ユウシャシステム (343)

うわ恥ずかしい。誘導の参考にしようとして開いたページのURLをコピーしてました
改めて

前作 マオウシステム
マオウシステム - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413562415/)
の続編です

>4 誘導用に先走っててこのスレ立ててしまっただけなので、魔法少女ダークストーカーはまだまだ続きます。
ユウシャシステムの方はスレが落ちる前には開始する予定なので、もう少しお待ち下さい。

>6 >7 保守ありがとうございます!

魔法少女ダークストーカーが一段落したので、改めてユウシャシステムの方を開始させて頂きたいと思います。

※今回はマオウシステムの時と異なり、描写は勇者視点による心の声で行われます
  (魔法少女ダークストーカーと同じ形式です)

進行速度は まったりです。

●あらすじ

魔王と戦う事を宿命付けられた者…勇者

しかしその宿命は、マオウシステムという名の…人間の集団深層意識に作られたシステムだった。

マオウシステムを巡り様々な思惑が渦を巻く中、勇者は遂にマオウシステムの破壊を決意する。

勇者は覇者となり、全ての人間と魔族に己の思いを告げ…遂にはその存在を揺るがし、一矢報いる事となる。

だが…全ての人間の変革を促す事は敵わず、勇者はマオウシステムに敗れ去ってしまった。

そして………


光りの海の中で、ナビゲーションシステムと名乗る存在に導かれる勇者。

力を保持したまま再び冒険を始める「つよくてニューゲーム」を行う事となった。

●序章 ―つよくてニューゲーム―


―勇者の自室―

??「お兄ちゃん起きて、今日は村のお祭りの日だよ。競牛でぬいぐるみを取って来てくれるって約束でしょ?」

俺を呼ぶ声が聞こえる。

俺はその声に促されるまま体を起こす。

勇者「………」

??「やっと起きた…遅いよお兄ちゃん、何?また変な夢でも見てたの?」

勇者「あぁ…俺が勇者になって、エレナや色んな人達と一緒に冒険する夢だ。
   それで、夢の最後にこんな事を考えるんだ『もしかしたら…この世界は誰かの見ている夢で、本当は俺なんて存在していないんじゃないのか』ってな」

??「何それ?変な夢…」

勇者「だろうな、自分でもそう思……………ん?」

??「どうしたの?」


勇者「いや待て、お前は誰だ?」

??「何言ってるの?自分の妹の事忘れちゃったの?ぷんぷん!」

勇者「いや、俺には妹なんて居な……はっ…………」


勇者「まさかお前…ナビゲーションシステムか!?」

??「よく気付いた、さすがは勇者。ただその名では長いので、ナビと省略して呼んで欲しい」

勇者「成る程………やはりあれは夢では無かったという事なんだな。前回と違い、頭の中にお前の声が響いて来なかった物だから油断していた」

そう…前回は目覚めと共に勇者に覚醒し、こいつの声が聞こえるようになって…それで勇者になった事を理解したんだ

だが今回は、まさかの……

ナビ「ちなみに…勇者の見た夢は、夢であって夢では無い。前回の記憶を夢として勇者の記憶に刻み込んだ物」

勇者「成る程な…でもそれだと、結局前回の記憶は夢で…前回の世界は……」

ナビ「問題なのは、それが誰かの夢なのか否という事では無い。それが勇者の記憶であり、今の勇者が今の力で何をしたいかという事」

勇者「そうだな…違い無い。それで…ついでに聞いておきたいんだが、何でお前がこっち側に人間として存在してるんだ?しかも…俺の妹という立ち位置か?」

ナビ「正確には義理の妹。勇者の両親に拾われて、勇者と共に育った謎の美少女…という設定にしてある」

勇者「…その設定はお前の趣味なのか?」

ナビ「その通り、肯定する」

開き直られた以上、これ以上突っ込むのは難しい。話を戻すとしよう


勇者「ならシステム側である筈のお前が人間としてこちら側に存在している理由は?」

ナビ「マオウシステムと同様の方法で実体化が可能になったため」

勇者「質問を変えよう。こちら側に存在している動機は何だ?」

ナビ「その方が面白そうだったから」

勇者「……………」

あ、ダメだ。これは突っ込みきれない

ナビ「では、つよくてニューゲームにより追加された要素の説明をして行こうと思う」

勇者「………頼む」

ナビ「ではまず、勇者自身が所持しているスキルの確認を行って欲しい。確認方法は、前回と同様に目を閉じて自分の内を探れば良い」

ナビに促された通り…前回と同じく、目を閉じてスキルを確認する俺。そしてそこで幾つかの事に気付く


勇者「覇者の叫びと軌跡描く奇跡が灰色になって使えないようだが…」

ナビ「そう…その二つのスキルは条件が揃わなければ使う事が出来ない仕様となっている」

軌跡描く奇跡はともかく、覇者の叫びは…マオウシステムを倒す上での必須スキルの筈

勇者「それはつまり………また、魔王であるノーブル様を倒してスキルを取得しなければいけないという事か?」

ノビ「それが最も確実な手段…としか言う事が出来ない」

確実…か、つまり、不確実でも良いなら他に手段があるという事だろう

取り敢えずその問題は先送りにして、次の質問に移ろう

勇者「次に、この『盟友の絆』というスキルの事を聞きたいんだが…」

ナビ「それが、つよくてニューゲームにより追加された要素の一つ」

勇者「どういう効果があるんだ?」

ナビ「勇者とパーティーを組んだメンバーに…勇者特性を与え、勇者のレベルに応じたステータス増加を行う自動発動スキル」

勇者「それってつまり…」

ナビ「今の勇者程では無いが…仲間が全員、ある程度のレベルの勇者と同様の力を持った状態になる」

勇者「それって、物凄く心強いんじゃないか?」

ナビ「当然。だがマオウシステムを相手にする以上は過信は禁物」

ナビはこう言っているが、俺としては過信をせざるを得ない

勇者「それで、次に…この、セーブとロードって言うのは何なんだ?スキルとはまた別枠みたいなんだが…」

ナビ「それは勇者の意思での使用が可能になったシステムの一部」

勇者「システムの一部?……それはつまり、物凄い物なんだよな。詳しく説明してくれ」

ナビ「概要としては、つよくてニューゲームの機能制限版と考えてもらって問題無い」

勇者「どう違うんだ?」

ナビ「まず、セーブを行う必要がある。実行して欲しい」

勇者「枠が三つあるな…とりあえずここの一番上にセーブして……」

その枠の中に『●序章 ―つよくてニューゲーム―』という文字が付いた

ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」

勇者「よし…」


目の前が一瞬だけ暗転して、また元の景色に戻った

ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」

さっきと同じ事を言っているが…もう一回同じ事をするのだろうか?

とりあえず俺は、ナビの促されるままロードを行った


目の前が一瞬だけ暗転して、また元の景色に戻った

ナビ「では次にロードを実行して、そのセーブデータを選択する」

勇者「いや、同じ事を一体何回やらせるんだ?」

ナビ「………状況把握。セーブのタイミングが悪く、ループを起こしていた物と推測。しかし、これで説明が容易になった」

勇者「…これは一体、どういう事だ?」

ナビ「勇者は私が同じ事を何度も言ったように感じたのだろうけれど、実際に私がその発言を行ったのは一回のみ」

勇者「……つまり?」

ナビ「セーブによって記録された時点に、ロードによって巻き戻った。その結果、何度も同じ言葉を聞き…何度もロードを行い…」

勇者「それの繰り返しになっていた…という事か」

ナビ「もし途中で状況に疑問を抱かなければ、勇者はそのまま永遠に繰り返していた可能性が…」

勇者「いや、さすがにそれは無い」


ナビ「ともかく…それによりセーブとロードの概要は理解して貰えたと推測する」

勇者「つまりこれは……時間の逆行と、遡るまでの基点を決める事が出来るって事か?」

ナビ「肯定する」

勇者「………これは…何と言うか………いや」

時間に干渉するスキルなんて滅茶苦茶も良い所だ。このスキルの使い道は幅が大きすぎて、逆に限定して使い所を選ぶ事すら出来ない

ナビ「ただし、このスキルを使う上での注意点が幾つか存在する」

勇者「説明を頼む」

ナビ「まず、ロードをした時点で持ち越す事ができるのは勇者の記憶のみ。所持金や所持品。レベルやスキルといった物は、セーブした時点の物に戻る」

勇者「そのくらいは仕方ないな…」

ナビ「次に、マオウシステム自体はこのセーブとロードの対象外。今回マオウシステムの干渉を直に受けた物も同様」

勇者「マオウシステムは巻き戻らない…という事か」

ナビ「肯定。それ故に、マオウシステムに関わる行動を起こす際のセーブとロードは慎重に行わねばならない」

マオウシステムに関わる事以外にも使う時があるような言い方だが…まぁ、そこはあえて流しておこう

勇者「下手をすれば袋小路に迷い込む、諸刃の剣…という訳か」

ナビ「そう……そして、以上で今回追加された要素の説明を終了する。あ、後…私が実体化した事で何かしらの不具合が起きているかも知れない」


勇者「いや、最後の最後に取って付けたように言うな」


●第一章 ―新たな冒険のやり直し― に続く

●前回のあらすじ

打倒マオウシステムのため、つよくてニューゲームを行った勇者

だが、そこに立ちはだかったのはナビゲーションシステムだったはずの少女『ナビ』

ナビのボケに対して勇者は突込みが追いつかず、成す術無く叩き伏せられてしまうのだった。

●第一章 ―新たな冒険のやり直し―

―勇者の自室―

ナビ「さて…まずはどこから手を付けて行く?」

勇者「そうだな…まずは勇者として覚醒した事を、国王様に報告しに行くべきか」

ナビ「それで問題は無いと思われる。国王から勇者の認定を受けた方が、色々と行動を起こし易い」

勇者「あぁ、そうだな。それもあった」

ナビに言われて思い出す勇者認定…確かにそれも大事だが、俺には他にも思惑があった

ナビ「ただ、注意して欲しい点が一つ」

勇者「何だ?」

ナビ「言うまでも無い事だが、前回の勇者の記憶は今の世界では本来あり得ない物。下手に口を滑らせれば、思わぬ方向に流れが変わり兼ねない」

勇者「判っている。軽はずみな言動は控え、打ち明ける時は慎重を期す」

―謁見の間―

国王「おぬしが此度の勇者か」

勇者「はい」

国王「後ろの少女は何者だ?」

勇者「妹です」

国王「………」

勇者「………」

国王「では、此度の作戦についての説明を改めてさせて貰う」

勇者「いえ、存じておりますので必要ありません」

国王「む?…そうか。では次に、軍資金として」

勇者「それも必要ありません」

国王「………ふむ、大した自信のようだな。では、何か他に聞きたい事は……」

勇者「あります」

国王「では何を聞きたい?」

勇者「憎しみの象徴として魔王を作り出し、勇者にそれを継がせるか贄にすると言う……この仕組みについて」

国王「なっ…………!!!?」

ナビ「な――――――っ!?」

国王「お主…何故それを!?魔王か?魔王が先に干渉を…いや、そんな筈が無い。まさか、システムが暴走して勇者に暴露を…」

ナビ「いやいやいやいや、それは違う。暴露したのは私ではない」


勇者「国王様、続きを話すにあたり、人払いをお願いしたいのですが」

国王「いや…良い。今この場に居る者は皆、その仕組みの事を知っている」

勇者「それは知っています。人払いをお願いしたい理由はそこではありません」

国王「……よかろう。皆の者、ここは下がれ」

国王様の合図により下がる側近達。その際、見える位置には居ないがエレルの気配も感じられた。

…この時点でも既に潜り込んでいたのか

勇者「あ、エレルだけは残ってくれ。どうせ聞き耳は立てているんだろうが、一緒に居た方が話し易い」

エレル「………何で勇者さまが私の名前を知っているんですか…と言うか、性格まで把握されてる気がするんですけど…」

と言って、何も無い空間から現れるエレル。フードを深く被っていて顔は見えないが、声は間違いなくエレルだ

勇者「それも後々ついでに話す。さて、話を戻しても良いだろうか?」

エレル「はーい…」

勇者「ではまず二人に説明を。簡単に言うと…俺は未来から来た」


国王「………なにっ…?」

エレル「…はぁっ!?何言ってるんですか?未来から過去への干渉なんて、そんな事できる筈が無いでしょう!!」

勇者「だから簡単に言うと言ったんだ。実際はもう少し複雑な事情がある」

エレル「いやだからですね………いえ、このまま話の腰を折ってもいけないので続けて下さい」

勇者「すまない。では続きだが…俺の経験した世界は―――」

こうして俺は二人に前回の出来事を話した

二人とも最初は納得する事が出来ないようだったが、俺の話に信憑性を見出してからは聞き入っていた

国王「成る程…にわかには信じ難いが……しかし…」

エレル「可能性としては十分で、否定しきる事は出来ない内容ですね…しかし勇者さま、それを私達に話してどうするお積りなんですか?」

国王「うむ…その話の真偽に関わらず、儂は国王としての義務を果たす他は無いぞ」

勇者「協力して貰えるのでしたらそれに越した事はありませんが…今はただ、この事を知っておいて貰いたかっただけです」

ナビ「!?」

何も考え無しに不用意な発言をしたのか!? と言わんばかりの視線が突き刺さる

エレル「あ、じゃぁ国王さま、勇者の剣にかけてある裏技だけでも解除しておきませんか?それとも、そんな物は無いってしらを切ります?」

国王「勇者の剣に仕掛けはある…だが、それを解く訳には行かぬ」

エレル「ぇー……」

国王「全てを聞いた今となっても、この勇者の言葉が真実であるという保障はどこにも無い。そして、真実であったとしても…」

エレル「しても?」

国王「あの仕掛けは、勇者が気を違えた際の防衛線。解く訳には行かぬ」

エレル「強情ですねー…あ、私なら解除方法を編み出せるんですよね?やっておきましょうか?」

勇者「いや、良い。国王さまの言葉も心情も尤もだからな。解いて貰うにしても、そこに国王様の意思が無ければ意味が無い」


俺が勇者として覚醒したという事…それは即ち、先代の勇者エイベル様の死を意味する。

ご子息を亡くした国王様が…陥っている、その悲しみを考えれば…勇者とは言え、赤の他人の俺を信用する方が難しいだろう。


国王「…………」

エレル「甘々ですねー……」

勇者「さて、引き続き…別件で国王様にお願いがあるのですが」

国王「…何だ、申してみよ」

勇者「帝国との国境にある領地…あそこは現時点では領主不在のはずですね?」

国王「うむ、その通りだが…まさか」

勇者「はい、あの領地を私にお売り頂きたいのです。売却が無理でしたら、寄付金により領主任命という形式で構いません」

エレル「………勇者さま、何を考えてるんですか?」

ナビ「………現時点では判らない。勇者の意図が読めない」

勇者「あぁ、そうだエレル」

エレル「あ、はい。何でしょう?」

勇者「一つ―――頼み事をしておいても良いか?」

―エレナの家―

エレナ「聞いたよ勇者くん、勇者就任おめでとう。ナビちゃんも久しぶりだね、元気してた?」

言葉とは裏腹に、あまりそれを良く思っていない様子のエレナ。この辺りは前回と何ら変わりが無いのだが…それよりも

ナビ「うん、元気だったよ。エレナお姉ちゃんも元気だった?」

覚醒の朝に起こされた時もそうだが、ナビのこの豹変ぶりにはどうしても馴れない。


エレナ「それで勇者くん、今日はどうしたの?あ、もしかして…勇者くんのパーティーに私を誘いに来たとか?」

安堵半分不安半分で問いかけるエレナ…前回はエレナをパーティーに迎えたが…

勇者「いや、そういう訳では無いんだ。ただ…胸騒ぎがしてな」

今回はそれを断る。そして

此処へ来た本当の理由の方へ意識を配る


村人A「魔族だ!!魔族が攻めて来たぞーーー!!!」

家の外から上がる声。鳴り響く鐘の音。前回は、あと一歩の所で間に合う事が出来なかった…魔族の襲撃。

勇者「やはり来たか…」

―戦場となった村―

カライモン「グルル……ガァ!!…ァ……ミナ…ゴ…ロシ!!スベテ…コ……コロ…ス!!」

村を襲うのは、カライモン率いる魔王親衛隊。

要である筈の魔王は不在ながらも…奴等は、村人達に恐怖を与えるには十分過ぎる程の力を持っていた。

家屋は焼け崩れ、人々は逃げ惑う…

そんな中、予想外の事が起きた。

エレナ「させない………私が生まれ育ったこの村を、魔族なんかに!」


他者の命…いや、己の命に対してさえ冷めた視野を持っていた前回のエレナ…

だが、今思えば昔の彼女はもっと感情的だった筈

ならば、何故…何が彼女を変えたのか。その答えが今目の前にあった。

魔王親衛隊に村を滅ぼされ、勇者パーティーに加入して仇を討とうとしていたんだ。

………にも関わらず、彼女は俺のために命を擲った。

…そう


勇者「だからこそ。今回は………そんな未来にしてはいけないよな」

エレナ…そして村人達と魔王親衛隊の間に割って入る俺

エレナ「駄目………勇者くんじゃ敵わない。勇者くんは此処で…こんな所で死んじゃいけないよ!!」

カライモン「ユウ………シャ……!!? コロ……ス…ユウシャハ…!!!」

魔王親衛隊員アスモウデス「勇者か……まさかこんな所で新たな勇者に出くわすとは、魔王様に良い土産が出来たぞ」


皆が皆、勝手な事を口走る中…スキル『凍結の息吹』を使って家屋に回った火を消し去る俺

魔王親衛隊員ガープ「なっ……これは上級魔法!?なり立ての勇者が使えるような物じゃないぞ!?」

実際になり立てでは無いからな、まぁ驚くだろう。

………だが驚くのはこれからだ。

魔王親衛隊員セーレ「な…何だこれは!?身体が……身体が地面…いや、影に…飲まれ……」

魔王親衛隊員アスモウデス「ぬ、抜け出せな……っ」

魔王親衛隊員ガープ「くっ…空を飛んでも…駄目なのかっ………」

魔王親衛隊員アスモウデス「これはまさか…魔王様の………!?」

その通り。正確には先代魔王からノーブルさまが受け継いだ『貪欲なる影<アングリー・シャッテン>』というスキルらしい。


これにより親衛隊達は一掃され、残るは………カライモン一人。


エレナ「え………嘘っ…こんな高度な魔法を扱うなんて…本当に……勇者くん…なの?」

見ただけでこれが高度だと判るエレナも相当な物だろう。

勇者「その辺りの説明は後でする。今は村人達を守る事に専念してくれ」

エレナ「あ…うん、判った!」

そして再びカライモンに視線を戻す俺。カライモンの様子は、前回俺が初めて対峙した時と同様の物

そう………エイベル様の魔力と記憶を食らって狂気に満ちた物だった。


勇者「待っていろ…今開放してやるからな」


………そうして…思いのほか苦戦を強いられた後、村人達と共に迎える勝利の夜明け。

村人達は、疲労困憊ながらも早速村の復旧に取り掛かり…俺は、カライモンの遺体を村外れの倉に運んでいた。

―村外れの倉―

勇者「さて…そろそろ蘇っている頃じゃないのか?それともこう言うか?そろそろ正気に戻っている頃…と」

カライモン「ふむ………これは一体どういう事でしょう?不可解な程に私の事情をご存知のようですが」

勇者「やっといつものカライモンに戻ったか。その調子に馴れてしまったせいか、あっちの方に違和感を感じてしまったぞ」

カライモン「はて…その言葉の意図を掴む事ができませぬが………こうして私を連れて来た以上、何かしらの交渉を望まれているのでしょうか…」

勇者「話が早くて助かる。では早速本題に入るんだが――――」


カライモン「ふむ……むむ、とても信じ難い話では御座いますが…それ以上になまじ心当たりがある分、否定の方が難しい現状で御座いますね」

エレナ「本当…そんな話を聞いて、いきなり全部信じるなんて事はできないよね」

エレナ「まぁ………まだ開発中の『凍結の息吹』を使われちゃった以上、それも信じざるを得ないんだけど…」

勇者「エレナ!?何故ここに!?」

いつの間にか…いつから聞いていたのか、扉の向こう側から聞こえるエレナの声

エレナ「何故も何も…勇者くんが一人でその魔族の亡骸を倉に運んでく姿なんて、どこからどう見たって怪しいんだよ」

そう言って倉の扉を開くエレナ。そしてその背後にはナビの姿もあった。

ナビ「エレナが様子を見て来る…という形で、辛うじて村人を達を納得させて来た…そうでなければ恐らく村人全員がここに来て居た」

カライモン「!!!?」

そして…ナビを見て、今まで無い程の驚愕の表情を見せるカライモン

カライモン「貴方は…やはり……成る程。此度はそういった役割を担っておられましたか……それでは勇者様の言葉を全面的に信用する他ありませぬな」

え?何がどうなってる?いや…納得して貰えたならそれで良いのだが…どうも、自分が蚊帳の外に置かれているのは余り良い気分では無いな

エレナ「それで…勇者くん?」

勇者「な、何だ?」

エレナ「その前回の事を引き摺って、私を置いて行こうとした訳だよね?」

図星だ、相変わらずエレナは鋭い。だから…なるべくエレナにはこの話を聞かせたくなかったのだが…

ナビ「………」

ほら見た事か、人の忠告を聞かずに軽口を叩くからそうなるのだ と言わんばかりのドヤ顔をナビが向けて来る

エレナ「本当は留守番のつもりだったんだけど…こんな話をお聞いちゃった以上、自分だけ見て見ぬ振りはできないよね」

あぁやっぱり…これは不味い、止めても絶対に止まらない。無理にでもついて来る。


勇者「判った……だが、少しでも危険を感じたら退く事。これが条件だ」

エレナ「オッケー。さすがは勇者くん、物分りが良いねぇー」

前回は、散々周囲から察しが悪いと言われまくったがな。

勇者「そう言えばナビ。誰かをパーティーに加えるには、どうすれば良いんだ?」

ナビ「目を閉じて仲間の一覧を思い浮かべる。そしてその状態で目を開き、対象を仲間だと認識すれば完了」

と説明を受け、その通りに実行した

エレナ「え………うわっ、何これ!?凄い魔力を感じる…と言うか、魔力以外も何か凄い事になってる感じ……」

どうやら加入成功のようだ。スキル『盟友の絆』の効果も現れているらしい

カライモン「これはまた………ふむ、まるで全盛期に戻ったかのような昂ぶりで御座います」

あ、ついカライモンもパーティーに加えてしまったらしい。まぁ前回の最後で一緒のパーティーだったのだから仕方ないし問題も無いか。

ナビ「盟友の絆の効果…確認した」

お前もか


カライモン「しかし…私はこれからどう行動致しましょう?このまま勇者様のパーティーに寝返るのも構いませんが…」

勇者「いや、カライモンにはこのまま魔王城に帰還して貰おうと思っている」

カライモン「ふむ…では、そこから先は?」

勇者「魔王…ノーブル様に、今聞いたありのままの事を話して貰えればそれで良い。あぁ、そうだ…それと―――――」

―領主の館―

勇者「…という訳で。皆様、本日はこの館に集まって頂きありがとうございます」

帝王「んな堅苦しい挨拶は良いってーの。前回はタメ口聞いてたんだろ?ってか、名前呼びで構わねぇよ」

勇者「すまないエイジ」

ヤスカル「んなっ…いきなり……」

国王「儂に対しても敬語は不要だ。今この場所で行われるのは、国と国の問題ではなくこの世界全体の問題なのだろう?」

勇者「はい…ではそのお言葉に甘えます」


国王「それで帝王よ…お主はどこまで知っておった?本来ならば前帝王が伝えておる筈なのだが…」

帝王「聞く前に倒れられちまった。んでも安心しろ。勇者から話は聞かせて貰ったからよ」

国王「ふむ…ならば取り敢えずはよしとしておこう。ではそろそろ本題に…」


勇者「あ、いや…もう少しだけ待って欲しい。あと二人程来る予定なんだ」

国王とエレル…帝王とヤスカル…エレナとナビが席に着き、俺は立ったまま進行役を勤めている。

そして残り二つの空いた席に、皆の視線が集まった…丁度その時

??「すまない、途中で嵐に巻き込まれてね」

扉をノックする音と共に現れる来訪者。

俺はその声の主を招き入れるべく扉を開く。そしてその先には…黒いフードを被った二人組が立っていた。

国王「ふん…相変わらずだな」

国王様がそう言うと共に二人組はフードを取り、その姿を皆の前に晒した。

一人はカライモン…そして、もう一人は…

一同「…………」


ノーブル・グランティーニ…本来ならば人類全ての敵とされている魔王である。

帝王「話しにゃぁ聞いてたが……成る程、本当に勇者ノーブルが魔王だったんだな……」

ヤス「あ、あれ?何ですかこのメンバー。あっしが、こんな場所に居て良いんッスか!?」

今回のヤスは語調が戻るのが早いな。

エレナ「………」

国王「…………」

魔王「やぁ、久しぶりだね。兄さん」

国王「…儂からすれば、お前の姿は記憶と一切変わらん。時の流れを感じる余地さえ無いわ」

勇者「えっ」

いや、さりげなく新事実を明かさないでくれ。ノーブル様が国王様の弟?そんな事、前回は聞いて…あぁ、そもそも二人が顔を合わせる事が無かったんだ

魔王「未来から来た勇者君でも、さすがにこの事は知らなかったようだね」

看破されている

国王「儂の…王家の本筋以外の血族は、その身分を伏せねばならぬ仕来りだったからな。それより、これで揃ったのならば話を進めては貰えぬか?」

勇者「あ…はい。それでは聞いて貰いたいと思う…俺の…打倒マオウシステムの計画を――――」

帝王「人間の集団深層意識…マオウシステムの打倒……か。可能性が無い訳でも無いのは聞いてて判ったが、それを成功させられる確率はどのくらいなんだ?」

勇者「まだ判らない」

帝王「んじゃ、帝国は全面的な協力をする訳にゃぁいかねぇな。ってーかそもそもよぉ…マオウシステムってのは、危険を冒してでも倒さなけりゃいけねぇのか?」

魔王「私も帝王…エイジくんの意見に賛成だね。魔族とは言え一国の主である以上、軽はずみにリスクは侵せない」

国王「その通り…誰かが勇者となり、その勇者が犠牲になる事は儂も遺憾に思う…が、それは勇者のみに限られた事では無い」

帝王「そう………国を抱えて行く以上、誰かを生かすために誰かを犠牲にするってのは避けて通れねぇ道なんだ」

カライモン「私個人…いえ、個魔としては勇者様の計画に賛同致したいのですが…やはり魔王様の意思に反する事は出来ませぬ故…」

エレル「私は勇者さまの計画に賛同ですねー。そのシステム自体が気に入りません」

エレナ「私も勇者くんに賛同だね。各国の王様達から見れば無責任かも知れ無いけど…やっぱり勇者くんを犠牲にするのは間違ってると思うから」


ナビ「…こうなる事は判っていた」

ふと…唐突にナビが口を開く

ナビ「今の人類は、マオウシステムに依存し切っている……それは何故か?その方が楽だから、その方が都合が良いから」

ナビ「国民を盾にして反論を遮り…自分が本当にやりたい事さえも偽って、無理矢理に納得させているだけ」


ナビ「………お前達は……ただの臆病者だ!!」


普段のナビからは想像も出来ない程に感情的な声。その場に居た誰もがその様相に釘付けになる。

帝王「ん…………のっ!!!手前ぇに何が判る!!」

魔王「私は否定しないよ…私は臆病だからこそ魔王になってしまったんだ。けれど…君達にならそれだけの勇気があるのかい?」

ナビ「ある」

魔王「面白いね…ならば証明して貰おう。猶予は…そうだね、三ヶ月。もしそれまでに証明できなければ…マオウシステムの有用性を示すために……」

国王「…まさか…!」

魔王「そう…魔族による、人類の大虐殺を行う。勿論滅ぼしはしないけど…どれだけの命が失われるか判らないね」

帝王「んの……っ…!!」

魔王「さて、では私達はこのタイミングで退散させて頂くとしよう。 …カライモン」

カライモン「はっ…畏まりました」

そう言い残し、影の中へと消えるノーブル様とカライモン。

あの魔法…貪欲な影は転移魔法ではなく単なる潜航魔法…足止めする事も可能だが…今それをした所でどうしようも無い

くっ…非常に不味い…ノーブル様の宣告により、この場の緊張感はただならぬ物になっている。

ナビ「大丈夫、問題は無い」

そんな中、沈黙を破ったのはナビだった

ナビ「条件付きながらも、魔王は協力を申し出てくれた」

帝王「…………はぁっ!?手前ぇは何を言ってんだ!?どこをどう………」

ヤス「あ…っ」

帝王「ん?…そうか……つまり…逆を言えば、三ヶ月以内に勇気を証明できりゃぁ、勇者に賛同してくれるってー事か?」

ナビ「肯定する」


国王「ふん…馬鹿馬鹿しい。儂はそんな危ない道を渡る事は出来ぬ、最悪の事態に備えるのみだ」

エレル「星天の柱を使う気ですね…」

国王「お前は反対のようだな」

エレル「いえ、とりあえず星天の柱を起動させる所までは賛成しておきますよ。第一あれは、勇者―――」

国王「そこまでだ。協力するのならば共に来い」

エレル「はーい…それじゃ転移しますから、身を屈めて下さいねー。あ、勇者さま、今日の所はこれでー…」

そう言いながら転移により消え去る国王様とエレル。

残されたメンバーの視線は、自然と…残った王、帝王エイジの元へと集まり


ヤス「帝王様…乗せられちゃったみたいッスね…」

帝王「はぁ!?」

ナビ「計画通り」

帝王「なっ…一体どーいう…」

勇者「何と言うか…」

エレナ「帝王さんって…本当、勇者くんの話しで聞いた通りの人なんだね。私から説明しようか?」

帝王「くっ……頼む」

エレナ「まずあの場の状況から。一見すると王様達全員が難色を見せていたように感じたよね?」

帝王「そりゃそうだ。ってーか、実際渋ってたぞ」

エレナ「そこでナビちゃんが王様達を叱咤罵倒…痛い所を突かれた王様達は、そこで逆上…したように見えたでしょ?」

帝王「見えたじゃなくて、実際に俺は逆上してたぞ」

エレナ「帝王さんはね。ただ、図星を突かれたって事は…本心では勇者くんの助けになりたかったって事なんだよね。ありがとう」

帝王「るせぇ…いいから話を戻せや…」

エレナ「そこで、魔王さまは一芝居……あ、違うかな。この場合は…一博打打つ事にしたんだよ」

帝王「何でそこで言い間違えんだよ」

エレナ「どっちでもある状況だったからね。魔王さまは魔王さまでこのシステムの事は何とかしたかった筈だし、言ってた事も間違いじゃないよ」

帝王「んじゃあ、何でそれが俺が乗せられたって事になんだよ」

エレナ「大虐殺を止めるために、勇者くんに協力するでしょ?」

帝王「そりゃぁ勿論……ぁー…………」


勇者「エイジは…目の前の戦いから決して逃げ出さない」

ナビ「加えて、敵の敵は味方として受け入れるだけの寛容さも持ち合わせている」

エレナ「そして…勇者くんの話からそれを知っていた魔王さまは、帝王さんの性格を読んだ上であんな宣告を行った…という事なんだよ」

勇者「マオウシステムを倒そうという問題で、マオウシステムに乗るのは癪だがな…」


帝王「くそっ…褒められんのか貶されてんかどっちだよ」

ヤス「褒められてると思っておいた方がお得ッスよ……」

帝王「あー…くそっ!こうなったらとことんやってやろうじゃねぇか!手前ぇら、俺を引き込んだからには半端は許さねぇぞ!」

エレナ「途中で結構ヒヤヒヤしたけど、何とかなったね…」

勇者「あぁ…皆のお陰だ」

ナビ「とは言え…まだ問題は残っている。三ヶ月以内に勇気の証明を行わねば、人類の大虐殺が起こる事…そして、残る公国…皇国…合衆国の説得」

勇者「そうだな…各国の賛同の件は、これから向かうとして…勇気の証明に関しては大丈夫なんだろうな?」

ナビ「何を言っている?」

勇者「えっ……いや、あれだけ自信たっぷりに啖呵を切っていたじゃないか。あれは…」

ナビ「任せた」

勇者「えっ」

……………何も考えていなかったのか。それとも、考える必要も無い程に信頼さえれていたのか…まぁ、ともかく

勇者「雲を掴むような話だが…やるしか無いか。証明する方法が見付からないだけで、勇気ならば持っているからな」

そう言い切り、決心をしたその瞬間……館中に奇声が響き渡った

帝王「なんじゃぁこりゃぁぁぁぁ!?!!?」

ヤスカル「あ、あっしも…えぇぇ、何っすかこれ!?」


…どうやらエイジとヤスカルも、いつの間にかパーティーに加えてしまっていたらしい。


●第二章 ―あの人は今― に続く

●あらすじ

国王、帝王、魔王を交えた三カ国会議を開催した勇者。

だがその会議は難航を極め、座礁しかけた…その瞬間。

「臆病者!!」と響き渡るナビの罵倒。

それに憤慨した魔王は…三ヶ月以内に勇気の証明を要求。出来なければ大虐殺を行うと宣言

その結果、なし崩しに帝王の助力を得る事に成功するのだが…

●第二章 ―あの人は今―


―領主の屋敷―

帝王「ってー訳で、こいつが例のカインだ」

カイン「例のって何さ。て言うか、何で僕がこんな所に連れて来られなけりゃいけない訳?」

ヤス「この…帝王さま直々のご命令を一体何だと」

カイン「ヤスは良いから黙ってて」


事の始まりは、帝王からの伝令…以前より捜索を頼んでおいたカインの所在、それが明らかになったとの知らせを聞いた事だ。

前回は国境で生死を賭けた戦いを行い。星天の柱においては、敵の足止めを買って出てくれた存在。

………だが、それ以上に気になる事があり…今日この場に呼ぶ流れとなった。


エレナ「ふぅん…君がカインちゃんなんだね」

当然ながら、国境で見えた時よりもその容姿は幼く…およそ10…いや、9歳程度。ちゃん付けをされてもおかしくは無い年齢なのだろうが……

その顔は明らかに引き攣っている。

勇者「エレナ…まぁ何だ、カインも子供扱いされるのを嫌がるような多感な年齢かも知れないだろうし…」

カイン「ハハ…ハハハハ。嫌だなぁ、べ、別に気にしてなんか居ない…さ…と言うか、アンタもアンタで、人の名前を軽々しく呼ばないでくれるかなぁ!?」

あぁ…何と言うか泥沼だ。


帝王「んで……コイツをどうするつもりなんだ?勇者に覚醒する可能性があるとは言え、今はただのガキだぜ?」

カイン「ガキじゃない!!」

勇者「それに関しては道々説明しよう。とりあえず、外に馬車を用意してあるから…それで王宮まで―――」

そう促そうとしたまさにその時…

窓の外から突き刺さる閃光、響き渡る爆音。

そう………この領地が襲撃を受けたのだ。

―国境の領地―

帝王「どういう事だ!?魔王の言ってた期限にゃぁまだ程遠いぜ!?」

勇者「いや…そもそもこれは魔族の魔法ではない」

そう…領地を襲うそれは、俺の知る魔族の攻撃とは桁違いに高い威力の魔法。


エレナ「予め結界を張っておかなかったら、危なかったよ…」

エレナの施した結界により、辛うじて防ぎきれる…それだけの威力を持った魔法だ。

それ程の魔法を使える存在は、魔王くらいしか居ない…だが、ノーブル様がこんな奇襲を仕掛けてくるとは思えない

そして何より、魔法の威力もさる事ながら…その魔法その物が、魔族の扱うそれとは異なる形式で発動しているからだ。


俺はその魔法の主を確かめるべく、屋敷の外へと飛び出した。

そして…そこに居たのは…

黒い甲冑の男「やっと出て来たか。幾ら呼び鈴を鳴らしても来ないもんだから、留守かと思ったぞ」

黒い甲冑の女「………」

見た事の無い二人組。そう…前回でも見た事の無い、謎の二人組。それも、魔王と同格かそれ以上の力を持った……


エレナ「何?あれって誰なの?勇者くん」

勇者「俺にも判らない…あんな二人組は見た事も無い」

帝王「見た感じ、魔族って訳でも無さそうだが…何かヤバい感じじゃねぇか」


黒い甲冑の女「っ…………!!」

黒い甲冑の男「ははっ…まぁその反応は予想していたが………正直悔しいな」

どういう事だ?何を言っている?何を悔しがっている?

エレナ「あの様子だと…私達の内の誰かがあの人達と面識あるって事なんだと思うよ。ねぇ…良ければ教えて貰えないかな?」

黒い甲冑の女「………教えてあげない」

女の方は小な声でそう言い切り、巨大な火球を作り始める。どうやら先程までの攻撃魔法はこの女による物らしい

黒い甲冑の男「そうだな…本人が思い出すより先に答えを言うのは、無粋という物だろう」

ではあちらの男は一体何をしてくるのだろうか…それは、考えを巡らせるよりも早く回答が行われた

勇者「そんな………馬鹿な」

帝王「おいおい…まさかあれって……」

エレナ「うん…多分………」

勇者「何故お前達がそれを持っている!」

そう…黒い甲冑の男の方が取り出した武器は……


勇者「その剣……勇者の剣を!」


紛れも無い、勇者の剣だった。

言うまでも無いが、勇者の剣は常人には扱えない…即ち、勇者にしか扱う事の出来ない剣だ

本来ならば、まだ天空山の頂上に突き刺さっている筈のそれ……

にも関わらず、今この瞬間この場所にあり…黒い甲冑の男の手に握られている。


黒い甲冑の男「これは大きなヒントになっただろう?」

勇者「どういう事だ…お前は一体誰なんだ!?」

黒い甲冑の女「まだ判らないなんて…察しの悪さは相変わらず………」

俺か?俺の知っている誰かなのか!?

だが今回、勇者として覚醒してからあんな者達と会った覚えは無い。覚醒する前ならば尚更、あんな異質な存在を忘れる筈が無い。

黒い甲冑の男「よし…時間切れだ」

勇者「何…?」

その言葉と共に黒い甲冑の男から放たれる一閃。

勇者の剣を用いて放たれたそれは、エレナの張った結界を易々と切り裂き…大地にまでその爪跡を残した。

しかし、それだけでは終わらない。結界が消滅した所で、黒い甲冑の女の方からは巨大な火球の魔法。

これはいけない…俺一人ならば耐え切れるかも知れ無いが、仲間達は…いや、仲間達が耐え切れたとしても、ここの住人が無事では済まない。

そして……もう、このタイミングであの火球を防ぐ方法は一つしか無い。


俺達の下へと迫り来る火球…俺は瞬時に大地を踏み締め、力を込める。全ての防御を捨て、光の速度で突撃するスキル―――

―――が、発動するよりも早く、事態は収束した。

俺達に向けられた炎は、その熱で皆を焦がすよりも先に……一点に…カインの下へと集まり、その暴挙を鎮められていた。

カイン「ふぅん…これがボクの勇者としての特性か………ま、悪くは無い感じかな」

何時の間にかカインをパーティーに加入していたらしい。


そして今度はその炎を開放し、炎の柱として黒い甲冑の女に向けて放つカイン。

だが寸での所で黒い甲冑の男が割って入り、勇者の剣をもってその炎を切り裂く。

黒い甲冑の女「驚いた、そんな隠し玉が居たなんて……でも、もう同じ手は…」


ナビ「待て」

黒い甲冑の男「お前は…そうか、今はそちら側に居るという訳だな」

ナビ「こちら側もそちら側も無い。今は退け」

黒い甲冑の女「何を勝手な事を…こんな絶好の機会に…」

黒い甲冑の男「いや…止めろ。機会ならまた作れば良い、今は退いておこう」

黒い甲冑の女「っ………」

俺の知らない範囲の情報で交わされる交渉…

俺はただそのやり取りを呆然と見守るしか無かった。


そしてそれが終わると、黒い甲冑の二人組は空の彼方へと飛び去って行き…

爪痕だけを残した静けさが周囲を支配した。



エレナ「何だったんだろう…あの二人組」

帝王「とんでもねぇ強さだったな……思い出してもヒヤヒヤするぜ」

カイン「そう?ボクは全然そんな事無かったけどね」

エレナ「そうそう、カインちゃんはファインプレーだったよね。ご褒美に頭を撫でてあげようー」

カイン「だから止めろって!!」


勇者「ナビ…お前はあの二人の正体を知っていたようだが…」

ナビ「あの二人は…言うなれば勇者とエレナの遺恨。正体を私の口から言う事は出来ない…知りたくば勇者自身がその正体を掴むべき」


ある意味予想通りの答えが返ってきた。


そしてその後…

辛うじて無事に残った屋敷の中で身なりを整え直し、襲撃で先送りになってしまった出発の準備を行う俺達。

先の襲撃で馬車が逃げ出したため、仕方なく帝国の馬車を借りて代用する事となる……等の騒動の後


やっとの事で、カインを連れて王宮へ向かう事となったのだった。

―謁見の間―

勇者「国王様…こちらのカインが、エイベル様のご子息。即ち、貴方の孫です」

国王「なん……と…!?」

カイン「はぁっ!?何とち狂った事言ってんのさ、帝国生まれのボクが、国王の孫な訳無いじゃん!」

勇者「その件に関しては…エイジ、解説を頼む」

帝王「俺かぁ!?…ったく、本当はこーいうのは苦手なんだがなぁ…まぁ良い、お前等ちゃんと聞けよ?」

国王「………」

カイン「………」

帝王「まぁ簡単に言やぁ…カインはエイベルの隠し子って事だわなぁ」

国王「…な…に?」

帝王「10年くらい前に、魔王討伐の名目で王国から出て…今まで思いを募らせてた帝王の姫と逢引。あ、ちなみに逢引ってーのは…」

カイン「いや、いちいち言わなくて良いから。両親のそんな話し聞きたくも無いよ」

帝王「んじゃ続き行くぜ?その事を知った当時の帝王は、そりゃぁもう激怒したみてぇだ。自分の娘を勘当して、平民にまで落としちまったんだからな」

国王「………」

帝王「ついでに言うと、勇者エイベルが逢引の際に使ってた名前がカイン……そう、母親がお前に付けた名前だ」

カイン「…」

国王「しかし解せぬ…そんな事を、エイベルは一言も……」

帝王「そりゃぁ言わねぇだろ…ってか言えねぇだろ。純血主義の王国王家に、帝国の血が混じったなんて知れたら……そう、最悪の事態も考えてたんだろーな」

国王「そんな…そんな事は………いや」

帝王「おっと、結論は今出さなくても良いぜ。とにかくエイベルはそれを恐れてたんだろ。で…今までずっと隠して来た訳だ」

カイン「いや、待ってよ。それってあくまで仮説でしょ?大体…母さんが帝国の姫だったかどうかだって、今となっては確かめようが…」

帝王「いや、あったぜ。カインん家じゃなくて、帝国にだがな」

カイン「…それって、どういう事?」

帝王「そりゃぁ………あぁ、さっき前帝王が激怒したって言ったが、ありゃぁ無しだ。多分娘の身を案じて勘当したんだろうな」

荷物の中から資料を取り出し…それを手にして訂正する帝王

カイン「え………」

帝王「いや、前帝王の命令で姫さんの所在や安否を記録してたみてーなんだが…こりゃ、俺が宣戦布告した後の話しだな」

カイン「………はぁっ!?…どういう事なのさ!」

帝王「つまりだな…前帝王は、戦いに敗れて姫さんが手篭めにされるのを恐れて平民に落とした…つまり、俺から隠したみてーな事が書かれてるんだわ」

勇者「帝王…」

エレナ「帝王さん…」

帝王「いやいやいやいや、これは前帝王が勝手に書いた事だからな?俺はそんな事しよーとして無ぇぞ!?なぁヤス?」

ヤス「………………え!? あ、えぇ……まぁ………絶対にしてたとは言い切れないッス…ね」

一同「…………」

エレナ「それにしても…良かったね、カインちゃん」

カイン「何がさ」

エレナ「カインちゃんは、皆の優しさに守られていたって事…今まで身分を隠されてたのは、皆がカインちゃんを大事に思ってたからって事だよね」

カイン「ふん………どうだか」

エレナ「どうだかねー…どうだろうねー…どうなんだろうねー……ねぇ王様?」

エレル「国のためだとか…そういうのは良いんで、とっとと自分の感情で動いちゃいましょうよ。皆も、何気いても流布したりはしないでしょう?」

突然玉座の後ろから現れるエレル。相変わらずの神出鬼没さだ

…そして、珍しく良い仕事をしたらしい


国王「………突き詰めれば…国の体制に拘った儂が招いてしまった事だ。お前はこんな儂でも許してくれるか?」

カイン「はぁ…馬鹿馬鹿しい。別に許すも何も、嫌な事をされた訳じゃ無いし。今までの境遇に不満を持った事も無いよ」

国王「だが…儂は、もし間違えていればお前を…」

カイン「あーもう、そんな事知らないっての。それじゃアンタは、現在進行形でボクを抹殺したいの?」

国王「そんな事がある物か!」

カイン「んじゃ、それでこの話しはお終い。ほら、何時までも過去に縛られてるとか止めてくれないかなぁ?そういうの格好悪いよ?…爺さん」


エレナ「国王さまとカインちゃん…無事に出会えて和解できて…本当によかったね」

勇者「あぁ…そうだな」

帝王「んじゃ…水入らずって事で、俺達お邪魔水は外まで流れてくとすっか」

ヤス「帝王さま…」

勇者「……何と言うか、そのセンスは相変わらずだな」

―帰りの馬車―

エレナ「そう言えば…あの場の空気だったから言い辛かったけど、ちゃんとお別れして来なかったね」

帝王「なぁに、別に今生の別れってって訳でも無ぇし。いずれまた会えんだろ」

ヤス「そうッスよ。またいつか…」


カイン「いや、いつかじゃ良く無いから」


ヤス「って、カイン様!?」

あ、いつの間にか様付けになっている。と言うか、カインは一体いつの間にこの馬車に?

…あぁ、エレルの転移魔法か。移動中の馬車に転移とは、また無茶な事をする


カイン「爺さんから聞いたよ。今、世界を救ったり変えようとしたりしてるんだってね?ボクもそれに連れてってよ」

勇者「…危険な旅になるぞ。第一、国王の許しを…」

カイン「あ、その事なら大丈夫…ちゃんと言って来たし。それとこれ、爺さんからの手紙」

そう言ってカインは手紙を俺に手渡し、俺はその手紙を広げる


国王からの手紙『勇者よ…この度の事はいくら礼を言っても足りぬ程感謝をしておる。』

国王からの手紙『お主の言う通り、儂はエイベルの死によりマオウシステムに執着し、大事な物を忘れて居てたようだ。』

国王からの手紙『真に勝手ながら、僅かでもお主の力になれるよう尽力させて貰おうと思う。』

国王からの手紙『ついては先ず、この鍵…星天の柱の鍵をお主に託す。これは勇者にしか使う事が出来ぬ物だ、有事が来れば力になるだろう。』

国王からの手紙『お主の…そして全ての人々の未来に、光ある事を願う』


勇者「国王様…」

俺は、星天の柱の鍵を手に入れた。

―帰路の森の中―

勇者「ん?カインはどこに行った」

エレナ「カインちゃんなら、汗かいたって言って水浴びに行ったよ」

帝王「ぁー…そーいやぁ、あの襲撃のせいで風呂に入り損ねちまってたしなぁ…」

と言ってこの場を去る帝王

勇者「エレナは良いのか?」

エレナ「私はあんまり汗かかない方だから、別に良いかな。あ…何?勇者くん、覗きたいの?」

勇者「違う!」

エレナ「ムキになって否定する所がまた怪しいんだよねー…」

勇者「…もう良い。俺も水浴びに行ってくる」

エレナ「…ってチョイ待ち。どこに行くつもり?」

勇者「どこも何も…水浴びと言っただろう?先にカインとエイジが居るだろうし…」

エレナ「………え?ちょっと待って。カインちゃんと一緒に水浴びするつもりだったの!?」

勇者「ど…どうした?男同士の裸の付き合いくらい、別に変な事でも無いだろ?」


エレナ「…勇者くん。それ本気で言ってる?」

勇者「本気も何も…例えば銭湯にしたって、芋洗い状態なのはエレナだって知ってるだろ?」


エレナ「そっちの事じゃなくて………カインちゃんの事。男だと思ってたの?」

勇者「…え?」


俺が疑問符を浮かべたその直後………突如、背後の川から立ち登る巨大な火柱。

予期せぬ事態に目を向ける俺とエレナ…

更にその中から現れたマグマの柱が、まるで龍のような動きで大きくうねり…大きく口を広げ牙を剥く。

そして……


その頭の先に見えるのは、手拭一丁の帝王。

あぁ、そういう事か……さすがにこれは…察しの悪い俺でも、オチの判る話だった。

―帰りの馬車―

カイン「あーもう!本っ当!信じられない!!!」

帝王「しょうがねぇだろ!前帝王の記録にゃぁ、お前が女だなんて書いてなかったんだからよぉ!」

エレナ「もし書いたら手篭めにされるって、心配して書かなかったんだよ……きっと」

帝王「しーねーっての!ってか、カインってどう考えても男の名前じゃねぇか」

カイン「あ、それは偽名だしね」

帝王「はぁっ!?」

カイン「身を隠して生きてた事くらいは流石に気付いてたからね。母さんが付けた偽名だからそのまま使ってたんだよ」

あぁ本当だ、パーティーメニューには本名が書いてある。


エレナ「それにしたって…見れば女の子だって気付くと思うんだけどなぁ」

耳が痛い…すまない、俺も気付かなかった

エレナ「国王様に紹介する時にしたって、ご息女じゃなくてご子息とか言ってたし…うん、あれって誤用じゃなくて素だったんだね……」

反論の言葉も無い。

帝王「いや、そもそもだな…そんな凹凸も無い身体で女だって判れって方が無理だろ!?」

そうだよな、全くもって同意見だ。だが…それは決して口には出さないでおこう。


そう、今まさに…カインからガチンという固い心の音が聞こえてきた所だ


カイン「……へぇー…ふぅん………あぁそぅ…そういう事言っちゃうんだ……       今に見てなよ」

ただならぬ殺気…これは前回国境での戦闘で感じたよりも明らかに膨大で鋭い物。この殺気が自分に向けられたら…そう想像するだけでも寒気が走る。


エイジよ………骨は拾ってやるぞ。


●第三章 ―それは二人の問題― に続く

●あらすじ

帝王の助力によりカインと再会した勇者。

しかし、ついでとばかりにそこに現れたのは黒い甲冑の二人組。

カインとナビの助力により事無きを得るが、それは本当の戦いの前奏でしか無かった。

カインを国王の下に連れて行き、孫だと明かしたその帰り道…

帝王のラッキースケベによりカインが女性だと言う事を知る勇者一向。

だが、その代償として帝王の命は今風前の灯となってしまったのだった…

●第三章 ―それは二人の問題―

―帰りの馬車―

勇者「エイジ…惜しい奴を亡くした」

エレナ「うん…スケベだったけど、根は良い人だったのにね…」

帝王「死んでねぇよ!勝手に殺すな!」

勇者「しかし…時間の問題だろう?」

帝王「死の宣告すんな!勇者が言うと洒落にならねぇんだよ!」

ヤス「と言うか今更ッスけど…帝王様、カイン様のあれを食らってよく生きてられましたね…」


ナビ「それは恐らく、帝王の勇者特性による物」

帝王「うぉっ!?ビビッた…お前居たのか…」

エレナ「二人組の襲撃以来、ずっと喋って無かったもんね…」

正直俺も忘れていた。

勇者「ところで…その勇者特性とやらは一体何なんだ?」

帝王「勇者がそれを聞くのかよ…いや、俺も聞きてぇ所だったんだが」

ナビ「読んで字の如く…勇者となった時、顕著に現れる特性の事。そう、判り易い例を挙げるのならば…」

と言ってカインを指差すナビ

ナビ「カインの勇者特性は、大地と火炎の加護…最も得意とするのは溶岩の操作」

カイン「みたいだね」

帝王「成る程なぁ……んで、問題の俺の勇者特性ってのは何なんだ?」


ナビ「しぶとさ」

帝王「おい!!」


帝王「せめて頑強さとか、鉄壁だとか他に言葉があんだろ!?」

ナビ「それは適切ではない。防御力に変化が無い以上、しぶとさとしか言いようが無い」

一同「………っ…」

帝王「おい手前ぇら!笑い堪えてんじゃねぇよ!」

ヤス「じゃぁ…その勇者特性って言うのはあっしにもあるんッスか?」

ナビ「当然ある。ヤスの勇者特性は、スカウト…脚が早くなり、器用さが増加。加えて気配を消し易くなっている筈」

帝王「……何だその実用性ありまくりの特性。俺のと大違いじゃねぇか」

エイジの肩を叩く俺

エレナ「じゃぁ私の特性は、魔法マスターって所かな?何か思い通りの魔法を作って使えるみたいだし」

ナビ「その通り。ちなみに…勇者はパーティーメンバーの特性を各ステータスメニューで見られる」

あ、本当だ。

…………と言うか俺の勇者特性……何だこれは

―帰路の森―

エレナ「あ…ちょっと馬車止めて!!」

そして唐突に声を上げるエレナ。ヤスは慌てて馬車を止め、エレナの方を見る

ヤス「一体どうしたんッスか?」

エレナ「何かこの辺りから魔力を感じる…それも、大分弱ってる感じ」

いつの間にそんな魔法を覚え…いや、作ったんだろうか。心強い反面、ちょっと底知れない物があるぞ

勇者「よし…行ってみるか。ヤスは馬車を頼む」

ヤス「了解しましたッス」

そして森の奥へと進む俺達。エレナを先頭に獣道を歩き…湖の近くまで辿り着く


エレナ「あ、あそこだよ」

指差された場所に居たのは、どこかで見た顔………

そうだ…前回の魔王城で星天の柱の攻撃を受けた時、生き残った連合軍の兵士だ

そしてその腕の中で、力無くうな垂れているのは………魔族の女だ

帝王「この組み合わせ…普通に見りゃぁ、襲ってきた魔族を返り討ちにしたってー所なんだろーが…」

エレナ「どうもそう言う状況って訳じゃ無さそうだね」


俺達に気付き、兵士が刃を向けて来る。

そこに瀕死の魔族が居て、同じ人間である俺達に刃を向ける…可能性として高いのは、魔族に操られての行動…なのだろうが

勇者「待て、俺達は敵じゃない。まずは話を聞かせてくれ」

兵士「黙れ!そうやってまた彼女を罠に嵌めるつもりだろう!!」

どうやら低い可能性の方のようだ…となると、この流れは…

エレナ「黙るつもりは無いよ。信用できないならただ聞いてくれるだけで良いんだけど…もしかしたらそこの女性。カライモンさんの姪っ子じゃない?」

魔族の女「……!?…っ………な、何故…それを………?」

先にエレナに言われた。まぁ良い、そうなれば話は早い

勇者「話せば長くなるんだが…俺達は勇者パーティーだ、そしてカライモンはそのメンバーであり友人でもある」

兵士「………はぁっ!?」

魔族の女「………え?……ぇ…?」

エレナ「勇者くん………そこは端折っちゃダメだと思うよ…」

ナビ「明らかに相手を混乱させてしまっている」

勇者「……………」


とても気まずい。こうなったらどうするか…よし、とりあえず敵意が無い事を示すためにも、彼女の傷を治してしておこう。

俺は兵士の隙を見て、魔族の女に回復の秘術を使った

魔族の女「え……何?嘘…あれだけの傷が一瞬で…?」

兵士「な…何をした!?」

駄目か…また混乱を煽ってしまったようだ

エレナ「勇者くん…本当こういう不測の事態に弱いよね。前回の私の死ってあんまり役に立たなかったのかな…」

面目無い

帝王「あー…ってかよぉ、勇者の事はまだ知らないとしてだ。俺の顔くれーは判んだろ?」

兵士「え?……あ、貴方は。帝国の……帝王!?な、何でこんな所に」

帝王「それを納得してくれるってんなら話は早ぇな。こいつは勇者で、さっき言った事も全部本当だ…ってかこんな状況じゃ落ち着いて話しも出来ねぇか」

エレナ「私達の馬車に来て貰おうよ」

勇者「そうしよう」

兵士「………」

帝王「そう警戒すんな。ここは帝王の名と名誉にかけてお前等に危害を加えねぇと誓うぜ」

兵士「判りました…その言葉、信じます」

意外とこういう時のエイジはまともに帝王をしているようだ…ここの所急下降していた株も上昇したぞ

―帰りの馬車―

兵士「知らぬ事とは言え、本当に失礼しました!!」

勇者「いや、良いんだ」

エレナ「そうそう、勇者くんが話しをややこしくしちゃったのが原因だからね。で…どうしてあんな状況になってたのか聞いても良いかな?」

兵士「はい…それは…」

そうして語り始める兵士

兵士「まず事の始まりは、公国内に魔族が侵入したとの通報があった事です」

兵士「そこで私はいつものように巡回を行い……」

魔族の女「私は、そこで彼に見付かりました」

兵士「となれば当然…最悪、戦闘も已む無し…と覚悟を決めていたのですが。その………彼女に一目惚れしてしまいまして」

勇者パーティー一同「……………」

魔族の女「私の方も…本当は、公国にしか生えない珍しい薬草を摘みに来ただけの所を彼に発見され……一目惚れしてしまいました」


エレナ「それで…あんな怪我をしていた理由は?」

兵士「………私と彼女が出会ったすぐ後…他の兵士達に見付かってしまったんです」

魔族の女「そしてその兵士から逃げる道中…この方が村人を説得して、匿って貰っていたのですが……」

兵士「その村人に売られました」

勇者「………」

兵士「俺と彼女に襲い来る、かつての仲間達。その猛攻により彼女は深い傷を負い…」

帝王「命辛々、国境を超えて王国の森まで逃げてきた…って事か」

兵士「はい、その通りです」

エレナ「そうか…彼の今の立場は脱走兵なんだね。こうなって来ると、中々難しいと言うか…」

帝王「帝国としても、さすがに今の状態で魔族と脱走兵を匿う訳には行かねぇからなぁ…」

兵士「いえ…その辺りはお気持ちだけで十分です。彼女と逃げると決めたその時から、元より安住に未練はありません」


勇者「あぁ、その件なんだが…ちょっと良いだろうか?」

兵士「何でしょうか?」

勇者「行く宛が無いなら、俺の領地に来ないか?」

帝王・カイン・ヤス「はぁっ!?」

エレナ「あ、うん…それ結構良い考えかも」

帝王「な…いや、そりゃぁいくら何でも…」

エレナ「さすがに魔族って事と逃亡者って事は、外部には黙っていて貰う事になるけど…」

勇者「逆を言えば、外部にさえ漏らさなければ…内部から外部に漏れる事は無い。その点は保障する」

エレナ「もし万が一漏れたとしても、その時はもみ消せるだけの手段はあるし…地理的にもかなり良いと思うんだよ」

帝王「あぁ、そうか。あそこは帝国と王国の国境…下手に手を出せば両国を敵に回す事になるから…」

エレナ「そう、公国は迂闊に近寄る事すら出来ない」

ヤス「それならあれッスよね。ついでに……公国からの侵入者、魔族と一緒に居た怪しい侵入者を勇者様が始末した…って事にすれば」

帝王「それだっ!!そうすりゃ公国の奴等、口も出しては来れねぇだろ!」

兵士「しかし…遺体の返還を求められたりでもしたら…」

カイン「灰でも送り付けてやれば良いんじゃない?消し炭にしちゃったって事にしてさ…」

怪しい笑顔を浮べながら言うな。

エレナ「うぅん、むしろ向こうがそう言って来たならチャンスだよ。何故欲しがるのか、何か隠蔽したいんじゃないか…と、あらぬ噂を立てる口実になるからね」


何とまぁ悪だくみに長けたメンバーだろう…皆が敵でなくて本当に良かったと思う。

魔族の女「え……では…」

兵士「と言う事は………勇者様のお言葉に甘えても…」

勇者「良いに決まっている」

エレナ「むしろ、甘えて欲しいってこっちからお願いする所だよ」

帝王「何だそりゃ」


こうして兵士と魔族の女…カライモンの姪の移住が決まった。

エレナ「うん…非公式だけど、国王様の承認も貰えたよ。もし他所に知られるような事があったら、魔王討伐のための勇者の作戦って事にするって」

勇者「手回しが早いな……と言うか、それがエレルとの文通魔法か」

エレナ「あぁ、勇者くんはまだ実物を見た事が無かったんだっけ…」


カイン「あ、そうだ。話しの腰を折って悪いんだけどさ」

エレナ「ん?何かな?」

カイン「そもそも何で人間が魔族を恨んでるかってので思い出してたんだけど…魔族ってさ、人間に対する悪意を植え付けられてるんじゃなかったっけ?」

帝王「………そーいやぁそうだよな」

カイン「前回はその悪意をエレルが抜き取って結晶化させたから、途中から争いが無くなっただけで…」

勇者「今の彼女には、その悪意がある…そう言いたいんだな?」


ナビ「当然ある…しかし、ここは本人の口から聞くのが一番」


魔族の女「はい…ナビさんの言う通り、私の中には人間に対する悪意が今も渦巻いています。ですが………それ以上に。彼への愛が溢れて仕方が無いんです!」

帝王・ヤスカル・カイン「………」

エレル「うんうん、愛の力は偉大だよねえ。勇者じゃ無くったって、これだけの奇跡を起こせるんだから」


帝王「やべぇ…俺ついて行けねぇ」

ヤス「あっしもッスよ…」

カイン「……………」


ナビ「そう言えば、質問を一つ…お互いに一目惚れをした時、何かきっかけになる様な物を感じた覚えは?」

兵士「え…何故その事を?」

魔族の女「そうですね…何と言いますか……こう」

兵士「以前…どこかで彼女に出会った事があるような………そう、立場は逆なんですが、前にもこういう事があったような…」

魔族の女「はい…私もどこかで彼に会ったような気がして………」


勇者「……………」

ナビ「確認完了。返答に感謝する」

勇者「愛の奇跡には間違いは無いが……愛の奇跡だけという訳でもない…そう言う事なんだな?」

他の皆には聞こえないよう、小声でナビに問う俺。

ナビ「………」

ナビは否定も肯定も行わず、ただ沈黙を保っていた。


そして………それを問い質す暇も無く、次の難関が俺達を待ち構えていた

>73 宜しければこちらをお先にどうぞ(一周目 マオウシステム)
マオウシステム - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1413/14135/1413562415.html)

―勇者の領地入り口―

勇者「………」

エレナ「………」

カイン「………」

帝王「………」

ヤス「………本当、何なんッスかね…あいつ等」

我慢出来ずに口火を切ったのはヤスだった。

馬車を走らせ、今まさに領地へと踏み込もうとした俺達の前に現れたのは…そう、黒い甲冑の二人組。

黙したまま俺達の前に立ち憚り、行く手を阻む。

そして俺達は馬車を止め、パーティーメンバーは馬車の外外へと下り立った。


エレナ「貴方達は何者なのかな?どうして勇者くん達を付け狙うの?」

黒い甲冑の女「まるで自分が標的では無いような物言い…まぁ、その記憶が無いのだから仕方ないけど」

黒い甲冑の男「その点を言えば…記憶があっても尚気付かないそこの勇者はもっと問題だな」

勇者「…随分な物言いだな。気付いて欲しいのならば、二人共その仮面を取ったらどうだ」


黒い甲冑の男「自分の無力を棚に上げ、他人からの答えを求めるな。せめて…お互いの剣を交えて答えを見出せ」

勇者「良いだろう…その勝負、受けよう」


エレナ「っていう流れになるって事は…」

黒い甲冑の女「そう…貴方の相手は私」


カイン「………何か面倒臭い事やってるよね…はぁ、もうボクが出て片付けちゃっても良いかな?」

帝王「止めとけ。どうやらあいつ等の問題みてぇだ、口も手も出すだけ野暮って物だぜ」

カイン「そういう物なのかなぁ…」

黒い甲冑の男「では……行くぞ!」

勇者「……来い!」

黒い甲冑の男…その男が手にした勇者の剣から繰り出された一撃は…剣圧だけで周囲の木々を薙ぎ倒し、空気を震撼させる。

エレナと黒い甲冑の女の戦闘に至っては……魔法の応酬を行っているとしか表現出来ない。

あえて付け加えるならば…エレナの放った魔法は予め読まれていたかのように、飲み込まれて瞬時にかき消され

逆に黒い甲冑の女の魔法は、エレナが即座に解析して対応しているように見える。


黒い甲冑の男「戦闘中に余所見とは…余裕だな」

勇者「―――!!」

反論の余地も無い。余所見をしている間にこの男の一撃が振るわれ、俺はそれを辛うじて防御するが…

受けた剣にはヒビが入り……いや、もたない。ヒビが入った次の瞬間には、折れて砕けてしまった。

こうなってしまっては戦法を変えざるを得ない。俺は男の懐まで一気に踏み込み、魔法『閃光の連弾』を使った

黒い甲冑の男「なっ……に!?」

男の腹部で幾重にも放たれ弾ける光の弾。さすがにこの攻撃は予想していなかったようで、十分なダメージが見て取れる。

黒い甲冑の男「……くっ、中々やるな」

勇者「お前の方こそ…その剣術………」

そしてここで脳裏に走る違和感。黒い甲冑の男の剣捌きに感じる既視感。

相手の主張を肯定するその感覚に、思わず手が止まり…

黒い甲冑の男「隙有り…!!」

男の攻撃が直撃。俺は鎧の胸部を打ち砕かれ。その身で地面を抉りながら吹き飛ばされる。

エレナ「勇者くん!!」

そして更には、俺の失態が生んだエレナの危機。意識を此方に向けた隙に、黒い甲冑の女から放たれる魔法。

空に描かれた円の中心から光りが降り注ぎ、エレナの障壁を次々に削り取って行き……

ついには宙へと弾き飛ばされるエレナ。俺は辛うじてそのエレナ受け止め、二人組を見据える


黒い甲冑の男「さて…これ以上のヒントを与えるつもりは無い」

黒い甲冑の女「そして、貴方達の死に場所もここでは無い」

勇者「くっ………どういう事だ」

黒い甲冑の女「最高の死に場所を用意したから…」

エレナ「………それは一体どこなのかな?」

黒い甲冑の男「勇者の剣が眠っていた地…天空山。そこで最後の決着を付けよう」

勇者「………良いだろう」

黒い甲冑の男「では決まりだな…日時は今日より七日後。日暮れと共に始めよう」

勇者「………心得た」

二人組の正体は未だに判らない…だが、ほんの僅かに見えた糸口。

その糸口をどう掴むのか…それが恐らくはこの戦いの鍵となるのだろう。

カイン「あのさ…ナビ。ちょっと確認したいんだけど」

ナビ「質問を許可する」

カイン「あいつらの正体とかは判んないんだけどさ。あいつらってもしかして………―――」

ナビ「その推測の通り…ただし他言は無用」

カイン「あぁ…やっぱりねぇ………大丈夫、こんな事馬鹿馬鹿し過ぎて言う気にもなれないって」

―天空山―

エレナ「わぁ…ここが天空山かぁー…山の上に更にもう一つ山が浮いてるなんて凄いねえ」

帝王「お前は勇者と一緒に来た事があるんじゃねぇのか?」

エレナ「それは前回の私…でもないか。前回の私はここに来る前に死んじゃったみたいだから、どの道ここに来るのは初めてだよ。ね?勇者くん」

勇者「あぁ……前回はここに向かう途中…いや、ここに辿り着く正にその直前に魔王軍の攻撃を受け…」

帝王「あー………これから決戦って時に湿っぽい話は止めにしようぜ。今は生きてんだから良いじゃねぇか」

エレナ「そうそう。折角今を生きてるんだから、この命を無くさないように頑張らないと」

ヤス「とか言ってる内に…あちらさんも来たみたいッスよ」

夕日を背に現れる黒い甲冑の二人組。決戦の時は近い。

俺とエレナは互いの獲物を構え、黒い甲冑の二人を組を見据える


黒い甲冑の男「さて…遂に今この時この瞬間まで俺達の正体に気付けなかったようだな」

黒い甲冑の女「………」


勇者「焦る事は無い…まだまだ時間はある。そうだろう?」

黒い甲冑の男「…そうだな。確かに…この戦いが終わるまでは刻限では無いな」


エレナ「私としては推測が幾つかあるんだけど…情報を出し惜しみする物だから、どれが正解なのか確信が持てないんだよ」

黒い甲冑の女「私としては…別にそのどれにも確信を持ってくれなくても良い。そう…ただ死んでくれれば」

…物騒な事ばかり言う女…だが、向けられる殺意は今までの非では無い。何か信念の篭った…目的を果たす前のような……

いや…そもそも、黒い甲冑の男と黒い甲冑の女は、目的に食い違いがある…そんな感じがした。

が………それを深く詮索している余裕は無さそうだ。

男は勇者の剣を両手で構え、俺を射抜くように見据える……それが仮面の向う側からでも判る。

対して俺は鋼の剣を片手で構え…最初から全力で行く。魔法『加速の時計』を使い、自らの行動を速めた上での…『力溜め』

そして………剣戟一閃!!

黒い甲冑の男「なっ………!!!?」

空振り…では無い。大気ごとその場を斬り裂き、間合いの外から男に斬りかかる。

男はそれを勇者の剣で受け止め、足場に大きな裂け目を作り出す。

そして更に俺からの追撃。

今度は一気に間合いを詰め…打ち上げの一撃

男の体は大きく弧を描いて吹き飛び、岩肌に激突……するかに見えたが、寸での所で停止した。

黒い甲冑の男「すまない…助かった」

黒い甲冑の女「気にしないで…それよりも、気を付けて」

エレナ「一対一の二回戦じゃなくて…二対二…って事で良いのかな?」

黒い甲冑の女「そう…その方が手早く二人とも殺せるから」

と…語りながら男に回復魔法をかける女。向うは向うで相性もコンビネーションも良い事が見て取れる

勇者「これは…長期戦になるな」

エレナ「うん…そうみたいだね」

ヤス「何て言うか……互角の戦いッスね…」

帝王「あぁ…お互いの力が拮抗してやがる。こりゃぁどっちが勝つのか本気で判らねぇぞ」

カイン「いやさぁ…二人とも、本気でそんな事言ってる?あれで互角の戦い?力が拮抗?」

ヤス「違うんッスか?」

カイン「はぁ………まぁ良いやそれで。結果的に同じくらいの力でぶつかり合ってる訳だし…」

帝王「だからそれが拮抗してるって事じゃねぇか…」


黒い甲冑の男「どうした…大分息が上がって来ているな」

黒い甲冑の女「そろそろ決着の時が近い…そういう状況ね」

勇者「息が上がっているのはお互い様だろう」

エレナ「終わりが近いって言うのも同感かな。やっと見えて来たし…」


黒い甲冑の男「ではそろそろ…」

勇者「決着をつけよう…!!」


恐らく次がお互いに最後の一手。俺は、先の戦いで一つの事に気付いていた…

この黒い甲冑の男は、俺の事をよく知っている…だが、ある一定の線を超えるとその知識は途端に枯れ果て、その場に応じた行動を取らざるを得なくなる。

その線が一体どこにあるのか…現時点で判っている限りでは、俺が上位魔法を使えるようになった時よりも前…つまり

それ以降に取得した手段を用いれば、この男を倒す手段となり得る

加えて、エレナの方も相手の出方や思考を掌握した様子。魔法への対応速度が格段に高まり…恐らくは次の手で直撃を当てられる。


そう………そしてその読みは見事に当たり、黒い甲冑の二人組を見事討ち果たす事となったのだが…

黒い甲冑の女「認めない…認めない…認めない認めない認めない!!!」

倒されて尚立ち上がる女…そして、その女を中心に渦を巻く……『悪意』

俺はこの現象を知っていた。そう、これは………

ナビ「非常に不味い………このままでは…」

勇者「マオウシステムが………実体化する」

そしてその予感と予期は的中………


黒い甲冑の女は、マオウシステム…いや、デミ・マオウシテウムへと変貌した。


デミ・マオウシステム「ミトメナイミトメナイミトメナイ。コンナセカイ…アイツガイキテルセカイ、ゼンブゼンブミトメナイ…」

ナビ「…これは想定外の事態」

勇者「あれは一体何なんだ…前回のマオウシステムとは別物に見えるんだが…」

ナビ「あれは…デミ・マオウシステム。マオウシステムでありマオウシステムとは異なる物」

ナビ「激しい悪意により形成され、マオウシステムの一部を取り込んだ物…」

勇者「つまりは…マオウシステムの亜種……という事だな」

ナビ「その見解で問題は無い」


黒い甲冑の男「馬鹿が……自分自身が呑まれる程の悪意を内包するなんて…」

これほどの悪意を内包する存在…この二人組は一体何者なのか

俺はこの二人について何も知らない…いや、知っているのかも知れ無いが、それに気付く事が出来ない。

この二人は俺達の事を熟知していると言うのに………


ん………?いや、待て?こんな時に考えるのも何だが、逆に考えてみたらどうだろう?

この二人は俺達の事を知っている…では、何を知っている?どこまで知っている?

それをどこで知った?一体誰ならばそれを知りうる事が出来たのか…

そう…そして、何故このような感情を持つに到ったのか…………答えが見えた


勇者「そうか………お前達は………」

黒い甲冑の男「………その様子だと、やっと俺達の正体に気付いたみたいだな」

男は仮面を外し、素顔を晒す。そう…俺が良く知っていた顔………気付くべきだった顔だ

勇者「やはり……と言う事は、あっちの方は…」

黒い甲冑の男「そういう事だ。あぁなってしまったのは流石に想定外だが…察してやってくれ」

勇者「お前は……一体どうするつもりだ?」

黒い甲冑の男「あぁなってしまった責任の一端は俺にもあるからな…その分のかたは付けるつもりだ」

エレナ「私は……覚えて無いけど、私が手を出すべきじゃ無いんだよね」

黒い甲冑の男「そうだな…あいつのためにも、エレナのためにも…それは控えて貰いたいな」

勇者「それは同感だ…だが、俺にも力を貸させてくれ。お前だけに背負わせるわけには……いや、これは本来俺の役目だから…だな」

黒い甲冑の男「相変わらず難儀な性格をしてるな…まぁ、それがお前らしいと言えばらしいんだが」

勇者「判っているのならば、共に行こう…」

黒い甲冑の男「あぁ……そうだな……」

デミ・マオウシステムへと向けて足を進める俺達

黒い甲冑の男「この剣はお前が使え。でなければ、あれは倒せないんだろう?」

勇者「すまない……ただ、この剣があるからと言って倒せるとは限らない」

黒い甲冑の男「なら……倒せる可能性を掴んで貰うとするか」

勇者「そうだな。それが勇者としての義務だからな」

俺は黒い甲冑の男から勇者の剣を受け取った。


いや……ここまで来れば、あえて黒い甲冑の男だなんて呼ぶ事は無いか


勇者「よし、行くか……戦士」

戦士「あぁ!」

>86 すみません。その辺りに関しては、示唆している描写や発言及び、解説から「そういう事があったのか、あれはこういう事だったのか」と解釈して頂く他ありませんorz
カインの成長は正にその通r


あと今更ですが、ネタバレ防止のため今回もシナリオの内容に関するレスはまた後程まとめて返信させて頂きます!

エレナ「候補者を挙げる事自体は、難しい事じゃ無かったんだけどね…」

ナビ「…」

エレナ「勇者の剣を手に入れるだけの条件を揃えて居て、あれだけの力を有した存在…その条件に当て嵌まるのが誰なのか」

エレナ「ただ、イレギュラーな状況を考慮に入れると…きりが無いんだよ」

エレナ「国王様みたいな裏技を使って勇者の剣を使ってるのか…」

エレナ「帝王さんみたいに、異世界からの来訪者だったり…もしかしたら、どこかで重複した私と勇者くんなのかも…そんな事も考えた」

ナビ「………」


エレナ「でも、その考えは途中で無くなったよ。男の方は魔法を使えなかったし、女の方は神聖魔法しか使ってこなかったからね…」

エレナ「それで…仮定に仮定を加えて、さっきの条件と…今までの発言を行うだけの根拠を持った人物を割りそうとしたんだけど」

ナビ「……」

エレナ「何だかんだで、察しが悪い筈の勇者くんに先を越されちゃったよ」


カイン「ボクは…正体も何も元のあいつらを知らないから、答えには辿り着かなかったけど…盟友の絆の効果が出てる人物だって事はすぐに判ったね」

エレナ「…前回、勇者くんと一緒に勇者の剣を取りに行ったメンバー…そのメンバーがもし勇者特性を持っていて、前回の記憶を残していたら…」

ナビ「その推論の通り。前回から継続してパーティーを組んでいた二人が、先回りして勇者よりも先に剣を手に入れた」

エレナ「そして………二人を殺した私と、その原因になった勇者くんに復讐に来た…って事なんだね」

ナビ「………」

カイン「加えて言うなら…あいつらが記憶を残してたのって、ナビが一枚噛んでたんだろ?おまけに…」

ナビ「否定は行わない」

エレナ「私は…ナビちゃんを責める気は無いよ。私が同じ立場なら、きっと同じ事を……うぅん、多分もっと残酷な事もしてたと思うから」


ナビ「………」

戦士「それで…マオウシステムを倒すにはどうすれば良いんだ?」

勇者「マオウシステムを構成する存在…この場合は僧侶から悪意を消し去り、核となるマオウシステムを覇者の力で破壊する。この方法で倒せる筈だが…」

戦士「成る程…しかし、今の僧侶から悪意を消し去るなんて事は出来そうにないな。となると、取れる手段は……」

勇者「………」

ナビ「………取れる手段は限られる。そして、それは勇者にとって最も難しい手段」


戦士「悪意の更に大元………僧侶の命ごと、マオウシステムを消し去る事…だけか」

ナビ「肯定。僧侶の命とデミ・マオウシステムが直結している今の状態ならば、その方法でも消し去る事が出来る。ただし…」

戦士「ただし?」

ナビ「物理的な手段での破壊を試みる場合…最低でも勇者の剣を用いらなければ、それも叶わないと推測する。他の攻撃では精々行動を阻害する程度」

戦士「成る程…な」


勇者「戦士…お前は本当にそれで良いのか?」

戦士「本音を言うなら、良いとは思わないさ。だが…仕方の無い事だ。それだけの報いを受けるだけの事をしてしまったんだからな」

勇者「それは……」

戦士「おっと、勇者は謝るな。今となっては思い出してくれただけで十分だ」

勇者「しかし………」


戦士「まぁ…殺された事に文句が無いと言えば嘘になるがな」

勇者「………」

戦士「俺達は勇者のために殺された…そこまでは良いんだが、問題はその後だ。勇者が何も果たせないまま、あれに負けてしまった事が許せなかった」

勇者「………そんな俺の不甲斐無さに怒りを覚え…お前は…」

戦士「と思ってたんだが…別にお前が弱かった訳じゃないのは良く判った」

勇者「………」


戦士「それで僧侶に至っては、エレナに理不尽に殺された事自体が許せなかったという訳だが………あぁ、あと…」

勇者「………何だ?」

戦士「実はな…あの時、僧侶の腹の中には俺の子が居たんだ。それで…無事勇者が勇者の剣を手に入れたら、俺達はパーティーを抜けて………」

勇者「―――っ…」

戦士「…という事情もあったんだが………まぁ、それも今思えば………」

と言ってナビを見る戦士。そして、不意に口を開くエレナ


エレナ「………うん」

勇者「エレナ…?」

エレナ「私は前回のエレナじゃなくて今回のエレナ…だから、二人を殺した本人じゃないから、言葉の重みはあまり無いと思うけど…」

戦士「………」

デミ・マオウシステム「エレナ………?……エレナァァァァァ!!!!」

エレナ「私は、二人を殺した事を、後悔していないと思う!」

勇者「なっ……!?」

エレナ「二人を…そして私自身を殺した事で、勇者くんは生き延びる事が出来た。そして、マオウシステムという核心まで辿り着く事ができた」

デミ・マオウシステム「ナ……ッ…ニ……」

エレナ「だから…二人の命も、私の命も無駄じゃなかった、そう断言するよ」


戦士「それに…あえてエレナが言わなかった事を付け加えるなら。あの時俺達がエレナに殺されていなかったとしても…」

エレナ「………」

戦士「どうせ魔王軍に殺されていた。当然勇者も一緒に殺されて…文字通り、完全な無駄死にになってただろうな」

エレナ「………」

戦士「そして、エレナもそれを感謝しろとは口にしていない。俺達の死に意味を持たせる事に、恩着せがましい優越感なんて感じていない」

デミ・マオウシステム「……………」


戦士「なぁ………もうそろそろ許してやろうぜ?お前も疲れただろ?」

デミ・マオウシステム「ソンナコトバ……ワタシハ………ワタシハ…私は………」

エレナ「僧侶ちゃん……」

デミ・マオウシステム「私自身が殺された事が悔しかった…うぅん、怖かった。何の意味も無く、無意味に消えてしまう事が…どうしようも無く」


勇者「無意味なんかじゃない!」

デミ・マオウシステム「………?」

勇者「エレナの言った通りだ!戦士と僧侶のお陰で今の俺が居る。俺にとっては、二人とも決して無意味な存在なんかじゃない!」

勇者「お前達は、俺の……俺の、大切な仲間だ!!」

戦士「勇者……」

エレナ「勇者くん……」

デミ・マオウシステム「じゃぁ………本当に意味があったの?私が生きて、私が死んだ意味………あったの?」

勇者「当然だ!!」

戦士「あぁ…勿論だ…」

デミ・マオウシステム「そっか………じゃぁ、私……このまま安らかに眠って良いんだよね?…もう…何もかもお終いにして………」

戦士「あぁ………だが心配するな。俺も一緒に…」


勇者「いや、それは違う!!」


戦士「えっ?」

デミ・マオウシステム「…え?」

ナビ「えっ…」

勇者「戦士も僧侶も…二人共、ここで死なせる訳には行かない!前回の分も生きて貰う!!」

戦士「いや…だが、マオウシステムが…」

ナビ「そう…マオウシステムを倒すためには…」


勇者「悪意なんて物はとっくに消えている!」

ナビ「しかし…勇者の剣だけでは、核のみを破壊する事など…」

勇者「覇者の叫びも…勇者の剣の封印石も魔王の剣も無い……だが、何とかして見せる!!」

ナビ「…………」


勇者「何とか出来ないとしても何とかする!それが勇者だ!!」

ナビ「判った………ではこの場の収拾は勇者に一任する」

勇者「あぁ…心得た!!」


エレナ「でも…実際問題、どうするつもり?マオウシステムを倒すには…」

勇者「足り無い物が山ほどあるな。だが……逆に、満ち足りている物がそれ以上にある!」

俺は大きく息を吸い込み、目を閉じる。


思い出す。

覇者になった時の感覚を

聖剣を手にした時の感覚を

邪剣を手にした時の感覚を

マオウシステムに一撃を与えた時の感覚を。


………そして、強く想う

仲間に…二人に生きて欲しいと言う、その思いを!!!


勇者「聖剣も邪剣もここには無い………だが、ここには俺の拳(けん)がある!」

エレナ「えっ…まさか……」

勇者「その………まさかだっ!!!!」

俺は、デミ・マオウシステムの核に向け………勇者の拳を放った


デミ・マオウシステムの核は、粉々に砕け散った。

ナビ「…………この結末は想定外」

勇者「まぁ正直、俺自身あんな事ができるとは予想して居なかったからな」

ナビ「………」

エレナ「ところで…僧侶ちゃんの具合はどう?」

戦士「まだ目は覚めない…が、この顔を見ている限り心配は無さそうだ」

エレナ「安らかな寝顔…してるよね」

勇者「ところで二人とも、この先どうするつもりなんだ?」

戦士「正直な所、何も…ここで決着をつけて終わりにする心算だったからな」

勇者「よし、ならば俺の領地に来れば良い」


戦士「……………いや、さすがにそれは。領地を襲撃した張本人だぞ?」

エレナ「あの領地を襲撃できた人物だからこそ、あの領地を防衛するにも適してる…そう言えるよね」

戦士「なっ………」

カイン「諦めなよ…この二人にここまでペースを捕まれたら、もう逃げられっこ無いよ………」

戦士「………」

勇者「その通りだ」

エレナ「そうそう」


戦士「本当に………良いのか?本当にそれで……」

勇者「しつこい!俺が良いと言ったからそれで良い。たまにはリーダーらしく命令させて貰おう、俺の領地に来るんだ」

戦士「勇者…お前という奴は……」

吹っ切れたように笑顔を浮べる戦士。

こうして俺達は新たな仲間を加え……いや、呼び戻し

また一歩、打倒マオウシステムへの道を進むのだった。


ナビ「…勇者の可能性は未知数…これならば、本当にマオウシステムを破壊する事が出来るかも知れ無い」

ナビ「けれど……その可能性に甘えて手を抜く事が出来ないものまた事実」

ナビ「私に出来るだけの事を、全て行う」

ナビ「マオウシステムを……完全に消去するために」



●第四章 ―可能性の迷路 其の市― に続く

予想以上に反響大きかったようなので、一つだけ

帝王の異世界人設定は、今回のエレナのセリフが初出です。


あと、今回は大筋を大分書けたので、早めのペースでいきます。

●あらすじ

カインを王国へと送り届けた帰り道…前回の戦友であった公国の兵士と遭遇する勇者一行。だが、そこで明かされる衝撃の事実…

前回顔を合わせる事無く終わったカライモンの姪は、実は勇者達の想像を裏切る美形だったのだ!

そして、兵士と魔族の女…カライモンの姪を勇者の領地へと向かえる最中、再び襲い来る黒い甲冑の二人組。

……しかしそれは、決戦の前の前哨戦でしか無かった。


天空山にて繰り広げられる、黒い甲冑の二人組との決戦………

激しい戦いの末、勇者とエレナは辛くも勝利を収めるのだが…突如。デミ・マオウシステムへと変貌してしまう黒い甲冑の女。

更にその窮地の中、勇者は遂に二人の正体…かつてのパーティーメンバー、前回の記憶を引き継いだ戦士と僧侶だという事に気付く。

僧侶を倒さなければデミ・マオウシステムを倒す事は出来ない…覚悟を決める面々

だが、勇者はそんな前提を討ち破って勝利を収め…戦士と僧侶を再び勇者パーティーへと呼び戻す事となるのだった。

●第四章 ―可能性の迷路 其の市―


―帰りの山道―

エレナ「それでナビちゃん、ちょっと質問なんだけど」

ナビ「質問を許可」

エレナ「前回存在していた人物しか、今回も存在していない…っていうのは間違い無いんだよね?」

ナビ「肯定する」

エレナ「じゃぁやっぱり………ナビちゃんが今ここに存在しているのって、二人―――」

ナビ「肯定する」

エレナ「まだ最後まで言って無いんだけど」

ナビ「エレナが正解を導き出している事は想定済み。それよりも勇者」

勇者「何だ?」

ナビ「話は変わるが、セーブとロードの活用をしているかが疑問。経過と反応を見ている限り、初見で無茶をしているように見える」

勇者「あぁ…そう言えばそんな物もあったな。すっかり忘れていた………いや、無言で毒針を刺すのは止めてくれ」


ナビ「ぷすぷすぷすぷすぷすぷす」

勇者「いや、訂正する…有言でも刺すのも止めてくれ。地味に痛い」

ナビ「では、次回からは活用する事を要請する。否、今から活用するべき」

勇者「わ…判った」


ナビに促されるまま、俺は早速セーブを行った。


カイン「で…それは良いんだけど、この後はどうするのさ。何かやる事が一気に片付いちゃって、次の目的が無いよね?」

勇者「そうだな………とりあえずは、勇気の証明を行う手段を探さなければいけないんだが」

エレナ「それこそ雲を掴むような話なんだよね。だから…」

帝王「その手段を探すのが、当面の目的…ってぇ事だな」

ヤス「ッスね」

勇者「しかし、それを探すためとは言え時間を無駄に出来ないのも事実。まずはやれる事からこなして行こうと思う」

ナビ「では勇者……当面の目的地を決めるべき」

勇者「そうだな…なら」


何となくここが分基点な気がして、俺はここでまたセーブを行った。


勇者「まずは…マオウシステムの破棄を提言するため、公国に行こう」

―公国の関所―

検査官A「それでは…王国からの確認が完了しましたので、次の手続きへ」


天空山での決戦後…一旦領主の館に戻り、改めて公国に訪れた俺とエレナ。

国王様からの言伝があったため、関所で行われる検問もそれ自体は順調に進んでいた…のだが

ひょんな事から、暫く足止めを食う事になった。


検査官B「おい、そっちはどうだ?」

検査官A「問題無い。前もって連絡のあった勇者様ご一行だ」

検査官B「そうか…では悪いが、もう少し待って貰ってくれ。あっちの部屋で問題があったらしくて、人手が必要なんだ」

検査官A「おいおい、またか……」


勇者「何があったんだ?もし良ければ力になるが…」

検査官A「いえ、勇者様のお手を煩わせる程の事では……あぁでも、手伝って貰えた方が早くお通し出来るのかも…」

そう言って悩んだ挙句、協力の申し出を受け入れる検査官。

そして俺達は、連れられるまま奥の部屋へと進み…


検査官B「こいつら…全員が全員、密輸犯なんですよ」

部屋を見渡すと、ざっと10数人。これら全てが密輸犯だと言う

勇者「これだけの数…よくある事なのか?」

検査官A「いえ…今まではこんな事は殆どありませんでしたが…逆に、ここ数ヶ月になってからは毎日のように…」

検査官B「巷で噂になってるブラックマーケット…それにこいつ等が関わってるんんじゃぁ無いかと思うんですが…」

勇者「成る程…つまり、ここで早急に全員の尋問を済ませられれば、事が早く進む…という事か」

検査官B「はい、そういう事です」

勇者「確かにこの人数は骨が折れそうだ。まぁ…実際に骨を折れば手間を減らせるのかも知れんが…」

と言って威圧を行う俺。その甲斐あってか、密輸犯達は怯えてるようだが………人数が人数なだけに、そう簡単には終わらなそうだ

エレナ「あ、じゃぁここは私に任せて。丁度試したい魔法があったんだよ」

と進言するエレナ。


ここから先はあえて省略するが………一つだけ言うべき事あるとすれば、そう

自白させる魔法があったのなら、最初からそれを使ってやっても良かったのでは無いだろうか………と言う俺の感想だけだ。


検査官A「ご協力ありがとうございました」

そして…自供から得られた共通の情報はこうだ

エレナ「ブラックマーケットに参加するために、違法な品を持ち込んだ人達……まぁ、これで終わってくれて居れば良かったんだけど」

勇者「関所で捕まるよう、誰かに仕組まれた形跡がある者も多数…これはつまり」

エレナ「スケープゴート…だね。その本命はもう、裏から入国を済ませてるんじゃないかな」

勇者「裏から…か。そのマーケット自体に裏がありそう…と言えば当然なのだが、まだ何かが隠れている気がする」

エレナ「前回の冒険では、ブラックマーケットの存在自体知らなかったんだよね?」

勇者「あぁ、それどころでは無かったからな…」

エレナ「それじゃぁ…」

本来の目的からは大分逸れるが、見過ごしておく訳にも行かない。


勇者「潜入してみるか。そのブラックマーケットに」

―兵士と魔族の女の愛の巣―

勇者「………と言う訳で…ブラックマーケットの開催場所を探しているんだが、何か心当たりは無いだろうか?」

エレルの転送魔法の力を借り、一時的に自分の領地…その中の、兵士と魔族の女の住む家へと訪れた俺達。

エレナ「スケープゴートの人達は、そこまでの情報を知らされてなかったんだよ…」


兵士「と、言われましても…私が所属していた頃にもブラックマーケットの捜索は行われていたのですが…」

勇者「その時も成果は無し…か」

エレナ「具体的には、どんな捜索方法を取ったのかな?」


兵士「それは…ええと。まず、公国が東西南北と中央の5つの地区に分けられているのはご存知ですよね?」

エレナ「うん」

兵士「そこを、4つの部隊で毎日ローテーションで捜索していたのですが…あ、多分今でも実施されていると思います」

エレナ「5つの地区なのに、4つの部隊だったの?」

兵士「はい、何分人手不足で」

勇者「と言う事は、常に一つ穴が出来る。その地区を確認してから、ブラックマーケットを開催すれば…」

と、問う俺

兵士「あ、いえ。それは無理です」

だが否定されてしまった


勇者「何故だ?」

兵士「ブラックマーケットを開催するためには…規模を考えれば最低でも1週間前には、場所の準備だけでも始めておかなければならないはずです」

勇者「準備中の所を押さえられないのか?」

兵士「それは無理です。違法な品物でも確認出来ない限り、準備段階でそれが合法なのか違法なのかの区別は…」

勇者「成る程…つまり開催側からすれば、開催当日だけ警備の穴を突けば良いだけなのか」

兵士「しかし、それは容易ではありません。5つの地区の内の警備が無い1つを、何度も当てるなんて……」

エレナ「成る程ね…逆を言えば、誰かから事前に警備の穴を聞けば、そこで開催出来る…って訳だね」

勇者「あるいは…特定の部隊が買収されていて、意図的に見逃して居たか…」

兵士「いえ、そのどちらもありえません」

勇者「何故そう言い切れる?」


兵士「警備のローテーションは、5日前に上層部が決定するんです。それに、編成される部隊も毎回入れ替えられていましたから…」

勇者「ローテーションの発表があってからでは、遅い…と言う事か」

エレナ「これまた開催にも裏がありそうだねえ…まぁ、目下の所は重大な問題じゃないけど」

勇者「いや、大問題だろう?」

エレナ「話が脱線して忘れてるみたいだね……私達の最初の目的は、ブラックマーケットに潜入する事だよ?」

勇者「あぁ………そうだった。潜入だけなら今の話しで十分だったな」

エレナ「そう…捜索隊が巡回しない地区を探せば良いんだよ」


兵士「しかし、探すと言ってもそう簡単には…どの地区も、開催場所になりそうな場所が沢山ありますから…」

勇者「となると…公国の地理に詳しい人物が必要になるな」

エレナ「あと、警備の情報を得る事が出来る人物………」

勇者「前回はともかく…さすがに今回は、まだそこまでの人物の心当たりは………」

兵士「そうですね…」

エレナ「……………」

勇者「…………」

兵士「ん?皆さんどうしました?」

居た

―ブラックマーケット会場―

エレナが開発した不可視化の魔法を使い、警備の情報を得る事に成功した兵士…

そして穴となった地区で開催場所を……兵士の協力とセーブとロードで、やっと探し当てた俺達。

更には入場手続きやら何やらで手間取ったが……

俺達は今、ブラックマーケットの会場に居る。


幸か不幸か、会場内はマスカレード…仮面着用必須となっており、変装と相まって俺達の正体はばれていない。


まずは観察…会場内を歩いて周るのだが…

エレナ「嘘………あれって、霊獣隷属の首輪?」

魔族の女「あちらの方は…古代の装飾品のようですね」

エレナ「あの魔除け、装飾に魔法金なんて使ってるよ!?あれだったら魔法銀で十分なのに…」

魔族の女「実益よりも見栄を重視した結果なのでしょうね…」

ウィンドウショッピングに花を咲かせる女性陣。

頼むから、余り目立ってはくれるなよ…


…などと心配を抱える最中。ふと…オークション会場の一角が目に止まる。

勇者「あれは……」

エレナ「あれは………奴隷のオークションだね」

数年前…合衆国で行われた奴隷制度廃止を皮切りに、今や全世界で禁止されている制度………奴隷

勇者「……まだこんな所に」

魔族の女「需要と供給…需要を持つ人達が居なくならない限りは、こういうのも無くならないのでしょうね…」

心底軽蔑するような冷ややかな声で言う魔族の女…と、彼女の事も呼び方を変えておこう。

つい先程知ったのだが………彼女の名はカーラ。

ブラックマーケットにおいて、彼女の知識が何か助けになるかも知れ無いと進言してくれたので、ついて来て貰っている。


勇者「捨て置けないな…今すぐにでも……」

エレナ「あ、待って勇者くん。あれ見て」


勇者「ん?…………あれは…」

エレナ「うん、間違いないね…あれ、人魚だよ」

人魚…人間とも魔族とも異なる存在で、その肉を食らえば不老不死になれると言われている伝説の種族だ

ただその姿は、魚の下半身に人間の上半身…と言うよりも、人間と同じ形状をしている上半身…と表現するのが近いかも知れない。

半漁人…では無く人魚と呼ばれるのは、語り手の手心なのだろう…そう思う俺であった。


勇者「まさか…こんな所でお目にかかれるとはな」

エレナ「うん…多分あの人魚が今回の本命…」

勇者「大量のスケープゴートに隠された物の正体か」


エレナ「さて…この後はどうする?」

勇者「どうするもこうするも…人魚を含め、全ての奴隷を開放する…それだけだろう」

エレナ「まぁ…私もそれに賛同したいのは山々なんだけど………多分今回はそれじゃ解決しないと思う」

勇者「…と言うと?」

エレナ「多分これは氷山の一角だよ。例えここでブラックマーケットを潰したとしても、また同じ事が繰り返される」

勇者「マオウシステムと同じく…根幹から断たねば意味が無い…と言う事か」

カーラ「そういう事になりますね。それで…私に一つ考えがあります。そのためには、あの人魚と話がしたいのですが……」

勇者「あの警備の厳重さでは、気付かれずに近付くのは無理だな。だが、ただ話すだけなら…」

カーラ「それはあまりお勧めできませんね………恐らく、この場に居る全員の目を引く事となります。そうなると…」

勇者「潜入捜査に支障が出る…と言う事だな」

エレナ「となると…ちょっと癪だけど。オークションで競り落としてから、落ち着ける場所で話をしてもらおうか。勇者くん、その作戦で行けそう?」


勇者「問題無い。金ならいくらでもある」


そう、前回の冒険で溜め込んだ金と、領主として運用した桁違いの金が俺の手元にはあった


だが…伏兵は思わぬ所から現れた。

―オークション会場―

青年貴族「1000万G!!」

司会「1000万G!!1000万Gが出ました!!」

勇者「1001万G」

司会「1001万G!!1001万G!!他にいらしゃいませんか?!」

青年貴族「………2000万G!」

司会「2000万G!!2000万Gが出ました!!」

ざわめく周囲…しかしそれも当然の事。2000万Gと言えば、小さな国が買える額だ。

しかも、そんな法外な額の入札を行っているのは俺と同年代の貴族と思われる青年。

エレナ「2000万Gかあ…観賞用だとしたら法外にも程があるし…」

勇者「となると…それだけの価値のある用途はやはり………」

カーラ「でしょうね………それだけは避けるべきかと。勇者様、行けますか?」

勇者「金の事ならば任せろ……3000万Gだ!!」

俺の言葉に再びざわめく周囲…貴族の青年もまた、表情こそ見えない物の驚愕の動作を隠せない。

司会「3000万G!3000万G!! さぁ、他にいらっしゃいませんか?」

貴族の青年「くっ………!!」

司会「いらっしゃいませんね?それでは、3000万Gにてあちらの方の落札で御座います!!」

こうしてオークションは終わり、俺達は受け渡し部屋へと向かった

―商品受け渡し部屋―

商人「3000万G…現金で確かに頂きました」

勇者「…俺達の身元の確認はしないのか?」

商人「それはまた、おかしな事を聞かれる。私達は本来ここには存在しない人間…存在するのはお金と品物だけ…でしょう?」

成る程、そういう事か。余計な詮索をされずに済むのは助かるが、逆に捜査の糸口を掴めない。………悔しいが良い仕組みだ。

勇者「そうだったな…ではこの人魚、頂いて行くぞ」

商人「はい…あぁ、そうそう……最近は物騒で、ここでの品物を奪おうとする輩も少なくは無い様子」


エレナ「物が物なだけに、警備隊にも届出を出す事が出来ないから…正に恰好の獲物って訳だね」

カーラ「加えてここは今日の警備外区画…ですからね」


勇者「忠告感謝する。では。俺達はこれで失礼…」

―帰路―

そうして人魚の入った水槽…勿論それとは判らないように偽装した物を引き、ブラックマーケットの外へと出る俺達。

そこから先は…案の定と言うか予想通り。人魚目当ての賊が、次々と襲撃をかけて来た

が………まぁ、それは大した問題では無かった。あえて予想外な事を挙げるとするならば…


勇者「お前は………オークションに居た貴族だな」

青年貴族「良く判りましたね…ですが勘違いしないで欲しい。僕は君達を襲いに来た訳じゃない」

勇者「………」

エレナ「まぁうん………さすがに丸腰で襲撃する盗賊は居ないよね。どうする勇者君。大体想像は付くけど、話しだけでも聞く?」

勇者「………あまり良い予感はしないが…話だけなら聞いても良いか」

―宿屋の一室―

青年貴族「あれだけの入札を行った人が、こんなひなびた宿屋に宿泊しているだなんて………」

勇者「いかにも襲って下さいと言わんばかりの高級施設に泊まるよりは、幾らか裏をかけるだろう?」

青年貴族「成る程…言われてみれば確かに…」

いや、口から出任せだがな。実際は貧乏性が染み付いた故の習慣的行動だ


勇者「それで…大体の察しは付くが、用件は?」

青年貴族「他でもありません。貴方が落札した…その人魚を私に譲って頂きたい。時間さえ頂ければ、貴方の落札された価格の倍でも…」

勇者「では質問するが……この人魚を手に入れて、貴方は一体何をする積りだ?」

青年貴族「そ………それは……」

言いよどむ貴族。この反応を見る限りでも、何を目的としているのかは聞くまでも無い。

カーラ「人魚の肉による不老不死が目的…でしょうね」

俺だけに聞こえるよう、小さな声で呟くカーラ。俺も同感だ。

勇者「では…お引取り願おう」

青年貴族「そんな!!僕には…僕にはどうしても………」

必死の青年…その気迫だけは通じるが、だからと言って人魚を見殺しにする訳にもいかない。

少々不本意だが、力付くでの退散を申し出ようとした……その瞬間。


盗賊達が、窓を破って乱入してきた。

先は出任せで言った物の、盗賊がこんなボロ宿屋をこうしてわざわざ狙うと言うのもおかしな話。

しかも他の部屋への侵入の様子は無く、脇目も振らずにこの部屋に………これは明らかにおかしい。

勇者「エレナ…これは多分」

エレナ「うん…今調べてみたら、追跡魔法がかかってた」

青年貴族「え…それは一体どういう……うわぁ!?」

運悪く盗賊の不意打ちを受ける青年貴族。

気絶こそしている物の、致命傷は負っていないのがせめてもの救いだろう。


カーラ「これはまた…何ともキナ臭い事態のようですね」

エレナ「うん……3人だけだとちょっと手回しが間に合わなそうだから、今回はエレルの力も貸して貰おうか」

襲い来る盗賊を軽く殴り、気絶させる俺。手早くエレルへの連絡を行うエレナ。気絶させた盗賊を魔法の鎖で縛るカーラ。


そうして盗賊の襲撃をやりすごし―――


エレル「という訳で、パパッと調べてきた事を、ササッと説明しちゃいますね」

勇者「頼む」

エレル「まずそこの盗賊は…案の定商人に雇われて、商品…人魚を奪いに来たようです。だた相当な下っ端らしく、それ以上の事は知りませんでした」

エレナ「私が調べた部分だね」

エレル「そして次に、そこでのびてる青年貴族…彼はまぁとりあえず、婚約者が重い病に臥せっているという事と…そうですね。これは直接見た方が早いでしょう」

そう言って俺達に手招きをするエレル。その意図を察した俺達は、エレルにぴったりとくっつき…

勇者「4人同時でも大丈夫なのか…?」

エレル「範囲内に居さえすれば、ですけどねー。では行きますよ」


空間転移で、4人同時に別の場所へと飛んだ。

―青年貴族の自室―

カーラ「これはまた……」

勇者「何だこの部屋は………」

エレル「見ての通り…判り易く病的なまでに人魚の資料ばかりです」

カーラ「人魚の生態……それだけではなく、人魚解剖学…人魚の肉の調理法方…」

エレナ「信じられない程貴重な資料ばかりだね…」

勇者「言うまでも無いかも知れないが…これはつまり…」

魔族「………はい、人魚の肉を食らう上での下準備…と考えるべきかと」

勇者「しかし…先の話を聞く限りでは、彼自身が食らうのでは無く」

カーラ「婚約者……愛する者のため。自らの財産を擲ち、それでも婚約者を助けようとしている…と言う事でしょうね」

勇者「彼の婚約者の命か、人魚の命か…天秤にかける事など出来ないな」

カーラ「私が同じ立場だとしたら………そう考えると、私もあの青年貴族を責める事は出来ません」


エレル「と言う訳で……このまま話して居ても仕方ないので、そろそろ戻りましょうか?」

エレナ「うん…そうだね。あんまり長居してると、それだけリスクが増えるし」

カーラ「すみません、感傷に浸りすぎました」

勇者「………頼む」

―宿屋の一室―

エレル「それで、この青年貴族さんは柱に縛り付けておくとして………この後はどうします?」

勇者「カーラに何か考えがあった筈だが…」

カーラ「はい。少々いざこざが起きて遅れてしまいましたが…少し、そこの人魚に話を聞いてみようかと思います」

勇者「そう言えばそんな事を言っていたな。しかし、あの時あの場所では話せないとも言っていたが…」

カーラ「それは、実際に聞いてれば判るかと…あの場所でこれをやっっていたら…」

そう言って一呼吸置くカーラ。そして

カーラ「――――――――」

周囲に響き渡るそれは、耳を裂くような超音波。

成る程…これをあの場でやったら、騒ぎどころの話しじゃない

人魚「―――!?――――-!!」

そして、人魚の方からも返される超音波。

水槽の中に居るおかげか、人魚の方の声はカーラの発したそれよりは大分マシなのだが…聞き続けていると、頭が揺れるようだ。

カーラ「…っと言った感じですので、ある程度の事情が聞けたら話します。あと…我々は味方で、貴方に気外を加えるつもりは無いとも伝えておきました」

勇者「さすがだな……」

カーラ「いえ、人間には珍しいかも知れませんが…魔族ではそれ程特異な事では無いので」

そうか…そう言えば魔族はよくモンスターと連携を取ったりしていたな


カーラ「では…まずこの人魚を捕縛した人間達の特徴ですが―――」


エレル「―――あぁ、それは紅旅団の人達ですね」

勇者「知っているのかエレル!」

エレル「紅旅団…それは世界を股にかけ、主に国家や権力者の命を受けて。護衛から殺人まで、様々な荒事を引き受ける集団である」

エレナ「何か口調変わってるような…」

エレル「ちなみに彼等はこっち側の業界では有名ですが、あまり表舞台には出て来ないので…前回の勇者さまは知る機会が無かったんでしょうね」

エレナ「あ、戻った」

勇者「つまり…今回のブラックマーケットには、それだけの集団を操れるだけの力を持っている者が関わっている。という事か」

エレナ「規模が規模なだけに予想はしてたけど……問題は、その権力者が誰なのか…って事だよね」

エレル「じゃぁ聞いて見ましょうか。丁度今王宮に来ていますから」

エレナ「えっ」

カーラ「………」

勇者「なっ………」


エレル「と言うか、勇者さまが直接聞いた方が早そうですね。行きましょうか」

カーラ「あ、少々お待ち下さい。その前に……」


カーラ「―――――――」

人魚「―――――――」

今度は先刻よりも抑えた声で会話しているようだ。

カーラ「これで大丈夫です、人魚には事情を説明しました。あと…声帯に制限かけられていたようなのでそれも解除しておきました」

エレナ「これだけ手際が良いと、今回私が居る意味あんまり無いね…」

拗ねるな拗ねるな。

エレル「では改めて……いざ王宮へ!」

―謁見の間―

勇者「…お前達が紅旅団か」

団長「そう言うアンタが勇者様か」

勇者「答えて貰おう…何故人魚を攫った、誰の差し金だ?」

団長「何故それを……おっと、依頼主の名前は言えないな。ただ、何故かってのは至極簡単だ。金のため、団員全員で食ってくために決まってるだろ?」

団員の一人が国王の視線を伺っている。どういう意図だ?

エレル「にしても…今回は随分と危ない橋を渡ったみたいじゃないですか」

団長「何故かは知らないが、ここ最近はめっきり魔族が現れなくなったからな。こんなのでもなければ仕事が無かったのさ」

カーラ「………」

団長「な…何だそこの仮面の姉ちゃんは!?物凄い殺気なんだが…」

まぁ当然だろう


エレル「では王様…こういうのはどうでしょう?ブラックマーケットを根絶するため、黒幕探しを紅旅団に依頼する…と言うのは」

国王「ふむ、それは名案だ。どうだ団長よ、この依頼受けてはくれぬか?勿論、この依頼のためという事にして、人魚の件も不問に処すつもりだが…」

団長「……………………………いや………いや、やっぱり依頼主を裏切る訳には………」

勇者「よし、追加報酬3000万Gだ」

団長「…………………はぁっ!?」

勇者「因みに、人魚の落札価格も3000万Gだったんだが…」

団長「………嘘だろ?」

エレナ「本当だよ」

団長「………………」

エレル「相当安値で買い叩かれたみたいですね………」

団長「………いや、それでも駄目だ。雇い主の事を言う訳にはいかない。投獄したければ好きにしろ。ただし俺だけだ、団員達は関係無い!」

エレル「無駄に男らしいですねー……」


エレナ「あっ!」

勇者「どうした?」

エレナ「人魚ちゃんがまた襲われてる………うぅん、命が危ない?!!早く戻らないと!」

いつの間にそんな魔法を…どんどんエレナの力の底が知れなくなってきたぞ

と言うか、人魚の命が危ないとはどう言う事だ?

エレル「それは不味いですね…行きましょうか。3人とも此方に!!」

―宿屋の一室―

勇者「これは一体……」

宿屋に戻った俺達…そして、そこで待ち受けていた物は………


粉々に砕けた硝子と陶器と盗賊の鎧…加えて、内側から爆ぜたような無残な死体の山…恐らくは盗賊達だった物だろう。

人魚は水槽の外に身を乗り出して息を引き取り、唯一原型を留めている青年貴族も………盗賊の刃により絶命している。


カーラ「恐らくは…彼女が、水槽の外に出て声を使ったのだと思われます」

勇者「声…?どういう事だ?」

カーラ「人魚の声は、物体の固有振動数に合わせて波長を変える事が出来、ありとあらゆる物を破壊する事が出来るんです」

勇者「こゆ………?」

カーラ「ただし…その力を使うためには水の外に出て直接声を当てなければいけない。そして長時間水の外に居れば、当然呼吸は出来なくなり…」

勇者「………」

カーラ「私の…私のせいです。下手に彼女に戦う術を与えてしまったばかりに……」

カーラの説明は何となくだが理解した…だが、一つだけ腑に落ちない点が一つあった。

そして、それを確かめるための手段が脳裏を過ぎる。

勇者「すまない。エレル、エレナ…少しだけ前の時点に戻ってくる」

エレル「えっ」

エレナ「あぁ…そう言えばその手があったね。勇者くん……頼んだよ」

勇者「………任せておけ」


そう宣言して…俺はロードを行った。

―帰りの山道―

戦士と僧侶との決戦の後…帰りの馬車の上。

セーブをした地点に戻った俺。

そう……ここは確か、行き先を決める選択の途中の筈。

宣言するべき俺の答えは決まっていた。


勇者「公国に行こう。そこでブラックマーケットを潰すと同時に、やるべき事がある」

ヤス「えっ?ブラックマーケット?何ッスかそれ?」


ナビ「…情報の齟齬から、ロードを行った物と推測。全員に道中での説明を推奨する」

―オークション会場―

勇者「5000万G」

司会「5000万G!!なんといきなり5000万Gの入札です!!どなたか他にいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんか?」

勇者「さてエレナ…一つ聞きたいんだが、追跡魔法を使う事は出来るか?」

エレナ「え?出来るけど…」

勇者「そうか、だったら………―――」


司会「5000万G!5000万Gにてあちらの方の落札で御座います!!」

―帰路―

勇者「さて…居るんだろう?青年貴族」

青年貴族「良く判りましたね…では、早速ですが用件を…」

勇者「人魚の事だろう?俺からもその事で君に話しがある。道中、盗賊共でも撃退しながら話そう」

青年貴族「えっ…」

勇者「それで…単刀直入に聞くが、君は人魚を手に入れて一体何をするつもりなんだ?」

盗賊を切り伏せながら問う俺。安心しろ、みね打ちとは行かないが致命傷でもない。

青年貴族「それは………」


そしてやはり言いよどむ青年貴族。後ろ暗い事があるのは見て取れるが、どうも様子がおかしい。

ここはやはり…強引ながらも核心を攻めて行くか

勇者「婚約者の命を助けるため…か?」

青年貴族「えっ……?」


ん…? 図星を突かれた驚きと言うよりも、突拍子も無い事を言われた時の驚きのようだぞ


勇者「違うのか?」

青年貴族「あの娘のために彼女を犠牲にするなんて、とんでもない!!あの娘の病気は、金さえ惜しまなければ治せる病気なんだ!」

勇者「………すまない、その辺りは詳しく知らないんだ。説明をして貰って良いか?」


青年貴族「そもそもあの娘との婚約は親同士が勝手に決めた事で、僕もあの娘も気乗りして居なかったんだ」

勇者「………本人同士が望まないような婚約を、何故?」

青年貴族「あの娘の両親が、僕の金を欲しがった…ただそれだけの理由ですよ。そしていざ婚約を行った直後、あの娘は重い病気にかかり…」

勇者「それから?」

青年貴族「治療費と称し、多額の金を渡す事で婚約の解消を取り付けました。ただ、その金を本当にあの娘の治療に使っているかは別ですが」

勇者「なら…この人魚を欲する理由は何なんだ?彼女では無く、自分の不老不死のためか?」


青年貴族「そんな筈が無いでしょうぅ!?!?何を言っているんですか!!!」

勇者「だったら何故…」

青年貴族「そもそも!そもそもですよ!?人魚の肉を食べたら不老不死になるだなんて、大嘘も良い所なんですよ!」


ん?何だか話しの雲行きが怪しくなってきたぞ?

青年貴族「元々海洋生物に近い構成なのだから栄養価は高くて当然ですよ。でもだからと言って、それで不死になれるなんて考える方がおかしいんです!」

勇者「お、おう……」

青年貴族「元々は飢饉により漁村の村人全員が早々に死に行く中、一人だけ人魚の肉を食べて生き延びた者が居たのが原因なんです!!」

勇者「………」

青年貴族「皆がバタバタ死んで行く中で一人だけ生き延びて居られれば、そりゃぁ不老不死だなんて噂も立つでしょう!

青年貴族「そしてその食料が人魚だと知られれば、人魚なだけに尾ひれが付いて寓話にもなるって物ですよ!」

青年貴族「だっておかしいでしょう!?本当に人魚の肉を食べる事で不老不死になるなら、何で実際に不老不死になった人が居ないんですか!」

あぁ、そうか…彼の部屋にあった人魚に関する資料の数々は、それを活用するための物では無かった…それを否定するための物だったんだな

勇者「では改めて聞くが…君は人魚を手に入れて一体何をするつもりなんだ?」


青年貴族「一緒に暮らすんですよ!!僕は彼女に恋をしてしまったんだから!!」


話しの勢いで、今度はよどむ事無く言い切る青年貴族。

またこのパターンか………人魚の見た目が見た目なだけに油断していた

勇者「…………………」

まぁうん…趣味は人それぞれだ、口を出す事でも無いだろう。

しかし………色々と予想を大きく外れた事もあったが、結果的にこれで合点がいった。

勇者「よし…だがその前に、もう一つ確認する事と条件がある」

青年貴族「何でも来て下さい…もう何も怖い物なんてありません」

語る事で相当興奮しているようだ

勇者「カーラ、ちょっとその人魚に聞いて欲しいんだ。この青年貴族の事をどう思うのか…あ、出来れば小声でな?」


カーラ「その青年貴族の事を………ですか?では、少々お待ち下さい」


カーラ「――――――」

人魚「―――――――」

小声でも中々耳に響く音で会話する二人…いや、一人と一匹か?ええい、もう二人で良いだろう。

カーラ「えっ…そんな……こんな偶然って……」

青年貴族「―――――――!!」

お前もか!頼むから音量を抑えてくれ

カーラ「…………と言う訳で、この人魚の方も、この青年貴族に一目惚れだったようです」

エレナ「正に種族を超えた愛の奇跡だねぇ…異種族恋愛の先輩としてはどうなのかな?」

物は言い様…という野暮な事は言わないでおこう。実際、こうして異なる種族が判り合い結ばれるというのは尊い物なのだから。


それにしても…やはりそうか。

商品として狙われている以上、無抵抗でじっとしていれば攫われるだけで助かった筈の人魚

それが何故か、ロード前は抵抗の痕跡を見せ盗賊達と相討ちになっていた。

加えて、盗賊達と同じ構成……同じ人間であり、同じ固有振動数を持つであろう青年貴族が原型を保っていた理由…

そう。人魚は青年貴族を守るために声を使い…青年貴族を避けるように声を出し…結果、盗賊達を迎撃するため窒息するまで無理をした。

青年貴族の方は、人魚を助けるため縄を自力で解き……盗賊と戦い、その刃により命を落とした。

皮肉にもお互いが助けようとした相手を助ける事が出来ずに、お互いが命を落としてしまった……


…こういう事なのだろう。

勇者「では…条件の方を出させて貰おう」

青年貴族「……はい」

勇者「二人とも、俺の領地で暮らして貰う。このままではまた何時襲われるから判らないからな」

青年貴族「………え?」

勇者「心配しなくても大丈夫だ…君達と同じような境遇で、異なった種族同士で暮らしている者が他にも居る」

カーラ「そう…私のような魔族と、人間の彼が一緒に暮らす……そんな事が出来る土地ですよ」

そう言って仮面を外すカーラ。

青年貴族「まっ…魔族!? あ、いえ………失礼。予想外の事なので驚いてしまいました」

カーラ「大丈夫、驚かれるのには馴れて居ます。それよりも…そうやって納得して頂ける事の方があまり馴れませんね」

よし、カーラの冗談で場が和んだ

エレナ「ちなみに…非公式だけど、国王様と帝王さんも味方だよ」


勇者「という訳だ………まぁ、今の暮らしに比べれば色々と不便にはなるだろうが…」

青年貴族「え…それが条件?それだけですか?」

ん?何か予想していた反応と違うぞ?


勇者「良いのか?」

青年貴族「えぇ、だって…元々全財産を注ぎ込んででも、彼女をあそこから助け出す積りでしたし。そうなっていれば、後は不便も何も…」

あぁ、そう言えばそうだった

青年貴族「むしろ、お金の面での条件かと思っていました。だって、彼女のために貴方は…」

勇者「あぁ、成る程……そう言えばそうだったな。まぁ、その事は別に良い。その金は移住に使って、余ったのなら彼女に何かしてやると良い」

エレナ「えっ!?」

何か不服なのだろうか…驚愕と怒りの視線を此方に向けて来るエレナ。

だがまぁ…男としては、一度言った事を取り消す事は出来ない。

ロードしてやり直す事も出来るが、一応のハッピーエンドなんだから気が引けるしな……


青年貴族「ありがとうございます……本当に何とお礼を言えば言いのか。あ、所でお聞きしたいのですが……貴方の領地とは何処ですか?そもそも貴方は…」

あぁそうだ…まだ自己紹介をしていなかった


勇者「俺は………勇者だ」


―謁見の間―

勇者「―――と言う訳で。ブラックマーケットの黒幕について話して欲しい」

団長「おいおい、冗談はよしてくれ。俺達が雇い主の事を話す訳が……」

勇者「5000万G」

団長「……はっ?」

勇者「5000万G…お前達の黒幕が人魚を売って得た金だ」

団長「………はぁぁっ!?んな……っ…!!」

勇者「そして5000万G」

団長「な……今度は、何の話しだ」

勇者「黒幕の情報でお前達に支払う報酬の額だ」

団長「……………はっ………?」

団長は膝をガクガク震わせながら迷っている。やり過ぎたか?

しかしこうかはばつぐんだったようで、脂汗を流しながら団員達と話し合っている。


団長「……………よし」

大臣「フ~フフン、フンフンフンフ~ン」

と、そこに現れたのは鼻歌を奏でる大臣


エレル「おや大臣さん、今日は珍しく上機嫌じゃないですか」

大臣「おや、これはエレル殿。いえいえ、ちょっとした投資で大勝ちしましてなぁ…がっはっはっはっは」

ちなみに…国王様の視線を気にしていた団員が、今度は大臣を凝視している。

そうか………あれは国王の何かを伺って居たのではなく…国王の視線を気にしていたのか。


エレナ「うわっ………!」

そして驚愕するエレナ

勇者「どうした?」

エレナ「あのさ…勇者くんに頼まれて、金貨に追跡魔法をかけたよね?」

勇者「あぁ…」

その話をここでする時点で……つまり。そう、俺の中の予感は確信へと変わった

エレナ「あれに触ると、触ってた時間に応じてその箇所に痕跡が残るようにしておいたんだけど………」

勇者「ふむふむ?」

エレナ「大臣さん……全身めっさ光ってる」

勇者「うわぁ…………つまりそれはあれか?そういう事か?」

ある意味予想以上だった。

………あぁ、あまりその光景は想像したくない。だがまぁ、これで一応の解決にはなるのか


事情を知っているであろう団員が、国王の視線を気にしていた理由…

ブラックマーケットで支払った金貨の痕跡が、大臣の全身に残っている理由…

それは………


団長「…俺達に仕事を依頼したのは………」

勇者「大臣…お前が公国のブラックマーケットの黒幕だな!!」


大臣「なっ………何故それを―――」

―公国商店街―

それからの事………


まずブラックマーケットの件。

芋蔓式に明らかになった事らしいのだが、どうやら王国の大臣だけではなく公国の大臣もぐるになってブラックマーケットを開催していたらしい。

開催場所や警備の穴………上層部でしか知り得ない事を事前に知って居たからこそ予め開催場所を決められた。当然と言えば当然の話しだ。

尚、ブラックマーケットの一斉検挙により回収された商品と金に関しては…各国と公爵が未だに交渉中。逞しいと言うか何と言うか…

あと余談ではあるが、ブラックマーケットの件で両国で大規模な人事異動が行われたという話しも聞く。


次に紅旅団の件。

返答が遅れたとは居え、協力の意思はあったと言う事で、王国公国両国からの情状酌量あり。

加えて、流石にあの状態からそれ以上突き落とすのも気が引けたので…

あの時提示した5000万Gで、紅旅団全員の生涯雇用…勇者領専属の旅団化という形式で決着が付いた。


続いて………また脇道に逸れ過ぎて忘れそうになって居たが、公国に対してのマオウシステム破棄の提言の件。

これに関しては、また思いも寄らぬ方向から解決の糸口が見付かった。

青年貴族の元婚約者…事情を聞いておいて放置する訳にも行かず、僧侶に病気を治して貰ったのだが…彼女は実は記憶喪失で、それまで治療してしまったのだ

そしてそこからが怒涛の展開…彼女は公爵の妾の娘だった事が判明し、母親に捨てられて居たところを今の親に拾われた事が発覚。

だが今の両親は今の両親で、これまで彼女を利用してあくどい金稼ぎをしていたようで………

これを知った公爵は、当然今の両親から親権を剥奪。改めて彼女を自らの娘として迎え入れるという結末に到った。


と言う経緯があり………話は驚く程すんなりと進んだのだった。あぁ、ちなみに

公爵『元々我が領土は、科学と商業を主体に民の欲望で栄えて来た。マオウシステムの維持など、他の国に合わせて来たに過ぎんのだよ』

との事らしい。


あと兵士に関しては…今回の件とブラックマーケット検挙に貢献した事で晴れて無罪放免。

カーラとの仲に関しても、これまた非公式ながら公国の助力を得られる結果となった。


そして最後に…………

団長「旦那ぁ!良い情報が入りましたぜ!それと、姐さんには皇国の土産でさぁ!」

エレナ「で…勇者くん。考えて見たら勇者くんが勇者になってから、私は何もプレゼントされた記憶が無いんだよね…」

勇者「……」

エレナ「前回から持ち越したお金も沢山あった筈なのにおかしいよね?これって記憶の欠落かな?」

勇者「………」

エレナ「それにしても、まさか前回稼いだお金を殆ど使い切るなんて…うん、まぁ勇者くんのお金なんだからどう使おうと自由なんだけど…」

勇者「面目ない」

エレナ「…………」

勇者「今日は…その、その何だ……埋め合わせと言う事で………」

団長「お、姐さん。こっちの自由市場に掘り出し物がわんさかありますぜ!!」


エレナ「うん、容赦しないからね?」

物凄く良い笑顔で言い切られた。


頼む…持ち堪えてくれ、俺の財布


●第四章 ―可能性の迷路 其の煮― に続く

●あらすじ

何だかんだあってセーブとロードを活用したりお金の力をフル活用して、公国のブラックマーケットの取り潰しに成功した勇者一行。

その功績と公爵の娘の奪還と言う大儀を果たし、公国におけるマオウシステムの放棄を取り付ける事に成功した。


また、その途中で人魚と青年貴族と紅旅団を仲間に加え…領土の住人を一層色濃くするのだが………


押収品と共に、有耶無耶になったまま公爵の手に渡ってしまった5000万G。

残された財力はあと僅か…にも関わらず、訪れる危機。

最強の強敵エレナの容赦無い猛攻により、勇者は残りの全財産を失ってしまうのだった。

●第四章 ―可能性の迷路 其の煮―


―領主の館―

団長「それで…これが問題のブツです」

団長が差し出した物…それは皇国の国宝とされる物の一つ。女神の首飾りだった。


今回の事の始まりはこうだ。

以前ブラックマーケットを潰した際、応酬した品の中に…本来ならば金銭で出回る筈の無い物が幾つか雑ざっていた。

その中の一つが、この女神の首飾りだ。

他にも皇国において重要とされる品々が幾つも発見され…王国と公国はこれを報告。

皇国からも当然のように返還要請が行われ、両国共にこれを受諾。


そして、その返還役として命を受けたのが……俺達。勇者と紅旅団という訳なのだが………



勇者「これを皇国に届ければ、それで無事終了…と言う訳だな」

団長「はい、そうなりまさぁな」

勇者「だが………今回も、そうすんなりとは行かないんだろうな…」

団長「でしょうなぁ……皇国では今、怪盗アリスってのが好き放題やってるみたいですからなぁ」

勇者「………それはあれだな…」

団長「えぇまぁ、十中八九………」

―皇国中央公園―

勇者「やっぱり来た」

怪盗アリス「アンタ達が女神の首飾りを持っている事は知ってるんだ、それを渡せば命だけは助けてやるよ!」

勇者「包囲網敷いた上に殺す気満々の装備で言われても、説得力が無いな…」

団長「でさぁなぁ…」


際どい衣装に、顔を覆う仮面…まさに怪盗と言うのに相応しい姿で登場した、怪盗アリス。

その部下と思われる全身タイツの男達に囲まれる俺達。


怪盗アリス「やれやれ、人が折角親切に忠告してやってるって言うのに…素直に言う事を聞かない悪い子には…お仕置きだよ!」

アリスの合図で襲い掛かる男達。だがまぁ………ここは相手が悪かったと言うべきか。

団員達の手により、あっさり全滅。さすがは全大陸を股にかけていただけの事はある。


怪盗アリス「な…中々やるじゃぁないかい。こうなったら、霊獣で……」

手下「あ、姐さん…今回は、隷属の指輪を持って来て無いんじゃ…」

怪盗アリス「はっ!?…くっ………今日の所は見逃してやる!お前達!ずらかるよ!!」

そして、お決まりのセリフを残して撤退。


勇者「これで終わると良いんだが…」

団長「終わらないでしょうなぁ………」

―皇宮 謁見の間―

皇帝「ふむ………そなたが此度の勇者か…女神の首飾りの護送、ご苦労であった」

勇者「いえ、勿体無きお言葉…」

皇帝「聞く所によれば、道中で怪盗アリスに遭遇したとの事…新米の勇者と聞いておったが、大事は無かったか?」

勇者「お気使い感謝致します。団員の皆の活躍により、万事滞り無くお届けに上がる事が出来ました」

と、報告を終えた所で現れる女性……歳は今の俺と同じか一つ下くらい。全体的に線の細い体躯と、それを包む純白のドレス。

膝丈まで真っ直ぐと伸びた金色の髪に、済んだ蒼の瞳。その姿から皇女である事は一目瞭然だった。


皇女「お父様……少々宜しいでしょうか?」

皇帝「構わぬ」

皇女「初めまして…私は皇女、アリーツェと言います。貴方が勇者様ですね?この度の任務、ご苦労様でした」

勇者「国王様に続き、勿体無きお言葉に御座います」


皇女アリーツェ……俺はその名前だけは知っていたが、実際に会う事が出来たのは今回が初めてだ。

何故かと言うと前回は………

皇女「と言う堅苦しい挨拶はここまでにして……宜しければ皆様、夕食をご一緒に如何でしょう?」

団長「お、良いですねぇ。って事は久しぶりに皇女様の手料理が食べられるって事ですか」

皇帝「うむ、それは私も楽しみだ」


ん?何だこのアットホームな雰囲気は。ここは謁見の間で、目の前に居るのは………

団長「あぁ、旦那は初めてだから混乱してますなぁ。この国の王宮はこう言う所なんですよ」

…………何だそれは、前回はこんな事無かったぞ。

―皇宮 食堂―

勇者「皇帝と皇女が食堂で皆と食事………だとっ!?おかしい。ここは帝国か?何か歪が生じているのか!?」

団長「いやいや、ちゃんと皇国ですって」

勇者「それに…料理を作っているのが皇女!?あそこは食堂の叔母さんの聖域では無いのか!?」

勇者は混乱した。あぁいや、俺は混乱した。


勇者「しかも、割烹着を来ても尚失われる事の無い気品と優雅さ……これが皇国の崇拝対象たる女神の姿だと言うのかっ!!」

僧侶が崇拝する対象…それこそ一目で納得の行く姿だ…!!

団長「あれは女神じゃなくて皇女様ですぜ。勇者様、落ち着いてくださいな。ね?」

勇者「済まない…とり乱してしまった」

当然ながら落ち着ける訳が無い、だが表面だけでも平静を取り繕う。


皇女「お待たせしました、召し上がり下さい」

勇者「ありがとうございます」

そして眼前に出された料理は…ジャガイモを主役に豚肉と玉葱と人参………そう、これは 肉じゃがだ!!


お袋の味として定番とされる肉じゃがだが、皇女が作ったという事実だけでもキラキラと輝いて見える。これは何と言う魔法だ!?

勇者「では……頂きます!」


まずはメインのジャガイモ。これは………どう表現すれば良い?

アッサリとしていて、それでいてしつこくない?いや、そんな在り来たりな表現では料理に対して失礼だ。

そう……口の中に入れた瞬間に濃厚な味が染み渡り、食の本質を容赦なく叩きこんで来る……だが

決してその一撃を不快には感じない。そうだ、これは……皇女のか細い腕から繰り出される、乙女の拳

その行為に微笑を覚えながらも、決して苦痛とは感じられない拳その物だ!!


なら次は玉葱だ。…………うん、しっかりと火が通っていて、それでいて煮崩れて居ない。

普通に美味しい…だが何だ、この違和感は?そう…完成されているのに何かが足りない。

………そうか!そういう事か!!

うん、間違い無い。ジャガイモと一緒に食べる事で、その水分とジャガイモに染み込んだ煮汁が調和して二口目に相応しい調和を奏でている

……………これが福音の鐘か!!!


そして人参……そう、これは大きな衝撃を必要とはしない。ジャガイモと玉葱を味わった舌を、休ませるだけで…………

何だと!?


これは人参の青臭さでは無い。明らかに別格。柔らかい歯応えに馴れ切った口の中を引き締める歯応え…これは

そうか、牛蒡か!!人参の芯を刳り貫き、牛蒡が差し込んである!しかもこの牛蒡は、灰汁抜きをしていない!

一般的に牛蒡は灰汁抜きをする物と言われているが、実はそれは大きな間違いだ。

灰汁とされている成分には重要な栄養素が含まれている。疲れた体にはこれが染み込み…

あぁ、何と言う事だ。休むつもりで居たら癒されていた…これこそが皇女の慈悲………

断言しよう。この食事の時間は…こう、何て言うか救われている。


となると……これは…この付け合わせは……

あぁ、やはり人参の芯と皮……そして牛蒡と鷹の爪のきんぴら。煮込まれた牛蒡とはまた違ったシャキシャキの歯応え…

そう……もし物足りなさを感じた者が居ても、救いの手を差し伸べる……まさに救世手


しかし、異なる味ながらも微妙に感じるこの既視感…………そうか、これは胡麻油か。

肉じゃがときんぴら、両方に隠し味として存在し…食べ終えた所で後味としてその存在を僅かに示す……女神の悪戯か


俺はいつの間にか覇者にクラスチェンジしていた

団長「旦那…大丈夫ですか?何か雰囲気が…って言うか見た目が変わってるんですが」

覇者「大丈夫だ…いや、大丈夫な筈が無いな。この料理を食べて平常心で居られる筈が無い」

皇女「そう言って貰えると私も作り甲斐がりますわ。まだまだたんとありますので、宜しければ…」

覇者「おかわり!!と言うかむしろ、今この時に限らず毎日食べたいくらいです」

ここはもう即答である。そして心からの言葉だ。


皇女「え………?あの、それって…………」

頬を染めて真っ赤になる皇女。

……………………はっ、しまった。

覇者「あ、いや!すみません!そういう意味では無く!!」

皇女「あ…は、はい。そうですよね。すみません、私ったら………」

覇者「いえ、俺の方こそ……」

おっと、またクラスチェンジして勇者に戻った


皇帝「何だ、折角嫁の貰い手が出来たと喜んだというのに…ぬか喜びか?」

皇女「もう…お父様…!」

皇帝「しかし本当の所…お前が早く嫁に行ってくれた方が私も安心出来るのだがなあ…?のう?」

団長「全くでさぁ」

勇者「団長まで悪乗りをするな。皇女様が困っているだろう」


と言うかこの二人、いつの間にか飲んで居る。あぁ…酔っ払いの相手は帝王だけで十分だと言うのに、こんな所に来てまで…

皇女「あ、でも私は……その、勇者様さえ宜しければ………」

いけません皇女様。貴方の口からそんな事を言われたら、抗える男などこの世には……ん?


勇者「皇女様…?」

手元のコップから酒の匂い………誰だ皇女様に酒を飲ませたのは!

まぁうん…酒の勢いでの冗談ならば仕方が無い。皇女様も意外とあぁいう類の冗談を言うのだなと驚いた。

と考えてる暇も無く、俺に向かって倒れ込む皇女様。

俺はそれを咄嗟に抱き止めたのだが…


皇帝「ふむ…さすがにそういった事は二人きりの時にして欲しい物だが」

勇者「いや、どう見ても酔い潰れて倒れているだけでしょう!」

皇帝「はっはっは、判っている。しかしここで助けたのも何かの縁。そのまま寝室まで運んでやってはくれないか?」

勇者「はっ?!」


皇帝「深読みをするでは無い。言葉通りの意味だ。それとも勇者は、皇女をこんな酔った野獣達の巣窟に置き去りにする程薄情なのか?」

勇者「…………っ、畏まりました」

皇帝「あぁ、そうそう…」

勇者「何でしょうか?先に言っておきますが、襲っても良いとかそういう類の戯言は聞き流しますので」

皇帝「……………」

視線を逸らして沈黙しないでくれ!それでも父親か!!

勇者「では、これにて……」

―皇女の寝室―

勇者「…これで良し…」

皇女をベッドに寝かせ、毛布をかける。割烹着のままというのが少々問題かも知れないが、着替えさせる訳には行かないのでこのままにしておく。

勇者「さて……」

食堂に戻ろうとしたその矢先、袖の裾を摘まれる。誰にか?言うまでも無い……


皇女「勇者様……御迷惑をおかけしました」

勇者「いえ、お気になさらず。それよりもご気分は如何ですか?」

皇女「少しお酒が残っているようですが、もう大丈夫です。所で…一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

勇者「はい、私に出来る事でしたら何なりと」


皇女「言葉遣い…そんな無理に取り繕わず、自然にして話して頂けますか?」

勇者「……………やっぱりばれてたか」

皇女「えぇ、時々『私』が『俺』になられて居ましたので」

勇者「そんな所まで見られて居たとは…流石は皇女。侮れないな」

皇女「あ、その事なんですが…出来れば私の事は、アリーツェと名前でお呼び頂きたいのですが」

勇者「…………努力する」

何だこの可憐さと可愛さを兼ね添えた存在は…男殺しの才能が半端では無い。

皇女「所で…いきなりこんな質問をして可笑しいかとは思うのですが…勇者様は、この国をどう思われますか?」


勇者「この国?俺はまだこの国の事を余り知らないから、さっきまでの感想で良ければ…」

そう…俺はこの国の事を良く知らない。正確には、今回のこの国の事を。

前回の皇国は、教典に縋り現実を見て居ない…狂信者の国だった。王宮の内部も当然そうだった。

だが今回の皇国は、それとは真逆。笑顔と暖かさに溢れていた。


勇者「良い人が沢山居る国…勿論そうでない人間も見たが、それが俺の感想だ」

皇女「ありがとうございます。勇者様の口からそう言って頂ける事、とても嬉しく思います。ですが…悲しい事に、悪い面もその通りです」

勇者「………」

皇女「この国では…教典による教えで、この世を良くしようとする人が沢山居ます」

勇者「そのようだな…」

皇女「ですが…教典の教えを曲解させ、その人達を食い物にして自らの私腹を肥やす悪人が居るのもまた事実」


勇者「皇女様…貴方は、その現状を憂いて居るんだな」

皇女「はい………そしてそのような悪人は法の目を掻い潜り、今も闇夜に潜んで人々を苦しめています」

勇者「法も万能では無い…か」

皇女「その通りです…しかし、法と教典が無ければこの国が存在し得ないのもまた事実………そして」


勇者「何より、国民が法と教典を必要している…故に、先のような悪人が蔓延っている…と」

皇女「はい………権力の象徴たる皇家の物が言うのもおかしな話ですけれど、この国の権力者は明らかに腐敗しています」

皇女の言葉の意図は何と無くだが理解出来た


勇者「皇帝は法を守るため制裁を行えず……本来立ち上がるべき国民もまた……」

皇女「魔王と言う上位の悪……それを隠れ蓑にされ、権力者を覆すまでの行動を起こせない…と言うのがこの国の現実です」

勇者「……」

皇女「このような偽りの平和の上で、法がどれだけの意味を持つのか…そして、何者かがそのために犠牲になるのが本当に正しいのか…」


勇者「――――!!」


そうか……皇女という立場上、マオウシステムの事は知って居ておかしくは無い。だとしたら…

皇女「私は…貴方を死なせたくはありません。そして―――」

もしかしたら……ここが分基点なのかも知れない。


俺はセーブを行った

勇者「俺は魔王にもならない」


皇女「―――………え?何故それを……?」

勇者「掻い摘んで話すが…俺は未来から来たんだ」

皇女「…そんなご冗談を…え?でも……」

勇者「突拍子も無い事を言っているのは理解している。だが…魔王の仕組みを壊したいと思っているのはアリーツェと同じだ」

皇女「勇者様……」

勇者「当然、信じてくれとはも言えない……戯言と捉えられても仕方ないだろうな」


皇女「………」

勇者「………」


皇女「少し…考える時間を頂きたいのですが…」

勇者「…構わない」

そう言って、俺は部屋を出―――


皇女「では…後ろを向いて居て頂けますか?」

出られなかった。日を置くのでは無く、本当に少しの時間という意味だったららしい。

言われるままに背を向ける俺。

背後から聞こえる衣擦れの音。着替えている事くらいは容易に想像が付く。

まぁ…さすがに割烹着のままする話でも無いだろうし、ここは野暮な言葉で場を濁す事はしない。


皇女「もう…結構です」

促されるままに振り向く俺。そして。振り向いたその先には………

勇者「皇女………な、何を」


ネグリジェ姿のアリーツェの姿があった

皇女「私は決めました…勇者様の言葉の真偽ではなく、勇者様の瞳を信じたいと」

勇者「それはありがたいのだが……その…その恰好は……」

皇女「こんな恰好で言うのも変ですが…はしたいない女だとは思わないで下さい。私も…その…恥ずかしいのです…」


だったら何故!?……とは口に出せない。

判ってしまうからだ。

これは皇女なりの決意。俺…勇者と共に進むという決意。

だが、同時に判ってしまった……


勇者「俺が…俺の知る真実を話さなかったとしたら…アリーツェは、生贄にされる勇者への慰めとしてその身を捧げるつもりだった…」

俺の呟きと同時に強張るアリーツェの身体

皇女「それは……」

否定しきれない言葉と、よどみが告げる真実の肯定。


勇者「ならば…その行為は間違いだ。やりたい事と義務を繋げるのでは無く、まずはやりたい事を貫き…その後で、自分の心に問うべきだ」

皇女「勇者様…………」

勇者「では、俺はこれにて………くれぐれも風邪を引かないようにな」

皇女「勇者様の…馬鹿」

語調に僅かな笑みが含まれていた。そう、これで良かった筈。この選択で良かったと確信していた


次の日…あんな事が起こるまでは

―皇国中央公園―


皇帝「何故だ…何故こんな事になってしまったんだ………!!」


皇国中央公園…その中央に聳え立つ大樹の根元


団長「何でだよ…なんでよりによって……」


大樹を取り囲むように張られた縄が、野次馬の侵入を阻むその中央


国民「嘘……そんな……」


そこに…………


皇帝「勇者よ……何故皇女を抱いてやらなんだ……もしそなたがアリーツェを抱いていれば、いや…一緒に居てさえいれば……もしかしたら……っ!!」


無残に四肢を切り刻まれ、切り離された………


勇者「そんな……アリーツェ………」


皇女の…………アリーツェの 死体が あ っ た

>149 >151 こんな不意打ちに…悔しいのに(ビクビクッ)

―皇宮 食堂―

一人きり…他の何者も居ない食堂。

昨日の騒ぎが嘘のように静まり返り、肌寒さだけが突き刺さる。

厨房の奥には、昨日アリーツェが作った肉じゃがの残りが入った鍋。

もうそこに居ない彼女…もうそこに立つ事の無い彼女。

その彼女が残した痕跡。

俺はその鍋に手を伸ばし………途中で止める

勇者「いや…駄目だ」

そう…それを「彼女が残した物」にしてはいけない。


勇者「前回……俺がこの国に来た時には、アリーツェは既に死んでいた」

勇者「その時も、死因や詳細は不明なま謎の怪死扱いだった」

勇者「だが……今回のアリーツェは生きていた。生きていられる筈だった」

勇者「そして…その可能性はまだ潰えては居ない」


俺は静かに目を閉じ、ロードを行った。

―皇女の寝室―

勇者「大丈夫…俺は死なない。魔王に負けはしない」

もしかしたら…マオウシステムの存在を俺から言い出した事が原因なのかも知れない

そう…これなら…


―皇国中央公園―

勇者「口封じのために殺された…訳では無いのか……くそっ!!」

俺は目を閉じ、ロードを行った。

―皇女の寝室―

勇者「魔王に負けはしない…必ず朗報と平和を届けると約束しよう」

皇女「勇者様……貴方のその勇気の…糧に、少しでもなれるのなら…」

勇者「その気持ちだけ頂いておく。正直、そこから先を義務感で行われても罪悪感しか沸かないんだ」


皇女「……勇者さまの馬鹿」

勇者「その替わり……今夜は日が登るまでアリーツェの話を聞かせて欲しい。アリーツェ自信の事、この国の事…全部」

皇女「………はいっ」

そう…これで良い。これで今夜アリーツェは城の外に出る事無く、命を落とす事も無い。

事実、夜は明け、日が登り……

乗り切った。


―皇宮 食堂―

俺は…昨夜の残りの肉じゃがを味わっていた。

アリーツェが生きている…アリーツェがこうしてここに居る今を噛み締めながら………


結局この後何が起きるでも無く、ロード前に何が起きたかは判らず終い。

だが、これで良かった。アリーツェが生きているのなら、それ以上の事は無い。

そうして…女神の首飾りの輸送と、裏でアリーツェの救命という使命を果たし…俺は自分の屋敷に帰った。


―領主の館―

が…………屋敷に帰った俺を待っていたのは、アリーツェの死の知らせだった。

俺は目を閉じ、ロードを行った。

―皇国中央公園―


勇者「駄目なのか………どうしても」

俺は静かに目を閉じ、ロードを………


勇者「いや、待て…その前に、出来る事がまだあるんじゃないのか?」

…そうだ、アリーツェの遺体を確認するべきだ…もしかしたら、死因や状況を特定する何かを見付ける事が出来るかもしれない

俺はアリーツェの遺体を見た。

痛々しい程無残に切り刻まれた身体、ボロ布になるまで切り裂かれた衣服。


勇者「………これは、いや……」

そして気付く。原型を留めて居ないが、逆に…その衣服を繋ぎ合わせた姿を想像した時、そこに見覚えがある事に。

勇者「これは……怪盗アリスの服?」


そこで真っ先に浮んだ可能性は、皇女アリーツェ=怪盗アリスの構図。

怪盗がここで誰かを襲い、返り討ちに逢った…という筋書きならば、この上無く単純で説明も要らない。

だが、どうしようも無く喉に引っかかって姿を現さない違和感…それをそのまま飲み込む事は出来ない。

しかし、アリーツェ≠アリスであるのならば何故アリーツェがこの服を着ているのか。


それと……

勇者「この血の量……傷の状態に対して、明らかに少ないな……」


謎を解く筈が、また謎が生まれてしまった。だが…もうこれ以上、ここで得られる情報は無さそうだった。


俺は静かに目を閉じ、ロードを行った。

―皇女の寝室―

この夜…皇女を足止めしても先送りにしかならず、それを辞めた夜にはまた皇女が死の運命へと向かう。

この夜…俺が皇女と共に居る間、どんな行動を取っても結果は変わらない。

唯一の救いは、これがマオウシステムの影響下の出来事では無い事だが…


やはり……知るしか無い。

何が彼女をそうさせるのか…何が彼女を死地へと赴かせるのか…それを知らずして改変は成し得ない。


勇者「俺も……君を、アリーツェを死なせたくは無い」

皇女「………えっ…?」

勇者「結論から言えば…君は今夜、これから向かう先で殺される」

皇女「そんな……何故そんな事を……」

勇者「それは、俺が未来の記憶を持っているからだ」

皇女「そんな…いきなりそんな事を言われても」

勇者「魔王の仕組み…」

アリーツェの身体が強張る

勇者「いや、それだけでは証明としては薄いか。そうだな……」

ここから先は一つの賭けだ。


勇者「君が…怪盗アリスとして殺される事も知っている」


身震いするアリーツェ。どうやら賭けに勝つ事は出来たが、これで同時に一つの可能性も消えた。

無実のアリーツェがアリスの服と言う濡れ衣を着せられ、身代わりとして殺された可能性。


とは言え、原型を留めない程に引き裂かれた服ではその役割も果たさなかったのだが……

皇女「わた……くしは………死ぬ、のですね……」

勇者「アリーツェがこのまま死地に乗り込むのならば、必ずそうなる」

皇女「死んだ私は……どのような死に方をしていましたか?」


勇者「怪盗アリスの姿で…四肢を切り刻まれ、切り離されて死んでいた…………」


アリーツェは震える体を無理矢理に抑える

皇女「それで……その、私を殺した犯人は………」


勇者「…最後まで見付からなかった。それどころか、アリーツェの死因さえも謎のまま……」

皇女「そう……です…か」

弱々しい声で答え、更に言葉を続けるアリーツェ


皇女「勇者様は……例え無理だと判っていても戦わねばならない時が来たら、どうしますか?…いえ、どうして来られましたか?」

勇者「戦ってきた」

皇女「そう…ですよね」


勇者「アリーツェの覚悟は判る。だが………俺は、君を死なせたくは無い!!」

皇女「そのお気持ちだけで十分です。ですが、もし我儘を許されるのなら…私に思い出を下さいませんか?」


そうか……ここまで来て初めて気付いた。

彼女は、俺を哀れんでその身を捧げようとしてきた訳じゃない…

彼女自身が望んでいたんだ…不安を埋める何かを。

だが、それならば尚の事………


勇者「それは出来ない」

皇女「…………」

勇者「アリーツェはまだ思い出を作る事ができる…だが、その可能性を自ら閉ざそうとしているだけだ」

皇女「ですが……このままでは…」


勇者「アリーツェ…君が何かを隠している事は判っている。そしてそれを隠し通したいと思っているのも判っている。だが…」

皇女「………」

勇者「それは逃げているだけだ」


皇女「判って……居ます」


勇者「だからこそ…俺は君を追い続ける」

皇女「………え?」

勇者「追い続けて追い続けて…必ずその手を掴み、引き寄せてみせる」

皇女「勇者様………」

勇者「そして………アリーツェが望む物よりもずっと良い思い出を、嫌と言う程詰め込んでみせるさ」


皇女「では…お待ちしております。逃げ続けるしか無い私の手を掴んでくれる、その時を…」

そう言って身を寄せ、俺の唇に自らの唇を重ねるアリーツェ。

悠久にも感じるその数秒間の後…俺達は背を向け、踏み出した。


…それぞれの道を。


●第四章 ―可能性の迷路 其の算― に続く

●あらすじ

皇国の国宝『女神の首飾り』輸送の命を受け、皇国へと訪れた勇者。

しかしそこに待ち受けていたのは、怪盗アリスと皇女の肉じゃが。

胃袋を捕まれた勇者は、更に追い討ちをで据え膳を差し出されるが…辛うじてこれを回避。


だが…皇国での事件はこれで終わりでは無かった。

次の日の朝…中央公園で、凄惨な死を遂げた皇女アリーツェが発見されたのだ。


勇者はその結末を変えるため、過去へと戻る事を決意した。

しかし、何度繰り返しても救えない皇女の命。

一線の先に踏み込まねば変えられない運命…それを悟った勇者は、皇女の死の根源へと踏み込むのだった。

●第四章 ―可能性の迷路 其の算―


―領主の館 出発前―

団長『怪盗アリスは義賊なんでさぁ……ま、表向きはですけどね』

勇者『表向きは?』

団長『貧しい国民に金銭をばら巻いてるって実績がある反面で、何の罪も無い行商人が襲われたって話しもあるんですよ』

勇者『その行商人が悪徳商人だった可能性は無いのか?』

団長『無いとは言い切れませんが、薄いでしょうなぁ』

勇者『…そうか』


それが…事前に聞いていた怪盗アリスだった。

―皇宮上空―

満天の星空…皮肉なまでに美しく輝く星空の下で、更にその下の景色を見下ろす俺。

スキル『飛翔の翼』を使い、ある物を待つため皇宮の上空で待機を行う。


そして、程無くして現れるそれ……皇女アリーツェと思われる人物。

フード付きのマントを羽織り、周囲に気を配りながら皇宮の門を潜り抜ける。


彼女…アリーツェが向かうその先に、真相がある。

俺はその真相を突き止め…今度こそ彼女を死の運命から救ってみせる。


そう決めた。

―とある貴族の屋敷ー

そうして辿り付いた先は…意外にも、貴族の物と思われる屋敷。

勇者「いや……アリーツェがアリスなのだとしたら、貴族の屋敷に盗みに入るのは当然か」

勇者「だが、それだけのために命を賭けるだろうか?死を知らされて尚……」


しかし、考えを巡らせる暇も無く屋敷の中へと忍び込んで行くアリーツェ。

どうするべきか…追うべきか追わざるべきか…追うにしても、そんな手段を使うのが得策か

アリーツェは助力を望んでは居ない…そして、下手に手を出せば彼女を危険に晒してしまう可能性さえある。

ならば………


勇者「そうだ、この手で行くか」

思い立つと同時に俺は地上に下り立ち、門の前でその足を止める。そして……


その門を、力尽くで押し開ける。

―貴族の屋敷―

女貴族「な…何なの今の音!?」

衛兵「そ、それが……も、門が!門がー!!」

勇者「すまない、緊急事態な物で少し乱暴な手段を使わせて貰った」


女貴族「あ、あんたは………い、一体何なのさ!この国の常識って物を知らないの!?」

勇者「この国の常識を知らないのも確かだが、それさえ些細になる程重大な問題が発生した。この屋敷に、怪盗アリスが侵入したんだ」

女貴族「怪盗アリスが?そんな筈が無いじゃないの。大体、この壊れた門をどうしてくれるのよ」

自信満々に言い切る女貴族。自分にはやましい事が無いとでも言いたいのだろうか?一体その自信はどこから来るのやら…


衛兵「あ、いえ……ですが…今調べた所、罠の一つが作動した形跡が…」

そう報告した衛兵を睨み付ける女貴族。

女貴族「っ……そうね……もしかしたら、本当に怪盗アリスが侵入したのかも知れないわね。見付け次第、即刻始末しなさい」


勇者「それは困る。怪盗アリスは生け捕りにして、盗品の在り処を吐かせなければいけないんだ」

女貴族「はぁ?何を勝手な事言ってるのさ。何様のつもり?」

勇者「あぁ…そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は勇者…皇帝の命により、怪盗アリスの確保を仰せ付かっている」


女貴族「ぬぇ゛………っ!?」

まぁ当然そんな事は口から出任せなのだが…この女貴族には効果的面のようだ。

勇者「では案内してもらおう…怪盗アリスが狙うと思われるような物がある場所にな」

女貴族「そ、そうは言うけどねぇ?この屋敷にはそんな物一つも無い訳だし……」

言いよどむ女貴族。罠まで張っておいてその反応は無いだろう…と言うか、先程からおかしな発言が幾つもあった。

これは何か一枚噛んで居る。そんな確信を持った所で…


衛兵「大変です…何者かが宝物庫に!」

女貴族「―――!!」

報告に来た衛兵を睨み付ける女貴族。これはもう確定だろう。


勇者「すまない、最後の方は良く聞こえなかったんだが…何者かが侵入しているようだな」

衛兵「あ、いえ……何者かが侵入した…あくまで、可能性があるというだけで………」

勇者「それはいけない。よし、俺も侵入者の探索を手伝わせてもらおう。もしかしたらそれが怪盗アリスかも知れない」


女貴族「この馬鹿!」

衛兵「す、すみません…でも、あの隠し扉の仕掛けは絶対に…」

聞こえてくる会話は内緒話のようだが、俺の耳には丸聞こえだ。そうか…隠し扉か。

時間をかけて虱潰しに探せば見付かるかも知れないが、そんな悠長な事をしている余裕は無さそうだ。

どうするべきか……あぁそうだ、こんな時こそセーブとロードを活用しよう。




勇者「なるほど…暖炉の裏と井戸の底の石を同時に押す事で開く扉か。確かにこれを見付けるのに時間がかかった」

そうして裏庭で見つけた隠し扉の先にあるのは、地下室へと続く階段。俺は迷う事無くその階段を下り…ついに見つけた。


皇女アリーツェ…いや。怪盗アリスを。

―地下へと続く階段―

怪盗アリス「勇者様…?何故ここが……」

勇者「俺は未来と今を行き来しているからな…このくらいは造作も無い。しかしアリーツェ…ここまで来た以上はもう隠しても仕方ないだろう」

怪盗アリス「………」


勇者「話して貰うぞ。死を知って尚、君がここに来た理由を…」

怪盗アリス「…判りました」

ついにそれを語り始めるアリーツェ


怪盗アリス「まず始めに…ご存知の通り、私…皇女アリーツェは、巷を騒がせる怪盗アリスです」

勇者「…そのようだな。何故こんな事をしているんだ?」

怪盗アリス「法では捌き切れぬ者達から財を取り戻し、救い切れぬ人達の下へと返すためです」


勇者「成る程…では、何故罪の無い物達まで襲った?現に俺達も、この国に来た時………ん?いや待て…そうか」

怪盗アリス「お気付きになられたようですね。そして、その答えはこの先にあります」


促されるままに進める足。階段を下りきった先は、平坦な床。そして……

―地下宝物庫―

勇者「これはまさか……怪盗アリスに盗まれたとされる品々か」

怪盗アリス「はい、その通りです。勇者様を襲撃した怪盗アリス…偽アリスが、罪無き人々から奪った物です」

勇者「成る程な…この偽アリスの悪行を暴くために本物が馳せ参じた…と言う訳か」


よくよく考えてみれば、最初の襲撃の時点でおかしかった。

怪盗アリスがアリーツェならば、実質上自分の物に等しい女神の首飾りを奪いに来る利点が無い…


怪盗アリス「その通りです」

勇者「だがしかし、一つ解せない所がある。命の危機を知って尚一人でこれを行おうとした理由は何だ?皇女という立場を使えば、他にも…」

怪盗アリス「それは出来ません。我が国は教典の教えと法とにより秩序を保っている事はご存知ですよね?」

勇者「あぁ、そうか…そういえば先刻も言っていたな。法では裁く事が出来ない…だから怪盗アリスとして奪い返すしか無かった…と言う事か」


怪盗アリス「はい、そして…」

勇者「更には……その象徴たる王族が自ら法と教典を破った事が知られれば、国その物が危ぶまれる。故に国を頼らず一人で事を起こさねばならなかった…」

怪盗アリス「……その通りです」


勇者「…今更だな、怪盗アリスになった時点でその覚悟はしておくべきだった。でなければ、もし誰かに捕まってしまったら…」

怪盗アリス「覚悟は出来ておりました」

勇者「………そうか、そうだったな。その覚悟の結果を、今まで散々見せ付けられて来たんだ。愚問だった、忘れてくれ」

怪盗アリス「はい、忘れました」

くっ…この男殺しめ……

勇者「だがな…ここまで来た所で、あえて言わせて貰おう」

怪盗アリス「何でしょう?」

勇者「それを聞いた上で、まだ尚アリーツェを死なせたくは無い。法にも教典にも逆らおうとも、君を助けたい」

怪盗アリス「勇者様………」


勇者「とは言ったが………アリーツェとしての最善は、法と教典を守りつつ事を解決する事なんだろうな」

怪盗アリス「………はい、申し訳ありません」

勇者「ならば…その両方を叶える解決策を取ろう」

怪盗アリス「そんな奇跡のような策をお持ちなのですか?」

勇者「持っては居ない。だが………奇跡を起こすのは勇者の役目だ。そこにアリーツェの力も少し借りたいがな」


怪盗アリス「勇者様ったら……」

勇者「ではまず、確認だが………アリーツェは今ここで全ての宝物を奪還するつもりだったんだな?」

怪盗アリス「はい」

勇者「しかし、それでは根本的な解決にはならない。ここで成功しても、終わるまで繰り返している内に、アリーツェが敗北する」

怪盗アリス「………」

それも最悪の結果…アリーツェが怪盗アリスとして偽者の罪を着せられるという敗北でだ。

物のついでに言うならば、恐らくは今まで俺が見て来たアリーツェの経緯はこうだろう……

女貴族…偽アリスの館に侵入するアリーツェ。それを返り討ちにする女貴族

そして、怪盗アリスの殺害後にその正体がアリーツェだと知り………この屋敷に捜査の手が伸びないように、中央公園に死体を遺棄。

死体の衣服がボロボロだったのは、恐らく意図した物では無い…罪を着せるのならば、なるべく判り易くした方が良い筈だしな。

その部分だけはまだ謎が残っているが、これで事態の殆どは飲み込む事が出来た。


勇者「では次に…俺かアリーツェが憲兵に此処の事を知らせた場合の想定だ。どんな自体が予想される?」

怪盗アリス「勇者様が憲兵に通報した場合……まず、其処に到るまでの経緯を聞かれるでしょう」

勇者「そこは多少話を作ったとしよう。それで、この状態のまま憲兵をここまで連れて来た後はどうなる?」

怪盗アリス「恐らくは…怪盗アリスが仕組んだ罠だとでも言って言い逃れをするでしょう」


勇者「そんな言い分が通るのか?」

怪盗アリス「疑わしきは罰せず………現場を押さえるか確固たる証拠がなければ、恐らくは逃れられます。特にここ最近では…」

勇者「偽アリスの行動が、非道な物になっている…実際にそれをやり兼ねないと思われている…か」


怪盗アリス「………はい」

勇者「なるほど………どうにかなるかも知れないな」

怪盗アリス「本当ですか?」

勇者「あくまで上手く行けば…だがな。そして、そのためにはアリーツェにも危険な橋を渡って貰う事になるが…」

怪盗アリス「覚悟の上です」


あぁ…そうだ。俺は何を今更言っているんだ。確認するまでも無く、アリーツェはとっくの昔に覚悟を決めて居たんじゃないか

俺は………彼女が弱い皇女だという一方的な思い込みで、勝手に救おうとしていた。これは本来、彼女の戦いだと言うのに…な

そうだな、だからか。いつもならば無意識の内にやっていたこれが、彼女に向けられなかったのは。


勇者「アリーツェ」

怪盗アリス「はい」

勇者「すまなかった。俺も一緒に戦わせてくれ」

怪盗アリス「はい!」


アリーツェをパーティーに加えた


勇者「では手順を教える。まず俺は一旦、皇宮に戻り―――」

>185 すみません、誤字ですorz
王族→皇族 で脳内変換お願いします

―貴族の屋敷―

女貴族「くそっ、あの勇者のせいで確認が遅れたわ。怪盗アリスめ、やっぱりアタシの宝物庫に忍び込んだのね」

女貴族「あの勇者は本当にもう帰ったんだよねぇ!?」

衛兵「はっ、その筈です。緊急の用事につき、皇宮に帰ると言っておりました!」


女貴族「だったらその隙に、早く怪盗アリスの足取りを追わないと………ん?んんん?へぇ……」

衛兵「どうしました?」

女貴族「何だい、まだ居るみたいじゃないか。騒ぎに乗じてとっとと逃げ出せば良かった物を……欲の張り過ぎは身を滅ぼすわよぉ」

―地下宝物庫―

女貴族「さぁ、観念をおし!」

怪盗アリス「―――!? ………っ!!」

女貴族「何っ!?早―――…っ、まぁ良いさ。ここは絶壁に囲まれて、出口は正門一つか無い。しかも……」

衛兵「はっ、我々衛兵団30人が待ち構えております。不意を突いて忍び込むならまだしも、正面突破など」

女貴族「だわよねぇ…ま、念のためコイツも持って行こうかしら」

―正門前―

衛兵A「馬鹿な!この数の包囲を摺り抜けて行っただと!?」

衛兵B「くそっ!門を抜けて路地に出られたぞ!………だが、まぁ大丈夫か」

衛兵C「あぁ…門の外にはあいつ等が居るからな」

―屋敷前の路地―

怪盗アリス「っ……これは…魔法!?」

魔術衛兵「意外だったろ?足の早さに自身がある奴は、大抵この手で捕まるんだよなぁ、ヒャッハッハッハ!!」

怪盗アリス「くっ………」


魔術衛兵「おっと、雇い主様のお出ましだ」

女貴族「まったくあの衛兵共…これで逃がして居たら、減給どころの話しじゃなかったわよ。まぁ、捕まえたみたいだから不問にしてあげるけど」

怪盗アリス「…………」

女貴族「さぁ…随分とてこずらせてくれたじゃないの。どうしてくれようかしら。そうねぇ…まずはそのマントと仮面を剥ぎ取って、その正体でも…」


勇者「何をしている!!」


女貴族「なっ……って、何よ、さっきの勇者じゃないの。丁度良い所に戻って来たじゃない、今丁度怪盗アリスを捕まえ…」

勇者「皇女に何をしているかと聞いているんだ!!」

女貴族「……………えぇっ!?な、何を変なこと言ってるのよ、こいつは皇女なんかじゃなくて怪盗アリス……」

俺の言葉に驚愕し、アリーツェのマントに手をかける女貴族。そして、そのマントの下から姿を現したのは…


女貴族「な…何で!?どうして!?」

町娘のような服を着て、その手に女神の首飾りを握った皇女アリーツェだった。


勇者「極秘に女神の首飾りを移送する皇女を、怪盗アリスが襲撃するという情報があったんだが…戻って来てみれば案の定か」

憲兵「女貴族殿…これは一体どういう事ですかな?私はそこの御仁を貴方の手下が捕らえる様子をハッキリ見ましたぞ」

姿を現す、この地区担当の憲兵


女貴族「何なのよそれ!知らないわ!!だってこいつは、アタシの屋敷から逃げ出した怪盗アリスなのよ!?」

痛々しい程に狼狽する女貴族。それを見て口を開くアリーツェ

皇女「事情はよく判りませんが、何か誤解があるのかも知れません。勇者様、憲兵様、どうでしょう?ここは女貴族さんの話を聞いてみては?」


女貴族「あぁっ、ありがとうございます皇女様!」

勇者「判りました…当事者である貴方がそう言うのなら」

憲兵「私も異論はありません」


そして尋問が始まった

―正門前―

勇者「そもそも…女貴族は、怪盗アリスに盗みに入られたと主張しているが。その点からして疑問だな」

憲兵「と、言いますと?」

勇者「俺がこの屋敷を探索した時には、怪盗アリスの目当てになるよな物は一つも見あたらなかった」


女貴族「探索……そうよ!そもそもアンタがアタシの屋敷に侵入した時も、怪盗アリスが侵入したからって言ってたじゃないの!!」

憲兵「本当ですか?勇者様」

勇者「あぁ本当だ。怪盗アリスがあの屋敷に入って行くのを確かに見た」

女貴族「ほら見なさい!」


憲兵「では…そこから脱走者が居ないのであれば、その時点から屋敷の外に出た人物…あるいは屋敷の中にまだ居る人物が怪盗アリスという事に…」

衛兵「あ、いえそれが……怪盗アリスは正門を越えて一度屋敷の外に脱走してしまいました」

術師衛兵「でもよ、そこで出てきた怪盗アリスはちゃんとこの俺が捕まえたぜ?」


憲兵「では…館から出てきた怪盗アリスと思わしき人物と、貴方達が捕らえた皇女様は同一人物であると?」

術師衛兵「あぁ、間違い無え」

女貴族「なっ……そんな筈がある訳無いでしょう!?アンタ達が見間違えて、アリスじゃなくて皇女様を捕まえたんじゃないの!?」

術師衛兵「そんな事あるはず無えだろ!素人かよ!」


勇者「証言が大分食い違って居るようですね」

憲兵「これでは…証言の信憑性も怪しい所ですな」

女貴族「っ………!!」


憲兵「勇者様は、怪盗アリスがこの屋敷から脱出する所を目撃されましたかな?」

勇者「いや、俺はそこの女貴族が皇女様に手を出している所からしか見てない」

憲兵「ふむ………ではやはり、先に挙げた可能性…怪盗アリスはまだ屋敷の中に居る、と言う線が濃厚になりますな」


女貴族「えぇ、そうなるわね」

憲兵「では、真偽を確かめるためにも屋敷の中を検めさせて貰いましょう。丁度応援も来たようだ」

女貴族「え?…え、えぇ。良いわよ」

狼狽しながらも平静を装う女貴族…探られて痛い腹があるのだから当然だが

それで尚平静を保って居られるのは、隠し部屋…地下宝物庫が見付かる筈が無いと踏んでいるからだろう


勇者「あぁ、そうそう。そう言えば井戸の底と暖炉に何か違和感を覚える石があったな…もしかしたら怪盗アリスと何か関係があるかも知れない」

女貴族「なっーーー!?」

憲兵「判りました。そちらも調べてみます」


この時点でチェックメイトだ。そして問題は…この女貴族が、どうやってボードをひっくり返すかなのだが

―貴族の屋敷―

憲兵「勇者様の言う通り、暖炉と井戸の石がに仕掛けがありました。そして、その先の隠し部屋…いえ、宝物庫には…」

女貴族「……………」


憲兵「怪盗アリスに盗まれた品々と、怪盗アリスの服がありました。これはもう、動かぬ証拠でしょうな」

女貴族「濡れ衣よ!!……そ、そうだわ!そこの皇女こそが怪盗アリスの正体なのよ!!全部そいつがアタシに罪を擦り付けるためにやったのよ!!」

ここに来てやっと頭が回ったようだが、もう遅い。とっくに手遅れだ


勇者「と、主張しているんだが…」

憲兵「と言われましても、これはどう見ても……」

皇女「流石に私としても…真犯人という冤罪までかけられてしまっては…」

勇者「………だろうな」


憲兵「まず…この屋敷に怪盗アリスが入る所を勇者様が目撃した。しかしそれは…盗みに入られたのでは無く、盗みから帰って来た所だった…」

勇者「そして…」


憲兵「皇女様を襲撃した怪盗アリスが、苦し紛れに口から出任せを吐いて…挙げくに皇女様を犯人扱いしている。これが真相としか言いようがありませんな」


女貴族「なっ……!!そうね…そういう事ね?アンタ達、みーぃんなグルだったって訳ね!!」

いや、憲兵だけは中立だ。


勇者「それは…お前自身が敵しか作って来なかったために、そう見えてしまっているだけだろう」

女貴族「良いわ……だったら皆ここでまとめて片付けて、何もかもが無かった事にしてあげるわ!!」

応援が来た時点で上層部に報告が行っているだろうし、そんな事をしても無駄なんだがな…


女貴族「来なさい!霊獣!!!」

女貴族がそう叫び、指輪を高く掲げた所で姿を現す『何か』

まず始めに首輪のような物が現れ、そこを基点に輪郭を形作って行くそれ。そしてそれは、一匹の獣…翼の生えた豹のような物へと変わる。


その爪…その牙………もう幾度と無く見てきたからこそ判る。この獣こそが…アリーツェを惨殺した『死因』その物だ。

勇者「そして………その後の死体を、ここを捜査の目から離すために中央公園に棄てた…と言った所か」

呟き…歯軋りをする俺。だがそんな事には構わず、女貴族は霊獣をけしかける。

女貴族「さぁ、やぁっておしまい!!」


勇者「アリーツェ。これを使うんだ」

そう言って道具袋から弓矢を取り出し、アリーツェに渡す俺。

女貴族の言葉のままに俺への突撃を繰り出す霊獣。


人一人を砕くのに十分な程の威力の質量を持って、俺へと迫り来る…

勇者「………」

…が、俺はその頭を軽く掴んで制止するして
更にその手で首輪を掴み…霊獣をごと持ち上げて、アリーツェへと差し出す。


皇女「…………」

弓を引き絞るアリーツェ。

そして放たれ矢は、真っ直ぐに霊獣の首下へと迫り………


首輪を破壊した


すると、霊獣は糸が切れたように地に伏し…見る見る内に子猫の大きさまでその身を縮めていった。


女貴族「そんなっ……霊獣を隷属させてる首輪を壊すなんて……」

丁寧に解説ありがとう、だからと言って温情は無いがな。


勇者「それで良いのか?こいつは、何度もアリーツェの命を…」

皇女「その記憶は私にはありませんし…あったとしても、この子自身には何の罪もありませんもの。勇者様さえ良いのでしたら……」

そう言われてしまったら、もうどうにか出来る筈が無い。何と言うか、うん…さすがはアリーツェだ


女貴族「くうっっ…!!まだよ!霊獣がやられても、まだこっちには衛兵が山ほど居るんだからね」

ヒステリー声を上げ、衛兵を召集する女貴族。

そして、渋々ながらも自分達の証拠隠滅のために臨戦態勢に入る衛兵達。


俺とアリーツェもそれに対して構えを取るのだが………思わぬ所から介入者が現れた。

つい先程まで子猫大にまで縮んで居た霊獣である。

いつの間にかその体躯は翼の生えた白い虎へと変わっており、今はまだ静かに瞼を閉じている。


その様相から霊獣もまた臨戦態勢な事が伺え…ある可能が脳裏を過ぎる

隷属から解放された霊獣の暴走………

衛兵よりも厄介な相手になる事は間違いが無い。俺はその可能性に備えて、剣を構えるが……

予想外にも、瞼を開いた霊獣は女貴族と衛兵達を睨み付けた。


勇者「どういう事だ?………あぁ、まさか」

パーティーメニューからある内容を確認する俺。


アリーツェの勇者特性………『テイマー』

と…それをしている間に、霊獣の手により衛兵達は片付いて居た…

女貴族「な…何なのよ、だらしないわよアンタ達!まだ生きてるんなら、ちゃんと戦いなさいよ!」

衛兵A「…………くっ…」

衛兵術師「……何で俺達がこんな目に…」


皇女「お止めなさい!」

そして戦況を決定付けたのは皇女の言葉………


皇女「この方々に…もうこれ以上罪を重ねさせるてはいけません…」


女貴族「何を今更甘っちょろい事言ってるんだい!もう全員引き返せないんだよ!」


衛兵C「…………そう…なんだよな。俺達もう…」

衛兵B「だって俺達、皇女様に刃を向けちまった訳だし………」

衛兵A「…引き返せない…よなぁ」


皇女「そんな事はありません!」

衛兵B「…えっ?」

皇女「過ちを…罪を悔やむ心があるのなら、貴方達の心はまだ救われる事が出来ます」

衛兵C「でも………」

皇女「当然それは容易い道ではありません…ですが、私はここで断言します。貴方達はまだやり直せる…と」

衛兵A「…………」

皇女「そして………私は、私に刃を向けた事を赦します。今までの罪は消えませんが…それに対する償いは、貴方達自身で行えると信じています」

衛兵B「………」

衛兵C「………」

アリーツェの言葉により、次々と女貴族へと向き直る衛兵達。


もう完全に決着はついた。

もう完全に決着はついた。


確信を持って心の中で反復するその言葉…

………そう……アリーツェの死を回避するための戦い…そして、偽アリスとの戦い…その二つに決着がついたんだ。

正直な所、馴れない頭脳労働をしたせいか結構限界が近かったんだが……おっと、まだ後片付けが残っていた。

最後にもう一人登場して貰わなければ………


勇者「さて…女貴族よ、これでもう満足したか?大人しく罪を償え」

女貴族「そんな事…する訳が無いでしょう!?アタシはただの偽者で、あっちの女が本物のアリスなのよ!?何であいつの罪まで!!!」


勇者「よし、聞いたな?」

夜の闇の向こう…その奥に向けて問いかける俺。

女貴族「………え?何……そんな………」

そして姿を現すのは…憲兵長。罪人を裁くための証人として、これ以上の人物は居ない。


憲兵長「…安心しろ、女貴族よ」

微笑んでそう言う憲兵長。あぁ…そう言えばこんな話を聞いた事がある


女貴族「え?じゃぁ……」

憲兵長「例えお前が本物ではなく偽者だったとしても、一生檻の中から出られん事に変わり無い」

肉食獣の笑顔は、捕食前の生理現象なのだとか…

女貴族「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


こうして…皇女アリーツェが非業の死を遂げる結末は回避された

のだが…この話はもう少し続く。

―領主の館―

皇国での一件から数日経ったある日の事。俺の下に皇女…アリーツェからの小包が届いた。

中身は………まず、手紙のようだ


皇女からの手紙『勇者様、お元気ですか?こちらはあれから色々な事があり、国は大きく変わりました』


エレル「そう言えば皇国って……」


皇女からの手紙『皇国は、あの事件をきっかけに…皇族や貴族を初めとした特権階級の一切を廃止解体、または移住させる物と決め』

皇女からの手紙『多少の貧富の差はあれど、今では皆が平等な立場で暮らせる国へと変わりる事が出来たのですが…』

皇女からの手紙『ただ一つ…困った事が起きてしまったのです』


勇者「何だ?また何か問題事が起きたんだろうか?」

小包の奥…保存魔法のかかった鍋を取り出しながら続きを読む


皇女からの手紙『特権の廃止と同時に、教典の自由化…各々の信じる物を記す許可を出したのですが…それが間違いでした』


勇者「どういう事だ?教典に関する問題…まさか、また曲解による詐称……いや、まさか謀反や離反を促し広げる者でも………」

エレル「そうそう、最近こんな教典が出回っているんですよね。何でも、今までに無いくらい多数の人が推し勧め信仰する教典らしいんですが…」


実物を手にして開く俺。そして、目録の頁で見付ける………「姫怪盗アリス」という項目

案の定、皇女は…皇女アリーツェと怪盗アリスというカリスマ的存在して描かれていた。

読んでみて判った事だが………皇女の事を良く知る国民からすれば、もはや周知の事実だったらしい。

あと、偽アリスの女貴族は…皇女の温情で、監視付きながらも終身刑は免れたようで…

今では、衛兵達共々略奪品の返還と謝罪に奔走する身となっているとの事。


勇者「なるほど、これは本人からすればかなり恥ずかしい事だろうな。しかし………」

鍋の蓋を開けると共に保存魔法は解除され、湯気と同時に食欲をそそる何とも言えない良い匂いが鼻腔を刺激する。


皇女からの手紙『詳細はあえて伏せますが…私は皆の見解を改めさせ、教典を正しき道へと正す努力をして行こうと思います』

皇女からの手紙『勇者様…こんな私ですが、どうかこの目的の成就を祈って下さい』


そして俺は……鍋の中の肉じゃがを摘みながら、この事で一つだけ確信を得る

勇者「そればかりは…うん、無理だろうな」


●第四章 ―可能性の迷路 其の死― に続く

●あらすじ

皇国で怪盗アリス事件を解決し…新たなヒロイン皇女アリーツェと、打倒マオウシステムへの協力を得る事に成功した勇者。

しかし、本当の問題は解決して居なかった。

『偽怪盗アリスを倒し、真怪盗アリスとなった事でカリスマを得たアリーツェ』

権力の解体と教典の自由化により広められたその事実は、エリーツェのテイマーとしての力を以ってしても覆す事が出来なかったのだ。

●第四章 ―可能性の迷路 其の死―


―大統領邸宅―

大統領「―――成る程、理解した。だがそれは、一種の洗脳では無いのかね?」

合衆国…大統領邸宅での謁見。

大統領に前回での出来事と俺自身の計画の内容を話し…返って来た言葉がこれだった


ナビ「一個人の理想により、他の思想や価値観を変化させる…確かに洗脳と言えなくは無いが、それに関しては国政も違いは無い筈」

大統領「解釈を広げればその暴論も通るだろうが…問題は対象となる国民の意思なのだよ」

勇者「………」


大統領「この国の国民は、マオウシステムを望んでいる…心から欲している。何故か判るかね?」

ナビ「人類間戦争の際に、その再来を防ぐための手段だと理解したから」

大統領「その通り…ただでさえ様々な人種が共存している我が国で、何故大規模な内部戦争が起こらないか…判るだろう?」


勇者「だがそれは仮初の平和だ。魔王と言う共通の敵に敵意を向ける事で、現実から目を逸らしているに過ぎない」

大統領「仮初結構。現実に平和を保っていられるのだから、それ以上を望んで壊すような選択は私には出来ないね」

勇者「……っ」

ナビ「これ以上は水掛け論でしか無い。では逆に問う…マオウシステムの破壊に賛同するには、どのような条件を揃えれば良い?」


大統領「そうだね………我が国は民主主義国家だ。国民の過半数の指示を得られればそれに賛同する…と言いたい所だが……」

ナビ「内容が内容なため、情報の開示と結果の集計が不可能」

大統領「そうなる訳だ」

ナビ「では、具体的な妥協案の提示を求める」

大統領「………何とまぁ、図々しいと言うか図太いと言うか……まぁ、良いだろう。そう言うからには無茶な条件でもこなしてくれるのだろうね?」


勇者「…受けて立とう」

―合衆国南部地区―

勇者「そして………その条件の内、最後の一つが…」

ナビ「この州における奴隷問題の解決」

エレル「奴隷制度は、今の大統領によって廃止されたって聞いてたんですけど…」


勇者「それはあくまで表面上だけの物だ。公国のブラックマーケットでも見たように、裏では一部の者達が未だに奴隷の売買を行っている」

そう……前回と変わらず、忌むべき存在として残っているそれ。

多くの憎しみと敵意を生み出す、潰さねばならない仕組み…


エレル「でも……どうやってその人達に奴隷の売買を止めさせるんですか?」

勇者「それは…」

ナビ「実力行使…対象を説得する事が出来れば理想だが、それが叶わない場合は身柄の拘束…または殺害して止めさせる他無い」


エレル「ぁー…やっぱりそうなっちゃいますよね」

ナビ「ただそれは…権力者側に解決を求めた場合の話し」

エレル「と言いますと…」

勇者「逆に…奴隷にされる者達が、奴隷にされる事態を防げばこの仕組みは瓦解する」

―南部地区 州知事邸―

州知事「はじめまして、私が州知事のアルジャーノン・シュバルッツイェーガーだ。君が新たな勇者だね、噂は聞いているよ」

勇者「恐縮です」

州知事「なんでも、大統領の命でこの州の人権問題を解決してくれるそうじゃないか。私も協力するつもりなので、何か出来る事があったら言ってくれ」

ナビ「では早速…この周辺で幅を利かせている大富豪の情報を求める」

州知事「任せてくれたまえ、それならもう既に準備してあるとも。そのために特殊警官も配備させたのだからね!」

余談ではあるが、前回来た時はこの人物は州知事では無かった。つまり…


ここ数年でまた落選するのだろうな……


―大富豪の館前―

エレル「それにしても…合衆国に来てからの勇者さまって、ずっと鬼気迫るような顔してますよね」

ナビ「………それは、恐らく前回の合衆国での記憶による物だと思われる」

エレル「それ、私も聞いて良い内容ですか?」


勇者「そうだな…共に行動して貰う以上、話しておいた方が良いかも知れん。そう、あれは前回この地区に来た時の話しなんだが……」

―過去の南部地区中央市場―

勇者「大丈夫か?」

少女「ぁ……え………」


食料の買出しで市場を歩く俺……

ふと目に入ったのは、道の隅で蹲る少女の姿。

見れば、近くには割れた瓶…恐らくは少女が割ってしまった物だろう。


勇者「落としてしまったのか…怪我は無いか?」

少女「あ…いえ……怪我はありませんが…お酒が……どうしよう、ご主人様に……」

と、その言葉を聞いて召使か何かなのかと思案する俺…だが少女の姿は、連想するそれよりも遥かにみすぼらしく…そう

大富豪「こらキサマ!奴隷の分際で主人を待たせるとは何様のつもりだ!」

その予想を裏付けるかのように、護衛を連れて判り易く登場する…それ


勇者「どういう事だ…奴隷制度は大統領の命により廃止された筈だぞ」

大富豪「プッ…プヒャハハハハ!何だ!?お前はどこの田舎者だ?そんな物は表向きの政策に決まっているじゃないか」

勇者「ふざけるな!そんな悪行を、この国の法律が許す筈が……」


大富豪「馬っ鹿だなぁぁ?許されてるからこうして居られるに決まってるだろう?見てみろよ、あの男。私服警官だけど俺を見逃してるんだぜ?」

そうやって目を向けた先には、コートの男…こちらの視線に気付き、慌てて襟で顔を隠す。

…………なる程、この国は国家権力からして既に腐っているようだ。

となれば……その根を少しでも引き抜いておかねばなるまい。俺は静かに勇者の剣を引き抜く…が、それを私服警官に止められる。


勇者「何故だ…何故止める」

警官「………」


大富豪「何故って?何故って?殺人未遂を止めるのは当たり前だろう?お前馬っ鹿じゃないの?」

勇者「っ……」

警官「………お願いです、ここは引いて下さい」

広がる騒ぎ…集まる人々。奴隷の少女の姿も、大富豪の護衛の一人の姿も消えている。


この状況での行動は不味い…幾ら察しの悪い俺でもそのくらいの事は理解できる。

不本意ながらも、俺は撤退せざるを得なくなった。

―過去の大富豪の館 地下室 ―

が………だからと言って諦めた訳では無い。

危険を承知で大富豪の館への潜入を行う事にした俺…

下水道を通り、魔法を駆使して忍び込んだ大富豪の館…その地下室。そこで俺が見た物は……


大富豪「まっ…! たく!! お前の…! せいで!!!」

少女「ッー!!! ……!!!」

少女の柔肌を打ち、血を滲ませる大富豪の鞭…

これでもかと言う程に判り易い悪人面を見せてくれる。


大富豪「ハァッ……! ハァ……!! まだ気を失わないのか、今日は頑張るじゃないか…よし…ご褒美にこれをくれてやろ―――」

これ以上は口に出すのも耳にするのも汚らわしい。


俺は天井を蹴破り、大富豪と少女の間に割って入る。


大富豪「ヒィッ!?貴様……ひ、昼間の田舎物!?」

こんな奴には自己紹介すらする気になれない。俺は無言で勇者の剣を抜き、構える。

が………一目散に逃げ出す大富豪。

すぐさま追いかけても良いのだが、今はそれよりも……


勇者「大丈夫か?もう心配は要らない、助けに来たぞ」

奴隷の少女の開放…こちらの方が先だった。

治癒の秘術を使い、身体の怪我は治した…が、心の方まではそうは行かない。受けた拷問の爪跡は、少女の脚を竦ませていた。


少女「わ………私は大丈夫です。で、でも…お父さんとお母さんが……!!」

成る程…そういう事か。両親を人質にしていれば、逃げられない…それを枷としていた訳だな、あの外道め。

勇者「心配するな。二人とも必ず助け出す。君はここで待って居るんだ」

そう言い残し、再び大富豪を追う俺…


そして、そこで待ち受けていたのは―――

―過去の大富豪の館 地下収容所―

勇者「何…だ、これは?」

幾重にも重ねられた金網の床の、更に下……そこに広がる光景は………


勇者「これは…皆、ここに居る全員が奴隷…なのか?」

檻の中に閉じ込められた、大勢の奴隷達。


大富豪「そうさぁ……その通り。こいつら全員奴隷共だ」

そして、衛兵を引き連れて再び姿を現す大富豪。

勇者「貴様………!!!」


大富豪「とは言ってもぉ…ここに居る奴等なんて、一山幾らの安い奴等なんだがな?無駄に飯代ばっかりかさんで仕方ない」

皆のやつれようを見れば、まともな食事を行って居ない事くらいすぐに判る。

俺は歯軋りをする程顎に力が篭った。そして、それを見るなり…

大富豪「あぁ、そうだ。良い事を思い付いた」

と、わざとらしく言って見せる大富豪。

大富豪「俺様の館に忍び込んで来た田舎物を、どんな方法で苦しませてやろうか考えてたんだけど…こんなのはどうだろう?」

その言葉には悪意しか感じられなかった。

そして、その悪意を実際に見せ付けられたのも…ほぼ同時の事………


勇者「―――――」

檻の壁から突き出る槍。握り拳程の間隔で並んだその槍は………回避の余地無く、檻の中の奴隷達を皆殺しにした。


大富豪「うぅぅん、良いねぇ…誰かが死ぬ所って。自分が生きてるって事を実感させてくれるじゃないか」

勇者「…………き…さま…っ!!!」

大富豪「それに、田舎物に対する効果も抜群だ。良いよその表情。凄く良い」


駄目だ………コイツは一分一秒でも長く生かしておいてはいけない………そう思った正にその時

少女「…………うそっ…おと…う…さん? おかあ…さん……?」

その存在に気付いた。


俺の後を追いかけて来て…そして……両親の死を見てしまったその少女に。

そして…そこから先の出来事は凄惨の一言に尽きた。


不意に…少女の身体の中から飛び出したのは、巨大な獅子の姿をした何か…そう『霊獣』だ。

恐らくは少女の両親…その唯一の枷を壊してしまった事で、解放されたその獣…

怒りに狂った霊獣は瞬く間に衛兵を蹴散らし、抗う隙すら与える事無く大富豪の喉下へと食らい付く。

大富豪は苦し紛れに懐から何かを取り出す…が、その何かを使う事無く絶命…


俺は、その光景をただただ見守る事しか出来なかったのだが…

今思えばその不甲斐無さが悔やまれる。

蹴散らされて、尚生き延びた衛兵の奇襲。衛兵の槍が少女の身体を貫き、その命を奪い去ったのだ。


少女「え…? ぁ………私…… 嘘…?」

その命の灯火を失い、倒れる少女…

一矢報いて笑みを浮べる衛兵…だが、その頭を霊獣が噛み千切る。


宿主を失って、尚暴れ回る霊獣。

地下室を無茶苦茶に駆け回り、辺り位置面は炎の海へと変わる。

生き延びた者も…瀕死だった者も………等しく死体という終着点へ辿り着く地獄絵図。


その中でただ一人…霊獣に襲われる事の無かった俺は、事の全てが終わるまで立ち尽くして居た。

―大富豪の館前―

エレル「成る程……で、その悲劇を繰り返さないために…今回はどんな手を使うつもりなんですか?」

勇者「………革命だ。奴隷となっている者達に戦う力を与え、自らの力で自由を勝ち取らせる」

エレル「その手で行きますか………じゃぁ、私もその案に乗る事にしますが…一応、この時点でのセーブも忘れないで下さいね?」

勇者「ん?あぁ…そうだな」


促されるままにセーブを行った。


エレル「それで…具体的にはどんな方法で戦う力を与えるんですか?戦闘訓練には時間が足りないですし、パーティーにも加えられそうにないでしょう?」

勇者「それに関しては…これを使おうと思う」

エレル「道具袋?それって、物が沢山入る魔法がかかっては居ますけど、戦闘では………あぁ、成る程。そういう事ですか」


勇者「そういう事だ。それに当たって、まずは囚われている奴隷達を脱出させようと思っているんだが……」

エレル「そこまで聞けばもう言わなくても判りますよ。で、どこに連れて行けば良いんですか?」

勇者「街から出て南に向かった所に、彼等の部族が住んでいる遺跡がある。そこに連れて行ってくれ」

エレル「判りました。では勇者さまとナビちゃんは先に行ってて下さい」

ナビ「了解」


勇者「頼んだぞ…エレル」

―南部地区の遺跡―

族長「この度の事…何と礼を言えば言い事か…今はせめてもの持成ししか出来ないが、ゆっくりとして行ってくれ」

勇者「いや…その気持ちだけ頂く。それよりも、ゆっくりしている暇は無いと思うんだ」

族長「と言う事はやはり…」


勇者「あぁ………全てが解決した訳では無い。もうしばらくすれば、追っ手の兵士達が来る筈」

族長「では、どうなされる?我々は全力をもってそれを退けるつもりだが…」

勇者「恐らく…それだけでは第二波第三波が来ていずれ押し切られてしまうだろう」

族長「そう考えるのであれば、何故…」


勇者「だから…ただ退けるだけでは無く、圧倒的な力を見せ付ける。争う気さえ起こらない程の力で押し返せば…」

族長「成る程………お考えはよく判りましたが、それはあくまでも理想の産物。今の我々にはそんな力は……」

勇者「ある。これを使ってくれ」

そう言って俺は道具袋を取り出す。


族長「はて…それは一体………」

エレル「これは、色んな物が沢山入る魔法の袋です。そして、この中に入っているのは………」

勇者「身を守るに足りるだけの……武器だ」


そう……この中には、前回得た武器の全て…店で買った物から世界最強の槍や弓矢などと言った、彼等に扱えるであろう物が全て詰め込まれている。

―南部荒野―

追っ手との決戦…

いや、正確には追っ手などと言う生温い物では無かった

騎兵隊にバリスタ…大砲馬車に飛空挺。奴隷を連れ帰るという名目にはそぐわない大部隊が襲撃を仕掛けて来たのだ。

その采配の無茶さから、大富豪の性格の悪さが見て取れる。

大方…

『この俺様の元から逃げ出しただとぉぉ!?絶対に許さん!奴等の故郷ごと、肉片一つ残さず消し去って来い!』

とでも言われたのだろう。

だが…それだけの軍勢を前にしたその上で、何も問題は無かった。


エレル「左30度、上方15度…はーい、そのまま撃って下さい。あ、そっちは馬車の車輪さえ撃って貰えば大丈夫です」

戦闘開始早々に駆動機関を撃ちぬかれ、無力化される飛空挺。

車輪を壊され、射程範囲内に辿り着く事すら出来なくなった大砲馬車。

バリスタに至っては、矢を全て壊されてしまえばただの弓。


これらの攻撃により、騎兵隊の戦意もいとも容易く打ち砕かれ………

―南部地区の遺跡―

族長「かんぱーーーい!!!」

夜にはもう、当然のように祝杯が挙げられて居た。


そう……この功績により圧倒的な力の差は明らかとなり、二度とこの部族が襲われる心配は無くなった筈。

道具袋の中の武器も、最上級の武器を含めて殆どがまだ手付かず……それでいてこの戦果だ。

恐らくは、合衆国中で奴隷にされている人々をこの方法で開放すれば……この問題に決着を付ける事が出来る。

そう確信したその時………


幼女「お兄ちゃん………本当にこれで良かったのかな?」

声をかけて来たのは、前回奴隷にされていた少女…今回はまだ少女とも呼べない程幼い、幼女だった。


勇者「大丈夫だ…これで皆、平和に暮らす事が出来るようになる」


そう………皆が平和に暮らす事が出来る筈だった。

だが……現実は俺の予想の斜め上を突き抜けて進んでいた。



大富豪の襲撃を退け、一夜を明かした俺達…

しかし、その目覚めを歓迎したのは不自然なまでの静寂。


祝杯の翌朝とは言え、静か過ぎる…そう、いびきどころか物音の一つさえ聞こえて来ない…明らかな異常。

嫌な予感を抑え切れず、他のテントを探る俺…だが、誰一人として見当たらない。

夜襲…それによる誘拐…そんな事が脳裏に浮ぶが、そんな考えは次の瞬間には吹き飛ばされた。


遥か遠く…南部地区の街中から立ち昇る煙…そして、その煙を作り出す根源である炎。

それを瞳に捉えた時、俺は足を踏み出して居た。

―南部地区 中央市場―

そして辿り付いた街中…中央市場…

そこで、現実に目の前で繰り広げられているのは………

虐殺……一方的な大虐殺。


力を得た部族が、今まで受けた恨みを晴らすために反撃に打って出たのだ。


大富豪を討ち果たしてもその切っ先は止まる事無く、無関係な正規国民達を巻き込んでの大惨事を巻き起こしている。

いや…厳密に言えば無関係では無いのかもしれないが、その報復としてはあまりにも………


酷い目に逢わされた者は、それ以上の事をやり返さなければ気が済まない…

憎しみが憎しみの連鎖を生み、その結果齎された結果が………これだった


幼女「お兄ちゃん…霊獣が、凄く悲しんでる………」

こんな戦場には場違いな幼女。戦力としてなのか、近くに置いて身を守るためなのかは判らないが、恐らくは他の者に連れて来られたのだろう。

…そして、幼女が言葉を紡ぎ終えると共に…


その喉を貫く、流れ矢。


その子は、小さく痙攣を繰り返した後…暗く沈んだ目を俺に向け、息絶えた。


●第四章 ―可能性の迷路 其の誤― に続く

●あらすじ

合衆国の奴隷問題………

打倒マオウシステムを支持する条件として出された難問の最後の一つ。

勇者はそれを、奴隷達に戦う力を与える事で解決しようと試みたのだが……

結局は力の上下関係が入れ替わっただけで、解決には到らず…新たな問題を浮き彫りにするだけだった。

●第四章 ―可能性の迷路 其の誤―

―大富豪の館前―

俺はロードを行った。

エレル「それで…具体的にはどんな方法で、戦う力を与えるんですか?戦闘訓練には時間が足りないですし、パーティーにも加えられそうにないでしょう?」

勇者「いや……その事なんだが…もう少し、やり方を変えてみようと思う」

ナビ「状況に対する発言から察するに…」

エレル「失敗して…ロードしてきた後の勇者さまみたいですね」

ナビ「……数少ない私のセリフ…」


エレル「それで…どんな感じで失敗したんですか?」

見透かされている…と言うよりも、今思えばセーブを促された時点で予期されていたようだ。

俺はロード前の状況をエレルとナビに話した。


エレル「やっぱり…この国は判り易いくらいに二分されて、お互いを認め居ませんからねー…」

ナビ「正規国民と奴隷等の形式で搾取される者、非正規国民…この国に住む者でありながら、全く異なる待遇を受けるそれら」

勇者「そもそも…何故大統領はその格差を無くそうとはしないんだ。奴隷を禁止したのなら…いっそこの――」


エレル「格差その物を無くしたら、今の秩序その物がが無くなってしまうからですよ。正規国民と言うのは、言わば貴族の大量生産版ですからね…」

ナビ「国益のために命を捨て、国益と共に生きる者…それ故の待遇」

勇者「つまり…」

ナビ「それだけの覚悟が無い者を正規国民にしてしまった場合のリスク…その大きさを考えれば、格差を無くす事は出来ない」

エレル「そして当然、今までの正規国民がそれを納得する事も出来ない…」

勇者「………」


解決の糸口はまだ見えない………だが、立ち止まっている訳にもいかない。

―南部地区の遺跡―

族長「ふむ………では、貴方はこう言いたい訳か……」

族長「大富豪の屋敷に囚われている奴隷を助け出す代わりに、一切に報復行為を行うな…と」

勇者「その通りだ。そのためなら―――」


族長「申し出は有り難いが…その約束は守れませんな。故に、恩恵だけを頂く訳にはいかない」

勇者「なっ………何故だ!?攫われてしまった彼等の事は心配じゃないのか!?」

族長「当然心配だ…一刻も早く戻って来て欲しいと思って居る。ですが……彼等が戻って来たからと言って、我等の怒りは収まる物では無い」


勇者「大富豪の存在…奴が生きている事が…」

族長「それもありますが…それだけでは無い。正規国民から我々が受けた仕打ちを考えれば……」

勇者「………」

それを論破するだけの言葉が俺には無かった。

―南部荒野―

勇者「ならば…どうすれば良い?どうすれば悲劇を生む事無くこの問題を解決出来る?」

大統領が条件として引き合いに出す程の案件……当然、簡単に行かない事は判っていた筈。

だが、先の見えないこの問題に追い詰められる。

人と人との対立…憎しみ………マオウシステムが無くなれば更に深刻化するこの問題。


人は強くなれる…その可能性を持っている。

だが………それが容易では無い事も判っている。


いや、駄目だな。悪い方向にばかり考えていては見付かる希望も見付からない。

ならばどうするか……そう、悪い部分も飲み込んだ上でどうするか考えるだけだ!

そう決意した瞬間……ふと視界の隅を何かが通り過ぎた事に気付く。


勇者「あれは…ブーメラン?」

こんな所で、誰が何のために?…いやそう遠くは無いのだから、直接見に行っても問題は無いだろう。

足を進める俺…そして、そのブーメランの発着点に居たのは………


少年「わっ! お、お兄ちゃん誰!?」

恰好…肌の色、髪の色…一目で判る、正規国民の子供だ。何故こんな所に?

そして…更に驚く事に………


幼女「あ、お兄ちゃん」

部族の…あの幼女も一緒に居た。

少年「誰?知ってる人?」

幼女「うん、奴隷で捕まってる人達を助けてくれるって言ってくれた人」


子供故の軽口………と言う様子でもない。恐らくは、相手を信頼しているからこそ、話しているのだろう。

少年「本当?あの人達を助けてくれるの?」

勇者「それは…」

幼女「あ、でも…族長様が断ってた…」

少年「何で!? あのままじゃ良い訳無いんだから、助けてくれるんなら助けてもらわないと!」

壊れ易いまでに純粋な言葉…


幼女「でも…助けて貰ったら、多分仕返ししちゃうって族長さまが…」

少年「そんな……でも…」

そして、そんな言葉さえも詰まらせてしまうこの現実。


沈黙がその猛威を振るう中…俺は、ふと先程気になった事を口に出してみる


勇者「ところで君は…正規国民の子供じゃないのか?」

少年「そうだよ?」

勇者「この子と一緒に居て、何も言われないのか?」

少年「言われるよ。ママからも、非正規国民の子と遊んじゃいけないって言われてる」


勇者「だったら、何故…」

少年「ママの言ってる事が間違ってるし、僕がこの子と遊びたいから。ブーメランの作り方だってこの子に教えてもらったんだよ!」


あぁ……そうか…………


勇者「だったら…」

勇者「そうだな………このままで良い筈が無いな」

少年「お兄ちゃん?」

幼女「お兄ちゃん?」


答えはこんなにも簡単な所にあった


勇者「二人は…お互いの事を傷付けたり、嫌な事をしたいと思うか?」

少年「絶対思わない!」

幼女「思わない!」


勇者「よし………なら助けて来る。待って居てくれ」

―南部地区の遺跡―

族長「………我々の同族を助けて頂いた事は感謝する……だが、以前言われた約束は…」

勇者「その事は気にしなくて良い。貴方達は貴方達の思うように行動してくれればそれで良い」

族長「………申し訳無い」

勇者「謝る必要は無い。何故なら………」

族長「何故なら?」


勇者「俺も思うように行動するからな」

―南部荒野―

そして………再び巻き起こる荒野の戦闘。

ロード前と何ら変わる事無く、対峙する大富豪の衛兵と部族達。

部族達には前回同様に武器を持たせ、今回はエレナに助力はさせない。

と言うか……この戦いにおいては、一切の手出しをさせないように頼んである。

そして、俺はと言うと………


勇者「さぁ、始めろ!!」


双方の陣営のど真ん中に位置取り……


戦いの火蓋を切って落とす

―戦場―

部族民A「な………何なんだあの人は!一体何を考えてるんだ!?」

勇者「お前達は争いたいんだろう!?さぁ、早く弓を引け!!」

部族民A「ヒッ……!!ど…どうなっても知らないぞ!!」


気圧されるままに矢を射る部族民…そして、その矢を切り払う俺


勇者「お前達もだ!俺を倒さない限り彼等に指一本でも触れられると思うなよ!」

騎兵A「何だと言うんだあいつは…えぇい、大砲馬車、撃てーー!」


号令と共に放たれ…迫り来る砲弾。今度はその砲弾を拳で撃ち…破裂させる!


勇者「双方とも弾幕が薄いぞ!!もっと本気を出してみろ!」


雨霰……俺のみならず、互いの相手の陣営に対して振り注ぐ矢と砲弾。

だが、俺はその全てを打ち砕き、また元の立ち位置へと戻る。


勇者「どうした!それがお前達の全力か!?蛙の水鉄砲の方が威勢が良いぞ!!」

騎兵B「おのれ……舐め腐りおって!ならばこの俺が相手だ!!」

勇者「まだまだ、そんな気迫で相手になると思うな!」


鎧の上から響く拳を一発…騎兵は馬から振り落とされ、その場で気を失う。


勇者「何だ何だ、もう終わりなのか?だったら……こっちから行くぞ!!」


北と南に分かれた陣営…人数では無く割合で戦力が均等になるよう、それぞれを殴り倒して行く

が…それはあまり意味が無かった


勇者「おいおい…たったこれだけで全員お寝んねか?鍛え方が足りないんじゃないか?」


双方が呆気なく全滅したからだ。

だが………それで終わりでは無い。


エレル「勇者さまは、一体何を考えているんでしょうね」

ナビ「戦場に居る皆の敵意を自分に集めている。あれではまるで………」

エレル「マオウシステムその物…ですよね」


勇者「仕方が無い…出血大サービスだ。全員元気になって立ち上がれ!!」

治癒の秘法……それをこの場の全員に使い、一人一人を起き上がらせる。

勇者「さぁ来い…さぁ!さぁ!さぁ!!お前達は戦いたいんだろう?戦いに来たんだろう?それとも、無抵抗な相手でなければ戦えないのか?」

部族民B「何なんだ…一体何をしたいんだ………」

騎兵C「狂ってる………あいつ狂ってやがる!!」


失礼な事を言ってくれる


勇者「狂っているのはどっちだ。本当に俺は狂っているのか?お前達は狂って居ないのか?」

騎兵C「あ…当たり前だ!お前のような狂人と一緒にするな!」

勇者「ならば行動で示してみろ!狂って居ないのならば、どういう行動を取れば良いか考えてみろ!」


部族民C「…………」

勇者「勿論お前達もだ!自分が狂って居ないと言うのなら、行動で示してみろ!」

騎兵D「くっ………らぁぁぁぁぁ!!!」


乗る馬が逃げても突撃を仕掛けるその心意気やよし…だが、それは間違いだ。

俺は鎧の上から胴に一撃を放つ。そして、治癒の秘法でそのダメージを癒す。

大砲馬車兵「この………化け物めぇぇぇ!!!」


錯乱したためか、検討違いの方向へと放たれる砲弾………

俺はおろか、部族民達の誰一人にも当たる事の無い軌道で岩陰へと向かうそれ。

当然ながら避ける必要は無く、迎撃の必要は無い。

だが…だからと言ってそれを見逃したのが間違いだった。


岩陰へと着弾し、破裂する砲弾………そして同時に、爆音に隠れて聞こえる小さな悲鳴。


そう……爆煙が収まると共に姿を見せたのは………

勇者「――――っ!!?」


あの少年と幼女だった。

少年と幼女の下へと駆け寄る俺。他の何かを考えるよりも先に、まず治癒の秘法で二人の傷を癒す

……が、二人の意識は戻らない。


俺は奥歯を噛み締め……怒りを抑えて大きく息を吸う。

勇者「お前達…………今一度聞くぞ………本当に狂って居るのは誰だ!!?」

二人の身体を抱き上げ、叫び声を上げながら問う


大砲馬車兵「お………俺じゃない!俺は少年を狙った訳じゃ…」

バリスタ兵「な…何でこんな……」

騎兵B「だ、第一!こんな所に子供が居る事が………」


言いたい事は判らないでも無い…俺も最初は、こんな場所に居る事に驚いた。

幼女を通して、少年もここで争いが起きる事は知っていた筈。にも関わらずここに来て居たのは…

恐らく、それ程までにこの事態を心配していたと言う事なんだろう。

そういう意味ではこの子供達に非が無い訳では無いが………


勇者「悪いのはこの子達………そう言いたいのか?」

そこに付け入るのは大きな間違いだ。


騎兵B「ち、違う…第一、こんな事で争いにならなければ!!」

騎兵A「そ………そうだ!元はと言えば奴等が脱走した事がこの争いの始まりだったんだ!!」

部族民B「何を言う!貴様等が我等の同族を奴隷にした事こそが根源だろう!」

部族民C「大統領の宣言した秩序とは何だったんだ!俺達をあんな目に遭わせて!!」

部族民D「そうだ!その上あんな幼い子までその手にかけるなど…!!」

騎兵A「あんな物は方便に決まっているだろう!国益を考えれば、貴様等非正規国民の人権など―――」


勇者「この………大馬鹿者共!!!!」

騎兵A「ひっ!?」

部族民B「っ…!?」


勇者「この子達の…この子達の願いは、ただ仲良く一緒に居たかった…たったそれだけだった!」

勇者「そんな子供達の願いを踏みにじって…何が部族だ!!何が正規国民だ!!何が国家だ国益だ!!恥を知れ!!!」

騎兵B「………」

部族民C「………」

勇者「いい加減気付け………お前達がやるべき事は、誰かのせいにする事なのか?誰かのせいにしてその怒りをぶつける事なのか?」

部族民D「………」

勇者「誰かに命じられたから…その誰かのせいにして、間違った事をする事なのか?」

大砲馬車兵「………」

勇者「誰かが間違いを犯したから…自分も間違えて楽な方に進む事か?」

騎兵A「………」


勇者「違うだろ……お前達がするべき事は、誰かのせいにする事じゃぁ無い。自分と同じにならないよう……誰かの『ため』に何かをする事じゃないのか?」


部族民A「そう………だよな…」

騎兵A「………何で…こんな風になっちまったんだろうな…」


勇者「それに…この戦いで、お前達は感じたはずだ。戦いの虚しさ…そして終わりの無い痛みの無益さを」

騎兵D「………」


ナビ「把握…」

エレル「共通の敵になるんじゃなくて…両陣営を嫌と言う程ボコボコにして、目を覚まさせる作戦……だったって事ですね」

ナビ「信念を以って争いに臨む者ならばいざ知らず、所詮は上辺だけの憎しみや金銭目的で刃を振るう者達…」

エレル「痛みを思い知れば、相手が痛みを感じる事も知る…言って判らない大きな子供には、叩いて教えろって事なんでしょうが………」


ナビ「回りくどい。もっと円滑な方法を取っても良かった筈…それに、あの子供達が現れなければここまでの説得力は生まれなかった。詰めが甘い」

エレル「同感です。まぁ、勇者さまらしいと言えばらしい作戦なんですけど…」

だったら最初からもっと良い方法を教えてくれ。生憎と俺は不器用だから、こんな方法しか思い付かなかったんだ。

勇者「お前達の中で、あの痛みと苦しみをまだ味わいたい者は居るか?」

騎兵G「か……勘弁してくれ!」

部族民E「痛みと苦しみを味わう事は恐ろしく無い………だが、其処に意味が無いのならば話しは別だ」

騎兵F「俺だって…不毛な痛みは御免だ」


部族民B「なぁ………お前達はまだ戦いたいのか?」

騎兵B「なっ!?なななな、冗談じゃねぇ!もうこんなのはゴメンだ!!」

騎兵C「俺もだ!こんな目に遭って続けてられるかよ!」

部族民C「戦いを止めて……それからまた俺達を虐げるか?」

大砲馬車兵「出来る訳……無いだろ。あの子達を見てみろよ……」


族長「そう………見た目は違えど、皆同じ赤い血が流れる人間だ。誰もが同じように苦しみ痛み…時には楽しみ…そして、生きている」


エレル「血の色が違う魔族も、同じように生きているんすけどねー…」

ボソッとでもこの状況で言うな、台無しだ。

ナビ「更に言えば…命ある者は、死んでしまえば皆等しくただの肉塊」

間違っては居ないが縁起でも無いからそういう事は言うな


その場に居た全員が戦意を失い……いや、目の前の現実に気付き、刃を納める。

そして……

少年「っ………」

幼女「ん…………っ」


騎兵A「おぉ………」

部族民A「おぉぉぉぉぉ……」

騎兵B「良かった!目を覚ましたぞ!!女の子の方も無事だ!」

部族民B「男の子の方も…大丈夫か?物はハッキリ見えるか?」

皆が階級の…そして民族の壁を越えて、子供達の目覚めを祝う。


少年「あれ……皆、喧嘩してたんじゃ…」

騎兵A「もう仲直りしたのさ…」

幼女「じゃぁ…もう仲良くなっても…良いの?」

族長「あぁ…もう良いんだ。辛い思いをさせたな……」


ナビ「戦場では…否、他の戦場ではもっと多くの命が…それこそ彼等よりも幼い命が蹂躙されてきた…」

エレル「その戦場では、何で今回みたいに行かないのか。物分りが悪いのか…そこが納得できないって感じですねー」

ナビ「肯定する」

エレル「その答えは簡単ですよ。他の戦場ではこんな風に当たり前の事を考えるだけの余裕が無い…それだけです」

ナビ「つまり………殺さずに諭す手段を取った勇者の………」

エレル「それだけじゃありませんよ。最初に手を取り合ったあの子供達…二人の起こした奇跡が重なって、これだけの結果を残したんです」

ナビ「理解。しかし………」


騎兵E「………」

当然ながら、中にはまだ踏ん切りが付かない者も居る…

だが、それでも敵意を奮い立たせるだけの気力も大儀も残ってはいない。

ひとまずはこれで一安心だ………

そう、ひとまずは。

そして…それが過ぎると、今度は大きな問題が……待ち受けている筈の問題が、わざわざ向うからやって来てくれたようだ


大富豪「なぁぁぁぁぁあにふざけた茶番で和んじゃってるのさ!!お前達!高い給料払ってるんだからさっさとそいつ等を皆殺しにしろぉぉ!!」

小型飛空挺に乗って現れるそれ…今回の諸悪の根源、大富豪だ。

勇者「…と言ってるが、どうする?」

騎兵E「………あれを聞いて、逆に踏ん切りが付いた」

騎兵D「あぁ…人間あぁはなりたく無いって見本だからなぁ」

勇者「………だ、そうだ。これを期に、いっそお前も改心……」


大富豪「するかよ!してたまるかよ馬ぁぁぁ鹿!!その浮ついた脳天にこれでも食らえ!!」

という言葉と共に小型飛空挺から投下されたのは………判り易い外見の爆弾。

しまった、この状況は不味い…直撃は勿論、この距離では撃ち落としても被害は免れない。

エレルの空間転移なら……いや、ダメだ。律儀に手出ししないスタンスを貫いて、動こうともしていない。

となれば………以前は不発に終わったあれを―――

と思ったのだが、今回もその必要は無かった。


巻き起こる爆発と爆音………だが、俺達は傷一つ負う事無く、ただこの状況を静観していた。

少年が発した青白い光の壁…それが俺達を爆弾から守ったからだ。


大富豪「な……何だよそれぇぇ!!?」

どうやら、また俺はやらかしていたらしい。

……と、言う事は…だ

大富豪「ぴえぇぇ!?っ!?」

うん…幼女の方の勇者特性は「霊獣の巫女」…霊獣の力を何倍にも強化する特性のようだ。

前回の時点では無かった筈の翼やら鎧やらが追加で形成されている。


おっと、幼女に気を取られたて忘れていた…

大富豪は霊獣により飛空挺を撃墜されたようで………思い出した頃には、俺達の前に落下した後だった。


騎兵A「さて…こいつはどうする?」

騎兵B「さすがにこいつを生かしておくと、後々面倒だよな…」

部族民A「恨みつらみ以前に、こいつを野放しにする事は出来ないな……」


警官「いや…そいつの処遇は私達に任せてくれませんか?」

突如、岩陰から姿を現す私服警官。あぁ…そうい言えば居たなこんな奴。


騎兵C「アンタは一体何者だ?」

警官「私は、国家直属の特殊警官隊員。訳あって極秘にその大富豪の調査をしていました」

あぁ…州知事が言っていた特殊警官とはこの男の事だったのか。


勇者「…極秘という割りには、警官だって事がばれていたようだが…」

警官「それは、あくまで一般の私服警官という偽の情報を与えていたからです。その甲斐あって、私が特殊警官である事はばれませんでした」


………それで良いのか?

大富豪「何だ…何だって言うんだよそれ!!お前達何も判って無い!何で国がこの俺様を本気で捕まえられないのか、全然判って無い!!」

そう言って懐から何かを取り出す大富豪…そう、これは前回発動する事が無かった何かだ

警官「あれは…まさか!!?くそっ…持ち歩いて居たのか!」

大富豪「そうさぁぁぁ!その通り!!!こいつは古代兵器『アトラス』のスイッチだ!みぃぃんな消えて無くなれ!!」


警官「いけない!早くあれを止めないと―――」

大富豪「もぉぉおう、おそぉぉい!!」

スイッチを押す大富豪

警官「あ………あぁぁぁぁ…………」

そして落胆する特殊警官


各々の反応から察するに、それが途轍も無く危険な物…と言う事は判るが、全容が掴めない。

勇者「取り込み中の所をすまないが…アトラスと言うのは、具体的にはどんな兵器なんだ?」

警官「我々の手が届かない程の天高くまで上昇し、その後に下降。着弾と共に広範囲…合衆国全土を焦土と化す程の爆発を発生させる大量殺戮兵器です」

成る程…確かにとんでもない規模の凶悪な兵器のようだ


勇者「それを止める手段は?」

警官「ありません…一度発射してしまった、もう誰にもそれを止める事は出来ない……もうこの国はお終いです」

国ごと破壊してしまう兵器…そんな物をこの大富豪は隠し持っていた…そして、使ってしまったのか。


勇者「今はどの段階だと予想している?」

警官「恐らくは…下降を始めた辺りかと」

富豪「そうさ、よく判ってるじゃないか!もう何もかもが手遅れだ!プヒャヒャヒャヒャ!!!」

エレル「では私がー…完全にとは言えませんが、何もしないよりはマシな程度には……」

と、名乗り出るエレル…確かにエレルの転移魔法を使えば、何とかなるかも知れないが………俺は腹案を思い付いていた。

勇者「いや、待て…それよりも俺とあの子達を転送してくれ。場所は―――」


エレル「…成る程、その手がありましたか。では行きますよ!」

―??????―

少年「ここはどこ?」

幼女「何か、不思議な感じ…」

勇者「ここは…そうだな、簡単に言えば………」

少年「言えば?」

幼女「いえば?」


勇者「皆を守る事が出来る場所だ!」


少年「本当?」

幼女「すごい!」


勇者「さぁ………俺達で合衆国を守るぞ!!」

―大気圏外 アトラス周辺―

下降を始めたアトラス

どんどん高度を下げ…

目指すは指定された着弾点………スイッチが押されたその場所。


そしてアトラスは、合衆国全土から視認する事が出来る程の距離まで近付いて行く

―合衆国全土―

国民A「何だあれ……とてつもなくデカイ物が振ってくるぞ」

国民B「ねぇ……あれってヤバいんじゃない?」

国民C「に…逃げないと!!」

国民D「どこにだよ……今からじゃどこにも逃げられないだろ」

国民E「って言うかあれ……形からして隕石とかじゃないよな」

国民F「もしかして…爆………」

国民G「おい、止めろ」

―大気圏内 アトラス周辺―

合衆国全土が恐怖と混乱に包まれる中…そんな事は意にも介さず下降を続けるアトラス。

その巨躯は、まるで先にある物全てを叩き潰す鉄槌のように…地上へと迫る


………が、それを貫く一筋の閃光


地表より放たれたその閃光は、アトラスを…そして、アトラスが巻き起こす筈だった爆発さえも飲み込み……

空の遥か彼方へと消え去って行った

―戦場―

大富豪「な、なな何が起きたんだ!?アトラスは一体どこへ消えた!?」

エレル「星天の柱による迎撃ですよ。あれの前では、いくらアトラスでも簡単に吹き飛んじゃったみたいですねー」

大富豪「そ…そんな…馬鹿な…」


勇者「破壊するだけの力など、所詮は更に上の力に塗る潰されるだけ…そんな物に縋ったのが間違いだったな」

星天の柱より帰還した俺達。


力無く崩れ去り、倒れる大富豪。そして

警官「大富豪!確保します!!」

我を取り戻し、ここぞとばかりに大富豪に手錠をかける特殊警官。

しかし…


大富豪「ぷひゃっ………ぷひゃははははははははは!!!!」

エレル「何でしょう、気でも違えたんでしょうか?」

急に笑い出す大富豪

大富豪「良いさ…あぁ良いさ!今回は俺様の負けを認めてやるさ!」

ナビ「妙に潔い…」

大富豪「だがな…覚えておけよ。この俺様もアイツらと同じ一人の人間だ!」

警官「何を……図々しい……」

大富豪「そして、お前の嫌う憎しみや妬み嫉みも人間が生きてる証の一つなんだよ!」

勇者「………」

大富豪「忘れるな田舎者!!お前のやってる事は、ただの思想の制限だ!他者の否定でしか無いんだよ!!」

警官「この、減らず口を…!」

そして警官により連行されて行く大富豪。

だが…その言葉が俺に残した物は決して小さくは無かった。


途中、幾つかの挫折があった…諦めかけた事すらあった…だが、一部とは言え正規国民と非正規国民…奴隷にされていた人々が、判り合う事は出来た。

恐らくはもう、非正規国民の皆を奴隷にしようだなどと考える者は現れない…いや。現れた所で、それを糾弾するだけの意識を皆が得た…そう思いたい。

―大統領邸宅―

勇者「それで…あの大富豪は一体どうなるんだ?」

大統領「裁かれるとも、我が国なりのやり方で…な」

勇者「そうか…」

大統領「あぁ、そうそう……今回、勇者の活躍により救われた命は決して少なくは無い。改めて礼を言わせて貰う」

勇者「いや…当然の事をしただけだ。依頼の途中で発生した事態でもあったしな」


大統領「そして、ここからが本題なのだが…あの大富豪を捕らえた事により、それを足掛かりに残りのアトラスの在り処を調べる事が出来た」

勇者「そうか、それは良かった」


大統領「故に…今回の直接的な危機…及び危機を未然に回避する事が出来たという成果は、全国民の命を危機から救ったという事と同意義であると判断出来る」

勇者「………と言うと?」

大統領「投票とは、命あって初めて行える物……故に論議の必要無く、加えて…事が事なだけに秘匿事項のまま決定を行わなければならない」

勇者「それはつまり…」

大統領「そう………我が合衆国は、勇者による打倒マオウシステム計画を支持する事をここに宣言する」

勇者「―――!! 感謝する!」

大統領「これは国益を考えた上での判断だ、感謝される謂れは無い。それよりも………本当に大変なのはこれからでは無いのか?」

勇者「………そうだな」

大統領「当然ながら、我が国にも問題はまだまだ残っている。他の地域における正規国民と非正規国民の格差問題…各国との関係…その多諸々…」

勇者「そして、それ等の問題はマオウシステムを打倒する上で無関係では無い…」

大統領「判っているのなら、ここまでとしよう。では勇者よ、期待しているぞ」


勇者「期待に応えられるよう………いや、必ずやり遂げてみせる」

―領主の館―

エレナ「それで…大富豪の館って、取り壊されて学校になったんだって? 悪い思い出のある場所なのに、大丈夫かな?」

勇者「悪い思い出のある場所だからこそ、それを塗り潰すために学校にしたんだろうな………」

とは言った物の…あの大統領の事だ。多分…土地を無駄にしないためとかそんな理由なのだろう。

エレル「あの大統領さんに、本当にそんな可愛げがあれば…少しくらいは男性に縁が出来るんでしょうけど…」

言ってやるな


エレナ「あ、手紙が届いてるよ。それとこれは………わぁ」

これは…何と言うか………気恥ずかしい。


手紙に同封されていた物。それは………俺の似顔絵だった。

恐らくは、あの二人の子供が書いた物だろう。

そう……これからの新しい歴史を作って行くであろうあの二人が………


勇者「もしかしたらこれは…いずれ、とてつもない宝物になるのかも知れないな」

エレナ「え?どういう事?」

勇者「秘密だ」

エレナ「えー………」


●第五章 ―約束の刻来たる― に続く

●あらすじ

公国…皇国…合衆国…帝国 そして王国。世界における五大国家を巡り、マオウシステムの破棄を取り付ける事に成功した勇者。

人間その物の意識の在り方に疑心を生みながらも、世界は打倒マオウシステムへと進み始めた。

だが………魔王ノーブルとの約束の『三ヶ月以内に勇気の証を見せなければ、人類に対しての大虐殺を行う』

その日は刻一刻と近付いていた。

●第五章 ―約束の刻来たる―


勇者「成る程…これが現状か」

ナビ「今の所、魔王軍側に動きは無い」

帝王「約束の日まであと一日ある筈じゃぁ無かったのかよ」

カイン「逆を言えば、あと一日しか無い…事を起こすための準備と考えれば、むしろ今までが大人し過ぎたんじゃないかな」


エレル「って言うかお姫様、何で帝国側の席に着いてるんですか」

カイン「お姫様って言うな。まぁ色々あって…ボクは今、一応帝国所属だからね」

エレナ「色々と言えば…帝王さんの剣とか鎧とか雰囲気とか、随分と変わったよね」

帝王「あぁ、これか?俺を召還した竜に説教くらって、その時ついでに色々貰ったんだ。んで、話を戻すんだが。そん時に……その」

カイン「ボク達婚約したんだよ」


一同「…………はっ?」


その場に居た帝王とカイン以外の全員が、一瞬事態を飲み込めず…目を丸くした。

成る程…帝王の妃として帝国に所属しているのか。

ナビ「………ロリコン」

帝王「いやいやいやいや、俺の元居た世界じゃぁ昔はこのくらいで結婚は普通だったぞ!?」

ナビ「…自分の責を逃れるために故郷の世界を貶めるのは良くない」

エレナ「しかも、昔って事は…今はそうじゃないって事なんだよね…」


カイン「って言うかさ…席の話しをするんだったら、皇女の方はどうなのさ」

エレナ「まぁうん、そうだよね」

エレル「何で皇国の皇女様が勇者さまの隣にちゃっかり座っているんでしょうね」

エレナ「そもそも、皇国は貴族も王族も解体しちゃったんじゃなかったのかな?」


皇女「はい。私も今回は、一国の代表では無く勇者様のパーティーメンバーとして参加しておりますので」

勇者「……………」

エレル「また新しいヒロインを拾って来ましたね…」

エレナ「…節操無し」

ナビ「ナビというメインヒロインが居るのだから、それで満足しておくべき」

エレル「いやいやいやいや」


皇帝「…私達は完全に空気になっているな」

公爵「あえて言わないでくれないか…」

大統領「あれだけ色濃いメンバーの前では仕方ないだろう」

戦士「だよなー…」

僧侶「戦士は特に輪をかけて地味だからね…キャラ作りで、黒の甲冑を着込んで来た方が良かったかも」

国王「儂は、孫さえ幸せで居てくれるのならばそれで良い。あえて歴史の影となり薄れて消えようではないか」

大統領「これから起こりうる事を考えると、縁起でも無いのだが…」

皇帝「まぁ私としても、娘が無事勇者殿と結ばれてくれれば……」


カイン「いや、何の話をしてるのさ」

勇者「………よし脱線しすぎた、話を戻そう。現在の魔王軍の動きだが…」

エレル「あ、魔王様から連絡入りました。映像出しますね」

エレル…何故お前がノーブル様からの連絡を受けている。

そんなツッコミを心の中でしている間に、円卓の中央に魔王…ノーブル様の姿が映し出された


魔王「やぁ、皆集まっているようだね。事の詳細は聞いていると思うけど……ついに明日が約束の日だ」

その言葉に全員が息を呑む

魔王「勇者君の行動…この世界の人々を変える、勇気の証明とも言えるの活躍の数々はエレル君を通して知っている」

だから何でエレルがそんな事をしている


魔王「しかし…それだけではまだ最後の一押しが足りない。勇者君には明日、決戦の地で最後の勇気を示して貰おうと思う」

勇者「それは一体……」

魔王「そう…それは、この私…魔王を倒す勇気を示す事だ。当然ながら勇者君が手を抜かないように、魔王軍の襲撃準備も出来ている」

勇者「―――っ」

魔王「では、用件は以上だ。また明日…決戦の地で会おう」


エレル「ある意味…予想通りの展開になって来ましたね」

カイン「まぁ、これだけの軍勢を率いてる以上…いざ証を見せたからと言って、はいそうですかって訳には行かないでしょ」


エレナ「勇者くん………」

ナビ「勇者よ…覚悟は良いだろうか?」

勇者「……大丈夫だ。覚悟ならば決めてある」

―決戦の地―

エレル「それにしても…勇者と魔王の決戦だって言うのに、皆さんあんまり緊張感ありませんね」

帝王「まぁ、実際の魔王を見ちまったからなぁ…この戦いにしたって、どうしても出来レースにしか見えねぇんだよな」

エレル「んー…その気持ちも判らなくは無いんですが………ただ、そこまで楽観視出来る状態でも無いと思うんですよね」


帝王「どーいう事だ?」

エレル「魔王様は魔王様で、この計画に同意はしてくれて居ますが…必ずも協力という形を取るという訳では無いと言う事です」

帝王「……つまり…魔王が独断で何かをする可能性がある…そのために、本当に大虐殺を行う可能性がある…って言いてーのか?」

エレル「そういう事ですよ」


魔王「そう………私は私で思う所があってね。勇者君次第ではそれを実行する事になる」

勇者「本気で立ち向かわなければいけない…そう言う事ですね」

魔王「判って貰えて嬉しいよ。さぁ、準備は良いかな?」


エレナ「勇者くん、頑張って」

アリーツェ「勇者様、どうかご武運を…」

ナビ「やる気を出すのは良いが、力み過ぎるのも良くは無い。裁量に気を付けるべき」

帝王「よし、一発かまして来い!」

ヤス「勇者様…大丈夫ッスよね?」

カイン「一応パーティーのリーダーなんだから、無様な姿だけは晒さないでよ?」

戦士「前回の俺達は見れなかった戦いだ、期待してるぜ」

僧侶「勇者なら大丈夫。私達は信じてるわ」

エレル「勇者さまも魔王さまも頑張って下さいねー」

いやだから、お前は一体どっちの味方なんだ。


勇者「よし……では始めましょう」

こうして切って落とされた戦いの火蓋。


戦場の中央に、お互いの力で形成される結界……儀礼を兼ねて、周囲への影響を最小限に抑えるための措置

その形成が終え、外の世界との繋がりが断たれた瞬間……

俺と魔王…ノーブル様を中心に、魔力がぶつかり合って発生した竜巻が吹き荒ぶ。

勇者の剣を持った勇者と、魔王の剣を持った魔王。

………その性質上、魔力量の関係で魔王が圧倒的有利

…の筈だが、俺は前回の力を引き継いでいる。恐らくだが、力での勝負であればほぼ互角。

となれば、勝敗を決めるのは………いや、これを語るのも最早無粋か。


魔王「勇者の力、見せて貰うよ」

そう言って魔王の剣を振り、風を切るノーブル様…魔王。

更にその返しの刃で何度も空を切れば、それは見る見る内に無数の剣戟へと変わり……


勇者「これが先々代勇者の剣技…」

更にその剣戟が光りを放ちながら周囲を覆い尽くし…光りの壁へと変わる。

そして迫り来るその光の壁……だがそれはあえて避けない。


決して少なくは無いダメージを受けながらも、それを食らい…次の一撃へと備える。

そう…勝負は恐らく次の一撃。


剣を構え、光りの速さで踏み込む魔王。そう、本来ならば…視認した時点で回避行動を取っては手遅れとなるこの一撃。

これを防ぐためにはどうすれば良いか、答えは一つしか無い

魔王「何…だって?まさかこれを読んで、予め……」

そう、その攻撃を読んで待ち構えるしか無い。


迫り来る魔王の剣に勇者の剣の切っ先を当て、後はその場に留まるのみ…そうしてカウンターを当てた事により、周囲に衝撃が走る。

そしてその衝撃は重圧となって光も音も飲み込み、景色も騒音も歪め…体制を崩した魔王をその中心へと引き寄せる。


衝撃や魔力やらが迸り、捻じ曲がるその中心に更に足を進め……大きく剣を振りかぶる俺。

ありったけの力を込め………

重圧の中心を切り裂き………………


魔王に向けて………決着の一撃を放つ。

―――宙を舞う魔王の剣


弧を描いて空高くへと弾かれ、やがて結界にぶつかって地面へと突き刺さるそれ。


そして………天を仰ぐように、仰向けに倒れ込む魔王。


魔王の視線は、魔王の剣を失った己の右腕へと向けられ…やがてその瞼を下ろす。


勇者「まだ…続けますか?」

魔王「いや…私の完敗だ。さぁ…最後のけじめだ、勇者君の勇気の証を見せて貰おう」

勇者「はい…貴方に対する俺の勇気の証、それを見せます」

そう言って剣を天に掲げる俺。


魔王「そう…それで良い。これで私により作られたてしまった悪意は、終わり…」


勇者「我は勇者!今ここに魔王との決着を宣言する!!異を唱える者は、前に出よ!!」

と、宣言を行い…そして掲げた剣を、鞘へと納める


魔王「…何のつもりだい?早く止めを…」

勇者「これが俺の勇気の証です」

魔王「…まさか…」


勇者「そう…貴方を殺さずにこの戦いを終わらせる。その覚悟を決める勇気だ!!」

魔王「そんな詭弁が…」

勇者「通る!いや、押し通す!そしてこの意思もまた勇気だ!!」


魔王「ハハ……ハハハ、成る程……私の負けだよ。その勇気…認めよう」


カライモン「と言いますか…戦士様と僧侶様をお救いした時点で、魔王様は勇気の証明として認めておられたのですけれども…はい」

勇者「えっ」

カライモン「しかし、其処から様々な活躍をなされたために引っ込みが付かなくなり…今回の決戦に到った…と言う訳で御座いますので」


勇者「では……まさか」

魔王「そう…ここに来る前から、既に魔族の彼等の中の悪意は無い。エレル君の協力により取り出された後だよ」

エレルめ…不自然なまでにノーブルさまとのパイプがあったのはそのせいか。

まぁ…俺の頼みを聞いて悪意の抽出をしておいてくれたのは嬉しいんだが……


カライモン「因みに…本来ならば決着後に再生させる筈であった魔王様の遺言も此方に御座います」

魔王「えっ」

カライモン「聞いた話によれば、前回では定番だった様で…後で皆様の前で観賞会を催させて頂きましょう」

魔王「いや…うん。流石にそれは…」


帝王「ま、これだけの騒ぎを起こしてくれたんだからそのくれぇは仕方ねぇよなぁ」

エレル「魔王様…一人だけ逃げようなんしませんよねー?」

あ、エレルは前回の事なのに結構根に持ってるみたいだ。


魔王「仕方無い…でも、その前に最後に一つだけやらなければいけない事が出来てしまったみたいだ」

エレル「何をする気ですか?」

魔王「最低限の落とし所…いや、落とし前かな」

そう言って、上空に自らの姿を映し出す魔王。

あの投影魔法は、星天の柱の機能ではなく魔王の魔法だったのか…


魔王「この世界に住まう人間よ…我は魔王なり」

魔王「此度の決戦により、我は勇者に敗北した…その事を宣言する」

魔王「そして、これにより。全ての処罰を我…魔王に対してのみ執行すると言うのならば、我々魔族は人間に対して今後一切の危害を加えない事を約束……」

と、その言葉を終えるよりも先に…後ろから魔王の兜を外す俺


魔王「………え?」

―王国 中央通り―

国民A「…………え?あ、あれ…ノーブル様じゃないか?」

国民B「勇者ノーブル様…だよなぁ?」

国民C「でも、角が生えてて……え?本当にノーブル様が魔王?」


―決戦の地―

魔王「何を考えて居るんだい!?何故こんな―――」

勇者「それはこちらのセリフです。言った筈…貴方を殺さずにこの戦いを終わらせると」

魔王「いや…その戦いと言うのは、あくまで……」

勇者「違います…マオウシステムに関わる全て戦いです」


―王国 中央通り―

国民A「マオウシステム?何だ?勇者様達は一体何を言っているんだ?」

国民B「それより、何でノーブル様が…」

国民C「もう訳が判らない……お願いだから誰か説明して!!」


―王国上空―

勇者「と言う訳で………これを見ている皆は何を言っているか判らないと思うので説明させて貰おう。魔王の仕組み…マオウシステムの事を」


勇者「マオウシステムとは…その名の通り、魔王を…人類共通の敵を維持するための仕組みの事」

勇者「更に言うならば…魔王のみならず、勇者もその仕組みにより作られた存在だ」


勇者「勇者とは、魔王を倒す事が出来る唯一の存在…当然ながら皆はそう認識しているだろうが、実はそれは間違いで…」

勇者「魔王という存在を維持するため…予備、あるいは補充要員として魔力を集積するための存在なんだ」


勇者「そして、勇者か魔王…どちらかが死ぬ事で、生き残った方が魔王という存在を維持し、新たな勇者がまたどこかで覚醒する」

勇者「これがマオウシステムの根本だ。では次に…詳細を話して行こうと思う」


―王国 中央通り―

国民A「それで、ノーブル様が魔王に…?」

国民B「ちょっと待ってくれ、何を言ってる?」

国民C「でもそれだと…私達が思い込んでた魔王って…」

―合衆国上空―

勇者「まず始めに、魔王の配下に当たる魔族………彼等は元々は、皆と同じ人間だ」

勇者「それが、マオウシステムの発生と共に今のような姿に変質し…人間を憎むよう、悪意を植えつけられた。モンスターに至っても同様だ」


勇者「そして、勇者に覚醒した人間は魔族やモンスターを倒す事でその魔力を吸収し…力を得て魔王の下へと向かって行く」

勇者「これにより…魔王軍という敵と、勇者という希望を持つ事で、人々は目の前の人間関係から目を逸らして来た」


勇者「さて、ここまで話せばもう察しは付いているかも知れ無いが……各国の代表達もこの事は知っていた」

勇者「しかし…それを国民に知らせる事無く黙認…あるいは維持に加担してきた。それは何故だと思う?」


―合衆国南部―

部族民A「………」

正規国民A「成る程…ね」

正規国民B「マオウシステムを国政に利用して来た……って事だよな」

部族民B「いや…それもあるだろうが…」


―帝国上空―

勇者「このマオウシステム自体が…人類間戦争の産物として、人間の集団無意識の中で生まれた平和維持のためのシステムで…」

勇者「その存在を望んだのが、当時の人類……そして」


勇者「今現在もこれを望み、維持して居るのが………他ならぬ世界中の人間だから!!」


勇者「望んで居ないと断言できる者は良い…だが、少しでも疑問を持つ者は考えてくれ。果たして自分が各国の代表達を責められるのかどうか」

勇者「そして、本当にマオウシステムが不要だったと断言出来るのかどうかを」


―帝国 闘技場前―

兵士A「まぁ、全く必要無いだなんて言いきれ無いよなぁ…」

兵士B「ってか、少なくとも数ヶ月前までは帝王様はこの事知らなかっただろうな」

兵士C「あぁ、もし知ってたら隠し通せる筈無いもんな」

―公国上空―

勇者「俺は…この事を知った後、悩みに悩んだ。そして、とある一つの結論に到った」

勇者「人間は、マオウシステムに依存しなくても生きて行く事が出来る…他人のせいにするのでは無く、自分自身と向き合える強さを持つ事が出来ると!」


勇者「だから俺は、打倒マオウシステムを決心し…その計画を各国の代表達に告げた」

勇者「全ての人々の心から、憎しみや悪意…魔王や勇者に対する依存心を消し去り…その根本にあるマオウシステムその物を、討ち砕くという計画を!」


勇者「ちなみに………その際にはあえて黙っていたが、こうして皆にマオウシステムの事を暴露する事も計画の一つだった。代表の皆、すまない」


国王「なに…最初に話しを聞いた時点で察しは付いておった」

公爵「問題無い。それも折り込み住みで経済計画は立ててあるからね」

皇帝「勇者の当然の権利と考えて良いだろう」


帝王「むしろ、隠して居たつもりだった方が驚きなんだが…」

勇者「えっ」

大統領「正直、いつかやると思って居たよ」

勇者「えぇっ…」


―公国 中央市場―

商人A「って言ってるけど……」

商人B「そうなると………武器の売れ行きが悪くなって、工具の需要が跳ね上がるよな」

商人A「だよな!こうしちゃ居られねぇ!鉄の買占めを急げ!それと木材も!」

商人B「武器の時とは比べ物になら程需要が上がるぞ……そうだ!植林用の苗木も確保しとこうぜ」

―皇国上空―

勇者「………コホン。と言う訳で…マオウシステム及びその打倒計画の全容は判って貰えたと思う」


勇者「こうやって皆に事実を聞いて貰った事で、マオウシステムの秘匿性は無くなり…事実上は瓦解した筈だが」

勇者「それでも全ての人から憎しみや妬み…マオウシステムを望む心が無くなった訳では無い」

勇者「仮初とは言え、平和の正体を暴いた俺を恨む者も中には居るだろう。割り切れない者は、正面から俺にぶつけてくれ」


勇者「ここから先もまだ長い道のりが続いている…だから俺はこれから先も皆に訴えかけて行く。そして皆に願う」

勇者「誰かに責任を求めるのではなく…自分自身と向き合い、認められるだけの心を持って欲しい…」



―皇国―

国民A「まぁ…急にこんな事を言われても…」

国民B「そう、いきなり信じる事は出来ないわよね。もしかしたら、魔族の罠なのかも知れ無い訳だし…」

国民A「お前はどうする?」

国民C「勇者様の言葉だし…ノーブル様の姿も確認したけど…やっぱり」


国民B「自分で納得できるまで、とことん確認する…しか無いわよね」

国民A「だよな」



こうして………魔王ノ-ブル様に対する勇気の証明も終わり、魔王システム破壊計画も大きな進展を見せた。

前回よりも明らかに強くなって居る人々の心…

マオウシステムへの依存から解き放たれ、本来進むべき道を見出し始めた人々……

万事が上手く行っている…この先も上手く行く…そう思えるには十分過ぎる程の手応えを感じた

―王国地下 七天の支柱―

ナビ「ここまでの道のり…長かった。そう、とても…とても長かった……」

ナビ「しかしこれならば、今度こそ…マオウシステムを打ち砕く事ができるかも知れない」


エレナ「そうだね…この調子で行けば、ナビちゃんの目的を果たす事もできそうだね」

ナビ「―――!?……エレナ…何故ここに?」

エレナ「エレルに送って貰ったんだよ」

ナビ「質問を変える…どのような意図でここに?」

エレナ「ナビちゃんと話をするため…かな」


ナビ「理解した…他者の介入が好ましく無い内容という事だろうか?」

エレナ「うん、私じゃなくてナビちゃんにとってね。私、ナビちゃんがしたい事が大体判っちゃったんだよ」

ナビ「………照合を希望する」


エレナ「まず最初………勇者くんにセーブとロードを与えた事………これは、ある事に対して勇者くんを馴れさせるための物だよね?」

ナビ「…肯定する」

エレナ「慣れさせなければ…もしやり直しが利かない状況だったら、まず初見でも何とかして…勇者くんは変わらなかっただろうしね」

ナビ「その分析を肯定する」


エレナ「次に…合衆国の件。あれって、さっき言った件も含めて…予定外の力で解決しちゃったけど、本当は起きて欲しかったんだよね?」

ナビ「………肯定する」

エレナ「そして………さっきの決戦の行く末。あれもエレルの介入が無かったら、正直どっちに転んでもナビちゃんの計画通りだったんだよね?」

ナビ「………肯定、そして同時に質問する。それを知った上でエレナは私に何を望む?」


エレナ「ナビちゃんの本心かな…ナビちゃんがどうしてその目的に拘るのか…その理由」

ナビ「私の目的…マオウシステムの消去。それは私の義務であり存在意義」

エレナ「それは嘘だよ。ナビちゃんを見てれば判るから…それが義務感からじゃなくて、自分の感情の結果だって…」


ナビ「………理解した。エレナをこれ以上欺く事は不可能。故に話す…私がマオウシステムの消去を望む理由を―――」

エレナ「―――成る程…そういう事だったんだね。それじゃ最後に一つだけ質問なんだけど………私達って、本当に存在してるんだよね?」

ナビ「勇者にも同様の質問をされた。私の主観で良いのならば…この世界とこの世界の住民は皆存在していると断言する」

エレナ「ナビちゃんの視点でも…やっぱりそこまでしか言えないんだね」

ナビ「例え何者であっても、自分が最上位の存在であり投影された影では無い…という事を断言する事は不可能。故に………」


エレナ「逆にこうやって…自分の存在を疑うおうとも、その疑問を持つ自分の存在を認識する事こそが絶対的証明…って事だよね」

ナビ「その通り…力不足故に満足な回答を行えず、申し訳無い」


エレナ「ううん、ありがとう。真実よりも、ナビちゃんが私達の事を軽んじてる訳じゃない…っていうのが判った事の方が嬉しかったから、結果オーライだよ」


●第六章 ―ナビゲーションシステム― に続く

●あらすじ

魔王に求められた勇気の証…

それはさておき、勇者に告げられた衝撃の事実…

帝王とカインの婚約。

全世界の代表が終結する中で明かされたその事に周囲が驚愕する中、ついに始まる魔王との決戦。

そして魔王との戦いで、勇者は勇気の証を見せ…ついでとばかりに、全世界にマオウシステムの存在を暴露するのだが

●第六章 ―ナビゲーションシステム―


―決戦の地―

エレル「一時はどうなる事かと思いましたけど。何とか決着もつきましたねー…」


戦士「ん?ナビは?」


その事に最初に気付いたのは戦士だった。ついでに言うと、エレナも居ない。


カイン「ついさっきまで一緒に居た筈なんだけど…」


現時点で大きな敵とされる存在は居なくなり、一時的とは言え平和を得たこの世界


エレル「ナビちゃんなら、さっき転移して行きましたよ」


残す所は、マオウシステムの破壊のみとなった訳だが…


帝王「転移って…一体どこにだ?」


逆に言えば、それこそが最大の難関。未だにマオウシステムに依存する人間、その全てを変えなければいけないと言う途方も無い難問。


エレル「それは、王国の地下深く―――」


そして、恐らくナビはその難問に対する回答を得た…


魔王「七天の支柱…という事だね。しかし、そんな場所で一体何を………」


あるいは…最初からその回答を持って居て、そこに俺達を導いてただけなのかも知れない。


エレナ「ただいまー…っと、もしかして皆ナビちゃんを探してる?ナビちゃんなら今、七天の支柱の更に奥に進んでるんだよ」


多分それが、ナビの…ナビゲーションシステムの役割なのだから。


勇者「となれば…追いかけて、何を考えているのか問い質す他無いな」


エレル「ま、そうなりますね………勇者さま、一人で行きますか?」

勇者「あぁ、そのつもりだ」

エレル「では、ナビちゃんの居る座標に…あ、直接は無理みたいなんで、少し上の方に飛ばします。良いですか?」

勇者「構わない、頼む」


魔王「おっと、もしもの時のために魔王の剣も持って行きたまえ」

勇者「その、もしもが無ければ良いのですが…感謝します」

―七天の支柱―

転移先は真っ暗な闇…周囲に明かりは無く、自分が今どこに立っているのかすら判らない。

俺は道具袋の中から松明を取り出し、それに火を付けた。


勇者「………ここが、七天の支柱が眠る場所か」

眼下に広がるのは巨大な空洞…そして、その空洞に沿って掘られた螺旋回廊。

どうやら俺はこの螺旋回廊の途中に転送されたらしい。


エレナとエレルの言葉では、ここから下に向かった場所にナビが居るらしいのだが…暗闇ばかりで底が見えない。

進むしか無いようだ。


何が待ち構えているのか判らないが、不安な事ばかりでも無い。

例えばこの螺旋回廊。壁に手を付いてさえ居れば踏み外す事は無く、一本道

…つまり、万が一松明が燃え尽きたとしても、迷う事無く進む事が出来る。


のだが…逆に………この回廊を踏み外して進むのは危険だと言う事も俺の本能が告げている。

飛翔魔法を使って一気に飛び降りるという手も無いでは無いのだが……この暗闇に飲まれてしまう、そんな予感さえする。


勇者「………」


もうどれぐらいの距離を歩いたのだろうか?

魔王城の無限回廊の時と同じように、同じ場所をぐるぐると繰り返し歩かされているのでは無いだろうか?

そんな錯覚さえ覚える。


だが、そんな感覚から俺を現実に引き戻すのは、その場を漂う空気の質…

下に進むにつれて、明らかに……重苦しく…息詰まる物へとなって行く。

そう、それは………まるで、マオウシステムと対峙した時のような空気だった。

―???―

勇者として覚醒した朝…突如頭の中に響き渡った声…

モンスターとの初めての戦闘…

モンスターが落としたアイテム……

レベルアップ………



魔王城…まだノーブル様だと知らなかった頃の魔王との決戦………


次々に浮んでは消える、過去の出来事。

これが走馬灯なのだろうか?


違う…これは俺の視点では無い…俺の記憶では無い。


ならば誰の記憶なのだろうか?

いや、それは考えるまでも無い事だろう。

この全てを知っているのは二人しか居ない。


俺と……ナビ。


つまりこれは、ナビの記憶という事だ。

何故今こんな物が見えるのだろうか…そんな事を考えて居ると、不意に声が聞こえて来る。


ナビ「マオウシステムとは…本来自然界には存在しない物。人間が作り出した、システムのバグのような物」

ナビ「マオウシステムを倒すために、全ての悪意を取り除く…そう、勇者は納得しないだろうけど、この方法のみが確実な手段」

ナビ「マオウシステムを無防備にする………そうすれば、後は勇者が………」


勇者「ナビ…お前は一体何をしようとしている」

ナビ「勇者…やっと辿り付いたようだ」

勇者「遅くなって済まなかったな。もう少し早くお前の行動を察してやれれば良かったんだが…」


ナビ「さすがは勇者特性KYの勇者…そこに関してはフォローにしようが無い」

ナビ「ところで勇者………現時点でこの世界に約何人の人間が存在するか知っているだろうか?」


勇者「それは以前聞いた事がある。確か、約8億人の人間がこの世界に住んでいると…」

ナビ「そう……この世界に住む人間、8億人の内7億人がマオウシステムへの依存から開放された。これは類を見ない快挙」

ナビ「しかし、逆にこれで頭打ち。残りの1億人は、その内の誰かを開放している間にまた誰かが依存してしまう…解放の境界線」


勇者「つまり…何が言いたい?」

ナビ「これ以上…残りの1億人の人間を、マオウシステムへの依存から開放する事は不可能。それは各国を巡って勇者自身も理解している筈」

勇者「確かに…大勢の人を救っても、少数の人がまたマオウシステムに依存する。誰かのせいにせずには居られなくなる…それは見て来た」


ナビ「そう…故に私は唯一の確実な手段を取る事を決定した」

勇者「確実な手段…そんな物があるのか?」

ナビ「私に実行可能な方法の中で、一つだけ存在する。ただそのためには勇者の協力が不可欠」

勇者「詳細を聞かせてくれ…俺は何をすれば良い?」


ナビ「まずこの時点でのセーブを行う事…そして、無防備になったマオウシステムを確実に破壊する事。詳細はまだ明かせない」

勇者「それはまた、随分と漠然としているな…」

ナビ「しかし、そうとしか言いようが無い。私を信じて協力して欲しい」


勇者「ナビの事は信じるが、その作戦のどこかに穴が無いとも言い切れないだろう?そういう意味では、内容を聞かない限りは賛同出来ないな」

エレルのようで少々ずるい言い方な気もするが…ナビの様子に違和感を感じた俺は、どうしても食い下がらすにはいられない。


ナビ「了解した……では、話すからにはその重みを理解した上で了承を行って欲しい」

そして…折れたのはナビの方だった


ナビ「逆行干渉…私がマオウシステム内に侵入し、それらを形成している人間を特定…後に抹消する」

勇者「マオウシステムに依存する人を開放するのでは無く、消し去る事でマオウシステムの存在を揺るがそうと言うのか?」

ナビ「肯定」


勇者「よし、却下だ」

ナビ「否定。この手段意外でマオウシステムを破壊する事はできない」

勇者「目的のために誰かの犠牲を前提にするなんて、マオウシステムと同じだ。第一そんな無茶な手段を取れば、ナビ自身もただでは…」


ナビ「間違いなく消滅する」


勇者「しかもそれは…マオウシステムによる干渉と同じように、ロードしても巻き戻らない…本当の消滅…なんだろう?」

いや待て…?そうか、ロードか!

勇者「マオウシステムはロードで巻き戻らない…つまり、マオウシステムを倒した後にロードを行い…逆行干渉で抹消された者達の死を無かった事に…」

ナビ「肯定」

勇者「そうか…やっと判ったぞ。お前が執拗にセーブとロードを推して来た訳が」

ナビ「………」

勇者「俺をセーブとロードに慣れさせるため…そして、失敗と挫折に慣れさせ、人の死を割り切る事に慣れさせるため…と言う事か」


ナビ「肯定する」

と、冷徹を装って言ってはいる物の…一時的とは言え抹消される人間を、最小限に抑えようとして来たのを俺は見て来た。

そもそも…もし自分の目的だけを優先するのならば、人間全てを消し去ってしまえば良かった筈だ

無感情な面ばかりを見せては居るが、やはりナビは………そう考えると、やはり割り切る事など出来ない。


勇者「しかし、俺がお前の案を受け入れ…マオウシステムを倒したとしても………お前自身が消滅してしまったら」

ナビ「それ自体に問題は無い」

勇者「何を馬鹿な事を言っている」


ナビ「私はナビゲーションシステム…メイズシステムと共に誕生し、本来はこの世界の秩序を守り導く存在だった」

勇者「…だった?」

ナビ「しかし…マオウシステムの形成により、片割れが取り込まれ…それを解放するために勇者を導く存在へと変質した。そして…」

片割れ…恐らくはメイズシステムという存在がそうなのだろう。

初めて聞く名前なため詳しくは判らないが、ナビにとって大切な存在なのは聞いていて判る。

勇者「…」

ナビ「本来の役割に戻る必要はもう無い、その役割は勇者が果たしてくれた。今の役割を終えれば、存在自体が不要になる…故に問題は無い」


勇者「なるほど……お前の考えは良く判った」

ナビ「理解に感謝する」

勇者「…だが、やはりそれは間違っている!!」

ナビ「不可解。私の言葉には何の間違いも矛盾も存在していない」

勇者「いや、存在している。お前は不要な存在になったりはしない」

ナビ「不可解…回答を要求する」


勇者「ナビ…今回の始まりの日に、お前が何て言ったか覚えているか?……お前は俺の仲間で俺の妹なんだろう?」

ナビ「それは……」

勇者「義理の妹で、俺の両親に拾われて一緒に育った謎の美少女…そういう設定だって言ったよな?」

ナビ「それはあくまで設定…」


勇者「設定っていうのは…つまりはそういう事にして通すべき事なんだろう?」

ナビ「…肯定する」

勇者「なら…その設定の上で、お前は今確かに存在している。だったら答えは一つだ」

ナビ「………」


勇者「俺は…仲間も家族も絶対に見捨てはしない!!」


ナビ「―――――」

勇者「………」


ナビ「私は……私は………」


ナビ「あぁ、そうか…この肉体を借りてこの姿を取った事に、私自身疑問を感じて居たのだが…その答えが判った」

勇者「……………」

ナビ「私は…嬉しかったんだ、勇者に感謝の言葉を送られたその事が。だから―――」


???????「―――オロカナ」


勇者&ナビ「!?」

突如周囲に響き渡る声。

俺とナビは辺りを見渡すも、新たな来訪者の姿も潜伏者の姿も確認出来ない。

となると………自然と可能性は収縮され、視線もその先へと絞られる。



―――――マオウシステム

マオウシステム「ナビゲーションシステムニシタガッテイレバ、ワレヲタオスコトガデキタ…ニモカカワラズ、ソレニアラガウトハ」


最終決戦の地…顕現すべき場所に響くマオウシステムの声…

そしてその声に続くように、悪意の塊が繭のような形状を成して行き………


ナビ「………不可解、想定外の事態。マオウシステムが自我を持っている」

勇者「不可解でも無い。ナビにしたって本来はシステムでしか無かった物が自我を持つ事が出来たんだ」

ナビ「…理解。マオウシステムも自我を持つ可能性を内包していたようだ」


マオウシステム「ソノトオリ…ソシテワレモマタ、セイヲノゾム」

ナビ「………危険。自我を有したマオウシステムの行動は、現状では予測不可―――」


そしてナビの言葉を遮るように発せられる脈動。

マオウシステムは脳の奥へと響き渡るような衝撃を周囲に放ちながら、その身に亀裂を走らせ……


そこから姿を見せる、巨大な目玉。


球体から伸びる二本の角。


そう………マオウシステムがその姿を現した。


マオウシステム………前回の俺が、一矢報いるも討ち果たす事が出来なかった存在。

人々の心の弱さ…悪意が生み出してしまった、魔族の根源…魔王の仕組みその物。


マオウシステムを倒すためには…それを構成する人間から悪意を消し去り、人と魔の覇者の力によりシステムその物を打ち砕かなくてはいけない。

そして、覇者の力を使うためには…覇者の叫びを用いて覇者になり、勇者の剣と魔王の剣の封印を解いて聖剣と邪剣に変化させなければならない。

……………のだが


ナビ「勇者よ…どうする。覇者の叫びも封印の石も無い状態で…」


勇者「……大丈夫だ。何となくだが、奇跡を起こすコツを掴んだ」

ナビ「えっ…」

マオウシステム「ナ…ニ…?」


俺は覇者へとクラスチェンジした。

勇者の剣は聖剣へと姿を変えた。

魔王の剣は邪剣へと姿を変えた。

おまけに聖剣と邪剣を融合して、覇者の剣へと姿を変えた。



覇者「さて………ここからは俺の道を進ませて貰う」



●終章 ―ユウシャシステム― に続く

●あらすじ

魔王との決戦を終え、束の間の安らぎを得た…かのように見えた勇者一行。

しかし時の流れは其れを許さず、また…新たに始まる激動。

七天の支柱…その中心部へと降り立つナビ。

ナビを追う勇者、そしてそこで語られるナビの真意…残りのマオウシステムを構成する人間の抹消。

それを否定し、己の道を進む勇者。だがそこで、マオウシステムが自らの意思を持ち、勇者達に襲い来る。

それに対して勇者は、自らを覇者…二本の剣を覇者の剣へと変え立ち向かうのだが―――

●終章 ―ユウシャシステム―


―七天の支柱 最深部―

ナビ「想定外……しかし、勇者の行動故にもう驚きはしない」


マオウシステム「ソレガ…ワレヲ、ケサシサル…イシカ」

覇者「………」

マオウシステム「………ダガ、ワレハキエヌ…」


覇者「言った筈だ……俺は俺の道を進ませて貰うと」


マオウシステム「……サセヌ!!」

マオウシステムの脈動…それと共に周囲に走る、不可解な感覚。

ナビ「―――!?これは……逆行干渉!?」

覇者「マオウシステム自らが逆行干渉だと?自滅する気か!?」


ナビ「否定。これは……非常に危険な状態。逆行干渉による目的は、恐らく……」

勇者「一体…何をする気だ?」

マオウシステム「ワガコンゲンヨ…メザメヨ」


マオウシステムの声と共に響く重圧。覇者となっても尚防ぎきる事が出来ないそれ。

だが…それに屈する事無く、俺は足を進める。

―決戦の地―

帝王「おいおいおいおい、何だってんだよこりゃぁ」

エレナ「デミ・マオウシステム…だね。各国から集められた精鋭とは言え、心が強いかどうかと言えば別問題な訳で…」

魔王「まぁ…今の私達ならばどうにか出来ない相手でも無い訳だけど。問題は………」


エレル「その規模…でしょうねえ。ざっと観測しただけでも、世界中でデミ・マオウシステム化した人間が大量発生しているようです」

戦士「不味いな…デミ・マオウシステムが恐怖や絶望を生めば、恐らく…それによってまた人間に悪意が生まれる」

僧侶「………あんな物、他の誰にも味わわせたくは無いのに」


皇女「では………今私達が行うべき事は決まっていますわね」

魔王「あぁ…そうだね」

帝王「ま、丁度あのドラゴンから貰った力もある事だし」

カイン「って…ぶっつけ本番でやるの?」

帝王「むしろ、今やらなけりゃぁずっと出番が無さそうだからな。よぉし………一丁暴れてやるか!!」


エレナ「え…帝王さんがドラゴンに変身した!? 魔法…?違う、何かの特殊能力?」


カイン「ま、あれを使って変わるのはエイジだけじゃないんだけどね」

エレル「あれれ?お姫様も何か恰好が…」

カイン「姫って言うな!これは確か…竜の花嫁の力………とか言ってた筈」


魔王「ふむ………これは私も負けてはいられないね」

エレル「今度は魔王さままで………何ですかそれ、右手に光りの剣、左手に闇の剣って…」

魔王「折角、魔王の身で再び勇者特性を得たんだ…両方使った方がお得だし、恰好良いだろう?」

エレル「………」


カライモン「それでは、僭越ながら私も…取り戻した全盛期の力をお見せしましょう。まずは軽く足止めですが…ワームホール形成…サモン・メテオ!」

エレナ「召還魔法!?そんな…失われた筈の技術を……」

カライモン「驚かれるのはまだ早いかと。お次は、重力場発生……MBH発動!」

エレル「一点に重力を集中させる事で、絶対的重力を発生させて……ってこれはまさか…イベントホライズン!?」

カライモン「先程の勇者様と魔王様の戦いの折り、使える事を思い出しました。はい」


戦士「何と言うか………物凄い光景だな」

僧侶「そうね……このメンバーなら全く負ける気がしないわ」

エレナ「うん……確かにこの戦力なら当面は敗北を懸念する事も無けれど…でも」


僧侶「でも…?」

エレナ「他の戦場でも同じように、上手く足止め出来るとは限らないんだよね」

戦士「さっきも言った通り…デミ・マオウシステムが恐怖や絶望を生めば、新たなデミ・マオウシステムが生まれる」

エレナ「そして、私達にはデミ・マオウシステムを消滅させる手段は無いから。このまま打開策が見付からなければ………」

―七天の支柱 最深部―

ナビ「最悪の想定が現実の物となった…マオウシステムは逆行干渉を行い、自らを構成する人間をデミマオウシステムへと変えた。この状態では…」

勇者「この状態では?」

ナビ「ロードを行う事が出来ない…どの時点に戻っても、事態は悪化の一途を辿るしか無い」

勇者「何だ、そんな事か」

ナビ「えっ」


勇者「だったらロードに頼らなければ良い。そもそも、ここに来てからセーブ自体して居ないしな」

ナビ「………」

そう複雑そうな顔で睨むな


勇者「それより、デミ・マオウシステムになった人々は…今どうなっている?」

ナビ「…………勇者パーティー及び、各国の戦力が応戦に当たっている。しかし…当然ながら、勇者パーティー以外は殲滅が追い付いてはいない」

覇者「無事なのか?」

ナビ「今の所、どの国の戦力にも死者は出て居ない…しかし、それも時間の問題」


覇者「いや…勿論そちらも心配だが、デミ・マオウシステムになってしまった人々は無事なのか?」

ナビ「………その性質上、攻撃により一時的に無力化されては居るが、核となる人間の生命に別状は無い」


覇者「そうか……だったら…」


俺はマオウシステムににじり寄りる。

そうそう…今回、覇者になって気付いた事だが…覇者になると、仲間のスキルも使えるようになるようだ。


マオウシステム「キサマ…ナニヲカンガエテイル。キサマノチカラデハ、イマノワレヲタオスコトナド………」


覇者「ナビ………世界中の戦場を見る事は出来るか?」

ナビ「………可能」

そうして映し出される世界の光景…デミ・マオウシステムに変貌した人々と、それに立ち向かう人々。

俺はその人達を見据え……

―王国―

騎士A「怯むな!我等王国騎士団の力を見せてやれ!」

騎士B「おーーーー!!!……おぉ?」

騎士C「な………何だこれ!?」

騎士D「な…まさか、お前まであの化け物に!?」


騎士C「いや…違う………これは」

騎士D「何……え、お、俺も何か変だぞ!?」

騎士A「これは………力が溢れ出して来る!?」


―皇国―

団長「お前等!旦那からこの国を任された以上一歩も退くんじゃねぇぞ!!紅旅団の底力見せてやれ!」

団員A「お頭!」

団長「どうした!?」

団員B「何か俺達――――」


―公国―

提督「むぅぅぅぅ!何だこの溢れ出す力は!!えぇい、チマチマと砲撃なんぞしていられるか!!」


―合衆国―

国民A「え?何これ?」

国民B「俺…どうなったんだ?」

国民C「これなら……俺達でも戦えるんじゃないか?」


―帝国―

兵士A「負ける気がしねぇ!!!」

兵士B「一気に畳みかけるぞーーー!!」

兵士C「よっしゃぁーーー!!!!」

―七天の支柱 最深部―

マオウシステム「ソンナ……バカナ…………」

ナビ「………理解。息をするように奇跡を起こす勇者の行動を、想定する事は無意味。まさか人間全てをパーティーに加えるとは……」

覇者「この一手は、奇跡ではなくむしろ奇策だがな。さて、ここからが本番だ」

俺はマオウシステム本体に手を沿え、目を閉じる。

マオウシステム「キサマ…ナニヲ…………マサカ…?!!」


そう、そのまさか…逆行干渉だ。

と…簡単に言ってはみた物の、色々な意味で中々に厳しいなこれは


自らの意思と覇者の力を魔力その物に乗せ……と、この時点で失いそうな程に意識を持って行かれる。

そしてその魔力でマオウシステムに干渉を行い、マオウシステムを形成する人間へのリンクを作り出すのだが…

当然ながら、マオウシステムも黙っている訳が無い。


まず、魔力に乗せた俺の意思には…防衛本能の投影と思われる、干渉の手を伸ばし………


無防備に残された肉体にも………繭から顕現した、鋭く尖った刃を突き立てて来る。


ナビ「―――!?」

マオウシステム「キエヨ…キエヨ!!!」

何度も…何度も、手を緩める事無く、俺の身体を貫くその刃。

だが、俺も干渉の手を緩めない。むしろ攻撃が肉体へと向いているその隙を突き………


遂に、マオウシステムを形成している人々の下へと辿り着く。

―王国―

デミ・マオウシステム『クルシイ…ニクイ……ナンデオレバカリ…』

覇者『そうじゃない…苦しんでいるのはお前だけじゃないんだ』

騎士A「何だ…一体何が起きている?化け物の様子が…」


―皇国―

デミ・マオウシステム『ナンデアタシガコンナメニ!!!アタシハタダ…アタシハタダ!!ホカノダレヨリモトクベツニナリタカッタダケナノニ!!』

覇者『それはお前が気付いていないだけだ。お前も…皆も、誰もが本当は特別な存在なんだ。それを確かめたいのなら―――』

団長「化け物…偽アリスが……」


―公国―

デミ・マオウシステム『オレガワルインジャナイ…マワリノヤツラガ…オレヨリモユウシュウナノガ………』

覇者『だからと言って、他人のせいにするだけでは解決にはならない。それなら―――』


―合衆国ー

デミ・マオウシステム『ナニガセイキコクミンダ!!ヤツラノソンザイガ、オレタチヒセイキコクミンヲ……!!』

覇者『ならばお前も変えれば良い。本当に皆が平等に暮らせる国に―――』


―帝国―

デミ・マオウシステム『オノレ…オノレオノレオノレ!ヤツサエアラワレナケレバ、ワタシハ…』

覇者『敗者となった事で他人を妬んでも仕方が無いだろう。それよりも、自らがそれまでに培った物で何を出来るかを―――』


―決戦の地―

帝王「デミ・マオウシステムが…消えて行く?」

ヤス「いえ、これは………元の人間に戻ってるんじゃ無いッスか?」


エレル「その通り。そして、世界中でも同じ事が起きてるみたいですね。でも………」

帝王「でも…どうしたってんだ?勿体付けんなよ」


エレル「消えているのはデミ・マオウシステムだけじゃなくて…」

魔王「うん…勇者特性………勇者の力も―――」

―七天の支柱 最深部―

マオウシステム「アリエヌ……ワレヲ、コウセイスル…モノタチガ……」

ナビ「逆行干渉………それも構成者の消去では無く、自らの意思を乗せての説得と核の破壊など…覇者と言えど無茶が過ぎる」


勇者「無茶は承知の上だ。だが…出来る事がある以上は、最善の策を取らなければ………な」

とは言った物の…無茶の代償はそう安くは無いようだ。

覇者の力を通り越し…勇者の力すら、俺の中に感じる事が出来ない。


枯渇しても尚絞り出し、俺の中から消滅した魔力…

癒す事すら儘ならない、マオウシステムに貫かれた傷…


逆行干渉で全ての力を使い切った俺は……

その場に…崩れ落ちるように倒れ込んだ


ナビ「勇者!!」


マオウシステム「アリエヌ…アリエヌ……ワレガ…ココマデ、キュウチニタタサレルトハ!ダガ……ダガ、ツメガアマイ」

ナビ「そう……確かに勇者は詰めが甘い…あと少しでマオウシステムを倒せると言う所で、力尽きてしまうのだから」

マオウシステム「ソノトオリ………ソシテ、ソノアマサユエニ…ホンカイヲ、トゲルコトガ…デキナカッタ!」


ナビ「否定。それは違う」

マオウシステム「ナ…ニ…?」


ナビ「勇者は詰めが甘い…しかし、詰めが甘い分、それを代わりに詰めるだけの仲間が居る」


ナビ「詰め込んで詰め込んで……溢れ出すくらいの力をくれる仲間が居る」

―???―

戦士「そうだな…思い返せば初めて一緒に戦ったあの日…モンスターに止めを刺すのも躊躇ってたっけな」

僧侶「そう…敵だって言うのに、それでも…」


エレル「まったく…勇者さまのへ手助けは毎回毎回無理難題ばかりでした。ま、私くらいになればそれも楽しめるんですがね」

ノーブル「そうそう…危なっかしい後輩を見守る楽しさと言うのかな、これは」

帝王「ま、そういう甘ちゃんな所も個性って事で良いんじゃねぇか?」

ヤス「ッスね」

カイン「ボクとしては詰めが甘くても全然良いよ。美味しい所を掻っ攫う事が出来るしね」


カライモン「詰めが甘い…逆を申し上げれば、詰めまでに全力を注いでおられるのですよ」

皇女「それも勇者様の魅力の一つかと思います。僭越ながら、私で良ければお力にならせて頂きますわ」

団長「当然、俺達一同も旦那のためなら力になりますぜ」

団員一同「いつでも呼んで下さいな!」


公国兵士「今の私達が居るのは、そんな勇者様のおかげですからね」

カーラ「はい、その通りです」

青年貴族「僕も同感です」

人魚「――――♪」


少年「お兄ちゃんが立ち上がれないなら、僕達が起こしてあげるよ!」

幼女「うん、私も手伝う!」

族長「我等部族一同も…」

部族一同「勿論!!」

騎兵A「俺達の事も忘れんなよ!」

傭兵一同「そうだそうだ!」

国王「勇者よ…お主のお陰で儂は新たな生き甲斐を見付ける事が出来た…」

皇帝「私としては…孫の顔を見るまで、私と勇者君どちらが冥土に行く事も許されんと…思っているのでね」

公爵「貴方の甘さがどこまで世界を変えるのか…その点にはとても興味があります」

大統領「その通り…この腐りきった世の中よりも甘く熟した信念を見せてみたまえ」


魔王親衛隊員アスモウデス「敵に情けをかけられたこの屈辱…晴らすまでは死んでもらう訳にはいかぬ!」

魔王親衛隊員ガープ「そうそう、平和になったらまたリベンジするぜ。それまでに強くなって見せるからよ」

魔王親衛隊員セーレ「そうとも、勝ち逃げなど許されない」


女貴族「アンタにはこんな所で消えられたら困るのよ!絶対に復讐してやるんだから!」

衛兵達「そうだそうだ!」

王国大臣「そうですぞ!こうなったら私も貴方を見返してやりますとも!」

公国大臣「そうとも!負けたままでなどいられるものか!」

大富豪「こんな崖っぷちからでも不死鳥のように蘇る俺様を、見せてやるわぁぁ!!」


エレナ「まったく…皆、何だかんだ言って勇者くんの事を気にせずには居られないんだよね」


勇者「皆………」


エレナ「じゃ、皆…せーので行くよ。せーの………」


  「立ち上がれ………勇者!!」

―七天の支柱 最深部―

マオウシステム「…ナンダ…ナニガオキテイル……!?」

勇者「まったく………皆が皆、寄ってたかって人の事を好き放題言ってくれる……」


ナビ「勇者!!」


マオウシステム「ナゼタチアガレル……オマエハモウ、スベテノチカラヲ……ツカイハタシタハズ……!!」

勇者「確かに…俺は全ての力を使い果たした。ナビから見ればHP0とでも表示されているんだと思う」

マオウシテウム「ナラバ…ナゼ……」


勇者「だが……俺には残って居なくても、仲間の…世界中の皆の思いは残っている!!」

マオウシステム「ソンナ…アリエナイ…」

勇者「ありえるさ…第一お前がそれを言う事は無いだろう。人々の思いにより存在を保っているのはお前も…」


ナビ「…………まさか…」

勇者「そう……人々の思いにより存在している俺は、今のお前達と同じ………あえて名乗るなら、俺は…」



   「ユウシャシステムだ!!!!」


再びマオウシステムの前に立ちはだかる俺。

覇者の剣を自身に取り込み、その力を拳に込める。


ユウシャシステム「そしてこれが………」


ユウシャシステム「俺が………切り開く道だ!!」


マオウシステムに向けて放つ一撃…

俺の拳によりマオウシステムには大きな亀裂が走り、光りが溢れ出す


マオウシステム「コンナ…バカナ………ダガ…ワレハマオウシステム…ヒトノツクリダス、アクイソノモノ。タトエココデ、ワレヲタオソウトモ…」

ユウシャシステム「あぁ…判っている。倒してもそれで終わりでは無い」


ユウシャシステム「人間は強くなった………」

ユウシャシステム「だが、その強さを失えばまたお前が現れる」

マオウシステム「ソレヲ…ショウチノウエデ…オマエハ…ナニヲ、ナソウトイウノダ」

ユウシャシステム「そうだな…勇者としては、お前が復活する度に何度でも倒してみせる…とでも言うべきなんだろうが…」


ユウシャシステム「俺は…お前を倒さない」

ナビ「なっ……!?」

マオウシステム「ナ…ナニ?」

ユウシャシステム「前回の俺はそこが間違っていた。お前は倒すべき対象ではないんだ」


マオウシステム「………」

ユウシャシステム「お前も俺も、結局は人の意思が作り出した存在…たまたま強い力と形を持っただけで、元は同じ人間の意志」

ユウシャシステム「そして…お前が居たお陰で、仮初とは言え平和を維持して来れた訳だしな」

ユウシャシステム「それを、自分にとって都合が悪い存在だからと言って、切り棄てようとしたのは流石に間違いだった」


ユウシャシステム「第一、俺の目的は魔王と勇者への依存を無くす事…」

ユウシャシステム「そして、念願叶って人間はマオウシステムという存在から自立する事が出来た」

ユウシャシステム「ついでにナビシステムからも自立していたようだし…正直、当面はこれ以上の進展を望んで居る訳ではないんだ」


マオウシステム「ナラバ…オマエハ、ワレヲドウスル?」

ユウシャシステム「お前と一緒に生きて行く…いや、俺と…俺達と共に生きて行かせる」

ユウシャシステム「…と言っても、勿論お前の暴挙をただそのまま受け入れる訳じゃない」

ユウシャシステム「度が過ぎた事をすれば止めるし。また悲劇を起こさないように努力もするつもりだ」


マオウシステム「…ソンナコトガ、デキルト…ホンキデ…」


ユウシャシステム「できる…いや、やる。やってみせる!」

ユウシャシテウム「だからマオウシステムよ、俺達と共存しろ!!」


マオウシステム「……………」

ユウシャシステム「……………」

マオウシステム「…………」

ユウシャシステム「…………」


マオウシステム「ヨカロウ…」


亀裂からマオウシステム全体に皹が広がり、光りが溢れ出す。

そしてその光りが収まると…


俺の目の前に…少女へと姿を変えた、マオウシステムが現れた。

ナビ「メイズ………いや、マオウシステム?」

マオウシステム「我はそのどちらでも在る。久しいな………ナビゲーションシステム」


全ての力を…全ての絆を以って向かえた結末。

俺が考えうる全ての方法で、考えうる全ての結末の中から掴み取った結末。

メイズシステム…ナビの片割れまで少女だったのは予想外だったが、それは些細な事。


俺は、達成感に包まれながら………ゆっくりと目を閉じ


ようと思った所で、それを遮られた。


マオウシステム「おい、何を一人で先に休もうとしている」

勇者「なっ………ど、どういう事だ?」

マオウシステム「生まれたばかりの淑女を、まさかこんな場所に置いたままにする訳ではあるまい?」

……………あぁ、何か嫌な予感がしてきた


マオウシステム「そうだな…こう言う場合はあれをするのだろう?お姫さま抱っこだ」

勇者「…………」

マオウシステム「さぁ…我に暴挙を働かれたく無ければ、その誠意を見せよ」

反論の言葉も無く、マオウシステムを抱き上げる俺。

さっきの一撃で、ユウシャシステムの力も殆ど使い切ってしまったため…もう飛翔魔法を使う余力も無く、渋々ながら歩き出す。


いや………今はまず、歩く事すらも相当厳しいのだが……


マオウシステム「汝の紡ぎし言葉の数々、決して違えるな?」


そんな俺に構う事無く、不敵な笑みを浮べるマオウシステム。


ナビ「そう………一度口にした言葉は守るべき。見捨てはしないと宣言をされた」

そして更に背中に飛び乗るナビ。


俺の戦いは終わっては居なかった………

ふと、誰かの言葉が頭の中を過ぎる


帰還するまでが決戦だ………と


勇者「よし………やってやる。やってやるさ!お前達、勇者の底力をその目に焼き付けろ!!」

俺の叫びが、七天の支柱……地下の空洞に大きく響き渡った。


こうして………俺の…永きにに渡るマオウシステムとの戦いは終わり……



ナビ「更なる戦いが勇者を待ち受けているのであった………」

勇者「えっ」

―ユウシャシステム― 完

●余章 ―トゥルーエンド― に続く

真に勝手ながら、今回の総レス返しは余章終了後にさせて頂きたいと思います。申し訳ありませんorz

●余章 ―トゥルーエンド―

―共同領地―

国王「カイン…いや、エーデルワイスよ。美しいぞ…この姿、エイベルにも見せてやりたっかった」

エレル「国王さま…こんなめでたい席で、辛気臭い事を言わないでくれませんか?」

帝王「そー言うなよ、娘を嫁にやる父親が居ない分、爺さんにくらい言わせてやれっての」


ヤス「あぁ、お二人ともとても素晴らしいッス。こんな世紀の瞬間に立ち会えるなんてあっしは…!」

帝王&エーデルワイス「「いや、お前は大袈裟過ぎる」」


あの後…マオウシステムとの決着を終えた世界は、新しい時代へと踏み込んで行った。


まずはここ…俺が治めていた領地は、王国の領土から各国の共同領地になり……

教会を立てたり、各国との交流のために大規模な道や橋を作ったりと、様々な改装が行われた。


そして今日は………記念すべき、王国と帝国の合併の日。

即ち、帝王エイジとカイン…もとい、エーデルワイス姫との結婚式の日だ。

エレナ「そう言えばカインちゃん…もとい、エーデルちゃんの偽名って…元はエイベル様が帝国で名乗ってた名前なんだよね」

勇者「あぁ、それは聞いた。だが…何でカインなんだ」


カライモン「それは私めの口から説明させて頂きましょう」

戦士「うぉっ、驚いた。いきなり出てくるな」


カライモン「そう…あれはエイベル様と私めとの初戦が原因」

カライモン「いつも通り勇者の力量を測りつつ、生き延びさせる……そんな日課となっていた戦闘が終わった後の事で御座います」

カライモン「傷付いたエイベル様が迷い込んだ先は、帝国領。身体は瀕死、息も切れ切れ。そんな所に現れたのが、帝国の姫君…」

カライモン「姫君はエイベル様の名前を問うも…エイベル様の頭の中は、先の戦闘の事が詰まって居たご様子」


姫『お名前は?』

エイベル『(おのれ……)カ……(ラ)イ…(モ)…………ン』


勇者「…………」

エレナ「…………」

勇者「そんなまさか―――」

カライモン「エイベルさまの記憶から直々に得た情報でございます」


勇者「………」

エレナ「………」


カライモン「かく言う私も、実は…ア」

勇者「あっ」


勇者「そうだ、エイベル様と言えば…エレナ、頼んでおいた物は出来上がっているか?」

エレナ「うん、出来てるよ。でも、肝心の…」

勇者「大丈夫だ。カライモン、ちょっと体の一部を分けてくれないか?」

カライモン「それは構いませんが…一体何を?」


勇者「カライモンの特性上、エイベル様の魔力を失っても記憶を残しているかも知れない…と思ってな」

カライモン「成る程…確かにその通りで御座います。どうぞ、私の身体で良ければご自由にお使い下さい」


その言葉に甘えて、カライモンの外殻を指先分程拝借する俺。


エレナから受け取った指輪に、カライモンの身体の一部を嵌める。

すると指輪から、エイベルの様の姿が映し出され……


国王「おぉ…エイベル」

エイベル「父上…それに、まさか……エーデル、エーデルワイスなのか?」


エレナ「感動の再会って所だねえ。あ、そう言えば……些細な事だけど、今回は勇者くんが勇者になったのって、前回よりも6年遅かったんだよね?」

勇者「ん?………あぁ、言われてみれば確かに。と言う事は、だ………」

エレナ「エイベルさまの死が前回よりも遅れた…って事になるよね。どうしてだろう?」


勇者「前回とは違う事…つよくてニューゲームは、俺が勇者になってからしか変化が無い筈だから……それ以前の変化は…そうか」

 ナビか

エレナ「あぁ、成る程………ナビちゃんか」

どういう因果か…ナビが人間の姿を取った事でエイベル様の寿命が延びたらしい


カライモン「6年前となりますと…恐らくはあの時の事で御座いましょう」

勇者「心当たりがあるのか?」

カライモン「はい。本来ならばエイベル様と私の決着が付く筈だった戦いの折…エイベル様は突如、混乱をお召しになられたのです」


エイベル「あの時は、その。直前まで聞こえて居た筈の天の声…ナビさんの声が突然聞こえなくなり…お恥ずかしながら取り乱してしまったんです」

感動の再会を終えたのか、会話に加わるエイベル様。

エイベル「そして…突然の事態を飲み込む事が出来なかった僕は、無様にもその場から逃げ出し………」


カライモン「その後に待ち受けて居たのは、葛藤と迷走の日々で御座いました。勇者としての自分に疑問を抱き、それでも自分に出来る事を探し…」

エイベル「そこからは………まぁ、省略しますが」

カライモン「6年後、改めて決戦を行い…その結果。今の勇者様が覚醒を行われたと言う訳で御座います」


6年間………決して短くは無いその時間を、道標の無いまま勇者として過ごしたエイベル様。

行き付いた先が同じ場所だった事は、カライモンの様子からも伺えたのだが……


幼女「あ、あの時のお兄ちゃん」

勇者「ん?エイベル様と会った事があるのか?」

幼女「うん。部族の皆が攫われそうになった時、私とお父さんとお母さんを助けてくれた人」

そんな事があったのか…


皇女「私も…まだ幼い頃に刺客に襲われた際、エイベル様に助けて頂いた事があります。勇者様の事情を知ったのは、その後の事なのですが…」

カライモン「と言った風に、他にも…今回の世界の事情に関わる事の幾つかに関わって来られました。その辺りは勇者様が差異を実感された事かと」


勇者「成る程……エイベル様は、さしずめ今回の影の立役者だったと言う事か」

運命…いや、因果とは不思議な所で絡み合っているようだ。

そうこうしている内に始まる式…

帝王エイジとエーデルワイス姫の…誓いの言葉と口付け。


拍手と賛美歌の祝福が周囲を包み込み……

教会の外へと続く通路を二人が歩み出す。


エレナ「ナビちゃんと言えば…ナビちゃんと戦士くんと僧侶ちゃんはどうしてるの?」

勇者「ん?何故その三人の名前が一括りになっているんだ?」

エレナ「………やっぱり気付いてなかったんだね」


勇者「どういう事だ?」

エレナ「ナビちゃんは、戦士くんと僧侶ちゃんの子供なんだよ」


勇者「………はっ?」

エレナ「正確には。前回の戦士ちゃんと僧侶ちゃんの…生まれて来る筈だった子供」

ナビ「肯定する」

勇者「…説明を頼む」


エレナ「まず…つよくてニューゲームの直後、勇者くんが覚醒したその時にはもうナビちゃんが今の姿で居たんだよね?」

勇者「その通りだ」

エレナ「その時点で、大きく分けて二つの可能性…勇者くんの覚醒に合わせて存在をでっち上げたか、更に過去に戻って生まれたか…って事になるんだけど」

ナビ「私はあくまで導き手。無からの創造を行う力を所持しては居ない」

エレナ「っていう事らしいから、前者は除外して…じゃぁどうやって過去に生まれたかって事になるんだけど」


勇者「そうか。あぁ……何となくだが判ってきたぞ」


エレナ「強くてニューゲームに伴って、時間を巻き戻す際に…その途中で、生まれて来る筈だった子供の肉体を使わせて貰ったんだよね」

ナビ「肯定」


エレナ「で、説明が逆になっちゃうけど…問題はその子供が一体誰なのか。まぁ…ナビちゃんと戦士くん達のやりとりから、ある程度は予想できたよね」

勇者「そうか…戦士と僧侶が前回の記憶を持ち、ナビの事を知っていた理由は……」

エレナ「うん…巻き戻らないマオウシステムと同じく、ナビゲーションシステムの影響を直接受けたからだろうね」

勇者「そういう事になるよな…」


エレナ「そして、6年前……命を落とす筈だったエイベル様が、世界の事情に干渉し始めたのは…ナビちゃんの声が聞こえなくなってから」

勇者「その時点から、ナビは人間としてこの世に存在していた…と」

ナビ「肯定。その時点で今回の私の存在が確立し…その結果勇者の両親に拾われ、現在に到る」


勇者「しかし、それ以降のセーブとロードではナビも除外されずに巻き戻って………あぁ、そうか」

ナビ「そう…それは勇者にセーブとロードを委譲した後の事。故に記憶面でもセーブとロードの影響を受けるようになった」


エレル「そもそも、何でナビちゃんは勇者さまにセーブとロードを委譲したんですか?」

勇者「マオウシステムを倒すために、自分は消滅する気だったみたいだからな。その尻拭いをさせるためだろう」

ナビ「…人聞きが悪い」


勇者「全然悪く無い、事実だろう。それに…何が『何かしらの不具合が起きているかも知れない』だ、確信犯じゃないか」

ナビ「………~♪」

口笛で誤魔化すな


カライモン「因みに…私もナビゲーションシステムの変異には気付いておりました」

勇者「そう言えば、最初に顔を合わせた時にも意味深な事を言っていたな…」


エレナ「で、戦士くんと僧侶ちゃんが落ち着いた今…どうなってるのかなって思ったんだけど…」

ナビ「あの後勇者の両親に、本当の両親…戦士と僧侶との再会を知らせ…その上で勇者の両親に預けてられている形となっている」

いや待て、そんな事俺は一言も聞いて居ないぞ?

そもそも、俺の身近に居るのに両親に預けている事になるのか?


エレナ「今回生まれてくる筈の、あの二人の間の子供はどうなるの?」

ナビ「万事問題無く誕生する予定。当然…私の妹として」


何故お前が胸を張って誇らしげに言う…

エレナ「そっかぁ…あの二人にまた子供かぁ。そう言えば、子供と言えば………勇者くんって」

勇者「ん?」

エレナ「前回は、エレルと致しちゃったんだよね?」


勇者「……………」


エレル「今回の勇者さまは、ナビちゃんとマオウちゃん。おまけにアリーツェ姫なんていうヒロインまではべらせちゃってますよね」

エレル「………ついでに言うと、今回の私は勇者さまにまだ何もしてもらって居ない訳なんですが…」

エレナ「前回の勇者くんは、私の事を恋人だって言ってくれたんだよね?」


マオウ「それはあくまで以前の事…今回もお前を恋人に選ぶなどと思い上がらぬ方が良いな。今までお前を恋人に選んだ割合など、丁度11.54%に過ぎぬわ」

ナビ「メイズ…否、マオウを恋人に選んだ割合は0%」

マオウ「我はヒロインとしては今回が初登場なのだから仕方が無かろう」

皇女「私は正妻では無くとも…側室で構いませんが…」

ナビ「ちなみに…アリーツェの勝率は16.335%」


皇女「えっ…」

エレナ「………」

エレル「………」

アリーツェ「………」

ナビ「………」

マオウ「………」


エレナ「…じゃぁ、決まりだね」

エレル「……うん、決まりだね」

エレナ&エレル「誰にするのか…はっきりして貰おうか」


勇者「…………」


ナビ「勇者は逃げ出した」

マオウ「だが回り込まれてしまった」

皇女「…お恥ずかしながら…私もこの問題が少々気になってしまいました。それに…まだ勇者様から思い出を頂いておりませんので」

マオウ「我を選ぶ以外の選択など、許されると思うなよ」


勇者「――――誰か、助け…」


ナビ「勇者は仲間を呼んだ」

マオウ「しかし誰もあらわれなかった」

エレル「声がむなしくこだました」

エレナ「さぁ観念して貰おうか、周りは敵だらけだよ」


エーデルワイス「って言うかさキミ達…人の結婚式だってのに、主役を置いてきぼりにし過ぎじゃない?」


と、ここに来て思わぬ助け舟

エーデルワイス「ブーケ…要らないの?」

と言って、ブーケを空高く投げるエーデルワイス姫


女性一同「――――――!?」

そしてブーケに視線を奪われる女性一同

千載一遇のチャンス…その隙を突き………


勇者「――――――!!」

エレナ「しまった!上!?」

飛翔魔法で一気に飛び上がる俺


マオウ「………だが、マオウからは逃げられぬ」

一瞬で魔獣を呼び出し、飛翔するマオウ


ナビ「そう…そしてナビも常に傍に居る」

いつの間にか俺の背中に乗っているナビ


アリーツェ「ご存知かも知れませんが………私…テイマーの才能があったらしく。勇者特性を失っても…その」

申し訳なさそうな表情をしながら、霊獣の背に乗って追いかけてくるアリーツェ


エレル「そもそも…転移魔法が使える私から逃げられると思ってます?」

と言いながら目の前に転移してきて……そのまま落下しかけるエレル。俺は反射的にそれを抱き抱える。


エレナ「あ、エレルずるい!!それなら私も転移してくれば良かったかな…」

そして最後に、箒に乗って現れるエレナ。


いや、さすがに二人目を抱きかかえるには腕が足りない。

エレナ「それにしても…凄く高い所まで来ちゃったね」

アリーツェ「はい…ここからでしたら、皆様の国まで見渡す事ができますわね」

エレル「特等席から見下ろす世界も、中々乙ですねー」


エレナ「あそこが王国で…あっちが帝国で…」

アリーツェ「あちらが合衆国で、あちらが公国」

エレル「あっちが皇国で…あ、あれが天空山ですね」


アリーツェ「公国の人だかりは…お祭りでしょうか?」

エレル「そう言えば、王国と帝国の合併に乗じて何かするって言ってましたねー…」


エレナ「それにしても…一人一人では小さな点にしか見えないけど…あぁやって皆が集まってると、沢山の人がそこに居るって実感できるよ」

エレル「そして、その皆が活き活きしているのが伝わって来ますよねー」


マオウ「クククク…人がゴミのようだ」

ナビ「踊れ…我が掌の上で」

そこの二人、お前達が言うと冗談に聞こえない。


アリーツェ「これこそが、皆様が前を向いて進み始めた世界……」

エレナ「そしてこれが……勇者くんが築き上げた世界の姿なんだよね…」


世界を見下ろす仲間達。


勇者「いや、そうじゃない」


数々の冒険を共にした仲間達…

時には傷つけ合い、時には助け合い…

深まって行った…絆


勇者「この世界を築き上げたのは………」

今ここには居ないが、帝王にヤスカルにカインにノーブル様にカライモン…戦士に僧侶。

紅旅団の団長に、団員達…合衆国の少年と幼女。公国兵士にカーラ、青年貴族に人魚。そして各々の国を治める王達…

皆が居なければ今の俺は無く、今のこの世界も存在しない。


仲間が居たからここまで来れた…いや

これからも…仲間が居れば、どんな困難にも立ち向かう事が出来るだろう。


勇者「皆の…仲間の力………いや」


そして………その仲間が居るのは多分、俺が勇者という存在だからでは無い。

たまたま強い力を持って矢面に立ったと言うだけで、むしろ…俺と言う存在こそ、この仲間達の内の一人でしか無いだろう。


特別な存在で無くても良い。皆が…そう、今この時に生きる誰もが


勇気を出して誰かと繋がる事さえ出来れば………


そう……


誰かのせいにするでは無く


誰かに与えられるのでは無く


自らの意思で臨み、他の誰かと繋がる事が出来たのならば…



勇者「この世界に住む…全ての人々の絆の力だ!」



    その絆は、世界さえも変える事が出来る



        ―ユウシャシステム トゥルーエンド―






マオウ「だからその仲間に優劣を付ける事など出来ない…」

ナビ「あるいは、誰か一人を選ぶ事など出来ない…等と言った詭弁は許されない」


勇者「……………」

………と言う訳で、ユウシャシステム開始から一ヶ月ちょっと。
マオウシステムからの方は2ヶ月間。

長い間お付き合い頂きありがとうございました。

これにてマオウシステム及びユウシャシステムの完結となりましたので
恒例となったレス返しをさせて頂きたいと思います。


>20 面白そうだったから…加えて片割れを取り戻すため。そして、お礼を言われて嬉しかった故の肩入れでした。
>21-23 マオウシステムに挟まれはしましたが、セーブ詰みは何とか回避できました! フラグもまぁ…多分逃しては居ない筈
>25 あらすじは基本ネタなので突っ込んだら負けです。
>31 正直、前回と同じ流れにして最後だけ変えるのもつまらないかと思って…最初っから脱線させてみました!
>32 ナビの策略通り、失敗しまくりました!
>37 正確には、容姿と言うよりもその存在を見ての判断ですが…ちょっとカライモンとの繋がりをチラ付かせてみました。
>39 >46 ありがとうございます!
>40 その依存も、一時的にとは言え何とか打ち砕く事ができました!
>48 歳が(ry
>54 むしろアナザーアギトでした
>55 むしろマガツイザナギでした
>61 エイジ先生の次回作に御期待下さい
>62 お忍びで行動する上での基本かと(byちりめん問屋のご隠居
>63 ぐぐってみたらDoDのキャラらしいですね。魔法少女の方でも名前を見たので、機会があったらプレイしてみようと思います。
ちなみに、名前の元ネタはアベルとカインで…カインな理由は余章の通りです。
>72 小賢しくも引きで継続を煽ってます。
>74 結果のために因果が逆行して経過を形成するような世界観では無いです。申し訳ありません(´・ω・`)
>75 まったくですよね。よし次回作はリア充を爆発させるお話にしよう
>85 勇者というご都合主義の前に敵はありませんでした!
>87-88 どちらかと言うと、時を食らうもの。
簡単に予想されず、それっぽい二人組として条件に合うキャラ…なので、戦士と僧侶を再登場させてみました!
>96 市(ブラックマーケット)です!迷路は売って居ませんが。
>97 >99 >103 前記の通り、初出です。
>98 マオウシステムを殴って倒すのが定番化しちゃいました!
>100 大丈夫…よくよく考えて見れば、カップルなんてどこにもで居るんですよ。ほら、お隣の夫婦だって年月は経ってますけど要はカップルですから…
そう…気が付けばここにもそこにもあそこにもカップルだらけ………
>101 一応キツキツですよ。そう簡単には来れ無いので。
>102 ………(視線逸らし)
>116 そう思われないための魚人型人魚設定だったのに…皆様どれだけ疑り深い…
>124-125 並列世界なんかだと、救えなかったままその世界が更に進む訳ですしね…考える所はあると思います。
>136 カップルでした!しかも魚人好きの変態と、人間好きの変態カップル!何で魚人なのに皆疑わないんですか!
あと、煮は肉じゃがでした。
>137 いざこざの中で公爵が美味しく頂きました。
>138 人魔は兵士とカーラだけですよ!……人魔のカップルは…
>149 >157-161 大丈夫、死体はちゃんと本物で、勇者が遭遇した方が偽者で黒幕でした!
>162 ちがいますよ!たまたま更新時期とネタが被っただけですから!
>176 むしろ、ぶつかった商品が鞄に入っちゃってた的な感じで盗んじゃいました
>177 YES!最後の最後まで勇者特性を活かして突き進みました!
>181 すみません、どの部分がどのイザナギの事か判りませんorz
>187 テイマーでした! 女皇様とお呼び下さい!
>192 衛兵=女貴族の手下 憲兵=警察官みたいな物とお考え下さい。
>194 ちょっとパンチが足りない気もしましたが、こんな感じで上手に自棄ましたー。
>198 人間も所詮は獣。そして人間もテイムしちゃう女皇様なので…
>200 人間、追い詰められると少しでも挽回しようとして余計な事言っちゃいますもんね。
>201 大丈夫、霊獣は皇女が引き取りました!そして流石に皇女まで勇者の領地には引っ越してきませんから!
>203 大丈夫!勇者の行動ですよ!
>204 あり!

>210 欺瞞もさる事ながら、格差問題や人種問題が…それも勇者がどうにかしちゃいましたけど!
>220 反逆でも苦汁を飲んでしまいましたけどね。しかし、それによりより良い結果を出せました!
>222 貧乏性で不要なアイテムを売れないくせに、使い所では出し惜しみしない…そんなプレイスタイルの勇者です。
>224 ました! 更新でまず前回の否定が入る訳ではないデスヨ?
>227 したたかに権利獲得しちゃうと、今度は正規国民から憎しみと悪意が…という訳で、自主的な和解に持って行きました。
>228 そしてそれもナビの計画の内…
>236 一回だけ止めても仕方ないので、戦意その物をフルボッコしてみました(もう一回できるドンッ)。
>237 …という考えに到るので、勇者なりの道を進んでみました。結局マオウシステムの今までの功績は許容しちゃいましたが!
>238 >246 両成敗メインで叱り付けて判らせました。子供達はあくまで偶然です…ご都合主義です!
>245 人間の意思の自浄作用に任せました。
>247-248 >260 止めて!ファイブスターストリー見た事無いのに脳内再生されちゃう!
>255 兵器とはそういう物ですからね…ちなみに、最初は兵器の名前をアトムにしようか迷いました
>259 さすがに教科書に似顔絵までは載りませんよ!精々記念館に飾られる程度かと…
>261 魔王戦はすんなり行きましたが、その後のナビとマオウシステムには振り回されました。
>266 皆の頑張りのお陰でトゥルーエンドに辿り付けました!
>267 大丈夫、セーブなんて無くても希望はそこにあります!
>268 人間だけで、全知的生命には無理でした!
>277 まだまだ、起こるべき事は沢山残ってましたからね。
>280 正直、ボリューム底上げのために第四章で前振り引き伸ばし過ぎた感じが微レ存。
>281 あり!
>282 人間よりもちょっと広い視野を持ったシステムです。
>291 勇者こそがユウシャシステムだったんだよ!(AAry
>292 肉じゃがじゃないですよ!あれはうっかり出ちゃったでけで、僧侶のデミマオウシステム戦でコツ掴んだんですよ!
>297 物量戦には、それを上回る物量で…
>298 チートじゃないですよ!ただちょっと強さの枠を超えちゃっただけで…うん…多分チートじゃない筈…?
>302 ナビは規模の大きなシステム関連だけで、細部への干渉は苦手なんですよ。回復が使えない、使えない子!
>303 受け入れはしましたが、溶け合いはしませんでした!。
>304 大丈夫、判定の必要無く仲間が力になってくれました!
>313 待ち受けて居たのはマオウシステムを凌ぐ最大の敵…ヒロイン達でした!
>314 あり!
>315 ずっと思い続けて来たラスボスですし(ときメモ的な意味で)
>316 えっ?
>317 そう、勇者になればこんなにモテモテ!貴方も転職するなら勇者に!
>321 こんな感じの理由でした
>322 あり!
>323-324 324さんの仰っている通りの感じです。愛称をエーデにするのはアリですね。
>328 「娘が勇者に気があるみたいなんだが…」という悩みが残っていますヨ。
>329 勇者争奪戦でエレナが勝てば…

マオウシステム・ユウシャシステムはお終いですが、魔法少女ダークストーカーの続きと別作品の構想は出来て居ます。
宜しければそちらの方でもお付き合い頂ければ光栄です。

それでは改めまして…皆様、お付き合い頂きありがとうございました!!

>338-341

ありがとうございます!皆様の応援のお言葉が何よりの原動力です!

そして申し訳無いのですが、次回作のタイトルが未だ決まっておらず…
お手数ですがスレ立てまで一旦魔法少女の方に移動頂いて、そこから誘導させて頂く形を取らせて頂きますorz

避難先、魔法少女ダークストーカー
魔法少女ダークストーカー - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414330789/)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom