【ガルパン】×【古畑任三郎】 最後の一皿 (53)

前スレ

【ガルパン】×【古畑任三郎】 二重包囲 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read/.cgi/newsssnip/1494143015/)

※今回はVSアンチョビです。

※やっぱり役人が死にます。


古畑『えー、皆さん新年あけましておめでとうございます、ご無沙汰しております古畑です。
皆さんの中に、自分には人望がないんじゃないかって悩んでらっしゃる人、いませんか?
安心してください、そういう人は大抵本当に人望がありませんから。でも、世の中には逆に
人望があり過ぎて困るって贅沢な悩みの人のいるようで…』


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515646977

大洗町・イベント特設会場

『アンツィオ・大洗食の祭典』

杏「いやー、生徒や学園艦の住人を対象にしたプレオープンでこの賑わいだからねえ、
明日からの本オープンになったらどんくらいお客が来るのか想像がつかないよ」

桃「プレオープン1日の収益でこれだけですからね」

柚子「本オープンでの予想される収益ですが、こうなっています」

桃「ええっ!?こんなに!?」

杏「いやーすごいねえ、チョビ子たちのおかげだよ」

アンチョビ「チョビ子って呼ぶなって!」

杏「こんだけの利益を出すことが出来るんだから、文科省のやつらも簡単にはあたしらを廃校にできなくなるね」

アンチョビ「ああ、戦車道だけじゃなくてこんな売りがあれば大丈夫だな」

杏「それにしても、料理ではやっぱりチョビ子たち敵わないね。あたしや武部ちゃんたちも
割とやる方だと思ってたんだけどさあ」

アンチョビ「そりゃそうだよ、みんな卒業したら生業にしようってやつらばっかりだからな。
ペパロニみたいにイタリアの名店に修業しに行くのが決まってるようなのも大勢いるしな。
でも、私らの料理がうまくできたのも杏たちの提供してくれた食材のおかげだよ」

杏「そう言ってもらえるとありがたいねえ。うちもあんこうの養殖が軌道に乗り始めたとこだし、
それ以外の魚の養殖も新しい売り物になりそうだしさあ」

カルパッチョ「あの…ドゥーチェ、ちょっとよろしいでしょうか?」

アンチョビ「ん?どうした?」

カルパッチョ「その…例の件でちょっとペパロニさんの店に来て欲しいんですが…」

杏「どうしたの?なんかトラブル?」

アンチョビ「いや、大したことじゃないんだ。こっちの話」

杏「ならいいんだけど…」

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アンチョビ「今ここに来てるのか?」

カルパッチョ「はい、それで今ペパロニさんが相手してるんですが…」

アンチョビ「あいつに交渉なんて出来ないだろ!?」

カルパッチョ「はい、それでドゥーチェに…、それと、どうしてもお耳に入れておきたいことが…」

ペパロニの店の厨房…

アンチョビ「…どういうことだ」

ペパロニ「おい、あんた言ってたよな、大洗の次はアンツィオが整理の対象だって。それで局長のあんたに金払えばそっから外してくれるってな。
でも金払ってみたらあんた局長どころか文科省もクビになってんじゃねえか!」

辻「…」

カルパッチョ「お願いです!お金を返してください!あのお金はいざという時に備えてみんなのために少しずつためてきた
大事なお金だったんです!」

辻「ヤバい筋に借金があってね、悪いが全て返済に使わせてもらったよ」

カルパッチョ「そんな…!」

ペパロニ「てめえ!」

アンチョビ「もう出るところに出るしかないようだな。訴えさせてもらうぞ」

辻「そんなことをしたら困るのはそっちじゃないか?公務員に金を渡して便宜を払わせるということが
どういうことなのかわかるだろう?」

アンチョビ「でもあんたはもう公務員じゃない」

辻「それでも違法行為と知っていて金を渡してたんだ、訴えたりしたら恥をかくのはそっちだぞ。
それにヤバい連中に追い込みを掛けられるくらいなら訴えられた方がまだマシなんでね」

ペパロニ「この野郎!居直る気かぁぁぁっ!」

アンチョビ「おいペパロニ!よせ!」

辻「ええい、放せ!こんなもんだまされる方が悪いんだ!」

アンチョビ、もみ合う2人に割って入って調理台の上に置いてあった麺棒で辻を撲殺。

アンチョビ「だます方が悪いに決まってるだろ…」

アンチョビ「ああ…しまった…、なんてことを…」

ペパロニ「アンチョビ姐さん、あたしを助けようとして…」

カルパッチョ「けっ…警察を…」

アンチョビ「待ってくれ!今ここでフェスはどうなるんだ!私らだけじゃなくて杏たちにまで迷惑がかかることに…!
それにアンツィオの将来も…」

ペパロニ「そうだよ!姐さんは何も悪くないよ!」

カルパッチョ「ですが、どうしたら…」

アンチョビ「カルパッチョ、ペパロニ、2人ともよく聞いてくれ。然るべき時がきたら必ず責任は取る、だから
今だけは頼む、助けてくれ」

カルパッチョ「ドゥーチェ…」

ペパロニ「アンチョビ姐さん、なんでも言ってください!なんでもやります!」

アンチョビ「じゃあまず軽でいいからトラックをこっちに廻してくれ、幌か密閉キャビンのやつ。
あと備品庫から防水布とロープと固縛用ベルト、それと外径がえーっと…7cmの鉄パイプを!
なるたけ短いやつ!」

ペパロニ「はい!」

カルパッチョ「わかりました!」

アンチョビ「頼むぞ…うまくいってくれ…」

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西園寺「向島さん、古畑さんを見ませんでしたか?」

向島巡査「ああ、古畑さんでしたらさっきコインランドリーへ行かれましたよ」

西園寺「コインランドリー?」

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西園寺「古畑さん、そろそろお願いします」

古畑「もうちょっとだけ。人込み苦手なんだよねえ、夜の夜中に突然呼び出されてさあ。西園寺くん、
君、隣どう?」

西園寺「じゃあちょっとだけ失礼します」

古畑「ねえ、眠気覚ましに缶コーヒーでも買おうと思って入ったんだけどさあ、ここに入った時から
あの乾燥機の中にあれがいるんだよねえ」

西園寺「ぬいぐるみのクマ…ですか?」

古畑「こんな時間にコインランドリーでぬいぐるみのクマを乾かそうとする人物って一体何者だろうねえ?」

西園寺「学園艦のイベントやってますからね、久しぶりに娘に会いに来た父親がお土産に買ってきたけれど、
渡す前にうっかり溝にでも落としてしまって、それで慌てて洗って乾かしてるとか」

古畑「いやあ、それはどうかなあ。今時クマのぬいぐるみをもらって喜ぶ女子高生がいるとは思えないよぉ、
それにあのクマボロボロだよ?あちこちに包帯巻いてあるしさあ、新品とは思えないよ。おそらく小さい頃
から大事にしてたやつだね」

西園寺「それでは一体…」

古畑「犯人は女の子だね、きっとここの生徒だよ。おそらく性格は優柔不断で煮え切らないタイプ、
その上きっと浮気性だろうね」

西園寺「そこまでわかるんですか?」

古畑「ほらぁ、今流行ってるじゃないの、百合って言うの?女の子同士の恋愛。寮のルームメイトってことで
同棲してる子も多いっていうし。彼女は同棲してる恋人が出掛けてる間、もう1人の女の子を部屋に招き入れた。
で、そこで口論になった、『あの子と私とどっちを取るの!』ってね」

西園寺「はあ…」

古畑「そして、二股かけられてたその子は腹いせに置いてあった本命の女の子が大事にしてる
ぬいぐるみを窓から投げ捨てて帰ってしまった。彼女は慌てただろうねえ、同棲してる本命の子
が帰ってくるまでになんとかしなきゃならない。で、こうなったと」

西園寺「なるほど、犯行の動機は痴情のもつれというわけですね」

古畑「ま、十中八九そんなところでしょ」

西園寺「勉強になります」

常夫「ああ、よかった。もう乾いてるな」

古畑「あれ?」

西園寺「あの…そのぬいぐるみどうされたんですか?」

常夫「ああ、これは娘へのお土産に買ってきたんですよ。学園艦のイベントで久しぶりに会いに来たんですが、
うっかり溝に落としちゃって」

西園寺「でもそのクマ、ボロボロですよ?」

常夫「ああ、これはボコられグマのボコってキャラクターなんです。娘が小さい頃からこれが大好きで」

古畑「…」

西園寺「…」

今泉「あっ、古畑さんどこ行ってたんですか!早くしないと遺体片付けられちゃいますよ!」

古畑「うるさいなあ、わかってるって」

今泉「おい!このところ仲良過ぎないか!?」

西園寺「…」

今泉「被害者…と言っていいのかわかりませんが、亡くなったのは辻廉太さん無職、以前は文科省の官僚だったそうです。
今夜の10時半ごろ警備会社にこの建物への侵入警報が入り、現場にやって来た機動警備のガードマンと通報を受けて
立ち会いに来た地域課の警官が死体を発見しました」

古畑「で、この建物は何?」

今泉「『アンツィオ・大洗食の祭典』ってのをやってまして、このプレハブ2階建ての1階が土産物店兼案内所、
2階が事務所になってます。2階のドアをこじ開けて内部を物色した形跡があり、売り上げを収めた金庫を動かそう
としたようです。それで、金庫を動かしたらアラームが鳴ったので慌てて逃げようとしてあの外階段から転落、運悪く
地面に落ちていた鉄パイプに頭をぶつけた模様です」

古畑「んー、何これ?遺体がべタベタなんだけど」

今泉「オリーブオイルです。コートのポケットにボトルが入ってて、階段から落ちた拍子に蓋が外れて中身が出たみたいです」

西園寺「気を付けてくださいね、さっき今泉さんも滑って転びましたから」

今泉「余計なこと言わなくていいんだよ!」

古畑「この人、なんでオリーブオイルなんて持ち歩いてたんだろうねえ?」

今泉「さあ、同じものを売店で売ってますから、どっかで買ったか、万引きでもしたか…」

つづく

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古畑「え~、アンツィオ高校戦車道総帥の安斎千代美さんですね。私、警視庁捜査一課から参りました古畑と申します」

アンチョビ「アンチョビだ、ドゥーチェ・アンチョビ。ここではそれで通ってる」

古畑「アンチョビ…、なんか変な感じなんで安斎さんって呼ばせてくださいよ、ね?それにしても、
素敵なウィッグですねえ」

アンチョビ「地毛だよ!」

古畑「それで、亡くなった辻さんについて2~3伺いたいんですが」

アンチョビ「伺うも何も、泥棒が階段から落ちて死んだってだけで何も知らないよ」

カルパッチョ「あれは事故なのでは?」

古畑「それなんですがねえ、いくつか不自然な点がありまして」

アンチョビ「例えば?」

古畑「まず第一に亡くなった辻さんというのは大洗の廃校に失敗してからというもの、省内で
大変に立場が悪くなってたそうで、普段から敵の多い人だったんでしょうねえ、隠してた過去の
不祥事を暴かれて依願退職になってたそうなんですよ」

アンチョビ「そんなやつなら泥棒に入っても不思議はないんじゃないか?」

古畑「ええ、現に捜査二課…ああ、これは我々捜査一課が扱うような強行犯じゃなくて、贈収賄や
背任、詐欺や企業恐喝といったいわゆるホワイトカラー犯罪を担当してる部署なんですが、そこの
調べによると彼、ヤバい筋に借金があって、クビになったのもそのへんの事情が原因のようでして」

古畑「それで、失職してからは前職の肩書を使ってあちこちで詐欺のようなことをしていたようなんですが、
被害に遭った人たちが訴えることができないような手口だったようで、二課でも立件できなくて困ってた
ようなんですねえ」

アンチョビ「ほら、やっぱり。そんなやつなら泥棒に入ってもおかしくないだろ?」

古畑「いえいえ、警察学校の犯罪心理学の授業で習うことなんですが、詐欺や背任といった知的犯罪を犯す人物というのは
窃盗や強盗といった直接的な犯罪は心理学的に侵さないものなんです。それに、彼には泥棒に入る動機がなかったんです」

アンチョビ「どういうことだ?」

古畑「これも二課の調べなんですが、彼、そのヤバい筋の借金を全て返済してるんですよ、どこからお金を捻出したかはわかりませんが。
結構な人脈と能力を持ってた人です、借金さえなんとかすればいままで通りとまではいかなくても何らかの再起を果たすことはできたはずです。
泥棒に入る理由がない」

アンチョビ「ちょっと待った、なんで私らにそんな話を?」

古畑「いやあ、これは話の枕みたいなもので、本題はこれからなんですよ」

アンチョビ「前振りが長いよ!聖グロの隊長かあんたは!」

つづく

古畑「辻さんは階段から転げ落ちた拍子に地面に落ちてた鉄パイプに頭をぶつけて亡くなったということになってますが…」

アンチョビ「『ということになってる』ってなんだよ、奥歯に物が挟まったような言い方はやめてくれ」

古畑「いやあ、すみません、で、その鉄パイプなんですが…、なんて言いましたっけ、おたくのあの小さい戦車…」

アンチョビ「CV33?」

古畑「そう、それです。そのCV33のOVM…いわゆる車外搭載工具だったんです」

アンチョビ「あれはフェスの宣伝のためや荷物の運搬のために町中を何両も走り回ってたからな、
なんかの拍子に外れて落ちたんだろ」

古畑「ええ、私もそう思いました。だから使用されてた全てのCV33を調べてみたんですがどの戦車もOVMが
欠けたものはありませんでした。つまりあの鉄パイプは戦車に搭載されてたものではなくて、誰かが備品庫から持ち出した
ものだということになります」

カルパッチョ「CV33の乗員の誰かが落としたことに気づいて後から補充したのでは?」

古畑「ええ、それも考えられるんですが…」

古畑「それに、最も気になるのはやはりあのオリーブオイルです。あれはどこから来たのか、
そして何故あそこにあったのかってことで…」

アンチョビ「オリーブオイル売ってる店は何軒かあるからな、その中のどっかから買ったか、盗んだか…」

古畑「うちの今泉くんもそう言ってました。だから売ってる店を全て調べてみたんですが、どのお店も
辻さんは来ていないし、盗まれたものはないって言うんです。だから、あのオリーブオイルは自宅から
持ってきたんじゃなければ、店の売り場ではなく厨房から持ち出されたものじゃないかと…で、何か
お心当たりがないかと思いまして…」

アンチョビ「だから前ふりが長いって!回りくどいなあ。昨日はどの店も大忙しだったし、誰かがこっそり
オリーブオイルのボトルを持ち出しても誰も気づかなかったんじゃないか?そもそもジェラート屋以外の
ほとんどの店の厨房にオリーブオイル置いてあったんだし」

カルパッチョ「刑事さん、もしかしてドゥーチェのことを疑ってらっしゃるんですか?」

古畑「いえそんな…、あくまで形式的なことで…」

カルパッチョ「とにかく、ドゥーチェは何も関係ありません、それだけは言わせてください」

古畑「今日のところはこれで失礼します。またお話を伺うことがあるかもしれませんのでその節はよろしくお願いします。
お祭りの運営がんばってくださいね。それにしてもいいウィッグだなあ」

アンチョビ「だから地毛だって!」

杏「ねえ刑事さん、えーっと古畑さんだっけ?」

古畑「ええ、そうですがあなたは…」

杏「大洗女子学園生徒会長、角谷杏だよ。まあもうすぐ前会長になるけどね」

古畑「ああ、安斎さんと一緒に運営責任者をやっておられるんでしたね」

杏「うん、そうだよ。刑事さん、あんたらチョビ子のこと疑ってんの?」

古畑「いえ、そんな…、ごく形式的なことでしして…」

杏「どうだか」

杏「あれは事故だったんだよ、もうそれでいいじゃない。それにあんなやつ死んで当然だよ」

古畑「いやあ、そういうわけにはいきませんよ、真実を明らかにするのが私たちの仕事です。それに
死んで当然の人なんてこの世にはいませんよ」

杏「いやー正論だねえ。でもさあ、正論ばっかり言う人って嫌われるんだよねえ」

古畑「いやあ、仕事柄嫌われるのには慣れてますから」

杏「あんたが嫌われるのは職業上のことだけじゃないと思うけどなあ」

杏「古畑さんって仕事は出来るけど人望はあんまりないってタイプでしょ、一匹狼タイプだね」

古畑「それ、よく言われますねえ、まあ仕事が出来ない上に人望も全くない今泉くんに比べたら遥かにマシなんですけどねえ」

杏「そうだねえ、そっちの刑事さん、いかにもそういう感じだし」

今泉「うわあ…2人してひどいなあ…」

杏「とにかくさあ、これだけは憶えといてよ。あたしらはチョビ子の味方だよ、ここにいるやつらだけじゃなくて、
戦車に乗ってる連中は全員ね。忘れないでよ」

古畑「はい、肝に銘じておきますよ」


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古畑「いやあ、あの安斎さんってすごく人望が厚いみたいだねえ。今泉くんとは大違いだよ」

今泉「失礼だなあ、僕にも人望ぐらいありますよ!」

古畑「誰に?」

今泉「えーっと、古畑さんと、チビ太と、桑原くんと…」

古畑「その他は?」

今泉「…」

古畑「えーっと、カルパッチョさんでしたね?ご用というのは…」

カルパッチョ「これ以上は隠していてもいずれは刑事さんたちに知られてしまうでしょうし、
もしかしたら既に知ってらっしゃるかもしれませんが、私、あの辻さんにお金を渡していたんです」

古畑「詳しい話をお聞かせ願えますか?」

カルパッチョ「先月のことでした、辻さんから内々に話があると連絡がありました」

古畑「それは直接あなただけにですか?」

カルパッチョ「はい、経理の責任者は私ですから…」

カルパッチョ「辻さんからアンツィオ高校が大洗女子学園の次の廃校対象になってると言われて、
それで、局長である自分にリベートを払えば廃校の話はなかったことに出来ると言われて…。
もちろん贈賄とか背任などの罪に問われることはわかってました。ですが、どうしてもアンツィオ
の将来を…」

古畑「うーん…、亡くなった辻さんは同様の手口であちこちからお金をだまし取っていたいたようですねえ、
で、いくらくらい払ったんですか?」

カルパッチョ「総額で1000万円くらいです…。予備費として少しずつ積み立ててきたお金だったんですが…」

古畑「そんな大金をあなた1人の一存で用立てたんですか?」

カルパッチョ「はい、全て私1人の判断でやったことです…」

古畑「うーん…」

古畑「ま、お話は承っておきましょう。なにかありましたらまた伺いますので」

カルパッチョ「あの…信じてらっしゃらないんですか?」

古畑「いえ、そんな…まあ詳しいお話はまた今度ってことで」

カルパッチョ「…」

再開

ペパロニ「で、なんだよ話って」

古畑「いえ、たいしたことじゃないんですが。それよりなんで安斎さんが一緒におられるんですか?」

アンチョビ「ああ、みんなの店を回ってる途中でね、ついでにこいつの監督もね。古畑さんってあんなだから、
もしこいつが怒って刑事相手につかみ合いでも始めたら困ったことになるからな。こいつ気が短いから」

ペパロニ「信用ないなあ、今はもうそんなことないっすよ」

古畑「本当にたいしたことじゃないんですけどねえ」

ペパロニ「それで、聞きたいことって何?」

古畑「カルボナーラ」

ペパロニ「えっ?」

古畑「いえ、ですからね、カルボナーラ」

アンチョビ「え…えーっと…」

古畑「んー私、自炊生活が長くて料理作るのが半分趣味みたいになってるんですよ。で、パスタもしょっちゅう作るんですが、
カルボナーラだけは料理の本読みながらでもどうしても上手くいかなくって。いっつもスパゲッティに炒り卵がこびりついた
ようなのできちゃって。あれってどういうコツがあるんですかねえ?」

ペパロニ「なんだ、そんなこと聞きたかったのかよ」

アンチョビ「そいつはアレだな、火加減の問題だよ。イタリア料理や中華料理だとなんでも強火がいいって思ってる人もいるけど、
そうじゃないんだよなあ、長唄にもあるだろ?『火加減湯加減秘密の大事』ってね」

古畑「まああれは料理じゃなくて刀鍛冶のことを唄ってるんですけどねえ」

アンチョビ「まあ同じことだよ、火力と温度の調整が大切ってことはね」

ペパロニ「アンチョビ姐さん、博識だなあ」

ペパロニ「それに、決め手はやっぱりあれだな、オリーブオイルはケチケチしない」

今泉「それってやっぱりあれ?速水もこみち?」

アンチョビ「あれはテレビの演出だよ。一般家庭で真似したらえらいことになるから」

古畑「いやあ、本職を目指しておられるだけあって、本当に参考になります」

ペパロニ「そうか?だったらちょっと実演してみせようか。あたしの店そこだからさあ、刑事さんたち腹減ってるでしょ?」

古畑「いいんですか?いやあ、嬉しいなあ。厨房の中って見てみたかったんですよ」

アンチョビ「お…おい」

古畑「あれ?安斎さん何か?」

アンチョビ「いや、あんまり部外者に厨房に入られるのはちょっと…」

ペパロニ「アンチョビ姐さん、大丈夫ですって!」

ペパロニ「イタリア料理や中華料理だと強火が一番って思われてるけど、卵みたいな硬さの加減が大事な食材や、
山菜みたいな香りが大事な食材では弱火から中火の間くらいの火加減から始めるのがいいな。それとさっきも言った
けど、オリーブオイルはケチケチしない。これだね」

古畑「いやあ、私みたいな素人とは手捌きが全然違いますねえ」

アンチョビ「そりゃそうだよ、プロ志望でそのためにがんばってるんだよこいつは」

今泉「古畑さん、よっぽど興味あるんですねえ、さっきから本当に熱心に見つめて」

古畑「んー、ちょっと黙ってて、いいところなんだから」

おでこペチっ

古畑『えー、今回の一件はやはり単なる事故ではなく殺人事件、おそらくドゥーチェ・アンチョビこと
安斎千代美さんの仕業でしょう。決め手になったのはペパロニさんのあの言葉です、「オリーブオイルはケチケチしない」
続きは解決編で。古畑任三郎でした』



次回解決編に続く。

杏「いやー、あんなことがあったけどフェスは大成功だったねえ」

桃「ええ、これだけ出来ればウチもアンツィオもこの先大丈夫でしょう」

杏「そうだね、一安心だよ。小山、チョビ子たち見なかった?」

柚子「いえ、見ませんでしたが…」

杏「ちょっとみんなで探してくれない?あいつら、バカなこと考えなきゃいいんだけど…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


古畑「安斎さん、こんな所にいらしたんですか、探しましたよ。後夜祭、出ないんですか?」

アンチョビ「うん、どうもそんな気になれなくてね」

古畑「ところで安斎さん、自供していただくわけにはいきませんか?今ならまだ私の力で自首ってことに出来ると思います」

アンチョビ「…」

アンチョビ「やっぱりプロの目はごまかせないなあ…。どこで気付いたんだ?」

古畑「ピンときたのはペパロニさんのあの言葉です、『オリーブオイルはケチケチしない』。何故オリーブオイルが
遺体に浴びせてあったかは置いとくとして、どこからやって来たのか?」

古畑「カルボナーラを作ってもらった時、ペパロニさんはオリーブオイルの新しいボトルを開けていました。
もし前日に古いボトルを使い切ってのなら、いくらケチケチしないといっても使い過ぎです。で、ちょっと
調べてみたんですが、注文された料理の総数と一つの料理に使われるオリーブオイルの量を合わせても、ボトル
一本を使い切ることはないんです。お祭りのために新しく出店したお店ですから使い古しのボトルを使ってた
ってこともないでしょうし」

古畑「現場にこぼれた分とボトルに残ってた分を合わせた量が、新品のボトルから前日に使った量を引いたものと
ほぼ一致しました。鑑識の桑原くんのお手柄です。辻さんはペパロニさんの店の厨房であなたに麺棒で撲殺された、
違いますか?」

アンチョビ「ちょっと待った、なんで麺棒で殴ったってわかるんだ?」

古畑「厨房を拝見した時、調理器具はどれもプロ仕様の上等なものでした。でも、麺棒だけはナイロン製の安物で
なおかつ真新しいものでした。それで、これも調べてみたんですが、あそこに置いてあった延ばし台とセットに
なってる麺棒は大理石で出来た本職用で、太さは例の鉄パイプと同じでした。偽装工作のためとはいえ、大事に
なさってたでしょう調理器具を処分するのはさぞ気が進まなかったでしょうねえ」

アンチョビ「細かいとこ見てるなあ、刑事やめてギャルソンか盛り付け職人やっても一流になれるよ」

古畑「ありがとうございます、退職したら考えてみますよ」

古畑「最初はペパロニさんの仕業だと思ってました。でも、ペパロニさん本人や現場に居合わせたであろうカルパッチョさん、
それに後から事態を察したであろう角谷さん、みなさんの態度でわかりました、やったのはあなたで、恐らくペパロニさんたち
を助けるためにやむをえないことだったって。安斎さん、あなた本当にみんなから愛されてるんですねえ、もしあなたがウチの
今泉くんみたいな人望の欠片もない嫌われ者だったとしたら、今でもペパロニさんを疑ってたでしょう」

アンチョビ「人望があるのも善し悪しだなあ…」

古畑「で、先程も言いましたが自供していただけませんか?お祭りが終わってから、ペパロニさんとカルパッチョさんが別々に出頭してきました。
お2人ともやったのは自分であなたは何も関係ないって泣きながら言い張ってるんです。西園寺くんたちが困ってますよ」

アンチョビ「あいつらもバカだなあ…、そんなの通るわけないだろ…。あいつらのためにも白状しなきゃならないか…」

古畑「ええ、お願いします」

アンチョビ「もみ合いになって、あいつを殴り倒したとき、調理台の上にあった下ごしらえ用のカップに入ったオリーブオイルがあいつの服に
かかったんだ。そのままにしといたら厨房で殺されたってすぐバレるだろうし、着替えさせようにも男物の服なんてなかったし、苦肉の策だったんだ」

古畑「まあ、情状酌量の余地は十分あると思いますよ。それに、あなただったら情状証人は大勢来てくれるでしょうし」

アンチョビ「ねえ古畑さん、もしかしてフェスが終わるまで待っててくれたの?」

古畑「いえいえ、買い被らないでください。証拠固めに手間取っただけですから」

アンチョビ「…ありがとね。ねえ、腹減ってない?よかったら何か作るよ」

古畑「いいんですか?じゃ、ご馳走になろうかな」

アンチョビ「よーし、心して味わえ!ドゥーチェの作る最後の一皿だ!おいしさの決め手は…」

古畑「オリーブオイルはケチケチしない、でしょ?」

アンチョビ「その通り!まずは中火で熱したフライパンに…」



                             終


次回はVSあんこうチームを予定してます。

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