男「俺の彼女は不吉なナレーションが大好き」女「これが二人の最後の姿であった……」 (25)

男「おはよう!」

女「……おはよう」

女「……」

男「どうした?」

女「これが二人の交わす最後の挨拶になろうとは、二人は知る由もなかったのである……」

男「朝っぱらから不吉なナレーションやめて!」

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男「やっと午前の授業終わったし、一緒に弁当食べよう」

女「うん」

男「いただきまーす!」モグモグ

女「いただきます」モグモグ

男「ふう、うめえ!」

女「こうして男は最後の晩餐となる弁当を食べ終えたのだった……」

男「この後俺死ぬのかよ! しかもこれ昼飯だし!」

男「一緒に帰ろう」

女「うん」

男「……あの」

女「?」

男「俺と……付き合って下さい!」

女「……いいよ」

男「ホント!? やったぁ!」

女「この時のことを、男は後にこう振り返っている。“この時断られていればあんなことには……”と」

男「いったい何が起こるんだよ!?」

男「いよいよ大学受験だな」

男「俺たちの第一志望一緒だし、同じ大学行けるといいな!」

女「うん。だけどあなた、滑り止めは受けないの?」

男「ああ、ここ一本でいく!」

女「……」

男「?」

女「この決断が自分の人生を狂わせてしまうことを、男はまだ知らなかった……」

男「絶対受かってやるからなぁ!」

男「やったな! 春から同じ大学の大学生だ!」

女「勉強頑張ったかいあったね」

男「さすがに学部は違うけど、キャンパスは同じだし、これからも一緒にいような!」

女「そうね」

女「だが、二人はまだ知らなかった……大学で待ち受ける真の恐怖を……」

男「大学ってそんな恐ろしいとこなの!?」

男「というわけで、二人でこのサークルに入らせてもらいます!」

女「よろしくお願いします」

ワーワー! ヒューヒュー!

部長「カップルが入るなんて初めてのことだな」

先輩「ま、あまり見せつけてくれるなよ!」

アハハハハ…

女「このカップルの加入が、このサークルに未曾有の悲劇をもたらすことになろうとは……」

女「メンバーの中で予測している者などあろうはずもなかった……」

部長「え!?」

男「すみません、なんでもないんです! こういう子なんで!」

男「早いもので、俺たちもいよいよ就職活動か」

女「うん」

男「二人ともいいとこ就職できればいいなぁ!」

女「……」

男「な、なんだよ?」

女「のんきに構えてるこの二人が、就職氷河期の極寒地獄を味わうのはもう少し先のことである……」

男「やめてええええええ!」

男「お互い、すっかり社会人だな」

男「新米とはいえ二人とも今は金のある身分だし、多少贅沢なデートしようぜ」

女「そうね」

男「じゃあ今流行りの映画でも見るか!」

女「映画の上映中、あんな事件が起きなければ、二人は映画を最後まで見られただろうに……」

男「どんな事件!? ねえ、どんな事件!?」

上司「君ね、これはこうじゃないって前にも説明しただろう!」

男「すみません、すみません!」ペコペコ

上司「もういい! 席に戻れ!」

男「は、はいっ!」


ワイワイ… ガヤガヤ…


男(ふぅ、やっぱり社会人は厳しいや)

男(毎日毎日何かしらストレスの溜まる出来事が起きて、常に胃がキリキリしてる)

男(あいつとデートしてる時だけが楽しいよ、まったく)

男「……でさぁ~、今度行きたくもない社員旅行の幹事なんかやらされてさ」

男「予算もほとんどないから、格安の旅行会社を見つけなきゃいけないし……」

女「……」

男「おい、聞いてる?」

女「社員旅行で己に降りかかる不幸を、男はまだ知る由もなかった……」

男「!」カチン

男「おい、いい加減にしろよ!」バンッ!

女「!」ビクッ

男「いつもいつも不吉なナレーションかましやがって!」

男「こっちはただでさえいつも仕事でストレス抱えてんだ!」

男「それなのに、そんな不吉を予感させることいいやがって! 気が滅入るんだよ!」

男「なんなんだよ、お前! 俺が嫌いなのか!? 俺をバカにしてるのか!?」

女「バカになんてしてないわよ……」

男「じゃあなんだ? なんでいつも不吉なことばかりいうんだ?」

男「“まさかあんな事件が起こるとは”とか、“これが二人の最後の姿だった”とかさぁ!」

女「私は……」

男「もういい!」

男「お前とはもう会いたくないっ!」

男「くそっ、なに考えてんだ、俺は……」

男「あいつがああいう奴だってのは昔から知ってたはずなのに……」

男「こんなの……ただの八つ当たりじゃねえか……。ダサすぎる……」





女「……」グスッ

女「……」ボケー…

女(あの後、彼とは一度も会ってない。連絡さえも取り合ってない)

女(私たち、このまま終わりなのかな……)

テレビ『続いては、事故のニュースです』

テレビ『社員旅行中の大型バスが横転するという事故が起こりました』

女「!!!」

テレビ『現場は急カーブが続いており、運転手が運転を誤ったものと見られ……』

テレビ『運転手と乗客だった社員は駆けつけた救急隊によって病院に運ばれ……』

女「……」ワナワナ

女「そんな……そんな! あの人の会社じゃない!」

女「すぐ病院に行かなきゃ!」ガタッ

女「ハァ、ハァ、ハァ……」

看護婦「どうしました?」

女「バス事故! バス事故! バス事故!」

看護婦「!?」

女「バス事故にあった人達どうしてるのか教えて下さぁい! 特に幹事の人!」

看護婦「落ち着いて! 落ち着いて下さい!」

女「早く早く早く!」

男「お前、どうしたんだ? なんでこんなところにいるんだ?」

女「え!?」

男「もしかして……俺が心配で来てくれたのか?」

男「ニュースでは全員軽傷だっていってたはずだけど……」

女(ちゃんと聞いてなかった……)

男「俺もほら、ちょっと打撲したぐらいで済んだし。一応、これから検査受けるけど」

男「あ、だけど事故った瞬間はお前のナレーションが当たった、と思ったよ!」

男「だから咄嗟に頭をかばったんだ。もしあれがなきゃ、頭打ってたかもしれないな」

男「いやぁ、不吉なナレーションって役に立つんだな! アハハッ!」

女「……」

女「よかった……よかったぁ~……」ギュッ…

男「お、おい……」

女「私ね、子供の頃からアニメやドラマで、不吉なナレーションが流れるのが好きだったの」

男「どうして?」

女「だってあれがあると、“ああこれから不幸な展開が起こるんだ”って覚悟できるから……」

女「なんの前触れもなく不幸な展開が来るより、好きだったの」

男「そうだったのか……」

男(あの不吉なナレーションは、こいつなりの安心を手に入れるための手段だったんだ……)

女「だけど、もう不吉なナレーションは……」

男「いや、やってくれ。これからもそのままの君でいてくれ!」

男「……そうだ」

男「ちょうどいい機会だ。このさい、はっきりいわせてもらう!」

女「?」

男「俺と……結婚して下さい」

女「……はい」

男「やったぁ!」

女「しかし、二人の結婚式が行われることはなかった……」

男「やだぁ!」

カラーン… カラーン…

男「とてもキレイだよ」

女「あなたも……とてもステキ」

神父「二人で共に愛し合うことを誓いますか?」

男「もちろん……誓います」

女「……」

男「ちょっと、どうしたの?」ボソッ

女「新郎が“結婚は人生の墓場”という言葉を思い知るのは数年後のこととなる……」

ザワッ…

男「お~怖っ!」







~おわり~

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