけ・・・おやすみなさい)


風花「あと探してないのはここだけじゃな。おーい」

風花「ふぅ、やっと見つけたぞ。あ、大星も見つけたみたいじゃな」

風花「・・・ってなんじゃ二人とも寝てるのか」

風花「仕方のない師妹じゃ、まあ三人で謝れば菫ねえだって許してくれるじゃろ。仕方ない・・・もうしばらく寝かせておいてやるか」

風花「まあ、それはそれとして・・・・・・二人の無防備な表情をカメラに収めても罰は当たらんはずじゃ」カシャ パシャ

風花「・・・よしよし、よく撮れておるわい―――」




                 


                   「おめでとう、淡」

Bパターン

>>172より分岐

尭深「そろそろ淡ちゃんの試験終わる頃かな」ハア

尭深「……」

尭深「これじゃあ、人のこと言えないな。あそこで見守るのが今日の私の役目だったのに逃げちゃって」グスン

尭深「この半年で強くなったと思ったのにまだまだだったみたい」

尭深(もう少し…もう少しだけ心の整理を付けてそれから・・・)

尭深(とりあえず戻ったら、最初に淡ちゃんを抱きしめて褒めてあげなくちゃ」

 
 センパーイ

 どこに居るんですか 尭深さーん


尭深(何て声を掛けてあげようかな、やっぱりお疲れさま? それとも途中で部室を出ちゃったこと謝ったほうが良いかな)

尭深(顔を見たら何も考えられなくなっちゃいそうだから、先に決めておかなきゃ)コクコク


 渋谷せんぱーい


尭深「今、誰かに呼ばれたような…… 多分気のせいだよね」

「気のせいじゃありませんよ 渋谷先輩」

尭深「え、淡ちゃん!?」

尭深(ここは滅多に人が通らないから絶対見つからないと思っていたのに)

淡「まったく……探したんですよ。尭深先輩」

淡「こんなところに隠れて、もしかして私に見つかりたくなかったとかですか?」

 
尭深「違うよ。私はただーーー」 

淡「でも、そんなのどうでも良いです。ちゃんと先輩に会えましたから!」

淡「でも内心、先輩を見つけるまで不安でした。もし先輩に突き放されたらどうしようって……」

尭深(そんなことするわけないよ淡ちゃん)

淡「だから私決めたんです」

淡「もっと自分に素直になって我儘になろうって」

淡「だから先輩……たとえ今回試験に合格できなくても引き続き私の指導を続けてほしいんです

淡「ううん、尭深さんに教えてもらいたいんです」

尭深「それは……」

淡「何度でも言います。私は尭深さんの一番近くに居たいんです」

淡「それとですね。私少しずつなんですけど自分のやりたい麻雀がおぼろげに見えてきている気がするんです」

淡「この感覚を手放したくないというか」

淡「えへへ、先輩にとっては迷惑な話ですよね」

尭深(嬉しい。そこまで私の事を信じてくれているなんて)

尭深(ホントなら喜んで受ける話だと思うけど、それって淡ちゃんの為になるのかな?)

尭深(もっと他に適任者、たとえば弘世先輩とか上を目指すならふさわしい人が居る)

尭深「ダ…ダメだよ。それにこんなところ誰かに見られたら……」アセアセ

淡「そんなこと言ってまた逃げる気ですね。その手には乗りませんよ」ギュッ

尭深「淡ちゃん……ちょっと苦し……」

淡「は な し ま せ ん」ギュー

尭深「ちが……くびが……(あ、ダメかも……)

尭深「……」

淡「あれ? 先輩……尭深せんぱーい」ペチペチ

 ちょっとやりすぎたかも……反省です。
 でも、さっき先輩に伝えた気持ちは紛れもなく私の本心です
 出会ってからまだひと月も経っていないというのに、私の心の中を占める先輩の割合が日を追うごとに大きくなって『大切な存在』となりました。
 今でも宮永先輩とお話をするときは緊張してしまいますが、尭深さんや弘世部長のお心遣いによって少しずつ話せるようになってきました。
 動機は不純かもしれませんが、白糸台を選んで本当に良かったです。



風花「―――な~に、綺麗に話をたたもうとしとるんじゃおぬしは」ペチ

淡「痛っ、バレちゃいました? 上手く次につなげると思ったのに……」ムスー

淡「でも何でここに先輩が…?」

風花「二人とも行き先を告げないで勝手に部室を出てったから手が空いているモノ達を動員して探したんじゃ」

風花「ようやく見つけて声を掛けようとしたら、ちょうど大星が渋谷をオトしてる場面を目撃したというわけじゃ」

風花「良かったのぅ。これが菫姉だったら大目玉をくらっておるところじゃぞ」

淡「それはその、尭深先輩に一番に報告したくて飛び出しちゃいました」テヘ

風花「てへっじゃないわ、やっと見つけたと思ったら二人でいちゃこらしてる場面に出くわすわ首絞めて墜とすわ何でもありだな」

淡「いちゃこらなんてしてませんよ。尭深さん起きてください。尭深さーん」ペチペチ

尭深「うーん うーん」

風花「そもそも大星、結果も聞かずに飛び出して何を報告するつもりだったんじゃ」

淡「あっ」

風花「あ…じゃないぞ。やれやれ、毎度尻拭いさせられておる気がするのう」

淡「えへへ」

尭深「……あれ? 淡ちゃん? それに風花だよね どうかしたの?」キョトン

風花「やっと気づいたか。気分はどうじゃ?」

尭深「痛い所はべつにないかな」

尭深「あ、ごめん淡ちゃん重いよね。すぐ退くから。とりあえず起きるね… あう……」フラッ

淡「まだだめですよ。もう少し寝ててください」メッ

尭深「そんなこと言われても……この姿勢だと……その…」モジモジ

尭深(淡ちゃんのまつ毛長いなーとかほんのり香る香水の匂いとかいろいろ意識しちゃうよ)

淡「メガネなしの先輩って新鮮ですね。もーあばれない あばれない」

尭深(ギリギリ淡ちゃんの顔は見えるけど、他に近くにいるのは風花だけだよね)ブルブル

尭深(こんな所、他のに見られたら……恥ずかしいよー)

風花「ああー(こほん)そろそろ話を元に戻しても良いか」

尭深「……うん」ドキドキ

風花「大星の試験の結果じゃが……合格だそうだ」

淡「―――ごう…かく・・・それホントですか」

風花「嘘を言ってどうする嘘を」

風花「得点こそコーチより下だったがオーラスはなかなか見ごたえがあった」

風花「褒めてしんぜよう」

淡「ありがとうございます」ペコリ

淡「前々から思ってましたけど、先輩時々難しい言葉使いますよね」

風花「何をー」ムニムニ

淡「いひゃいれふ しぇんぱい。もぅ これだけ痛いってことは夢じゃありませんね」ムニー

尭深(すっごく嬉しそう、この数分でコロコロ表情が変わっているけど、どの淡ちゃんも魅力的で……)

尭深「おめでとう淡ちゃん」

淡「ありがとうございます。これも尭深さんのおかげです」

尭深「うぅん、淡ちゃんがさいごまで頑張った結果だよ」ヤッタネ

淡「尭深さん……」ジーン

淡「そうだ、ひとつお願いしても良いですか」

尭深「私にできることなら……良い…かも」ポッ

淡「やった。じゃあ私が良いと言うまで目を閉じててください」

尭深「いいけど……」ドキドキ

淡「せんぱーい 見えてませんよねー」フリフリ

尭深(お願い事ってなにかな……少女漫画とかだと……はわわ)ギュー

淡「えいっ♪」ペチン

尭深「ふぁっ!?」

淡「ーーー引っかかりましたね」

尭深「ひどいよ淡ちゃん てっきり……」

淡「先輩は何を想像してたんでしょうね」ニヤニヤ

尭深「もう知らない」プンダ

淡「フ~」

淡「すねた先輩かわいいかったです」ボソッ

尭深「はうっ、耳はダメ……なの」

淡「仕方ありません、かくなる上は……」チュッ

尭深(あれ? 今何か淡ちゃんにされたよね? え? キ、キキキスされちゃった)

尭深(お、おでこにだけど…… って私なんでがっかりしてるんだろ)

淡「それじゃ、私先に部室に戻りますね」タッタッタ

尭深(今のどう言う意味なのかな)モンモン

風花「こりゃまたひと波乱起こりそうな気がするのう」

尭深「今何か言った?」

風花「いいや。私たちももう少し経ったら戻るからそれまでにその顔どうにかするんじゃぞ」

尭深「分かってるよ」


そんなこんなで淡ちゃんの試験は無事終了しました。
とはいえ、淡ちゃんからイタズラの意図を聞き出す勇気がなかなか出なくて
これから数日間私は悶々とした日々を過ごすことになるのでした。


これにて、この章はおしまいです
当初思い描いていたのはこちらBパターンでしたが、いろいろと無理やり感が否めないので
急遽Aパターンを書くことにしました。
ですので、正史と演義位の違いだと思って頂ければ幸いです
この続きはそうかからないと思いますが、一応1月中の更新を目指します

それでは良いお年を~

淡「すみませーん」タッタッタ

淡「はぁはぁはぁ・・・・・・お待たせしちゃってすいません」ペッコリン

尭深「大丈夫、たまたまHRが早く終わっただけだもん。それよりじっとしてて・・・」スッ

尭深「待ち合わせ時間に遅れないように急いで降りて来てくれたのは嬉しいけど、汗かいちゃってるよ」フキフキ

淡「あの・・・その・・・ありがとうございます。あとは自分でできますから」アワワ

淡(もう・・・尭深さんってばすぐ私の事 子供扱いして・・・そりゃいつも先生してもらってるけど)モゴモゴ

尭深「でも今日は特に暖かかったから仕方ないかも」

淡「これ、洗って返しますね」

尭深「そう? 私は別に気にしないのに」

淡「私が気にするんですよー」ムキー

尭深「やっぱり、淡ちゃんはかわいいなー」ニコニコ

淡「またからかって・・・最近私に冷たくないですか?」

尭深「そんなことないよ 前と同じだよ♪」

淡「むむむ・・・」

尭深『ニコニコ』

淡「・・・」

尭深「私達、最近顔を合わせるたびこんな会話ばかりしてる気がするね」

淡「そんなこと・・・なくもないかもしれなくもないですね」

尭深「それだけ、淡ちゃんが私たちの空気に馴染んできたってことかも」コクコク

淡「あれからもう、一週間経つんですよね・・・。白糸台に通うようになってから時間が経つのが早く感じます」

尭深「IHまであっという間だから、一緒に頑張ろうね」

尭深「ところで淡ちゃんは先輩たちと話すのもう慣れた?」

淡「宮永先輩たちとは何とか・・・他の先輩方と打ち解けるにはもう少し掛かりそうです」

尭深「そっか・・・自分のペースで良いから少しずつ前に進んでいこうね」

淡「が、頑張ります」

尭深「うん、うん その調子だよ」

淡「でも、私 尭深さんや亦野さんが居なかったらこんなに早く打ち解けなかったと思います。いつも私に話しかけてくださいますし」

淡「宮永先輩と弘世部長はいつも忙しそうにしてるので、二年生のお二人にはどれだけ助けられているか」

尭深「二人は大切な友達と教え子さんだから・・・これからもよろしくね」

淡「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」


淡「でも、今日は本当に良かったんですか? 今日の用事って弘世先輩に指名されたのは風花先輩と私だけですよね」

尭深「私が部長に頼んだの・・・・・・。風花はあんまり体が丈夫じゃないから当日になって都合が悪くなる時もあるの」

尭深「だから、そんなときはできるだけサポートしてほしいって頼まれているの」

尭深「それに・・・淡ちゃんにあんなに熱烈で情熱的な告白を受けたんだもん。私の時間が許す限りお世話してあげたいって思うのはダメ? かな?」

淡(そんなこと言われたら、はいって言うしかないじゃないですか)

淡(今、顔を見られたら照れてるって絶対バレちゃうよー)

尭深「それにね。あそこに淡ちゃん一人で行かせるのはちょっと危険だし、そろそろ顔を出しておこうと思ってたところだから・・・」

淡「へっ危険って、私達そんなに危ないところに行くですか!?」

尭深「あ、風花から少し遅れるけど、必ず来るってメールも来たから心配しないで」

淡「スルーしないでくださいよ・・・そういえば、今更ですけど先輩って時々学校休んでますよね。どこか悪いんですか」

尭深「どこが悪いか・・・・・・実はその質問はすごく答えづらい質問なの」

淡「もしかして聞いちゃまずい話なんですか」

尭深「そんなことも無いんだけど・・・あの娘が車椅子に乗ってるのと、食事制限してるのは淡ちゃんも知ってるよね」

淡「はい。この前お昼を一緒にしたとき、聞きました。あと、退院した日もご一緒したので」


照『はい、これ風花のお弁当だよ。ちゃんと、レシピ通り作ったからカロリー計算ばっちりしてあるよ』

風花『すまんのぅ。一人分作るの面倒じゃろうに』


淡「その時は、ちょっとおかしいなって思ったくらいだったんですけど、後で考えるとちょっと変だなと」

尭深(それだけなら、問題ないんだけどね・・・)

淡「今も通院してるって事は、どこか悪いのかなって」

尭深「――淡ちゃんは、風花の事よく見てるね」

淡「え・・・それってどう言う意味ですか?」

尭深「うぅん、何でもないよ。ありがとうって話」

淡「はぁ・・・そうなんですか?」

尭深「それ以上の事は私の口からは言えないかな。もっと詳しい事が知りたいなら本人に聞いてみたら教えてくれると思うけど・・・」

尭深(上級生でも、上の方じゃないと風花の事情知らないから仕方ないって言えばそれまでなんだけど、
   風花の場合本人があの通りの性格だから同じクラスの娘でも気づいてるのはほんのひと握りだと思うし、予備情報が無いと気づかないもん)

尭深(私が知ってるのも、本当にたまたま たまたま席が近くて 同じ部活で たまたまあの場に居合わせただけだもん)
   
淡「今はやめておきます。この事、先輩にはヒミツにしてください」

尭深(・・・・・・淡ちゃんだから だよ。他の娘だったら多分聞かれてもはぐらかしちゃう・・・・・・)

淡「―――そろそろ約束の時間ですね」

尭深「え、うん。そうだね。じゃあ淡ちゃん行こっか」


 風花さんは、宮永先輩と弘世部長と同じ中学に通っていた。
 そして、高校も同じ・・・・・・
 確かに、先輩たちが通っていた中学と白糸台は同じ沿線にあって学校を選択する上でも同じ選択をする可能性はあるでしょう

 しかし、先輩たちが風花さんに接する態度は他の二年生とは少し違う気がします
 宮永先輩はともかく弘世部長は上下関係に厳しいので、その態度には首をかしげています

  まだまだ、私の知らない事がたくさんありそうです。
  たとえばもう一人の3年生、お部屋にお邪魔したとき掛かって来た電話の相手も気になります





淡「茶道部にお使いって一体どんな用事なんでしょうね」

尭深「淡ちゃんは知らないかな。うちは人数多いから、時々ヘルプを頼まれることがあるの」

尭深「特に弘世部長と茶道部の部長さんは三年間同じクラスで仲が良いこともあって一番多いかな。
   それと他の文化部との交流も盛んなこともあって時々話が回ってくるの」

淡「そうみたいですね。私が白糸台を受けるって決めた時もう学校説明会終わってたのでその辺の事はよく知らないんですけど、この前モブa子と話してた時話に出ました」

尭深「a子ちゃんっていつも淡ちゃんと一緒にいる娘だよね」

淡「はい、白糸台に入って一番最初にできた友達です」

尭深「a子ちゃんも早くこっちに来れると良いね」

淡「私もそうなったらすごく嬉しいんですけど、本人は『も~嫌 みんな強すぎるよ~』っていつも私に愚痴って来るんですよ」

淡「でも、その次の日にはケロッとして授業が終わるとすぐ私の手を引いて部室に行こー なんて」

尭深(いきなりあんなことになったから、やっていけるか心配だったけど)

尭深「引っ張ってくれる娘の方が似合ってるのかもしれないね」

淡「そんなことは・・・なくもないとは言えない・・・かもしれません」

尭深「でも、どうして淡ちゃんを指名したのかな? 他にも一年生の娘居るのに」

淡「あ、それは多分アレです」

尭深「アレ・・・? 淡ちゃんは心当たりあるの?」

淡「はい、実は先輩を探している途中で部長さんに会って、先輩の隠れていそうな場所を聞いたのでその時に私の顔を覚えたんだと思います」

淡「あれ? でも部長さんには私の名前伝わってないはずなんですけど・・・」

尭深(なるほど、だから私の隠れている場所が分かったんだ・・・・・・あれ? 何で私ちょっと残念だなって思ったのかな)

尭深(勝手に飛び出して、一人で悩んでて、見つけてくれたのにそれが人から聞いたものだと分かっただけでこんな気持ちになるなんて・・・)

尭深(そっか、私は淡ちゃんのこと・・・・・・だったら)

尭深「実はね、淡ちゃんって上級生の間で人気あるんだよ」

淡「え、どうしてまた私なんかが?」

尭深「そういうところも、淡ちゃんの魅力だよ」

淡「???」

尭深「ほら、麻雀部ってうちで一番人気のある部活でしょ。それに宮永先輩は2連覇中で今年3連覇が掛かってるんだもん
   その麻雀部で4月に一軍に入った娘が居るってなったら注目されて当然だよね」

尭深「・・・それに、淡ちゃんはかわいいから」ボソッ

淡「そんなぁ 私なんて・・・(たまたま・・・なんて言ったら失礼だよね)先輩のおかげです」

淡「そ、それを言ったら尭深さんの方がクラスの娘に人気ありますよ」

淡「私の指導をしていただいていた時も、『大星さん、羨ましいなー 渋谷先輩に手取り足取り教えてもらってるんでしょ』とか
 『渋谷先輩は優しそうだから、代わってよ。弘世先輩はちょっとこわ・・・あ、待ってください。別にそんなつもりじゃ ア~レ~』って散々言われましたし」

淡「一度だけ迎えに来て頂きましたよね。その後、『大星さん、一生のお願い 先輩を紹介して』って何人にもお願いされちゃいました」

尭深「手取り足取りなんてしてないのに・・・・・・弘世部長にはいつも『渋谷は少し甘やかしすぎだ』怒られてるよ」

尭深「とにかく、淡ちゃんは学校中の注目の的だから上級生の教室に来るときは気をつけてね」

淡「これから廊下を歩くのがちょっと不安になってきました」

尭深「大丈夫大丈夫、遠くからそっと観察される位だと思うよ。それにいくらあの人でも酷いことはしないから・・・たぶん」

淡「たぶんって何ですか!?」

尭深「それは会ってみてのお楽しみってことで♪」

淡「かえりたいです・・・」

尭深「もう、すぐなんだから覚悟決めようね♪ さあさあ」

モブ子「あら~ 渋谷さん、貴女もいらしたのね」

尭深「最近、茶道部に顔を出してなかったので大星さんの付き添いとして来ちゃいました」

モブ子「練習で忙しいのは重々承知してるつもりだけど、時々で良いから顔を出してくれると嬉しいわ」

モブ子「大星さんもこんにちは」

淡「こんにちはです。麻雀部のお使いで来ました」

淡「そういえば、この前はありがとうございました。あの後無事渋谷先輩を見つけることができました」

モブ子「お役にたてたようで何よりだわ。すみれはちゃんと約束を守ってくれたようね」

淡「すみれ・・・(部長の事だよね。部長って同級生には名前で呼ばれてるのかな)」

モブ子「あら、すみれには秘密よ。あの娘ったら名前で読んだら怒るんだもの」

モブ子「あーもっと、すみれと仲を深めて名前で呼び合うような関係になりたいわ」ウットリ

モブ子「そしてゆくゆくは、貴女達も・・・」ジー

淡「えっと、冗談ですよね」

モブ子「あら、心外ね、私はいつも本気よ」

淡「はわわわわ」ガクガクブルブル

尭深「(これさえなければ尊敬できるのに・・・)」スリスリ


「独り占め禁止ですっ」「あ、大星さんだ~」「たかみー おひさー」
「貴女達、今良いところなんだからもう少し待ってなさい」「えー 私もお話したいよ」グスン

「ああ、もう分かりましたから、二人を案内すれば良いんでしょ」
「やったー」



淡(宮永先輩とか風花さんは下の名前で呼んでるよね。でもでも・・・)ポワポワ



モブ子「大星さん、渋谷さんようこそ我が茶道部へ 歓迎するわ」

淡「はっ、ホントに入っちゃって良いんですか? そのままお持ち帰りされたりとか・・・・・・」

尭深「そうなったら、私が守ってあげるから安心してね」

淡「絶対ですよ・・・尭深さん」

「すっかり警戒されてますねー うちらは怖くないですよー」ワキワキ「その手つきはやめたほうがよさそうだよ~」ボッチジャナイヨー

なんやかんやあって入室

カポーン


モブ子「大星さんは、お茶は初めてかしら?」

淡「はい、(ここが茶室かー TVとかでは見たことあったけど自分の目で見るとまた違った趣があるかも)
  私、抹茶飲んだことないので昨日弘世部長からこの話を聞いて楽しみにしてました」

淡「それに茶道っていかにも女の子って感じで子供の時から憧れだったんです」

モブ子「あら、茶道部の部長としては嬉しい言葉ね。そのうち、授業で飲む機会もあると思うけれど・・・・・・
    どう? せっかくだし、話をしながらでもよければ体験してみるかしら?」

淡「是非!」ヤッタ

モブ子「そうと決まれば準備しなくちゃね。貴女達」

「はーい」ガシッ

淡「あのー なんで私両脇に抱えられてるんでしょうか」

モブ子「せっかくだし、衣装もそれらしいものに着替えてもらおうと思ってね
    大星さんは着物も似合いそうだわ」

淡「(こんな時こそ尭深さんに助けをもとめなきゃ)って、先輩?」

尭深「今、手が離せないの ごめんねー」

淡(そんな、ここに居る唯一の味方が・・・)

「じゃあ、あっちで脱ぎ脱ぎなのですよー」「こんな時のために予備を置いといて正解だったの~」


淡「あ、ちょっと待って ダメです。そんなところ触っちゃ」

淡「いえ、ですから 一人でできますから、話を聞いてくださいよー」

「ふんふむ、意外にあるみたいですよー」モミモミ 「私も私も~」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

すまぬ、もう少しやるつもりだったけど一旦区切らせていただきます

尭深(最後に鏡で確認・・・・・・後ろ・胸元・帯も うん 大丈夫っ)

尭深(そろそろ淡ちゃんも着替え終わった頃かな?)

尭深「淡ちゃん、そっちはどんな感じ?」クルッ

淡「尭深さんダメです。まだ心の準備が・・・・・・」

尭深「準備ができたら呼んでね」ウキウキ

淡「・・・・・・先輩のイジワル・・・・・・もうお嫁に行けませんっ」ウルウル

淡(いくら私が着慣れていないとはいえあんなに密着して着付けをしてもらう必要ないよね)

淡(胸とか内腿とか胸とかいろんなところ触られたー)ショボン

尭深「ほらほら、柱の陰に隠れてないで、早く淡ちゃんの晴れ姿見せてほしいな」

淡「うー 尭深さんは良いですよね、ホームなんですから」

淡「私だけアウェーなんですよ」ブツブツ

 「何を言っているんですか、すごくお似合いなのですよー 私が保証します」「コクコク」

淡「先輩方まで・・・・・・やっぱり、見せなきゃダメでしょうか?」

淡「いえ、そんな顔で見ない下さい、じゃあ見せる前に一つ約束してください。似合っていなくても絶対笑わないで下さい」

淡「絶対ですよ」

尭深「早く早く♪」ワクワク

淡(尭深先輩だけは信じてたのに・・・・・・でも、ここで隠れてても埒が明かないし仕方ないよね)フウ

淡「振り向いて良いですよ」

淡「ど、どうですか」モジモジ

モブ子「予想以上の出来栄えね。すばらっ」

尭深「お持ち帰りしても良いですか?(淡ちゃんかわいい)」

淡「ふきゅっ!? いつの間に!?」

淡(見られてる、四つの瞳に上から下まで見られてるよー)

淡「(もう・・・ダメ)やっぱり、制服に着替えます 返してくださいよー」

尭深「すごく似合ってるからつい本音が出ちゃったの、ごめんね」ペッコリン

淡(お願いですからいつもの先輩に戻って下さいよぅ・・・・・・)グスン

淡「ひっく、ひっく」ワーン

尭深「そんなに、泣かなくても良いのに・・・苦しいところとかない? 大丈夫」ヨシヨシ

淡「しゅごく締め付けられて、お腹が苦しいでしゅ」ヒック ヒック

尭深「結構締め付けるもんね。慣れてないと苦しいよね」ダキッ

淡(尭深先輩に抱きしめられると胸のあたりがすごくあったかくなって心が落ち着くなー)

淡「ですよね・・・私だけじゃありませんよね・・・」ポロポロ

尭深「どうする? やっぱり、制服にする?」

淡「(ブンブン)折角、着替えたので・・・・・・」

尭深「辛かったら言ってね」フキフキ

淡「チーン」プハッ

淡「えへへ」

 その後、再び暴走を始めた部長から何とか貞操だけは守りきった(?)私は隣の部屋に移動し腰を下ろしました。
 紆余曲折ありましたが、ようやく本題に入ることができそうです。
 正直なところ、ここまでの騒動でかなり体力を使ってしまい最後まで体がもつか不安になってきました

 こちらの部屋に移動してからは、部長さんも本来の仕事を思い出したのか粛々と準備を進めています

 
淡「先輩、私お茶の作法とか全然知らないんですけど、大丈夫でしょうか(小声)」

尭深「そこまで畏まらなくても平気だよ。一日限定の入部みたいな気持ちで気楽に気楽に」

モブ子「そうよ、私たちの方針は来るものは拒まないから、今日の体験で少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいわ」シャカシャカ


 流石、部長さんです。素人の私から見ても美しい手捌きで目を奪われてしまいます
 本当に先ほどと同じ方なのかと自分の目を疑いたくなる気持ちにかられますが、そこは我慢することにします
 それほど、さっき程迄の印象とないから何まで違います

 そうこうしている間に、部長さんは手を止め静かに私の前に器を置きました。
 先輩の説明によると、一つの椀で同じ濃茶を回して飲んでいくもののようです
 

淡「いただきます・・・」ズズズ

淡(ううっ、苦いよ・・・・・・でも、甘いものと一緒ならまだマシかも・・・・・・)パクッ

尭深「――淡ちゃんにはちょっと早かったかな?」ニコニコ

淡「ごめんなさい、正直言ってあんまりおいしくありません」

モブ子「あらあら残念だわ、せっかく新入部員一人獲得だと思っていたのに」

モブ子「でもまあ、私も初めて触れたときは大星さんと同じ反応だったわけだし仕方ないわよね」

モブ子「こんなに苦いものを飲むだなんて、物好きもいるものねって」

尭深「実は私も・・・・・・なんです」

尭深「たまたま親に連れて行ってもらって体験したの」

尭深「今でも覚えているのはやたら苦い飲み物だったって事と、横に出されていたお菓子の事」

モブ子「渋谷さんはそっちなのね。私は周りの風景とか主人の佇まいなんかが心に残っているわ」

淡(私はどっちかな? 苦いお茶とお菓子の組み合わせも捨てがたいけど、さっき見た部長さんの立ち振る舞いと、
  この部屋の雰囲気、そしてさりげなく花が生けてあるところとか)

淡(面白そう)

モブ子「大星さんもこれを機会に興味を持ってくれたら嬉しいわ」

尭深「ほらね、やっぱり人気あるでしょ」

淡(うー 自分の知らないところで話が大きくなってる気がする・・・)

モブ子「あら? 満更でもなさそうね 今からでも遅くないわ 手続きをしてしまいましょう」

尭深「それはお断りさせてもらいますね。流石に大切な後輩を奪われるのを見逃すわけにはいきませんので」

モブ子「あらあら」ウフフ

尭深「まったく・・・強引なんですから」ズズズ

モブ子「うふふふふ」

「次は私ですねー」「その次は私なのですっ」

淡(でも、この人達の事は好きになれそうな気がする・・・・・)

モブ子「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

尭深「私達結構長居しちゃってますけど、良いんですか?」

モブ子「別に良いわよ。今日の予定は半分大星さんと渋谷さんをおもてなしする為の会ですもの、もう半分はあの娘が来るまでの時間調整だけど」

モブ子「本当は同じことを二回も話すのは面倒だから避けたかったのだけれど、この分だと間に合わなかったみたいね」

尭深(弘世先輩も織り込み済みなのかも? 私が話に行ったとき来るのが分かってたみたいな様子とか)

モブ子「えっと何から話せば良いかしら・・・・・・そうね、渋谷さんはご存知でしょうけど、うちは活動内容もあって少数精鋭なの」

モブ子「だから、大きなイベントとかになるとどうしても人手が足りなくってね・・・・・・」

淡(この部屋に二十人も三十人も収容するのは無理だもんね)

尭深「そこで駆り出されるのが、私達麻雀部ってことなの」

モブ子「昔からの慣例って訳でもないのだけど、大事な交流の場になっているのは間違いないわね」

淡「あ、もしかして、来月開かれるイベントのことですか?」

モブ子「そうね、その時、私達茶道部がちょっとした茶会を開いて全校生徒をおもてなししているの」

尭深「他のところもその日に向けていろいろ企画を立ててるから、この時期は何かと忙しいの」

尭深「実質的に部員を勧誘する最後のチャンスだもん」

淡「じゃあ、私たちも何かするんですか」

尭深「公開試合みたいなのはあるけど、他は特にないかな」

モブ子「麻雀部の場合は入部したい人は真っ先に手を上げるからその必要もないってことね」

尭深「表現が正しいか少し不安だけど文化祭は外に向けてのイベントで、今度開かれるのは内向きで一種の発表会みたいなものかな」

淡「あ、その説明はわかりやすいです」

モブ子「去年といえばテルテルが対局者を全員トバしちゃって大変だったわね」

尭深「そういえば、そんなこともありましたね」

淡(宮永先輩ってば容赦ないなぁ、でもそんなところも先輩らしいというか・・・)

淡(でも、テルテルって可愛いあだ名・・・私も今度呼んでみよっかな)


 その後、簡単な打ち合わせと次回の会議の予定を決め今日の予定は終了しました。
 本格的な準備が始まるのはもう少し後になりますが当日は助っ人として一、二年生の何人かが手伝う事になり
 それに伴って、着付けの講習会が開かれる事も併せて決まりました。

  当然の事ながら、私もその一人に選ばれたので参加することになります
  覚えて損ではありませんし、自分は髪が金髪なので着物とかはあんまり・・・・・・と敬遠していましたが、
  今日尭深さんや部長さんに褒められ、ちょっと挑戦してみたくなったというのもあります

  そういえば、コーチも時々着物を・・・・・・ってまさか茶道部の顧問を兼任しているなんてことはありませんよね

~~~

モブ子「結局、あの娘から連絡無かったわね」

尭深「いつもなら、必ず連絡してくるんだけどな」カチカチ

尭深「ちょっと電話してみます」

尭深「失礼しますね・・・・・・『もしもし風花?』」テクテク ピシャ

モブ子「それじゃあ、ちょっと内緒の話をしましょう。いつ尭深ちゃんが戻ってくるか分からないけれど♪」

淡(私に内緒のはなし?)


尭深『うん・・・・・・・・・・・・・・・・なの・・・・・・』

尭深『えっ・・・・・・・ううん・・・・・・』

モブ子「率直な感想を聞きたいのだけれど、茶道部に入る気はあるかしら?」

淡「それは・・・・・・その・・・」

モブ子「・・・」

淡「今は、麻雀に集中したいと思っているのでやっぱり・・・・・・」

淡「あ、でもすごく楽しかったです」

モブ子「そう、まあそれもそうよね・・・・・・でも、私たちは貴女が来てくれるのを待っていますから」

淡(さっきまでのふざけた感じじゃなくて真剣に私の事を誘ってくれてるみたいだけど、今の私にはそこまでの余裕がないんです)

モブ子「・・・・・・ええ、貴女の気持ちはよく分かったわ」

モブ子「じゃあ、もう一つ・・・・・・すみれは一人でいろんなことを抱え込んじゃう娘だから、あの娘の事お願いね」

モブ子「私もできる限りのことはしたいと思っているんだけど、やっぱり身内じゃないとなかなか・・・」

淡「私なんていつも弘世部長に怒られてばっかりですよ」

淡「力になんて」

モブ子「それは大星さんに期待しているからよ。もちろん尭深ちゃんや風花それに亦野さんもね」

淡「先輩はお詳しいんですね」

モブ子「それはもう、すみれにいろいろ聞かせてもらっているんだもの」

淡(弘世部長はどんな風に私たちのこと話してるのかな・・・・・・)

モブ子「後輩に面白い娘が入ったとか、手のかかる娘ばっかりだ とか他にもいろいろね」

モブ子「最近は貴女の事ばっかり話してるわ」

淡「良ければ、その話詳しく教えていただけると・・・・・・」

モブ子「うふふふふ」

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