真姫「卒業式」 (10)
3月9日。天気は晴れ、時々雨が降る事もあるでしょう。
真姫「はあ。いい天気ね」
あの人達が卒業してから今日でちょうど一年が経った。
その時、私は壇上に上り送辞を読んだ。
笑顔で送り出すと決めていたし強がりな私はその日泣く事はなかった。なのに、その一年後に涙を流す事になるなんて何とも皮肉な事だ。
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凛「三年間あっという間だったね」
花陽「そうだねぇ。三年かぁ。もうそんなに経つんだね」
ねえ?あなた、アイドルやってみない?
真姫「はあ?」
出会いはいつも唐突で、けれど決まって必然的で。私の人生を語る上であの日の出会いは欠かせない訳で。あの音楽室がまるで舞台上の様に感じたのは、あの時の出会いが私の人生を動かした瞬間だったからだと思う。
あの出会いがなければ私はきっと教室の片隅にずっと閉じこもっていただけだったかもしれない。
部室を訪れても彼女達の面影を感じて感傷に浸る事はなかっただろうし親友達の顔を見てもただの他人に感じていただろう。
それだけ、あの時の出会いは私の人生に影響を与えていたんだと思う。
花陽「ねえ、思い出の場所を最後に一緒に見て回らない?」
親友の誘いを一瞬断ろうか迷ったのはそんな場所を回れば思い出達が私の涙を催促してくるに違いないと思ったからだ。
真姫「いや、私は…」
凛「もう。早く行くにゃ」
私の返事を待つ事もせずもう一人の親友が私の手を強引に引く。
思えばこの子はいつもそうだった。落ち着きがなくて強引で、でも私やもう一人の親友がこの場所に落ち着いたのは彼女の存在が大きい事は間違いない。
ただ、何も変わっていないと言えば嘘になる。毎朝挨拶を交わした下駄箱にも毎日授業を受けた教室にも私の名前はもう無い。部室に並んでいた私物も全て片付けてしまったし音楽室で声を揃える事ももう無い。
そんな事を思いながら歩いていると色々と思い出してしまう。
本当に色んな事があった。
教室に行っても
凛「あ~ん。真姫ちゃん。宿題見せて~」
真姫「また忘れたの?あなたの幼馴染はどうなってるのよ?」
花陽「えっと…凛ちゃん…ちゃんとやらなきゃダメだよ?」
凛「かたじけないにゃ~」
音楽室も
海未「真姫?この歌詞…どうでしょうか?」
真姫「うん。とても良いと思うわ」
希「ふふっ。曲作り二人ともお疲れさん。これ差し入れよ」
部室も
にこ「もう、遅いわよ」
真姫「にこちゃんと違って忙しいのよ」
にこ「なんですって」
ことり「ま、まあまあ。二人とも…」
屋上も
絵里「さっ、もう一度おさらいをしましょう?」
凛「え~またぁ?」
穂乃果「疲れたよぉ~」
にこ「休憩は?」
海未「さっきしたでしょ?」
穂乃果「海未ちゃんの鬼ぃ~」
初めて出来た後輩の事も…
花陽「は、初めまして。ぶ、ぶ、部長の」
雪穂「あはは…緊張してるなぁ」
亜里沙「花陽さん頑張って」
校舎のどこに行っても思い出があるから…。
ああ、やっぱり校舎なんて見て回らなければ良かった。私は必死に涙を堪える。
「そっかぁ。もう卒業なんだ。早いね」
そう言えば、昨日久しぶりに会ったあの人は少し大人びていた。
私達も卒業したらそうなるのだろうか。
「皆んなで必死になって汗をかいてたのが昨日の様だよ」
全てが過去になってしまうのだろうか。
私はそれを寂しく思う。泣いてしまったら全てが思い出になってしまう様な気がしたから必死で否定しようとしていた。
「楽しかったなぁ。辛い事もあったけど。一生懸命やってさ」
ねえ?あの時に戻りたいと思う?
「ううん。楽しかっけどね。ほら?私はあの時と一緒だよ?今が最高だから」
ああ…そうか。私はなんて野暮な事を聞いたんだろう。あの時もそうだったのに。
「きっと、君の事だから泣かないって意地を張るんだろうね。でも、いいんじゃないかな?泣いたって」
自分だって卒業式の時には絶対に泣かないって言い張ってた癖に。
そう言われると意地でも泣きたくなくなるのが私だけど…。でも、いっか。今日くらい泣いても。
何故かそう思えた。
おーい。もう式が始まるよー。
うん。
3月9日。今日は卒業式。天気は晴れ、時々雨が降ることもあるでしょう。
>>4
今日が特別な日だからと言って校舎はなんら変わり映えはなく、ただ無機質に聳え立っているのがかえって私の心を揺さぶった。
完
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