まさら「死への躊躇いが無いのね」ほむら「――は」 (30)

突拍子もなく投げ掛けてくるこの女――加賀見まさら、と言うらしい――に不意を突かれた。
何を言うかと思えば――当然。

ほむら「えぇ。全て諦めてるもの」

――まどか以外の総てを、ね。

こうして無間迷宮に身を投げたのも、その為。
私に残された、立った一つの道標。

私はまどかを救う。
まどかを救うは私。

私の体――最早亡骸の様な物だけれど――は、その為のみにあるのだから。

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まさら「いいえ」

ほむら「……」

珍しく眉が動いた。
それも、苛立ちにも似た感情。
この手の感情をインキュベーター以外に覚えたのは、美樹さやかに対して以来か――

まさら「総てを諦めてるのなら、今すぐに[ピーーー]ば良い」

ほむら「……何が言いたいの」

拳銃握る拳が力む。
この女、私をここで亡き者にでもするつもりだろうか。
だとしても、然程の問題はない。
いつも魔女やインキュベーターを気付かぬ内に葬るが如く、この女も葬り去って仕舞えばいい。
幸い、未だコイツには固有魔法を見せていない。

まさら「――貴女には動かすモノがある」

ほむら「――」

こいつ。
見透かしたような事を。

ほむら「そうだとして、あなたには関係無いでしょう」

まさら「えぇ、そうね」

なら今すぐ口を閉じて欲しい。
あまり踏み込まれては、奴に私の目的を知られる事となる。
そして此度の旅路もまた無駄へと散る。
それ以外にも、美樹さやか程ではないが土足で踏み込まれては若干の苛立ちを禁じ得ない。


まさら「――でもどうして」

まさら「どうしてそこまで熱くなれるの」

ほむら「言ったはずよ。あなたには関係ない、と」

まさら「……残念ね」

と嘯く彼女は、ちっとも表情を変えない。

何を考えてるかも分からない。
気味が悪い。
まどかを亡き者にするエゴイズムを以った、かつて遭遇したあの忌々しい白い女の方がまだ分かりやすい。

ほむら「もういいでしょう。さっさとお開きにしましょう」

まさら「そうね。拒絶され切った以上、私もこれ以上ここに居る意味は無い」

――スッ……。

その声を残響に、白亜の焔と共に薄れ逝く彼女。

ほむら「――!?」

―――『奇遇に再び会える事を願うわ』

―――『少し、あなたと言う人に好奇心が湧いた』

そして残るは、静寂の夜。

ほむら「――――」

――否。
残されるはソレのみではない。

名も知らぬ、ただその場凌ぎで協力する事となった魔法少女。
彼女に与えられた、肌を這うわだかまり――不快感。



――イレギュラー。

固有魔法不明。
願いも誰も知らない。
契約した覚えもない。

キュゥべえが言うところ彼女――暁美ほむらと言うらしい――の話は以上。

まさら「キュゥべえも記憶障害を患う物なのね……」

QB「そう言う話じゃないんだ」

まさら「違うのね……」

QB「わけがわからないよ」


そして、一際私を動かすに値した話は――

まさら「――鹿目まどか」

キュゥべえがそう称する少女と契約を交わそうとすれば、幾度も得体の知れぬ攻撃を浴びせられるらしい。
無論、暁美ほむらによる手だ。

QB「そうだ。だから彼女には気を付けた方が良い。極め付けのイレギュラーで、何を考えているか分からない! 魔法少女である君にも、ひょっとしたら身の危険が及ぶかもしれないよ!」

まさら「その時はその時ね」

QB「まさら! 死ぬのが怖くないのかい!?」

まさら「えぇ」

QB「君はいつだってそうだ。普通第二次性徴期の少女は死を恐怖するものだ。わけがわからないよ!」


――そうれはそうと――

まさら「キュゥべえ」

QB「何だい?」

まさら「今日も攻撃を浴びせられたのよね」

QB「そうだよ」

まさら「無傷なのはどうして?」

QB「代わりはいくらでもいるからさ!」

つまりは、こうか。
TVゲームで言う無限の残機――のようなものだろうか。

まさら「わけがわからないわ」



こころ「……うーん」

一言で言うと”わけがわからない”この子。
私と触れ合おうとも、与えてあげられるメリットは然程思い浮かばない。
にも関わらず、私の側に居たいと言う。

私は、ずっとこの子を解せないで居る。

こころ「キュゥべえ襲撃かあ……」

昨日の事の顛末を話してみはした。
大方キュゥべえと同じく、”同業者”を増やさない為の狙いと返ってくるに違いない。

こころ「――その子の事が大切、とか?」

――解せない。

この子はいつだってそうだ。
私としては、理解の範疇外の事を何時も返してくる。

まさら「どうして?」

うーん……と唸って、

こころ「まさら、前に怪我したよね?」

まさら「……えぇ」

こころ「あの時、すっごく嫌だったんだよ?」

まさら「えぇ、聞いたわ」

忘れる筈もない。
心を掻き乱された、あの時の事を。

――そして、あなたが傷付こうとした時の、あの言い知れぬ不快感を。

こころ「みたいな感じじゃないかな」

まさら「……どう言う事」

こころ「あーもうっ! まさらってば何時もそう!」

まさら「??」

こころ「その暁美さんって人、鹿目さんに来て欲しくないんじゃないかな、って話!」

まさら「どうして?」

こころ「だって傷付いちゃうでしょ?」

まさら「……成程」

こころ「でも、もう会わない方が良いと思うよ……」

まさら「どうして」

こころ「まさら伝いに聞いただけじゃ分かんないけど、多分……あまり触れて欲しく無かったんだと思う」

まさら「――」

確かに、これ以上暁美ほむらと対話しようものなら、逆鱗に触れてしまう事になるであろう事は間違いない。
私にはそれがよく分からないけれど。

――けれど――



ほむら「……」

まさら「――」

見滝原市の鹿目宅周辺。
再び彼女に出会えた。

ほむら「関係無い、と言った筈よね」

まさら「そうね」

ほむら「……」


――止められなかった。

彼女は言う。
全てを諦めた、と。
されどその身は想い人の為と言わんばかり。

――興味を、止められなかった。

私は死んでいる。
全てに感動する事を。
興味を抱いてはやがて無味に堕ち、私を満たす物など何処にも無い。


――ねえ――

まさら「どうしてそこまで、熱くなれるの」

ほむら「……」

艶やかな漆黒の長髪を、手の甲が撫でる。
夜風に乗り、淀みなく靡く。

ああ、あの時の夜と同じだ。

ほむら「――どこまで知ってるの?」

まさら「キュゥべえを大量虐殺する所までは」

ほむら「アイツから聞いたのね」

まさら「えぇ」

ほむら「……」

凝視する暁美ほむら。
この前の如く、私への視線がどこか合ってない――と言う事はない。

彼女は確かに今、私を見ている。

ほむら「――”魔女”の正体は?」

突拍子も無い。
けれど当然――

まさら「呪いよね」

ほむら「……」

そして逸れる、彼女の視線。
ああ、確かに今の彼女は私を見ていない<私に無興味だ>。

ほむら「困るのよ。彼女みたいな”将来有望”に魔法少女になられては」

まさら「自分より強い者には来て欲しくない、とでも」

ほむら「えぇ、その通りよ」

ああ、嘘。
氷の如く凍て付く声色――嘘に包まれたその意思。

私はそれが知りたい。
その為に今日、ここまで来たのだから――


まさら「――鹿目まどかにご執心、なのではなくて?」


「――動くな」

まさら「――」

背後から聴こえる、暁美ほむらの声。
今、私の前に彼女は居ない。

私の後ろに、彼女がいる。
そして私の後頭部には、冷ややかな”何か”を突き付けられている。

ほむら「――消えろ」

ほむら「もう私達に関<さ>わらないで」

ほむら「さもなくば、今すぐここで殺してあげるわ」

まさら「――」


――ならば


――チャキ。

ほむら「――ッ!?」

透化。
からの、同じく背後からのナイフ突き付け。
意趣返し、と言った所か。

――尤も、その先は――

まさら「大丈夫。殺すつもりは無いわ。私も人は殺したくないもの」

まさら「ただ、この石を壊せば……あなたの魔法が使えなくなるだけ」

ほむら「……っ」

ほむら「……本気で言ってるの……?」

珍しい。
冷え切ってるかと思えば――肌は存外にしっとりとしている。
それも、震える唇と呼応するが如く噴き出す汗のよう。

まさら「何が」

ほむら「……やめなさい……やめて……」

まさら「?」

ほむら「何が目的なの……」

まさら「……?」

意味が分からない。

まさら「脅されたから脅し返しただけ」

ほむら「は――」

彼女の左手掴む腕から力を抜けば、するり……と抜け落ちた。
力が途絶えたかの様、彼女は足から崩れ落ちた。

ほむら「――笑えないわ」

まさら「どこか笑われる様な事をした覚えはないけれど」

ほむら「いいえ、私が……よ」

まさら「?」

しかし、何はともあれ――

まさら「今後、あなた達にはもう関わらないわ」

ほむら「……どう言うつもり? 潔良過ぎるわ」

まさら「だって、関わって欲しくないのよね?」

ほむら「えぇ、そうよ……。でもだからって……」

まさら「関わって欲しいの? 欲しくないの?」

ほむら「……ッ」

口を噤み、噛み締め、そして開く口は――

ほむら「……欲しくないわ」

まさら「なら、もうこれっきりね。これ以上は多分、あなたに殺される」

――自分で吐いて、不思議だった。

私は最初から、死さえ躊躇は無い。
けれど――

――『――見たくない! まさらが傷付く姿なんて……!』

――嗚呼。やっぱり、あの時からだ。
あの子を思い出せば、どうも心が掻き乱される。


まさら「――死ぬつもりなんて、毛頭もないもの」

終わり
クーほむとまさらの絡みが読みたいな、って思って書きました

以上

>>2修正

まさら「いいえ」

ほむら「……」

珍しく眉が動いた。
それも、苛立ちにも似た感情。
この手の感情をインキュベーター以外に覚えたのは、美樹さやかに対して以来か――

まさら「総てを諦めてるのなら、今すぐに死ねば良い」

ほむら「……何が言いたいの」

拳銃握る拳が力む。
この女、私をここで亡き者にでもするつもりだろうか。
だとしても、然程の問題はない。
いつも魔女やインキュベーターを気付かぬ内に葬るが如く、この女も葬り去って仕舞えばいい。
幸い、未だコイツには固有魔法を見せていない。

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