勇者「魔王が生まれなかったのに勇者は生まれる」 (36)

従者「え?」

勇者「だからさ、魔王はもう生まれなくなっただろ」

従者「はぁ・・・」

勇者「なのに勇者は生まれる、なんで?」

従者「いや・・・それは・・・」

勇者「勇者ってのは魔王討伐のための人間のことだろ?なのになんで魔王が居ないのに俺がいるんだよ」

従者「・・・魔族と人間が手を取り合ったからですね・・・魔王は称号であり勇者は生来の素質ですから」

勇者「でもわざわざ俺にも称号つける意味無いよね?その辺にいる魔族耐性持ちのちょっと強い人でいいよね」

従者「あっ、でもあれですよ!魔王は居ませんけれど魔族長なら居ます!」

勇者「そいつ殺しに行くの?」

従者「行くわけないじゃないですか!馬鹿ですか!?」

勇者「でしょ~・・・?」

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勇者「結局勇者ってのは人間に仇なす魔族のヤベー奴を倒しに行くやつなんだろ?」

勇者「魔王がいなくなったらどんだけ強くても勇者じゃねえじゃん、デコになんかアザがあっても勇者じゃねえじゃん」

勇者「なのになんで勇者なんだよ、勘弁してくれよ」

従者「勇者の目的は過去と変わったのです」

勇者「うん知ってる、魔族と人間のあいだを取り持ちつつ、互いの関係を崩そうとする驚異的存在の排除だっけ?」

従者「分かってるじゃないですか」

勇者「俺じゃなくてもいいよね」

従者「なりません!仮にも人間の中で一番強いんですよあなたは!」

勇者「そういうのもういいよ~・・・強すぎる魔力のおかげで合コン行ったら女の子がみんなあてられて気絶しちゃう苦しみわかんないだろ」

勇者「残るのは魔族の女の子だけだぞ、可愛いからいいんだけど」

従者「いいんですか」

勇者「いいんだよ、頭のお堅いジジイどもと違って俺は魔族の女の子も大好きだから、でも同じように人間の女の子も好きなんだよ、恋愛に対して自由度が欲しいんだよ」

従者「・・・」

勇者「はぁ~今や勇者ってほんと無駄な称号だよなあ」

勇者「せめてやべえ奴らでも出てきてくれればやりがいもあるんだけどな~」

従者「この前テロリストが出てきたじゃないですか」

勇者「お前が指降ったらなんかみんな吹っ飛んだじゃん」

従者「当然です!勇者様に怪我をさせる訳には行きませんから!」

勇者「うーん・・・違うんだよなぁ・・・」

従者「私も同じですよ、男の人とご飯食べる前に男の人が気絶してしまうんです」

勇者「へー」

従者「私の魔力に当てられるんですよ、ご飯食べようって話なのに胃もたれがすごいとか言い始めて呻き出す人をなだめる術が私にとって一番得意な魔法です」

勇者「お前もなかなかだねえ・・・」

勇者「このご時世強すぎるってのも考えものだよなぁ」

従者「私は望んで強くなったからいいのです」

勇者「俺は望んでないんだよなー」

従者「努力せずにその強さなら、勇者様はきっと本気になったら歴代最強になれますよ」

勇者「これ以上強くなったら皆魔力中毒で目と目が合った瞬間に死ぬわ」

従者「大丈夫です!私は鍛えてますから!」

勇者「お前には言ってない」

従者「実際勇者様のその異常な強さのおかげで平和は保たれてると言ってもいいんですよ」

勇者「はー、抑止力ってやつね」

従者「そうですそうです」

勇者「封印されし化け物みたいな扱いじゃねえかよー」

従者「実際そんなものですし」

勇者「やめて、そういうこと言うの」

従者「いいじゃないですか、世が平和ならそれで」

勇者「まぁそうなんだけどな」

従者「それでもなんでもできてしまうが故に人生に張合いがない気持ちはお察しします」

従者「私なんかは努力で上り詰めた人間ですから、そういうのとはとんと無縁で」

勇者「小さい頃くしゃみで湖の水吹きとばして未曾有の大災害起こした人間がいう言葉じゃねえな、隔離施設かここは?」

従者「あれは偶然も重なったんですよ、その場の自然な魔力と私の魔力が適合してしまったので」

勇者「普通の人間は適合したくらいで湖の水吹き飛ばさないから」

勇者「俺がテロリストになるとは考えないのかね、ぐーたらで怠け者の俺に権限なんか与えちまってさぁ」

従者「あ、それは大丈夫だと思いますよ」

勇者「?」

従者「勇者様は人をむやみに傷つけるお方ではありませんから」

勇者「なんで言いきれるんだよ、普通にアイツムカつくなくらい思うぞ俺も」

従者「でも実際に行動には移されないでしょう?そういうことです」

従者「魔力使用制限のない勇者様、その意味をどうかお考えください」

従者「認められてるんですよ、あなたの優しさが」

勇者「俺の何が優しいんだか」

従者「語らせたいんですか?」

勇者「恥ずいからいい」

従者「今でも語り草ですよね、勇者様のサンドバック未遂事件」

勇者「いいって言ったんだけど」

従者「戦争で両親を亡くした魔族の子供に向かって、俺なら死ねるから何度でも殺していいぞなんて早々言えませんよ」

勇者「あれしか止める方法がなかったんだよ」

従者「実際神の加護で死なないとはいえ痛みはあるのに」

勇者「結局その子は1回も刺さなかったけどな、俺が優しいんじゃなくてあの子が優しかっただけだよ」

従者「そうですか?魔力だけでなく勇者様のなにかに当てられたんだと思いますけど」

勇者「・・・」

従者「うふふ」

勇者「ま、どうでもいいけどあの子が何もなく過ごせてるんならそれでいいよ」

従者「あ、そういえばあの子騎士団に入ったらしいですよ」

勇者「うえっ!?マジ?」

従者「ええ」

勇者「すげえなぁ・・・騎士団って言ったら人間界のド真ん中に位置するってのに・・・いくらまともになったとはいえあそこはまだ差別やべえだろ」

従者「・・・まぁ・・・魔族に対しての風当たりはいいとはいえませんね」

勇者「いくら権利があるって言ってもなかなか出来ねえよそんなこと」

従者「でも頑張ってるらしいですよ、なんでも誰かさんに今度は同じセリフを言ってやるだとか」

勇者「はは、逞しいね~」

従者「勇者様に向かって殺してみろなんて言えるようになったらもう世界一の強さですね」

勇者「さあどうだか、案外なるかもよ」

従者「まぁ魔族の皆が皆、あの子のように手を取り合ってくれるとは思いませんけど」

勇者「まあな、人間側が差別してる時点でな」

従者「どうしても肉体的には魔族の方が上ですからね」

従者「怖いんですよ、人間は魔族が」

勇者「まぁそうかもな、俺は怖くないけど」

従者「そりゃそうでしょう」

勇者「どうすりゃ差別はなくなるのかね~」

従者「正直言うと無理でしょうね、生き方も文化も見た目も何もかもが違う我々全体が一人残すところもなく手を取り合うのは不可能です」

従者「同じ人間でさえ生まれの違いで差別されるのですから」

勇者「・・・」

従者「でも、だからこそ意味があるんですよ」

従者「人間と魔族が真に手を取り合うことは不可能、ならばそれを体現した時こそ、この世に奇跡はあるという証明になるじゃないですか」

従者「私でさえ無理だと思っています、でも私だけでないなら・・・」

従者「きっと出来ますよ」

魔族「・・・」

勇者「あ」

勇者「あの子は・・・」

従者「戦争孤児、でしょうね」

従者「昔なら恨みの種になるであろう彼らを始末していたそうですけれど」

勇者「えぇ・・・とんでもない話しないで」

従者「うふふ」

従者「・・・ねえ君、大丈夫?」

魔族「ひっ・・・!」

従者「・・・大丈夫、お姉さんたちは何もしないよ」

魔族「嫌だ・・・触らないで!・・・汚れる!」

従者「・・・っ」

魔族「・・・人間が・・・触らないで!」

従者「・・・」

勇者「まぁこうなることもあるってわけだな」

魔族「・・・!」

勇者「おいどうしたお嬢ちゃん、いきなり出会って汚れるはひどいんじゃねえか」

魔族「私たちから全てを奪ったくせに・・・!」

魔族「人間は皆そうなんでしょ!私たちのことを生き物とすら思っちゃいない!」

勇者「そんな事ないぞ、俺もこいつも君のことを同じだと思ってる」

魔族「・・・」ギリッ!

魔族「お父さんもお母さんも、あなた達に殺されたって聞いた・・・」

魔族「私たちのことを悪魔って罵ったって聞いた」

魔族「あなた達だって悪魔のくせに!」

従者「黙れ」

勇者「おい」

従者「・・・」

勇者「・・・」

勇者「そうかもな、俺達も悪魔みたいなもんだ」

勇者「俺たち人間はお前達を殺した」

勇者「・・・ごめんな」

魔族「・・・ふふ、そんなこと言って人間相手だったら何もしないくせに」

勇者「・・・」

魔族「見てよこれ、私たちのこと生き物とすら思っちゃいない」

魔族「ただの道具だ」

魔族「満たすだけの道具!!」

従者「・・・」

従者(酷い・・・いくら体が強いとはいえ、こんなに乱暴に扱われたら病気になってしまう)

勇者「・・・」

魔族「これも人間相手にやられたんだよ!!!でも誰も取り合ってくれない!!魔族ってだけで門前払い!!!」

魔族「こんな事なら、戦争のままの方が良かったよ!!!」

魔族「私、一番大嫌いな奴らの子供産んじゃうの!?ねえ!!答えてよ!!!」

魔族「魔族には、選ぶ権利も無いんでしょ!!!!」

勇者「・・・」

勇者「君をそんなふうにした奴らはどこにいるんだ?」

魔族「・・・」

勇者「・・・」

魔族「・・・あっちの離れの、森」ポロポロ

魔族「・・・痛いよぅ・・・痛いよぅ・・・!」

勇者「なあ」

従者「ええ、行ってらっしゃい」

魔族「・・・?」

勇者「ちょっと平和的解決してくるわ・・・!」

魔族「・・・」

従者「・・・」

魔族「・・・」

従者「あの人はね」

魔族「・・・」

従者「魔族に育てられたのよ」

魔族「・・・え?」

従者「魔族に拾われて、魔族の洗礼と儀式を受けた、人間なの」

従者「だからあの人は、知ってるの、魔族も人間も何ら違いのない存在だってことを」

魔族「・・・」

従者「彼の家族はひどい扱いを受けたって聞いたわ、戦争が終結したとはいえ人間の子供だもの、差別を受けないわけがない」

従者「でもそれでも彼の家族は一心の愛を注いでくれた」

従者「翼のない彼を、角のない彼を、牙のない彼を、勇者である彼を、彼の家族は実の息子のように育てたの」

従者「魔族と人間のハイブリット、そう言えば聞こえはいいけれど、彼は幼少の頃は歪だと呼ばれたわ」

従者「人間でもなく魔族でもない、どっちつかずの半端者」

従者「そんな人間殺してしまえと両側から声があがった」

従者「彼が殺せないことを知ると、両側は手のひらを返したように彼に権限を与えた」

従者「一生旅することを条件にね」

魔族「それって・・・ただの追放・・・」

従者「あの人は分かってはいないだろうけど、それでも自分が厄介者扱いされてることくらいはわかってると思うわ」

従者「だから何より知ってるの、一人の辛さを、孤独の恐怖を」

従者「あなたの痛みが、本当に痛いほどわかるのよ」

魔族「・・・」

従者「・・・」

魔族「・・・知ってる」

魔族「・・・本当は知ってるよ・・・人間にもいい人はいるって」

魔族「・・・知ってるのに・・・!!」

従者「理解しているならそれでいいのよ、私だって魔族は大嫌いだったから」

魔族「・・・」

従者「今でも好きかと言われると分からない、特定の好む人はいるけれど、魔族という全体を考えた時に躊躇いなく首を縦に振れるかと言うと微妙なところ 」

従者「人間も好きじゃない、魔族より頭を使うせいで濁って腐った汚れた部分が浮き出まくり」

従者「うふふ、酷い女でしょ」

魔族「・・・」

従者「世の中聖人ばっかりじゃないのよ、いっそ魔族と人間が疫病かなんかで死んで二割くらいまで減ればもっと平和になるのになんて考える人もいる、まぁ私なんだけど」

従者「でもどうせそんなことは起きない、だったら私はもう一つの道を歩むしかない」

魔族「・・・やめてしまえばいいのに・・・馬鹿らしいって、無理だって思うのなら・・・」

従者「あの人が大好きだからよ」

従者「あの人の進む道には間違いも不可能もないって本気で思えるからこそ、私はこういう生き方をしてるの」

魔族「・・・」

魔族「・・・私にも」

魔族「そう思える人が、できるかな」

従者「出来るわよ、この世に生まれてひとりきりなんてことは絶対に有り得ないんだから」

魔族「・・・」

魔族「・・・」

魔族「ごめんなさい」

従者「いいえ、こちらこそ」

従者「・・・っと、そろそろかしら」

魔族「・・・?」

従者「あんまり顔に出さない人だから仕方ないんだけれど、あの時の彼相当来てたわ」

従者「まず間違いなく地形が変わるから要注意ね」

魔族「殺すの・・・?」

従者「あら、殺してほしいんじゃないの?」

魔族「そうだけど・・・それはあの人にとって許せるのかなって・・・」

従者「ま、殺しはしないわ、ここら一体の生物全てにバリアを貼ってその上から超弩級の魔法で辺りを吹き飛ばすだけね」

従者「お決まりのやり方ってやつよ、優しいなぁ」

魔族「・・・」

従者「復讐なら、彼らが裁かれたあとにしなさい、まぁそうは言っても、罪を償った馬鹿共とあなたの今後の人生が釣り合うかどうかなんて、言わなくてもわかるでしょうけど」

魔族「・・・」

従者「これをあげる」

魔族「・・・ナイフ・・・?」

従者「決して人は殺せないナイフ、柔軟性のあるバリアで覆われてるからね」

従者「ただし魔除けの魔法を私がかけてる、私より強い人間なんてそうそういないでしょうから世界で2番目に安全よ」

魔族「なんでナイフなの・・・?」

従者「一番使い慣れたものが一番楽に魔法をかけられるから、・・・っと」

ゴオオオオオオオ!!!!

従者「ほらね」

魔族「・・・あ、はは・・・」

勇者「おう、遅くなった」

従者「お待ちしていました勇者様」

勇者「おう、っておい!何ナイフ持たせてんだ!」

従者「大丈夫ですよ、護身用ですし、それにこの子はそんな扱いしないでしょう」

勇者「・・・?」

魔族「・・・」

魔族「・・・ありがとう、人間さん」

魔族「・・・ごめんなさい」

勇者「・・・ん、別に何も謝られることされてねーよ」

従者「ささっと」パァァァ

魔族「・・・!」

従者「さ、これで傷は治りましたね、ついでにあなたの懸念している部分も戻しておきました」

従者「ないとは思うけど1ヶ月は襲われないようにね」ニコッ

勇者「すげーなぁ、回復魔法なんて俺使えねえわ」

魔族「・・・ありがとうございます・・・!本当に・・・!!」

従者「・・・行ってしまいましたね」

勇者「だな」

従者「私たちに出来ることはしました、あとはもうあの子の問題ですよ」

勇者「・・・」

従者「堕胎魔法なんて使う機会ないと思ってましたが、やっぱり知ってると何かと便利ですね」

勇者「・・・だな」

従者「まぁ、もう使われないことを祈るばかりですよ」

勇者「なぁ」

従者「え?」

勇者「最初に戻って悪いんだが、どうして魔王が生まれなかったのに勇者は生まれたんだろうな」

従者「またそれですか・・・」

従者「そんなこと、考えるだけ無駄ですよ」

勇者「だって俺は勇者って言うほどなにかしてる訳でもないしさ」

従者「いいえ、あなたは私にとって勇者です」

従者「光であり、道しるべであり、そして大切な人ですよ」

勇者「・・・恥ずかしいな」

従者「誇っていただきたいです、あなたが勇者としての本懐を遂げることのない今を」

従者「あなた自身を」

従者「・・・いつか本当の意味で魔族と人間が手を取り合えたなら、その時は」

従者「私たちの存在すら必要としなくなったその時は」

従者「いずれ私も、勇気を出す者として、この気持ちをお伝えします」

従者「それまで、よろしくお願いしますね」ニコッ

勇者「・・・???」

勇者「あぁ、よろしく・・・?」

おわり

ホモエンド言ってる輩は勇者が抑止力として機能していたりしたりで
被害が少なめな作風に切れたんだろうか

孤児「い、いやだ、うわああああ!」

ガシッ

老勇者「間に合わなかろうと書き換えるまでだが……間に合ったか」

魔族「なっ、テメェ?! なにをしや」ズバァ ドサッ

人間「俺らは後の災い絶ってんだよ! 邪魔すんじゃ」ザクッ ドサッ

孤児狩りリーダー「何者だ! お前は何者な」ザシュッ ドサッ

老勇者「知りたいか」

『あの日、僕は魔王に救われた』

老勇者「私は魔王」

『僕は、この力で、本物の勇者になれるのか?』

老勇者「貴様らの敵だ!!」

BRAVEMAN EPISODE ZERO『最後の魔王』

勇者「どうして、なんで、なんだよ? なんで、俺が、あんたを」

魔王「これは必然だ。お前は、その突き抜けた力で、守るべきものを、守れ」

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