【艦これ】戌と兎の百年戦争 (190)

4本目の作品です。
本来はクリスマスあたりに投稿できればなーと思っていたのですが、あえなく今日となりました。なのでクリスマスチックな表現が一部あります。

内容は、朝潮と卯月のお話。
いろいろと挑戦してみたかったので、海戦シーンだけ地の文で書いてます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515326593


―執務室―


コンコン


ガチャ


荒潮「失礼しま~す。提督、荒潮をお呼びですか~?」

提督「ん?荒潮か。別に呼んでいないぞ」

荒潮「あら~?提督が私を血眼になって探してるっていうから急いで来たのだけど~…違ったかしら?」

提督「特に血眼になってまでお前を呼び出す用はないな」

荒潮「私のタイツが欲しくて欲しくて飢えてるって聞いたのだけど~…違ったかしら?」

提督「絶対違う」

荒潮「あらあら。それじゃあタイツだけ差し上げて、私は失礼するわ~」スルスル

提督「いらん!穿いて帰れ!」


~三十分後~


コンコン


ガチャ


大潮「失礼します!司令官!」

提督「おぉ、大潮か。相変わらず元気いっぱいだな」

大潮「はい!大潮、一年中アゲアゲです!歯医者の日を除いて」

大潮「それで、何かご用でしょうか!」

提督「んあ?いや、用なら特にはないはずだが…」

大潮「司令官が、大潮のとんがり帽子を欲しがっていると聞きました!」

大潮「愛着があるので名残惜しいですが…司令官に差し上げます!どうぞ!」

提督「えぇ?いや、どうぞと言われてもな…」

大潮「それでは大潮、失礼しますね。とんがり帽子、大事にしてください!」


~三十分後~


コンコン


ガチャ!


満潮「失礼するわ」

満潮「何か用なの、司令官」

提督「んー…用はなにもないんだよなあ」

満潮「は?じゃあどうして呼んだのよ」

提督「いや、そもそも俺は満潮を呼んでない」

満潮「でも、探してるって聞いたわよ」

提督「うん。実を言うとな?荒潮と大潮もさっき、そう言って俺の所に来た」

提督「その時、俺が何かを欲しがっていると言っていたんだが…お前も何かを?」


満潮「あぁ、私のドーナツが欲しいのなんのって。私、ドーナツなんて持ってないんだけど?」

提督「満潮のドーナツ……となると、それじゃないか?頭で髪の毛をくるくる巻いているやつ。フレンチクルーラーに見えるしな」

満潮「は?バッカじゃないの。食べられるわけないじゃない、髪の毛なんだから」

提督「そうだな。食べるためでなく、可愛い満潮を更に引き立てるためのアクセントだ」

満潮「どわああ!うっさい!もう、なんなのよ!用がないなら帰るわよ!?」

提督「ちょっと待った!帰るついでに、大潮にとんがり帽子を返してやってくれ」

満潮「はあ?なんで私が小間使いなんて……まあいいけど……」

提督「それともう一つ、念のために聞いておこう」

提督「お前に用を頼んだのは誰だ?」


―食堂―


卯月「ひゃあ~っ!羊羮がおいしいっぴょん♪」モグモグ

弥生「なんだか…嬉しそう。何かあった?」

卯月「なんにもなくても、うーちゃんはいつも元気だびょ~ん!」

如月「あら。うーちゃんたら、ほっぺに羊羹付いてるわよ。とってあげるわ」

卯月「如月ありがとぴょん♪」

如月「…はい。取れたわ」パクッ

睦月「任務明けのおやつは、特に美味しく感じられるよね♪」

卯月「これくらいのご褒美がなきゃ、やってられないっぴょん!」


ガララ


朝潮「失礼します」

朝潮「卯月。話があるわ。こっちを見て」

卯月「ん~?朝潮だぴょん。うーちゃんとにらめっこ~?」

朝潮「違います」

如月「あら、朝潮ちゃん?そんな怖い顔しちゃダメよぉ。スマイルスマイル♪」

朝潮「私は今、真剣な話をしにきています。和やかな雰囲気は必要ありません」

睦月「あ、あれ?なんだか不穏な気配…」


朝潮「卯月。あなた、荒潮たちに嘘をついたわね?司令官がお呼びだと」

卯月「あっはっはっ~!騙されたぴょ~ん」

卯月「でも、それくらいの嘘なら許されるぴょん。皆司令官とお話したいに決まってるぴょーん」

朝潮「何を言っているの!荒潮達に迷惑がかかっていることに、どうして気付かないの!」

卯月「ぴょん?」

朝潮「荒潮達だけに止まらず、あろうことか司令官の邪魔までして。あなたの行動は、とうてい許されるものではありません」

朝潮「卯月。あなたの行動は、前々から気になっていました。他人を小バカにしたような嘘で、無闇やたらと翻弄して。被害は多人数にまで渡っているわ」

朝潮「今回こそは、あなたが反省するまで許しません!」

卯月「ぴょー…」


卯月「あはは!朝潮は大げさだぴょん。ちょっと嘘ついただけなのに。うーちゃんのは、嘘の内に入らないような嘘だぴょ~ん」

朝「そんな言い訳は通りません」

卯月「うーちゃんだって、考えて嘘ついてるっぴょん。出撃前の子とか、忙しそうな人には絶対つかないもーん」

朝潮「そんなことが免罪符になるとでも?とにかく、卯月!」

朝潮「このままでは鎮守府の規律に関わります。よって、あなたには相応の罰を受けてもらいます」

卯月「ぴょ?罰ぅ!?」

朝潮「今回を初犯と見なして、軽いものにします。ですが、常習性が今後も見てとれるようであれば、当然重くなります。覚悟しなさい」

卯月「ぴょ…ぴょ~ん…」


如月「待って、朝潮ちゃん」

朝潮「異議を認めます。如月」

如月「確かに嘘をついたのは、うーちゃんが悪いかもしれないわ。けれど、それで罰を科すというのは、さすがにやりすぎじゃない?」

朝潮「そんなことはないわ。嘘をつくという行為が、どれだけ重いことか分かっていませんね。閻魔さまだって舌を引っこ抜く所業です」

如月「それは詭弁だわ。それに、司令官の許可は得ているの?」

朝潮「はい。司令官は、話し合った上で双方納得のできる結論を出せと仰っていました」

如月「なら、朝潮ちゃんの意見に私達は納得できないわ」

朝潮「嘘をついたのは事実です。見逃してもいい理由はどこにもないわ」

如月「荒潮ちゃん達はなんて言っているの?」

朝潮「まだ意見は聞いていません。ですが、迷惑だったに決まっています」

如月「ならば今、この場に呼んで意見を求めましょうよ」

朝潮「望むところです」


睦月「あわわ…なんだか話が大きくなってきちゃった…」

弥生「…でもまあ、卯月が原因なのは間違いない…」

卯月「ていうか、うーちゃんそっちのけで話が進んでるぴょん」


―十分後―


ガヤガヤ ワイワイ


なんだなんだー喧嘩かー?
やっちゃえ満潮、返り討ちだー
穏やかじゃないっぽいー
睦月ちゃん怪我しないでねー



弥生「…ものすごく注目されてる…」

荒潮「あらあらぁ、照れちゃうわね~」

如月「ごめんなさいね、三人とも。呼び立てしちゃって」

大潮「大潮はぜんぜん構いません!」

満潮「私も構わないけどさ、今はやることないし。用件なら早いところ終わらせてよね」

卯月「あっはっは~。三人とも見事にうーちゃんの嘘に騙されたっぴょん!」

満潮「やっぱりあったわ。卯月、歯ァ食い縛りなさい」

睦月「わぁダメダメ!満潮ちゃん落ち着いて!」

朝潮「嘘をつかれたら、怒るのが当然よ」


朝潮「さて、荒潮、大潮、満潮。あなたたちは、共通して卯月の被害者です。司令官が入り用だと嘘をつき、あまつさえ三人と司令官の時間を無駄にしました」

弥生「さすがに…それは大げさ」

朝潮「そんなことはありません。仲間との信頼関係が求められるこの鎮守府において、不必要にその絆を引っ掻き回す行為は重罪とも言えるわ」

如月「朝潮ちゃん。うーちゃんの嘘は、別に誰かとの関係性を破壊するようなものではないわ。今までだって、変にこじれた人は誰もいないもの」

朝潮「たとえそうだとしても、嘘は嘘。きちんとした対処を考える必要があるわ」

如月「もう。少しは開放的に考えた方がいいわよ?四六時中、規律だ法規だと意気込んでると、疲れちゃうもの」

朝潮「私は今、卯月が嘘をついたことを問うているの。そうやって論点をずらすのは、卑怯よ」

如月「あら…言ってくれるじゃない?」


満潮「ちょっとちょっと…睦月?」チョンチョン

睦月「ん?なあに?」

満潮「この二人、どうしちゃったのよ?なんだか妙にピリピリしてるじゃない」

睦月「うん…睦月たちも驚いてるよ」

満潮「どういう流れでこうなったのよ」

睦月「朝潮ちゃんが食堂にやってきて、卯月ちゃんを叱って、そしたら如月ちゃんが卯月ちゃんを庇い始めたところから…かな?」

満潮「ふうん…ウサギ一羽のイタズラなんて、そこまで目くじら立てるほどでもないでしょうに、朝潮もなにやってるんだか」

満潮「まあ迷惑だったのはそうだけど」


睦月「如月ちゃんはお姉ちゃんみたいなところがあるから、卯月ちゃんを庇ってるんだと思うの」

満潮「お互い意見をぶつけて睨みあってんのね」

睦月「うん」

満潮「今のところは、どっちの意見が理にかなってるわけ」

睦月「うーん…五分五分ってところかな?」

満潮「はぁ…長引きそう」


朝潮「さて。一人ずつ訊いていくわ。率直な気持ちを言ってちょうだい」

朝潮「荒潮。あなたは卯月に嘘をつかれて、どうだった?」

荒潮「そうねぇ…嘘にもいろいろあるのは分かるのだけれどぉ、火急の用だと言うのはちょっとねぇ。さすがに驚いちゃうわ~」

如月「…まず一人目は、否定的。満潮ちゃんは?」

満潮「取り立てた用も無いとはいえ、無駄に翻弄されるのは好きじゃないわ」

朝潮「二人目も、否定的です」

卯月「ぴょーん…」


朝潮「さて、最後に大潮。あなたは卯月に嘘をつかれて、どうだった?」

大潮「えーと…」

大潮「大潮は、司令官とお話できて嬉しかったです!なので、卯月さんには感謝しています!」

朝潮「えぇ!?」

如月「これで二対一、ね」ニヤリ

朝潮「お、大潮!私が訊いているのは嘘そのものであって、結果がどうとかは関係ないの!」

大潮「特に悪い気はしません。最近司令官とお話できてなかったので、楽しかったです!」

朝潮「そうじゃなくて…あぁ、これ以上聞いても変わらなさそうね」


朝潮「ですが、結論は既に出ています。三人中二人が否定的となれば、やはり卯月の嘘で迷惑を被っていたということです」

如月「あら、多数決で判断するなんて一言もなかったわよ。それに、明らかに分母が足りないわ。全員が同じ意見なら考えようがあったけれど…この少なさで意見が割れたのなら、それはまだ結論が出ていないのと同じよ」

荒潮「私は司令官とお話できて嬉しかったわよ~」

朝潮「荒潮!余計な事は言わなくていいの」

如月「結果は大勢に寄与しないんじゃなかったの?」

朝潮「うっ…」


如月「この結果から、私達がうーちゃんへの懲罰を納得することは、難しいわね」

朝潮「でも!常識的に考えて嘘が許されるはずがないわ」

如月「意見が折り合うことはないわね」

朝潮「信じがたいけれど、そのようね」

卯月「うーちゃんは人を不快にさせるような嘘はつかないっぴょん!」


睦月「じゃあ…どうやって話をまとめるの?」

卯月「朝潮がうーちゃんの嘘を許せば、全部解決だぴょ~ん♪」

弥生「まったく悪びれてない…」

満潮「こっちだって、卯月が謝れば許してやるつもりはあるけど?」

荒潮「まあまあ、カリカリしないで穏便にいきましょ~」

大潮「カリカリ梅は大好きです!」


如月「さあ、どうするの?原因はうーちゃんだけど、話を焚き付けたのは朝潮ちゃん。どう決着を付けるつもりかしら」

朝潮「司令官は、お互いに納得のいく結論を出せと仰っていました。ならば、話は簡単です」

朝潮「如月。そして、睦月、弥生、卯月」

朝潮「我々第八駆逐艦は、あなたたちに戦いを挑みます」

睦月「え」

弥生「えぇ…」

如月「ふぅん?面白いじゃない」

卯月「やってやるっぴょん!うーちゃんが間違ってないこと、照明してやるぴょん!」


如月「ならば、朝潮ちゃん。荒潮ちゃん。大潮ちゃん。満潮ちゃん」

如月「私達睦月型は、あなたたちの宣戦布告を受けてたちます」

朝潮「決まりね」

睦月「えぇー!そんなんで決まっちゃうの!?」

弥生「受けるって言われても…」

満潮「ふぅん。ま、下手に折れるよりはいいかもね」

荒潮「あらあらぁ、ドンパチはあまり好きじゃないのだけど~」

大潮「お手柔らかにお願いしますね!」


ー執務室ー


朝潮「と、言うことになりました」

如月「なっちゃったわぁ~♪」

神通「……また駆逐艦の揉め事が一つ、増えるのですね。まあ、報告が何もないよりはマシですが…」

提督「まあまあ、神通。……ふーーむ、なるほどなぁ。どちらも、一歩も譲るつもりはないんだな?」

朝潮「はい」

如月「プライドを持っていれば、簡単には引き下がれないわよねぇ」

提督「うん……よし、あい分かった。それが双方で納得のいく結論なのだとしたら、俺は何も言わん」

提督「だがくれぐれも、人に迷惑のかけることは無きよう、ゆめゆめ忘れるな」

朝潮「承知しました」

如月「承りました♪」

朝潮「それでは、失礼致します」

如月「如月も失礼するわねぇ~」


神通「……はぁ。もう、また勝手に決めて……なんのために規律が存在していると思っているのですか」

提督「まあまあ、そう言ってやるな」

神通「今の言葉は、提督も対象ですよ」

提督「ははは!その通りだな。そこは反省するよ」

提督「でもまぁ、丁度いい議題じゃないか。嘘はどこまでなら許されるのか、それとも全て嘘は取り締まるべきか。道徳的な事を考えるのは必要だ。戦いにばかり明け暮れるよりは、よっぽど彼女達のためになる」

神通「正当な理由があれば勿論構わないのですが…はあ、これ以上言っても仕方ないですね」

神通「それで、提督はどちらの意見を支持しますか?」

提督「あえては言わん。一方に味方したとなれば、裁定者として相応しくない。どこからか情報が漏れるかも分からんからな」

提督「たとえば、そう。そこの棚入れの後ろに隠れている奴とかからな」

青葉「っ!?」

神通「…?…あ、青葉さん!?そこで何を?」

青葉「いや~はははっ…司令官が駆逐艦の子からタイツを奪ったと言う情報を入手したもので…記者として、見逃せませんね!」


青葉「改めまして、こんにちは!司令官、神通さん!さっそくですが、先程の噂は本当でしょうか?」

提督「事実無根だバカ野郎」

神通「あまり俗な噂を信じすぎるのもどうかと…」

青葉「俗ではありますが、だからこそ皆飛び付くんですよ!非常に分かりやすいストレートな内容ですから!」

青葉「それともう一つ、朝潮型と睦月型でなにやら一悶着ありそうと、みんな噂しております。何かご存知ですか?」

提督「知っているが、答えることはない」

青葉「えぇ~?もったいぶらないで教えて下さいよ~うりうり♪」チョンチョン

提督「やーめーろ」


神通「ですが、提督。ああは言われたものの、もし必要以上に問題が尾を引けば、二つの派閥に悪い空気が流れます。何らかの形で、提督の介入が必要と判断しますが」

提督「んー。そうだなぁ…」

青葉「はいはい!なら青葉が方法を考えます!より面白い仲間の写真を撮ったほうが勝ち、とかどうでしょう。青葉が審判します!」

提督「アホか」

青葉「あぁーっ!?アホって言ったー!アホって言いましたね?アホって言った方がアホなんですー!」

提督「ばーかばーか」

青葉「バカって言った方がバカなんですー。司令官のばーか!」

神通「何を下らない言い争いをしているのですか…」


提督「冗談はさておき…朝潮たちの件は、とりあえずこちらで預かる。必要ならばでしゃばるのも考えなければならん。そこは俺がなんとかする」

神通「クセの強い子ばかりですよ。大丈夫ですか?」

提督「ああ任せておけ。それと青葉、この事を記事にするのは禁止だ」

青葉「えぇ~?何でですかー!弾圧ですー!」

提督「言ったろう。外部から不必要に圧力を加えるのは、あの子達に無用な競争心を生み出す。あくまであの子達の問題であり、俺は大人としてそれを見守る。余計な煽動はいらん」

青葉「競争は大事ですよ~」

提督「今回はいらん。それだけだ」

青葉「うぅ~…分かりましたよぉ。じゃあ、タイツの事だけネタにしますね」

提督「……まだ諦めてなかったのか」




ー廊下ー


如月「うふふぅ♪さぁーて、どうやって白黒つけましょうか。何か案でもあったり?」

朝潮「簡単ですよ」

朝潮「如月、貴女は先程、言いましたね。分母の少ない多数決に意味はないと。確かにその通りだったわ。先刻の方法では統計的に有効ではありませんでした。少し熱が入っていたようです。そこは反省します」

朝潮「であれば、要望通りに分母を増やしましょう。鎮守府の皆さんにも協力してもらいます」

如月「全員にアンケートをとって回る、とか?」

朝潮「最終的にそうなります。ですがその前に…状況を同じにしなければ、それこそ意味が無いわね」

朝潮「卯月は荒潮達に嘘をついてまわった。それも再現しなければならないわ」

如月「…ふぅん…なぁるほどぉ…朝潮ちゃんの言いたいことが分かってきたわ」

如月「実際に、何らかの形で私達が皆に嘘をつくのね?その後で嘘に関する是非を問う、と」

朝潮「そういうことです」


如月「ふふ~ん…いいわよぉ♪それなら文句はないわぁ」

如月「ふふ…やっぱり真面目ねぇ、朝潮ちゃんは。そんな回りくどい方法を採っても、公平性を重んじるわけ?」

朝潮「それこそが最善である、と信じているだけです」

如月「そう…わかったわ。なら、勝負の着け方はそれでいきましょう」

朝潮「卯月たちにも伝えてください」

如月「りょうか~い♪」


朝潮「………」

如月「………」

朝潮「………」

如月「…あら、この不思議な沈黙は、な・あ・に?」

朝潮「いえ…せっかくなので、訊いておきますね」

如月「?」

朝潮「如月は、卯月を抜きに考えて、どちらの意見が正しいと思いますか?」

如月「うーん?そうねぇ…少しくらいは嘘があったほうが、華やかじゃないかしら?システマチックに物事が進めば、そりゃ確かに理想だけどねぇ」

朝潮「……そうですか」

如月「何か気になるかしら?」

朝潮「いえ、何でもありません」


朝潮「それでは、私は失礼するわ」

如月「はぁ~い♪」


ー食堂ー


響「オオカミ少年?」

暁「そうよ!いらない嘘をつき続けて、最後には誰からも信用されなくなったっていう物語よ。教養として、大人として勿論暁は知ってるわ」

響「ふぅん…その物語がどうかしたのかい?」

暁「この物語は、実に色々な事を教えてくれるわ!嘘をつくことの罪、人から信用されない悲しさ、オオカミの怖さ。子供の時から是非とも一冊は家庭に欲しいわね!」

雷「オオカミの怖さを伝える物語だったかしら?」

電「そんなハズはなかったと思うのですが…」

暁「とにかく!大事なのは一つよ。嘘をついてはいけない。ただこれだけだわ!」

暁「暁も一人前の大人として、もちろん嘘なんてつかないわ。いーい?あなた達も、嘘はついちゃダメよ?お姉ちゃんが許さないから。お尻ぺんぺんの刑が待ってるわよ!」


響「……ふぅん。なるほど」

響「嘘をついてはいけない。その通りだね。暁の言うことは正しいよ」

暁「ふっふーん!そうでしょ?」

響「そうか、そうだね…そうすると、私は暁に謝らなければいけないかな…」

暁「ん?なによ、響。なんか嘘をついてたの?いーわ。お姉ちゃんに正直に言ってごらんなさい。今なら許してあげるわ」

響「でも、暁が怒ってしまうかも」

暁「いーのよ。ほらほら、言っちゃいなさい!」


響「……暁って、別に大人っぽくはないよね」

暁「!?」

響「というか、子供だよ。背伸びをしているのが丸わかりさ」

暁「うぐぅッ!?」

電「はわわ!?響ちゃん正直過ぎなのです!」

雷「暁が既に致命傷だわ!響、やめるなら今のうちよ!?」

響「いいや。嘘はよくない。暁の言葉に感銘を受けたからこそ、私は止まらないよ」

暁「こ…こ…これ以上、何が来るって言うの…?」


響「いいかい。暁。大人はね、夜でも一人でトイレに行けるんだ」

響「ピーマンだって、たとえ嫌いでも残したりはしないのさ」

響「あと、口の周りをクリームだらけにするのは卒業した方がいい。可愛いけどね」

暁「あば、あばばばば、ばあああ」

雷「暁が壊れたわ!許容量を越えたみたい!暁、しっかりして!?」

響「響ちゃん!もう止めるのです!暁ちゃんのライフはもうゼロなのです!」

響「ふむ……まあそうだね、これくらいにしておこう」


暁「…か…くは……そ、そんなぁ……」

響「暁。これは純然たる真実だよ」

暁「しん…じつ…?」

響「そう。暁は子供である。変えようのない真実さ。世界の真理だよ」

暁「真理……」

電「残酷なのです…そんな真実なら、知らないほうが良かったのです!」

雷「けれど、心地好い情報だけに目を向け続けていたら、人は成長できないわ…」

暁「う…うぅぅ…」


暁「そうだったのね……暁は、子供……大人のレディじゃ…ないのね…」

響「そう…真実は、そうさ」

響「けれど、それが一体なんだと言うんだい?」

暁「……ふぇ?」

響「暁。君の魅力は、大人か子供か、そんな些末な事柄でははかれないよ。暁は、暁だからこそ魅力的なのさ。それ以上でもそれ以下でもない(と、それっぽく言ってみる)」

暁「暁の…魅力……?」

響「そうさ。暁には、暁だけの魅力がある。それこそが、ありのままの暁だよ。もうこれ以上自分を偽らなくてもいいんだ」

暁「……ひ…ひびきぃ~~……」

響「よしよし。今まで辛かったね。お姉ちゃんだからって、無理はしなくてもいいんだ」


暁「うぅ……ぐすん…ありがとう響…暁が間違っていたわ。嘘をついていたのは、暁のほうだったのね…」

響「分かってくれれば、それでいいんだよ」

響「さぁ、私の手をとってごらん。一緒に嘘のない、公平で平等な世界にしようじゃないか」

暁「公平で平等……する!私、やってやるわ!」

響「一緒に共産主義を心に灯そう。誰もが対等な素晴らしい世界だよ。同志暁」

暁「すごい!共産主義って素晴らしいわ!」

響「ふふ……ガングートも喜ぶよ。共に赤い大地の統一を目指そう」


雷「地に落ちた所に救いの手を差し伸べる…洗脳の一種だわ!」

電「宗教の勧誘かなにかなのですか…?」

響「二人も如何かな?」

雷「遠慮するわ。司令官のお世話で忙しいの!」

電「というか、共産主義ってなんなのですか……」


ー鎮守府 共有畑ー


瑞穂「~~♪」

卯月「み~ず~ほ~さーん♪」ギュウ

瑞穂「あら、卯月さん?あらあら、どうしたのですか」

卯月「にゅふふぅ~。後ろ姿が大きなナスに見えたぴょん。つい食べたくなっちゃった♪」

瑞穂「あらあら、光栄ですね。うふふ♪」

卯月「それよりも、大変なんだぴょん!聞いてほしいぴょん!」

瑞穂「?」

卯月「来月から、資金不足と自給自足を兼ねて、新しい野菜が栽培されることになったぴょん!今すぐにでも種を蒔かないと皆が餓死しちゃうぴょん!」

瑞穂「え、本当ですか?あらあら、まあ。野菜って、なんの野菜かしら。そんなに早く育つ野菜なんてあったかしら」


卯月「それが…なんと!じゃじゃん。魚雷の種だぴょん!」

瑞穂「魚雷の…種?」

卯月「そうだぴょん!妖精さんが新しく作ったんだぴょん!一ヶ月もすれば怒濤の四連装魚雷がぼかぼか採れるぴょん。もう少し待てば、無敵の八連装が生えてくるぴょん!北上さんも垂涎だぴょん!」

瑞穂「まあ!すごいものが開発されたのですね。知らなかったわ」

卯月「そうだぴょん!これはまだ極秘だけど、うーちゃんには隠し事なんて出来ないから勿論知ってるぴょん!」

卯月「ちなみに、これがその種で~す♪瑞穂さんにあげるぴょん!」

瑞穂「よろしいのですか?ありがとう♪」

瑞穂「これが魚雷の…見た目はホウセンカみたいですね」

卯月「試しに植えてみるぴょん!来月には綺麗なお花を咲かせるぴょん」

瑞穂「そうしましょうか。皆さんのために、たくさん植えないと!」


瑞穂「これをこーしてあーして、土も耕して。……はい、完了です♪あとは肥料とお水を与えれば、すくすく育ってくれるでしょう」

卯月「わーい!やったぴょん!」

卯月「それじゃあお水はうーちゃんがあげるぴょーん」

瑞穂「あまりたくさん与えすぎないよう注意してくださいね」

卯月「はーい!」


ー翌日ー


瑞穂「~~♪~♪」

瑞穂「魚雷のお花は~♪血潮の香り~♪ぱぱっと打ち出す~二十万円~♪」

瑞穂「……ふぅ。草抜き、終わりですね。秋になってから根草が少なくなって、助かります。この時期はやっぱり農業に向いてますね」

弥生「……すみません……瑞穂さん……あの」

瑞穂「あら、弥生さん。あらあら、いらっしゃい。千客万来ですね」

弥生「はい……お邪魔します…あの…」

瑞穂「あら、どうしました?弥生さんもお花、育ててみたくなりましたか?」

弥生「…違う。あの……これ」

瑞穂「…?布袋ですか」

ちなみに瑞穂の鼻歌、真っ赤なお花のトナカイのリズムで歌うと丁度よく歌えるつもりです。
二十万円は、阿武隈のアレ。


弥生「鳳翔さんから…この前頼まれてた物だって。熊本の業者が送ってくれたって…」

瑞穂「あら、そういえば頼んでいましたね。ありがとうございます、弥生さん♪」

弥生「はい……」

瑞穂「うふふ、ここ最近は、なんだか睦月型の皆さんと縁がありますね。卯月さんもこの前来られましたし、他の方にも、いつでも大歓迎だと伝えてくださいな♪」

弥生「……卯月?」

瑞穂「はい。魚雷の種をくれました。もう植えてありますよ」

弥生「……魚雷の…たねぇ…?」

瑞穂「はい♪可愛いお花が咲きそうな予感です」

弥生「……あ、ごめんなさい、瑞穂さん。それ…卯月の嘘です…」

瑞穂「あれ?あらあら、嘘だったのですか?まあ、すっかり騙されてしまいましたね、うふふ♪」

弥生「ごめんなさい……後で卯月、絞めときます…」

瑞穂「いーえ~。嘘でもないような嘘ですから、問題ありませんよ~」

弥生「……ていうか、魚雷の種って。なんですか。瑞穂さんももう少し、疑ったほうがいい……」

瑞穂「うふふ♪ついつい、人の言うことは信じてしまうんですよね~」


瑞穂「けれど、植物を育てたいと種を恵んでくだすった卯月さんを、私は責めませんよ♪畑が豊かになるなら、それは人の心も豊かにしてくれますからね」

弥生「はぁ……」

瑞穂「そんなわけで、弥生さんも怒らなくていいですよ♪」

弥生「はぁ……」

瑞穂「ほらほら、眉間にシワを寄せてはいけません。可愛いお顔が隠れてしまいます」

弥生「…これは素です」

瑞穂「あら…怒っていないのですか?」

弥生「怒ってないです…」

瑞穂「本当ですか?」

弥生「本当です…」

瑞穂「こころぴょんぴょんしてますか?」

弥生「してないです…」


ー駆逐寮 ガンルームー


清霜「ねえ霞ちゃん!最近鎮守府では嘘を言うのが流行ってるみたいだよ!」

霞「知ってるわ。どこかの犬と卯が元凶らしいわね」

清霜「実はね、霞ちゃん。私、駆逐艦なんだよ!」

霞「なんで事実をさも嘘だと思わせたいのかしら…」

朝霜「チッチッ…甘いな、清霜は。そういう時は、こう言っときゃ霞は騙せんだよ」

朝霜「なぁ霞!お腹減ったからなんか作ってくれ!」

霞「……」

朝霜「か~す~み~!お願いだよ、お腹減ったよー!」

清霜「霞ちゃーん!清霜もお腹空いたよ~」

霞「だぁぁぁぁ鬱陶しいぃぃぃッッ!!朝潮のバカ、さっさと決着つけなさいよぉぉぉぉぉ!!」


ー鎮守府 海岸沿い桟橋ー


曙「……ブゥェッッ……クシュ!!……あぁぁ、なによもう、ちくしょう…」

潮「大丈夫ですか、曙ちゃん?さっき波をおもいっきり被ったから…早くお風呂に入りましょう。体が冷えきってます」

曙「はん。この程度気にすることもないわよ。そんなやわな鍛え方してないわ」

潮「ダメです。風邪を引いちゃいます。体調不良は更なる事故の元ですよ」

曙「いーっての」

潮「よくありません。自分で入るか、私に叩き込まれるか選んでください!」

曙「いらないっての!いたいいたい、ちょっと強引に引っ張んないで!わーかったわよ、お風呂入るわよ!」

潮「よかったです」


曙「はぁーもう、なんか最近、あんた乱暴になってきたわ。陽炎の悪いところばっかり吸収してるわね」

潮「そんなことありません。曙ちゃんの悪いところもしっかり吸収してます」

曙「言うわね。ま。それは間違ってないわ」

曙「とりあえずそんだけ軽口叩けりゃじょうと……ハッくしゅ!」

曙「う~~。悪寒も走ってきたわ…誰かが噂でもしてるのかしら……」

皐月「あれ、曙達じゃないか。お疲れ様。今帰って来たところ?ケガはないかい?うわびっしょびしょだね!近付かないで!」

曙「出会い頭に心配してるのか喧嘩売ってるのかどっちなのよアンタは!?」

皐月「あははは!もちろん心配してるよ。二人ともお疲れ様。お風呂沸いてるから、泡だらけにならないうちに入ってきなよ」

潮「ありがとうございます皐月さん。さ、曙ちゃん。早く入っちゃいましょう」

曙「わかったわよ。この期に及んで逃げないっての」


ー厨房ー


皐月「ふふーん。せっかくだから何か飲み物でも持っていこうかな。どうせなら美味しいものを作ろう。そして感謝されよう。厨房って、結構いろいろ揃ってるんだよなー。前々から弄ってみたかったんだ~」

長月「おおい、皐月。文月がお前の事を探していたぞ」

皐月「やっほー長月」

長月「……何をやってるんだ?調味料の瓶並べて、ボーリングか?」

皐月「違うよ。今ねえ、曙と潮に何か飲み物でも持っていこうかなと思ってね。あ、長月も何か考えてよ!美味しい飲み物!」

長月「あぁ、飲料物か。ふ、任せろ。この程度、私には造作もない」

皐月「お、なんか自信たっぷりだねぇ。長月って得意なの?こう、バーテンダーがカシャカシャやってるようなの」

長月「いや、そんな経験はない。そもそも飲料を合わせるというのも未経験だ。まあどうとでもなる。フィーリングだ」

皐月「そうだね。じゃあ作ってみようか」


長月「とりあえず牛乳をベースにしておけば大抵飲めるんじゃないか?不味くてもスムージーだと言っておけば誤魔化せるだろう」

皐月「残念、牛乳は切らしてあるよ」

長月「そうか。では水をベースに作ろう」

皐月「それだと薄くならない?ちなみにコーラならあるよ」

長月「コーラに調味料を混ぜるのか。炭酸の効いたゴマだれとは、なかなかにカオスだな」

皐月「調味料じゃなくてもお酒とかコーヒーとかあるし。あ、アルコールとカフェインの融合とか面白そう!」

長月「アルコールで神経を鈍らせてからの、カフェインがアッパーカットを決めるわけだ。疲れが吹き飛びそうだな!」

皐月「でしょー!?それじゃあこの、ブランデー?をベースに作ってみようか」

皐月「ふーむ。ぺろ。……うわ熱い!喉が一瞬で熱くなるよこれ!」

長月「理想じゃないか!これでいい、これがいい!」


長月「ところで曙と潮はアルコールが飲めたか?」

皐月「大丈夫じゃない?この前、みんなでビールを回し飲みしたじゃないか。特に変わった様子はなかったし、好んで飲まないだけでしょ」

長月「確かに。では問題ないな」

皐月「それよりさあ、このサラトガクーラーって凄い美味しいよ!誰かの作り置きかなあ、サラトガさん?」

長月「ん?これノンアルじゃないか。こっちのカンパリはどうだ?……不味い!苦い!」

皐月「うえ、こっちのパッソアもボクは好きじゃないな~」

長月「なんだこれ、アブサン…?ぶふっ、ハハハ!阿武隈さんみたいな名前だな!」

皐月「アマレットとかいうのも、ちょっと甘すぎるなぁ~。こんな甘いのと果物なんて合わせてたらもっと甘くなっちゃうよ。くどすぎるよ」


長月「うーむ。意外と飲めないものが多いな……こんな不味いものを、よくまあグビグビとあおるものだ。サイボーグか何かか?」

皐月「僕たちはビールから始めろってことなのかなぁ」

長月「それすらも不味くて吐きそうだった。分からんものだな」

皐月「ちぇー。曙達に美味しいものを飲ませようと思ったのに、全然決まらないや」

長月「いっそのこと牛乳を潮の胸から取り出すか…」

皐月「あはは、それはいいや!あんなに大きいんだから、少しくらいは恵んで貰わないとね!」

長月「……」

皐月「……」


長月「我々が飲めない酒を、無理に曙達に飲ます訳にはいかん…疲れてくたくたなのに、それは酷と言うものだな」

皐月「そうだね…仕方ない、もっと滋養が付きそうなものを作ってあげよう」

長月「うむ。滋養と言うなら、あれだな」

皐月「オロナミンCをベースにして」

長月「塩分摂取のためにめんつゆを足して」

皐月「消化を助けるためにショウガを混ぜて」

長月「味を整えるためにミルメークを加えて」

皐長「「完成だ!」」


―脱衣場―


皐月「はいウーロン茶」コト

曙「あら、気が利くじゃない。さんきゅ………ブゥゥゥゥゥゥフゥゥゥゥゥッッッ!!!??」

潮「グムゥッッッ………!?………~~~~!!??」

皐月「わあスゴい!虹だよ虹、屋内なのに七色の虹が出来てる!雨も降ってないのに!」

長月「違うぞ皐月。雨ならちゃんと降っているぞ。二人の心の中でな!わはははは!」

皐月「あはははは!確かに降ってるね。こりゃいいや!」

曙「だったらついでに血の雨を降らせてやろうじゃないのよ!?オラー!」

長月「はははは!風呂上がりのダルい体でキレが無くなってるぞ曙。では我々は失礼する」

皐月「僕ももう行くね~。あ、文月が探してるんだっけ?じゃあね二人とも!」

曙「待ちなさい!私らに何飲ませたのよ!?ちょっと、こらー!」

潮「うぅぅぅぅ………不味いです………あ、でも慣れるとそうでもないかも…?」

曙「冗談でしょ……」


―食堂―


陽炎「ねえ不知火、このお酒飲んでみて!」

不知火「いやです」


ー廊下ー


朝潮「如月。ちょっといいですか」

如月「あら、どうしたの朝潮ちゃん?」

朝潮「明確に決めていた訳ではないのですが…貴女達四人以外からも騙されたとの報告があるのですが」

如月「知ってるわよ。皆で話し合った結果、睦月型全員でやってみようという話になったからね」

朝潮「事後報告でも、事前にそういうことは知らせてほしいわね。曙たちが変な苦情を入れてきて困ってるわ」

如月「ふふ、ごめんなさい。それじゃあ今伝えたわ。ルールは全員できちんと遵守するわよ」

朝潮「むぅ……納得できる事案ではありませんね」

如月「これは私が悪かったわ。ごめんなさい。でも、私が言ったことを覚えているかしら?朝潮ちゃんの宣戦布告を、睦月型の全員で受けると宣言したはずよ。少なくともルール違反ではないわ」

朝潮「……」


朝潮「確かに言いましたね。それは覚えていますし、如月から指摘されなくとも心に引っ掛かってはいましたが……」

朝潮「そういうのは、ズルいと思わないかしら。後だしジャンケンと変わらないわ」

如月「……それを言うなら、高圧的な態度の朝潮ちゃんも、ちょっとズルいんじゃない?あの時私が口を挟まなかったら、うーちゃんに無理矢理頷かせるつもりだったでしょ」

朝潮「反論があるならもちろん聞くわ」

如月「違うわ。そもそも、話し合えという司令官からの言伝ても、朝潮ちゃんは最初に言うべきだったんじゃない?私が尋ねなかったらお口チャックを貫くつもりだったのかしら」

朝潮「……」

朝潮「言いたいことがあるなら、直接言ってもらって構わないわ」

如月「朝潮ちゃんがやろうとしていることは、圧政と変わらないってことよ」

朝潮「…なるほど。別の喧嘩をお望みのようね。構わないわ。普段からデザートばかり食べて常時バルジ装甲の人には負けませんから」

如月「んなっ……!?……ふふん、如月のスリムな体つきが目に入らないなんて、測距擬が壊れてるのね。整備は初心の初心よ」

朝潮「生憎と、醜い脂肪を捉えるためには使っておりませんので」

如月「……っ……」


如月「ふふ、ふふふふ……うふふ……」

如月「少し……顔貸して貰えるかしら?」

朝潮「……望むところよ」

川内「ストォォォォッッップゥゥゥゥゥゥっっ!!そぉこまぁでぇぇーー!!」

朝如「「 っ!?」」


川内「あっはっはっはっ~!やあやあ二人とも、偶然だねえ!こんなところで何をしているのかな?じっとりじめじめな空気は良くないぞ~」

如月「せ……川内さん、どうして?」

川内「どうしてって?そうです!私が変な忍者です!って、まあまあ細かいところはいいじゃない!」

川内「ようし、じゃあ如月、一緒にお風呂に入ろうか!背中を流し合おう、湯船で遊ぼう!よーし行くぞ~」グワシ

如月「えぇ、ちょっ!?川内さん待って!」ズルズル

川内「いやぁ、駆逐艦の子と一緒にお風呂入れて幸せだなぁ!遠慮なんてしなくていいのにさ!それじゃあまた後でね、朝潮!」

朝潮「は、はい……」


朝潮「……」

朝潮「何故急に川内さんが……」


ー金剛型の部屋ー


金剛「ン~~……少しハングリーな気分デース……」

比叡「それってつまり、私の料理が恋しいってことですよね!?」

Warspite「Reject。拒否するわ」

比叡「酷いです……」

比叡「ていうか、そんなに私の料理って不味いですか?そこまででもないと思うんですけど。確かに調味料とかは私の好みが入ってますけども……」

金剛「それじゃあ自分で作って自分で食べてみるデース(棒)」

スパ子「もし生きて帰ってこれたら、私たちも食べてもいいわよ」

金剛「ダメよウォースパイト!余計な事はミッフィー!」

比叡「分かりました!この比叡、お二人が喜んでくれるような料理を作ってきます!」

金剛「やっちまった…デース……」


ー食堂ー


比叡「~~♪~♪」

卯月「くんくん。なんだか料理をしている匂いが……びょわああぁっ!?」

望月「あんだよ卯月。ンな皮を剥ぎ取られたアンゴラウサギみたいな声……っ!!?」

比叡「あ、お疲れ様でーす!すみません今厨房使ってるんですよー」

望月「ひ、比叡……さん……お疲れ様…あの~、念のため聞くけどさ、何を?」

比叡「え?見ての通りですよ。料理です」

卯月「その時点だけでも驚嘆に値するぴょん…悪い意味で」

望月「鍋の色…赤いなオイ。紅いわ」

比叡「はい!カレーの身上は辛さだって言うじゃないですか!だからとっておきの具材を入れてみたんですよ!」


望月「……う、目が痛ってぇ…」

卯月「ひりひりしてきたぴょん…なんで比叡さんは平気なんだぴょん?」

比叡「へ?だって料理してるだけなんですし、そりゃそうですよ。やだな~二人とも、科学実験してるんじゃないんだから!」

望月「まあフグは自分の毒で死なないしな……それと似た原理か」

卯月「絶対違うぴょん!体からトウガラシがぽんぽん出てきたら怖いぴょん!」

比叡「あははは~、まあトウガラシはそのままたくさん食べるとお腹痛くなりますからね~」

比叡「…あ、ところで二人とも、今お暇?」

望月(不味い、バスターコールだ!)

卯月(今のうちに逃げるぴょん!)


卯月「い、今暇じゃな……」

望月「私は作業が残っておりますゆえ、今しばらくしたら戻らねばなりません。ですが卯月は今日非番のため、いくらでも時間が余っております。ですので卯月は暇です」

卯月「ぴょぉおおおっ!?何勝手なこと言ってるぴょん!!?」

比叡「あ、そうだったんですね!それじゃあ望月さんは残念ですけど、卯月さん、少し試食していってくれませんか!?自信作なんです!」

卯月「やぁぁぁだぁあああああ!!」

望月「それでは私は失礼しますご健闘をお祈りします我が戦友骨を拾うのは任せてくれそれじゃあな!」

卯月「もっちぃぃぃいいいいいっ……!」


卯月「…」

比叡「はい!出来ました!それじゃあレビューお願いします!」コト

卯月(………うわあ、マジで赤いぴょん…)

卯月「これ…材料は何を使ってるぴょん?」

比叡「えーとですね、玉ねぎニンジン豚肉じゃがいも。普通の具材ですね!」

卯月「この赤いのは何ぴょん?」

比叡「ビリーズブートキャンプ的なトウガラシです!スタミナが付くこと請け負いです!」

卯月「絶対嘘びょん!デタラメはダメぴょん!」

比叡「え?でも卯月さん、よく嘘付いてますよね。嘘付くのは良くないですよ~」

卯月「………何も言い返せねぇ……」

卯月「………」チラ

ここのビリーズブートキャンプ的な唐辛子とは、ブートジョロキアのことです。
少し前まではギネス記録に登録されていたほどに辛い唐辛子なんですね。
ちなみに現在世界で一番辛いのは、カロナイナ・リーパー。その名の通り命を刈り取るほどの辛さを持っています。
ですが、なんとなんと、この死神を超える辛さを持つ唐辛子がただいま開発中とのことです。
唐辛子の世界は意外にも激戦区なんですね。


卯月(……何度見ても、赤いのは変わらないぴょん)

卯月「これ……味見してみたぴょん?」

比叡「もちろんですよ!えっへん!」

卯月「そんな、太陽みたいな笑顔で言われると疑えないぴょん…」

卯月「………」


卯月(こ、これが地獄の業火……閻魔翌様に舌を引っこ抜かれる代わりに、こんなものでうーちゃんの体は燃やされてしまうなんて…)

卯月(もしかしてうーちゃん、嘘を付きすぎてしまったぴょん?神様がうーちゃんを懲らしめるためにこんな罰を用意して……)

卯月「……」プルプル…

比叡「さあさあ卯月さん!是非是非食べちゃってください!自信作ですので!」

卯月「……う、ぉぉぉぉぉ……うーちゃんわぁ……うーちゃんわぁぁ~……」

卯月「た、たとえこれが罰だとしても、うさぎみたいな可愛い嘘を付いてくことに変わりはないぴょん…」

卯月「だから、例えこれが致死量だったとしても、比叡さんのために嘘をつくんだぴょん!その場しのぎの悲しい嘘になったとしても!」

卯月「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


ガラララ


水無月「お邪魔しま~す。わあ、なんだか美味しそうな匂いがするね」

卯月「へ……水無月?」

比叡「いらっしゃい水無月さん!水無月さんもこの匂いの良さが分かってくれますか!?」


卯月「水無月…?どうしたぴょん、こんな地獄の狭間に」

水無月「ん~?なんかね、もっちーが食堂にいるうーちゃんを助けてやれって。なんだ、カレーを食べてるだけだったんだね。心配しちゃったよ」

水無月「くんくん……美味しそうなカレーじゃない。少し貰っても大丈夫?」

卯月「か、構わないぴょん…」

水無月「…ぱく。うん、美味しいよ。ちゃんと食べられるようーちゃん」

卯月「え、あ、えぇ?」

比叡「やったぁ!なんだ、私の舌がおかしい訳じゃないんですよね、やっぱり!金剛お姉さまもウォースパイトさんも食べず嫌いなんだからなーもー」

水無月「勿体無いなぁ、美味しいのに」パクパクモグモグ


卯月「……」

卯月(うーちゃんは知ってるぴょん。水無月はとっても優しくて、人が傷付く事は絶対にしないんだぴょん)

卯月(これは比叡さんを傷付けまいとして、嘘を付いているんだぴょん!)

卯月(証拠に、水無月の額から汗が永続的に流れてるぴょん……)

卯月「み、水無月?無理は良くないぴょん!今すぐ食べるのを止めて、牛乳を飲むぴょん!潮ちゃんから貰ってくるぴょん!」

水無月「ん?あはは、何を言ってるのさうーちゃん。僕は無理なんてしてないよ。美味しいと思ってるから食べてるんだよ」

卯月「でも汗が……」

水無月「さっきまでランニングをしていたからね。仕方ないよ」

卯月「でも目が真っ赤ぴょん!」

水無月「ランニングしながら映画を見てたんだ。スッゴく泣ける映画だよ」

卯月「でも腕が震えてるぴょん!」

水無月「貧乏揺すりみたいなものだよ」


水無月「うーちゃん、いいかい。食べ物は見た目で判断しちゃダメだよ。それは人を見た目で判断するのと同じなんだ。とっても悪いことだよ」

水無月「ほら、このカレーだって、とっても辛いけれど芳醇な味わいで、唐辛子が食欲を刺激して夏なんかにはとっても人気が出そうなマズごぱァっ!?!?」ビシャ

卯月「」

水無月「……おっと、少し噎せたみたいだね。あはは、ごめんね」

卯月「吐血なのかカレーなのか判断出来ないぴょん……」

卯月「ていうか、今不味いって言った!絶対言った!!」


―10分後―


水無月「ごちそうさま。ふう、全部食べちゃったよ」

比叡「ありがとうございます!如何でしたか!?」

水無月「そうだね。とっても美味しかったよ。今度は甘口も作ってみるのもアリなんじゃないかな?もしかしたら、そっちのほうが上手く作れるかもしれないよ」

比叡「はい!ありがとうございます!水無月さんからのアドバイス、忘れません!それでは金剛お姉さま達に食べさせてきますね。それじゃあ!」

卯月「……」

水無月「……」


卯月「……お腹、大丈夫ぴょん?」

水無月「……うーちゃん。世の中にはね、命を懸けても貫かなくちゃいけない場面があるんだ」

水無月「きっとさっきのは、そういうことだったんだよ。比叡さん、とっても嬉しそうだったよ」

水無月「これくらい、なんてことないよ」ニッコリ

卯月(ま、眩しい……なんて眩しい後光だぴょん…!慈愛に満ちすぎているぴょん!)

卯月「これが、これが嘘を付くということ…うーちゃん、全然分かってなかったぴょん!勉強になったぴょん!」

水無月「うん。そういうことさ。みんなが、笑顔だったら、僕は、う、嬉しいな、っておも、思う…思う…ん……だよ……」フラフラ

卯月「エッ!?み、水無月ぃ!?」

水無月「」

水無月「」ドサリ

卯月「メディーーーーッッック!誰か来て下さぁぁぁぁぁい!!」


ー深夜 鎮守府廊下ー


菊月「天は人を作り、そして魂を吹き与えた…それが世界の真実だ……分かるな、三日月?」

三日月「ごめんなさい。分からないわ」

菊月「ふっ…まあこれしきの事、三日月なら容易く理解してくれると信じていた……」

三日月「無理矢理話を続けるつもりね」

菊月「世界は止まらない。いずれはあるべき姿へと還っていく…それが破滅か、進化か、私はそれが見たいんだ……だからそれまで、止まるなよ。ミカ」

三日月「心配しなくても、言いふらしたりなんてしないわよ」

菊月「……なんだと、いつから嘘だと見抜いていた?そうか…それが三日月の心眼の力か…クッ…侮っていた……」

三日月「はぁ……揃いも揃って、皆卯月の話に乗っちゃって。大丈夫かしら」

菊月「こういうのは多少の面白味も必要だ……で?何時になったら、私を辿り着かせてくれるんだ、ミカ?」

三日月「はいはい。トイレはもうすぐよ」

菊月「ふふふ…この菊月ともあろうものが、突然電気が消えて腰が抜けるとはな……笑止」

三日月「それだけ元気ならもう大丈夫よね?」

菊月「あ、いや……もう少しだけ頼む……」

三日月「はいはい」


ー資料室ー


神通「これは、一番の棚に。緑のラベルが張ってあるものは二番にお願いします」

朝潮「分かりました」

神通「すみませんね。雑用を頼んでしまって」

朝潮「気にしないでください。お役に立てるのなら冥利に尽きます」

神通「ふふ。相変わらず真面目ですね。朝潮は」

朝潮「人が困っていれば助けるのは当然ですよ」

神通「そうですね。でも少しくらいは、年齢相応のワガママを見せてもバチは当たりませんよ?」

朝潮「……おかしい、ですか?私がこのように振る舞っているのが」

神通「そんなことはありません。駆逐艦を取りまとめてくれて非常に助かっています。ただ、頼まれ事を嫌そうな顔で見つめる朝潮の顔も、新鮮で面白いかもしれないと思っただけ」

朝潮「そんな顔はしません」

神通「ええ。そうね」


神通「朝潮は昔からそのような性格を?」

朝潮「どうでしょう……ここまでではなかったと思います。艦娘になってから更に磨きがかかったような、そんな気はします」

神通「あら……となると、船の記憶が影響を与えているのかもしれませんね」

朝潮「記憶……ですか」

神通「そう。艦娘としての使命を与えられた子は皆、大なり小なり過去の影響を受けています。ある者は性格が変わり、ある者はトラウマを与えられ、またある者は勇気に満ち溢れます」

朝潮「座学で何度か扱いましたね」

神通「そうね。だから、割りと繊細なんです。最初のうちは、意図せずして相手の逆鱗に触れるなんてのはしょっちゅうです」

朝潮「面倒なものですね」

神通「そう。面倒なんですよ。でもそうも言ってられない。現実がそうである以上、私達はそれと向き合わなければならない」

神通「人には言えないだけで、悩み苦しみあがき、けれど外では平気な顔をしている。明るい振りをしている。嘘を付くのはその防衛本能からかもしれない」

神通「なかには、そんな艦娘もいるかもしれませんよ?」

朝潮「…………どう、でしょうね。判断しかねます」

神通「ふふ。あくまで個人的な所感です」


神通「よければ、朝潮が持つ記憶について、お聞かせ願えないかしら」

朝潮「私のですか?聞いても面白くないですよ」

神通「いいんです。聞くことに意味があるわ」

朝潮「……朧気なので、はっきりとはしていません」

朝潮「私が見えるのは、二つの船が沈むところまでです。交わした約束を守るために死地へと赴く己の姿。それだけが頭に残っています」

朝潮「けれど、それは誇らしげで、もうすぐにでも死んでしまうというところにあって、契りを交わした二人の船長はお互いの約束を守ることに努めたのです。結局船長は、その船と共に沈んでしまいましたが」

朝潮「その記憶に恥じることがないように生きたい。それが、常々思うところです」

朝潮「…………以上です。すみません。やっぱりあんまり纏まっていないですね」

神通「そんな事はないわ。よく分かりました。ありがとう」

神通「とても朝潮らしい記憶ですね。合点がいきました」


神通「駆逐艦はその性質上、血気盛んな子がとても多いんです。トラウマよりもむしろ、獰猛な虎のように相手に襲い掛かってやろうというお転婆ばかりで。数もいますし、統率させるのは至難の業です」

神通「その中でも朝潮は、理性的に皆を取りまとめてくれる。本当に感謝していますよ」

朝潮「……そう言われて安心しました。もしかしたら迷惑をかけているかもと、たまに思ったりもしていたので……」

神通「大丈夫です。提督も、他の秘書官歴任の方々も私と気持ち同じですよ」

神通「だから、朝潮が必要だと判断したなら、今回のいさかいも必要でしょう。願わくば、全員が納得する形で決着するよう私も協力します」

神通「だから、心の感じた通りに動いてご覧なさい。それが今回の事態を解決するのに役立つでしょう」

朝潮「……はい。勇気づけられました。ありがとうございます」


朝潮「ちなみに、神通さんはどのような記憶を?」

神通「私ですか?そうですね……」

神通「半身を抉られようとも真っ二つに折られようとも、ただ敵を沈めんという闘志と気迫と執念を兼ね備えた自身の姿。それが印象的ですね」

朝潮「…と、とても神通さんらしい記憶ですね…」

神通「あら…そうかしら?」

朝潮「ひっ!?も、申し訳ございません!」


―港―


睦月「ねえ如月ちゃん」

如月「なあに、睦月ちゃん?」

睦月「あのね…この出撃が終わったら聞きたいことが…」

如月「そのセリフは止めてちょうだい縁起でもないわ今すぐにしましょう何でも答えるわ」

睦月「わ、スゴい剣幕…うーんとね…如月ちゃんは、なんでそんなに卯月ちゃんを
庇うのかなって。卯月ちゃんが嘘を付くのは、やっぱり悪いことだと睦月は思うんだけど」

如月「なあんだ、そんなことだったの。別に私は、うーちゃんが嘘をついてるかどうかなんて気にしてないわ。重要なのはそこじゃないわよ」

睦月「え?じゃあなんで」

如月「うふふ、決まってるわよ。姉妹艦だから、よ。うーちゃんはもちろん、睦月ちゃんも、他の皆も大切よ。それじゃあ、ダメかしら?」

睦月「ダメじゃ…ないけど」


睦月「ホントにそれだけ?」

如月「もちろんよ。だって、せっかく姉妹になれたんだもの。大切にしたいじゃない?」

睦月「それは、睦月もそう思ってるよ」

如月「なら問題ないわ」

睦月「うん…」

如月「ほらほら、出撃の時間よ。行きましょう」

睦月「はーい」


ー中庭ー


文月「ネコがいたんだにゃ~、にゃ~♪」

朝潮「突然なんの報告ですか」

文月「あのね、さっきそこの中庭でネコを見かけたんだよ~。可愛かったぁ♪」

朝潮「へえ…それは見てみたい気もするわ。どの辺りにいたの?今もいるかしら」

文月「すぐそこにいるよ~。出ておいで~♪」

朝潮「ははは、そんな呼び掛けて出てくるわけが……」

にゃがつき「ところがどっこい、出てくるんだなこれが!」

朝潮「うわあ!?な、長月!なんですか、サンタみたいな格好して!?」

にゃがつき「うるさい!公式が着れと言ってるんだ。仕方ないだろう!」

にゃがつき「私とて転んだからにはタダでは起きんぞ。辱しめを受けたなら、相応に返してやらんと気が済まない。というわけで、朝潮にプレゼントをやろう!」

朝潮「何がというわけで、なのですか!」


にゃがつき「知っているか?サンタクロースは夜な夜な煙突から落っこちてはトナカイを馬車馬のごとく乗り回し、世界の子供たちに笑顔とほんの少しの産業生産物を届けるそうだ」

朝潮「ヒドい言い方ね」

文月「夢がないよぉ~」

にゃがつき「だが、真実は別にある!クリスマスは下手をすれば人類滅亡の日だぞ!」

朝潮「そんなバカなことがありますか!」

にゃがつき「まあ聞け。世界中の子供たちは何人いる?約3億人だ。そして子供がいる世帯数は、おおよそ8700万戸。その家を全て回りきるには、サンタは秒速1040キロメートルでトナカイを走らさなければならん」

にゃがつき「プレゼントの総重量はいくらだ?3億人分だから、およそ30万トン。それらを運ぶためのトナカイも、230万頭必要だ。そんなわけで、何だかんだでサンタクロース一行の総重量は87万トンにも及ぶ」

にゃがつき「そんなもんが音速を越えて移動してたら、大迷惑だろうが!」

朝潮「まあ、計算上は確かに地球滅亡レベルですが……」

朝潮「けど、実際はサンタクロースではなく、お父さんやお母さんか、それに準ずる人が代わりに配っているわ。そんなのは杞憂よ」

にゃがつき「おおっと、夢の無い話しはお断りだ!子供心は大事にしてくれ」

にゃがつき「やれやれ、仕方ないな、純粋な気持ちを思い出してもらえるよう、朝潮にはこれをやろう。受け取ってくれ」ポン

朝潮「は?はぁ…ありがとう…?」

にゃがつき「それではまたな!」


朝潮「……怒濤の勢いで消え去っていったわ」

朝潮「ていうか、猫じゃないじゃない。文月ったら、嘘をついたのね?」

文月「えぇ~?違うよぉ。ちゃんとネコはいるよ~」

朝潮「長月ならいたわ」

文月「んーとね、えーと、なんだっけ?朝潮ちゃんが受け取ったら、このボタンを押して~」ポチ

プレゼント「」ボッッフン!!

朝潮「ッッッ?!?!げほ、げほ!な、なんですか!?」

文月「わぁ~、朝潮ちゃん粉だらけ~。大丈夫?」

朝潮「大丈夫じゃないです!うぅ、なんか甘ったるいような、変な粉が…」

朝潮「…………」ペロッ

朝潮「なんですか、この粉」

文月「え~っとねぇ、マタタビだって~。ネコがごろにゃんするんだよね~♪」


朝潮「マタタビ?そんなものをぶち撒けてなんの意味が…」

ニャー

朝潮「ッ!?」

ニャーニャー

ニャー

朝潮「なっ!こ、この猫たち…いつのまに私を囲んで!」

茶ブチ「ニャーー!」

朝潮「ひゃっ!?なんか目を光らしてます!こないで!」

白黒「ニャニャーー!」

吊るし猫「キシャーーーーっ!!」

朝潮「きゃーーーー!」

文月「朝潮ちゃーん!?」


文月「いっちゃった……」

文月「うーーん……如月ちゃんのアイデアだけど、ちょっとやりすきだのかな~?」

文月「待って待って、朝潮ちゃ~ん!」


ー駆逐艦寮 ガンルームー


朝潮「きぃぃぃさぁらぁぎいいぃぃぃィィッッ!!?」

如月「きゃ!朝潮ちゃん?」

朝潮「なんのつもりですか、どういうつもりですか、腹積もりが見えてきません!ふざけてます!」

如月「あら、朝潮ちゃんたら猫の毛をいっぱい身につけて。楽しそうね」

朝潮「嫌味にしか聞こえません!」

朝潮「津波のごとく猫を侍らせられて……獣臭いったらありません!」

朝潮「そもそも、途中からおかしくなっていることに気が付くべきでした。嘘をつくのが悪いことか、そうではないのかを念頭に置いているはずなのに、何故イタズラが蔓延っているのですか!」

如月「それは、うーちゃんの真骨頂が可愛らしいお遊戯にあるからじゃない?」

朝潮「言葉を濁しても無駄です」

朝潮「あーもう、もう我慢できません!」


朝潮「如月、そもそも話が大きくなっている原因は貴女にもあります。試合を受けたった手前私も強くは出ませんでしたが、勝手が過ぎます!」

如月「そういうのも含めて、今回係争中のハズよ。問題はないわ」

朝潮「そんな話しは出ていません」

如月「司令官は納得のいく結論を出せと、そう仰っていたわ。なら、納得のいく方法を採るのは当然よね」

朝潮「あくまで非を認めないつもりですか?」

如月「誰かが悪い、なんて極端に考えなくてもいいじゃない。もっと気楽に構えましょうよ。ね?」

朝潮「……っ、またそうやって論点をずらそうとして…」


朝潮「前から言おうと思ってたわ。如月、あなたは人を煽って楽しいかしら?」

如月「あーら、そーいう朝潮ちゃんこそ、他人に主義主張を押し付けようとして、何様のつもり?」

朝潮「猫を被って愛想よく振る舞っても、性格の悪さが滲み出てるわよ」

如月「頭が固いと大変ねえ、古い価値観しか受け入れられないもの」

朝潮「髪が痛むなら、ワックスでぎちぎちに固定すればいいわ!」

如月「そんなに命令されたいなら、奴隷にでもなっていればいいじゃない!そっくりの奴隷ゲームがあるらしいわね!?ほーら、きゅうりなら畑にもあるわよ!」


朝潮「ええい、ここまで話が合わないとは思わなかったわ!貴女は私が一番嫌いなタイプです!」

如月「嫌いなのはお互い様よ。優等生で提督に気にかけてもらえてるからって、調子に乗ってないかしら?」

朝潮「そんな適当なことを言わないで!だから三話で訳も分からず沈められるんですよ!」

如月「なぁんですってぇ!?後ろ姿しか出番が無い人に言われたくないわ!」

朝潮「ああ、あぁ、もう、本当にもう………我慢の限界です……!」

如月「あら、その手は何かしら?来るなら来なさいよ。受けて立つわよ!?」

朝潮「……そう出来るものなら……出来るならば……!」


ーー朝潮が、心の感じた通りに動いてご覧なさいな


朝潮「っ、やってやりますよー!」ボカン!

如月「うぐっ…!やったわねー!?」


朝潮「耳年増!」

如月「堅物!」

朝潮「ただでさえ薄い装甲で私に勝てるとでも!?」

如月「生身なら大して変わらないわよ!」

朝潮「このすかぽんたんがぁぁぁっ!!」

如月「分からず屋ぁぁぁ!」

川内「遂に始まったーーーー!!神通の言った通りだ!?」


川内「二人ともそこまで!喧嘩やめ、殴り合いやめ!」

朝潮「うがああああっ!!」

如月「なんなのよおおぉぉっ!?」

川内「わ、危ない!なんかこれって、私が危険かも?しょーがないなぁ…手刀、えい、えい!」ドスドス

朝潮「グアッ……」ドサ

如月「うぐ…」ドサ

川内「ふぅ……やー落ち着いた落ち着いた。あっははは!私の勝利だ!」


ー執務室ー


朝潮「……」正座

如月「……」正座

提督「……ふむ、なるほど。経緯は理解した」

提督「こうなるまでに止められなかった俺にも責任がある。が、二人にも十分に非があることは、分かっているな?」

朝潮「……はい…申し訳ございません……」

如月「…ごめんなさい……」

提督「大事にならなかったのは僥光だ。それを踏まえて二人には追って罰を与える。当然、勝負は中止。以降の蒸し返しも禁ずる。どうしてもと言うなら、まずは俺に言え。以上だ」

提督「戻って良いぞ」

朝潮「…失礼しました…」

如月「失礼します…」

バタン


提督「……はぁ」

提督「……」

提督「で、これはお前が仕組んだものか?」

神通「そうであるとも言えるし、そうでないとも。私は好きにやってもらって構わないと、背中を押しただけです」

提督「その結果がこれか。川内を監視に回したからいち早く気が付けたものの、賢いとは言えないな」

神通「やり方は確かに強引でした。けれど、拳を交わしたほうが、お互いに引っ込みがつくのではないかと」

提督「不良ではあるまいし、喧嘩すれば仲良くなると思ってるのか?」

神通「あの子達は駆逐艦です。どれだけ真面目であっても、その血に宿る闘争本能を押さえつけることは出来ません。なら、解放させてあげたほうがすっきりします」


神通「必要なのは、あくまでもお互いが納得のいく結論を出すことです。傷も恥も共有した今なら、自身の想いだけでなく、相手の言い分にも耳を傾けるでしょう」

神通「あとはそこで、妥協点を見付けてもらうまでです。そこからは二人で解決できるでしょう」

提督「……はぁ」

提督「やはりお前は、華の二水戦旗艦だな。必要とあらば強行突破も辞さない、か」

神通「はい。私の方針に歪みはありません」


ー食堂ー


朝潮「…………………」

如月「…………………」


はーい、お待ちどうさま。A定食大盛です
サンキュー間宮さん!うはぁ旨そう~
旨そう、じゃなくて旨いのよ。ほら長波、後がつっかえてるから先行ってよ


朝潮「………………」

如月「………………」


朝潮「……………」

如月「……………」


いっちばーん。馬刺とマグロの丼くーださーい!
変な組み合わせね。お腹壊すわよ
だって速く走れそうなんだもん


朝潮「………」

如月「………」


朝潮「………」

如月「………」


ねえお姉さま!今度はカレー以外も作ってみますから、試食お願いしますね
ワッザ!?不幸な事故に巡り会うのは懲り懲りデース!
故郷のfish&chipsが懐かしいわね…レストランでも不味いところが多かったわ


朝潮「……」

如月「……」


朝潮「…」

朝潮「…」

如月「…」

朝如「「あの…」」

朝潮「…あ、先にどうぞ」

如月「ううん。朝潮ちゃんから先に」

朝潮「えーと…あ、じゃあじゃんけんで決めましょう。最初はグー、じゃんけん」

朝潮「ぽん」パー

如月「」チョキ

如月「……で、どっちから?」

朝潮「しまった、決めてなかったわ……」


朝潮「あー、わかりました。私から、言わせてもらいます」

朝潮「個人的に、今回で一番許せなかったのは、如月が意図的に嘘をついたりイタズラをしかけたり…卯月に便乗して楽しんでいるみたいで、それがとても頭にきました」

朝潮「それでつい手が出てしまって……申し訳ありません……」

朝潮「でも、今まではそんな素振りはなかった…睦月型のお姉さんというイメージで、変な問題を起こすなんて信じられなくて……どうして今回、こんなことに?」

如月「……」

如月「船の記憶って、なんでそんなものを受け継がないといけないのかしらね」

朝潮「え?」

如月「ほんと、イヤよねぇ。ふとした瞬間に後悔だけが心に溜まるのよ。誰をも守れず、真っ先に沈んだ自分の不甲斐なさが悔しくて……もどかしくて……」

朝潮「前世の記憶…というやつね」

如月「えぇ。忘れたくても、忘れられないの」


如月「駆逐艦・如月は、睦月型の中で最初に沈んだわ。それどころかあの戦いの中に於いても、真っ先に沈んで……その記憶がこびりついて、時々吐きそうになるの」

如月「けれど今は艦娘として、睦月型の皆と一緒に出撃ができている。こんなに嬉しいことはないわ。だから何があっても、私はあの子達を守りたいの」

如月「絶対に、守り抜きたい」

朝潮「……分かりました。そういうことだったんですね」ハァ

朝潮「…………むむぅ……」


如月「冷静に考えてみれば、確かにうーちゃんが悪いっていうのも、あるわ。けど、どうしても認めたくなくて……ごめんなさい……」

朝潮「いや、いいです。これ以上は言わなくても」

朝潮「………うむむむ…」

朝潮「……ぐぬぬぅ~」

朝潮「………うーん…」

朝潮「………わかり、ました」

朝潮「私も強く出過ぎたみたいです。もう少しだけ柔軟に考えられるように、努力します…」

如月「……えぇ。ありがとう」


朝潮「ただ、やっぱり卯月には如月からも言ってもらいたいです。やっぱり嘘ばかりをつくのは、卯月の名誉にも関わるわ」

如月「そうね。分かったわ」

朝潮「とりあえず今回は、これで手打ち、ですね」

如月「そうね。今後は私も、もう少し身の振り方を丁寧にするわ」

朝潮「はい……」


ー鎮守府一階 渡り廊下ー


朝潮「はぁ~……どっと疲れたわ…」

朝潮「…………ん?」


かご「」ポツネン


朝潮「…………何故廊下にかごが…鳳翔さんが落としたのかしら?届けないと」ヒョイ


パンパラパンパンパーーーン!!


朝潮「っ!!?」

卯月「朝潮、お誕生日おめでとぴょーーーん♪」

朝潮「んなァ!?」


卯月「わーー、パチパチパチ~~♪」

朝潮「は、はぁ?なんなんですか、いったい」

卯月「だって、今日は朝潮の誕生日ぴょーーん!」

朝潮「私の誕生日はとっくの昔に過ぎてますが?」

卯月「そんなの関係ないぴょーーん!うーちゃんはお祝いしたいときにくす玉を鳴らすんだぴょーん♪」

卯月「あさしおぉ、ぅぅぉお誕生日ぃぃぃ、おぉぉめでぇとぉぉぉぉぉっ!!」

朝潮「………………」


朝潮(何かしら……全然嬉しくないわ……)

朝潮(ていうか、紙吹雪を誰が片付けると思っているのですか。今までの慣例上、この子が片付けるとは思えないわ)

朝潮(もしかしてこの子、私に嫌がらせをするためにこんなことを……考えすぎかしら……)

朝潮(………………)

朝潮(…………)

朝潮(……)


ー執務室ー


青葉「結局勝負は持ち越しですか~~、良い記事が書けると思ったのにな~」

神通「喧嘩に発展した以上は仕方ありません。看過すべきは心の衝突、制裁すべきは拳の衝突。責任者として、これ以上の揉め事はお預けです」

提督「よく言うな。自分で衝突するように仕向けておいて」

神通「悪役なら幾らでも買って出ますよ」

神通「それに、結果として、朝潮と如月両名のわだかまりは、解けたようです。報告書やその後の経緯を見ても明らかです」

提督「その二人は、確かにな」

提督「だが、根本的なところで解決はしていない。朝潮と卯月は……以前よりも剣呑な雰囲気が感じられる。主に朝潮からだが」

提督「下手にこちらから刺激する必要はないが、艦隊の士気に関わる以上は放置もできん」


提督「うーーむ。難しいものだな。上手い解決方法が思い付かん。女の子の気持ちは複雑だ」

青葉「お、提督乙女心分からず、いたいけな少女を泣かす、と」

提督「記事にしたら減俸だ」

青葉「えーー!?メディア弾圧ですかぁ!きょーはくですよ、きょーはく!」

提督「こっちは名誉毀損だ、ばーか」

青葉「バカって言った!提督のばーか!バーガーキング!」

提督「誰の顔がバーガーキング並みに油っぽいってぇ!?」

神通「また始まりましたね…」

神通「それにしても、何か方法を模索しないといけませんね……一番いいのは……」


コンコン


神通「はーい。どうぞ」

大淀「失礼します」ガチャ

大淀「提督。海の向こうからクリスマスカードです。遭難した後、救難信号ですね」

提督「こんな荒れた天候で船を出さなくても…仕方ない。快速の艦隊を組んで出撃させる」

提督「というか、何故電話で伝えんのだ」

大淀「いえ、それがですね~。休暇や疲労回復の観点から編成してみたのですが、一つ問題が………」ピラ

提督「?」

提督「…………あ」

大淀「どうします?もう少しだけ待ってもらいますか」

提督「……いや、朝潮も公私混同したりはしない。問題はないだろう」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


川内「というわけで、迷子の子猫ちゃんを助けに行くよ!戌年らしく、警官はウチらだ!」

川内「さぁ、ばっつびょーー!!」

朝潮「……」

卯月「はーーい♪うーちゃん今年はぬーちゃんになりまぁす!ウッソでぇす!」

朝潮「……何故、この子と一緒に……いや気にしてはダメ。司令官のご期待を裏切るわけには…」

荒潮「あら朝潮ちゃん、だいじょうぶぅ?なんだか苦虫を噛んだような顔してるわぁ」

朝潮「えぇ、大丈夫。大丈夫よ」

川内「あーはー。じゃあ行くよー!」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


川内「大時化だぁぁぁぁぁっ!!あははははぶぎゃぶるぼふっ!?」バシャァァン

朝潮「こ、こんなに天気が悪くなるなんて…っ!」

荒潮「や~ねぇ。髪の毛がワカメだわぁ」

卯月「少しくらい任務が楽でもバチはあたらなぶぎゃっ!?」ザッッパーーン!



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「不味いです…無線の音が全く聞こえないわ。全員がばらばらにはぐれちゃう!」

???「た…たす………!海水が……ぎゃん!」

朝潮「誰か……いるの?ええい、手を繋いだほうが安全だわ!」パシ

???「ふぇ?あ、朝潮……危ない……」

朝潮「いいから!」

朝潮「このまま近くの上陸可能な島まで突っ切ります!転ばないようついてきて!」

???「あ、ありがとう……ぴょん」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


神通「状況は?」

大淀「川内さん以下四名は、無事に日本大使館のある国までたどり着きました」

大淀「ですが、朝潮さんと卯月さんが、依然としてまだ……」

提督「急いで人員を呼び戻し、捜索隊を編成する。もちろん嵐が収まってからだが…」

提督「くそ!こんなに天候が荒れるとは…なんたる不覚だ…」

神通「落ち着いてください提督。イライラしても事態は好転しません」

提督「分かってる!分かってるが…何も出来ない自分がもどかしい…」

青葉「にしても。よりにもよってその二人が消息不明とは、見えない力が働いているようですねえ」



ー群島 洞窟内部ー


焚き火「」パチパチ

朝潮「どうしてよりによって、貴女と二人きりなんですかあああぁぁぁっ!!?」

卯月「朝潮ありがとぴょーん!おかげで助かったぴょーん!ぷっぷくぷぅ~♪」

朝潮「抱きつかないでください!もう、余計な体力は使わないように!」

卯月「じゃあ、せっかくだからお話するぴょん♪楽しい気分になれば心持爽快ぴょーん」

朝潮「状況が飲み込めているのですか?私達は今、遭難しているのよ。呑気にしている暇はありません」


卯月「でも、だからって他にやることがないぴょん」

朝潮「都合よく洞窟があったとはいえ、座して救助を待っているのでは忍びないわ。出来ることを探しましょう」

卯月「え~?でも、外はまだ大時化だぴょん」

朝潮「だからこそ、模索するのよ。あらゆることを想定するの。救援が遅れたら、食料はどうするの。水は最低限確保しないと。それに、ここが深海棲艦のねぐらかもわかりません」

朝潮「生きるとはそういうことよ。鎮守府ならまだしも、ここは海のど真ん中。警戒してし過ぎるということはないわ。寝首をかかれぬよう、全てに対応するの」

卯月「えぇ~…面倒くさ~い!」

朝潮「わがまま言わないの!」

卯月「ぶーー…」


卯月「朝潮って、いつもそんなに眉間にシワをよせてるぴょん?」

朝潮「そんなつもりはないけれど。でも、あなたみたいな問題児を見るとストレスが貯まるのは、間違いないわ」

卯月「うーちゃんは、皆の癒し系だぴょーん。だから何時も笑顔でいるんだぴょん!ぴょんぴょん!」

朝潮「自分で言いますか…」

卯月「うーちゃんとしては、朝潮はもっと気楽に考えるべきだと思うぴょん」

朝潮「皆がみんな、卯月みたいに楽観的だと破滅してしまうわ」

卯月「みんながうさみみ付けてたら可愛いぴょん!朝潮も絶対似合うぴょん!」

朝潮「いりません!」


朝潮「はぁ…」

朝潮「分かったわ。じゃあ卯月は、そこの入り口を見張ってて。私は洞窟の奥を探索するから」

卯月「えぇ~、一緒に行くぴょん!」

朝潮「火種だってあんまりないの。風で消えないように見張りが要るのよ」

卯月「うゆぅ~…一人でいいぴょん?奥はとっても暗いぴょん」

朝潮「夜目はききます。それに、流木で松明も作ったから問題ないわ」

朝潮「それじゃ。あ、擬装の温度が上がらないようにしてちょうだい」

卯月「ぷっぷくぷ~……」


ー洞窟 奥ー


ピチョン…ピチョン…


朝潮「まったく、勝手にも程があるわ」

朝潮「どうしても、彼女とは分かり合える気がしないわね。まさに水と油の関係、と言ったところかしら。必要以上に言葉を交わすと、かえってこじれるわね」

朝潮「…でも、どうしてあの子は私に関わろうとしてくるのかしら。この前のくす玉といい」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「錆びたフォーク…鉄筋…厚手のビニール。意外とガラクタが多いわ。補食道具もなんとか作れそう」


ピチョン…ピチョン…


朝潮「水の確保もなんとかなりそうね。にしても、まるで人が住んでいたような充実具合…偶然かしら」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「…舟があるわ。ほとんど朽ちてるけど…一人乗りかしら」

朝潮「燃料も無駄に出来ないし、補修して二人乗り込むのは…無理かしら。さすがにボロいわ」


ピチョン…ピチョン…


朝潮「……それにしても、水滴の音が頭に響くわね…」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「魚の骨が散乱してる。きれいな山も出来ているわね。やっぱり誰かいたんだわ」


ピチョン…


朝潮「まさか今も住んでるなんて…ないわよね。さすがに」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「布…丁度大人一人が隠れるくらいのテントが張られている…」

朝潮「中に何かあるかしら…」ソー…


ペラ…


朝潮「………」

朝潮「ーーーー」

朝潮「~~~~っっ」








キャーーーーーー……






ー洞窟 出発地点ー


卯月「お、帰ってきたぴょーん」

朝潮「……」ズンズンズンズン

卯月「え、ちょ。無言で早歩きでどうしたぴょ…」


ガシィッ!


卯月「ふぇっ?」

朝潮「……」ブルブル…

卯月「朝潮?どうしたぴょん」

朝潮「…ほ……が…」ギュウゥ

卯月「……何か、あったぴょん?」

朝潮「ほ、ねが…人の、ほねが…ありました…」


卯月「ほっ!?……じっくり見ちゃったぴょん?」

朝潮「」コクリ

卯月「あー、それは災難だったぴょん」

卯月「きっと、この洞窟はお宝が隠されているぴょん!でもお宝はとんでもない罠で守られていて、その罠に引っ掛かって死んじゃったぴょん!よくある話ぴょん!」

朝潮「…眠るように静かに横たわっていました。おそらく、病気で動けなかったのでしょう…」

卯月「新種のウィルスだぴょん!人の体を養分にして、一瞬で死ぬぴょん。洞窟内の草に寄生しているぴょん!」

朝潮「…一定期間は、元気に生活していた跡がありました」

卯月「あれ」


朝潮「…ふふ…」

朝潮「何を意味の分からない嘘をついているのやら…怒る気にもなりません…」

卯月「あ、笑ったぴょーん♪」

朝潮「あなたの言葉がしょーもなさすぎただけです。失笑ですよ」

卯月「それでも、笑ったことに違いないぴょーん」

朝潮「……」

朝潮「…まあいいわ」


卯月「それで、他に何かあったぴょん?」

朝潮「ガラクタはそれなりに。刃物もあったし、生き物さえ手に入れば…」


グゥ~~~


朝潮「…お腹が空いたわ…」

卯月「うーちゃんもお腹へったぴょん…レーション、食べてもいーい?」

朝潮「駄目よ。長期保存が出来るんだから、本当にギリギリのタイミングで食べないと」


卯月「うゆぅ~…あ。あそこ…」

朝潮「え?なに…」クルッ

蛇「」ペロペロペロペロ

朝潮「……」

卯月「……」

朝潮「こういう時、映画ではよく蛇を食べているのを見たわ」

卯月「でも、女の子がやることじゃないぴょん」

朝潮「飢え死にするわよ」

卯月「それはイヤぴょん」

朝潮「貴重なたんぱく質だもの。逃す手はないわ」

卯月「毒とか大丈夫ぴょん?」

朝潮「あれは問題ないわ」

蛇「」ペロペロペロペロ

卯月「……」

朝潮「……」


バシンバシン!

ソッチイッタピヨン!

ニゲルナァーー!!

シャアアアアアーッッ!

バシン!!


~二十分後~


焚き火「」パチパチ…

卯月「海水で味付けとか、なかなかやるぴょん」モグモグ

朝潮「ミネラルも摂取できるから、一石二鳥よ」モグモグ

卯月「蛇って初めて食べたけど…鶏肉みたいぴょん。悪くないぴょん♪」

朝潮「初心者は、むやみやたらととっちゃ駄目よ」

卯月「わかってるぴょーん」


朝潮「もぐもぐ……卯月」

卯月「?」

朝潮「その…さっきはありがとう。気が楽になったわ」

卯月「そんなのいいんだぴょーん。うーちゃんは皆を笑顔にするのがお仕事なんだから、当然ぴょん!」

朝潮「那珂さんみたいね」

卯月「うーちゃんは個別に笑顔にしていくんだぴょん。そこが違うぴょん」

朝潮「でも、だからって不必要な嘘は許さないわ」

卯月「不必要じゃないぴょん」

朝潮「嘘は、ダメです。さっきのは見逃します」


卯月「はぁ~~…落ち着いたぴょん」

朝潮「少し休憩して、その後に探索を再開するわ」

卯月「今度はうーちゃんが行くぴょん」

朝潮「いいわよ。けれど、くれぐれもテントの布は捲らないこと。仏様がいるわ」

卯月「夢見る冒険者の成れの果てだぴょん。丁寧におまつりするぴょん」

朝潮「私は責任持たないわ」





ピョーーーーーンッッ!!?





~十分後~


朝潮「……」チラ

卯月「うーちゃんスマーイル♪…いやちょっと違うぴょん。キャピピィッ♪…もっとなんかある筈ぴょん」

朝潮「……」

朝潮(本当に動じた気配が無いわね。いつ救助が来るかも分からない、この状況で)

朝潮(ほかの皆は、大丈夫かしら。いや、きっと大丈夫よ。誰もが航行能力に長けているもの。これくらいの緊急事態、乗り越えられるわ)

朝潮「(むしろ、この子の腕を掴んでてよかったわ。卯月ったら、一人になったら絶対に勝手な行動をとるもの。私がしっかりサポートしないと)」


朝潮「……」


ーーうーちゃんはぁ、人を傷つけるような嘘は絶対に言わないんだぴょ~ん♪


朝潮「……」

朝潮(バカバカしいわ。嘘は嘘よ。いったいどんな差異があると言うの。だいたい、嘘をついてメリットなんてあるのかしら)

卯月「弥生…怒ってないです…ホントです…うっそぴょ~ん♪弥生にはちゃんと羊羮用意してあるぴょーん!ぷっぷくぷ~、シミュレーションは完ぺきぴょん」

朝潮「…試してみようかしら」ボソッ


朝潮「あ、洞窟の奥からオオカミが」

卯月「ぴょおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!?ぴょっ!うにゃあああぁぁっっ!?」

卯月「ど、どこぴょん?どこにいるぴょん!食べちゃいやぴょ~ん!!びえぇぇ~っ!」

朝潮「嘘よ。オオカミなんていないわ」

卯月「……」

卯月「朝潮おおおおおぉぉぉっ!!驚いたぴょん!心臓に悪いぴょん!」

朝潮「嘘をついたのは謝るわ。けど、これはあなたがいつもしていることよ。少しは思い知ったんじゃない?」

卯月「だ、だからぁ!うーちゃんのはそんな嘘じゃないぴょん!」

朝潮「何を言っているの。嘘は嘘よ」

卯月「ぶ~~…全然分かってないぴょん…」


~十分後~


朝潮「……」

卯月「……」

卯月「あ、外でバンドウイルカがうち上がっているぴょん!」

朝潮「…ん?」

朝潮「え、イルカ?うそ、どこ?どこにいるのよ」キョロキョロ

卯月「うっそぴょ~ん♪せいぜい小魚がいるぴょん!あとで拾うぴょん!」

朝潮「…う、卯月!なによ、さっきの仕返しのつもりかしら?」

卯月「そんな意地悪なこと、うーちゃんはしないぴょん」

朝潮「じゃあなんなの」

卯月「さっきの朝潮の嘘とぉ、うーちゃんの嘘が違うものだって証明してやったぴょん」

朝潮「なっ…全然納得できないわ!」


卯月「オオカミがいたなんて言われたら、誰でも驚くぴょん。オオカミは危ない奴だから、誰でも危機感を覚えるぴょん?」

朝潮「…そうね」

卯月「でも、イルカがいたって聞いたら、皆見てみたいって思うぴょん。水族館の人気者だぴょん。ここは陸の上だから、イルカが攻撃出来ないことは誰でも知ってるぴょん」

朝潮「……そうね」

卯月「オオカミはいたらイヤだけど、イルカはいても問題ない」

卯月「だから、うーちゃんと朝潮の嘘は、ぜーんぜん違うんだぴょ~ん」

朝潮「……」

卯月「現に朝潮も、さっきイルカの姿を探していたぴょん。ちょっと見てみたいとも思ったはずだぴょん?」


朝潮「……」

朝潮「(そんな、まさか…)」

朝潮「(嘘はだめなのに…許されるべきではないのに…)」

朝潮「(卯月の言葉に反論できない…すっと胸に落ちる…どうして)」

朝潮「……」

朝潮「私が…間違っていたとでも…?」

朝潮「嘘は…ダメに決まってる…」

卯月「違うぴょん。朝潮は間違ってないぴょん。でも、うーちゃんだって、そんなに間違ったことはしてないぴょん」


卯月「真っ赤な嘘って言葉、聞いたことあるはずぴょん。人を傷付けるのが真っ赤なら、人を傷付けない優しい嘘が、真っ白な嘘ぴょん」

卯月「うーちゃんはぁ、真っ白な嘘を心掛けているぴょん♪朝潮もやってみるといいぴょん。楽しいぴょーん!」

朝潮「別に、嘘をつくつもりなんてないけれど…」

朝潮「…真っ赤な嘘…真っ白な嘘…」


朝潮「(本当に、そんなものが…?)」

朝潮「(…いや、違う!そんなわけないわ!)」ブンブン

朝潮「(この子の口車に乗っては駄目。でまかせを言っているに決まってるわ)」

朝潮「(でたらめ…嘘八百…ホラよ…)」

朝潮「……」


ー島嶼 沿岸部ー


朝潮「すっかり低気圧がどこかにいったわね」

卯月「海風が気持ちいいぴょ~ん!」

朝潮「ところで卯月。あなたの艤装類は嵐でやられなかった?」

卯月「あうぅ~…主機の調子がよくないぴょん…ほとんどスピードは出ないぴょん…」

朝潮「私はなんとか大丈夫みたい。けれど、魚雷発射菅が片方ダメになってるわね…四発しか撃てない。あまり下手な行動はとらないほうがいいみたい」

卯月「うわぁぁ~…しばらく我慢するしかないっぴょん…」

朝潮「そう…ね。……っ!!」

朝潮「あそこ…沖!タンカーだわ」

卯月「えっ!?」


卯月「ホントだ!船だぴょん!明かりがついてるぴょん!」

卯月「おおぉぉーーーい!!ここだぴょーーーん!おおぉーーい!」

朝潮「かなり離れているわね…声は届かないわ」

卯月「じゃあ、探照灯を振り回すぴょん!」ピカーー

朝潮「わ、私も…」ピカーー

卯月「こっちだぴょーん!」グルグル…

朝潮「……」グルグル…

卯月「おーい…」グルグル…

朝潮「……無理、かしらね」


卯月「あぁぁーー、希望がどんどん離れていくぴょん…」

朝潮「仕方がないわ。当初の予定通り、鎮守府の皆の救助を待ちましょう」

卯月「ううぅ…来てくれるかなぁ…」

朝潮「来るに決まっているわ。信じて待ちましょう」


ー三十分後ー


朝潮「……!」

朝潮「また明かりが…」

卯月「やったぴょん!もしかしてここ、輸送航路だぴょん?」

朝潮「可能性はあるわね。生存の確率はぐっと高まるわ」

朝潮「…いや待って。あの船は、船団は、もしかして!?」

朝潮「深海棲艦だわ!」

卯月「えっ?こんな時に!?」


朝潮「数は、およそ六。速度を考えると、水雷戦隊編成かしら」

朝潮「おそらく十分後には、この辺りを通るわ」

卯月「ま、まさか…うーちゃん達がここにいること、バレてるぴょん!?」

朝潮「……それはないわ。方向が違うもの」

朝潮「おそらく、通商破壊ね。さっきのタンカーを落とすつもりだわ」

卯月「あのタンカー、あんまり速度出てなかったぴょん!」

朝潮「えぇ。だから、間違いなくやられるわ」


卯月「ど、ど、どうするぴょん!?」

朝潮「……」

朝潮「もちろん、戦うのよ」

卯月「えっ!?」

朝潮「私達は艦娘よ。海の脅威から、人々を守るのが仕事。ここでその存在意義を示さなくて、どうするの!」

卯月「ま、マジぴょん?」

朝潮「マジです」

卯月「無理ぴょん!一個隊編成の敵に、二人でなんて敵うはずないぴょん!戦艦や空母ならまだしも!」

朝潮「でも!私達が行かなければ、あのタンカーの船員は全員海の底よ!」

卯月「そんなの分かってるぴょん!」


卯月「うーちゃんだって、助けたいぴょん!でも、装備が時化でやられちゃって…格好の的ぴょん…」

朝潮「あっ…そうだったわね…」

卯月「戦って死ぬのは、仕方ないぴょん…でも、手も足も出せずに終わるのは、イヤぴょん!」

朝潮「…」


朝潮「分かったわ。ならば、私が一人で食い止める」

卯月「そ、それこそ無理ぴょん!」

朝潮「無理じゃないわ。少なくともフラグシップ級はいない。私達の砲も魚雷も、通るはずよ」

卯月「い…イヤぴょん!朝潮がやられちゃうぴょん!」

朝潮「大丈夫。必ず生きて帰ってみせるわ」

卯月「信じられないぴょん!」


卯月「あ、朝潮!お願いだから、行っちゃだめぴょん!朝潮がいなくなるの、うーちゃんはとっても悲しいぴょん!ほかの皆も同じはずぴょん!」

朝潮「私は絶対に、約束を守るわ」

卯月「だめだぴょん…そんなのぉ…イヤだぴょん…」

朝潮「…卯月?泣いてるの?」

卯月「だってぇ…朝潮と二度と会えないなんて、そんなの絶対にイヤなんだぴょん!」

朝潮「……」

卯月「うぅぅ……ぐすっ…」

朝潮「……どうして」


朝潮「どうして、そんなに私のことを心配してくれるの?あんなに私に嫌がらせをしてきたのに…」

卯月「そ、そんなつもりないぴょん!うーちゃんは朝潮と仲良くしたいぴょん!」

朝潮「嘘です。信じられません!さんざんに人をバカにしておいて」

卯月「ホントだぴょーん!これだけは絶対に、嘘じゃないぴょん!」

朝潮「あんなに私を挑発していたのに?」

卯月「うーちゃんなりの親愛表現だぴょん…でも、朝潮がイヤだったなら、やめる…」

卯月「うーちゃんは…わ、私は…朝潮と仲良くしたかったの…だから、気を引こうとして、いつか私のこと、分かってくれるって勝手に思ってて…」

卯月「朝潮がイヤだったなら、謝るから!もう迷惑かけないから!だから、死なないで!向こうに行かないで!一緒に帰ろうよ!」

卯月「お願い…お願いだからぁ…」

朝潮「……」


朝潮「ぶっ!?くく…あははははっ!」

卯月「なぁ!?どうして笑うの!」

朝潮「だ、だって!仕方ないわ。あなたが…ぷぷ…急に神妙な顔付きで、口調も改まって、仲良くしたかっただなんて言うんだもの。それも、こんな土壇場で!」

朝潮「卯月って、そんな顔も出来るのね。知らなかったわ」

卯月「こ、こっちは真剣に話してるのに!」

朝潮「分かってるわよ。それまでイタズラなんだったら、あなたとは一生仲良くできないところだわ」


朝潮「はぁー…あぁ可笑しかった…ギャップってすごいわね」

卯月「うぅ…」

朝潮「はは…まったく、あなたはバカですね。別に私は、死ぬために海上へと赴くわけではないのですよ」

朝潮「勝って、帰ります。あなたの元へ」

卯月「……なら、私も戦う!」

朝潮「ダメです。まともに動かない装備で、何ができるというの」

卯月「でも!」

朝潮「卯月。聞きなさい」


朝潮「私は、あなたが嫌いだった。どれだけ言っても、イタズラも嘘もやめない。見ていてイライラしたわ。どうして私の言葉を無視するんだろうって、嘆いたわ」

朝潮「仲良くなんて、到底出来る気がしない。私の価値観とあまりにかけ離れているもの。仕方ないわ」

卯月「あぅ…絶交宣言みたい…」

朝潮「そう。これは絶交宣言よ。今までの私の鬱憤を込めた、特大の本音。あなたが嘘で私を攻撃するならば、私は本音で勝負するわ」

朝潮「私は本音を隠さない。だから、今感じている気持ちをぶつける」

朝潮「私は、卯月。あなたと話をしなければならないと思っているわ」

卯月「…え?」

朝潮「嘘だらけのあなたが、さっき私に本音をぶつけてくれた。嬉しかったわ。まだまだあなたの本音を聞かなければならないと、私は思う」


朝潮「生きて帰って、お話をしましょう。なんでもぶちまけるがいいわ。本音をぶつけるのだから、それはそれは盛り上がるでしょう」

朝潮「私は嘘が嫌い。だから、そんなかしこまった口調ではなく、いつも通りの話し方でかかってきなさい。あなたの全てをさらけ出しなさい」

朝潮「そうすれば、私はあなたと仲良くなれる気がする」

朝潮「どうかしら?」

卯月「……」


卯月「…っ!」ゴシゴシ

卯月「もちろん受けて立つっぴょん!うーちゃんは本音でもスゴいんだぴょん!絶対に朝潮と、友達になるんだぴょん!」

朝潮「ふふ。決まりね」

朝潮「それじゃあ、約束。必ず生きて帰ってくるわ」

卯月「うん♪」

卯月「それなら朝潮も、うーちゃんと約束してほしいぴょん!」

朝潮「なにを?」

卯月「うーちゃんが立てた作戦に、乗ってほしいぴょん!」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「っていう感じだぴょん!」

朝潮「…でもそれは、あなたにリスクが大きい。気が付かれたら、全てパアよ」

卯月「大丈夫だぴょん!朝潮が戦うのに、うーちゃんが何もしないわけにはいかないぴょん!どーんと任せるぴょん!」

朝潮「大丈夫の根拠になってないです」

朝潮「……分かったわ。のみます。お互いの約束を、きちんと果たすことに努めましょう」

卯月「オーライだぴょん!!」

朝潮「会敵までおよそ十分。その間に戦略を練るわよ」

卯月「りょーかい!」



~十分後~


朝潮「…来たわ。合図は私がとる」

卯月「ほ、本当に大丈夫ぴょん…?やっぱり不安だぴょん…」

朝潮「任せなさい。私を誰だと思っているの」

朝潮「栄えある駆逐艦娘にして、朝潮型一番艦、その朝潮よ。たとえ大艦隊が相手でも、交わした約束は守って見せる」

朝潮「あなたもよ。卯月。自信を持ちなさいな」

卯月「…っ。わかったぴょん!!」





朝潮「…………抜錨、突撃するわ!」




ここから地の文ありです。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


闇夜の海原。
着飾るは鉄塊と波飛沫。
漆黒のステージを照らし出すのは、真円の望月。

一匹の忠実なる猛犬が、開演中の舞台へと雪崩れ込む。

突発的に現れた敵の姿に、深海棲艦は対応しきれなかった。猛然と突き進む人型のそれは、機関が壊れるほどの速度を叩き出している。真っ直ぐに二体の駆逐艦イ級目掛け、その手に掴む連装砲の照準を合わせる。

「沈めッ!!」

一度目の砲撃。鉄の塊は一体のイ級に致命傷を与え、もう一体を完全に沈黙させた。血路を開いた彼女は、そのまま火を噴き上げるイ級の横をすり抜け、残敵四体に自らの姿を悠然と曝しあげる。



朝潮型駆逐艦の一番艦。朝潮。誰よりも忠義を重んじる彼女は、真っ直ぐに、愚直に前を捉え続け、敵に威圧をのし掛からせる。

旗艦と思しき重巡洋艦リ級が叫んだ。奴を食いちぎれと、獣のような雄叫びを空に響かせる。呼応するように他三体も空気を震わせ、朝潮に死の花吹雪をもたらす。

最初に動いたのは駆逐ロ級だった。魚のような体をうねらせ、口から飛び出た砲身で朝潮を狙い撃つ。解き放たれた砲弾は頭を軌道に捉えるが、咄嗟に朝潮は股割りを行い、可能な限り体勢を低くした。
数秒の後、遠くで水柱が上がる。


「…っ!」

敵の追随は止まらない。続いて軽巡洋艦ニ級が朝潮の相手をつとめる。未だ体勢を低くし大きな動きがとれない朝潮目掛け、朝潮のよりも一回り大きな砲を撃った。
朝潮は爆雷入りの腰鞄をニ級に投げつけた。砲弾は布を貫き火薬と反応する。朝潮とニ級の間で大きな綾辻模様の爆炎が生まれ、砲撃を防いだ。
代わりに強い衝撃波が朝潮を襲った。

「バランスが……!がほごぼッ!!?」

直近の爆炎の衝撃波にはさすがに耐えられなかった。糸で引かれるように側頭部から海に突っ込み減速する。海面をぐるぐるとローリングし、胃の中身を危うく吐き出しそうになりながらも、なんとか慣性を利用して立ち上がる。


「グオオオオオッッ!!」

後ろから怒声が聞こえた。リ級が朝潮のバックを陣取り砲撃を浴びせる。避けきれないと判断した朝潮は、即座に右主機を強制停止させ、わざとバランスを崩す。腹へと風穴を開けるために放たれた砲弾は、しかし今度は近くの水面で巨大な水柱をあげた。

「うわああぁっ!?…くっ!!」

悟る。今ので右主機が完全にイカれた。航行能力が半減した。元々嵐で軋んでいたのが、ここに来て一気に爆発したようだ。
快速こそが取り柄の駆逐艦娘にとって、これは足をもぎ取られたも同義。訓練での実績は、五体満足だからこそ生かせるというのに。


朝潮は一瞬だけ周囲を見渡す。
向かって十時の方向に残敵ニ。八時に一。五時に一。

やはり、二人で攻めるべきだったか。後悔先に立たず。一時間前の自分を殴りたい。でも、愚痴っていても始まらない。重巡洋艦の装甲を食い破るには、朝潮の12.7cm連装砲では物足りないから。魚雷も限りがある。

確実に仕留めるため、作戦は必要だった。


肩で息をしながら、横を見据える。
駆逐艦ハ級がこちらに不気味な目を向けていた。死んだ魚みたいな目を憤怒で揺らし、速度の低下した獲物目掛けて鉄の雨を浴びせる。

朝潮はその光景を、まるでスローモーションでも見ているかのような気持ちで眺めた。
不思議な感覚だった。動こうと思えば動ける。撃とうと思えば撃てる。けれど朝潮は、ゆっくりと迫る砲弾を見つめ続ける。


その時脳裏に浮かんだのは、これまでの鎮守府での想い出の数々。仲間との、様々な場面でのやり取り。そしてその中には、仲睦まじく喋る卯月の顔もあった。
これは走馬灯か。それとも、シナプスだかニューロンだかの脳内物質がオーバーヒートを起こして、余計な情報を引っ張り出してきたのか。

どちらでも構わない。何故なら、自分はここで死んで終わるつもりは毛頭ないから。
彼女と交わした約束を、私は死んでも果たしてみせる。

己の大いなる意志を覆すことなど誰にもできやない。
足の一本や二本をもがれようが、なんのハンデにもならないのだ。
朝潮は笑みを浮かべた。

「遅いのですよ」

左舷一杯、機関への無理強い上等。この海戦に勝ちさえすれば、それでいい。朝潮は悲鳴をあげる主機の声を全て無視し、ハ級の砲撃を避ける。
この程度の窮地で敗けるようでは、朝潮型の沽券に関わる。朝潮は叫び、ハ級に肉薄した。

「そこっ!」

砲撃。外しようのない距離まで近付いた朝潮は、確実に敵を仕留める。
断末魔をあげながらハ級は海に沈んだ。


これで二体轟沈。一体は大破。三体が自分に次々と砲を撃ってくる。直撃だけはなんとか免れているが、水しぶきや鉄の破片が、容赦なく朝潮にダメージを与えていく。

素早く回頭を続ける朝潮に対し、攻めあぐねた深海棲艦は更なる怒りの怨念を燃やす。三方向からの挟撃を目論み散開し始めた。
どのような手段を講じたところで無駄だ。私は、お前たちに絶対に勝ってみせる。朝潮は自身の瞳に、頭上の月の如き輝きを見た気がした。
荒れ狂う水面をスケートリンクのように疾走し敵を翻弄する。

横を見た。二級が妖怪のような上半身を唸らせ並走してくる。朝潮はその直線上目掛け、次々と砲を撃つ。三日月状の飛沫がお互いの姿を隠した。

「魚雷発射管、一番二番用意!」

ニ級はどんどん撃ってくる。水柱が至近距離に、遠方に、そして遂に朝潮の連装砲へと直撃する。一本が完全にスクラップとなり、単装砲と化して尚も朝潮は気にしない。

「放てぇっ!!」

がこんと海中へ魚雷が飛び出し、ウェーキを描いていく。ニ級の予想進路へと火薬の怪物が突き進む。一本はニ級の砲撃音の後に破壊され、もう一本が鈍い音を伴いながら炸裂したのがわかった。
小さな悲鳴が聞こえる。朝潮は反転した。


残りは三体。だが残弾は数えるほどしかない。どうする。せめてロ級だけでも落としたい。どう戦うのが得策だ。
祈るように顔をあげ、夢も希望もない化け物共と目を合わせる。

答えなど誰もくれやしない。考える時間もくれない。砲撃の雨霰は止まる気配を知らない。
止めどない絶望を彩る、ないない尽くしの状況下。
だから、考えても仕方がない。変な作戦を立てるよりは、探照灯でも照明弾でも使って相手を一体でも多く撃ち落とす。駆逐艦娘である朝潮にとって、もっとも得意な戦法を華々しくお披露目するだけ。
それこそが自分の、艦娘である朝潮にとって最高の舞踏会。

この素晴らしき夜戦こそは、我が闘犬本能を満たすに相応しい。

長い黒髪をばさりと翻し、砲を握る五つの両手指に力を込めた。

「三番用意!」

波を掻き分ける朝潮目掛け、ロ級は魚雷を撃ってきた。死の魚が獲物を食わんと襲いかかる。扇状に広がる白い線を朝潮は辛うじて避け、反撃の弾を撃ち込む。
ロ級は砲頭が潰され苦しそうにもがいた。牙をもがれた深海棲艦など、もはや恐るるに足らず。

「放てぇっ!!」

朝潮の生存意義を反映したような、真っ直ぐな魚雷の軌跡。雷のような爆発は敵を間違いなく粉砕し、深き水底への片道切符をもたらす。


残りは二体。続いてリ級の姿をその目に宿し、朝潮は最後の戦いを挑む。
僚艦をことごとく喪った重巡洋艦はかなり慎重になっている。朝潮が近づけば遠ざかり、砲を構えれば防御の姿勢をとる。これでは朝潮の攻撃が届かない。魚雷も当然当たらない。
舞台が長引けば長引くほど、こちらは不利になる。焦燥に駆られ、そうして敵の隙をうかがうことに躍起になっていた朝潮は、伏兵の姿を見落としていた。
突然背後から砲が撃たれた。当たりこそしなかったものの、朝潮とリ級の間に水柱が上がる。

「ッッ!?」

後ろを見る。最初に轟沈し損ねたイ級が、ぼうぼうと火を上げながら一矢を報いていた。あれだけの炎の中で撃つとは、敵ながらあっぱれ。
これを好機とリ級は撃ち込む。速度が制限された朝潮の位置を掴むのは容易だったようで、何発もの至近弾が水柱をあげる。撒き散らされた鉄片で、とうとう朝潮の連装砲は鉄屑と化した。


魚雷を撃ち込むための手段が絶たれた。己の運命を全うした鉄の箱は、静かに黒煙を空へと立ち上らせる。
歯噛みする。これを持っていても意味がない。沈み行く勇者への手向けの菊花として、朝潮はイ級目掛けて通過ざまに放り込んだ。弾薬庫に引火して大爆発を起こす。

リ級は口角をあげる。
朝潮も笑ってやった。やけくそなんかではない。

ここまで派手に引き付けておけば、きっと奴はこう思っている。たった一人で忌々しい駆逐艦だ、と。残念ながら、一人ではない。

自分とあの子を繋ぐ、初めて芽生えた信頼のような絆。交わした手のひらの温もりは柔らかく、今でも朝潮を支えているようだった。
自分はずっと、二人で戦っているんだ。それが分からないのなら、お前に勝機はない。
さあ、彼女との約束を果たす時がきた。

タービンの回転をもう一度最大にし、並走を続けて朝潮はその瞬間を待った。

「四番用意!!」

周囲に響き渡るよう大きく声を放つ。身構えるリ級へと、彼女が出来る最後の攻撃を向けた。

「放てぇっ!!」

がこんと、音が響く。
ウェーキは真っ直ぐ、リ級へ。


そんな馬鹿正直な魚雷が、相手に届くわけがない。リ級は危なげなく海中へと砲撃し、自身の脅威を打ち破る。

にたぁ、という音が聞こえそうな顔。全てを撃ち尽くした敵を、どう料理してやろうかという、一方的な虐殺を考えている余裕。
お互いの視線が交錯する。
朝潮は微笑んだ。

「四番魚雷は、もう一発あるんです」

気付く筈がない。あれだけの大轟音の最中で、こちらにしか意識を向けていない敵が、背後から迫り来る一羽の首狩りウサギの気配に。


この作戦は、自分の好みではない。最終的に騙す行為だから。
己の心に反する。
でも、乗ってやった。
嘘が時に誰かを救うのならば。それもまた、面白いかもしれないと思ったから。
今回だけは、乗ってやる。
全ては生き残る為に。

名前に四の代名詞を冠する駆逐艦が、魚雷を放つ。

「背中ががら空きだっぴょん!」

気付いた時にはもう遅い。戦艦すらも葬る一撃必殺の魚雷が、リ級の真下で炸裂する。
声なき声をあげ、リ級は爆炎と共に海に沈んでいった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「ぜんっっぜん!大丈夫じゃないぴょん!」

朝潮「だから、大丈夫だって言っているでしょう?」

卯月「嘘だぴょん!」

朝潮「本当です!」

卯月「いいから、肩を貸してあげるぴょん!見てられないぴょーん!」

朝潮「あっ!?…まったくもう、平気なのに…」



卯月「どう考えてもだめだぴょん!服はぼろぼろ、切り傷だらけ、右腕からは滝みたいな出血だぴょん!」

朝潮「はぁ…別にもう痛くもなんともないのに…」

卯月「だめだぴょん!」

朝潮「もう。分かったわ」


朝潮「さっき受信した無線によると、救援がこの辺りに向かっているらしいです。明朝、もうすぐで太陽が顔を出すわね」

卯月「鎮守府に帰ったら、真っ先に朝潮をドッグに放り込むぴょん」

朝潮「その前に、戦果報告です」

卯月「真面目過ぎるぴょん!」

朝潮「それが私ですから、当然です」


卯月「むぅぅぅ~…」

朝潮「一体何がそんなに不満なのかしら」

卯月「だってぇ…せっかくうーちゃんと意気投合できたと思ったのに~」

朝潮「意気投合した覚えはないわ。鎮守府に帰ったら、すぐにでも『お話』よ。叩きのめしてあげるから、覚悟することね」

卯月「ちょ、その言い方怖いぴょん!何するつもりぴょん!?」

朝潮「何もしないわよ。言うだけ。これまでの私の怨み辛みは、さっきの比じゃないわ。泣いても知らないわよ」

卯月「げえっ!?そんなの聞いてないぴょん!」

朝潮「だから、覚悟しておきなさいと言ったのよ」


卯月「や~だ~!!朝潮と一緒に真っ白な嘘をつくんだぴょん!そうすればみんな平和になるぴょん!」

朝潮「白でも青でも変わらないわ。嘘は嘘。だめなものはだめ。卯月の嘘は、悪い嘘。イタズラウサギで許してやるつもりはないわ」

卯月「ぷっぷくぷ~…」

朝潮「……ふふっ」


卯月「?なに笑ってるぴょん」

朝潮「いえ。なんとなく…やっぱりいいです」

卯月「気になるぴょん!言うぴょん!」

朝潮「帰ったら言うわ」

卯月「今言うぴょん!でないと~…」

朝潮「~~~っいたぁぁいッッ!?」

卯月「傷口に海水かけるぴょーん」

朝潮「うっ……くぅぅぅ…耐えがたい傷みです…」

卯月「これが因幡のウサギの怨念だぴょん!さあはやく、言うぴょん!」

朝潮「わ、わかった!言うから!それ止めて!」


朝潮「もう…」

卯月「で、なんだぴょん?」

朝潮「…私は、卯月が嫌いだったわ。理由はさっきも言った通り。なのに、こうして二人で連携して敵を撃破できるとは思ってもなかったわ。不思議なものね」

卯月「そんなの当たり前ぴょん。うーちゃんと朝潮は、相性ばっちりなんだぴょん!」

朝潮「とてもそうは思えません」

卯月「だってぇ、弥生だってうーちゃんと正反対の性格なのに、うーちゃんの一番の仲良しだぴょん!だからぁ、朝潮だって絶対に相性が良いに決まってるぴょ~ん」

朝潮「……」


朝潮「ま、そう言うことにしておきます」

卯月「あ、否定出来なかったぴょん」

朝潮「傷口に響くから、反論するのをやめただけです」

卯月「ふぅ~ーん?」

卯月「ま!そういうことにしておくぴょん!」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「あ、朝日…」

卯月「おぉ~、きれいだぴょん!」

オーイ

オオーーイ

朝潮「…どうやら、お迎えも来たみたいね」

卯月「弥生だぴょん!睦月に如月も!」




うーちゃーーん!朝潮ちゃーーん!
大丈夫~~~!?
よく頑張ったなー!


朝潮「…はは。私達、帰ってこれたんですね」

卯月「第八駆逐艦のみんなもいるぴょん。にゅふふぅ、みーんな泣いてるぴょん!」

朝潮「帰ったら、いくらでも武勇伝を聞かせてやりましょう」

卯月「そうするぴょ~ん」


卯月「にしても、洞窟の時の朝潮の嘘。けっこうイケイケな感じだったぴょん。才能あると思うな~♪」

朝潮「冗談。そんなつもりは毛頭ありません」

卯月「でも、咄嗟に出てくる嘘じゃないぴょん。オオカミなんて」

朝潮「嘘つきと言えばオオカミ。そしてウサギの天敵もオオカミ。効果はあると思ったのですが…覿面でしたね」

卯月「じゃあ今度は、楽しい嘘をつくといいぴょん!うーちゃん直伝のコツを教えてあげるぴょん!」

朝潮「いらないわ」

卯月「ぴょん!」

朝潮「いりません!」


卯月「それじゃあ朝潮とうーちゃんの今後の活躍を祈ってぇぇ~、朝潮のお手を拝借!」

朝潮「?…はい」スッ

卯月「お互いの健闘をたたえて、握手だぴょん!」ブンブン

朝潮「今じゃなくてもいいんじゃないかしら?」

卯月「思い立ったら吉日だぴょ~ん」

卯月「それに、うーちゃんと握手すると、ご利益があるんだぴょーん。これで朝潮も、うーちゃん大明神の仲間だぴょん」

朝潮「…まーたそんな適当な嘘を」

卯月「でも、悪い気はしないぴょん?」

朝潮「だからそういう問題では…」

卯月「えっへっへ~~♪」

朝潮「……」


朝潮「はぁ」

朝潮「まぁ確かに」

朝潮「そんなに悪い気分ではないわね」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


おしまい

今回はこれで終わりです。

個人的に一番書きたかったのは、朝潮の海戦シーン。
ぽんこつだったり小手川唯言われてたりハイエースされていてもいいんですが、やはり真面目で格好いい姿が個人的な彼女のイメージです。
史実にある通り、どんな状況であっても約束を違えない強さは人間の誉れ。それを書こうと思いました。

次回は、赤城か、もしくは鈴谷を主人公として作成しようかなと。
最後に、御了読いただきありがとうございました。
また次の機会に。

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