風見雄二「死んだ世界戦線?」4 (56)

風見雄二「死んだ世界戦線?」

風見雄二「死んだ世界戦線?」2

風見雄二「死んだ世界戦線?」3

の続きになります。

グリザイアの果実とAngel Beats!のクロスです。
両作品のネタバレがあります。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514990426


???「ごめんねっ……ごめんねっ……!!」

あたしが最後に見たのは、お母さんの泣き顔だった。


球技大会が終わり、グラウンドを後にした俺達は戦線本部へと足を運んでいた。

~戦線本部~


ゆり「よくやったわ!!」バーン!!

日向「うぉっ!?いきなり何だよ!?」ビクッ

ゆり「あの天使相手にフェアな勝負で勝つことなんて、今まであったかしら?いや、ないわっ!」

岩沢「反語か?」

雄二「反語だな」フム

ゆり「これは戦線にとっての大きな進歩なのよ!!」デーン!!

日向「まあ、確かにそうだな」

雄二「それなら、天使に勝った俺達には何か景品でもあるのか?」

ゆり「もちろん用意してあるに決まってるじゃない」フフン

日向「よっしゃあああ!!」

ユイ「頑張ったかいがありましたね!!ひなっち先輩!!」

日向「お前は特に何もしてないけどな!」

ユイ「えー…」ガーン

ひさ子「それで、ご褒美って何なんだ?」

ゆり「皆でピクニックなんてどうかしら?」クスッ

関根「ピクニックきたぁー!!!」

入江「ピクニックですかぁ!!」

雄二「フム…」

“ピクニック”を報酬としているのはどうかと思うが、日々神に喧嘩を売っている戦線メンバーにはいいご褒美なのかもしれない。

しかし…


雄二「ちょっと待て」

ゆり「何かしら?風見くん?」

雄二「ピクニックとは、本当の意味でのピクニックなのか?」

日向「どういうことだ?」ハテ

雄二「俺は昔、師匠にピクニックだと言われて約1ヶ月間無人島でサバイバル生活を強いられたことがある」

岩沢「すげぇ、1ヶ月かよ」

日向「お前よく生きて帰ってこれたな…」

雄二「だからピクニックと聞くと、どうも胡散臭くてな」

ユイ「というか、いったいどんな前世だったんですか…」

雄二「それで、どうなんだ?ゆり」

ゆりは俺の顔を見ると不敵な笑みを浮かべて言った。

ゆり「大丈夫、きちんと“ピクニック“だから。安心なさい」フッ

日向「この顔は安心できねぇ顔だな…」ハァ

高松「やはり悪魔のような人ですね…」

雄二「……」

俺達は後日行われる“ピクニック“に参加することが決まり、今日は解散することになった。



波乱のあった球技大会の翌日、いつもの時間にいつもの道を走っているとグラウンド近くの芝生に、見慣れない人影を発見した。

あのアホ丸出しの髪型は…?


雄二「ユイか?」

ユイ「うぇ?風見先輩?」

ユイは体操着を着て、芝生に突っ伏していた。

雄二「随分変わった自慰行為だな」フム

ユイ「そんなわけあるかぁぁぁ!!!」ブンッ

雄二「おっと…」

ユイから放たれた蹴りをかわす。

雄二「お前はよく人を蹴ろうとするな。もしかして、人を蹴るのが趣味なのか?」

ユイ「違いますよ!先輩こそ、いきなり女の子に下ネタを言うのが先輩の趣味なんですか!?」

雄二「いや、俺の趣味は読書だな」

ユイ「真面目に答えるなぁぁぁ!!!」

雄二「ちなみに好きな食べ物は豆だ」

ユイ「そんなのどーでもいいわぁぁぁぁ!!!」

雄二「フム…」

朝から元気なやつだと感心していると、そこに日向が通りかかった。


日向「よっ!相棒!!…何してんだ?」ハテ

雄二「ユイがグラウンドで自慰行為をしている所を見かけてな」

雄二「きちんとブルーシートを敷いているかを確認していたところだ」

日向「じっ!?…ユイ…お前……」

ユイ「違いますからっ!!先輩がふざけてるだけですから!!」

雄二「それで?自慰行為じゃないならお前は何をやっていたんだ?」

ユイ「見てわかんないんですか!?トレーニングですよ!?」

雄二「いや、わからないな」

ユイ「わかれよぉぉぉ!!!」

日向「朝からうるせぇやつだなぁ…」ハァ

ユイ「誰のせいですか、誰の!!」

雄二「それで、何故今さらトレーニングなんてしているんだ?」

ユイ「この前の球技大会であたしはホームランが打てませんでした」

日向「ホームランどころかヒットすら打ってないけどな」ハァ

ユイ「…だから、トレーニングなんです」

雄二「フム…」

こいつもそれなりに責任を感じているのだろうか?
変なところで真面目なやつだ。



ユイ「だからひなっち先輩、トレーニング方法を教えてください」

日向「俺が?なんで俺なんだよ…」

ユイ「だって昔野球部で、戦線立ち上げ時からこの世界にいるならいいトレーニング方法を知ってるかなって…」

日向「……そうだなぁ」ウーン

日向「戦線を立ち上げた初期の頃はひどかったなぁ…」

日向「いや、本当ゆりっぺのしごきがすごくてな……懐かしいなー…」

日向「……」

日向「……!!……っ!!」プルプル

ユイ「こわっ!?笑いながら震えてる!?こわっ!!??」

雄二「日向!」

日向「っは!?」

雄二「大丈夫か?」

日向「あ、ああ……やべぇ思い出すだけで膝が震えてきた」ガタガタ

戦線の闇は深そうだな…

しかし、筋力トレーニングなら生前“あの会社“にいた俺にも覚えがある。

雄二「俺が教えてやろうか?」

ユイ「……風見先輩がですか?」

雄二「ああ、きっとホームランも打てるようになる」

ユイ「本当ですか!?」

日向「お前も物好きだなぁ…」

雄二「お前もさっきまで手伝おうとしていただろ?」

日向「…ただの暇潰しだよ」

ユイ「それじゃ、よろしくお願いしまっす!」


雄二「よし、それでは今から返事は全てレンジャーだ!!」

ユイ「……え?」

雄二「何をしている!?返事はどうした!!」

ユイ「レ、レンジャー!!」

雄二「よし!ならば次はさっさと地面に這いつくばれ!!」

ユイ「え?はぇ?」

雄二「誰がそんな返事を教えた!?お前が許されている言葉はひとつだけだ!」

ユイ「レンジャー!!」

雄二「そうだ!そしてお前は何だ!?」

ユイ「ユ、ユイです!戦線メンバー陽動担当のユイです!」

雄二「違う!貴様はただのゴミクズだ!!」

雄二「ただ酸素を消費するだけで雑草ほどにも価値のない存在だ!!」

ユイ「レンジャー!!」

雄二「声が小さい!!もう一度!!」

ユイ「レンジャー!!!!」

雄二「まだ小さい!!それでも男か!!?」

ユイ「あたしは女じゃボケェェェエエエ!!!!」ガスッ

日向「俺ぇ!!?」

日向がタマを蹴りあげられる。

こうして、俺はユイと日向と楽しくトレーニングをした。


ユイ「なんか、こう専門的な筋トレ教えて下さいよ」

日向が立ち去った後も、しばらくトレーニングを続けていたユイはおもむろにそう言った。

雄二「何故だ?」

ユイ「早く筋肉をつけたいからですよ」

雄二「…筋肉をつけるためには、必然的にある程度の時間がいる」

雄二「トレーニングに近道はない」

ユイ「そんなぁ…」

こいつは今日、ずっとひとりでトレーニングをしていた。

ひとりでトレーニングを続けたところで面白く感じないのかもしれない。



雄二「仕方ない、俺もトレーニングに付き合おう」

ユイ「おー?いいですね!それじゃ勝負でもしますか?」

雄二「フム、どちらが多く腕立て伏せをできるかという勝負か」

ユイ「そうですよ!そして、あたしが勝ったらユイにゃん様って呼んでもらいます!」

雄二「なるほど。ならば俺が勝ったら…そうだな、兄さんとでも呼んでもらおうか」

ユイ「……え?」ヒキッ

雄二「どうした?」

ユイ「先輩ってアレですか?シスコンってやつですか?」

雄二「いや、昔同じ学校の女にお兄ちゃんとかパパとか呼ばれていたのを思い出してな」

雄二「その中で、まだ呼ばれたことがないものにしただけだ」

ユイ「同じ学校の女に……パパ……??」ガタガタ

雄二「どうした?何故震えている?」

ユイ「い、いえ!?…あたしが負けなければいいだけですよね!」

雄二「まあ、そうだな」


ユイ「よっしゃあ!!じゃあ気合い入れていくぞーーーー!!いーーーち!」グッ

雄二「いーーーち!」グッ

ユイ「にぃーーー!」グッ

雄二「にぃーーー!」グッ

ユイ「さ、さぁぁぁぁぁん!」グー

雄二「さーーーん!」グッ

ユイ「しぃぃぃぃぃぃぃ…」グー…

雄二「しーーー!」グッ

ユイ「ぜー…ぜー……ご、ごぉぉ……」

雄二「ごーーー!」グッ

がくっ……

ユイがあっさり崩れた。



ユイ「まだ……負けてない……心が折れていなければ…負けじゃない……」

雄二「ろーーーく!」グッ

ユイ「ろぉぉぉぉ………」

ぱたっ…

またユイは地面に倒れた。

雄二「何故、その程度の筋力で俺に勝負を挑んできたんだ?」

ユイ「うぅ…」

雄二「それで?約束は覚えているか?」

ユイ「に、兄さん……」

雄二「声が小さいな」

ユイ「兄さん!」

雄二「よし、次はもっと慕う感じで」

ユイ「兄さん?」

雄二「ハニカミながら!」

ユイ「兄さん!」

雄二「全力の笑顔で!」

ユイ「兄さん♪」

雄二「よし、合格だ!!帰ってよし!!」

ユイ「やってられるかぁぁぁぁーーーー!!!!」ダダダダッ

相当疲れていたはずのユイだったが、全力疾走で寮に戻っていった。

雄二「フム、俺も帰るか」

朝から無駄な時間を過ごしてしまった。そう思いながら、俺はシャワーを浴びるべく寮へと戻った。


~戦線本部~

ゆり「みんな集まったわね?」

野田「いったい何の用だ?ゆりっぺ」

松下「しかも、日向や風見達には内緒で集合というのはなんなのだ?」

大山「正確には、日向くん、高松くん、椎名さん、岩沢さん、ひさ子さん、関根さん、入江さんに風見くんだね」

ゆり「もちろん作戦よ」フッ

藤巻「作戦?…ゆりっぺ、それはいったいどんな作戦なんだ?」

ゆり「彼らには3日後、裏山でピクニックに行ってもらうわ」

ゆり「前回の作戦のご褒美としてね」


野田「ピクニックだと?」

松下「ピクニック…それと俺達が集められた理由がどう繋がるんだ?」

ゆり「3日後に裏山でピクニックを開催。その許可を生徒会長である天使からとる」

ゆり「天使もわたし達が絡んでいると分かっている以上、必ず様子を見に来るでしょうね」

大山「それで、僕達は何をどうすればいいの?」

ゆり「簡単よ。日向くん達を敵とみなして殺してちょうだい」

全員「えーーー!!??」

ゆり「もちろん、日向くん達も自分達が攻撃を受けてるってわかったら、何かしら反撃してくるでしょうから気を引き締めて作戦に臨んでちょうだい」

松下「待て!何故俺達が殺し合いをしなければならんのだ!?」

藤巻「そうだぜ!そんなことする意味がわからねぇぜ!!」

大山「僕もそんなの嫌だよ!理由を説明してよ!!」


ゆり「…天使はわたし達が殺し合いをしている様を見て、どう思うかしら」

大山「そんなの、頭がおかしくなったとしか思わないよ!」

ゆり「そう。誰も病むことのないこの世界でね」

大山「……え?」

ゆり「この世界にはいくつか絶対的なルールがある」

ゆり「そして、その中の一つが誰も病まない…病むことがないというもの」

ゆり「もし、この世界の真理とも言えるものが破綻したと天使が感じたとしたら、天使はどうすると思うかしら?」

藤巻「…わかんねぇよ。教えてくれ、ゆりっぺ!」

ゆり「天使がする行動……それは、そのルールを作った“張本人“に助けを求める、じゃないかしら」

大山「えっ!?そ、それじゃあ…」

ゆり「そう、天使に呼んでもらうのよ…」

ゆり「神を」


部屋に戻ってシャワーを浴び、昼食を終えた俺が校内を歩いていると、またどこからかギターの音が聴こえてきた。

岩沢か。

また曲作りでもしているのだろうとギターの音がする方へ足を運ぶと、NPCと思われる生徒達が多数集まっていた。

そして、その集団の中心には意外にもユイの姿があった。

雄二「…岩沢じゃないのか?」

どうやら、ギターを弾いているのはユイらしい。

あいつ、何やってるんだ?

ユイの行動が気になった俺は、ユイと話をするため、演奏が終わりNPCがいなくなるのを待つことにした。



ユイ「ふー…」

雄二「随分と盛り上がっていたな」

ユイ「あ、兄さん」

雄二「……」

ユイ「……」

何故こいつは俺のことを兄と呼ぶ?

雄二「なるほど…これが発情期か」フム

ユイ「だからちっがぁぁぁう!!!」

雄二「そうか。すまない、思春期のほうだったか」

ユイ「どっちでもないですから!!というか、先輩が言わせてるんでしょうが!!」

雄二「そういえばそうだったな…」

遊びの罰ゲームを自分から継続しているとは、なかなか律儀なやつだ。



雄二「お前はここで何をしていたんだ?」

ユイ「見てわからなかったんですか?路上ライブですよ。路上ライブ!」

雄二「ライブ?何故そんなことをしていたんだ?」

ユイ「やりたいからですよ」

雄二「ライブをか?」

ユイ「そうです」フンス

雄二「お前は数時間前に、ホームランが打てるようになりたいと言って、トレーニングをしていなかったか?」

ユイ「ホームランも打ちたいです!」

ユイ「でも、岩沢さん達ガルデモみたいにライブもやりたいたいんです」

雄二「……」

やはりこの髪型の女は、あいつと同じように“活動家“としての生き方でも宿命づけられているのだろうか。

ツインテール…なんて恐ろしい髪型だ。



ユイ「……あたしね?やりたいことが人よりたくさんあるんですよ」

雄二「そうみたいだな」

ユイ「何でだと思います?」

雄二「そうだな…単にお前が自称活動家としての使命感に燃えているからなのか…」

ユイ「何ですか、それ」クスッ

雄二「それとも、生前にそうすることができなかった事情があるからかのどちらかだな」

ユイ「…」

雄二「違ったか?」

ユイ「…先輩の言うとおり、小さい時にあたし後ろから車にはねられちゃって…」

雄二「……」

ユイ「それでね?…体、動かなくなっちゃったんだ」

ユイ「完全に寝たきりで、もう介護なしには生きてらんないの」

ユイ「お父さんはいなかったから、お母さんに頼りきりで、お母さんにはすごく悪いことしたなぁ…」

ユイ「こんなあたしを介護する毎日だったのに、お母さんはいつも笑顔でいてくれて…」

ユイ「本当…悪いことしたなぁ……」



ユイの告白は突然だった。

ユイも、やはりあいつらと同じで生前にできなかったことをこの世界でやろうとしている。

ゆりも、岩沢も、日向と同じでユイも自分の悔いをしっかりと見つめ、それを晴らそうとしている。

そんなユイに俺は…

雄二「なら、俺が手伝おう」

手を差し伸べることにした。


日向「なぁ相棒…」

雄二「どうした?」

ピクニック当日となり、俺、日向、高松、椎名、岩沢、ひさ子、関根、入江、ユイのメンバーで俺達は裏山を登っていた。

高松と椎名が先頭を行き、ひさ子、関根、入江、ユイがそれに続いて歩いている。

そして、俺は前を行くひさ子達の後ろで日向と岩沢と歩いていた。


日向「最近、風見がユイにつききっきりでトレーニングをしているって話を聴いたんだが…」

雄二「ああ。してるな。それがどうかしたのか?」ハテ

日向「いや、何でそんなことしているんだ?」

雄二「…そうだな。特に理由はないな」

日向「ないのかよ…」


俺は生前に美浜学園で蒔菜に教えたトレーニングをユイにも教えていた。

あいつは、生前体を動かすことさえできなかったのだ。

ならば、その無念が晴れるよう存分に体を動かしてやろうというのが俺の目的だ。

日向「あと、岩沢もユイにギターを教えてるって?」

岩沢「ユイがNPC相手に弾き語りをしていたのは知ってたから、いつかはレクチャーしてやりたいって思ってたんだ」

岩沢「それに、風見にユイを気にかけてやってくれって頼まれたからね」

日向「……」


日向「………なぁ、相棒」ジー

雄二「何だ?」

日向「もしかしてなんだが、お前はロリコンの気があったりするのか…?」

雄二「全くないと思うが」

日向「それにしては、ユイに入れ込みすぎじゃねーの?」

雄二「いや、昔護衛についた9歳の幼女に結婚を申し込まれたことがあるが、嬉しいどころかただ困惑するだけだったぞ」

日向「…お前の前世がいったいどんなだったか本当に気になってきたんだが」

雄二「大して面白い前世じゃない。気にするな」

岩沢「面白くなくても、わたしは知りたいんだけどな」

雄二「…また今度な」

岩沢「……」ハァ

他愛もない会話をしていると、何故か高松達が立ち止まっていることに気づいた。

日向「どうした?」

高松「いえ…あれを見てください」

日向「ん?大山…か?」

高松が示す先に目を向けると、そこには大山が立っていた。



日向「大山!こんなところで何してんだ?」

大山「……」

日向「おーい、大山さーん?」

日向が前にいる大山に話しかける。
しかし、大山は黙って立ち尽くしたままだった。

関根「日向さん、完全に無視されてますね…」

入江「具合でも悪いのかな…?」

ひさ子「具合が悪かったら、こんな山登んないだろ」

ユイ「なんか不気味ですね…」

椎名「あさはかなり…」

雄二「……」

確かに大山の様子がおかしい。
いつも通りであれば、自分から日向に話かけたりするはずだ。

それに、大山は何故ここにいる?

俺がこの状況について考えている間に、高松と日向は大山に近づいていった。



日向「本当にどうしたよ?」

高松「気分でも悪いんですか?」

二人が大山に話しかけると、大山は高松の方を見た。

そして、大山は右手に何かを持っているようだった。

雄二「!?」

大山が高松に一歩近づいた時、俺は大山の手に握られている物の正体に気づいた。

雄二「高松!!大山から離れろッ!!!」

大山「……ごめんね」スッ

高松「え?」ズッ

日向「なっ!?」

大山が高松に近づいた直後、高松は糸の切れた人形のように地面に倒れこんだ。

入江「…どうしたんですか?」

ひさ子「おい…あれ……!!」

そして、大山の手には赤く血に濡れたナイフが握られていた。


倒れた高松から血のシミが拡がっていく。そして、大山もまた鮮血に染まっていた。

雄二「クソッ!!」

事態の異常さに気づいた俺は、大山に向かって駆けていた。

今は大山に何が起きたかは問題ではない。

大山が高松をナイフで刺したことが問題なのだ。

これ以上被害が出ないようにしなければならない。

大山を止めなければ。

俺が大山の前まで行くと、大山は握ったナイフを俺の眼前に突き出してきた。


雄二「………ふっ!!」

大山「ッ!?」

寸での所でナイフをかわした俺は、突きだされた手を取り、その勢いを利用して大山を投げた。

地面に投げられ、強く背中を打ち付けた大山は地面に倒れて気を失っていた。

ユイ「何なんですか!?何でこの人高松先輩を殺しちゃったんですかぁ!?」

日向「お、俺だってわかんねーよ!!」

高松を刺殺した大山の行動に、俺を除くメンバーは大きく取り乱していた。

特に日向は、相当混乱しているようだ。

生前、様々な状況に陥ってきた俺は、このような状況こそ冷静な頭でなければ対処することができないことを知っている。

雄二「日向」

日向「何だよ!?」

雄二「ふんっ」バキッ

日向「ぶっ!?」

ユイ「ひなっち先輩!?」ガーン!!

だから俺は、取り乱していた日向を力の限りぶん殴ることにした。


日向「いきなり何すんだよ!?」

雄二「すまない。あまりにも喧しいからつい殴ってしまった」

日向「うるさいから殴るって極端すぎじゃありませんかね!?」ガーン!!

雄二「フム」

日向「だから、フムじゃねぇぇぇ!!!」

雄二「日向」

日向「今度は何だよ!?」

雄二「少しは落ちついたか?」

日向「!」

雄二「パニックを起こした状態では状況を把握することは難しくなる」

雄二「だから、まずは落ちつけ」

日向「あぁ…そうだな…」



日向「…それでこれはどういう状況なんだ?」

雄二「……」

まずは状況を整理する。

ピクニックに出掛けた俺達は、大山と遭遇した。
そして、大山は隠し持っていたナイフで高松を刺し殺した。

日向「改めて、何で大山は高松を殺したんだ?」

入江「…恨みとかですかね?」

ひさ子「普通恨みだけで殺すか?」

関根「いや、ここはいくら殺しても死なない世界ですし、殺してもいいのかもって思ったんじゃないですかね?」

殺しの動機も気になることは確かだが、俺は別のことが気になっていた。



雄二「それよりも、何故大山はこの山にいたんだ?」

岩沢「確かに…気になるな」

ひさ子「高松を殺すためなんじゃないのか?」

雄二「俺達は前回の作戦のご褒美でこの裏山にきている。大山は何故この場所がわかった?」

日向「それは…ゆりっぺにでも聞いたんだろ」

雄二「フム…」

ゆりが絡んでくるとなると、考えられることは一つだ。

雄二「これは何かの作戦なのか……?」


岩沢「ゆりの作戦…?」

関根「高松さんを殺す作戦ですか?」

雄二「高松だけでなく、ピクニックの参加者全員を殺す作戦かもしれない」

椎名「あさはかなり…」

日向「ゆりっぺの考える作戦はいつも派手だからな。ありえるかもしれねぇ…」ハァ

ユイ「仲間を殺す作戦って、本当にゆりっぺ先輩の頭の中どうなってるんですかね…」


…………フォンフォンフォンフォン

岩沢「何だ?この音…?」

雄二「岩沢!!」バッ

岩沢「!?」

妙な音がしたかと思えば、森の奥から何かが飛んできた。
俺は岩沢を押し倒すようにして、それをかわした。

雄二「大山の次はこいつか…」

その何かが飛んできた場所を見ると、そこには深々とハルバートが刺さっていた。


野田「…」

森の奥を見ると、木の茂みの中から野田が姿を現した。

日向「野田!お前まで何してんだよ!?」

野田「…」

日向「……お前もだんまりですか…」

雄二「野田、これはゆりの作戦なのか?」

野田「!」ピクッ

関根「お?反応しましたね」

雄二「どうやら当たりみたいだな」フム

野田「…」チッ

舌打ちをした野田は投げたものとは別のハルバートを手にこちらに向かって駆け出した。

日向「相棒!!くるぞ!!」

雄二「……」

これが本当にゆりの作戦であるならば、俺達が反撃することぐらいゆりは想定しているだろう。

なら、手加減はしなくていいはずだ。

野田「…うおおおおおお!!!」

雄二「……」スッ

野田「え!?」

雄二「……」パンッ

俺は持っていた銃を取り出すと、野田の足を撃ち抜いた。



足を撃たれて倒れた野田を椎名が地面に押さえつけている。

ひさ子「こいつに作戦のこと聞いてみるか?」

日向「いや、野田はゆりっぺの言うことしかきかない。多分答えないぞ?」

入江「どうしましょう…」

関根「…どうします?風見先輩」

雄二「岩沢」

岩沢「何?」

雄二「良い警官と悪い警官って知ってるか?」

岩沢「…有効な尋問方法の一つだっけ?」

雄二「そうだ。今からそれを俺とお前でやる。俺が悪い警官をやるからお前は良い警官をやってくれ」

岩沢「…」

雄二「無理か?」

岩沢「…いいよ。その代わり貸しだからね」

雄二「わかった」



雄二「さて、下らん前置きは無しだ。この作戦の内容は?」

野田「……知るか」

雄二「質問を変えよう。この作戦の目的はなんだ?」

野田「だから知るかっ!!」

雄二「…あっそ…」パンッ

野田「ぎゃああ!!」

日向「お、おい!相棒!?」

雄二「次は腕を撃つぞ?よく考えて慎重に答えろ」

野田「誰が貴様なんぞに……ッ!!」

雄二「…」パンッ

野田「ぎゃぁぁぁ!!」

雄二「作戦の内容は?目的は何なんだ?」パンッ

野田「ぐわぁぁぁ!!」

岩沢「おいおい、やりすぎだ風見!!このままだと死ぬぞ!?」

雄二「だから?どうせ喋らんのなら殺してもいいんじゃないか?」パンッ

野田「んぎゃああ!!!」

雄二「…おい、喋る気があるなら早く喋れよ。体が穴だらけになるぞ…?」パンッ

野田「ンぎゃああ!!!わかった!話す!話すからもうやめてくれ!!」

岩沢「風見!!これ以上はやめろ!!これ以上やるならお前を戦線から脱退させるぞ!!」

雄二「…へーい」

岩沢「日向!!風見を向こうに連れていけ!!わたしがこいつと話す!!」

日向「お、おうっ!!」

雄二「…チッ…つまんねーのー…」

悪い警官よりも良い警官となら協力関係を結べるかもしれない。

そう思わせるのがこの良い警官と悪い警官だ。

これで野田は岩沢に作戦のことを話すだろう。

さて、いったいどんな作戦なんだ…?


岩沢「……ということらしい」

全員「…」

ゆりの考えた作戦。それは、誰も病むことのないこの世界で病んだ振りをすることで、神を呼び出すというものだった。

日向「にしても、俺達を殺しのターゲットにするなんて、ひでぇ話だぜ」ハァ

ユイ「もう帰りましょう…ピクニックの気分じゃなくなっちゃいましたよ…」

雄二「…そうだな」

これ以上ピクニックを続けても仕方ないと考えた俺達は裏山を降りることにした。


しばらく山を下っていると、道の真ん中に大量の草木が敷かれていた。

関根「何です?これ」

日向「…落とし穴じゃないか?」

入江「これもわたし達に向けた罠なのかな?」

ユイ「こんなのに引っかかる人なんていませんよ!」フンス

ユイはそう言うと、その草木が敷かれている“真横“を通ろうとした。

雄二「馬鹿ッ!!」ダッ

ユイ「えっ?」ズルッ

ユイが踏み出した地面が沈み、ユイはそのまま地面に吸い込まれていく。

ユイを助けようとユイの手を掴んだ俺は、その場に踏ん張ることができずにユイと一緒に穴の中に落ちてしまった。


日向「相棒!聞こえるか!?待ってろ!!すぐにロープを持ってくる!!」

雄二「……」

穴は思ったよりも深かった。

外に出るため何とか登ろうとするが、地面が脆く途中で崩れてしまう。

雄二「…この落とし穴を作ったやつは天才だな」フム

ユイ「……」

雄二「日向を待つしかないか…」

ユイ「……ははっ」

雄二「どうした?穴に落ちて、ついに頭がおかしくなったか?ゆりの作戦は成功したみたいだな」

ユイ「違いますよ…あたしって、本当にダメだなーって」

雄二「…そうだな。こんなバレバレの罠に引っかかるぐらいだからな」

ユイ「それに、この暗くて狭くて……何もできないっていうのがあたしの人生みたいだなーって…」

雄二「何?」

ユイ「…あたしが生きてた頃、体が動かせなかったって言いましたよね?」

雄二「ああ、言ったな」

ユイ「それで、お母さんに介護してもらってた」

雄二「……」

ユイ「じゃあ、そんなあたしがさ?何で死んじゃったんだと思いますか……?」

雄二「……」

ユイ「あたしは…あたしは……ね?」






ユイ「お母さんに殺されちゃったんだ」






ユイ「介護ノイローゼって言うのかな…」

ユイ「前も言った通り、お母さんはいつも笑顔でした」

ユイ「大変なはずなのに、嫌な顔ひとつせずあたしの世話をしてくれてた」

ユイ「…でも、いつからかお母さんの笑顔はどんどん歪んでいった」

ユイ「顔は笑ってても、目だけが笑ってない」

ユイ「あたしと話しているはずなのに、あたしを見ていなかった」

ユイ「そしてあの日…あたしはお母さんに首を絞められた」

ユイ「お母さんは、ごめんね…ごめんね…って泣いて謝りながら……あたしの首を絞めてた」





ユイ「どうして、こうなっちゃったのかな…?」

ユイ「事故が起きるまでは幸せだったのに…」

ユイ「ホント神様ってひどいよね」

ユイ「あたしの幸せ…一瞬でぜんぶ奪っていったんだ…」




母親によって殺された人生。

ユイは、事故によって体の自由を奪われ、最後には自分の母親の手によってその人生に幕を引いた。

以前の俺では、そんな悲惨な人生をおくってきた奴に言うべき言葉なんて見つかることはなかっただろう。

しかし、俺はユイと同じように母親によってつけられた傷が原因で、孤独を選んだ奴を知っている。

そして、そいつがどうやってその孤独を乗り越えたのかを知っている。

なら、俺が言えること…言うべきことは一つだけだ。


雄二「ユイ。俺はお前にクソの役にも立たない同情なんてしないし、するつもりもない」

ユイ「……」

雄二「お前の人生は、悲惨なもので最終的には自分の母親によって終わらされてしまった」

ユイ「…うん」

雄二「しかし、どんなものであれ、それはお前の人生だった。それは変わらないし、変わることはない」

ユイ「…でも、こんな人生なんて……ッ!!」

雄二「一つ聞こう。ユイ、お前は母親が憎いか?」

ユイ「…え?」

雄二「お前を殺した母親が憎いかと聞いている」

ユイ「……憎くない。憎いわけない」

雄二「何故だ?お前を殺したんだぞ?」

ユイ「お母さんはお荷物のあたしをずっと介護してくれた。支えてくれた」

ユイ「最後には殺されちゃったけど……それでも…あたしはお母さんが大好きだった……!!」ボロボロ

雄二「…そうか」



雄二「神の使いである“かなで“はこの世界は人生をやり直すことができる場所だと言った」

ユイ「…じゃあ、あたしも人生をやり直せるのかな…?」

雄二「違う。お前はこの世界で人生を“始めるんだ“」

ユイ「…どういうことですか?」

雄二「生前の人生を無かったことにするな。お前が好きだった母親は前の人生にしかいない」

雄二「お前が好きだった母親がいた人生をやり直すなんてことはするな」

ユイ「……」

雄二「前の人生を無かったことにするのではなく、新しい人生をこの世界で“始めてみろ“」

雄二「それがお前ができる最高の親孝行のはずだ」



日向「……相棒ぉぉぉー!?ロープを持ってきたー!!今から垂らすから、それに捕まってくれぇぇぇー!!」

雄二「フム、助けが来たようだな」

上からロープが垂らされ、俺はユイを背負ってそれに掴まる。

俺がロープに掴まると体が宙に浮いた。

どうやら日向達が、上から引っ張りあげてくれているようだ。

ユイ「…すみません」

雄二「別に大したことじゃない。気にするな」

ユイ「いえ、そうじゃなくてですね…」

雄二「?」

ユイ「さっき何か凄くいいことを言って下さったのはわかったんですけど…」

雄二「……フム」

ユイ「結局言ってる意味がよくわかりませんでしたっ!」テヘッ

雄二「…………そうか」

確かに、こいつ(ド低脳ピンク頭)には少し難しかったかもしれないな…


ユイ「でも、ありがとうございました」

ユイ「あたし、お父さんはいなかったからよくわからないんですけど…」

ユイ「さっきの先輩は…なんだかお父さんみたいでした」

雄二「……そうか」

ユイ「あっ!そうだ!!あたしも先輩のこと、パパって呼んでいいですか!?」

雄二「いや、それは勘弁してくれ…」

ユイ「いいじゃないですかぁー!!ねっ!?パパぁぁぁ!!!」

雄二「……ふんっ!」バッ

ユイ「ぎゃああ!?急に手を振りほどかないで下さいよっ!?落ちる!!落ちちゃうぅぅーー!!」



俺はこうして、また理不尽な人生を知った。

人生というものが、神によって決められたものであるのならば、やはり神をぶっ飛ばす必要がありそうだ。

しかし、神をぶっ飛ばす前に、いい加減解消しなくてはならない“疑問“がある。

まずは…それをどうにかしなければならない。


日向「相棒!ユイ!無事だったか?」

雄二「ああ」

ユイ「ありがとうございました!ひなっち先輩!!」

関根「もう落とし穴に突っ込むのはやめて下さいよっ」

ひさ子「ロープが見つからなかったら、どうなってたかわからないからな…」

雄二「そういえば、よくこの短時間でロープを持ってくることができたな」

日向「そうだ!相棒!!ちょっとこっちに来てくれ!!」ダッ

雄二「?」

日向に連れられ森の中をしばらく進むと、茂みの奥に小屋があった。

雄二「…ここにロープがあったということか?」

日向「そうだけど、実際に中を見てみな?ビックリするぜ?」

雄二「フム…」ギィ

小屋のドアを開けて中に入ると、中には大量の機械が置かれていた。

どうやら、その全てが稼働している状態のようだ。


雄二「これは…何だ…?」

日向「わからねぇ。ただ、この裏山には俺達は滅多に寄りつかない…」

日向「だから、俺達に隠れて“何か“をするには、うってつけの場所だったろうよ」

雄二「…なるほど」

日向「そんでもって、相棒。この画面を見てくれ」

雄二「これは……?」

日向が示した画面には、

Angel player

と表記されていた。



雄二「Angel player…?これが何か知っているのか?」

日向「いいや。俺には全く検討もつかねぇ」

雄二「フム…」

日向「そしてもう一個…気になったのがこれだ」

雄二「次はいったい何だ……ッ!?」

日向が次に示した“もの“

それにはこう表記されていた。



雄二「タナトス……システム……」




これでまた一回区切ります。

去年から社会人になっちゃったんで、時間はかかると思いますが更新を続けようと思います。

読んでくれた方、ありがとうございました。

…あと、やっぱりグリザイアSS増えて欲しいですよね?



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