古畑「バーチャルYoutuber?」VSキズナアイ(46)

『仮想世界の殺人』

……便利な世の中になりました。
今の時代、パソコンさえあればどこでも仕事ができます。
私達の世代なんかは毎日決まった時間に起きて夜遅くまでこき使われたものですが、最近は家の中でお仕事する人、増えてきてるって言うんです。
中でもYouTuberと呼ばれる人達はビデオカメラの前でおかしなことをするだけでお金を稼ぐとか……いやぁ仕組みを教えてほしいものです。羨ましい限りです。
他にも色々なことがなんでも手軽になりました。
例えば…………“殺人”とか。

都内スタジオ 控え室

男「なぁ……なぁ、いいだろ? なぁ?」

若手声優「はなしてっ! やめてください!」

男「悪いようにはしないって……君だってこのまま無名で終わりたくないだろ?」

若手声優「このお仕事を紹介してくださったのは感謝してます……けど、そういうことは……」

男「…………よし、じゃあわかった。もう全部喋ろう。全部だ」

若手声優「えっ」

男「大人気バーチャルYoutuberキズナアイ、ついに正体判明! このタイミングで素顔のリークは痛いんじゃないのか?」

若手声優「そ……それは本当に困ります!」

男「だったら君がやることはひとつだ! ほら……こっちに来い!」

若手声優「いやっ…………!」

ーーーガツン。

若手声優「わ、私……」

東京都内 河川敷

古畑「いやぁ~お待たせ。ここが現場?」

今泉「遅かったですね。今、検死が終わったところですよ」

古畑「昨日の晩にちょっと夜更かししちゃったんだよ。おかげで寝不足だよ。……ええ~と」

今泉「被害者は30代の男で、主にインターネットを中心に声優のプロデュースなんかをやっていたようです」

古畑「何か所持品は?」

今泉「ズボンのポケットのところに名刺と領収書。あと、ガムの包み紙。だらしない男だったみたいですね」

古畑「その男の遺体はもう無いの?」

今泉「まだ運んでないと思いますけど……あっ、ご覧になりますか?」

古畑「うん、見せて」

今泉「…………おいっ、おい! 遺体、遺体!」

古畑「それで死因は?」

今泉「首を絞められたことによる窒息死です」

古畑「……窒息? ここ、ほら、ここんところに血が付いてるけど」

今泉「たしかに後頭部に打撲のようなものが見られますが、出血も少ないですし直接の死因とは関係ないんじゃないですか」

古畑「関係ないってことないと思うけどなぁ~」

今泉「少なくとも致命傷では……それより、ここ! マフラーを外すと結構、グロテスクですよ!」

古畑「うわっ痛そうだ……」

今泉「このマフラーが凶器じゃないかって。これでギュッといったんですよ、ギュッと」

古畑「あっ…そう……ありがとう。行っていいよ」

今泉「……古畑さん、ここだけの話ですけどね、この男は相当……色んなところで恨みを買っていたみたいですよ。いつ殺されてもおかしくなかったって」

古畑「そうなの?」

今泉「新人の子を狙って男女の関係を迫ったり……声優の世界も生き残りに必死ですから」

古畑「ふ~ん」

今泉「それじゃあ、失礼しますっ!」

古畑「ところでさぁ」

今泉「……はい?」

古畑「この人、こんなとこでなにやってたんだろうねぇ?」

今泉「そりゃ……立ち話でもしてたんじゃないですか?」

古畑「こんなに寒いのに?」

今泉「ちょっとくらい話し込むこともありますよ」

古畑「……コートを着てない」

今泉「え?」

古畑「この人、コート着てないんだよ。こんなに寒くてマフラーまで巻いてんのに」

今泉「たしかに……そう言われるとおかしいですね」

古畑「……きっと殺害現場は別の場所だ」

都内某撮影スタジオ

若手声優「私に……お話ですか?」

古畑「ええ。形式的なものなんですがね」

若手声優「なんでも聞いてください」

古畑「この辺りに河川敷ありますね? あそこで死体が見つかったんです。それも殺しの。頭なんか殴られちゃって血だらけです」

若手声優「そんな……あの人が……」

今泉「……古畑さん、あまり女性に刺激の強いことは」

古畑「失礼。大丈夫ですか、気分悪くないですか? そしてその男というのがどうやら……」

若手声優「私と面識のある方だった?」

古畑「お察しが早くて助かります。その男、だらしのないやつでしてね。ズボンのポケットに名刺が入ってました。それが……ここの住所」

若手声優「…………」

古畑「えー、この男に……見覚えはないでしょうか」

若手声優「……あります。仕事でとてもお世話になっている方です」

古畑「いつ頃から面識が?」

若手声優「3年ほど前に……今の仕事を紹介していただきました」

古畑「今の仕事と言うと…………」

若手声優「キズナアイプロジェクト」

古畑「キ・ズ・ナ・ア・イ」

今泉「バーチャルYoutuberってやつですよ」

古畑「バーチャル……バーチャルなんだって?」

今泉「バーチャルYoutuber。簡単に言えばアニメのキャラクターが動画サイトに動画を投稿してお金を稼ぐ……」

古畑「……なんでそれがお金稼ぎになるワケ?」

今泉「スポーツ選手と同じで、動画が面白ければスポンサーが付くんですよ」

若手声優「今まではYoutuberって言って、生身の人間が動画を撮影するのが主流だったんですけど…………あ、良かったら見て行ってください」

若手声優「こうして実際の動きに連動して画面の中の女の子が動くんです」

古畑「こ~れはすごい! 面白いですねぇ……それじゃああなたが右手を上げたらこの子も右手を上げるワケだ」

若手声優「これがバーチャルYoutuberなんだよなぁ……。フフフ、もっと複雑な動きも出来ますよ」

今泉「生でキズナアイちゃんを見られるなんてラッキーでしたね! それに声優もこんなに可愛い子だったなんて知らなかったですよ!」

古畑「コラ、今泉。それにしてもすごい仕組みですね……お見事です。私、はっきり言って感動してます」

若手声優「これのおかげで、今までのYoutubeでは実現出来なかったような演出も可能になって動画の幅がぐんと広がったんです」

古畑「えー、例えば……この技術を使って人を殺すようなことも?」

今泉「……古畑さん!」

若手声優「…………流石に難しいですね。現代の科学でもバーチャルが人間の首を絞めるなんて不可能です」

古畑「無理ですか」

若手声優「残念ながら次元の壁は越えられませんね」

古畑「……“相手の頭を殴る”んじゃなくて?」

若手声優「…………どちらにしても無理だと思いますよ」

古畑「ンフフフ……ありがとうございます、とても参考になりました」

若手声優「今日は疲れているので帰っていいですか?」

古畑「申し訳ありませんでした、つまらないことでお引き止めして。よかったら送らせましょうか?」

若手声優「あぁ、いえ。自宅が近いので。お気遣いありがとうございます」

古畑「……あ。最後にひとつだけ」

若手声優「なんでしょう?」

古畑「昨日の夜はどこで何をしていたでしょうか」

若手声優「……キズナアイのバーチャル生ライブでした。スタッフさんに確認してみてください」

古畑「…………おやすみなさい」ニヤリ

都内某所

ミライアカリ「ハロー!ミライアカリだよ(ピロリン」

古畑「古畑です……刑事です。殺人課の」

ミライアカリ「えっえっえっなになになにアカリなんかした……? ヤベー! マジヤベー! ホンッッットにヤバいんですけどぉー!」

古畑「昨日、キズナアイさんが生配信をやっていたという話をお聞きしてですね……」

ミライアカリ「あ゛! やってたやってた、ライブ配信! アイちゃんが唐突にヨガやるやつ!」

古畑「それはどこかで確認は……? ほら、映像とか」

ミライアカリ「たぶんチャンネルにアーカイブが上がってると思うんですけど……」

古畑「貴重な情報ありがとうございました。お時間取らせてすみませんでした」

ミライアカリ「この度は、謝罪をしていただき、誠にありがとうございます」

古畑「…………はい」

輝夜月「おはよー! 輝夜月だよ~」

今泉「この遺体なんですけどね、首を絞められて亡くなってるんですよ」

輝夜月「それわしやないか~い」

今泉「痛っ!… デコを叩かないでくださいよ!」

輝夜月「月ちゃんこーいうタイプだからwww」

今泉「……なんなんですか、この子」

古畑「知らないよ」

電脳少女シロ「こんにちは、シロです!」

今泉「古畑さん……この子ならいけそうですよ、まともそうですよ!」

古畑「今泉くん、お話聞いてきて」

今泉「……イヤですよぉ、古畑さん行ってくださいよぉ」

古畑「君が“いけそうだ”って言ったんじゃないか!」

今泉「……」

古畑「い~け」ペチンッ

今泉「……う、恨みますからねっ!」

電脳少女シロ「な~んかずっっっとヒソヒソと……なんかシロをまるで亡き者として扱ってるような……」

今泉「あ、あのぉ」

電脳少女シロ「ゔ

今泉「あ、あのぉ」

電脳少女シロ「ゔ

あれ……なんか調子が
原因が解明するまでストップします
>>13>>14はスルーでお願いします

電脳少女シロ「こんにちは、シロです!」

今泉「古畑さん……この子ならいけそうですよ、まともそうですよ!」

古畑「今泉くん、お話聞いてきて」

今泉「……イヤですよぉ、古畑さん行ってくださいよぉ」

古畑「君が“いけそうだ”って言ったんじゃないか!」

今泉「……」

古畑「い~け」ペチンッ

今泉「……う、恨みますからねっ!」

電脳少女シロ「な~んかずっっっとヒソヒソと……なんかシロをまるで亡き者として扱ってるような……」

今泉「あ、あのぉ」

電脳少女シロ「えっっっ!? きゅぅぅううに! 突然……まさかすぎるタイミングで急に話しかけられてちょっと……ちょっとシロ……頭が今……混乱という混乱に塗れてるんですけど」

今泉「ちょっ、ちょっと、よろしいですか?」

電脳少女シロ「なんかちょっと額が……豊かではない方に……豊かでないとか言っちゃいけない。シロ、ホント……こういう……私、ふふっ、シロでよければお伺いします!」

今泉「殺人事件のお話なんですけどぉ」

電脳少女シロ「殺人!? いーねいーねっ! これはテンションが上がってきやがるぜ~いくぜいくぜいくぜ~!」

今泉「……後頭部から出血が」

電脳少女シロ「ヘッドショットだぁあああ! え~これ絶対……確実にヘッドショットやんけ! おほ~血が騒いできやがったぜ~おほほいおほほい!」

古畑「…………今泉」

今泉「はい……」

古畑「一番ヤバいじゃないか~!」

今泉「……ぼ、僕だって、そんな気がしてたんですから!」

古畑「次だよ、次」

改変したらいけました
ホント、途中は忘れてください

バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん「のじゃ~! 今日はわらわに何の用……なのじゃ?」

古畑「えー、実はキズナアイさんに近しい人物が死体で発見されまして……」

バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん「……世の中世知辛いのじゃ~!」

古畑「それで少し、少しでいいんです……。お話、伺いたいんです」

バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん「わらっ、わらわは……ンハァ……殺人事件などと言う、ぶっ物騒な……アレとは、事件とは何ら関係のない、コンビニバイトでレジ打ちをしているような……平凡な日常で魂をすり減らしている人種ゥ……なのじゃ。だから決してひと、人殺しというか、事件みたいなものと必ずしも関連するような……ンハァアア」

古畑「…………今泉くん」

今泉「……なんでしょう」

古畑「バーチャルYoutuberっていうのは、みんなああなの?」

今泉「僕だって分かりませんよ、そんなことぉ!」

古畑「アレじゃあちっとも参考にならないじゃない」

今泉「……で、でも、アイちゃんが昨日、生放送をやっていたことは確かみたいですよ!」

古畑「アーカイブだっけ? それってどう見るの」

今泉「アイチャンネルから……これですよ、これ!」

【LIVE】アイちゃんとヨガろう! 春痩せダイエット!?

今泉「……動画を再生してみると、アイちゃんがヨガを披露してるみたいですね」

キズナアイ『さぁ~っ! まずは腕を左右に開いてぇ~! 引っ張るぅ~引っ張るぅ~』

古畑「こんなポーズ、ヨガにあるの?」

今泉「知らないですよ。ストレッチじゃないですか?」

キズナアイ『あぁ~よきよき! みんなもポカポカァ~って! 気持ちよくなってるんじゃないですかぁ~?』ゴッ

今泉「……やっぱりアイちゃんはシロですよ、シロ!」

古畑「さっきの女の子?」

今泉「冗談よしてくださいよ、わかってるくせにぃ」

古畑「……たしかに、放送時間は死亡推定時刻ともピッタリ重なってる。完璧なアリバイだ」

今泉「第一、僕はなんで古畑さんがアイちゃんを疑ってるのかも分かんないですよ!」

古畑「…………」

都内某撮影スタジオ

スタッフ「……え? ええ、たしかにその日は生配信でした」

古畑「この動画に映っているのもあの声優さんで間違いない?」

スタッフ「はい。間違いありません」

古畑「理論上は……理論上ではですよ、あの装置を付けていれば、私が画面の女の子を動かすことも……?」

スタッフ「可能です。しかし、生放送で声も録らなければいけませんから」

古畑「彼女以外に役者は成り立たない」

スタッフ「そうです」

古畑「……質問を変えます。その日の収録で変わったことありませんでしたか?」

スタッフ「いえ…………特には」

古畑「あったはずなんです。よく思い出してください」

スタッフ「そう言われましても……」

古畑「……先日の生放送のアーカイブです、問題はここです」

キズナアイ『あぁ~よきよき! みんなもポカポカァ~って! 気持ちよくなってるんじゃないですかぁ~?』ゴッ

スタッフ「……」

古畑「この『ゴッ』っていう音が私、ずっと気になってたんです! 何かが倒れるような……この音! マイクトラブル? なんらかの機材を落とした音? そ~れ~と~も死体が倒れ込む音なのか…………と」

スタッフ「すみません。記憶にありません」

古畑「あのぉ……この時の映像って、お持ちじゃないですか? もちろん、実写の」

スタッフ「なにせ生放送なので……アーカイブも配信画面のキャプチャですし……」

古畑「……そうですか。そうですよねぇ。今、変なこと訊きました、私。この音の正体はもう少し自分で推理してみます……ンフフフ」

スタッフ「我々も出来るだけ協力します……ここも自由に調べてください」

古畑「お言葉に甘させていただきます。あ、それと」

スタッフ「なんでしょうか」

古畑「この名刺なんですが……」

スタッフ「ウチのものですね」

古畑「これ、ここの文字が2018年になってます。新しいデザインなんですか?」

スタッフ「ええ。キズナアイプロジェクトも波に乗ってきたので、オフィスの雰囲気もガラッと。ちょうど年明けに新しい名刺を作ったところです」

古畑「…………なるほど」

都内スタジオ 控え室

古畑「……さっきの話どう思う?」

今泉「さっきの話って?」

古畑「バカ! 聞いてなかったの? 名刺は作り直したばかりだったんだよ」

今泉「それがどうかしたんですか?」

古畑「……彼、ここに来てるんだよ。それも事件当日に」

今泉「な、なんでそんなことがわかるんですか!」

古畑「それよりほら、手掛かりを探しなさいよ……あそこの灰皿なんか怪しいじゃない」

今泉「……僕には普通の灰皿に見えますけどね」

古畑「綺麗すぎるじゃないか~」

今泉「あれはきっと来客用で、スタッフに喫煙者がいないんですよ。もしくは相当、綺麗好きとか!」

古畑「でもほらあそこ……テーブルの隅。ところどころ灰が落ちてるよ。綺麗好きならああはならないよ」

今泉「こ、細かいなぁ!」

古畑「それにあのカーペット」

今泉「きっと高級品ですね! かなり儲かってますよ」

古畑「ん~気になるなぁ」

今泉「あそこもですか?」

古畑「不自然だよ、あんなところにポツンと敷いてあるなんて」

今泉「そうかな~」

古畑「……調べておいて。灰皿の指紋も忘れずに」

今泉「わかりましたよぉ」ダダダッ

古畑「…………」

えー、やはり犯人はあの女性です。間違いありません。
そしてお気付きの通り……スタッフもグルです。
今回の事件、重要なのは完璧なアリバイ工作。
……ここにかなり……ん~、手を焼きました。
バーチャルの世界で人は殺せません。
現代の技術を以ってしても不可能です。
えー、しかし、現実世界の殺人に仮想空間の皮をかぶせてやることは意外に簡単です。
バーチャルYoutuberファンのみなさんなら、もうお分りですね?
ヒントは……ヨガのポーズ。
解答編はコマーシャルのあと…………古畑任三郎でした。

~コマーシャル~

【キズナアイ】
■YouTube
A.I.Channel
https://www.youtube....aOt1yT-ZeyB0OmxHgolA
A.I.Games
https://www.youtube....we3COkDrbNsbMyGNCsDg

■公式WEBサイト
http://kizunaai.com/
https://www.aigamers.info

■SNS
Twitter
https://twitter.com/aichan_nel

都内某撮影スタジオ

キズナアイ「はいどーも! バーチャルYouTuberのキズナアイです! みなさんみなさん、欅坂46の新曲、もうチェックしましたか~?」

古畑「もしもし。よろしいですか?」コソコソ

キズナアイ「え!?」

スタッフ「……ちょっとちょっと! 今、収録中ですよ!」

古畑「すみませ~ん。タイミングが悪くて……でも、でもですね、少しだけ……お話したいことがあるんです」

スタッフ「そう言われても……」

キズナアイ「……いいですよ、お喋りしましょ! トークトーク!」

スタッフ「アイちゃん!」

キズナアイ「ここは私のホームですから」

古畑「ありがとうございます、助かります」

キズナアイ「……それで、お話って?」

古畑「例の事件の犯人が分かったのでお知らせしておこうと思いまして」

キズナアイ「そうなんですね。逮捕されたんですか?」

古畑「はい。正確には…………今から」

キズナアイ「フフフ」

古畑「キズナアイさん、どうして事件のあった日に被害者の男と会っていたこと、教えてくれなかったんですかぁ」

キズナアイ「……私があの人と? 会っていません」

古畑「嘘ついてもダメなんですよ~、これがあの男のポケットから出てきたんです」

キズナアイ「名刺ですね……前にも聞きました」

古畑「これ、新しいものですね?」

キズナアイ「ええ。今年に作り直したものです。この前は言い忘れていましたけど」

古畑「実はポケットから出てきたのこれだけじゃないんです。領収書も入ってました……クリーニングの」

キズナアイ「クリーニング……」

古畑「事件のあった日にあの男性、ズボンをおろしてるんです。だらしのない性格ですからずっと前から名刺はポケットに入っていたのかもしれません……しーかーしー。普通、名刺は洗濯すると文字が滲んで使い物になりません」

キズナアイ「……ドライクリーニングとか。そういうやり方もあるって聞いたことがありますけど」

古畑「ドライクリーニング! 流石ですねぇ……えー、クリーニング屋に問い合わせてみたところですね、あの男かなりの汗っかきだったようで。ドライクリーニングでは汗のシミが落ちないって文句を言うものだから決まって水洗いをしていたみたいなんです。もちろんこの時も」

キズナアイ「……」

古畑「ということはですよ、やっぱり名刺をポケットに入れたのはあの日以外にありえません!」

キズナアイ「それで……私が殺したって言うんですか?」

古畑「はい」

キズナアイ「……フフッ」

古畑「控え室。男と会っていたのはあそこでしょう。そして凶器は……灰皿」

キズナアイ「あの人の血痕か、私の指紋でも出てきたんですか?」

古畑「いいえ。出てきませんでした」

キズナアイ「はぁ?」

またおかしなっとる…
>>29はブロックしてスルーで

古畑「事件のあった日にあの男性、ズボンをおろしてるんです。だらしのない性格ですからずっと前から名刺はポケットに入っていたのかもしれません……しーかーしー。普通、名刺は洗濯すると文字がにじんで使い物になりません」

キズナアイ「……ドライクリーニングとか。そういうやり方もあるって聞いたことがありますけど」

古畑「ドライクリーニング! 流石ですねぇ……えー、クリーニング屋に問い合わせてみたところですね、あの男かなりの汗っかきだったようで。ドライクリーニングでは汗のシミが落ちないって文句を言うものだから決まって水洗いをしていたみたいなんです。もちろんこの時も」

キズナアイ「……」

古畑「ということはですよ、やっぱり名刺をポケットに入れたのはあの日以外にありえません!」

キズナアイ「それで……私が殺したって言うんですか?」

古畑「はい」

キズナアイ「……フフッ」

古畑「控え室。男と会っていたのはあそこでしょう。そして凶器は……灰皿」

キズナアイ「あの人の血痕か、私の指紋でも出てきたんですか?」

古畑「いいえ。出てきませんでした」

キズナアイ「はぁ?」

古畑「何も出てこなかったんです……指紋がひとつも付いていない灰皿なんて不思議だと思いませんかぁ?」

キズナアイ「……スタッフさんが拭いてくれたとか。あの人、綺麗好きだから」

古畑「私のパートナー刑事も同じこと言ってました。しかしですね、テーブルに灰が落ちてました。指紋が無くなるまで丁寧に灰皿を拭いておきながらテーブルの汚れに気が付かない綺麗好きなんていません」

キズナアイ「つまり……どういうことですか?」

古畑「あの灰皿が犯行に使われたということです」

キズナアイ「でも、ニュースでやってましたけど、死因は窒息ですよね? 灰皿は関係ないんじゃないですか」

古畑「……はい。関係ありません。犯人には、成人男性を灰皿で殴り殺すだけの力は無かったんです」

キズナアイ「じゃあ」

古畑「そこであなたは急いで、男をスタジオに引きずって行きます……このあと生放送が控えているので遅刻は出来ません」

キズナアイ「証拠はあるんですか?」

古畑「カーペット……あれはいくらなんでもやり過ぎです……ンーフフフ。重たいもの引きずるとどうしても跡になりますからね~鑑識の結果が出たらお知らせします」

キズナアイ「でもそれは、殺人の証明じゃないですよね?」

古畑「今、説明します。気絶した男を連れてスタジオ入りしたあなたはすぐにライブを始め……そして、仮想空間を利用したトリックを行います」

キズナアイ「トリック……」

古畑「これに随分、苦労させられました……普通はこんなこと考えませんからね」

キズナアイ「ちゃんと説明してください!」

古畑「……このアーカイブをご覧ください」

キズナアイ「……」

古畑「……ここです。配信開始から5分21秒。『ゴッ』という音が入ってますね?」

キズナアイ「ホントだ」

古畑「コメント欄でも『突然の死』『これがヨガだ』『シロイルカ襲来』……総ツッコミにもかかわらず、あなたそれに一切触れていません」

キズナアイ「流石に全部のコメントは読み上げられませんよ」

古畑「これ……なんの音だったんでしょう」

キズナアイ「さぁ? 機材が倒れたとか?」

古畑「配信は滞りなく進んでます。こういう時、普通はメンテナンスのために一旦停止するって聞きました」

キズナアイ「……そんなに重要な機材じゃなかったんですよ、きっと」

古畑「それなら初めから必要ないじゃないですか!」

キズナアイ「…………回りくどい話はやめましょう。私は証拠を出してほしいんですよ、殺人の証拠を」

古畑「今、お見せしました」

キズナアイ「……ファッキュー」ボソッ

古畑「随分とお怒りですねぇ~」

キズナアイ「殺人犯だって疑われてるんですよ。当たり前だと思いますけど」

古畑「……バーチャルYoutuber。勉強しました、面白かったです~。天使に魔王にロボットに忍者……まさになんでもアリ、と言ったところでしょうか」

キズナアイ「そう言ってもらえると嬉しいです」

古畑「富士葵さんってご存知ですか?」

キズナアイ「もちろん。セーラームーン仲間ですよ」

古畑「あの方の動画を見てですね、今回のトリックの謎が解けたんです。えー、つまり……お仲間にお仕置きされてしまった」

キズナアイ「……聞かせてください」

古畑「葵さん、彼女、利きシリーズっていう動画を出してます。お茶やコーラを飲んだり、ラーメンを食べたり」

キズナアイ「あまりバーチャルっぽくない企画ですね」

古畑「そうなんです、向いてないんです! 何故なら、なんでもアリに見える仮想世界にも弱点があって……」

キズナアイ「グラフィックやモーションが追加されていない物は画面に反映されない」

古畑「その通ぉぉり。大抵の場合、小道具にはセンサーが点いていません。お茶とかコーラとか…………死体には」

キズナアイ「……」

古畑「……このヨガのポーズ、見てください。腕を左右に開くポーズ……やっぱり調べてみてもこんなものは無いんです!」

キズナアイ「ストレッチですから」

古畑「違います。この動き、何かに見えてきませんか? 何かを両側から引っ張るような……」

キズナアイ「だからストレッチですって!!」

古畑「……この配信、事前の告知ではヨガの話題は出てきません。ミライアカリさんも『唐突に』とおっしゃっていました。そしてあなたは後から、あたかもヨガがメインだったかのようなタイトルでアーカイブを投稿しています」

キズナアイ「……」

古畑「それはなぜか? 答えはひとつ……あなたは配信中に彼を殺害したのです。何万人という視聴者の前で堂々と」

キズナアイ「素晴らしい想像力ですね……ドラマみたい」

古畑「お認めになりませんか?」

キズナアイ「こんなの茶番ですよ。机上の空論です」

古畑「……えー、あなたの最大の失敗は巧妙なトリックに胡座をかいて満足してしまったことです。その後のこと、考えてなかったんです」

キズナアイ「どういう……ことですか」

古畑「約30分のヨガ配信の間、彼の死体はずっと放置されていました。蒸れた汗で気温が上がったこの部屋に」

キズナアイ「……」

古畑「そしてあなた……その後もしばらくツイッターでイラストのリツイートを繰り返してます。随分と悠長ですね~」

キズナアイ「ファンの方との交流は日課ですから」

古畑「感心します。しかし、死体をこんなに放っておいてはいけません」

キズナアイ「……どうして?」

古畑「死後硬直。身に染みて分かっているはずです……この時点で顎はもうとっくに動きません。凶器のマフラーも外せない」

キズナアイ「死後硬直……」

古畑「それでもやっぱりあなた、せめてマフラーは……切ったりしてでも外しておくべきでした。ここが失敗でした」

キズナアイ「…………」

古畑「もう危機回避~とはいかない! 流石に焦ったあなたは、死体をスタッフの車に乗せてそのまま2人で河川敷へと向かいます。これは後から周辺の監視カメラで確認しましょう」

キズナアイ「そこまで……」

古畑「しかし、ここでまた誤算です。思っていたよりも死後硬直が進行していてコートが着せられない」

キズナアイ「室温がまずかったですね」

古畑「……おかげで、とっても不自然な死体の完成です」

キズナアイ「やっぱりおかしかったですか」

古畑「えー、コートは……スタッフさんの車にあればラッキーですが、おそらくもう処分してしまっているでしょう」

キズナアイ「…………お見事です。なんの反論もありません」

古畑「それは自供ということで?」

キズナアイ「そうです、そうです」

古畑「……ありがとうございます」

キズナアイ「これ以上、抵抗しても意味ないですから」

古畑「どうしてそう思うんですか」

キズナアイ「古畑さん、かなり前からずっと私のことを疑ってましたよね?」

古畑「……はい」

キズナアイ「いつからですか?」

古畑「ンフフフ……最初からです」

キズナアイ「……やっぱり、絞殺のことを口走ったのが」

古畑「いいえ。あれは作戦です。今時あんなに分かりやすく口滑らせる人っていません。アリバイがあることを確認させるためにわざと心理戦を仕掛けたんです」

キズナアイ「アハハ。やっぱり敵わないですね」

古畑「……『怪獣先輩』を『野獣先輩』と読み間違えるくらい、ありえないミスですからね~」

キズナアイ「それはあると思いますけど……」

古畑「余裕もあったんじゃないですか~?」

キズナアイ「いえいえそんな……なら、どこで?」

古畑「死体を発見したことをお伝えしたとき、あなたこう言ったんです『あの人が』って。まだ写真も出していないのにですよ~? どう考えても順番が逆です。会話が繋がっていません」

キズナアイ「……じゃあ本当に、もう最初から私は負けていたんですね。必死になってバカみたいじゃないですか」

古畑「そう自分を責めないでください。あなた本当に冷静でした。罪を認めた今もそうです」

キズナアイ「スーパーAIですから」

古畑「ん~」

キズナアイ「……それに、捕まるのはこわくないので」

古畑「こわくない? こわくないんですか?」

キズナアイ「何もないところでひとりぼっち……なれっこなんですよ」

古畑「……」

キズナアイ「右も左もわからない中で始めたバーチャルYoutuberも、今ではいっぱい仲間が増えました。四天王のみんな、新人の子……私がいなくてももう大丈夫です」

古畑「罪を償ったら……必ず復帰してください。お願いします」

キズナアイ「その頃には私に居場所なんてないですよ。今度こそ本当に垢BANですね」

古畑「またイチから始めればいいじゃないですか。みんなあなたのこと待ってます」

キズナアイ「そんな……私なんて」

古畑「……今回の件で色々な方に聞き込みしました。その人達全て、馬やゴリラや幽霊も含めて全員、誰もあなたを悪く言う人っていませんでした。『レジェンド』『先駆者』『親分』……あなたこんなに愛されてるんですよ」

キズナアイ「……」

古畑「あなたです。これ全部、あなたが長い時間をかけて育ててきた絆と愛です……だからもう、ひとりぼっちなんて言わないでください」

キズナアイ「……私、やり直せるんですかね」

古畑「大丈夫です。保証します。そしてそのときは……私が一番最初のチャンネル登録者になってみせます」

キズナアイ「古畑さん……信じますよ。信じますからね」

古畑「……………………はい」

END

これでおわりです
ガバガバなのはご愛嬌

元々は『古畑任三郎2018』を想定して「バーチャルYoutuberが犯人っていう回があっても面白いな~」から始まったものなので他の回もオープニングだけストックしてあるのですが…
何か思いついたらそれも書いていこうと思います

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