ルビィ「焼き鳥屋・宜候」参 (37)
『家族』
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「何、お姉ちゃん?」
ダイヤ「今日はお父様とお母様が外へ出て遅くなるから夕食は二人で食べてください、って」
ルビィ「…ご飯?うん、分かったよ」
ダイヤ「それで…お夕飯は何にしましょう?冷蔵庫には食べ物あんまり残ってなかったけど……」
ルビィ「うーん…今からお買い物かぁ…」
ダイヤ「……少し遅いですわね」
ルビィ「あ、そうだ…」
ダイヤ「…?どうしたのルビィ」
ルビィ「………あのね、お姉ちゃん」
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ダイヤ「ごめんくださいな」
曜「あ、ダイヤさん」
ルビィ「こんばんわ!」
曜「……とルビィちゃんも、いらっしゃいませ~」
ルビィ「ほわぁ…ここが曜ちゃんのお店…!」
曜「あはは…小さいけどね、好きなとこ座ってよ」
曜「でも姉妹揃ってどうしたの?夜ご飯は?」
ダイヤ「今日は家に誰も居ないので自分らで何か作ろうかと思ったんですけど…ルビィがここに来たいと言いまして」
ルビィ「だって…来たくてもお昼は忙しいし…夜はお家のご飯があるから…」
曜「ふふっ…ありがと。はいこれ、おしぼりとお冷…注文は何かある?」
ダイヤ「そうですね…ももと砂肝、あとししとうを下さい……ルビィ、食べたいものは?」
ルビィ「ルビィは……ももとつくね下さい!」
曜「はーい、了解!」
曜「飲み物は……なんか飲む?」
ルビィ「ええと………」
ダイヤ「……」
曜「……?」
ルビィ「お姉ちゃんの前でお酒飲むの…恥ずかしいというか…なんか後ろめたいというか…」
曜「ふふっ、なにそれ…ルビィちゃん結構前に成人したよね?」
ダイヤ「……私も、なんとなく慣れませんわ」
曜「そうなの…?」
ダイヤ「ええ……今までずっと家族でいると未成年だと思ってる感覚を…簡単には変えられないのですわ…」
曜「じゃあ折角だし飲もうよ!…ほら、姉妹水入らずだし…その方が売り上げ的にもいいし」
ダイヤ「最後のが無ければ良かったんですけどね…」
ルビィ「あはは……」
ダイヤ「……それじゃあ……熱燗を、ルビィは?」
ルビィ「え…?」
ダイヤ「え、じゃないの……ほら、早く選びなさい」
ルビィ「あ……うん!」
ルビィ「ええと…うーんと……じ、じゃあカシスオレンジ下さい!」
曜「熱燗とカシスオレンジね、了解!」
曜「はい、燗酒とカシオレ…お肉はもう少しで焼けるからね」
ルビィ「わー…ありがとう!」
ダイヤ「どうも…いい燗のつけ具合ですわね」
曜「えへへ…お酒の扱いは頑張って勉強したんだ」
ルビィ「ほらお姉ちゃん、乾杯ってやろ!」
ダイヤ「はいはい…全く…」
ルビィ「お姉ちゃん、乾杯」
ダイヤ「…乾杯」
曜「焼けたよ~…ももと砂肝にししとう、あとつくね」
ダイヤ「どうも」
ルビィ「わ…すごい…いただきます」
ルビィ「んむんむ……おいしい…!」
曜「ふふっ…ありがと、ルビィちゃん」
ルビィ「柔らかくてお肉のうまみもしっかりしてて…幾らでも食べられちゃいそうだよ…!」
曜「あはは…そう言ってもらえるのが1番嬉しいよ」
ルビィ「あむっ……無くなっちゃった……」
ダイヤ「ルビィ、取り敢えずこれ食べなさい」
ルビィ「でもこれお姉ちゃんの……」
ダイヤ「…いいから」
ルビィ「う、うん……」
ダイヤ「曜さん、ももを2つと…ねぎまとせせり…あとおしんこ貰えますか」
曜「ふふっ…了解です」
ダイヤ「……何かおかしいところありましたか…?」
曜「ううん、変わらずダイヤさんはお姉さんだなって」
ダイヤ「別に……普通ですわ」
曜「はい、もも二つとおしんこ…せせりとねぎはちょっと待ってね」
ダイヤ「はい、どうも」
曜「ダイヤさんって暫くこっちにいるの?」
ダイヤ「いえ、少ししたら戻りますわ…普通に休暇を取ってるだけなので」
曜「あー…そっか、社会人だもんね」
ダイヤ「いや…あなたもでしょう……一応」
曜「一応って……」
ルビィ「お姉ちゃん…お仕事大変…?」
ダイヤ「いえ…良くしてもらってますわ、このように休みも貰えますし」
ルビィ「そっか……よかったぁ」
ダイヤ「……ルビィは大学は?単位落としたりしてない?」
ルビィ「勉強はもう大丈夫だと思う…たぶん」
ダイヤ「………あなたの多分は大体怪しい時なのよ…」
ルビィ「そ、そんなことないもん!……たぶん」
曜「二回目言っちゃってるよ」
ダイヤ「はぁ………まぁ、いい歳ですし…信じる事にします」
ルビィ「ふぅ………」
曜「はい、せせりとねぎま…熱いうちに食べてね~」
ルビィ「はむっ……おいしい…!」
ダイヤ「ええ、炭の香りも良いですわ」
曜「…………」
ダイヤ「…どうしましたの?ジッと見て」
曜「いや…なんだかこう、一緒にご飯食べてる所見ると…姉妹なんだなぁ…って」
ダイヤ「今までなんだと思ってましたの…」
曜「いや勿論分かってるけど、こうして見ると…家族だなって」
ダイヤ「当たり前でしょう…何年同じ食事食べてると思ってるんですか…」
ルビィ「えへへ……」
ダイヤ「……?」
ルビィ「ううん…なんでもないよ、お姉ちゃん」
ダイヤ「あ……少し前に果南さんから聞いたんですけど…釜飯ってあります?やっぱり…お夕飯にはご飯が欲しいので…」
曜「裏メニューは隠れてるから裏メニューなんだけどなぁ……」
曜「まあ、いいよ!でも今からだとちょっと時間貰うかもよ?」
ダイヤ「もちろん、お願いしますわ」
ルビィ「それじゃお姉ちゃん…もう一杯飲んでもいい?」
ダイヤ「ええ、もちろん」
ルビィ「やった!じゃあお姉ちゃんもほら!選んで選んで!」
ダイヤ「ちょっと…そんな全部のメニュー広げるんじゃありません!」
曜「ふふっ……」
店の奥でふつふつと鳴り始める釜の音。遠慮はなし、気は使わず。静かに流れる家族の平穏。
二人の間に二つ、新たなグラスが置かれる。
間に交わす物が変わっても、二人を包むのは変わらない。何年も染み付いた空気が、二人の間を漂う。
肌冷えの夜にカチリ、とグラスの鳴る音が響く。
この釜が炊き上がるの待つ間…まだこの日常はしばらく、続くようだ。
『ウイスキー』
善子「(実のところ、宜候は基本的には静かな店だ)」
善子「(席数も少なく基本的に訪れる客は私達を除いてほとんどがお年寄り、自然と落ち着いた雰囲気になる)」
善子「(新店舗の割にそこかしこの柱にやたら年季の入ったこの店に静寂はよく似合う。落ち着いた空気、肉の焼ける匂いだけが店に響く…そんな雰囲気が、私は結構好きだ)」
鞠莉「ほら!ほら!梨子!もう一杯!」
梨子「えぇ……またですか?」
鞠莉「折角なんだから!飲みなさい!私も飲むから!」
梨子「鞠莉さんは勝手に注いで飲んでるだけじゃ無いですか!」
鞠莉「あはは…シャイニー!」
善子「(………変な酔っ払いさえいなければ)」
梨子「大体なんなのこの滅茶苦茶に強いお酒…曜ちゃんこんなの他のお客さんに出るの…?」
曜「いや、これ鞠莉ちゃんが置いといてって自分で持ってきたやつだよ」
梨子「持ち込みなの!?いいの!?」
曜「まあ…料理注文してくれるならいいかなって…」
鞠莉「ほら、善子も飲む?ちょっと強いけどおいしいわよ」
善子「え……どれどれ……」
鞠莉「ほら、グイッと」
善子「んくっ………ブフッ!!!」
梨子「あぁ…もう…!ごめん曜ちゃん、台拭き頂戴…」
曜「はいよ~……」
善子「ご、ごめ…んなさい」
鞠莉「アッハッハwwハッハww」
鞠莉「ハッハwwヒィーw……善子はダメか~意外にいける口だと思ったのに」
善子「い、いや…ムリムリ…喉焼けるかと思った…」
梨子「……もしかして他の人にも飲ませてる…?」
鞠莉「いやそれがね…私の周り飲ませても全然酔っ払わないからつまんないのよ…!」
鞠莉「果南は軽く飲み干すしダイヤに至っては欠片も様子が変わらないのよ…あれはザルよ…」
善子「あぁ……まあ、強そうではあるわね…」
鞠莉「こう…適度に酔っ払う人を見るのが楽しいのよ…!分かる?梨子!?」
梨子「いや…私に言われても…」
曜「鞠莉ちゃん、何も食べずに飲んでると悪酔いするよ?」
鞠莉「うーんそうね……かわと砂肝頂戴」
梨子「あ、私ももをふたつ」
曜「まいど!」
梨子「はあ…こっちは久々のお休みですよ……」
鞠莉「やっぱ、忙しい?」
梨子「忙しい……というより移動が疲れるというか……でもそれだったら鞠莉さんの方が色々な所行ってるんじゃない?」
鞠莉「そうねー……そりゃ色々な所行くけど…アイマスクして寝てればあっという間よ?」
梨子「それは空の旅だからじゃない……いいなぁ、私もヘリコプターあれば巡るの楽だったかも」
鞠莉「ヘリって意外と取り回し悪いわよ?止めたりするの面倒くさいし」
善子「……どういう話してるのよ…」
鞠莉「どういうって……あ、そういえば善子って免許取った?」
善子「………まだ」
梨子「学生の内に取らないと…後々面倒くさいよ?」
善子「いやなんか…車乗ってまで遠くに行く事無いというか…」
鞠莉「あー……まあ、最近の子あるあるよね」
梨子「いや……二歳しか違わないでしょう…」
善子「二人とも仕事で色々なとこ行くのよね?」
梨子「ええ…最近は結構地方の方での仕事も多いかな」
善子「……色々なとこ行くの…大変?」
梨子「そりゃ面倒だけど……悪くはないわよ?ほら、各地の美味しいものとかあるし」
曜「それは…なんか微妙に仕事と関係なくない?」
梨子「まあ確かに…みんなみたいに簡単には帰っては来れないのは少し寂しいけどね…」
鞠莉「梨子結構久しぶりよね~…最後っていつだっけ?」
梨子「えーと……去年の春…?」
鞠莉「あれ、思ってたより近い…」
善子「他の人は何だかんだ時々会ってるからでしょ」
鞠莉「確かにね…もう二年……あ、ニネンぶりくらいだと思ってたわ…」
曜「それ言いたいだけでしょ」
曜「鞠莉ちゃんはかわと砂肝、梨子ちゃんはももだよ~」
梨子「あっ…ありがと」
鞠莉「あっ、でもね善子、色んな国に行ったりしてね…思うことがあるの」
善子「……?」
鞠莉「…なんかね、当たり前だけど…世界のどこにだって人が居るんだなって」
善子「……ふふっ、なにそれ」
鞠莉「私達が昔、何にもないこの町の事を伝えようと必死になってた様に…どんな場所にも人が居て、想いがこもってる」
鞠莉「……そんな風に、時々考えるの…」
善子「……」
鞠莉「あはは……らしくなかったわね」
梨子「……鞠莉さん時々やりますね…こう、ポエムっぽいの」
鞠莉「おっ、梨子も言うようになったわね~ウイスキー行っとく?」
梨子「遠慮します」
鞠莉「えー………じゃあいい…私が飲む……」
善子「……」
鞠莉「ゴクッ……ふぅ…はぁ……」
鞠莉「まあ、ただね……善子」
善子「…?」
鞠莉「色んな世界を見るの…結構楽しいわよ?」
善子「……うん」
鞠莉「そうだ!ドライブ行きましょうよ!ドライブ!私運転するわよ?」
曜「貴方達バリバリにお酒入ってるからダメだよ」
鞠莉「今度よ、今度……明日とか!どう?」
梨子「近っ……いや…行けなくはないですけど…」
善子「……空いてはいるけど…どこへ行くの?」
鞠莉「そんなの後から後から決めればいいのよ…今はほら!これ飲んで!」
善子「え…でもこれさっき…」
鞠莉「大丈夫大丈夫、今なら飲めるはずよ……ね?」
善子「……分かったわ」
善子「んぐっ………ブホッ!!!!!」
梨子「酔っ払いに付き合って何やってるのよ……」
曜「はぁ……掃除はしてよ…?」
鞠莉「アッハッハwwハッハww」
月夜の晩に、一際響く姦しい笑い声。
悩みも先行きの不安も酒に溶かして、この一時は笑い合う。
道が分からなくなったら、またここに戻って来ればいい。
どこに行こうか、何をしようか。数刻後の自分らの行き先を決めるべく、顔を突き合わせ話し合う。
三人の目を盗んで、善子はもう一度こっそりウイスキーを舐めてみた。
まだちょっと、大人の味がした。
『後夜祭』
果南「よっ、開いてる?」
曜「あ、果南ちゃん…うん、この通りガラガラ」
果南「………本当に大丈夫…?いっつもお客さんいない気がするけど…」
曜「いやー…たまたまだよ、たまたま…ははは」
果南「潰れるとかやめてよー?お昼ご飯の選択肢が減っちゃう」
曜「私より先に昼食の心配なんだ……」
果南「二本くらいなんか適当に頂戴」
曜「おまかせね……了解」
果南「あぁ…今日明日休みで良かった……」
曜「私の店の事言ってたけど…果南ちゃんもなんか休み多くない…?」
果南「いや、ダイビングのシーズン夏だし」
曜「あー……それもそうか」
果南「まあ、冬の海も澄んでて綺麗なんだけどね…常連さんは時々来るし」
曜「綺麗だけど……何?」
果南「……寒い、とにかく寒い」
果南「曜はいいよ…炭火で常に暖炉状態じゃん」
曜「いやいや……今はあったかいけど逆に夏は地獄だから…」
果南「あ、そっか……ってまだ夏に店やってないじゃん」
曜「アルバイトしてたもん」
果南「あー……そっかそりゃ失礼」
曜「夏の火元は地獄だったよ……はい、ももとハツ焼けたよ」
果南「ありがと……ほふっ……うん、おいしい」
曜「……そりゃどうも、嬉しいよ」
果南「はぁ…空きっ腹に染みわたる…昨日ベッド入ってから何も食べてなかった…」
曜「……ウチが言うのも何だけど…果南ちゃん食生活大丈夫…?」
果南「大丈夫大丈夫、いつもは健康的………だと思う」
曜「果南ちゃん今日何してた?」
果南「今まで寝てた」
曜「………やっぱりね」
果南「いやー…流石に飲み過ぎたからねー…久し振りにあんなに酔ったよ…」
曜「まあね、ほら!果南ちゃん主役ですから!」
果南「……曜が一番私のグラスに注いで来たの覚えてるからね」
曜「………そ、そんなことよりほら、追加の注文は?」
果南「はあ………せせりとつくね、あと熱燗」
曜「それでも飲むんだ……」
曜「はい、燗つけたよ」
果南「おー……あったかい…やっぱ冬はこれだね……」
曜「……どう、歳取って?」
果南「いや…何も変わんないでしょ…今更誕生日が嬉しい歳でもあるまいし」
曜「あー……アラサーだから?」
果南「グーで殴る」
曜「あはははゴメンゴメン……でも、みんな集まって楽しかったね」
果南「それは……うん、嬉しかった」
曜「正月に集まったけどその時は全員じゃなかったからね……」
曜「あ、焼けたよ。はい、せせりとつくね」
果南「あんがと」
曜「久々だったね、みんな集まったの」
果南「そうだねー……」
曜「なんか……みんなウチのお店に来てくれて…会うたびみんな結構変わってるなーって思ってたけど…」
果南「けど…?」
曜「みんなで集まったら、なんていうか…空気みたいなのはやっぱ変わんないなって思ったよ」
果南「確かにねえ……そういや梨子とかルビィは会うの久し振りだったなあ……」
曜「ルビィちゃん…なんか……一番変わってたよね?」
果南「…なんか喋りはあんま変わってないけど…雰囲気が割と姉寄りになってた気がする…」
曜「たしかに…飲むお酒はカワイイまんまだったけど…」
果南「あー……あの頃に戻りたいなー」
曜「果南ちゃんそれダメだよ、もう最大の禁句だよ」
果南「まあね……でもさ、偶に思わない?また学生やってみたいって」
曜「まあ……ねぇ……」
果南「なんかさあ……何やってたかあんま覚えてないけど無性に楽しかった気がするんだよね…」
曜「……なにそれ、もう物忘れ?」
果南「まだそこまでいってないって……でもさ、ちょっと分からない…?」
曜「……ちょっと分かる」
果南「今が楽しくないって訳じゃ、ないんだけどね……」
曜「…………」
曜「じゃあ………そんな果南ちゃんの人生を楽しくするのが…はいコレ!」
果南「何これ…?黒ビール?」
曜「なんと私の奢り」
果南「マジか」
曜「あれだよ、誕生日プレゼントの副賞」
果南「なんだそれ……でもありがと」
曜「高校生の頃じゃ飲めないでしょ?ほら、今も捨てたもんじゃない!」
果南「あはは……なにその理論」
曜「ね?ほらほら!乾杯しよ!」
果南「当然のように自分のグラス持ってるな……」
曜「果南ちゃん、誕生日おめでとう」カチン
果南「ふふっ……昨日も聞いたよ」
黒々と澄んだ酒を一口、口に含む。ふわりと鼻を抜ける麦の香。少し強い苦味がぼんやりとした頭を引き戻してくれる。
今の自分は…昔想像してたのと違うかもだけど。
酒を飲めて、目の前で笑ってる親友がいる。それだけで今はとりあえず、悪くはない。
冷え切った風が煙を通したダクトを揺さぶる。空には雲一つなく煌々と綺羅星が光り輝いていた。
ビールの泡がグラスの中で一つ、また一つと弾ける。その様子を果南は?に手を当ててぼんやりと見つめていた。
おわり
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